説明

AMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤を用いた神経細胞反応のモジュレート方法

本発明は、NMDA誘導型神経細胞アポトーシスとシナプス可塑性とをモジュレートするのに有用な、AMPA GluR2受容体サブユニット由来のペプチドを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は一般的には神経学の分野である。より具体的には、本発明は部分的には神経細胞アポトーシスまたはシナプス可塑性をモジュレートする方法および試薬を提供する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
シナプス伝達は、神経細胞が興奮(活動電位の発生)または阻害機構(興奮後の活動電位の阻害)によって連絡する工程である。興奮性シナプス伝達は大抵、神経伝達物質L-グルタミン酸およびその同種のグルタミン酸受容体によって起こり、これにはN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)およびα-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチルイソオキサゾール-4-プロピオン酸(AMPA)サブタイプグルタミン酸受容体が含まれる。シナプス可塑性とは、シナプス伝達中に神経伝達物質の放出に対してその反応をモジュレートするシナプス後ニューロンの使用依存性能力を指し、学習および記憶過程で重要であると考えられている。
【0003】
神経細胞死またはアポトーシスをもたらし得るシナプス後ニューロンの過剰刺激(「興奮毒性」として知られる現象)は、様々な中枢神経系(CNS)疾患に関係があるとされている。NMDA受容体の活性化は、培養した海馬神経細胞においてプログラム細胞死(アポトーシス)を誘導することがあり、そして急性脳損傷および脳卒中から神経変性病(ハンチントン病、アルツハイマー病およびパーキンソン病)に及ぶ中枢神経系疾患における神経細胞および神経細胞機能の欠失の基礎となる1-5
【0004】
NMDA受容体の活性化はまた、哺乳動物のCNS中の興奮性シナプスで早急なシナプス伝達を仲介するAMPA受容体のクラスリン仲介エンドサイトーシスの促進に導くことがある6;7。AMPA受容体の機能は、チャネルの開放確率34、チャネルの伝導性27;33および脱感作速度52のレベルで改変することができる。シナプス後ドメインへのおよびシナプス後ドメインからのAMPA受容体の迅速な再配分はまた、AMPA受容体仲介シナプス伝達の強度を調節する手段であると考えられている43;45;6。AMPA受容体は、小胞に仲介される原形質膜の組込み(エキソサイトーシス)および内在化(エンドサイトーシス)を介して、細胞内区画と原形質膜との間で機能的に異なる構成的かつ調節されたクラスリン依存的サイクルを経る22;30;20;24;41;14。これらの工程を調節することにより、シナプス後膜で発現されるAMPA受容体の数の迅速な変化をもたらすことができ、その結果、小脳および海馬における海馬の長期増強(LTP)35;42;50および長期抑圧(LTD)を含む、特定形態のシナプス可塑性の発現に寄与する14;24;25;44。AMPA受容体は、インスリン/IGF-114;25等の成長因子、アゴニスト結合22;21;20およびLTD産出プロトコール24;14;25を含む逆刺激によって刺激されたエンドサイトーシスの対象とされ得る。
【発明の開示】
【0005】
発明の概要
本発明は、一部には、神経細胞アポトーシスをモジュレートする方法および試薬を提供する。本発明はまた、一部には、シナプス可塑性をモジュレートする方法および試薬を提供する。
【0006】
一部の態様では、本発明は、神経細胞をAMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤と接触させることによる、NMDA仲介神経細胞アポトーシスをモジュレートする方法を提供する。代替的な態様では、本発明は、神経細胞をクラスリン仲介エンドサイトーシスの阻害剤と接触させることによる、NMDA仲介神経細胞アポトーシスをモジュレートする方法を提供する。代替的な態様では、本発明は、AMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤の有効量を被験者に投与することによる、被験者における神経学的損傷または機能障害を治療または予防する方法を提供する。
【0007】
代替的な実施形態では、神経学的損傷には、NMDA誘導型神経細胞アポトーシスが含まれ得る。あるいは神経学的損傷は、NMDA受容体の過剰活性化の結果として、もしくはAMPA受容体エンドサイトーシスの変化に起因して生じ得るし、またはストレス、不安、うつ病、低血糖、心停止、癲癇、脳虚血、脳損傷、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病;神経因性疼痛;筋萎縮性側索硬化症(ALS);ハッチンソン・ギルフォード症候群;糖尿病;運動失調;知的障害;認知症、喫煙もしくは肥満に関連する疾患、高血圧、学習もしくは記憶における異常もしくは機能障害に関連する疾患、精神疾患、自閉症、精神分裂病、脆弱性X症候群、または薬物乱用または薬物中毒(例えば、ニコチン、アルコール、アヘン、ヘロイン、コデイン、モルヒネ、ペチジン、メタドン、マリファナ、フェニクリデン(phenyclidene)、精神刺激薬、アンフェタミン、コカイン、バルビツレート、ペントバルビトン、キナルバルビトン、ベンゾジアゼピン、テマゼパム、ジアゼパムまたはフルニトラゼパム)に関連する疾患からなる群より選択された疾患の少なくとも1つの結果として生じ得る。
【0008】
代替的な態様では、本発明は、AMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤の有効量を被験者(例えば、正常な被験者、すなわち神経学的損傷もしくは機能障害であると診断されていないかまたはこれらを有さない被験者)に投与することによる、被験者のシナプス可塑性をモジュレートする方法を提供する。代替的な実施形態では、この方法はシナプス可塑性を増強することをさらに含み得る。代替的な態様では、本発明は、AMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤の有効量を被験者に投与することによる、被験者の薬物乱用を治療または予防する方法を提供する。
【0009】
一部の態様では、本発明は、AMPA受容体を発現する細胞もしくは系(例えば、脂質ビヒクル)を、YREGYNVYGIE、YKEGYNVYGIE、YREGYNVYGまたはYKEGYNVYGからなる群より選択されたアミノ酸配列を含むペプチド、またはYREGYNVYGIE、YKEGYNVYGIE、YREGYNVYGおよびYKEGYNVYGからなる群より選択されたアミノ酸配列と特異的に結合する抗体と接触させることによる、AMPA受容体エンドサイトーシスをモジュレートする方法を提供する。
【0010】
一部の態様では、本発明は、AMPA受容体を発現する細胞を、表Iに記載のアミノ酸配列もしくはその保存的置換物、式Iもしくは式A、またはAMPA受容体のGluR2、GluR3もしくはGluR4サブユニットのC末端で見出されるこれらと相同な配列またはその断片もしくはその変異体を含むか、あるいは表Iに記載のアミノ酸配列もしくはその保存的置換物、式Iもしくは式A、またはAMPA受容体のGluR2、GluR3もしくはGluR4サブユニットのC末端で見出されるこれらと相同な配列と特異的に結合する抗体を含むモジュレーター化合物と接触させることによる、AMPA受容体エンドサイトーシスのモジュレート方法を提供する。
【0011】
代替的な態様では、本発明は、AMPA受容体ポリペプチドまたはその生物学的に活性な断片;AMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤を含む系を準備すること;試験化合物を準備すること;前記系を試験化合物と接触させること;試験化合物がAMPA受容体エンドサイトーシスをモジュレートするか否かを判定することによる、AMPA受容体エンドサイトーシスのモジュレーターをスクリーニングする方法を提供する。
【0012】
代替的な態様では、本発明は、AMPA受容体エンドサイトーシスのモジュレーターをスクリーニングする方法であって、AMPA受容体ポリペプチドまたはその生物学的に活性な断片を準備すること;AMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤を準備すること;試験化合物を準備すること;AMPA受容体ポリペプチドまたはその生物学的に活性な断片を、試験化合物または前記阻害剤と接触させること;および試験化合物がAMPA受容体エンドサイトーシスをモジュレートするか否かを判定することを含む、上記方法を提供する。
【0013】
代替的な態様では、本発明は、AMPA受容体ポリペプチドまたはその生物学的に活性な断片を準備すること;試験化合物を準備すること;AMPA受容体ポリペプチドまたはその生物学的に活性な断片を試験化合物と接触させること;および試験化合物がAMPA受容体エンドサイトーシスをモジュレートするか否かを判定することによる、AMPA受容体エンドサイトーシスのモジュレーターをスクリーニングする方法を提供する。代替的な実施形態では、この方法は、AMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤を準備すること、AMPA受容体ポリペプチドまたはその生物学的に活性な断片を前記阻害剤と接触させること、および試験化合物が前記阻害剤と比較した際にAMPA受容体エンドサイトーシスをモジュレートするか否かを判定することをさらに含み得る。
【0014】
代替的な態様では、本発明は、YREGYNVYGIE、YKEGYNVYGIE、YREGYNVYGもしくはYKEGYNVYGの配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含むポリペプチド、これらのアミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子、またはこれらのアミノ酸配列のいずれかと特異的に結合する抗体を提供する。
【0015】
代替的な態様では、本発明は、式I:Z1-X1-X2-E-G-X3-N-V-X4-G-Z2(ここで、X1はY、D、E、SまたはTであってもよく;X2はKまたはRであってもよく;X3はY、D、E、SまたはTであり;X4はY、D、E、SまたはTであってもよく;Z1はH2N-、RHN-またはRRN-であってもよく;Z2は-C(O)OH、-C(O)R、-C(O)OR-、-C(O)NHR、-C(O)NRRであってもよく;Rはそれぞれ独立して(C1-C6)アルキル、(C1-C6)アルケニル、(C1-C6)アルキニル、置換(C1-C6)アルキル、置換(C1-C6)アルケニルまたは置換(C1-C6)アルキニルから選択されるものであってもよく;「-」は共有結合であってもよい)を含む実質的に純粋な化合物であって、該化合物がAMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤であり得る上記化合物を提供する。代替的な実施形態では、X1、X3またはX4のいずれか1以上がYであってもよい。
【0016】
代替的な態様では、本発明は、式A:Z1-X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-X8-X9-Z2(ここで、X1は-0.3〜-4.3もしくは-1.3〜-3.3のハイドロパシック・インデックス(hydropathic index)を有するアミノ酸、中性もしくは酸性アミノ酸、またはGly、Ser、Thr、Cys、Asn、Gln、Tyr、Asp、Gluであり得る;X2は、+1.0〜+5.0もしくは+2.0〜+4.0のハイドロパシック・インデックスを有するアミノ酸、塩基性アミノ酸、またはLys、Arg、Hisであり得る;X3は、+1.0〜+5.0もしくは+2.0〜+4.0のハイドロパシック・インデックスを有するアミノ酸、酸性アミノ酸またはAsp、Gluであり得る;X4は、-2.0〜+2.0もしくは-1.0〜+1.0のハイドロパシック・インデックスを有するアミノ酸、中性アミノ酸またはGly、Ser、Thr、Cys、Asn、Gln、Tyrであり得る;X5は-0.3〜-4.3もしくは-1.3〜-3.3のハイドロパシック・インデックスを有するアミノ酸、中性もしくは酸性アミノ酸、またはGly、Ser、Thr、Cys、Asn、Gln、Tyr、Asp、Gluであり得る;X6は、-1.8〜+2.2もしくは-0.8〜+1.2のハイドロパシック・インデックスを有するアミノ酸、中性アミノ酸、またはGly、Ser、Thr、Cys、Asn、Gln、Tyrであり得る;X7は、-3.5〜0.5もしくは-2.5〜-0.5のハイドロパシック・インデックスを有するアミノ酸、非極性アミノ酸、またはAla、Val、Leu、Ile、Phe、Trp、Pro、Metであり得る;X8は、-0.3〜-4.3もしくは-1.3〜-3.3のハイドロパシック・インデックスを有するアミノ酸、中性もしくは酸性アミノ酸、またはGly、Ser、Thr、Cys、Asn、Gln、Tyr、Asp、Gluであり得る;X9は、-2.0〜+2.0もしくは-1.0〜+1.0のハイドロパシック・インデックスを有するアミノ酸、中性アミノ酸、またはGly、Ser、Thr、Cys、Asn、Gln、Tyrであり得る;Z1はH2N-、RHN-またはRRN-であり;Z2は、-C(O)OH、-C(O)R、-C(O)OR、-C(O)NHR、-C(O)NRRであり得る;Rはそれぞれ(C1-C6)アルキル、(C1-C6)アルケニル、(C1-C6)アルキニル、置換(C1-C6)アルキル、置換(C1-C6)アルケニルまたは置換(C1-C6)アルキニルから独立的に選択され得る;「-」は共有結合である)を含む実質的に純粋な化合物であって、該化合物がAMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤であり得る、上記化合物を提供する。代替的な実施形態では、X1、X5またはX8のいずれか1以上はYであり得る。
【0017】
代替的な実施形態では、式IまたはAの化合物は、該化合物がYREGYNVYGIE、YKEGYNVYGIE、YREGYNVYGまたはYKEGYNVYGの配列を含むポリペプチドである際の親和性と少なくとも同程度の親和性で、AMPA受容体エンドサイトーシスを阻害し得る。代替的な実施形態では、式IまたはAの化合物は、PAMまたはBlosum類似性マトリックスのいずれかに基づく、0以上の類似性スコアを含み得る。代替的な実施形態では、式IまたはAの化合物は、アミノ酸配列YGRKKRRQRRRをさらに含み得る。
【0018】
代替的な態様では、本発明は、被験者の神経学的損傷もしくは薬物乱用を治療もしくは予防するための、NMDA仲介神経細胞アポトーシスをモジュレートするための、AMPA受容体エンドサイトーシスをモジュレートするための、または被験者のシナプス可塑性をモジュレートするための、本発明のポリペプチド、核酸分子、抗体、または化合物のいずれかの使用を提供する。
【0019】
本発明のこの態様の様々な実施形態では、この阻害剤は、調節型AMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤を含み得る。本発明のこの態様の様々な実施形態では、この阻害剤は、GluR2、GluR3またはGluR4ポリペプチドを含み得る。本発明のこの態様の様々な実施形態では、AMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤は、YREGYNVYGIE、YKEGYNVYGIE、YREGYNVYGもしくはYKEGYNVYGのアミノ酸配列のいずれか、またはその断片もしくは変異体を含むペプチドを含んでもよく、GluR2、GluR3またはGluR4ポリペプチドであってもよく、あるいはYREGYNVYGIE、YKEGYNVYGIE、YREGYNVYGおよびYKEGYNVYGのアミノ酸配列といずれかと特異的に結合する抗体を含んでもよい。本発明のこの態様の様々な実施形態では、この阻害剤は、表Iに記載のアミノ酸配列もしくはその保存的置換物、式Iもしくは式A、またはAMPA受容体のGluR2、GluR3もしくはGluR4サブユニットのC末端で見出されるこれらと相同な配列またはその断片もしくは変異体を含んでもよく、あるいは表Iに記載のアミノ酸配列もしくはその保存的置換物、式Iもしくは式A、またはAMPA受容体のGluR2、GluR3もしくはGluR4サブユニットのC末端で見出されるこれらと相同な配列と特異的に結合する抗体を含んでもよい。本発明のこの態様の様々な実施形態では、アミノ酸配列YGRKKRRQRRRをさらに含み得る。
【0020】
α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチルイソオキサゾール-4-プロピオン酸または「AMPA」受容体は、シナプス後シグナルの変換に関与するグルタミン酸依存性イオンチャネル受容体(glutamate-gated ion channel receptor)である。天然のAMPA受容体は、GluRサブユニット1から4の組合せからアセンブルされたヘテロメリック(例えば、ヘテロペンタメリック)タンパク質複合体であり得る。非神経哺乳動物細胞で一過的に発現される際に、個々のGluRサブユニットは機能的なホモメリックAMPA受容体チャネルを形成することができ、そしてこれらの異種発現系におけるAMPA受容体は、構成的かつ調節型のクラスリン依存性エンドサイトーシスを経ることができる。一部の実施形態では、AMPA受容体は、GluR2サブユニットを含む。GluRサブユニットは、非限定的にGluR1に対する登録番号 NP_113796、 NP_032191、 NP_000818;GluR2に対するNP_058957、 NP_038568、 NP_000817、 P23819;GluR3に対するNP_116785;またはGluR4に対するNP_058959もしくは NP_000820に記載される配列、およびこれに関連するヌクレオチド配列(例えば、NM_000826)を含んでもよい。他のGluRポリペプチドまたはヌクレオチド配列をGenBank等の公開データベース中で見出してもよい。
【0021】
「リン酸化」AMPA受容体は、in vivoでリン酸化可能な任意のアミノ酸残基(例えばセリン、トレオニンまたはチロシン)が翻訳後修飾されるポリペプチドサブユニットを含む。例えば、リン酸化AMPA受容体は、例えば登録番号NP_000817に記載される配列の869位、873位および876位のチロシンのいずれか1以上がリン酸化されるGluR2サブユニット、またはGluRサブユニット中のこれに対応する配列に存在するチロシン残基のいずれか1以上がリン酸化されるGluR2サブユニットを含んでもよい。
【0022】
「非リン酸化」AMPA受容体は、例えばin vivoでリン酸化可能なアミノ酸残基のリン酸化可能でないアミノ酸残基への突然変異により、該残基がリン酸化可能でなくてもよい。ポリペプチド配列中のチロシンからアラニンへの突然変異は、例えば、ポリペプチド配列中の特定の位置でリン酸化可能でないタンパク質を生じる。登録番号NP_000817に記載される配列の869位、873位および/または876位の位置で、チロシンの代わりにアラニンまたは他の非リン酸化アミノ酸を有するGluR2ポリペプチドはそのような「非リン酸化」AMPA受容体の一例である。非リン酸化AMPA受容体はまた、in vivoでリン酸化可能であるが、例えば阻害剤(例えばキナーゼ阻害剤)の存在に起因して;リン酸化部位を干渉する抗体に起因して;ホスファターゼの活性に起因してリン酸化されないか;または他の何らかの手段によってリン酸化が妨げられるタンパク質であり得る。「構成的にリン酸化された」AMPA受容体は、in vivoでリン酸化可能なアミノ酸残基に突然変異を有し、この突然変異がその残基でリン酸化を擬態する場合に、生じたポリペプチドがリン酸化ポリペプチドの生物学的活性を有するタンパク質である。一般的に、リン酸化可能な残基のグルタミン酸またはアスパラギン酸残基への突然変異は構成的リン酸化を生じる。
【0023】
GluR CTポリペプチドには、AMPA受容体エンドサイトーシスを阻害すること、または神経細胞アポトーシスもしくはシナプス可塑性をモジュレートすることが可能なGluRポリペプチドのC末端から誘導されたペプチドまたは該C末端と実質的に同一のペプチドが含まれる。GluR CTペプチドには、非限定的に、表Iに記載の配列もしくはその保存的置換物、式Iもしくは式A、またはAMPA受容体のGluR2、GluR3もしくはGluR4サブユニットのC末端で見出されるこれらと相同な配列を含むペプチドが含まれる。一部の実施形態では、GluR CTペプチドは、例えば融合タンパク質の形態で別の配列(例えば、TAT PTD)を含み得る。
【0024】
