説明

B型肝炎ウィルスによる発癌の検出法

ヒト検体から単離された腫瘍の疑いのある肝臓組織から、組織の腫瘍性を示唆するMLL4遺伝子へのHBV−DNAの組込みを検出する方法。代表的には、MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的なプライマーとHBVのX遺伝子領域に特異的なプライマーとを用いてPCRを行うことにより、この組込みを検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性肝炎又は肝硬変等の疾患組織から組織の腫瘍性を示唆する、MLL4遺伝子のHBV−DNAの組込みの検出方法及びキット、またはこれらの融合物の検出方法及びキットに関する。さらに本発明は、組織の腫瘍性を示唆する、19番染色体長腕上の遺伝子MLL4のイントロン3と17番染色体短腕との間の染色体転座の検出方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘパドナウイルス科のファミリーであるヒトB型肝炎ウイルス(HBV)は、非常に狭い宿主範囲を呈し、肝実質細胞に対して強い親和性を示す。急性のHBV感染は、時に重大な病気をもたらし、そして、患者の約0.5%は劇症肝炎によって死亡する。一方、慢性の感染症は、例えば慢性肝炎、肝硬変および肝細胞癌のような中等症から重症の肝臓疾患を起こす(Beasley, R.P., et al., Lancet, 2, 1129-1133 (1981);Block, T.M., et al., Oncogene, 22, 5093-5107 (2003))。慢性のHBV感染症をもつ患者の約25%は、最終的に処置不能の肝臓癌に帰結する。
【0003】
HBVは頻繁にヒト宿主ゲノムの中に組込まれ、それによる挿入突然変異生成は腫瘍形成において重大な役割を果たすと予測される。このため、ウイルスの組込み部位の特定は、癌に関連した遺伝子を特定するための有力なツールを提供することになる(Gozuacik, D., et al., Oncogene, 20, 6233-6240 (2001);Brechot, C., Semin. Cancer Biol., 10,211-231 (2000))。これを示す事実として以下の事実が挙げられる。
【0004】
例えば、ウッドチャック(Woodchuck)動物モデルにおいて、80%以上の頻度で、ウッドチャック肝臓の腫瘍形成を説明し得るN−mycファミリー癌遺伝子内又は隣接する領域に、HBVに関連のあるウッドチャック肝炎ウイルス(WHV)が組込まれている(Hsu, T., et al., Cell, 55,627-635 (1988);Fourel, G., et al., Nature, 347, 294-298 (1990))。ヒトにおいては、HBV−DNAの宿主ゲノムへのランダムな組込みが、慢性肝炎組織において知られている(Takada, S., et al., J. Virol., 64, 822-828 (1990))。さらに、約90%のHBs抗原陽性患者由来の肝細胞癌(HCC)組織において、HBV−DNAのクローナル又はオリゴクローナルな組込みがサザン・ブロッティング解析によって確認されている(Brechot, C., Semin. Cancer Biol., 10,211-231 (2000))。
【0005】
肝細胞癌は、世界中で最も一般的な腫瘍疾患のひとつである。肝細胞癌の大多数は、ヒトB型肝炎ウイルスまたはヒトC型肝炎ウイルス(HCV)の慢性感染によって生じる。腫瘍関連ウイルスによる腫瘍形成の古典的なメカニズムは、細胞のゲノムの中にウイルスのゲノム組込みを通して、潜在的に癌化を起こし得る細胞遺伝子を活性化させることである。
【0006】
例えば、レチノイン酸受容体β及びサイクリンA2遺伝子の中へのHBVゲノム組込みが腫瘍形成の原因になっていることが証明されている(Dejean,A., et al., Nature, 322, 70-72 (1986);Wang,J., et al., Nature,343, 555-557 (1990))。筋小胞体カルシウム-ATPase(SERCA:sarco/endoplasmic reticulum calcium ATPase)もまたHBVの組込みの標的であり、融合産物であるHBx/SERCA1キメラ蛋白質が、アポトーシスを介して腫瘍形成に関連している可能性が報告されている(Chami, M., et al.,Oncogene, 19,2877-2886(2000);Minami,M.,et al.)。しかし、これらの部位へのHBVの組込みによる腫瘍形成は、他の肝細胞癌患者からの検体において再現性が得られていない。
【0007】
また、肝細胞癌組織においてHBV−DNAがヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)遺伝子のプロモーター領域の中に選択的に組込まれ、その結果、肝細胞癌のヒトテロメラーゼ逆転写酵素のシス活性化が起こるという複数の報告がある(Ferber,M.J.,et al., Oncogene,22, 3813-3820 (2003);Paterlini-Brechot,P., et al., Oncogene, 22, 3911-3916 (2003))。また、癌抑制遺伝子及び癌遺伝子がhTERTによる発癌抑制に関係しているという報告がある(Lin, S.Y.,and Elledge, S.J., Cell, 113, 881-889 (2003))。これらの報告から、hTERT遺伝子又はそのプロモーター中へのHBV−DNA組込みが、腫瘍形成に直接的に影響を与え得ると考えられる。
【0008】
ここで、混合性白血病4(MLL4)遺伝子(ATCCアクセッション番号:AD000671)は、ヒトにおけるMLL遺伝子の2番目の相同遺伝子として報告されたものである(Ruault, M., et al., Gene, 284, 73-81 (2002))。なお、MLL4遺伝子は従来MLL2と呼ばれており、この文献にはMLL2と記載されている。このMLL4遺伝子は、TRX/MLL遺伝子ファミリーのメンバーである(FitzGerald, K.T., and Diaz,M.O., Genomics,59,187-192 (1999))。MLL4遺伝子は、固形腫瘍において頻繁なゲノム再構成または増幅が報告(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)されている、染色体19q13.1上に存在しており、成人ヒト組織に遍在的に発現している。HBVに関連した肝細胞癌において、染色体19q13.1の遺伝子の増幅が、比較遺伝子競合法(Comparative genomic hybridization: CGH)によって観察されている(非特許文献4)。また、固形腫瘍において、染色体19q13.1の高頻度のゲノム再配置が報告されている(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献5)。
【0009】
またMLL遺伝子は、ヒト白血病と関連して頻繁に染色体転座の標的となる事が知られている(der Poel, S.Z., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 88, 10735-10739 (1991);Rowley, J.D., Annu. Rev. Genet., 96, 496-519 (1998);Huntsman, D.G., et al., Oncogene, 18, 7975-7984 (1999))。MLLとMLL4の間には高く保存された領域があるため、類似の可能性をMLL4遺伝子に対しても当てはめることができるが、MLL4遺伝子を含んでいる染色体の領域が白血病における転座に関連してはいるとの報告はなされていない。
【0010】
このように、HBV−DNAがヒト肝細胞の腫瘍形成に関係していると考えられるにもかかわらず、肝臓癌を引き起こすヒト染色体へのHBV−DNAの組込み位置についての情報は少なく、そのため、HBVに起因する肝臓癌を高確率で検出することができない。このことから、HBVに起因する肝臓癌におけるヒト染色体へのHBV−DNAの組込み位置の特定が求められている。
【非特許文献1】Mitelman, F., et al., Nat.Genet.,15,417-474 (1997)
【非特許文献2】Curtis,L.J.,et al., Genomics,53, 42-55 (1998)
【非特許文献3】Ferbus,D, et al., Int.J.Cancer, 80,369-372 (1999)
【非特許文献4】Marchio,a., et al., Genes Chromosom. Cancer, 18,59-65 (1997)
【非特許文献5】Urashima, T.,et al., J.Hepatol., 26, 771-778 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、腫瘍の疑いのある肝臓組織におけるMLL4遺伝子へのHBV−DNAの組込み位置及び17番染色体と19番染色体間の転座を特定し、それにより組織の腫瘍性を示唆する一例として肝臓癌を効果的に検出できる方法及びそれに用いるキットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明者らは、腫瘍を示唆する選択的なHBV−DNAの組込みの新規標的遺伝子を特定することを試みた。さらに、特定遺伝子への組込み又はその結果生じる可能性のある融合物を検出することにより、検体提供患者が当該特定遺伝子の機能異常に関連した肝癌であること又は将来肝癌になる可能性があることを検出する方法論の確立を目的として研究を重ね、以下の知見を得た。
(1) HBs抗原陽性を呈する10名の肝細胞癌患者の肝腫瘍組織からDNAを抽出し、HBV−DNA特異的なプライマーを用いたアダプターライゲーション/サプレッションPCR法(Siebert,P.D., et al., Nucleic Acids Res., 23, 1087-1088 (1995)) を行った。アダプターライゲーション/サプレッションPCR法は、プライマーに対応する特定塩基配列を、その特定塩基配列が挿入された周辺部位とともに増幅できる方法であり、上記操作により、腫瘍組織から抽出されたDNAへのHBV−DNAの組込み部位を特定できる。
【0013】
この結果、肝細胞癌10検体中7検体においてHBV−DNA組込みが検出され、そのうち4検体において、MLL4遺伝子のイントロン3へのHBV−DNAの組込みが確認された。
【0014】
このことから、MLL4遺伝子のイントロン3へのHBV−DNAの組込みを検出することにより、HBV感染による肝臓癌を検出できると考えられる。
(2) MLL4遺伝子のイントロン3へのHBV−DNAの組込みが確認された4検体のDNAでは、C末端を除くHBVのXタンパク質のコード領域とHBVのプロモーター領域とが含まれていた。このことから、HBVのX遺伝子(HBx)とMLL4との融合転写産物が存在することが予測される。実際にRT−PCRを行った結果、HBx−DNAの挿入により読み枠がずれてMLL4遺伝子の途中にストップコドンが生じた融合転写産物と、読み枠がずれておらずMLL4遺伝子の途中にストップコドンが入らない融合転写産物とが生じていた。
