説明

A重油組成物およびその製造方法

【課題】常温時のスラッジによるフィルターの目詰まりを起こさず、かつ低温時のワックスによるフィルター目詰まりを起こさない、常温および低温においてフィルター通油性の良好なA重油組成物を提供する。
【解決手段】全芳香族分が80容量%以上、15℃における密度が0.97g/cm以上1.09g/cm以下である分解改質基材を組成物全量基準で1容量%以上20容量%以下配合することを特徴とする、20℃で240時間静置後の目開き1.2μmフィルターによるドライスラッジ量が2mg/100mL以下であるA重油組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はA重油組成物およびその製造方法に関し、外燃機器用ボイラーやディーゼル発電機において要求される低排出ガス、優れた燃費、良好な低温流動性、貯蔵安定性の全てを高い次元で実現したA重油組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
A重油組成物は、ボイラー等の外燃機器燃料、小型漁船や建設機械等のオフロード用ディーゼルエンジン機器燃料、ガスタービン機器燃料などとして幅広い用途で用いられているため、それぞれの用途全てに対応した最適な燃料設計が必要となる。
さらに近年A重油組成物に使用されるボイラーやエンジンの高出力化及び優れた燃費化等に伴い、A重油組成物としては、より高性能化の要望が年々高まっている。
【0003】
例えば内燃機器用燃料の着火性の指標であるセタン指数の高い基材としてはノルマルパラフィンや低分岐のイソパラフィン等のパラフィン類が知られており、これらを多く含む直留軽油留分を基材として多く配合することが重要であるが、一方融点の高いパラフィン分を燃料油中に多く配合すると低温でのワックス析出が顕著となり低温流動性が悪化してしまうおそれがある(非特許文献1)。具体的には、A重油組成物を用いる各種燃焼機器には、燃料油中の異物を除去する目的で、燃料系統に目開き5〜250μmのフィルターが設けられている。このような燃焼機器を冬季に使用すると、A重油組成物から析出したワックスなどによりフィルターの閉塞が起こりやすくなる。
【0004】
また、内燃機器、外燃機器を問わず、優れた燃費性の指標となる容量あたりの発熱量が高い基材としては、芳香族分を多く含む基材や炭素数の大きい重質な基材が知られており、これらを多く含む接触分解軽油や、直留軽油を多く配合することも重要となるが、芳香族分が多く含まれる接触分解軽油は一般にセタン指数が低いために、容量発熱量と着火性の双方を考慮すると配合量が限定されてしまう。
【0005】
さらに低温流動性の良い基材としては、重質なノルマルパラフィン分をあまり含まない直留灯油留分が知られているが、上で述べたセタン指数や容量当たりの発熱量が低いという点があるため、配合量は可能な限り少なくできることが望ましい。一般的に燃料油組成物がフィルター閉塞などの低温流動性トラブルの起こしにくさを評価する手法としてCFPP(目詰まり点試験)などの手法が知られているが、これらの試験方法は試験燃料の冷却速度が急冷(−30〜−120℃/h)であるため、実際の使用条件とは大きく異なる。冷却速度が遅ければ遅いほど析出するワックスは大きくなり、フィルターの目詰まりを起こしやすくなる事が知られているために、一般的に行われている目詰まり点などの試験法だけでは低温性能の良い燃料を判別することができない。
【0006】
また、分解系基材を多用するとそれ自身の安定性の悪さからスラッジを生成させたり、直留系基材を多用すると芳香族分が少なくなり、残炭調整剤として添加している常圧蒸留残油や減圧蒸留残油の溶解力が低下しスラッジが生成したりするなどにより常温においてもフィルター閉塞が起こるなど貯蔵安定性に対する配慮も必要である。
【0007】
このように、幅広い用途で用いられているA重油組成物には要求される性能が多岐にわたり、またそれらを簡易的に評価することも難しいため、全ての性能を高い次元で満たした燃料の製造は非常に困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】小西誠一著,「燃料工学概論」,裳華房,1991年3月,p.119−144
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は幅広い燃焼機器に利用されるA重油組成物において、上で述べた通り実現が困難な、貯蔵安定性、低温での実用性能と着火性および優れた燃費性を高い次元で実現したA重油組成物を提供するものである。
特に常温時のスラッジによるフィルターの目詰まりを起こさず、かつ低温時のワックスによるフィルター目詰まりを起こさない、常温および低温においてフィルター通油性の良好なA重油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題について鋭意検討を行った結果、特定のプロセスにより製造される分解改質基材を配合することにより、着火性、燃費性に優れ、常温時におけるスラッジ、低温時におけるワックスによるフィルター閉塞を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0011】
