説明

ADHD関連疾患治療剤

【課題】ADHD関連疾患治療剤の提供。
【解決手段】下記構造式(1)の化合物。


式中、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、水酸基または糖残基など。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウィタノシド(Withanoside)IV及びその周辺化合物を有効成分とするADHD関連疾患に関する。
【背景技術】
【0002】
ADHD(Attention Deficit / Hyperactivity Disorder)は、注意欠陥・多動性障害と言われ、注意の困難、多動性、衝動性からなる発達上のつまずきが原因で引き起こされる発達障害の一つである(非特許文献1)。ADHD患者では、記憶学習障害、けいれん性疾患、排泄障害、睡眠障害などの脳機能障害が認められるとの報告もある(非特許文献2,3,4)。
【0003】
ADHDの治療は、中枢刺激薬による薬物療法、行動療法、プレイ・セラピーを含めた精神療法、ソーシャルスキル・トレーニング、親カウンセリングやペアレント・トレーニングといった心理社会的治療が行われている(非特許文献5)。 しかしながら、いずれも十分にADHDの治療効果を得ることができていないのが現状である。
【0004】
また、中枢刺激薬では、メチルフェニデートが第一選択薬となっているが、メチルフェニデートは、日本では保険適用対象外であることから(非特許文献6)、治療のために高額の治療費が必要とされ、患者にとって大きな負担となっている。
【非特許文献1】花熊暁、心理学ワールド、No.14 Page.13-16 (2001.07.15)
【非特許文献2】林北見、小児科における注意欠陥/多動性障害に対する診断治療ガイドライン作成に関する研究 平成17年度 総括・分担研究報告書、Page.III,8-III,13 (2006)
【非特許文献3】加我牧子, 稲垣真澄, 井上祐紀, 小久保奈緒美, 軍司敦子、小児科における注意欠陥/多動性障害に対する診断治療ガイドライン作成に関する研究 平成17年度 総括・分担研究報告書、Page.III,14-III,17 (2006)
【非特許文献4】堀口寿広、Mod Phys、Vol.21 No.3 Page.336-338 (2001.03.15)
【非特許文献5】渡部京太, 吉田弘和, 齊藤万比古、小児科における注意欠陥/多動性障害に対する診断治療ガイドライン作成に関する研究 平成17年度 総括・分担研究報告書、Page.III,58-III,65 (2006)
【非特許文献6】宮島祐、小児科における注意欠陥/多動性障害に対する診断治療ガイドライン作成に関する研究 平成17年度 総括・分担研究報告書、Page.III,1-III,7 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、簡便かつ高い効果を示す、ADHD関連疾患治療剤、およびADHDの治療方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題について鋭意検討したところ、ウィタノシド(Withanoside)IV及びその周辺化合物に著しいADHD治療作用があることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下を含む。
【0008】
〔1〕下記構造式(1)の化合物またはその薬学的に許容される塩の少なくとも1種を有効成分とする、ADHD関連疾患治療剤;
【化4】

(式中、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルキル基、またはアルコキシ基であり、Rは水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、または糖残基である。)。
〔2〕下記構造式(2)のウィタノシドIVまたはその薬学的に許容される塩を有効成分とする、ADHD関連疾患治療剤;
【化5】


〔3〕 下記構造式(1)の化合物またはその薬学的に許容される塩の少なくとも1種を有効成分として含有する、ADHD関連疾患の緩和作用を有する食品組成物;
【化6】

(式中、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルキル基、またはアルコキシ基であり、Rは水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、または糖残基である。)。
〔4〕〔1〕または〔2〕に記載のADHD関連疾患治療剤または〔3〕に記載の食品組成物の有効量を投与することを特徴とする、ADHD関連疾患の治療方法。
〔5〕ADHD関連疾患治療剤またはADHD関連疾患治療剤を有効成分として含有する食品組成物の製造のための、下記構造式(1)の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用;
【化7】

(式中、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルキル基、またはアルコキシ基であり、Rは水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、または糖残基である。)。
【0009】
本発明のある態様としては、下記構造式(1)の化合物の少なくとも1種を有効成分とするADHD関連疾患治療剤である。
【化8】

