説明

AS160タンパク質を伴うテストシステム、方法及び使用

本発明は、細胞のグルコース取り込み及び/又は形質膜へのGLUT4トランスロケーションを変化させる物質を同定する方法であって、AKT基質160kDaタンパク質(AS160タンパク質)を含むテストシステムとテスト物質とを接触させること、及び細胞の変化したグルコース取り込みを示すシグナルを検出することによって、テスト物質を、細胞のグルコース取り込みを変化させる物質と同定することを含む、方法;AKT基質160kDaタンパク質(AS160タンパク質)をコードする遺伝子と、該遺伝子の制御可能な発現を与える誘導性プロモーターとを含むテストシステム;細胞のグルコース取り込み及び/又は形質膜へのGLUT4トランスロケーションを改善する物質を同定するための該テストシステムの使用;並びに2型糖尿病のモデルにおけるAS160タンパク質の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞のグルコース取り込みを変化させる物質を同定する方法であって、AKT基質160kDaタンパク質(AS160)を含むテストシステムとテスト物質とを接触させること、及び細胞の変化したグルコース取り込みを示すシグナルを検出することによって、テスト物質を、細胞のグルコース取り込みを変化させる物質と同定することを含む、上記方法;AKT基質160kDaタンパク質(AS160)をコードする遺伝子と、該遺伝子の制御可能な発現を与える誘導性プロモーターとを含むテストシステム;細胞中へのグルコース取り込みを改善する物質の同定のための、AKT基質160kDaタンパク質(AS160)及び該テストシステムの使用;並びに2型糖尿病のモデルにおけるAKT基質160kDaタンパク質(AS160)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、単一の病気又は病態とは異なり、高血糖症及び他の徴候を特徴とする代謝障害である。世界保健機関は、3つの主要な形態の糖尿病:1型、2型、及び妊娠糖尿病(妊娠中に生じる)を認めており、これらは、同様の徴候、症状、及び結果を有するが、異なる原因及び母集団分布を有する。最終的に、全ての形態は、膵臓のβ細胞が高血糖を防ぐのに十分なインスリンを産生できないことに起因する。
【0003】
1型は、通常、インスリンを産生する膵β細胞の自己免疫破壊に起因する。2型は、特に、脂肪組織、肝臓及び骨格筋を含むインスリン感受性組織の、組織全体にわたるインスリン抵抗性を特徴とし、大きく異なり;それは、時には、β細胞機能の喪失へと進行する。妊娠糖尿病は、妊娠ホルモンによって引き起こされるインスリン抵抗性を伴う点で、2型糖尿病と類似している。
【0004】
1型及び2型は、不治の慢性病態であるが、処置可能であり、通常、食事療法とインスリン補充を含む薬剤との組み合わせによって管理される。
【0005】
糖尿病は、低血糖症、ケトアシドーシス又は非ケトン性高浸透圧性昏睡などの多くの合併症を引き起こし得る。重篤な長期的な合併症としては、心臓血管疾患(二倍のリスク)、慢性腎不全(糖尿病性腎症は、先進国世界の成人における透析の主要な原因である)、網膜損傷(これは、失明へ至り得、先進国世界の非高齢者における成人失明の最も有意な原因である)、神経損傷(いくつかの種類の)、並びに勃起障害(インポテンス)及び治癒不良を引き起こし得る、微小血管損傷が挙げられる。創傷の、特に足の、治癒不良は、切断を必要とし得る壊疽へ至り得る−先進国世界の成人における非外傷性切断の主要原因。
【0006】
インスリンは、血液から大部分の細胞(主として、筋肉及び脂肪細胞)中へのグルコースの取り込みを調節する主要なホルモンであるため、インスリンの欠乏又はその受容体の非感受性は、糖尿病の全ての形態において主要な病因となる。インスリンは、血糖値の上昇に反応して(例えば、食後に)膵臓中のβ細胞によって血液中へ放出される。インスリンは、大部分の体細胞(約2/3が通常の推定値であり、これらには筋肉細胞及び脂肪組織が含まれる)が血液からグルコースを吸収することを可能にする。
【0007】
2型糖尿病は、不完全なインスリン分泌と、インスリン感受性組織の、特に、脂肪組織、肝臓及び骨格筋の、インスリン抵抗性又は低下したインスリン感受性との組み合わせに起因する。初期段階において、主な異常は、血液中のインスリンの上昇したレベルを特徴とする、低下したインスリン感受性である。この段階では、高血糖は、インスリン感受性を改善する又は肝臓によるグルコース産生を低下させる種々の手段及び薬剤によって逆転させることができるが、疾患が進行するにつれて、インスリン分泌の欠陥は悪化し、インスリンの補充療法が、しばしば必要となる。
【0008】
通常、2型糖尿病は、先ず、身体活動を変化させる試み、食事(一般的に、炭水化物摂取量を減らす)、及び減量によって処置される。必要であれば、通常の次の段階は、経口抗糖尿病薬での処置である。インスリン産生は、2型糖尿病においては初期には中等度にしか害されないので、経口投薬が、インスリン産生の改善に、肝臓による不適切なグルコース放出の調節に、及びインスリン抵抗性の実質的な減衰に、依然として使用できる。
【0009】
初期段階における糖尿病の適切な処置、特に、脂肪組織、肝臓及び骨格筋のインスリン感受性の改善が、疾患の進行を長引かせ、遅延させ及び/又は妨げ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の第1の目的は、グルコース代謝にかかわる分子背景をよりよく理解し、従って細胞の、特に主要なインスリン感受性組織である骨格筋、脂肪組織及び/又は肝臓の細胞の、インスリン感受性を改善する新規な可能性のある薬物をよりよく探策するのを補助することであった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
TBC1D4としても公知のAS160(AKT基質160kDa)は、脂肪細胞及び骨格筋細胞においてAKTによってインスリンに応答してリン酸化される。最も興味深いことには、AS160の活性化は、損なわれたGLUT4トランスロケーションを伴う糖尿病患者において減少する。従って、AS160は、インスリンでの刺激後の、AKTシグナル伝達カスケードとGLUT4のトランスロケーションとのリンクを提供し得る。
【0012】
脂肪細胞及び骨格筋細胞における全長AS160の役割は、既に調査及び記載されている。文献によれば、全長AS160の過剰発現は、基底の又はインスリン刺激されたGLUT4表面対全体分布を変化させず、このことは、AS160の量は律速的ではないようであることを示している{Zeigerer, 2004 21/同上;Sano, 2003 7/同上}。筋細胞におけるAS160タンパク質の機能を調べるために、AS160を安定及び誘導発現するラット骨格筋細胞株を樹立した。AS160の過剰発現は、インスリンでの刺激後に2−デオキシグルコース取り込みの顕著な増加を誘導した。インスリン媒介2−デオキシグルコース取り込みは、ウォルトマンニンでほぼ完全に抑止され、このことは、AKTがAS160タンパク質の活性化に関与することを示している。統合すると、これらのデータは、高感度細胞ベースハイスループットスクリーニングアッセイの開発についての基礎を提供している。
【0013】
インスリンは、脂肪及び筋細胞中へのグルコースの取り込みを誘導する。インスリンのその受容体(IR)への結合は、ホスファチジルイノシトール−3−キナーゼ(PI3K)の活性化、続いてAKT(PKB、プロテインキナーゼB)及びAKTの下流エフェクターの活性化をもたらす。このプロセスにおける重要な事象は、形質膜へのGLUT4/SLC2A4のトランスロケーションであり、これは、細胞中へのグルコースの取り込みを能動的に調節する{Watson, 2006 9/同上}。この輸送プロセスは、AS160によって一部媒介される。
【0014】
AS160(TBC1D4)は、3T3L1脂肪細胞においてGLUT4輸送のインスリン刺激調節に決定的に関与するAKT基質と最近同定された{Kane, 2002 10/同上}。さらなる研究によって、AS160はまた、マウス、ラット及びヒトの骨格筋において役割を果たすことが実証された{Bruss, 2005 15/同上;Deshmukh, 2006 14/同上;Treebak, 2006 13/同上}。インスリン、収縮又はAICAR(5−アミノイミダゾール−4−カルボキサミド1β−D−リボヌクレオシド、AMPKアクチベータ)は、AKTリン酸化について予測される特徴的モチーフ(RXRXXS/T)にある2つの部位(Ser588及びThr642)においてAS160のリン酸化を増加させる{Kane, 2002 10/同上}。興味深いことには、AS160活性化は、損なわれたGLUT4トランスロケーションを伴う2型糖尿病を有する患者において低下する{Karlsson, 2005 11/同上}。公開データは、脂肪細胞における全長AS160の過剰発現は、基底の又はインスリン刺激されたGLUT4表面対全体分布を変化させなかったことを報告しており、このことは、AS160の量は律速的ではないようであることを示している{Zeigerer, 2004 21/同上;Sano, 2003 7/同上}。4個の突然変異したリン酸化部位を含む突然変異AS160を用いての実験は、GLUT4トランスロケーションが著しく低下することを示した{Sano, 2003 7/同上}。AS160の顕著な特徴は、Rabタンパク質についてのGTPアーゼ活性化ドメインの存在である。これらの小さなG−タンパク質は、膜輸送のために必要とされる。AS160の機能的GAPドメインは、GLUT4トランスロケーションについて必要とされる{Eguez, 2005 8/同上}。その一方で、インスリンの非存在下で、AS160のGAPドメインはその不活性GDP結合状態で重要なRabタンパク質を維持するというかなりの証拠がある。インスリンでの刺激で、AS160はリン酸化され、これは、次に、そのGAP活性を抑制し、Rab−GDPのその活性GTP結合型への変換をもたらし、それによって、形質膜へのGLUT4含有小胞の輸送及び形質膜とのドッキングを可能にする。AS160がGLUT4小胞と直接関連するかどうかの疑問は、依然として論争の的である{Kane, 2002 10/同上;Kane, 2002 10/同上;Larance, 2005 20/同上}。
【0015】
さらに、AS160媒介効果への様々なRabタンパク質の寄与は、現在、脂肪細胞及び筋細胞中において調べられている{Ishikura, 2007 140/同上}。
【0016】