【0015】
このことから、HBx−DNAとMLL4遺伝子との融合転写産物を検出することにより、HBV感染による肝臓癌を検出できると考えられる。
(3) HBx−DNAのMLL4のイントロン3への組込みが確認された4検体について、肝腫瘍組織及びそれに隣接する非腫瘍組織から全タンパク質を調製し、抗HBxモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロッティング及び免疫沈降産物の検出を行った。この結果、腫瘍組織で見られ非腫瘍組織には見られないバンド又は免疫沈降産物が検出された。
【0016】
このことから、抗HBxモノクローナル抗体又はMLL4のイントロン3とHBVのXの各領域との融合タンパク質に対するモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロッティング又は免疫沈降反応等を用いて、HBV−MLL4の融合タンパク質を検出することにより、HBV感染による肝臓癌を検出できると考えられる。
【0017】
(4) HBs抗原陽性10検体を含む、抗HBc抗体陽性を呈する肝細胞癌組織検体の26検体について、MLL4のイントロン3(19番染色体長腕)に対応するプライマーと17番染色体短腕に対応するプライマーとを用いたPCRを行うことにより、22検体から、MLL4のイントロン3(19番染色体長腕)と17番染色体短腕との間の染色体転座が検出された。
【0018】
このことから、PCRで、MLL4のイントロン3(19番染色体長腕)と17番染色体短腕との間の染色体転座を検出することにより、HBV感染による肝臓癌を高確率で検出できると考えられる。
(5) これらの結果は、MLL4のイントロン3が発癌に関連したHBVの組込みに対する選択的な標的のうちの1つであることを強く示唆している。また、この領域での染色体の再構成が肝臓の腫瘍形成と病因学な関連がある可能性もある。
【0019】
本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下の検出方法及び検出用キットを提供する。
【0020】
項1. ヒト検体から単離された腫瘍の疑いのある肝臓組織から、組織の腫瘍性を示唆するMLL4遺伝子へのHBV−DNAの組込みを検出する方法。
【0021】
項2. 上記肝臓組織のDNAについてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、増幅したDNAの塩基配列を決定して、MLL4遺伝子中にHBV−DNAが組込まれたことを確認することにより、MLL4遺伝子へのHBV−DNAの組込みを検出する項1に記載の方法。
【0022】
項3. MLL4遺伝子のイントロン3中にHBV−DNAのX遺伝子を含む領域が組込まれたことを確認する項2に記載の方法。
【0023】
項4. MLL4遺伝子のイントロン3へのHBV−DNAの組込みを検出する項1に記載の方法。
【0024】
項5. MLL4遺伝子のイントロン3の5’末端から第17515番目から第17818番目の塩基までの領域へのHBV−DNAの組込みを検出する項4に記載の方法。
【0025】
項6. HBV−DNAがHBVのX遺伝子を含む領域である項1、4又は5に記載の方法。
【0026】
項7. 以下の工程を含む方法により、ヒト検体から単離された腫瘍の疑いのある肝臓組織から、組織の腫瘍性を示唆するMLL4遺伝子へのHBV−DNAの組込みを検出する方法;
(1) 上記肝臓組織からDNAを抽出する工程、
(2) (1)で得られたDNAを鋳型として、MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的な第1のプライマーとHBVのX遺伝子領域に特異的な第1のプライマーとを用いてPCRを行う工程、
又はさらに、
(3) (2)で増幅されたDNAを鋳型として、MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的な第2のプライマーとHBVのX遺伝子領域に特異的な第2のプライマーとを用いてPCRを行う工程
項8. MLL4遺伝子とHBVとの融合転写産物を検出することにより、MLL4遺伝子へのHBV-DNAの組込みを検出する項1及び4〜6のいずれかに記載の方法。
【0027】
項9. MLL4遺伝子とHBVのX領域との融合転写産物を検出する項8に記載の方法。
【0028】
項10. MLL4とHBVとの融合タンパク質を検出することにより、MLL4遺伝子へのHBV-DNAの組込みを検出する項1及び4〜6のいずれかに記載の方法。
【0029】
項11. MLL4とHBVのX領域との融合タンパク質を検出する項10に記載の方法。
【0030】
項12. MLL4とHBVのX領域との融合タンパク質に特異的に結合する抗体又は抗体断片を用いる項10又は11に記載の方法。
【0031】
項13. ヒト検体から単離された腫瘍の疑いのある肝臓組織から、組織の腫瘍性を示唆する、MLL4遺伝子のt(17;19)(p11.2;q13.1)における染色体転座を検出する方法。
【0032】
項14. 17番染色体と19番染色体との接合部を含む塩基配列を検出することにより、MLL4遺伝子のt(17;19)(p11.2;q13.1)における染色体転座を検出する項13に記載の方法。
【0033】
項15. 以下の工程を含む方法により、17番染色体と19番染色体との接合部を含む塩基配列を検出する項14に記載の方法;
(1) 上記肝臓組織からDNAを抽出する工程
(2) 得られたDNAを鋳型として、17番染色体p11.2を含む領域に特異的な第1のプライマーと、19番染色体q13.1のMLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的な第1のプライマーとを用いてPCRを行う工程
(3) 増幅されたDNAを鋳型として、17番染色体p11.2を含む領域に特異的な第2のプライマーと、19番染色体q13.1のMLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的な第2のプライマーとを用いてPCRを行う工程
項16. MLL4遺伝子へのHBV−DNAの組込みを検出するためのキット。
【0034】
項17. MLL4遺伝子のイントロン3へのHBV−DNAの組込みを検出するためのキット。
【0035】
項18. MLL4遺伝子のイントロン3へのHBVのX領域の組込みを検出するためのキット。
【0036】
項19. MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的なプライマー又はプローブと、HBVのX領域に特異的なプライマー又はプローブとを備える項18に記載のキット。
【0037】
項20. MLL4遺伝子とHBVのX領域との融合転写産物を検出するためのキット。
【0038】
項21. MLL4とHBVのX領域との融合タンパク質を検出するためのキット。
【0039】
項22. MLL4とHBVのX領域との融合タンパク質に特異的に結合する抗体又は抗体断片を備える項21に記載のキット。
【0040】
項23. MLL4遺伝子のt(17;19)(p11.2;q13.1)における染色体転座を検出するためのキット。
【0041】
項24. MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的なプライマー又はプローブと、17番染色体p11.2を含む領域に特異的なプライマー又はプローブとを備える項23に記載のキット。
【0042】
項25.MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的なプライマーとして配列番号:12で示されるプライマーを用い、HBVのX遺伝子領域に特異的なプライマーとして配列番号:4で示されるプライマーを用いる項7に記載の方法。
【0043】
項26.MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的な第1のプライマーとして配列番号:8で示されるプライマーを用い、HBVのX遺伝子領域に特異的な第1のプライマーとして配列番号:14で示されるプライマーを用い、又はさらに、MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的な第2のプライマーとして配列番号:9で示されるプライマーを用い、HBVのX遺伝子領域に特異的な第2のプライマーとして配列番号:14で示されるプライマーを用いる項7に記載の方法。
【0044】
項27.17番染色体p11.2を含む領域に特異的な第1のプライマーとして配列番号:20で示されるプライマーを用い、19番染色体q13.1のMLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的な第1のプライマーとして配列番号:8で示されるプライマーを用い、17番染色体p11.2を含む領域に特異的な第2のプライマーとして配列番号:21で示されるプライマーを用い、19番染色体q13.1のMLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的な第2のプライマーとして配列番号:9で示されるプライマーを用いる項15に記載の方法。
【発明の効果】
【0045】
本発明方法及びキットによれば、肝臓癌の疑いがあるヒト、特に、HBVに感染、又は/及び慢性肝炎や肝硬変などのヒトから採取された肝臓組織のDNAについて、MLL4遺伝子へのHBV−DNAの組込みをPCR法で検出することができ、これにより、肝細胞組織の腫瘍性変化の示唆に基づきその有無を検出することができる。
【0046】
また本発明方法及びキットによれば、上記DNAについて、MLL4遺伝子にHBV−DNAが組込まれた融合物、より詳しくは、MLL4遺伝子にHBVのX遺伝子領域を含むDNAが組込まれた融合物、融合転写産物又は融合タンパク質を検出することができ、これにより腫瘍化に関する遺伝子診断を行うことができる。また、これらの融合産物は、慢性肝炎・肝硬変などの肝臓疾患患者における遺伝子の組込みと癌化との関連についての研究に利用できる。
【0047】
さらに本発明方法及びキットによれば、上記のDNAについて、MLL4遺伝子のt(17;19)(p11.2;q13.1)における染色体転座を検出することができ、これにより腫瘍化に関する遺伝子診断を行える。また、本発明方法及びキットは、遺伝子再構成関連遺伝子の機能と細胞の癌化、特に肝細胞の癌化との係わりについての研究に利用できる。
【0048】
