説明

AI−2阻害剤

【課題】AI−2の活性を阻害し、感染症を予防、治療若しくは改善するための医薬品又は食品として有用なAI−2阻害剤の提供。
【解決手段】タマリンド、ペニーロイヤル、ローズ、クローブ及びクランベリーから選ばれる植物又はそれらの抽出物を有効成分とするAI−2阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染症の予防又は治療に有用なオートインデューサー−2(以下、「AI−2」と称する)阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界において、微生物は様々な環境下で生存しなければならない。貧栄養、低温度、高温、pH変化はもちろんのこと、生体内においては貪食細胞または抗菌性液性因子(補体、抗体、リゾチーム等)が存在する環境での生存を余儀なくされる。このような状況下で、細菌は自らの存在環境の変化を敏感に感知する機構を獲得してきた。そのような機構の1つとして、微生物は特異的な情報伝達物質を介して環境における自らの濃度を感知し、その濃度に応じて自らの様々な生物活性を巧妙に制御していることが明らかとなっている。このような細胞間の情報伝達機構は、クオラムセンシングシステムと称される。
【0003】
クオラムセンシングは、発光性海洋細菌であるビブリオ・フィシェリおよびビブリオ・ハーベイにおいて最初に報告された。しかし、最近では、多くの細菌における一般的な遺伝子調節機構であると認識されている。この現象により、細菌は、生物発光、スウォーミング、バイオフィルム形成、タンパク質分解酵素の産生、抗生物質の合成、遺伝子受容能の発達、プラスミド接合伝達、病原因子産生および胞子形成等といった活動を一斉に行うことができる。
【0004】
クオラムセンシングシステムを有する細菌は、オートインデューサーと呼ばれるシグナル伝達分子を合成し、放出し、細胞密度の増減によりシグナル伝達分子の応答性が変化することで、そのシグナル伝達分子に応答して遺伝子発現を制御する。これまで、アシルホモセリンラクトンがオートインデューサー−1(AI−1)として、4,5−ジヒドロキシ−2,3−ペンタンジオンがAI−2として同定されている。
【0005】
ビブリオ属細菌、緑膿菌、セラチア、エンテロバクター等臨床上重要な細菌がクオラムセンシングにAI−1を利用することが報告されている。また、ビブリオ・ハーベイが、種内情報伝達には種特異性の高いAI−1を利用し、種間情報伝達には種特異性の低いAI−2を利用することが報告されている(非特許文献1)。さらに最近の研究では、AI−2による病原性細菌の種間でのクオラムセンシングが、病原因子の産生を調節していることも示されている。
【0006】
例えば、胃潰瘍および胃ガンを惹起すると言われているヘリコバクター・ピロリのLuxS(AI-2合成酵素)欠損株では、細菌運動性が低下し、マウス胃粘膜への感染率が低下すること(非特許文献2)が報告されている。また、食中毒、ガス壊疽、出血性腸炎等の原因菌であるウェルシュ菌のLuxS欠損株において、α−、κ−、θ−毒素の産生が低下すること(非特許文献3)が報告されている。
【0007】
従って、AI−2の活性を阻害する物質は、各種感染症の予防又は治療に有用であると考えられ、これまでに、4−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノン(特許文献1)、2−メトキシ−2,4−ジフェニル−3(2H)−フラノン(特許文献2)、2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オン(特許文献3)等が報告されている。
【0008】
一方、タマリンドは、その果実が調味料として広く利用され、また消化促進や整腸等の作用を有することが知られており、種から抽出される色素は、水産加工品や菓子類等の食品用色素として使用されている。ペニーロイヤルは、紅茶や菓子等食品の賦香料として利用され、消化促進や強壮作用を有することが知られ、ローズは、香辛料(苦味料)の他に、抗鬱、抗炎症作用を有することが知られている。また、クローブは、香辛料の他、民間薬として、腹痛、歯痛、胃腸障害等に利用されている。また、クランベリーは、主にジャムやジュースに加工されて利用され、膀胱炎など泌尿器疾患の民間療法として飲用されている。
しかしながら、これら植物及び当該植物の抽出物にAI−2阻害作用があることはこれまでに知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2003−532698号公報
【特許文献2】特表2003−532698号公報
【特許文献3】特表2005−506953号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Bassler et al., Bacteriol.179:4043-4045,1997
【非特許文献2】Osaki T. et al., J. Med. Microbiol., 55(Pt11), 1477-1485, 2006
