BF4−計測の後処理方法及びBF4−計測方法
【課題】被検溶液を流通路に流通させて、流通路に設置された液体膜型BF4−電極にて被検溶液のBF4−濃度を計測する方法において、2回以上連続してBF4−濃度を計測する際に生じる計測値の正誤差を抑える。
【解決手段】被検溶液を流通路に流通させて、流通路に設置された液体膜型BF4−電極にて被検溶液のBF4−濃度を計測するに際し、被検溶液の計測の後処理として流通路にBF4−溶液を流通させるようにした。
【解決手段】被検溶液を流通路に流通させて、流通路に設置された液体膜型BF4−電極にて被検溶液のBF4−濃度を計測するに際し、被検溶液の計測の後処理として流通路にBF4−溶液を流通させるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BF4−計測の後処理方法及びBF4−計測方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、石炭火力発電所から排出される脱硫排水等の被検溶液に含まれるBF4−濃度を、液体膜型BF4−電極を利用してフロー方式で計測するのに好適なBF4−計測の後処理方法及びBF4−計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭火力発電所から排出される脱硫排水中のホウ素は、主にホウ酸(H3BO3)やテトラフルオロホウ酸イオン(BF4−)の形態で存在している。BF4−はホウ素原子とフッ素原子により構成されるイオンであることから、排水中のホウ素濃度のみならず、フッ素濃度をも上昇させる要因となる。
【0003】
フッ素の排水基準は、海域の公共用水域に放流される排水については15mg/Lに設定され、海域以外の公共用水域(陸水域)に放流される排水については8mg/Lに設定されている。そこで、これらの排水基準を遵守すべく、排水中に含まれるBF4−を専用分解槽にてホウ酸とフッ化物イオン(F−)に分解し、F−をフッ化物塩として排水から分離・除去し、排水中のフッ素濃度を低減する手法が提案されている(非特許文献1)。
【0004】
ここで、BF4−の分解を効率よく行い、F−をフッ化物塩として排水から効率よく分離・除去するためには、BF4−の分解条件やF−をフッ化物塩とするために最適な薬剤の量を、排水中のBF4−とF−を計測して決定することが重要となる。
【0005】
そこで、本願発明者等は、BF4−とF−を計測するための既存技術であるイオンクロマトグラフ法や吸光光度法よりも簡易に、しかもBF4−とF−を同時に計測できる手法を特許文献1において提案している。具体的には、被検溶液を流通路に送液し、この流通路内を流通する被検溶液に液体膜型BF4−電極を接触させてBF4−の計測を行うと共に、固体膜型F−電極を接触させてF−の計測を行うことにより、BF4−とF−を同時に且つ簡易に計測可能としている。この計測方法を実施するための計測システム101の一例を図12に示す。図12に示すBF4−とF−の同時計測システム101は、被検溶液を貯留する容器102と、第一のフローセル103aと、第二のフローセル103bと、第一のフローセル103aに備えられる液体膜型BF4−電極106と、第二のフローセル103bに備えられる固体膜型F−電極107と、液体膜型BF4−電極106及び固体膜型F−電極107と接続されてBF4−とF−を計測する計測装置108とを備え、容器102から第一のフローセル103a及び第二のフローセル103bのそれぞれに被検溶液を同時に送液する送液手段4a、4bを備えて、第一のフローセル103a内を流通する被検溶液に液体膜型BF4−電極106を接触させると共に、第二のフローセル103b内を流通する被検溶液に固体膜型F−電極107を接触させるものとしている。図12中、符号110はデータ収録用のコンピュータである。また、符号106’は比較電極である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−27722号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】恵藤良弘、中原敏次、現場で役立つ無機排水処理技術、工業調査会(2005).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の計測システムを利用したBF4−及びF−の同時計測について、石炭火力発電所から排出される脱硫排水を用いて本願発明者等が検討を行ったところ、2回以上連続して計測を実施すると、BF4−の計測値に正誤差が生じることが明らかとなった。
【0009】
そこで、本発明は、被検溶液を流通路に流通させて、流通路に設置された液体膜型BF4−電極にて被検溶液のBF4−濃度を計測する方法において、2回以上連続してBF4−濃度を計測する際に生じる計測値の正誤差を抑える方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため、本願発明者等が鋭意検討を行った結果、被検溶液の計測終了後にBF4−溶液を流通路に流通させることで、次回のBF4−濃度の計測の際に計測値に正誤差が発生するのを抑えることができることを知見し、この知見に基づいてさらに種々検討を重ねて、本願発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明のBF4−計測の後処理方法は、被検溶液を流通路に流通させて、流通路に設置された液体膜型BF4−電極にて被検溶液のBF4−濃度を計測するに際し、被検溶液の計測終了後の後処理として流通路にBF4−溶液を流通させるようにしている。
