説明

Au触媒の劣化抑制方法

【課題】 Au触媒を用いると、例えばアルコールの酸素酸化等の反応が効率よく進行するが、実操業レベルにスケールアップすると、反応効率、すなわち原料転化率や、目的物への選択率が、比較的短期間で低下してしまう。この触媒の性能劣化の原因を突き止めると共に、このような性能劣化を抑制する方法を見出すことを課題とした。
【解決手段】 Au触媒を用いて液相反応を行うにあたり、FeによるAu触媒の被毒を抑制するため、反応系に、7A族、Feを除く8族、Auを除く1B族、2B族、3B族および4B族よりなる群から選択される1種以上の金属元素を存在させることを特徴とするAu触媒の劣化抑制方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、アルコールを酸素酸化する反応等に用いられるAu触媒が、Feにより被毒して劣化してしまうのを抑制する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本願出願人は、Au触媒を用いることで、例えばアルコールの酸素酸化等の反応が効率よく進行することを見出し、既に多数の出願を行っている(例えば特許文献1等)。しかしながら、Au触媒を用いて種々の検討を行っているうちに、反応効率、すなわち原料転化率や、目的物への選択率が、比較的短期間で低下してしまうことが見出され、その原因を突き止める必要が生じた。本願出願人は、Au触媒の経時的性能劣化が塩基性化合物の添加によって抑制されることを見出し、この知見については既に出願しているが、今回の触媒の経時劣化現象は、塩基性化合物によっては抑制することができず、被毒の機構が異なるものと考えられる。
【特許文献1】特開2003−93876号公報
【特許文献2】特開2004−137180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
Au触媒のような高価な触媒の場合、性能劣化するたびに新しい触媒と交換するのでは、製品コストに多大な影響を与える。そこで、本発明者等は、Au触媒の性能劣化の原因を突き止めると共に、このような性能劣化を抑制する方法を見出すことを課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決することのできた本発明のAu触媒の劣化抑制方法は、Au触媒を用いて液相反応を行うにあたり、FeによるAu触媒の被毒を抑制するため、反応系に、7A族、Feを除く8族、Auを除く1B族、2B族、3B族および4B族よりなる群から選択される1種以上の金属元素を存在させるところに要旨を有する。上記金属元素は、Auと共に担体に担持された状態で、反応系に存在しているものであること、上記液相反応が、1種または2種以上のアルコールと酸素との反応であることは、本発明の好ましい実施態様である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、Au触媒の経時的性能劣化を抑制することができたので、高価な触媒の交換頻度を少なくすることができ、低コストで目的生成物を製造することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明者等が、Au触媒の経時的性能劣化の原因を追究したところ、反応器や蒸留設備に用いられるステンレス鋼からFeが溶出し、これがAu触媒に吸着し、蓄積されることによって、その活性が劣化することを突き止めた。すなわち、反応系にFeイオンを積極的に添加した実験を行ったところ、触媒が劣化することを確認したのである。なお、このような触媒の劣化は、ステンレス鋼に含まれるNiやCr、Mo等では起こらなかったことも確認した。このFeによる触媒の被毒は、例えば、アルコールを酸素酸化する際に原料アルコールの一部を循環使用する場合には、一層顕著となっていた。
【0007】
Au触媒の被毒要因が見出されたため、本発明者等はさらに鋭意検討を行った結果、この劣化現象が特定の金属元素を反応系に存在させることで抑制できることを見出し、本発明に到達した。以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明では、Au触媒を用いた液相反応であることを前提とする。液相反応の形態としては、反応原料が液体であって溶媒を含まない形態や、反応原料は気・液・固体のいずれでもよいが溶媒を用いて液相反応とする形態等が挙げられる。なかでも、反応原料が液体であって未反応の原料を再利用(循環使用)する製法、すなわち反応生成物と未反応原料を蒸留手段等で分離した後、再び反応原料として用いるような製法を採用するときには、触媒へのFeの蓄積が顕著となって、本発明法を採用する意義が大きいため、好ましい。