AMPA受容体の「生物学的に活性な断片」には、本明細書に記載されるかまたは当業者に公知であるように、アポトーシス、細胞死もしくはシナプス可塑性をモジュレート可能なまたはエンドサイトーシスを経ることが可能な、天然のAMPA受容体中に見られるアミノ酸配列が含まれる。AMPA受容体の「変異体」には、本明細書に記載されるかまたは当業者に公知であるように、アポトーシス、細胞死もしくはシナプス可塑性をモジュレート可能な、エンドサイトーシスを経ることが可能な、天然のAMPA受容体中に見られるアミノ酸配列の欠失、付加または置換による修飾が含まれる。
【0025】
「タンパク質」、「ペプチド」または「ポリペプチド」は、2以上のアミノ酸の任意の鎖であり、翻訳後修飾(例えば、グリコシル化またはリン酸化)に関らず、天然のまたは非天然のアミノ酸またはアミノ酸類似体を含む。本発明の「アミノ酸配列」、「ポリペプチド」、「ペプチド」または「タンパク質」は、異常な結合、架橋およびエンドキャップ、非ペプチジル結合または選択的な修飾基を有するペプチドまたはタンパク質を含み得る。そのような修飾型のペプチドも本発明の範囲内である。「修飾基」という用語は、ペプチド構造に(例えば、共有結合により)直接的に接着する構造、およびペプチド構造に(例えば、コアペプチド構造に隣接し得る追加のアミノ酸残基、その擬似体、類似体または誘導体との安定的な非共有会合または共有結合により)間接的に接着する構造を含むことが意図される。例えば、修飾基は、ペプチド構造のアミノ末端またはカルボキシ末端と、あるいはコアドメインに隣接するペプチドまたは擬似ペプチド領域、と結合することができる。あるいは、修飾基は、ペプチド構造の少なくとも1つのアミノ酸残基の側鎖と、または(リジル残基のε-アミノ基を介して、アスパラギン酸残基もしくはグルタミン酸残基のカルボキシル基を介して、あるいはチロシル残基、セリン残基もしくはトレオニン残基のヒドロキシ基またはアミノ酸側鎖上の他の適当な反応基を介して)コアドメインに隣接するペプチドもしくは擬似ペプチド領域と結合することができる。ペプチド構造と共有結合した修飾基は、化学構造を連結するための当技術分野で周知の手法および方法(例えば、アミド結合、アルキルアミノ結合、カルバメート結合および尿素結合を含む)を用いて接着することができる。本発明のペプチドには、表Iに記載の配列もしくはその保存的置換物、式Iもしくは式A、またはAMPA受容体のGluR2、GluR3もしくはGluR4サブユニットのC末端に見られるこれらと相同な配列が含まれ得る。一部の実施形態では、このペプチドは、例えば融合タンパク質の形態で、他の配列(例えばTAT PTD)を含み得る。
【0026】
「核酸分子」は、2以上ヌクレオチドの任意の鎖であり、天然もしくは非天然のヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体を含む。核酸分子は、高ストリンジェンシー条件下で第2の核酸分子とハイブリダイズする場合には、他の核酸分子と「相補的」である。本発明の核酸分子には、表Iに記載の配列もしくはその保存的置換物、式Iもしくは式A、またはAMPA受容体のGluR2、GluR3もしくはGluR4サブユニットのC末端に見られるこれらと相同な配列をコードする分子が含まれる。一部の実施形態では、核酸分子は、例えば融合タンパク質を形成するための、別の配列(例えば、TAT PTDをコードする配列)を含み得る。
【0027】
「実質的に同一の」配列は、本明細書で議論されるように、1以上の保存的置換のみが、または本明細書に記載される生物学的機能を破壊しない配列位置に位置する1以上の非保存的置換、欠失もしくは挿入のみが、参照配列と異なるアミノ酸またはヌクレオチド配列である。かかる配列は、比較に使用される配列と、アミノ酸またはヌクレオチドレベルで、60%〜99%、より一般的には少なくとも75%、80%、85%、90%または95%、あるいは96%、97%、98%または99%程度同一であり得る。配列同一性は、一般に入手可能な配列分析ソフトウェア(例えば、Genetics Computer Group, University of Wisconsin Biotechnology Center, 1710 University Avenue, Madison, Wis. 53705のSequence Analysis Software PackageまたはNational Library of Medicine, USAから入手可能なBLASTソフトウェア)を用いて容易に測定することができる。
【0028】
有用なソフトウェアの例には、Pile-upおよびPrettyBoxプログラムが含まれる。かかるソフトウェアは、様々な置換、欠失、置換および他の修飾との相同性の程度を割り付けることによって類似の配列を適合させる。実質的に同一の配列は、例えば、表Iに記載のアミノ酸配列もしくはその保存的置換物、式Iもしくは式A、またはAMPA受容体のGluR2、GluR3もしくはGluR4サブユニットのC末端に見られるこれらと相同な配列と実質的に同一の配列であり得る。一部の実施形態では、実質的に同一の配列は、他の配列(例えば、TAT PTD)と実質的に同一の配列をさらに含み得る。
【0029】
抗原(例えばGluR CTペプチド)を認識しかつ結合するが、サンプル中の他の分子(例えば、上記配列を含まないGluR CTペプチド)を実質的に認識せずかつ結合しない場合、抗体は抗原と「特異的に結合する」。かかる抗体は、例えば、サンプル中の他の参照分子に対する抗体の親和性の10、100、1000または10000倍大きい抗原に対する親和性を有する。
【0030】
「細胞死」または「アポトーシス」は、様々な要因によって誘発され得るプログラム細胞死の具体的な実行を規定する55。NMDA仲介神経細胞アポトーシスは、NMDA受容体の活性化の際に観察される神経細胞死である。
【0031】
「エンドサイトーシス」は、細胞の原形質膜が膜および他の物質の成分を内在化するために内側に陥入する工程である。受容体エンドサイトーシスは、典型的にはクラスリン被覆ピットおよびビヒクルによって仲介される。
【0032】
「クラスリン仲介エンドサイトーシスの阻害剤」には、一般的なエンドサイトーシスを実質的に阻害することなく、クラスリン仲介エンドサイトーシスを特異的に阻害することが可能な化合物が含まれる。クラスリン仲介エンドサイトーシスの阻害剤には、例えば、myr-dyn、またはJarousseおよびKellyに記載される阻害剤62が含まれ得る。一部の実施形態では、AMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤はまた、クラスリン仲介エンドサイトーシスの阻害剤であり得る。
【0033】
「AMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤」には、クラスリン仲介エンドサイトーシスの阻害剤と比較した際に、一般的なクラスリン仲介エンドサイトーシスを実質的に阻害することなく、AMPA受容体のエンドサイトーシスを特異的に阻害することが一般的に可能であり得る化合物が含まれる。一部の実施形態では、AMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤には、基礎レベルのAMPA受容体エンドサイトーシスに影響しない化合物、例えば、「調節型」AMPAエンドサイトーシスの阻害剤である化合物が含まれ得る。一部の実施形態では、AMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤には、表Iに記載のアミノ酸配列もしくはその保存的置換物、式Iもしくは式A、またはAMPA受容体のGluR2、GluR3もしくはGluR4サブユニットのC末端に見られる相同な配列と実質的に同一の化合物が含まれ得る。一部の実施形態では、AMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤は、表Iに記載の配列もしくはその保存的置換物、式Iもしくは式A、またはAMPA受容体のGluR2、GluR3もしくはGluR4サブユニットのC末端に見られる相同な配列を擬態する抗体、例えば、GluR CTペプチドに特異的に結合する抗体に対する抗イディオタイプ抗体が含まれ得る。
【0034】
「シナプス可塑性」とは、神経細胞間のシナプス伝達の効率における使用依存的な変化(長期または短期)を指す。シナプス可塑性は、学習および記憶の背後にある工程の基礎を成すと考えられている。
【0035】
「試験化合物」は、あらゆる天然のまたは人工的に誘導された化合物である。試験化合物には、非限定的に、ペプチド、ポリペプチド、合成有機分子、天然有機分子および核酸分子が含まれ得る。試験化合物は、例えば神経細胞アポトーシス、細胞死、シナプス可塑性、エンドサイトーシス、タンパク質リン酸化または他の生物学的反応のモジュレーションを妨げることによって、既知の化合物、例えばクラスリン仲介エンドサイトーシスの阻害剤またはAMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤(GluR-CTペプチドまたはその断片等)と「競合」しうる。一般的に試験化合物は、GluR-CTペプチドもしくはペプチド類似体または他の参照化合物と比較した際に、10%〜200%の、または500%以上のモジュレーションを示し得る。例えば、試験化合物は、少なくとも±30%〜150%のモジュレーション、または少なくとも±60%〜100%のモジュレーション、または±100%以上のモジュレーションを示し得る。負のモジュレーターである化合物は、一般的に既知の化合物と比較してモジュレーションを低減するが、正のモジュレーターである化合物は一般的に既知の化合物と比較してモジュレーションを増加する。
【0036】
「サンプル」は被験者から単離された任意の器官、組織、細胞または細胞抽出物(神経学的損傷、神経機能障害または神経疾患を有する動物から単離されたサンプル等)であり得る。例えば、サンプルは非限定的に、神経学的損傷、機能障害または疾患を有する動物から、あるいは正常な動物(すなわち神経学的損傷、機能障害もしくは疾患を有さない)から単離された海馬組織もしくは海馬細胞、小脳組織もしくは小脳細胞等、または他の神経細胞もしくは他の組織(例えばバイオプシーまたはオートプシー由来)が含まれ得る。サンプルにはまた、非限定的に、神経細胞、末梢血、全血、赤血球濃縮物、血小板濃縮物、白血球濃縮物、血液細胞タンパク質、血漿、多血小板血漿、血漿濃縮物、血漿の任意の画分由来の沈殿物、血漿の任意の画分由来の上清、血漿タンパク質画分、精製または部分的に精製された血液タンパク質または他の成分、血清、精液、哺乳動物の初乳、乳、尿、排泄物、唾液、胎盤エキス、羊水、寒冷沈降物、寒冷上清、細胞溶解物、哺乳動物細胞培養物または培養培地、醗酵産物、腹水、血液細胞中に存在するタンパク質、神経細胞癌を有する哺乳動物から単離した固形腫瘍、あるいは患者(ヒトまたは動物)、試験被験者または実験動物から取得した他の任意の試料、その任意の抽出物等の組織が含まれる。サンプルにはまた、非限定的に、正常な細胞または神経学的損傷もしくは神経機能障害を有する被験者から単離した細胞によって(例えば組み換えDNA技術を介して)細胞培養物中に産生された産物も含まれ得る。「サンプル」はまた、被験者から直接単離されない、実験条件下で作製される細胞または細胞系であり得る。サンプルはまた、人工的に誘導または合成された無細胞であり得る。一部の実施形態では、サンプルは神経組織または細胞を指す。一部の実施形態では、サンプルは神経学的損傷もしくは神経機能障害を有する被験者、または正常な(すなわち、神経学的損傷もしくは神経機能障害と診断されていないか、そのリスクがないか、またはその疑いがない)被験者由来のものであり得る。
【0037】
本明細書では、被験者は、ヒト、非ヒト霊長類、ラット、マウス、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、アメフラシであり得る。被験者は、臨床患者、臨床試験志願者、実験動物等であり得る。被験者は、神経学的損傷もしくは神経機能障害の疑いがあるかまたはそのリスクを有してもよく、神経学的損傷または神経機能障害を有すると診断されていてもよく、あるいは神経学的損傷または神経機能障害を有しないことが確認された対照被験者であってもよい。神経学的損傷または神経機能障害の診断方法および神経学的損傷または神経機能障害診断の臨床的設計は当業者に公知である。
【0038】
「接触させる」により、動物、細胞、溶解物、抽出物、動物由来の分子、または合成分子を試験化合物に曝露することを意味する。
【0039】
「判定する」により、試験系に対する試験化合物の効果を分析することを意味する。分析する手法には、非限定的に、抗体標識、アポトーシスアッセイ、免疫沈降、in vivoおよびin vitroリン酸化アッセイ、細胞死アッセイ、免疫蛍光アッセイ、ELISA、微細構造的分析、組織学的分析、動物モデル、または本明細書に記載されるかもしくは当業者に公知の他の任意の方法が含まれ得る。
【0040】
「モジュレート」または「モジュレートする」は、増加または減少のいずれかによって変化することを意味する。増加または減少は、対照または参照サンプルもしくは化合物と比較した際に、10%〜90%、もしくは30%〜60%の変化、または100%以上、200%以上、300%以上、もしくは500%以上の変化であり得る。
【0041】
本発明の別の特徴および利点は、以下の図面および本発明の記載、ならびに特許請求の範囲から明らかであろう。
【0042】
図面の簡単な説明
図1A-F.NMDAはラット海馬神経細胞の一次培養物でアポトーシスを誘導する。成熟海馬神経細胞をNMDA(100μM+10μMグリシン;1時間)で処理し、その後、正常培地に24時間戻した。この図および以下の図において、全てのデータは平均±SEMで表現され、対応のないスチューデントt検定を用いて分析した。A,B,NMDA処置は、カスパーゼ-3活性の時間依存的な増加を誘導する。A:抗切断型(anti-cleaved)カスパーゼ-3を用いた細胞溶解物のウエスタンブロット;B:DEVD-pNA切断を検出するELISAアッセイ。C,アガロースゲル電気泳動はNMDA処理後に有意なDNAラダーリングを示す。D,ヒストンのビオチン化を測定する、アポトーシスに対する細胞死ELISAアッセイは、NMDA誘導型アポトーシスが、競合するNMDA受容体アンタゴニストであるAPVによって阻止されることを示す。E,F,アポトーシスに対する細胞死ELISAアッセイは、エンドサイトーシス阻害剤が、培養した海馬神経細胞においてNMDA誘導型アポトーシスを特異的に阻止するが、STS誘導型アポトーシスは特異的に阻止しないことを示す。
【0043】
図2A-D.エンドサイトーシスの阻害剤は、NMDA受容体の機能を改変することなく、細胞死シグナル伝達経路のNMDA受容体仲介活性化を破壊する。A,B, エンドサイトーシスの阻害剤は、活性化NMDA受容体チャネルを介したCa2+の流れにほとんど効果を有しない。上のトレース(A)は、単一の海馬神経細胞におけるFura-2蛍光の比率変化(ratiometric change)によって測定した、NMDA受容体活性化に誘導された[Ca2+]i変動の記録を示す。観察下で、圧力放出ピペットを用いて神経細胞の領域に下の黒四角(500ms毎)で示される時点で繰り返しNMDA(100μM)を適用した。ショ糖(400mM)を上の陰線で示されるように槽にアプライした。下のヒストグラム(B)は、図に示される時点における3つの別個の神経細胞からの[Ca2+]i応答を要約する(平均±SEM)。C,ミリストイル化したダイナミン誘導型ペプチドはNMDAに誘導されるカスパーゼ-3の活性化を阻害する。D,エンドサイトーシスの阻害は、Aktリン酸化反応におけるNMDA誘導型減少を特異的に破壊するが、STS誘導型減少は特異的に破壊しない。図に示されるように処理した神経細胞由来の細胞溶解物を、473位のセリンがリン酸化されたAkt(この酵素の活性形態)に特異的な抗体で最初にプロービングした。次いで、膜を除き、抗-Akt抗体で再プロービングした。4つの個別の実験からブロットを走査し、定量した。ヒストグラムは総Aktに対するAktリン酸化を表す。**、各対照群と比較した際にp<0.01。
【0044】
図3A-B.NMDAはNMDA受容体エンドサイトーシスを誘導しないがAMPA受容体エンドサイトーシスを誘導し、これは膜透過性ミリストイル化ダイナミンペプチド(Myr-Dyn)およびGluR2 c尾部(R2-CT)由来のペプチドによって阻止される。A,NMDA受容体およびAMPA受容体に対するELISAベースの細胞表面受容体アッセイ。NMDA処理は細胞表面AMPA受容体の有意な減少を誘導したが、細胞表面NMDA受容体の減少は誘導せず、AMPA受容体の内在化はミリストイル化した膜透過性ダイナミン阻害ペプチド(Myr-Dyn;10μM)を用いた神経細胞の前処理によって防止されたが、膜不透性対照であるDynによっては防止されなかった(**はP<0.01(対照と比較)を示す;n=各群に対する3つの別個の実験から36〜72ウェル)。B,NMDAに誘導されるAMPA受容体内在化は、調節型AMPA受容体エンドサイトーシスを特異的に阻止したペプチドであるR2-CTによって阻止される。
【0045】
図4A-B.R2-CTによるAMPA受容体エンドサイトーシスの阻止は、培養した海馬神経細胞におけるNMDA誘導型アポトーシスを妨げるが、STS誘導型アポトーシスは妨げない。A,R2-CTはNMDA誘導型アポトーシスを阻止するが、STS誘導型アポトーシスは阻止しないことを示す、アポトーシスに対する細胞死ELISAアッセイ。B,P2-CTがNMDA誘導型アポトーシスを阻止したことを示す、固定後のPI染色型細胞のアポトーシスに関する細胞計数。
【0046】
図5A-B.GluR2内部欠損またはカルボキシル末端切断変異体の構築およびチロシンベースのシグナルの同定(GluR2-3Y)。A.全長HA標識化または非標識化GluR2サブユニットの内部欠損または切断変異体のCT配列。B.HEK293細胞へ一過的にトランスフェクトし、比色細胞ELISAによってアッセイした、GluR2を含む細胞表面発現型AMPARまたはその様々な変異体構築物の定量(n=6)。HEK細胞への一過的なトランスフェクション後の構築物の発現レベルを、透過条件下で、HA標識化構築物に対する抗HA抗体または非HA標識化構築物に対する抗GluR2サブユニット抗体を用いた細胞ELISAアッセイによって測定した。発現レベルは対応する野生型構築物(すなわちHA-GluR2またはGluR2)の発現レベルに標準化した。全ての変異体は野生型対応物と類似のレベルで発現された。チロシンベースのシグナルの除去により、基礎的な(basal)受容体レベルに影響することなく、細胞表面AMPARのインスリン誘導型減損を防止した(黒棒)。NSF結合ドメインは神経細胞とは異なり、基礎的な受容体発現に影響するが、インスリン誘導型受容体発現には影響せず、AP2およびPICK1ベースのエンドサイトーシスシグナルはHEK細胞中で非機能的である。*p<0.05、**<0.01。
【0047】
図6A-B.AMPA受容体のエンドサイトーシスおよび細胞表面発現に対するGluR2 CT変異の効果。A.30分にわたる受容体の内在化後の、GluR2およびその様々な変異体の構成的(基礎的)エンドサイトーシスならびに調節型(インスリン)エンドサイトーシスにおける変化の定量(AMPARエンドサイトーシス%=100%−残存する細胞表面受容体/受容体の総数;n=6)。対照:細胞中の37EC曝露なく4ECで測定された内在化(これらの条件下で、構成的エンドサイトーシスおよび調節型エンドサイトーシスの両方が阻止される)。B.GluR2およびその様々な変異体を一過的に発現するHEK293細胞中の細胞表面AMPA受容体を比色細胞ELISAベースの細胞表面受容体アッセイを用いて定量した(n=6)。線で示された場合を除き、基本条件とインスリン処理条件との間で統計的比較を成した。*p<0.05、**<0.01。
【0048】
図7A-D.インスリンはGluR2カルボキシル末端(CT)領域内のチロシン残基のリン酸化を増加する。A.GluR2 CTのin vitroチロシンリン酸化。GluR1 CT(GST-GluR1CT)、GluR2 CT(GST-GluR2CT)、3つのチロシン残基のクラスター(Y869、Y873およびY876)を含むGluR2 CTの残基869-876(YKEGYNVYG)(GST-GluR23Y)、およびチロシン残基がアラニンで置換されたGluR2 CTの同一のアミノ酸ストレッチ(GST-GluR23A)のGST融合タンパク質を、対照としてのGST骨格鎖(GST)と併せて、活性型組み換えpp60c-Srcの不在下(-)または存在下(+)でインキュベートした。リン酸化産物を抗ホスホチロシン抗体を用いて免疫ブロットした(上のパネル)。同一ブロットのポンソーS染色は、類似した量のGST融合タンパク質が各反応に用いられたことを示した(下のパネル)。B.HEK293細胞への一過性トランスフェクションの48時間後のHA-GluR2およびHA-GluR23Y-3A(869位、873位および876位のチロシンがアラニンに変異している場合)の発現レベルを、透過性細胞を用いた細胞ELISAアッセイによって測定した。C.HA-GluR1、HA-GluR2またはHA-Glu23Y-3A、ならびに対照として空のベクター(偽トランスフェクション)で一過的にトランスフェクトしたHEK293細胞。48時間後、細胞を0.5μMインスリンで、またはインスリンなく10分間処理した。次いで、溶解物を変性条件下で抗HA抗体を用いた免疫沈降に供し、抗ホスホチロシン抗体で免疫ブロットした(上のブロット;IB:PY)。同一のブロットを取り除き、抗HA抗体で再度免疫ブロットして、個々の全ての実験における類似した免疫沈降効率を確認した(下のブロット;IB:HA)。D.Glu23Y-CTペプチドの個々のチロシンのアラニンへの変異。
