説明

ApoE−containingHDL中コレステロールの測定方法

【課題】全HDL-C並びにApoE-containing HDL-C及びApoE-deficient HDL-CのHDL亜分画中のコレステロールを別々に又は同時に定量する方法の提供。
【解決手段】被検試料中に、ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7以上1.3未満である界面活性剤、ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7未満である界面活性剤及びApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が1.3以上の界面活性剤からなる群から選択される界面活性剤を加え、コレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼを作用させ、発生した過酸化水素を定量することによりApoE-containing HDLのコレステロールをApoE-deficient HDL中のコレステロールを酵素的に分別定量する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度リポ蛋白(HDL)中のコレステロール(-C)の亜分画分別定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
HDLは、動脈硬化壁を含めた各組織からコレステロールを受け取るので細胞内に蓄積したコレステロールの除去作用に関係し、冠動脈硬化症をはじめとする各種動脈硬化症の危険予防因子であり、その血中レベルは動脈硬化性疾患の発症予知に有用な指針となることが知られている。
【0003】
HDLはアポタンパクとよばれるタンパク質と、リン脂質、コレステロール、中性脂肪といった脂質成分の複合体であるが、その成分の一つであるアポリポタンパク質E(ApoE)の含量比率の違いからApoE-containing HDLとApoE-deficient HDLの亜分画に分類することができる。ApoE-containing HDLは、コレステロール引き抜き能が強く、抗血小板作用もあり、HDLの中でも超善玉リポ蛋白として注目されている。最近では、スタチンに次ぐ脂質異常症治療薬として、HDL-Cを上昇させるCETP阻害薬に期待が寄せられている。CETP阻害薬はHDLのうち特にApoE-containing HDLを主に増加させることが知られている。
【0004】
HDL中のコレステロールの測定方法としては、例えば超遠心分離によってHDLを他のリポ蛋白と分離した後、コレステロール測定に供する方法や、電気泳動によって分離した後に脂質の染色を行なってその発色強度を測定する方法等が知られている。しかしながら、これらの方法は、いずれも操作が煩雑であり、多数の検体を処理できない等の問題があり、日常的にはほとんど用いられていない。
【0005】
HDL中のコレステロールの測定方法として、検体に沈殿剤を加えてHDL以外のリポ蛋白質を凝集させ、これを遠心分離によって取り除き、分離されたHDLのみを含む上清中のコレステロールを測定する方法がある。この方法では使用する沈殿剤の種類によってHDLの亜分画に対する反応性が異なることが知られており、リンタングステン酸−マグネシウムやデキストラン硫酸−マグネシウム、ヘパリン−カルシウムを沈殿剤として用いた方法ではApoE-containing HDLはVLDL、LDL等のリポタンパクと共に凝集し、遠心分離により沈殿分画として取り除かれるため、HDL分画として測定できない。一方、ヘパリン−マンガンやポリエチレングリコール(PEG)を用いた方法ではApoE-containing HDLは凝集せずHDLとして測定される。いずれにしろこの沈殿剤を使用してHDLを分離し定量する方法は、超遠心法や電気泳動法に比較して簡便であるものの、沈殿剤を加えて分離する操作を含むため、簡便性で満足できるものでなく、また、比較的多量の検体量を必要とする。
【0006】
近年ではHDL-Cを定量する簡便な方法として、沈殿剤を用いた前処理操作なく、自動分析装置でHDL-Cを定量する方法が知られており、コレステロールエステラーゼやコレステロールオキシダーゼ酵素を化学修飾し、シクロデキストリン等の包接化合物存在下においてHDL中のコレステロールを特異的に捕える方法(特許文献1を参照)やHDL以外のリポ蛋白と凝集体や複合体を形成させ、その後にHDL中のコレステロールを酵素的反応で捕える方法(特許文献2及び3を参照)、HDLに特異的に作用するHLBが13〜14の界面活性剤を用いる方法(特許文献4を参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7-301636号公報
【特許文献2】特開平8-131197号公報
【特許文献3】特開平8-201393号公報
【特許文献4】国際公開第WO98/26090号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上に述べた方法はHDLコレステロール(HDL-C)を測定できるものの、HDL亜分画に対する反応性が異なり、HDLを亜分画に分けて考えた場合、ApoE-deficient HDLコレステロール(ApoE-deficient HDL-C)及びApoE-containing HDLコレステロール(ApoE-containing HDL-C)をそれぞれ部分的にも、又はほとんど測定できず、ApoE-deficient HDL-C及びApoE-containing HDL-Cを分別して定量できないという問題があった。
【0009】
本発明の目的は、煩雑な分画分離操作を必要とせず、全HDL-C並びにApoE-containing HDL-C及びApoE-deficient HDL-CのHDL亜分画中のコレステロールを別々に又は同時に定量する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、ApoE-containing HDL及びApoE-deficient HDLの各HDL亜分画に対する作用の強さ(反応性)が異なる界面活性剤が存在することを見出した。これらの反応性の異なる界面活性剤を使い分けることによりApoE-containing HDL-C及びApoE-deficient HDL-Cを分別して別々に測定することができ、さらに全HDL-C(ApoE-containing HDL-C及びApoE-deficient HDL-C)も測定することができる。また、2つの試薬を用いる汎用自動分析装置を用いて2工程で測定を行なう場合、第1工程で用いる第1試薬中、及び第2工程で用いる第2試薬中においてこれらの界面活性剤を組み合わせて使用することにより、ApoE-containing HDL-C、ApoE-deficient HDL-C及び全HDL-Cをそれぞれ単独で測定することができ、さらにいずれか複数を同時に測定できることを見出し本発明を完成した。
【0011】
このように、本発明は、被検試料中のApoE-containing HDL-C及びApoE-deficient HDL-CのHDL亜分画を単独で分別定量でき、さらに複数を同時に測定することができる、亜分画HDL-Cの定量方法を提供する。
