説明

Al多孔質体とその製造方法

【課題】難焼結材のAl系粉末を加圧プレスすることなく短時間で焼結し、かつ寸法精度が高い複雑形状のAl多孔質体を提供する。
【解決手段】Alを50wt%以上含み、相対密度が5%〜80%で、Cl,Na,K,F,Baから選ばれる少なくとも1種を0.001〜5wt%含むことを特徴とする多孔質体。さらに、C,SiC,Fe23,FeO,Fe34から選ばれる少なくとも1種を0.1〜20wt%含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al多孔質体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にAl系粉末は、その表面に熱的に極めて安定なAl23皮膜を形成するため、難焼結材料として知られている。Al粉末の焼結では、焼結前に粉末を強加工により成形し、その表面のAl23皮膜を破断し、新生面同士の結合を促進したのち、固/液共存領域で液相焼結する事により焼結する事ができる。この他、特許文献1では、クラッド材などを切削したチップを所定の形状にし、これらチップをろう付する事により多孔質体を作製する方法を提供しているが、原料形状がチップ状である事、あるいは加熱方法が従来のヒータ加熱法である事が前提となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−285410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、難焼結材のAl系粉末を加圧プレスすることなく短時間で焼結し、寸法精度が高い複雑形状のAl多孔質体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の多孔質体は、Alを50wt%以上含み、相対密度が5%〜80%で、Cl,Na,K,F,Baから選ばれる少なくとも1種を0.001〜5wt%含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、難焼結材のAl系粉末を加圧プレスすることなく短時間で焼結し、かつ寸法精度が高い複雑形状のAl多孔質体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】仮成形状態の成形体の概略である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明は、難焼結材であるAlあるいはAl合金を簡便かつ短時間で焼結できる材料とその製造方法である。本発明では、Al原料の形状に制約なく、かつ焼結前の強加工などのプロセスを必ずしも必要としない。その加工方法の一例として薄い単位造形層を多数積層して造形を行う積層造形法がある。一般的にこの手法をラピッド・プロトタイピング(以下RPと記す)と称し、複雑な形状を容易に造形することができるという特徴を持っている。
【0010】
このようなRP法は、複雑な形状を有する機械部品の作製、あるいは意匠性の高い工業製品について設計形状の適否を検討するためのプロトタイプ作製などにおいて広く活用されている。こうしたRP法の一つに造形材料に粉末材料を用い、それにレーザー光を照射することで粉末同士の溶着や溶融結合する方法がある。
【0011】
金属粉末材料の場合には金属粉末粒子の表面に樹脂バインダをコーティング、もしくは金属粉末と樹脂バインダ粉末を混在させ、その樹脂バインダがレーザー光の照射で溶けて溶着を生じることにより造形する手法がある。
【0012】
この場合は造形後(仮成形後)に焼結する事で、プレス加工ではできない複雑形状の多孔質な構造物を作製することができる。また、本発明では電磁波による焼結プロセスを組み合わせることにより、短時間で寸法精度の高い多孔質構造物を作製する事が可能となる。
【0013】
Al系粉末はその表面に熱的に極めて安定なAl23皮膜が形成され、このAl23皮膜が焼結を阻害する。粉末表面を選択的に加熱し、表面近傍に液相を作りだす事ができれば、液相の表面張力の効果によってAl23皮膜を物理的に押しのけて粉末間の反応が進む。但し、従来のヒータ加熱においては、粉末表面近傍のみに液相を生成させる事は困難である。900MHz〜30GHzの電磁波を照射することにより、粉末の表面近傍を集中的に加熱し、粉末の表面近傍に液相を作り出す事が可能となる。但し、電磁波照射により粉末を加熱した場合は、プラズマの発生やそれに伴う粉末と雰囲気との反応が激しくなる事から、粉末を雰囲気と遮断する処置が重要となる。
【0014】
本発明では、例えば、ろう付用のフラックスを原料粉末に混合する事により、粉末を雰囲気から遮断する事で、電磁波照射による焼結の効果を引き出す。また、フラックスはレーザーを照射する事で軟化し、他の原料粉末の接着材となり、圧力を殆ど付加する事なく仮成形体を作製する事ができる。つまり、ろう付用のフラックスが前記の樹脂バインダの役割をすることになり、RPで複雑な造形物の製造が可能となる。
【0015】