以上より、本発明方法及びキットは、ヒト慢性肝炎・肝硬変患者、或いはアルコール性肝障害、ウィルソン病のような代謝性疾患に基づく肝障害患者、ヘモクロマトーシス、アフラトキシンのような化学物質暴露による肝障害患者、自己免疫性肝炎などに罹っている患者などの疾患における肝臓組織の腫瘍性の発症機序の解明、特に肝細胞癌の発症機序の解明、組織の腫瘍性の把握、診断および予防に有用な情報及び手段を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】HBV組込み部位を検出するためのアダプター・ライゲーション/サプレッション−PCR及び特異的PCRの結果を示す図面である。
【0050】
第1図aは、アダプター・ライゲーション/サプレッション−PCRのプロトコール図面である。
【0051】
第1図bは、アダプター・ライゲーション/サプレッション−PCRによるHBV/細胞内DNAジャンクションのスクリーニングの結果を示す図面である。
【0052】
第1図cは、特異的プライマーでのMLL4遺伝子の中へのHBV−DNA組込みのPCRコンホメーションを示す図面である。
【図2】HBV組込み部位周辺の配列を示す図面である。
【図3】4つの組込まれたHBVゲノムの分析結果を示す図面である。
【図4】HBx−MLL4融合転写産物のRT−PCR分析の結果を示す図面である。
【図5】肝細胞癌患者検体におけるHBx融合タンパク質の免疫検定結果を示す図面である。
【図6】MLL4のイントロン3の遺伝子座における相互転座を示す図面である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0054】
本発明は、MLL4遺伝子の特定領域へのHBV−DNAの組込み、特にMLL4遺伝子へのHBVのX遺伝子領域の組込みと慢性肝炎又は肝硬変の病歴を有する肝細胞癌患者の組織の腫瘍性の示唆とが関連しているという事実、19番染色体上にあるMLL4遺伝子と17番染色体の転座と慢性肝炎又は肝硬変の病歴を有する肝細胞癌患者の組織の腫瘍性の示唆とが関連しているという事実、さらにこれらの事実に基づく、MLL4遺伝子の特定位置におけるDNAの組込み又は遺伝子の転座を検出することにより肝細胞癌などの発症リスクを判定(予測診断)できるという事実の発見に基づいて完成されている。
【0055】
本明細書におけるアミノ酸、ペプチド、塩基配列、核酸等の略号による表示は、IUPAC−IUBの規定〔IUPAC-IUB Communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138: 9 (1984)〕、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(特許庁編)及び当該分野における慣用記号に従う。
(I)MLL4遺伝子へのHBV−DNAの組込みの検出方法
本発明の第1の検出方法は、ヒト検体から単離された腫瘍の疑いのある肝臓組織から、組織の腫瘍性を示唆するMLL4遺伝子へのHBV−DNAの組込みを検出する方法である。
対象
本発明の第1の検査方法の対象となるヒトは、特に限定されず、健常人又は肝疾患などの疾患に罹っているヒトのいずれであってもよい。中でも肝細胞癌に進行しやすい疾患である慢性肝炎、肝硬変、アルコール性肝障害、ウィルソン病のような代謝性疾患に基づく肝障害、ヘモクロマトーシス、アフラトキシンのような化学物質暴露による肝障害、自己免疫性肝炎などに罹っているヒトが好適な対象である。また、肝臓癌に罹っているヒトについて本発明の検査方法を行うことにより、HBV感染による肝臓癌であることを確認することもできる。
MLL4遺伝子
本明細書中に示されるヒトMLL4遺伝子のゲノム配列は、ヒューマン・ゲノム・センター(Human Genome Center)のラメルジン(Lamerdin, J.E.)らによってGenBankアクセッション番号:AD000671として報告された全長46,251塩基長(bp)の遺伝子のゲノム配列に従う。配列番号:1に、全長46,251塩基長(bp)のヒトMLL4遺伝子(AD000671)の第15295〜17983番目の塩基の領域で示されるエクソン3からエクソン4の塩基の配列を示す。
【0056】
MLL4のゲノム配列から推定される遺伝子は、37個のエクソンからなり(FitzGerald,K.T.,and Diaz,M.O.,Genomics,59,187-192(1999))、それらの間にイントロンが存在する。またMLL4のゲノム配列から推定される遺伝子は、固形腫瘍において頻繁な再配置または増幅が報告されている19番染色体長腕13.1(19q13.1)上に局在しており、多くの染色体転座と白血病とに関連しているMLL遺伝子類似のTRX/MLL遺伝子ファミリーのヒトメンバーである。
【0057】
第2図b、第3図c、第4図b、及び第6図中には、MLL4のイントロン3/エクソン4領域を含む配列が示されており、第6図中には19番染色体上のMLL4遺伝子のDNA配列と17番染色体との相互転座がDNA配列の挿入図として示されている。
HBV−DNA
本明細書中に示されるヒトB型肝炎ウィルス(HBV)のゲノム配列は、自治医科大学のオカモトらによって報告されたGenBankアクセッション番号:AB033550として報告された全長3,215塩基長(bp)の遺伝子の塩基配列に従う。
【0058】
また、本発明において、MLL4遺伝子への組込みが確認されたHBV−DNAの領域であるX遺伝子領域は、前記GenBankアクセッション番号:AB033550の塩基番号1374-1838で示される465塩基長(bp)の領域である(配列番号:2)。この遺伝子領域は、155個のアミノ酸配列長からなるタンパク質をコードする。第3図aには、HBVの環状ゲノムが直線状にして示されている。
MLL4遺伝子へのHBV−DNAの組込み
第3図bには、本発明の実施例においてHBV−DNAの組込みが検出された4つの検体(HCC002(1051-1762)、HCC131(1824-1826)、HCC143(2974-1794)、HCC146(-1807:片側未確定)の染色体DNAに組込まれたHBVゲノムが示されている。HBVの組込みが確認された上記4検体においては、HCC131でのみHBVの全長が組込まれており、また4検体ともにX遺伝子のプロモーター領域及びC末端部分を除くコード領域が組込まれていた。
【0059】
従って、本発明方法においては、HBV−DNAのいずれかの部分のMLL4遺伝子への組込みを検出すればよく、中でもHBVのX遺伝子のプロモーター領域及びコード領域のいずれかの部分のMLL4遺伝子への組込みを検出することにより、一層高確率で肝臓癌など肝臓組織の腫瘍性についての検査を行うことができる。
【0060】
また第3図cに示されるように、上記4検体のMLL4遺伝子中のHBV−DNAが組込まれた位置は、全てイントロン3内であった。より詳しくは、検体番号HCC146はMLL4遺伝子の5’末端側から数えて17515番目の位置、HCC002はMLL4遺伝子の5’末端側から数えて17543番目の位置、HCC131はMLL4遺伝子の5’末端側から数えて17753番目の位置、HCC143はMLL4遺伝子の5’末端側から数えて17818番目の位置にHBV−DNAが組込まれていた。
【0061】
従って、本発明方法においては、MLL4遺伝子のイントロン3におけるHBV−DNAの組込みを検出することにより高確率で肝細胞癌を検査できる。中でも、MLL4遺伝子の5’末端側から17515〜17818番目の領域へのHBV−DNAの組込みを検出することにより、一層高確率で肝臓癌など肝臓組織の腫瘍性について検査できる。
DNAの調製
ヒト検体からのDNAの抽出は、検査対象となるヒトから単離された腫瘍の疑いのある肝臓組織からDNAを調製する。
【0062】
本発明において遺伝子は、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAを包含し、またその長さは何ら制限されない。従って、本発明の遺伝子(DNA)には、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNA、cDNAを含む1本鎖DNA(センス鎖)、該センス鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(アンチセンス鎖)、及びそれらの断片のいずれもが含まれる。本発明において遺伝子(DNA)とは、調節領域、コード領域、エクソン、イントロンを含む。ポリヌクレオチドとしては、RNA及びDNAを例示できる。DNAは、cDNA、ゲノムDNA、及び合成DNAを含み、特定アミノ酸配列を有するポリペプチドは、その断片、同族体、誘導体、及び変異体を含む。
【0063】
本発明の検査方法に用いられる遺伝子は、本発明により開示された遺伝子の具体例についての配列情報に基づいて、一般的遺伝子工学的手法により容易に製造・取得することができる〔Molecular Cloning 2d Ed, Cold Spring Harbor Lab. Press (1989);続生化学実験講座「遺伝子研究法I、II、III」、日本生化学会編(1986)など参照〕。
【0064】
具体的には、遺伝子が発現される適当な起源、本発明においては肝細胞癌に進行し易い疾患である慢性肝炎・肝硬変、アルコール性肝障害、ウィルソン病のような代謝性疾患に基づく肝障害、ヘモクロマトーシス、アフラトキシンのような化学物質暴露による肝障害、自己免疫性肝炎などに罹っている患者から得られる遺伝子を例示できる。好ましくはヒト慢性肝炎患者、肝硬変患者、肝細胞癌患者からのヒト組織から、単離されるDNAを調製すればよい。
【0065】
検体として、上記起源材料は、ヒト患者由来のDNAまたはゲノムDNAであるのが好ましい。これら起源材料からのRNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニングなどはいずれも常法に従って実施することができる。
【0066】
遺伝子を単離されたDNAや遺伝子の発現産物からスクリーニングする方法も、特に制限されず、例えば、遺伝子に特有の適当なプローブや抗体を用いて所望クローンを選択することにより、目的遺伝子を取得できる〔Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 78, 6613 (1981);Science, 222, 778 (1983)など〕。
【0067】
具体的には、例えばcDNAによって産生される蛋白質に対して、該蛋白質の特異抗体を使用した免疫的スクリーニングにより対応するcDNAクローンを選択する方法、目的のDNA配列に選択的に結合するプローブを用いたプラークハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーションやこれらの組合せなどを例示できる。
【0068】
起源材料からのMLL4にHBV−DNAが組込まれたDNAの抽出は、上記方法のほか、アダプターライゲーション/サプレッション−PCR法により行うことができる。即ち、起源材料からゲノムDNAを抽出した後、ゲノムDNAを制限酵素で消化し、平滑末端とした後、アダプター配列を該ゲノムDNA断片に連結させ、HBV配列に対して特異的プライマーとアダプター特異的プライマーとを加えて、1次PCR反応を行い、目的ゲノムDNA断片を増幅することができる(Siebert,P.D., et al., Nucleic Acids Res., 23, 1087-1088 (1995))。該ゲノムDNAは、Genomewalker kit:クローンテック(Clontech)社製を用いて取得できる。
