説明

AS樹脂組成物

【解決手段】 (A)アクリロニトリル-スチレン共重合体樹脂(AS樹脂)100質量部に対して、(B)繊維状無機充填剤0.001〜1.0質量部を含有するAS樹脂組成物であって、前記組成物から得られる成形体が下記の各性質を満たしている、AS樹脂組成物。
(a)全光線透過率(JIS K6714)が80%以上;(b)落球衝撃度(実施例に記載の方法による)が20cm以上;(c)曲げ弾性率(ISO178)が3000MPa以上;(d)曲げ強度(ISO178)が100MPa以上;(e)荷重たわみ温度(1.80MPa)が80℃以上

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種光学用プラスチック製品、シート、フィルム等に利用できるシート状成形体用として適したAS樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン(GPPS)やAS樹脂の実用強度を高めるため、粒状乃至繊維状の充填剤を配合する技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、ポリスチレンに対して、炭酸カルシウム、硫酸バリウム及び酸化亜鉛から選ばれる粒状の無機充填剤を配合したスチレン重合体組成物の発明が開示されており、特許文献2には、ポリスチレンに対して、ポリブタジエン等のゴム状粒子と炭酸カルシウム等の粒状の無機粒子を配合したスチレン系重合体組成物の発明が開示されている。
【0004】
特許文献3の請求項1には、スチレン系樹脂100重量部に繊維状素材0.001〜4重量部を配合してなるスチレン系樹脂組成物の発明が記載されている。スチレン系樹脂については、スチレン等と他の共重合可能な化合物を併用してもよいことが記載されているが(段落番号11)、段落番号2には、AS樹脂等と比べた場合に実用強度が劣るという問題点が記載されていることから、スチレン系樹脂にはAS樹脂が含まれないことは明白である。実施例では、スチレン系樹脂としてポリスチレン(GPPS)のみが使用されている。
【0005】
特許文献4には、AS共重合体に対して、炭酸カルシウム、タルク、水酸化マグネシウム、クレー、シリカ、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等の粒状の無機充填剤を配合したAS共重合体組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−302121号公報
【特許文献2】特開平9−208767号公報
【特許文献3】特開平10−147676号公報
【特許文献4】特開平8−333494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スチレン系樹脂組成物の用途としては各種光学用プラスチック製品、シート、フィルムが知られているが、例えば、ノートパソコンに代表されるように最近のデジタル電化製品の薄肉化に伴い、特にシート状成形体にしたときには、より高い強度(特に衝撃に対する強度)が求められるようになっている。
【0008】
従来は、AS樹脂とごく少量の繊維状充填剤を組み合わせた組成物は知られておらず、本発明は、前記組成物であって、特にシート状の成形体にしたときに好ましい光学的性質や機械的性質等を得ることができる、AS樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、課題の解決手段として、
(A)アクリロニトリル-スチレン共重合体樹脂(AS樹脂)100質量部に対して、(B)繊維状無機充填剤0.001〜1.0質量部を含有するAS樹脂組成物であって、前記組成物から得られる成形体が下記の各要件を満たしている、AS樹脂組成物を提供する。
(a)全光線透過率(JIS K6714)が80%以上
(b)落球衝撃度(厚み3mmのプレートに対して112gの鉄球を落下させたとき、前記プレートが壊れない最大高さ)が20cm以上
(c)曲げ弾性率(ISO178)が3000MPa以上
(d)曲げ強度(ISO178)が100MPa以上
(e)荷重たわみ温度(1.80MPa)が80℃以上
【発明の効果】
【0010】
本発明の組成物から得られた成形体、特に薄肉成形体は、光学的性質、機械的性質(特に落球衝撃強度)、熱的性質が優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】落球衝撃強度の試験方法を説明するための図である。
【図2】落球衝撃強度の試験方法を説明するための図である。
【図3】落球衝撃強度の試験方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(A)成分のAS樹脂は、重量平均分子量(GPC法による。ポリスチレン換算値)が50,000〜200,000の範囲が好ましく、より好ましくは80,000〜150,000の範囲のものである。また、そのアクリロニトリル成分の含有量は、AS樹脂中、20〜28質量%が望ましい。20質量%以上の場合はAS樹脂の強度が高められ、28質量%以下の場合は組成物が黄変し難くなり、更には成形時の変色を防止できる。