[1]全芳香族分が80容量%以上、15℃における密度が0.97g/cm以上1.09g/cm以下である分解改質基材を組成物全量基準で1容量%以上20容量%以下配合することを特徴とする、20℃で240時間静置後の目開き1.2μmフィルターによるドライスラッジ量が2mg/100mL以下であるA重油組成物の製造方法。
【0012】
[2]前記分解改質基材の30℃における動粘度が1.5mm/s以上5mm/s以下、硫黄分が0.8質量%以下、窒素分が0.1質量%以下、引火点が80℃以上であることを特徴とする前記[1]に記載のA重油組成物の製造方法。
【0013】
[3]前記分解改質基材が、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下の原料油を中細孔ゼオライトおよび/または大細孔ゼオライトを含有する分解改質反応用触媒と接触させ、反応温度400〜650℃、反応圧力は、1.5MPaG以下、接触時間1〜300秒で分解改質反応を行うことにより製造されることを特徴とする前記[1]または[2]に記載のA重油組成物の製造方法。
【0014】
[4]前記[1]〜[3]のいずれかに記載のA重油組成物の製造方法により得られる、目詰まり点が5℃以下であり、15℃における密度が0.80g/cm以上0.93g/cm以下、30℃における動粘度が2mm/s以上20mm/s以下、硫黄分が2.0質量%以下、窒素分が0.2質量%以下、引火点が60℃以上であることを特徴とするA重油組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明のA重油組成物は、着火性、燃費性に優れ、常温時におけるスラッジ、低温時におけるワックスによるフィルター閉塞を抑制できるという効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
本発明のA重油組成物の製造方法は、全芳香族分が80容量%以上、15℃における密度が0.97g/cm以上1.09g/cm以下である分解改質基材をA重油組成物全量基準で1容量%以上20容量%以下配合することを特徴とする。
【0018】
分解改質基材の配合量の下限は、スラッジ相溶性の効果が発揮される点で、A重油組成物全量基準で1容量%以上が必要であり、2容量%以上が好ましく、3容量%以上がより好ましい。一方、分解改質基材の配合量の上限は、燃焼性悪化防止の点で20容量%以下が必要であり、15容量%以下が好ましく、10容量%以下がより好ましく、8質量%がさらに好ましい。
【0019】
本発明に係るA重油組成物に配合される分解改質基材の全芳香族分は、常圧蒸留残渣やスラッジの溶解性の観点から80容量%以上であることが必要であり、90容量%以上であることが好ましい。
ここで、全芳香族分とは、石油学会法JPI−5S−49−97「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ」で測定される全芳香族分の含有量を意味する。
【0020】
本発明に係るA重油組成物に配合される分解改質基材の15℃における密度は0.97g/cm以上1.09g/cm以下であることが必要である。
ここで、15℃における密度とは、JIS K 2249「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量・容量換算表」に準拠して得られる値を表すものを意味する。
【0021】
本発明に係るA重油組成物に配合される分解改質基材の全芳香族分および15℃における密度以外の性状については特に制限はないが、次の性状を有することが好ましい。
【0022】
30℃における動粘度は1.5mm/s以上5mm/s以下であることが好ましい。硫黄含有量(硫黄分)は10質量ppm以上8000質量ppm以下であることが好ましく、窒素含有量(窒素分)は0.1質量%以下であることが好ましい。引火点は80℃以上120℃以下であることが好ましい。
また、蒸留性状の初留点(IBP)は130℃以上200℃以下、10容量%留出温度(T10)は160℃以上230℃以下、50容量%留出温度(T50)は190℃以上275℃以下、90容量%留出温度(T90)は230℃以上360℃以下、終点(EP)は280℃以上440℃以下であることが好ましい。
【0023】
