説明

ATP量測定方法及び装置

【課題】メンブランフィルタの燐光による測定誤差を抑制することのできるATP量測定方法及び装置を提供する。
【解決手段】(a)サンプル中の細胞をメンブランフィルタに捕獲する工程と、(b)細胞が捕獲された前記メンブランフィルタを測定容器内に入れる工程と、(c)前記メンブランフィルタが入れられた測定容器内に抽出試薬を注入してメンブランフィルタに捕獲された細胞のATPを抽出する工程と、(d)前記抽出試薬が注入された後で前記測定容器内に発光試薬を注入して生物化学発光反応を起こす工程と、(e)前記測定容器内での生物化学発光反応により発生した光を発光検出器で検出する工程と、を有するATP量測定方法は、少なくとも前記工程(a)を、前記工程(e)において検出される生物化学発光反応に基づくサンプル由来の光に対するメンブランフィルタの発する燐光の影響を測定精度上許容し得る範囲に抑制するような遮光状態で行う構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、食品衛生、医学、バイオ、医薬品、臨床検査、上水、純水、超純水、注射用水、環境、化粧品、酒造等の種々の分野にて、使用する原料、原料水、或いは製品等の検体(サンプル)に存在する微生物及び動物等の細胞数を測定するのに利用することのできるATP量測定方法及び装置に関するものである。更に詳しく言えば、本発明は、ATP量を生物化学発光を利用して測定する、細胞個数の計測等のために利用することのできるATP量測定方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記のような種々の分野において、大腸菌、酵母菌、乳酸菌及びその他の生細胞数の測定は、非常に重要である。例えば、食品衛生の分野では、製品出荷のために製品の微生物汚染の検査は必要不可欠である。細胞数の測定は、従来一般的には、成長培地中のコロニーの計測、血球計算盤による顕微鏡下での計測、濁度測定法等によって行われている。
【0003】
成長培地中のコロニー計測法は、(1)高感度である、(2)生細胞のみを測定できる、(3)選択培地を用いれば微生物細胞が固定できる等の点で優れているが、培養を必要とするので測定に要する時間は通常1日以上であり、迅速に結果を得たい場合には適さない。
【0004】
血球計算盤による方法は、顕微鏡を用いるため、(1)操作が煩雑である、(2)自動化が困難等の欠点を有している。
【0005】
濁度測定法は、迅速で自動化が容易である点で優れているが、(1)感度が低い、(2)生細胞と死細胞の区別ができない、(3)発酵乳等のようなベースの濁度が高いサンプルには適用できない等の問題点を有している。
【0006】
更に具体的に説明すれば、例えば、上記食品衛生分野での製品の微生物汚染の検査は、従来一般的にはコロニー計測法で行われているが、検査に1日以上要するために、結果が出るまで製品を倉庫に保管しておかなければならず、流通効率の点で問題があるだけでなく、牛乳等の製品では保管時間が長いほど微生物汚染の可能性が高くなる。
【0007】
又、食品で汚染を問題にする微生物濃度は総じて低濃度であるので、高感度な検査が要求される。
【0008】
従って、上記各分野における細胞数測定には、総じて、迅速且つ高感度の測定が要求される。
【0009】
このように、迅速で且つ高感度といった上記要求を満たす微生物濃度測定法として、生きた微生物中には必ず存在するアデノシン3リン酸(本明細書では「ATP」という。)を生物化学発光測定法を用いて測定する方法が知られている。この方法は、細胞に含まれるATP量が細胞数に比例することを利用しており、測定時間が短く、高感度であるため非常に有効な方法である。
【0010】
生物化学発光測定法には、蛍の酵素であるルシフェラーゼ及びルシフェリンが用いられる。つまり、この方法を用いて細胞のATP量を測定するためには、細胞中に含まれるATPを抽出する試薬(本明細書では「抽出試薬」という。)を用いて抽出した後、ルシフェラーゼ及びルシフェリンを用いた生物化学発光反応試薬(本明細書では「発光試薬」という。)を作用させて生物化学発光に基づき生成した微小な光を高感度な発光検出器、例えば光電子増倍管を用いて測定し、光の生成量がATP量に比例することを利用して、ATPを定量する。そのATP量から細胞量を測定することができる。
【0011】
このように、ATP量を測定する方法は、細胞を測定する方法として迅速且つ簡便な方法として有用であるが、細菌等の微生物細胞に含まれる1細胞当たりのATP量は、約0.001pg〜0.1pg(約0.002fmol〜0.2fmol)程度と非常に微量である。
【0012】
ところが、現存の技術ではルシフェラーゼ及びルシフェリンを用いた発光試薬の試薬ブランク及び感度、更には、発光検出器の光検出感度などの面から、検出できるATP量の下限は0.1pg程度が限界であり、これは一般細菌数に換算すると103〜104個/mlに当たる。
【0013】
しかしながら、食品衛生検査、化粧品等の化成品細菌検査、原料水検査、透析液管理等の分野では、103個/ml以下の細菌数を測定する必要があるため、単純にサンプルのATP量を測定する方法では測定感度の面で不十分であった。
【0014】
このような問題点を解決するため、サンプルを濾過膜(メンブランフィルタ)で濾過して細胞を捕獲(収集)する方法が採用されるようになった。この方法は、細胞をメンブランフィルタ表面に捕獲して細胞を濃縮し、測定する方法である。
【0015】
この方法による細胞の濃縮効率は、濾過するサンプルの液量と、後に添加する抽出試薬若しくは洗浄液の量により決まり、102個/mlの細菌を含んだサンプル100mlを濾過すれば、104個の細胞を捕獲することが可能になる。
【0016】
従来、上述のようなメンブランフィルタを用いたATP量測定方法を実施可能な装置として、特許文献1に開示される、次のような装置が知られている。即ち、サンプル中の細胞を捕獲したメンブランフィルタを直接容器に乗せた後に、細胞のATPを抽出し、ルシフェリン、ルシフェラーゼを作用させることによって、生物化学発光反応に基づき発生する光を容器と対面する位置に設けられた光電子増倍管で検出することが可能な装置である。メンブランフィルタとしては、例えば47mm或いは25mm直径のものが使用される。
【0017】
又、上記メンブランフィルタを用いたサンプルの濾過を行うための濾過器としては、特許文献2に開示されるものなどを使用することができる。
【特許文献1】特開平7−110301号公報