【0012】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 被検試料中に、ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7以上1.3未満である界面活性剤、ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7未満である界面活性剤及びApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が1.3以上の界面活性剤からなる群から選択される界面活性剤を加え、コレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼを作用させ、発生した過酸化水素を定量することによりApoE-containing HDLのコレステロール及び/又はApoE-deficient HDL中のコレステロールを酵素的に分別定量する方法。
【0013】
[2] 被検試料中に、ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7以上1.3未満である界面活性剤を加え、コレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼを作用させ、発生した過酸化水素を定量することによりApoE-containing HDL中のコレステロールを含む全HDL中のコレステロールを酵素的に定量する全HDL中のコレステロールの定量方法。
【0014】
[3] 被検試料中に、ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7未満である界面活性剤を加え、コレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼを作用させ、発生した過酸化水素を定量することによりApoE-deficient HDL中のコレステロールのみを酵素的に定量するApoE-deficient HDL中のコレステロールの定量方法。
【0015】
[4] 被検試料中に、ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が1.3以上である界面活性剤を加え、コレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼを作用させ、発生した過酸化水素を定量することによりApoE-containing HDL中のコレステロールのみを酵素的に定量するApoE-containing HDL中のコレステロールの定量方法。
【0016】
[5] [2]に記載の方法で得られたApoE-containing HDL中のコレステロールを含むHDL中のコレステロール値から、[3]の方法で得られたApoE-deficient HDL中のコレステロールを減ずることにより、ApoE-containing HDL中のコレステロールを算出する、ApoE-containing HDL中のコレステロール定量方法。
【0017】
[6] ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7以上1.3未満である界面活性剤がディスパノールK3である、[1]又は[2]のHDL中のコレステロールの定量方法。
【0018】
[7] ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7未満である界面活性剤がアデカトール LB-1220である、[1]又は[3]のHDL中のコレステロールの定量方法。
【0019】
[8] ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が1.3以上である界面活性剤がノニオンNS-202Sである、[1]又は[4]のHDL中のコレステロールの定量方法。
[9] 被検試料中のHDL以外のリポ蛋白中コレステロールを消去する第1工程と、次いでHDL中のコレステロールを定量する第2工程とを含む、[1]から[8]のいずれかのHDL中コレステロールの定量方法。
【0020】
[10] 被検試料中に、ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7未満である界面活性剤を加え、ApoE-deficient HDLのみを反応させ、コレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼ、カタラーゼの作用により、ApoE-deficient HDL中のコレステロールを反応系外に導く第1工程と、次いでApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7以上1.3未満である界面活性剤、又はApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が1.3以上である界面活性剤を加え、被検試料中の残りのHDLを反応させ、ApoE-containing HDL中のコレステロールを定量する第2工程とを含むApoE-containing HDL中コレステロールの定量方法。
【0021】
[11] 第1工程において被検試料中にApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7未満である界面活性剤を加え、ApoE-deficient HDL中のコレステロール由来の過酸化水素を生成し、ApoE-deficient HDL中のコレステロール由来の過酸化水素を第2工程の初期に検出し、同時に第2工程においてApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7以上1.3未満である界面活性剤又はApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が1.3以上である界面活性剤を加え、ApoE-containing HDL中のコレステロール由来の過酸化水素を検出する、ApoE-containing HDL中コレステロール及び全HDL中コレステロールを一度に定量する方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の方法により、ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7以上1.3未満である界面活性剤、ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7未満である界面活性剤及びApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が1.3以上である界面活性剤を適宜用いて、被検試料を酵素的に処理し、発生した過酸化水素を定量することにより、ApoE-containing HDL中のコレステロールとApoE-deficient HDLの亜分画HDL中のコレステロールを分別定量することができる。また、亜分画HDL中のコレステロールと全HDL中のコレステロールを同時に定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の参考例1の方法により分離したApoE-deficient HDL及びApoE-containing HDLフラクションの状態を示す図である。
【図2−1】本発明の実施例1の方法により測定したHDL亜分画におけるApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比を示す図である。