【0049】
図8A-B.GluR2 CT中のチロシンクラスターは、HEK293細胞において調節型AMPA受容体エンドサイトーシスに必要であるが、構成的AMPA受容体エンドサイトーシスには必要でない。A.比色細胞ELISA受容体エンドサイトーシスアッセイは、刺激有(インスリン)または刺激無(対照)で(図2参照)、野生型HA-GluR2サブユニットまたはチロシン残基Y869、Y873およびY876がアラニンに変異されたHA-GluR23Y-3Aで一過的にトランスフェクトしたHEK293細胞で行った。B.(A)のようにトランスフェクトし、処理したHEK293細胞の比色細胞ELISA細胞表面受容体アッセイの結果。結果は個々の各群についての6実験から得た。**p<0.01。
【0050】
図9A-D.インスリンはGluR2のチロシンリン酸化およびAMPA受容体仲介シナプス伝達の長期抑制を刺激する。A.インスリン(INS;0.5μM、10分)で(基礎)またはインスリン無しに処理した海馬スライス由来の組織ホモジネートを、変性条件下で抗GluR1またはGluR2抗体で免疫沈降した(IP:GluR1またはGluR2)。次いで、免疫沈降物を抗ホスホチロシン抗体を用いて免疫ブロットした(IB:PY)。その後ブロットを除き、抗GluR2(IB:GluR2)および抗GluR1(IB:GluR1)抗体で再プロービングした。B.3つの別個の実験からの、総GluR2に対するリン酸化GluR2の比率として表現された濃度定量(densitometric quantitation)は右のヒストグラムで要約される。**p<0.01。C.EPSCは、電圧固定様式下、−60mVの保持電位で全細胞記録を用いて、海馬スライスからCA1神経細胞内で記録した。標準化EPSC(EPSCt/EPSC0)は、標準的な細胞内液(対照、n=7)またはGST-Y869KEGY873NVY876G(GluR23Y; n=5)もしくはGST-A869KEGA873NVA876G(GluR3A; n=6)が補充された細胞内液を含むピペットで記録した神経細胞からプロットされる。時間0は、EPSCの振幅が安定化する時点(典型的には全細胞記録の開始後5〜10分)として定義され、t=10分で、インスリン(0.5μM)を黒水平線で示されるように槽にアプライした。D.インスリン(INS)の適用前(基礎)または適用後10分における、4つの個別の記録から平均した代表的なEPSCが左に示される。
【0051】
図10A-E.GluR2サブユニットのチロシンリン酸化が、LFS誘導型の海馬CA1の長期抑圧(LTD)に必要である。A.対照またはLFSで処理された海馬スライスのホモジネートを抗GluR1またはGluR2抗体で免疫沈降し、その後、本明細書に記載されるように抗ホスホチロシン(PY)、抗GluR1(GluR1)および抗GluR2抗体でプロービングした。Mでマークされたレーンは分子量標準物を含む。B.3つの各実験の結果は棒グラフで要約される。**p<0.01。C.代表的な反応は左に示される。D.右のグラフおよびEのグラフは、標準的な細胞内液(対照、n=7)またはGluR23Y(B;n=6)、GluR23A(B;n=7)またはGluR2834-843(C;n=5)が補充された細胞内液を含むピペットで記載されるように記録した神経細胞由来の標準化EPSC(EPSCt/EPSC0)を記載する。LFSは、黒水平線で示される期間の間に送達された。
【0052】
図11A-B.GluR2 CTペプチドは、脳卒中の神経培養モデルにおいて、虚血誘導型AMPA受容体エンドサイトーシスおよび神経細胞アポトーシスを妨げる。A.比色(細胞ELISA)アッセイは、OGDがAMPA受容体エンドサイトーシスを促進し、その結果、原形質膜表面上での発現を減少すること、およびGluR2-CTペプチドのプレインキュベーションが細胞表面AMPA受容体発現のOGD誘導型減少を低減したことを示す(n=6、*;P<0.05、スチューデント検定(対照と比較))。B.OGDの24時間後の、Cell Death Detection ELISAplusキット(Roche, CatNo 1 774 425)を用いた定量的アポトーシスアッセイは、OGDが神経細胞死をもたらし、これはGluR2-CTによる神経細胞の前処理によって十分に防止されることを立証する(n=6;**:P<0.01、スチューデントt検定(OGDと比較))。
【0053】
図12A-D.Tat-GlurR23Yペプチドの全身適用は、薬物常用の動物モデルにおいて、乱用薬剤であるd-アンフェタミンに対する行動感作の発現を阻止する。GluR2-3YまたはGluR2-3AペプチドはTat導入ドメイン(Tat-GluR2-3YまたはGluR2-3A)に融合されて、膜透過性を促進する。干渉ペプチドGluR2-3Yの側坐核(NAc)への静脈内投与(IV;1.5 nM/g)または直接的なマイクロインジェクションは、常同症のD-アンフェタミン(D-Amph)誘導型行動感作を阻止するが、対照ペプチドGluR2-3Aによっては阻止されない。A.様々な時点で評価した常同症スコアは、Tat-GluR2-3YのIV注射後に感作を阻害することを示す。点は2時間にわたって試験された各ラット群に関する平均常同症スコア(+S.E.M)を表す。長期生理食塩水処理したラットは対照被験体として扱った。B.2時間の試験期間にわたる常同症スコアの変化の概要は、グラフAに記載された各群に対する曲線下面積(AUC)に変換した。C.NAcへのGluR2-3Yの頭蓋内マイクロインジェクションも、D-Amph誘導型感作を阻止する。D.腹側被蓋領域(VTA)へのGluR2-3Yペプチドの頭蓋内マイクロインジェクションは、D-Amph誘導型行動感作を阻止しない(=P<0.05、(重篤な(acute)アンフェタミン群と比較))。
【0054】
図13.Tat-GluR2-3YはNMDA誘導型AMPARエンドサイトーシスを阻止する。in vitro 12-13日目のWistar皮質神経細胞を、生理食塩水または1μM Tat-GluR2-3YもしくはTat-GluR2-3Aのいずれかで60分間前処理し、その後30分間50μM NMDAで処理した。細胞ELISAで測定したAMPAR発現の割合は、表面発現量(非透過性)を総発現(透過性)で割った量として定義した。データは1回または4回の別個の実験のいずれかの代表であり、それぞれ4回繰り返し測定し、平均±SEMで表される。*p<0.05、**p<0.05、テューキー・クレーマー検定。
【0055】
図14.Tat-GluR2-3Yは酸素-グルコース除去措置に対する神経細胞アポトーシスを減ずる。in vitro 12-13日目のWistar皮質神経細胞をTat-GluR2-3Yまたは生理食塩水で60分間前処理し、その後、60分のOGDまたは37℃でのインキュベーション(対照)に供した。24時間で、アポトーシスを遊離ヌクレオソームを標的とするELISAを用いて定量した。データは対照に対して標準化し、3回の反復実験の平均±SEMとして表される。*OGD群は他の全ての群と有意に異なった(p<0.05、テューキー・クレーマー検定)。
【0056】
図15.Tat-GluR2-3Yの連続用量に対する用量寛容曲線。2個体の成体雄Sprague-Dawleyラットに連続用量のTat-GluR2-3Yを与え、基礎的な生体パラメーターをモニターした。モニターしたパラメーターにおいて6nmol/gまでの用量はほとんど反応を引き起こさなかったが、これより高い用量は、平均動脈圧の大幅な減少および呼吸速度の併発的増加を生じた。いずれの動物も麻酔の覚醒後に行動変化の徴候を示さなかった。
【0057】
図16.一時的な中大脳動脈の閉塞はアポトーシスを増加する。2個体の成体雄Sprague-Dawleyラットを90分のMCA閉塞またはMCA閉塞無しの手術(偽)のいずれかに供した。24時間でラットを犠牲にし、12μmの脳スライスをTUNEL染色した。TUNEL陽性核の数を3つの視野でカウントし、平均±SEMで表す(B)。*p<0.01、スチューデントt検定。
【0058】
図17A-B.一時的な局所的虚血のラットモデルにおけるアポトーシスに対するTat-GluR2-3Yの効果。成体の雄Sprague-Dawleyラットを生理食塩水または3nmol/gのTat-GluR2-3YもしくはTat-GluR2-3Aのいずれかで1時間前処理し、その後60分のMCA閉塞に供した。ラットを犠牲にする24時間前に神経学的診察に供した(A)。12μmの皮質脳スライスをTUNEL染色し、TUNEL陽性細胞の数を各切断面についてカウントした(B)。データは偽手術対照に対して標準化され、平均値±SEMとして表現される。このペプチドは対照に対して55%アポトーシスを減少させた。
【0059】
図18A-B.GluR2-3Yが食物または薬物報酬刺激によって強化された学習行動に対する非特異的効果を有さないことを確認するための対照実験。これらの実験はまた、この干渉ペプチドが2つの異なる強化計画に対する自発的行動の遂行に関連する感覚運動または記憶機能を破壊しないことも立証する。A.制限された食餌計画で維持したラットを、2時間の試験期間の間に2定率強化(FR2)計画でフードペレット(45mg)用のレバーを押すように訓練した。ラットは、試験期間の60分前に、埋め合わせの処置(counterbalanced order)で生理食塩水、GluR2-3AまたはGluR2-3YのIV注射を受けた。3つの条件間で、食物報酬に対する反応の総数に有意な差異は無かった。B.ラットを最初に、FR2の強化計画で頸静脈カーテルを介してd-アンフェタミン(注射当たり0.2mg)を自己投与するように訓練した。3時間の試験期間中の反応が安定化した時点で、その後、それぞれ継続的強化を得るために継続的な更なる反応が必要である累進比率計画でラットを訓練した。ラットが1時間の期間で適当な反応数を達成し損なった比率をブレイクポイントと称する。この試験は特定の報酬刺激に関する無条件の報酬値の感度の高い測定である。安定したブレイクポイントが確立された時点で、ラットは試験期間の60分前に埋め合わせの処置で生理食塩水、GluR2-3AまたはGluR2-3YのIV注射を受けた。3つの条件間で、薬剤報酬に対するブレイクポイント測度に有意な差異は無かった。
【0060】
図19.GluR23Yペプチドはストレスラットモデルにおけるストレス誘導型不安症を阻止する。ラット(n=2)に、10nM/g GluR2-3Yまたは同量のビヒクルACSFのいずれかを注射した(IP)。ラットを注射後30分間暗室に置いた。その後、ラットをストレッサーとして30分間高架試料台に置いた。その30分後、ラットを5分間高架十字迷路に置いた。GluR2-3Yが注射されたラットは、ACSFラットよりも長い時間開放アーム上で過ごした。ACSFラットは、そのほとんどの時間を閉鎖アームの角で過ごすか、または壁越しに眺める立ち上がり運動で過ごした。こうして、GluR23Yペプチドはストレス誘導型不安症を阻止した。これらの結果は、促進されたAMPARエンドサイトーシスの結果、LTDの発現がストレス誘導型行動の発現において不可欠な役割を果たすこと、およびGluR23Y等のLTD遮断薬が治療法として使用されてストレス関連脳疾患を治療し得ることを強く示唆する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0061】
発明の詳細な説明
本発明は、一部には、神経細胞アポトーシスをモジュレートする方法および試薬を提供する。本発明はまた、一部には、シナプス可塑性をモジュレートする方法および試薬を提供する。例えば、本発明の化合物は、AMPA受容体エンドサイトーシスをモジュレート可能な神経保護薬として使用し得る。一部の実施形態では、かかる化合物は、NMDA受容体の機能に影響することなくAMPA受容体エンドサイトーシスをモジュレートし、かつ神経細胞アポトーシスを阻止することができるため、NMDA受容体の機能を阻止する負の影響を回避し得る。
【0062】
本発明の代替的な実施形態および実施例が本明細書に記載される。これらの実施形態および実施例は例証であり、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【0063】
アッセイ
本明細書に記載されるまたは当業者に公知の様々なアッセイは、本発明の化合物のモジュレート活性を判定するために実施し得る。例えば、シナプス可塑性、AMPA受容体エンドサイトーシス、NMDA誘導型神経細胞アポトーシス、またはAMPA受容体リン酸化のモジュレーションは、本明細書に記載されるようにまたは当業者に知られるように試験し得る。一部の実施形態では、アッセイはAMPA受容体エンドサイトーシスを阻害する能力について試験化合物に対して成され得る。かかるアッセイには、非限定的に核酸、ポリペプチド、小分子等に基づくアッセイ(イムノアッセイ、ハイブリダイゼーションアッセイ、小分子結合アッセイ、ペプチド結合アッセイ、抗体結合アッセイ、競合アッセイ、エンドサイトーシスアッセイ、リン酸化アッセイ、アポトーシスおよび細胞死アッセイ、組織化学、動物およびin vitroモデルアッセイ等)が含まれる。
【0064】
AMPA受容体ポリペプチドは、神経もしくは非神経細胞、または細胞溶解物中に提供され得る。細胞および細胞系は商業的供給源(例えば、ATCC, Manassas, VA, USA)から取得し得る。神経疾患に適切な動物モデルは、例えば、The Jackson Laboratory, Bar Harbor, ME, USAまたは他の供給源から取得し得る。適切な動物モデルには、脳卒中87-94、薬物中毒101-106,112、精神分裂病107-111、ハンチントン病112、癲癇115、AIDSの神経合併症116、知的障害(例えば、脆弱性X精神遅滞、Rett症候群)117,118、および多発性硬化症119,120用のモデルが含まれる。
【0065】
アッセイは、検出可能な標識化分子、すなわち分子の存在をマーキングしかつ同定するための任意の手法(例えば、オリゴヌクレオチドプローブもしくはプライマー、遺伝子もしくはその断片、ペプチドまたはcDNA分子)を用いて実施してもよい。分子を検出可能に標識する方法は当技術分野で周知であり、非限定的に、放射性標識(例えば、32Pまたは35S等のアイソトープを用いる)、および酵素標識(例えば、セイヨウワサビペルオキシダーゼもしくはアルカリホスファターゼを用いる)、化学発光標識、蛍光標識(例えば、フルオレセインを用いる)、生物発光標識、またはプローブに接着したリガンドの抗体検出等の、非放射性標識が含まれる。間接的な手法によって検出可能に標識される分子、例えば第1部分(ビオチン等)と結合し、これが次に観察またはアッセイし得る第2部分(蛍光標識したストレプトアビジン)に結合される分子もこの定義に含まれる。標識にはジゴキシゲニン、ルシフェラーゼおよびエクオリンも含まれる。
【0066】
疾患および症状
例えば、NMDA受容体の過剰活性化もしくはAMPA受容体エンドサイトーシスの変化に起因する神経学的損傷または行動感作に起因する、神経機能障害を含む任意の疾患または症状は、本発明の方法および化合物によって、治療、予防または研究し得る。したがって、低血糖症、低酸素症および心停止から癲癇に及ぶ他の症状と関連した疾患は、本発明に従って神経学的損傷疾患とみなされる。本発明による疾患には、非限定的に、例えば脳虚血(例えば頭蓋外動脈のアテローム血栓症疾患、または心筋梗塞もしくはラクナ梗塞に起因する虚血性脳卒中)または脳損傷(例えば、脳内出血またはくも膜下出血)後に生じる脳虚血;頭部外傷;障害のある神経細胞が興奮毒性損傷に対して感受性となる神経変性病;アルツハイマー病、パーキンソン病またはハンチントン病;癲癇;神経因性疼痛;;筋萎縮性側索硬化症(ALS);ハッチンソン・ギルフォード症候群;糖尿病;運動失調;知的障害;あるいは認知症が含まれる。脳卒中の主な危険因子には、喫煙、糖尿病、肥満および高血圧が含まれる。したがってこれらの症状または挙動のいずれかを有する被験者は、本発明に従って疾患を有するものとみなされ得る。
【0067】
本発明による疾患にはまた、学習または記憶の欠陥または機能障害に関連する疾患;精神疾患(自閉症、統合失調症もしくは脆弱性X症候群等);あるいはニコチン、アルコール、アヘン剤(ヘロイン、コデインおよびモルヒネ等)を含む薬物、誘導体(ペチジンおよびメタドン等)、ニコチン、マリファナ、フェニクリデン、精神刺激薬(アンフェタミンおよびコカイン等)、バルビツレート(ペントバルビトンおよびキナルバルビトン等)、ならびにベンゾジアゼピン(テマゼパム、ジアゼパムおよびフルニトラゼパム等)を含む薬物の薬物乱用または薬物中毒に関連した疾患も含まれる。
【0068】
抗体
本発明の化合物は、GluR2-CTペプチドまたはその類似体、例えば、表Iに記載の配列もしくはその保存的置換物、式Iもしくは式A、またはAMPA受容体のGluR2、GluR3もしくはGluR4サブユニットのC末端に見られる相同な配列に対する抗体を、例えばHarlowおよびLane56に記載される、または当業者に公知の標準的な調製技術を用いて調製することができる。抗体は、例えば1種由来の抗原結合ドメインと別種由来のFc部分とを含むキメラ抗体を用いることによって、または適切な種のハイブリドーマから作製した抗体を用いることによって、宿主の不都合な免疫応答を最小にするよう調整することができる。本発明の代替的な実施形態では、抗体は、例えば1以上のチロシン、セリンまたはトレオニンがリン酸化されたリン酸化GluR-CTペプチドに対して生じ得る。本発明の代替的な実施形態では、抗体は、例えば既存のチロシン、セリンまたはトレオニンをグルタミン酸またはアスパラギン酸で置換する構成的にリン酸化されたGluR-CTペプチドに対して生じ得る。一部の実施形態では、抗イディオタイプ抗体が、例えばGluR CTペプチドまたはその類似体と特異的に結合する抗体に対して生じ得る。
【0069】
ポリペプチドおよび試験化合物
一態様において、本発明の化合物は、GluR2、GluR3またはGluR4ペプチド、ならびにその類似体および変異体を含み、これには例えば、3つのチロシンのいずれか1つがリン酸化または非リン酸化された本明細書に記載のペプチド、構成的にリン酸化されたかまたはリン酸化不可能なポリペプチド、ならびにそのホモログおよび断片が含まれる。例えば、本発明の化合物は、表Iに記載の配列を含むペプチドまたはその類似体もしくは変異体が含まれる。
【表1】

【0070】

【0071】
一部の実施形態では、本発明の化合物は、他の神経保護薬の使用に関連する負の副作用を有さないかまたはわずかに有する。例えば、本発明の化合物は、NMDA受容体アンタゴニストまたはグルタミン酸放出遮断薬(Selfotel、Gavestinel、Aptinagel、メマンチン等75-78,95-99)と比較した際に、精神異常(psychotomimesis)、呼吸障害、心臓血管の異常調節または他の任意の副作用の10%〜100%の低減を示し得る。
【0072】
一部の実施形態では、本発明の化合物は、NMDA受容体アンタゴニスト(例えばGavestinelまたはAptinagel)または他の神経保護薬(例えば、Cervene等のκオピオド(opiod)ペプチドRアンタゴニスト;Lubeluzole等のNOS阻害剤;Lubeluzole等のNaチャネル遮断薬;Citicoline等の細胞膜安定剤;Ca2+チャネルアンタゴニスト;Enlimornab等の抗ICAM抗体;Clomethiazole等のGABAA受容体モジュレーター;Riluzole等のグルタミン酸放出阻害剤)79−84,100等の既存の神経保護薬と同等に、またはこれらよりも効果的である。例えば、本発明の化合物は、他の神経保護薬と比較した際に、0%〜100%または100%より大きな有効性を示し得る。
【0073】
代替的な実施形態では、本明細書に記載の化合物の1以上が、本発明の1以上の態様から特異的に除外されうる。
【0074】
化合物は、例えばGluRペプチドまたはペプチド類似体(例えば、本明細書に記載されように、他の保存的アミノ酸置換(すなわち、類似の物理的、生物学的または化学的性質を有する残基)を有する、表I、式Iもしくは式Aに記載のGluR2−CTペプチド配列、またはAMPA受容体のGluR2、GluR3もしくはGluR4サブユニットのC末端に見られる相同な配列)の任意の位置のアミノ酸残基を置換、欠失または挿入すること、および該化合物のAMPA受容体のエンドサイトーシスを阻害する能力についてスクリーニングすることによって調製することができる。本発明の一部の実施形態では、本発明の化合物には、リン酸化、非リン酸化、リン酸化不可能化または構成的にリン酸化し得るGluRポリペプチド、例えばGluR2-CTペプチドと特異的に結合する抗体が含まれる。本発明の一部の実施形態では、本発明の化合物には、GluR CTペプチドと特異的に結合する抗体に結合する抗体が含まれる。
【0075】
