説明

Al置換電解二酸化マンガン及びそれを用いた電池用正極材料

【課題】マンガン以外のAlを含むリチウムマンガン複合酸化物では、高性能なものを得ることが困難であった。
【解決手段】AlをMn元素と置換してなる電解二酸化マンガンであり、Alの置換量が0.5〜10重量%の電解二酸化マンガンでは、電池の正極材料として優れた性能を有し、特にリチウム化合物と混合、焼成することによって融剤を用いることなく高性能な二次電池正極材料となる。Alが均一に置換した電解二酸化マンガンは電解液中の硫酸濃度が10g/リットル以下、電解液中のAlと硫酸の重量比が0.1以上として電解することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はAl置換電解二酸化マンガン及びとそれを用いたリチウムマンガン複合酸化物並びにそれを用いた電池正極材料に関するものである。
【0002】
本発明のAl置換二酸化マンガンは、リチウム化合物と混合焼成して電池正極材料を製造する場合に反応性に優れ、結晶性、放電サイクル特性に優れた電池正極材料を提供できるものである。
【背景技術】
【0003】
これまでリチウムとマンガンを有効成分とする二次電池正極材料が種々検討されており、特にリチウムとマンガンに第三成分を含有する材料が広く検討されている。
【0004】
この様な電池正極材料の製造方法としては、マンガン酸化物、リチウム化合物、異種元素の酸化物を混合、焼成する方法がよく知られている。(特許文献1,2参照)
マンガン以外の異種元素を含有する二次電池正極材料の製造においては、マンガンと他元素の均一混合性が電池性能に影響するため、混合性を向上する対策として、他元素として酸化物の融点が800℃以下のB又はVなどを添加する方法が提案されている(特許文献3参照)しかしこの様な融剤の使用では、融剤の残存が電池性能に悪影響を及ぼすという問題があり、融剤の除去が問題であった。また融剤を用いずに高温処理をして異種元素の混合性を高めようとした場合、結晶成長が進みすぎ、やはり電池性能が下がるという問題があった。
【0005】
一方、異種元素を0.15モル程度まで電解によってドープした電解二酸化マンガンが提案されている。(特許文献4)しかし、ドープ量が十分でない異種元素置換二酸化マンガンでは、それを用いた正極材料の電池では性能が十分でなく、ドープ量を多くすると均一に分散することは困難であった。
【0006】
【特許文献1】特開2000−311685
【特許文献2】特開2002−56850
【特許文献3】特開平11−171551
【特許文献4】特表2003−535013
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、リチウムマンガン複合酸化物において、マンガン元素と異種元素を混合したものでは、例えばリチウムマンガン複合酸化物として二次電池の正極材料等に用いた場合、高性能を発揮することが困難であり、なおかつ安定に製造するためには煩雑な製法を採用することが必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、二次電池の性能を向上すべく異種元素のマンガン酸化物への均一分散について鋭意検討を重ねた結果、電解液にマンガンにAlを一定の範囲で十分に溶解させた硫酸水溶液の電解析出により、マンガン酸化物中のマンガンサイトにAlが均一に分散し、特に0.5重量%以上のAlを置換した電解二酸化マンガンは、電池の正極材料として優れ、特にリチウム化合物と混合、焼成することによって高性能な二次電池正極材料となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の二酸化マンガンはAlをMn元素と置換してなる電解二酸化マンガンであり、なおかつAlの置換量が0.5〜10重量%のものである。
【0011】
Alが0.5重量%より少ないと、Alを添加した効果が十分に発現されず、該範囲より多いとマンガン元素の性能が損なわれる。Alの含有量は1wt%以上5wt%以下であることが特に好ましい。
【0012】
