説明

B細胞関連疾患を処置するための二重特異性抗CD3、抗CD19抗体構築物を含む薬学的組成物

【課題】二重特異性一本鎖抗体構築物を含む薬学的組成物の提供。
【解決手段】ヒトCD3およびヒトCD19に特異的な結合ドメインを含み、対応する可変重鎖領域(VH)および対応する可変軽鎖領域(VL)が、VH(CD19)-VL(CD19)-VH(CD3)-VL(CD3)、VH(CD3)-VL(CD3)-VH(CD19)-VL(CD19)またはVH(CD3)-VL(CD3)-VL(CD19)-VH(CD19)の順にN末端からC末端まで配列されている薬学的組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重特異性一本鎖抗体構築物を含む薬学的組成物に関し、その二重特異性一本鎖抗体構築物は、ヒトCD3およびヒトCD19に特異的な結合ドメインを含み、対応する可変性重鎖領域(VH)および対応する可変性軽鎖領域(VL)が、VH(CD19)-VL(CD19)-VH(CD3)-VL(CD3)、VH(CD3)-VL(CD3)-VH(CD19)-VL(CD19)またはVH(CD3)-VL(CD3)-VL(CD19)-VH(CD19)の順にN末端からC末端まで配列される。さらに、その薬学的組成物の作製のための方法、およびヒトCD3抗原およびヒトCD19抗原に対する特異性を有する特定の二重特異性一本鎖抗体分子についての医学的/薬学的使用が開示されている。
【背景技術】
【0002】
医学的重要性にもかかわらず、非ホジキンリンパ腫のようなB細胞に仲介された疾患における研究は、ほんの少数の臨床的に使用できるデータを生じただけで、そのような疾患を治療するための通常のアプローチは、依然として冗長かつ不本意なままであり、かつ/または再発のリスクが高い。例えば、高悪性度の非ホジキンリンパ腫についての一次処置としての高用量化学療法は、全生存を改善しうるが、患者の約50%は、まだ、この疾患で死ぬ(Gianni, N Engl. J. Med. 336 (1997), 1290-7; Urba, J. Natl. Cancer Inst. Monogr. (1990), 29-37; Fisher, Cancer (1994))。さらに、低悪性度の非ホジキンリンパ腫様慢性リンパ性白血病およびマントル細胞リンパ腫はまだ、治療不能である。これは、免疫療法のような代替のストラテジーについての研究を刺激した。CD抗原により定義される細胞表面分子に対して向けられた抗体は、治療試薬の開発のためのめったにないチャンスを提示している。ある特定のCD抗原の発現は、特定の系統リンパ造血性細胞に高度に限定され、過去数年間に渡って、リンパ特異的抗原に対して向けられた抗体が、インビトロかまたはインビボのどちらの動物モデルにおいても効果的である処置を開発するために用いられた(

)。この点で、CD19は、非常に有用な標的であることを証明した。CD19は、プロB細胞から成熟B細胞までの全B系統において発現されており、それは、脱落せず、すべてのリンパ腫細胞上に一律に発現され、幹細胞には存在しない(Haagen, Clin Exp Immunol 90 (1992), 368-75; Uckun, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85 (1988), 8603-7)。興味深いモダリティーは、一方のCD19に対する特異性およびもう一方のT細胞におけるCD3抗原に対する特異性をもつ二重特異性抗体の適用である。しかしながら、今まで利用可能な二重特異性抗体は、低いT細胞の細胞障害性、および十分な生物活性を示すための共刺激剤の必要を欠点としてもつ。CD3複合体は、多分子T細胞受容体複合体の一部としてT細胞上に発現される抗原を示す。それは、数個の異なる鎖、例えば、γ、δ、ε、ζまたは/およびη鎖、からなる。T細胞上のCD3の、例えば、固定化抗CD3抗体による、クラスタリングは、T細胞受容体の結合に類似しているが、そのクローン典型的特異性とは無関係なT細胞活性化へと導く。実際に、たいていの抗CD3抗体は、CD3ε鎖を認識する。
【0003】
先行文献は、抗体分子を用いるT細胞活性化事象を例示した。例えば、US 4,361,549は、正常のヒトT細胞および皮膚のTリンパ腫細胞上に見出される抗原に対するモノクローナル抗体の産生のためのハイブリッド細胞系を提案し、「OKT3」として産生される抗体を定義している。US 5,885,573において、マウスOKT3(US 4,361,549に記載)は、その免疫原性を低下させるために、ヒト抗体フレームワークへ移された。さらに、US 5,885,573は、235位におけるGlu、234位におけるPheまたは234位におけるLeuへ導くOKT-3のFc受容体(「FcR」)結合セグメントにおける特異的突然変異、すなわち、ヒトFcRに対する改変された結合親和性を結果として生じることが認められているCH2領域における特異的突然変異を開示している。増殖アッセイにおいて、またはサイトカインの放出に関するアッセイにおいて、US 5,885,573に開示された突然変異型OKT-3抗体は、最初のマウスOKT3で刺激されたPBMCに観察されたものに匹敵する細胞増殖、および産生されたサイトカインの類似した量に匹敵する結果を生じるように思われる。単に、突然変異型Glu-235mAbは、より少量のTNF-αおよびGM-CSFを誘導したにすぎず、IFN-γを誘導しなかった。10 μg/mlまでのモノクローナル抗体(「mab」)濃度において3つの異なるドナー由来のPBMCを用いて、GLU-235 mabによりT細胞増殖は誘導されず、このmabのFcR結合領域の変化がその分裂促進的性質を損なったことを示唆した。Glu-235 mabによるT細胞活性化はまた、結果として、表面マーカー、Leu23およびIL-2受容体のより低いレベルの発現を生じた。US 5,929,212は、結合領域がマウス抗CD3抗体、例えばOKT3の重鎖および/または軽鎖可変領域に由来して、ヒトフレームワークへ移植された組換え抗体分子を開示している。WO 98/52975は、マウス抗CD3抗体OKT3の突然変異した変異体を開示している。突然変異型OKT3抗体は、組換え発現系を用いて作製され、WO 98/52975は、突然変異型抗CD3抗体が、延長された保存期間中において、親のOKT3タンパク質より安定していることを提案している。US 5,955,358は、DNAレベルにおいて、同じかまたは異なるかのいずれかの抗体由来の複数の相補性決定(「CDR」)ドメインを組み替える、抗体可変ドメイン内のそれらの順番が変化して、結合領域の新しい組み合わせを生じることを意味しているが、その方法を開示している。
【0004】
OKT3は、同種移植片拒絶を処置するための臨床移植における強力な免疫抑制剤として用いられた(Thistlethwaite 1984, Transplantation 38, 695-701; Woodle 1991, Transplantation 51, 1207-1212; Choi 2001, Eur. J. Immunol. 31(1), 94-106)。この治療の主な弱点は、T細胞とFcγRを有する細胞との間の架橋結合およびヒト抗マウス抗体(HAMA)応答による、サイトカイン放出として顕在化するT細胞活性化である。いくつかの刊行物は、これらの副作用を低下させるためのOKT3のヒト化のような変化を記載している:US 5,929,212; US 5,885,573など。他方、OKT3または他の抗CD3抗体は、T細胞活性化および増殖を刺激するための免疫増強剤として用いられうる(US 6,406,696 Bluestone; US 6,143,297 Bluestone; US 6,113,901 Bluestone;Yannelly 1990, J. Immunol. Meth. 1, 91-100)。抗CD3抗体はまた、T細胞増殖を誘導するために抗CD28抗体と組み合わせて用いられる作用物質として記載されている(US 6,352,694)。OKT3はさらに、細胞障害性T細胞を腫瘍細胞もしくはウイルス感染細胞へ向けるために、単独でまたは二重特異性抗体の一部として、用いられた(Nitta 1990, Lancet 335, 368-376; Sanna 1995, Bio/Technology 13, 1221-1224; WO 99/54440)。
【0005】
T細胞を補充するための作用物質として抗体を用いる今までのアプローチは、いくつかの発見により妨げられた。第一に、T細胞に対して高い結合親和性をもつ天然または操作された抗体は、しばしば、それらが結合するT細胞を活性化しない。第二に、T細胞に対して低い結合親和性をもつ天然または操作された抗体もまた、しばしば、T細胞仲介性細胞溶解を引き起こすそれらの能力に関して効果がない。
【0006】
一本鎖形式ではなく、かつMHC非依存性様式でT細胞の細胞障害性をリンパ腫細胞へ新しく向ける、ヒトCD19およびヒトCD3に対する特異性を含む二重特異性抗体は、動物モデルにおいて(Bohlen, Cancer Res 57 (1997), 1704-9; Demanet, Int J Cancer Suppl 7 (1992), 67-8)およびいくつかのパイロット臨床試験において、インビボで効果的であることがすでに示されている。これまでは、これらの抗体は、ハイブリッド-ハイブリドーマ技術により、モノクローナル抗体を共有結合性に連結することにより(Anderson, Blood 80 (1992), 2826-34)、またはダイアボディ(diabody)アプローチにより(Kipriyanov, Int. J. Cancer 77 (1998), 763-772)、構築された。より広範な臨床研究は、これらの抗体が、高用量が投与されなければならないような低い生物活性である、および抗体単独の適用が有益な治療効果を与えなかったという事実により、妨げられた。さらに、臨床段階の材料の供給力が制限された。先行文献は、ヒトCD3およびヒトCD19の抗原の両方に対する特異性を含む二重特異性一本鎖抗体を例示した(Loffler, Blood 95 (2000), 2098-103; WO 99/54440; Dreier, Int. J. Cancer. 100 (2002), 690-7)。WO 99/54440は、形式VL(CD19)-VH(CD19)-VH(CD3)-VL(CD3)における構築物の臨床的使用の成功を実証し、構築物内の可変ドメインの順番が決定的ではないことを力説している。
【0007】
さらに、特に、明確な臨床的および薬学的使用について、組換え構築物の適度に高いレベルの発現により、および発現後の十分な精製方法により、大量に作製されうる構築物が提供されなければならない。極めて低量の純粋なタンパク質が得られる場合には、そのような構築物の治療に関連した量を産生させることが、非常に厄介であるおよび/または費用のかかるようになる。非経口投与を予定されたタンパク性薬物の特別の場合、これらの薬物は、過剰のタンパク質濃度または多量の注入/注射溶液による有害な副作用を避けるために、低濃度でさえも高度に活性があり、かつ強力であるべきである。高用量のタンパク性薬物または高用量の核酸に基づいた薬物の不都合は、とりわけ、特に投与の部位において、過敏症および炎症性事象の促進を含む。
【発明の概要】
【0008】
このように、本発明の技術的問題は、B細胞に関連したもしくはB細胞に仲介された疾患の処置および/または改善のための耐容性がよく、便利な薬物の作製のための手段および方法の供給である。
【0009】
従って、本発明は、二重特異性一本鎖抗体構築物を含む薬学的組成物に関し、その二重特異性一本鎖抗体構築物は、ヒトCD3およびヒトCD19に特異的な結合ドメインを含み、対応する可変重鎖領域(VH)および対応する可変軽鎖領域(VL)が、以下の順にN末端からC末端まで配列される:
VH(CD19)-VL(CD19)-VH(CD3)-VL(CD3)、
VH(CD3)-VL(CD3)-VH(CD19)-VL(CD19)または
VH(CD3)-VL(CD3)-VL(CD19)-VH(CD19)。
【0010】
従って、「VL」および「VH」は、特定の抗CD19(CD19)および抗CD3(CD3)抗体の軽鎖および重鎖の可変ドメインを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1Aは、PCRプライマーの結合部位を示す、抗CD19/抗CD3一本鎖二重特異性抗体におけるVL/VHドメイン配列の概略的組成。A1、A2、B1およびB2は、抗CD19/抗CD3一本鎖二重特異性抗体の構築において用いられる様々なV領域のN末端からC末端までの位置を表す。図1Bは、制限酵素の認識部位を示す、抗CD19/抗CD3一本鎖二重特異性抗体におけるVL/VHドメイン配列の概略的組成(L=リーダーペプチド)。A1、A2、B1およびB2は、抗CD19/抗CD3一本鎖二重特異性抗体の構築において用いられる様々なV領域のN末端からC末端までの位置を表す。
【図2】280 nmにおけるZn-キレートFractogel(登録商標)カラム(IMAC)からの二重特異性一本鎖抗体溶出パターン。600 mlの保持時間における第一の小さい方のステップおよび700 mlにおける第二の大きい方のステップを示す基本線は、0.5 M イミダゾールを含む溶出緩衝液の理論上の勾配を示す。100〜500 ml保持時間からの280 nmにおける高吸着は、カラム流入における結合していないタンパク質によるものであった。670.05 mlの保持時間における溶出ピークからのタンパク質は、さらなる精製に用いられた。
【図3】280 nmにおけるSephadex S200ゲル濾過からの二重特異性一本鎖抗体溶出パターン。CD3およびCD19に対する二重特異性抗体を含む81.04 mlの保持時間におけるタンパク質ピークは、52 kDの分子量に対応する。画分は、50〜110 mlの保持時間から回収され、5〜35と番号を付けられた黒色矢印で示された。