【0012】
被検溶液の計測終了後の後処理として流通路にBF4−溶液を流通させることで、被検溶液の計測により液体膜型BF4−電極の電極感応膜に付着した計測妨害成分が除去される。これにより、次回のBF4−濃度の計測の際に計測値に正誤差が発生するのを抑えることができる。
【0013】
次に、本発明のBF4−計測方法は、被検溶液を流通路に流通させて、流通路に設置された液体膜型BF4−電極にて被検溶液のBF4−濃度を計測する方法において、被検溶液の計測終了後の後処理として流通路にBF4−溶液を流通させた後、新たな被検溶液の計測を実施するようにしている。
【0014】
被検溶液の計測終了後の後処理として流通路にBF4−溶液を流通させることで、被検溶液の計測により液体膜型BF4−電極の電極感応膜に付着した計測妨害成分が除去される。したがって、新たな被検溶液の計測の際に計測値に正誤差が発生するのを抑えることができる。
【0015】
ここで、本発明のBF4−計測方法において、新たな被検溶液を希釈して計測に供することが好ましい。これにより、計測妨害成分が計測中に計測値に与える影響を低減することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のBF4−計測の後処理方法によれば、被検溶液を流通路に流通させて、流通路に設置された液体膜型BF4−電極にて被検溶液のBF4−濃度を計測する際に電極感応膜に付着した計測妨害成分を除去することができる。したがって、次回の計測の際に、計測値に正誤差が発生するのを抑えて、信頼性の高い計測値を得ることが可能となる。
【0017】
また、本発明のBF4−計測方法によれば、被検溶液を流通路に流通させて、流通路に設置された液体膜型BF4−電極にて被検溶液のBF4−濃度を計測する方法において、2回以上連続してBF4−濃度を計測する際に生じる計測値の正誤差を抑えることができる。したがって、新たな被検溶液の計測について、計測妨害成分による計測値の正誤差の発生を抑えることができ、信頼性の高い計測値を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】BF4−標準試料(10ppm)を被検溶液として3回連続でBF4−計測を実施した結果を示す図である。
【図2】脱硫排水を被検溶液として3回連続でBF4−計測を実施した結果を示す図である。
【図3】脱硫排水にBF4−を5mg/L標準添加した被検溶液について3回連続でBF4−計測を実施した結果を示す図である。
【図4】脱硫排水を被検溶液として3回連続でBF4−計測を実施し、さらに脱硫排水にBF4−を5mg/L標準添加した被検溶液について3回連続でBF4−計測を実施した後、BF4−標準試料(10ppm)を被検溶液として4回連続でBF4−計測を実施した結果を示す図である。
【図5】BF4−標準試料(10mg−B/L)について、流速に対する計測プロファイルを示した図である。
【図6】脱硫排水について、流速に対する計測プロファイルを示した図である。
【図7】脱硫排水について、計測終了毎に純水洗浄を行った場合の計測プロファイルを示す図である。
【図8】脱硫排水にBF4−を5mg/L標準添加した被検溶液について、計測終了毎に純水洗浄を行った場合の計測プロファイルを示す図である。
【図9】脱硫排水の10倍希釈液について、計測終了毎に純水洗浄を行った場合の計測プロファイルを示す図である。
【図10】脱硫排水にBF4−を5mg/L標準添加して10倍希釈した被検溶液について、計測終了毎に純水洗浄を行った場合の計測プロファイルを示す図である。
【図11】BF4−溶液による洗浄作用(計測妨害成分除去作用)を示す図である。
【図12】特許文献1において提案されているBF4−とF−の同時計測システムの構成を示す概略図である。
【図13】実施例で使用した計測システムの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
本発明のBF4−計測方法は、被検溶液を流通路に流通させて、流通路に設置された液体膜型BF4−電極にて被検溶液のBF4−濃度を計測する方法において、被検溶液の計測終了後の後処理として流通路にBF4−溶液を流通させた後、新たな被検溶液の計測を実施するようにしている。つまり、被検溶液の計測終了後における流通路へのBF4−溶液の流通が本発明における後処理に該当する。尚、本発明のBF4−計測の後処理方法及びBF4−計測方法は、上述の特許文献1において提案されているBF4−とF−の同時計測法に適用できることは勿論のこと、被検溶液のBF4−濃度のみを計測する方法にも当然に適用できることは言うまでもない。
【0021】
被検溶液に含まれ得るBF4−以外の成分には、計測の際に液体膜型BF4−電極の電極感応膜に付着(吸着)して、次回の被検溶液の計測の際に計測を妨害して、計測値に正誤差を生じさせ得るものがある。本発明では、被検溶液の計測終了後における流通路へのBF4−溶液の流通によって、液体膜型BF4−電極の電極感応膜に付着している計測妨害成分を除去し、次回のBF4−計測における計測値の正誤差の発生を抑えるようにしている。例えば、石炭火力発電所から排出される脱硫排水には有機物が含まれており、この有機物がBF4−計測の計測妨害成分となり得る。本発明では、被検溶液の計測終了後における流通路へのBF4−溶液の流通によって、液体膜型BF4−電極の電極感応膜に付着している有機物を除去し、次回のBF4−計測における計測値の正誤差の発生を抑えることができる。
