説明

Alスクラップの精製方法

【課題】本発明は、Alスクラップから所定の高いSi除去率のAl精製体(圧搾された初晶の集積体)を高体積(高Al回収率)で、かつ、高効率で生産できるAlスクラップの精製方法を提供することを目的とする。
【解決手段】容器1内に収容されたAlスクラップ溶湯2を精製する方法において、初晶発生工程で発生した初晶3aを含むAlスクラップ溶湯2に対して、圧力が負荷される圧力負荷部アと押し固め板4aの下方の液相を液相排出孔以外からも排出するための圧力が負荷されない圧力無負荷部イとが存在するように押し固め板4aを下降させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にアルミニウム(以下、「Al」と称す)スクラップから不純物元素としてのシリコン(以下、「Si」と称す)を高い割合で除去し、かつ、Al晶出物(以下、「初晶」とも称す)の回収率が高い(すなわち、Al精製体を高体積で得る)Alスクラップの精製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、クラッド材などの生産量が増加し、それに伴う屑の量が増加している。しかし、クラッド材は、組成の異なる数種類のAl合金を重ねて作成するため、上記屑から製品への単純なリサイクルは困難である。そこで、上記屑(Alスクラップ)を精製し、不純物元素が取り除かれた再利用可能なAl材を作成する技術が望まれている。
【0003】
上記要望に応える技術として、いくつかの方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、容器にSiを0.5〜10質量%含むAl合金スクラップ溶湯を収容し、溶湯の液相線以下でかつ固相線以上の温度まで溶湯のほぼ全域を20℃/min以下の速度で冷却させて初晶を発生させ、次いで容器の上部から押し固め板を下降させて、Al晶出物(初晶)の集積体と濃化液相とを形成し、次いで押し固め板の下部面に対し2〜15MPaの圧力に相当する荷重を押し固め板に付与することで押し固めた初晶を濃化液相から分離して回収するAlスクラップの精製方法が開示されている。また、回収された初晶および/または濃化液相を、他の原料Al溶湯と混合することを特徴とするAlスクラップの再利用方法も開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、容器内にAlスクラップ溶湯を収容し、このAlスクラップ溶湯を液相線以下でかつ固相線以上の温度まで冷却させ、次に容器の上部から押し固め板を下降させて、Al晶出物(初晶)の集積体と濃化液相とを形成し、次に押し固め板により初晶の集積体に所定圧力を付与することで、圧搾された初晶の集積体と濃化液相とに分離し、押し固め板を濃化液相より上方に上昇させ、次に濃化液相に対して上記冷却・圧力付与・分離工程を繰り返すことにより、連続圧搾された初晶の集積体が積層したAl精製体を回収するAlスクラップの精製方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−54061号公報
【特許文献2】特開2010−132984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1、2に開示された技術には、以下のような問題点が存在する。
【0008】
すなわち、特許文献1に記載のAlスクラップの精製方法に関する技術は、Siの除去率(以下、「Si除去率」とも称す)と初晶の回収率(以下、「Al回収率」とも称す)とが相反する関係にあり、高いSi除去率と高いAl回収率を同時に満足するAl精製体を得ること{以下、「高いSi除去率のAl精製体(圧搾された初晶の集積体)を高体積(高Al回収率)で得ること」とも言う}はできない。したがって、例えば高いSi除去率となる条件でAlスクラップの精製を行った場合には、Alスクラップ溶湯から高体積なAl精製体を得るまでに極めて時間がかかり、生産性が悪い。
【0009】
また、特許文献2に記載のAlスクラップの精製方法に関する技術は、上記特許文献1に開示された技術の問題点を解消し、Alスクラップから高いSi除去率のAl精製体(圧搾された初晶の集積体)を高体積(高Al回収率)で得ることができる点では優れている。しかし、高体積なAl精製体を得るためには、圧搾回数が3回必要であり、生産効率の点でまだ難がある。
【0010】
