説明

AV機器,テレビジョン受像機

【課題】左右のサイドスピーカと,それらの間に配置される中央スピーカ(ウーファ)とを備えたAV機器が,薄型化及び小型化と左右音量バランス調節が行われたときの適切な音像定位制御とを両立できること。
【解決手段】中央スピーカ14Cの出力帯域(例えば50Hz〜200Hz)の一部に,サイドスピーカ14L,14Rの出力帯域(例えば100Hz〜20000Hz)の一部と重複する重複再現帯域Wが含まれ,音量バランスの偏りの程度に応じて,中央アッテネータ24及び中央イコライザ25Cが,モノラル音響信号(L,Rチャンネルの合成信号)の重複再現帯域Wを含む一部帯域の成分を相対的に減衰補正しつつその音量レベルを減衰補正し,左イコライザ25L及び右イコライザ25Rが,バランス増強側チャンネルのチャンネル信号について,重複再現帯域Wを含む一部の帯域の成分を相対的に増幅補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ステレオ音響を出力する複数のスピーカを備えたAV機器及びテレビジョン受像機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に,テレビジョン受像機等のAV機器は,ステレオ音響信号におけるLチャンネル信号及びRチャンネル信号それぞれが入力されて音響を出力する一対のサイドスピーカを備え,それらサイドスピーカは,機器本体の左右両側に配置されている。そして,一対のサイドスピーカを備えたAV機器は,一般に,Lチャンネル信号及びRチャンネル信号の音量バランスを調節する音量バランス調節機能を備えている。
また,AV機器の中には,それら一対のサイドスピーカの配列方向(左右方向)における間の位置に配置された1組のスピーカ(以下,中央スピーカという)を備えるものもある。この中央スピーカは,Lチャンネル信号及びRチャンネル信号を合成したモノラル音響信号が入力されて音響を出力する。
一般に,前記サイドスピーカは,人の聴覚においてステレオ感を敏感に感じる中高音域(例えば,500Hz以上)が主な出力帯域(再現可能な帯域)であるスコーカやツイータ等のスピーカである。さらに,サイドスピーカに,低音域(例えば,100〜500Hz)が主な出力帯域であるウーファが含まれる場合もある。
一方,前記中央スピーカは,人の聴覚においてステレオ感をほとんど感じない(スピーカを左右に分けて配置する必要がない)超低音域(100Hz以下)が主な出力帯域であるサブウーファと呼ばれるスピーカである。
例えば,特許文献1には,リスナの位置及び方向の検出結果に応じて複数の音響信号のミキシング比を調節し,ミキシング後の音響信号をサブウーファを除く複数のスピーカを通じて出力することによって音場(音像定位)を制御する装置について示されている。
【0003】
ところで,液晶表示パネル等のパネルディスプレイ(薄型の映像表示部)を備えたテレビジョン受像機(AV機器の一例)は,装置の薄型化及び省スペース化に対する要請が特に強い。そのため,液晶テレビジョン受像機等の薄型AV機器において,奥行きサイズが大きくなるサブウーファを採用せず,さらに,サイドスピーカとして中高音域が主な出力帯域であるスコーカやツイータ等のスピーカを採用するとともに,中央スピーカとして低音域が主な出力帯域であるウーファが採用することが考えられる。この場合,中央スピーカであるウーファには,Lチャンネル信号とRチャンネル信号との合成信号(モノラル音響信号)が入力される。このような薄型AV機器は,低音域から高音域までカバーできるスピーカシステムを薄型かつ省スペースで実現するものである。また,同薄型AV機器は,ステレオ感への影響が比較的大きな中高音域のスピーカをサイドスピーカとして,ステレオ感への影響が比較的小さな低音域のスピーカ(ウーファ)を中央スピーカとして採用されているので,ステレオ感のある音響出力も行うことができる。
【特許文献1】特開2006−270522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,ウーファを中央スピーカとするAV機器において,前記音量バランス調節機能によりLチャンネル信号及びRチャンネル信号の音量バランスに偏りが生じた場合,一対のサイドスピーカの作用によって中高音域の音像は装置正面方向に対して左右のいずれかに移動する。これに対し,中央スピーカ(ウーファ)の作用による低音域の音像は装置正面方向に残ったままとなる。このように,ステレオ感に影響する音響の周波数帯域(100Hz以上)において,一部の帯域ごとに音像の位置(方向)が大きく異なると,リスナの聴覚に非常に違和感のある不自然さを感じさせるという問題点があった。
