説明

ASK送受信装置

【課題】部品点数を減らしたASK送受信装置を提供する。
【解決手段】圧電体平板上に形成されたSAWデバイスと、増幅器とSW回路と復調器と
を少なくとも備えるASK送受信装置であって、SAWデバイスは、少なくとも主IDT
とゲイトIDTと副IDTと一対の反射器とを配置した2モード型SAW素子であり、か
つ主IDTをSW回路にて増幅器に接続して発振回路を構成し、かつ副IDT側の端子を
開放状態として、第3の周波数で発振させ、かつASKデータ信号に対応して断続する発
振信号を出力して送信系を構成し、また、主IDTの端子を前記SW回路にて受信信号入
力側に接続し、かつ副IDT側の端子を復調器に接続して、第1の周波数と第2の周波数
との周波数間を通過帯域幅とする二重モード型SAWフィルタとなして、発振信号を受信
して盧波する受信系を構成し、第3の周波数を第1の周波数と第2の周波数との間に配設
した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶等の安定な周波数を発生できる圧電体SAW共振子を使用してASK変
調を直接に行うことができるASK変調器とその受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電気を有する水晶STカット基板(圧電体平板の一例)を用いて構成するSA
W共振子を使用したASK送信装置がある。また前記のASK送信装置の送信信号を受信
するために、別途に構成したSAWフィルタを使用した受信装置を構成していた。前記の
SAW共振子については、その周波数温度特性が零温度係数をもち精度が良くかつ、所望
の周波数を直接発振が可能であるために、各種無線系の圧電発振器に使用されているが、
これはジッタが無く位相ノイズに優れた信号が高信頼性かつ低コストに容易に得られると
いう長所があるためである。
この理由から近年、乗用車のドアの自動開閉にはSAW共振子を用いた微弱無線機(キ
ーレスエントリー装置)が多数使用されるに至っている。
【0003】
【特許文献1】特開平1−252016号公報
【特許文献2】特開平11−196139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述の従来技術を使用したものはいずれも送信系と受信系を別途に構成
することが必要のため、(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。このための部品
点数の増加による装置の大型化とコストアップが課題であった。特に最近になって、セン
サーネットワークが必要とされる時代においては、各種センサーの情報を中央処理装置に
伝送して処理することが必要であり、このために屋内等で使用される比較的近距離間の微
弱無線通信が必要であり、前述の送受信装置の小形化かつ低コスト化が急務となっている

【0005】
本発明はかかる課題を解決するものでその目的とするところは、SAW共振子とSAW
フィルタを1個の素子内に一体化して構成して使用することによって、従来送信と受信系
を別体に構成してきたASK送受信装置を一体化して、低ジッタ,小形かつ低コストなA
SK送受信装置を市場に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
圧電体平板上に形成されたSAWデバイスと、増幅器とSW回路と復調器とを少なくと
も備えるASK送受信装置であって、SAWデバイスは、少なくとも主IDTとゲイトI
DTと副IDTと一対の反射器とを配置した2モード型SAW素子であり、かつ主IDT
をSW回路にて増幅器に接続して発振回路を構成し、かつ副IDT側の端子を開放状態と
して、第3の周波数で発振させ、かつASKデータ信号に対応して断続する発振信号を出
力して送信系を構成し、また、主IDTの端子をSW回路にて受信信号入力側に接続し、
かつ副IDT側の端子を復調器に接続して、第1の周波数と第2の周波数との周波数間を
通過帯域幅とする二重モード型SAWフィルタとなして、発振信号を受信して盧波する受
信系を構成し、第3の周波数を第1の周波数と第2の周波数との間に配設したことを特徴
とする。
【0007】
この回路構成によれば、1個の二重モード型SAWフィルタを形成すれば、自動的に第
1の周波数と第2の周波数との周波数間を通過帯域幅とする二重モード型のSAWフィル