【特許文献2】特開平8−257318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上述のような濾過法によりATP量(ATP濃度)を測定する場合、メンブランフィルタとしてセルロースアセテートやニトロセルロースなどで作製されたものを使用する。より詳細には、メンブランフィルタの材料としては、(i)セルロース混合エステル、アセチルセルロース、セルロースナイトレートなどのセルロース系材料、(ii)ポリカーボネート、オレフィン系ポリマー、ポリシリケートグラスファイバー、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのポリマー系材料が用いられる。
【0019】
しかしながら、これらのメンブランフィルタに所定量以上光が当たると、例えば外光に対して実質的に完全に遮光された状態とされた後においても、メンブランフィルタが燐光を発し、即ち、生物化学発光反応に基づくサンプル由来の発光以外にメンブランフィルタ自体が発光してしまう。そして、特に、低濃度の測定では、メンブランフィルタ自体の燐光が正の誤差を与えることがあった。
【0020】
従って、本発明の目的は、メンブランフィルタの燐光による測定誤差を抑制することのできるATP量測定方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的は本発明に係るATP量測定方法及び装置にて達成される。要約すれば、本発明は、(a)サンプル中の細胞をメンブランフィルタに捕獲する工程と、(b)細胞が捕獲された前記メンブランフィルタを測定容器内に入れる工程と、(c)前記メンブランフィルタが入れられた測定容器内に抽出試薬を注入してメンブランフィルタに捕獲された細胞のATPを抽出する工程と、(d)前記抽出試薬が注入された後で前記測定容器内に発光試薬を注入して生物化学発光反応を起こす工程と、(e)前記測定容器内での生物化学発光反応により発生した光を発光検出器で検出する工程と、を有するATP量測定方法において、少なくとも前記工程(a)を、前記工程(e)において検出される生物化学発光反応に基づくサンプル由来の光に対するメンブランフィルタの発する燐光の影響を測定精度上許容し得る範囲に抑制するような遮光状態で行うことを特徴とするATP量測定方法である。本発明の一実施態様によると、前記工程(a)〜(e)を、前記遮光状態を達成可能な遮光性のクリーンベンチ又はグローブボックス内で行う。
【0022】
本発明の他の態様によると、(a)サンプル中の細胞をメンブランフィルタに捕獲する工程と、(b)細胞が捕獲された前記メンブランフィルタを測定容器内に入れる工程と、(c)前記メンブランフィルタが入れられた測定容器内に抽出試薬を注入してメンブランフィルタに捕獲された細胞のATPを抽出する工程と、(d)前記抽出試薬が注入された後で前記測定容器内に発光試薬を注入して生物化学発光反応を起こす工程と、(e)前記測定容器内での生物化学発光反応により発生した光を発光検出器で検出する工程と、を自動で行うATP量測定装置であって、少なくとも前記工程(a)を、前記工程(e)において検出される生物化学発光反応に基づくサンプル由来の光に対するメンブランフィルタの発する燐光の影響を測定精度上許容し得る範囲に抑制するような遮光状態で行うことを特徴とするATP量測定装置が提供される。本発明の一実施態様によると、前記遮光状態は、実質的に完全な暗黒である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、メンブランフィルタの燐光による測定誤差を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
実施例1
以下、本発明に係る細胞のATP量測定方法及び装置を図面に則して更に詳しく説明する。
【0025】
[遮光状態での濾過法によるATP量測定の原理]
本発明によれば、ATP量測定方法は、
(a)サンプル中の細胞をメンブランフィルタに捕獲する工程と、
(b)上記工程(a)で細胞が捕獲されたメンブランフィルタを測定容器内に入れる工程と、
(c)上記工程(b)でメンブランフィルタが入れられた測定容器内に抽出試薬を注入してメンブランフィルタに捕獲された細胞のATPを抽出する工程と、
(d)上記工程(c)で抽出試薬が注入された後で測定容器内に発光試薬を注入して生物化学発光反応を起こす工程と、
(e)上記工程(d)によって測定容器内での生物化学発光反応により発生した該測定容器内からの光を、測定容器内にメンブランフィルタが入っている状態で発光検出器で検出する工程と、
を有する。
【0026】
そして、少なくとも上記工程(a)を、上記工程(e)において検出される生物化学発光反応に基づくサンプル由来の光に対するメンブランフィルタの発する燐光の影響を所望の範囲内、即ち、測定精度上許容し得る範囲に抑制するような遮光状態で行う。又、好ましい一実施態様では、少なくとも上記工程(a)及び(b)、又は上記工程(a)〜(d)を、上記遮光状態で行う。
【0027】
即ち、少なくともメンブランフィルタがその後燐光を発するような条件の光をメンブランフィルタに当てることなくサンプルの濾過を行った後に、好ましくは同様にメンブランフィルタがその後燐光を発するような光をメンブランフィルタに当てることなくそのメンブランフィルタをATP量測定器にセットしてATP量(ATP濃度)を測定する。これにより、生物化学発光反応に基づくサンプル由来の光に対するメンブランフィルタの発する燐光の影響を抑制して、高感度にATP量を測定することが可能となる。
【0028】
ここで、本明細書において「燐光」とは、その原因となる外部刺激が切れた後まで十分長くその強度が維持するルミネセンスであって、特に、その強度、持続時間が、生物化学発光反応に基づくサンプル由来の光に対し測定精度上許容できない程度となることがあるものを言う。
【0029】
本発明者の検討によれば、前述のようなセルロース系材料又はポリマー系材料で作製されたメンブランフィルタは、典型的には、日光が直接又は通常の窓ガラスを介して照射されるような状態に曝されると、その後数時間〜1日の間は、外光に対して実質的に完全に遮光された状態に移した後においても、特に、低濃度のATP濃度測定において測定値に影響を与える程度の燐光を発することがある。本発明者の検討によれば、これらのメンブランフィルタは、燐光の発生について、近紫外線から近赤外線までの光、より詳細には、波長が200nm以上1000nm以下の光に感度を有する。従って、上記遮光はこのような波長の光に対して行われることが望まれる。
【0030】