【図2−2】本発明の実施例1の方法により測定したHDL亜分画におけるApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比を示す図である(図2−1の続き)。
【図2−3】本発明の実施例1の方法により測定したHDL亜分画におけるApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比を示す図である(図2−2の続き)。
【図2−4】本発明の実施例1の方法により測定したHDL亜分画におけるApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比を示す図である(図2−3の続き)。
【図3】本発明の実施例2の方法により測定した各種リポ蛋白に対する反応性を示す図である。
【図4】本発明の実施例3の方法とPT-DS-Mg沈殿法との相関を示す図である。
【図5】本発明の実施例4の方法とポリエチレングリコール沈殿法との相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は被検試料中のApoE-containing HDL-C及びApoE-deficient HDL-Cを定量する方法である。
【0025】
リポ蛋白中に含まれるコレステロールとしては、エステル型コレステロール(コレステロールエステル)及び遊離型コレステロールがある。本明細書において、単に「コレステロール」という場合には、これらの両者を包含する。
【0026】
リポ蛋白は大きくVLDL、LDL及びHDLの分画に分けられる。このうち、HDLはApoEの含量比率の違いからApoE-containing HDLとApoE-deficient HDLの亜分画に分類することができる。通常、ApoE-containing HDLはHDL中にApoEを含有したものを示し、ApoE-deficient HDLはApoEを含有しないものを示す。HDLをApoE-containing HDLとApoE-deficient HDLに分けているのは、これらのリポ蛋白では動脈硬化に対する作用機序が異なるので、分別測定する必要があったからである。すなわち、ApoE-containing HDLはコレステロール引き抜き能が強く、抗血小板作用もあり、HDLの中でも善玉として作用している。また、脂質異常症治療薬としてHDL-Cを上昇させるCETP阻害薬でも主にApoE-containing HDLが上昇することが知られている。
【0027】
また、ApoEが存在するか又は含有量が多いHDLをApoE-rich HDLと呼ぶことがあるが、これもApoE-containing HDLに含まれる。
【0028】
HDL内部に存在するApoE含有量の分布は連続しているので、リポ蛋白中のApoE含有比により、明確にApoE-containing HDLとApoE-deficient HDLを区別することは容易ではないが、後述のように例えばApoE含有量を指標にクロマトグラフィー等によりHDLを分画した場合、特定のApoE含量を定め、その値によりApoE-containing HDLとApoE-deficient HDLを区別すればよい。
【0029】
また、HDLは密度の違いによってHDL2とHDL3に分類することができ、それぞれについてApoE含有量の違う、ApoE-containing HDL2及びApoE-containing HDL3が存在する。また粒子サイズの大きい大型のHDLには通常存在するアポリポタンパクA1(ApoA1)が欠損しており、ApoEが多数存在するものがあるが、これもApoE-containing HDLに含まれる。リポ蛋白粒子サイズの直径は、報告者により異なるがVLDLが30nm〜80nm(30nm〜75nm)で、LDLが22nm〜28nm(19nm〜30nm)、HDLが直径7〜10nmである。比重は、VLDLが1.006以下、LDLが1.019〜1.063、HDLが1.063〜1.21である。
【0030】
本発明の方法において測定に供される被検試料としては、HDL、LDL、VLDL及びCM等のリポ蛋白を含む可能性のある試料であればいずれのものでもよく、例えば、血清、血漿等の体液やその希釈物を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0031】
本発明の方法は通常、自動分析装置を用いて行われる。本発明の方法の工程数は限定されないが、好ましくは第1工程と第2工程の2つの工程により行われる。
【0032】
例えば、第1工程では、CM、VLDL、LDL等のHDL以外のリポ蛋白及びApoE-containing HDL及びApoE-deficient HDLの亜分画LDLのうち測定対象である亜分画LDL以外の亜分画HDLを反応系外へ導く。すなわち、コレステロールエステラーゼを被検体試料と反応させ、生じたコレステロールをコレステロールオキシダーゼ又はコレステロールデヒドロゲナーゼ等のコレステロール反応酵素の存在下で反応させ反応系外へ導く。この際、反応系外で導こうとするリポ蛋白に反応性を有する特定の界面活性剤の存在下で反応を起こさせてもよい。
【0033】
ここで、リポ蛋白のコレステロールを反応系外に導くとは、CM、VLDL及びLDL並びに測定対象以外の亜分画HDLなどのリポ蛋白に含まれるコレステロールが測定対象であるHDL-C又は亜分画HDL-Cの定量に影響を及ぼさないように、上記リポ蛋白に含まれるコレステロールを消去、凝集させたり、後の工程で反応しないよう阻害すること等をいう。
【0034】
消去とは被検体試料中のリポ蛋白コレステロールを分解し、その分解物が次の工程において検出されないようにすることを意味する。リポ蛋白コレステロールを消去するための方法としては、コレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼを作用させ発生した過酸化水素を、カタラーゼを用いて水と酸素に分解する方法が挙げられる。また、ペルオキシダーゼを用いて水素供与体と発生した過酸化水素を反応させ無色キノンに転化してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0035】
第2工程では、測定対象に反応性を有する界面活性剤の存在下でコレステロールエステラーゼを被検体試料と反応させ、生じたコレステロールをコレステロールオキシダーゼ又はコレステロールデヒドロゲナーゼ等のコレステロール反応酵素の存在下で反応させ発生した過酸化水素をキノン色素に転化させキノン色素を測定することにより測定対象を酵素的に定量することができる。
【0036】
本発明のApoE-containing HDL及びApoE-deficient HDLの亜分画HDLは以下のようにして分画することができる。例えば、後記の参考例に示すように、HDLを含む試料を臭化カリウムを用いた超遠心分離に供することにより全リポ蛋白を分離し、次いでポリエチレングリコールによりHDL以外のリポ蛋白を凝集させることによりHDLを分離し、次いでヘパリン親和性クロマトグラフィーを用いて塩化ナトリウムを用いたグラジエント溶出により分画し、ApoE-deficient HDLフラクション及びApoE-containing HDLフラクションを分離することができる。
【0037】