タと、第1の周波数と第2の周波数との間に位置する第3の周波数によって発振する発振
回路が構成可能となるため、SAW共振子とSAWフィルタの2つの機能を集約すること
ができ装置の小形化及び生産性面で有利となるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明のASK送受信装置1の実施形態について、図1によって具体的回路の実施
例をブロック図にて説明した後、図2には本発明で使用される2個の機能が実現できる2
モード型SAW素子の具体的な構成を電極パターンを示す図により説明し、図3と図4で
は3個の周波数配置とSAW素子の特性との関係を説明し、図5において本発明のブロッ
ク図の動作状態の説明を行ない、さらに図6では受信装置として動作する場合の2モード
型SAW素子の接続状態を説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は、ASK送受信装置1の一実施例について、その構成をブロック図にて図示した
ものである。
図1中の各部位は、C-MOS-ICあるいはトランジスタ等の能動素子によって形成し
た増幅器100、バイポーラあるいはMOSトランジス等より少なくともなるアナログス
イッチ回路(以降、SW回路と称する)101,102,105,106、SAW共振子
とSAWフィルタの2モードの機能を有する2モード型SAW素子104、SAWフィル
タとのインピーダンス終端整合をとるための抵抗素子103,107、受信系を構成する
ための復調器108である。またASK送信系のRF信号出力端子としての端子a、AS
Kデータ信号を入力するための端子b、SW回路101,102,105,106と2モ
ード型SAW素子104の出力状態制御するための制御信号入力端子としての端子c、ア
ンテナで受信したRF信号をSAWフィルタ(2モード型SAW素子104の機能)に接
続するためのRF入力端子としての端子d,d'、SAWフィルタ(2モード型SAW素
子104の機能)を通過して選択された第3の周波数f3とASKデータの周波数成分を
復調してもとのASKデータ信号とする復調器108の入力端子としての端子e,e'で
ある。図1において、増幅器100とSW回路101,102を端子SW1側に倒す状態
と、2モード型SAW素子104のSAW共振子の機能とでASK変調器を構成する。ま
た一方、SW回路101,102とSW回路105,106を端子SW2側に倒すことに
より、2モード型SAW素子104をSAWフィルタとして使用して、復調器108とあ
わせて受信系を構成する。
【0010】
次に、図1の2モード型SAW素子104について図2を用いて説明する。
図2は本発明に使用する2モード型SAW素子104の電極パーンの配置を示す平面図
である。
最初に本発明の2モード型SAW素子104に使用する圧電体平板200の一例につい
て説明する。圧電体平板200は、例えば面内回転STカット水晶板でありレイリー型表
面波で動作するもので、水晶結晶の基本軸である電気軸Xと光軸Zの2軸が作る面を主面
とするY板を電気軸Xの回りに反時計方向にθ度(特に零温度係数が得られるθ=31度
から42度)回転した基板において、さらに基板の法線軸の回りに電気軸X軸からの面内
の回転角Ψが±(40〜46)度である方位を弾性表面波の位相伝播方位軸としたもので
ある。あるいはまた、圧電体平板200はSH型表面波で動作する水晶基板であってもよ
い。次に、圧電体平板200の表面を鏡面研磨した後、レイリー型あるいはSH型等の弾
性表面波の位相伝搬方向軸に対して直交して、例えば金属アルミニウムより少なくともな
る多数の平行導体の電極指を周期的に配置した少なくとも1個のすだれ状電極(以降、I
DTと称する)を構成し、その両側に一対の反射器を形成して1個の2モード型SAW素
子104を構成することができる。
【0011】
図2に示す2モード型SAW素子104は、圧電体平板200、反射器201,205
、主すだれ状電極としての主IDT202、副すだれ状電極としての副IDT204、ゲ
イトIDT203、主IDTへの正負極性の入力端子206、副IDTへの入力端子20
7とによって少なくとも構成されている。またIDT領域中の斜線で形成された部位は、
IDTの正負極性より少なくともなる電極指群への給電導体部位211であり、いずれも
前述のアルミニウム電極等の金属で形成されている。反射器201と主IDT202、ゲ
