説明

ASワクチンとして使用するための黄色ブドウ球菌DIVI1B

本発明は、Div1Bと称される抗原性ポリペプチドないしその変異体、該ポリペプチドを含むワクチン、および被検体を微生物感染から保護する際のワクチンの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原性ポリペプチド、前記ポリペプチドを含むワクチンおよび被検体を微生物感染から保護する際のワクチンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ワクチンは、多種多様な感染症から保護するものである。多くのワクチンは、不活性化又は弱毒化した病原体を被検体に注入することによって製造される。免疫化した被検体は、体液性(例えば抗体)および細胞性(例えば細胞融解性T細胞)応答を生産することによって反応する。例えば、いくつかのインフルエンザワクチンは、ホルムアルデヒドによる化学処理によってウイルスを不活性化することによって作られる。多くの病原体では、化学的又は熱不活性化は、保護をもたらすワクチン免疫原を引き起こすが、免疫は、熱および注射部位反応といった副作用も引き起こす。細菌の場合、不活性化した微生物は非常に毒性がある傾向があるので、副作用によりこのような天然ワクチン免疫原の適用が限定されており(例えば細胞性百日咳ワクチン)、ゆえに、ワクチン開発は薬剤開発に遅れをとっている。さらに、全細胞不活性化微生物を用いた有効なワクチンの発達は、エピトープマスキング、免疫優性、低抗原濃度および抗原重複の問題を抱えている。これは、近年の抗生物質治療は現在薬剤耐性細菌出現の先入観をもたれているので、残念である。
【0003】
したがって、多くの最新のワクチンは、病原体の防御抗原から作製され、分子クローニングによって単離され、副作用を引き起こす物質から精製される。この後者のワクチンは「サブユニットワクチン」として知られている。サブユニットワクチンの開発は近年多くの研究の焦点となっている。新規な病原体の出現および抗生物質耐性の発達には、新規なワクチンを開発する必要性、さらにサブユニットワクチンの開発に有用な候補分子を識別する必要性があった。同様に、ゲノムおよびプロテオミクス研究から新規のワクチン抗原を発見することにより、特に細菌性病原体に対して新規なサブユニットワクチン候補の開発が可能となっている。しかしながら、サブユニットワクチンは死滅又は弱毒化した病原ワクチンの副作用を起こさない傾向があるにもかかわらず、その「純粋な」状態は、サブユニットワクチンが必ずしも保護をもたらすために十分な免疫原性を有していないことを意味する。
【0004】
抗生物質に対する耐性を発達させた病原体の例は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)である。黄色ブドウ球菌は、およそ20〜40%の健康な人々の鼻の上皮内壁に常在しており、また、通常害を及ぼさず人々の皮膚に共通して見られるバクテリアである。しかしながら、ある環境では、特に皮膚が害を受ける場合、この病原体が感染を起こしうる。これは、患者が外科的手技を受けるおよび/又は免疫抑制剤を摂取している病院には特に問題である。これらの患者は、受けた治療のために、黄色ブドウ球菌による感染に非常に罹りやすい。微生物感染を制御する際に抗生物質が広く用いられているので、黄色ブドウ球菌の抗生物質耐性菌が生じている。メチシリン耐性菌は一般的であり、これらの耐性菌の多くはまた、いくつかの他の抗生物質に耐性がある。
【0005】
現在、黄色ブドウ球菌のための有効なワクチン接種治療は存在しない。
【0006】
ゆえに、黄色ブドウ球菌は、様々な疾患、そのいくつかは敗血症、心内膜炎、関節炎および毒素ショックを含む生命を脅かす疾患を引き起こしうる主要な病原体である。この能力は、その有機体の多用途性および毒性に関与する重要な成分により測定される。感染の初期およびその経過につれて、その有機体の必要性および環境は変化し、その変化は黄色ブドウ球菌が生産する毒性決定基の変更に反映される。感染開始時には、病原体が宿主組織に付着することが重要であり、非常に大きなレパートリーの細胞表面の結合接着タンパク質が作られる。また、病原体は、食作用を低減するか又は循環抗体に認識される細胞の能力に干渉する因子を産生することによって宿主防御を逃れる能力を有する。しばしば、感染は膿瘍として発達し、有機体の数が増す。黄色ブドウ球菌は、クオラムセンシングペプチドの産生によってその細胞密度をモニターすることができる。細胞の飢餓の始まりにより生じる生理学的変化と関連した、ペプチドが蓄積すると、アドヘシンから浸潤および組織浸透に関与する成分への毒性決定基産生のスイッチが誘発される。
