説明

ACE阻害作用を示し、血圧低下作用を有する機能性組成物

【課題】 大豆を原料として、強いACE阻害活性を示し、強い血圧低下作用を有する機能性組成物、特に機能性の飲食品を提供する。
【解決手段】 乳酸菌、特にラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・フルクチボランス(Lactobacillus fructivorans)から選ばれる一種又は二種以上の乳酸菌を、大豆に作用させて得られる発酵大豆成分を含有し、強いACE阻害活性を示して強い血圧低下作用を有する機能性組成物、特に機能性の飲食品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆に乳酸菌を作用させて得られる発酵大豆を含有するACE阻害作用を示し、血圧低下作用を有する機能性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧は、高脂血症、糖尿病、肥満等と共に動脈硬化を起こしやすい原因の一つである。
従来から、アンジオテンシン変換酵素(Angiotensin Converting Enzyme:以下、ACEと称する場合もある)の作用により、アンジオテンシンIがアンジオテンシンIIに変換され、その結果発生するアンジオテンシンIIの作用により、血圧が上昇するとされている。
それ故、アンジオテンシンIをアンジオテンシンIIに変換するACEの活性を阻害する物質について様々な研究が行われ、種々のACE阻害物質が開発されるに至っている。
【0003】
従来においては、このようなACE阻害物質として、例えば、D−2−メチル−3−メルカプトプロパニイル−L−プロリンのような合成物質や、獣乳カゼイン等の天然物を酵素分解して得られる各種のペプチド(例えば、特許文献1参照)などが開発されてきた。
なお、獣乳カゼインを乳酸菌由来のプロティナーゼで分解し、精製して得られたACE阻害活性を有するペプチドも開示されている(例えば、特許文献2参照)。
しかし、上記の合成物質からなるACE阻害物質は一般にACE阻害活性は高いが、合成物質であるため、多くの場合、副作用等の安全性の点で問題があった。
【0004】
一方、カゼインなどの天然物を分解して得られるACE阻害物質の場合は、上記合成物質に比較して、毒性が低くて安全性は高いものの、ACE阻害活性がそれほど強いものが見出されていないのが現状であった。
そのため、上記の如く、天然物、特に食品成分由来の強いACE阻害活性を有するものを開発することが望まれていた。
【0005】
一方、天然物、特に食品素材のうちの一つである大豆は、大豆タンパク質以外にも、イソフラボン、レシチン、サポニン、食物繊維などの多くの有効成分を含有しており、骨粗鬆症や高脂血症、ガンなどの予防効果を持つ有用性の高い食品素材として期待されている。
従って、大豆を原料として、より効力の強いACE阻害物質が開発できれば、より有効な血圧低下作用を有する安全性の高い機能性組成物を開発することができるとの観点から、大豆由来のタンパク質をペプシンなどのタンパク質分解酵素で分解して得られたACE阻害活性を有するペプチドが種々開示されているが(例えば、特許文献3参照)、これらのペプチドのACE阻害活性もさほど強いものではなかった。
【0006】
なお、特許文献4では、乳を含む原料を乳酸菌ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobachillus helveticus)で発酵することにより、ACE阻害ペプチド含有発酵乳が得られることが記載されており、乳を含む原料として豆乳などの植物乳が例示されているが、該特許文献4で実際に効果が証明されているのは牛乳のみであり、牛乳とは異なり植物乳である豆乳を乳酸菌で発酵した事例は、まったく示されていない。
このような状況下、大豆を原料とする組成物であって、優れたACE阻害作用を有し、かつ強い血圧低下作用を有する機能性組成物を開発することが望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特開昭62−270533号公報
【特許文献2】特開2003−327543号公報
【特許文献3】特開平3−167198号公報
【特許文献4】国際公開WO00/41572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、大豆を原料として、優れたACE阻害作用を示し、強い血圧低下作用を有する機能性組成物、特に機能性の飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、大豆を原料に乳酸菌を作用させて得られた発酵大豆が、優れたACE阻害作用を有し、かつ強い血圧低下作用を有することを見出し、係る知見に基づき本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(7)に関する。