【図4】二重特異性一本鎖抗体のタンパク質画分の代表的なSDS-PAGE分析。レーンM:分子量マーカー;レーン1:細胞培養上清;レーン2:IMAC流入;レーン3:IMAC溶出物;レーン4:ゲル濾過(Sephadex 200)から得られたCD19およびCD3に対する精製された抗体。
【図5】精製された二重特異性一本鎖抗体画分の代表的なウェスタンブロット分析。精製された二重特異性タンパク質のウェスタンブロット分析は、HisTag(PentaHis, Qiagen)に対して向けられた抗体およびアルカリホスファターゼで標識されたヤギ抗マウスIgで行われた。レーン1:細胞培養上清;レーン2:IMAC流入;レーン3:IMAC溶出物;レーン4:ゲル濾過(Sephadex 200)から得られたCD19およびCD3に対する精製された抗体。
【図6A】Nalm 6(CD19+)およびジャーカット(CD3+)細胞におけるFACS分析により測定された抗CD19(VL/VH)×抗CD3(VH/VL)構築物についての結合データ。左のピークは対照である。右のピークは対象となる結合特異性についての蛍光シフトの測定である。右へのシフトは、構築物のCD19またはCD3への結合をそれぞれ示す。VHおよびVLドメインの配列は、N末端からC末端まで(N→C)示されている。
【図6B】Nalm 6(CD19+)およびジャーカット(CD3+)細胞におけるFACS分析により測定された抗CD19(VH/VL)×抗CD3(VH/VL)構築物についての結合データ。左のピークは対照である。右のピークは対象となる結合特異性についての蛍光シフトの測定である。右へのシフトは、構築物のCD19またはCD3への結合をそれぞれ示す。VHおよびVLドメインの配列は、N末端からC末端まで(N→C)示されている。
【図6C】Nalm 6(CD19+)およびジャーカット(CD3+)細胞におけるFACS分析により測定された抗CD19(VL/VH)×抗CD3(VL/VH)構築物についての結合データ。左のピークは対照である。右のピークは対象となる結合特異性についての蛍光シフトの測定である。右へのシフトは、構築物のCD19またはCD3への結合をそれぞれ示す。VHおよびVLドメインの配列は、N末端からC末端まで(N→C)示されている。
【図6D】Nalm 6(CD19+)およびジャーカット(CD3+)細胞におけるFACS分析により測定された抗CD19(VH/VL)×抗CD3(VH/VL)構築物についての結合データ。左のピークは対照である。右のピークは対象となる結合特異性についての蛍光シフトの測定である。右へのシフトは、構築物のCD19またはCD3への結合をそれぞれ示す。VHおよびVLドメインの配列は、N末端からC末端まで(N→C)示されている。
【図6E】Nalm 6(CD19+)およびジャーカット(CD3+)細胞におけるFACS分析により測定された抗CD19(VL/VH)×抗CD3(VH/VL)構築物についての結合データ。左のピークは対照である。右のピークは対象となる結合特異性についての蛍光シフトの測定である。右へのシフトは、構築物のCD19またはCD3への結合をそれぞれ示す。VHおよびVLドメインの配列は、N末端からC末端まで(N→C)示されている。
【図6F】Nalm 6(CD19+)およびジャーカット(CD3+)細胞におけるFACS分析により測定された抗CD19(VL/VH)×抗CD3(VH/VL)構築物についての結合データ。左のピークは対照である。右のピークは対象となる結合特異性についての蛍光シフトの測定である。右へのシフトは、構築物のCD19またはCD3への結合をそれぞれ示す。VHおよびVLドメインの配列は、N末端からC末端まで(N→C)示されている。
【図7】選択されたドメイン再配列された抗CD3/抗CD19構築物についての細胞障害性データ。CB15 T細胞クローンおよびNALM6細胞が、1:10のE:T比で用いられた。NALM6標的細胞は、カルセインで標識された。細胞溶解後のカルセイン放出は、FACS分析により測定された。
【図8】ELISAにおける、145-2C11抗体の、組換えの精製された、マウスCD3ε鎖の細胞外ドメインへの結合。ELISAは、実施例5、パラグラフ1に記載されているように行われた。グラフは、コーティングされた145-2C11抗体に結合する抗原調製物または関連性のない抗原についての吸収値を描く。試料は、1:5、1:25および1:125希釈で行われた。
【図9】マウスCD3ε鎖表面抗原でトランスフェクションされたジャーカット細胞における145-2C11抗体のFACS結合分析。FACS染色は、実施例5、パラグラフ2に記載されているように行われた。塗りつぶされたヒストグラムは、アイソタイプ対照とインキュベートされた細胞を示す。白抜きのヒストグラムは、145-2C11抗体とインキュベートされた細胞を示す。
【図10】トランスフェクションされていないジャーカット細胞における145-2C11抗体のFACS結合分析。FACS染色は、実施例5、パラグラフ2に記載されているように行われた。塗りつぶされたヒストグラムは、アイソタイプ対照とインキュベートされた細胞を示す。塗りつぶされたヒストグラム上に重ねられた白抜きのヒストグラムは、145-2C11抗体とインキュベートされた細胞を示す。145-2C11は、ジャーカット細胞に結合しなかった。
【図11】CTLL2細胞における145-2C11抗体のFACS結合分析。FACS染色は、実施例5、パラグラフ3に記載されているように行われた。塗りつぶされたヒストグラムは、アイソタイプ対照とインキュベートされた細胞を示す。白抜きのヒストグラムは、145-2C11抗体がCTLL2細胞に結合したことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に従って、用語「薬学的組成物」は、患者、好ましくはヒトの患者、への投与のための組成物に関する。好ましい態様において、薬学的組成物は、非経口の、経皮的な、管腔内の、動脈内の、くも膜下腔内の投与のための、または組織への直接的注射による、組成物を含む。その薬学的組成物が注入または注射により患者へ投与されることが、特に予想される。適切な組成物の投与は、異なる方法により、例えば、静脈内の、腹腔内の、皮下の、筋内の、局所的なまたは皮内の投与により、実施されうる。適切な薬学的担体の例は、当技術分野において周知であり、リン酸緩衝食塩水、水、油/水乳濁液のような乳濁液、様々な型の湿潤剤、滅菌溶液などを含む。そのような担体を含む組成物は、周知の通常の方法により製剤化されうる。これらの薬学的組成物は、適切な用量で対象に投与されうる。投与計画は、担当医および臨床的因子におり決定される。医学的分野において周知であるが、任意の1人の患者についての投与量は、患者のサイズ、体表面積、投与されるべき特定の化合物、性別、投与の時間および経路、一般的健康、ならびに同時に投与されることになっている他の薬物を含む、多くの要因に依存する。投与のための好ましい用量は、1日あたり体重の1キログラムあたり0.24 μg〜48 mg、好ましくは0.24 μg〜24 mg、より好ましくは0.24 μg〜2.4 mg、よりいっそう好ましくは0.24 μg〜1.2 mgおよび最も好ましくは0.24 μg〜240 μgユニットの範囲にありうる。特に好ましい用量は、本明細書で以下に列挙されている。経過は、定期的評価によりモニターされうる。用量は変わるものであるが、DNAの静脈内投与についての好ましい用量は、核酸分子、好ましくはDNA分子のおよそ106〜1012コピーである。本明細書に記載されたタンパク性または核酸化合物を含む本発明の薬学的組成物は、局所的にまたは全身的に投与されうる。投与は、一般的に、非経口で、例えば静脈内である。DNAはまた、例えば、内部もしくは外部の標的への微粒子銃の送達により、または動脈における部位へのカテーテルにより、標的部位へ向けられて投与されうる。非経口投与のための調製物は、滅菌水または非水性溶液、懸濁液、および乳濁液を含む。非水性溶媒の例は、プロピレン、グリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、およびオレイン酸エチルのような注射可能な有機エステルである。水性担体は、食塩水および緩衝媒体を含む、水、アルコール性/水性溶液、乳濁液または懸濁液を含む。非経口媒体は、塩化ナトリウム溶液、リンガーのブドウ糖、ブドウ糖および塩化ナトリウム、乳酸加リンガー液、または固定油を含む。静脈内の媒体は、液体および栄養補充液、電解質補充液(リンガーのブドウ糖に基づいたもの)などを含む。保存剤および他の添加剤もまた存在しうり、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、不活性ガスなどのようなものである。さらに、本発明の薬学的組成物は、例えば、血清アルブミンまたは免疫グロブリン、好ましくはヒト起源のようなタンパク性担体を含みうる。本発明の薬学的組成物は、タンパク性二重特異性一本鎖抗体構築物またはそれをコードする核酸分子もしくはベクターに加えて、薬学的組成物の意図された使用に依存して、さらに、生物活性のある作用物質を含みうることが予想される。そのような作用物質は、胃腸系に作用する薬物、細胞増殖抑制剤として作用する薬物、高尿酸血症を防ぐ薬物、免疫反応を抑制する薬物(例えば、コルチコステロイド)、循環系に作用する薬物および/またはT細胞共刺激分子もしくは当技術分野において公知のサイトカインのような作用物質でありうる。
【0013】
用語「二重特異性一本鎖抗体構築物」は、ヒトCD3に特異的に相互作用する/結合する能力がある、上記のような可変領域(またはその部分)からなる1つのドメインを含み、かつヒトCD19に特異的に相互作用する/結合する能力がある、上記のような可変領域(またはその部分)からなる第二のドメインを含む、構築物に関する。
【0014】
前記結合/相互作用はまた、「特異的な認識」を定義するものと理解される。用語「特異的に認識すること」とは、本発明に従って、抗体分子が、本明細書に定義されたようなヒト標的分子のそれぞれの少なくとも2つのアミノ酸に特異的に相互作用する/結合する能力があることを意味する。その用語は、抗体分子の特異性、すなわち、本明細書に定義されたようなヒト標的分子の特定の領域の間を識別する能力に関する。抗原相互作用部位の、その特異的な抗原との特異的な相互作用は、結果として、例えば、抗原の高次構造の変化、抗原のオリゴマー化などの誘導により、シグナルの開始を生じうる。さらに、その結合は、「キーロック原理」の特異性により例示されうる。このように、抗原相互作用部位および抗原のアミノ酸配列における特定のモチーフは、それらの一次、二次または三次構造の結果、ならびにその構造の二次的改変の結果として、互いに結合する。抗原相互作用部位のその特異的な抗原との特異的な相互作用は、なお、その部位の抗原への単純な結合も結果として生じうる。
【0015】
本発明に従って用いられる場合、用語「特異的な相互作用」とは、二重特異性一本鎖構築物が、類似した構造の(ポリ)ペプチドと交差反応しない、または本質的に交差反応しないことを意味する。研究中の二重特異性一本鎖構築物のパネルの交差反応性は、例えば、通常の条件下で(例えば、Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1988およびUsing Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999を参照)二重特異性一本鎖構築物のそのパネルの、対象となる(ポリ)ペプチドへの、および多数の多かれ少なかれ(構造的および/または機能的に)密接に関連した(ポリ)ペプチドへの結合を評価することにより、試験されうる。対象となる(ポリ)ペプチド/タンパク質に結合するが、他の(ポリ)ペプチドのいずれにも本質的に結合しない、それらの抗体のみが、対象となる(ポリ)ペプチド/タンパク質に特異的とみなされる。
【0016】
抗原相互作用部位の特異的な抗原との特異的な相互作用についての例は、リガンドのその受容体に対する特異性を含む。その定義は、特に、その特異的な受容体への結合においてシグナルを誘導するリガンドの相互作用を含む。対応するリガンドについての例は、その特異的なサイトカイン受容体に相互作用する/結合するサイトカインを含む。また特に、その定義により、セレクチンファミリー、インテグリンの抗原、およびEGFのような成長因子のファミリーの抗原のような抗原への抗原相互作用部位の結合が含まれる。その相互作用についての他の例は、その定義によりまた特に含まれるが、抗原決定基(エピトープ)の、抗体の抗原結合部位との相互作用である。
【0017】
用語「結合する/相互作用する」とはまた、ヒト標的分子もしくはその部分の2つの領域からなる、高次構造的エピトープ、構造的エピトープ、または不連続なエピトープに関しうる。この発明の関係において、高次構造的エピトープは、ポリペプチドが天然のタンパク質へ折り畳める場合、分子の表面上でいっしょになる、一次配列において分離された2つまたはそれ以上の別個のアミノ酸配列により定義される(Sela, (1969) Science 166, 1365およびLaver, (1990) Cell 61, 553-6)。
【0018】
用語「不連続なエピトープ」とは、本発明の関係において、ポリペプチド鎖の遠い部分由来の残基から構築される非線状のエピトープを意味する。これらの残基は、ポリペプチド鎖が三次元構造へと折り畳めて高次構造的/構造的エピトープを構成する場合、分子の表面上でいっしょになる。
【0019】
本発明により、Ig由来抗原相互作用の関係において用いられる、用語「可変領域」は、抗体、抗体断片またはその誘導体由来の1つのCDRを少なくとも含む(ポリ)ペプチドの断片および誘導体を含む。その少なくとも1つのCDRは、好ましくはCDR3、より好ましくは抗体の重鎖のCDR3(CDR-H3)であることが、本発明により予想される。しかしながら、他の抗体由来CDRもまた、用語「可変領域」により特に含まれる。