従って,本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,左右両側に配置された一対のサイドスピーカと,それらの間に配置されるスピーカであって,ステレオ感に影響する音響帯域(例えば,100Hz以上)を出力周波数帯域の一部に含む中央スピーカ(ウーファがその典型例)とを備え,スピーカシステムの薄型化及び小型化と左右の音量バランス調節が行われたときの適切な音像定位制御とを両立できるAV機器及びテレビジョン受像機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明に係るAV機器は,次の(1)〜(6)に示す各構成要素を備えるものである。
(1)機器本体の左右両側に配置されステレオ音響信号におけるLチャンネル信号及びRチャンネル信号それぞれが入力されて音響を出力する一対のサイドスピーカ。なお,前記サイドスピーカそれぞれは,1つのスピーカからなるものや,複数のスピーカからなるものが考えられる。
(2)前記Lチャンネル信号及び前記Rチャンネル信号の音量バランスを調節する音量バランス調節手段。
(3)前記Lチャンネル信号及び前記Rチャンネル信号を合成したモノラル音響信号を生成するモノラル音響信号生成手段。
(4)前記一対のサイドスピーカの配列方向における間の位置に配置され前記モノラル音響信号が入力されて音響を出力する1組の中央スピーカ(いわゆるウーファがその典型例)。
ここで,前記中央スピーカにより再現可能な音響の周波数帯域における高周波数側の一部に,前記サイドスピーカにより再現可能な音響の周波数帯域における低周波数側の一部と重複する帯域である重複再現帯域が含まれている。なお,前記中央スピーカは,1つのスピーカからなるものや,複数のスピーカからなるものが考えられる。
(5)前記音量バランス調節手段により調節された前記ステレオ音響信号における左右の音量バランスの偏りの程度に応じて,前記モノラル音響信号における前記重複再現帯域を含む一部の帯域の信号成分をそれより低い周波数帯域の信号成分よりも相対的に減衰補正しつつ,前記モノラル音響信号の音量レベルを減衰補正する合成信号補正手段。
(6)前記音量バランス調節手段により調節された前記ステレオ音響信号における左右の音量バランスの偏りの程度に応じて,音量が相対的に増強されている側のチャンネル信号について,前記重複再現帯域を含む一部の帯域の信号成分をそれより高い周波数帯域の信号成分よりも相対的に増幅補正するチャンネル信号補正手段。
ここで,前記重複再現帯域には,ステレオ感に影響する音響の周波数帯域(例えば,100Hz以上)が含まれている。
前記合成信号補正手段は,前記モノラル音響信号におけるステレオ感に影響する音響の周波数帯域(例えば,100Hz以上)の周波数帯域の信号成分をそれより低い周波数帯域の信号成分よりも相対的に減衰補正する。
また,前記重複再現帯域は,例えば,100Hz以上200Hz以下の周波数帯域を含む帯域である。
【0006】
本発明に係るAV機器は,前記音量バランス調節手段によってLチャンネル信号及びRチャンネル信号の音量バランスに偏りが生じた場合(一対のサイドスピーカの出力周波数帯域の音像が機器正面方向に対して左右のいずれかに移動した場合),左右の音量バランスの偏りの程度に応じて,前記合成信号補正手段による処理及び前記チャンネル信号補正手段による処理(いずれも,いわゆるイコライズ処理の一例)を実行する。
前記合成信号補正手段の処理により,中央スピーカの出力音響によって機器正面方向に残る音像のレベルが下がり,リスナの聴覚に与える違和感(不自然さ)を軽減できる。
また,前記チャンネル信号補正手段の処理により,音量が低下した中央スピーカからの出力音響のうちの一部の帯域の音量が,音量が相対的に増強されている側のチャンネル信号に対応する一方のサイドスピーカの出力音響によって補われる。これにより,低音側の帯域についての音像移動を実現できる。ここで,サイドスピーカによって中央スピーカの出力音響の音量低下分の全てを補うことはできない。しかしながら,本発明のように,モノラル音響信号の減衰補正(特に,100Hz以上の帯域の減衰補正)と,音量増強側のチャンネル信号における低音域の増強補正とを併せて行うことにより,ステレオ感に影響する音響の周波数帯域(100Hz以上)における一部の帯域ごとの音像の位置(方向)の差を小さくできる。その結果,中央スピーカの出力音響によって機器正面方向に残る音像を高いレベルのまま維持する場合に比べ,リスナにとって違和感の少ない(自然な)音響出力(適切な音像定位制御)を行うことができる。