典型的には、上述のような本発明に従う遮光状態(減光状態)は、メンブランフィルタを用いたサンプルの濾過操作、サンプルを濾過した後のメンブランフィルタのATP量測定器へのセット操作などを含む所望の操作を手作業にて行い得る程度には照明されているが、上述のように生物化学発光反応に基づくサンプル由来の光に対するメンブランフィルタの発する燐光の影響を測定精度上許容し得る範囲に抑制できる程度にしか照明されていない状態である。
【0031】
又、好ましくは、上述のような濾過操作、メンブランフィルタのATP量測定器へのセット操作に加えて、ATP測定器によるATP量の測定操作をも、上述のような本発明に従う遮光状態にて行う。これは、抽出試薬を注入することなどのATPを抽出する工程の一部又は全て、発光試薬を注入することなどの生物化学発光反応を起こす工程の一部又は全てのうちいずれかを手作業で行う場合には特に必要である。但し、通常、測定時にメンブランフィルタが配置されるATP量測定器内の空間自体が、外光から実質的に完全に遮光されているため、メンブランフィルタをATP量測定器にセットした後に、ATPを抽出すること、生物化学発光反応を起こすことなどが自動で行われるようになっている場合には、通常、ATP量の測定中にメンブランフィルタは本発明に従う遮光状態とされる。
【0032】
本発明者の検討によれば、このような本発明に従う遮光状態における照度は、好ましくは、10[lx]以下である。この照度は、後述のように、自動化等を考えれば、小さければ小さいほど良く、0[lx]、即ち、実質的に完全に遮光された状態(光学的に実質的に完全な暗黒)であってよい。この照度が10[lx]を越えると、例えばサンプル量50mlを濾過する時の菌数検出限界0.5個/ml以下(ATP濃度0.5pM以下)を目標とする場合などの非常に低濃度のATP濃度の測定時においては、メンブランフィルタの発する燐光が、生物化学発光に基づくサンプル由来の光に対して影響し、正の誤差を与えることがある。
【0033】
好ましい一実施態様によれば、メンブランフィルタを用いたサンプルの濾過操作を行うための濾過器と、メンブランフィルタに捕獲された細胞からのATP量の測定を行うためのATP量測定器とを、本発明に従う遮光状態、即ち、生物化学発光反応に基づくサンプル由来の光に対するメンブランフィルタの発する燐光の影響を測定精度上許容し得る範囲に抑制するような遮光状態を達成可能な作業空間を画成する、遮光性のクリーンベンチ又はグローブボックス(以下「遮光ボックス」ともいう)内に配置する。そして、該遮光ボックス内でメンブランフィルタを用いたサンプルの濾過操作、サンプルを濾過した後のメンブランフィルタのATP量測定器へのセット操作、そしてATP量測定器によるATP量の測定操作を行う。
【0034】
この遮光ボックスは、全体又は一部をスモークアクリル板などの、遮光性を有し、且つ、遮光ボックスの内部を目視にて透視可能な材料で作製することが好ましい。このような材料は、上述のような本発明に従う遮光状態を達成可能であれば、利用可能な任意の材料を用いることができる。遮光ボックスの一例について詳しくは後述する。
【0035】
又、上記工程(a)〜(e)を自動で行うATP量測定装置を構成することができる。斯かる装置は、濾過器と、ATP量測定器と、を有する。又、一実施態様によれば、使用前のメンブランフィルタを濾過器に移動させる手段、濾過器で細胞を捕獲したメンブランフィルタをATP量測定器に移動させる手段、測定後のメンブランフィルタをATP量測定器外に移動させる手段のうち少なくとも1つを有していてよい。このように上記工程(a)〜(e)を自動化する場合には、本発明に従う遮光状態は、実質的に完全な遮光状態(光学的に実質的に完全な暗黒)とすることができる。これによって、より確実にメンブランフィルタの燐光による、生物化学発光反応に基づくサンプル由来の光に対する影響を抑制することができる。
【0036】
[ATP量測定器]
次に、本発明にて用いることのできるATP量測定器の一実施例について説明する。図1は、本実施例のATP測定器1の全体構成を示し、図2〜図4にその詳細を示す。
【0037】
本実施例によると、細胞のATP量測定器1は、遮光箱とされる断面が矩形のハウジング2を有する。ハウジング2は、正面に開口部4を有し、中央部には仕切り板6が設けられる。この仕切り板6は、後で説明する容器ホルダ10の案内支持部材として機能する。
【0038】
ハウジング2に対して、その内部へと出入り自在に容器ホルダ10が設けられる。容器ホルダ10は、サンプル中の細胞を捕獲したメンブランフィルタ100を収容することのできる皿状の容器200を担持する支持板12と、この支持板12に対して直交する態様で、即ち、T字形状にて一体に取り付けられた閉鎖部材14とを有する。この閉鎖部材14は、容器ホルダ10がハウジング2に挿入された時、ハウジング2の開口部4を閉鎖し、開口部4を外光に対して実質的に完全に遮光する扉の役目をなす。又、この閉鎖部材14には把手16が固着され、容器ホルダ10のハウジング2への出し入れ時に使用する。
【0039】
更に説明すると、支持板12は、仕切り板6の上面に載置され、そしてこの仕切り板6の上面に互いに平行に配置されたガイド18A、18Bの間に適合され、この仕切り板6上を摺動自在とされる。又、この支持板12の大略中央部の下面には、駆動手段としての電動モータ(モータ)20が取り付けられる。従って、仕切り板6には、容器ホルダ10をハウジング2内に装着した時に、このモータ20の進入を可能とするべく、U字型の切欠き22が形成されている。
【0040】
モータ20の駆動軸20Aは、支持板12に穿設された貫通孔12Aを通って上方へと延在し、その先端に、容器保持台26が固定される。容器保持台26は、上面に凹所を有し、この凹所内に、サンプル中の細胞を捕獲したメンブランフィルタ100を収容することのできる容器200が設置とされる。この容器200は、一方が開口した皿状の容器、即ち、シャーレなどとされる。
【0041】
容器保持台26は、その中心をモータ20の駆動軸20Aに固定することもできるが、僅かに偏心して取り付けることもでき、それによって、モータ20を駆動することにより、容器保持台26が偏心運動を行ない、容器保持台26に載置された容器200の振盪作用をより効果的とすることができる。
【0042】
このハウジング2の上壁に発光検出器としての光電子増倍管108が設置される。光電子増倍管108の光検出先端部108Aは、ハウジング2の上壁に形成された貫通孔部3からハウジング2内方へと突入して配置され、容器ホルダ10をハウジング2内に装着した時に、光電子増倍管108の光検出先端部108Aが、容器200の開口部に対面するように構成されている。この光電子増倍管108は、その支持外筒128を介してハウジング2上壁に固定される。