【発明の概要】
【0007】
この開示は、グラム陽性細菌黄色ブドウ球菌から単離され、特徴付けられる抗原性ポリペプチドであるDivlBの同定に関する。DivlBは、細胞内ドメイン[アミノ酸1−171]および膜間ドメイン[アミノ酸172−192]および細胞外ドメイン[アミノ酸193−439]を含む必須膜タンパク質である。図1に概略的に示す。DivlBおよびその断片は、少なくとも黄色ブドウ球菌抗原刺激からの保護を提供することが示され、新しいワクチンの候補となる。DivlBホモログはグラム陰性細菌のFtsQと称される。
【0008】
本発明の態様により、
i)図2a、3a又は4aに示すヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチド、ないしはその抗原性断片、
ii)遺伝コードの結果として(i)で定められるヌクレオチド配列に縮重しているヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチド、
iii)図2b、3b又は4bに示す少なくとも一アミノ酸残基の付加、欠失又は置換によって変更されているアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、ワクチンとして使用されるポリペプチド
からなる群から選択されるポリペプチドが提供される。
【0009】
変更ポリペプチド又は変異ポリペプチドは、一又は複数の置換、付加、欠失、短縮化によってアミノ酸配列が異なり得、この置換、付加、欠失、短縮化はいずれの組み合わせで存在してもよい。好適な変異体には、保存的アミノ酸置換によって比較ポリペプチドから変化するものがある。このような置換は、同等の特徴を有する他のアミノ酸によって所定のアミノ酸を置換するものである。限定するものではないが以下のアミノ酸の一覧は、保存的置換(類似)とみなされる。a)アラニン、セリンおよびスレオニン、b)グルタミン酸およびアスパラギン酸、c)アスパラギンおよびグルタミン、d)アルギニンおよびリジン、e)イソロイシン、ロイシン、メチオニンおよびバリン、およびf)フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン。変化する比較ポリペプチドと同じ生物学的機能および活性を保持又は亢進する変異体が最も好ましい。
【0010】
一実施態様では、変異体ポリペプチドは、本明細書中に記載の完全長アミノ酸配列と、少なくとも85%の同一性、より好ましくは少なくとも90%の同一性、さらにより好ましくは少なくとも95%の同一性、さらにより好ましくは少なくとも97%の同一性、および最も好ましくは少なくとも99%の同一性を有する。
【0011】
本発明の好ましい実施態様では、前記ポリペプチドは図2aに示すヌクレオチド配列によってコードされる。
【0012】
本発明の他の好ましい実施態様では、前記ポリペプチドは、図2bのアミノ酸配列又はその抗原性部分によって表される。
【0013】
本発明の好ましい実施態様では、前記ポリペプチドは図3aに示すヌクレオチド配列によってコードされる。
【0014】
本発明の他の好ましい実施態様では、前記ポリペプチドは、図3bのアミノ酸配列又はその抗原性部分によって表される。
【0015】
本発明の好ましい実施態様では、前記ポリペプチドは図4aに示すヌクレオチド配列によってコードされる。
【0016】
本発明の他の好ましい実施態様では、前記ポリペプチドは、図4bのアミノ酸配列又はその抗原性部分によって表される。
【0017】
本発明の他の態様によれば、ワクチンとして使用するための本発明に記載のポリペプチドをコードする核酸分子が提供される。
【0018】
本発明の他の態様によれば、微生物感染に対するワクチン接種に用いられるワクチン組成物であって、
i)図2a、3a又は4aに示すヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチド、ないしはその抗原性断片、
ii)遺伝コードの結果として(i)で定められるヌクレオチド配列に縮重しているヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチド、
iii)図2b、3b又は4bに示す少なくとも一アミノ酸残基の付加、欠失又は置換によって変更されているアミノ酸配列を含むポリペプチド
からなる群から選択されるポリペプチドを含み、
このとき該組成物が場合によってアジュバントおよび/又は担体を含む、ワクチン組成物が提供される。
【0019】
本発明の好ましい実施態様では、前記組成物は、アジュバントおよび/又は担体を含む。
【0020】