また,本発明は,以上に示した本発明に係るAV機器が備える各構成要素と,映像を表示するパネルディスプレイ(液晶表示パネルやプラズマディスプレイ等)とを備えたテレビジョン受像機として実現されれば好適である。この場合,そのパネルディスプレイの左右両側に前記一対のサイドスピーカが配置される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るAV機器及びテレビジョン受像機は,左右両側に配置された一対のサイドスピーカと,それらの間に配置されるスピーカであって,ステレオ感に影響する音響帯域(例えば,100Hz以上)を出力周波数帯域の一部に含む中央スピーカとを備えることにより,低音域から高音域までカバーできるスピーカシステムを薄型かつ省スペースで実現できる。さらに,本発明に係るAV機器及びテレビジョン受像機は,ステレオ感への影響が比較的大きな中高音域のスピーカをサイドスピーカとして,ステレオ感への影響が比較的小さな低音域のスピーカ(ウーファ)を中央スピーカとして採用することにより,ステレオ感のある音響出力も行うことができる。
また,本発明に係るAV機器及びテレビジョン受像機は,左右の音量バランス調節が行われた場合でも,中央スピーカに入力されるモノラル音響信号の減衰補正と,音量増強側のチャンネル信号における低音域の増強補正とを併せて行うことにより,適切な音像定位制御を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下添付図面を参照しながら,本発明の実施の形態について説明し,本発明の理解に供する。尚,以下の実施の形態は,本発明を具体化した一例であって,本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
ここに,図1は本発明の実施形態に係るAV機器の一例であるテレビジョン受像機Xの概略構成を表すブロック図,図2はテレビジョン受像機Xが備える音響処理回路の概略構成を表すブロック図,図3はテレビジョン受像機Xが備えるスピーカの周波数特性を表す図,図4は音響処理回路における左右音量バランスの増強側チャンネルのイコライザの設定ゲインを模式的に表した図,図5は音響処理回路における左右音量バランスの減衰側チャンネルのイコライザの設定ゲインを模式的に表した図,図6は音響処理回路における中央イコライザの設定ゲインを模式的に表した図,図7は音量バランス調節処理によるバランス増強側チャンネルに対応するサイドスピーカの出力変化を表す図,図8は音量バランス調節処理によるバランス減衰側チャンネルに対応するサイドスピーカの出力変化を表す図,図9は音量バランス調節処理による中央スピーカの出力変化を表す図である。
【0009】
まず,図1に示すブロック図を参照しつつ,本発明の実施形態に係るAV機器の一例であるテレビジョン受像機Xの構成について説明する。
テレビジョン受像機Xは,入力された放送信号やAV信号に基づいて,映像表示部16に映像信号を入力させて映像を表示するとともに,3組のスピーカ14L,14R,14Cに音響信号を入力させてステレオ音響を出力するAV機器の一例である。
図1に示すように,テレビジョン受像機Xは,ディジタルチューナ1,復調回路2,デマルチプレクサ3,映像デーコーダ回路4,映像入力選択回路5,映像処理回路6,外部入力部7,制御回路8,リモコン受光部9,リモコン15,映像表示部16,音響デコーダ回路10,音響入力選択回路11,音響処理回路12,アンプ13,及びスピーカ14等を具備している。
【0010】
前記ディジタルチューナ1は,前記制御回路8により選択を指示された放送番組の信号が含まれる搬送波周波数成分を選択して後段の復調回路2に伝送する。
前記復調回路2は,前記ディジタルチューナ1から伝送されてきた搬送波周波数成分からトランスポートストリーム信号(Transport Stream信号:以下、TS信号)を復調する。
前記デマルチプレクサ3は,前記ディジタルチューナ1及び前記復調回路2により抽出されたTS信号から,視聴する放送番組に対応した映像信号及び音響信号,並びに付加データ等を分離して抽出するものである。さらに,前記デマルチプレクサ3は,前記制御回路8から受けたPID(Packet IDentification)に応じて,視聴対象となる放送番組の映像信号及び音響信号を抽出し,各信号を前記映像デコーダ回路4及び前記音響デコーダ回路10それぞれに伝送する。
前記映像デコーダ回路4は,前記デマルチプレクサ3から受けた映像信号を復号し,復号した映像信号を前記映像入力選択回路5に伝送する。同様に,前記音響デコーダ回路10は,前記デマルチプレクサ3から受けた音響信号を復号し,復号した音響信号を前記音響入力選択回路11に伝送する。
【0011】