その上、最近、TBC1D1と呼ばれる密接に関係しているタンパク質が、マウスゲノム中において確認された{Ishikura, 2007 140/同上;Roach, 2007 145/同上}。このタンパク質はまた、可能性の高いAKT基質であり、GLUT4トランスロケーションプロセスに関与するようである。しかし、AKTとGLUT4小胞との間の分子相互作用の様式は、不明のままである。
【0017】
驚くべきことに、脂肪細胞及び筋細胞を使用して得られた公開データとは対照的に、本発明者の研究は、GLUT4mycを同時発現するラット筋芽細胞株における全長AS160の過剰発現は、インスリン刺激グルコース取り込み速度を顕著に高めることを示した。
【0018】
効果のないインスリン作用は2型糖尿病の特徴であるので、AS160は、インスリン感受性組織におけるインスリン抵抗性の分子基礎を研究するための新規な標的を提供する。さらに、AS160は、関連組織における、グルコース取り込み、従ってインスリン感受性を改善し得る物質を同定するために使用され得る。
【0019】
本発明者はまた、AS160を伴うテストシステムが、高グルコース条件下での細胞のグルコース取り込みを研究するために使用され得ることを見出した。これは、糖尿病モデルにとって、又は糖尿病の処置及び/又は予防に適した治療薬(therapeutic)の同定にとって、特に重要であり得、何故ならば、この疾患は、血液中のグルコースレベルの増加を特徴とするためである。従って、この条件(高グルコース)下でグルコース取り込みを変化させることができる、特に改善することができる物質をテストすることは、新規な治療薬の同定に有益であり得る。
【0020】
従って、AS160は、細胞のグルコース取り込みを変化させる、特に増加させる、従って2型糖尿病の処置又は予防についての可能性を有する、物質を同定する方法において使用され得る。
【0021】
従って、本発明は、第1の局面において、以下を提供する:
細胞のグルコース取り込み及び/又はGLUT4トランスロケーションを変化させる物質を同定する方法であって、
(a)AKT基質160kDaタンパク質(AS160タンパク質)を含むテストシステムとテスト物質とを接触させること、及び
(b)細胞の変化したグルコース取り込みを示すシグナルを検出することによって、テスト物質を、細胞のグルコース取り込み及び/又はGLUT4トランスロケーションを変化させる物質として、同定すること
を含む、方法。
【0022】
「細胞のグルコース取り込みを変化させること」は、本発明の文脈において、細胞のグルコース取り込みの変化、増加又は減少のいずれかを意味する。好ましくは、細胞のグルコース取り込みを、増加させる。
【0023】
本発明の文脈において、(テスト)物質と接触された細胞のグルコース取り込みが、コントロール(例えば、(テスト)物質と接触されていない同一の細胞)のそれと比べて、それぞれ、有意により低いか又はより高い場合、細胞のグルコース取り込みは、コントロールと比較して、変化している、即ち減少している又は好ましくは増加している。スチューデントt検定又はカイ二乗検定などの、2つの値が互いに有意に相違するかどうかを評価するための統計学的手順は、当業者に公知である(好適なテスト方法については実施例も参照のこと)。
【0024】
増加したグルコース取り込みの好ましい実施態様において、細胞のグルコース取り込みは、総計でコントロールの少なくとも110%、好ましくは少なくとも125%、より好ましくは少なくとも150%、160%、170%、180%又は190%、なおより好ましくは少なくとも200%、最も好ましくは少なくとも300%に達する。
【0025】
上で詳述したように、2型糖尿病の処置又は予防のためには、インスリン感受性組織のグルコース取り込みを修飾することが特に重要である。従って、本発明の方法は、少なくとも1種、好ましくは少なくとも2種、より好ましくは少なくとも3種又は少なくとも4種又は少なくとも5種又は少なくとも6種のインスリン感受性組織中のグルコース取り込みを変化させる、好ましくは増加させる、物質の同定を可能にすることが好ましい。インスリン感受性組織の例としては、非限定的に、脂肪組織、肝臓、骨格筋、膵臓組織、心筋層、血管平滑筋及び活動中の乳腺が挙げられる。
【0026】
しかし、6種の主要なインスリン感受性組織は、脂肪組織、肝臓 骨格筋、心臓、脳及び膵臓組織である。従って、前記物質は、これらの組織の少なくとも1、2、3、4、5若しくは6種又はそれ以上、即ち脂肪組織、骨格筋、心臓、脳、膵臓組織及び/又は肝臓中におけるグルコース取り込みを、好ましくは変化させ、より好ましくは増加させる。
【0027】
グルコース取り込みが、1種の組織において、変化する、好ましくは増加する場合、これは、例えば、脂肪組織、肝臓、心臓、脳、膵臓組織又は骨格筋のいずれかであり得る。
【0028】
グルコース取り込みが、2種の組織において、変化する、好ましくは増加する場合、これは、例えば、
脂肪組織及び肝臓;
脂肪組織及び骨格筋;又は
肝臓及び骨格筋、又は上記に列挙される6種の主要なインスリン感受性組織のうちの2種の任意の他の組み合わせであり得る。
【0029】
グルコース取り込みが、3種の組織において、変化する、好ましくは増加する場合、これは、例えば、脂肪組織、肝臓及び骨格筋、又は上記に列挙される6種の主要なインスリン感受性組織のうちの3種の任意の他の組み合わせであり得る。
【0030】
グルコース取り込みが、4種の組織において、変化する、好ましくは増加する場合、これは、例えば、脂肪組織、肝臓、骨格筋及び脳、又は上記に列挙される6種の主要なインスリン感受性組織のうちの4種の任意の他の組み合わせであり得る。
【0031】
グルコース取り込みが、5種の組織において、変化する、好ましくは増加する場合、これは、例えば、脂肪組織、肝臓、骨格筋、脳及び心臓、又は上記に列挙される6種の主要なインスリン感受性組織のうちの5種の任意の他の組み合わせであり得る。
【0032】
脂肪組織、肝臓、心臓、脳、膵臓組織及び骨格筋中に存在する主要な細胞型は、それぞれ、脂肪細胞、肝細胞、心筋細胞、神経細胞、膵臓細胞、ベータ細胞及び骨格筋細胞である。従って、前記物質は、これらの細胞型の少なくとも1、2又は3種、即ち脂肪細胞、肝細胞及び/又は骨格筋細胞中におけるグルコース取り込みを、好ましくは変化させ、より好ましくは増加させる。
【0033】
グルコース取り込みが、1種の細胞型において、変化する、好ましくは増加する場合、これは、例えば、脂肪細胞、肝細胞、心筋細胞、神経細胞、膵臓細胞、ベータ細胞又は骨格筋細胞中においてであり得る。
【0034】
グルコース取り込みが、2種の細胞型において、変化する、好ましくは増加する場合、これは、例えば、
脂肪細胞及び肝細胞;
脂肪細胞及び骨格筋細胞;又は
肝細胞及び骨格筋細胞、又は上記に列挙される6種の主要なインスリン感受性組織中に存在する主要な細胞型の任意の他の組み合わせであり得る。
【0035】
グルコース取り込みが、3種の細胞型において、変化する、好ましくは増加する場合、これは、例えば、脂肪細胞、肝細胞及び骨格筋細胞、又は上記に列挙される6種の主要なインスリン感受性組織中に存在する上記に列挙される主要な細胞型の任意の他の組み合わせであり得る。
【0036】
グルコース取り込みが、6種の主要なインスリン感受性組織について上記に列挙されるような主要な細胞型の4種、5種又はそれ以上において、変化する、好ましくは増加する場合、これは、それらの細胞型の4種、5種又はそれ以上の任意の組み合わせであり得る。
【0037】
上記で詳述したように、本発明の方法は、AS160タンパク質を含むテストシステムを伴う。
【0038】
さらに、下記に詳述するように、タンパク質中に突然変異が存在し得る。
【0039】
AS160(AKT基質160kDa;NM_014832(NCBI))は、当初、3T3脂肪細胞中のプロテインキナーゼAKTの基質として同定された(Kane et al., 2002)。本出願の文脈において、AS160又はAS160全長が参照される場合、上記に引用される刊行物において議論されるように、アイソフォーム1が意味される。最近同定されたアイソフォーム2又は3(AS160アイソフォーム1のエクソン11(アイソフォーム2)又は11及び12(アイソフォーム3)を欠いている)が意味される場合、それらは、アイソフォーム2又はアイソフォーム3(下記を
参照のこと)と常に明らかにされる。
【0040】
ヒトAS160遺伝子(遺伝子ID:9882)の配列は、当技術分野において公知であり、NCBIデータベースにてNC_000013.9で検索され得る。ヒトAS160遺伝子は、第13染色体、13q22.2に配置されている。前記遺伝子のコーディング核酸配列は、番号NM_014832(配列番号1)でNCBIデータベースから検索され得る。誘導されるヒトタンパク質配列は、番号NP_055647.2で検索され得る。上記の配列は、NCBIデータベースから検索され得る。NCBIは、National Center for Biotechnology Information(郵便住所:National Center for Biotechnology Information, National Library of Medicine, Bethesda, MD 20894, USA;webアドレス:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)である。
【0041】
本明細書において意味されるようなAS160とは対照的に、AS160の新規のアイソフォーム2をコードする遺伝子において、エクソン11及び12が、全長AS160遺伝子と比較して欠けている。ヒト遺伝子の場合、アミノ酸678〜740をコードするヌクレオチドが、配列NM_014832(NCBIデータベースを参照のこと)によって規定されるヒト全長AS160と比較して欠けている。さらに、2つのミスマッチが、位置nt 606(サイレント)及びnt 3827(Ala→Val)で確認された。さらに、1つのクローンは、3bp欠失(nt 2594−2596)を含有し、これはまた、ヒト胎盤cDNAにおいても見られたが、ヒト脳cDNAにおいては見られなかった。使用した、エクソン11及び12を欠いているアイソフォーム2の発現クローンについて、欠失された3bp配列を、NM_014832(NCBI)の全長配列により厳密に似させるために、再導入した。
【0042】
本明細書において意味されるようなAS160とは対照的に、AS160のアイソフォーム3をコードする遺伝子において、エクソン12が、AS160遺伝子と比較して欠失されている。このエクソンは、NM_014832(NCBIデータベースを参照のこと)に関してアミノ酸733〜740に対応している。
【0043】