【0043】
本実施例によると、容器ホルダ10を、図3に一点鎖線にて示すように、ハウジング2内から引出した時に、容器ホルダ10の閉鎖部材14によるハウジング2の開口部4の遮光が無くなることにより、光電子増倍管108の光検出先端部108Aに侵入する光を抑制するために、光電子増倍管108の光検出先端部108Aの下方に位置してシャッタ部材130が設けられる。このシャッタ部材130は、手動で操作するように構成することも可能であるが、本実施例では、容器ホルダ10のハウジング2内への装着に連動して作動するように構成される。
【0044】
つまり、シャッタ部材130は、ハウジング2の上壁に回転自在に設けられた回転支軸132に取り付けられる。この回転支軸132には、先端にローラ136を備えた作動レバー134が固定されており、又、回転支軸132は、このローラ136が容器ホルダ10の支持板12の先端部12Bに当接するように、即ち、図3にて反時計方向に、付勢手段としてのばね部材(図示せず)にて付勢されている。従って、容器ホルダ10がハウジング2内から外方へと引出されると、ローラ136及び作動レバー134は、この作動レバー134がガイド部材18Aに当接するまで図3にて反時計方向に回転する。そのために、シャッタ部材130も反時計方向に回転し、図3に一点鎖線にて示すように、光電子増倍管108の光検出先端部108Aの下方に位置して停止する。これにより、容器ホルダ10をハウジング2内から引出した時に、シャッタ部材130は、光電子増倍管108の光検出先端部108Aに侵入する光を抑制することができる。
【0045】
逆に、容器ホルダ10がハウジング2内へと装着される場合には、容器ホルダ10の支持板12の先端部12Bがローラ136に当接し、ローラ136及び作動レバー134を、時計方向に回転させる。そのために、シャッタ部材130も図3にて時計方向に回転し、図3に実線にて示すように、光電子増倍管108の光検出先端部108Aを完全に開放し、光電子増倍管108の光検出先端部108Aが容器200の開口部に対面することとなる。
【0046】
光電子増倍管108には高圧電源112により高電圧が印加されるようになっており、光電子増倍管108の出力電流は、アンプ111で電圧に変換され増幅されて、A/D変換器を介して演算制御手段としてのコンピュータ113に送られる。コンピュータ113には、測定結果を表示するための表示器114と、それを印字するためのプリンタ115が接続されている。
【0047】
容器の上部には発光試薬107をポンプ118により容器200に注入するための導入管120と、抽出試薬104をポンプ121により容器200に注入するための導入管122が設けられる。勿論、これら試薬の注入は、ATP量測定器1の外部、例えば容器ホルダ10をハウジング2から引き出した状態において、ディスペンサなどにより手操作で注入しても良い。
【0048】
尚、ハウジング2、光電子増倍管108の支持外筒128、更にはアンプ111、高圧電源112、ポンプ118、121、コンピュータ113、表示器114、プリンタ115などは、図示しないケーシング内に装備される。但し、コンピュータ113、表示器114、プリンタ115は、ATP量測定器1と通信可能に接続された外部機器として設けられていてもよい。この場合、コンピュータ113、表示器114、プリンタ115は遮光状態に置く必要はない。又、ポンプ118、121などが分注器としてATP量測定器1とは別体とされていてもよく、或いは上述のように試薬の注入を手操作で行う場合には、ポンプ118、121などは設けられていなくてもよい。
【0049】
上記構成とされるATP量測定器1を用いた細胞のATP量測定方法を、次に、詳しく説明する。
【0050】
メンブランフィルタ100を濾過器に設置してサンプルを濾過する。濾過器は、特に制限されるものではないが、好ましくは、後で説明する本実施例の濾過器を使用することができる。メンブランフィルタ100は、直径13mm、25mm、47mm程度のものが一般に市販されているが、濾過可能液量と濾過測定の面から25mm又は47mm程度のメンブランフィルタ100を使用するのが好ましい。メンブランフィルタ100の孔径は、濾過を行う細胞の種類により選択できるが、菌体の細胞を濾過する場合には0.2μm或いは0.45μm程度の孔径のメンブランフィルタ100を使用するのが好ましい。
【0051】
濾過を行うサンプルの量は、サンプルに含まれる細胞及び細胞以外の夾雑物の量によって決まるが、サンプル量が多い程細胞の濃縮効率が増加するので、細胞が少ない場合にはメンブランフィルタ100が目詰まりしない範囲で、できるだけ多量のサンプルを濾過することが好ましい。
【0052】
もし、サンプルの夾雑物の量が多くて十分な量の濾過が不可能な場合には、孔径の大きな濾過膜を上に載せてプレフィルタとして使用することも可能である。
【0053】
濾過終了後は、サンプルの種類により細胞以外のATPがサンプル中に含まれていたり、生物化学発光反応を妨害する物質を含む場合もあるので、滅菌水、滅菌生理食塩水、滅菌pH緩衝液等でメンブランフィルタ100を洗うことが好ましい。
【0054】
このようにして濾過を終了したメンブランフィルタ100を滅菌したピンセット等で濾過器から取り外し、容器200の底面上に載せる。容器200はメンブランフィルタ100の大きさに応じてメンブランフィルタ100の入る大きさのものを使用する。メンブランフィルタ100を載せた容器200は、容器ホルダ10を引き出して、容器保持台26上に載せた後、容器ホルダ10の閉鎖部材、即ち、扉14を押して、容器ホルダ10と共にハウジング2内に押し込む。
【0055】
これにより、シャッタ部材130も図3にて時計方向に回転し、光電子増倍管108の光検出先端部108Aは完全に開放されて、容器200の開口部に対面することとなる。このとき、光電子増倍管108の光検出先端部108Aと容器200内の液面との間の距離は、10〜15mm、好ましくは11〜13mmとされる。
【0056】
次いで、ハウジング2の中に設置された容器200上に具備された導入管122から抽出試薬104をポンプ121により定量だけ容器200内に注入し、必要に応じて、モータ20を駆動して容器200を振盪し、メンブランフィルタ100の表面に捕獲された細胞からATPを抽出する。
【0057】
抽出試薬104には、界面活性剤を使用した抽出試薬やエタノールを用いた抽出試薬等が使用できるが、できるだけ生物化学発光反応を阻害しないものが好ましく、抽出時間は10秒から60秒程度が適当である。抽出試薬104の注入量は、使用するメンブランフィルタ100の直径によるが、25mmのメンブランフィルタ100の場合200μl程度が適当であるが、これにこだわる必要はない。但し、濃縮効率を考えた場合には、抽出試薬量は必要最低限とすることが好ましい。