(式中、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルキル基、またはアルコキシ基であり、Rは水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、または糖残基である。)
【0010】
ここで、本発明における「ADHD関連疾患」とは、ADHDだけでなく、ADHDに不随して引き起こされる記憶学習障害、けいれん性疾患、排泄障害、睡眠障害などの脳機能障害を含む。
【0011】
上記構造式(1)のうち、特に好ましくは下記構造式(2)のウィタノシドIVを有効成分とするADHD関連疾患治療剤である。
【化9】

【0012】
また本発明の別の態様としては、前記構造式(1)または前記構造式(2)のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、ADHD関連疾患の緩和作用を有する食品組成物である。
【0013】
さらに本発明の別の態様としては、ADHD関連疾患治療剤の有効量を患者に投与することを特徴とするADHD関連疾患の治療方法である。
【0014】
また、さらに本発明の別の態様としては、上記ADHD関連疾患治療剤の製造のための、前記構造式(1)または前記構造式(2)のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、簡便かつ高い効果を示す特定の化合物によるADHD関連疾患治療剤またはADHD関連疾患の緩和作用を有する食品組成物を提供することが可能となる。
【0016】
また、上記薬剤を投与することにより、簡便にヒトなどのADHD関連疾患の治療を目的とした効果的な治療方法を提供することができる。
【0017】
〔発明を実施するための形態〕
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に述べる個々の形態には限定されない。
【0018】
前述の通り、本発明は下記構造式(1)の化合物の少なくとも1種を有効成分とするADHD関連疾患治療剤を提供するものである。
【化10】

【0019】
上記構造式(1)において、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルキル基、またはアルコキシ基であることが好ましく、Rは水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、または糖残基であることが好ましい。R及びRは特に好ましくは、それぞれ独立して、水素原子、水酸基のいずれかである。また、Rは特に好ましくは糖残基である。
【0020】
上記置換基としてのアルキル基の例は、本発明はこれらに限定されないが、好ましくは炭素数が1〜6の直鎖状又は分枝状のアルキル基が挙げられ、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。
【0021】
また、アルコキシ基の例は、本発明はこれらに限定されないが、好ましくは炭素数が1〜6の直鎖状又は分枝状のアルコキシ基が挙げられ、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基などが挙げられる。
【0022】
上記置換基としての糖残基の例は、本発明はこれらに限定されないが、単糖、糖誘導体、2〜7糖からなるオリゴ糖又はオリゴ糖誘導体等からのグリコシル基が好ましい。結合については、本発明はこれらに限定されないが、α結合、β結合を問わず、またα結合とβ結合が混在していてもよい。具体的な糖残基としては、本発明はこれらに限定されないが、例えばグルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、フコース、アラビノース等の単糖の残基;グルクロン酸、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、シアル酸等の糖誘導体の残基;マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、ラクトース、ゲンチオビオース、キシロビオース、プリメベロース、メリビオース、ルチノース、ビシアノース、ラミナリビオース、セロビオース、セロトリオース、パノース等の2〜7糖からなるオリゴ糖の残基等が挙げられ、特に好ましくはグルコース及びグルコースで構成される2〜7糖からなるオリゴ糖の残基である。また、2,3,4,6位の水酸基は、例えばアセチル基、マロニル基、リン酸基、メチル基等により修飾されていても良い。
【0023】
本発明において、「薬学的に許容される塩」とは、本発明に係る化合物と塩を形成し、かつ薬理学的に許容されるものであれば特に限定されないが、例えば、無機酸塩、有機酸塩、酸性アミノ酸塩などがあげられる。無機酸塩としては、例えば塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩などが挙げられ、有機酸塩としては、例えば酢酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩などが挙げられ、酸性アミノ酸塩としては、例えばアスパラギン酸塩、グルタミン酸塩などが挙げられる。
【0024】
本発明の化合物は、大気中に放置しておくことにより、水分を吸収し、吸着水が付いたり、水和物となる場合があり、そのような塩も本発明に含まれる。
【0025】
本発明の化合物には、全ての立体異性体(例えば、エナンチオマー、ジアステレオマー(シス及びトランス幾何異性体を含む。))、前記異性体のラセミ体、およびその他の混合物が含まれる。
【0026】
また、本発明の化合物には、いくつかの互変異性形態、例えばエノール及びイミン形態、ケト及びエナミン形態、並びにそれらの混合物で存在することができる。互変異性体は、溶液中で、互変異性セットの混合物として存在する。固体の形態では、通常、一方の互変異性体が優勢である。一方の互変異性体を記載することがあるが、本発明には、本発明の化合物の全ての互変異性体が含まれる。
【0027】
上記構造式(1)にて表される化合物の内、下記構造式(2)にて表されるウィタノシドIVが、その効果が高く、特に好ましく用いることができる。
【化11】