前記外部入力部7は,外部機器からAV信号(映像信号及び音響信号)を入力する信号入力インターフェースである。この外部入力部7を通じて入力された映像信号は前記映像入力選択回路5へ伝送され,同音響信号は前記音響入力選択回路11へ伝送される。
前記映像入力選択回路5は,前記制御回路8からの制御指令に従って,前記ディジタルチューナ1により選局されたチャンネルの映像信号(前記映像デコーダ回路4を通じて入力される映像信号)と,前記外部入力部7を通じて入力される映像信号とのいずれかを選択して前記映像処理回路6へ伝送する回路である。
前記映像処理回路6は,前記映像入力選択回路5により選択された映像信号に対して各種信号処理を行うものである。例えば,前記映像処理回路6は,制御回路8から伝送される画像情報や文字情報を映像入力選択回路5から伝送される映像信号に重ねて或いは置き換えて映像表示部16に表示させる機能を備えている。
前記映像表示部16は,映像処理回路6から出力される映像信号に基づく映像を表示する薄型のパネルディスプレイであり,例えば,液晶表示パネルやプラズマディスプレイ等である。
【0012】
前記音響入力選択回路11は,前記制御回路8からの制御指令に従って,前記ディジタルチューナ1により選局されたチャンネルの音響信号(前記音響デコーダ回路10を通じて入力される音響信号)と,前記外部入力部7を通じて入力される音響信号とのいずれかを選択して前記音響処理回路12へ伝送する回路である。
前記音響処理回路12は,前記制御回路8からの指示に従って,前記音響入力選択回路11により選択された音響信号に対して各種信号処理を行うものである。例えば,イコライズ処理や,ステレオ音響信号におけるLチャンネル信号とRチャンネル信号との間の音量バランスの調節処理等を行う。前記アンプ13は,前記音響処理回路12による処理後の音響信号を,前記制御回路8からの指示に従って増幅或いは減衰させる処理を行い,前記スピーカ14に出力するものである。
【0013】
前記スピーカ14は,一対のサイドスピーカ14L,14Rと1組の中央スピーカ14Cとからなる。
一対のサイドスピーカ14L,14Rは,当該テレビジョン受像機X本体の左右両側(映像表示部16の左右両側)に配置され,ステレオ音響信号におけるLチャンネル信号及びRチャンネル信号それぞれが入力されて音響を出力するスピーカである。
また,1組の中央スピーカ14Cは,Lチャンネル信号及びRチャンネル信号を合成したモノラル音響信号が入力されて音響を出力するスピーカであり,一対のサイドスピーカ14L,14Rの配列方向(左右方向)における間の位置(例えば,映像表示部16の下方の位置)に配置されている。
なお,サイドスピーカ14L,14R及び中央スピーカ14Cは,それぞれ1つのスピーカにより構成されてる場合,又は複数のスピーカの組合わせ(例えば,出力周波数帯域が異なる複数のスピーカの組合せ等)により構成されている場合が考えられる。
図3は,サイドスピーカ14L,14R(図中,左右SPと表記)及び中央スピーカ14C(図中,中央SPと表記)それぞれの周波数特性を表す図である。
図3のグラフg11に示すように,サイドスピーカ14L,14Rの出力特性(周波数特性)は同じであり,いずれも,中高音域の音響を再現可能なスピーカである。例えば,サイドスピーカ14L,14Rは,200Hz〜20000Hzの中高音域を主な再現帯域とし,さらに,相対的にゲインは低いものの,低音域の一部である100Hz以上200Hz以下の帯域の音響も再現可能である。
一方,図3のグラフg12に示すように,中央スピーカ14Cは,低音域の音響を再現可能なスピーカ(いわゆるウーファ)である。例えば,中央スピーカ14Cは,100Hz〜200Hzの帯域の低音域を主な再現帯域とし,さらに,相対的にゲインは低いものの,超低音域の一部である50Hz〜100Hzの帯域の音響も再現可能である。
このように,中央スピーカ14Cにより再現可能な音響の周波数帯域(概ね50Hz〜300Hz)における高周波数側の一部に,サイドスピーカ14L,14Rにより再現可能な音響の周波数帯域(概ね100Hz〜20000Hz)における低周波数側の一部と重複する帯域として,人の聴覚のステレオ感に影響を与える100Hz〜200Hzの帯域が含まれている。この重複する帯域のことを,以下,重複再現帯域Wと称する。
【0014】
前記リモコン受光部9は,当該テレビジョン受像機Xの操作用のリモコン15(リモート操作器)から,所定の信号伝送プロトコル(いわゆるリモコンプロトコル)に従って比較的低速な信号伝送により,赤外線による無線信号受信を行う信号伝送インターフェースである。リモコン受光部9は,赤外線信号伝送によってリモコン15に対する操作入力情報を取得し,その操作入力情報を制御回路8に伝送する。
