説明

APC−bindingproteinEB1を用いた大腸癌の診断、治療法

【課題】大腸癌の診断法および治療法を提供する。より詳しくは、APC-binding protein EB1を用いた大腸癌の検査方法を提供し、又はAPC-binding protein EB1を標的とした治療法を提供する。
【解決手段】APC-binding protein EB1を大腸癌の診断をする検査法のマーカーとすることによる。APC-binding protein EB1の有無を調べた結果、大腸癌細胞ではAPC-binding
protein EB1の発現が著しく高く、大腸正常粘膜細胞ではAPC-binding protein EB1の発現が著しくひくかった。APC-binding protein EB1の検出又は定量は免疫学的手法によることができる。または、APC-binding protein EB1の発現を抑制することで大腸癌細胞の増殖を抑制することによる。APC-binding protein EB1の発現を大腸癌細胞で抑制したところ、著しい発現抑制を認めた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪性腫瘍の診断をするためのマーカー及び当該マーカーを用いた悪性腫瘍の治療方法に関する。より詳しくは、当該マーカーを用いた大腸癌の診断に係る検査方法および治療法に関する。
【背景技術】
【0002】
APC-binding protein EB1は腫瘍抑制遺伝子産物APC(adenomatous polyposis coli)に結合するタンパク質として発見された公知のタンパク質である(非特許文献1; LK Su et al 1995)。これまでにEB1は肝細胞癌組織(非特許文献2;Fujii
et al 2005)、食道癌組織(非特許文献3;Wang et al 2005)、胃癌組織(非特許文献4;Nishigaki et al 2005)において高発現していることが報告されている。しかしながら、大腸癌の診断に関し、EB1の単独マーカーとしての利用は報告されていない。特に大腸癌におけるEB1の有用性に関するものは何ら報告されていない。
【0003】
大腸癌は世界的に一般的かつ悪性度の高い悪性腫瘍のうちの1つで、癌による死因で3番目に挙げられため、大きな健康問題となっている。また、最近の研究によると大腸癌の発生率は、増加しているようである。
【0004】
がんの診断にはX線CTやMRIなどの画像診断のほか、特定のがんに特異的に発現するがんマーカーや血液、組織中に漏出するがんマーカーなどを検出する方法も汎用されている。なお、がんマーカーにおいては、診断マーカー、予後予測マーカー、治療奏効性予測マーカーなどの種類が挙げられる。
【0005】
臨床で使用されている大腸癌の診断マーカーとしては、例えばCEA、CA19-1等が挙げられるが、大腸癌に特異的である単一の腫瘍マーカーが存在しないため、数種類の腫瘍マーカーを測定することが多くなる。
【0006】
大腸癌の治療としては、早期であれば切除術が第一選択であ。補助療法として化学療法が試みられている。とくに近年の分子生物学の発展を背景として、種々の分子標的治療法が発展してきている。しかしながら、進行癌になってから治療を開始した症例の予後は著しく不良である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Su LK, Burrell M, Hill DE, Gyuris J, Brent R,Wiltshire R, Trent J, Vogelstein B,Kinzler KW. APC binds to the novel proteinEB1 Cancer Res. 1995 Jul 15;55(14):2972-7.
【非特許文献2】Fujii K, Kondo T, Yokoo H, Yamada T, IwatsukiK, Hirohashi S. Proteomic study of human hepatocellular carcinoma usingtwo-dimensional difference gel electrophoresis with saturation cysteine dye.Proteomics. 2005 Apr;5(5):1411-22.
【非特許文献3】Wang Y, Zhou X, Zhu H, Liu S, Zhou C, Zhang G,Xue L, Lu N, Quan L, Bai J, Zhan Q, Xu N. Overexpression of EB1 in humanesophageal squamous cell carcinoma (ESCC) may promote cellular growth byactivating beta-catenin/TCF pathway. Oncogene. 2005 Oct 6;24(44):6637-45.