このようにして分取したApoE-containing HDL及びApoE-deficient HDL 亜分画フラクションを用いることにより、種々の界面活性剤のApoE-containing HDL及びApoE-deficient HDLのぞれぞれのHDL亜分画に対する反応性を調べることができる。ここで、界面活性剤のリポ蛋白への反応性は、該界面活性剤の存在下でリポ蛋白にコレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼを作用させた場合に、コレステロールの反応する程度を指標に評価することができる。具体的には、例えば、後記の実施例1に示す方法で、第2試薬に種々の界面活性剤を含ませ測定を行うことによりその界面活性剤のリポ蛋白に対する反応性を測定することができる。
【0038】
上記の分取したHDL亜分画を用いて、上記の方法で各種界面活性剤の反応性を分析、検討することができる。本明細書において、界面活性剤を反応性の大きさを反応率及びその反応率の比として表すことがある。具体的には、ApoE-containing HDLに対する界面活性剤の反応量とApoE-deficient HDLに対する界面活性剤の反応量を測定し、それぞれの試料中の総コレステロール量との比(以下、「ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比」と言う)を求めればよい。それより、ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比を算出することができる。
【0039】
このようにして、界面活性剤を、ApoE-containing HDL及びApoE-deficient HDL両方に反応する界面活性剤(ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7以上、1.3未満)、ApoE-containing HDLに対する反応性が強くApoE-deficient HDLに対する反応性が弱い界面活性剤(ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が1.3以上)、ApoE-deficient HDLに対する反応性が強くApoE-containing HDLに対する反応性が弱い界面活性剤(ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7未満)に分類することができる。界面活性剤の分類を図2−1から図2−4に示す。
【0040】
上記ApoE-containing HDL及びApoE-deficient HDLの両方に反応する(両方に反応性が強い)界面活性剤として、ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7以上、1.3未満の界面活性剤、好ましくはApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.8以上、1.2未満の界面活性剤が挙げられる。このような界面活性剤として、陰イオン界面活性剤としてはアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが、非イオン界面活性剤としてはポリオキシエチレンモノラウレート、ラウリルアルコールアルコキシレート、ポリオキシエチレンラウリルアミン、分子量1700未満のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、HLB13.0以上14.5未満のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルが、両性界面活性剤としてはアルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリウムベタインが挙げられる。具体的な界面活性剤の例として、陰イオン界面活性剤としては、ニューレックスソフト60-N、ニューレックスパウダーF、ニューレックスペーストH(以上日本油脂社製)、ネオペレックスNo.1-F、ネオペレックス G-65、エマール NC-35(以上、花王社製)等が、非イオン界面活性剤の例として、アデカトールLB70、アデカトール LB-103、アデカトール LB-93(以上旭電化社製)、ディスパノールK-3、ノニオンL-4、ノニオンMN-811、ノニオンNS-210、ノニオンNS-212、ナイミーンL-202、プロノン102、プロノン204(以上日本油脂社製)、ノニポール85、ノニポール95、ノニポール100、ノニポール120(以上三洋化成社製)等が、両性界面活性剤の例としてアンヒトール24B(花王社製)、ニッサンアノンBF、ニッサンアノンGLM-R-LV、ニッサンアノンLG(以上日本油脂社製)等が挙げられる。
【0041】
ApoE-containing HDLに対する反応性が強くApoE-deficient HDLに対する反応性が弱い界面活性剤としてApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が1.3以上の界面活性剤、好ましくはApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が1.4以上の界面活性剤が挙げられる。例えば、HLB5〜6、例えば5.7のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルが上げられ、具体的にはノニオンNS-202S(商品名:日本油脂株式会社製)が挙げられる。
【0042】
ApoE-deficient HDLに対する反応性が強くApoE-containing HDLに対する反応性が弱い界面活性剤としてApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7未満の界面活性剤、好ましくはApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.65未満の界面活性剤が挙げられる。このような界面活性剤として、陰イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン、脂肪酸アミドエーテル硫酸エステルナトリウム塩、曇天が75℃以上のラウリルアルコールアルコキシレート、高級アルコール系エーテル、芳香族リン酸エステル、脂肪族リン酸エステル、HLB15以上17.5未満のポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル及びポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルが挙げられる。具体的な界面活性剤の例として、陰イオン界面活性剤としては、エマール 20CM、エマール 20T、レベノールWZ(以上花王社製)、サンアミドC-3、サンアミドCF-10(以上日本油脂社製)、アデカコールCS-141E、アデカコールPS-440E(以上旭電化社製)等が、非イオン界面活性剤としてはノニオンHS-215、ノニオンNS-215、ノニオン HS-220、ノニオンNS-220、ノニオン NS-230、ナイミーン T2-210(以上日本油脂社製)、エマルゲン 1118S-70、エマルゲン 120、エマルゲン LS-114(以上花王社製)、アデカトール LB-1220、アデカトール LB-1520、(以上旭電化社製)等が挙げられる。
【0043】
以下、上記の界面活性剤を用いて、本発明の方法により、ApoE-containing HDL-C及びApoE-deficient HDL-CのHDL亜分画を単独で分別定量し、さらに複数を同時に測定する方法について説明する。
【0044】