なお、30℃における動粘度とは、JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準拠して得られる値を、硫黄含有量とは、JIS K 2541―1992に規定する「原油及び石油製品―硫黄分試験方法」の「放射線式励起法」に準拠して測定される硫黄含有量を、窒素含有量とは、JIS K 2609「原油及び石油製品−窒素分試験方法」に準拠して測定される窒素含有量を、引火点とはJIS K 2265に規定する「原油及び石油製品―引火点試験方法」に準拠して測定される値を、蒸留性状とは、JIS K 2254に規定する「石油製品―蒸留試験方法」に準拠して測定されるものを意味する。
【0024】
本発明に係る分解改質基材は、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下の原料油を中細孔ゼオライトおよび/または大細孔ゼオライトを含有する分解改質反応用触媒と接触させ、反応温度400〜650℃、反応圧力は、1.5MPaG以下、接触時間1〜300秒で分解改質反応を行うことにより製造されることを特徴とする。
具体的には以下の分解改質反応より得られる分解改質反応生成物から分留により本発明で用いる分解改質基材を製造する。
【0025】
分解改質反応は、原料油を分解改質反応用触媒に接触させて、原料油に含まれる飽和炭化水素を水素供与源とし、飽和炭化水素からの水素移行反応によって多環芳香族炭化水素を部分的に水素化し、開環させて単環芳香族炭化水素に転換する反応、原料油中もしくは分解過程で得られる飽和炭化水素を環化、脱水素することによって単環芳香族炭化水素に転換する反応であり、芳香族炭化水素を主として含有する燃料基材を製造することができる。
【0026】
分解改質反応の原料油は、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下の油が好ましく、原料油の10容量%留出温度は150℃以上であることがより好ましく、原料油の90容量%留出温度は360℃以下であることがより好ましい。
なお、ここでいう10容量%留出温度、90容量%留出温度とは、JIS K2254「石油製品−蒸留試験方法」に準拠して測定される値を意味する。
10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油としては、例えば、流動接触分解装置で生成する分解軽油(LCO)、LCOの水素化精製油、石炭液化油、重質油水素化分解精製油、直留灯油、直留軽油、コーカー灯油、コーカー軽油およびオイルサンド水素化分解精製油などが挙げられる。
【0027】
原料油を分解改質反応用触媒と接触、反応させる際の反応形式としては、固定床、移動床、流動床等が挙げられる。なかでも、重質分を原料とするため、触媒に付着したコーク分を連続的に除去可能で、かつ安定的に反応を行うことができる流動床が好ましく、反応器と再生器との間を触媒が循環し、連続的に反応−再生を繰り返すことができる、連続再生式流動床が特に好ましい。分解改質反応用触媒と接触する際の原料油は、気相状態であることが好ましい。また、原料は、必要に応じてガスによって希釈してもよい。
【0028】
分解改質反応用触媒は、結晶性アルミノシリケートを含有する。
結晶アルミノシリケートは、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできることから、中細孔ゼオライトおよび/または大細孔ゼオライトであることが好ましい。
中細孔ゼオライトは、10員環の骨格構造を有するゼオライトであり、中細孔ゼオライトとしては、例えば、AEL型、EUO型、FER型、HEU型、MEL型、MFI型、NES型、TON型、WEI型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。これらの中でも、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできることから、MFI型が好ましい。
大細孔ゼオライトは、12員環の骨格構造を有するゼオライトであり、大細孔ゼオライトとしては、例えば、AFI型、ATO型、BEA型、CON型、FAU型、GME型、LTL型、MOR型、MTW型、OFF型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。これらの中でも、工業的に使用できる点では、BEA型、FAU型、MOR型が好ましく、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできることから、BEA型がより好ましい。
【0029】
結晶性アルミノシリケートは、中細孔ゼオライトおよび大細孔ゼオライト以外に、10員環以下の骨格構造を有する小細孔ゼオライト、14員環以上の骨格構造を有する超大細孔ゼオライトを含有してもよい。
ここで、小細孔ゼオライトとしては、例えば、ANA型、CHA型、ERI型、GIS型、KFI型、LTA型、NAT型、PAU型、YUG型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。
超大細孔ゼオライトとしては、例えば、CLO型、VPI型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。