【0028】
本発明のADHD関連疾患治療剤として用いられるウィタノシド(Withanoside)IV及びその周辺化合物は、アシュワガンダ(Ashwagandha:Withania somnifera Dunalの根)から単離することができる。例えば、Chem.Phar.Bull.,第50巻,p760−765(2002年)に記載の方法により単離することが可能である。また、化学合成手法により合成したものでも用いることができ、その方法は特に限定されない。
【0029】
また、ウィタノシドの代謝物として得ることも出来る。たとえば構造式(1)で包含される化合物の1つであるソミノン(sominone、R=H、R=OH、R=OH)はウィタノシドIVの体内における代謝物であり、例えばHeterocycles,第34巻,p689−698(1992年)に記載の方法で得ることができる。
【0030】
具体的には、ウィタノシドIVを酵素、例えばナリンギナーゼ(naringinase)で、pH5.25、37℃の条件で3日間処理し、分配高速液体クロマトグラフィーなどにより分離、精製することで得ることができる。
【0031】
本発明の食品組成物は、特にADHD関連疾患の患者用食品に適用することができる。本発明の薬剤を含有する特定保健用食品等の特別用途食品や栄養機能食品として直接摂取することによりADHD関連疾患の緩和を簡便に行うことができる。
【0032】
具体的には、食品組成物として使用する場合には、各種飲食品(牛乳、清涼飲料、発酵乳、ヨーグルト、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、流動食、病者用食品、幼児用粉乳等食品、授乳婦用粉乳等食品、栄養食品等)に本発明の薬剤を添加し、これを摂取してもよい。本有効成分をそのまま使用したり、他の食品ないし食品成分と混合するなど、通常の食品組成物における常法にしたがって使用できる。また、その性状についても、通常用いられる飲食品の状態、例えば、固体状(粉末、顆粒状その他)、ペースト状、液状ないし懸濁状のいずれでもよい。
【0033】
その他の成分についても特に限定されないが、本発明の薬剤を含有する飲食物には、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類等を主成分として使用することができる。
【0034】
タンパク質としては、例えば全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、ホエイ粉、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質分離物、α―カゼイン、β―カゼイン、κ−カゼイン、β―ラクトグロブリン、α―ラクトアルブミン、ラクトフェリン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質、これら加水分解物;バター、乳性ミネラル、クリーム、ホエイ、非タンパク態窒素、シアル酸、リン脂質、乳糖等の各種乳由来成分などが挙げられる。
【0035】
糖質としては、糖類、加工澱粉(デキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維などが挙げられる。
脂質としては、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂などが挙げられる。
【0036】
ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられ、ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなどが挙げられる。
【0037】
有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸などが挙げられる。これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用することができ、合成品及び/又はこれらを多く含む食品を用いてもよい。
【0038】