【0020】
抗体の「特異的結合」は、2つのパラメーター:定性的パラメーター(結合エピトープ、すなわち、抗体が結合する所)および定量的パラメーター(結合親和性、すなわちそれが結合する所においてそれがどれほど強く結合するか)により主として特徴づけられる。どのエピトープが抗体により結合されるかは、例えば、公知のFACS方法、ペプチドスポットエピトープマッピング、質量分析法により有利に測定されうる。特定のエピトープに結合する抗体の強度は、例えば、公知のBIAcoreおよび/またはELISA方法により有利に測定されうる。そのような技術の組み合わせは、結合特異性の代表的な測定としてシグナル:ノイズ比の計算を可能にする。そのようなシグナル:ノイズ比において、シグナルは、対象となるエピトープに結合する抗体の強度を表すのに対して、ノイズは、対象となるエピトープとは異なる、他の関連性のないエピトープに結合する抗体の強度を表す。一般的に、抗体が、別のエピトープより一つのエピトープにより頻繁におよび/または強く結合する時はいつでも、そのような抗体は、前者のエピトープを特異的に結合すると言われうる。好ましくは、対象となるエピトープとは異なる他のエピトープについてより約50倍高い、対象となるエピトープについてのシグナル:ノイズ比は、評価された抗体が特異的な様式で対象となるエピトープを結合する、すなわち、「特異的結合因子」である、というしるしとして解釈されうる。
【0021】
下で詳述されているが、可変領域の一部は、少なくとも1つのCDR(「相補性決定領域」)、最も好ましくは少なくともCDR3領域でありうる。一本鎖抗体構築物におけるその2つのドメイン/領域は、好ましくは、一本鎖としてお互いに共有結合性に連結される。この連結は、直接的に(CD3に対して向けられたドメイン1-CD19に対して向けられたドメイン2またはCD19に対して向けられたドメイン1-CD3に対して向けられたドメイン2)かまたは追加のポリペプチドリンカー配列を通して(ドメイン1-リンカー配列-ドメイン2)かのいずれかでもたらされる。リンカーが用いられる場合、このリンカーは、好ましくは、第一および第二ドメインのそれぞれが、お互いから独立して、それらの異なる結合特異性を保持することができることを保証するのに十分な長さおよび配列をもつ。最も好ましくは、付加された実施例に実証されているが、本発明の薬学的組成物に用いられる「二重特異性一本鎖抗体構築物」は、二重特異性一本鎖Fv(scFv)である。二重特異性一本鎖分子は、当技術分野において公知であり、WO 99/54440, Mack, J. Immunol. (1997), 158, 3965-3970, Mack, PNAS, (1995), 92, 7021-7025, Kufer, Cancer Immunol. Immunother., (1997), 45, 193-197, Loffler, Blood, (2000), 95, 6, 2098-2103, Bruhl, Immunol., (2001), 166, 2420-2426, Kipriyanov. J. Mol. Biol., (1999), 293, 41-56に記載されている。
【0022】
本発明に従って用いられる場合、用語「一本鎖」とは、二重特異性一本鎖構築物のその第一および第二ドメインが、好ましくは、単一の核酸分子によりコード化可能な同一線上のアミノ酸配列の形をとって、共有結合性に連結されていることを意味する。
【0023】
上で指摘されているように、CD19は、プロB細胞および成熟B細胞においてのようなB系統において発現されている抗原を示し、それは、脱落せず、すべてのリンパ腫細胞上に一律に発現され、幹細胞には存在しない(Haagen (1992)前記; Uckun (1988) PNAS 85, 8603-8607)。CD3は、多分子T細胞受容体複合体の一部としてT細胞上に発現される抗原を示す、かつ少なくとも3つの異なる鎖CD3ε、CD3δおよびCD3γからなる、抗原を示す。T細胞上のCD3の、例えば、固定化抗CD3抗体による、クラスタリングは、T細胞受容体の結合に類似しているが、そのクローン典型的特異性とは無関係なT細胞活性化へと導く。実際に、たいていの抗CD3抗体は、CD3ε鎖を認識する。
【0024】
CD19またはCD3抗原を特異的に認識する抗体は、先行文献、例えば、Dubel (1994), J. Immunol. Methods 175, 89-95; Traunecker (1991) EMBO J. 10, 3655-3699またはKipriyanov, (1998)、前記に記載されている。さらに例証となる例は下に列挙されている。さらになお、ヒトCD3および/またはヒトCD19に対して向けられた抗体は、当技術分野において公知の通常の方法により作製されうる。
【0025】
ここで、驚くべきことに、ヒトCD3およびヒトCD19に対して向けられ、かつ形式VH(CD19)-VL(CD19)-VH(CD3)-VL(CD3)、VH(CD3)-VL(CD3)-VH(CD19)-VL(CD19)またはVH(CD3)-VL(CD3)-VL(CD19)-VH(CD19)で可変領域(VH(VHに対応する)、VL(VLに対応する))またはその部分(例えば、CDR)を含む二重特異性一本鎖構築物は、これらの構築物がVL(CD3)-VH(CD3)-VL(CD19)-VH(CD19)、VL(CD3)-VH(CD3)-VH(CD19)-VL(CD19)、VL(CD19)-VH(CD19)-VL(CD3)-VH(CD3)またはVH(CD19)-VL(CD19)-VL(CD3)-VH(CD3)のような類似の形式の構築物と比較して有利であるため、薬学的組成物として特に有用であることが見出された。後者の4つの構築物形式は、付加された実施例に示されているように、EC50値により反映されているような、有利な細胞障害性活性がより低いこと、および/または効率的もしくは完全な精製がより不十分であることを特徴とする。本発明に従って用いられる一本鎖構築物の抗CD3部分は、N末端位およびC末端位において高い生物活性があるが、VH(CD3)-VL(CD3)における配列が特に好ましいことは、特に驚くべきことであった。本発明の薬学的組成物に用いられる構築物は、有利な生産および精製の性質、加えてそれらの高い生物活性、すなわち、それらの望ましい細胞障害活性を特徴とする。対応する高い生物活性は、細胞障害性試験で測定される低〜極低のEC50値により反映される。用語「EC50」は、本発明の関係において、当技術分野において公知の、および付加された実施例で例証されているような方法(標準用量-応答曲線は、4つのパラメーター:ベースライン応答(下端)、最大応答(上端)、用量-応答増加の傾き、およびベースラインと最大の真ん中の応答を誘発する薬物濃度(EC50)により定義される)に従って測定されるEC50値に対応する。EC50は、ベースライン(下端)と最大応答(上端)の真ん中の応答を誘発する薬物または分子の濃度として定義される。細胞溶解(すなわち、細胞障害活性)の割合は、とりわけ、本明細書の上で開示された放出アッセイ、例えば、51Cr放出アッセイ、LDH放出アッセイ、カルセイン放出アッセイなどにより測定されうる。本発明の関係において、最も好ましくは、蛍光色素放出アッセイが、付加された実施例に例証されているように用いられる。ここで、本明細書に記載された二重特異性一本鎖構築物のCD19陽性細胞に対する強い細胞障害活性は、EC50値</-(以下)500 pg/ml、より好ましくは</-400 pg/ml、よりいっそう好ましくは</-300 pg/ml、よりいっそう好ましくは</-250 pg/ml、最も好ましくは</-200 pg/mlを含む分子に関する。ここで、驚くべきことに、形式VH(CD19)-VL(CD19)-VH(CD3)-VL(CD3)およびVH(CD3)-VL(CD3)-VH(CD19)-VL(CD19)をもつ特定の構築物が、これらの構築物を薬学的組成物への包含によく適したものにする高い細胞障害活性に加えて有利な性質を示すことが見出された。対照的に、VH(CD19)-VL(CD19)-VL(CD3)-VH(CD3)のような他の構築物は、例えば後者の構築物を薬学的組成物への包含にほとんど適さないものにさせる、非常に乏しい生産性/単離性しかない。
【0026】
本発明の薬学的組成物の好ましい態様において、そのCD3特異的ドメインのVHおよびVL領域は、X35-3、VIT3、BMA030(BW264/56)、CLB-T3/3、CRIS7、YTH12.5、F111-409、CLB-T3.4.2、WT31、WT32、SPv-T3b、11D8、XIII-141、XIII-46、XIII-87、12F6、T3/RW2-8C8、T3/RW2-4B6、OKT3D、M-T301、SMC2およびF101.01からなる群より選択されるCD3特異的抗体に由来する。これらのCD3特異的抗体は、当技術分野において周知であり、とりわけ、Tunnacliffe (1989), Int. Immunol. 1, 546-550に記載されている。より好ましい態様において、そのCD3特異的ドメインのそのVHおよびVL領域は、OKT-3(上で定義かつ記載されている)またはTR-66に由来する。よりいっそう好ましい(かつ、付加された実施例に例証されているような)そのVHおよびVL領域は、Traunecker (1991), EMBO J. 10, 3655-3659により記載されたCD3に対して特異的に向けられた抗体/抗体誘導体であるか、またはそれに由来する。本発明に従って、そのVHおよびVL領域は、例えば、ヒトCD3εについて遺伝子組換えのマウスT細胞において、他のTCRサブユニットの関係におけるヒトCD3εを特異的に認識する能力がある抗体/抗体誘導体などに由来する。これらの遺伝子組換えマウス細胞は、天然または天然に近い高次構造でヒトCD3エピシロンを発現させる。従って、CD3ε特異的抗体由来のVHおよびVL領域は、本発明に従って最も好ましく、その(親の)抗体は、天然もしくは天然に近い構造を反映したエピトープ、またはTCR複合体の関係において提示されたヒトCD3の高次構造的エピトープを特異的に結合するする能力があるべきである。そのような抗体は、Tunnacliffe (1989)により「グループII」抗体として分類された。さらに、Tunnacliffe (1989)における分類は、CD3に対して向けられた「グループI」および「グループIII」抗体の定義を含む。UCHT1のような「グループI」抗体は、組換えタンパク質および細胞表面上のTCRの一部として発現された両方のCD3εを認識する。それゆえに、「グループI」抗体は、CD3εに高特異的である。対照的に、本明細書で好ましい「グループII」抗体は、他のTCRサブユニットと会合した天然のTCR複合体においてのみCD3εを認識する。理論に縛られるものではないが、「グループII」抗体において、TCR関係がCD3εの認識に必要とされることが、本発明の関係において推測される。CD3γおよび/またはδは、εと会合しているが、それらもまた、「グループII」抗体の結合に関与している。すべての3つのサブユニットは、タンパク質チロシンキナーゼによりリン酸化されるチロシンでありうる免疫チロシン活性化モチーフ(ITAM)を発現させる。こういうわけで、「グループII」抗体は、CD3ε、γおよびδを経由してT細胞シグナル伝達を誘導し、CD3εを経由してT細胞シグナル伝達を選択的に誘導する「グループI」抗体と比較してより強いシグナルへと導く。さらに、治療的適用のために、強いT細胞シグナル伝達の誘導が望ましいため、発明の薬学的組成物に含まれる二重特異性一本鎖構築物に用いられうるVH(CD3)/VL(CD3)領域(またはそれらの部分)は、好ましくは、ヒトCD3に対して向けられ、かつTunnacliffe (1989)、前記による「グループII」として分類された抗体由来である。
【0027】
本発明の薬学的組成物に含まれる二重特異性一本鎖構築物に用いられうる可変領域(VHおよびVL)を供給するヒトCD19に対して向けられた抗体/抗体分子/抗体誘導体もまた、当技術分野において周知であり、付加された実施例に例証されている。ヒトCD19に向けられる好ましい抗体は、以下である:


【0028】
本発明の最も好ましい態様において、そのVH(CD19)およびVL(CD19)領域(またはそれらのCDRのような部分)は、HD37ハイブリドーマにより供給される抗体由来である(Pezzutto (1997), J. Immunol. 138, 2793-9)。
【0029】
周知ではあるが、Fv、完全な抗原認識および結合部位を含む最小限の抗体断片は、非共有結合における1つの重鎖および1つの軽鎖の可変領域(VHおよびVL)の二量体からなる。天然の抗体に見出される1つに対応するこの立体配置において、各可変ドメインの3つのCDRは、相互作用して、VH-VL二量体の表面上に抗原結合部位を限定する。集合的に、6つのCDRは、抗体へ抗原結合特異性を与える。CDRに隣接するフレームワーク(FR)は、ヒトとマウスのように様々な種の天然免疫グロブリンに本質的に保存されている三次構造をもつ。これらのFRは、それらの適切な配向でCDRを保持する働きをする。定常ドメインは、結合機能に必要とされないが、VH-VL相互作用を安定化させるのを助けうる。
【0030】
本発明の薬学的組成物に供給される二重特異性抗体構築物はさらに改変されることもまた、本発明の関係において予想される。特に、本明細書に定義されているように形式VH(CD19)-VL(CD19)-VH(CD3)-VL(CD3)、VH(CD3)-VL(CD3)-VH(CD19)-VL(CD19)またはVH(CD3)-VL(CD3)-VL(CD19)-VH(CD19)での二重特異性一本鎖抗体構築物は脱免疫されることが予想される。最も好ましくは、少なくともCD3結合部分が脱免疫される。脱免疫は、潜在的なT細胞エピトープ内のアミノ酸の置換を行うことを必要とする。