【0009】
Au触媒を用いて行える液相反応の例としては、(1)1種または2種以上のアルコールと酸素によるカルボン酸エステル合成反応、(2)アルデヒド化合物とアルコールによるカルボン酸エステル合成反応、(3)アルキル置換基を有する芳香族化合物のアルキル置換基をアルデヒド基またはケトン基へ酸化する合成反応、(4)アルキル置換基を有する芳香族化合物とアルコールによる芳香族カルボン酸エステルの合成反応等が挙げられ、これらはいずれも酸素を用いた酸化反応である。
【0010】
上記(1)のカルボン酸エステル合成反応で用い得るアルコールとしては、1価アルコールでも多価アルコールでもよい。アルコールとしては第1級アルコールが好ましく、多価アルコールの場合は、第1級アルコールを分子内に1つ以上含んでいるものが好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、オクタノール等の炭素数1〜10の脂肪族アルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール等の炭素数2〜10のジオール類;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の分子内にエーテル結合を有する炭素数2〜10のアルコール類等が挙げられる。
【0011】
(1)の合成反応の具体例としては、エタノールからの酢酸エチルの合成、エチレングリコールからのヒドロキシ酢酸2−ヒドロキシエチルの合成、ジエチレングリコールからの1,4−ジオキサン−2−オンの合成、エチレングリコールとメタノールからのグリコール酸メチルの合成、プロピレングリコールとメタノールからのピルピン酸メチルおよび乳酸メチルの合成、1,6−ヘキサンジオールからε−カプロラクトンの合成等が挙げられる。
【0012】
これらの反応では、それぞれ使用するアルコールを過剰に用いて溶媒としても使用することができる。また、水;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類等の公知の溶媒を用いることもできる。なお、これらの反応は、通常、0〜180℃、0.05〜2MPa(ゲージ圧)で行う。
【0013】
上記(2)のアルデヒド化合物とアルコールからカルボン酸エステルを合成する反応におけるアルデヒド化合物としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、イソブチルアルデヒド、グリオキザール、ピルビックアルデヒド等の炭素数1〜10の脂肪族アルデヒド;アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド等の炭素数3〜10のα,β−不飽和アルデヒド;ベンズアルデヒド、フェニルグリオキザール、p−メトキシベンズアルデヒド、トルアルデヒド、フタルアルデヒド等の炭素数6〜20の芳香族アルデヒド等のほか、これらアルデヒドの誘導体が挙げられる。アルコールは特に限定されないが、炭素数1〜10の脂肪族アルコールが好ましい。
【0014】
上記(3)の芳香族化合物のアルキル置換基をアルデヒド基へ酸化する反応の具体例としては、トルエンからのベンズアルデヒドの合成、o−クレゾールからのサリチルアルデヒドの合成、p−クレゾールからのp−ヒドロキシベンズアルデヒドの合成、エチルベンゼンからのアセトフェノンの合成、n−プロピルベンゼンからのエチルフェニルケトンの合成、ジフェニルメタンからのジフェニルケトンの合成等が挙げられる。これらの反応は、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類;1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,3−ジオキソラン等の環状エーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類等の非プロトン性で極性の高い溶媒を用いることが好ましい。高収率が得られる。なお、これらの反応は、通常、0〜300℃、0〜5MPa(ゲージ圧)で行う。