本発明の好ましい実施態様では、前記アジュバントは、GMCSF、インターフェロンγ、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターロイキン12、インターロイキン23、インターロイキン17、インターロイキン2、インターロイキン1、TGF、TNFaおよびTNFからなる群から選択されるサイトカインからなる群から選択される。
【0021】
本発明の更なる実施態様では、前記アジュバントは、TLRアゴニスト、例えばCpGオリゴヌクレオチド、フラジェリン、一リン酸化リピドA、ポリl:Cおよびこれらの誘導体である。
【0022】
本発明の好ましい実施態様では、前記アジュバントは、ムラミルジペプチド(MDP)および/又はトレハロースジコリノミコラート(TDM)などの細菌細胞壁誘導体である。
【0023】
アジュバントは、免疫細胞の活性を調整することによって抗原に対して特定の免疫応答を増やす物質又は手段である。アジュバントの例には、単に例示として、共刺激分子に対するアゴニスト性抗体、フロイントアジュバント、ムラミルジペプチド、リポソームが含まれる。ゆえに、アジュバントは免疫調節因子である。担体は、免疫原性分子であり、第二分子に結合すると後者に対する免疫応答を増やす。担体なる用語は以下のように解釈される。担体は、免疫原性分子であり、第二分子に結合すると後者に対する免疫応答を増やす。いくつかの抗原は本質的に免疫原性ではないが、キーホールリンペットヘモシアニン又は破傷風トキソイドなどの外来性タンパク質分子と結合すると、抗体応答を生成することができうる。このような抗原は、T細胞エピトープではなくB細胞エピトープを含む。このようなコンジュゲートのタンパク質部分(「担体」タンパク質)は、ヘルパーT細胞を刺激し、次に抗原特異性B細胞を刺激し、プラズマ細胞に分化させ、抗原に対する抗体を生産するT細胞エピトープを提供する。
【0024】
本発明の好ましい実施態様では、前記微生物感染は、ブドウ球菌種、エンテロコッカス‐フェカーリス、結核菌、ストレプトコッカス基B、肺炎連鎖球菌、ヘリコバクターピロリ、ナイセリア属淋病、ストレプトコッカス基A、ライム病ボレリア、コクシジオイデス・イミチス、ヒストプラスマカプスラーツム、クレブシエラ属エドワーディ(edwardii)、髄膜炎菌タイプB、ミラビリス変形菌、フレキシナ赤痢菌、大腸菌、インフルエンザ菌、トラコーマ病原体、クラミジアニューモニエ、クラミジアシッタシ、野兎病菌、緑膿菌、バシラスアンスラシス、ボツリヌス菌、ペスト菌、鼻疽菌又は類鼻疽菌からなる群から選択される細菌種によって引き起こされる。
【0025】
本発明の好ましい実施態様では、前記細菌種は、表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)、黄色ブドウ球菌(S.aureus)、S.ホミニス(S.hominis)、S.ヘモリチカス(S.haemolyticus)、S.ワルネリ(S.warneri)、S.カピティス(S.capitis)、S.サッカロリティカス(S.saccharolyticus)、S.アウリキュラリス(S.auricularis)、S.シムランス(S.simulans)、S.サプロフィチカス(S.saprophyticus)、S.コーニー(S.cohnii)、S.クシロサス(S.xylosus)、S.ハイカス(S.hyicus)、S.カプラエ(S.caprae)、S.ガリナラム(S.gallinarum)、S.インターメディウス(S.intermedius)からなる群から選択される。
【0026】
本発明のさらに好ましい実施態様では、前記ブドウ球菌細胞は、黄色ブドウ球菌又は表皮ブドウ球菌である。
【0027】
本発明のワクチン組成物は、注射、例えば噴霧又は点鼻の吸入による鼻腔内散布を含む任意の従来の経路によって投与されうる。投与は、例えば、静脈内に、腹膜内に、筋肉内に、窩洞内に、皮下又は皮内に投与されてよい。本発明のワクチン組成物は有効量で投与される。「有効量」は、単独又は他の投薬とともに、所望の応答を産生するワクチン組成物の量である。特定の細菌性疾患を治療する場合、感染因子によって抗原刺激を受けると、所望の応答が保護する。
【0028】
本発明の好ましい実施態様では、前記ワクチン組成物は点鼻薬としての投与に適する。
【0029】
本発明の好ましい実施態様では、前記ワクチン組成物は、吸入器で提供され、噴霧剤として運搬される。
【0030】