【0031】
本発明の薬学的組成物は、上で定義されているように形式VH(CD19)-VL(CD19)-VH(CD3)-VL(CD3)、VH(CD3)-VL(CD3)-VH(CD19)-VL(CD19)またはVH(CD3)-VL(CD3)-VL(CD19)-VH(CD19)であって、そのVH領域がアミノ酸配列:SEQ ID NO:54または77を含む少なくとも1つのCDR3領域(CDR-H3すなわちVHのCDR-3)を含む形式において、二重特異性一本鎖抗体構築物を含むことが予想され、かつ好ましい。
【0032】
本明細書に用いられる場合、用語「CDR領域」は、抗体分子の「相補性決定領域」を示す。従って、用語「CDR3領域」と同義語の、用語「CDR-3領域」は、抗体分子/抗体構築物の「相補性決定領域3」に関する。対応するCDR-2およびCDR-1領域について、同じことが必要な変更を加えてあてはまる。本発明の薬学的組成物に含まれる二重特異性一本鎖構築物は、CDR-3領域を含むだけでなく、ヒトCD3およびヒトCD19に対して向けられた抗体/抗体分子の可変領域/可変ドメイン(VH/VL)のCDR-1またはCDR-2領域もまた含まれる。最も好ましくは、その分子は、CD3に対して向けられた抗体のVHの少なくとも1つのCDR-3領域およびVLドメインの少なくとも1つのCDR-3領域、ならびにCD19に対して向けられた抗体のVHの少なくとも1つのCDR-3領域およびVLドメインの少なくとも1つのCDR-3領域を含む。最も好ましくは、発明の薬学的組成物の二重特異性一本鎖構築物は、さらに、本明細書に定義されたVHおよびVLドメインにおける、少なくとも1つのさらなるCDR-1領域ならびに/または少なくとも1つのさらなるCDR-2領域を含む。従って、本明細書に定義された二重特異性一本鎖構築物は、ヒトCD3、好ましくはヒトCD3εに対して向けられた抗体/抗体分子のVLのCDR-1、CDR-2、CDR-3領域、ならびにVHのCDR-1、CDR-2、CDR-3領域を含みうり、さらに、ヒトCD19に対して向けられた抗体/抗体分子のVLのCDR-1、CDR-2、CDR-3領域、ならびにVHのCDR-1、CDR-2、CDR-3領域を含む。
【0033】
好ましくは、そのVH(CD3)領域は、アミノ酸配列:SEQ ID NO:53または76を含む少なくとも1つのCDR2領域を含む。そのVH(CD3)領域は、アミノ酸配列:SEQ ID NO:52または75を含む少なくとも1つのCDR1領域を含むこともまた予想される。
【0034】
VL(CD3)領域は、好ましくは、アミノ酸配列:SEQ ID NO:57または74を含む少なくとも1つのCDR3領域を含む。VL(CD3)は、アミノ酸配列:SEQ ID NO:56または73を含む少なくとも1つのCDR2領域を含みうる。VL(CD3)は、アミノ酸配列:SEQ ID NO:55または72を含む少なくとも1つのCDR1領域もまた含みうる。
【0035】
本明細書の上で述べられているように、発明の薬学的組成物に含まれる構築物は、ヒトCD3に対して向けられた抗体のVH領域の少なくとも1つのCDR-3、ヒトCD3に対して向けられた抗体のVL領域の少なくとも1つのCDR-3、ヒトCD19に対して向けられた抗体のVH領域の少なくとも1つのCDR-3およびヒトCD19に対して向けられた抗体のVL領域の少なくとも1つのCDR-3を含む。しかしながら、最も好ましい態様において、付加された実施例に例証されているように、発明の薬学的組成物に含まれる二重特異性一本鎖構築物は、CDR-3領域だけでなく、CDR1および/またはCDR2領域もまた含むVHならびにVL領域を含む。特に、本明細書に定義されているようなCDR領域、好ましくはCDR1領域、より好ましくはCDR1領域およびCDR2領域、最も好ましくはCDR1領域、CDR2領域およびCDR3領域は、本明細書に定義されたさらなる二重特異性一本鎖構築物を作製するために用いられうる。最も好ましくは、発明の薬学的組成物に含まれる二重特異性一本鎖構築物は、本明細書に開示されている親の抗体由来であり、上で開示されているように、その親の抗体と、VH領域のCDR-3ドメインおよびVL領域のCDR-3ドメインを共有する。さらに、発明の薬学的組成物に含まれる二重特異性一本鎖構築物はまた、改変されたCDR領域を含むこともまた予想される。特に、CDR2および/またはCDR1領域(またはCDR間のフレームワークもしくはリンカー)が脱免疫されることが、例えば、予想される。
【0036】
本発明の好ましい態様において、発明の薬学的組成物に含まれる二重特異性一本鎖抗体構築物は、(a)SEQ ID NO:2、10または14記載のアミノ酸配列;(b)SEQ ID NO:1、9または13に示される核酸配列によりコードされるアミノ酸配列;(c)(b)の相補的核酸配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列によりコードされるアミノ酸配列;および(d)遺伝暗号の結果として(b)のヌクレオチド配列に対して縮重である核酸配列によりコードされるアミノ酸配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。
【0037】
本明細書に用いられる場合、用語「ハイブリダイズする」は、本明細書に定義された二重特異性一本鎖構築物をコードするポリヌクレオチドまたはその部分にハイブリダイズする能力があるポリヌクレオチド/核酸配列を指す。それゆえに、そのポリヌクレオチドは、RNAもしくはDNA調製物の、それぞれ、ノーザンもしくはサザンブロット分析におけるプローブとして有用でありうる、またはそれらのそれぞれのサイズに依存してPCR分析におけるオリゴヌクレオチドプライマーとして用いられうる。好ましくは、そのハイブリダイズするポリヌクレオチドは、少なくとも10ヌクレオチド長、より好ましくは少なくとも15ヌクレオチド長を含むが、プローブとして用いられうる本発明のハイブリダイズするポリヌクレオチドは、好ましくは、少なくとも100ヌクレオチド長、より好ましくは少なくとも200ヌクレオチド長、または最も好ましくは少なくとも500ヌクレオチド長を含む。
【0038】
核酸分子でのハイブリダイゼーション実験を行う方法は、当技術分野において周知である、すなわち、当業者は、本発明に従って、どんなハイブリダイゼーション条件を用いなければならないかを知っている。そのようなハイブリダイゼーション条件は、Molecular Cloning A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory (2001) N.Y.のような標準的なテキストブックに言及されている。本発明に従って好ましいのは、ストリンジェントな条件下で本発明のポリヌクレオチドまたはその部分にハイブリダイズする能力があるポリヌクレオチドである。
【0039】
「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」とは、すなわち、50%ホルムアミド、5×SSC(750 mM NaCl、75 mM クエン酸ナトリウム)、50 mM リン酸ナトリウム(pH 7.6)、5×デンハルト溶液、10%硫酸デキストラン、および20 μg/ml 変性した剪断サケ精子DNAを含む溶液における42℃での一晩のインキュベーション、続いて0.1×SSCにおける約65℃でフィルターを洗浄することを指す。より低いストリンジェント性のハイブリダイゼーション条件において本発明のポリヌクレオチドにハイブリダイズする核酸分子もまた企図される。ハイブリダイゼーションおよびシグナル検出のストリンジェント性における変化は、主として、ホルムアミド濃度(ホルムアミドのより低い割合が結果としてストリンジェント性の低下を生じる);塩条件または温度の操作を通して達成される。例えば、より低いストリンジェント性条件は、6×SSPE(20×SSPE = 3 M NaCl; 0.2 M NaH2PO4; 0.02 M EDTA, pH 7.4)、0.5%SDS、30%ホルムアミド、100 μg/ml サケ精子ブロッキングDNAを含む溶液における37℃での一晩のインキュベーション;続いて1×SSPE、0.1%SDSでの50℃における洗浄を含む。さらに、よりいっそう低いストリンジェント性に達するために、ストリンジェントなハイブリダイゼーション後に行われる洗浄は、より高い塩濃度(例えば、5×SSC)においてなされうる。上の条件における変化が、ハイブリダイゼーション実験においてバックグラウンドを抑制するために用いられる代替のブロッキング試薬の包含および/または置換を通して達成されうることは、留意すべきである。典型的なブロッキング試薬は、デンハルト試薬、BLOTTO、ヘパリン、変性サケ精子DNA、および市販されている専売製剤を含む。特定のブロッキング試薬の包含は、適合性に関する問題により、上記のハイブリダイゼーション条件の改変を必要とする場合がある。
【0040】
上で述べられているように、本明細書に記載された二重特異性一本鎖構築物に含まれるその可変ドメインは、追加のリンカー配列により連結される。用語「ペプチドリンカー」は、本発明に従って、本発明の三量体のポリペプチド構築物の単量体の第一ドメインおよび第二ドメインのアミノ酸配列を、互いに連結するアミノ酸を定義する。そのようなペプチドリンカーの本質的な技術的特徴は、そのペプチドリンカーが重合活性を少しも含まないことである。特に好ましいペプチドリンカーは、アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser、すなわちGly4Ser、またはその重合体、すなわち(Gly4Ser)x、xは整数1またはそれ以上を特徴とする。二次構造の促進の欠如を含む、そのペプチドリンカーの特徴は、当技術分野において公知であり、例えば、Dall'Acqua et al. (Biochem. (1998) 37, 9266-9237), Gheadle et al. (Mol Immunol (1992) 29, 21-30)およびRaag and Whitlow (FASEB (1995) 9(1), 73-80)に記載されている。また、特に好ましいのは、より少ないアミノ酸残基を含むペプチドリンカーである。5個未満のアミノ酸をもつ予想されるペプチドリンカーは、4個、3個、2個または1個のアミノ酸を含み、Gly豊富なリンカーが好ましい。その「ペプチドリンカー」の関係において特に好ましい「単一の」アミノ酸は、Glyである。従って、そのペプチドリンカーは、単一のアミノ酸Glyからなりうる。さらに、またいずれの二次構造も促進しないペプチドリンカーが好ましい。それらのドメインのお互いとの連結は、例えば、実施例に記載されているように、遺伝子操作により与えられうる。融合された、および動作可能に連結された、二重特異性一本鎖構築物を調製し、それらを哺乳動物細胞または細菌で発現させるための方法は、当技術分野において周知である(例えば、WO 99/54440またはSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 2001)。
【0041】
本発明はまた、上で定義された二重特異性一本鎖抗体構築物、すなわち、形式VH(CD19)-VL(CD19)-VH(CD3)-VL(CD3)、VH(CD3)-VL(CD3)-VH(CD19)-VL(CD19)またはVH(CD3)-VL(CD3)-VL(CD19)-VH(CD19)における二重特異性構築物をコードする核酸配列を含む薬学的組成物を提供する。これらのうち、形式VH(CD19)-VL(CD19)-VH(CD3)-VL(CD3)およびVH(CD3)-VL(CD3)-VH(CD19)-VL(CD19)の二重特異性構築物をコードする核酸配列が、それぞれ、特に、そのような薬学的組成物における包含について有利である。対照的に、例えば、形式VH(CD19)-VL(CD19)-VL(CD3)-VH(CD3)の二重特異性構築物をコードする核酸配列は、薬学的組成物への包含にはほとんど適さず、後者は、生産性/単離性が非常に乏しい。
【0042】
核酸分子は、天然に存在する核酸分子および組換え核酸分子でありうる。本発明の核酸分子は、それゆえに、天然の起源、合成または半合成でありうる。それは、DNA、RNAおよびPNAを含みうり、それらのハイブリッドでありうる。
【0043】
制御配列が本発明の核酸分子へ付加されうることは、当業者にとって明らかである。例えば、プロモーター、転写エンハンサーおよび/または本発明のポリヌクレオチドの発現の誘導を可能にする配列が用いられうる。適した誘導系は、例として、例えば、Gossen and Bujard(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992), 5547-5551)およびGossen et al. (Trends Biotech. 12 (1984), 58-62)に記載されたようなテトラサイクリン制御遺伝子発現、または、例えば、Crook (1989) EMBO J. 8, 513-519により記載されたようなデキサメタゾン誘導性遺伝子発現系である。
【0044】
さらに、核酸分子が、例えば、チオエステル結合および/またはヌクレオチド類似体を含みうることは、さらなる目的として予想される。その改変は、細胞におけるエンドヌクレアーゼおよび/またはエキソヌクレアーゼに対する核酸分子の安定化にとって有用でありうる。その核酸分子は、細胞においてその核酸分子の転写を可能にするキメラの遺伝子を含む適切なベクターにより転写されうる。この点で、本発明のポリヌクレオチドが「遺伝子ターゲティング」または「遺伝子治療」のアプローチに用いられうることもまた、理解されるべきである。もう一つの態様において、その核酸分子は標識される。核酸の検出のための方法は、当技術分野において周知であり、例えば、サザンおよびノーザンブロッティング、PCRまたはプライマー伸長である。この態様は、遺伝子治療アプローチ中に上記の核酸分子の導入の成功を検証するための方法をスクリーニングするのに有用でありうる。