【0013】
(B)成分の繊維状無機充填剤は、繊維径が0.05〜15μm、繊維長が2〜100μmであり、アスペクト比が5以上のものが好ましい。繊維径と繊維長の測定方法は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率5000倍で繊維径及び繊維長を確認する方法を適用する。
【0014】
(B)成分の繊維状無機充填剤はウィスカーが好ましく、ウィスカーは、ホウ酸アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸カリウム、酸化亜鉛、塩基性硫酸マグネシウム、マグネシア、ホウ酸マグネシウム、二ホウ化チタン、グラファイト、硫酸カルシウム、α−アルミナ、クリソタイル、ワラストナイト、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、酸化チタンからなるウィスカーから選ばれるものを用いることができる。
【0015】
(B)成分の繊維状無機充填剤は、シリコン系、チタン系、アルミニウム系、ジルコニウム系、ジルコアルミニウム系、クロム系、ボロン系、リン系、アミノ酸系、アミノシラン系等公知のカップリング剤で表面処理したものが好ましい。
【0016】
(A)成分のAS樹脂と(B)成分の繊維状無機充填剤の割合は、(A)成分100質量部に対して、(B)成分が0.001〜1.0質量部であり、好ましくは0.001〜0.5質量部、より好ましくは0.001〜0.1質量部、さらに好ましくは0.005〜0.05質量部である。
【0017】
本発明の組成物は、それから得られる成形体が下記の(a)〜(e)の全ての要件を満たしているものである。
【0018】
(a)全光線透過率(JIS K6714)は80%以上であり、好ましくは85%以上である;
(b)落球衝撃度(実施例に記載の測定方法による)は20cm以上である;
(c)曲げ弾性率(ISO178)は3000MPa以上であり、好ましくは3500MPa以上である;
(d)曲げ強度(ISO178)は100MPa以上である;
(e)荷重たわみ温度(1.80MPa)は80℃以上である。
【0019】
また本発明の組成物は、それから得られる成形体が、さらにヘーズ(JIS K6714)を15以下にすることもできる。
【0020】
本発明の組成物には、上記課題を解決できる範囲内にて、紫外線防止剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、着色剤、ブルーイング剤、滑剤、光拡散剤等の公知の樹脂用添加剤を含有することができる。
【0021】
本発明の組成物は、公知の樹脂用滑材を含有することができ、中でもステアリルアルコールが好ましい。
【0022】
本発明の組成物は、黄色度の抑制のため、ブルーイング剤としてアンスラキノン系誘導体等の公知の樹脂用染料を含有することができる。その含有量の範囲は0.5〜5ppmが好ましく、より好ましくは1〜3ppmである。
【0023】
本発明の組成物は、公知の樹脂用光拡散剤を含有することができる。具体的には、炭酸カルシウム、シリカ、酸化アルミニウム、ガラスビーズ等の無機質微粒子及び、アクリル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレン樹脂等の有機質微粒子が挙げられ、それらは平均粒子径1〜20μmの単体もしくは混合体である。
【0024】
本発明の組成物の製造方法としては、公知のドライブレンド法、マスターバッチ法、コンパウンド法が適用できる。
【0025】
本発明の組成物は、機械的性質、特に落球衝撃強度が優れているため、薄肉にしたときの加工性、取り扱い性、耐久性が優れており、厚み5mm以下、好ましくは0.1〜3mmのシート状の成形体用として適している。
【実施例】
【0026】
実施例及び比較例
表1に示す樹脂成分に対して充填剤成分をドライブレンドして、組成物を得た。得られた組成物を用いて下記の各測定試験をした。結果を表1に示す。
【0027】
(1)測定試験
(a)全光線透過率(%)及びへーズ(%)
各組成物を成形温度230℃で射出成形して、9cm×5cm×3mmの試験片を作製した。これらの試験片を用いて、JIS K6714に準拠して、全光線透過率(%)、ヘーズ(%)を測定し、透明性の指標とした。
【0028】
(b)落球衝撃強度(cm)
図1〜図3により、試験方法を説明する。図1は、落球衝撃試験に用いる治具1の斜視図であり、図中の数値は寸法(mm)を示している。治具1は、水平面上に置かれている。
【0029】
次に、図2に示すように、治具1上に試験片2〔(a)全光線透過率にて作製したものと同じもの〕を置く。そして、試験片2の中心に対して、その鉛直上の高さhの位置から、112gの鉄球3を落とす(図3)。
【0030】