Alは電磁波によって誘導加熱することができるが、対象物のサイズが小さくなり1mm以下の粉末になると、数kHz程度の周波数では加熱が困難になる。一方、周波数が300MHz〜300GHz程度のいわゆるマイクロ波と呼ばれる周波数では、1mm以下のAl粉末でも容易に加熱する事ができる。Al粉末の焼結では、その焼結性を確保するため粉末粒径を500μm以下とする事が好ましい、またその作業性を考えた場合は0.5μm以上の粉末を扱う事が望ましい。粉末粒径0.5〜500μmの粉末は、900MHz〜30GHzのマイクロ波で効率的に加熱する事ができる。従って、本発明で用いるマイクロ波の周波数は900MHz〜30GHzに限定する。
【0016】
電磁波(マイクロ波)による金属の加熱では、表皮効果により電流が被加熱物の表面に集中する傾向がある。表面への電流の集中度合いは、電流浸透深さとして現わされる。電流浸透深さには周波数依存性があり、周波数が高くなるほど電流浸透深さは浅くなる。表面に安定なAl23被膜を有するAlあるいはAl系合金粉末でも、この表皮効果で粉末の極表面に液相を生成でき、容易に粉末間にネックを形成させる事ができる。なお、ここでAlあるいはAl合金とは、主としてAlを50wt%以上含む材料である。
【0017】
但し、マイクロ波照射下では、原料粉と雰囲気の間で反応が活発化しやすい傾向にあり、例えばAl粉末をN2中でマイクロ波加熱すると、Al粉末がN2と反応し化合物を形成するために、焼結が進み難くなる。一方、ArやHeなどの不活性ガスは金属と反応する事はないが、マイクロ波照射下においては容易にプラズマ化し、部分的な溶融やホットスポットが形成されやすくなるため、雰囲気ガスとしては不向きである。また、1×10-2Pa以下の高真空中では、放電と雰囲気との反応は抑制できるが、高価な真空排気設備を必要とする上、真空排気のために多くの時間を費やすため、実用には不向きである。
【0018】
本発明では、いわゆるフラックスを原料粉末に混合する事により、マイクロ波照射下で生じやすい試料と雰囲気との反応を防止する。ここでフラックスとは、Alろう付用のフラックスであり、例えば、BaCl2,NaCl,KCl,ZnCl2を主成分とする塩化物系フラックスや、AlF3,KAlF4,K2AlF5,K3AlF6を主成分とするフッ化物系フラックスである。このフラックスを原料粉末に混合する事で、大気やN2中でのマイクロ波による焼結処理が可能となる。
【0019】
フラックスの混合量は、原料粉末に対し0.01〜20wt%程度加える事でAl粉末表面に濡れ、その効果を示す。但し、フラックスの添加量が多すぎると、焼結時の収縮が大きく、寸法精度に悪影響を与えるため、好ましくは0.01〜10wt%である。なお、添加したフラックスは、焼結後に洗浄により除去できる種類のフラックスもあるが、完全には除去されず残留する場合もある。残留したフラックスの量は、5wt%未満であればその多孔質体の機械的強度などに殆ど影響をおよぼす事はない。また、塩素系フラックス等を用いた場合は、母材を腐食する恐れがあるため、その残存量はできる限り少ない方が良い。母材への腐食の影響を最小限に抑えるためには、残留フラックスの成分を0.01wt%程度、好ましくは0.001wt%程度に抑える必要がある。
【0020】
以上の理由から、Al多孔質体に含まれるフラックスを構成するNa,Cl,K,F,Baの成分の範囲を0.001〜5wt%とする。
【0021】
マイクロ波により金属を焼結する場合、相対密度が約80%を超えると、マイクロ波の材料中への侵入が妨げられ、マイクロ波特有の表皮効果等による粉末表面近傍の集中加熱が困難になる。従って、多孔質材の相対密度の上限は80%とする。一方、多孔質体としてより気孔率を上げる(相対密度を下げる)場合、スペーサ法などが有効である。Al合金の場合はスペーサとしてNaClなどが用いられる。スペーサ法によりAl合金焼結体を作製した場合、気効率を最大95%程度(相対密度を5%程度)にできる。従って、当該多孔質体の相対密度を5〜80%に限定する。
【0022】
マイクロ波により金属粉末を加熱する場合、その加熱挙動はマイクロ波出力やその照射方法等に強く影響を受ける。特にマイクロ波照射装置でいわゆるマルチモード炉を用いた場合、試料の発熱が小さく焼結温度に達しない場合がある。この時、試料自体にマイクロ波の吸収体であるC,SiC,Fe23,FeO,Fe34などを混合する事により、試料自体の発熱を促進させる事ができる。シングルモード炉を用いた場合、C,SiC,Fe23,FeO,Fe34を添加しなくても焼結温度まで加熱できる場合があるが、C,SiC,Fe23,FeO,Fe34を0.1wt%程度添加する事で発熱効率が上がり、より少ないエネルギーで焼結温度に加熱できる。マルチモード炉を用いた場合は、C,SiC,Fe23,FeO,Fe34はより多量に添加する必要があるが、過度に入れると急激に温度上昇し温度制御が困難になるため、20wt%以下とする事が望ましい。従って、C,SiC,Fe23,FeO,Fe34の添加量は0.1〜20wt%に限定する。
【0023】