【非特許文献4】Nishigaki R, Osaki M, Hiratsuka M, Toda T,Murakami K, Jeang KT, Ito H, Inoue T, Oshimura M. Proteomic identification ofdifferentially-expressed genes in human gastric carcinomas. Proteomics. 2005Aug;5(12):3205-13.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、悪性腫瘍の予後を予測するためのマーカー及び当該マーカーを用いた悪性腫瘍の検査方法を提供することを課題とする。より詳しくは、当該マーカーを用いた大腸癌の診断に関する検査方法を提供することを課題とし、又は大腸癌の治療法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために、鋭意研究を重ね、生体検体から取得した悪性腫瘍を含む組織から、タンパク質を抽出した後、蛍光二次元電気泳動法と質量分析装置にて予後に関係するタンパク質を解析した。解析の結果、APC-binding protein EB1に着目し、APC-binding
protein EB1について大腸癌腫瘍組織と大腸正常粘膜組織との関係を調べた結果、APC-binding
protein EB1の発現が大腸癌腫瘍組織において有意に高いことが確認された。また、APC-binding
protein EB1の発現を抑制することで大腸癌細胞の増殖を抑制することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下よりなる。
1.APC-binding protein EB1をマーカーとして検出する大腸癌の検査方法。
2.下の工程を含む検査方法:
(1)生体から採取した生体検体中のAPC-binding protein EB1を検出又は定量する工程;
(2)検出又は定量したAPC-binding protein EB1により、悪性腫瘍の存在を決定する行程
3.APC-binding protein EB1の検出又は定量を、免疫学的手法により行う検査方法。
4.免疫学的手法が、免疫組織染色である前項4に記載の検査方法。
5.APC-binding protein EB1を大腸癌細胞の増殖を抑制する分子として使用する方法
【発明の効果】
【0011】
本発明の検査方法、具体的には免疫組織染色によると、大腸癌についてAPC-binding protein
EB1の発現が高い細胞は大腸癌腫瘍細胞であることが形態学的・病理学的に診断された。
【0012】
また、本発明の大腸癌の検査方法によると、例えばAPC-binding protein EB1陽性細胞は100%大腸癌であったのに対し、APC-binding protein EB1陰性細胞では100%であり、APC-binding
protein EB1陽性細胞は大腸癌であると診断された。
【0013】
APC-binding protein EB1を単一のマーカーとして用いる本発明の大腸癌の検査方法によると、大腸癌の正確な診断が可能になる。内視鏡などで切除された検体を、本発明の検査方法により検査することで大腸癌を判断することができる。つまり、APC-binding protein EB1を単一のマーカーとして用いることにより、技術的に簡便に迅速に低いコストで実用的に大腸癌を診断できることになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】蛍光二次元電気泳動による約3500のタンパク質スポットを示す図である。(参考例)
【図2】蛍光二次元電気泳動法(a)とウェスタンブロッティング法(b)により、大腸正常粘膜と大腸癌腫瘍組織でのAPC-binding proteinEB1の発現を比較した図である。(実施例1)
【図3】免疫組織染色により、大腸癌腫瘍組織でのAPC-binding protein EB1の発現を確認した図である。(実施例2)
【図4】大腸癌細胞においてAPC-binding protein EB1の発現を抑制することで、腫瘍細胞の増殖が低下したことを示す図である。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、APC-binding protein EB1をマーカーとして検出する悪性腫瘍の診断に関する。本発明におけるAPC-binding protein EB1のアミノ酸配列は、出願時において、Swissprot
detabase Accession No.Q15691に掲載されているものを一例としてあげることができるが、いわゆるAPC-binding protein EB1タンパク質であれば、上記掲載されている配列からなるタンパク質に限定されるものではない。