【0030】
分解改質反応を固定床の反応とする場合、分解改質反応用触媒における結晶性アルミノシリケートの含有量は、分解改質反応用触媒全体を100質量%とした際の60〜100質量%が好ましく、70〜100質量%がより好ましく、90〜100質量%が特に好ましい。結晶性アルミノシリケートの含有量が60質量%以上であれば、単環芳香族炭化水素の収率を充分に高くできる。分解改質反応を流動床の反応とする場合、分解改質反応用触媒における結晶性アルミノシリケートの含有量は、分解改質反応用触媒全体を100質量%とした際の20〜60質量%が好ましく、30〜60質量%がより好ましく、35〜60質量%が特に好ましい。結晶性アルミノシリケートの含有量が20質量%以上であれば、単環芳香族炭化水素の収率を充分に高くできる。結晶性アルミノシリケートの含有量が60質量%を超えると、触媒に配合できるバインダーの含有量が少なくなり、流動床用として適さないものになることがある。
【0031】
分解改質反応用触媒においては、リンおよび/またはホウ素を含有することが好ましい。分解改質反応用触媒がリンおよび/またはホウ素を含有すれば、単環芳香族炭化水素の収率の経時的な低下を防止でき、また、触媒表面のコーク生成を抑制できる。
【0032】
分解改質反応用触媒にリンを含有させる方法としては、例えば、イオン交換法、含浸法等がある。具体的には、結晶性アルミノシリケートまたは結晶性アルミノガロシリケートまたは結晶性アルミノジンコシリケートにリンを担持する方法、ゼオライト合成時にリン化合物を含有させて結晶性アルミノシリケートの骨格内の一部をリンと置き換える方法、ゼオライト合成時にリンを含有した結晶促進剤を用いる方法、などが挙げられる。その際に用いるリン酸イオン含有水溶液は特に限定されないが、リン酸、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウムおよびその他の水溶性リン酸塩などを任意の濃度で水に溶解させて調製したものを好ましく使用できる。
【0033】
分解改質反応用触媒にホウ素を含有させる方法としては、例えば、イオン交換法、含浸法等がある。具体的には、結晶性アルミノシリケートまたは結晶性アルミノガロシリケートまたは結晶性アルミノジンコシリケートにホウ素を担持する方法、ゼオライト合成時にホウ素化合物を含有させて結晶性アルミノシリケートの骨格内の一部をホウ素と置き換える方法、ゼオライト合成時にホウ素を含有した結晶促進剤を用いる方法、などが挙げられる。
【0034】
分解改質反応用触媒におけるリンおよび/またはホウ素の含有量は、触媒全重量に対して0.1〜10質量%であることが好ましく、さらには、下限は0.5質量%以上がより好ましく、上限は9質量%以下であることがより好ましく、8質量%以下が特に好ましい。触媒全重量に対するリンの含有量が0.1質量%以上であることで、経時的な単環芳香族炭化水素の収率低下を防止でき、10質量%以下であることで、単環芳香族炭化水素の収率を高くできる。
【0035】
分解改質反応用触媒には、必要に応じて、ガリウムおよび/または亜鉛を含有させることができる。ガリウムおよび/または亜鉛を含有させれば、単環芳香族炭化水素の生成割合をより多くできる。
分解改質反応用触媒におけるガリウム含有の形態としては、結晶性アルミノシリケートの格子骨格内にガリウムが組み込まれたもの(結晶性アルミノガロシリケート)、結晶性アルミノシリケートにガリウムが担持されたもの(ガリウム担持結晶性アルミノシリケート)、その両方を含んだものが挙げられる。
分解改質反応用触媒における亜鉛含有の形態としては、結晶性アルミノシリケートの格子骨格内に亜鉛が組み込まれたもの(結晶性アルミノジンコシリケート)、結晶性アルミノシリケートに亜鉛が担持されたもの(亜鉛担持結晶性アルミノシリケート)、その両方を含んだものが挙げられる。
【0036】
結晶性アルミノガロシリケート、結晶性アルミノジンコシリケートは、SiO、AlOおよびGaO/ZnO構造が骨格中に存在する構造を有する。また、結晶性アルミノガロシリケート、結晶性アルミノジンコシリケートは、例えば、水熱合成によるゲル結晶化、結晶性アルミノシリケートの格子骨格中にガリウムまたは亜鉛を挿入する方法により得られる。また、結晶性アルミノガロシリケート、結晶性アルミノジンコシリケートは、結晶性ガロシリケートまたは結晶性ジンコシリケートの格子骨格中にアルミニウムを挿入する方法により得られる。
【0037】
ガリウム担持結晶性アルミノシリケートは、結晶性アルミノシリケートにガリウムをイオン交換法、含浸法等の公知の方法によって担持したものである。その際に用いるガリウム源としては、特に限定されないが、硝酸ガリウム、塩化ガリウム等のガリウム塩、酸化ガリウム等が挙げられる。