(1)乳酸菌を大豆に作用させて得られる発酵大豆成分を含有し、ACE阻害作用を有することを特徴とする機能性組成物。
(2)乳酸菌が、ラクトバチルス(Lactobacillus)属乳酸菌より選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする上記(1)に記載の機能性組成物。
(3)乳酸菌が、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)およびラクトバチルス・フルクチボランス(Lactobacillus fructivorans)の中から選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の機能性組成物。
【0011】
(4)乳酸菌が、ラクトバチルス・ラムノサスJCM1136(Lactobacillus rhamnosus JCM1136)株、ラクトバチルス・ラムノサスSAI4093(Lactobacillus rhamnosus SAI4093)株(FERM ABP−10307)、ラクトバチルス・ロイテリJCM1112(Lactobacillus reuteri JCM1112)株、ラクトバチルス・ロイテリSAI4092(Lactobacillus reuteri SAI4092)株(FERM ABP−10306)、ラクトバチルス・フルクチボランスJCM1117(Lactobacillus fructivorans JCM1117)株およびラクトバチルス・フルクチボランスSAI9110(Lactobacillus fructivorans SAI9110)株(FERM ABP−10308)の中から選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の機能性組成物。
(5)血圧低下作用を有することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の機能性組成物。
(6)飲食品であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の機能性組成物。
(7)血圧を低下させるために用いられる旨の表示を付したことを特徴とする上記(6)に記載の機能性組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の大豆を原料として乳酸菌による発酵を行って得られる機能性組成物は、経口投与により優れたACE阻害作用を示し、強い血圧低下作用を有する。本発明の機能性組成物は、大豆に乳酸菌を作用させて得られるので、安全性に全く問題がなく、また官能的にも優れた機能性組成物であり、経口投与に適している。
本発明の機能性組成物は、大豆に乳酸菌を作用させるだけで製造することが可能であるので、安価、且つ容易に製造することができ、工業的にも極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)原料大豆
本発明において原料となる大豆は、油脂を含有した丸大豆、脱脂大豆、脱皮大豆、フレーク大豆など、特に制限はない。
また、本発明において上記大豆に乳酸菌を作用させる際、上記大豆は予めいかなる方法で加工されていても良い。
例えば、原料となる大豆を水に浸漬した後、熱水又は0.5〜1.0重量/容量%(以下、単に%で示す)の炭酸ナトリウムを含む熱水を添加して磨砕後、オカラを取り除き、さらに加熱殺菌することにより製造される豆乳を用いることができる。
また、上記豆乳作製方法にて大豆を磨砕後、取り除いたオカラを酵素処理して可溶化し豆乳に再混合した後に、加熱殺菌して得られるオカラを含んだ大豆飲料や、原料となる大豆を微粉末化し、さらにホモジナイザー等を利用して均質化した後に、加熱殺菌して、オカラを含んだ大豆飲料などを用いることもできる。
さらに、上記の豆乳や大豆飲料を原料として作製される豆腐なども利用可能であり、いかなる方法で製造される大豆製品を用いることもできる。
本発明においては、これらの大豆や大豆製品のうち、特にオカラを含んだ大豆飲料を用いることが好ましい。
【0014】