【0022】
尚、BF4−溶液とは、計測妨害成分を実質的に含まないBF4−溶液、例えば蒸留水や純水等に水溶性のBF4−含有化合物(例えばテトラフルオロホウ酸ナトリウム等)を添加した溶液である。
【0023】
計測終了後に流通路に流通させるBF4−溶液の濃度は、特に限定されるものではないが、高濃度とする程、液体膜型BF4−電極の電極感応膜に付着している計測妨害成分を短時間で除去することができ、好適である。具体的には、10mg/L以上とすることが好適であり、50mg/L以上とすることがより好適であり、100mg/L以上とすることがさらに好適である。
【0024】
BF4−溶液の流通路への流通時間は、BF4−溶液の濃度、液体膜型BF4−電極の電極感応膜に付着している計測妨害成分量に応じて適宜設定される。即ち、BF4−溶液の濃度が高い程、流通時間を短時間とできる。逆に、BF4−溶液の濃度が低い程、流通時間を長時間とする必要がある。また、液体膜型BF4−電極の電極感応膜に付着している計測妨害成分量が少ない程、流通時間を短時間とできる。逆に、液体膜型BF4−電極の電極感応膜に付着している計測妨害成分量が多い程、流通時間を長時間とする必要がある。尚、BF4−溶液の流速については、液体膜型BF4−電極の電極感応膜へのBF4−溶液の接触絶対量を高めて短時間で計測妨害成分を除去する上では、大きいほど好適であるが、一旦除去された計測妨害成分が液体膜型BF4−電極の電極感応膜に再付着することがない流速を確保すれば十分である。例えば、流速を5mL/min以上とすれば、一旦除去された計測妨害成分が液体膜型BF4−電極の電極感応膜に再付着することはないと考えられる。
【0025】
以上、被検溶液の計測終了後における流通路へのBF4−溶液の流通によって、被検溶液の計測の際に液体膜型BF4−電極の電極感応膜に付着した計測妨害成分が除去される。これにより、次回の被検溶液の計測の際に、前回の被検溶液の計測の際に液体膜型BF4−電極の電極感応膜に付着した計測妨害成分による計測の妨害、即ち計測値の正誤差の発生が抑えられる。これにより、信頼性の高い分析を連続して実施することが可能になる。
【0026】
ここで、本発明のBF4−計測方法において、上記新たな被検溶液は、希釈することが好ましい。これにより、計測中における液体膜型BF4−電極の電極感応膜への計測妨害成分の付着を低減して、より正確な計測値を得ることが可能となる。また、次回の計測を考慮した場合に、液体膜型BF4−電極の電極感応膜への計測妨害成分の付着量が被検溶液を希釈しない場合と比較して低下するので、被検溶液を希釈しない場合と比較して、計測終了後のBF4−溶液の流通路への流通による付着計測妨害成分の除去を短時間で達成することができる。即ち、計測終了後のBF4−溶液の流通路への流通時間を短時間とできるという利点が得られる。尚、ここでいう希釈とは、計測妨害成分を実質的に含まない水(例えば純水や蒸留水等)で被検溶液を希釈することを意味している。
【0027】
ここで、希釈率が高い程、計測妨害成分の濃度が低くなり好適ではあるが、希釈率が高すぎるとBF4−の濃度が液体膜型BF4−電極による計測下限値よりも低くなる虞があるので、液体膜型BF4−電極による計測下限値以上の濃度とする必要がある。例えば、石炭火力発電所から排出される脱硫排水については、概ね10倍程度に希釈することが好適であるが、この希釈率に限定されるものではなく、計測対象となる排水等に含まれ得るBF4−濃度に応じて、液体膜型BF4−電極による計測下限値との兼ね合いから、希釈率を適宜設定し得る。
【0028】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、上記新たな被検溶液を希釈するようにしていたが、上記被検溶液(即ち、BF4−溶液の流通路への流通する前の計測において供される被検溶液)を希釈するようにしてもよい。この場合にも、計測中における液体膜型BF4−電極の電極感応膜への計測妨害成分の付着を低減して、より正確な計測値を得ることが可能となる。また、次回の計測(新たな被検溶液の計測)を考慮した場合に、液体膜型BF4−電極の電極感応膜への計測妨害成分の付着量が被検溶液を希釈しない場合と比較して低下するので、被検溶液を希釈しない場合と比較して、計測終了後のBF4−溶液の流通路への流通による付着計測妨害成分の除去を短時間で達成することができる。即ち、計測終了後のBF4−溶液の流通路への流通時間を短時間とできるという利点が得られる。
【実施例】
【0029】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0030】
尚、本実施例における「標準添加」とは、テトラフルオロホウ酸ナトリウムを添加することにより、所定量のBF4−を添加することを意味している。
【0031】
(1)計測システム
図12に示すBF4−とF−の同時計測システム101に基づき、BF4−の計測に特化したBF4−計測システムを構築して実験を行った(図13)。図13に示すBF4−計測システム1は、被検溶液を貯留する容器2と、フローセル3と、液体膜型BF4−電極6と、送液手段4と、計測装置8と、コンピュータ10とから構成されるものとした。
【0032】