【0015】
上記(4)の芳香族カルボン酸エステル合成反応の具体例としては、各種アルコールと、トルエン等のアルキルベンゼン類を原料とした場合には安息香酸エステルが、o−、m−、p−クレゾール等のアルキルフェノール類を原料にした場合にはヒドロキシ安息香酸類が、また、1−及び2−メチルナフタレン等のアルキルナフタレン等を原料にした場合には、ナフトエ酸エステルが合成される。これらの反応では、アルコール類を過剰に添加して循環使用することができる。また、これらの反応は、通常、0〜300℃、0〜5MPa(ゲージ圧)で行う。
【0016】
Au触媒としては、Auを活性成分として有する触媒であれば特に限定されないが、Auが担体上に担持された触媒が好ましい。特に、Auが平均粒子径10nm以下の微粒子として担持されていることが好ましい。担体に担持されるAuの担持量は、担体に対して、0.1〜30質量%が好ましい。この範囲であると、触媒性能が良好に発揮され、コスト的にも優れた触媒が得られるからである。より好ましい担持量は0.1〜10質量%の範囲である。
【0017】
担体としては、Auの微粒子を安定的に担持でき、かつ、使用条件下において物理的および化学的耐久性に優れていて長期的な使用に耐え得る限り、特に限定されるものではない。例えば、(1)シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア等の代表的な金属酸化物、(2)シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、チタニア−ジルコニア等の複合酸化物、(3)シリカ担体に種々の元素(例えば、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ランタノイド類またはアクチノイド類などから選ばれる1種以上の元素等)およびその酸化物が担持されたシリカ系担体、(4)アルミナ担体に種々の元素(例えば、シリコン、チタン、ジルコニウム、ランタノイド類またはアクチノイド類等から選ばれる1種以上の元素等)およびその酸化物が担持されたアルミナ系担体、(5)ZSM−5やMCM−41等の規則性細孔を有するゼオライト及びメソポーラスシリケート系担体、(6)活性炭、フラーレン、カーボンナノチューブ等の炭素材料、等が好適に使用される。これら担体のうち、チタニア、ジルコニア、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ担体にチタニアおよびジルコニアを担持したものが、特に好ましく使用できる。
【0018】
Au触媒のFeによる被毒を防ぐことのできる金属元素(被毒抑制元素)は、7A族、Feを除く8族、Auを除く1B族、2B族、3B族および4B族に含まれる金属元素の1種以上である。ただし、これらの元素が、Au触媒にFeが蓄積するのを抑制する理由は明確になっていない。
【0019】
7A族に含まれる金属元素の具体例は、Mn、Tc、Reである。Fe以外の8族元素としては、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Ptがある。8族元素からFeを除くのは、もちろん、Feが触媒性能劣化原因だからである。Au以外の1B族元素としては、Cu、Agが挙げられる。1B族元素からAuを除くのは、Au触媒にさらにAuを加えたところで、Feの被毒の抑制にはつながらないからである。2B族に含まれる金属元素としては、Zn、Cd、Hgがある。3B族に含まれる金属元素としては、AlGa、In、Tlがある。Bは非金属であるので含まない。4B族に含まれる金属元素としては、Ge、Sn、Pbがある。CとSiは、非金属であるので含まない。これらの金属元素のうち、被毒抑制能の観点からは7A族と8族元素が好ましく、中でも、Mn、Ru、Rhが性能が高い。入手のし易さ、コスト、被毒抑制能、地球環境等の観点からはMnが最も好ましい。
【0020】
これらの被毒抑制元素の反応系での存在状態は、特に限定されない。液相中にイオンの状態で存在していてもよいし、Au触媒に担持させておいてもよい。反応系にイオンの状態で存在させると、Au触媒にFeが吸着される現象と、これらの被毒抑制元素が吸着されてFeが吸着されるのを阻害する現象とが競争的になると考えられるので、Feによる被毒防止が確実なのは、被毒抑制元素を予めAu触媒に担持させる方法であるが、いずれを用いても構わないし、両者を併用しても構わない。