【非特許文献3】Ohtani K. et al., Mol. Microbiol., 44(1), 171-179, 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、AI−2の活性を阻害し、感染症を予防、治療若しくは改善するための医薬品又は食品として有用なAI−2阻害剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に鑑み検討したところ、タマリンド、ペニーロイヤル、ローズ、クローブ及びクランベリーの抽出物にAI−2阻害活性があり、これらがAI−2を認識する病原細菌による各種感染症の予防、治療若しくは改善に有効であることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、タマリンド、ペニーロイヤル、ローズ、クローブ及びクランベリーから選ばれる植物又はそれらの抽出物を有効成分とするAI−2阻害剤に係るものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のAI−2阻害剤は、AI−2を認識する病原細菌による各種感染症、例えば、ヘリコバクター・ピロリが原因となる胃炎や、ウェルシュ菌が原因となる食中毒、ガス壊疽、出血性腸炎等の感染症等の予防、治療若しくは改善するための医薬品、食品として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】各植物抽出物のAI−2阻害活性を示したグラフ。
【図2】クランベリー抽出物のAI−2阻害活性を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明においてAI−2を阻害することは、AI−2が細菌に及ぼす影響を阻害することをさし、AI−2活性を阻害すること、AI−2を分解すること、AI−2及びAI−2活性を有するもののAI−2受容体への結合を阻害すること、AI−2受容体の下流のシグナル伝達を阻害すること等が包含される。
ここで、AI−2活性は、AI−2がクオラムセンシングシステムを有する細菌に影響を及ぼす活性、すなわち、AI−2よりもたらされる細菌の機能を促進する活性をさす。細菌は、AI−2により発光、スウォーミング、バイオフィルム形成、タンパク質分解酵素の産生、抗生物質の合成、遺伝子受容能の発達、プラスミド接合伝達、病原因子産生および胞子形成を行うことが知られている。従って、AI−2活性は、換言すれば、AI−2を認識する細菌、すなわちAI−2受容体を有する細菌による生物発光、スウォーミング、バイオフィルム形成、タンパク質分解酵素の産生、抗生物質の合成、遺伝子受容能の発達、プラスミド接合伝達、病原因子産生および胞子形成の活性ということができ、本発明においては、AI−2活性は、特に、細菌の病原因子産生活性をさす。
【0017】
細菌の病原因子としては、例えば、エンテロトキシン、アデニル酸シクラーゼ毒素、アドヘシン、アルカリプロテアーゼ、溶血毒、炭疽毒素、APX毒素、α毒素、β毒素、δ毒素、C2毒素、C3毒素、ボツリヌス毒素、束状線毛構造サブユニット、C5Aペプチダーゼ、心臓毒、走化性、コレラ毒素、毛様体毒素、クロストリジウム細胞毒、クロストリジウム神経毒、コラーゲン接着遺伝子、細胞溶解素、嘔吐毒素、内毒素、表皮剥脱毒素、外毒素、細胞外エラスターゼ、フィブリノゲン、フィブロネクチン結合タンパク質、線維状赤血球凝集素、フィンブリア、ゼラチナーゼ、赤血球凝集素、ロイコトキシン、リポタンパク質シグナルペプチダーゼ、リステリオリシンO、Mタンパク質、神経毒、非フィンブリアアドヘシン類、浮腫因子、透過酵素、百日咳毒素、ホスホリパーゼ、線毛、孔形成毒素、プロリンパーミアーゼ、セリンプロテアーゼ、志賀毒素、破傷風毒素、チオール活性化細胞溶解素、気管細胞溶解素、ウレアーゼ等が挙げられるがこれに制限されない。
【0018】
本発明のAI−2阻害剤で影響を及ぼすことができる細菌、換言すれば、本発明のAI−2阻害剤で病原性を抑制できる細菌は、AI−2によりその機能が促進される細菌である。例えば、AI−2受容体を有する細菌、好ましくはAI−2受容体を有し、AI−2を産生する細菌が挙げられる。斯かる細菌としては、例えば、ビブリオ(Vibrio)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌、ポルフィロモナス(Porphyromonas)属細菌、エルシニア(Yersinia)属細菌、エシェリキア(Escherichia)属細菌、サルモネラ(Salmonella)属細菌、ヘモフィルス(Haemophilus)属細菌、ヘリコバクター(Helicobacter)属細菌、バシルス(Bacillus)属細菌、ボレリア(Borrelia)属細菌、ナイセリア(Neisseria)属細菌、カンピロバクター(Campylobacter)属細菌、デイノコックス(Deinococcus)属細菌、ミコバクテリウム(Mycobacterium)属細菌、エンテロコッカス(Enterococcus)属細菌、ストレプトコッカス(Streptococcus)属細菌、シゲラ(Shigella)属細菌、エロモナス(Aeromonas)属細菌、エイケネラ(Eikenella)属細