本発明のAlは、実質的にMnに対して均一に分布している。Alの分布状態は、EPMA分析やTEM−EDS分析などにより確認することができる。
【0013】
本発明の二酸化マンガンは、MnとAlを溶解させた硫酸水溶液からなる電解液に通電し、電極上にAl置換電解二酸化マンガンを析出させることによって製造できる。
【0014】
本発明では電解液中の硫酸濃度が10g/リットル以下に保たれていることが好ましい。該硫酸濃度は、電解液中に溶存するマンガンイオンをマスキングした後、アルカリ水溶液を使用して、酸塩基滴定により測定することができる。
【0015】
該硫酸濃度が10g/リットルより大きいと、電解二酸化マンガン中の取り込まれるAlの量が少なくなり易い。該硫酸濃度は5g/リットルがさらに好ましい。該硫酸濃度の調整方法としては、マンガン酸化物を添加し過剰な酸硫酸分を低減させる、或いはアルカリ水溶液を添加し調整することができる。前記マンガン酸化物としては、酸化マンガンが好適に例示でき、また、アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液などが好適に例示できる。
【0016】
電解液中のマンガン濃度は20〜60g/lが好ましく、得られるAl置換電解二酸化マンガンの組成均一性および生産性の面から30〜50g/lであることが更に好ましい。
【0017】
特に通電している間の電解液中のAlと硫酸の重量比が0.1以上に保たれていることが好ましい。
【0018】
前記電解液中の温度が90℃以上であるのが好ましい。
【0019】
前記電解中の電流密度は0.3〜0.8A/dmが生産性の面から好ましい。
【0020】
陽極上に電析固着したAl置換電解二酸化マンガンは、電極から剥離し、塊状物として得る。得られた塊状物は、適時、洗浄、粉砕、分級してAl置換電解二酸化マンガン粉末として使用することができる。
【0021】
このようにして得られるAl置換電解二酸化マンガンは、一次電池用正極材料としてだけでなく、リチウム化合物と混合した後、焼成することにより、Al含有リチウムマンガン複合酸化物として用いることができる。特にスピネル構造の多元系リチウムマンガン複合酸化物(多元系とはマンガン以外に金属成分を含むものをさす)としては組成が均一であり、高性能なリチウム二次電池用正極材料となる。
【0022】
本発明のAl含有リチウムマンガン複合酸化物を製造するためには、本発明のAl置換電解二酸化マンガンの平均粒子径が0.1〜50μmであることが好ましい。
【0023】
混合、焼成するリチウム化合物としては特に限定はないが、炭酸塩、硝酸塩、塩化物塩、水酸化物、酸化物等が例示され、特にBET比表面積が1m/g以上である炭酸リチウムを用いることが好ましい。
【0024】
本発明で、Al置換電解二酸化マンガンとリチウム化合物を混合する方法は、均一にすることができれば、通常の方法のいかなる方法も採用でき、ロータリーキルン等のように混合しながら焼成することも可能である。
【0025】
本発明のAl置換電解二酸化マンガンは、Alが既に均一に分散しているため、焼成温度は500℃〜1000℃の範囲で可能である。焼成温度が500℃よりより低いと反応が不十分となり、一方焼成温度が1000℃より高いと酸素欠陥、結晶成長が生じやすく、正極材料としての性能が低下する。また、前記500℃〜1000℃の焼成の後に、850℃以下の温度で再度焼成をしてもよい。
【0026】
焼成中の雰囲気は、酸素共存下で行うのが好ましく、大気中であることがより好ましい。
【0027】
本発明のAl置換電解二酸化マンガンでは、組成の均一性を得るために原料を微粉砕したり、溶融剤としてホウ素化合物を添加したりする必要がなく、高性能な正極材料を極めて簡略な製造プロセスで製造することが可能である。
【0028】
製造したAl含有リチウムマンガン複合酸化物は適時、粉砕、分級を行うのが好ましい。
【0029】
本発明のAl含有リチウムマンガン複合酸化物は、特に以下の一般式で表されるスピネル構造であることが好ましい。
【0030】
Li1+xMeMn2−x−y