研究によって、AS160はまた、マウス、ラット及びヒトの骨格筋において役割を果たすことが実証された。インスリン、収縮又はAICAR(5−アミノイミダゾール−4−カルボキサミド1β−D−リボヌクレオシド、cAMP依存性プロテインキナーゼ(cAMPK)アクチベータ)は、AKTリン酸化について予測される特徴的モチーフ(RXRXXS/T)にある2つの部位(Ser588及びThr642)においてAS160のリン酸化を増加させる(Kane et al.、前述)。AS160の顕著な特徴は、Rabタンパク質についてのGTPアーゼ活性化ドメインの存在である。これらの小さなG−タンパク質は、膜輸送のために必要とされる。この文脈において、最近のデータは、AS160が、AKTの下流のシグナルとGLUT4のインスリン刺激トランスロケーションとをリンクするという証拠を提供している(Sano et al., 2003)。AS160活性化は、II型糖尿病を有する患者において低下し、損なわれたGLUT4トランスロケーションが生じる(Karlsson et al., 2005b)。脂肪細胞における全長AS160の過剰発現は、基底の又はインスリン刺激されたGLUT4表面対全体分布を変化させず、このことは、AS160の量は律速的ではないようであることを示している(Zeigerer et al., 2004;Sano et al., 2003)。突然変異体AS160(4個の突然変異したリン酸化部位を含有する)を用いての実験によって、GLUT4トランスロケーションが著しく低下することが示された(Sano et al., 2003)。さらに、AS160の機能的GAP(GTPアーゼ活性化タンパク質)ドメインは、GLUT4トランスロケーションに必要とされる。
【0044】
さらに、配列番号2に従う配列と比較すると、短いミスマッチがAS160タンパク質中に存在し得る。短いミスマッチは、5個までの隣接するアミノ酸、好ましくは4個までの、より好ましくは3個までの、なおより好ましくは2個までの、最も好ましくは1個までの隣接するアミノ酸の付加、欠失、又は置換に関係するように意味される。天然のAS160タンパク質内には、配列番号2と比較して、5個までの付加、欠失、及び/又は置換、好ましくは4個まで、より好ましくは3、2又は1個までの付加、欠失、及び/又は置換が存在し得る。
【0045】
典型的な欠失及び置換は、上述のもの、即ちヒトAS160遺伝子のnt 2594−2596によってコードされるものに対応する位置での1個のアミノ酸の欠失、又はヒトAS160遺伝子のnt 3827−3829によってコードされるものに対応する位置での置換(例えば、Ala→Val)である。AS160タンパク質又はこれをコードする核酸はまた、哺乳動物、例えばサル、齧歯動物(例えば、マウス又はラット)、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、又は鳥類、例えばニワトリ、又は両生類、例えばカエルを含むがこれらに限定されない、ヒト以外の種から誘導され得ることが意図されることが注意され;しかし、哺乳類又はヒトのアミノ酸及び核酸配列が好ましい。本明細書において明記されるヒト配列の位置に対応する、ヒト以外の種のAS160又はAS160様タンパク質配列中における位置は、当業者に公知の配列アライメントによって決定され得る。
【0046】
本発明の一実施態様において、AS160タンパク質は、天然のAS160タンパク質の配列(例えば、配列番号2)、並びにC及び/又はN末端付加物、例えば下記に定義されるような該タンパク質に対して異種の多くとも30、25、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2、若しくは1個のアミノ酸の短いC及び/又はN末端配列を含み得る又はからなり得る。
【0047】
従って、特徴「AS160タンパク質」は、例えば、以下に関する:
1)配列番号1に従う核酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上の配列相同性を含むか又は有する核酸によってコードされるタンパク質、
2)配列番号1に従う核酸配列を含むか又は有する核酸によってコードされるタンパク質、又は
3)ストリンジェンシーな条件下で配列番号1に従う核酸配列を有する核酸とハイブリダイズする核酸によってコードされるタンパク質、又は
4)配列番号2に従うアミノ酸配列を有するタンパク質、又は
5)配列番号2と95%以上、好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、好ましくは99.5%以上の配列相同性のアミノ酸配列を有するタンパク質、
8)上記1〜7で定義されたAS160タンパク質の1つの機能的フラグメント又は機能的誘導体、
上記タンパク質は、上記及び下記において特定されるAS160タンパク質の機能的特徴の少なくとも1つを好ましくは有する。
【0048】
フラグメントは、全長タンパク質と比較した場合、1つ、2つ又はそれ以上のアミノ酸の、1つ又はそれ以上の終末端(n及び/又はc末端)又は内部欠失を有するタンパク質である。タンパク質の機能的フラグメントは、全長タンパク質の機能的特徴の少なくとも1つ、好ましくは2つ以上を有する、このタンパク質の任意のフラグメントである。
【0049】
用語、タンパク質の誘導体は、欠失でない、天然形態と比較しての(本願の文脈において、特に、配列番号2に従うAS160と比較しての)タンパク質の任意のタイプの修飾を含む。タンパク質の機能的誘導体は、未修飾タンパク質の機能的特徴の少なくとも1つ、好ましくは2つ以上を有する、このタンパク質の任意の誘導体である。
【0050】
本発明はまた、AS160タンパク質のフラグメントの機能的誘導体を含む。
【0051】
アミノ酸又は核酸配列の相同性の測定は、例えば、プログラムGAP(GCG Program Package, Genetic Computer Group 1991)又は当技術分野において公知のプログラムの任意の他のものの使用によって行われ得る。
【0052】
単離されたポリヌクレオチド及びオリゴヌクレオチドは、種々のストリンジェンシー条件でのハイブリダイジングのために使用され得る。
【0053】
両方の分子の一本鎖形態が、好適な反応(「アニーリング」又はハイブリダイゼーション)条件(周囲の媒体のイオン強度及び温度に依存する)下でアニールして新たな二本鎖核酸分子を形成し得る場合、核酸分子は、別の核酸分子にハイブリダイズし得る。ハイブリダイゼーションは、2つのアニーリング核酸分子が、相補配列を含むことを必要とする。選択されるアニーリング条件、ストリンジェンシー条件に依存して、二本鎖形成を妨げることなく、塩基間のミスマッチが可能である。
【0054】
用語、ストリンジェンシーは、2つの一本鎖核酸分子のハイブリダイゼーション又はアニーリングの特異性に影響を与える反応条件を表わす。ストリンジェンシー、従って反応の特異性は、特に、反応のために使用される温度及びバッファー条件に依存し:ストリンジェンシー、従って特異性は、例えば、反応温度を高めること及び/又は反応バッファーのイオン強度を低下させることによって、増強され得る。核酸のハイブリダイゼーションについての好適なストリンジェンシー条件は、長さ、核酸のタイプ及びそれらの相補性の程度に依存する。該変数は、当該技術水準において公知である。2つのアニーリングヌクレオチド配列間の類似性又は相同性の程度が高いほど、それらの配列を有する核酸のハイブリダイゼーション産物についての融解温度は高くなる。核酸ハイブリダイゼーションの相対的安定性は、二本鎖を形成する一本鎖核酸のタイプに依存する:RNA:RNA>DNA:RNA>DNA:DNA。長さが100ヌクレオチドを超えるハイブリダイゼーション産物について、融解温度を計算するための等式が、当技術分野において公知である。より短いハイブリダイゼーション産物(例えば、オリゴヌクレオチド)について、融解温度の計算は、長さに依存し、ここで、ミスマッチがより重要となる。
【0055】
例えば、ハイブリダイゼーションが2×SSC溶液中室温で行われる場合、低ストリンジェンシー条件(従って、低反応及びハイブリダイゼーション特異性)が存在する。高ストリンジェンシー条件は、例えば、0.1×SSC及び0.1%SDS溶液中68℃でのハイブリダイゼーション反応を含む。
【0056】
本発明の文脈において、用語「ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズすること」は、ハイブリダイゼーション反応及び続いての洗浄手順の実行についての条件をいい、ここで、一定の相補性を有するヌクレオチド配列は典型的に依然としてハイブリダイズされたままである。核酸の所定のセットについてのこのような条件の選択は、当業者の技術の範囲内にあり、好適なプロトコルは、例えば、“Current Protocols in Molecular Biology”, John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1−6.3.6などの、標準方法についての周知の文献において見られ得る。
【0057】
本発明の種々の局面の範囲内でのストリンジェンシー条件下でのハイブリダイゼーションは、好ましくは、以下であるべきと理解される:
標識プローブと分析しようとする核酸サンプルとを65℃で、又はオリゴヌクレオチドプローブの場合は、オリゴヌクレオチドとサンプルとからなる二本鎖のアニーリング又は融解温度より5℃下で(アニーリング及び融解温度は、以下において同義語であると理解される)、一晩、50mM Tris pH 7.5、1M NaCl、1%SDS、10%デキストラン硫酸、0.5mg/ml変性サケ又はニシン精子DNA中、ハイブリダイズさせる。
室温で2×SSC中において10分間洗浄する。
65℃で(又は、オリゴヌクレオチドの場合:アニーリング温度より5℃下で)1×SSC/0.1%SDS中において30分間洗浄する。
65℃で(又は、オリゴヌクレオチドの場合:アニーリング温度より5℃下で)0.1×SSC/0.1%SDS中において30分間洗浄する。
【0058】
一実施態様において、AS160タンパク質は、配列番号1の配列を含むか、から本質的になるか、又はからなる、核酸によってコードされる。「から本質的になる」は、配列番号1によってコードされる配列と、該タンパク質に対して同種又は異種の多くとも30、25、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2、若しくは1個のアミノ酸の短いC及び/又はN末端配列とからなるタンパク質をコードする核酸に関する。これらの配列は、遺伝子操作、例えば特定の制限部位の使用から生じ得るか、又はタンパク質の精製のために必要とされ得る;例えば、Hisタグ、Strepタグ、Argタグ、c−mycタグ又はFlagタグなどのタグ。