【0058】
ATPを抽出後、容器200上に配置された導入管120から発光試薬107をポンプ118により定量だけ容器200内に注入し、モータ20を駆動して容器200を回転(振盪)させながら生物化学発光反応を起こさせる。これによって生じた発光は、光電子増倍管108でその発光量を検出する。モータ20による容器200の回転は、発光試薬を良く混合するためと発光を均一に捕らえるための補助的なもので、好ましいものではあるが、必須ではない。
【0059】
ポンプ121とポンプ118はコンピュータ113でコントロールされる。又、光電子増倍管108の出力は、アンプ111を通してコンピユータ113に送られ、一定時間積算される。積算時間は10〜30秒程度が一般的である。発光量の積算値は、既知のATP標準試薬で測定した発光量の積算値と比較されて、ATP量としてコンピユータ113により計算され、表示器114及びプリンタ115に結果が出力される。更に、ATP量と測定対象の菌数との関係を予め求めて設定しておくことによって、コンピュータ113によって菌数を計算し、表示器114及びプリンタ115に結果を出力することができる。
【0060】
上述したように、発光試薬107と抽出試薬104は、必ずしもポンプ121とポンプ118を用いて注入する必要はなく、ATP量測定器1外部、例えば容器ホルダ10をハウジング2から引き出した状態において、ディスペンサなどにより手操作で注入することもできる。
【0061】
上述のような本実施例のATP量測定器1は、サンプル中の細胞を捕獲したメンブランフィルタを一方が開口した皿状の容器内に載置し、そして、この容器の開口部と対面するようにして光電子増倍管108を設置して細胞のATP量を測定する構成とされるので、細胞捕獲後のメンブランフィルタを折り畳んだり、メンブランフィルタ上の細胞を洗い流す等の面倒な操作を必要とせず、操作性が向上するのみならず、メンブランフィルタの外部からの汚染の危険性も低く、高精度にて細胞のATP量を測定することができる。又、細胞捕獲後のメンブランフィルタからATPを抽出するための抽出試薬の量を最小限度とし、それによって、濃縮効率の低下を回避することができ、更には、ガラス管壁などを介することなく直接、試料の発光量を測定することができ、従って、高精度にて細胞のATP量を測定することができる。これにより、細胞の測定下限の向上の点で有利である。
【0062】
[濾過器]
次に、本発明にて用いることのできる濾過器の一実施例について更に詳しく説明する。
【0063】
図5及び図6を参照すると、本実施例の濾過器301が示されている。濾過器301は、サンプル、例えば液体サンプルの濾液を貯留する濾過びん302と、濾過びん302の上部開口部303にゴム栓304を介して着脱自在に装着されるフィルタ台保持具310とを有する。
【0064】
本実施例では、フィルタ台保持具310は、ステンレス製とされ、後で説明するフィルタ台320を保持するための保持部311と、この保持部311の下方に一体に形成された細管部312とを有する。フィルタ台保持具310は、この細管部312をゴム栓304の中心孔305に挿入し、ゴム栓304を濾過びん302の開口部303に押入することにより、濾過びん302に取付けられる。保持部311は、細管部312の孔313に連通した内部空間314を備えた筒状部材とされ、その上端面315には、フィルタ台320の取付け手段、即ち、本実施例では、所定の厚さ(t)及び高さ(h)とされるリング状の突起316が形成される。
【0065】
フィルタ台320は、所定の厚さ(H)とされる環状体であり、合成ゴム或いは天然ゴムなどの弾性ゴム材にて形成されるのが好ましく、特に、弾性ゴム材として120℃で高圧滅菌可能の耐熱性の弾性ゴム材、例えばシリコーンゴム、ネオプレンゴムなどを使用すれば、滅菌処理することにより繰り返し使用も可能である。フィルタ台320の外径は、本実施例では、フィルタ台保持具310の保持部311の外径と同じとされ、フィルタ台320の内径部には、下方部より、フィルタ台保持具310の内径(内部空間314)と同じとされる小径孔321、この小径部321より大径とされる中径孔322及び大径孔323が順に形成される。中径孔322にはフィルタサポート330が装着され、大径孔323にはメンブランフィルタ100が配置される。
【0066】
又、フィルタ台320の外周部には環状の突起324が1個、或いは複数個形成される。この環状突起324は、後で詳しくは説明するが、フィルタ台320がホルダ340に装着されたときに液密シールとして作用する。更に、フィルタ台320の下面にはフィルタ保持具310に取付けるための手段、即ち、本実施例では、環状の溝325が形成される。つまり、この環状溝325には、フィルタ台保持具310の上端面に形成したリング状突起316が押入され、それによって、フィルタ台320がフィルタ台保持具310に着脱自在に取付けられる。
【0067】
フィルタサポートは330、円盤状のステンレス製の多孔質部材、ステンレス製の金網又は合成樹脂製多孔質部材とすることができる。例えば、これら多孔質部材としては、例えば、厚さ1〜5mm、外径12〜45mmの、多孔率35〜45%とされるステンレス製の多孔質焼結部材などを好適に使用し得る。これらはメンブランフィルタ100の外径に合わせて設定される。
【0068】
又、メンブランフィルタ100は、例えば細菌検査を行なう場合には0.45μmの孔径を有したものが好ましく、例えば、孔径0.45μm、外径25mm又は47mm、材質アセチルセルロースなどとして市販されているメンブランフィルタを好適に使用することができる。このメンブランフィルタ100は、フィルタサポート330より幾分大径とされ、フィルタ台320の大径孔323内に配置されたとき、上記フィルタサポート330の上面を覆って位置し且つフィルタサポート330の上面に密着して保持される。
【0069】
液体又は気体のサンプルを貯留するためのホルダ340は、本実施例では、液体サンプルを貯留するべく、上端に開口部341を有し、底壁342には中心部に開口343が形成されたコップ状容器とされる。このホルダ340の底壁342には、開口343を囲包する態様で環状の周壁344が形成され、フィルタ台320を取付けるための凹所345を画成する。このホルダ340の凹所345には、上記フィルタ台320が押入され、フィルタ台上面に取付けたメンブランフィルタ100をホルダ340の開口343に密着させる。又、フィルタ台320の外周に形成した環状突起324が凹所345の内壁に弾性的に接触することにより、ホルダ340とフィルタ台320とはしっかりと結合される。ホルダ340は、合成樹脂或いは天然樹脂で形成され、特に、120℃で高圧滅菌可能の耐熱性材、例えばポリプロピレンなどの合成樹脂を使用すれば、滅菌して再使用が可能である。