送液手段4としてペリスタポンプ(アズワン(株)製 チュービングポンプTP−10SA)を用い、ペリスタポンプに付属しているチューブにより、ペリスタポンプを介して容器2とフローセル3の液体流入部とを接続した。これにより、フローセル3内における被検溶液の流速を制御可能とした。尚、フローセル3の液体排出部から排出される計測済み溶液は、廃液として回収した。
【0033】
フローセル3は、東亜ディーケーケー製のFLC−12型とし、これに液体膜型BF4−電極6を装着した。液体膜型BF4−電極6は、東亜ディーケーケー製の7461Lとした。また、フローセル3には、比較電極6’(東亜ディーケーケー製 4401L)を装着した。これにより、フローセル3内を流通する被検溶液が液体膜型BF4−電極6と比較電極6’に接触可能とした。
【0034】
計測装置8は、東亜ディーケーケー製のマルチ水質計MM−60Rとし、液体膜型BF4−電極6による計測データの表示と収録を行い、収録したデータを専用ソフトでコンピュータ10へ転送した。
【0035】
(2)プロセス排水のBF4−計測における正誤差の検討
プロセス排水(脱硫排水)を、図13に示すBF4−計測システム1によって計測した際に生じるBF4−の計測値の正誤差について検討した。被検溶液の流速は5mL/minとした。
【0036】
まず、BF4−標準溶液(10ppm)を被検溶液として3回連続で計測を実施した。結果を図1に示す。この場合には、1回目〜3回目の計測値に誤差は生じなかった。
【0037】
次に、石炭火力発電所から排出された脱硫排水(脱硫排水Aと呼ぶ)を被検溶液として3回連続で計測を実施した。結果を図2に示す。この場合には、計測回数の増加に伴って計測値に正誤差が生じ、正誤差は計測回数が増加する程大きくなった。
【0038】
次に、脱硫排水AにBF4−を5mg/L標準添加したものを被検溶液として3回連続で計測を実施した。結果を図3に示す。この場合にも、計測回数の増加に伴って計測値に正誤差が生じ、正誤差は計測回数が増加する程大きくなった。しかも、BF4−を5mg/L標準添加していない場合(図2)と比較して、正誤差が拡大する傾向が見られた。
【0039】
次に、BF4−標準溶液(10ppm)を被検溶液として4回連続で計測を実施した。結果を図4に示す。この場合には、計測回数の増加に伴って計測値の正誤差が減少し、設定濃度(10ppm)に収束する傾向が見られた。
【0040】
以上の結果から、以下の知見が得られた。
・プロセス排水を被検溶液とすると2回目以降の計測値に正誤差が発生
・プロセス排水のBF4−濃度が高い程、正誤差が拡大
・正誤差が発生する状況でBF4−標準溶液をフローセル内に流通させると正誤差減少
【0041】
(3)正誤差の要因となるパラメータの推定
図13に示すBF4−計測システム1によって計測した際に、BF4−の計測値に正誤差を生じさせる要因となるパラメータについて検討した。
【0042】
まず、BF4−標準溶液(10ppm)を被検溶液として、流速を振って(5mL/min、7.5mL/min、10mL/min)計測を実施した。結果を図5に示す。BF4−の計測値は、流速にかかわらず、一定値(10ppm)を示した。
【0043】
上記(2)で使用した脱硫排水Aとは異なるユニットから採取した脱硫排水Bを被検溶液として上記と同様の実験を実施した。結果を図6に示す。BF4−の計測値は、時間の経過と共に上昇し、その傾きは流速に依存していた。
【0044】
以上の結果から、BF4−の計測値の正誤差の要因となるパラメータは、液体膜型BF4−電極6の電極感応膜を通過する排水量、即ち被検溶液中の計測妨害成分の濃度ではなく、電極感応膜を通過した計測妨害成分の絶対量であることが明らかとなった。
【0045】
尚、本実施例において使用した脱硫排水Aと脱硫排水Bの性状を以下に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
(4)正誤差の解消に関する検討A
BF4−の計測値の正誤差の解消に関する検討として、プロセス排水の希釈について検討した。
【0048】
まず、本実施例において構築した計測システム1の定量性について検討した結果、0.1mg/LオーダーのBF4−の定量が可能であることが確認できた。そこで、脱硫排水(A、B)について、希釈の有無による計測値の変化を検討した。結果を表2と表3に示す。尚、表3に示されているBF4−の濃度は、希釈分を考慮して換算したBF4−の濃度である。
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
尚、表2及び表3において、「脱硫排水A+5ppm BF4」とは、脱硫排水AにBF4−を5mg/L標準添加したことを意味している。また、「脱硫排水B+5ppm BF4」とは、脱硫排水BにBF4−を5mg/L標準添加したことを意味している。
【0052】
また、この実験では、被検溶液の流速を5mL/minとした。さらに、計測終了後はフローセル3内に純水を流通(5mL/min、7分、以下、この処理を純水洗浄と呼ぶこともある)させ、次の計測を実行した。
【0053】
表2及び表3に示される結果から、純水による10倍希釈を行うことで、標準添加したBF4−の濃度が計測値としてより正確に反映されることが明らかとなった。
【0054】