生物学的に同等のポリペプチドを得るために、このペプチドの生物学的機能を実質的に変化させることなく、ポリペプチドの構造をいくらか修飾および改変し得ることは当技術分野で周知である。例えば、一部の実施形態では、本発明の化合物は、これらが胃酸による消化に耐性であるように、経口投与用に適合または修飾され得る。本発明の一態様において、本発明のポリペプチドは、本発明のポリペプチドの配列の一部が保存的アミノ酸置換によって異なる生物学的に同等のペプチドにまで及ぶ。本明細書で用いられる「保存的アミノ酸置換」または「保存的置換」とは、GluR CTペプチド(例えば、表I、式Iもしくは式Aに記載のGluR CTペプチド、またはAMPA受容体のGluR2、GluR3もしくはGluR4サブユニットのC末端に見られる相同な配列)の所与の位置における1つのアミノ酸の他のアミノ酸への置換であって、その際、関連の機能の実質的な損失を伴わずに成され得る前記置換を指す。かかる変化を作製する際には、同様のアミノ酸残基の置換を、側鎖置換の相対的類似性(例えば、その大きさ、電荷、疎水性、親水性等)に基づいて作製することができ、かかる置換は慣用の試験によってペプチドの機能に対するその効果についてアッセイし得る。
【0076】
本明細書で用いられる「アミノ酸」という用語は、天然のタンパク質に共通して見られるL-アミノ酸、およびDアミノ酸、ならびにこれらが修飾されている場合にはそのようなアミノ酸を意味する。したがって、本発明のアミノ酸には、例えば、2-アミノアジピン酸;3-アミノアジピン酸;β-アラニン;β-アミノプロピオン酸;2-アミノ酪酸;4-アミノ酪酸;ピペリジン酸;6-アミノカプロン酸;2-アミノヘプタン酸;2-アミノイソ酪酸;3-アミノイソ酪酸;2-アミノピメリン酸;2,4-ジアミノ酪酸;デスモシン;2,2'-ジアミノピメリン酸;2,3-ジアミノプロピオン酸;N-エチルグリシン;N-エチルアスパラギン;ヒドロキシリジン;アロ-ヒドロキシリジン;3-ヒドロキシプロリン;4-ヒドロキシプロリン;イソデスモシン;アロ-イソロイシン;N-メチルグリシン;サルコシン;N-メチルイソロイシン;6-N-メチルリジン;N-メチルバリン;ノルバリン;ノルロイシン;およびオルニチンが含まれ得る。
【0077】
一部の実施形態では、保存されたアミノ酸置換は、アミノ酸残基が類似した親水性値(例えば、±2.0、±1.5、±1.0または±0.5の値以内)を有する別のアミノ酸残基に置換される場合、約-1.6のハイドロパシック・インデックスを有するアミノ酸(Tyr(-1.3)またはPro(-1.6)等)であり得る以下のアミノ酸がアミノ酸残基に割り付けられる場合に作製され得る(参照により本明細書に組み入れる、米国特許第4,554,101号に詳述される):Arg (+3.0); Lys (+3.0); Asp (+3.0); Glu (+3.0); Ser (+0.3); Asn (+0.2); Gln (+0.2); Gly (0); Pro (-0.5); Thr (-0.4); Ala (-0.5); His (-0.5); Cys (-1.0); Met (-1.3); Val (-1.5); Leu (-1.8); Ile (-1.8); Tyr (-2.3); Phe (-2.5);およびTrp (-3.4)。
【0078】
代替的な実施形態では、保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基が類似したハイドロパシック・インデックス(例えば、±2.0、±1.5、±1.0または±0.5の値以内)を有する別のアミノ酸残基に置換される場合に作製され得る。かかる実施形態では、各アミノ酸残基は、その疎水性および電荷特性に基づいて、以下のようにハイドロパシック・インデックスが割り付けられ得る:Ile (+4.5); Val (+4.2); Leu (+3.8); Phe (+2.8); Cys (+2.5); Met (+1.9); Ala (+1.8); Gly (-0.4); Thr (-0.7); Ser (-0.8); Trp (-0.9); Tyr (-1.3); Pro (-1.6); His (-3.2); Glu (-3.5); Gln (-3.5); Asp (-3.5); Asn (-3.5); Lys (-3.9);およびArg (-4.5)。
【0079】
代替的な実施形態では、保存的アミノ酸置換は公然に入手可能な類似性マトリックスのファミリーを用いて作製し得る63−69。PAMマトリックスが進化モデルから導かれる計数に基づく一方、Blosumマトリックスはアライメント内の高保存ブロックから導かれる計数を使用する。PAMまたはBlosumマトリックスのいずれにおいても、0を超える類似性スコアが保存的アミノ酸置換を作製するために使用し得る。
【0080】
代替的な実施形態では、保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基が以下のように非極性、酸性、塩基性および中性クラスに分けられる場合、アミノ酸残基が同一のクラスの別のアミノ酸残基に置換される場合に作製し得る:非極性:Ala, Val, Leu, Ile, Phe, Trp, Pro, Met;酸性:Asp, Glu;塩基性:Lys, Arg, His;中性:Gly, Ser, Thr, Cys, Asn, Gln, Tyr。
【0081】
保存的アミノ酸変化には、L-アミノ酸の保存的置換のみならず、L-アミノ酸の、これに対応するD-アミノ酸による、保存的D-アミノ酸による、または天然の非遺伝的コード形態のアミノ酸による置換が含まれ得る。天然の非遺伝的コード型のアミノ酸には、β-アラニン、3-アミノ-プロピオン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸、α-アミノイソ酪酸、4-アミノ酪酸、N-メチルグリシン(サルコシン)、ヒドロキシプロリン、オルニチン、シトルリン、t-ブチルアラニン、t-ブチルグリシン、N-メチルイソロイシン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン、ノルロイシン、ノルバリン、2-ナフチルアラニン、ピリジルアラニン、3-ベンゾチエニルアラニン、4-クロロフェニルアラニン、2-フルオロフェニルアラニン、3-フルオロフェニルアラニン、4-フルオロフェニルアラニン、ペニシラミン、1,2,3,4-テトラヒドロ-イソキノリン-3-カルボン酸、β-2-チエニルアラニン、メチオニンスルホキシド、ホモアルギニン、N-アセチルリジン、2-アミノ酪酸、2-アミノ酪酸、2,4-ジアミノ酪酸、p-アミノフェニルアラニン、N-メチルバリン、ホモシステイン、ホモセリン、システイン酸、ε-アミノヘキサン酸、δ-アミノ吉草酸または2,3-ジアミノ酪酸が含まれる。
【0082】
代替的な実施形態では、保存的アミノ酸変化には、親水性もしくは疎水性、大きさもしくは体積、または電荷の考慮に基づく変化が含まれる。アミノ酸は一般的には、主にアミノ酸側鎖の性質に依存して、疎水性または親水性として特徴付けることができる。Eisenbergら57の規格化したコンセンサス疎水性等級(normalized consensus hydrophobicity scale)に基づき、疎水性アミノ酸は、0を超える疎水性を示し、親水性アミノ酸は0未満の親水性を示す。遺伝的にコードされた疎水性アミノ酸にはGly, Ala, Phe, Val, Leu, Ile, Pro, MetおよびTrpが含まれ、そして遺伝的にコードされた親水性アミノ酸にはThr, His, Glu, Gln, Asp, Arg, SerおよびLysが含まれる。非遺伝的コード型疎水性アミノ酸はt-ブチルアラニンが含むが、非遺伝的コード型親水性アミノ酸はシトルリンおよびホモシステインが含まれる。
【0083】
疎水性または親水性アミノ酸は、その側鎖の特性に基づきさらに細別することができる。例えば芳香族アミノ酸は、少なくとも1つの芳香族環または芳香族複素環を有する側鎖を持つ疎水性アミノ酸であり、-OH、-SH、-CN、-F、-Cl、-Br、-I、-NO2、-NO、-NH2、-NHR、-NRR、-C(O)R、-C(O)OH、-C(O)OR、-C(O)NH2、-C(O)NHR、-C(O)NRR等の1以上の置換基を含んでもよく、その際、Rは独立に(C1-C6)アルキル、置換(C1-C6)アルキル、(C1-C6)アルケニル、置換(C1-C6)アルケニル、(C1-C6)アルキニル、置換(C1-C6)アルキニル、(C5-C20)アリール、置換(C5-C20)アリール、(C6-C26)アルカリル、置換(C6-C26)アルカリル、5-20員環ヘテロアリール、置換5-20員環ヘテロアリール、6-26員環アルクへテロアリール(alkheteroaryl)または置換6-26員環アルクヘテロアリールである。遺伝的にコードされた芳香族アミノ酸にはPhe、TyrおよびTrpが含まれ、非遺伝的コード型芳香族アミノ酸にはフェニルグリシン、2-ナフチルアラニン、β-2-チエニルアラニン、1,2,3,4-テトラヒドロ-イソキノリン-3-カルボン酸、4-クロロフェニルアラニン、2-フルオロフェニルアラニン-3-フルオロフェニルアラニンおよび4-フルオロフェニルアラニンが含まれる。
【0084】
無極性アミノ酸は、生理的pHで非電荷であり、かつ2つの原子に共通して共有される電子対が2つの原子のそれぞれによって一般的に等しく保持される結合を有する側鎖(すなわち、側鎖が極性ではない)をもつ疎水性アミノ酸である。遺伝的にコードされた無極性アミノ酸にはGly、Leu、Val、Ile、AlaおよびMetが含まれ、非遺伝的コード型無極性アミノ酸にはシクロヘキシルアラニンが含まれる。無極性アミノ酸は、脂肪族炭化水素側鎖をもつ疎水性アミノ酸である、脂肪族アミノ酸を含むようにさらに細別することができる。遺伝的にコードされた脂肪族アミノ酸にはAla、Leu、ValおよびIleが含まれ、非遺伝的コード型脂肪族アミノ酸にはノルロイシンが含まれる。
【0085】
極性アミノ酸は、生理的pHで非荷電であるが、2つの原子に共通して共有される電子対が一方の原子により近接して保持される一結合を有する側鎖をもつ親水性アミノ酸である。遺伝的にコードされた極性アミノ酸にはSer、Thr、AsnおよびGlnが含まれ、非遺伝的コード型極性アミノ酸にはシトルリン、N-アセチルリジンおよびメチオニンスルホキシドが含まれる。酸性アミノ酸は、7未満の側鎖pKa値を有する親水性アミノ酸である。酸性アミノ酸は、典型的には水素イオンの喪失に起因して生理的pHで負電荷の側鎖を有する。遺伝的にコードされた酸性アミノ酸にはAspとGluが含まれる。塩基性アミノ酸は7以上の側鎖pKa値を有する親水性アミノ酸である。塩基性アミノ酸は、典型的にはヒドロニウムイオンの会合に起因して生理的pHで正電荷の側鎖を有する。遺伝的にコードされた塩基性アミノ酸にはArg、LysおよびHisが含まれ、非遺伝的コード型塩基性アミノ酸には非環状アミノ酸オルニチン、2,3-ジアミノプロピオン酸、2,4-ジアミノ酪酸およびホモアルギニンが含まれる。
【0086】
上記分類が不変ではなく、アミノ酸が2以上のカテゴリーに分類され得ることは当業者に理解されよう。さらに、アミノ酸は、特定のアッセイに基づく特有の化学的、物理的もしくは生物学的性質および/または既知の挙動に基づいて、あるいは既に同定されたアミノ酸に照らして分類することができる。アミノ酸にはさらにアミノ酸様側鎖を有する二機能性部分が含まれ得る。
【0087】
保存的変化には、例えばアミノ酸の官能基側鎖の反応による、化学的誘導化部分の非誘導化残基への置換が含まれ得る。したがって、これらの置換には、その遊離アミノ基がアミンハイドロクロライド、p-トルエンスルホニル基、カルボベンゾキシ基、t-ブチルオキシカルボニル基、クロロアセチル基またはホルミル基へ誘導されている化合物が含まれ得る。同様に、遊離カルボキシル基は誘導体化されて塩、メチルおよびエチルエステルまたは他の型のエステルもしくはヒドラジドを形成することができ、そして側鎖は誘導体化されて遊離ヒドロキシル基についてはO-アシルもしくはO-アルキル誘導体を、またはヒスチジンのイミダゾール窒素についてはN-イム-ベンジルヒスチジンを形成することができる。ペプチド類似体にはまた、例えばメチル化によって、アルキルアミン(エチルアミン、エタノールアミンまたはエチレンジアミン)によるC末端アミノ酸のアミド化によって、またはアミノ酸側鎖のアシル化もしくはメチル化(リジンのεアミノ基のアシル化等)によって、化学的に改変されているアミノ酸も含まれる。ペプチド類似体には、置換アミド(例えば、式-C(O)-NRの基、[ここでRは(C1-C6)アルキル、(C1-C6)アルケニル、(C1-C6)アルキニル、置換(C1-C6)アルキル、置換(C1-C6)アルケニル、または置換(C1-C6)アルキニルである])またはアミド結合の等量式(例えば-CH2NH-、-CH2S、-CH2CH2-、-CH=CH-(シスおよびトランス)、-C(O)CH2-、-CH(OH)CH2-または-CH2SO-)によるペプチド中のアミド結合の置換も含まれ得る。
【0088】
化合物は、例えば重合またはコンジュゲーションによって共有結合して、ホモポリマーまたはヘテロポリマーを形成することができる。典型的に中性の小分子からなるスペーサーおよびリンカー(生理学的条件下で非電荷であるアミノ酸等)を使用することができる。結合は多くの方法で達成することができる。例えば、システイン残基はペプチドの末端に付加することができ、複数のペプチドを酸化制御によって共有結合することができる。あるいは、異種二機能剤(heterobifunctional agent)(ジスルフィド/アミド形成剤またはチオエーテル/アミド形成剤等)を使用することができる。化合物はまた、神経細胞アポトーシス、AMPA受容体エンドサイトーシス、シナプス可塑性、学習もしくは記憶、または薬物乱用もしくは薬物中毒等をモジュレートすることができる別の化合物と結合することもできる。化合物は、例えば環状部分を有することによって律速されうる。
【0089】
ペプチドまたはペプチド類似体は、標準的な化学技術、例えば溶液合成法または固相合成法を用いた自動化合成によって合成することができる。自動化ペプチド合成器は市販されており、当技術分野で周知の技術を用いる。ペプチドおよびペプチド類似体は、例えばSambrookら58、またはAusubelら59に記載される標準的な方法を用いて、組み換えDNA技術により調製することができる。一般的に、候補化合物は天然産物または合成(もしくは半合成)抽出物の大きなライブラリーまたは化学ライブラリーから、当技術分野で公知の方法に従って同定される。創薬および薬剤開発の分野の当業者は、試験抽出物または化合物の正確な供給源は本発明の方法に重要ではないことを理解するだろう。したがって、実質的にあらゆる数の化学抽出物または化合物を本明細書に記載の例示的な方法を用いてスクリーニングすることができる。かかる抽出物または化合物の例には、非限定的に、植物、真菌、原核生物または動物ベースの抽出物、醗酵ブロスおよび合成化合物、ならびに既存の化合物の修飾型が含まれる。任意数の化学化合物(非限定的に、糖、脂質、ペプチドおよび核酸ベースの化合物が含まれる)の無作為なまたは直接的な合成(例えば、半合成または全体合成)を起こすために非常に多くの方法が利用可能である。合成化合物ライブラリーは市販されている。あるいは、細菌、真菌、植物および動物抽出物の形態の天然化合物のライブラリーは、Biotics (Sussex, UK)、Xenova (Slough, UK)、Harbor Branch Oceanographic Institute (Ft. Pierce, FL, USA)およびPharmaMar, MA, USAを含む多くの供給源から購入可能である。さらに、天然のおよび合成的に作製された(例えば神経ポリペプチドの)ライブラリーは、所望であれば、当技術分野で公知の方法に従って、例えば標準的な抽出および分画方法によって作製される。さらに、所望であれば、あらゆるライブラリーまたは化合物は、標準的な化学的手法、物理的手法または生化学的手法を用いて容易に修飾される。
【0090】
粗抽出物が、神経細胞アポトーシス、AMPA受容体エンドサイトーシス、シナプス可塑性、学習もしくは記憶、または薬物乱用もしくは薬物中毒などをモジュレートすることが見出される際は、陽性の先行抽出物の更なる分画が、観察された効果の原因となる化学成分を単離するために必要である。したがって、抽出、分画および精製工程の最終目的は、神経細胞アポトーシス、AMPA受容体エンドサイトーシス、シナプス可塑性等のモジュレート活性を有する粗抽出物内の化学物質の注意深い特徴付けおよび同定である。化合物の混合物中の活性を検出するために本明細書に記載される同一のアッセイを用いて、活性成分を精製し、その誘導体を試験することができる。かかる不均一な抽出物の分画および精製方法は当技術分野で公知である。所望であれば、治療に有用な薬剤であることが示された化合物は、当技術分野で公知の方法に従って化学的に修飾される。治療価値があると同定された化合物は、その後、哺乳動物モデル、あるいは神経損傷、神経機能障害、シナプス可塑性、学習もしくは記憶、または薬物乱用もしくは薬物中毒用の他の任意の動物モデルを用いて分析し得る。
【0091】
医薬組成物、用量および投与
本発明の化合物は、リポソーム、アジュバントまたは任意の製薬上許容される担体の存在下、ヒトへの投与に適切な形態で、単独でまたは他の化合物(例えば、核酸分子、小分子、ペプチドもしくはペプチド類似体)と組合せて提供することができる。所望であれば、本発明の化合物を用いた治療を、神経学的損傷、シナプス可塑性、学習もしくは記憶、または薬物乱用に対するより以前かつ既存の治療と併用し得る。例えば、本発明の化合物は、神経細胞の生存を最大にするために遊離基阻害剤等の他の治療剤との併用治療として;心房細動の病歴のある被験者または脳卒中のリスクがあるとみなされた被験者における抗凝固予防のための補足的治療として投与されうる86。一部の実施形態では、この化合物は特定の治療濃度域で投与し得る。例えば、一部の実施形態では、化合物は虚血の開始後約3時間で投与し得る。
【0092】
一部の実施形態では、本発明の化合物は、例えば、米国特許第6,348,185号(Piwnica-Wormsに発行された);米国特許公報US 2003/0229202 (Guoら)、またはPCT公報WO 00/62067 (Dowdy)、Becker-Hapakら.85、またはKabouridis114に記載されるように、細胞膜を介した化合物の転移を容易にするために、異種ペプチドと融合して提供し得る。一部の実施形態では、本発明の化合物は担体ペプチド(例えばPEP 1)と組合せて提供し得る。
【0093】
一部の実施形態では、本発明の化合物はペプチドを発現するよう修飾された幹細胞(例えば神経幹細胞)で提供され得る。かかる送達に適切な細胞およびベクターは、アデノウイルス、アデノ関連ウイルスまたは単純ヘルペスウイルス等のウイルスベクターが含まれる121,122
【0094】
神経学的損傷もしくは神経機能障害に罹患しているかまたはこれらの発症前の患者に投与するための適切な製剤または組成物を提供するために従来の薬務を採用し得る。化合物は全身的に投与し得るか、CNSまたは他の神経学的損傷部位に直接投与し得る。一部の実施形態では、本発明の化合物は、血液脳関門を介した送達に適切な形態で提供され得る。あらゆる適切な投与経路、例えば、非経口、静脈内、皮下、筋肉内、頭蓋内、眼窩内、眼、脳室内、嚢内、脊椎内、槽内、腹腔内、鼻腔内、エアロゾルまたは経口投与を採用し得る。治療製剤は、溶液または懸濁液の形態であってもよく、経口投与のために製剤は錠剤またはカプセルの形態であってもよく、鼻腔製剤用に粉末、点鼻薬またはエアロゾルの形態であってもよい。
【0095】
製剤を作製するための当技術分野で周知の方法は、例えば「Remington's Pharmaceutical Sciences」(第19版),編. A. Gennaro, 1995, Mack Publishing Company, Easton, Pa中で見出される。非経口投与用の製剤は、例えば賦形剤、滅菌水もしくは生理食塩水、ポリアルキレングリコール(ポリエチレングリコール等)、野菜起源の油、または水素化ナフタレンを含み得る。生体適合性、生体分解性ラクチド重合体、ラクチド/グリコリド共重合体、またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体は、化合物の放出を制御するために使用し得る。モジュレーター化合物のための潜在的に有用な別の非経口送達系には、酢酸エチレン-ビニル共重合体粒子、浸透圧ポンプ、植え込み式注入系およびリポソームが含まれる。吸入用の製剤は、賦形剤(例えば乳糖)を含んでもよく、または例えばポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル、グリココレートおよびデオキシコレートを含む、水溶液であってもよく、または点鼻薬の形態でもしくはゲルとして投与するために油性溶液であってもよい。
【0096】