ワクチンの量は、もちろん、年齢、物理的条件、サイズおよび重量、治療の継続期間、(ある場合には)同時的療法の特性、投与の経路、そして、知識および健康専門家の専門知識内の因子を含む個々の患者のパラメーターに依存するであろう。これらの因子は、当業者にとって周知であり、わずかな従来の実験により明らかとなりうる。一般的に、最大投薬量の個々の成分ないしその混合が十分に免疫を引き起こすように用いられることが好ましい。この量は、つまり、正当な医学見解に従った最も安全性の高い用量である。しかしながら、患者が医療的理由、心理的理由又は他の何らかの理由により低容量ないし許容可能な用量を主張することは、当業者に理解できるであろう。
【0031】
被検体に投与されるワクチンの量は、異なるパラメーターに従って、特に、用いた投与の様式および被検体の状態に従って選択されうる。被検体の応答が用いた初回用量で不十分である場合、患者の耐性が許す範囲でより高い用量(又は異なる局所化運搬経路によって事実上の高用量)が用いられてよい。
【0032】
通常、ワクチンの用量は、当分野の標準的な手順に従って有効な免疫化用量に調製され、投与される。ワクチン組成物の投与のための他のプロトコールは、当業者に知られており、投薬の量、注射の計画、注射の部位、投与様式などは上記から変更される。ワクチン組成物のヒト以外の哺乳動物(例えば、試験目的又は獣医の治療目的)への投与は、上記と実質的に同じ条件下で行われる。本明細書中で用いられる被検体は、哺乳動物、好ましくはヒトであり、非ヒト霊長類、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ又はヤギを含む。
【0033】
本発明の好ましい実施態様では、少なくとも一の他の抗菌剤を含む本発明によるワクチン組成物が提供される。
【0034】
本発明の好ましい実施態様では、前記薬剤は、第二の異なるワクチンおよび/又は免疫原性剤(例えば細菌性ポリペプチドおよび/又は多糖類抗原)である。
【0035】
本発明の他の態様によれば、微生物感染又は微生物感染により生じる状態の治療に用いるための、本明細書中に記載のポリペプチドが提供される。
【0036】
本発明の好ましい実施態様では、前記微生物感染は、ブドウ球菌感染である。
【0037】
本発明の好ましい実施態様では、微生物感染から生じる前記状態は、結核、細菌関連の食中毒、血液感染、腹膜炎、心内膜炎、骨髄炎、敗血症、皮膚疾患、髄膜炎、肺炎、胃潰瘍、淋病、連鎖球菌性咽頭炎、連鎖球菌関連の毒素ショック、壊死性筋膜炎、膿痂疹、ヒストプラスマ症、ライム病、胃腸炎、赤痢、細菌性赤痢および関節炎からなる群から選択される。
【0038】
本発明の他の態様によれば、本発明に記載のポリペプチド、核酸分子又はワクチン組成物の有効量にて、前記被検体を免疫化することを含む、被検体を免疫化する方法が提供される。
【0039】
本発明の好適な方法において、前記被検体はヒトである。
【0040】
本発明の他の好適な方法において、前記被検体は、動物、好ましくは家畜動物、例えばウシである。
【0041】
本発明の好適な方法において、前記家畜動物は、ブドウ球菌細菌細胞によって生じる細菌性乳腺炎に対してワクチン接種される。
【0042】
本発明の好適な方法において、前記家畜動物は、ヤギ動物(例えばヒツジ、ヤギ)である。
【0043】
本発明の好適な方法において、前記家畜動物は、ウシ動物(例えばウシ)である。
【0044】
ブドウ球菌乳腺炎は、家畜動物に感染し、抗生物質の投与による疾患の調整および乳汁収量の喪失に関して多くの費用が生じる深刻な状況である。本発明によるワクチンにより、細菌性、特にブドウ球菌性乳腺炎を費用効率良く管理することができる。
【0045】
本明細書中の説明および特許請求の範囲の全体にわたって、「を含む」および「含有する」なる言葉、そしてその変化形、例えば「を含んでいる」および「含む」は、「を含むがこれに限らない」ことを意味し、他の部分、添加剤、成分、整数又は工程を除くことを意図するものではない(除かない)。
【0046】
本明細書中の解説および特許請求の範囲の全体にわたって、前後関係で示さない限り、単数形は複数形を包含する。特に、不定冠詞を用いる場合、本明細書は、前後関係で示されない限り、複数形並びに単数形を考慮して理解される。
【0047】
本発明の特定の態様、実施態様又は実施例と関連して記述される特性、整数、特徴、化合物、化学的部分又は基は、適合しない場合を除き、本願明細書に記述される他のいかなる態様、実施態様又は実施例にあてはまると理解される。
【0048】
本発明の実施態様は、ここでは、実施例としてのみ以下の図を参照して記載される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】DivlBタンパク質は、示した多くのモデル位相的な分布を有する膜タンパク質であることが予測される。タンパク質のN末端(アミノ酸1から171)は細胞の内側に位置し、タンパク質のC末端(アミノ酸193から439)は膜の外側に露出している。黄色ブドウ球菌DivlBの予測される外部分(アミノ酸193から439)は、DivlB−1と呼ばれる断片に相当する。