また、3回連続計測結果(計測終了後に純水洗浄を行い次の計測を実行)を図7〜図10に示す。図7が被検溶液を脱硫排水A(希釈無し)とした結果を示す図であり、図8が被検溶液を脱硫排水A+5ppm BF4(希釈無し)とした結果を示す図であり、図9が被検溶液を脱硫排水A(10倍希釈)とした結果を示す図であり、図10が被検溶液を脱硫排水A+5ppm BF4(希釈無し)とした結果を示す図である。
【0055】
図7〜図10に示されるいずれの結果においても、計測回数の増加と共にBF4−の計測値に正誤差が生じ、しかも計測回数の増加に伴って正誤差が大きくなる傾向が見られた。また、BF4−を標準添加した被検溶液を計測した場合の方が、BF4−の計測値の正誤差が拡大する傾向が見られた。
【0056】
以上の結果から、被検溶液の希釈によって、計測妨害成分の影響を低減して、BF4−の計測値をより正確なものとできる効果が奏されることを確認できた。しかしながら、被検溶液の希釈によって、2回目以降のBF4−の計測値に正誤差が生じることを解消することはできなかった。
【0057】
(5)正誤差の解消に関する検討B
上記(2)において、プロセス排水を被検溶液として計測に供した後に、BF4−標準溶液をフローセル3内に流通させると、BF4−の計測値の正誤差が減少して設定値に収束する傾向が見られた。そこで、計測終了後にBF4−標準溶液(100ppm)を流速5mL/minで7分以上フローセル3内に流通させ(以下、この処理をBF4−洗浄と呼ぶこともある)、10倍希釈した脱硫排水Aを被検溶液として3回連続計測した際のBF4−の計測値の正誤差の発生状況を検討した。また、比較試験として、BF4−洗浄に替えて純水洗浄を行った場合についても検討した。結果を図11に示す。尚、図11において、右側が計測終了毎にBF4−洗浄を行った結果を示す図であり、左側が計測終了毎に純水洗浄を行った結果を示す図である。
【0058】
図11に示される結果から、BF4−洗浄を行うことで、BF4−の計測値の正誤差の発生をほぼ完全に抑えられることが明らかとなった。したがって、計測終了後のBF4−洗浄は、次回の計測において、BF4−の計測値の正誤差の発生を解消する有効な手法であることが確かめられた。
【0059】
(6)計測妨害成分の特定
脱硫排水(A、B)に含まれる計測妨害成分の特定を行った。
【0060】
以下の被検溶液について、計測終了毎にBF4−洗浄を行い3回連続で計測を実施した。
(a)脱硫排水Aを10倍希釈
(b)脱硫排水Aを陰イオン除去処理した後、10倍希釈
(c)脱硫排水Aを有機物除去処理した後、10倍希釈
【0061】
また、以下の被検溶液について、計測終了毎にBF4−洗浄を行い3回連続で計測を実施した。但し、(e)についてのみ、計測終了毎にBF4−洗浄した場合と純水洗浄した場合について検討を行った。
(d)脱硫排水Bを10倍希釈
(e)脱硫排水Bを有機物除去処理した後、10倍希釈
【0062】
尚、陰イオン除去処理と有機物除去処理は、ジーエルサイエンス社製のイオンクロマトグラフィー向け前処理カートリッジMetaSEP(登録商標)ICを用いて行った。陰イオン除去処理にはMetaSEP IC−MAを用い、有機物除去処理にはMetaSEP IC−RPを用いた。結果を表4に示す。
【0063】
【表4】
【0064】
陰イオン除去処理を行った場合には、BF4−濃度が著しく低くなった。このことから、陰イオン除去処理を行うと、BF4−が除去されてしまうことが明らかとなった。
【0065】
有機物除去処理を行った場合には、BF4−洗浄を行った場合だけでなく、純水洗浄を行った場合にも、BF4−計測値に正誤差が生じなかった。このことから、BF4−計測値に正誤差を生じさせる要因が、被検溶液中の有機物であると考えられた。
【0066】
そして、上記(5)において、計測終了毎にBF4−洗浄を行うことで、BF4−の計測値の正誤差の発生を解消できることが示されたことから、BF4−洗浄には、液体膜型BF4−電極6の電極感応膜に付着(吸着)した有機物を除去する作用があり、この作用によって、計測妨害成分を排除して、BF4−の計測値の正誤差の発生を解消できているものと考えられた。
【符号の説明】
【0067】
3(3a) 流通路(フローセル)
6 液体膜型BF4−電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、BF4−計測の後処理方法及びBF4−計測方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、石炭火力発電所から排出される脱硫排水等の被検溶液に含まれるBF4−濃度を、液体膜型BF4−電極を利用してフロー方式で計測するのに好適なBF4−計測の後処理方法及びBF4−計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭火力発電所から排出される脱硫排水中のホウ素は、主にホウ酸(H3BO3)やテトラフルオロホウ酸イオン(BF4−)の形態で存在している。BF4−はホウ素原子とフッ素原子により構成されるイオンであることから、排水中のホウ素濃度のみならず、フッ素濃度をも上昇させる要因となる。
【0003】
フッ素の排水基準は、海域の公共用水域に放流される排水については15mg/Lに設定され、海域以外の公共用水域(陸水域)に放流される排水については8mg/Lに設定されている。そこで、これらの排水基準を遵守すべく、排水中に含まれるBF4−を専用分解槽にてホウ酸とフッ化物イオン(F−)に分解し、F−をフッ化物塩として排水から分離・除去し、排水中のフッ素濃度を低減する手法が提案されている(非特許文献1)。