菌、クロストリジウム(Clostridium)属細菌、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属細菌、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌、アクチノバチルス(Actinobacillus)属細菌、アクチノマイセス(Actinomyces)属細菌、バクテロイデス(Bacteroides)属細菌、カプノサイトファガ(Capnocytophaga)属細菌、クレブシエラ(Klebsiella)属細菌、ハロバチルス(Halobacillus)属細菌、フゾバクテリウム(Fusobacterium)属細菌、エルウィニア(Erwinia)属細菌、エルベネラ(Elbenella)属細菌、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌、リステリア(Listeria)属細菌、マンヘイミア(Mannheimia)属細菌、ペプトコッカス(Peptococcus)属細菌、プレボテラ(Prevotella)属細菌、プロテウス(Proteus)属細菌、セラチア(Serratia)属細菌およびベイロネラ(Veillonella)属細菌等が挙げられる。
【0019】
より具体的には、ビブリオ・ハーベイ(Vibrio harveyi)、ビブリオ・フィシェリ(Vibrio fischeri)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)、ビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)、シュードモナス・ホスホレウム(Pseudomonas phosphoreum)、ポリフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)、大腸菌(Escherichia coli)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、枯草菌(Bacillus subtilis)、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgfdorferi)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、ペスト菌(Yersinia pestis)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、デイノコックス・ラジオデュランス(Deinococcus radiodurans)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、箕田赤痢菌(Shigella flexneri)、シゲラ・ボイデイ(Shigella boydii)、セレウス菌(Bacillus cereus)、バチルス・クブチリス(Bacillus cubtilis)、エロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)、チフス菌(Salmonella enterica)、エイケネラ・コロデンス(Eikenella corrodens)、ヘリコバクター・ヘパティカス(Helicobacter hepaticus)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、スタフィロコッカス・ハエモリティカス(Staphylococcus haemolyticus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ストレプトコッカス・サンギニス(Streptococcus sanguinis)、ストレプトコッカス・アンギノーサス(Streptococcus anginosus)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)、ストレプトコッカス・ゴルドニ(Streptococcus gordonii)、ストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)、アクチノバチルス・アクチノマイセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)、ビブリオ・ブルニフィカス(Vivrio vulnificus)、ビブリオ・ミミクス(Vibrio mimicus)、ビブリオ・アングイラルム(Vibrio anguillarum)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、エルウィニア・アミロボラ(Erwinia amylovora)、エルウィニア・カロトバラ(Erwinia carotovara)、ハロバチルス・ハロフィラス(Halabacilus halophilus)、セラチア・ピムチカ(Serratia pymuthica)、セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)、バクテロイデス・ブルガタス(Bacteroides