【0016】
本発明において、大腸癌の診断とは、大腸癌腫瘍細胞を含む生体検体から大腸癌腫瘍細胞を検出することをいう。
【0017】
本発明において、大腸癌の治療とは、大腸癌腫瘍細胞の増殖を有意に低下させることをいう。臨床的な治療縮小効果、RECISTという評価基準に基づいて画像診断で判断される腫瘍縮小効果などが、生体では対応する減少として挙げられる。
【0018】
本発明の予後予測検査は、以下の工程を含む方法により行うことができる。
(1)生体から採取した生体検体中のAPC-binding protein EB1を検出又は定量する工程;
(2)検出又は定量したAPC-binding protein EB1により、大腸癌を診断する工程。
【0019】
本明細書において、生体検体とは、生体から取得した検体をいい、各種検査や試験に供するために前処理された検体を試料ということとする。本発明の検査方法に供するための生体検体は、悪性腫瘍患者の組織に由来するものであればよく、特に限定されないが、好ましくは悪性腫瘍細胞を含む検体であれば良い。生体検体は、生体、例えば患者から取得した検体であり、本発明の検査方法のために取得した検体であってもよく、他の検査に供するために取得した検体や、手術により採取した検体であってもよい。例えば検体を免疫組織染色検査に供する場合、検査に供する試料として、患者から得られた検体から調製したパラフィン切片を用いることができる。また、例えば検体をウエスタンブロット法又はRT−PCRに供する場合、試験に供する試料として、患者から得られた検体から調製したタンパク質抽出液又はmRNA抽出液を用いることができる。
【0020】
本発明の検査方法において、APC-binding protein EB1をマーカーとして検出又は定量する方法は、生体検体中のAPC-binding protein EB1を確認可能な方法であれば良く、特に限定されない。各生体検体におけるAPC-binding protein EB1は、以下に例示する任意の方法で検出又は定量することができる。なお、APC-binding protein EB1の検出又は定量は、単にAPC-binding
protein EB1の有無を検出するものであってもよく、またAPC-binding protein EB1の発現量を相対的又は絶対的に決定するものであってもよい。APC-binding protein EB1発現は、タンパク質レベルで検出又は定量してもよく、またmRNAレベルで検出又は定量してもよい。
【0021】
APC-binding protein EB1発現のタンパク質レベルでの検出又は定量は、免疫学的手法によるのが簡便であり、好適である。例えば、免疫染色法(蛍光抗体法、酵素抗体法、重金属標識抗体法、放射性同位元素標識抗体法を含む)、電気泳動法による分離と蛍光、酵素、放射性同位元素などによる検出又は定量との組み合わせ(ウエスタンブロット法、蛍光二次元電気泳動法を含む)、酵素免疫測定吸着法(ELISA)、ドット・ブロッティング法等により行うことができる。また、mRNAレベルでの検出又は定量は、例えば、RT−PCR(好ましくはリアルタイムRT−PCR)、ノーザン・ブロッティング法、Branched DNAアッセイ等により行うことができる。
【0022】
免疫組織染色法は自体公知の方法を採用することができ、特に限定されないが、その具体例を以下に示す。悪性患者から分離した生体検体を常法によりホルマリン固定をした後、パラフィンに包埋をしてミクロトームにて厚さ4μm程度の組織片に薄切し、スライドガラスに貼り付けたものを切片試料として使用する。切片試料はキシレン処理で完全にパラフィンを除き、100%から徐々に濃度を下げたアルコール溶液にくぐらせ親水化し、水洗する。その後、抗体の浸透性を高めるために耐熱ガラス容器に入れたpH6.0のクエン酸緩衝液中に切片試料を漬け、オートクレーブにて121℃で10分間熱処理し抗原を賦活化する。室温まで放置して冷却し、流水で緩衝液を水洗後、免疫組織染色を行う。内因性ペルオキシダーゼ活性、非特異的反応をブロッキングした後、切片試料に抗APC-binding protein EB1抗体を滴下し常温で一晩反応させる。洗浄後、HRP標識抗ウサギ抗体(DAKO社)を用いてそれぞれ30分間反応させる。洗浄後、DAB溶液 (3,3'-diaminobenzidine tetrahydrochloride)(DAKO社)を用いて発色を行う。なお洗浄にはTBST(DAKO社)を用いる。流水にて洗浄後、ヘマトキシリン液にて検体の細胞核を染色する。流水にて水洗後、アルコール溶液、次いでキシレン溶液をくぐらせ脱水し、検体上に封入剤を滴下しカバーグラスを被せて顕微鏡にて観察する。顕微鏡下では肝細胞がんの細胞のAPC-binding protein EB1タンパク質は茶褐色の発色として観察される。以下に説明するように、その発色により陽性陰性の判定を行うことができる。