上記のように、本発明の方法は、第1工程及び第2工程の2工程で行うことができ、第1工程及び第2工程で以下の反応を起こさせればよい。
(1)第1工程でHDL以外のリポ蛋白(CM、VLDL、LDL)を消去し、第2工程でApoE-containing HDL及び/又はApoE-deficient HDLコレステロールを測定する。
(2)第1工程でApoE-containing HDL又はApoE-deficient HDLを消去し、第2工程で残ったApoE-containing HDL又はApoE-deficient HDLコレステロールを測定する。この際、HDL以外のリポ蛋白(CM、VLDL、LDL)は第1工程において消去してもしなくてもよい。
【0045】
本発明の方法において、上記のApoE-containing HDL及びApoE-deficient HDLに反応性を有する界面活性剤は第1工程及び第2工程いずれにおいても用いることができる。この場合、第1工程中の濃度として0.05g/L〜2.0g/Lが好ましく、0.1g/L〜1.0g/Lがより好ましい。第2工程中の濃度としては0.15g/L〜6.0g/Lが好ましく、0.3g/L〜3.0g/Lがより好ましい。
【0046】
さらに、上記のApoE-containing HDL及びApoE-deficient HDLに反応性を有する界面活性剤を第2工程で用いる場合、第1工程でHDL以外のCM、VLDL、LDL等のリポ蛋白を消去し、ApoE-containing HDL及び/又はApoE-deficient HDLコレステロールの測定の特異性を上げることができる。
【0047】
HDL以外のリポ蛋白を消去する方法として、カタラーゼを用いる方法、及び無色キノンを形成する方法を挙げることができる。HDLに作用する界面活性剤の非存在下において、被検試料にコレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼを作用させ、生じたHDL以外のリポ蛋白由来の過酸化水素を除去する。コレステロールエステラーゼの作用により、リポ蛋白中のエステル型コレステロールが加水分解されて遊離型コレステロールと脂肪酸が生じる。次いで、この生じた遊離型コレステロールと元々リポ蛋白中に存在する遊離型コレステロールがコレステロールオキシダーゼの作用で酸化されてコレステノンと過酸化水素が生じる。この生じた過酸化水素を除去することによりリポ蛋白を消去することができる。過酸化水素を除去する方法としては、カタラーゼを作用させて水と酸素に分解する方法、及びペルオキシダーゼの作用により、例えばDAOS(N-エチル-N-(2-ヒドロキシスルホプロピル)-3,5-ジメチオキシアニリン)のような、過酸化水素と反応して無色キノンを生じるフェノール系又はアニリン系水素供与体化合物と反応させて過酸化水素を無色キノンに転化する方法等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0048】
上記の方法により、第1工程において、HDL以外のリポ蛋白中のコレステロールが大部分消去され、第2工程での反応によりHDL又はApoE-containing HDL及び/又はApoE-deficient HDLのHDL亜分画中のコレステロールのみが特異的に定量される。
【0049】
上記第1工程においては、HDLに作用する界面活性剤の非存在下において行なえばよい。こうすることにより、HDL中のコレステロールはほとんど反応せず、LDL、VLDL、CM等の他のリポ蛋白中のコレステロールのみが反応して消去される。この結果、次の第2工程においてHDL又はApoE-containing HDL及び/又はApoE-deficient HDLのHDL亜分画中のコレステロールが選択的に定量される。
【0050】
第1工程の反応液中のコレステロールエステラーゼの濃度は0.2〜1.0U/ml程度が好ましく、また、コレステロールオキシダーゼの濃度は0.1〜0.7U単位/ml程度が好ましい。さらに、カタラーゼの濃度は40〜100U/ml程度が好ましく、ペルオキシダーゼの濃度は0.4〜1.0U/ml程度が好ましい。また、過酸化水素と反応して無色キノンを生じる化合物の濃度は0.4〜0.8mmol/l程度が好ましい。
【0051】
第1工程の反応は、pH5〜8の緩衝液中で行なうことが好ましく、緩衝液としてはリン酸、グリシン、トリス及びグッドの緩衝液が好ましい。特にグッドの緩衝液であるBis-Tris、PIPES、MOPSO、BES、HEPES及びPOPSOが好ましく、緩衝液の濃度は10〜500mM程度が好ましい。
【0052】
第1工程で、HDL以外のリポ蛋白の消去効率を高めるために、反応液中に2価の金属イオンを含ませてもよい。2価の金属イオンとしては銅イオン、鉄イオン及びマグネシウムイオンを好ましく使用することができるが、特にマグネシウムイオンが好ましい。2価の金属イオンの濃度は5〜200mM程度が好ましい。
【0053】
さらに、第1工程の反応液中には、任意的に、リポ蛋白加水分解酵素を加えることもできる。この酵素を加えることにより、特にVLDL中のコレステロールが反応し易くなるので好ましい。この酵素の反応液中の濃度は、5.0〜10.0U/ml程度が好ましい。
【0054】
第1工程の反応温度は25℃〜40℃程度が適当であり、37℃が最も好ましい。また、反応時間は2〜10分間程度でよい。
【0055】
第2工程においてするために、前記ApoE-containing HDL及びApoE-deficient HDL両方に反応する界面活性剤を用いた場合、全HDL-C測定値が得られる。この全HDL-C測定値から、前記ApoE-deficient HDLに対する反応性が強くApoE-containing HDLに対する反応性が弱い界面活性剤を用いて算出されたApoE-deficient HDL-C値を減ずることによりApoE-containing HDL-Cを定量することができる。
【0056】
また、前記ApoE-deficient HDLに対する反応性が強くApoE-containing HDLに対する反応性が弱い界面活性剤を、前記HDL以外のリポ蛋白を消去する第1工程で用いる第1試薬に加え、さらに前記ApoE-containing HDL及びApoE-deficient HDL両方に反応する界面活性剤、又はApoE-containing HDLに対する反応性が強くApoE-deficient HDLに対する反応性が弱い界面活性剤を第2工程で用いる第2試薬に加えることにより、ApoE-containing HDL-Cを正確に測定することができる。
【0057】
この場合、第1工程において少なくともApoE-deficient HDL-Cが消去されれば良い。CM、VLDL、LDL等のリポ蛋白中コレステロールを第1工程で消去しても良いし、CM、VLDL、LDL等のリポ蛋白は第1工程及び第2工程いずれにおいても反応せず、最後まで消去されずに残存していてもよい。
【0058】
第1工程でApoE-deficient HDL-Cを消去する場合、第1工程で用いる界面活性剤濃度は、第2工程で用いられるApoE-containing HDL及びApoE-deficient HDL両方に反応する界面活性剤、又はApoE-containing HDLに対する反応性が強くApoE-deficient HDLに対する反応性が弱い界面活性剤の作用が阻害されないよう、第2工程の界面活性剤濃度より低い濃度で用いる必要がある。
【0059】