【0021】
反応系に被毒抑制元素をイオンの状態で存在させるときに用いる化合物としては、反応系の液相に溶解できる化合物であれば特に限定されない。疎水性の高い有機溶剤中で反応が行われる場合にもごくわずか溶解すればよく、Au触媒を用いた酸化反応では水が発生するため、水溶性化合物の適用範囲が広い。水溶性化合物とは、前記被毒抑制元素の、例えば、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物(塩化物、臭化物、沃化物)、カルボン酸塩(酢酸塩、蟻酸塩など)、アセチルアセトナート塩、アンミン錯体、ホスフィン錯体等が挙げられる。被毒抑制元素をイオンの状態で液相中に存在させる場合は、1〜1000ppm(質量基準)が好ましい。この範囲であれば、Feによる触媒の被毒を抑制する効果が充分に発現し、最終生成物へ金属元素が混入することもないため、好ましい。
【0022】
一方、被毒抑制元素をAu触媒に担持させておく方法は、Feによる被毒を防ぐ効果が確実である。被毒抑制元素は、前記した担体に、Auと同時、またはAuよりも先に、あるいはAuよりも後に、担持させればよい。Auを担体に担持させるには、テトラクロロ金酸HAuCl4、テトラクロロ金酸ナトリウムNaAuCl4、ジシアノ金酸カリウムKAu(CN)2、ジエチルアミン金三塩化物(C252NH・AuCl3、シアン化金AuCN等を1種または2種以上含む水溶液かメタノール等のアルコール溶液が用いられる。濃度は、0.1〜10mmol/L程度が好ましい。また、被毒抑制元素を担持する場合は、上記水溶性化合物を1種または2種以上含む水溶液かメタノール等のアルコール溶液が用いられる。この場合も、濃度は、0.1〜10mmol/L程度が好ましい。これらの溶液(同時担持の場合はAuと被毒抑制元素の両方を含む溶液)に担体を添加して、所望の金属元素を含浸(もしくは析出)させ、その後、必要に応じて乾燥工程を経て、例えば200〜700℃程度で焼成することにより、被毒抑制元素が担持されたAu触媒を得ることができる。必要により、還元処理を行ってもよい。
【0023】
被毒抑制元素をAu触媒に担持させる場合の被毒抑制元素の量は、触媒100質量%のうち、0.01〜10質量%の範囲とすることが好ましい。この範囲であれば、被毒抑制効果が充分に発揮され、コスト的にも無駄がない。なお、被毒抑制元素は、Au触媒とは別の担体に担持させても構わない。
【0024】
本発明におけるAu触媒を用いた液相反応の形態としては、連続式、回分式、半回分式等の何れであってもよく、特に限定されるものではない。回分式においては、被毒抑制元素をイオンとして反応系に存在させる場合は、Au触媒と、前記した水溶性の被毒抑制元素含有化合物を、反応装置に原料や必要に応じて溶媒と共に一括して仕込むとよい。また、被毒抑制元素をAu触媒に担持させる場合も、反応装置に最初に仕込めばよい。一方、連続式では、被毒抑制元素をイオンとして反応系に存在させる場合は、最初に反応系に添加する方法および/または連続的にも添加する方法が採用でき、この場合Au触媒もいずれでもよい。また、被毒抑制元素をAu触媒に担持させる場合も、最初に反応系に添加する方法および/または連続的にも添加する方法が採用できる。触媒は、固定床、流動床、懸濁床等、いずれの形態であってもよい。Au触媒の使用量は特に限定されるものではないが、反応原料100質量部に対し、0.01〜5質量部程度が好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは全て本発明の技術的範囲に包含される。以下の例では、特に断らない限り、%は質量%を意味する。
【0026】
実験1
・担体調製方法
市販のシリカ担体粉体(富士シリシア化学;「CARIACT Q−6」)100gに、チタンイソプロポキシド(和光純薬社製)17.8gを溶解させた2−プロパノール溶液200mlを加えて、よく撹拌した後、加温下で溶媒を留去することにより、シリカ担体にチタニアを担持させた。その後、110℃で10時間乾燥し、600℃で4時間、空気中で焼成し、TiO2−SiO2担体を得た。
【0027】
・Au触媒の調製方法