【0070】
上記構成とされる濾過器301の使用方法を次に説明する。
【0071】
濾過器301を用いた濾過操作は、本発明に従う遮光状態を達成可能な遮光ボックス(作業空間)内で行う。この作業空間内は、実質的に無菌状態を達成可能であることが好ましい。より具体的には、この遮光ボックスは、後述するグローブボックス或いはクリーンベンチである。
【0072】
先ず、フィルタ台320を上記作業空間内の作業台におき、フィルタサポート330をフィルタ台320のフィルタサポート担持孔322に装着する。次いで、メンブランフィルタ100をフィルタ台320のメンブランフィルタ保持孔323に載置する。勿論、使用されるフィルタ台320、フィルタサポート330、メンブランフィルタ100などは、例えば120℃高圧蒸気滅菌されたものを使用する。メンブランフィルタ100は滅菌されたものが市販されているので、これら市販品を使用しても良い。又、フィルタサポート330が火炎滅菌可能な材料で形成されている場合には、これを火炎滅菌してもよい。
【0073】
次いで、このようにフィルタサポート330及びメンブランフィルタ100が所定位置に装着されたフィルタ台320をホルダ340の底部凹所345に挿入するべく、ホルダ340の底部凹所345がフィルタ台320に上方より適合して被せられる。このとき、フィルタ台320の外周に形成した環状突起324により、フィルタ台320はホルダ340の凹所345に密着して保持される。
【0074】
フィルタ台320が装着されたホルダ340は、次いで、フィルタ台320の底部に形成された環状溝325をフィルタ台保持具310の上面に形成された環状突起316に適合することによって、フィルタ台保持具310に一体に結合される。フィルタ台保持具310は、その細管部312をゴム栓304の中心孔305に挿入して固定し、このゴム栓304を濾過びん302の開口部303に挿入することによって、フィルタ台保持具310及びホルダ340が濾過びん302に保持され、濾過器301が組み立てられる。
【0075】
本実施例の濾過器301によれば、上述したように、フィルタ台320は、フィルタ台320自体が弾性材にて形成されているために、ホルダ340の凹所345内にてパッキンとしての機能をも有しており、従って、一体に組み立てられた濾過器301は、各構成部材が互に密着して一体的に結合されているために、従来使用されたような特別なホルダ押さえを使用する必要はない。
【0076】
引き続いて、濾過びん302の吸引口306に吸引ポンプ(図示せず)を接続し、サンプルをホルダ340に入れる。その後、吸引ポンプを作動させると、濾過びん302内が負圧となり、サンプルが吸引され、濾液は濾過びん302へと落ちる。このとき、サンプル中の細菌等の細胞はメンブランフィルタ100上に保持される。
【0077】
フィルタ台320を取り付ける前に、フィルタ台保持具310を予めゴム栓304を介して濾過びん302に装着しておいてもよい。又、濾過びん302の吸引口306には、予め吸引ポンプを接続しておいてもよい。
【0078】
濾過作業が終了したら、濾過びん302内を負圧に維持した状態で、ホルダ340をフィルタ台320から外す。このとき、フィルタ台320は、フィルタ台保持具310上に保持されている。次いで、吸引ポンプを停止し、濾過びん302内を大気圧に戻してから、フィルタ台320に保持されているメンブランフィルタ100を取外す。このメンブランフィルタ100は、細菌検査等のためのATP量測定に供される。
【0079】
この後、フィルタサポート330を有するフィルタ台320をフィルタ台保持具310より取外す。
【0080】
次のサンプルの濾過を行なう場合には、新たに用意した、滅菌したフィルタ台320、フィルタサポート330、メンブランフィルタ100及びホルダ340を、上述の手順で組み立てた後、先に使用したフィルタ台保持具310に取付け、上述の手順にて濾過作業を続行することができる。
【0081】
上述のような本実施例の濾過器301を使用すれば、新しいメンブランフィルタ100が前に濾過したサンプルに接触することはなく、サンプル間の雑菌汚染を完全に防ぐことができる。又、フィルタ台320、ホルダ340、更にフィルタサポート330などは、上述のように合成樹脂のような安価な材料で作製することができるので、これらを複数個用意するとしても、それほどコスト的な負担にはならない。又、もし、上述したように、フィルタ台320を、例えばシリコーンゴム、ネオプレンゴムなどで作製し、ホルダ340を、例えばポリプロピレンなどで作製すれば、120℃での高圧滅菌が可能であるので、滅菌しての再使用が可能である。多数のサンプルの検査を行なう場合には、フィルタ台保持具はそのまま使用し、フィルタ台、フィルタサポート及びホルダをフィルタ台保持具から取外して、新しいものと交換することにより濾過作業を続行すれば、サンプル間の雑菌汚染を完全になくすことができ、又、作業効率が向上する。
【0082】
尚、ここでは、サンプルは液体サンプルであるとして説明したが、上述の濾過器301は、気体サンプルの細菌検査等にも使用することができる。
【0083】
[遮光ボックス]
上述のように、本実施例では、ATP量測定方法は、
(A)サンプル中の細胞をメンブランフィルタに捕獲する工程と、
(B)前記メンブランフィルタを、上方が開口した皿状の容器内に載置する工程と、
(C)前記容器内に抽出試薬を注入し、前記メンブランフィルタに捕獲された細胞のアデノシン3リン酸を抽出する工程と、
(D)前記容器内に発光試薬を注入し、生物化学発光反応を起こす工程と、
(E)前記工程(D)により発生した光を、前記容器の開口部に対面して配置した光電子増倍管で検出する工程と、
を有する。
【0084】
この場合、少なくとも上記工程(A)を、上記工程(E)において検出される生物化学発光反応に基づくサンプル由来の光に対するメンブランフィルタの発する燐光の影響を測定精度上許容し得る範囲に抑制するような遮光状態で行う。又、好ましくは、少なくとも上記工程(A)及び(B)、又は上記工程(A)〜(D)を、上記遮光状態で行う。
【0085】
本実施例のATP量測定器1によれば、上記工程(C)〜(E)は自動化が可能であるが、少なくとも上記工程(A)及び(B)は、操作者が手作業にて行う必要がある。
【0086】