前記制御回路8は,演算手段であるMPU8a,そのMPU8aによって実行される制御プログラムが予め格納される記憶手段であるROM8b(EPROM),前記MPU8aが実行する処理において読み書き(参照又は書き込み)される各種データを記憶する不揮発メモリ8c等を備え,当該テレビジョン受像機X全体を制御するものである。前記不揮発メモリ8cは,例えばフラッシュメモリやEEPROM等である。
例えば,リモコン15に設けられた音量バランス調節キーが操作された場合,そのキー操作に応じて左右バランス調節信号BLが,リモコン15からリモコン受光部9及び制御回路8を介して音響処理回路12に伝送される。左右バランス調節信号BLは,ステレオ音響信号におけるLチャンネル信号SiLとRチャンネル信号SiRとの音量比率を表す信号である。以下,例えば,左右バランス調節信号BLにより,Lチャンネル信号の音量:Rチャンネル信号の音量=110%:90%と設定された状態を「Lch:+10%」,同様に,Lチャンネル信号の音量:Rチャンネル信号の音量=90%:110%と設定された状態を「Lch:−10%」などと表記する。
また,以下,左右バランス調節信号BLにより,ステレオ音響信号における左右の音量バランスに偏りが生じるよう設定された状態(「Lch:±0%」以外の状態)において,音量が相対的に増強される側のチャンネル(例えば,「Lch:+10%」の状態であればLチャンネル)をバランス増強側チャンネルと称する。
【0015】
次に,図2に示すブロック図を参照しつつ,音響処理回路12について説明する。
図2に示すように,音響処理回路12は,左アッテネータ21L及び右アッテネータ21Rと,共通イコライザ22と,音響信号合成部23と,中央アッテネータ24と,左イコライザ25L及び右イコライザ25Rと,中央イコライザ25Cとを備えている。
左アッテネータ21L及び右アッテネータ21Rは,制御回路8から伝送される前記左右バランス調節信号BLに応じて,Lチャンネル信号SiL及びRチャンネル信号SiRの音量バランスを調節する処理(音量バランス調節処理)を実行する回路である(前記音量バランス調節手段の一例)。例えば,左右バランス調節信号BLにより,「Lch:+10%」の音量バランスの設定が行われた場合,左アッテネータ21Lが,Lチャンネル信号SiLの音量を10%増強(増幅)させるとともに,右アッテネータ21Rが,Rチャンネル信号SiRの音量を10%減衰させる。これにより,左右両チャンネルの音響の総音量が維持されたまま,左右の音量バランス(音量比)が変化する。
【0016】
共通イコライザ22は,制御回路8から伝送されるイコライズ設定情報に従って,ステレオ音響信号(Lチャンネル信号及びRチャンネル信号)に対してイコライズ処理を実行する回路である。なお,イコライズ処理は,周知のごとく,音響信号における全周波数帯域が複数に区分された各区分の信号成分(周波数ビン)ごとに,その信号成分を増幅又は減衰させる処理である。このイコライズ処理では,まず,時間領域の音響信号をフーリエ変換処理によって周波数領域の音響信号に変換し,その周波数領域の音響信号について周波数ビンごとのゲイン調節(増幅又は減衰)を行い,その後,逆フーリエ変換処理によって周波数領域の音響信号を再び時間領域の音響信号に戻す。なお,前記イコライズ設定情報は,周波数ビンごとのゲイン情報であり,ユーザによりリモコン15を通じて設定される情報である。
なお,図2においては,音量バランス調節処理が施された後のLチャンネル信号SiL及びRチャンネル信号SiRに対して共通イコライザ22の処理が施される例を示すが,各チャンネル信号SiL,SiRに対して音量バランス調節処理と共通イコライザ22の処理とを施す順序は逆であってもよい。
音響信号合成部23は,音量バランス調節処理と共通イコライザ22の処理とが施された後のLチャンネル信号SiL及びRチャンネル信号SiRを合成したモノラル音響信号を生成する回路である(前記モノラル音響信号生成手段の一例)。この音響信号合成部23により生成されるモノラル音響信号は,音量バランス調節処理の結果が反映された音響信号である。
なお,以上に示した左アッテネータ21L,右アッテネータ21R,共通イコライザ22及び音響信号合成部23は,従来の音響処理回路にも設けられている。
【0017】
中央アッテネータ23は,左右バランス調節信号BLの内容に応じて,音響信号合成部23により生成されたモノラル音響信号(合成信号)の音量レベル(全周波数帯域の信号成分のレベル)を減衰補正する回路である。なお,左右バランス調節信号BLは,左アッテネータ21L及び右アッテネータ21Rにより調節されたステレオ音響信号における左右の音量バランスの偏りの程度を表す信号の一例である。