【0045】
核酸分子は、前記の核酸分子のいずれかを単独かまたは組み合わせかのいずれかで含む、組換え的に作製されたキメラの核酸分子でありうる。好ましくは、核酸分子はベクターの一部である。
【0046】
本発明は、それゆえに、本発明に記載された核酸分子を含むベクターを含む薬学的組成物に関する。
【0047】
本発明のベクターは、例えば、プラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ、または、例えば、遺伝子操作に通常に用いられる別のベクターであってよく、適した宿主細胞において、かつ適した条件下で、そのベクターの選択を可能にするマーカー遺伝子のようなさらなる遺伝子を含みうる。
【0048】
さらに、本明細書に記載された二重特異性一本鎖構築物の作製に用いられうる、または本発明の薬学的組成物に用いられうるベクターは、本発明の核酸配列に加えて、適した宿主においてコード領域の適切な発現を可能にする、発現制御エレメントを含みうる。そのような制御エレメントは、当業者に公知であり、プロモーター、スプライスカセット、翻訳開始コドン、ベクターへ挿入断片を導入するための翻訳および挿入部位を含みうる。好ましくは、その核酸分子は、真核または原核細胞において発現を可能にするその発現制御配列に機能的に連結される。
【0049】
真核および原核細胞において発現を保証する制御エレメントは、当業者にとって周知である。本明細書の上で述べられているように、それらは、通常、転写の開始を保証する制御配列、ならびに任意で、転写の終結および転写産物の安定化を保証するポリAシグナルを含む。追加の制御エレメントは、転写および翻訳エンハンサー、および/または天然で付随したもしくは異種性のプロモーター領域を含みうる。例えば、哺乳動物の宿主細胞において発現を可能にする可能な制御エレメントは、CMV-HSVチミジンキナーゼプロモーター、SV40、RSVプロモーター(ラウス肉腫ウイルス)、ヒト伸長因子、1α-プロモーター、グルココルチコイド誘導性MMTVプロモーター(モロニーマウス腫瘍ウイルス)、メタロチオネインもしくはテトラサイクリン誘導性プロモーター、またはCMVエンハンサーもしくはSV40エンハンサーのようなエンハンサーを含む。白血球における発現について、特定のプロモーターが用いられうることが予想される。そのプロモーターは、当技術分野において公知であり、とりわけ、

に記載または言及されている。原核細胞における発現について、例えば、tac-lac-プロモーターまたはtrpプロモーターを含む多数のプロモーターが記載されている。転写の開始に関与するエレメントのほかに、そのような制御エレメントはまた、ポリヌクレオチドの下流に、SV40-ポリA部位またはtk-ポリA部位のような転写終結シグナルを含みうる。このような関係において、Okayama-Berg cDNA発現ベクターpcDV1(Pharmacia)、pRc/CMV、pcDNA1、pcDNA3(In-vitrogene)、pSPORT1(GIBCO BRL)、pX(Pagano (1992) Science 255, 1144-1147)、pEG202およびdpJG4-5(Gyuris (1995) Cell 75, 791-803)のような酵母ツーハイブリッドベクター、またはλgt11もしくはpGEX(Amersham-Pharmacia)のような原核生物の発現ベクターのような適した発現ベクターは、当技術分野において公知である。本明細書に記載された二重特異性一本鎖構築物をコードする核酸分子のほかに、ベクターは、分泌シグナルをコードする核酸配列をさらに含みうる。そのような配列は、当業者に周知である。さらに、用いられる発現系に依存して、本発明のペプチドを細胞内区画へ方向づける能力があるリーダー配列は、本発明の核酸分子のコード配列に付加されうり、当技術分野において周知である。リーダー配列は、翻訳開始配列および翻訳終結配列と適切な相で集合させられ、好ましくは、リーダー配列は、翻訳されたタンパク質の分泌またはそのタンパク質を、細胞膜周辺腔または細胞外培地へ方向づける能力がある。任意で、異種性配列は、望ましい特徴、例えば、発現された組換え産物の安定化または単純化された精製を与えるC末端またはN末端同定ペプチドを含む融合タンパク質をコードしうる。いったん、ベクターが適切な宿主へ組み入れられたならば、宿主は、ヌクレオチド配列の高レベル発現に適した条件下で維持され、所望されたとおり、続いて本明細書に記載された二重特異性一本鎖構築物を回収し精製することができる。本発明はまた、従って、本明細書に定義されたようなベクターを含む宿主細胞に関する。そのような宿主は、本発明の薬学的組成物に、および医学的/薬学的設定に直接的に、含まれる二重特異性一本鎖構築物を得るための方法において有用でありうる。その宿主細胞はまた、形質導入されたまたはトランスフェクションされた、リンパ球のような白血球、好ましくは成熟細胞を含みうる。そのような宿主細胞は、移植治療に有用でありうる。
【0050】
さらに、本明細書に記載された核酸分子に加えてベクターが、遺伝子治療アプローチに用いられうる。遺伝子治療は、治療的遺伝子を細胞へエクスビボまたはインビボ技術により導入することに基づいているが、遺伝子移入の最も重要な適用の一つである。インビトロもしくはインビボの遺伝子治療のための適切なベクター、方法または遺伝子送達系は、文献に記載されており、当業者に公知である。例えば、

およびそこに引用された参照文献を参照されたい。特に、そのベクターおよび/または遺伝子送達系はまた、血液、リンパ球、骨髄および対応する幹細胞における遺伝子治療に記載されている。例えば、

を参照されたい。本発明の薬学的組成物に含まれる核酸分子およびベクターは、直接的導入のために、またはリポソーム、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルスの、レトロウイルスの)、エレクトロポレーション、弾道的(例えば、遺伝子銃)もしくは他の送達系を経由しての細胞への導入のために、設計されうる。さらに、バキュロウイルス系が、本発明の核酸分子についての昆虫細胞における真核生物の発現系として用いられうる。導入および遺伝子治療のアプローチは、好ましくは、本明細書に定義されたような機能的な二重特異性一本鎖構築物の発現へ導き、その発現された抗体分子は、本明細書に定義されたようなB細胞関連悪性腫瘍の処置、改善および/または予防に特に有用である。好ましくは、発現制御配列は、真核生物の宿主細胞を形質転換またはトランスフェクションする能力があるベクターにおける真核生物のプロモーター系であるが、原核生物の宿主のための制御配列も用いられうる。いったん、ベクターが適切な宿主へ組み入れられたならば、宿主は、ヌクレオチド配列の高レベル発現に適した条件下で維持され、所望されたとおり、続いて二重特異性一本鎖構築物を回収し精製することができる。例えば、付加された実施例を参照されたい。
【0051】
それゆえに、本発明のさらなる態様において、以下の形式での二重特異性一本鎖構築物をコードするベクター、またはそのベクターで形質転換もしくはトランスフェクションされた宿主を含む薬学的組成物が提供される:
VH(CD19)-VL(CD19)-VH(CD3)-VL(CD3)、
VH(CD3)-VL(CD3)-VH(CD19)-VL(CD19)または
VH(CD3)-VL(CD3)-VL(CD19)-VH(CD19)。
【0052】
本発明の薬学的組成物はまた、免疫エフェクター細胞に対して追加の活性化シグナルを与える能力があるタンパク性化合物を含みうる。そのような化合物は、限定されるものではないが、CD28結合体(engager)、ICOS結合体、41BB結合体、OX40結合体、CD27結合体、CD30結合体、NKG2D結合体、IL2-R結合体またはIL12-R結合体を含みうる。本発明の観点から、免疫エフェクター細胞に活性化シグナルを与えるその「タンパク性化合物」は、例えば、さらなる第一の活性化シグナル、または共刺激性(第二の)シグナルもしくは任意の他の補助的(第三の)活性化シグナルでありうる。実施例は、TCRまたはTCR様シグナルである。タンパク性化合物の好ましい形式は、追加の二重特異性抗体およびそれらの断片または誘導体、例えば二重特性scFvを含む。タンパク性化合物は、限定されるものではないが、4-1BB、OX40、CD27、CD70に特異的なscFv断片、またはB7-RP1、B7-H3についての受容体、ならびにT細胞受容体もしくはスーパー抗原に特異的なscFv断片を含みうる。スーパー抗原は、MHC非依存的様式でT細胞受容体可変領域の特定のサブファミリーに直接的に結合し、それに伴って、主要なT細胞活性化シグナルを仲介する。タンパク性化合物はまた、非T細胞である免疫エフェクター細胞に活性化シグナルを与えうる。非T細胞である免疫エフェクター細胞についての例は、とりわけ、NK細胞を含む。
【0053】
本発明のさらなる態様において、本発明の薬学的組成物の作製のための方法が提供され、その方法は、本明細書に定義されているような二重特異性一本鎖抗体構築物の発現を可能にする条件下で上で定義された宿主を培養する段階、および培養物から産生された二重特異性一本鎖抗体構築物を回収する段階を含む。対応する方法は、付加された実施例に例証されている。
【0054】
最も好ましい態様において、本発明は、増殖性疾患、微小残存癌、腫瘍性疾患、炎症性疾患、免疫不全、自己免疫疾患、感染症、ウイルス性疾患、アレルギー反応、寄生虫性反応、移植片対宿主病、宿主対移植片病、もしくはB細胞悪性腫瘍の予防、処置または改善のための薬学的組成物を調製するための、本明細書に定義されている、二重特異性一本鎖抗体構築物、核酸配列、ベクターおよび/または宿主の使用に関し、その薬学的組成物は、任意で、免疫エフェクター細胞に活性化シグナルを与える能力があるタンパク性化合物をさらに含む。
【0055】
従って、増殖性疾患、微小残存癌、腫瘍性疾患、炎症性疾患、免疫不全、自己免疫疾患、感染症、ウイルス性疾患、アレルギー反応、寄生虫性反応、移植片対宿主病、宿主対移植片病、もしくはB細胞悪性腫瘍の予防、処置または改善のための方法が提供され、その方法は、そのような予防、処置または改善を必要とする対象に、本発明の薬学的組成物を投与する段階を含む。最も好ましくは、その対象はヒトである。
【0056】
本発明の薬学的組成物で処置されうる腫瘍性疾患は、微小残存癌、例えば微小残存リンパ腫、または白血病でありうる。
【0057】
本発明の薬学的組成物で処置されうる自己免疫疾患は、炎症性自己免疫疾患において、例えば、慢性関節リウマチでありうる。
【0058】
本発明に従って、本明細書に記載されているような、二重特異性一本鎖抗体構築物、核酸配列、ベクターおよび/または宿主は、B細胞の枯渇のための薬学的組成物を調製するために用いられる。
【0059】
本発明の薬学的組成物で処置されうるB細胞悪性腫瘍は、最も好ましい態様のおいて、非ホジキンリンパ腫、B細胞白血病またはホジキンリンパ腫である。従って、本発明は、B細胞悪性腫瘍、B細胞仲介性自己免疫疾患もしくはB細胞の枯渇の処置のための方法、ならびに/またはB細胞疾患により引き起こされる病的状態を遅らせる方法であって、その悪性腫瘍、疾患および/もしくは病的状態に冒された哺乳動物、好ましくはヒト、へ本発明の薬学的組成物を投与する段階を含む方法を提供する。
【0060】
最後に、本発明は、上で定義されているような、二重特異性一本鎖抗体構築物、核酸配列、ベクターおよび/または宿主を含むキットを提供する。そのキットは、特に、本発明の薬学的組成物の調製に有用であり、とりわけ、注射または注入に有用な容器からなりうる。有利には、本発明のキットは、任意で、緩衝液、保存溶液、および/または医学的もしくは科学的目的の行為に必要とされる残りの試薬もしくは材料をさらに含む。さらに、本発明のキットの一部は、バイアルもしくはボトルに個々に、または容器もしくは複数容器ユニットに組み合わせて、パッケージされうる。本発明のキットは、有利には、とりわけ、本発明の方法を実施するために用いられうり、本明細書で言及された様々な適用に、例えば、研究手段または医学的手段として、用いられうる。キットの製造は、好ましくは、当業者に公知である標準的手順に従う。
【0061】
これらを始めとする態様は、本発明の説明および実施例により、開示かつ包含される。本発明に従って用いられうる抗体、方法、用途および化合物のいずれか一つに関係するさらなる文献は、例えば、電子デバイスを用いて、公開ライブラリーおよびデータベースから検索されうる。例えば、インターネット上で利用可能な公開データベース「Medline」は、例えば、

の下で利用されうる。

のようなさらなるデータベースおよびアドレスは、当業者に公知であり、例えば、

を用いても得られる。
【0062】
本発明は、以下の実施例を参照することにより記載されるが、実施例は、単に例示にすぎず、本発明の範囲の限定として解釈されるべきではない。
【実施例】
【0063】
実施例1:様々なドメイン再配列を含むCD19×CD3およびCD3×CD19一本鎖二重特異性抗体の構築
一般的に、それぞれ、ヒトCD3抗原に対する結合特異性をもつドメイン、およびヒトCD19抗原に対する結合特異性をもつドメインを含む、二重特異性一本鎖抗体分子が、以下の表1に設定されているように設計された。
【0064】
(表1)抗CD3および抗CD19特異性を含む二重特異性一本鎖抗体分子の形式

【0065】