【0059】
特徴「異種アミノ酸」又は「タンパク質に対して異種のアミノ酸」は、天然のAS160タンパク質又はそのスプライス変異体に隣接して配置されるそのアミノ酸とは異なる任意のアミノ酸をいう。従って、少なくとも1つの異種アミノ酸を含むAS160タンパク質は、天然のAS160タンパク質又はそのスプライス変異体とは異なるタンパク質をいう。
【0060】
新規なAS160タンパク質の機能的特徴は、本明細書に明記されるAS160タンパク質の任意の特徴であり得る。このような機能的特徴の例には、例えば、以下が含まれるが、これらに限定されない:その組織分布、インスリン刺激シグナル伝達調節におけるそのかかわり、例えば、インスリン刺激グルコース取り込みの調節及び特に刺激、AKTのリン酸化の調節及び特に刺激、PI3K(PI3キナーゼ)及びMEKK/ERKキナーゼの活性の調節及び特に刺激、形質膜へのGLUT4のトランスロケーションの調節及び特に刺激、AS160タンパク質と当技術分野において公知の他のタンパク質との相互作用、例えば、AS160タンパク質とGLUT4との相互作用、並びに特に本出願の文脈及び下記の実験結果において記述されるような、その機能的特徴の任意の他のもの。
【0061】
好ましい実施態様によれば、テストシステムは細胞中にある。細胞ベースのシステムは有利であり、何故ならば、それは細胞及び細胞機構、例えばインスリンの下流の又はAS160タンパク質の下流若しくは上流のシグナル伝達構成要素を増やすことによって、テストシステムの容易な増幅を可能にするためであり、何故ならば、これらは細胞の変化したグルコース取り込みを示すシグナルを検出するために使用され得るためである。
【0062】
本発明の文脈において好適な細胞の例としては、非限定的に以下が挙げられる:L6細胞、HEK 293、745−A、A−431、心房筋細胞、BxPC3、C5N、Caco−2、Capan−1、CC531、CFPAC、CHO、CHO K1、COS−1、COS−7、CV−1、EAHY、EAHY 926、F98、GH3、GP&envAM12、H−295 R、H−4−II−E、HACAT、HACAT A131、HEK、HEL、HeLa、Hep G2、High Five、Hs 766T、HT29、HUV−EC R24、HUV−EC−C、IEC 17、IEC 18、ジャーカット(Jurkat)、K 562、KARPAS−299、L 929、LIN 175、MAt−LYLU、MCF−7、MNEL、MRC−5、MT4、N64、NCTC 2544、NDCK II、Neuro 2A、NIH 3T3、NT2/D1、P19、初代神経細胞、初代樹状細胞、初代ヒト又は哺乳類筋芽細胞、初代ケラチノサイト、SF9、SK−UT−1、ST、SW 480、SWU−2 OS、U−373、U−937、横紋筋肉腫(RD)、及びY−1。他の好適な細胞は当業者に公知である。1つの好ましい例は、L6などの筋芽細胞である。
【0063】
動物又はヒトから直接培養される細胞は、初代細胞として公知である。腫瘍から誘導されるいくつかの細胞株を除いて、大抵の初代細胞培養物は、限られた寿命を有する。一定数の集団倍加後、細胞は、一般に生存能力を保持したまま、老化のプロセスを受け分裂を停止させる。
【0064】
樹立又は不死化細胞株は、ランダム突然変異又は意図的な修飾、例えば、テロメラーゼ遺伝子の人工的発現を通して、無期限に増殖する能力を獲得している。特定の細胞型を表す多数の十分に樹立された細胞株が存在し、好適な細胞株を選択することは、当業者の知識の範囲内にある。
【0065】
従って、本発明の好ましい実施態様において、細胞は細胞株である。細胞株は、単一の共通の祖先細胞から誘導され、従って遺伝子的に同一である、培養において増殖された細胞の集団である。好ましい細胞株は、L6細胞(実施例を参照のこと)、HEK 293細胞(初代ヒト胎児腎臓)、3T3細胞(マウス胚性線維芽細胞)、CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣)、COS−7細胞(アフリカミドリザル細胞株)、HeLa細胞(ヒト類上皮子宮頸癌)、ジャーカット細胞(ヒトT細胞白血病)、BHK 21細胞(ハムスター正常腎臓、線維芽細胞)、及びMCF−7細胞(ヒト乳癌)である。
【0066】
骨格筋、肝臓又は脂肪組織の好ましい細胞株としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:
骨格筋:C2C12(マウス)、L6細胞、例えばL6−GLUT4myc(Wang et al, 1998)又はL6−GLUT4myc−tetR、好ましくはDSM ACC2852(下記を参照のこと)。
脂肪組織:褐色脂肪細胞株HIB−1B)、株F44−2A、米国特許第6,071,747号に開示されるもの。
肝臓:BNL CL.2(マウス、BALB/c)、BNL SV A.8(マウス)、RLC−18(ラット)WRL 68。
【0067】
好ましい細胞株は、テトラサイクリン応答性プロモーターシステムの制御下でAS160をコードする遺伝子を含む;例えば、L6−GLUT4myc−tetR−AS160_FL。このような細胞株を、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約下で、“Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH” (DSMZ), Inhoffenstrasse 7 B, 38124 Braunschweig, GERMANYへ、アクセッション番号DSM ACC2942で、2008年8月27日に寄託した(L6−GLUT4myc−tetR−AS160_FLと呼ばれる)。
【0068】
AS160タンパク質媒介効果をスクリーニングするために、上述の細胞株で得られる結果は、同一の細胞株であるが、AS160タンパク質をコードする遺伝子の導入を欠いているもの(L6−GLUT4myc−tetR)で得られるものと比較され得、これを、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約下で、“Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH” (DSMZ), Inhoffenstrasse 7 B, 38124 Braunschweig, GERMANYへ、アクセッション番号DSM ACC2852(L6−GLUT4myc−tetRと呼ばれる)で、2007年6月20日に寄託した。
【0069】
両方の細胞株(L6−GLUT4myc−tetR−AS160及びL6−GLUT4myc−tetR)を、実施例2において詳述するように作製した。簡単に要約すると、テトラサイクリンリプレッサー(TR)を、pCDNA3.1 (+)/TR(Invitrogen)から単離し、図3に示されるようにpIRESpuro2のNheI及びNotI部位へクローニングし、pIRESpuro2/TRを得、これを、GLUT4mycを安定発現するL6細胞(ラット骨格筋細胞)(Wang et al. 1998において記載される、L6−GLUT4myc)中にトランスフェクションした。L6−GLUT4myc−tetR−AS160細胞について、AS160遺伝子を含有するpCDNA5ベクター(Invitrogen)を、前記細胞中にさらに導入した。
【0070】
培養のため、細胞は、細胞インキュベーター中において適切な温度及びガス混合物(典型的に、37℃、5%CO2)で成長及び維持され得る。培養条件は、各細胞型で広範囲に異なり、特定の細胞型についての条件の変化によって、異なる表現型が発現され得る。温度及びガス混合物のほかに、培養システムにおいて最も一般的に変えられる因子は、成長培地である。成長培地についてのレシピは、pH、グルコース濃度、成長因子、及び他の栄養成分の存在で変動し得る。抗生物質も成長培地へ添加され得る。培養細胞に対して行われる一般的な操作の中には、培地変更及び細胞継代がある。しかし、好適な条件の選択は、当業者に公知である。
【0071】
細胞又は細胞株は、本発明のテストシステムを含むように、遺伝子操作され得る。テストシステムは、一過性又は安定トランスフェクションされた細胞又は細胞株中に配置され得る。レシピエント細胞中に導入遺伝子を導入するための手順は、トランスフェクションと呼ばれる。DNAを用いてのトランスフェクションは、安定及び不安定(一過性)細胞又は細胞株を産する。一過性細胞株は、染色体外形態でのトランスフェクションされたDNAの生存を反映し;安定細胞株は、ゲノム中への組込みから生じる。
【0072】
導入遺伝子は、当業者に公知の種々の手段によって、細胞中に導入され、各細胞型に適合され得る。核酸分子の導入及び発現についての当技術分野において周知の組換えDNAクローニング技術が、導入遺伝子の導入及び発現のために使用され得る。細胞は、ウイルスベクター、化学的トランスフェクタント(transfectant)、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム共沈及びDNAの直接拡散を含む、任意の好適な手段を使用して、トランスフェクションされ得る。レシピエント細胞中にテストシステムを導入するための好適な方法は、実施例2に詳述されており、それぞれのレシピエント細胞に適合され得る。
【0073】
本明細書において使用される場合、ベクターは、細胞中へ導入遺伝子を輸送する作用物質であり、好適な転写及び翻訳制御シグナル、例えば、プロモーターを含み得る。ベクターは、プラスミド、ウイルス、又は当技術分野において公知の他のものであり得る。プロモーターは、誘導性又は構成的、全般的又は細胞特異的、核又は細胞質特異的プロモーターであり得る。プロモーター、ベクター及び他のエレメントの選択は、当技術分野における通常の技術のレベル内のルーチンな設計事項である。多くのこのようなエレメントは、文献に記載されており、商業的供給業者から入手可能である。通常、トランスファーの方法は、細胞への選択可能なマーカーのトランスファーを含む。好適なプロモーター及びベクターは、実施例及び本説明に開示されている。
【0074】
一般に、細胞株は、上述の手段のいずれによってもトランスフェクションされ、ここで、導入遺伝子は、選択可能なマーカーに機能的に連結されている。トランスフェクションに続いて、細胞は、富栄養培地中において例えば数日間成長され、次いで選択培地へ切り替えられる。トランスフェクションされた細胞は、その選択に対して耐性を示し、成長することができ、一方、トランスフェクションされていない細胞は、一般的に、死滅する。選択マーカーについての例としては、ピューロマイシン、ゼオシン、ネオマイシン(neo)及びヒグロマイシンB(これらは、それぞれ、ピューロマイシン、ゼオシン、アミノグリコシドG−418及びヒグロマイシンに対する耐性を与える)、及び/又は実施例において使用される任意の選択マーカーが挙げられる。しかし、当業者に公知の他の選択方法も好適であり得る。