濃度17mmol/Lの塩化金(III)酸水溶液600mlを65〜70℃に保持しつつ撹拌しながら、14%水酸化ナトリウムで中和した。ここへ、上記TiO2−SiO2担体を20g添加して、系内のpHを6.5〜6.9に保持しながら、さらに1時間撹拌を継続した。その後、固形分を濾別して、80mlの水による洗浄を5回繰り返した。続いて120℃で6時間乾燥し、400℃で3時間、空気中で焼成して、AuがTiO2−SiO2担体に担持されたAu触媒(Au/TiO2/SiO2)を得た。
【0028】
・Mnを担持したAu触媒の調製方法(その1)
濃度17mmol/Lの塩化金(III)酸水溶液600mlを65〜70℃に保持しつつ撹拌しながら、14%水酸化ナトリウムで中和した。ここへ、上記TiO2−SiO2担体20g添加して5分間撹拌した後、酢酸(II)マンガン4水和物0.43gを加えて1時間撹拌した。この間、系内のpHは7.2〜7.3の範囲になっていた。その後は、Auの担持を上記と同様にして行い、Mnを担持したAu触媒(Mn−Au/TiO2/SiO2)を得た。
【0029】
・連続実験方法
ステンレス製連続反応容器(容積500ml)に、エチレングリコール1.15モル、メタノール5.75モルと、上記Au触媒を9.55g添加して、酸素酸化によるグリコール酸メチル(MGC)の連続合成実験を行った。この反応では、主に、MGCが生成し、副生成物ではあるが有用物として2−ヒドロキシエチルグリコレート(HEGC)が生成し、好ましくない副生成物としてシュウ酸ジメチル(DMO)が生成する。合成反応は、110℃で、1MPaの加圧下、空気を95ml/分(酸素にして2〜3モル%)でフィードしながら行った。この系では、滞留時間は8時間になるように原料(エチレングリコール1.15モルとメタノール5.75モルの混合物)を供給しながら、生成物を排出している。表1に示したように、反応開始後、123時間経過した時点から、エチレングリコールとメタノールの混合物を原料として供給する代わりに、鉄(II)アセチルアセトナートとエチレングリコールとメタノールの混合物を、容器内の反応液に対してFeが1ppm(質量基準)となるように供給した。
【0030】
エチレングリコール(EG)の転化率(%)、MGC、HEGCおよびDMOの選択率(%)と、MGC、HEGCおよびDMOの収率(%)を表1に示した。なお、選択率とは、EGの転化によって生成した反応生成物を100モル%としたときの対象化合物のモル%であり、転化率と収率を乗じた値が対象化合物の収率(モル%)である。サンプル中の各化合物の定量はガスクロマトグラフィーにより行った。また、反応時間とMGCの収率を図1に示した。
【0031】
上記と同様にして、Mnを担持したAu触媒を用いて、連続合成実験を行った。この例では、反応開始後、113時間経過した時点から、鉄(II)アセチルアセトナートとエチレングリコールとメタノールの混合物を、容器内の反応液に対してFeが1ppm(質量基準)となるように供給した。結果を表2に示し、MGC収率を図1に併記した。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
表1および図1から明らかなように、Feを添加する前は、Mnを有さないAu触媒の場合(図1では●)とMnを担持したAu触媒を用いた場合(図1では◆)とでは、MGC収率にさほど差はないが、Feを添加すると、Mnを有さないAu触媒の場合は、Fe添加後19時間で、収率は19.6%まで低下したのに対し、Mnを担持したAu触媒を用いた場合は、Fe添加後361時間経過したところで、ようやく収率が20.0%となっている。すなわち、MnがFeによる被毒を抑制して、触媒能を高レベルで長時間に亘って維持していることが確認できた。
【0035】
別途、触媒上に蓄積されたFeを全て王水に溶出させて、そのFe量をICP(誘導結合プラズマ)発光分析法により定量した。その結果、Mnを有さないAu触媒の場合は、反応時間101時間で、触媒中のFe濃度が143ppmとなったのに対し、Mnを担持したAu触媒の場合は、反応時間185時間でも、触媒中のFe濃度は60ppmと低かった。この値から、Fe吸着速度(平均値)を計算すると、Mnを有さないAu触媒の場合は、毎時1.4ppmであるのに対し、Mnを担持したAu触媒の場合は、毎時0.31ppmであった。これらの結果から、Mnを担持したAu触媒はFeによる被毒抑制効果を有しており、この効果は、Mnを有さないAu触媒よりもFeが蓄積しにくいためであることが明らかとなった。すなわち、Feが触媒上に蓄積するのを抑制することが、被毒抑制につながったものと考えられる。