【図2】図2aは、黄色ブドウ球菌8325の完全なDivlBヌクレオチド配列を例示する。図2bは、黄色ブドウ球菌8325のアミノ酸配列を例示し、ジーンバンクID番号ABD30258.1に対応する。
【図3】図3aはヌクレオチドを例示し、図3bは、アミノ酸193から439を包含する黄色ブドウ球菌DivlB(DiviB−1)の膜外断片のアミノ酸配列を例示する。
【図4】図4aはヌクレオチド配列を例示し、図4bはDivlB−2のアミノ酸配列を例示する。
【図5】DivlB−2ワクチン接種によって与えられる感染からの保護を例示する。
【図6】DivlB−2ワクチン接種によって与えられる感染からの保護を例示する。
【実施例】
【0050】
材料および方法
大腸菌における黄色ブドウ球菌からのDivlB−1断片の過剰発現のためのプラスミドの構築
断片DivlB−1を、プライマー5’GLUSh341Cおよび3’GLUSh341C(それぞれ配列プライマー1およびプライマー2に対応する)を用い、以下のPCR反応条件(94℃で4分間の1初期変性期間、94℃で30秒間の変性と45℃で30秒間のアニーリングと72℃で2.5秒間の伸長を30増幅サイクル、最後に72℃、4分間で増幅ラウンドの完了)で、黄色ブドウ球菌SH1000株(Horsburgh MJ, Aish JL, White IJ, Shaw L, Lithgow JK, Foster SJ:sigmaB modulates virulence determinant expression and stress resistance: characterization of a functional rsbU strain derived from Staphylococcus aureus 8325-4. J Bacteriol 2002, 184:5457- 5467)の染色体からPCR増幅した。プライマー5’GLUSh341Cおよび3’GLUSh341C内に2つの制限酵素部位、それぞれNcolおよびXholを操作した(配列内に下線で示す)。NcoIおよびXhoIにて消化した断片DivlB−1を、Novagen(カタログ番号69743−3)のpET−21d(+)の部位にクローニングし、DivlB−1断片の6×Hisタグ付加型を生成するpGL601と称する過剰発現プラスミドを生成した。後者は、組換えタンパク質断片の過剰発現のために大腸菌BL21に形質移入した。
【0051】
【化1】

【0052】
NcoIおよびXhoI部位でのレシピエントpET21d(+)レシピエントプラスミドベクターへの上記PCR増幅断片のクローニングにより、DivlB−1配列上流に2アミノ酸(メチオニンおよびアラニン)と、DivlB−1配列の下流に8アミノ酸(ロイシン、グルタミン酸および6つのヒスチジン)が添加された。この全領域は、ATG翻訳開始コドンからTGA翻訳停止コドン配列内で太字で示す)を生産するタンパク質断片を包含し、DivlB−2と名づけた。DivlB−2のDNA(図4a)およびタンパク質(図4b)配列を以下に示し、DivlB−1断片への補足ヌクレオチドに下線を付す。
【0053】
実施例
DivlB−2のワクチン接種はBalb/Cマウスを黄色ブドウ球菌感染から保護する
各実験において、6〜12週齢の10匹の雌Balb/C群に、以下のプロトコールに従ってDivlB−2をワクチン接種した。各動物は、50マイクロリットルの無エンドトキシンPBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4)および50マイクロリットルの完全フロイントアジュバント中50マイクログラムの組換えDivlB−2(およそ98%の純度)混合物から作製された100マイクロリットルの溶液にて抗原刺激した。2週間後に、動物は、50マイクロリットルの無エンドトキシンPBSおよび50マイクロリットルの不完全フロイントアジュバント中50マイクログラムの組換えDivlB−2(およそ98%の純度)混合物から作製された100マイクロリットルの溶液にて追加刺激した。1週後、動物に同一の追加刺激を与えた。各実験において、10匹の動物のコントロール群は、前記混合物が、DivlB−2組み換えタンパク質の代わりに、市販のKLHタンパク質(キーホールリンペットヘモシアニン)を含有したということを除いて同一のプロトコールに従って処置した。初回抗原刺激および追加刺激の注射は動物の後頸部の皮膚内に行った。
【0054】