【0069】
抽出した遺伝子は、遺伝子増幅法によって増幅させることができる。この増幅によれば、本発明検出方法における検出をより容易に且つ精度の高いものとすることができる。
【0070】
遺伝子増幅法の例としては、PCR法〔Science, 230, 1350 (1985)〕によるDNA/RNA増幅法が好適に利用できる。殊に、組織またはライブラリーから全長のcDNAが得られ難いような場合には、RACE法〔Rapid amplification ofcDNA ends;実験医学、12(6), 35 (1994)〕、特に5'-RACE法〔M.A. Frohman, et al., Proc. Natl. acad. Sci., USA., 8, 8998 (1988)〕などの採用が好適である。
【0071】
PCR法などで増幅させた遺伝子断片の単離精製は、常法、例えばゲル電気泳動法、カラム等により行うことができる。増幅産物の確認は例えばマススペクトル法等で行える。これらの方法により増幅させた遺伝子は、その増幅物の特性に応じて、本発明に係るMLL4遺伝子へのHBV−DNA遺伝子の組込みが存在するか否か、組込まれた融合物のDNA配列の決定、そのmRNAの量について分析できるかの検出に供される。
PCRによる組込みの検出
MLL4遺伝子のイントロン3へのHBVのX遺伝子の組込みを検出できる方法として、MLL4遺伝子のイントロン3にHBVのX遺伝子が組込まれた特定配列部分を特異的に検出するためのプライマーセットを用いたPCRを挙げることができる。
【0072】
スクリーニング用プライマーとしては、MLL4遺伝子又はHBV−DNA遺伝子に関する情報をもとにして化学合成されたDNAなどが一般的に使用できるが、既に取得された融合又は接合した遺伝子やその断片も良好に利用できる。また、遺伝子の塩基配列情報に基づき設定した遺伝子特異的フォワード・プライマー、リバース・プライマーをスクリーニング用プライマーとして用いることができる。
【0073】
このようなプライマーセットを用いたPCRとして、代表的には、MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的なプライマーと、HBVのX遺伝子に特異的なプライマーとを用いたPCRを挙げることができる。
【0074】
また、検出できる程度に増幅産物が得られない場合は、上記PCRの増幅産物を鋳型として、MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的なプライマーと、HBVのX遺伝子に特異的なプライマーとを用いた2次PCRを行うことにより検出感度を向上させることができる。
【0075】
具体的には、ヒト検体から単離された腫瘍の疑いのある肝臓組織から、組織の腫瘍性を示唆するMLL4遺伝子へのHBV−DNAの組込みを検出する方法の代表例として、以下の工程を含む方法が挙げられる。
(1) 上記肝臓組織からDNAを抽出する工程、
(2) (1)で得られたDNAを鋳型として、MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的な第1のプライマーとHBVのX遺伝子領域に特異的な第1のプライマーとを用いてPCRを行う工程、
又はさらに、
(3) (2)で増幅されたDNAを鋳型として、MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的な第2のプライマーとHBVのX遺伝子領域に特異的な第2のプライマーとを用いてPCRを行う工程を含む方法。
【0076】
これらの領域に特異的なプライマー(フォワード・プライマー及びリバース・プライマー)の配列は、MLL4遺伝子及びHBV−DNAの塩基配列に基づき、常法に従い適宜設計することができる。プライマーの長さは、特に限定されないが、通常10ヌクレオチド以上、好ましくは10〜50ヌクレオチド程度、より好ましくは10〜35ヌクレオチド程度、さらにより好ましくは15〜35ヌクレオチド程度とすればよい。
【0077】
具体的には、MLL4については、MLL4のイントロン3の10〜35ヌクレオチド程度、好ましくは15〜30ヌクレオチド程度の部分配列を認識してDNA合成を開始できるものであればよい。また、HBV−DNAについては、MLL4のイントロン3領域に挿入されたHBVのX遺伝子の配列の10〜35ヌクレオチド程度、好ましくは15〜30ヌクレオチド程度の部分配列を認識してDNA合成を開始できるものであってもよい。
【0078】
このようなプライマーは、常法により合成できる。例えば、ホスホルアミダイト法またはリン酸トリエステル法などの化学合成法により合成でき、また市販されている自動オリゴヌクレオチド合成装置、例えば(Pharmacia LKB Gene Assembler Plus:ファルマシア社製)などを使用して合成することもできる。二本鎖断片は、相補鎖を合成し、適当な条件下で該鎖を共にアニーリングさせるか、または適当なプライマー配列と共にDNAポリメラーゼを用い相補鎖を付加するかによって、化学合成した一本鎖生成物から得ることもできる。
【0079】
プライマー対の具体例を以下に挙げる。MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域にHBVのX遺伝子が組込まれた部分の前後のジャンクションをそれぞれ検出する場合には、以下の組合せを例示できる。
【0080】
MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域にHBVのX遺伝子が組込まれた部分の一方のジャンクションを検出する場合は、1次PCR反応用フォワード・プライマーとして配列番号8で示される671F1、リバース・プライマーとしては配列番号14で示されるMD26を例示でき、2次PCR反応用フォワード・プライマーとして配列番号9で示される671F2、リバース・プライマーとしては配列番号14で示されるMD26を例示することができる。ここで、2次反応は任意に行うことができる。
【0081】
また、MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域にHBVのX遺伝子が組込まれた部分の他方のジャンクションを検出する場合は、1次PCR反応用フォワード・プライマーとして配列番号4で示されるMD26c、リバース・プライマーとしては配列番号12で示される671R3を例示できる。ここで配列番号12で示される671R3に代えて、配列番号10で示される671R1又は配列番号11で示される671R2をリバース・プライマーとして用いてもよい。
【0082】
MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域にHBVのX遺伝子が逆方向に組込まれた場合の、組込み部分の前後のジャンクションをそれぞれ検出する場合には、以下の組合せを例示できる。
【0083】
MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域にHBVのX遺伝子が逆方向に組込まれた部分の一方の部分のジャンクションを検出する場合は、1次PCR反応用フォワード・プライマーとして配列番号8で示される671F1、リバース・プライマーとしては配列番号4で示されるMD26cを例示することができる。また、2次PCR反応用フォワード・プライマーとして配列番号9で示される671F2、リバース・プライマーとしては配列番号4で示されるMD26cを例示することができる。ここで、2次反応は任意に行うことができる。
【0084】
また、MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域にHBVのX遺伝子が逆方向に組込まれた部分の他方の部分のジャンクションを検出する場合は、1次PCR反応用フォワード・プライマーとして配列番号14で示されるMD26、リバース・プライマーとしては、配列番号12で示される671R3を例示できる。ここで671R3に代えて、配列番号10または11で示される671R1、671R2をリバース・プライマーにしてもよい。
プライマー対の好ましい組合せとしては、MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域にHBVのX遺伝子が組込まれた部分のジャンクションを検出する場合は、フォワード・プライマーとして配列番号4で示されるMD26cと、リバース・プライマーとして配列番号12で示される671R3との組み合わせを例示できる。また、MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域にHBVのX遺伝子が逆向きに組込まれた場合のジャンクションを検出する場合は、フォワード・プライマーとして配列番号8で示される671F1と、リバース・プライマーとして配列番号4で示されるMD26cとの組み合わせを好ましく例示できる。
PCR増幅産物の検出・同定
上記PCRによりDNAが増幅したことは、例えばアガロースゲル電気泳動などにより検出することができ、これによりMLL4遺伝子のイントロン3へのHBVのX遺伝子の組込みを検出できる。
【0085】
さらに、この増幅産物をアガロースゲルから切り出されたバンドから抽出して、その塩基配列を決定することにより、MLL4遺伝子中にHBV−DNAが組込まれたことを確認してもよい。
【0086】
DNAの塩基配列の決定は、常法、例えばジデオキシ法〔Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 74, 5463 (1977)〕やマキサム−ギルバート法〔Methods in Enzymology, 65, 499 (1980)〕などに従って行うことができる。また市販のシークエンスキットなどを用いれば、簡便に塩基配列を決定できる。
融合転写産物の検出
MLL4遺伝子とHBVのX遺伝子との融合転写産物を検出することによっても、MLL4遺伝子へのHBV−DNAの組込みを検出することができる。MLL4とHBVのX遺伝子との融合転写産物としては、MLL4の全部又は一部とHBVのX遺伝子の全部又は一部との融合転写産物を検出すればよい。
【0087】