本発明の目的は、Alスクラップから所定の高いSi除去率のAl精製体(圧搾された初晶の集積体)を高体積(高Al回収率)で、かつ、高効率で生産できるAlスクラップの精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の発明は、
容器内に収容されたAlスクラップ溶湯を精製する方法において、
前記Alスクラップ溶湯は、Siを0.5〜3質量%、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Tiよりなる群から選択された少なくとも1種類以上の元素を総量で2質量%以下含有するものであり、
容器中のAlスクラップ溶湯を液相線以下でかつ固相線以上の温度まで冷却させて、前記Alスクラップ溶湯内にAl晶出物(以下、「初晶」と称す)を発生させる初晶発生工程と、
前記初晶発生工程で発生した初晶を含むAlスクラップ溶湯が収容された容器の上部から液相排出孔が設けられた押し固め板を下降させて、前記初晶の集積体と濃化液相とに分離するとともに、当該押し固め板により前記初晶の集積体に圧力を付与することで、圧搾された初晶の集積体と濃化液相を得る圧搾工程と、を有し、
前記初晶発生工程で発生した初晶を含むAlスクラップ溶湯に対して、圧力が負荷される圧力負荷部と前記押し固め板の下方の液相を前記液相排出孔以外からも排出するための圧力が負荷されない圧力無負荷部とが存在するように前記押し固め板を下降させることを特徴とするAlスクラップの精製方法である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記容器は、有底筒状であり、
前記押し固め板は、外側面に少なくとも1箇所以上の平面部が設けられた円盤状を呈したことを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、
前記圧力は、4MPa以上7MPa以下であり、かつ、圧力付与時間は、10分以上であることを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発明において、
前記Alスクラップ溶湯内に初晶を発生させる初晶発生工程には、攪拌冷却が用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明は、
容器内に収容されたAlスクラップ溶湯を精製する方法において、
前記Alスクラップ溶湯は、Siを0.5〜3質量%、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Tiよりなる群から選択された少なくとも1種類以上の元素を総量で2質量%以下含有するものであり、
容器中のAlスクラップ溶湯を液相線以下でかつ固相線以上の温度まで冷却させて、前記Alスクラップ溶湯内にAl晶出物(以下、「初晶」と称す)を発生させる初晶発生工程と、
前記初晶発生工程で発生した初晶を含むAlスクラップ溶湯が収容された容器の上部から液相排出孔が設けられた押し固め板を下降させて、前記初晶の集積体と濃化液相とに分離するとともに、当該押し固め板により前記初晶の集積体に圧力を付与することで、圧搾された初晶の集積体と濃化液相を得る圧搾工程と、を有し、
前記初晶発生工程で発生した初晶を含むAlスクラップ溶湯に対して、圧力が負荷される圧力負荷部と前記押し固め板の下方の液相を前記液相排出孔以外からも排出するための圧力が負荷されない圧力無負荷部とが存在するように前記押し固め板を下降させることを特徴とする。
【0016】
したがって、本発明によれば、圧搾工程において、圧力無負荷部側からも液相を積極的に逃がすことができるため、圧搾の度合いが小さいながらも濃化液相の排出が促進され、Alスクラップから所定の高いSi除去率のAl精製体(圧搾された初晶の集積体)を高体積(高Al回収率)で、かつ、高効率で生産できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態1のAlスクラップの精製方法のプロセスを時系列的に説明するための模式図である。
【図2】図1に示すプロセスを用いた時のAl−Siの模式平衡状態図である。
【図3】図1(c)に示す工程を詳細に説明するための模式説明図である。
【図4】図3(b)に示す初晶を含むAlスクラップ溶湯のAA断面模式図である。
【図5】本発明例および比較例における、回収固相(Al精製体)の厚さとSi除去率の関係をそれぞれ説明するための説明図である。