図7は、本実施例に従う濾過法によるATP量測操作の概念を示す模式図である。又、図8は、本発明に従って構成された遮光ボックスの一実施例の外観を示す。
【0087】
即ち、図7に示すように、本実施例に従って濾過法によるATP量測定を行うためには、(i)作業空間にサンプルを導入し、(ii)メンブランフィルタを用いてサンプルを濾過し、(iii)メンブランフィルタに捕獲された細胞から抽出試薬を用いてATPを抽出し、(iv)抽出されたATPに対して発光試薬を作用させて生物化学発光反応に基づく発光を起こし、(v)発光した光を検出してATP量(ATP濃度)を測定し、(vi)測定後のメンブランフィルタ、反応溶液等を廃棄する、といった諸操作が行われる。そして、これらの操作のうち(ii)〜(v)を遮光ボックス内で行うようにする。
【0088】
尚、複数のサンプルの測定を行う場合には、上記(i)のサンプルの導入作業、上記(vi)の廃棄物の取り出し作業は纏めて行うようにして、遮光ボックス内で上記作業(ii)〜(v)を繰り替えし行うようにすることができる。
【0089】
従って、本実施例に従って濾過法によるATP量測定を行うためには、遮光ボックスには、サンプルを内部に導入するための導入口と、内部を目視にて透視可能な透視部と、廃棄物を外部に導出するための導出口と、を設ける。導入口と導出口とは共通であっても、別個であってもよい。又、透視部は遮光ボックスの一部に透視窓として遮光性の透視可能な材料で形成したり、或いは遮光ボックスの枠体の大部分(実質的に全体)を遮光性の透視可能な材料で形成したりして設けることができる。
【0090】
より具体的には、図8に示すグローブボックスとして構成された遮光ボックス400は、作業空間を画成する枠体401を有する。枠体401は、本例では金属等の光不透過性の材料で作製されている。枠体401には、開口部401a、401b、401cが設けられており、各開口部401a、401b、401cを開閉可能な開閉部材402、403、404が、対応するヒンジ402a、403a、404aによって回動可能に枠体401に取り付けられている。尚、開閉部材の開閉態様は回動に限定されるものではなく、スライドなどのその他の開閉態様であってもよい。
【0091】
これら開閉部材402、403、404は、上述の導入口及び/又は導出口として機能し得る。又、各開閉部材402、403、404は、本発明に従う遮光状態を達成可能な遮光性の透視可能な材料、本例ではスモークアクリル板で作製されている。枠体401には更に、本例ではゴム手袋406が連結された複数(本例では4個)の操作用開口部401dが設けられている。本例では、枠体401は光不透過性の材料で作製し、開閉部材402、403、404のみを遮光性の透視可能な材料で作製したが、これら枠体401、及び開閉部材402、403、404など、内部に作業空間を画成する実質的に全ての部材を遮光性の透視可能な材料、例えばスモークアクリル板で作製することもできる。
【0092】
又、遮光ボックス400の内部は、通常のクリーンベンチと同様の内部の作業空間の清浄度を保つ機構によって実質的に無菌状態を達成することができるようになっている。このような機構としては、作業空間を陽圧にするための換気機構やフィルタなどを有する、従来一般的なものを特に制限なく用いることができる。
【0093】
尚、本発明に従う遮光状態を確保できるのであれば、遮光ボックスの内部に照明器具を設けても、遮光ボックスを配置した室内の照明などの遮光ボックス外部の照明によって遮光ボックス内を透視するようにしてもよい。
【0094】
そして、本例では、図8に示すように、遮光ボックス400内に、濾過器301、ATP量測定器1を配置する。吸引ポンプPも濾過器301と一緒に遮光ボックス400内に配置することができる。これらの器具、並びに、サンプル、必要な器具及び試薬は、開閉部材401、402、403のいずれかを開放することによって遮光ボックス400内に導入することができる。特に、メンブランフィルタは、その製品の開封前の状態や所定の梱包状態など、実質的にメンブランフィルタ自体に光が当たらない状態のまま、遮光ボックス400内に導入することが好ましい。そして、本実施例にて説明したようにして濾過及びATP量測定の諸操作を遮光ボックス400内で行う。又、測定後のメンブランフィルタや反応溶液などの廃棄物の遮光ボックス400の外部へ取り出しは、開閉部材401、402、403のいずれかを開放することによって行うことができる。
【0095】
尚、前述のように、上記各操作(ii)〜(V)を自動で行う各手段を備えた自動化されたATP量測定装置を構成することもできる。この場合、例えば図7の一点鎖線500で模式的に示される自動化されたATP量測定装置にサンプルが導入されると、本発明に従う遮光状態、例えば実質的に完全な遮光状態において、各操作(ii)〜(v)が行われる。又、測定後のメンブランフィルタや反応溶液などの廃棄物は、適宜、該自動化されたATP量測定装置外に取り出される。
【0096】
(実験例)
次に、本発明の効果を示す実験例について説明する。
【0097】
1.サンプル及び装置
サンプル:
純水に大腸菌を添加し、1個/ml、5個/ml、10個/ml、50個/ml、100個/mlの大腸菌懸濁液サンプルとした。尚、大腸菌数の測定は、一般的なコロニー計測法により行った。
【0098】
装置:
本実施例に従うATP量測定器1としてATPアナライザ(AF−100:東亜ディーケーケー株式会社)を使用した。
【0099】
2.測定方法
(1)本実施例に従う濾過器301に、セルロースアセテートで作製された直径25mm、孔径0.45μmのメンブランフィルタ(AF−2F2:東亜ディーケーケー株式会社)をセットし、各サンプル50mlを吸引濾過した。
(2)濾過後のメンブランフィルタを外し、専用測定容器200にメンブランフィルタを移した。
(3)上記専用測定容器200を上記ATPアナライザにセットし、微生物用ATP抽出試薬(AF−2K1:東亜ディーケーケー株式会社)を200μl注入し、30秒間攪拌(振盪)して、大腸菌からATPを抽出した。上記抽出試薬は、陽イオン界面活性剤を含有する。
(4)発光試薬(AF−2L1:東亜ディーケーケー株式会社)を100μl注入し、上記ATPアナライザの遮光扉(閉鎖部材)14を閉めて、ATP濃度を測定した。上記発光試薬は、ルシフェリン及びルシフェラーゼを含有する。尚、本実験例では、抽出試薬の注入、発光試薬の注入は、ディスペンサを用いた手作業にて行った。
(5)濾過及び測定を2000[lx]の太陽光が照射された状態で行った場合と、本発明に従って遮光装置(遮光ボックス)に濾過器及びATPアナライザを入れて濾過及び測定を10[lx]以下に遮光した状態で行った場合とで、測定値の差を調べた。