かかる検出は常法に従って行うことができ、例えばRT−PCR〔Reverse Transcribed-Polymerase Chain Reaction; E.S. Kawasaki, et al., amplification of RNA. In PCR Protocol, a guide to methods and applications, AcademicPress,Inc.,SanDiego, 21-27 (1991)〕によるRNA増幅、ノーザンブロッティング解析〔Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Lab. (1989)〕、in situRT−PCR〔Nucl. Acids Res., 21, 3159-3166 (1993)〕、 in situ ハイブリダイゼーション、サザンブロッティング[Sambrook, J., et al., MolecularCloning a Laboratory Manual. Cold Spring Harbor Laboratory Press:NY.(1989)]、蛍光in situ ハイブリダイゼーション[FISH:Takahashi E., et al.,Hum. Genet., 86, 1416 (1990)]]、競合的ゲノミック・ハイブリダイゼーション[Comparative Genomic Hybridization:CGH:Kallioneimi, A.,et al., Science, 258,818-821(1992)]、[Spectral karyotyping: SKY: Rowley,J.D.,et al.,Blood, 93, 2038-2042(1999)]、酵母人工染色体(YAC)ベクターのクローンをプローブとする方法[Lengauer, C., et al., Cancer Res., 52, 2590-2596(1992)]などを利用した細胞レベルでの測定、NASBA法〔Nucleic acid sequence-based amplification, Nature, 350, 91-92 (1991)〕及びその他の各種方法を挙げることができる。好適には、RT−PCRによる検出法を挙げることができる。
【0088】
RT−PCRによりMLL4遺伝子とHBVのX遺伝子との融合転写物を検出する場合は、MLL4遺伝子を含む領域に特異的なプライマーと、HBVのX遺伝子に特異的なプライマーとのセットを用いればよい。
【0089】
RT−PCRのプライマーの長さは、上記説明したPCRの場合と同様である。MLL4遺伝子を含む領域に特異的なプライマー、及びHBVのX遺伝子に特異的なプライマーについても上記説明したPCRの場合と同様である。
【0090】
RT−PCRに用いる好ましいプライマーセットの具体例としては、フォワード・プライマーとして配列番号4で示されるMD26cと、リバース・プライマーとして配列番号15で示されるE5−1とのセットや、フォワード・プライマーとして配列番号13で示されるMD24と、リバース・プライマーとして配列番号16で示されるE5−2又は配列番号17で示されるE6−2とのセットを挙げることができる。中でも、フォワード・プライマーが配列番号4で示されるMD26cであり、リバース・プライマーが配列番号15で示されるE5−1であるセットが好ましい。
【0091】
RT−PCRにより得られた増幅産物は、アガロースゲル電気泳動により検出することができ、これによりMLL4遺伝子へのHBVのX遺伝子の組込みを判定できる。さらに、増幅産物の塩基配列を決定して、MLL4遺伝子とHBVのX遺伝子との融合転写産物が生成していたことを確認することもできる。
【0092】
このようにして、DNAレベル又は転写産物レベルでMLL4へのHBV−DNAの組込みが確認された場合に、組織の腫瘍性を示唆する一例として肝臓癌の存在が陽性であると判定される。
融合タンパク質の検出
MLL4とHBVとの融合タンパク質、好ましくはMLL4とHBVのX領域との融合タンパク質を検出することによっても、MLL4遺伝子へのHBVの組込みを検出することができる。MLL4とHBVのX領域との融合タンパク質は、MLL4の全部又は一部とHBVのX領域の全部又は一部との融合タンパク質であればよい。
【0093】
上記検出は、MLL4とHBVのX領域とからなる融合タンパク質に特異的に結合する抗体を用いた免疫学的なアッセイにより行える。抗体には抗体断片も含まれる。
【0094】
抗体の製造法自体は、当業者によく理解されており、本発明においてもこれら常法に従うことができる〔例えば、続生化学実験講座「免疫生化学研究法」、日本生化学会編(1986)など参照〕。
【0095】
かかる免疫学的アッセイとしては、ウェスタンブロット、免疫組織学的アッセイ及びELISAアッセイなどの当該分野で知られた方法を制限なく使用できる。
【0096】
ELISAによる融合タンパク質の検出方法の1例を詳しく説明すると、MLL4とHBVとの融合タンパク質を有することが予測される被検細胞を溶解し、全タンパク質を抽出した後、融合タンパク質又はHBVのXタンパク質に対するモノクローナル抗体と共にインキュベートし、免疫沈降法により、免疫沈降させた後、ペルオキシダーゼで標識した抗マウスIgGウマ抗体と共にインキュベートする。このようにして抗体の結合によるシグナルを視覚化することができる。該抗原結合シグナルは、ECLウェスタン・ブロッティング検出システム(ECL Western Blotting Detection System:Amersham Biosciences社製)を用いて電気泳動ゲル上に検出できる。
【0097】
ウエスタンブロット法におけるMLL4とHBV融合タンパク質の検出の1例として、第5図には、本発明の実施例において、各種サイズ(kDa)のMLL4とHBVとの融合タンパク質が検出されたことが示されている。
【0098】
この方法により融合タンパク質、ひいてはHBVの組込みが検出された場合に、組織の腫瘍性を示唆する一例として肝臓癌の存在が陽性であると判定される。
(II)MLL4遺伝子における転座の検出方法
本発明の第2の検出方法は、ヒト検体から単離された腫瘍の疑いのある肝臓組織から、組織の腫瘍性を示唆する、MLL4遺伝子のt(17;19)(p11.2;q13.1)における染色体転座を検出する方法である。
【0099】
第2の方法の好適な対象となるヒト及びヒト検体のDNAの調製方法については第1の方法と同様である。
17番染色体

17番染色体の染色体17p11.2の位置上に表されるゲノム配列は、ホワイトヘッド研究所(Whitehead Institute)のビレン(Birren,B)らによって報告されたGenBankアクセッション番号:AC087294として報告された全長177,017塩基長(bp)のクローンのゲノム配列に従う。17番染色体の第24481〜25200番目の塩基からなる領域の塩基配列を配列番号:3に示す。
PCRによる転座の検出 MLL4遺伝子のt(17;19)(p11.2;q13.1)における染色体転座を検出する方法の好適な具体例としては、17番染色体p11.2を含む領域に特異的なプライマーと、19番染色体の長腕q13.1上に存在するMLL4遺伝子を含む領域に特異的なプライマーとを用いたPCRを行い、増幅産物を検出する方法が挙げられる。MLL4遺伝子を含む領域に特異的なプライマーは、MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的なプライマーであることが好ましい。
【0100】
転座の検出は感度が低いため、1次PCR産物に対して、17番染色体p11.2を含む領域に特異的なプライマーと、19番染色体の長腕上に存在するMLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的なプライマーとのセットを用いた2次PCRを行うことが望ましい。2次PCRで用いるプライマーは、通常、1次PCRにより増幅される領域の内側の領域を増幅できるように設定すればよい。
【0101】
プライマーの好適な例としては、19番染色体上のMLL4遺伝子と17番染色体との接合部近辺のMLL4遺伝子の領域に特異的であるように設定されたDNAに対応する部分ヌクレオチドであって、少なくとも10個以上、好ましくは少なくとも15〜30個程度の連続した塩基を有するものを挙げることができる。他方のプライマーの好適な例としては、19番染色体上のMLL4遺伝子と17番染色体との接合部近辺の17番染色体の領域に特異的であるように設定されたDNAに対応する部分ヌクレオチドであって、少なくとも10個以上、好ましくは少なくとも15〜30個程度の連続した塩基を有するものを挙げることができる。
【0102】
ここで特異的とは、本発明の第1の検出方法の場合と同様に、当該部分を認識してDNA合成を開始できることをいう。
【0103】
より具体的には、19番染色体から17番染色体方向の転座を検出するために、1次PCR反応用フォワード・プライマーとしてMLL4遺伝子特異的プライマーの配列番号:8で示されるプライマー671F1、リバース・プライマーとしては、17q特異的プライマーの配列番号20で示される17−1を例示できる。17番染色体から19番染色体方向の転座を検出するために、2次PCR反応用フォワード・プライマーとしてMLL4遺伝子特異的プライマーの配列番号9で示される671F2、リバース・プライマーとしては17q特異的プライマーの配列番号21で示される17−2を例示することができる。
【0104】
また1次PCR反応用フォワード・プライマーとしてMLL4遺伝子特異的プライマーの配列番号:8で示されるプライマー671R1、リバース・プライマーとしては、17q特異的プライマーの配列番号18で示される17R1を例示できる。17番染色体から19番染色体方向の転座を検出するために、2次PCR反応用フォワード・プライマーとしてMLL4遺伝子特異的プライマーの配列番号11で示される671R2、リバース・プライマーとしては17q特異的プライマーの配列番号19で示される17R2を例示することができる。
【0105】
本発明方法により、上記の転座が検出された場合に、組織の腫瘍性を示唆する一例として肝臓癌の存在が陽性であると判定する。
【0106】
上記説明した本発明の検出方法によれば、19番染色体上にあるMLL4遺伝子と17番染色体との転座を検出でき、これによって、ヒト慢性肝炎・肝硬変などの患者検体から単離された腫瘍の疑いのある肝臓組織から組織の腫瘍性(例えば肝細胞癌)の把握における肝細胞癌の発症機序の解明、組織の腫瘍性の把握、診断および予防に有用な情報及び手段を与えることができる。
(III)検出用キット
本発明の第1の検出用キットは、MLL4遺伝子、特にそのイントロン3へのHBV−DNA、特にHBVのX遺伝子の組込みを検出するための検出用キットである。
【0107】
DNAレベルで上記組込みを検出する場合、具体的には、MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的なプライマー及びHBVのX遺伝子に特異的なプライマーを備えるキットが挙げられる。プライマーは前述した通りである。
【0108】
このキットに含まれるプライマーセットの好ましい例としては、配列番号10、11または12で示される塩基配列の一部または全てを認識してDNA合成を開始できるDNA断片と、配列番号4で示される塩基配列の一部または全てを認識してDNA合成を開始できるDNA断片とのセットが挙げられる。また、配列番号14で示される塩基配列の一部または全てを認識してDNA合成を開始できるDNA断片と、配列番号8又は9で示される塩基配列の一部または全てを認識してDNA合成を開始できるDNA断片とのセットが挙げられる。
【0109】