また、後の微生物処理のために、上記の大豆に直接、又は加工後の大豆製品に、ショ糖、ブドウ糖、果糖、転化糖等の食品に用いられる糖類や、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、ペプチド等の微生物の増殖に必要な栄養素が添加されたものであっても良い。また、微生物の生育至適pHに調整するために、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、酢酸、乳酸等の食品に用いられる酸が添加されたものであっても良い。そして、調味などの目的で、さらに大豆以外の植物原料などを混合しても良い。
【0015】
(2)大豆の発酵
本発明において、上記(1)にて説明したような大豆に乳酸菌を作用させる条件は、特に限定されない。例えば、培養した乳酸菌の菌液を上記した大豆や大豆製品に接種した後、乳酸菌に適した温度、時間、嫌気性等の条件を適宜決定して発酵を行えばよい。発酵は、1種類の菌株で単独発酵することは勿論、菌株を複数種組み合わせた混合発酵でもよい。発酵形式は、回分発酵や連続発酵でも良く、特に限定はない。
【0016】
ここで、大豆に作用させる乳酸菌は、それ自体又はその代謝産物等が人体に有害なものでなければ特に限定されるものではないが、中でも、ラクトバチルス(Lactobacillus)属の乳酸菌が好ましく、さらにラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)およびラクトバチルス・フルクチボランス(Lactobacillus fructivorans)の中から選ばれる一種又は二種以上を用いることが望ましい。
これらの各乳酸菌のうち、好ましい菌株としては、ラクトバチルス・ラムノサスJCM1136(Lactobacillus rhamnosus JCM1136)株、ラクトバチルス・ラムノサスSAI4093(Lactobacillus rhamnosus SAI4093)株(FERM ABP−10307)、ラクトバチルス・ロイテリJCM1112(Lactobacillus reuteri JCM1112)株、ラクトバチルス・ロイテリSAI4092(Lactobacillus reuteri SAI4092)株(FERM ABP−10306)、ラクトバチルス・フルクチボランスJCM1117(Lactobacillus fructivorans JCM1117)株、ラクトバチルス・フルクチボランスSAI9110(Lactobacillus fructivorans SAI9110)株(FERM ABP−10308)などが挙げられ、これらの乳酸菌菌株の中から選ばれる一種又は二種以上を用いることができる。
【0017】
(3)機能性組成物
本発明において、乳酸菌を大豆に作用させて得られる発酵大豆成分は、ACE阻害活性を有する。ACE阻害活性の確認は、Cheung−Cushman法(例えば、バイオケミカル・ファーマコロジー(Biochem.Pharmacol.)、20巻、p.1637−1648、1971年参照)に準じたACE阻害活性の測定により行うことができる。乳酸菌のうち特に、ラクトバチルス・ラムノサスJCM1136(Lactobacillus rhamnosus JCM1136)株、ラクトバチルス・ラムノサスSAI4093(Lactobacillus rhamnosus SAI4093)株(FERM ABP−10307)、ラクトバチルス・ロイテリJCM1112(Lactobacillus reuteri JCM1112)株、ラクトバチルス・ロイテリSAI4092(Lactobacillus reuteri SAI4092)株(FERM ABP−10306)、ラクトバチルス・フルクチボランスJCM1117(Lactobacillus fructivorans JCM1117)株、ラクトバチルス・フルクチボランスSAI9110(Lactobacillus fructivorans SAI9110)株(FERM ABP−10308)の中から選ばれる一種又は二種以上を用いて得られた発酵大豆成分は、高いACE阻害活性を示すことが証明されている。
【0018】
前記したように、ACEはアンジオテンシンIに作用して血圧上昇を引き起こすアンジオテンシンIIに変換することから、該ACEを阻害する作用を示す本発明に係る発酵大豆成分は、血圧低下作用をも有することが明らかである。血圧低下作用の確認は、高血圧ラットなどにサンプルを投与して、投与後の血圧を測定することにより血圧を測定することにより可能である。そして、上記のように高いACE阻害活性を示すとされた各乳酸菌株を用いて得られた発酵大豆成分は、いずれも顕著な血圧低下作用を有することが証明されている。
【0019】
本発明において得られる発酵大豆成分は、そのままで本発明のACE阻害作用を有する機能性組成物として、飲食品や経口医薬品に利用することができる。この場合、飲食品や経口医薬品に通常使用されている添加物を加えても良く、用いることができる添加物としては、糖類、タンパク質、脂質、ビタミン類、植物抽出液、動物抽出液、ゲル化剤、香料、着色料等が挙げられる。