亜鉛担持結晶性アルミノシリケートは、結晶性アルミノシリケートに亜鉛をイオン交換法、含浸法等の公知の方法によって担持したものである。その際に用いる亜鉛源としては、特に限定されないが、硝酸亜鉛、塩化亜鉛等の亜鉛塩、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0038】
分解改質反応用触媒がガリウムおよび/または亜鉛を含有する場合、分解改質反応用触媒におけるガリウムおよび/または亜鉛の含有量は、触媒全体を100質量%とした際の0.01〜5.0質量%であることが好ましく、0.05〜2.0質量%であることがより好ましい。ガリウムおよび亜鉛の含有量が0.01質量%以上であれば、単環芳香族炭化水素の生成割合をより多くでき、5.0質量%以下であれば、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできる。
【0039】
分解改質反応用触媒は、反応形式に応じて、例えば、粉末状、粒状、ペレット状等にされる。例えば、流動床の場合には粉末状にされ、固定床の場合には粒状またはペレット状にされる。流動床で用いる触媒の平均粒子径は30〜180μmが好ましく、50〜100μmがより好ましい。また、流動床で用いる触媒のかさ密度は0.4〜1.8g/ccが好ましく、0.5〜1.0g/ccがより好ましい。 なお、平均粒子径はふるいによる分級によって得た粒径分布において50質量%となる粒径を表し、かさ密度はJIS規格R9301−2−3の方法により測定した値である。 粒状またはペレット状の触媒を得る場合には、必要に応じて、バインダーとして触媒に不活性な酸化物を配合した後、各種成形機を用いて成形すればよい。
分解改質反応用触媒がバインダー等の無機酸化物を含有する場合、バインダーとしてリンを含むものを用いても構わない。
【0040】
原料油を分解改質反応用触媒と接触、反応させる際の反応温度については、特に制限されないものの、400〜650℃とすることが好ましい。反応温度の下限は400℃以上であれば原料油を容易に反応させることができ、より好ましくは450℃以上である。また、反応温度の上限は650℃以下であれば単環芳香族炭化水素の収率を十分に高くでき、より好ましくは600℃以下である。
【0041】
原料油を分解改質反応用触媒と接触、反応させる際の反応圧力は、1.5MPaG以下とすることが好ましく、1.0MPaG以下とすることがより好ましい。反応圧力が1.5MPaG以下であれば、軽質ガスの副生を抑制できる上に、反応装置の耐圧性を低くできる。
【0042】
原料油と分解改質反応用触媒との接触時間は、実質的に所望する反応が進行すれば特に制限はされないが、例えば、分解改質反応用触媒上のガス通過時間で1〜300秒が好ましく、さらに下限は5秒以上、上限は150秒以下がより好ましい。接触時間が1秒以上であれば、確実に反応させることができ、接触時間が300秒以下であれば、コーキング等による触媒への炭素質の蓄積を抑制できる。または分解による軽質ガスの発生量を抑制できる。
【0043】
上述の分解改質反応から生成した分解改質反応生成物を所定の性状を有する留分に分離することにより、本発明に係る分解改質基材を製造することができる。
分解改質反応生成物を所定の留分に分離するには、公知の蒸留装置、気液分離装置を用いることができる。蒸留装置の一例としては、ストリッパーのような多段蒸留装置により複数の留分を蒸留分離できるものが挙げられる。気液分離装置の一例としては、気液分離槽と、該気液分離槽に生成物を導入する生成物導入管と、前記気液分離槽の上部に設けられたガス成分流出管と、前記気液分離槽の下部に設けられた液成分流出管とを具備するものが挙げられる。
本発明に係る分解改質基材は、主として炭素数9以上の炭化水素を含む留分であることが好ましい。
【0044】
本発明のA重油組成物の製造方法において、分解改質基材以外に配合するA重油基材は、特に限定されないが、常圧蒸留軽油(直留軽油)、残油脱硫軽油(RDS軽油)、減圧蒸留軽油、接触分解軽油(LCO)、常圧蒸留灯油留分およびその水素化脱硫物、接触分解灯油留分およびその水素化脱硫物、水素化分解灯油留分等が挙げられる。本発明において、分解改質基材にこれらのA重油基材を、1種を単独もしくは、2種以上併用して用いることができる。ここで、常圧蒸留軽油とは、常圧蒸留装置で原油を常圧において蒸留して得られる軽油である。残油脱硫軽油とは、残油脱硫装置において常圧残油または減圧残油を脱硫したときに得られる軽油である。減圧蒸留軽油とは、減圧蒸留装置で常圧残油を減圧下で蒸留して得られる軽油である。接触分解軽油とは、流動接触分解装置において減圧蒸留軽油、減圧蒸留残油等を分解して得られる軽油である。常圧蒸留灯油留分およびその水素化脱硫物とは、常圧蒸留装置で原油を常圧において蒸留して得られる灯油留分およびその水素化脱硫物である。接触分解灯油留分およびその水素化脱硫物とは、流動接触分解装置において減圧蒸留軽油、減圧蒸留残油等を分解して得られる灯油留分およびその水素化生成物である。水素化分解灯油留分とは、水素化分解装置において減圧蒸留軽油、減圧蒸留残油等を分解して得られる灯油留分である。