イトIDT203、副IDT204、反射器205の全体で1個の縦型の二重モード型S
AWフィルタを構成している。一方、2モード型SAW素子104を1モード型SAW素
子として使用する場合には、入力端子206を発振回路の増幅器100(図1参照)への
入出力端子g,g'(図1参照)に接続し、かつ入力端子207を開放状態とすればよい

【0012】
前述のSAWフィルタ動作状態においては、1個のSAWフィルタは表面波にて動作す
る2つの固有な振動状態としてのS0モードおよびA0モードをつくるが、両者は1個の
SAWフィルタ素子内において相互に弾性的に結合するように設計することが必要である
。この状態を効果的に形成するために、ゲイトIDT203のが必要である。STカット
の場合においては、このゲイトIDT203の電極周期長P(X)を、主IDT202と
副IDT204との電極周期長PT0に対して、大きく設定することにより振動の変位状
態を制御して、対称モードS0と斜対称モードA0を効果的に発生させることができる。
この場合の電極周期長比P(X)/PT0が1.02以上から1.04以下に設定すれば
十分な効果が期待できる。図2中の階段状の線208は2モード型SAW素子104の縦
方向(すなわち、弾性表面波の位相伝搬方向)に関して、電極指の周期長P(x)を図示
したものである。フィルタおよび共振子である2つの素子動作状態の説明はあらためて図
3と図4で行う。入力端子206に接続する主IDT202は、常に本発明のASK送受
信装置1の増幅回路100(図1参照)に接続されて、第3の周波数f3の状態をとって
振動する。
【0013】
前述した、主IDT202、ゲイトIDT203、副IDT204、はひとつのIDT
を3つに分割して形成することができる。
本発明の図2の2モード型SAW素子104の構成条件の1例を示すと、前述の水晶S
Tカットあるいは回転STカットにおいて、アルミ電極の膜厚みhと利用する弾性表面波
の波長λとの比h/λが0.02から0.03であり、IDTの総対数M=160対,主
IDT202が80対,副IDT204が80対,ゲイトIDT203は20対から40
対で電極周期比が1.02から1.04,IDTの交叉幅が40波長,反射器201,2
05は90本である。
【0014】
次に、図3は、図1で説明した2モード型SAW素子104を縦型の二重モード型SA
Wフィルタを形成した場合のフィルタの伝送特性(動作伝送量SB、単位dB)を測定し
たものである。ただし、フィルタの終端インピーダンスは不整合状態にある。同図の横軸
は周波数変化率Δf/f0を単位PPM(10-6)で表した。またf0はSAWフィルタ
の中心周波数f0である。
【0015】
同図の曲線の左側のピーク402がA0モード、右側のピーク401がS0モードであ
る。A0モード(ピーク402)が共振周波数としての第1の周波数f1に対応し、S0
モード(ピーク401)が共振周波数としての第2の周波数f2に対応する。SAWフィ
ルタの通過帯域幅は第1の周波数f1と第2の周波数f2との間での範囲内で形成される

【0016】
さらに、図4において前述の各周波数の配置関係を図示した。同図の横軸は周波数軸f
(Hz)であり、縦軸は共振子の特性であり、アドミタンスY(f)を単位としてdBで
表記しており、SAWフィルタの特性の場合には挿入損失SSをdB単位で表記した。挿
入損失SSの特性と動作伝送量SBはちょうど特性を上下反転した状態である。
【0017】
図4では、A0モードの共振周波数としての第1の周波数曲線502と、S0モードの
共振周波数としての第2の周波数曲線501と、2モード型SAW素子104をSAW共
振子の状態で使用した場合の第3の周波数曲線500Cとを示している。第1の周波数曲
線502の共振周波数としての第1の周波数f1と、第2の周波数曲線501の共振周波
数としての第2の周波数f2との間に、第3の周波数曲線500Cの共振周波数としての
第3の周波数f3が配設されている。また周波数曲線503はSAWフィルタとしての特
性であり、第1の周波数f1と第2の周波数f2とで形成された周波数範囲をほぼ包括し
ている。
【0018】
次に、図5(a)〜(c)を用いて図1のブロック図の動作について説明する。
図5(a)〜(c)は、図1に対応したASK送受信装置1の動作波形を示すものであ
る。図5(a)は、増幅器100とSW回路101,102と2モード型SAW素子10