【0004】
ここで、BF4−の分解を効率よく行い、F−をフッ化物塩として排水から効率よく分離・除去するためには、BF4−の分解条件やF−をフッ化物塩とするために最適な薬剤の量を、排水中のBF4−とF−を計測して決定することが重要となる。
【0005】
そこで、本願発明者等は、BF4−とF−を計測するための既存技術であるイオンクロマトグラフ法や吸光光度法よりも簡易に、しかもBF4−とF−を同時に計測できる手法を特許文献1において提案している。具体的には、被検溶液を流通路に送液し、この流通路内を流通する被検溶液に液体膜型BF4−電極を接触させてBF4−の計測を行うと共に、固体膜型F−電極を接触させてF−の計測を行うことにより、BF4−とF−を同時に且つ簡易に計測可能としている。この計測方法を実施するための計測システム101の一例を図12に示す。図12に示すBF4−とF−の同時計測システム101は、被検溶液を貯留する容器102と、第一のフローセル103aと、第二のフローセル103bと、第一のフローセル103aに備えられる液体膜型BF4−電極106と、第二のフローセル103bに備えられる固体膜型F−電極107と、液体膜型BF4−電極106及び固体膜型F−電極107と接続されてBF4−とF−を計測する計測装置108とを備え、容器102から第一のフローセル103a及び第二のフローセル103bのそれぞれに被検溶液を同時に送液する送液手段4a、4bを備えて、第一のフローセル103a内を流通する被検溶液に液体膜型BF4−電極106を接触させると共に、第二のフローセル103b内を流通する被検溶液に固体膜型F−電極107を接触させるものとしている。図12中、符号110はデータ収録用のコンピュータである。また、符号106’は比較電極である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−27722号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】恵藤良弘、中原敏次、現場で役立つ無機排水処理技術、工業調査会(2005).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の計測システムを利用したBF4−及びF−の同時計測について、石炭火力発電所から排出される脱硫排水を用いて本願発明者等が検討を行ったところ、2回以上連続して計測を実施すると、BF4−の計測値に正誤差が生じることが明らかとなった。
【0009】
そこで、本発明は、被検溶液を流通路に流通させて、流通路に設置された液体膜型BF4−電極にて被検溶液のBF4−濃度を計測する方法において、2回以上連続してBF4−濃度を計測する際に生じる計測値の正誤差を抑える方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため、本願発明者等が鋭意検討を行った結果、被検溶液の計測終了後にBF4−溶液を流通路に流通させることで、次回のBF4−濃度の計測の際に計測値に正誤差が発生するのを抑えることができることを知見し、この知見に基づいてさらに種々検討を重ねて、本願発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明のBF4−計測の後処理方法は、被検溶液を流通路に流通させて、流通路に設置された液体膜型BF4−電極にて被検溶液のBF4−濃度を計測するに際し、被検溶液の計測終了後の後処理として流通路にBF4−溶液を流通させるようにしている。
【0012】
被検溶液の計測終了後の後処理として流通路にBF4−溶液を流通させることで、被検溶液の計測により液体膜型BF4−電極の電極感応膜に付着した計測妨害成分が除去される。これにより、次回のBF4−濃度の計測の際に計測値に正誤差が発生するのを抑えることができる。
【0013】
次に、本発明のBF4−計測方法は、被検溶液を流通路に流通させて、流通路に設置された液体膜型BF4−電極にて被検溶液のBF4−濃度を計測する方法において、被検溶液の計測終了後の後処理として流通路にBF4−溶液を流通させた後、新たな被検溶液の計測を実施するようにしている。
【0014】
被検溶液の計測終了後の後処理として流通路にBF4−溶液を流通させることで、被検溶液の計測により液体膜型BF4−電極の電極感応膜に付着した計測妨害成分が除去される。したがって、新たな被検溶液の計測の際に計測値に正誤差が発生するのを抑えることができる。
【0015】
ここで、本発明のBF4−計測方法において、新たな被検溶液を希釈して計測に供することが好ましい。これにより、計測妨害成分が計測中に計測値に与える影響を低減することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のBF4−計測の後処理方法によれば、被検溶液を流通路に流通させて、流通路に設置された液体膜型BF4−電極にて被検溶液のBF4−濃度を計測する際に電極感応膜に付着した計測妨害成分を除去することができる。したがって、次回の計測の際に、計測値に正誤差が発生するのを抑えて、信頼性の高い計測値を得ることが可能となる。
【0017】