また,中央イコライザ25Cは,中央アッテネータ23による処理が施されたモノラル音響信号に対してイコライズ処理を実行する回路である。より具体的には,中央イコライザ25Cは,左右バランス調節信号BLの内容(即ち,左右の音量バランスの偏りの程)に応じて,モノラル音響信号における高周波数側の一部の帯域の信号成分を,それより低い周波数帯域の信号成分よりも相対的に減衰補正する。
【0018】
図6は,左右の音量バランスの偏りがある場合(例えば,前記バランス増強側チャンネルがLチャンネルである場合)における中央イコライザ25Cの設定ゲインを模式的に表した図である。
図6に示すように,中央イコライザ25Cは,左右の音量バランスの偏りの程度に応じて,モノラル音響信号における高周波数側の一部の帯域(図6に示す例では,概ね100Hzを超える帯域)の信号成分を,それより低い周波数帯域(概ね100Hz以下)の信号成分よりも相対的に減衰補正する。より具体的には,中央イコライザ25Cは,音量バランスの偏りが大きいほど,高周波数側の一部の帯域の減衰幅を大きくする。ここで,減衰対象となる高周波数側の一部の帯域は,前記重複再現帯域Wを含む帯域である。
以上に示したように,中央アッテネータ24及び中央イコライザ25Cは,音量バランスの偏りの程度に応じて,モノラル音響信号における前記重複再現帯域Wを含む一部の帯域の信号成分を,それより低い周波数帯域の信号成分よりも相対的に減衰補正しつつ,モノラル音響信号の音量レベルを減衰補正するものである(前記合成信号補正手段の一例)。
なお,中央イコライザ25Cのみにより,モノラル音響信号における前記重複再現帯域Wを含む一部の帯域の信号成分を,それより低い周波数帯域の信号成分よりも相対的に減衰補正しつつ,モノラル音響信号の音量レベルを減衰補正することも可能である。この場合,モノラル音響信号における100Hz以下の帯域については音量レベルを元のまま維持することも考えられる。
【0019】
また,左イコライザ25L及び右イコライザ25Rは,左右バランス調節信号BLの内容に応じて,Lチャンネル信号SiL又はRチャンネル信号SiRのいずれか一方に対してイコライズ処理を施す回路である。より具体的には,左イコライザ25L及び右イコライザ25Rは,左右バランス調節信号BLの内容(即ち,左右の音量バランスの偏りの程)に応じて,前記バランス増強側チャンネルのチャンネル信号について,低周波数側の一部の帯域(前記重複再現帯域Wを含む)の信号成分をそれより高い周波数帯域の信号成分よりも相対的に増幅補正する回路である(前記チャンネル信号補正手段の一例)。
【0020】
図4及び図5は,それぞれ前記バランス増強側チャンネル(ここでは,Lチャンネル)及び他方のチャンネル(ここでは,Rチャンネル)に対応するイコライザ25L,25Rの設定ゲインを模式的に表した図である。
図4に示すように,前記バランス増強側チャンネルに対応するイコライザ(ここでは,左イコライザ25L)は,左右の音量バランスの偏りの程度に応じて,バランス増強側チャンネルのチャンネル信号(ここでは,Lチャンネル信号SiL)における低周波数側の一部の帯域(図4に示す例では,概ね500Hz以下の帯域)の信号成分を,それより高い周波数帯域(概ね500Hz以上)の信号成分よりも相対的に増幅補正する。より具体的には,バランス増強側チャンネルに対応するイコライザは,音量バランスの偏りが大きいほど,低周波数側の一部の帯域の増幅幅を大きくする。ここで,増幅対象となる低周波数側の一部の帯域は,前記重複再現帯域Wを含む帯域である。
一方,図5に示すように,前記バランス増強側チャンネル以外のチャンネルに対応するイコライザ(ここでは,右イコライザ25R)は,イコライズ処理(一部の帯域の信号成分の増幅処理又は減衰処理)を行わない。なお,前記バランス増強側チャンネル以外のチャンネルに対応するイコライザが,重複際限帯域Wを含む低周波数側の一部の帯域の信号成分を,それより高い周波数帯域の信号成分よりも相対的にわずかに減衰補正することも考えられる。
【0021】
図7〜図9は,音量バランス調節処理による各スピーカの出力変化を表す図である。ここで,図7はバランス増強側チャンネルに対応するサイドスピーカ(ここでは,左側のサイドスピーカ14L)の出力変化,図8はバランス減衰側チャンネルに対応するサイドスピーカ(ここでは,右側のサイドスピーカ14R)の出力変化,図9は中央スピーカ14Cの出力変化を表す。なお,図7〜図9において,細い一点鎖線で表すグラフが,音量バランス調節が行われる前のスピーカ出力の状態(音圧レベル分布)を表し,太い実線で表すグラフが,音量バランス調節(中央アッテネータ24及び3つのイコライザ25L,25R,25Cによる補正処理を含む)が行われた後のスピーカ出力の状態を表す。