具体的には、第1工程で用いる(第1試薬中の)界面活性剤濃度/第2工程で用いる(第2試薬中の)界面活性剤濃度比が、0.2未満であることが好ましく、0.1未満であることがより好ましい。
【0060】
さらに、第1工程において前記ApoE-deficient HDLに対する反応性が強くApoE-containing HDLに対する反応性が弱い界面活性剤を加え、カタラーゼの非存在下でコレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼとともに作用させ、第2工程において前記ApoE-containing HDL及びApoE-deficient HDL両方に反応する界面活性剤、又はApoE-containing HDLに対する反応性が強くApoE-deficient HDLに対する反応性が弱い界面活性剤を加えることにより、1回の測定でApoE-containing HDL-C及び全HDL-Cの両方の測定値を求めることができる。
【0061】
この場合、第1工程ではApoE-deficient HDLが、ApoE-deficient HDLに対する反応性が強くApoE-containing HDLに対する反応性が弱い界面活性剤によって分解され、コレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼの作用により反応中間体であるApoE-deficient HDL由来の過酸化水素が発生する。続く第2工程において、この過酸化水素は第2試薬中に存在するペルオキシダーゼ、4-アミノアンチピリン、トリンダー試薬の存在下で瞬時にキノン色素を形成し、反応液の吸光度変化が生じる。この吸光度変化はApoE-deficient HDL-Cに基づく反応によるものであるので、この吸光度変化量はApoE-deficient HDL-Cの量に対応する。この吸光度変化は第2工程の初期に検出される。一方、ApoE-containing HDLは、第2工程において第2試薬中に存在するApoE-containing HDL及びApoE-deficient HDLの両方に反応する界面活性剤、又はApoE-containing HDLに対する反応性が強くApoE-deficient HDLに対する反応性が弱い界面活性剤並びにコレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼの作用により、ApoE-deficient HDL由来の過酸化水素の発生に遅れて過酸化水素を発生し、ペルオキシダーゼ、4-アミノアンチピリン、トリンダー試薬の存在下でキノン色素を形成する。このキノン色素の形成によっても反応液の吸光度変化が生じ、この吸光度変化はApoE-containing HDL -Cに基づく反応によるものであるので、この吸光度変化量はApoE-containing HDL -Cの量に対応する。このApoE-containing HDL由来の過酸化水素は、ApoE-deficient HDL由来の過酸化水素に遅れて測定される。従って、第2工程における全体の吸光度変化量はApoE-deficient HDL-C及びApoE-containing HDL-Cの両方の量に対応する。すなわち、第2工程における全体の吸光度変化量は全HDL-C量に対応する。これらの吸光度変化は自動分析装置により測定することができ、このときの分析条件を変えることにより、一度の測定で同時にApoE-deficient HDL-C、ApoE-containing HDL-C及び全HDL-Cという多項目の定量値を得ることができる。
【0062】
本発明の方法を種々の測定条件を設定できる自動分析装置を用いて行なう場合の自動分析装置の多項目分析における1つの測定条件は、第2工程における総吸光度変化量により、全HDL-Cの定量を行なうための条件である。また、他の測定条件は第2工程において第2試薬添加後の2点(第2試薬添加直後の急激な吸光度変化の後と反応最終点)間の吸光度変化量により、ApoE-containing HDL-Cの定量を行なうための条件である。
【0063】
本発明におけるコレステロールの酵素的な定量方法自体はこの分野において周知であり、例えば第1工程と同様、コレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼの作用によりコレステロールエステル及び遊離型コレステロールから過酸化水素を発生させ、発生した過酸化水素を定量することにより行なうことができる。過酸化水素の定量は、例えば、ペルオキシダーゼの存在下で、過酸化水素と反応してキノン色素を形成する化合物と反応させ、生じたキノン色素の量を吸光度測定等により測定することにより行なうことができる。キノン色素は、例えば過酸化水素と4−アミノアンチピリン及びフェノール系若しくはアニリン系水素供与体を用いることにより形成させることができる。
【0064】
水素供与体化合物のうちアニリン系水素供与体化合物として、N‐(2‐ヒドロキシ‐3‐スルホプロピル)‐3,5‐ジメトキシアニリン(HDAOS)、N-エチル-N-スルホプロピル-3‐メトキシアニリン(ADPS)、N-エチル-N-スルホプロピルアニリン(ALPS)、N-エチル-N-スルホプロピル-3,5‐ジメトキシアニリン(DAPS)、N‐スルホプロピル‐3,5‐ジメトキシアニリン(HDAPS)、N-エチル-N-スルホプロピル‐3,5‐ジメチルアニリン(MAPS)、N-エチル-N-スルホプロピル-3‐メチルアニリン(TOPS)、N-エチル-N‐(2‐ヒドロキシ‐3‐スルホプロピル)‐3‐メトキシアニリン(ADOS)、N-エチル-N‐(2‐ヒドロキシ‐3‐スルホプロピル)アニリン(ALOS)、N-エチル-N‐(2‐ヒドロキシ‐3‐スルホプロピル)-3,5‐ジメトキシアニリン(DAOS)、N-エチル-N‐(2‐ヒドロキシ‐3‐スルホプロピル)-3,5‐ジメチルアニリン(MAOS)、N-エチル-N‐(2‐ヒドロキシ‐3‐スルホプロピル)‐3‐メチルアニリン(TOOS)及びN‐スルホプロピルアニリン(HALPS)等が挙げられる。
【0065】
キノン色素を生成する化合物の濃度は、特に限定されないが、反応混合物全体に対し、例えば4−アミノアンチピリンでは、好ましくは0.1〜2.0mM、さらに好ましくは0.5〜1.5mMであり、フェノール系又はアニリン系水素供与体化合物では、0.5〜2.0mmol/Lが好ましい。また、ペルオキシダーゼの濃度は、特に限定されないが、反応混合物全体に対し、0.4〜5U/mlが好ましい。なお、第2工程の好ましい反応条件(反応温度、反応時間、緩衝液、pH)は、第1工程の好ましい反応条件と同じである。
【0066】
なお、第1工程において、生じた過酸化水素をカタラーゼで分解する場合には、第2工程ではこのカタラーゼを阻害する必要があるので、第2工程において例えばアジ化ナトリウムのようなカタラーゼ阻害剤を用いてカタラーゼを阻害する。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例に基づき、より具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、下記例において、「%」は特に断りがない限り「重量%」を示す。
参考例1 ApoE-containing HDL及びApoE-deficient HDLの分画
血清試料よりApoE-containing HDL及びApoE-deficient HDLの分画を回収するため以下の操作を行った。
【0068】