【0100】
3.結果
表1及び図9に、本発明に従って遮光した場合としない場合とのATP濃度の測定結果を示した。
【0101】
【表1】

【0102】
本発明に従って、濾過及び測定操作を遮光した状態で行った場合には、生菌数とATP濃度は良好な相関が得られた。この結果から、本発明に従うことによって、例えばサンプル量50mlを濾過する時の菌数検出限界0.5個/ml以下(ATP濃度0.5pM以下)を目標とするような、非常に低濃度のATP濃度の測定を高精度に行うことが可能であり、濾過法による高感度の生菌数の測定が可能となることが分かる。
【0103】
これに対して、濾過及び測定の操作を上述のような光が当たる状態で行った場合には、メンブランフィルタの燐光の影響により、生菌数が変化してもATP濃度の検出値の変化が小さくなっており、良好な測定ができなかった。この場合、より正確な測定を行うためには、例えばサンプル量50mlを濾過する時の菌数検出限界は10個/ml以上(ATP濃度10pM以上)程度である。
【0104】
以上、本発明を具体的な実施例に則して説明したが、本発明は上述の実施態様に限定されるものではない。
【0105】
ATP量測定器としては、上記実施例のものが好適に使用できるが、これに限定されるものではなく、例えば、濾過器にて細胞を捕獲した後にメンブランフィルタを小さく折り畳んで小型の試験管に入れ、この試験管を遮光箱の蓋を開けて箱内に設けられた試験管ホルダにセットするようになっているATP量測定器であってもよい。この場合、抽出試薬を試験管内に注入し、試験管をモータ及び回転伝達器にて振盪し、抽出試薬で細胞からATPを抽出し、次いで試験管内に発光試薬を注入し、その発光量を発光検出器で測定する。発光検出器は、試験管の下方或いは試験管の横にセットされる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明にて用いることのできるATP量測定器の一実施例の全体構成図である。
【図2】本発明にて用いることのできるATP量測定器の一実施例の断面図である。
【図3】図2の線III−IIIにとった断面図である。
【図4】図2の線IV−IVにとった断面図である。
【図5】本発明にて用いることのできる濾過器の一実施例の分解斜視図である。
【図6】図1の濾過器の部分拡大図である。
【図7】濾過法によるATP量測操作の概念を説明するための模式図である。
【図8】本発明に従って構成された遮光ボックスとしてのグローブボックスの一実施例の外観を示す。
【図9】本発明の効果を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0107】
1 ATP量測定器
301 濾過器
400 遮光ボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)サンプル中の細胞をメンブランフィルタに捕獲する工程と、(b)細胞が捕獲された前記メンブランフィルタを測定容器内に入れる工程と、(c)前記メンブランフィルタが入れられた測定容器内に抽出試薬を注入してメンブランフィルタに捕獲された細胞のATPを抽出する工程と、(d)前記抽出試薬が注入された後で前記測定容器内に発光試薬を注入して生物化学発光反応を起こす工程と、(e)前記測定容器内での生物化学発光反応により発生した光を発光検出器で検出する工程と、を有するATP量測定方法において、
少なくとも前記工程(a)を、前記工程(e)において検出される生物化学発光反応に基づくサンプル由来の光に対するメンブランフィルタの発する燐光の影響を測定精度上許容し得る範囲に抑制するような遮光状態で行うことを特徴とするATP量測定方法。
【請求項2】
少なくとも前記工程(a)及び(b)、又は前記工程(a)〜(d)を、前記遮光状態で行うことを特徴とする請求項1に記載のATP量測定方法。
【請求項3】
前記工程(a)〜(e)を、前記遮光状態を達成可能な遮光性のクリーンベンチ又はグローブボックス内で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のATP量測定方法。
【請求項4】
前記遮光は、波長が200nm以上1000nm以下の光に対して行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載のATP量測定方法。
【請求項5】
前記遮光状態における照度は10[lx]以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載のATP量測定方法。
【請求項6】
(a)サンプル中の細胞をメンブランフィルタに捕獲する工程と、(b)細胞が捕獲された前記メンブランフィルタを測定容器内に入れる工程と、(c)前記メンブランフィルタが入れられた測定容器内に抽出試薬を注入してメンブランフィルタに捕獲された細胞のATPを抽出する工程と、(d)前記抽出試薬が注入された後で前記測定容器内に発光試薬を注入して生物化学発光反応を起こす工程と、(e)前記測定容器内での生物化学発光反応により発生した光を発光検出器で検出する工程と、を自動で行うATP量測定装置であって、
少なくとも前記工程(a)を、前記工程(e)において検出される生物化学発光反応に基づくサンプル由来の光に対するメンブランフィルタの発する燐光の影響を測定精度上許容し得る範囲に抑制するような遮光状態で行うことを特徴とするATP量測定装置。
【請求項7】
少なくとも前記工程(a)及び(b)、又は前記工程(a)〜(d)を、前記遮光状態で行うことを特徴とする請求項6に記載のATP量測定装置。
【請求項8】
前記遮光は、波長が200nm以上1000nm以下の光に対して行うことを特徴とする請求項6又は7に記載のATP量測定装置。
【請求項9】
前記遮光状態における照度は10[lx]以下であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかの項に記載のATP量測定装置。
【請求項10】
前記遮光状態は、実質的に完全な暗黒であることを特徴とする請求項6又は7に記載のATP量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−111680(P2008−111680A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−293347(P2006−293347)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【Fターム(参考)】