HD37ハイブリドーマ(Pezzutto, J. Immunol. 138 (1997), 2793-9)由来の可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)ドメインは、標準的PCR方法(Orlandi, Proc. Natl. Acad. Sci.USA 86 (1989), 3833-7)によりクローニングされた。cDNA合成は、オリゴdTプライマーおよびTaqポリメラーゼを用いて実行された。PCRによる抗CD19 Vドメインの増幅について、Dubel, J. Immunol. Methods 175 (1994), 89-95により記載されたプライマーに基づいて、VLドメインに隣接するプライマー5'L1(SEQ ID NO: 37)および3'K(SEQ ID NO: 38)、ならびに重鎖についての5'H1(SEQ ID NO: 39)および3'G(SEQ ID NO: 40)が用いられた。抗CD3 scFv断片のcDNAは、親切にもTraunecker(Traunecker, EMBO J. 10 (1991) 3655-9)により提供された。
【0066】
表1に設定されている構築物1は、以下のように構築された。抗CD19 scFv断片を得るために、別々のプラスミドベクターへクローニングされた対応するVL領域およびVH領域は、それぞれ、オリゴヌクレオチドプライマー対5'VLB5RRV(SEQ ID NO: 41)/3'VLGS15(SEQ ID NO: 42)および5'VHGS15(SEQ ID NO: 43)/3'VHBspE1(SEQ ID NO: 28)を用いるVL特異的およびVH特異的PCRについての鋳型としての役割を果たした。重複相補性配列が、その後の融合PCR中に15-アミノ酸(Gly4Ser1)3-リンカーのコード配列を形成するように結合するPCR産物へ導入された。この増幅段階は、プライマー対5'VLB5RRV(SEQ ID NO: 41)/3'VHBspE1(SEQ ID NO: 28)を用いて行われ、その結果生じた融合産物(というより抗CD19 scFv断片)は、制限酵素EcoRVおよびBspE1で切断され、それに従って、抗17-1A/抗体CD3二重特異性一本鎖抗体の(EcoR1/Sal1にクローニングされた)コード配列を含むbluescript KS-ベクター(Stratagene)へクローニングされた(実際には、Flag-タグを含まないバージョン)(Kufer, Cancer Immunol. Immunother. 45 (1997) 193)。それにより、抗17-1A特異性が、C末端の抗CD3 scFv断片を連結する5-アミノ酸Gly4Ser-リンカーを保存しながら、抗CD19-scFv-断片に置換された。その後、ドメイン配列VLCD19-VHCD19-VHCD3-VLCD3をもつ抗CD19/抗CD3二重特異性一本鎖抗体をコードするDNA断片が、記載された発現ベクターpEF-DHFR(Mack, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92 (1995), 7021-5)のEcoR1/Sal1部位へサブクローニングされた。その結果生じたプラスミド-DNAは、エレクトロポレーションにより、DHFR欠損性CHO細胞へトランスフェクションされた。選択、遺伝子増幅およびタンパク質産生は、以前に記載されているように行われた(Mack, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92 (1995), 7021-5)。上の表1で設定されている構築物1に対応するDNA配列は、SEQ ID NO: 29に示されているとおりである。このDNA配列(リーダーを含まないが終止コドンを含む)のタンパク質翻訳は、SEQ ID NO: 30に示されているとおりである。
【0067】
上の表1で設定されている残りの構築物は、以下のように構築された。SEQ ID NO: 29に対応するDNA配列は、その配列(リーダーを含まないが終止コドンを含む)のタンパク質翻訳はSEQ ID NO: 30に示されているが、上の表1で設定された様々な抗CD3/抗CD19一本鎖二重特異性抗体の設計においてのPCR鋳型として用いられた。
【0068】
位置A1およびA2(図1Aおよび1Bに定義されているように)にCD19のVH-VL配列を生成するために、それぞれのプライマー組み合わせ5'VHCD19BsrGI(SEQ ID NO: 24)および3'VHCD19GS15(SEQ ID NO: 25)または5'VLCD19GS15(SEQ ID NO: 26)および3'VLCD19BspEI(SEQ ID NO: 27)でのPCRが用いられた。これらのPCRサイクル中に、重複相補性配列が、その後の融合PCR中に15個のアミノ酸リンカーのコード配列を形成するPCR産物へ導入された。増幅されたVLおよびVHドメインは、外側のプライマーのみ、すなわち5'VHCD19BsrGI(SEQ ID NO: 24)および3'VLCD19BspEI(SEQ ID NO: 27)、ならびに両方の増幅体(amplificant)が必要とされる第二のPCR反応において融合された。
【0069】
他のプライマーの組み合わせを用いる同様の手順が、他のドメイン配列を構築するために用いられた。適切なプライマーの1セットは、多重PCRに基づいたクローニング段階を行うために設計され、最終的には、結果として、様々なVL-VHドメイン配列を生じた。用いられたプライマー組み合わせは、以下の表に列挙されている。
【0070】
(表2)表1に示されている構築物2、3、4、5、6、7および8の位置A1ならびにA2の構築に用いられるPCRに基づいたクローニング段階の概要

【0071】
C末端位置、すなわち図1Aおよび1Bに定義されている位置B1ならびにB2におけるVH-VLドメイン配列を変化させるために、指定された制限酵素認識部位を含む以下のプライマーは、PCRに基づいたクローニング段階を行うように設計された。
【0072】
(表3)表1に示されている構築物2、3、4、5、6、7および8の位置B1ならびにB2の構築に用いられるPCRに基づいたクローニング段階の概要

【0073】
2つのBspEI部位により隣接された対応するPCR産物は、BspEIおよびXmaI制限酵素で消化される、BS-CTIと名付けられたプラスミドへクローニングされた。CTIと名付けられたポリリンカー(SEQ ID NO: 36)が、追加の切断部位、加えてG4Sリンカーをコードする配列、6個の連続したヒスチジン残基および終止コドンを供給するために、制限酵素切断部位XbaIおよびSalIを用いて、Bluescript KSベクター(GenBankアクセッション番号X52327)へ事前に挿入された。このクローニング段階中、VHドメインのBspEI部位は、プラスミドのXmaI部位と融合され、それにより、両方の部位を破壊した。可変ドメインの正しい配向は、標準的プロトコールによるシーケンシングにより検証された。
【0074】
上で示されたすべての分子生物学的手順は、Sambrook, Molecular Cloning (A Laboratory Manual,第3版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (2001))に記載された標準的プロトコールに従って行われた。
【0075】
表1における一本鎖二重特異性抗体をコードするDNA(SEQ ID NO: 29、1、3、5、7、9、11、13)は、Mack et al. (Mack, Proc Natl Acad Sci USA 92 (1995), 7021-25)に記載されているように、DHFR欠損性CHO細胞における真核生物のタンパク質発現のためにDHFR欠損性CHO細胞へトランスフェクションされた。構築物の遺伝子増幅は、メトトレキセート(MTX)の濃度を20 nM MTXの最終濃度まで増加させることにより誘導された。トランスフェクションされた細胞は、その後、増殖され、1リットルの上清が生成された。
【0076】
実施例2:CD3およびCD19に対して向けられた一本鎖二重特異性抗体の発現および精製
タンパク質は、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)で発現された。発現ベクターのトランスフェクションは、細胞のリン酸カルシウム処理後に行われた("Molecular Cloning", Sambrook et al. 1989)。細胞は、回収の前に、CHO改変DMEM培地(HiQ(登録商標), HiClone)を含むローラーボトルにおいて7日間、増殖された。細胞は、遠心分離により除去され、発現されたタンパク質を含む上清は、-20℃で保存された。
【0077】
Akta(登録商標)FPLC System(Pharmacia)およびUnicorn(登録商標)Softwareが、クロマトグラフィーのために用いられた。すべての化学物質は研究グレードのものであり、Sigma(Deisenhofen)またはMerck(Darmstadt)から購入された。固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(「IMAC」)は、製造業者により提供されたプロトコールによりZnCl2を添加されたFractogel(登録商標)カラム(Merck)を用いて行われた。カラムは、緩衝液A2(20 mM リン酸ナトリウム緩衝液pH 7.5、0.4 M NaCl)と平衡化され、細胞培養上清(500 ml)は、3 ml/minの流速でカラム(10 ml)へ加えられた。カラムは、結合していない試料を除去するために緩衝液A2で洗浄された。結合したタンパク質は、以下に従って、緩衝液B2(20 mM リン酸ナトリウム緩衝液pH 7.5、0.4 M NaCl、0.5 M イミダゾール)の2段階勾配を用いて溶出された:
段階1:6つのカラム容量において20%緩衝液B2;
段階2:6つのカラム容量において100%緩衝液B2。
段階2から溶出されたタンパク質画分は、さらなる精製のためにプールされた。
【0078】
ゲル濾過クロマトグラフィーは、PBS(Gibco)と平衡化されたSephadex S200 HiPrepカラム(Pharmacia)上で行われた。溶出されたタンパク質試料(流速1 ml/min)は、検出のために標準SDS-PAGEおよびウェスタンブロットにかけられた(図4および5を参照)。精製の前に、カラムは、分子量測定のために較正された(分子量マーカーキット、Sigma MW GF-200)。タンパク質濃度は、タンパク質アッセイ色素(MicroBCA, Pierce)および標準タンパク質としてIgG(Biorad)を用いて測定された。
【0079】
一本鎖二重特異性抗体は、IMAC(図2)およびゲル濾過(図3)の2段階精製方法において単離された。主要な生成物は、PBSにおけるゲル濾過により測定された場合、未変性の状態で約52 kDaの分子量であった。この分子量は、一本鎖二重特異性抗体に対応する。すべての構築物は、この方法により精製された。構築物#4は、発現されて上清へ分泌される極めて低レベルの特定のタンパク質のため、細胞培養上清から精製されることができた。
【0080】
精製された二重特異性タンパク質は、成形済みの4〜12% Bis Trisゲル(Invitrogen)で行われる還元条件下でのSDS PAGEにおいて分析された。試料調製および適用は、製造業者により提供されたプロトコールに従って行われた。分子量は、MultiMarkタンパク質標準(Invitrogen)で測定された。ゲルは、コロイド状クーマシーで染色された(Invitrogenプロトコール)。単離されたタンパク質の純度は、SDS-PAGEにより測定された場合、>95%であった(図4;52 kDにおけるタンパク質バンド)。
【0081】
ウェスタンブロットは、Optitran(登録商標)BA-S83膜およびInvitrogen Blot Moduleを用いて、製造業者により提供されたプロトコールに従って行われた。用いられた抗体は、Hisタグ(Penta His, Qiagen)に対して向けられ、ヤギ抗マウスIgは、アルカリホスファターゼ(AP)(Sigma)で標識され、基質としてBCIP/NBT(Sigma)であった。一本鎖二重特異性抗体をウェスタンブロットにより特異的に検出することができた(図5)。単一バンドが、精製された二重特異性分子に対応する52 kDで検出された。
【0082】
実施例3:CD19×CD3特異的ポリペプチドのフローサイトメトリーの結合分析
CD19およびCD3への結合能力に関する構築物の機能性を試験するために、FACS分析が行われた。この目的のために、CD19陽性Nalm 6細胞(ヒトB細胞前駆体白血病)およびCD3陽性ジャーカット細胞(ヒトT細胞白血病)が用いられた。200,000個のNalm 6細胞および200,000個のジャーカット細胞は、それぞれ、CD19およびCD3のVHならびにVLドメインの異なる配列をもつ二重特異性抗体をそれぞれ発現させるCHO細胞培養物の純粋な細胞上清の50 μlと氷上で30 min、インキュベートされた(実施例2に記載されているように)。細胞は、PBS中で2回、洗浄され、構築物の結合は、以下のように検出された。上記のように処理された細胞は、構築物のC末端ヒスチジンタグを介して細胞に結合した構築物に特異的に結合する標識されていないマウスPenta His抗体(2% FCSを含む50 μl PBS中に1:20に希釈されている;Qiagen;注文番号34660)と接触させられた。結合していないマウスPenta His抗体を除去するために、洗浄段階が後に続いた。結合した抗His抗体は、2%FCSを含む50 μl PBS中に1:100に希釈された、フィコエリトリンに結合したFcγ特異的抗体(Dianova、注文番号115-116-071)で検出された(図6A〜6Fにおける太い灰色の線)。陰性対照(図6A〜6Fにおける細い黒色の線)として、新鮮な培地が培養上清の代わりに用いられた。