治療用および予防用組成物について、疾患に応じて、化合物は細胞変性もしくはアポトーシスを停止または遅延するのに十分な量で、あるいはシナプス可塑性を増強または維持するのに十分な量で個体に投与される。本発明の化合物の「有効量」には、治療上有効な量または予防上有効な量が含まれる。「治療上有効な量」は、所望の治療結果(細胞変性またはアポトーシスの低減等)を達成するまたはシナプス可塑性を増強するのに必要な用量および期間で有効な量を指す。化合物の治療上有効量は、個体の疾患状態、年齢、性別および体重、ならびに個体において所望の反応を誘起する化合物の能力等の要因に従って変化し得る。用法は最適な治療反応を提供するよう調整し得る。治療上有効量はまた、治療上有益な効果が化合物の任意の毒性または有害効果を上回る量である。「予防上有効量」は、所望の予防結果(細胞変性またはアポトーシスの阻害等)を達成するまたはシナプス可塑性を増強するのに必要な用量および期間で有効な量を指す。典型的には、疾患の初期段階前または初期段階時に予防線量が被験者に用いられることで、予防上有効量は治療上有効量未満であり得る。化合物の治療上または予防上有効量の好適な範囲は0.1nM-0.1M、0.1nM-0.05M、0.05nM-15μMまたは0.01nM-10μMであり得る。
【0097】
用量値が軽減されるべき症状の重篤性または選択された投与経路によって変化し得ることに注意すべきである。例えば、経口投与については、用量値は静脈内または腹膜内投与よりも高くなり得る。いくらかの特定被験者については、個人のニーズおよび組成物の投与を管理するまたは監督する人の専門的な判断に従って特有の用法が継時的に調整され得る。本明細書に記載の用量域は、例示に過ぎず、医師が選択し得る用量域を限定しない。組成物中の活性化合物の量は、個体の疾患状態、年齢、性別および体重等の要因に従って変化し得る。用法は最適な治療反応を提供するよう調整し得る。例えば、単回ボーラスを投与してもよいし、数回分割投与により継時的に投与されてもよいしまたは投与量を治療状況の緊急性で示されるように比例的に減少または増加してもよい。投与の容易化および投与の均一化のために、投与単位形態で非経口組成物を製剤化することが有利であり得る。
【0098】
ワクチン製剤の場合、本発明の化合物の免疫学的有効量は、アジュバント(例えばフロイントの不完全アジュバントまたは水酸化アルミニウム等)と共に、単独でまたは他の化合物と組合せて提供することができる。化合物はまた、担体分子(ウシ血清アルブミンまたはキーホールリンペットヘモシアニン等)と結合して免疫原性を増強し得る。
【0099】
一般的に、本発明の化合物は実質的な毒性を生じさせることなく使用すべきである。本発明の化合物の毒性は、標準技術、例えば細胞培養物または実験動物を試験すること、および治療指数(すなわちLD50(集団の50%致死用量)およびLD100(集団の100%致死用量)間の比率)を測定することによって、測定することができる。しかし状況次第(重篤な疾患状態等)で、かなり過剰な化合物を投与することが必要かもしれない。
【実施例】
【0100】
実施例1:材料と方法
海馬神経細胞の一次培養物
E18 Sprague Dawleyラットの胚から海馬を迅速に取り出し、粉砕前にプールした。海馬細胞懸濁液をポリ-D-リジンでコートした培養皿またはガラスカバースリップ上に塗布し、NeurobasalTM培地(Invitrogen)中in vitroで14日間増殖させた(DIV)。成熟した14 DIV神経細胞から培地を除去し、100μM NMDA+10μM グリシンで取り替え(37℃で1時間)、その後、規定の増殖培地へ神経細胞を戻した。NMDA/グリシンの適用後24時間で、神経細胞を細胞死アッセイを用いて処理した。NMDA誘導型[Ca2+]i反応が誘起され、これを既に記載される方法を用いて測定した26
【0101】
細胞死アッセイ
アポトーシス定量化:NMDA誘導型アポトーシスを、細胞質ヒストン関連DNA断片のin vitro測定を基礎とするCell Death Detection Elisa Plus Kit(Roche Applied Sciences)、またはDNAの遊離3'−OH末端へのビオチニル化11-dUTPのTdT仲介付加のいずれかを用いて定量した。いずれのアッセイについても吸光度の読み出しはマイクロプレートリーダーを用いて実施した。
【0102】
核のヨウ化プロピジウム(PI)染色:アポトーシスの誘導後、細胞を4%パラホルムアルデヒド/4%ショ糖で10分間、その後氷冷したアセトンで1分間固定し、次いでダルベッコのPBS中20mg/mlのPIで30分間染色した。染色したカバースリップにスライドガラスをのせ、Leica蛍光顕微鏡で観察して、凝縮した核を同定した。凝縮した核を有する細胞をアポトーシスとしてカウントし、細胞の総数に対するアポトーシス細胞の割合を算出して、アポトーシスの割合で表現される半定量的分析を行った。
【0103】
ペプチドを用いた細胞の処理
GluR2のC末端(R2-CT)の869位〜879位のアミノ酸残基に対応する短いペプチド(YKEGYNVYGIE)を合成し、そしてダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Gibco)中37℃で、5%CO2を含む加湿環境下、担体タンパク質(Pep-1)23と1:20の比率でインキュベートし、R2-CT/Pep-1複合体を形成させた。次いで、海馬神経細胞(DIV 12-14)を前記複合体で上塗りし、1μMの最終R2-CT濃度に到達させ、実験開始前に1時間さらにインキュベートした。
【0104】
受容体トラフィッキングアッセイ
細胞ELISAアッセイ:細胞表面AMPAまたはNMDA受容体の定量を、本質的に既に記載される比色細胞ELISAアッセイによって行った14。簡潔にいうと、海馬神経細胞を100μM NMDA+10μMグリシンで1時間処理し、次いでPBS中の4%パラホルムアルデヒド/4%ショ糖を用いて10分間で固定した。その後、各処理条件下の細胞の半分を0.1% Triton-X 100を用いて5分間で浸透可能化した。次いで、原形質膜表面上の受容体と総細胞プールとを、該細胞をGluR2またはNR1の細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体(Chemicon、1μg/ml)と共に4℃で一晩インキュベートし、その後、HRP抱合型抗マウスIgG二次抗体(1:1000、Amersham Life Sciences)と共に室温で1時間インキュベートした。PBSによる大規模な(extensive)洗浄後、細胞をOPD基質(Sigma)と共に約10分間インキュベートした。反応を0.2容量の3N HClで停止し、492nmでの吸光度を分光測光マイクロプレートリーダーを用いて読み出した。
【0105】
トランスフェリン受容体エンドサイトーシスアッセイ:トランスフェリン受容体エンドサイトーシスに対するエンドサイトーシス阻害剤の効果を評価するために、海馬神経細胞を2mg/mlのAlexa-A488抱合型トランスフェリン(Molecular Probes)と共に、エンドサイトーシス阻害剤の存在下または不在下でインキュベートした(37℃で30分)。その後、内在化した受容体をLeica蛍光顕微鏡で観察した。
【0106】
cDNAプラスミドおよび細胞トランスフェクション
ラットHA標識化GluR1およびGluR2受容体サブユニットのcDNAは既に記載されている14。HA-GluR2カルボキシル内部欠損または先端切断変異体の構成物は、標準的なPCR法によって作製した。HA-GluR23Y-3A変異体は、Quick-Change Site Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いて作製した。HEK293細胞(ATCC)は、リン酸カルシウム沈殿法を用いてトランスフェクトした。トランスフェクション後36〜48時間で、細胞を細胞外記録溶液(ECS(mM):140 NaCl、33グルコース、25 HEPES、5.4KCl、1.3 CaCl2;pH 7.4, 320 mOsm)で洗浄し、少なくとも1時間ECS中でインキュベートした(血清飢餓)。インスリン処理のために、細胞を0.5μM ヒト組み換えインスリン(Sigma)が補充されたESCと共に10分間インキュベートし、その後、細胞を免疫細胞化学アッセイおよび比色分析アッセイで処理するかまたは下記に記載されるように免疫沈降法のためにRIPAバッファー(50mM Tris-HCl、150mM NaClおよび0.1%Triton X-100)中に溶解させた。
【0107】
GST融合タンパク質のクローニング、発現および精製
GST-GluR23YおよびGST-GluR23Aを、これに対応するPCR断片をpGEX 4T-1ベクターにサブクローニングすることによって構築した。GST融合タンパク質はDH5α大腸菌中で発現させ、製造者のプロトコール(Pharmacia)に従って細菌溶解物から精製した。産物をPBS中で透析し、全細胞の読み出しの間にMicrocon-10カラム(Amicon)を用いて細胞内適用のために濃縮した。
【0108】
免疫蛍光共焦点顕微鏡検査
HEK293細胞を、35mm培養皿に設置した、ポリ-D-リジンをコートしたガラスカバースリップ上に塗布し、2μgの目的のプラスミドでトランスフェクトした。細胞表面受容体の発現アッセイのために、トランスフェクション後48時間の細胞をPBS中の4%パラホルムアルデヒドで10分間固定した。表面AMPA受容体はモノクローナル抗HA抗体(1:2000、Babco、Berkeley、CA)で最初に標識し、FITC抱合型抗マウスIgG抗体(1:500、Sigma)で視覚化した。表面AMPA受容体内在化アッセイのために、HA標識化GluR2構築物でトランスフェクトしたHEK293細胞を、モノクローナル抗-HA抗体(10:g/ml)と共に4℃で生きたまま1時間インキュベートし、表面AMPA受容体を標識した。次いで、細胞を0.5μM インスリンを補充したまたは補充しないECS中、37℃で10分間インキュベートし、その後さらにECS中で20分間インキュベートして、標識化受容体の構成的なまたは調節型の内在化を可能にした。透過化することなく4%パラホルムアルデヒドで10分固定した後、原形質膜表面上に残存する受容体をFITC抱合型抗マウスIgG抗体で染色した。その後、内在化した細胞表面受容体を、Manらに記載されるように14、細胞透過化後にCy3抱合型抗マウスIgG抗体で標識した。
【0109】
比色アッセイ
比色アッセイを本質的に既に報告されているように実施した14
【0110】
免疫沈降およびウエスタンブロッティング
免疫沈降およびウエスタンブロッティングを本質的に既に報告されているように実施した14。大脳皮質、海馬スライス、培養した海馬神経細胞またはトランスフェクトしたHEK293細胞由来のタンパク質を、1%SDS(+5分間の煮沸;変性条件)または1%DOC(非変性条件)のいずれかを含むRIPAバッファー中で可溶化した。免疫沈降のために、これらの組織溶解物由来のタンパク質500μgを500μlのRIPAバッファー中でそれぞれの抗体と共に4℃で4時間インキュベートした。プロテインA-セファロースを混合液に添加し、さらに2時間インキュベートした。複合体を遠心分離によって単離し、3回洗浄した。セファロースビーズから溶出したタンパク質をSDS-PAGEおよびそれぞれの抗体を用いた免疫ブロッティングに供した。同一ブロットの連続的再プロービングのために、膜から最初の一次抗体および二次抗体を取り除き、別の抗体を用いた免疫ブロッティングに供した。ブロットを増強した化学発光検出(Amersham)を用いて現像した。バンド強度をScion Image PCソフトウェアを用いて定量した。
【0111】
海馬神経細胞培養物、トランスフェクション、および蛍光ベースの内在化アッセイ
Leeら、200240;Passafaroら、200149に記載される。
【0112】
電気生理学的記録
海馬スライス(厚さ400μm)を生後16〜26日齢のSprague-Dawleyラットから調製し、人工の脳脊髄液((mM):126 NaCl、26 NaHCO3、10グルコース、3 KCl、1.2 KH2PO4、1 MgCl2、および1 CaCl2を含む)を室温で注ぎ、95% O2/5% CO2で浸透させた14。記録ピペット(4〜5 MΩ)を溶液((mM):135 CsCl、10 HEPES、5 QX-314、4 Mg-ATP、2 MgCl2、0.5 EGTA、0.2 GTPおよび0.1 CaCl2、pH 7.4、310mOsm)で充填した。CA1神経細胞の全細胞記録およびLFS-LTDの誘導は既に記載されるように実施した14
【0113】
統計分析
実験サンプル内で比較する場合は常にスチューデントt検定を用いた。実験間のデータの交差比較または分析のために、全ての値を一元ANOVAに供し、全ての群を対照ベース値に対して比較した。値はF>0.5で統計的に有意ではなかった。統計的に有意であると認められた群は、それぞれDunnett t検定を用いて比較した。全ての分析は、Statistica statistics package(Statsoft)において標準化した値を用いて行った。
【0114】
一次神経細胞培養
大脳皮質は18日目のin utero Wistar胚から切り取り、トリプシン-EDTAで、37℃で15分間処理した。次いで、細胞を3回洗浄し、単一の細胞懸濁液に粉砕した。次いで、神経膠を有する神経細胞を、ポリ-Dリジンでコートした12ウェル組織培養プレート中に約2.5X 105神経細胞/ウェルで蒔いた。次いで、細胞を平板培養培地(Gibco NeurobasalTM、1%FBS、2% B-27サプリメント、0.5mM L-グルタメートおよび25μM グルタミン酸)中で24〜48時間培養し、その後、細胞を10μM 5-フルオロ-2'-デオキシウリジン(FDU)を含むNeurobasalTM維持培地(NMM: Gibco NeurobasalTM Media +0.5mM L-グルタメート、2% B-27サプリメント)で処理して、神経細胞の培養物を富化した(約85%)。FDU中での24時間〜48時間の培養後、細胞を4日毎に交換されるNMM上で維持した。
【0115】
ペプチド生成
Tat-GluR2-3Y、Tat-GluR2-3Aおよびダンシル抱合型Tat-GluR2-3YをABI 433Aペプチド合成器(NAPS)で全て合成した。
【0116】
神経細胞のダンシル標識化Tat-GluR2-3Yペプチドの取り込み
12ウェルプレート中、in vitroで13日目(DIV 13)の一次皮質神経細胞(2.5x105/ウェルの密度)を細胞外溶液(ECS:140mM NaCl、5.4mM KCl、1.3mM CaCl2、10mM HEPES、33mM D-グルコース、pH 7.4)で1回洗浄し、その後、ペプチドを含まない(対照)または1μM ダンシル標識化Tat-GluR2-3Yを含む1mLの細胞外溶液を各ウェルに添加した。37℃でのインキュベーションの5分、10分、30分または60分後に、ウェルをECSで2回洗浄し、蛍光顕微鏡検査により、550nmの励起波長を用いて撮像した。
【0117】
NMDA処理に対するAMPARエンドサイトーシスの定量
細胞ELISAを用いて、細胞内AMPAR発現対細胞外AMPAR発現の量を測定して、NMDA傷害に対するAMPARエンドサイトーシスを定量した。DIV 12-13神経細胞を室温のECSで1回洗浄した。1μM Tat-GluR2-3YまたはTat-GluR2-3Aペプチドを含むまたは含まない1mLのNMMをウェルに添加し、細胞を37℃で1時間インキュベートした。次いで、培地を吸引し、異なる組合せのペプチド(1μM Tat-GluR2-3YまたはTat-GluR2-3A)を含む1mLのECSおよびNMDA-グリシン処理剤(50μM NMDA+10μM グリシン)をウェルに添加し、細胞を室温で30分間インキュベートした。次いで、ウェルをECSで1回洗浄し、その後、即座に0.5mLの低温固定剤(4%パラホルムアルデヒド、およびPBS中の4%ショ糖)で10分間振とうしながら固定した。次いで、細胞を1mLのPBSで3回洗浄した。各処理群のウェルの半分を未透過性(細胞外AMPAR発現を示す)のままにし、半分をPBS中0.5mLの0.2% Triton X 100を振とうしながら用いて10分間で透過性(細胞内および細胞外AMPAR発現の全てを示す)にし、その後PBSで3回洗浄した。次いで、ウェルをPBS中の2%ヤギ血清でブロックした。ブロッキング後、ブロッキングバッファーを吸引し、2%ヤギ血清中400μLの1μg/mLマウス抗ラットGluR2N末端抗体(クローン:6C4、Chemicon)または400μLのブロッキングバッファー(一次抗体を含まない対照)のいずれかをウェルに添加し、プレートを4℃で振とうしながら一晩インキュベートした。次いで、プレートをPBSで3回洗浄し、2%ヤギ血清中400μLの1/1000セイヨウワサビペルオキシダーゼ抱合型ヒツジ抗マウスIgG2a抗体を添加し、プレートを振とうしながら室温で1時間インキュベートした。次いで、プレートをPBSで3回洗浄し、その後、1mLのOPD溶液(0.4mg/mL o-フェニレンジアミン、0.4mg/mL 過酸化尿素、および50mM クエン酸リン酸バッファー、Sigma)を添加し、プレートを室温で振とうしながら5〜10分間インキュベートした。ペルオキシダーゼ反応は200μLの3N HClの添加により停止した。492nmでの吸光度をμQuantプレートリーダー(Bio-Tek Instruments, Inc.)を用いて読み出した。データを、最初に他のサンプルから対照(一次抗体を含まない)の吸光値を引き算をすることによって分析した。次いで、AMPAR表面発現の割合を、透過性サンプルに対する非透過性サンプルの割合として表した。次いで、各反復実験を標準化し、処理群をANOVAに続いてTukey-Kramer検定を用いて比較した(p=0.05)。
【0118】
酸素-グルコース除去(OGD)下での神経細胞アポトーシスの定量
神経細胞を60分の酸素-グルコース除去措置に供し、アポトーシスをモノヌクレオソームELISAおよびオリゴヌクレオソームELISAを用いて定量した。12ウェルプレートに2.5x105/ウェルの密度で蒔いたDIV 13神経細胞をECSで1回洗浄し、細胞をNMM中で1μM Tat-GluR2-3Yと共に、または1μM Tat-GluR2-3Y無く60分間前処理した。次いで、細胞を、OGDサンプルについてはOGDバッファー(121mM NaCl、5mM KCl、1mM ピルビン酸ナトリウム、1.8mM CaCl2、25mM NaHCO3、0.01mM グリシン;pH 7.4)で、または非OGDサンプルについてはECSで2回洗浄した。次いで、非OGDサンプルをNMM中37℃で25時間インキュベートし、OGDサンプルをTat-GluR2-3Yを含むかまたは含まないOGDバッファー中で、嫌気性チャンバー中37℃で60分間インキュベートした。その後、OGDサンプルをNMM中37℃で24時間インキュベートした。次いで、神経細胞アポトーシスをCell Death Detection ELISAPLUSキット(Roche Applied Science)を製造説明書の通りに用いて定量した。405nm(参照波長、490nm)での吸光度をμQuantプレートリーダー(Bio-Tek Instruments Inc.)を用いて読み出した。その後、各反復実験を標準化し、処理群をANOVAに続いてTukey-Kramer検定を用いて比較した(p=0.05)。
【0119】
脳組織のTat-GluR2-3Y浸潤
約22g重量の2個体の成体雄C57-Black/6マウスに、生理食塩水または30nmol/gのダンシル標識化Tat-GluR2-3Yを腹腔内注射した。マウスを2時間で犠牲にし、脳を即座に取り出して−80℃で冷凍した。40ミクロンの環状切片を低温保持装置を用いて切断し、蛍光顕微鏡検査により可視化した。
【0120】
一次的な局所虚血モデル
この手順は本質的には既に記載されるように行った(70)。簡潔に言うと、280〜320g(20時間絶食重量)の成体雄Sprague-Dawleyラットを、30%酸素平衡化亜酸化窒素中の4%イソフルレンの吸入混合物で麻酔し、1.5%イソフルレンで維持した。気管支分泌物を0.5mg/kgのアトロピンを腹腔内投与することによって最小化した。生理食塩水中の3nmol/gのTat-GluR2-3Y、生理食塩水中の3nmol/gのTat-GluR2-3A、または生理食塩水のみのいずれかを、中大脳動脈(MCA)閉塞の1時間前に、大腿静脈PE-50カーテルを介して投与した。実験者は全ての外科処置および下流実験について処理群の同一性に盲目的であった。解剖顕微鏡下で、総頚動脈(CCA)、外部頚動脈(ECA)、および内部頚動脈(ICA)を露出させ、切開した。次いで、末端舌動脈および顎動脈を焼灼し、その後、口蓋動脈を5−0絹縫合で結紮した。この時点後に、ICAはCCAの頭蓋外枝のみを残していた。次いで、ECAを吻側結紮近くで部分的に切断し、熱で円形にした先端を有する30mmの3−0ナイロンモノフィラメントをECAに挿入し、CCA分岐部の先まで進入させた。次いで、ECAを完全に切断し、ナイロン縫合を有するECA断端を分離した。次いで、ナイロン縫合をその先端がICAに面するように折り返し、その後、ナイロン縫合を抵抗が感じられるまで約20mm穏やかに進入させた。この時点で、縫合はMCAの起始点に達し、前大脳動脈はMCA領域への血流を完全にブロックしていた。次いで、創傷を絹縫合で閉じ、動物をイソフルレンを停止することによって覚醒させた。直腸温、および尾部血圧計バンドで測定される血圧を、処理前、注射後15分、注射後50分、およびMCA閉塞後15分に測定した。一部の動物において、血漿pH、O2およびCO2をRapidlabTM348血液ガス分析計(Bayer Diagnostics)で測定して、使用したガス流量が適切であり、再現可能な血液ガスを産出したことを確認した。次いで、MCA閉塞の45分後に、動物を神経学的実験に回した。この実験は、MCAの有意な閉塞を経験していない全ての動物を排除するために用いた。この実験は、23の最大欠失スコアを有する10個の試験から構成された(71)。個々の試験は表IIに要約される。