なお、本発明に係る発酵大豆成分は、未殺菌のままで用いることもできるし、殺菌処理を施してから用いることもできる。
【0020】
また、本発明のACE阻害作用を有する機能性組成物は、任意の範囲で飲食品に添加して用いることもでき、血圧を低下させるために用いられる旨の表示を付した飲食品とすることもできる。
ここで、血圧低下作用を有する旨の表示としては、例えば、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害作用を有する旨の表示や、「高血圧の方に」、「血圧が高めの方に」、「血圧が気になる方に」などの表示が含まれる。
なお、飲食品としては、本発明の機能性組成物を、乳酸菌飲料、発酵乳、チーズ、プリン、アイスクリーム、豆乳、大豆飲料、豆腐、味噌、醤油などに含有させたものとすればよく、その他ビスケット、パン等に含有させることもできる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1(ACE阻害作用の確認)
(1)乳酸菌による発酵大豆飲料の調製
対照としてのラクトバチルス・ヘルベチカスJCM1003(Lactobacillus helveticus JCM1003)株を含む表1に記載したラクトバチルス属の乳酸菌合計25株のそれぞれを、MRS液体培地10m1に1白金耳植菌し、37℃にて、濁度0.8〜2.0付近になるまで培養を行った。培養後、生理食塩水にて2回洗浄し、最終的に1mlの容量となるようにスターターを調製した。
市販のオカラを含んだ大豆飲料(めいらく社製)40mlに対して、前記スターターを1容量/容量%添加し、37℃で24時間発酵して、発酵大豆飲料を調製した。
【0023】
(2)ACE阻害活性の測定
上記のようにして得られた各発酵大豆飲料のACE阻害活性の測定は、Cheung−Cushman法(例えば、バイオケミカル・ファーマコロジー(Biochem.Pharmacol.)、20巻、p.1637−1648、1971年参照)に準じて行った。
即ち、前記(1)で調製した発酵大豆飲料を100℃にて15分処理後、12000rpmで10分間の遠心分離により上清を回収し、ACE活性測定試料とした。
【0024】
次いで、0.1M ホウ酸緩衝液(0.3M NaClを含む、pH8.3)を用いて適宜各段希釈調製した後、各々を試験管に0.04ml入れ、これに基質として0.1M ホウ酸緩衝液(0.3M NaClを含む、pH8.3)で5mMに調整したヒプリルヒスチジルロイシン(Hip−His−Leu、シグマ社製)0.1mlを添加し、更にACE水溶液(0.1unit/ml、シグマ社製)0.02mlを添加して、37℃で30分間反応させた。
【0025】
その後、1N塩酸0.125mlを添加して反応を停止させた後、酢酸エチル0.85mlを加え30秒間撹拌した。次いで、3000rpmで10分間遠心分離して酢酸エチル層0.5mlを採取した後、50℃にて遠心エバポレーションを行い、溶媒を除去した。
溶媒除去後、蒸留水0.5mlを加え、抽出されたヒプリル酸の吸収228nm値を測定した。
【0026】
ACE阻害率は下記式より算出した。
(数1)
ACE阻害率(%)=[1−(A−B)/(C−D)]×100
【0027】
但し、上式中のA、B、C及びDの値は、それぞれ、A:ACE活性測定用試料及びACEを添加して反応させた場合の228nmの吸光度、B:上記試料のみを添加して反応させた場合(ACEの代わりに蒸留水を添加)の228nmの吸光度、C:ACEのみを添加して反応させた場合(試料の代わりに蒸留水を添加)の228nmの吸光度、及びD:ACE及び試料を添加せずに反応させた場合(ACE及び試料の代わりに蒸留水を添加)の228nmの吸光度である。
【0028】
以上の方法により求められたACE阻害率(%)と試料の希釈倍率の関係から、ACE阻害率50%を示す時のACE活性測定用試料の濃度、すなわちIC50(μl/ml)を求めて、表1に示した。
【0029】
【表1】

【0030】
表1の結果から、以下のことが分かる。
ACE活性測定用試料がACE阻害率50%を示す時の濃度、すなわちIC50(μl/ml)が、対照であるラクトバチルス・ヘルベチカスJCM1003(Lactobacillus helveticus JCM1003)株の場合の約1/2の値を示す試料は、ACE阻害作用が強いものと判断した。