健常者の血清18mLに臭化カリウム5.7687gを加えd=1.225にし、超遠心(65000rpm、13時間50分)により全リポ蛋白を分離した。2mmol/L PBS pH7.4 NaCl 30mmol/Lにて24時間透析し臭化カリウム除去後、検体2.0mLに対し、20%ポリエチレングリコール(平均分子量6000)溶液を2.0ml加えHDLを除くリポ蛋白(CM、VLDL、LDL等)を凝集させ、0.25μmのフィルターを用いて凝集分画をトラップし、HDLを回収した。その後、ヘパリン固定化カラムにてHDLを保持させ、30〜200mmol/L塩化ナトリウムを用いてHDLをApoE-deficient HDLとApoE-containing HDLに分離した。分離後の分画に対し、総コレステロール、ApoA1、ApoEの測定を行った。結果を図1に示す。
【0069】
図1に示すようにHDLピークのうち前半溶出部分にはApoA1が存在するもののApoEは存在せずApoE-deficient HDLが溶出されている。一方ピークの後半部分にはApoEのピークが観察された。このことから、本例によりHDLをApoE-deficient HDLとApoE-containing HDLに分離することができた。
【0070】
実施例1 各種界面活性剤のApoE-containing HDL及びApoE-deficient HDLに対する反応性
各種界面活性剤のApoE-containing HDL及びApoE-deficient HDL亜分画に対する反応性を確認することを目的として、下記の組成を有する試薬を調製した。第2試薬においては、それぞれ100種類の界面活性剤を用いた。
第1試薬
BES緩衝液 pH7.0 100 mmol/l
HDAOS 0.7 mmol/l
コレステロールエステラーゼ 0.8 U/ml
コレステロールオキシダーゼ 0.5 U/ml
カタラーゼ 80 U/ml
塩化マグネシウム 10 mmol/l
【0071】
第2試薬
BES緩衝液 pH7.0 100 mmol/l
4−アミノアンチピリン 4.0 mmol/l
ペルオキシダーゼ 2.4 U/ml
アジ化ナトリウム 0.1%
各種界面活性剤 1.0%
【0072】
参考例1の方法にて精製したApoE-deficient HDL(フラクション25,26,27)及びApoE-containing HDL(フラクション44,45,46)試料2μlに第1試薬150μlを混和し、37℃で5分間反応させた後に(第1工程)、第2試薬50μlを37℃で5分間反応させ、主波長/副波長=600nm/700nmにおける吸光度を測定した(第2工程)。測定された吸光度からコレステロール量を算出し、それぞれの試料中の総コレステロール量との比を計算することによりApoE-containing HDL反応率とApoE-deficient HDL反応率を求めた。さらにApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比を算出した。
【0073】
図2−1から図2−4に示されるように、用いた界面活性剤をApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比により、ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7以上1.3未満で両方の亜分画を測定する群、ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7未満となりApoE-deficient HDLを測定する群、ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が1.3以上となりApoE-containing HDLを測定する群に分類することができた。これらの界面活性剤を適宜用いることによりApoE-containing HDL及びApoE-deficient HDLのHDL亜分画又は全分画を測定できる。
【0074】
なお、本実施例ではApoE-deficient HDLとして参考例1におけるフラクション25,26,27を選択した。これはApoEがほとんど測定されず、かつ総コレステロール量が多く反応率を求めるのに適当と考えたからである。また、ApoE-containing HDLとしてフラクション44,45,46を選択した。これはApoEが最も多く反応率を求めるのに適当と考えたからである。いずれも選択するフラクションを多少前後させたとしても同様の結果が得られるものと考えられる。
【0075】
実施例2 HDL中のコレステロールの定量
実施例1における第2試薬の界面活性剤をディスパノールK-3とした試薬を調製した。HPLCにて分画したVLDL、LDL、HDLを含むフラクションを試料とし、試料2μlに第1試薬150μlを混和し、37℃で5分間反応させた後に、第2試薬50μlを37℃で5分間反応させ、主波長/副波長=600nm/700nmにおける吸光度を測定した。測定された吸光度からコレステロール量を算出し、それぞれの試料中のコレステロール量と比較した結果を図3に示す。
【0076】
図3に示されるように、上記方法によれば、HDL中のコレステロールは大部分定量されるが、それ以外のリポ蛋白中のコレステロールはほとんど又は全く定量されず、本発明の方法により、他のリポ蛋白の影響を受けずにHDL中のコレステロールを選択的に定量できることがわかる。
【0077】
実施例3 ApoE-deficient HDL-C濃度測定における他法との相関性
実施例1における第2試薬の界面活性剤をアデカトールLB-1220とした試薬を調製した。
またApoE-deficient HDLを測定する比較対照法としてPT-DS-Mg沈殿法を用いて、本発明法によって得られる値と比較した。PT-DS-Mg沈殿法の操作は以下のとおりであった。検体200μLに3g/Lリンタングステン酸ナトリウム-1.8g/Lデキストラン硫酸ナトリウム-0.1mol/l塩化マグネシウム混合溶液を200μL添加し、混合後、室温にて10分間静置した。その後2000gで15分間遠心分離し、上清を300μL回収した。回収後の分画の総コレステロールを測定し、ApoE-deficient HDL-C濃度を算出した。本発明法は実施例1と同様の操作にて測定した。
【0078】
本発明法とPT-DS-Mg沈殿法との相関を図4に示す。図4に示されるように、本発明法による結果は、ApoE-deficient HDL測定法であるPT-DS-Mg沈殿法(A Rapid and Simple Quantification of Human Apolipoprotein E-Rich High-Density Lipoproteins in Serum: BIOCHEMICAL MEDICINE AND METABOLIC BIOLOGY 47,31-37 1992)と良好な相関性を示した。
【0079】
実施例4 ApoE-containing HDL-C + ApoE-deficient HDL-C濃度の測定における他法との相関性
実施例1における第2試薬の界面活性剤をアデカトールLB-103とした試薬を調製した。