このとき、試験片2が壊れない(ひび割れが生じたり、割れたり、くぼみが生じたり、欠けたりしない)最大高さ(h−h0)(cm)を測定した。h0は、基準点(0cm)を示し、鉄球3の中心位置である。
【0031】
(c)曲げ弾性率(MPa)及び(d)曲げ強度(MPa)
上記試験片を用いて、ISO178に準拠して測定した。
【0032】
(e)荷重たわみ温度(1.80MPa)(℃)
上記試験片を用いて、ISO75に準拠して測定した。
【0033】
(黄色度)
上記試験片を用いて、JIS K7105に準拠して測定した。
【0034】
(クリアー感)
上記試験片を用いて、目視にて評価、下記の基準で判断した。
○:濁りがほとんどない透明感,×:濁りのある透明感もしくは透明感なし
【0035】
(2)使用成分
(樹脂成分)
・AS樹脂:ダイセルポリマー社製 セビアンN 050SF
・PS1:ダイセルポリマー社製 GPPS HRM63C
・PS2:東洋スチレン社製 トーヨースチロールGP MW2C
・透明ABS樹脂:ダイセルポリマー社製 セビアンV T180
(充填剤成分)
・ホウ酸アルミニウムウイスカー1:四国化成社製 アルボレックスYS3A(繊維径0.5〜1.0μm、繊維長10〜30μm、アスペクト比10〜60、表面処理剤アミノシラン系)
・ホウ酸アルミニウムウイスカー2:四国化成社製 アルボレックスYS2B(繊維径0.5〜1.0μm、繊維長10〜30μm、アスペクト比10〜60、表面処理剤エポキシ系)
・沈降性硫酸バリウム:堺化学社製 B55(平均粒子径0.6μm)
・ゴム成分:カネカ社製 カネエース B56 (メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体)
・滑剤成分:ステアリルアルコール
・ブルーイング剤成分:三菱化学社製 アンスラキノン系誘導体 ブルーG
【表1】

実施例と比較例の対比から明らかなとおり、本発明の組成物から得られた薄肉成形体は、光学的性質、機械的性質及び熱的性質の全てが高いレベルでバランス良く具備されていた。
【0036】
実施例2と比較例1((B)成分なし)との対比から明らかなとおり、(A)成分のAS樹脂100質量部に対して、0.05質量部の(B)成分のウィスカー1を配合したことにより、要件(b)の落球衝撃強度(cm)は10cm上昇した。
【0037】
一方、比較例8、9と比較例7((B)成分なし)との対比から明らかなとおり、ポリスチレン(GPPS)100質量部に対して、0.05質量部の(B)成分のウィスカー1を配合した場合は、要件(b)の落球衝撃強度(cm)の上昇は7cmと8cmであった。
【0038】
AS樹脂がポリスチレンよりも機械的強度が高いことは公知であったが、AS樹脂とポリスチレンに同量のウィスカーを添加したときのシート状成形体において、AS樹脂を用いた成形体の方が落球衝撃強度の向上の程度が高くなることは、全く知られていなかった。
【0039】
さらに実施例2と比較例8、9は、要件(a)の透明性は比較例8、9の方が優れているものの、上記した要件(b)の違いのほか、要件(c)、(d)、(e)の違いが非常に大きかった。実施例2程度の透明性(要件(a))であれば、例えば、液晶ディスプレイ画面用途に適用した場合には、肉眼による画像の鮮明度には、比較例8、9のものと実質的に差はない。しかし、機械的強度(特に落球衝撃強度)や耐熱性が高いので、製造加工性が非常に良くなるほか、製品としての品質や耐久性も向上されることになり、特にノートパソコン等デジタル電化製品の薄肉化の要請にも十分に応えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の組成物は、ノートパソコン、OA機器、ゲーム機、携帯端末機等の光学シートとして利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アクリロニトリル-スチレン共重合体樹脂(AS樹脂)100質量部に対して、(B)繊維状無機充填剤0.001〜1.0質量部を含有するAS樹脂組成物であって、前記組成物から得られる成形体が下記の各要件を満たしている、AS樹脂組成物。
(a)全光線透過率(JIS K6714)が80%以上
(b)落球衝撃度(実施例に記載の方法による)が20cm以上
(c)曲げ弾性率(ISO178)が3000MPa以上
(d)曲げ強度(ISO178)が100MPa以上
(e)荷重たわみ温度(1.80MPa)が80℃以上
【請求項2】
さらに0.5ppm〜5ppm(質量基準)のブルーイング剤を含有する、請求項1記載のAS樹脂組成物。
AS樹脂組成物。
【請求項3】
厚み3mm以下のシート状の成形体用である、請求項1又は2記載のAS樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−248377(P2010−248377A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99564(P2009−99564)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】