【図6】本発明の実施形態2のAlスクラップの精製方法における特徴的工程を詳細に説明するための模式説明図である。
【図7】図6(b)に示す初晶を含むAlスクラップ溶湯のBB断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(本発明に係るAlスクラップの精製方法の構成)
本発明に係るAlスクラップの精製方法は、
容器内に収容されたAlスクラップ溶湯を精製する方法において、
前記Alスクラップ溶湯は、Siを0.5〜3質量%、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Tiよりなる群から選択された少なくとも1種類以上の元素を総量で2質量%以下含有するものであり、
容器中のAlスクラップ溶湯を液相線以下でかつ固相線以上の温度まで冷却させて、前記Alスクラップ溶湯内にAl晶出物(以下、「初晶」と称す)を発生させる初晶発生工程と、
前記初晶発生工程で発生した初晶を含むAlスクラップ溶湯が収容された容器の上部から液相排出孔が設けられた押し固め板を下降させて、前記初晶の集積体と濃化液相とに分離するとともに、当該押し固め板により前記初晶の集積体に圧力を付与することで、圧搾された初晶の集積体と濃化液相を得る圧搾工程と、を有し、
前記初晶発生工程で発生した初晶を含むAlスクラップ溶湯に対して、圧力が負荷される圧力負荷部と前記押し固め板の下方の液相を前記液相排出孔以外からも排出するための圧力が負荷されない圧力無負荷部とが存在するように前記押し固め板を下降させることを特徴とする。
【0019】
以上のような構成であるため、本発明は、
圧搾工程において、圧力無負荷部側からも液相を積極的に逃がすことができるため、圧搾の度合いが小さいながらも濃化液相の排出が促進され、Alスクラップから所定の高いSi除去率のAl精製体(圧搾された初晶の集積体)を高体積(高Al回収率)で、かつ、高効率で生産できる。
Si除去率=(初期Alスクラップ溶湯のSi濃度−圧搾された初晶の集積体のSi濃度)/初期Alスクラップ溶湯のSi濃度×100 … (1)
Al回収率=圧搾された初晶の集積体の体積/初期Alスクラップ溶湯の体積×100
… (2)
【0020】
以下に、上記構成に至った理由について述べる。
【0021】
本発明者達は、如何にしたらAlスクラップから所定の高いSi除去率(例えば、約50〜60%)のAl精製体(圧搾された初晶の集積体)を高体積(高Al回収率)で、かつ、高効率(例えば、1回の圧搾)で生産できるのか鋭意研究を行った。
【0022】
その結果、上述したような押し固め板を用いて、初晶発生工程で発生した初晶を含むAlスクラップ溶湯を圧搾することにより、圧力無負荷部側からも液相を積極的に逃がすことができるため、圧搾の度合いが小さいながらも濃化液相の排出が促進され、Alスクラップから上記Si除去率のAl精製体(圧搾された初晶の集積体)を高体積(例えば、直径100mm−厚さ200〜300mm)で、かつ、1回の圧搾で生産できることを見出した。
【0023】
以下、本発明のAlスクラップの精製方法の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0024】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1のAlスクラップの精製方法のプロセスを時系列的に説明するための模式図であって、(a)は容器1内にAlスクラップ溶湯2を収容した状態を示す図、(b)はAlスクラップ溶湯2を液相線以下でかつ固相線以上の温度まで冷却させて、Alスクラップ溶湯2内に初晶3aを発生させる初晶発生工程図、(c)は初晶3aを含むAlスクラップ溶湯2が収容された容器1の上部からスタンパー4を下降させ、初晶3aを含むAlスクラップ溶湯2の上層部へスタンパー4の下端に設けられている押し固め板4aを接触させることにより、圧力が負荷される圧力負荷部アと圧力が負荷されない圧力無負荷部イが発生した状態を示す図、(d)はスタンパー4をさらに下降させ、初晶3aの集積体と濃化液相6aとに分離するとともに、押し固め板4aにより初晶3aの集積体に圧力を付与することで、圧搾された初晶の集積体(以下、「回収固相5a」とも称す)と濃化液相6aを得る圧搾工程図である。なお、図1(d)の後には、スタンパー4を上昇させて、押し固め板4aを容器1外へ取り出す工程があるが、ここでは図示を省略する。
【0025】