【0075】
本発明の方法の工程b)において、細胞の変化したグルコース取り込みを示すシグナルを検出することによって、テスト物質は、細胞のグルコース取り込みを変化させる物質として同定される。シグナルは、細胞の変化したグルコース取り込みを示す任意の好適なシグナルであり得;しかし、シグナルは、AS160様タンパク質に関連するインスリン刺激シグナル伝達の任意の構成要素又は部分であり得る。特に、それは、AS160若しくはAKTのリン酸化の程度、PI3K(PI3キナーゼ)若しくはMEKK/ERKキナーゼの活性、形質膜へのGLUT4のトランスロケーション、又は細胞のグルコース取り込みの増加であり得る。
【0076】
AS160タンパク質シグナル伝達経路の上述の構成要素を測定するための好適な方法は、当技術分野において公知であり、実施例においても詳述される。
【0077】
好ましくは、検出可能なシグナルは、細胞中で発現されたAS160タンパク質の量、リン酸化AKT、リン酸化AS160タンパク質、形質膜へのGLUT4トランスロケーション、細胞中におけるGLUT4分布、又は細胞によるグルコース取り込みである。実施例において示すことができたように、これらのシグナルは全て、細胞の、好ましくはインスリン感受性組織の細胞の、グルコース取り込みと相関する。
【0078】
検出可能なシグナルは、細胞中のAS160タンパク質の量であり得、何故ならばこのタンパク質の量はグルコース取り込みを示すためである。このタンパク質の量が増加する場合、細胞、特にインスリン感受性細胞の、グルコース取り込みも増加する。特定のタンパク質の量を測定する方法は、当業者に公知であり、これらとしては、例えばウエスタンブロッティング及び特異的抗体での検出が挙げられ、これらは実施例において詳述されるように行われ得る。特異的抗体は、例えばKane et al., 2002から公知であり、実施例においても提供される。あるいは、抗AS160モノクローナル又はポリクローナル抗体が、当業者の知識に従って生産され、酵素結合免疫測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、及び蛍光活性化細胞選別(FACS)によって検出され得る。
【0079】
好適な抗体又はそれらの機能的フラグメントの作製は、当技術分野において周知であり、例えば、適切な場合には、例えばフロイントアジュバント及び/又は水酸化アルミニウムゲルの存在下で、哺乳動物、例えばウサギを、AS160タンパク質又はそのフラグメントで免疫化することによる(例えば、Diamond, B.A. et al. (1981) The New England Journal of Medicine: 1344−1349を参照のこと)。免疫学的応答の結果として動物中において形成されるポリクローナル抗体が、続いて周知の方法を使用して血液から単離され得、例えばカラムクロマトグラフィーによって精製され得る。モノクローナル抗体を製造するための好適な手順も同様に、当技術分野において周知である(例えば、Winter, G. & Milstein, C. (1991) Nature, 349, 293−299及び下記に列挙される標準方法についての文献を参照のこと)。本発明の文脈において、用語、抗体又は抗体フラグメントはまた、組換え抗体又はその抗原結合部分、例えばキメラ、ヒト化、多官能性、二重特異性、オリゴ特異性又は一本鎖抗体、又は抗体F(ab)又はF(ab)2フラグメントを含む(例えば、EP−B1−0 368 684、WO 88/01649、WO 93/06213、WO 98/24884、US 4,816,567又はUS 4,816,397を参照のこと)。
【0080】
当技術分野において公知の種々の他の技術が、所定のタンパク質の量を定量するために使用され得る。これらとしては、免疫学的技術、例えばELISA若しくはRIA、又は定量的分析技術、例えば分光法又はフレームクロマトグラフィーが挙げられるが、これらに限定されない。あるいは、タンパク質の量の代わりに、AS160−mRNAの量が、ハイブリダイゼーション法又は核酸増幅法によって測定され得る。このような方法は、当業者に公知であり、これらとしては、ドットブロットハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、又はRT−PCR法が挙げられる。
【0081】
代替の検出可能なシグナルは、リン酸化AKT及び/又はリン酸化AS160タンパク質の量であり得、何故ならば、これらのタンパク質のリン酸化の程度は、グルコース取り込みを示すためである。リン酸化の量又は程度が増加する場合、細胞、特にインスリン感受性細胞の、グルコース取り込みも増加する。リン酸化の量又は程度を測定する方法は、当業者に公知であり、これらとしては、実施例において詳述されるように、これらのリン酸化タンパク質について特異的な抗体の使用が挙げられる。
【0082】
さらなる検出可能なシグナルは、形質膜へのGLUT4トランスロケーション又は細胞中のGLUT4分布であり得、何故ならば、GLUT4のトランスロケーションの程度は、グルコース取り込みを示すためである。形質膜中のGLUT4の量が増加する場合、細胞、特にインスリン感受性細胞の、グルコース取り込みも増加する。形質膜へのGLUT4トランスロケーション又は細胞中のGLUT4分布を測定する方法は、当業者に公知であり、これらとしては、インセルウェスタン(In−cell−Western)技術又はACUMEN技術におけるmycタグ付きGLUT4の使用が挙げられる。これらの方法は、実施例において詳述されるように行われ得る。
【0083】
あるいは、細胞のグルコース取り込みは、例えば標識グルコース又は標識グルコース誘導体を使用することによって、測定され得る。好適な標識としては、例えば、検出可能なタグ、放射性同位体、例えば3H若しくは14C、又は蛍光マーカーが挙げられる。このような標識グルコース又は標識グルコース誘導体としては、非限定的に、2−フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース、2−デオキシ[14C]グルコース及び[14C]メチルグルコースが挙げられる。好ましくは、放射標識2−デオキシグルコースが使用される。この方法は、実施例において詳述されるように行われ得る。
【0084】
上記で詳述されたように、本発明の方法は、糖尿病に罹患する患者における状況をよりよく反映する、高グルコース条件下で物質をテストするために使用され得る。高グルコース条件は、上昇したグルコース濃度を有するものである。ヒトの血液中のグルコースについての正常な/安全なレベルは、3.5〜7.8mMである。従って、高グルコース条件は、正常なレベルを超えるグルコース濃度を有する条件である。特に、本発明の方法のために使用されるグルコース濃度は、少なくとも10mM、好ましくは少なくとも15mM、より好ましくは少なくとも25mMグルコースであり得る。
【0085】
本発明の方法でテストされる物質は、任意の化学的性質の任意のテスト物質又はテスト化合物であり得る。それは、2型糖尿病以外の疾患についての薬物又は薬剤として既に公知であってもよい。あるいは、それは、治療効果を有することが未だ知られていない公知の化合物であってもよい。別の実施態様において、化合物は、新規な又はこれまで未知の化合物であり得る。
【0086】
本発明のスクリーニング方法の別の実施態様において、テスト物質は、化合物ライブラリーの形態で提供される。化合物ライブラリーには、複数の化合物を含み、化学的に合成された分子及び天然産物を含む任意の多数の供給源から集められているか、又はコンビナトリアルケミストリー技術によって作製されている。それらは、ハイスループットスクリーニングに特に好適である。それらは、特定構造の化合物又は植物などの特定の生き物の化合物から構成され得る。本発明での文脈において、化合物ライブラリーは、好ましくはタンパク質及びポリペプチド又は小分子を含むライブラリーである。
【0087】
有利には、本発明の方法は、例えばマイクロフルイディクス、即ちチャネルド・ストラクチャード(channelled structured)を使用して、例えばロボットプレーティング及びロボット液体輸送システムを含む、ロボット工学システムで行われる。
【0088】
本発明の別の実施態様において、方法は、ハイスループットスクリーニングシステムの形態で行われる。このようなシステムにおいて、有利には、スクリーニング方法は、自動化及び小型化され;特に、それは、ロボットによって制御されるマイクロフルイディクス及び小型ウェルを使用する。ハイスループットスクリーニング(HTS)は、創薬において特に使用され、生物学及び化学の分野に関連する科学実験のための方法である。
【0089】
HTSは、しばしば現代のロボット工学、データ処理及び制御ソフトウェア、液体ハンドリング装置、及び高感度検出器の組み合わせを通して、短期間で何百万個もの生物化学的、遺伝子学的又は薬理学的テストを研究者が有効に行うことを可能にする。このプロセスを通して、特定の生体分子経路を調節する活性化合物;特に、細胞のグルコース取り込みを変化させる物質を迅速に同定することができる。
【0090】
本質的に、HTSは、比較的短時間で特定の標的に対する多数の物質の効果についての大量の実験データを集収するためのアプローチを使用する。スクリーニングは、この文脈において、このデータの全てが続いて適用され得る、単一のゴール(通常、科学的仮説をテストすること)を有する、より大きな実験である。
【0091】
HTSのため、AS160タンパク質又はこれをコードする核酸を含む細胞を、組織プレート、例えばマルチウェルプレート、例えば96−ウェルプレートに接種し得る。次いで、プレートの細胞を、上記に定義されるような好適な検出可能なシグナルを刺激し発生させるに十分な時間の間、テスト物質と接触させる。テスト物質は、プレートにわたってウェルごとに異なっていてもよい。シグナルの発生を可能にするインキュベーション時間が経過後、手動又は機械のいずれかによって、プレートのウェルの全てにわたって測定が行われる。
【0092】
手動測定は、コンピュータがそれ自体によっては容易に測定することができない効果を探して、(例えば)ウェルのテスト化合物の変化を求めるために研究者が顕微鏡を使用している場合に、必要であり得る。そうでなければ、特殊な自動分析機が、ウェルに対して多数の実験を実行し得る(例えば、特定の周波数の光を分析すること)。この場合、前記機械は、例えば、各数字が単一のウェルから得られる値にマッピングする数値のグリッドとして、各実験結果を出力する。