本発明のADHD関連疾患治療剤これを有効成分とする食品組成物の投与量は、投与経路、ヒトを含む投与対象動物の年齢、体重、症状など、種々の要因を考慮して、適宜設定することができる。本発明はこれに限定されないが、好ましくは、有効成分として0.01〜100μmol/kg/dayが適当である。
【0039】
また本発明のADHD関連疾患治療剤は、経口投与又は非経口投与(筋肉内、皮下、静脈内、坐薬、経皮等)のいずれでも投与できる。
【0040】
本発明によるADHD関連疾患治療剤の投与形態としては、例えば錠剤、被覆錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、溶液、シロップ剤、乳液等による経口投与をあげることができる。
【0041】
これらの各種製剤は、常法に従って主薬である本発明のADHD関連疾患治療剤に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。
【0042】
本発明のADHD関連疾患治療剤の含有量は、その目的、用途(予防剤、治療剤等の医薬品組成物)に応じて任意に定めることができる。本発明はこれに限定されないがその含量としては、全体量に対して通常、0.001〜100(w/w)%、特に0.1〜100(w/w)%が好ましい。
【0043】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0044】
PI3K KOマウスにおける行動学的、組織学的な検討:
PI3Kは、これまでの細胞レベルでの研究により軸索形成経路の上流に位置する重要な分子であることが既に知られている。(Shi S.H., Jan L.Y. and Jan Y.N. (2003). Cell 112, 63-75、Menager C., Arimura N., Fukata Y. and Kaibuchi K. (2004) J. Neurochem. 89, 109-118.)
【0045】
本願発明者らは、神経機能におけるホスファチジルイノシタイド3キナーゼ(Phosphoinositide-3kinase:以下「PI3K」)の機能を動物レベルで検討するために、p85αサブユニットが欠損したPI3K−p85αノックアウトマウス(以下「PI3K KOマウス」)を用いて、行動学的、組織学的な検討を行った。
【0046】
本発明で用いるPI3K KOマウスとは、該キナーゼのp85調節サブユニットであるp85αを欠損させたマウスのことをいい、例えば、細胞工学,22(8).836−839,2003に記載の方法などによっても作製することができる。
【0047】
[PI3K KOマウスの作製]
PI3K KOマウスは、Balb/cマウスに12代戻し交配して作製したもので、メスのヘテロとオスのホモの交配により得られるホモマウスを用いた。マウスはプラスチックケージ(24 × 17 × 12 cm)に2〜4匹ずつ入れ、プラスチックケージごとフィルターを被せ、12時間の明暗周期(7:00 - 19:00)、恒温恒湿(22±2℃、55±10%)の環境で飼育した。水および固形飼料は、自由摂取させた。
【0048】
[ADHD関連疾患モデルマウスの認定]
PI3K KOマウスは、次の性質を有していた。
(1)オープンフィールド(open field)試験で頻繁に進行方向を変え中心部を横断する落ち着きのない自発行動を示す。
(2)対象物探索試験で新しい物を置いた場合の探索行動の回数が減少、すなわち、注意力、および意欲の低下が見られる。
(3)ホール・ボード(hole-board)試験での穴の中に頭を沈める行動の回数が減少、すなわち不安の亢進が見られる。
(4)高架式十字迷路による不安行動の解析をした場合、壁のない領域に出て行く行動が少なく、不安の亢進がみられる。
(5)水迷路による空間記憶の解析をした場合、記憶獲得能力の低下、進行方向の変更の増加(多動)、ゴール方向へ泳ぐ意欲の低下を示す。
(6)脳切片の免疫組織染色で、PI3K 活性の低下が大脳皮質と線条体に特に認められる。
(7)PI3K 活性の低下部位において、軸索形成の減少、とりわけミエリン化された軸索の形成減少が認められる。
(8)シナプス密度の低下が、大脳皮質、線条体、海馬において認められる。
【0049】
PI3K KOマウスにおける行動と組織変化を下記表1に示す。
【表1】