(0<x≦0.33,0<y≦1.0,MeはAlを含むLi及びMn以外の異種元素)
特にx,yの値がそれぞれ、0.05≦x≦0.15,0.05≦y≦0.15であることが好ましい。
【0031】
本発明のAl置換電解二酸化マンガンとリチウム化合物を混合、焼成して得られた正極材料は、リチウム二次電池として用いた場合特に高性能である。
【0032】
本発明のリチウム二次電池では、用いる負極活物質として金属リチウム並びにリチウムまたはリチウムイオンを吸蔵放出可能な物質を用いることができる。例えば、金属リチウム、リチウム/アルミニウム合金、リチウム/スズ合金、リチウム/鉛合金および電気化学的にリチウムイオンをドープ脱ドープする炭素系材料が例示され、電気化学的にリチウムイオンをドープ脱ドープする炭素系材料が安全性および電池の特性の面から特に好適である。
【0033】
本発明のリチウム二次電池で用いる電解質としては、特に制限はないが、例えば、カーボネート類、スルホラン類、ラクトン類、エーテル類等の有機溶媒中にリチウム塩を溶解したものや、リチウムイオン導電性の固体電解質を用いることができる。
【0034】
以下実施例を示して、本発明を具体的に説明する。
【発明の効果】
【0035】
本発明のAl置換電解二酸化マンガンは、Alがマンガンと均一に置換しているため、融剤等を用いることなくリチウム化合物と混合、焼成した際に反応性に富み、得られるリチウムマンガン複合酸化物は電池(特に二次電池)の正極材料としてサイクル特性に優れる。
【実施例】
【0036】
(1)Al置換電解二酸化マンガンの合成
実施例1
内容積1.6リットルの電解槽に、陽極としてチタン板(有効面積50×100mm)と、陰極としてグラファイト板を懸垂せしめ、陽極−陰極間に直流電流を印加することにより、Al置換電解二酸化マンガンを製造した。
【0037】
電解液には硫酸マンガン、酸化マンガン及び硫酸アルミニウムを用いて、マンガン濃度50g/リットル、アルミニウム濃度2.5g/リットル及び硫酸濃度10g/リットルなるように調整し、電解中の槽内組成が一定に保たれるように、硫酸マンガン溶液、硫酸アルミニウム及び酸化マンガンを添加しながら、温度を96℃、電流密度0.5A/dmで電解を行い、Al置換電解二酸化マンガンを電着させた。
【0038】
電解後、電着したAl置換電解二酸化マンガンを純水にて洗浄後、打撃により剥離し、得られた塊状物を粉砕し、洗浄、中和、乾燥して電解二酸化マンガン粉末を得た。
【0039】
実施例2〜14
実施例1と同様の装置を用い、電解液中のマンガン濃度、アルミニウム濃度、硫酸濃度および電流密度をそれぞれ変更して、温度96℃で電解を行い、電解二酸化マンガンを電着させた。結果を表1に示す。
【0040】
生成したAl置換電解二酸化マンガンをTEM−EDS分析を行った結果、MnとAlが均一に分布していた。実施例11のTEM−EDS分析結果を図1に示す。
【0041】
比較例1
電解液中にアルミニウムを含有しないように調整した以外は実施例11と同様にした
比較例2
電解液中のマンガンイオン濃度25g/リットル、アルミニウムイオン濃度2.5g/リットル及び硫酸濃度50g/リットルとなるように調整した以外は実施例1と同様にした生成物はアルミニウムを0.09wt%含有する電解二酸化マンガンであった。
比較例3
電解液中のマンガンイオン濃度50g/リットル、アルミニウムイオン濃度2.5g/リットル及び硫酸濃度70g/リットルとなるように調整した以外は実施例1と同様にした。生成物はアルミニウムを0.04wt%含有する電解二酸化マンガンであった。
比較例4
電解液中のマンガンイオン濃度50g/リットル、アルミニウムイオン濃度2.5g/リットル及び硫酸濃度40g/リットルとなるように調整した以外は実施例1と同様にした。生成物はアルミニウムを0.09wt%含有する電解二酸化マンガンであった。
【0042】
【表1】

(2)Al含有リチウムマンガン複合酸化物の合成
実施例15
実施例11のAl置換電解二酸化マンガンと炭酸リチウム粉末を、Li/(Al+Mn)原子比が1.1/1.9となるように秤量し、乳鉢でよく混合した後、高純度アルミナ製の容器に入れ、大気雰囲気中、850℃で12時間焼成した。焼成後、生成物を水洗し乾燥した。