上記検出用キットは、PCRに必要なその他の成分を含んでいても良い。このような他の成分として、標識剤、TaqDNAポリメラーゼ、デオキシヌクレオチド三リン酸、DNA増幅用2次プライマーなどが挙げられる。標識剤としては、放射性同位元素又は蛍光物質などの化学修飾物質などが挙げられるが、DNA断片自身が予め該標識剤でコンジュゲートされていてもよい。更に、本発明の検査用キットには、測定の実施の便益のために適切な反応希釈液、標準抗体、緩衝液、洗浄剤、反応停止液などが含まれていてもよい。
【0110】
また、MLL4遺伝子へのHBV−DNAの組込みを、MLL4遺伝子とHBVのX遺伝子との融合転写産物を検出するためのキットを用いて検出することもできる。代表的には、RT−PCRにより融合転写産物を検出するためのキットとして、上記説明したDNAレベルで組込みを検出するためのプライマー又はプローブセットを備えるキットを例示できる。
【0111】
このRT−PCRの好適なプライマーセットとしては、配列番号4で示される塩基配列若しくはそれに相補的な塩基配列を認識してDNA合成を開始できるプライマーと、配列番号15若しくはそれに相補的な塩基配列を認識してDNA合成を開始できるプライマーとのセットが挙げられる。
【0112】
また前述したように、MLL4遺伝子へのHBV−DNAの組込みは、MLL4とHBVのX領域との融合タンパク質を検出することによっても、検出できる。この場合の検出用キットは、MLL4とHBVのX領域との融合タンパク質又はHBVのX領域を特異的に認識する抗体又は抗体断片を備えていればよい。このような抗体については前述した通りである。このキットはさらに、ウェスタンブロッティング、免疫組織学的アッセイ又はELISAなどの使用方法に応じた必要成分を含んでいてよい。
【0113】
また本発明の第2の検出用キットは、MLL4遺伝子のt(17;19)(p11.2;q13.1)における染色体転座を検出するためのキットである。このキットとしては、例えば、MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的なプライマーと、17番染色体p11.2を含む領域に特異的なプライマーとを備えるものが挙げられる。プライマーについては前述した通りである。
【0114】
好適なプライマーセットの例としては、1次PCR反応用として配列番号:8で示される塩基配列若しくはその相補的配列の一部又は全部を認識してDNA合成を開始できるプライマーと、配列番号20で示される塩基配列もしくはその相補的塩基配列の一部または全てを認識してDNA合成を開始できるプライマーとのセットが挙げられる。またこのキットは望ましくは2次PCR反応用プライマーセットを含み、2次PCR用プライマーセットとしては、17番染色体から19番染色体方向の転座を検出するために、配列番号:9で示される塩基配列もしくはその相補的塩基配列の一部または全てを認識してDNA合成を開始できるプライマーと、配列番号21で示される塩基配列もしくはその相補的塩基配列の一部または全てを認識してDNA合成を開始できるプライマーとのセットが挙げられる。このキットにも、PCRに必要な他の成分や、測定の便宜のための試薬が含まれていてよい。
実施例
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0115】
(a)肝細胞検体の組織的、血清学的検査
千葉大学病院第二外科において1987年から2003年までの間に得られた、26人の日本人患者由来の切除肝腫瘍組織(hepatocellular carcinoma: HCC)を用いて、以下の実験を行った。これらの患者には術前の治療は施されていない。
【0116】
各検体の提供患者については、臨床的、組織的な検査、及び血清学的な検査を行った。組織的な検査としては、腫瘍のサイズ、腫瘍細胞の分化の程度(3段階)、及び肝臓の疾患の種類(慢性遷延性肝炎:CPH、慢性活動性肝炎:CAH、及び肝硬変:LC)を調べた。血清検査としては、ダイナボット社(Dinabot)のEIA(Enzyme Immuno Assay)キットを用いたB型肝炎表面抗原:HbsAg(Hepatitis B surface antigen)の検出、RIA(Radio Immuno Assay)キットを用いた抗HBs抗体(antibody against the Hepatitis B surface antigen)の検出及び抗HBc抗体(antibody against the Hepatitis B core antigen)の検出をそれぞれ行った。さらに、オーソダイアグノスティックシステムズ社(Ortho Diagnostic Systems)のリコンビナント・イムノブロット・アッセイ(recombinant immunoblot Assay)を用いて、HCVリコンビナント抗原 c25、c33c及びNS5を標的抗原とした抗HCV抗体(antibody against the Hepatitis C)について調べた。
【0117】
結果を以下の表1に示す。表1中、HBsAgはB型肝炎表面抗原を示し、Anti−HBsはB型肝炎表面抗原に対する抗体を示し、Anti−HBcはB型肝炎コア抗原を示し、Anti−HCVはC型肝炎(c25、c33c及びNS5)に対する抗体を示す。modは中程度に分化したHCCを示し、poorは余り分化していないHCCを示し、wellはよく分化したHCCを示す。CPHは慢性持続性肝炎、CAHは慢性活動性肝炎、LCは肝硬変をそれぞれ示す。また、HBV−DNAの検出は、HBxに特異的なプライマーMD24及びMD26を用いた単独のPCRにより行った。
【0118】
これらの試料を実験に用いるにあたっては、ヘルシンキ宣言(1975)の定める倫理指針に従い、また、千葉大学医学部の倫理審査委員会の承認を受けている。
【0119】
【表1】

【0120】
(b)アダプターライゲーション/サプレッションPCR法によるHBV組込み部位の増幅
<PCR>
各検体からのDNAは過去に報告された方法に従い抽出した(Urashima T, et al., J Hepatology 1997; 26: 771-778)。先ず、血清検査の結果、HbsAg陽性であった患者から提供された10検体について以下の実験を行った。これら各検体由来のDNAについて、クローンテック社のGenomewalker kitを用いて、アダプターライゲーション/サプレッションPCR法(Siebert PD, et al., Nucleic Acids Res 1995; 23: 1087-1088)を実施し、HBVのヒトゲノム内への組込み部位(HBV/cellular DNA junctions)の周辺配列を増幅した。
【0121】
以下に、第1図aを参照しながら詳細なアダプター・ライゲーション/サプレッション−PCRの流れを示す。2.5μgのゲノムDNAを制限酵素DraI、PvuII、EcoRV、及びScaI(Life Technologies社製)等で消化し、DNA断片の両端に生じた平滑断端(blunt end)にアダプター配列を連結させた(ライゲーション)。上記の処理を施したゲノム断片と、0.2mM dNTPs、 10pmol の配列番号:4で示されるHBVプライマー(MD26c)、 1Xバッファー (native Taq buffer, Invitogen)、 4% グリセロール、1 unit Taq (native Taq, Invitogen社製) 及び0.04 unit Vent DNA polymerase (New England Biolabs)とを含む50μlの反応液を準備し、PCR反応前に80℃で3分間加熱した。次いで、この溶液に、2.5mM MgCl2及び10pmolの配列番号:6で示されるアダプター特異的プライマー(AP-1)を加え、94℃で1分間反応させた。
【0122】
続いてPCR反応に入るが、特異性を上げるために、過去の報告例を参考にしてタッチダウンPCR法を用いた(Chami M, et al., Oncogene 2000; 19: 2877-2866)。
【0123】
94℃で30秒間処理、65℃で30秒間処理、70℃で3分間処理を1サイクルとして、2サイクル毎にアニーリング温度を1℃づつ下げる方法で、最初の20サイクルを反応させた。続けて、20サイクル目の反応条件(94℃で30秒間処理、55℃で30秒間処理、70℃で3分間処理)で固定して、さらに20サイクルの反応を行った。さらに、最後のサイクルに続けて70℃で7分間反応させて1次PCR増幅産物を得た。
【0124】
この増幅産物をQIAGEN社のQIAquick PCR purification kitを用いて精製し、1/50量をテンプレートとして用い、10pmol HBVプライマーを配列番号:5で示されるMX2、アダプター特異的プライマーを配列番号:7で示されるAP−2に変えて、同様の手順で2次PCR(nested PCR)を行った。
【0125】
以上の操作によって得られた最終増幅産物を1.2%アガロースゲル上で電気泳動した。その結果を第1図b及び第1図cに示す。
各図は、2次PCR増幅後のアダプター・ライゲーション/サプレッション−PCRの代表的なアガロースゲルを示す。第1図bのレーン1−5におけるPCR産物は、PvuII消化されたアダプター・ライゲートされたDNAライブラリーから得られた。レーン1−6は、HCC9907、HCC002、HCC003、HCC143、HCC146、およびネガティブPCRコントロール(DNAなし)をそれぞれ示す。レーンMは、1kbDNAサイズマーカー(ライフ・テクノロジーズ社製)を表示している。
【0126】
第1図cは、特異的プライマーを用いたMLL4遺伝子の中へのHBV−DNA組込みのPCRコンホメーションを示す。該図は、HBx(MD26c:配列番号4)及びMLL4(19R1:配列番号10(671R1))に特異的なプライマーを用いた通常のPCRの代表的なアガロースゲルの結果を示す。
【0127】
レーン1−5は、HCC131、HCC143、HCC146、HCC002、およびネガティブPCRコントロール(DNAなし)をそれぞれ示す。レーンMは、1kbDNAサイズマーカー(ライフ・テクノロジーズ社製)を表示している。
<増幅DNAの塩基配列決定>
次いで、分離した個々のバンドを切り出して塩基配列を調べた。
【0128】
シークエンス反応は、広く一般的に用いられているアプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)社製のBigDye Terminator Cycle Sequencing kitを使って行い、ABI PRISM 3700 DNA analyzerによって行った。その結果を表2に示す。
【0129】
【表2】

【0130】