【0083】
細胞は、FACS-Calibur装置(Becton Dickinson, Heidelberg)におけるフローサイトメトリーにより分析された。FACS染色および蛍光強度の測定は、Current Protocols in Immunology (Coligan, Kruisbeek, Margulies, Shevach and Strober, Wiley-Interscience, 2002)に記載されているように行われた。いくつかのドメイン配列の結合能力は、図6B、6Dおよび6Fにおける例について示されているように、明らかに検出可能であった。FACS分析において、CD19およびCD3に特異的なVHならびにVLドメインの異なる配列をもつすべての構築物は、培地ならびに1.および2.検出抗体を用いる陰性対照と比較して、CD3へ結合することを示した。結果として蛍光強度におけるシフト>5×101を生じる強い結合活性が、図6A(#1)、B(#2)、D(#6)、E(#7)、F(#8)に示された構築物について観察された。CD3へのより弱い結合は、構築物#3(図6C)について観察された。CD19への強い結合は、すべての構築物について観察された。
【0084】
実施例4:CD19およびCD3に特異的な二重特異性抗体の生物活性
再配列されたVHおよびVLドメインをもつ二重特異性抗体の細胞障害活性は、蛍光色素放出に基づいた細胞障害性アッセイにおいて測定された。
【0085】
CD19陽性NALM6細胞が、細胞培養液において37℃で30 min、10 μM カルセインAM(Molecular Probes, Leiden, Netherland, no. C-1430)で標識された標的細胞(1.5×107)として用いられた。細胞培養液中での2回の洗浄後、細胞は、カウントされ、CD4陽性T細胞クローンCB15細胞(Fickenscher博士、University of Erlangen/Nuernberg, Germanyにより親切に提供された)と混合された。2×106個のCB15細胞および2×105個のNalm 6細胞が1 mlあたりで混合され(1:10のE:T比)、この懸濁液の50 μlが、96穴丸底プレートにおけるウェルごとに用いられた。抗体は、必要とされる濃度までRPMI/10%FCS中に希釈され、この溶液の50 μlが、細胞懸濁液に添加された。標準反応は、37℃/5%CO2で、2時間、インキュベートされた。細胞障害性反応後、インキュベーション培地における放出された色素は、蛍光読み取り装置(Tecan, Crailsheim, Germany)で定量化され、対照反応(二重特異性抗体を含まない)からの蛍光シグナルと比較され、蛍光シグナルが、完全に溶解された細胞(1%サポニンにおいて10 min)について得られる。これらの読み取りを基礎として、特異的な細胞障害性が、以下の式に従って計算された:[蛍光(試料)-蛍光(対照)]:[蛍光(完全溶解)-蛍光(対照)]×100。
【0086】
S字形の用量応答曲線は、典型的には、Prism Software(GraphPad Software Inc., San Diego, USA)により測定された場合、R2値>0.97をもつ。解析プログラムにより計算されたEC50値は、生物活性の比較のために用いられた。
【0087】
図7に示されているように、すべての構築物が、CD19を発現させているNALM6細胞に対して細胞障害活性を示した。最も強い生物活性は、構築物#2、#6、#8および#1について観察された。EC50値<500 pg/mlをもつ強い細胞障害活性は、構築物#2、#6、#8および#1について検出された。それらの高い生物活性に加えて、構築物#2および#6はまた、特に、薬学的組成物への包含を受け入れられる。構築物#3および#7は、それぞれ、52 ng/mlおよび31 ng/mlのEC50値を示した。
【0088】
実施例5:145-2C11抗体
マウスCD3に対して向けられたモノクローナル抗体145-2C11は、この抗体をグループIまたはII抗CD3抗体として特徴付けるために異なるアッセイにおいて分析された。145-2C11は、BCL-1およびマウスCD3に対して向けられた二重特異性抗体を構築するためにBrissinck, 1991, J. Immunol. 147-4019により、ならびにまた、de Jonge, 1997, Cancer Immunol. Immunother. 45-162により用いられた。
【0089】
5.1. ELISAにおける、マウスCD3ε鎖の組換えられ精製された細胞外ドメインへの145-2C11の結合
抗マウスCD3ε抗体(145-2C11 BD biosciences, Heidelberg, FRG)を、Maxisorp ELISAプレート(Nunc GmbH, Wiesbaden, FRG)上にコーティングした(PBS中5 μg/mlにおける50 μl)。一晩のインキュベーション後、非特異的結合を、PBS中の1.5% BSAで1時間、ブロッキングした。200 μl PBSでの3回の洗浄後、組換えC末端のHis6タグ化CD3タンパク質(組換えヒトCD3εを得るための、実施例6に記載されたものと類似の手順によって得られる)の異なる希釈溶液および関連性のない抗原(BSA)を、調製されたプレートの穴で1時間、インキュベートした。組換えCD3の結合は、ポリヒスチジンタグに結合する西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗His抗体(Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, FRG;PBS中の1.5% BSAにおいて1:500に希釈された)で検出された。ABTS(2,2'-アジノ-ジ[3-エチルベンズチアゾリンスルホナート(6)]ジアンモニウム塩、Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, FRG)を製造業者の仕様書により基質として用いた。吸光度は、SPECTRAFluor Plus光度計(Tecan Deutschland GmbH, Crailsheim)で測定された。測定波長は、405 nmで、参照波長は、620 nmであった。ウィンドウズ用のXFLUOR4 Version: V 4.40が解析ソフトウェアとして用いられた。マウスCD3ε鎖の組換えの精製された細胞外ドメインの、145-2C11抗体への結合は、1:5および1:25の抗体希釈溶液について検出された(図8)。
【0090】
5.2. FACSにおける、マウスCD3ε鎖でトランスフェクションされたヒトT細胞系への145-2C11の結合
145-2C11抗体の、マウスCD3ε鎖表面抗原でトランスフェクションされたジャーカット細胞(ATCCから入手された)への結合が、FACSアッセイを用いて試験された。このために、2.5×105個の細胞を、2%FCSを含む50 μl PBSにおけるPE結合145-2C11抗体(BD biosciences, Heidelberg, FRG)の1:50希釈溶液とインキュベートした。対照として、細胞のもう一つの試料を、2%FCSを含む50 μl PBSにおけるPE結合ハムスターIgGグループ1κアイソタイプ対照(BD biosciences, Heidelberg, FRG)の1:50の希釈溶液とインキュベートした。トランスフェクションされていない細胞もまた、記載された条件下でアッセイされた。試料は、FACSscan(BD biosciences, Heidelberg, FRG)で測定された。蛍光強度におけるシフトを引き起こす、アイソタイプ対照と比較しての145-2C11抗体の特異的結合は、トランスフェクションされた細胞において明らかに検出できたが、トランスフェクションされていない細胞においては検出できなかった(図9および10)。
【0091】
5.3. FACSにおける、145-2C11のマウスT細胞系への結合
145-2C11抗体のCTLL2細胞(ATCCから入手された)への結合は、FACSアッセイを用いて試験された。2.5×105個の細胞を、2%FCSを含む50 μl PBSにおけるPE結合145-2C11抗体(BD biosciences, Heidelberg, FRG)の1:50希釈溶液とインキュベートした。対照として、細胞のもう一つのアリコートを、2%FCSを含む50 μl PBSにおけるPE結合ハムスターIgGグループ1κアイソタイプ対照(BD biosciences, Heidelberg, FRG)の1:50の希釈溶液とインキュベートした。試料は、FACSscan(BD biosciences, Heidelberg, FRG)で測定された。アイソタイプ対照と比較しての145-2C11抗体の特異的結合は、明らかに検出できた(図11)。
【0092】
要約すると、これらのデータは、明らかに、マウス抗CD3抗体145-2C11が精製された組換えCD3εおよび真核細胞に発現されたマウスCD3εを認識することを示した。145-2C11は、マウスCD3εでトランスフェクションされたジャーカット細胞、およびその天然のマウスTCR受容体複合体においてCD3ε鎖を発現させているマウスT細胞系に結合した。両方の細胞系は、他のTCRサブユニットの関係において、細胞表面上にCD3εを発現させる。これらの2つの特徴、すなわち精製された組換えCD3εに結合すること、およびTCR複合体においてCD3εを発現させている細胞に結合することは、Tunnacliffe et al.(Tunnacliffe, 1989, Int. Immunol. 1,546-550)により記載された分類による「グループI」に属する抗CD3抗体の本質的な特徴とされた。対照的に、「グループII」抗体は、高次構造がT細胞受容体複合体全体に依存するエピトープに特異的に結合する。これらの定義に従って、145-2C11は、明らかに、「グループI」に属する抗CD3抗体として分類されうる。CD3εがCD3複合体およびT細胞受容体複合体の他の鎖から界面活性剤処理により解離された場合、145-2C11がそれでもなお、CD3εに結合することができることを見出し、このように、「グループI」CD3結合パターンを明らかにした、Leo, Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1987), 1374の観察をこれは確信させる。
【0093】
実施例6:CD3反応性二重特異性一本鎖抗体の異なるCD3結合パターンへの割当
CD3反応性二重特異性一本鎖抗体は、Tunnacliffe, International Immunology 1 (1989), 546の分類による異なるCD3結合パターンへ割り当てられうる。CD3反応性二重特異性一本鎖抗体を「グループI」CDS結合パターンへ割り当てるために、ELISAが、精製された組換えヒトCD3εについて行われうる。組換えヒトCD3εは、例えば、Tunnacliffe, Immunol. Lett. 21 (1989) 243により記載されたようなC-κ-融合構築物として、または以下の手順により入手可能な切断された可溶性CD3εとして得ることができる。
【0094】
cDNAは、ヒト末梢血単核細胞から単離された。細胞の調製は、標準プロトコール(Current Protocols in Immunology (Cligan, Kruisbeek; Margulies, Shevach and Strober, John Wiley & Sons, Inc., USA, 2002))により行われた。ランダムにプライムされた(ramdom-primed)逆転写による全RNAおよびcDNA合成の単離は、標準プロトコール(Sambrock, Molecular Clonig; Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (1989))により行われた。PCRは、ヒトCD3ε鎖の細胞外ドメインのコード配列を増幅するために用いられた。PCRに用いられるプライマーは、ヒトCD3ε鎖の細胞外部分をコードするcDNAの始めおよび終わりに制限酵素切断部位を導入するように設計された(SEQ ID NO: 80およびSEQ ID NO: 81)。導入された制限酵素切断部位、BsrGIおよびBspEIは、以下のクローニング手順において利用された。PCR産物は、その後、標準プロトコールに従って、Bluescript KS+クローニングベクター(Stratagene Europe, Amsterdam-Zuiddoost, the Netherlands)由来のBS-Fss-Lspと名付けられたプラスミドへBsrGIおよびBspEIによりクローニングされた(ベクターは、DNA断片(SEQ ID NO: 82)をEcoRIおよびSalIによりBluescript KS+へクローニングすることにより作製された)。異なるクローンの配列は、標準プロトコールによりシーケンシングすることにより決定された。BS-Fss-Lspへクローニングすることにより、マウス免疫グロブリン重鎖リーダーペプチドのコード配列は、ヒトCD3ε鎖の細胞外部分についてのコード配列の5'末端へインフレームで融合された。cDNAは、その後、後に終止コドンが続く6個の連続したヒスチジン残基のポリヒスチジンタグをコードする配列をC末端へ付着させるためにBSCTIと名付けられたもう一つのプラスミドへEcoRIおよびBspEIによりクローニングされた(BSCTIは、Kufer, Cancer Immunity 1 (2001), 10に記載されている)。この段階において、cDNAのBspEI部位は、プラスミドのXmaI部位へ融合され、それにより、両方の部位が破壊された。すべてのクローニング段階は、構築物のために無傷の読み枠を作製するように設計された。プラスミドは、その時、分泌される発現を可能にするための、マウス免疫グロブリン重鎖リーダーペプチドを含むタンパク質をコードする配列、続いて、ヒトCD3ε鎖の細胞外ドメイン、続いて、ポリヒスチジンタグにより精製および検出を可能にするための6個の連続したヒスチジン残基のポリヒスチジンタグを含んだ(SEQ ID NO: 78およびSEQ ID NO: 79)。この配列は、その後、EcoRIおよびSalIによりプラスミドpFastBac1(商標)(Invitrogen GmbH, Karlsruhe, FRG)へクローニングされた。