【0093】
この第1アッセイの結果に応じて、研究者は、活性(即ち、細胞のグルコース取り込みを変化させる)と同定されたものと類似の物質を新しいアッセイプレート中に使用し、次いで実験を再実行してさらなるデータを集収することによって、同一のスクリーニング内でフォローアップアッセイを行い得、細胞に対する化合物の効果を改善するために化合物の構造を最適化し得る。
【0094】
自動化は、HTSの有用性において重要な要素である。特殊なロボットが、作出から最終分析までの、単一アッセイプレートの存続期間を通じて多くのプロセスをしばしば担う。HTSロボットは、通常、同時に多くのプレートを調製及び分析し得、さらにデータ集収プロセスの速度を速める。
【0095】
本発明のさらなる主題は、細胞中へのグルコース取り込みを改善するための物質を同定するためのテストシステムであって、該テストシステムが、
AKT基質160kDaタンパク質(AS160タンパク質)又はその機能的変異体をコードする遺伝子;及び
該遺伝子の制御可能な発現を与える誘導性プロモーター
を含み、
ここで、AS160タンパク質の活性化が、検出可能なシグナルを生じさせる、テストシステムに関する。
【0096】
注意を喚起することは、このテストシステムの全ての特徴が、本発明の方法に関連して詳述されたと同様にさらに定義され得ることである。
【0097】
テストシステムは、それが、細胞のグルコース取り込みを改善する(即ち、増加させる)物質の同定を可能にするので、又は2型糖尿病を研究するためのモデルとして、特に有用である。AS160タンパク質と該遺伝子の制御可能な発現を提供する誘導性プロモーターとの組み合わせは、AS160タンパク質を有する及び有さない同一の細胞中における効果を測定することを可能にする。従って、AS160タンパク質を発現しないものと比較しての、AS160タンパク質を発現する細胞中において得られるシグナル伝達の差異は、AS160タンパク質に帰され得る。AS160タンパク質は、2型糖尿病についての新規な可能性のある薬物を同定するために使用され得るので(上記で詳述した通り)、又は主要なインスリン感受性組織中の重要なタンパク質であるので、これらのテストシステムは、2型糖尿病の病態生理学及び療法における新しい洞察を得るために使用され得る。
【0098】
好ましくは、本発明のテストシステムは、細胞、特に、遺伝子操作した細胞中に配置される。細胞は、本発明の方法の文脈において開示される任意の細胞であり得る。特に、遺伝子及び/又はプロモーターは、遺伝子操作した細胞中へ導入され得る。
【0099】
本発明のテストシステムは、遺伝子の制御可能な発現を与える誘導性プロモーターを含む。遺伝子の制御可能な発現は、発現が、調査者又は実験者によって意図したように適用され得るテストシステムへの化学的又は物理的刺激の際に誘導又は抑制され得ることを意味する。
【0100】
プロモーターは、他の調節領域(エンハンサー、サイレンサー、境界エレメント/インスレーター)と協力して所定の遺伝子の転写レベルを指示するように働き得る重要なエレメントを表わす。誘導性プロモーターは、特定の化合物、即ちインデューサー(化学的刺激)の存在、又は規定の物理条件、例えば上昇した温度(物理的刺激)のいずれかに応答して活性化される。誘導性プロモーターは、遺伝子工学において非常に強力なツールであり、何故ならば、それらへ機能的に連結された遺伝子の発現が、所望通りにオン又はオフされ得るためである。
【0101】
その転写活性がアルコール、テトラサイクリン、ステロイド、金属及び他の化合物の存在又は非存在によって調節されるプロモーターを含む、一連の化学的に調節されるプロモーターがある。物理的に調節されるプロモーターとしては、その転写活性が光及び低温又は高温の存在又は非存在によって調節されるプロモーターが挙げられる。
【0102】
好ましくは、化学的に調節されるプロモーターは、その作用が必要とされる細胞から進化的に遠い生物から誘導されるべきである。従って、哺乳類細胞において使用されるプロモーターは、主として、酵母、大腸菌又はショウジョウバエなどの生物から誘導される。特定の例は、アルコール調節されるプロモーターシステム(アルコールデヒドロゲナーゼI(alcA)遺伝子プロモーター及びトランスアクチベータータンパク質AlcR);テトラサイクリン調節されるプロモーターシステム(テトラサイクリンリプレッサータンパク質(TetR)、テトラサイクリンオペレーター配列(tetO)、テトラサイクリントランスアクチベーター融合タンパク質(tTA)、(これは、TetRと単純ヘルペスウイルスタンパク質16(VP16)活性化配列の融合である)、実施例2に開示されるプロモーターシステム);ステロイド調節されるプロモーターシステム(ステロイド応答性プロモーター、例えばラットグルココルチコイド受容体(GR)に基づくプロモーター、又はヒトエストロゲン受容体(ER)に基づくプロモーター);又は酵母、マウス及びヒト由来のメタロチオネイン遺伝子由来の金属調節されるプロモーターである。
【0103】
しかし、誘導性プロモーターは、好ましくはテトラサイクリン誘導性プロモーター、より好ましくは実施例2に記載のプロモーターシステムである。
【0104】
本発明のさらなる局面は、本発明の方法又はテストシステムの文脈において上記で既に詳述したような、細胞中へのグルコース取り込みを変化させる、特に改善する、物質の同定のための、AS160タンパク質を含むテストシステムの使用に関する。使用されるテストシステムは、本発明の方法又はテストシステムに関して上で記載したと同様に、さらに特定され得る。
【0105】
また、上記の開示に従って、AS160タンパク質を、2型糖尿病についてのモデルにおい
て使用することができ、ここで、本発明の方法又はテストシステムに関しての上記の詳細を、適宜適用すべきである。
【0106】
別の実施態様によれば、本発明は、配列番号2に従うアミノ酸配列からなる又はから本質的になるか、又は配列番号1に従う配列によってコードされる、ポリペプチドを異種発現する細胞、又は、配列番号1に従うポリヌクレオチド配列からなる又はから本質的になるか、又は配列番号2に従うポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチドで安定に又は一過性にトランスフェクションされた細胞に関する。
【0107】
細胞は、核酸ベクターで安定に又は一過性にトランスフェクションされることができ、異種遺伝子を発現することができる、任意の原核細胞又は真核細胞であり得る。これらは、主に、初代細胞、並びに細胞培養由来の細胞、好ましくは、多細胞生物及び組織(例えば、HeLa、CHO、COS、SF9又は3T3細胞)由来又は単細胞生物、例えば酵母(例えば、s.ポンベ又はs.セレビシエ)から誘導された細胞を含む真核細胞培養物、又は原核細胞培養物、好ましくはピキア(Pichia)又は大腸菌を含む。組織由来の細胞及びサンプルは、採血、組織穿刺(punction)又は外科技術などの、周知の技術によって得ることができる。
【0108】
本発明の別の局面は、細胞のグルコース取り込みの低下又は阻害(部分的な又は完全な)のための、例えば、DNA配列、配列番号1の少なくとも一部に特異的な又は部分的に相補的な、AS160の発現及び/又は活性に負に干渉することができるsiRNA(低分子阻害性RNA)の使用に関する。
【0109】
用語「siRNA」は、RNA干渉(RNAi)経路を誘発する低分子阻害性RNAをいう(RNAi干渉経路については、例えば、Elbashir et al., Genes and Development (2001) 15: 188−200、Tuschl. et al., (1999), Genes and Development, 13: p. 3191−3197又はZamore et al, Cell (2000) vol.101, p.25−33を参照のこと)。本発明の文脈において、用語「siRNA」は、2つの別個の鎖の二本鎖、及び二本鎖領域二本鎖(a duplex region duplexes)を含むヘアピン構造を形成し得る一本鎖、いわゆるshRNA、ショートヘアピンRNAを含む。siRNA分子は、長さが異なり得る(一般的に、長さが15〜35、18〜30又は20〜25ヌクレオチド);しかし、好適な長さの選択は、当技術分野において周知である。さらに、siRNAは、アンチセンス鎖におけるそれらの標的mRNAに対するそれらの相補性の程度が異なり得る。相補性の好適な程度の選択も、当技術分野において周知である。siRNAは、センス鎖及び/又はアンチセンス鎖の5'及び/又は3'末端において、不対のオーバーハング塩基を有し得る。
【0110】
所定のcDNA配列についてのsiRNAの設計及び作製は、当技術分野において周知である。例えば、Elbashir et al. (2001) Nature 411: 494−498(siRNAの作製及び細胞へのsiRNAトランスフェクションについては、特に、p.497右欄を参照のこと)、及びTuschl et al. (1999) Genes and Development 13: 3191−3197を参照のこと。
【0111】
siRNA又はshRNAの適用方法は、化学的に合成された又はインビトロで転写されたsiRNA、例えば二本鎖又はshRNAを含み、これらは、次いで、細胞又はトランスジェニック動物内へトランスフェクション又は注射される。siRNA/shRNAはまた、細胞又はトランスジェニック動物中で発現ベクター又はPCR産物から発現され得、ここで、用語、発現ベクターは、siRNA又はshRNAの発現を駆動するに有用な任意の種類のベクターシステムをいい、当技術分野において周知であるような、シャトルベクター、及びウイルス、例えばレトロ及びレンチウイルスベクターを含む。
【0112】
別の局面によれば、本発明は、細胞のグルコース取り込みに負に干渉することができるsiRNA及び/又はshRNAを作製するための、AS160タンパク質又はその核酸配列の使用に関
する。
【0113】
下記の図及び実施例は、本発明を説明するが、本発明の範囲を限定すると理解されるべきではない。
【0114】
引用文献のリスト:
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exocytosis, but not its inhibition of endocytosis, is dependent on RabGAP AS160. Mol. Biol. Cell. 15, 4406-4415.