2回目の追加刺激の1週間後に、動物は、1.1×10(±0.3×10)細胞の黄色ブドウ球菌株ニューマンを含有する100マイクロリットルの無エンドトキシンPBSの静脈内(尾静脈内)注射により感染させた。後者はブレインハートインフュージョン培地(BHI)中で早期静止期に増殖する培養物から調製し、次いで、同量のPBSにて3回洗浄した。
【0055】
10〜14日後に、動物はスケジュール1の頚椎脱臼により屠殺した。各動物から一対の腎臓を無菌条件で抽出し、無菌PBS中でホモジナイズした。腎臓ホモジネートの階段希釈はPBSにて実行し、BHI寒天プレートに播いた。10〜150のブドウ球菌コロニーを含むプレートを計数し、希釈物を補正した。腎臓における細菌細胞の数は、プレート上のコロニー形成単位(CFU)の数から推定した。DivlB−2のワクチン接種によって生じた感染からの保護の可能性の評価は、KLHをワクチン接種した動物およびDivlB−2をワクチン接種した動物の腎臓における黄色ブドウ球菌細胞の数の相違から決定した。相違の統計学上の有意性はマン−ホイットニー検定法を使用して算出した。DivlB−2ワクチン接種動物と比較して、KLHワクチン接種動物における有意に高い(p<0.05)数の黄色ブドウ球菌を保護として結論付けた。
【0056】
上記の実験のとDivlB−2ワクチン接種によって生じた感染からの保護の例示を、図5および図6に示す。各群の平均と、コントロールとワクチン接種動物との統計上の有意差を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)図2a、3a又は4aに示すヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチド、ないしはその抗原性断片、
ii)遺伝コードの結果として(i)で定められるヌクレオチド配列に縮重しているヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチド、
iii)図2b、3b又は4bに示す少なくとも一アミノ酸残基の付加、欠失又は置換によって変更されているアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、ワクチンとして使用されるポリペプチド
からなる群から選択されるポリペプチド。
【請求項2】
前記ポリペプチドが、図2aに示すヌクレオチド配列によってコードされる、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記ポリペプチドが、図2bのアミノ酸配列又はその抗原性部分によって表される、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記ポリペプチドが、図3aに示すヌクレオチド配列によってコードされる、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項5】
前記ポリペプチドが、図3bのアミノ酸配列又はその抗原性部分によって表される、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項6】
前記ポリペプチドが、図4aに示すヌクレオチド配列によってコードされる、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項7】
前記ポリペプチドが、図4bのアミノ酸配列又はその抗原性部分によって表される、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項8】
ワクチンとして使用するための請求項1から7のいずれか一項に記載のポリペプチドをコードする核酸分子。
【請求項9】
微生物感染に対するワクチン接種に用いられるワクチン組成物であって、
i)図2a、3a又は4aに示すヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチド、ないしはその抗原性断片、
ii)遺伝コードの結果として(i)で定められるヌクレオチド配列に縮重しているヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチド、
iii)図2b、3b又は4bに示す少なくとも一アミノ酸残基の付加、欠失又は置換によって変更されているアミノ酸配列を含むポリペプチド
からなる群から選択されるポリペプチドを含み、
このとき該組成物が場合によってアジュバントおよび/又は担体を含む、ワクチン組成物。
【請求項10】
前記組成物が、アジュバントおよび/又は担体を含む、請求項9に記載のワクチン組成物。
【請求項11】