図2は、図1に示すプロセスを用いた時のAl−Siの模式平衡状態図である。
【0026】
以下に、本実施形態のAlスクラップの精製方法のプロセスを図1〜図4を用いて、時系列的に詳細に説明する。
【0027】
図1(a)において、容器1は円筒部1b(詳細は、後記図3参照)の内径が100mm、底部1a(詳細は、後記図3参照)からの高さが500mmの有底筒状の黒鉛製であり、この容器1の周囲にはヒータ(図示せず)と冷却装置(図示せず)が配設されている。また、この容器1の中にはAl−1.5質量%Si−0.1質量%Feの成分(この組成を初期組成C(図2参照)で示す)からなる10kgの合金(Alスクラップ)が溶解され収容されている(Alスクラップ溶湯2の高さをhで示す)。また、このAlスクラップ溶湯2の高さhは、400mmである。
【0028】
図1(b)において、Alスクラップ溶湯2を攪拌しながら、図2に示す液相線以下でかつ固相線以上の温度T(例えば、640℃)まで上記ヒータと冷却装置を調節しながら冷却させて、Alスクラップ溶湯2内に初晶3a(初晶濃度:Cs1(図2参照))を発生させる。
【0029】
図1(c)において、上記温度T(ここでは、この温度を圧搾温度と称す。)で初晶3aを含むAlスクラップ溶湯2が収容された容器1の上部から支持部4bの先端に外径90mmの鉄製の押し固め板4a(詳細形状については、後記図3の説明を参照)を有したスタンパー4をゆっくり下降させ、初晶3aを含むAlスクラップ溶湯2の上層部へ押し固め板4aを接触させることにより、初晶3aを含むAlスクラップ溶湯2に圧力が負荷される圧力負荷部アと圧力が負荷されない圧力無負荷部イを発生させる(詳細形状については、後記図4の説明を参照)。
【0030】
図1(d)において、図1(c)に示す状態からスタンパー4をさらに下降させ、初晶3aの集積体と濃化液相6aとに分離するとともに、押し固め板4aにより初晶3aの集積体に圧力(例えば、6.5MPa)を圧力付与時間として、例えば、10分間付与することで、圧搾された初晶の集積体(以下、「回収固相5a」またはAl精製体とも称す)と濃化液相6a{液相濃度:CL1(図2参照)}を得る。これにより、1回の圧搾で高体積(厚さh)の所定の高いSi除去率の回収固相5a(Al精製体)が得られる。
【0031】
図3は、上述した図1(c)に示す工程を詳細に説明するための模式説明図である。図3において、(a)は押し固め板4aを上方から見た形状、(b)は上述したような初晶3aを含むAlスクラップ溶湯2に圧力が負荷される圧力負荷部アと圧力が負荷されない圧力無負荷部イを発生させた場合の液相の流れ{矢印(→)}を縦断面において模式的に示したものである。また、外径90mmの押し固め板4aの紙面に向かって右側には平面部4eが1箇所設けられている。これにより、押し固め板4aのLが75mm、押し固め板4aの平面部4eと容器1の円筒部1bの内壁との最長間隙Lが20mmの円盤状を呈する。また、押し固め板4aの紙面に向かって左側の外側面4dと容器1の円筒部1bの内壁との間には5mmの間隙が存在する。また、押し固め板4aには、直径7mmの液相排出孔4cが10個設けられている。なお、前記5mmの間隙は、スタンパー4を上下させる際に、押し固め板4aを破損させないための遊びであり、本発明で言うところの「押し固め板4aの下方の液相を液相排出孔4c以外から積極的に排出するためのものではない。
【0032】
図4は、図3(b)に示す初晶3aを含むAlスクラップ溶湯2のAA断面模式図であり、上述したような円盤状を呈した押し固め板4aが初晶3aを含むAlスクラップ溶湯2の上層部へ接触した場合の圧力負荷部アと圧力が負荷されない圧力無負荷部イの詳細な形状を模式的に表している。このような圧力状態で、押し固め板4aを下降させていくと、図3(b)に示すように、液相排出孔4cを通って真上に液相が排出されるとともに、押し固め板4aの下方の液相が圧力無負荷部イ側に向かって積極的に、かつ、多量に移動し排出される。これにより、圧搾の度合いが小さいながらも濃化液相の排出が促進され、Alスクラップから所定の高いSi除去率のAl精製体(圧搾された初晶の集積体)を高体積(高Al回収率)で、かつ、高効率で生産できる。
【0033】
本実施形態においては、図3に示すような形状の押し固め板4aを用いる例について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。すなわち、目標とする所定の高いSi除去率と所定の高体積(高Al回収率)を満足するAl精製体(圧搾された初晶の集積体)を高効率で生産するために、