【0115】
特に記載されない場合、標準的な実験室用の方法が、例えば下記の実験室用の標準文献において概説されるような、当技術分野において公知の標準手順に従って、行われたか又は行われ得る:
Sambrook et al. (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual. Second edition. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY. 545 pp;
Current Protocols in Molecular Biology; regularly updated, e.g. Volume 2000; Wiley & Sons, Inc; Editors: Fred M. Ausubel, Roger Brent, Robert Eg. Kingston, David D. Moore, J.G. Seidman, John A. Smith, Kevin Struhl.
Current Protocols in Human Genetics; regularly uptdated; Wiley & Sons, Inc; Editors: Nicholas C. Dracopoli, Honathan L. Haines, Bruce R. Korf, Cynthia C. Morton, Christine E. Seidman, J.G. Seigman, Douglas R. Smith.
Current Protocols in Protein Science; regularly updated; Wiley & Sons, Inc; Editors: John E. Coligan, Ben M. Dunn, Hidde L. Ploegh, David W. Speicher, Paul T. Wingfield.
Molecular Biology of the Cell; third edition; Alberts, B., Bray, D., Lewis, J., Raff, M., Roberts, K., Watson, J.D.; Garland Publishing, Inc. New York & London,
1994;
Short Protocols in Molecular Biology, 5th edition, by Frederick M. Ansubel (Editor), Roger Brent (Editor), Robert E. Kingston (Editor), David D. Moore (Editor),
J.G. Seidman (Editor), John A. Smith (Editor), Kevin Struhl (Editor), October 2002, John Wiley & Sons, Inc., New York“
Gene targeting: A Practical Approach, 2nd Ed., Joyner AL, ed. 2000. IRL Press at
Oxford University Press, New York;
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】AS160の3つの異なるアイソフォームの比較を示す図である。アイソフォーム2及びアイソフォーム3を、アイソフォーム2についてはプライマー、配列番号7、8、9を使用して定量RT PCR(Taqman)に基づいて同定した。AS160、アイソフォーム1(プライマー、配列番号19、20及び21で増幅)を上のレーンに示し、エクソン11及び12を欠いているアイソフォーム2を中央のレーンに示す。エクソン12を欠いているアイソフォーム3を下のレーンに示す(プライマー、配列番号16、17、18で増幅)。リン酸化部位Ser−588及びThr−642(下線)並びにミスマッチT202及びT1275(イタリック体)を示す。リン酸化部位を下側に示す。
【図2A】AS160タンパク質及び2つの新規なアイソフォームの発現を示す図である(Taqman)。特異的プライマー(AS160タンパク質(ここではアイソフォーム1と呼ばれる)についてはプライマー、配列番号4、5、6及び/又は19、20、21、アイソフォーム2についてはプライマー、配列番号7、8、9、並びにアイソフォーム3についてはプライマー16、17、18)を使用して、3つの異なるアイソフォームの発現を調べた。AS160アイソフォームのmRNAレベルを、内因性RPL37a mRNA(プライマー、配列番号10、11、12で増幅)の発現に対して標準化する。データは、5人の異なるヒトドナーを代表する。
【図2B】AS160タンパク質及び2つの新規なアイソフォームの発現を示す図である(Taqman)。特異的プライマー(AS160タンパク質(ここではアイソフォーム1と呼ばれる)についてはプライマー、配列番号4、5、6及び/又は19、20、21、アイソフォーム2についてはプライマー、配列番号7、8、9、並びにアイソフォーム3についてはプライマー16、17、18)を使用して、3つの異なるアイソフォームの発現を調べた。AS160アイソフォームのmRNAレベルを、内因性RPL37a mRNA(プライマー、配列番号10、11、12で増幅)の発現に対して標準化する。データは、5人の異なるヒトドナーを代表する。
【図3】AS160のクローニングのためのクローニング戦略の概略的なプレゼンテーションを示す図である。pCDNA3.1(+)/TR由来のtet−リプレッサーを、pIRESpuro2のNheI及びNotI部位へクローニングし、pIRESpuro2/TRを作製した。
【図4】T−Rexシステムの機能性を示す図である。L6−GLUT4myc細胞にpCDNA5/TO/GFP 2μgを一過性にトランスフェクションした。ドキシサイクリンの非存在下で、少数の細胞しかGFPを発現しない(A)。ドキシサイクリン(1μg/ml)の添加は、GFP陽性細胞の数を約10倍まで増加させる(B)。
【図5】L6−GLUT4myc細胞でのAS160の発現はtet−誘導性であることを示す図である。RIPA抽出物をSDS−PAGE及びウエスタンブロット分析で分析した。細胞をドキシサイクリンの非存在下(− dox)又はドキシサイクリンの存在下(+ dox)で48時間インキュベートした。AS160の発現を特異的AS160抗体(Upstate、07−741)で検出した。等しいローディングを確認するために、ブロットをアクチン抗体でプローブした。
【図6】インスリン刺激グルコース取り込みに対するAS160タンパク質の効果を示す図である。インスリンに応答する2−デオキシグルコースの取り込みを測定する。インスリンを20分間インキュベートした。標準偏差は8このリーディングポイントを代表する。
【図7−1】ヒトAS160のコード配列(NM_014832、配列番号1)を示す。
【図7−2】図7−1の続き。
【図8】ヒトAS160の翻訳されたタンパク質配列(NP_055647、配列番号2)を示す。
【図9】AS160(アイソフォーム1)のクローニングについての挿入物(配列番号3)を示す。
【図10−1】pIRES−puro2/TetRの配列(配列番号13)を示す。
【図10−2】図10−1の続き
【図11】新規のアイソフォーム2のコード配列(配列番号22)を示す。
【図12】新規のアイソフォーム2の翻訳されたタンパク質配列(配列番号23)を示す。
【図13】新規のアイソフォーム3のコード配列(配列番号24)を示す。
【図14】新規のアイソフォーム3の翻訳されたタンパク質配列(配列番号25)を示す。
【実施例】
【0117】
実施例1:異なる組織におけるAS160タンパク質並びに新規のアイソフォーム2及び3の発現
図1は、AS160及び2つの新規なアイソフォームの図示的概観を示す。3つの異なるAS160アイソフォームの発現を、異なる組織において定量RT−PCRで調べた。5人の異なるヒトドナーの市販のRNAを、特異的プライマー対(AS160については配列番号4、5及び6(又は代わりに19、20及び21)を用いてのTaqman PCRを使用して、逆転写し、調べた。
【0118】
このために、トータル細胞RNAのアリコートを、第1鎖DNA合成に供した。逆転写したcDNAを、増幅用のテンプレートとして使用した。共通のプローブを使用し、インスリン感受性組織(脂肪、筋肉、肝臓、心臓、脳)における全体的AS160発現を測定した。リボソーム遺伝子RPL37a(ホモサピエンスリボソームタンパク質L37a, mRNA, cDNAクローンMGC:26772)の内因性mRNA発現を、mRNAレベルを標準化するために使用した(配列番号10、11及び12)。特異的プライマー対に基づいて、異なるアイソフォームの発現を識別することができた。相対的mRNA発現方法を、デルタデルタCT法(Yuan et al., 2006)で計算した。
【0119】
下記のプライマー及びプローブを使用した:
【表1】

【0120】
このRT−PCRの結果を図2に示す。AS160タンパク質(アイソフォーム1、NM_014832_v1;NCBI)は、全長AS160を示す。AS160タンパク質(アイソフォーム1)は、主に心臓及び骨格筋において発現されるが、皮膚においても発現される(図2A及びB)。
【0121】
実施例2:AS160発現構築物のクローニング、及びラット骨格筋細胞におけるテトラサイクリン誘導性発現の樹立
AS160挿入物(配列番号3)を、プライマー14及び15を使用して、Cambrex/Lonzaによって購入された、ヒト初代骨格筋細胞から増幅した。得られたPCRフラグメントを、AS160(アイソフォーム1)のコード配列に対応するフラグメントを作製するためのテンプレートとして使用した。対応のゲートウェイ配列を用いて、挿入物を、標準方法によって、先ずpDONR221(Invitrogen)中へ、続いて発現ベクターpCDNA5−TO(Invitrogen)中へクローニングした。
【0122】
GLUT4mycを安定発現するL6細胞(Wang et al. 1998において記載される、L6−GLUT4myc)を、AS160タンパク質のtet−誘導性発現のために続いて使用した。このために、Invitrogen製のT−RExシステムを使用した。このシステム中の調節プラスミドは、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーターの制御下で、tet−リプレッサー(tet−R)の構成的発現を制御する。テトラサイクリン(tetracyline)(又はドキシサイクリン)の非存在下で、前記リプレッサーは、特異的テトラサイクリン−オペレーター配列(TetO2)に結合し、それによって発現を抑制する。テトラサイクリン(又はドキシサイクリン)の添加によって、関心対象のタンパク質の発現が誘導される。L6−GLUT4myc細胞中のtetシステムの安定な組込みを可能にするために、tet−リプレッサーをpCDNA3.1(+)/TR(Invitrogen)から単離し、pIRESpuro2のNheI及びNotI部位中にクローニングした(図3)。
【0123】
続いて、pIRESpuro2/TRをL6−GLUT4myc細胞中にトランスフェクションした。前記調節プラスミドを安定発現するクローンを、0.5μg/ml ピューロマイシン(InvivoGen)で選択した。Tet−リプレッサーの機能性を、テトラサイクリン誘導性GFP発現プラスミド(pCDNA5/TO−GFP)で制御した。テトラサイクリン(又はドキシサイクリン)の非存在下で、少数の細胞しかGFPを発現しなかった(図3A)。ドキシサイクリンの添加は、GFP発現細胞の数を約10倍増加させた(図3B)。
【0124】
得られたL6−GLUT4myc−tetR細胞をDSMZへアクセッション番号DSM ACC2852で寄託した(上記を参照のこと)。
【0125】
AS160タンパク質のtet−誘導性発現を得るために、AS160(アイソフォーム1)のコード配列を含有する上記で作製したInvitrogen製のpCDNA5−TOベクターを使用した。安定なクローンの選択をハイグロマイシン(200μg/ml、Invitrogen)で行った。AS160の発現を、AS160を認識するAS160特異的抗体(Upstate、07−741)を用いて、ウエスタンブロット分析を介して調べた。Tet−リプレッサーの機能性を、ドキシサイクリン(1μg/ml、Sigma)の添加及び続いてのウエスタンブロット分析で調べた。