前記微生物感染が、ブドウ球菌種、エンテロコッカス‐フェカーリス、結核菌、ストレプトコッカス基B、肺炎連鎖球菌、ヘリコバクターピロリ、ナイセリア属淋病、ストレプトコッカス基A、ライム病ボレリア、コクシジオイデス・イミチス、ヒストプラスマカプスラーツム、クレブシエラ属エドワーディ、髄膜炎菌タイプB、ミラビリス変形菌、フレキシナ赤痢菌、大腸菌、インフルエンザ菌、トラコーマ病原体、クラミジアニューモニエ、クラミジアシッタシ、野兎病菌、緑膿菌、バシラスアンスラシス、ボツリヌス菌、ペスト菌、鼻疽菌又は 類鼻疽菌からなる群から選択される細菌種によって引き起こされる、請求項9又は10に記載のワクチン組成物。
【請求項12】
前記細菌種が、表皮ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌、S.ホミニス、S.ヘモリチカス、S.ワルネリ、S.カピティス、S.サッカロリティカス、S.アウリキュラリス、S.シムランス、S.サプロフィチカス、S.コーニー、S.クシロサス、S.ハイカス、S.カプラエ、S.ガリナラム、S.インターメディウスからなる群から選択される、請求項11に記載のワクチン組成物。
【請求項13】
前記ブドウ球菌細胞が、黄色ブドウ球菌又は表皮ブドウ球菌である、請求項12に記載のワクチン組成物。
【請求項14】
前記ワクチン組成物が点鼻薬としての投与に適する、請求項11から13のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項15】
前記組成物が少なくとも一の更なる抗菌剤を含む、請求項11から14のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項16】
前記薬剤が、第二の異なるワクチンおよび/又は免疫原性剤である、請求項15に記載のワクチン組成物。
【請求項17】
微生物感染又は微生物感染により生じる状態の治療に用いるための、請求項1から7のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項18】
微生物感染又は微生物感染により生じる状態の治療に用いるための、請求項8に記載の核酸分子。
【請求項19】
前記微生物感染がブドウ球菌感染である、請求項17又は18に記載の使用。
【請求項20】
微生物感染から生じる前記状態が、結核、細菌関連の食中毒、血液感染、腹膜炎、心内膜炎、骨髄炎、敗血症、皮膚疾患、髄膜炎、肺炎、胃潰瘍、淋病、連鎖球菌性咽頭炎、連鎖球菌関連の毒素ショック、壊死性筋膜炎、膿痂疹、ヒストプラスマ症、ライム病、胃腸炎、赤痢、細菌性赤痢および関節炎からなる群から選択される、請求項17又は18に記載の使用。
【請求項21】
請求項1から16のいずれか一に記載のポリペプチド、核酸分子又はワクチン組成物の有効量にて、被検体を免疫化することを含む、被検体を免疫化する方法。
【請求項22】
前記被検体がヒトである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記被検体が家畜動物である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記家畜動物が、ブドウ球菌細菌細胞によって生じる細菌性乳腺炎に対してワクチン接種される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記家畜動物がヤギ動物である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記家畜動物がウシ動物である、請求項24に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−507116(P2013−507116A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532656(P2012−532656)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【国際出願番号】PCT/GB2010/001722
【国際公開番号】WO2011/042681
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(507148917)アブシンス・バイオロジクス・リミテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】Absynth Biologics Ltd
【住所又は居所原語表記】40 Leavygreave Road, Sheffield S3 7RD, United Kingdom
【Fターム(参考)】