初晶発生工程で発生した初晶を含むAlスクラップ溶湯に対して、押し固め板により圧力が負荷される圧力負荷部と前記押し固め板の下方の液相を前記押し固め板に設けられた液相排出孔以外からも排出するための圧力が負荷されない圧力無負荷部とが存在するように前記押し固め板を下降させるように構成されていればよい。
【0034】
なお、本実施形態においては、図3に示すように、押し固め板4aの紙面に向かって右側に平面部4eを1箇所設けた例について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、押し固め板の下降方向に対して直交する断面(以下、「横断面」と称す)が、容器の内周線で囲まれた形状より小さく、かつ、前記形状の面積に対して所定割合の面積を有する条件を満足するものであれば、押し固め板の外側面に複数の平面部が設けられた円盤状を呈した構成とすることも可能である(この例に関しては、後記実施形態2で詳細を説明する)。また、押し固め板4aの外側面に設ける形状も必ずしも平面部に限定されるものではない。また、容器や押し固め板の形状・大きさにもよるが、溶湯面の全体面積(押し固め板を下降させない状態)に対する圧力無負荷部の面積率は、5〜40%程度にすることができる。
【0035】
また、押し固め板を下降させて、初晶の集積体と濃化液相とに分離するとともに、この押し固め板により前記初晶の集積体に圧力を付与することで、圧搾された初晶の集積体と濃化液相を得る圧搾工程において、この圧力は、例えば4MPa以上7MPa以下であり、かつ、圧力付与時間は、10分以上であるのが好ましい。何故ならば、前記圧力が4MPa未満では十分なSi除去率が得られず、また7MPaを超えてもSi除去率に大きな変化がないためである。また、前記圧力付与時間に関しても、5分では圧搾される初晶の集積体から十分に液相は排出しきれず、8分でほぼ液相排出の効果は一定となるが、安全率を考慮すると10分以上が適当である。
【0036】
また、Alスクラップ溶湯内に初晶を発生させる工程において、液が静止した状態で冷却させるよりも攪拌冷却させる方が、初晶の集積体に圧力を付与し、圧搾された初晶の集積体と濃化液相に分離する場合に、圧搾される初晶の集積体から液相部分を排出させる経路が複雑にならないため、より好ましい。何故ならば、液が静止した状態で冷却させた場合は、発生する初晶の形状がデンドライトになるが、攪拌冷却させた場合は、発生する初晶の形状が丸くなるからである。
【実施例】
【0037】
上述した図1〜図4に示す本発明に係るAlスクラップの精製方法において、図3に示すような円盤状を呈した押し固め板4aを用いて、1回の圧搾で回収固相5a(Al精製体)の厚さhが下記表1に示す各値{試験No.1〜5(発明例)に相当}になるような試験を実施した。また、比較のために、平面部4eを有さない押し固め板4a(すなわち、特許文献2に開示されたような断面が円形の押し固め板;外径90mmの鉄製で、直径7mmの液相排出孔4cを20個有する)を用いて、1回の圧搾で回収固相5a(Al精製体)の厚さhが下記表1に示す各値{試験No.6〜20(比較例)に相当}になるような試験を実施した。その結果、試験No.1、2においては、回収固相5a(Al精製体)の厚さhがともに210mmで、Si除去率はそれぞれ62.1%、61.7%、試験No.3においては、回収固相5a(Al精製体)の厚さhが205mmで、Si除去率は64.8%、試験No.4においては、回収固相5a(Al精製体)の厚さhが300mmで、Si除去率は53.0%、試験No.5においては、回収固相5a(Al精製体)の厚さhが300mmで、Si除去率は50.1%となった(下記表1及び図5参照)。しかし、比較例においては、Si除去率が50%を超えるものは、回収固相5a(Al精製体)の厚さhが何れも150mm以下である(下記表1の試験No.6〜16、18、20及び図5参照)。また、比較例において、回収固相5a(Al精製体)の厚さhが190mm、210mmと比較的厚いものは、Si除去率がそれぞれ40.7%、39.2%のものしか得られなかった(下記表1の試験No.17、19及び図5参照)。このように本発明のAlスクラップの精製方法を用いたことで、初めてAlスクラップから所定の高いSi除去率(例えば、50%以上)の回収固相5a(Al精製体)を高体積(例えば、直径100mm−厚さ200〜300mm)で、かつ、高効率(例えば、1回の圧搾)で生産できた。