【0036】
実験2(各元素の効果)
上記連続実験の結果から、触媒中のFeの蓄積量(濃度)とFeによる被毒抑制効果との相関が明確になったので、バッチ式の合成実験前後のFe量を測定して、各種元素の被毒抑制効果を検討した。
【0037】
・Mnを担持したAu触媒の調製方法(その2)
前記したMnを有さないAu触媒の調製により得られたAu触媒5gに、酢酸(II)マンガン4水和物0.1gを溶解させたメタノール15mlを加えてよく撹拌した後、加温下で溶媒を留去することにより、Au触媒にMnを担持させた。その後、水素と窒素の混合ガス(体積比:水素/窒素=1/3)を90ml/分でフィードしながら3時間、400℃で加熱して、Mnを担持したAu触媒(Mn−Au/TiO2/SiO2)を得た。
【0038】
・その他の元素を担持するAu触媒の調製方法
酢酸マンガン4水和物0.1gに変えて、以下の化合物を用いた以外は、上記Mn担持型Au触媒の調製方法(その2)と同様にして、各触媒を製造した。触媒中の各元素の濃度は、全て0.5%である。
【0039】
Cr…クロム(III)アセチルアセトナート:0.5mmol
Co…コバルト(III)アセチルアセトナート:0.4mmol
Ru…ルテニウム(III)アセチルアセトナート:0.2mmol
Rh…ロジウム(III)アセチルアセトナート:0.2mmol
Ir…イリジウム(III)アセチルアセトナート:0.1mmol
Cu…銅(II)アセチルアセトナート:0.4mmol
Ag…酢酸銀(I):0.2mmol
Pb…酢酸鉛(II):0.1mmol
バッチ式の実験は、100mlのオートクレーブ中に、触媒1g、エチレングリコール3.8g、メタノール9.9g、鉄(II)アセチルアセトナート26mgを入れて、密封した後、窒素を0.3MPaで、酸素を0.3〜0.4MPaで加圧添加しながら、110℃で2時間撹拌した。バッチ実験後、触媒に蓄積されたFe量を連続反応のときと同様にして定量し、Feの増加分(質量%)を表3に示した。
【0040】
【表3】

【0041】
本発明で規定する金属元素を担持させたAu触媒(No.3〜10)では、Au触媒(No.1)のFe蓄積量よりも低い値を示しており、Feの被毒を防ぐ効果が確認できた。一方、本発明の規定外のCrを担持させたAu触媒(No.2)では、Au触媒のFe蓄積量よりも大きくなっており、Feの被毒を防ぐ効果のないことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のAu触媒の劣化抑制方法によれば、例えば、アルコール等の酸素酸化反応に有効なAu触媒が反応設備から溶出するFeによって被毒して、触媒性能が劣化する速度を著しく低減できるため、工業的生産レベルでAu触媒を用いて目的生成物を合成する場合に、低コストで安定して操業することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】グリコール酸メチル(MGC)の収率に及ぼすFeの影響を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Au触媒を用いて液相反応を行うにあたり、FeによるAu触媒の被毒を抑制するため、反応系に、7A族、Feを除く8族、Auを除く1B族、2B族、3B族および4B族よりなる群から選択される1種以上の金属元素を存在させることを特徴とするAu触媒の劣化抑制方法。
【請求項2】
上記金属元素は、Auと共に担体に担持された状態で、反応系に存在しているものである請求項1に記載のAu触媒の劣化抑制方法。
【請求項3】
上記液相反応が、1種または2種以上のアルコールと酸素との反応である請求項1に記載のAu触媒の劣化抑制方法。




【図1】
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【公開番号】特開2006−212571(P2006−212571A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29234(P2005−29234)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】