表2に示されるように、10検体中7検体(HCC131、HCC143、HCC146、HCC002、HCC003、HCC9907、H54)から、合計8つのHBV/細胞内DNAジャンクション(cellular DNA junction)を検出した。8つのジャンクションのうち、4つ(HCC131、HCC143、HCC146、HCC002)が19q13.1上のMLL4(mixed linkage leukemia 4)のイントロン3に存在した。残りはそれぞれ、5q13上のhTERT(human telomerase reverse transcriptase)のプロモーター領域、9q13−21.3上の仮定上のたんぱく質をコードする領域、及び7p14−15上のEST(expressed sequence tag)領域に存在した。また、hTERTの領域にHBVが組込まれるという報告は過去に2つのグループ(Ferber MJ, et al., Oncogene 2003; 22: 3813-3820, Paterlini-Brechot P, et al., Oncogene 2003; 22: 3911-3916)からなされており、この結果はそれらを支持するものである。

(c)MLL4遺伝子特異的なプライマーを用いたPCRよるHBV組込み部位の増幅
上記の結果より、HBV/MLL4ジャンクションが見られた4つのゲノムDNAについて、HBV特異的プライマーMD26c(配列番号:4)とMLL4特異的プライマー671R1(配列番号:10)、671R2(配列番号:11)、または671R3(配列番号:12)との組合せを用いて、慣用的なPCRを行うことにより、MLL4遺伝子へのHBV−DNAの組込みを確認した(第1図c)。また、MD26cに相補的な配列番号:14で示されるHBV特異的プライマーMD26とMLL4特異的プライマー671F1(配列番号:8)、または671F2(配列番号:9)との組合せを用いたPCRを行うことにより、他方のMLL4/HBVジャンクションを確認した。
【0131】
以下に詳細な実験手順を示す。100ngのゲノムDNA、0.2mM dNTPs、 10pmolの各プライマー、 1XGCIバッファー (Takara)及び1 unit LA Taq DNA polymerase (Takara)を含む50μlの反応液を調製した。MLL4/HBVジャンクションを調べるにあたっての反応では、プライマー671F1とMD26とを用いて、94℃で1分間加熱し、続けて98℃で10秒間、68℃で1−4分間を1サイクルとして35サイクル反応させ、72℃で10分間の伸長反応を最後に行った。以上を1次PCRとした。
【0132】
次いで、プライマー671F2とMD26とを用いた2次PCRを上記と同じ条件で行った。HBV/MLL4ジャンクションを調べるにあたっての反応では、プライマーMD26cと671R3を用いて、94℃で1分間加熱し、続けて94℃で30秒間、50℃で30秒間、72℃で45秒間を1サイクルとして30サイクル反応させた後、最後に72℃で5分間の伸長反応を行った。
【0133】
その結果を第2図および第3図に示す。第2図は、上記PCRにより増幅されたDNA中のHBVの組込み部位周辺の配列を示す。
【0134】
第2図aは、表1のHCC131、HCC143、HCC146、およびHCC002のMLL4遺伝子におけるHBV/細胞内DNAジャンクションの配列を示している。1)〜4)の配列において、スラッシュの左方の配列は組込まれたHBV−DNAの配列を示し、右方の太文字で示した配列はフランキングMLL4遺伝子配列を示す。また、1)〜4)の配列の上部に記載した数字は、HBV/細胞内DNAジャンクション(GenBankアクセッション番号AB033550,HBVゲノタイプC、サブタイプadr)でのHBVヌクレオチド番号を示している。
【0135】
また、第2図bは、MLL4遺伝子(Genbankアクセッション番号AD000671)のイントロン3とHBV−DNA組込み部位周辺の配列を示す。
【0136】
第3図は、HCC002、HCC131、HCC143、およびHCC146の4検体のDNAに組込まれたHBVゲノムの分析結果を示す図面である。第3図aは、HBVゲノム(Genbankアクセッション番号AB033550)の遺伝子構成図のシェーマ的な表示を表わし、オープン・リーディング・フレーム(ORF)及び転写の方向が太線の矢印によって表示され、その上の数字は各オープン・リーディング・フレーム(ORF)の位置を示している。DR1およびDR2は、11塩基対のダイレクトリピートである。
【0137】
また、第3図bは、HCC002、HCC131、HCC143、およびHCC146の4検体のDNAに組込まれたHBVゲノムのシェーマ的な表示であり、●及び矢印は、組込まれたHBV−DNA配列の5’末端及び3’末端を示す。なお、HCC146に組込まれたHBV−DNA配列の5’末端は特定できなかった。
【0138】
第3図cは、MLL4遺伝子のイントロン3(GenBankアクセッション番号AD000671の17316から17869ヌクレオチド番号に相当)、および組込み位置におけるHBV−DNAのシェーマ的な表示を表わし、この分析に用いられたMLL4特異的プライマーの方向と位置がシェーマにおいて示されている。
【0139】
第2図及び第3図において示されるように、4つのゲノムDNAにおいて、HBVはMLL4のイントロン3に存在するAlu繰り返し配列の中、またはその近傍に組込まれていることが確認された。
【0140】
また、HBVのウイルス側の組込み領域は、通常、11塩基対(bp)の繰り返し配列を含むDR1、DR2の近傍で起こる事が多いが、今回の4つの例でも、全てDR1近傍で組込みが起こっていた。HCC131の例でのみ、HBVの全長の組込みが確認され、他の3例では部分的な組込みが見られた(第3図)。なお、日本人のHBV感染例では、HCC131の場合のような遺伝型Cを呈する例がより一般的である。
【0141】
さらに、全ての肝細胞癌(HCC)の検体について、配列番号:13で示されるHBx特異的プライマーMD24と配列番号:14で示されるHBx特異的プライマーMD26の組合せたPCRを実施して、HCV−DNAの存在を確認した(表1)。
【実施例2】
【0142】
RT−PCRによるHBx/MLL4融合転写産物の検出
MLL4/HBV−DNAの組込みが確認された4例では全てがC末端を除くHBxタンパク質のコード領域とHBx(HBV−DNAのX遺伝子)のプロモーター領域とを含んでいた。従って、これらの4検体でHBxとMLL4の融合転写産物が存在する事が予測された。HCC131、HCC143、HCC146、およびHCC002から全RNAを抽出し、RT−PCRを行うことにより得られた転写産物について検討した。
【0143】
以下に詳細な実験手順を示す。
【0144】
トリゾール(Trizol:インビトロゲン社製)を用い、使用説明書に従ってRNAを抽出した。抽出したRNAは1.2%のアガロースゲル上で電気泳動をして確認した。RT−PCRはSuperScript One-Step RT-PCR system(インビトロゲン社製) を用い、MLL4のエクソン5、または6に設定した遺伝子特異的プライマー(E5−1:配列番号:15、E5−2:配列番号:16、およびE6−1:配列番号:17)を逆転写プライマーとして、使用説明書に従って以下の通りに行った。500ngの各RNA、0.8μMの各プライマー(MD26c:配列番号:4を共通のセンスプライマーとして使用した)、2単位の酵素混合液(enzyme mixture:SuperScript II RT 及び Platinum Taq DNA polymeraseを含む)及び1Xバッファー (0.2mM dNTPsと1.2mM MgSO4を含む)を氷上で混合し、反応液を作成した。この反応液をヴォルテックスでよく攪拌し、50℃で30分間、94℃で2分間反応させた。続くPCR反応として、94℃で15秒間、55℃で30秒間、70℃で1分間を1サイクルとして30サイクル反応させた。PCR産物は1.2%のアガロースゲル上で電気泳動をし、得られた各バンドを切り出してシークエンス解析に供した。
【0145】
HBx−MLL4融合転写物のRT−PCR分析結果を第4図に示す。
【0146】
第4図aは、各種の転写産物がMD26c/MLLエクソン5プライマーを用いたRT−PCRによって各肝細胞癌組織に対して得られたことを示している。第4図aの各バンドのRT−PCR産物を塩基配列分析に供した。第4図bは、4つの肝細胞癌組織(HCC131、HCC002、HCC143、およびHCC146)からの融合転写産物のシェーマ的な表示を表わしている。図4aの各バンドの横に表示されたサークル内の数字と、図4bの融合転写産物の横のサークル内の数字とが対応している。
【0147】
この結果、全ての肝細胞癌(HCC)から、MLL4のエクソン4以降について読み枠がずれていない融合転写産物と、読み枠がずれ、途中にストップコドンが入ってしまう融合転写産物が検出された(第4図b)。
【0148】
HCC131では2つの融合転写産物(イントロン3の配列を含むが、エクソン4以降の配列は読み枠がずれていない融合転写産物、及び、イントロン3、イントロン4を含み、エクソン6の途中にストップコドンが入ってしまっている融合転写産物)、HCC002では3つの融合転写産物(イントロン3がスプライスアウトされ、読み枠がずれていない融合転写産物、同じくイントロン3がスプライスアウトされているが、読み枠がずれ、エクソン4の途中にストップコドンが入った融合転写産物、及び、イントロン3を含み、イントロン3の途中にストップコドンが入ってしまっている融合転写産物)がそれぞれ検出され、HCC146ではHCC002と類似したパターンの3つの融合転写産物が検出された。HCC143ではイントロン3にストップコドンが入ったものが2種類とエクソン4にストップコドンが入ったものが2種類、計4種類の読み枠がずれた融合転写産物が検出された他、読み枠がずれていないイントロン3を含む融合転写産物が1種類検出されたが、この転写産物ではGT−AGルールではなく、CC−GTのサイトでスプライシングが起こっていた。
【実施例3】
【0149】
イムノブロット分析によるHBx/MLL4融合タンパク質の検出
これら融合転写産物が実際にタンパク質に翻訳されている事を確かめる為に、HCC131、HCC143、HCC002の個体について、肝腫瘍細胞と隣接した細胞を用いて免疫的実験手法によって比較を行った。
【0150】
以下に詳細な実験手順を示す。細胞100〜200mgを、0.1% SDS、0.5%デオキシコール酸(deoxycholate)、1% NP-40、150mM NaCl、50mM Tris-HCl(pH 8.0)、1mM APMSF及びその他のプロテアーゼインヒビター(complete protease inhibitor tablets, Roche社)を含むバッファーによって溶解し、12500rpmで30分間、4℃で遠心し全タンパク質を調整した。必要に応じて、得られた全タンパク500μgを、抗HBx抗体(Hepatitis B Virus X protein)モノクローナル抗体(Advanced Immuno Chemical社製)と共にインキュベートし、標準的な方法で免疫沈降させた。
【0151】