【0043】
生成物は組成がLi1.05Al0.1Mn1.85であった。
【0044】
粉末X線回折像のピークはシャープであり、解析の結果、JCPDSカード35‐782(LiMn)と同様のパターンで、立方晶に帰属され、その格子定数は8.20オングストロームであった。この結果より、実施例11で得られたAl置換電解二酸化マンガンは均一組成であり、リチウムとの反応性が良好であることがわかる。粉末X線回折像を図2に示す。
【0045】
比較例5
比較例1の電解二酸化マンガン、水酸化アルミニウム粉末および炭酸リチウム粉末を、Li/(Al+Mn)原子比が1.1/1.9、Al/(Li+Al+Mn)原子比が0.1/2.9となるように秤量し、乳鉢でよく混合した後、高純度アルミナ製の容器に入れ、大気雰囲気中、850℃で12時間焼成した。焼成後、生成物を水洗し乾燥した。
【0046】
生成物は組成がLi1.04Al0.1Mn1.85であった。
粉末X線回折像のピークは高角度でブロードであり、解析の結果、JCPDSカード35‐782(LiMn)と同様のパターンで、立方晶に帰属され、その格子定数は8.20オングストロームであった。この結果より、このような固相混合法では、組成の均一性を得難いことがわかった。粉末X線回折像を図2に示す。
(3)リチウム二次電池用正極材料評価
実施例15および比較例5で得られた正極材料を、導電剤のポリテトラフルオロエチレンとアセチレンブラックとの混合物(商品名:TAB−2)と重量比で2:1の割合で混合し、1ton/cmの圧力でメッシュ(SUS316製)上にペレット状に成型した後、150℃で減圧乾燥し電池用正極を作製した。得られた電池用正極と、金属リチウム箔(厚さ0.2mm)からなる負極、およびエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1mol/dmの濃度で溶解した電解液を用いてCR2032型コインセルを構成した。
【0047】
作製した電池を、正極材料基準で32mA/gの定電流、作動電圧4.5V〜3.5V、試験温度60℃で充放電させた。
【0048】
実施例15および比較例5では組成がほぼ同じため、初回の放電容量は同量であるが、サイクル充放電を実施すると実施例15では放電容量の低下が少なく、高性能な正極材料であることがわかる。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施例11のリチウムマンガン複合酸化物のTEM−EDS分析による粒子形状及び元素分布。
【図2】実施例15および比較例5のリチウムマンガン複合酸化物のX線結晶構造回折図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alの含有量が0.5〜10重量%であるAl置換電解二酸化マンガン。
【請求項2】
Alを含んでなる硫酸水溶液の電解液を電解することを特徴とする請求項1に記載のAl置換電解二酸化マンガンの製造方法。
【請求項3】
電解液中の硫酸濃度が10g/リットル以下である請求項2に記載のAl置換電解二酸化マンガンの製造方法。
【請求項4】
電解液中のAlと硫酸の重量比が0.1以上であることを特徴とする請求項2〜3に記載のAl置換電解二酸化マンガンの製造方法。
【請求項5】
リチウム化合物と請求項1に記載のAl置換電解二酸化マンガンとを混合、焼成してなるリチウムマンガン複合酸化物。
【請求項6】
請求項5のリチウムマンガン複合酸化物を正極活物質として用いてなるリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−285361(P2008−285361A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131737(P2007−131737)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】