【表2】

【0121】
動物は神経学的実験後に再び誘導され、ナイロンモノフィラメントはMCA領域へ血流を戻すために閉塞の開始後60分で回収された。神経学的実験は犠牲時(約24時間)で再び実施した。偽手術をMCA閉塞として行ったが、ナイロンモノフィラメントは挿入されなかった。
【0122】
TTC染色
ラットをMCA閉塞の3日後に、深い麻酔後の断頭術によって犠牲にした。犠牲後、即座に脳を取り出し、アクリルラット脳マトリックス(Harvard Apparatus)に入れ、−80℃で5分間インキュベートした。次いで、1mmの冠状スライスを剃刀刃で切り、PBS中37℃の2% 2,3,5-塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC, Sigama)の溶液に入れた。次いで、このスライスを約15分間、有意な色が展開するまでインキュベートした。
【0123】
TUNEL染色
MCAo後1日目に、ラットを1.5mLの25%ウレタンで麻酔し、100mLの0.9%生理食塩水に続いてPBS中120mLの4%パラホルムアルデヒドで灌流させた。次いで、脳を取り出し、4%パラホルムアルデヒド中4℃で一晩保管した。次いで、脳をPBS溶液中の30%ショ糖および0.1%アジ化ナトリウムに移し、脳に完全に染み込むまで4℃で保存した。次いで、脳をドライアイス中で冷凍し、12ミクロンの冠状スライスを、低温保持装置を用いて、フリーフローティング法(free-floating method)(72)を用いて前頂部に対して-8mmで切断した。次いでスライスをガラススライド上にのせ、製品説明書の通りにTMR-TUNEL(ターミナルデオキシリボヌクレオチドトランスフェラーゼ[TdT]仲介性dUTRニック末端標識)(Roche Applied Science)で染色した。スライスを10Xの倍率の視野あたりTMR-TUNELについて陽性染色された細胞数について記録した。各切片について、影響した脳半球上の大脳皮質の外側部に沿う同一の3領域を記録した(影響した脳半球は、最大量のアポトーシスを含む側として規定された)。
【0124】
実施例2:NMDA誘導型アポトーシスはAMPA受容体エンドサイトーシスを必要とする
ラット海馬神経細胞(14 DIV+)の成熟培養物においてアポトーシスを誘導するために、本発明者らは細胞を10μMグリシンを含む100μM NMDAの軽度のNMDA傷害で1時間処理し、その後、正常な培地中最大24時間で細胞を回収した。図1A、Bに示されるように、NMDA処理はカスパーゼ-3活性の時間依存的増加(神経細胞アポトーシスの生化学的指標である)を誘導した(DEVD-pNA切断のELISAアッセイによって検出される)。このカスパーゼ-3活性の増加は処理後12〜24時間でピークに達し、この時点で神経細胞の大半は死にかけているかまたは死んでおり、アポトーシス細胞死の顕著な特徴(抽出したDNAのゲル電気泳動によって立証されたDNAラダーリング(図1C)、およびヨウ化プロピジウムまたは挿入DNA色素であるHoechst 33258(ビスベンズイミド)によって染色した核によって示された崩壊工程を伴う核凝集を含む)を示している。神経細胞アポトーシスの程度はまた、11-dUTP(図1E)およびヒストンビオチン化アッセイ(図1F)の両方を用いてDNAのヌクレオソーム間切断を測定することによって定量した。対照的に、未処理の培養物において、生化学的または形態学的に検出可能なアポトーシスはほとんど存在しなかった(図1A-F)。さらに、NMDA誘導型アポトーシスは、NMDA受容体アンタゴニストであるAPV(50μM;図1D)によって完全に阻止されたので、NMDA受容体の特異的な活性化の結果であった。したがって、NMDA処理は神経細胞アポトーシスを引き起こした。
【0125】
神経細胞アポトーシスを仲介する際のNMDA誘導型エンドサイトーシスの役割を確定するために、本発明者らは最初に高張ショ糖(これはクラスリン被覆ピットのアセンブリーを阻害する十分に特徴付けられたクラスリン依存性エンドサイトーシス阻害剤である13;14)の効果を調査した。図1Eに示されるように、細胞をNMDAの適用前に高張ショ糖(0.4M)で処理し、1時間その存在下に維持した際に、本発明者らはアポトーシスが劇的に低減したことを見出した。高張ショ糖はクラスリン仲介エンドサイトーシスの効果的な阻害剤として広く使用されてきたが、これはエンドサイトーシスを阻害する以外に多くの作用を有し得る。NMDA誘導型アポトーシスにおいて刺激されたエンドサイトーシスの本質的な役割をさらに確立すべく、本発明者らはクラスリン依存性エンドサイトーシスに対する別の特異的な阻害剤の効果も調査した。この阻害剤は、膜透過性である短いダイナミン誘導型ミリストイル化ペプチドである(myr-Dyn)。これはアンフィフィシンによって、クラスリン被覆ピットへのダイナミンの補充を阻止し、その結果、クラスリン仲介エンドサイトーシスを阻害する15。実際、myr-Dyn(100μM)と共に神経細胞をインキュベートすることが、NMDA誘導型アポトーシスを低減する上で高張ショ糖と同程度に有効であることを見出した(図1EおよびF)。対照的に、対照のDynペプチド、非ミリストイル化(膜非浸透性)Dyn(Dyn;図1E)およびスクランブル化myr-Dyn(s-myr-Dyn;図1F)はいずれもほとんど効果を有しなかった。したがって、NMDA受容体仲介アポトーシスにはクラスリン依存性エンドサイトーシスの促進が必要である。エンドサイトーシス阻害の効果がNMDA誘導型アポトーシスに特異的であったか否かを試験するために、本発明者らは次に、キナーゼ阻害剤であるスタウロスポリン(STS;100nM、1時間)12による神経細胞の処理によって誘導される、十分に特徴付けられた神経細胞アポトーシスモデルに対するこれらの阻害剤の効果を試験した。図1Eに示されるように、本発明者らは、いずれのエンドサイトーシス阻害剤もSTS誘導型神経細胞アポトーシスを有意に改変し損なうことを見出した。したがって、クラスリン仲介エンドサイトーシスは、NMDA受容体活性化によって誘導される神経細胞アポトーシスに特異的に要求される。
【0126】
これらのエンドサイトーシス阻害剤が、NMDA受容体チャネル機能を阻害し、その結果、活性化チャネルを介したCa2+の流入を妨害することによって、神経細胞アポトーシスを妨害し得るという可能性を排除するために、本発明者らは海馬神経細胞に細胞内Ca2+色素であるFura-2を充填し、その後、高張ショ糖処理前および処理中に、神経細胞へNMDA(100μM;500ms)の反復的局所「発泡」(repetitive local 「puff」)を適用することによって引き起こされたカルシウムの流入をモニターした。図2A、Bに要約されるように、エンドサイトーシスとアポトーシスとを阻害した濃度のショ糖は、NMDAに誘起された[Ca2+]i反応を有意に改変しなかった。エンドサイトーシスの阻害がその[Ca2+]i反応に影響することなくNMDA誘導型アポトーシスを阻止するという事実は、[Ca2+]i濃度の細胞内増加が、必要ではあるが3;4、NMDA誘導型アポトーシスを生ずるには十分でないかもしれないことを示す。
【0127】
特定形態のカスパーゼ(カスパーゼ-3および-716)の活性化(さらに図1A、B)は、NMDA誘導型神経細胞アポトーシスに関係があるとされている。したがって、本発明者らは、カスパーゼ-3のNMDA依存性活性化に対する、エンドサイトーシスを阻害することの効果を調査した。NMDA処理は、活性化形態のカスパーゼ-3のレベルを劇的に増加した(活性化/切断型カスパーゼ-3のみを特異的に認識する抗体を用いたウエスタンブロットによって立証される)(図2C)。膜透過性myr-Dynは、NMDA受容体仲介アポトーシスを阻害する濃度で、NMDA-仲介カスパーゼ-3の活性化を効果的に阻害した(図2C)。
【0128】
セリン/トレオニンキナーゼAkt/PKBは、アポトーシス細胞死から神経細胞を保護することに関与するとされており17、このキナーゼ活性の阻害はNMDA受容体仲介アポトーシスに関与し得ると考えられている18。本発明者らは、エンドサイトーシス工程が、Akt活性の阻害において決定的な役割を果たすか否かを、473位のセリン(そのリン酸化がAktの完全な活性化に必要である残基19)のAktリン酸化のレベルを測定することによって調査した。図2Dに示されるように、NMDAによる神経細胞の処理は、全Aktのレベルを改変することなくS473リン酸化Aktを有意に減少し、かつその結果、Akt活性を有意に減少した。Akt活性におけるこの減少は、主に高張ショ糖によるエンドサイトーシスの阻害によって妨害された。対照的に、ショ糖処理はSTS処理後のAktリン酸化の低下に全く効果を有さず、NMDA誘導型アポトーシスにおけるエンドサイトーシスの特異的な関与をさらに支持している(図2D)。したがって、刺激されたエンドサイトーシスは、NMDA誘導型神経細胞アポトーシスにおける下流の[Ca2+]iの上昇および上流のカスパーゼ活性とAkt阻害である強制的な工程であると考えられる。
【0129】
細胞表面AMPA受容体の有意な減少はNMDA処理後に観察されるがNMDA受容体の有意な減少は観察されず、この減少は、エンドサイトーシス阻害剤myr-Dynによって阻止されたが、対照ペプチドであるDybでは阻止されなかったため、促進された受容体エンドサイトーシスの結果であった(図3A)。NMDA誘導型AMPA受容体エンドサイトーシスとアポトーシスとの間に直接的な関連があったか否かを調査するために、AMPA受容体のGluR2サブユニットのカルボキシル末端(CT)領域内の869位のチロシン残基と879位のグルタミン酸残基との間の短いアミノ酸配列に由来するペプチド(YKEGYNVYGIE; R2-CTと称する)を、これと担体ペプチド(Pep-1)23とをNMDA処理の1時間前およびNMDA処理の間に混合することによって培養した神経細胞に送達した。この結果は、細胞表面AMPA受容体のNMDA誘導型減少が妨害されたことを示した(図3B)。
【0130】
このペプチドによる妨害がエンドサイトーシス工程に対する非特異的な効果に起因しなかったことを確実にするために、本発明者らはトランスフェリン受容体エンドサイトーシス(十分に特徴付けられたクラスリン仲介受容体エンドサイトーシス13)に対するその効果を調査した。蛍光標識したトランスフェリンと共に海馬神経細胞を30分間インキュベートすることにより、細胞内区画中に蛍光標識されたトランスフェリンの蓄積が生じた。これは、0.4Mショ糖がさらに存在した際に、トランスフェリンのインキュベーション中に排除されたため、クラスリン仲介トランスフェリン受容体エンドサイトーシスの結果であった。対照的に、トランスフェリンのインキュベーションの1時間前およびインキュベーション中にこれらの神経細胞に適用されたR2-CT+Pep-1は、トランスフェリン受容体エンドサイトーシスを妨害し損なった。したがって、R2-CTペプチドは、NMDA誘導型AMPA受容体エンドサイトーシスを特異的に阻止できるが、クラスリン仲介エンドサイトーシス工程に非特異的に影響することができないドミナント阻害剤である。
【0131】
さらに、R2-CT+Pep-1による神経細胞の前処理は、ヒストンビオチン化アッセイ(図4A)、およびPI核染色(図4B)によって定量化されたNMDA誘導型アポトーシスを有意に減少した。固定後のPI染色は、R2-CTがNMDA誘導型アポトーシスを阻止したことを示した。この特定の例において、R2-CTおよびPep-1のいずれも単独ではNMDA誘導型アポトーシスに対して検出可能ないかなる効果も有しなかった。ショ糖またはmyr-Dynのいずれかによるクラスリン仲介エンドサイトーシス工程の一般的な阻害と同様に、R2-CTによるAMPA受容体エンドサイトーシスの妨害は、STS誘導型神経細胞アポトーシスを改変しなかった(図4A)。総合すれば、本発明者らの結果は、NMDA誘導型神経細胞アポトーシスを仲介する際の、AMPA受容体エンドサイトーシスのための強制的必要条件についての強力な証拠を提供した。
【0132】
したがって、クラスリン依存性AMPA受容体エンドサイトーシスは、一次培養で維持された海馬神経細胞のNMDA誘導型アポトーシスに特異的に要求されるが、STS誘導型アポトーシスには要求されない。エンドサイトーシスを阻止することは、NMDA誘導型Ca2+反応に対して効果を有しないが、カスパーゼ-3のNMDA誘導型活性化およびAktリン酸化の阻害のいずれをも妨害する。したがって、AMPA受容体エンドサイトーシスは、NMDA誘導型[Ca2+]i過負荷とアポトーシスに導く細胞内カスケードとの間の決定的な関連であり得る。
【0133】
したがって、NMDA受容体の刺激は、アポトーシスを導く細胞内シグナル伝達カスケードを活性化し、そしてAMPAサブタイプグルタミン酸受容体のダイナミン依存性内在化を促進する。ダイナミン依存性内在化を阻止することは、NMDA活性化アポトーシスカスケードをNMDA誘導型[Ca2+]i上昇に影響することなく特異的に改善したが、スタウロスポリン活性化アポトーシスカスケードは改善しなかった。GluR2誘導型ペプチドによるNMDA誘導型AMPA受容体エンドサイトーシスの特異的な阻害は、NMDA誘導型アポトーシスをスタウロスポリンによって産生されるものに影響することなく妨害する。これらの結果は、AMPA受容体エンドサイトーシスが、NMDA受容体の活性化を神経細胞アポトーシスと関連付ける際に要求され得、その結果、AMPA受容体エンドサイトーシスがシナプス強度を低減する際に不可欠な役割を果たし、かつ他の重要な細胞内経路(アポトーシス細胞死を含む)を積極的に仲介することを示唆する。
【0134】
実施例3:GluR2カルボキシル末端内の特有の配列が構成的および調節型AMPA受容体エンドサイトーシスに必要である
構成的およびインスリン刺激型AMPA受容体エンドサイトーシスの配列決定因子を同定するために、本発明者らは、GluR2 CTの様々な欠失を含む6個のGluR2突然変異体を作製した(図5B)。GluR2Δ854を除く全ての構築物は、細胞外アミノ末端領域でHA標識した。HEK293細胞への一過性のトランスフェクション後、これらの構築物をこれらの野生型対照物であるHA-GluR2またはGluR2と比較可能なレベルで(透過可能な細胞条件下で比色細胞ELISAアッセイによって測定されるように)発現させた(図5C)。
【0135】
これらの突然変異体の構成的および調節型エンドサイトーシスを経る能力を既に記載されるようにアッセイした14。生細胞中の表面受容体を(エンドサイトーシスを阻止する)抗HA抗体(またはGluR2Δ854の場合にはGluR2の細胞外N末端ドメインに対する抗体)を用いて4℃で前標識した。次いで、表面を標識した細胞を37℃で30分間インキュベートしてインスリン(0.5μM)の不在下および存在下の両方でエンドサイトーシスを再開させ、構成的(基礎的な)および調節型(インスリン刺激型)AMPA受容体エンドサイトーシスにおける変化をそれぞれ測定した(図6A、B)。次いで、内在化受容体を共焦点顕微鏡検査によって視覚化し、比色細胞ELISAベースの受容体内在化アッセイによって定量した(図6A)。HA標識型GluR2またはGluR2突然変異体で一過的にトランスフェクトしたHEK293細胞の代表的な共焦点像を得た。トランスフェクト細胞を、抗HA抗体で前標識し、次いで受容体エンドサイトーシスを基本的な条件(構成的エンドサイトーシス)下でまたはインスリン刺激(0.5μM、10分;調節型エンドサイトーシス)後に評価した。細胞表面受容体を、非浸透条件下でFITCによって染色し、その後、内在化受容体を細胞透過化後にCy3で染色した。これらの突然変異によって作製された内在化における変化が表面受容体数を改変することができたか否かを判定するために、本発明者らはさらに、比色細胞ELISAベースの細胞表面受容体アッセイを用いて、細胞表面AMPA受容体の定常レベルを測定した(図6C)。
【0136】
図6Aに示されるように、野生型GluR2受容体は、構成的エンドサイトーシスとインスリン刺激型エンドサイトーシスの両方を経た。したがって、インスリンの不在下で、約25%の細胞表面受容体が30分以内に取り込まれ、この割合は簡単なインスリン刺激(0.5:M、10分)後に48%まで増加した。この促進型のエンドサイトーシスは、細胞表面上に発現されたAMPA受容体のレベルの有意な減少と関連した(図6B)。PDZ結合性モチーフを形成する最後の4アミノ酸の先端切断(GluRΔ880)は、構成的エンドサイトーシスまたは調節型エンドサイトーシスのいずれかに対する観察可能な効果を全く有さなかった。しかし、最後の30残基(GluR2Δ854)または15残基(GluR2Δ869)の先端切断は、インスリン誘導型AMPA受容体エンドサイトーシスおよびその細胞表面発現の低下を完全に破壊した(図6A-B)。先端切断は、構成的AMPA受容体エンドサイトーシスの程度(図6A)または細胞表面上での受容体発現の基礎的レベル(図6B)のいずれも改変しなかった。GluR2 CTの最初の10アミノ酸が欠失されたGluR2Δ834-843の構成的内在化率の有意な減少が観察された(図6A)。しかし、この内部欠損は細胞表面上に発現されたAMPA受容体の定常数を改変しなかった(図6B)。またGluR2Δ834-843のようにインスリンに対する応答性を改変しなかったことは、野生型GluR2と同様の規模で内在化が増強されたことを示した(図6Aおよび6B)。一方、内部欠失突然変異体GluR2Δ844-853は、構成的エンドサイトーシスの程度に有意な変化を示さなかった(図6A)が、インスリン刺激型エンドサイトーシス(図6A)における小さな低下、および細胞表面上の定常受容体レベルの低下を示した(図6B)。
【0137】
実施例4:GluR2 CTチロシンリン酸化がインスリン刺激型AMPA受容体エンドサイトーシスに必要である
R2-CT配列は3つのチロシン残基を含む。これらのチロシン残基が特定のチロシンキナーゼの基質であるかを判定するために、本発明者らは、活性型の組み換えSrcと、GluR1(GST-GluR1CT)およびGluR2(GST-GluR2CT)のカルボキシル尾部のグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)融合タンパク質とを用いたin vitroキナーゼアッセイを実施した(図7A)。GST-GluR2CTはSrcキナーゼによって特異的にリン酸化されるが、GST-GluR1CTまたはGST単独ではリン酸化されない。1以上のチロシン残基がSrcリン酸化の基質であるという仮説と一致して、本発明者らは組み換えSrcキナーゼが3つのGluR2固有のチロシン残基(GST-Y869KEGY873NVY876G)の全てを含む9アミノ酸ストレッチを含有するGST融合タンパク質をリン酸化することを見出した。Src仲介リン酸化は、これらのチロシン残基がアラニンに突然変異される際(GST-A869KEGA873NVA876G)に廃止される。
【0138】
これらのGluR2 CTチロシン残基が、インスリン刺激に対する内因性チロシンキナーゼ活性によってin situでリン酸化されるか否かを判定するために、本発明者らはチロシン残基Y869、Y873およびY876がアラニンに突然変異されたGluR2サブユニット突然変異体(HA-GluR23Y-3A)を作製した。HEK293細胞で一過的に発現される際、この突然変異体は野生型GluR2対照物と同一レベルで発現された(図7B)。本発明者らは、最初に、HA-GluR2、HA-GluR23Y-3AまたはHA-GluR1を一過的に発現する細胞における、これらのチロシン残基のin situでのリン酸化の可能性を調査した。細胞をインスリンと共に(0.5μM、10分)またはインスリン無く処理し、その後、方法の節に詳述されるようにホモジネートした。発現したAMPA受容体複合体を変性条件下で抗HA抗体を用いて免疫沈降し、その後、抗ホスホチロシン抗体を用いてチロシンリン酸化のレベルについて免疫ブロットした。この結果は、検出可能なレベルの野生型GluR2の基礎的な(basal)チロシンリン酸化およびインスリンによる簡単な処理後に増加したレベルのリン酸化が存在したことを証明する(図7C)。3つのYからAへの突然変異は、HA-GluR2の基礎的なおよびインスリン誘導化チロシンリン酸化の両方を強力に減少させる。対照的に、基本条件下またはインスリン刺激条件下において、検出可能なGluR1のチロシンリン酸化はほとんど存在しなかった(図7C)。これらの結果は、GluR2 CTのチロシンリン酸化が、基本条件下、細胞環境で生じること、およびインスリンによって増強されることを示唆する。