【0023】
APC-binding protein EB1発現の検出又は定量の結果は、2種類の段階(陽性及び陰性)に分類することができる。APC-binding protein EB1発現の分類は、検出又は定量方法に応じて、十分な経験を有する病理医、臨床医、検査技師又は検査施設が行うことが好ましい。例えば、APC-binding protein EB1発現の分類は、免疫組織染色法を用いる場合は病理医が行うことができ、ウェスタンブロッティングまたはRT−PCRを用いる場合は検査技師が行うことができる。
【0024】
なお、APC-binding protein EB1発現の分類は、患者からの生体検体におけるAPC-binding protein EB1の発現量を、コントロールにおけるAPC-binding
protein EB1の発現量と比較することにより行うことが好ましい。APC-binding protein
EB1発現の結果を分類する段階の数に応じて、複数のコントロールを用いることが好ましい。例えば、APC-binding
protein EB1発現の結果を2種類の段階(陽性及び陰性)に分類する場合は、それぞれの段階に対応した2種類のコントロール(APC-binding protein EB1陽性コントロール及びAPC-binding
protein EB1陰性コントロール)を用いることが好ましい。また、コントロールの1つとして、健常者に由来するコントロールを用いることが好ましい。
【0025】
免疫組織染色法により、APC-binding protein EB1発現の結果を陽性及び陰性の2種類の段階に分類する場合、免疫組織染色の結果を例えば以下のように判定することができる。
a.「染色性が強く染色される」
b.「染色性が弱く染色される」
c.「染色なし」
とし、悪性細胞全体に対するa,b,cの割合を測定する。
【0026】
本発明は、生体検体中のAPC-binding protein EB1を検出又は定量するため検査用試薬及び検査用キットにも及ぶ。当該キットにより、患者から得られた生体検体におけるAPC-binding protein EB1の発現を検出又は定量することができる。すなわち、タンパク質レベルでAPC-binding protein EB1の発現を検出又は定量するための検査用試薬キットとして、免疫学的手法、例えば免疫組織染色やウエスタンブロット法などに使用される検査用キットが挙げられる。免疫学的手法により検査を行う場合には、少なくとも抗APC-binding protein EB1抗体が検査用試薬に含まれる。抗APC-binding
protein EB1抗体は、APC-binding protein EB1の発現を検出しうる抗体であればよく、特に限定されないが、例えばモノクローナル及びポリクローナル抗体、標識化抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体ならびにこれらの結合活性断片などが挙げられる。また検査用試薬キットには、上記抗体のほか検出用に用いる標識を含んでいてもよい。キットには、緩衝液、発色基質、二次抗体、ブロッキング剤等の試薬、試験に必要な器具やコントロール等を含むことができる。
【実施例】
【0027】
以下本発明を完成するに至った経緯を参考例に、本発明の内容を実施例において示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0028】
(実施例1)二次元電気泳動によるタンパク質の解析
本発明において、APC-binding protein EB1に着目した経緯は、以下の検討による。大腸癌腫瘍組織および大腸正常粘膜上皮細胞を回収し、タンパク質を抽出した。その後、蛍光二次元電気泳動(2D-DIGE)(図1参照)と質量分析装置にて大腸癌腫瘍組織細胞と大腸正常粘膜上皮細胞とで発現が異なるタンパク質を解析した。国立がん研究センター中央病院から倫理委員会の承諾を得て研究に使用している大腸癌59症例の手術検体を使用した。APC-binding protein EB1
【0029】
1)試料調製
手術検体をマルチビーズショッカーTM(安井機器、大阪)にて破砕して粉末状にした。粉末状にした組織に、タンパク質抽出用緩衝液(6M