【0038】
【表1】

【0039】
(実施形態2)
上述した図1〜図4に示す本発明に係るAlスクラップの精製方法において、
容器1の円筒部1bの内径を1000mmにした場合、上記実施形態1と同じ比率(0.2=最長間隙L/押し固め板4aの外径)になるように押し固め板4aを設計すると以下のような問題が発生する。すなわち、最長間隙Lが大きくなり過ぎ、圧搾工程において、初晶3aが液相とともに押し固め板4aの上方に多量に逃げてしまう。そこで、このような場合にも対応可能な本発明に係る他のAlスクラップの精製方法を提案する。以下に、図6、図7を用いて、その詳細を説明する。なお、本実施形態において、上記実施形態1で用いた精製装置と同一の構成要素につては、同一番号を付与して、詳細な説明は省略し、異なる部分についてのみ詳述する。
【0040】
図6は本発明の実施形態2のAlスクラップの精製方法における特徴的工程を詳細に説明するための模式説明図であって、(a)は押し固め板4aを上方から見た形状、(b)は初晶3aを含むAlスクラップ溶湯2に圧力が負荷される圧力負荷部ウ(詳細は、後記図7参照)と圧力が負荷されない圧力無負荷部エ(詳細は、後記図7参照)を発生させた場合の液相の流れ{矢印(→)}を縦断面において模式的に示したものである。本実施形態2で用いる押し固め板は、外径990mmの押し固め板4aの紙面に向かって右側及び左側に平面部4e、4fがそれぞれ1箇所設けられている。これにより、押し固め板4aのLが900mm、押し固め板4aの平面部4e、4fと容器1の円筒部1bの内壁との最長間隙Lがそれぞれ50mmの円盤状を呈する。また、押し固め板4aの紙面に向かって上方と下方の外側面4dと容器1の円筒部1bの内壁との間には上記実施形態1と同様に5mmの間隙が存在する。また、押し固め板4aには、直径7mmの液相排出孔4cが1000個設けられている。なお、前記5mmの間隙は、上記実施形態1と同様にスタンパー4を上下させる際に、押し固め板4aを破損させないための遊びであり、本発明で言うところの「押し固め板4aの下方の液相を液相排出孔4c以外から積極的に排出するためのものではない。
【0041】
図7は、図6(b)に示す初晶3aを含むAlスクラップ溶湯2のBB断面模式図であり、上述したような平面部4e、4fを有した円盤状を呈した押し固め板4aが初晶3aを含むAlスクラップ溶湯2の上層部へ接触した場合の圧力負荷部ウと圧力が負荷されない圧力無負荷部エの詳細な形状を模式的に表している。このような圧力状態で、押し固め板4aを下降させていくと、図6(b)に示すように、液相排出孔4cを通って真上に液相が排出されるとともに、押し固め板4aの下方の液相が左右の圧力無負荷部エ側に向かって積極的に、かつ、多量に移動し排出される。ただし、このような圧搾を行なう場合は、所定寸法のL(例えば、50mm)を満足し、かつ、2箇所設けられているため、押し固め板4aの下方の液相が左右の圧力無負荷部エ側に向かって積極的に、かつ、多量に移動し排出されるが、初晶3aが液相とともに押し固め板4aの上方に多量に逃げてしまうようなことはない。したがって、円筒部1bの内径が1000mmの大きな容器1を用いて圧搾する場合にも、圧搾の度合いが小さいながらも濃化液相の排出が促進され、Alスクラップから所定の高いSi除去率のAl精製体(圧搾された初晶の集積体)をより高体積(高Al回収率)で、かつ、高効率で生産できる。
【0042】
なお、実施形態1、2においては、容器1の円筒部1bの内径が100mmと1000mmの例について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。ただし、内径が100mm未満ではAl精製体(圧搾された初晶の集積体)の生成量が少なく生産性が悪い。また、内径が1000mmを超えると押し固め板4aの下方の液相の圧力無負荷部側に向かって移動する経路が長くなり過ぎ、十分なSi除去率が得られなくなる。したがって、容器1の円筒部1bの内径は、100mm〜1000mmが適当である。また、実施形態1、2においては、容器1の横断面が円形の例について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、様々な横断面形状(例えば、矩形)を採用することも可能である。