vulgatus)、バクテロイデス・ディスタソニス(Bacteroides distasonis)、リステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、アエロモナス・ハイドロフィリア(Aeromonas hydrophilia)、マンヘイミア・ハエモライティカ(Mannhemia haemolytica)、クレブシエラ・ニューモニアエ(Klebsiella pneumoniae)、バチルス・アンスラシス(Bacillus anthracis)、カンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)、カンピロバクター・レクタス(Campylobacter rectus)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、アクチノマイセス・ナエスランディ(Actinomyces naeslundii)、ペプトコッカス・アナエロビウス(Peptococcus anaerobius)、フゾバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、ベイロネラ・パルラ(Veillonella parvula)、カプノサイトファガ・スプティゲナ(Capnocytophaga sputigena)およびプレボテラ・インタメディア(Prevotella intermedia)等が挙げられる。
【0020】
AI−2活性は、AI−2を認識することにより発光するレポーター細菌、好ましくはAI−2受容体およびルシフェラーゼを有する細菌を用いるバイオアッセイにより測定することができる(Keersmaecker S.C.J. et al., J. Biol. Chem., 280(20), 19563-19568, 2005)。具体的には、ビブリオ・ハーベイBB170株をレポーター細菌とし、被検化合物の存在下で培養し、培養後の発光強度をケミルミネッセンス計等で測定することにより、AI−2活性を測定することができる。
【0021】
本発明におけるタマリンドとは、マメ科(Leguminosae)のTamarindus indica L.を意味し、ペニーロイヤルとは、シソ科(Labiatae)のmentha pulegiumを意味し、ローズとは、バラ科 (Rosaceae)の例えばRosa centifolia またはRosa damascena等を意味し、クローブとは、フトモモ科(Myrtaceae)のSyzygium aromaticum(L.)MERR.et PERRYを意味する。また、クランベリーは、ツツジ科(Ericaceae)スノキ属(Vaccinium)の、Oxycoccus節ツルコケモモ (Vaccinium oxycoccus) (Common Cranberry, Northern Cranberry) 、ヒメツルコケモモ (Vaccinium microcarpum) (Small Cranberry) 、オオミノツルコケモモ/ベアベリー (Vaccinium macrocarpon) (Large cranberry, American Cranberry, Bearberry) 、及びOxycoccoides節 Vaccinium erythrocarpum (Southern Mountain Cranberry)などを意味する。
上記植物は、その植物の全草、葉、茎、樹皮、枝、花冠、花弁、花蕾、種子、果実又は根等をそのまま又は粉砕して用いることができるが、タマリンドについては種子、ペニーロイヤルについては葉または茎、ローズについては花弁、クローブについては花蕾、クランベリーについては果実を使用することが好ましい。
【0022】
本発明の植物抽出物としては、前記植物の用部を、そのままあるいは乾燥した後に適当な大きさに切断したり、粉砕加工したりしたものを抽出して得られる抽出エキスの他、さらに分離精製して得られるより活性の高い画分(成分)が包含される。
【0023】
抽出は、室温又は加熱した状態で溶剤に含浸させるか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて行われる溶剤抽出の他に、水蒸気蒸留等の蒸留法を用いて抽出する方法、炭酸ガスを超臨界状態にして行う超臨界抽出法、あるいは圧搾して抽出物を得る圧搾法等を用いることができる。
【0024】
溶剤抽出に用いられる抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができ、これらを混合して用いることもできる。例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ピリジン類;超臨界二酸化炭素;油脂、ワックス、その他オイル等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用でき、溶剤を変えて繰り返し行うことも可能である。このうち、水、エタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等を用いるのが好ましく、特に水・エタノール混液を用いるのが好ましい。