ウレア、2M チオウレア、3% CHAPS、1% TritonX-100)を加えてタンパク質を抽出した。抽出したタンパク質を蛍光色素(サチュレーションダイCy5TM、GE社)で標識した。標識は以下のように行った。(1)終濃度30mMとなるようにpH 8.0のトリス緩衝液を加え、次に(2)1nmolのTECP(トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィンヒドロクロライド、Sigma社)を加え、(3)37℃で60分間処理した。次に、(4)Cy5蛍光色素を4nmol加えて、37℃で30分間処理した。今回の実験に用いたタンパク質試料から等量ずつタンパク質試料を集めて混合し、内部コントロール試料とした。内部コントロール試料を蛍光色素(サチュレーションダイCy3TM、GE社)で上記と同様に標識した。Cy5で標識した個別のサンプルとCy3で標識した内部コントロール試料を混合し、ウレア可溶化液で最終容量420μlとした。その際、終濃度が65mMとなるようにジチオスレイトール(DDT)を、2%となるようにとアンフォラインTM(GE Healthcare Biosciences社)を加えた。Cy5で標識した個別試料とCy3で標識した内部コントロール試料を混合したサンプルを一枚の二次元電気泳動ゲルで泳動した。
【0030】
2)二次元電気泳動
まず、一次元目の泳動はイモビラインゲル(24cm、pI
4-7、GE社)と、Multiphor IITM(GE Healthcare Biosciences社)を使用した。泳動するタンパク質試料でイモビラインゲルを室温にて一晩膨潤させた。泳動は40000Vhで行った。二次元目の泳動は9−15%のポリアクリルアミドのグラジエントゲルと、二次元泳動装置を使用した。泳動は泳動装置一台につき18Wで10時間、15℃で行った。
【0031】
3)タンパク質検出
泳動終了後は、タンパク質を検出する目的で、ガラス板に挟んだままの状態のゲルをレーザースキャナー(Typhoon
TrioTM、GE社)に載せてスキャンした。
【0032】
4)発現解析
読み込んだ画像を画像解析ソフトProgenesis SameSpots software
(Nonlinear Dynamics, Newcastle, UK)で解析した。
【0033】
5)タンパク質同定
a.ゲル内消化法
全自動スポット回収装置ProHunterTM(AsOne社)を用いて、ゲルから96穴プレートにスポットを回収した。ゲルをメタノールで十分洗浄し、タンパク質分解酵素(トリプシン)で37℃にて一晩処理した。この処理によってタンパク質はペプチド化される。得られたペプチドは、60%アセトニトリルにてゲルを洗浄することで回収した。
b.質量分析
ペプチドの質量を測定するためにLTQTM(サーモエレクトロン社)を使用した。タンパク質同定のためのデータベース検索にはMasCotTMを使用した。
【0034】
6)結果
上記方法により二次元電気泳動を行った結果、約3500個のタンパク質スポットから、各群間の比較において、(1)Wilcoxon検定p<0.01、(2)平均値の値が2倍以上の差、という基準でタンパク質スポット110個を選別した。質量分析装置を用いたタンパク質同定の結果、APC-binding protein EB1に由来するタンパク質スポットが、110個のスポット中に含まれていた(図2)。
【0035】
(実施例2)ウエスタンブロッティングによるAPC-binding protein EB1の確認
参考例を検証する目的で、ウエスタンブロッティングによりAPC-binding protein EB1の発現を調べた(図2参照)。
【0036】
大腸正常粘膜上皮細胞ではAPC-binding protein EB1はほとんど検出されず、大腸癌腫瘍組織では高い発現が認められた。
【0037】
1)タンパク質の回収
各細胞又は異種移植組織をマルチビーズショッカーTM(安井機器、大阪)にて破砕して粉末状にした。粉末状にした組織に、参考例と同手法によりタンパク質抽出用緩衝液を加えてタンパク質を抽出した。
【0038】
2)ウエスタンブロット法
上記抽出したタンパク質5μgをSDS-PAGEにて分離し、ニトロセルロース膜に転写した。1次抗体としては、マウス抗APC-binding protein EB1 (SantaCruz社)を用い、2次抗体としてはペルオキシダーゼで標識した抗マウス抗体 (GE社)を用いた。1次抗体は500倍希釈し、2次抗体は1000倍希釈した。検出にはECL Plusキット(GE社)を使用した。検出したバンドの強度は、ルミノ・イメージアナライザーLAS-3000TM
(富士フィルム社)及び ImageQuantTM software (GE
Healthcare社)により解析した。
【0039】
3)結果
ウエスタンブロット法による解析の結果、APC-binding protein EB1の強い発現が大腸癌腫瘍組織で確認された(図2)。
【0040】
(実施例3)免疫組織染色によるAPC-binding protein EB1の確認
APC-binding protein EB1抗体を用いた免疫組織染色を行った。
【0041】
パラフィン包埋組織切片試料について、免疫組織染色を行った。通常の方法に従い脱パラフィン処理した切片試料を、10mMクエン酸塩緩衝液(pH 6.0)中で10分間121℃オートクレーブ滅菌した。切片試料を、500倍希釈のマウス抗APC-binding protein EB1抗体(SantaCruz社)、HRP標識抗マウス抗体(DAKO社)を用いて標識した。DAB溶液 (3,3'-diaminobenzidine