【0139】
GluR2-CTのチロシン残基の突然変異は、細胞表面AMPA受容体のインスリン誘導型減少を妨害する。野生型GluR2またはGluR2Y-A突然変異体を発現するHEK細胞をインスリン(0.5μM)で10分間処理し、さらにECS中で20分間インキュベートした。細胞表面受容体のレベルを比色アッセイを用いてアッセイした。チロシン残基のいずれか1つの突然変異は、細胞表面AMPA受容体の発現のインスリン誘導型減少を妨害するのに十分であった(図7D)。あらゆる仮説と結び付けられることを望むことなく、これらの結果は、3つ全てのチロシン残基がチロシンリン酸化の基質であるか、またはこれらが全てキナーゼによる基質認識に関与するか、または触媒されたリン酸化の他の一部の態様(特定のチロシンの突然変異等)が、これがリン酸化の直接的な標的でなくてもリン酸化を阻害できることを示唆し得る。したがって、後者の場合、非基質の任意のチロシン残基が突然変異することは、基質-キナーゼ相互作用に影響して基質チロシン残基のリン酸化を妨げることができ、その結果、刺激型受容体エンドサイトーシスを低減するだろう。
【0140】
インスリン刺激型エンドサイトーシスに対するGluR2 CTチロシンリン酸化の機能的な重要性を、HEK293細胞中でHA-GluR2およびHA-GluR23Y-3Aの内在化をアッセイすることによって試験した(図8A、B)。これらのチロシン残基の突然変異は、細胞表面で発現されるGluR2の定常状態レベルを改変しないが(図8B)、細胞表面AMPA受容体のレベルでインスリン誘導型エンドサイトーシス(図8A)およびインスリン誘導型減少(図8B)を阻止した。
【0141】
実施例5:インスリンはGluR2のチロシンリン酸化を増加し、かつ海馬スライスにおけるAMPA受容体仲介シナプス伝達を低下する
次に、本発明者らは、インスリン刺激をGluR2サブユニットを発現するHEK293細胞で成した際に、これが無傷(intact)海馬におけるAMPA受容体のチロシンリン酸化のレベルを変化させることができるか否か(図7A-D)、およびこれがAMPA受容体仲介シナプス伝達のインスリン仲介低下に重要であり得るか否かを調査した。海馬スライスをインスリン(0.5μM;10分)で処理し、その後、GluR1およびGluR2サブユニットを変性条件下(本明細書に詳述される)で免疫沈降し、抗ホスホチロシン抗体で免疫ブロットした(図9A、B)。細胞培養からの結果と一致して、GluR2サブユニットは基本条件下で明確に感知できるレベルのチロシンリン酸化を示し、さらにこのリン酸化のレベルはインスリン刺激後に増加した(図9A、B)。対照的に、GluR1のチロシンリン酸化レベルは、基本条件下およびインスリン処理条件下の両方でほとんど検出可能ではなかった。これらの結果は、海馬におけるGluR2のチロシンリン酸化をさらに立証し、GluR2チロシンリン酸化がインスリンによって刺激され得ることを証明する。
【0142】
海馬スライスにおけるCA1神経細胞の全細胞記録中に、GST-GluR23Y (GST-YKEGYNVYG)、およびその突然変異対照物であるGST-GluR23A (GST-AKEGANVAG)(対照)のシナプス後適用の効果を調査して、場合によりAMPA受容体のインスリン刺激型チロシンリン酸化の、受容体仲介興奮性シナプス後電流(EPSC)の持続性機能低下との関連を判定した。図7Aに示されるように、GST-GluR23Yは良好なチロシンリン酸化基質であるが、GST-GluR23Aは良好なチロシンリン酸化基質ではない。インスリンの槽適用は、EPSCのAMPA成分の持続的な減少を生じた(図9C、D)。野生型GST-GluR23Yペプチド(100μg/ml)が記録ピペットに含まれる際に、インスリン誘導型EPSC機能低下を防止したが、同量の突然変異ペプチド(GST-GluR23A)は全く効果を有しなかった(図9C、D)。したがって、野生型チロシン含有ペプチドは、AMPA受容体仲介型EPSCのインスリン誘導型の持続的な機能低下を阻止するのに十分であるが、その突然変異対照物は十分ではない。
【0143】
実施例6:GluR2 CTにおけるチロシン残基がLTDを仲介する
GluR2チロシンリン酸化のレベルを、海馬スライスにおける低頻度刺激(LFS)後(1 Hzで15分間、本発明者らの実験条件下で確実にLTDを誘導する)にアッセイして、GluR2 CTのチロシンリン酸化がLFS誘導型長期抑圧(LTD)に必要とされ得るか否かを判定した。スライスを刺激の10分後に変性バッファー中でホモジネートし、GluRサブユニットを免疫沈降し、ホスホチロシンを精査した。図10Aに示されるように、GluR2の基礎的な(basal)チロシンリン酸化が存在し(GluR1には存在しない)、LTD誘導刺激はGluR2のチロシンリン酸化のレベルをGluR1のチロシンリン酸化のレベルに影響することなく増加した(図10A)。LFSによるLTDの誘導は、GST-GluR23Y(100μg/ml)のシナプス後適用によって阻止されたが、突然変異ペプチドGST-GluR23A(100μg/ml;図10B)またはGST-GluR2834-843(図10C)によっては阻止されなかった。
【0144】
実施例7:GluR2ペプチドは、脳卒中の神経細胞培養モデルにおいて、虚血誘導型AMPA受容体エンドサイトーシスおよび神経細胞アポトーシスを阻害する
虚血様発作は、培養した皮質神経細胞(DIV12-14)において1時間の酸素-グルコース除去措置(OGD)によって再現した。OGDは十分に特徴付けられた虚血の細胞培養モデルである。GluR2CTペプチド(1mM)を、これを担体ペプチドPEP-1と混合し、神経細胞をOGDチャレンジの前に1時間この混合物と共にインキュベートすることによって、神経細胞に送達した。図11Aは比色(細胞ELISA)アッセイを示す。これはOGDがAMPA受容体エンドサイトーシスを促進して、原形質膜表面上でのその発現を減少すること、およびGluR2-CTペプチドの前インキュベーションが細胞表面AMPA受容体発現のOGD誘導型減少を低減したことを示す(n=6;:P<0.05、スチューデント検定、対照との比較)。図11Bは、Cell Death Detection ELISA plusキット(Roche, Cat No 1 774 425)をOGDの24時間後に用いた定量的アポトーシスアッセイであり、OGDが神経細胞死をもたらし、これがGluR2-CTによる神経細胞の前処理によってかなり妨害されることを示している(n=6;**;P<0.01、スチューデントt検定、OGDと比較)。総合して、これらの結果は、NMDA受容体過剰活性化、虚血様発作も同様にAMPA受容体エンドサイトーシスを促進することによって神経細胞死をもたらすこと、およびAMPA受容体エンドサイトーシスを阻止するペプチド(GluR2-CTペプチドなど)等は神経細胞損傷を低減する脳卒中治療に使用することができることを示している。
【0145】
実施例8:Tat-GlurR23Yペプチドの全身アプリケーションは、薬物中毒の動物モデルにおいて、乱用薬剤であるd-アンフェタミンに対する行動感作の発現を阻止する
行動感作は、多くの種類の中毒性薬物(すなわち、アンフェタミン、コカイン、ニコチン、ヘロイン)の処置に対する精神運動の増加として定義され、誘導段階と発現段階に分類して説明することができる。行動感作は十分に認められた神経適応および行動適応のモデルであり、これは中毒(特に薬物探索行動に従事するための動機付けの根底にある中間皮質辺縁ドーパミン系の薬物誘導型変化)の基礎を形成すると仮定されている60、61
【0146】
薬物乱用に導く中毒性薬物に対する行動感作を誘導するために、4つの別個の成体ラット群に、d-アンフェタミン(2mg/kg、腹腔内(IP))または生理食塩水を反復的に注射した(1日おきに計10回の注射)。注射計画の1日、5日および10日目で、アンフェタミン注射前に30分間2-レベルロコモーターボックスに置いてボックスに慣れさせ、注射後さらに二時間ロコモーターボックスに置いた。そして常同症スコア(薬物誘導型行動)を10分毎に1分間の間隔で二時間の継続期間の間評価した。10回目のd-アンフェタミンの注射後、ラットに21日間のオフ期間を与え、慢性的な留置カーテルを麻酔下で頸静脈に移植した。
【0147】
静脈内(IV)注射後に脳の神経細胞にGluR2-CTペプチドを送達するために、3Y残基を含む野生型GluR2-CTペプチドまたは3つのチロシンがアラニンで置換されたこれに対応するペプチド配列を、血液脳関門(BBB)を通過可能なヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)Tatタンパク質(YGRKKRRQRRR)の細胞膜形質導入ドメイン85と融合させて、Tat-GluR2-3Y (YGRKKRRQRRR-YKEGYNVYGIE)またはTat-GluR2-3A (YGRKKRRQRRR-AKEGANVAGIE)ペプチドを得た。
【0148】
21日目に、ラットを1.5nM/grTat-GluR2-3YもしくはTat-GluR2-3Aまたは生理食塩水で、側坐核(Nac)へのIV注射または頭蓋内マイクロインジェクションのいずれかによって前処置し、ホームケージに60分間戻した。次いで、ラットをロコモーターボックス(観察室)に30分間置いて、その後チャレンジ用量のd-アンフェタミン(2mg/kg、IP)で処置した。次いで、常同症スコアを記載されるように評価した(図12A)。点は、2時間の試験期間にわたるラット群の平均常同症スコア(±S.E.M)を表す。Tat-GluR2-3Yによる前処置は、d-アンフェタミン誘導型常同症の急性発現を完全に阻止したが、Tat-GluR2-3Aはこれに関して効果がなかった(F(2,31)=4.22、p<0.01)。図12Bは、常同症のピーク効果を示す(これはd-アンフェタミンの前処置後約50分で生じ、各群について表される)。*は生理食塩水処置群と比較してp<0.05であることを示す。GluR23Yペプチドによる1時間の静脈内前処置は、ラットにおいて顕著なあらゆる副作用なくチャレンジ用量のアンフェタミンに対する行動感作の発現を根絶したが、対照のGluR23Aは根絶しなかった(図12A、B)。感作の遮断は、後の実験において、GluR23YのNAcへの直接的な微量注入はIV投与を再現したが、VTAへの微量注入は再現しなかったので、行動感作の発現を妨げるNAcにおける特異的な作用に起因する(図12C、D)。効果的な野生型ペプチドによる全身処置は、FR-2スケジュールで配給した褒美の餌に対する学習されたオペラント反応を崩壊し損なった(図18A)。このペプチドの高度な特異性に関する更なる証拠は、D-アンフェタミンの無条件報酬効果に対する効果の欠如である(図18B)。これらのデータは、NAcにおけるLTDが、行動感作、渇望の行動的相関の発現に要求され、そして最も注目すべきは、LTDを阻止する膜透過性の短い「干渉ペプチド」が、顕著な副作用なくこの行動感作の発現を妨害することができる第1の証拠を提供する。したがって、Tat-GluR2-3Yペプチドを用いた処理の、行動感作の発現を阻止する能力は、薬物乱用および行動感作を誘導する薬物種に対する依存症の治療における上記ペプチドの使用と一致する。
【0149】
実施例9:AMPA受容体エンドサイトーシスを阻止することによる虚血性脳障害の治療
本発明者らは、AMPARエンドサイトーシスを阻止することができるペプチドが、グルタミン酸誘導型神経細胞アポトーシスを防止することによって神経保護薬として機能することができるか否かを調査した。第1に、このペプチドが神経細胞を通過できることを確認するため、一次Wistar皮質神経細胞培養物をダンシル標識化Tat-GluR2-3Yペプチドに曝露し、その後、細胞を蛍光顕微鏡検査によって視覚化した。DIV 13神経細胞を生理食塩水(対照)または1μM ダンシル標識化GluR23Yペプチドのいずれかで10、20、30または60分間処理した。このペプチドは時間依存的な様式で細胞を通過することができた。神経細胞は、ダンシル化Tat-GluR2-3Yを時間依存的な様式で取り込んだ(10分で可視化に十分な蛍光、約30分で最大)。
【0150】
ペプチドが皮質神経細胞に移入可能であると判った時点で、NMDA誘導型AMPARエンドサイトーシスを阻止するTat-GluR2-3Yの能力を調査した。Tat-GluR2-3Yで前処理した、または前処理していない一次Wistar皮質神経細胞をNMDA傷害に供し、細胞ELISAアッセイを用いてAMPARの表面発現を定量した。AMPAR表面発現の基線レベルは約70%であった(30%の細胞内プールに対応する)。NMDA-グリシン処理はAMPAR表面発現における有意な減少(対照を基準に69%から55%(p<0.05、テューキー・クレーマー検定))をもたらし、これはTat-GluR2-3Yの前処理によって完全に阻止された(73%表面発現、NMDA群に対してp<0.05、テューキー・クレーマー検定)(図13)。さらに、Tat-GluR2-3Yの変異型であるTat-GluR2-3Aは、NMDA誘導型AMPARエンドサイトーシスを阻止できなかった。この例において、各ペプチド単独ではAMPAR表面発現に対する効果を有しなかったことも留意すべきである。
【0151】
Tat-GluR2-3Yは、NMDA誘導型AMPARエンドサイトーシスを阻止することができたため、酸素-グルコース除去措置(OGD)誘導型アポトーシスに対して培養神経細胞を保護するこのペプチドの能力を調査した。DIV 12-13神経細胞を、生理食塩水またはTat-GluR2-3Yで60分間前処理し、その後、37℃で60分のOGDまたは培地中(対照)37℃でのインキュベーションを行った。アポトーシスの量を遊離ヌクレオソーム(これはアポトーシスの特徴である)を標的とするELISAアッセイを用いて定量した。OGDは対照と比較して十分なアポトーシスを誘導し、これはTat-GluR2-3Yによる前処理によって実質的に阻止された(p<0.05)(図14)。
【0152】
このペプチドのin vivo研究のために、本発明者らは最初に、このペプチドが血液脳関門(BBB)を通過し、神経組織に浸透できるか否かを調査した。ダンシル標識化Tat-GluR2-3Yまたは生理食塩水のいずれかを雄のC57-Black/6マウスに投与し、40μmの冠状脳スライスを低温保持装置を用いて切断し、蛍光顕微鏡検査によって視覚化した。より具体的には、2個体の雄の成体C57-Black/6マウスに30nmol/gのダンシル標識化Tat-GluR2-3Yまたは生理食塩水を腹腔内注射した。注射の2時間後にマウスを犠牲にし、40ミクロンの皮質切片を低温保持装置を用いて切断し、蛍光顕微鏡検査によって視覚化した。この結果は、ダンシル標識化ペプチド脳切片が対照より大きな蛍光強度を示すこと(脳へのペプチドの進入の確認)、およびダンシル標識化Tat-GluR2-3Yが血液脳関門を通過し、神経組織に浸透することを示した。
【0153】
MCA閉塞の腔内縫合法によって作製された梗塞部の位置および大きさを質的に記載するために、4個体の雄Sprague Dawleyラットを、MCA閉塞の3日後に犠牲にし、1mmの脳スライスを2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロライド(TTC)で染色する手順に供した。より具体的には、約300g重量の雄の成体Sprague-Dawleyラットを、腔内3-0ナイロンモノフィラメントを用いた60分のMCA閉塞に供した。次いで、ラットをMCA閉塞の3日後に犠牲にし、脳を1mmの切片にスライスし、TTCで染色した。一時的な虚血法により、前頂部に対して約-1.5mmで最大の皮質断面波及(coronal cross-sectional involvement)を含む有意な梗塞体積を生じた。梗塞体積は各ラットにおける有意な皮質波及で再現可能であった。TTC染色から、前頂部に対して-0.8mmを、ターミナルデオキシリボヌクレオチドトランスフェラーゼ[TdT]仲介dUTPニック末端標識(TUNEL)を用いたアポトーシス染色用に選択した。
【0154】
副作用なく投与し得る最大用量を決定するために、2個体の雄Sprague Dawleyラットに0.5nmol/gから30nmol/gの範囲の連続的用量のTat-GluR2-3Yを注射し、基本的な生体パラメーターをモニターした。薬剤は約12nmol/gまで許容され、その後、呼吸速度の増加と同時に生ずる血圧の大幅な減少(図15)およびこれに対応するpO2とpC02における変化が生じることがわかった。いずれの動物も用量反応曲線に従って回復し、精神の抑うつまたは他の行動変化の徴候を示さなかった。これらの結果に基づき、その後のin vivo実験用に3nmol/gの用量を選択した。動物中でこのペプチドが完全に分散すると仮定すれば、この用量はほぼ3μMの濃度に相当する。
【0155】
Tat-GluR2-3Yについて神経防護作用のために提案された機構はアポトーシスの予防であるので、最初に一時的な局所的虚血のモデルにおけるアポトーシスを立証しかつ定量することが必要であった。2個体の雄Sprague-Dawleyラットを90分のMCA閉塞、または閉塞を伴わない偽手術のいずれかに供した。手術の24時間後に取得した脳スライスのTUNEL染色を用いて、MCA閉塞が有意なアポトーシスを引き起こすことが示された(図16)。
【0156】
Tat-GluR2-3Y前処置がAMPAR受容体エンドサイトーシスを阻止し、in vitroでのOGD誘導型アポトーシスを低減することができるという証拠に鑑みて、一時的な局所的虚血における神経学的欠損および半影(penumbral)アポトーシスを予防するペプチド前処置の能力を調査した。15個体の雄Sprague-Dawleyラットを、3nmol/gのTat-GluR2-3YもしくはTat-GluR2-3Aまたは生理食塩水のいずれかで60分間前処理し、その後、右側MCAを60分間塞いだ。ラットをMCA閉塞まで45分間神経学的に診察し、犠牲にした(約24時間)。24時間の時点(図17A)または閉塞中の神経学的スコアに有意な差異は認められなかった。犠牲後、12μmの皮質切片をTUNELにより染色し、閉塞に冒された脳半球皮質におけるTUNEL陽性細胞数を記録した(図17B)。Tat-GluR2-3Yによる前処置は、生理食塩水対照に対してアポトーシスを約55%減少し、Tat-GluR2-3Aによる前処置はアポトーシスを約22%増加したが、小さなサンプルサイズおよび高可変性に起因して、これらの差異は統計学的有意性には達しなかった。手術中、生理食塩水に対して、Tat-GluR2-3YおよびTat-GluR2-3Aによる前処理が、MCA閉塞の10分前に有意に低い平均動脈圧(MABP)を生じさせること(p<0.05 テューキー・クレーマー検定)に留意した。
【0157】
実施例10:GluR2-CTペプチドを用いたストレス関連疾患の治療
ストレスはLTDの誘導を特発し123、記憶障害124、不安症およびうつ病125等のストレス関連疾患を生じさせることが知られる。したがって、GluR2-3Yペプチドは、調節型エンドサイトーシスを阻止し、その結果LTDを阻止することによって、これらのストレス関連疾患に対する治療効果を有し得る。したがって、一例として本発明者らは十分に確立された不安症動物モデル126を用いてストレス誘導型不安症に対するこのペプチドの効果を試験している。ラット(n=4)に10nM/g GluR2-3Yまたは等量のビヒクルACSF(IP)のいずれかを注射した。ラットを注射後暗室に30分間置いた。その後、ラットをストレッサーとして30分間高架試料台に置き、次いで、高架十字迷路に5分間置いた74。GluR2-3Yが注射されたラットはACSFラットよりも長い時間開放アーム上で過ごした。ACSFラットはそのほとんどの時間を閉鎖アームの角で過ごすかまたは壁越しに眺める立ち上がり運動で過ごした。したがって、GluR23Yペプチドはストレス誘導型不安症を阻止した(図19)。これらの結果は、促進されたAMPARエンドサイトーシスの結果、LTDの発現がストレス誘導型行動の発現において不可欠な役割を果たすこと、およびGluR23Yペプチド等のLTD遮断薬が治療法として使用されてストレス関連脳疾患(不安症、外傷後症候群およびうつ病を含む)を治療し得ることを強く示唆する。
【0158】
実施例11:GluR2-CTペプチドを用いた薬物中毒の再発予防と精神異常の治療
初回用量の薬物またはアンフェタミンまたはヘロイン注入により予め組合された条件付刺激の提示によって誘導された再発は、常習行為の決定的な段階である。静注薬物の自己投与のラットモデルが使用され、再発の試験前に薬物探索行動の消滅と結び付けられる73。Tat-GluR23Yペプチド、変異型対照ペプチドGluR23A、およびビヒクルが再発の試験前に静脈内注射される。再発予防の成功の証明後、一連の行動対照実験が、Tat-GluR2ペプチドによる処置が学習および記憶の全身欠損をもたらさないことを保証するために実施される。このプロトコールは、正常な感覚および運動機能を保証するために、慣用的に使用される空間-秩序記憶および時間-秩序記憶ならびに認識の試験を、標準的な神経学的試験群と共に使用する(図18A-B)。ラットにおいて、ヒトの精神病症状(プレパルス抑制、PCP誘導型機能亢進および社会的相互作用を含む)を模擬する特定の試験に対するGluR23Yペプチドの効果も調査される。AMPAR機能および基本的なシナプス伝達に影響することなく感作の妨害が生じるので、大抵他の現在入手可能な抗精神病薬に関連する伝達物質受容体の阻止の悪影響は生じない。