またApoE-containing HDLを含む全HDL亜分画を測定する比較対照法としてポリエチレングリコール沈殿法を用いて、本発明法によって得られる値と比較した。ポリエチレングリコール沈殿法の操作は以下のとおりであった。検体200μLに13%ポリエチレングリコール溶液(平均分子量6000)を200μL添加し、混合後、室温にて10分間静置した。その後2000gで15分間遠心分離し、上清を300μL回収した。回収後の分画の総コレステロールを測定し、ApoE-containing HDL-C + ApoE-deficient HDL-C濃度を算出した。本発明法は実施例1と同様の操作にて測定した。本発明法とポリエチレングリコール沈殿法との相関を図5に示す。図5に示されるように、本発明法による結果は、ApoE-containing HDL含めた全HDL亜分画測定法であるポリエチレングリコール沈殿法と良好な相関性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検試料中に、ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7以上1.3未満である界面活性剤、ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7未満である界面活性剤及びApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が1.3以上の界面活性剤からなる群から選択される界面活性剤を加え、コレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼを作用させ、発生した過酸化水素を定量することによりApoE-containing HDLのコレステロール及び/又はApoE-deficient HDL中のコレステロールを酵素的に分別定量する方法。
【請求項2】
被検試料中に、ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7以上1.3未満である界面活性剤を加え、コレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼを作用させ、発生した過酸化水素を定量することによりApoE-containing HDL中のコレステロールを含む全HDL中のコレステロールを酵素的に定量する全HDL中のコレステロールの定量方法。
【請求項3】
被検試料中に、ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7未満である界面活性剤を加え、コレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼを作用させ、発生した過酸化水素を定量することによりApoE-deficient HDL中のコレステロールのみを酵素的に定量するApoE-deficient HDL中のコレステロールの定量方法。
【請求項4】
被検試料中に、ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が1.3以上である界面活性剤を加え、コレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼを作用させ、発生した過酸化水素を定量することによりApoE-containing HDL中のコレステロールのみを酵素的に定量するApoE-containing HDL中のコレステロールの定量方法。
【請求項5】
請求項2に記載の方法で得られたApoE-containing HDL中のコレステロールを含むHDL中のコレステロール値から、請求項3に記載の方法で得られたApoE-deficient HDL中のコレステロールを減ずることにより、ApoE-containing HDL中のコレステロールを算出する、ApoE-containing HDL中のコレステロール定量方法。
【請求項6】
ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7以上1.3未満である界面活性剤がディスパノールK3である、請求項1又は2に記載のHDL中のコレステロールの定量方法。
【請求項7】
ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7未満である界面活性剤がアデカトール LB-1220である、請求項1又は3に記載のHDL中のコレステロールの定量方法。
【請求項8】
ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が1.3以上である界面活性剤がノニオンNS-202Sである、請求項1又は4に記載のHDL中のコレステロールの定量方法。
【請求項9】
被検試料中のHDL以外のリポ蛋白中コレステロールを消去する第1工程と、次いでHDL中のコレステロールを定量する第2工程とを含む、請求項1から8のいずれか1項に記載のHDL中コレステロールの定量方法。
【請求項10】
被検試料中に、ApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7未満である界面活性剤を加え、ApoE-deficient HDLのみを反応させ、コレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼ、カタラーゼの作用により、ApoE-deficient HDL中のコレステロールを反応系外に導く第1工程と、次いでApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7以上1.3未満である界面活性剤、又はApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が1.3以上である界面活性剤を加え、被検試料中の残りのHDLを反応させ、ApoE-containing HDL中のコレステロールを定量する第2工程とを含むApoE-containing HDL中コレステロールの定量方法。
【請求項11】
第1工程において被検試料中にApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7未満である界面活性剤を加え、ApoE-deficient HDL中のコレステロール由来の過酸化水素を生成し、ApoE-deficient HDL中のコレステロール由来の過酸化水素を第2工程の初期に検出し、同時に第2工程においてApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が0.7以上1.3未満である界面活性剤又はApoE-containing HDL反応率/ApoE-deficient HDL反応率比が1.3以上である界面活性剤を加え、ApoE-containing HDL中のコレステロール由来の過酸化水素を検出する、ApoE-containing HDL中コレステロール及び全HDL中コレステロールを一度に定量する方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−87543(P2011−87543A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−245476(P2009−245476)
【出願日】平成21年10月26日(2009.10.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、地域科学技術振興機構事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591125371)デンカ生研株式会社 (72)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】