【0126】
得られたL6−GLUT4myc−tetR−AS160_FL細胞をDSMZへアクセッション番号DSM ACC2942で寄託した(上記を参照のこと)。
【0127】
全ての実施例について、AS160を含有するL6−GLUT4myc細胞を、10%ウシ胎仔血清(FCS)(PAA、tetフリー)、2μg/ml ブラストサイジン(Calbiochem)、0.5μg/ml ピューロマイシン(InvivoGen)、200μg/ml ハイグロマイシン(Invitrogen)が補充されたMEMα(PAN)中で成長させた。AS160の発現を、1μg/ml ドキシサイクリン(Sigma)で誘導した。L6野生型(wt)(ATCC:CRL−1458)細胞を、10% FCS(PAA、tetフリー)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(PAA)が補充されたMEMα+GlutaMax(Gibco)中で成長させた。L6−GLUT4myc細胞を、10% FCS(PAA、tetフリー)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(PAA)及び2μg/ml ブラストサイジン(Calbiochem)が補充されたMEMα+GlutaMax(Gibco)中で成長させた。AS160の発現を、1μg/ml ドキシサイクリン(Sigma)と共に48時間細胞をインキュベートすることによって誘導した。全ての細胞を37℃及び5% CO2で成長させた。AS160を含有するL6−GLUT4myc細胞を、各実験の前に3〜4時間、飢餓培地(MEMα)中でインキュベートした。
【0128】
ウエスタンブロット分析のために、タンパク質を、SDS−PAGEゲル(4−12%分解ゲル、Invitrogen)上において分離し、PVDF膜(Roche)へ移し、Roti−Block(登録商標)(Roth)で1時間ブロックした。膜を一次抗体と共に一晩インキュベートした。抗AS160抗体はUpstate製であった。膜をTBSTで洗浄し、好適な西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体(Santa Cruz)と共にインキュベートした。免疫反応性のバンドをLumiLight(Roche)で視覚化し、Lumi−Imager(Bohringer Ingelheim)で検出した。
【0129】
図5は、AS160転写物を含有するL6−GLUT4myc細胞中におけるAS160タンパク質のドキシサイクリン誘導性発現の代表的なウエスタンブロットを示す。
【0130】
実施例3:AS160(アイソフォーム1)を含有する上記で作製したL6−GLUT4myc細胞を使用してのAS160(アイソフォーム1)の分析
AS160のテトラサイクリン依存性発現を調べるために、実施例2に記載の細胞をウエスタンブロット分析について使用した。AS160を含有するL6−GLUT4myc細胞を、10%ウシ胎仔血清(FCS)(PAA、tetフリー)、2μg/ml ブラストサイジン(Calbiochem)、0.5μg/ml ピューロマイシン(InvivoGen)、200μg/ml ハイグロマイシン(Invitrogen)が補充されたMEMα(PAN)中で成長させた。上述のように、AS160の発現を1μg/ml ドキシサイクリンで48時間誘導した。続いて、上述のように、細胞抽出物を調製し、SDS−PAGEによって分離し(4−12%分解ゲル、Invitrogen)、PVDF膜(Roche)へ移した。膜をRoti−Block(登録商標)(Roth)で1時間ブロックした。一次抗体のインキュベートを一晩行った。膜をTBSTで洗浄した。好適な西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体(Santa Cruz)を室温で2時間インキュベートした。AS160の発現をAS160特異的抗体(Upstate、07−741)で検出した。等しいローディングをアクチン抗体(Santa Cruz、sc−1616)で確認した(図5)。免疫反応性のバンドをLumiLight(Roche)で視覚化し、Lumi−Imager(Bohringer Ingelheim)で検出した。
【0131】
細胞のグルコース取り込みを調べるために、それぞれの細胞を、96ウェルCytostar−Tシンチレーティングマイクロプレート(Amersham/GE)中で平板培養した。48時間後、細胞を血清飢餓状態にし(3〜4時間)、示されるInsuman(ヒトインスリン)濃度(concentartionsa)で20分間処理した。2−デオキシグルコース(0.01 mBq/ウェル、Amersham/GE)の取り込みを、既に記載されたように(Voss et al., 2005)行った。非特異的取り込みを、40μMサイトカラシンB(Calbiochem)の存在下で測定した。この値を全ての他の値から引いた。測定をWallac Microbetaカウンター(Perkin Elmer)において行った。2−デオキシグルコースの取り込みをカウント・パー・ミリオンとして測定し、基底に対する倍(fold over basal)として示した。データは、AS160(アイソフォーム1)の発現は、インスリン(濃度100 nMインスリン)での刺激後に約6倍までグルコースの取り込みを増加させたことを示した。AS160(アイソフォーム1)が発現されない場合は、インスリンは、最大で約4倍までグルコース取り込みを誘導した(図6)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞のグルコース取り込みを変化させる物質を同定する方法であって、
(a)AKT基質160kDaタンパク質(AS160タンパク質)又はその機能的変異体を含むテストシステムとテスト物質とを接触させること、及び
(b)細胞の変化したグルコース取り込みを示すシグナルを検出することによって、テスト物質を、細胞のグルコース取り込み及び/又は形質膜へのGLUT4トランスロケーションを変化させる物質として、同定すること
を含む、上記方法。
【請求項2】
細胞のグルコース取り込みが、増加する又は減少する、好ましくは増加する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
物質が、少なくとも1、2又は3種のインスリン感受性組織中のグルコース取り込み及び/又は形質膜へのGLUT4トランスロケーションを変化させる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
インスリン感受性組織が、脂肪組織、骨格筋及び/又は肝臓である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
物質が、肝細胞、脂肪細胞及び/又は骨格筋細胞のグルコース取り込み及び/又は形質膜へのGLUT4トランスロケーションを変化させる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
AS160タンパク質が、哺乳類、好ましくはヒトのAS160タンパク質である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
AS160タンパク質が、配列番号1又はxxによってコードされる配列を含む又はからなる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
テストシステムが細胞中にある、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
細胞が、骨格筋細胞、脂肪細胞及び/又は肝細胞、特に、骨格筋細胞である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
細胞が細胞株由来の細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
細胞が、齧歯類又は哺乳類細胞、好ましくはヒト又はマウス若しくはラット細胞である、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
検出可能なシグナルが、以下:細胞で発現したAS160タンパク質の量、リン酸化AKT、リン酸化AS160タンパク質、形質膜へのGLUT4トランスロケーション、細胞におけるGLUT4分布、又は細胞によるグルコース取り込みのうちの1つ又はそれ以上である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
テスト化合物を化合物ライブラリーの形態で備える、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
方法をロボット工学システムで行う、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
方法がハイスループットスクリーニングの方法である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
細胞のグルコース取り込み及び/又は形質膜へのGLUT4トランスロケーションを改善する物質を同定するためのテストシステムであって、
AKT基質160kDaタンパク質(AS160タンパク質)又はその機能的変異体をコードする遺伝子;及び
該遺伝子の制御可能な発現を与える誘導性プロモーター
を含み、
ここで、AS160タンパク質又はその機能的変異体の活性化が、検出可能なシグナルを生じさせる、上記テストシステム。
【請求項17】
テストシステムが、細胞、特に、遺伝子操作した細胞中に配置される、請求項16に記載のテストシステム。
【請求項18】
遺伝子及び/又はプロモーターが、遺伝子操作した細胞中に導入される、請求項17に記載のテストシステム。
【請求項19】
誘導性プロモーターが、テトラサイクリン誘導性プロモーターである、請求項16〜18のいずれか1項に記載のテストシステム。
【請求項20】
テストシステムが、請求項3〜11のいずれか1項と同じようにさらに定義される、16〜19のいずれか1項に記載のテストシステム。
【請求項21】
細胞のグルコース取り込み及び/又は形質膜へのGLUT4トランスロケーションを変化させる、特に改善する、物質を同定するための、AS160タンパク質を含むテストシステムの使用。
【請求項22】
テストシステムが、請求項3〜13及び14〜21のいずれか1項と同じようにさらに定義される、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
2型糖尿病のモデルにおけるAS160タンパク質又はその機能的変異体の使用。
【請求項24】
2型糖尿病のモデルとしての又はそのモデルにおけるAS160タンパク質又はその機能的変異体を異種発現する細胞の使用。
【請求項25】
使用が、請求項3〜13及び14〜21のいずれか1項と同じように定義されるテストシステムを含む、請求項23又は24に記載の使用。
【請求項26】
インビトロ又はインビボでの細胞のグルコース取り込みの阻害又は低下のための、AS160様タンパク質の発現及び/又は活性に負に干渉可能なsiRNA若しくはshRNA、又はAS160様タンパク質の活性に負に干渉可能な抗体などの、AS160タンパク質の阻害剤の使用。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2012−516141(P2012−516141A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546835(P2011−546835)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際出願番号】PCT/EP2010/050982
【国際公開番号】WO2010/086359
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(504456798)サノフイ (433)
【Fターム(参考)】