本発明に係るA重油組成物において、かかるA重油基材の配合割合は、A重油組成物全量基準で80〜99容量%であり、85〜98容量%であることが好ましく、90〜97容量%であることが最も好ましい。
【0045】
本発明に係るA重油組成物には、残留炭素基材を配合してもよい。残留炭素基材は、A重油組成物にA重油の免税条件を満たすために混合するものである。残留炭素付与基材の種類としては、残渣油(特に限定はしないが、常圧残油、残油脱硫重油、減圧残油など)および残渣油以外の油(特に限定はしないが、スラリー油、エキストラクト油、動植物油脂など)が挙げられ、これらを単独、もしくは2種以上併用して用いてもよい。
ここで、常圧残油とは、常圧蒸留装置で原油を常圧において蒸留して得られる残油である。残油脱硫重油とは、残油脱硫装置において常圧残油または減圧残油を脱硫したときに得られる重油である。減圧残油とは、減圧蒸留装置で常圧残油を減圧下で蒸留して得られる残油である。スラリー油とは、流動接触分解装置から得られる残油である。エキストラクト油とは、潤滑油原料用減圧蒸留装置からの留分を、溶剤抽出法により抽出分離したもののうち潤滑油に適さない芳香族成分のことや、減圧残油などの残渣油から溶媒によってアスファルテン分を除去して得られた抽出油を指す。
【0046】
本発明の方法により、20℃で240時間静置後の目開き1.2μmフィルターによるドライスラッジ量が2mg/100mL以下のA重油組成物を製造することができる。かかるドライスラッジ量は、フィルター目詰まり抑制の点で1.7mg/100mL以下であることがより好ましい。
ここで、20℃で240時間静置後の目開き1.2μmフィルターによるドライスラッジ量とは、A重油組成物を20℃で240時間、暗所貯蔵した後、ISO 10307−1に準拠して目開き1.2μmのメンブランフィルターを用いて測定したドライスラッジ量を意味する。
【0047】
本発明のA重油組成物の目詰まり点(CFPP)は、フィルター閉塞性防止の点から、5℃以下であることが好ましく、−1℃以下であることがより好ましく、−5℃以下であることがさらに好ましい。
本発明において、目詰まり点とは、JIS K 2288「軽油−目詰まり点試験方法」により測定される値を意味する。
【0048】
本発明のA重油組成物の15℃における密度については税法上の観点から0.80g/cm以上であることが好ましく、容量当たりの発熱量を確保するために0.81g/cm以上であることがより好ましく、0.82g/cm以上であることがさらに好ましい。一方、燃焼時の着火性や排ガス低減の観点から0.93g/cm以下であることが好ましく、0.92g/cm以下であることがより好ましい。
本発明において、密度とは、JIS K 2249「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量・容量換算表」に準拠して得られた値を表すものを意味している。
【0049】
本発明のA重油組成物の30℃における動粘度は2〜20mm/sであることが好ましく、A重油組成物を燃焼機器で用いる際の噴霧のしやすさから、18mm/s以下であることがより好ましく、16mm/s以下であることがさらに好ましい。一方、燃料噴射ポンプの摩耗および焼付き防止の点から、3mm/s以上であることが好ましく、4mm/s以上であることがさらに好ましい。
本発明において、30℃における動粘度とは、JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準拠して得られた値を表すものを意味している。
【0050】
本発明のA重油組成物の硫黄分は2.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下がより好ましく、0.9質量%以下がさらに好ましく、0.85質量%以下が最も好ましい。なお、A重油組成物中の硫黄分はそれを使用する機器、使用する地域に応じて課される規制に対応して含有量を調整することがより好ましい。
本発明において、硫黄分とは、JIS K 2541「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」に準拠して得られた値を表すものを意味している。
【0051】
本発明のA重油組成物の窒素分については、排ガス中の有害物質を低減するには0.2質量%以下であることが好ましく、0.15質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましく、0.08質量%以下であることが特に好ましく、0.05質量%以下であることが最も好ましい。
本発明において窒素分とは、JIS K 2609「原油及び石油製品−窒素分試験方法」に準拠して得られた値を表すものを意味している。
【0052】