この基準に基づき判断した結果、強いACE阻害活性を示す試料を調製できたのは、同じラクトバチルス(Lactobacillus)属の乳酸菌の中でも、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)およびラクトバチルス・フルクチボランス(Lactobacillus fructivorans)のいずれかを用いた場合であることが確認できた。
具体的に菌株名を示すと、ラクトバチルス・ラムノサスJCM1136(Lactobacillus rhamnosus JCM1136)株、ラクトバチルス・ラムノサスSAI4093(Lactobacillus rhamnosus SAI4093)株、ラクトバチルス・ロイテリJCM1112(Lactobacillus reuteri JCM1112)株、ラクトバチルス・ロイテリSAI4092(Lactobacillus reuteri SAI4092)株、ラクトバチルス・フルクチボランスJCM1117(Lactobacillus fructivorans JCM1117)株、ラクトバチルス・フルクチボランスSAI9110(Lactobacillus fructivorans SAI9110)株であった。
【0031】
これらの乳酸菌のうち、ラクトバチルス・ラムノサスSAI4093(Lactobacillus rhamnosus SAI4093)株は、独立行政法人特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に2005年3月30日付けで寄託されており、その受託番号はFERM ABP−10307である。また、ラクトバチルス・ロイテリSAI4092(Lactobacillus reuteri SAI4092)株も同様で、その受託番号はFERM ABP−10306である。さらに、ラクトバチルス・フルクチボランスSAI9110(Lactobacillus fructivorans SAI9110)株についても、同様であり、その受託番号はFERM ABP−10308である。
なお、上記寄託菌3株以外の乳酸菌は、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室において保存されており、分譲を受けて使用した。
【0032】
実施例2(血圧低下作用の測定)
次に、実施例1において調製した発酵大豆飲料のうち、対照としたラクトバチルス・ヘルベチカスJCM1003(Lactobacillus helveticus JCM1003)株、及び実施例1で強いACE阻害作用を有する物質の生産能が認められたラクトバチルス・ラムノサスJCM1136(Lactobacillus rhamnosus JCM1136)株、ラクトバチルス・ラムノサスSAI4093(Lactobacillus rhamnosus SAI4093)株(FERM ABP−10307)、ラクトバチルス・ロイテリJCM1112(Lactobacillus reuteri JCM1112)株、ラクトバチルス・ロイテリSAI4092(Lactobacillus reuteri SAI4092)株(FERM ABP−10306)、ラクトバチルス・フルクチボランスJCM1117(Lactobacillus fructivorans JCM1117)株、並びにラクトバチルス・フルクチボランスSAI9110(Lactobacillus fructivorans SAI9110)株(FERM ABP−10308)を用いて調製された発酵大豆飲料について、下記に示す方法に従って血圧低下作用を測定した。
【0033】
すなわち、12週令・雄の自然発症高血圧ラットSHR/Izm(日本エスエルシー社、1群6匹)を、温度23±3℃、湿度55±15%の動物室中、水及び飼料(船橋農場社製、商品名「FR−2」)は、自由摂取として馴化飼育したものを被験動物として用いた。
このラットを試験前日より1晩絶食させておき、上記の発酵大豆飲料を8.4mg/kgで胃ゾンデにより強制経口投与した。
そして、投与直前、投与90分後、および投与180分後のそれぞれの時点で血圧を測定した。なお、血圧の測定は、非観血式自動血圧計(上田製作所社製、商品名「UR−5000」)を用いて、tail−cuff法によって行った。
【0034】
投与直前の血圧について、投与90分後及び投与180分後の最高血圧との差(最高血圧降下値)を求め、各群の平均値を表2に示した。なお、表2中の最高血圧降下値に付した符号は、それぞれ投与90分後及び投与180分後の最高血圧降下値が対照の最高血圧降下値に対して、※:危険率5%で有意、※※:危険率1%で有意、であることを示している。
【0035】
【表2】

【0036】