【0043】
また、容器1に収納されるAlスクラップ溶湯2の深さは、「押し固め板の下方の液相をこの押し固め板に設けられた液相排出孔以外からも排出する」という本発明の技術思想に照らし、かつ、前記液相排出孔からの前記液相の排出量に比して上述した圧力無負荷部側からの前記液相の排出量の優位性を確保する点を踏まえると、例えば、容器1の横断面が円形の場合、容器1の内径の2倍以上が望ましい。
【0044】
また、上記実施形態1、2のように、例えば容器1の横断面が円形、かつ容器1の円筒部1bの内径が100mm〜1000mmの場合、上述したLは内径の0.2倍以上50mm以下を満足させるのが好ましい。何故ならば、Lが内径の0.2倍未満では、液相排出孔からの液相の排出量に比して上述した圧力無負荷部側からの前記液相の排出量の優位性が確保できなくなるからである。また、Lを50mm以下とするのは、圧搾工程において、初晶3aが液相とともに押し固め板4aの上方に多量に逃げてしまうのを防止するためである。
【0045】
また、上記実施形態1、2においては、Alスクラップ溶湯2の成分がAl−1.5質量%Si−0.1質量%Feである例について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、Alスクラップ溶湯は、Siを0.5〜3質量%、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Tiよりなる群から選択された少なくとも1種類以上の元素を総量で2質量%以下含有したものに対して、本願発明の技術思想を適応可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 容器
1a 底部
1b 円筒部
2 Alスクラップ溶湯
3a 初晶
4 スタンパー
4a 押し固め板
4b 支持部
4c 液相排出孔
4d 外側面
4e、4f 平面部
5a 回収固相
6a 濃化液相

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に収容されたAlスクラップ溶湯を精製する方法において、
前記Alスクラップ溶湯は、Siを0.5〜3質量%、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Tiよりなる群から選択された少なくとも1種類以上の元素を総量で2質量%以下含有するものであり、
容器中のAlスクラップ溶湯を液相線以下でかつ固相線以上の温度まで冷却させて、前記Alスクラップ溶湯内にAl晶出物(以下、「初晶」と称す)を発生させる初晶発生工程と、
前記初晶発生工程で発生した初晶を含むAlスクラップ溶湯が収容された容器の上部から液相排出孔が設けられた押し固め板を下降させて、前記初晶の集積体と濃化液相とに分離するとともに、当該押し固め板により前記初晶の集積体に圧力を付与することで、圧搾された初晶の集積体と濃化液相を得る圧搾工程と、を有し、
前記初晶発生工程で発生した初晶を含むAlスクラップ溶湯に対して、圧力が負荷される圧力負荷部と前記押し固め板の下方の液相を前記液相排出孔以外からも排出するための圧力が負荷されない圧力無負荷部とが存在するように前記押し固め板を下降させることを特徴とするAlスクラップの精製方法。
【請求項2】
前記容器は、有底筒状であり、
前記押し固め板は、外側面に少なくとも1箇所以上の平面部が設けられた円盤状を呈したことを特徴とする請求項1に記載のAlスクラップの精製方法。
【請求項3】
前記圧力は、4MPa以上7MPa以下であり、かつ、圧力付与時間は、10分以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のAlスクラップの精製方法。
【請求項4】
前記Alスクラップ溶湯内に初晶を発生させる初晶発生工程には、攪拌冷却が用いられることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のAlスクラップの精製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−201917(P2012−201917A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66328(P2011−66328)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】