音量バランス調節処理によって音量バランスの偏りを生じさせる設定がなされた場合,図7及び図8において矢印P11,P21で示されるように,左アッテネータ21L及び右アッテネータ21Rの作用により,バランス増強側チャンネルのサイドスピーカ14Lの出力音響は増幅補正され,他方のチャンネルのサイドスピーカ14Rの出力音響は減衰補正される。これにより,一対のサイドスピーカ14L,14Rの出力音響により定まる中高音域の音像は装置正面方向に対して左側に移動する。
【0022】
また,音量バランス調節処理によって音量バランスの偏りを生じさせる設定がなされた場合,図9において矢印P31で示されるように,中央アッテネータ24の作用により,中央スピーカ14Cの出力音響は減衰補正される。さらに,図9において矢印R32で示されるように,中央スピーカ14Cの出力音響における高周波数側の一部の帯域(重複再現帯域Wを含む帯域)の音響成分,即ち,ステレオ感に影響する100Hz以上の帯域の音響成分は,それより低い周波数帯域の音響成分(即ち,ステレオ感への影響が小さい音響成分)よりも高い減衰率(減衰度合いが高いことを意味する)で減衰する。
これにより,中央スピーカ14Cの出力音響によって機器正面方向に残る音像のレベルが下がり,リスナの聴覚に与える違和感(不自然さ)が軽減される。
【0023】
一方,図7において矢印P12で示されるように,前記左イコライザ25Lの作用により,バランス増強側チャンネルのサイドスピーカ14Lの出力音響における低周波数側の一部の帯域(重複再現帯域Wを含む帯域)の音響成分は,それより高い周波数帯域の音響成分よりも高い増幅率で増幅される。これにより,音量が低下した中央スピーカ14Cからの出力音響のうちの一部の帯域(特に,100Hz〜200Hzの帯域)の音量が,バランス増強側チャンネルのサイドスピーカ14Lの出力音響によって補われる。その結果,低音域についての音像移動を実現できる。ここで,サイドスピーカ14Lによって中央スピーカ14Cの出力音響の音量低下分の全てを補うことはできない。しかしながら,音響処理回路12により,モノラル音響信号の減衰補正(特に,100Hz以上の帯域の減衰補正)と,バランス増強側チャンネルのチャンネル信号SiLにおける低音域の増強補正とを併せて行うことにより,ステレオ感に影響する音響の周波数帯域(100Hz以上)における一部の帯域ごとの音像の位置(方向)の差を小さくできる。その結果,中央スピーカ14Cの出力音響によって機器正面方向に残る音像を高いレベルのまま維持する場合に比べ,リスナにとって違和感の少ない(自然な)音響出力(適切な音像定位制御)を行うことができる。
【0024】
ところで,音量バランス調節の有無に関わらず,各スピーカ14L,14R,14Cに対応するイコライザ25L,25R,25Cにより,常に,サイドスピーカ14L,14Rに入力される各チャンネル信号SiL,SiRにおける前記重複再現帯域Wのレベルを増幅し,中央スピーカ14Cに入力されるモノラル音響信号における前記重複再現帯域Wのレベルを減衰させることも考えられる。しかしながら,左右の音量バランスに偏りがない場合,各イコライザ25L,25R,25Cにおける周波数帯域ごとのゲインを極力フラットにし,各スピーカ14L,14R,14Cの本来の特性を有効に活かした方が,より音質の良い音響が得られる。従って,本発明のように,左右の音量バランスに偏りがある場合にのみ,その偏りの程度に応じて,前記重複再現帯域Wを含む帯域について各イコライザ25L,25R,25Cのゲイン調節を行うことにより,各スピーカ14L,14R,14Cの特性を活かしてトータルの音質性能を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は,パネルディスプレイ方式のテレビジョン受像機や,壁掛けタイプのステレオ機器等,小型化及び薄型化が要求されるAV機器への利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係るAV機器の一例であるテレビジョン受像機Xの概略構成を表すブロック図。
【図2】テレビジョン受像機Xが備える音響処理回路の概略構成を表すブロック図。
【図3】テレビジョン受像機Xが備えるスピーカの周波数特性を表す図。
【図4】音響処理回路における左右音量バランスの増強側チャンネルのイコライザの設定ゲインを模式的に表した図。
【図5】音響処理回路における左右音量バランスの減衰側チャンネルのイコライザの設定ゲインを模式的に表した図。
【図6】音響処理回路における中央イコライザの設定ゲインを模式的に表した図。
【図7】音量バランス調節処理によるバランス増強側チャンネルに対応するサイドスピーカの出力変化を表す図。