表2から、各乳酸菌により生産された発酵大豆飲料を投与したラットは、対照としたラクトバチルス・ヘルベチカスJCM1003(Lactobacillus helveticus JCM1003)株により生産された発酵大豆飲料を投与した場合に対し、最高血圧降下値が低く、90分後のみならず180分後にも血圧降下特性が作用されていた。
以上の結果から、ラクトバチルス・ラムノサスJCM1136(Lactobacillus rhamnosus JCM1136)株、ラクトバチルス・ラムノサスSAI4093(Lactobacillus rhamnosus SAI4093)株(FERM ABP−10307)、ラクトバチルス・ロイテリJCM1112(Lactobacillus reuteri JCM1112)株、ラクトバチルス・ロイテリSAI4092(Lactobacillus reuteri SAI4092)株(FERM ABP−10306)、ラクトバチルス・フルクチボランスJCM1117(Lactobacillus fructivorans JCM1117)株、およびラクトバチルス・フルクチボランスSAI9110(Lactobacillus fructivorans SAI9110)株(FERM ABP−10308)の各乳酸菌を用いて生産された発酵大豆飲料は、顕著な血圧低下作用を有することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
大豆を原料として乳酸菌による発酵を行って得られる本発明の機能性組成物は、経口投与により優れたACE阻害作用を示し、強い血圧低下作用を有する。本発明の機能性組成物は、大豆に乳酸菌を作用させて得られるので、安全性に全く問題がなく、また官能的にも優れた機能性組成物であり、経口投与に適している。
本発明の機能性組成物は、大豆に乳酸菌を作用させるだけで製造することが可能であるので、安価、且つ容易に製造することができ、工業的にも極めて有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌を大豆に作用させて得られる発酵大豆成分を含有し、ACE阻害作用を有することを特徴とする機能性組成物。
【請求項2】
乳酸菌が、ラクトバチルス(Lactobacillus)属乳酸菌より選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項1に記載の機能性組成物。
【請求項3】
乳酸菌が、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)およびラクトバチルス・フルクチボランス(Lactobacillus fructivorans)の中から選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の機能性組成物。
【請求項4】
乳酸菌が、ラクトバチルス・ラムノサスJCM1136(Lactobacillus rhamnosus JCM1136)株、ラクトバチルス・ラムノサスSAI4093(Lactobacillus rhamnosus SAI4093)株(FERM ABP−10307)、ラクトバチルス・ロイテリJCM1112(Lactobacillus reuteri JCM1112)株、ラクトバチルス・ロイテリSAI4092(Lactobacillus reuteri SAI4092)株(FERM ABP−10306)、ラクトバチルス・フルクチボランスJCM1117(Lactobacillus fructivorans JCM1117)株およびラクトバチルス・フルクチボランスSAI9110(Lactobacillus fructivorans SAI9110)株(FERM ABP−10308)の中から選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の機能性組成物。
【請求項5】
血圧低下作用を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の機能性組成物。
【請求項6】
飲食品であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の機能性組成物。
【請求項7】
血圧を低下させるために用いられる旨の表示を付したことを特徴とする請求項6に記載の機能性組成物。


【公開番号】特開2006−290835(P2006−290835A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−116441(P2005−116441)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(398065531)株式会社ミツカングループ本社 (157)
【Fターム(参考)】