【0159】
参考文献
以下の刊行物は参照により本明細書に組み入れる。











【0160】
他の実施形態
本発明の様々な実施形態が本明細書に記載されるが、多くの改作および改変も当業者の共通の全般的知識に従って本発明の範囲内で成し得る。かかる改変には、実質的に同一の手法で同一の結果を達成するために、本発明のいずれかの態様の既知の同等物の代用が含まれる。本明細書で使用される登録番号は、複数のデータベース(ヌクレオチド配列については、GenBank、European Molecular Biology Laboratory (EMBL)、DNA Database of Japan (DDBJ)またはGenome Sequence Data Base (GSDB)を含み、ポリペプチド配列については、Protein Information Resource (PIR)、SWISSPROT、Protein Research Foundation (PRF)およびProtein Data Bank (PDB)(解明された構造由来の配列)およびGenBank、EMBL、DDBJまたはRefSeq中のヌクレオチド配列からアノテートされたコード領域の翻訳物由来の配列を含む)からの登録番号を指す。数値範囲は、その範囲を定義している数を含める。明細書中、「含む」は制限のない用語として使用され、「非限定的に含む」という表現と実質的に同等であり、そして「含む」という用語はそれに対応する意味を有する。本明細書の参考文献の引用は、そのような参考文献が本発明に対する先行技術であることを自認するものと解釈すべきではない。全ての刊行物は、個別の刊行物のそれぞれが本明細書に参照により組み入れられるべきであると具体的かつ個別に示されるように、そして本明細書で完全に説明されるように、参照により本明細書に組み入れる。本発明は、実質的に本明細書に記載される、ならびに実施例および図面を参照して実質的に記載される全ての実施形態および変形を含む。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【図1】図1は、NMDAがラット海馬神経細胞の一次培養物でアポトーシスを誘導することを示す。
【図2】図2は、エンドサイトーシスの阻害剤がNMDA受容体の機能を改変することなく、細胞死シグナル伝達経路のNMDA受容体仲介活性化を破壊することを示す。
【図3】図3は、NMDAがNMDA受容体エンドサイトーシスを誘導しないがAMPA受容体エンドサイトーシスを誘導すること、ならびにこれが膜透過性ミリストイル化ダイナミンペプチド(Myr-Dyn)およびGluR2 c尾部(R2-CT)由来のペプチドによって阻止されることを示す。
【図4】図4は、R2-CTによるAMPA受容体エンドサイトーシスの阻止が、培養した海馬神経細胞におけるNMDA誘導型アポトーシスを妨げるが、STS誘導型アポトーシスは妨げないことを示す。
【図5】図5は、GluR2内部欠損またはカルボキシル末端切断変異体の構築とチロシンベースのシグナルの同定(GluR2-3Y)とを示す。
【図6】図6は、AMPA受容体のエンドサイトーシスおよび細胞表面発現に対するGluR2 CT変異の効果を示す。
【図7−1】図7-1は、インスリンがGluR2カルボキシル末端(CT)領域内のチロシン残基のリン酸化を増加することを示す。
【図7−2】図7-2は、インスリンがGluR2カルボキシル末端(CT)領域内のチロシン残基のリン酸化を増加することを示す。
【図8】図8は、GluR2 CT中のチロシンクラスターが、HEK293細胞において調節型AMPA受容体エンドサイトーシスに必要であるが、構成的AMPA受容体エンドサイトーシスには必要でないことを示す。
【図9−1】図9-1は、インスリンがGluR2のチロシンリン酸化およびAMPA受容体仲介シナプス伝達の長期抑制を刺激することを示す。
【図9−2】図9-2は、インスリンがGluR2のチロシンリン酸化およびAMPA受容体仲介シナプス伝達の長期抑制を刺激することを示す。
【図10−1】図10-1は、GluR2サブユニットのチロシンリン酸化が、LFS誘導型の海馬CA1の長期抑圧(LTD)に必要であることを示す。
【図10−2】図10-2は、GluR2サブユニットのチロシンリン酸化が、LFS誘導型の海馬CA1の長期抑圧(LTD)に必要であることを示す。
【図11】図11は、GluR2 CTペプチドが、脳卒中の神経培養モデルにおいて、虚血誘導型AMPA受容体エンドサイトーシスおよび神経細胞アポトーシスを妨げることを示す。
【図12】図12は、Tat-GlurR23Yペプチドの全身適用が、薬物常用の動物モデルにおいて、乱用薬剤であるd-アンフェタミンに対する行動感作の発現を阻止することを示す。
【図13】図13は、Tat-GluR2-3YがNMDA誘導型AMPARエンドサイトーシスを阻止することを示す。
【図14】図14は、Tat-GluR2-3Yが酸素-グルコース除去措置に対する神経細胞アポトーシスを減ずることを示す。
【図15】図15は、Tat-GluR2-3Yの連続用量に対する用量寛容曲線を示す。
【図16】図16は、一時的な中大脳動脈の閉塞がアポトーシスを増加することを示す。
【図17】図17は、一時的な局所的虚血のラットモデルにおけるアポトーシスに対するTat-GluR2-3Yの効果を示す。
【図18】図18は、GluR2-3Yが食物または薬物報酬刺激によって強化された学習行動に対する非特異的効果を有さないことを確認するための対照実験を示す。
【図19】図19は、GluR23Yペプチドがストレスラットモデルにおけるストレス誘導型不安症を阻止することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NMDA仲介神経細胞アポトーシスをモジュレートする方法であって、神経細胞とAMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤とを接触させることを含む、上記方法。
【請求項2】
前記阻害剤が調節型AMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記阻害剤がGluR2、GluR3またはGluR4ポリペプチドである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記阻害剤が、表Iに記載のアミノ酸配列もしくはその保存的置換物、式Iもしくは式A、またはAMPA受容体のGluR2、GluR3もしくはGluR4サブユニットのC末端で見出されるこれらと相同な配列またはその断片もしくは変異体を含むか、あるいは表Iに記載のアミノ酸配列もしくはその保存的置換物、式Iもしくは式A、またはAMPA受容体のGluR2、GluR3またはGluR4サブユニットのC末端で見出されるこれらと相同な配列と特異的に結合する抗体を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記断片が、YREGYNVYG、YKEGYNVYG、YREGYNVYGIEまたはYKEGYNVYGIEのアミノ酸配列を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記阻害剤が、アミノ酸配列YGRKKRRQRRRをさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
AMPA受容体エンドサイトーシスをモジュレートする方法であって、表Iに記載のアミノ酸配列もしくはその保存的置換物、式Iもしくは式A、またはAMPA受容体のGluR2、GluR3もしくはGluR4サブユニットのC末端で見出されるこれらと相同な配列またはその断片もしくは変異体を含むか、あるいは表Iに記載のアミノ酸配列もしくはその保存的置換物、式Iもしくは式A、またはAMPA受容体のGluR2、GluR3もしくはGluR4のC末端で見出されるこれらと相同な配列と特異的に結合する抗体を含むモジュレート化合物と、AMPA受容体を発現する細胞とを接触させることを含む、上記方法。
【請求項8】
モジュレート化合物が調節型AMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
モジュレート化合物がGluR2、GluR3またはGluR4ポリペプチドである、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記断片が、YREGYNVYG、YKEGYNVYG、YREGYNVYGIEまたはYKEGYNVYGIEのアミノ酸配列を含む、請求項7または8に記載の方法。
【請求項11】
モジュレート化合物が、アミノ酸配列YGRKKRRQRRRをさらに含む、請求項7〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
被験者における神経学的損傷または機能障害を治療または予防する方法であって、AMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤の有効量を被験者に投与することを含む、上記方法。
【請求項13】
前記阻害剤が調節型AMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記阻害剤が、GluR2、GluR3またはGluR4ポリペプチドである、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記阻害剤が、表Iに記載のアミノ酸配列もしくはその保存的置換物、式Iもしくは式A、またはAMPA受容体のGluR2、GluR3もしくはGluR4サブユニットのC末端で見出されるこれらと相同な配列またはその断片もしくは変異体を含むか、あるいは表Iに記載のアミノ酸配列もしくはその保存的置換物、式Iもしくは式A、またはAMPA受容体のGluR2、GluR3またはGluR4サブユニットのC末端で見出されるこれらと相同な配列と特異的に結合する抗体を含む、請求項12または13に記載の方法。
【請求項16】
前記断片が、YREGYNVYG、YKEGYNVYG、YREGYNVYGIEまたはYKEGYNVYGIEのアミノ酸配列を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記阻害剤がアミノ酸配列YGRKKRRQRRRをさらに含む、請求項12〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
神経学的損傷がNMDA誘導性神経細胞アポトーシスを含む、請求項12〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
神経学的損傷が、NMDA受容体の過剰活性化の結果として生じるか、またはAMPA受容体エンドサイトーシスにおける変化に起因して生じる、請求項12〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
神経学的損傷または機能障害が、ストレス、不安、うつ病、低血糖症、心停止、癲癇、脳虚血、脳損傷、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病;神経因性疼痛;筋萎縮性側索硬化症(ALS);ハッチンソン・ギルフォード症候群;糖尿病;運動失調;知的障害;認知症、喫煙または肥満に関連する疾患、高血圧、学習または記憶における異常または機能障害に関連する疾患、精神疾患、自閉症、精神分裂病、脆弱性X症候群、および薬物乱用または薬物中毒に関連する疾患からなる群より選択される疾患の少なくとも1つの結果として生じる、請求項12〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記薬物が、ニコチン、アルコール、アヘン、ヘロイン、コデイン、モルヒネ、ペチジン、メタドン、マリファナ、フェニクリデン、精神刺激薬、アンフェタミン、コカイン、バルビツレート、ペントバルビトン、キナルバルビトン、ベンゾジアゼピン、テマゼパム、ジアゼパムおよびフルニトラゼパムからなる群の少なくとも1つから選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
被験者のシナプス可塑性をモジュレートする方法であって、AMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤の有効量を被験者に投与することを含む、上記方法。
【請求項23】
前記阻害剤が調節型AMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
シナプス可塑性を増強することをさらに含む、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
前記被験者が正常である、請求項22〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記阻害剤が、表Iに記載のアミノ酸配列もしくはその保存的置換物、式Iもしくは式A、またはAMPA受容体のGluR2、GluR3もしくはGluR4サブユニットのC末端で見出されるこれらと相同な配列またはその断片もしくは変異体を含むか、あるいは表Iに記載のアミノ酸配列もしくはその保存的置換物、式Iもしくは式A、またはAMPA受容体のGluR2、GluR3またはGluR4サブユニットのC末端で見出されるこれらと相同な配列と特異的に結合する抗体を含む、請求項22〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記断片が、YREGYNVYG、YKEGYNVYG、YREGYNVYGIEまたはYKEGYNVYGIEのアミノ酸配列を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記阻害剤がアミノ酸配列YGRKKRRQRRRをさらに含む、請求項22〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
AMPA受容体エンドサイトーシスのモジュレーターをスクリーニングする方法であって、
(a)(i)AMPA受容体ポリペプチドまたはその生物学的に活性な断片;
(ii)AMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤;
を含む系を準備すること、
(b)試験化合物を準備すること、
(c)この系を試験化合物と接触させること、および
(d)試験化合物がAMPA受容体エンドサイトーシスをモジュレートするか否かを判定することを含む上記方法。
【請求項30】
AMPA受容体エンドサイトーシスのモジュレーターをスクリーニングする方法であって、
(a)AMPA受容体ポリペプチドまたはその生物学的に活性な断片を準備すること、
(b)試験化合物を準備すること、
(c)AMPA受容体ポリペプチドまたはその生物学的に活性な断片を試験化合物と接触させること、および
(d)試験化合物がAMPA受容体エンドサイトーシスをモジュレートするか否かを判定することを含む上記方法。
【請求項31】
AMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤を準備すること、AMPA受容体ポリペプチドまたはその生物学的に活性な断片を前記阻害剤と接触させること、試験化合物が前記阻害剤と比較した際にAMPA受容体エンドサイトーシスをモジュレートするか否かを判定することをさらに含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記阻害剤が調節型AMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤である、請求項29〜31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記阻害剤がGluR2、GluR3またはGluR4ポリペプチドである、請求項29〜32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記阻害剤が、表Iに記載のアミノ酸配列もしくはその保存的置換物、式Iもしくは式A、またはAMPA受容体のGluR2、GluR3もしくはGluR4サブユニットのC末端で見出されるこれらと相同な配列またはその断片もしくは変異体を含むか、あるいは表Iに記載のアミノ酸配列もしくはその保存的置換物、式Iもしくは式A、またはAMPA受容体のGluR2、GluR3またはGluR4サブユニットのC末端で見出されるこれらと相同な配列と特異的に結合する抗体を含む、請求項29〜33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記断片が、YREGYNVYG、YKEGYNVYG、YREGYNVYGIEまたはYKEGYNVYGIEのアミノ酸配列を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記阻害剤がアミノ酸配列YGRKKRRQRRRをさらに含む、請求項29〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
YREGYNVYGIE、YKEGYNVYGIE、YREGYNVYGおよびYKEGYNVYGからなる群より選択された配列の少なくとも1つと実質的に同一のアミノ酸配列を含むポリペプチド。
【請求項38】
表Iに記載の配列の少なくとも1つと実質的に同一のアミノ酸配列を含むポリペプチド。
【請求項39】
アミノ酸配列YGRKKRRQRRRをさらに含む、請求項37または38に記載のポリペプチド。
【請求項40】
請求項37〜39のいずれか1項に記載のアミノ酸配列をコードする核酸分子。
【請求項41】
請求項37〜39のいずれか1項に記載のアミノ酸配列と特異的に結合する抗体。
【請求項42】
式I:
Z1-X1-X2-E-G-X3-N-V-X4-G-Z2; (I)
[ここで、X1はY、D、E、SまたはTであり;
X2はKまたはRであり;
X3はY、D、E、SまたはTであり;
X4はY、D、E、SまたはTであり;
Z1はH2N-、RHN-またはRRN-であり;
Z2は-C(O)OH、-C(O)R、-C(O)OR-、-C(O)NHR、-C(O)NRRであり;
Rはそれぞれ独立して(C1-C6)アルキル、(C1-C6)アルケニル、(C1-C6)アルキニル、置換(C1-C6)アルキル、置換(C1-C6)アルケニルまたは置換(C1-C6)アルキニルから選択されるものであり;
「-」は共有結合である]
を含む実質的に純粋な化合物であって、該化合物がAMPA受容体エンドサイトーシスの阻害剤である、上記化合物。
【請求項43】
X1、X3またはX4のいずれか1以上がYである、請求項42に記載の化合物。
【請求項44】
前記化合物が、YREGYNVYGIE、YKEGYNVYGIE、YREGYNVYGおよびYKEGYNVYGよりなる群から選択された配列を含むポリペプチドと少なくとも同程度の親和性でAMPA受容体エンドサイトーシスを阻害する、請求項42または43に記載の化合物。
【請求項45】
アミノ酸配列YGRKKRRQRRRをさらに含む、請求項44〜47のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項46】
被験者における神経学的損傷もしくは機能障害または薬物乱用を治療もしくは予防するための、請求項37〜39のいずれか1項に記載のポリペプチド、請求項40に記載の核酸分子、請求項41に記載の抗体、または請求項42〜45のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項47】
被験者において、NMDA仲介神経細胞アポトーシスをモジュレートするための、AMPA受容体エンドサイトーシスをモジュレートするための、またはシナプス可塑性をモジュレートするための、請求項37〜39のいずれか1項に記載のポリペプチド、請求項40に記載の核酸分子、請求項41に記載の抗体、または請求項42〜45のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項48】
神経細胞をクラスリン仲介エンドサイトーシスの阻害剤と接触させることを含む、NMDA仲介神経細胞アポトーシスをモジュレートする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2008−500266(P2008−500266A)
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529523(P2006−529523)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【国際出願番号】PCT/CA2004/001813
【国際公開番号】WO2005/033311
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(506121205)ザ ユニバーシティー オブ ブリティッシュ コロンビア (1)
【Fターム(参考)】