【0050】
以上の結果よりPI3K KOマウスの行動パターンが、多動性、持続しない注意力、意欲の低下、落ち着きのなさ、不安、作業記憶の障害等のADHDに特徴的に見られる行動パターンと類似すること、及び、ADHD患者で観察されるのと同様に軸索形成、中枢性ミエリンの発現、シナプス密度が減少していることから、PI3K KOマウスは、ADHDのモデル動物として使用することができる。
【0051】
[実施例1]
Morris水迷路試験評価法:
Morris水迷路試験により、マウスの記憶獲得能力を評価した(Morris, 1982)。水迷路装置は円形水槽(直径122 cm、高さ28 cm)を用い、水槽内に直径12 cmのプラットホームを設置し、プラットホームの上面1.2cmのところまで入浴剤で紫色に着色した水道水で満たし、プラットホームの位置が水面上から見えないようにした。水温は21−23℃に保った。円形水槽の周囲3面に白黒のコントラストが明瞭な異なるデザインの幾何学的模様を配置し、空間を認識するための目印とした。
【0052】
マウスの視力、水泳能力に問題が無いかどうかを確認するために、Visibleテストを行った。プラットホームが水面から0.5cm見えるように水量を調節し、さらにプラットホーム上に目印となる青色のブロック(高さ8.5cm)を乗せた。マウスを60秒間泳がせ、プラットホームにたどり着くまでの時間を計測した。
【0053】
水迷路試験では、マウスを水迷路の任意の位置から水槽壁に頭を向けてスタートさせ、見えないプラットホーム上に乗るまでの時間を測定し、ゴール後そのままマウスをプラットホーム上に30秒間保持した。マウスが60秒以内にプラットホームにたどり着かなかった場合は、実験者の手でマウスをプラットホーム上に置き30秒間保持した。水迷路試験の初日の第1回目の試行のみ、まずマウスをプラットホーム上に30秒間保持してから水迷路試験を行った。
【0054】
記憶獲得テストは1日4試行からなり、全てのマウスが試行を1回終えてから次の試行に移った。4試行の成績の平均をその日の成績とし、4日間または5日間連続して行った。全ての試行をデジタルカメラで録画し、EthoVision 3.0(Noldus Information Technology)によって解析した。
【0055】
PI3K KOマウスに対するウィタノシドIVの投与は、14日間の連続経口投与により行った。ウィタノシドIVは水道水に溶解させ、10μmol/kg/dayの用量で投与した。なお、コントロール群には水道水を経口投与した。
【0056】
水迷路試験で使用したウィタノシドIVはアシュワガンダからのメタノール抽出後の単離品であり、HPLCによりその純度を確認した(検出:UV220nm)。14日間の連続等終了後、断薬し、その2日後から5日間連続で水迷路試験を行った。
【0057】
評価結果:
コントロール群としてPI3K KOマウスのオス(16週齢,n=3)(21週齢,n=1)、ウィタノシドIV投与群としてPI3K KOマウスのオス(16週齢,n=1)(21週齢,n=2)を用い、上記評価方法により水迷路試験を行った。
【0058】
PI3K KOマウスのコントロール群とウィタノシドIV投与群における、スタート地点からプラットホームまでの水泳軌跡の重ね合わせと各試行日のゴール率を示した(図1)。
【0059】
水迷路試験1日目から、PI3K KOマウスのコントロール群はゴール率が低く(31.25%)スタート地点に留まる傾向が見られたが、ウィタノシドIV投与群ではゴール率が高く(93.75%)プラットホームに向かい直線的に泳いでいる様子が示された。
【0060】
また、PI3K KOマウスでは、水迷路において、Escape latencyが短縮しないこと、及びゴール成功率の低値で示される、記憶学習障害と、プラットフォームを探索しようとして泳ぎ回らずに、スタート地点付近を泳ぐ行動(意欲減退を示唆する)が、顕著に認められた。一方、PI3K KOマウスのウィタノシド投与群はコントロール群と比較してプラットフォームに向かって泳ぐ軌跡へと変化し、Escape latencyの短縮傾向がみられた(図2)。
【0061】
これら、図1、および図2の結果は、ウィタノシドIVがADHD関連疾患に対する治療効果を有意に示すことを意味する。
【0062】
なお、図2における測定データは平均値±標準偏差(S.E.M.)で表した。有意差検定はStudent's t−test、Two way repeated measures(RM)−ANOVAにより行い、post hoc testはDunnett's multiple comparisonsにより行った。有意差水準は5%とした。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によるウィタノシド(Withanoside)IV及びその周辺化合物により、簡便かつ高い効果を示すADHD関連疾患治療剤又はADHD関連疾患の緩和作用を有する食品組成物を提供することが可能となった。
【0064】
また、上記薬剤により、簡便にヒトなどのADHD関連疾患を治療目的とした効果的な治療方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、水迷路においてスタート地点からプラットホームまでの水泳軌跡の重ね合わせと各試行日のゴール率を示した図である。図中、Trial dayは試行日を示し、PI3K-/-Vehは、PI3K KOマウスのコントロール群を、PI3K-/-WS-IVは、PI3K KOマウスのウィタノシド投与群を意味する。
【図2】図2は、水迷路においてスタート地点からプラットホームにたどり着くまでの時間(Escape latency)を示す図である。図中、横軸は、試行日(日)を示し、縦軸はEscape latency(秒)を意味する。また、図中、黒丸はPI3K KOマウスのコントロール群を、黒四角はPI3K KOマウスのウィタノシド投与群を意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)の化合物またはその薬学的に許容される塩の少なくとも1種を有効成分として含有する、ADHD関連疾患治療剤;
【化1】

(式中、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルキル基、またはアルコキシ基であり、Rは水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、または糖残基である)。
【請求項2】
下記構造式(2)のウィタノシドIVまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、ADHD関連疾患治療剤;
【化2】


【請求項3】
下記構造式(1)の化合物またはその薬学的に許容される塩の少なくとも1種を有効成分として含有するADHD関連疾患の緩和作用を有する、食品組成物;
【化3】

(式中、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルキル基、またはアルコキシ基であり、Rは水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、または糖残基である)。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−100529(P2010−100529A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−38498(P2007−38498)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】