【図8】音量バランス調節処理によるバランス減衰側チャンネルに対応するサイドスピーカの出力変化を表す図。
【図9】音量バランス調節処理による中央スピーカの出力変化を表す図。
【符号の説明】
【0027】
X :テレビジョン受像機
1 :ディジタルチューナ
2 :復調回路
3 :デマルチプレクサ
4 :映像デコーダ回路
5 :映像入力選択回路
6 :映像処理回路
7 :外部入力部
8 :制御回路
9 :リモコン受光部
10:音響デコーダ回路
11:音響入力選択回路
12:音響処理回路
13:アンプ
14:スピーカ
15:リモコン
16:映像表示部
21L:左アッテネータ
21R:右アッテネータ
22:共通イコライザ
23:音響信号合成部
24:中央アッテネータ
25L:左イコライザ
25R:右イコライザ
25C:中央イコライザ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器本体の左右両側に配置されステレオ音響信号におけるLチャンネル信号及びRチャンネル信号それぞれが入力されて音響を出力する一対のサイドスピーカと,前記Lチャンネル信号及び前記Rチャンネル信号の音量バランスを調節する音量バランス調節手段と,前記Lチャンネル信号及び前記Rチャンネル信号を合成したモノラル音響信号を生成するモノラル音響信号生成手段と,前記一対のサイドスピーカの配列方向における間の位置に配置され前記モノラル音響信号が入力されて音響を出力する1組の中央スピーカと,を備え,前記中央スピーカにより再現可能な音響の周波数帯域における高周波数側の一部に,前記サイドスピーカにより再現可能な音響の周波数帯域における低周波数側の一部と重複する帯域である重複再現帯域が含まれてなるAV機器であって,
前記音量バランス調節手段により調節された前記ステレオ音響信号における左右の音量バランスの偏りの程度に応じて,前記モノラル音響信号における前記重複再現帯域を含む一部の帯域の信号成分をそれより低い周波数帯域の信号成分よりも相対的に減衰補正しつつ,前記モノラル音響信号の音量レベルを減衰補正する合成信号補正手段と,
前記音量バランス調節手段により調節された前記ステレオ音響信号における左右の音量バランスの偏りの程度に応じて,音量が相対的に増強されている側のチャンネル信号について,前記重複再現帯域を含む一部の帯域の信号成分をそれより高い周波数帯域の信号成分よりも相対的に増幅補正するチャンネル信号補正手段と,
を具備してなることを特徴とするAV機器。
【請求項2】
前記合成信号補正手段が,前記モノラル音響信号における100Hz以上の周波数帯域の信号成分をそれより低い周波数帯域の信号成分よりも相対的に減衰補正してなる請求項1に記載のAV機器。
【請求項3】
前記重複再現帯域が100Hz以上200Hz以下の周波数帯域を含んでなる請求項1又は2のいずれかに記載のAV機器。
【請求項4】
映像を表示するパネルディスプレイと,該パネルディスプレイの左右両側に配置されステレオ音響信号におけるLチャンネル信号及びRチャンネル信号それぞれが入力されて音響を出力する一対のサイドスピーカと,前記Lチャンネル信号及び前記Rチャンネル信号の音量バランスを調節する音量バランス調節手段と,前記Lチャンネル信号及び前記Rチャンネル信号を合成したモノラル音響信号を生成するモノラル音響信号生成手段と,前記一対のサイドスピーカの配列方向における間の位置に配置され前記モノラル音響信号が入力されて音響を出力する1組の中央スピーカと,を備え,前記中央スピーカにより再現可能な音響の周波数帯域における高周波数側の一部に,前記サイドスピーカにより再現可能な音響の周波数帯域における低周波数側の一部と重複する帯域である重複再現帯域が含まれてなるテレビジョン受像機であって,
前記音量バランス調節手段により調節された前記ステレオ音響信号における左右の音量バランスの偏りの程度に応じて,前記モノラル音響信号における前記重複再現帯域を含む一部の帯域の信号成分をそれより高い周波数帯域の信号成分よりも相対的に減衰補正しつつ,前記モノラル音響信号の音量レベルを減衰補正する合成信号補正手段と,
前記音量バランス調節手段により調節された前記ステレオ音響信号における左右の音量バランスの偏りの程度に応じて,音量が相対的に増強されている側のチャンネル信号について,前記重複再現帯域を含む一部の帯域の信号成分をそれより低い周波数帯域の信号成分よりも相対的に増幅補正するチャンネル信号補正手段と,
を具備してなることを特徴とするテレビジョン受像機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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