抽出は、例えば植物1質量部に対して1〜50質量部の溶剤を用い、3〜100℃で数時間〜数週間浸漬又は加熱還流するのが好ましい。
【0025】
また、抽出物の分離精製手段としては、例えば、抽出物を活性炭処理、液液分配、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ゲル濾過、精密蒸留等を挙げることができる。
【0026】
本発明の植物抽出物は、斯くして得られる抽出液や画分をそのまま用いてもよく、適宜な溶媒で希釈した希釈液として用いてもよく、或いは濃縮エキスや乾燥粉末としたり、ペースト状に調製したものでもよい。また、凍結乾燥し、用時に、通常抽出に用いられる溶剤、例えば水、エタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、水・エタノール混液、水・プロピレングリコール混液、水・ブチレングリコール混液等の溶剤で希釈して用いることもできる。また、リポソーム等のベシクルやマイクロカプセル等に内包させて用いることもできる。
【0027】
本発明の植物又はその抽出物は、後記実施例に示すように、ビブリオ・ハーベイにおけるAI−2活性を抑制する。従って、本発明の植物又はその抽出物は、AI−2を利用するクオラムセンシングシステムを有する細菌に関連する感染症の予防又は治療のために使用でき、またAI−2阻害剤を製造するために使用できる。当該AI−2阻害剤は、感染症を予防又は治療するための医薬品、医薬部外品等として使用できる。また、当該AI−2阻害剤は、AI−2阻害或いは感染症の予防又は治療をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した医薬部外品として使用することもできる。
【0028】
ここで、感染症とは、例えば、日和見生物により引き起こされる日和見感染症、肺炎レンサ球菌およびインフルエンザ菌等により引き起こされる急性中耳炎(AOM)および滲出性中耳炎(OME)、インフルエンザ菌により引き起こされるインフルエンザ、ヘリコバクター・ピロリにより引き起こされる十二指腸潰瘍および胃潰瘍、コレラ菌により引き起こされるコレラ、ペスト菌により引き起こされるペスト、髄膜炎菌により引き起こされる髄膜炎、ネズミチフス菌等のサルモネラ属細菌により引き起こされるサルモネラ中毒、および大腸菌等により引き起こされる下痢症等が挙げられる。
【0029】
本発明のAI−2阻害剤を医薬品、医薬部外品として用いる場合の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与又は注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、外用剤等による非経口投与が挙げられる。また、このような種々の剤型の製剤を調製するには、本発明の植物又はその抽出物を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を適宜組み合わせて用いることができる。また、これらの投与形態のうち、好ましい形態は経口投与であり、経口用液体製剤を調製する場合は、嬌味剤、緩衝剤、安定化剤等を加えて常法により製造することができる。
【0030】
本発明のAI−2阻害剤を食品として用いる場合の形態としては、パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、ゼリー類、冷凍食品、アイスクリーム類、乳製品、飲料、スープ類等の各種食品の他、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)が挙げられる。飲料は、例えば、果汁飲料、炭酸飲料、茶系飲料、ニアウオーター、スポーツ飲料、乳飲料、アルコール飲料、清涼飲料等が挙げられる。食用油として用いる場合の形態としては、調理用油、調味料、マヨネーズ、ドレッシング、マーガリン等の油脂加工品類、パスタソース類等が挙げられる。
種々の形態の食品を調製するには、本発明の植物又はその抽出物を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて各種感染症予防用食品、ペットフード等として用いることが可能である。
【0031】
これらの製剤に対する本発明の植物又はその抽出物の配合量は、その使用形態により異なるが、食品の形態では、本発明の植物又はその抽出物(乾燥物換算)は、通常0.0001〜40質量%の範囲で用いられ、さらに、0.0001〜35質量%、0.0001〜10質量%、0.0001〜5質量%、0.0005〜2質量%とするのが好ましい。
【0032】
上記以外の医薬品、例えば錠剤、顆粒剤、カプセル剤等の経口用固形製剤、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤の場合には、本発明の植物又はその抽出物(乾燥物換算)は、通常0.0001〜95質量%、さらに5〜90質量%、特に10〜50質量%とするのが好ましい。
【0033】