【0095】
High Five(商標)細胞におけるヒトCD3ε鎖の細胞外ドメインの発現は、Bac-to-Bac(登録商標)Baculovirus Expression System(Invitrogen GmbH, Karlsruhe, FRG)を用いて製造業者の仕様書により行われた。500 mlのバッチでの上清の10リットルを作製した。構築物は、その後、培養上清から精製された。精製は、2段階精製として行われた。第一に、希釈された上清を、イオン交換カラムへ添加した。分画化された溶出物をELISAアッセイにおいて試験した。このために、抗ヒトCD3ε抗体(UCHT1 BD biosciences, Heidelberg, FRG)をMaxisorp ELISAプレート(Nunc GmbH, Wiesbaden, FRG)上に一晩、コーティングした(PBS中5 μg/mlにおける50 μl)。非特異的な結合は、PBS中の1.5% BSAで1時間、ブロッキングされた。すべての前および後の洗浄段階は、200 μl PBSで3回、行われた。その後、溶出物画分を、調製されたプレートの穴において、1時間、インキュベートした。組換えタンパク質の検出は、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗His抗体(Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, FRG; PBS中1.5% BSAに1:500に希釈された抗体の50 μl)で行われた。ELISAの発色は、ABTS(2,2'-アジノ-ビス(3-エチルベンズ-チアゾリン)-6-スルホン酸)、Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, FRG)で、製造業者の仕様書により行われた。陽性画分は、ヒスチジンタグを付けられたタンパク質を優先的に結合するコバルト-キレートカラムを通してさらに精製された。溶出物画分は、記載されたELISAアッセイを用いて試験された。陽性画分は、プールされ、濃縮された。
【0096】
CD3反応性二重特異性一本鎖抗体の「グループI」CD3結合パターンへ割り当てるために、精製された組換えヒトCD3εをMaxisorp ELISAプレート(Nunc GmbH, Wiesbaden, FRG)上に一晩、コーティングし(PBS中10 μg/mlにおける50 μl)、非特異的結合を、その後、PBS中の1.5% BSAで1時間、ブロッキングしうる。次に、ELISAウェルを、200 μl PBSで3回、洗浄した。その後、(i)アミノ酸配列:dykddddkをもつN末端FLAGタグ(例えば、Mack, PNAS 92 (1995) 7021に記載されているように入手可能)を含むが、(ii)ポリヒスチジンタグを避けるバージョンにおける精製されたCD3反応性二重特異性一本鎖抗体(PBS中の1.5% BSAでの10 μg/mlにおける50 μl)は、固定化CD3ε上で1時間、インキュベートされうる。陰性対照として、二重特異性一本鎖抗体を含まない50 μl 1.5% BSAが用いられうる。陽性対照として、「グループI」抗CD3抗体UCHT1(BD biosciences, Heidelberg, FRG;PBS中1.5% BSAにおける5 μg/mlへ希釈された抗体の50 μl)が、固定化CD3ε上でインキュベートされうる。上記のようにもう1回洗浄段階が行われた後、ヒトCD3εに特異的に結合した二重特異性一本鎖抗体は、結合していない抗FLAG抗体(Sigma-Aldrich Chemie GmbH, Taufkirchen FRGから入手されたANTI-FLAG M2;PBS中の1.5% BSAにおいて5 μg/mlへ希釈された抗体の50 μl)で、続いて、固定化CD3εに結合した対照抗体を直接的に検出する、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合のヤギ抗マウスIgG、Fc-γ断片特異的抗体(Dianova, Hamburg, FRGから入手された;1.5% BSAを含む50 μl PBSにおいて1:1000に希釈された)で、検出されうる。ELISAの発現は、ABTS(Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, FRG)を用いて、製造業者の仕様書に従って90分間行った。対照抗体UCHT-1と対照的に、Traunecker, EMBO J. 10 (1991) 3655に記載されたCD3結合特異性に基づいた二重特異性一本鎖抗体のいずれも、精製された組換えヒトCD3εとの特異的な相互作用を示さず、それに従って、「グループI」CD3結合パターンへの割当を退けた。「グループII」と「グループIII」のCD3結合パターンの間の区別は、ヒトT細胞、および例えば、Tunnacliffe, International Immunology 1 (1989) 546に記載されているようなヒトCD3εトランスジェニックマウスT細胞上におけるCD3反応性二重特異性一本鎖抗体のフローサイトメトリーの結合分析により行われうる。フローサイトメトリーは、分析されうる二重特異性一本鎖抗体がポリヒスチジンタグを有する場合には、本発明の実施例3に記載されているように、または二重特異性一本鎖抗体がFlagのタグが付けられている場合には、検出抗体が蛍光標識抗Flag抗体に置き換えられることを除いては、同じプロトコールに従って、行われうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重特異性一本鎖抗体構築物を含む薬学的組成物であって、該二重特異性一本鎖抗体構築物が、ヒトCD3およびヒトCD19に特異的な結合ドメインを含み、対応する可変重鎖領域(VH)および対応する可変軽鎖領域(VL)がN末端からC末端まで以下の順に配列されている、薬学的組成物:
VH(CD19)-VL(CD19)-VH(CD3)-VL(CD3)、
VH(CD3)-VL(CD3)-VH(CD19)-VL(CD19)、または
VH(CD3)-VL(CD3)-VL(CD19)-VH(CD19)。
【請求項2】
CD3特異的ドメインのVHおよびVL領域が、以下からなる群より選択されるCD3特異的抗体に由来する、請求項1記載の薬学的組成物:OKT-3、X35-3、VIT3、BMA030(BW264/56)、CLB-T3/3、CRIS7、YTH12.5、F111-409、CLB-T3.4.2、TR-66、WT31、WT32、SPv-T3b、11D8、XIII-141、XIII-46、XIII-87、12F6、T3/RW2-8C8、T3/RW2-4B6、OKT3D、M-T301、SMC2およびF101.01。
【請求項3】
VH領域が、アミノ酸配列:SEQ ID NO:54または77を含む少なくとも1つのCDR3領域を含む、請求項1または2記載の薬学的組成物。
【請求項4】
VH領域が、アミノ酸配列:SEQ ID NO:53または76を含む少なくとも1つのCDR2領域を含む、請求項1または2記載の薬学的組成物。
【請求項5】
VH領域が、アミノ酸配列:SEQ ID NO:52または75を含む少なくとも1つのCDR1領域を含む、請求項1または2記載の薬学的組成物。
【請求項6】
VL領域が、アミノ酸配列:SEQ ID NO:57または74を含む少なくとも1つのCDR3領域を含む、請求項1から5のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項7】
VL領域が、アミノ酸配列:SEQ ID NO:56または73を含む少なくとも1つのCDR2領域を含む、請求項1から5のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項8】
VL領域が、アミノ酸配列:SEQ ID NO:55または72を含む少なくとも1つのCDR1領域を含む、請求項1から5のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項9】
二重特異性一本鎖抗体構築物が、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1から8のいずれか一項記載の薬学的組成物:
(a)SEQ ID NO:2、10または14記載のアミノ酸配列;
(b)SEQ ID NO:1、9または13記載の核酸配列によりコードされるアミノ酸配列;
(c)(b)の相補的核酸配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列によりコードされるアミノ酸配列;および
(d)遺伝暗号の結果として(b)のヌクレオチド配列に対して縮重である核酸配列によりコードされるアミノ酸配列。
【請求項10】
可変ドメインが追加のリンカー配列により連結される、請求項1から9のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に定義されている二重特異性一本鎖抗体構築物をコードする核酸配列を含む、薬学的組成物。
【請求項12】
請求項11に定義されている核酸配列を含むベクターを含む薬学的組成物。
【請求項13】
ベクターが、請求項11に定義された核酸配列に機能的に連結されている制御配列をさらに含む、請求項12記載の薬学的組成物。
【請求項14】
ベクターが発現ベクターである、請求項12または13記載の薬学的組成物。
【請求項15】
請求項12から14のいずれか一項に定義されたベクターで形質転換またはトランスフェクションされた宿主を含む、薬学的組成物。
【請求項16】
免疫エフェクター細胞に対して活性化シグナルを与える能力があるタンパク性化合物をさらに含む、請求項1から15のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項記載の薬学的組成物を産生するためのプロセスであって、該プロセスが、請求項1から10のいずれか一項に定義されている二重特異性一本鎖抗体構築物の発現を可能にする条件下で、請求項15に定義された宿主を培養する段階、および培養物から産生された二重特異性一本鎖抗体構築物を回収する段階を含むプロセス。
【請求項18】
増殖性疾患、微小残存癌、腫瘍性疾患、炎症性疾患、免疫不全、自己免疫疾患、感染症、ウイルス性疾患、アレルギー反応、寄生虫性反応、移植片対宿主病、宿主対移植片病、もしくはB細胞悪性腫瘍の予防、処置または改善のための薬学的組成物を調製するための、請求項1から10のいずれか一項に定義されている二重特異性一本鎖抗体構築物、請求項11に定義されている核酸配列、請求項12から14のいずれか一項に定義されているベクター、および/または請求項15に定義されている宿主の使用であって、該薬学的組成物が、任意で、免疫エフェクター細胞に対して活性化シグナルを提供する能力があるタンパク性化合物をさらに含む、使用。
【請求項19】
増殖性疾患、微小残存癌、腫瘍性疾患、炎症性疾患、免疫不全、自己免疫疾患、感染症、ウイルス性疾患、アレルギー反応、寄生虫性反応、移植片対宿主病もしくは宿主対移植片病、またはB細胞悪性腫瘍の予防、処置または改善のための、そのような予防、処置または改善を必要とする対象に、請求項1から16のいずれか一項記載の薬学的組成物を投与する段階を含む方法。
【請求項20】
対象がヒトである、請求項19記載の方法。
【請求項21】
腫瘍性疾患がリンパ腫、B細胞白血病またはホジキンリンパ腫からなる群より選択される、請求項18記載の使用、または請求項19もしくは20記載の方法。
【請求項22】
B細胞の枯渇のための薬学的組成物を調製するための、請求項1から10のいずれか一項に定義されている二重特異性一本鎖抗体構築物、請求項11に定義されている核酸配列、請求項12から14のいずれか一項に定義されているベクター、および/または請求項15に定義されている宿主の使用。
【請求項23】
B細胞悪性腫瘍が非ホジキンリンパ腫である、請求項18記載の使用または請求項19もしくは20記載の方法。
【請求項24】
自己免疫疾患が慢性関節リウマチである、請求項18記載の使用または請求項19もしくは20記載の方法。
【請求項25】
請求項1から10のいずれか一項に定義されている二重特異性一本鎖抗体構築物、請求項11に定義されている核酸配列、請求項12から14のいずれか一項に定義されているベクター、および/または請求項15に定義されている宿主を含むキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−63981(P2013−63981A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−236443(P2012−236443)
【出願日】平成24年10月26日(2012.10.26)
【分割の表示】特願2006−529929(P2006−529929)の分割
【原出願日】平成16年5月26日(2004.5.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ウィンドウズ
【出願人】(512244819)アムゲン リサーチ (ミュンヘン) ゲーエムベーハー (2)
【氏名又は名称原語表記】AMGEN Research(Munich)GmbH
【Fターム(参考)】