4とで構成される発振器で構成されたASK変調器へのASKデータ信号301である(
図1の端子bに対応)。ASKデータ信号301のH(hight)=+1、L(Low
)=0電位に対応してASK変調器のRF出力信号302が断続する。図5(b)は、A
SK変調器からのRF出力信号302であり(図1の端子aに対応)、ASKデータ信号
301(図5(a)参照)に対応して、第3の周波数f3で形成されたRF出力信号30
2が断続していることがわかる。図5(c)は、ASK送受信装置1が送信器として動作
する場合にはH(+1電位水準)とし、受信器として動作する場合にはL(0電位水準)
として、SW回路101,102,105,106(図1参照)の接続を切り換えるため
の制御信号303である(図1の端子cに対応する)。
【0019】
図6は、ASK送受信装置1を受信器として動作させる場合のSW回路101,102
,105,106の接続状態を示したものである。SW回路101,102,105,1
06は端子SW2側に倒されて、2モード型SAW素子104はSAWフィルタとして動
作している。この際に抵抗素子103と抵抗素子107はSAWフィルタの終端インピー
ダンスに整合して設定されており、アンテナからの受信信号は盧波されて復調器108に
入力される。復調器108からは再生されたASKデータが出力されることになる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
ちなみに、2モード型SAW素子104の説明において、水晶基板かつ縦型の二重モー
ドSAWフィルタにより説明したが、水晶以外の材料よりなる基板でもよく、また横型の
二重モードSAWフィルタにより、同様な機能を構成することができる。
【0021】
以上説明したように、本発明のASK送受信装置1は、SAWデバイス技術とIC技術
とを融合したことによって、部品点数を減らして小形化することができた。今後、ますま
す需要が増加すると考えられるセンサーシステム分野において、数メートルから数十メー
トル範囲でのデータ通信を可能にした安価なシステムとして、おおいに社会的貢献できる
と考える。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のASK送受信装置の回路構成の一実施例を示すブロック図。
【図2】本発明のASK送受信装置の構成要素である2モード型SAW素子の一実施例を示す平面図。
【図3】本発明の2モード型SAW素子の一実施例が示すSAWフィルタの特性図。
【図4】本発明の2モード型SAW素子の一実施例が示す他の特性図。
【図5】本発明のASK送受信装置が示す信号特性図。
【図6】本発明のASK送受信装置の一実施例における他の回路状態を示すブロック図。
【符号の説明】
【0023】
100…増幅器、101,102,105,106…SW回路、104…2モード型S
AW素子、103,107…抵抗素子、108…復調器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体平板上に形成されたSAWデバイスと、増幅器とSW回路と復調器とを少なくと
も備えるASK送受信装置であって、
前記SAWデバイスは、少なくとも主IDTとゲイトIDTと副IDTと一対の反射器
とを配置した2モード型SAW素子であり、かつ前記主IDTを前記SW回路にて前記増
幅器に接続して発振回路を構成し、かつ前記副IDT側の端子を開放状態として、第3の
周波数で発振させ、かつASKデータ信号に対応して断続する発振信号を出力して送信系
を構成し、
また、前記主IDTの端子を前記SW回路にて受信信号入力側に接続し、かつ前記副I
DT側の端子を前記復調器に接続して、第1の周波数と第2の周波数との周波数間を通過
帯域幅とする二重モード型SAWフィルタとなして、前記発振信号を受信して盧波する受
信系を構成し、前記第3の周波数を前記第1の周波数と前記第2の周波数との間に配設し
たことを特徴とするASK送受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−131435(P2008−131435A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315289(P2006−315289)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】