NaClスペーサおよびフラックス、C,SiC,Fe23,FeO,Fe34を混合した粉末にレーザーを照射する事によりフラックスが溶融し、これらの粉末を無加圧で仮成形する事ができる。すなわちRP法によって仮成形を行い、その後にマイクロ波で短時間焼結を行う事で、複雑形状かつ寸法精度の高いAl多孔質体を提供する事が可能となる。
【0024】
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0025】
原料粉末として純Al粉末(あるいはAC4B粉末),フッ化物系フラックス,NaClを準備し、これらを25wt%純Al粉末(あるいはAC4B粉末)−3wt%フラックス−2wt%SiC−70wt%NaClとしてVミキサーにより混合した。純Al(あるいはAC4B)の粒径は150μm以下、フラックスは50μm以下、SiCは5μm以下、NaClは500μm以下の粒径とした。混合粉末はRP法によりφ10×10の円柱形状に仮成形した。RPによる仮成形の主な条件は、レーザパワーを15W(ビーム径:0.4mm)、レーザー走査スピードを7.6m/sec、積層ピッチを0.1mmとした。
【0026】
仮成形状態の成形体の概略を図1に示す。フラックスはRP法でレーザーを照射する事により一部溶融し各原料粉末間を接着する。フラックスは焼結温度に加熱する途中で溶融する事によりAl粉末表面に濡れ、Al粉末表面の雰囲気との反応を防ぐ。
【0027】
RPにより仮成形したφ10×10の試料は2.45GHzのマイクロ波(シングルモード)炉に入れ、窒素雰囲気中で主として磁場を印加し加熱を行った。焼結温度は純Alの場合は645℃とし、AC4B粉末の場合は570℃とした。焼結温度での保持時間は5〜30min保持した。また同成形体を同じ条件でヒータ加熱により焼結した試料も作製した。焼結終了後の各試料は水中で超音波洗浄しNaClを除去した。
【0028】
実験結果を表1に示す。表1は、RP法で仮成形した試料をマイクロ波およびヒータ加熱で焼結した実験の結果である。
【0029】
【表1】

【0030】
相対密度は各試料の気孔が無い状態の比重を2.7g/cm3と仮定し、それぞれの試料の寸法,重量から算出した。また、添加したNaClは超音波洗浄により全て溶出したと仮定した。マイクロ波加熱の場合、加熱に要する時間が短く純AlおよびAC4B粉末ともに5〜8minで目標焼結温度まで加熱する事ができた。一方、ヒータ加熱では目標温度に到達するまで27〜35minを要した。マイクロ波加熱では純AlおよびAC4B粉末ともに焼結する事ができたが、ヒータ加熱では純Al粉末は一部焼結不十分であり、超音波洗浄において試料が崩壊し、相対密度の評価ができなかった。また、焼結時間が長くなるほどヒータ加熱では外観の肌荒が目立つ傾向が顕著である。ヒータ加熱の場合、昇温・冷却が遅く、かつ原料粉末全体が加熱される事が外観および寸法精度に悪影響を与えている。一方、マイクロ波加熱材では、焼結時間に対する相対密度の変化は殆ど無く、焼結時間が5minと短い場合でも、添加したNaClスペーサ量に対応する理想的な相対密度に近い値を示した。
【0031】
以上の通り、本発明によれば、短時間で寸法精度の高い多孔質構造物を作製することができる。
【0032】
本発明のAl多孔質体は、超軽量材料,高比剛性材料,エネルギー吸収材料,振動吸収材料,電磁波吸収材料,防音材料,吸音材料,断熱材料,電極材料,フィルター材料,熱交換器材料,生体医療材料,含油軸受け材料などに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alを50wt%以上含み、相対密度が5%〜80%で、Cl,Na,K,F,Baから選ばれる少なくとも1種を0.001〜5wt%含むことを特徴とするAl多孔質体。
【請求項2】
請求項1において、さらに、C,SiC,Fe23,FeO,Fe34から選ばれる少なくとも1種を0.1〜20wt%含むことを特徴とするAl多孔質体。
【請求項3】
Al粉末を含む原料粉末にレーザーを照射し、Alろう付用フラックスを媒体として前記原料粉末を成形し、電磁波を照射して焼結することを特徴とするAl多孔質体の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、前記Alろう付用のフラックスが、例えば、BaCl2,NaCl,KCl,ZnCl2を主成分とする塩化物系フラックス、もしくはAlF3,KAlF4,K2AlF5,K3AlF6を主成分とするフッ化物系フラックスであることを特徴とするAl多孔質体の製造方法。
【請求項5】
請求項3において、前記電磁波の周波数が、900MHz〜30GHzであることを特徴とするAl多孔質体の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−214111(P2011−214111A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84772(P2010−84772)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】