tetrahydrochloride)(DAKO社)を用いて発色を行い、洗浄にはTBST(DAKO社)を用いた。流水にて洗浄後、ヘマトキシリン液にて検体の細胞核を染色した。
【0042】
免疫組織染色によるAPC-binding protein EB1染色の結果を図3に示した。その結果、蛍光二次元電気泳動法によるスポットの検出結果と同様に、大腸癌腫瘍細胞Colo320はAPC-binding protein EB1染色は陽性であり、大腸正常粘膜上皮細胞はAPC-binding protein EB1陰性であった。
【0043】
(実施例4)APC-binding protein EB1を治療標的とする治療法
APC-binding protein EB1の治療標的としての有用性を検証する目的で、APC-binding protein EB1をsiRNA法で抑制する実験を大腸癌細胞について行った。
【0044】
APC-binding protein EB1 の発現を強制的に低下させた細胞では、増殖が有意に抑制された。
【0045】
以上よAPC-binding protein EB1は大腸癌の検出法のためのバイオマーカーとして有用であること、大腸癌の分子標的となりうることが考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上詳述したように、本発明の予後予測検査方法、具体的には蛍光二次元電気泳動によるスポットの濃度又はウェスタンブロッティングによると、大腸癌について、APC-binding protein EB1の発現は腫瘍組織に特異的であった。
【0047】
また、免疫染色によるとAPC-binding protein EB1は大腸癌細胞の診断のための強力なマーカーとなることが確認された。
【0048】
また、siRNAを用いた実験によると、APC-binding
protein EB1の発現を抑制することで大腸癌細胞の増殖を抑制することが分かった。
【0049】
また、本発明によるとAPC-binding protein EB1は大腸癌の分子標的としての有用性が示唆された。
【0050】
APC-binding protein EB1を単一のマーカーとして用いる本発明の検査方法によると、大腸癌の疑いがもたれた症例について、生検などで悪性腫瘍組織を採取した際などに、本発明の検査方法により検査することで大腸癌を正確に診断することができ、適切な治療方法を選択することができる。また、APC-binding protein EB1を標的とした治療を行うことで大腸癌の治療成績を向上させることが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
APC-binding protein EB1をマーカーとして検出する大腸癌の診断検査方法。
【請求項2】
大腸癌の診断が請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
以下の工程を含む検査方法:
(1)生体から採取した生体検体中のAPC-binding protein EB1を検出又は定量する工程;
(2)検出又は定量したAPC-binding protein EB1により、大腸癌を診断する工程。
【請求項4】
生体検体が、大腸癌からなる悪性腫瘍組織を含む生体検体である請求項3に記載の検査方法。
【請求項5】
APC-binding protein EB1の検出又は定量を、免疫学的手法により行う検査方法。
【請求項6】
免疫学的手法が、免疫組織染色である請求項4に記載の予後予測検査方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の検査方法に使用する、APC-binding protein EB1からなる悪性腫瘍のマーカー。
【請求項8】
APC-binding protein EB1を大腸癌細胞の増殖抑制標的として使用する大腸癌の治療方法。
【請求項9】
大腸癌の治療法が請求項7に記載の細胞増殖抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−225822(P2012−225822A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94972(P2011−94972)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(510097747)独立行政法人国立がん研究センター (35)
【出願人】(503442709)株式会社バイオマトリックス研究所 (11)
【Fターム(参考)】