本発明のA重油組成物の引火点については、安全性の観点から60℃以上であることが好ましく、一方、着火性および燃焼異常を防止する観点から120℃以下であることが好ましく、110℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることが最も好ましい。
本発明において、引火点とは、JIS K 2265「原油及び石油製品―引火点試験方法」に準拠して得られた値を表すものを意味している。
【0053】
また、本発明のA重油組成物の蒸留性状について何ら制限はないが、通常は下記性状を満たすことが好ましい。
蒸留初留点(IBP) :150〜230℃
10容量%留出温度(T10):180〜250℃
50容量%留出温度(T50):220〜320℃
90容量%留出温度(T90):300〜380℃
【0054】
蒸留初留点は、燃焼機器出力低下防止の点から150℃以上が好ましく、160℃以上がより好ましく、170℃以上がさらに好ましい。また、燃焼異常を防止する点から230℃以下が好ましく、220℃以下がより好ましく、210℃以下がさらに好ましい。
10容量%留出温度は、燃焼機器出力低下防止の点から180℃以上が好ましく、190℃以上がより好ましく、195℃以上がさらに好ましい。また、燃焼異常を防止する点から250℃以下が好ましい。
50容量%留出温度は、燃焼機器出力低下防止の点から220℃以上が好ましく、230℃以上がより好ましく、240℃以上がさらに好ましい。また、燃焼異常を防止する点から320℃以下が好ましく、310℃以下がより好ましく、300℃以下がさらに好ましい。
90容量%留出温度は、燃焼機器出力低下防止の点から300℃以上が好ましく、310℃以上がより好ましく、320℃以上がさらに好ましい。また、燃焼異常を防止する点から380℃以下が好ましく、370℃以下がより好ましく、360℃以下がさらに好ましい。
本発明において、上記蒸留性状は、JIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」に準拠して得られる値を意味している。
【0055】
本発明のA重油組成物のセタン指数については特に制限はないが、エンジン着火性の観点から45以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましく55以上であることが最も好ましい。ここでいうセタン指数とは、JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」により測定、算出される値を意味する。
【0056】
本発明のA重油組成物の総発熱量については特に制限はないが、燃費改善の観点から 37.9kJ/cm以上であることが好ましく、38.0kJ/cm以上であることがより好ましく、38.1kJ/cm以上であることが最も好ましい。ここでいう総発熱量とは、JIS K 2279「原油及び石油製品−発熱量試験方法及び計算による推定方法」により測定、算出される値を意味する。
【0057】
本発明のA重油組成物の曇り点(CP)については特に制限はないが、燃料系統中の夾雑物阻止用のフィルターを閉塞させる低温時のワックス析出を減少させる点から、7℃以下であることが好ましく、6℃以下であることがより好ましく、5℃以下であることがさらに好ましく、4℃以下であることが最も好ましい。
本発明において、曇り点とは、JIS K 2269「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」に準拠して得られた値を表すものを意味している。
【0058】
本発明のA重油組成物の流動点(PP)は、燃料ラインでの流動性確保の点から、5℃以下であることが好ましく、−2.5℃以下であることがより好ましく、−7.5℃以下であることがさらに好ましく、−10.0℃以下であることが最も好ましい。
本発明において、流動点とは、JIS K 2269「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」により測定される値を意味する。
【0059】
本発明のA重油組成物は、フィルターの閉塞防止の点から低温流動性向上剤を含有することが好ましい。低温流動性向上剤の種類は特に限定されるものではないが、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体に代表されるエチレン−不飽和エステル共重合体、アルケニルこはく酸アミド、ポリエチレングリコールのジベヘン酸エステルなどの線状の化合物、フタル酸、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ酢酸などの酸又はその酸無水物などとヒドロカルビル置換アミンの反応生成物からなる極性窒素化合物、アルキルフマレートまたはアルキルイタコネート−不飽和エステル共重合体などからなるくし形ポリマーなどの低温流動性向上剤の1種または2種以上が使用できる。この中でも汎用性の点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体系添加剤を好ましく使用することができる。低温流動性向上剤を添加する場合の添加量は、50〜500mg/Lであることが好ましく、50〜300mg/Lであることが特に好ましい。なお、低温流動性向上剤と称して市販されている商品は、低温流動性に寄与する有効成分が適当な溶剤で希釈されていることがあるため、こうした市販品を本発明のA重油組成物に添加する場合にあたっては、上記の添加量は、有効成分としての添加量を意味している。