また、本発明のBF4−計測方法によれば、被検溶液を流通路に流通させて、流通路に設置された液体膜型BF4−電極にて被検溶液のBF4−濃度を計測する方法において、2回以上連続してBF4−濃度を計測する際に生じる計測値の正誤差を抑えることができる。したがって、新たな被検溶液の計測について、計測妨害成分による計測値の正誤差の発生を抑えることができ、信頼性の高い計測値を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】BF4−標準試料(10ppm)を被検溶液として3回連続でBF4−計測を実施した結果を示す図である。
【図2】脱硫排水を被検溶液として3回連続でBF4−計測を実施した結果を示す図である。
【図3】脱硫排水にBF4−を5mg/L標準添加した被検溶液について3回連続でBF4−計測を実施した結果を示す図である。
【図4】脱硫排水を被検溶液として3回連続でBF4−計測を実施し、さらに脱硫排水にBF4−を5mg/L標準添加した被検溶液について3回連続でBF4−計測を実施した後、BF4−標準試料(10ppm)を被検溶液として4回連続でBF4−計測を実施した結果を示す図である。
【図5】BF4−標準試料(10mg−B/L)について、流速に対する計測プロファイルを示した図である。
【図6】脱硫排水について、流速に対する計測プロファイルを示した図である。
【図7】脱硫排水について、計測終了毎に純水洗浄を行った場合の計測プロファイルを示す図である。
【図8】脱硫排水にBF4−を5mg/L標準添加した被検溶液について、計測終了毎に純水洗浄を行った場合の計測プロファイルを示す図である。
【図9】脱硫排水の10倍希釈液について、計測終了毎に純水洗浄を行った場合の計測プロファイルを示す図である。
【図10】脱硫排水にBF4−を5mg/L標準添加して10倍希釈した被検溶液について、計測終了毎に純水洗浄を行った場合の計測プロファイルを示す図である。
【図11】BF4−溶液による洗浄作用(計測妨害成分除去作用)を示す図である。
【図12】特許文献1において提案されているBF4−とF−の同時計測システムの構成を示す概略図である。
【図13】実施例で使用した計測システムの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
本発明のBF4−計測方法は、被検溶液を流通路に流通させて、流通路に設置された液体膜型BF4−電極にて被検溶液のBF4−濃度を計測する方法において、被検溶液の計測終了後の後処理として流通路にBF4−溶液を流通させた後、新たな被検溶液の計測を実施するようにしている。つまり、被検溶液の計測終了後における流通路へのBF4−溶液の流通が本発明における後処理に該当する。尚、本発明のBF4−計測の後処理方法及びBF4−計測方法は、上述の特許文献1において提案されているBF4−とF−の同時計測法に適用できることは勿論のこと、被検溶液のBF4−濃度のみを計測する方法にも当然に適用できることは言うまでもない。
【0021】
被検溶液に含まれ得るBF4−以外の成分には、計測の際に液体膜型BF4−電極の電極感応膜に付着(吸着)して、次回の被検溶液の計測の際に計測を妨害して、計測値に正誤差を生じさせ得るものがある。本発明では、被検溶液の計測終了後における流通路へのBF4−溶液の流通によって、液体膜型BF4−電極の電極感応膜に付着している計測妨害成分を除去し、次回のBF4−計測における計測値の正誤差の発生を抑えるようにしている。例えば、石炭火力発電所から排出される脱硫排水には有機物が含まれており、この有機物がBF4−計測の計測妨害成分となり得る。本発明では、被検溶液の計測終了後における流通路へのBF4−溶液の流通によって、液体膜型BF4−電極の電極感応膜に付着している有機物を除去し、次回のBF4−計測における計測値の正誤差の発生を抑えることができる。
【0022】
尚、BF4−溶液とは、計測妨害成分を実質的に含まないBF4−溶液、例えば蒸留水や純水等に水溶性のBF4−含有化合物(例えばテトラフルオロホウ酸ナトリウム等)を添加した溶液である。
【0023】
計測終了後に流通路に流通させるBF4−溶液の濃度は、特に限定されるものではないが、高濃度とする程、液体膜型BF4−電極の電極感応膜に付着している計測妨害成分を短時間で除去することができ、好適である。具体的には、10mg/L以上とすることが好適であり、50mg/L以上とすることがより好適であり、100mg/L以上とすることがさらに好適である。
【0024】
BF4−溶液の流通路への流通時間は、BF4−溶液の濃度、液体膜型BF4−電極の電極感応膜に付着している計測妨害成分量に応じて適宜設定される。即ち、BF4−溶液の濃度が高い程、流通時間を短時間とできる。逆に、BF4−溶液の濃度が低い程、流通時間を長時間とする必要がある。また、液体膜型BF4−電極の電極感応膜に付着している計測妨害成分量が少ない程、流通時間を短時間とできる。逆に、液体膜型BF4−電極の電極感応膜に付着している計測妨害成分量が多い程、流通時間を長時間とする必要がある。尚、BF4−溶液の流速については、液体膜型BF4−電極の電極感応膜へのBF4−溶液の接触絶対量を高めて短時間で計測妨害成分を除去する上では、大きいほど好適であるが、一旦除去された計測妨害成分が液体膜型BF4−電極の電極感応膜に再付着することがない流速を確保すれば十分である。例えば、流速を5mL/min以上とすれば、一旦除去された計測妨害成分が液体膜型BF4−電極の電極感応膜に再付着することはないと考えられる。
【0025】