全タンパク質や上記の手順で調整された免疫沈降産物はSDS−PAGEにより泳動し、PVDFメンブレン(Hybond-P; Amersham Biosciences社)に移した。メンブレンは抗体の非特異的な結合を防ぐ為に3%スキムミルクを含むTBS−T(Tris-bufferd saline and 0.1% Tween-20)で室温にて1時間プレインキュベートした後、抗HBxモノクローナル抗体と共に4℃で8時間インキュベートした。その後、TBS−Tで4回ウォッシュし、ペルオキシダーゼが共役した抗マウスIgGウマ抗体と共にインキュベートした。抗体の結合によるシグナルはECLウェスタンブロッティング・ディテクション・システム(ECL western blotting detection system:Amersham Biosciences社製)によって視覚化し、解析した。
【0152】
その結果を第5図に示す。第5図aは、抗HBxモノクローナル抗体を使用することによるHCC002、HCC131、およびHCC143からの腫瘍組織(T)および近傍の非腫瘍組織(N)のウェスタンブロット分析を表し、第5図bは、免疫沈降産物が抗HBx抗体を用いた免疫検定によって示されている。
【0153】
直接、全タンパク質に対してウェスタンブロットを行った結果では、HCC143、およびHCC002の腫瘍細胞に選択的に17kDaのタンパク質が検出された。これは、途中にストップコドンが入った短いHBx/MLL4の融合タンパク質に相当する(第5図a)。HCC131は融合タンパク質が検出されなかったが、抗HBx抗体を用いた免疫沈降産物に対するウェスタンブロットでは、読み枠がずれていないHBx/MLL4の融合タンパク質に相当する160kDaのタンパク質が検出された(第5図b)。
【実施例4】
【0154】
タッチダウンPCR法による染色体転座領域の増幅
HBs抗原は陰性であったが、抗HBc陽性であった検体(表1参照)について、MLL4のイントロン3におけるHBVの組込みを調べた。HBVプライマーMD26c(配列番号:4)とMLL4特異的プライマー19R1(配列番号:10(671R1))とを用いた1次PCR、及びHBVプライマーMD26c(配列番号:4)とMLL4特異的プライマー19R2(配列番号:11(671R2))とを用いた2次PCRを行い、実施例1の方法に従ってシークエンス解析を行った。この結果、これらの肝細胞癌(HCC)検体ではMLL4のイントロン3へのHBVの組込みは検出されなかった。
【0155】
しかし、その代わりにMLL4と17p11.2の領域とのキメラ配列が検出された。この転座はHBV特異的プライマーとMLL4特異的プライマーを用いた実験で偶然発見されたものであるため、HBV特異的プライマーの代わりに17pに特異的なプライマー17R1(配列番号:18)、および17R2(配列番号:19)をデザインした。これらのプライマーを用い、肝細胞癌患者の26検体について、17番染色体と19番染色体の転座について前述のタッチダウンPCR法を用いて確かめた。
【0156】
17番染色体/19番染色体の境界を発見する為には、19R1及び17R1プライマーを1次PCRに用い、19R2及び17R2プライマーを2次PCRに用いた。また、19番染色体/17番染色体の境界を発見する為には、671F1(配列番号:8)及び17−1プライマー(配列番号:20)を1次PCRに用い、671F2(配列番号:9)及び17−2プライマー(配列番号:21)を2次PCRに用いた。
【0157】
この結果、肝細胞癌患者の26検体中22検体について転座を確認できた(表2参照)。
【0158】
また、第6図にMLL4のイントロン3の遺伝子座における相互転座を表した配列図面を示す。第6図は、染色体19q13.1(左:GenBankアクセッション番号AD000671)と染色体17p11.2(右:GenBankアクセッション番号AC087294)染色体の再構成が示されている。そして、Alu繰り返し配列は、グレイ枠内の配列として示されている。Alu繰り返し配列に隣接して横たわっているHBV組込み部位は、矢印で示されていおり、それぞれの染色体上の下向き記号の太線矢印は、再組換えがAlu繰り返し配列によって生じた後に新しく合成された染色体を示している(黒から黒および白から白)。
【0159】
シークエンス解析の結果を表す第6図より、転座産物の染色体の境界となっている約240bpにわたる領域はAlu繰り返し配列を含み、染色体間でおよそ85%相同であることが判明した。
【0160】
Alu配列を介した相同組換えが転座を促進している可能性が考えられるが、MLL4のイントロン3領域ではなく、hTERTのプロモーター領域にHBVが組込まれているHCC003でも同様の転座が観察されている事から、肝癌の腫瘍形成そのものがゲノムの不安定化をもたらしている可能性もある。また、この転座の解析にあたっては、1次PCRの段階では疑わしい結果が得られる場合が多いので、2次PCRを行うことが望ましい。
【0161】
また、17番染色体のAlu配列にはCA繰り返し配列が隣接しており、個人の識別等に有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト検体から単離された腫瘍の疑いのある肝臓組織から、組織の腫瘍性を示唆するMLL4遺伝子へのHBV−DNAの組込みを検出する方法。
【請求項2】
上記肝臓組織のDNAについてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、増幅したDNAの塩基配列を決定して、MLL4遺伝子中にHBV−DNAが組込まれたことを確認することにより、MLL4遺伝子へのHBV−DNAの組込みを検出する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
MLL4遺伝子のイントロン3中にHBV−DNAのX遺伝子を含む領域が組込まれたことを確認する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
MLL4遺伝子のイントロン3へのHBV−DNAの組込みを検出する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
MLL4遺伝子のイントロン3の5’末端から第17515番目から第17818番目の塩基までの領域へのHBV−DNAの組込みを検出する請求項4に記載の方法。
【請求項6】
HBV−DNAがHBVのX遺伝子を含む領域である請求項1、4又は5に記載の方法。
【請求項7】
以下の工程を含む方法により、ヒト検体から単離された腫瘍の疑いのある肝臓組織から、組織の腫瘍性を示唆するMLL4遺伝子へのHBV−DNAの組込みを検出する方法;
(1) 上記肝臓組織からDNAを抽出する工程、
(2) (1)で得られたDNAを鋳型として、MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的な第1のプライマーとHBVのX遺伝子領域に特異的な第1のプライマーとを用いてPCRを行う工程、
又はさらに、
(3) (2)で増幅されたDNAを鋳型として、MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的な第2のプライマーとHBVのX遺伝子領域に特異的な第2のプライマーとを用いてPCRを行う工程
【請求項8】
MLL4遺伝子とHBVとの融合転写産物を検出することにより、MLL4遺伝子へのHBV-DNAの組込みを検出する請求項1及び4〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
MLL4遺伝子とHBVのX領域との融合転写産物を検出する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
MLL4とHBVとの融合タンパク質を検出することにより、MLL4遺伝子へのHBV-DNAの組込みを検出する請求項1及び4〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
MLL4とHBVのX領域との融合タンパク質を検出する請求項10に記載の方法。
【請求項12】
MLL4とHBVのX領域との融合タンパク質に特異的に結合する抗体又は抗体断片を用いる請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
ヒト検体から単離された腫瘍の疑いのある肝臓組織から、組織の腫瘍性を示唆する、MLL4遺伝子のt(17;19)(p11.2;q13.1)における染色体転座を検出する方法。
【請求項14】
17番染色体と19番染色体との接合部を含む塩基配列を検出することにより、MLL4遺伝子のt(17;19)(p11.2;q13.1)における染色体転座を検出する請求項13に記載の方法。
【請求項15】
以下の工程を含む方法により、17番染色体と19番染色体との接合部を含む塩基配列を検出する請求項14に記載の方法;
(1) 上記肝臓組織からDNAを抽出する工程
(2) 得られたDNAを鋳型として、17番染色体p11.2を含む領域に特異的な第1のプライマーと、19番染色体q13.1のMLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的な第1のプライマーとを用いてPCRを行う工程
(3) 増幅されたDNAを鋳型として、17番染色体p11.2を含む領域に特異的な第2のプライマーと、19番染色体q13.1のMLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的な第2のプライマーとを用いてPCRを行う工程
【請求項16】
MLL4遺伝子へのHBV−DNAの組込みを検出するためのキット。
【請求項17】
MLL4遺伝子のイントロン3へのHBV−DNAの組込みを検出するためのキット。
【請求項18】
MLL4遺伝子のイントロン3へのHBVのX領域の組込みを検出するためのキット。
【請求項19】
MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的なプライマー又はプローブと、HBVのX領域に特異的なプライマー又はプローブとを備える請求項18に記載のキット。
【請求項20】
MLL4遺伝子とHBVのX領域との融合転写産物を検出するためのキット。
【請求項21】
MLL4とHBVのX領域との融合タンパク質を検出するためのキット。
【請求項22】
MLL4とHBVのX領域との融合タンパク質に特異的に結合する抗体又は抗体断片を備える請求項21に記載のキット。
【請求項23】
MLL4遺伝子のt(17;19)(p11.2;q13.1)における染色体転座を検出するためのキット。
【請求項24】
MLL4遺伝子のイントロン3を含む領域に特異的なプライマー又はプローブと、17番染色体p11.2を含む領域に特異的なプライマー又はプローブとを備える請求項23に記載のキット。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【国際公開番号】WO2005/085436
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510673(P2006−510673)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003383
【国際出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】