【0060】
また、本発明のA重油組成物には、必要に応じて低温流動性向上剤以外の添加剤も配合することができる。
ここでいう添加剤としては、セタン価向上剤、酸化防止剤、安定化剤、分散剤、金属不活性化剤、微生物殺菌剤、助燃剤、帯電防止剤、識別剤、着色剤等の各種添加剤が挙げられ、これら添加剤を適宜加えることができる。
【実施例】
【0061】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0062】
[実施例1〜3及び比較例1〜3]
表1に示す基材を表2に示す配合比率で混合し、サンプル1〜3および比較サンプル1〜3を調製した。
なお、表1に示す分解改質基材1、2は以下の方法により製造した。
また、各基材、各サンプルの性状測定は、上述の試験法、測定法に準拠して行った。
【0063】
(分解改質基材の製造方法)
流動接触分解軽油LCO(10容量%留出温度が215℃、90容量%留出温度が318℃、15℃における密度が0.9258g/cm、飽和分が23容量%、オレフィン分が2容量%、全芳香族分が75容量%)を、反応温度:538℃、反応圧力:0.3MPaG、LCOと触媒との接触時間が60秒の条件で、流動床反応器にて分解改質反応用触媒(ガリウム0.2質量%およびリン0.7質量%を担持したMFI型ゼオライトにバインダーを含有させたもの)と接触、反応させ、分解改質反応を行った。次いで、分解改質反応生成物を分留し、表1に示す分解改質基材1〜2を製造した。
【0064】
これらのサンプルおよび比較サンプルを20℃で240時間、暗所貯蔵した後、ドライスラッジ量を測定した。
また、60℃で48時間、加速熱劣化させた後、ドライスラッジ量を測定した。
なお、ドライスラッジ量の測定は、目開き1.2μmのメンブランフィルターを用い、
ISO 10307−1に準拠して行なった。
表2より本発明にかかるA重油組成物は、従来の製造法によるA重油組成物と同等以上の着火性、燃費性能を有し、良好な低温性能を維持しつつ、貯蔵安定性に優れスラッジの生成を抑制することが可能であることが分かる。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の方法により、着火性、燃費性に優れ、常温および低温においてフィルター通油性の良好なA重油組成物を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全芳香族分が80容量%以上、15℃における密度が0.97g/cm以上1.09g/cm以下である分解改質基材を組成物全量基準で1容量%以上20容量%以下配合することを特徴とする、20℃で240時間静置後の目開き1.2μmフィルターによるドライスラッジ量が2mg/100mL以下であるA重油組成物の製造方法。
【請求項2】
前記分解改質基材の30℃における動粘度が1.5mm/s以上5mm/s以下、硫黄分が0.8質量%以下、窒素分が0.1質量%以下、引火点が80℃以上であることを特徴とする請求項1記載のA重油組成物の製造方法。
【請求項3】
前記分解改質基材が、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下の原料油を中細孔ゼオライトおよび/または大細孔ゼオライトを含有する分解改質反応用触媒と接触させ、反応温度400〜650℃、反応圧力は、1.5MPaG以下、接触時間1〜300秒で分解改質反応を行うことにより製造されることを特徴とする請求項1または2に記載のA重油組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のA重油組成物の製造方法により得られる、目詰まり点が5℃以下であり、15℃における密度が0.80g/cm以上0.93g/cm以下、30℃における動粘度が2mm/s以上20mm/s以下、硫黄分が2.0質量%以下、窒素分が0.2質量%以下、引火点が60℃以上であることを特徴とするA重油組成物。

【公開番号】特開2012−246357(P2012−246357A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117602(P2011−117602)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】