本発明のAI−2阻害剤の投与量(有効摂取量)は、本発明の植物又はその抽出物(乾燥物換算)として、一日あたり0.1〜5000mg/60kg体重とするのが好ましく、特に0.5〜1000mg/60kg体重、さらに0.5〜500mg/60kg体重とするのが好ましく、1〜50mg/60kg体重とするのが最も好ましい。
【実施例】
【0034】
製造例1 植物抽出物の調製
(1)タマリンド抽出物
「粉末サンブラウンNo,2085」(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)を使用した。
本品は、マメ科タマリンドの種を焙焼し、温時弱アルカリ性水溶液で抽出し中和したものである。
(2)ペニーロイヤル抽出物
「PENNYROYAL OIL」(豊玉香料株式会社)を使用した。
本品は、ペニーロイヤルの葉又は茎を水蒸気蒸留したものである。
(3)ローズ抽出物
ピンクローズ(栃本天海堂より入手)10gに50%エタノール水溶液100mlを加え、室温、静置条件下で7日間抽出を行った。その後、ろ過を行うことにより抽出液を得た。抽出液の固形分濃度は4.52%(W/V)であった。
(4)クローブ抽出物
「チョウジ抽出液」(丸善製薬株式会社)を使用した。
本品は、チョウジの蕾を、50%エタノール水溶液で抽出したものである。
(5)クランベリー抽出物
クランベリー果実を圧搾抽出・噴霧乾燥した、市販の「クランベリーパウダー」(研光通商株式会社)を任意の濃度の水溶液にし不溶性物を遠心除去した。上清を限外ろ過(カットオフ分子量10000)し、その残渣を凍結乾燥した。
【0035】
試験例1
(1)AI−2測定用菌株・培地作成
AI−2バイオアッセイ系のためのレポーター菌株はビブリオ・ハーベイ BB170株(ATCC BAA−1117)を用いた。ビブリオ・ハーベイ培養のための培地はMarine培地(Difco)及びAB(Autoinducer Bioassay)培地(0.3M NaCl, 0.05M MgSO4 0.2% vitamine-free casamino acidsを混合し基本培地を作製する。そこに1Mリン酸カリウム〔pH7.0〕(0.42M KH2PO4、0.58M K2HPO4)10ml、0.1M L−arginin10ml、0.1mg/ml thiamin HCl1ml、10μg/ml riboflavin 1ml,glycerol20ml、 を混合してフィルター滅菌したものを基本培地1Lに対して42ml加えたもの)を用いた。培養方法は30℃、好気条件下で行った。
【0036】
(2)レポーター菌の調製及びAI−2活性の測定
Marine平板培地で培養したビブリオ・ハーベイ BB170株を、3mlのAB培地に一白金耳植菌した。これを好気条件下16h、30℃、200rpmで振盪培養を行った。この菌液をAB培地で5000倍に希釈し、レポーター菌液とした。
製造例1にて調製した植物抽出物をそれぞれ用いて、その終濃度が、クランベリー抽出物については、0.01%、0.1%及び0.5%、クランベリー抽出物以外については、0.001%になるようにそれぞれ調整し、各植物抽出物溶液を得た。
この溶液を、上記レポーター菌液に添加し、室温で10分プレインキュベートした後、4,5−ジヒドロキシ−2,3−ペンタンジオン(DPD(OMM Scientificに合成検討を依頼し、同社で合成したものを購入した)、終濃度10μM)を添加し、30℃にて好気振盪培養し、4時間後の発光強度をケミルミネッセンス計(ベルトールド、Mitharas LB940(商品名)、化学発光を検出)で測定した。DPDのみ添加したものをコントロールとし、それに対する相対値として表した(図1、図2)。尚、陽性対照としては、AI−2阻害化合物として既知である4−ブロモ−5−(4−メトキシフェニル)−2(5H)−フラノン(Sigma社製)を用いた。
本発明の植物抽出物は、既知のAI−2阻害化合物に比して、同等もしくはそれ以上のAI−2阻害活性を有することが示された。
尚、上記植物抽出物について、以下の方法により、ビブリオ・ハーベイ BB170への殺菌能の有無の確認を行ったところ、何れも、殺菌作用は確認されなかった。
<殺菌試験>
4500倍に希釈調製したビブリオ・ハーベイ BB170 株菌液と各サンプルを10分間プレインキュベート(30℃)し、さらにAB培地で1000倍に希釈したサンプルをMarine寒天培地(Difco)に播種し、30℃・1日培養後、コロニーをカウントし生菌数を算出した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タマリンド、ペニーロイヤル、ローズ、クローブ及びクランベリーから選ばれる植物又はそれらの抽出物を有効成分とするAI−2阻害剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−269912(P2009−269912A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91211(P2009−91211)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】