以上、被検溶液の計測終了後における流通路へのBF4−溶液の流通によって、被検溶液の計測の際に液体膜型BF4−電極の電極感応膜に付着した計測妨害成分が除去される。これにより、次回の被検溶液の計測の際に、前回の被検溶液の計測の際に液体膜型BF4−電極の電極感応膜に付着した計測妨害成分による計測の妨害、即ち計測値の正誤差の発生が抑えられる。これにより、信頼性の高い分析を連続して実施することが可能になる。
【0026】
ここで、本発明のBF4−計測方法において、上記新たな被検溶液は、希釈することが好ましい。これにより、計測中における液体膜型BF4−電極の電極感応膜への計測妨害成分の付着を低減して、より正確な計測値を得ることが可能となる。また、次回の計測を考慮した場合に、液体膜型BF4−電極の電極感応膜への計測妨害成分の付着量が被検溶液を希釈しない場合と比較して低下するので、被検溶液を希釈しない場合と比較して、計測終了後のBF4−溶液の流通路への流通による付着計測妨害成分の除去を短時間で達成することができる。即ち、計測終了後のBF4−溶液の流通路への流通時間を短時間とできるという利点が得られる。尚、ここでいう希釈とは、計測妨害成分を実質的に含まない水(例えば純水や蒸留水等)で被検溶液を希釈することを意味している。
【0027】
ここで、希釈率が高い程、計測妨害成分の濃度が低くなり好適ではあるが、希釈率が高すぎるとBF4−の濃度が液体膜型BF4−電極による計測下限値よりも低くなる虞があるので、液体膜型BF4−電極による計測下限値以上の濃度とする必要がある。例えば、石炭火力発電所から排出される脱硫排水については、概ね10倍程度に希釈することが好適であるが、この希釈率に限定されるものではなく、計測対象となる排水等に含まれ得るBF4−濃度に応じて、液体膜型BF4−電極による計測下限値との兼ね合いから、希釈率を適宜設定し得る。
【0028】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、上記新たな被検溶液を希釈するようにしていたが、上記被検溶液(即ち、BF4−溶液の流通路への流通する前の計測において供される被検溶液)を希釈するようにしてもよい。この場合にも、計測中における液体膜型BF4−電極の電極感応膜への計測妨害成分の付着を低減して、より正確な計測値を得ることが可能となる。また、次回の計測(新たな被検溶液の計測)を考慮した場合に、液体膜型BF4−電極の電極感応膜への計測妨害成分の付着量が被検溶液を希釈しない場合と比較して低下するので、被検溶液を希釈しない場合と比較して、計測終了後のBF4−溶液の流通路への流通による付着計測妨害成分の除去を短時間で達成することができる。即ち、計測終了後のBF4−溶液の流通路への流通時間を短時間とできるという利点が得られる。
【実施例】
【0029】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0030】
尚、本実施例における「標準添加」とは、テトラフルオロホウ酸ナトリウムを添加することにより、所定量のBF4−を添加することを意味している。
【0031】
(1)計測システム
図12に示すBF4−とF−の同時計測システム101に基づき、BF4−の計測に特化したBF4−計測システムを構築して実験を行った(図13)。図13に示すBF4−計測システム1は、被検溶液を貯留する容器2と、フローセル3と、液体膜型BF4−電極6と、送液手段4と、計測装置8と、コンピュータ10とから構成されるものとした。
【0032】
送液手段4としてペリスタポンプ(アズワン(株)製 チュービングポンプTP−10SA)を用い、ペリスタポンプに付属しているチューブにより、ペリスタポンプを介して容器2とフローセル3の液体流入部とを接続した。これにより、フローセル3内における被検溶液の流速を制御可能とした。尚、フローセル3の液体排出部から排出される計測済み溶液は、廃液として回収した。
【0033】
フローセル3は、東亜ディーケーケー製のFLC−12型とし、これに液体膜型BF4−電極6を装着した。液体膜型BF4−電極6は、東亜ディーケーケー製の7461Lとした。また、フローセル3には、比較電極6’(東亜ディーケーケー製 4401L)を装着した。これにより、フローセル3内を流通する被検溶液が液体膜型BF4−電極6と比較電極6’に接触可能とした。
【0034】
計測装置8は、東亜ディーケーケー製のマルチ水質計MM−60Rとし、液体膜型BF4−電極6による計測データの表示と収録を行い、収録したデータを専用ソフトでコンピュータ10へ転送した。
【0035】
(2)プロセス排水のBF4−計測における正誤差の検討
プロセス排水(脱硫排水)を、図13に示すBF4−計測システム1によって計測した際に生じるBF4−の計測値の正誤差について検討した。被検溶液の流速は5mL/minとした。
【0036】
まず、BF4−標準溶液(10ppm)を被検溶液として3回連続で計測を実施した。結果を図1に示す。この場合には、1回目〜3回目の計測値に誤差は生じなかった。
【0037】
次に、石炭火力発電所から排出された脱硫排水(脱硫排水Aと呼ぶ)を被検溶液として3回連続で計測を実施した。結果を図2に示す。この場合には、計測回数の増加に伴って計測値に正誤差が生じ、正誤差は計測回数が増加する程大きくなった。
【0038】
次に、脱硫排水AにBF4−を5mg/L標準添加したものを被検溶液として3回連続で計測を実施した。結果を図3に示す。この場合にも、計測回数の増加に伴って計測値に正誤差が生じ、正誤差は計測回数が増加する程大きくなった。しかも、BF4−を5mg/L標準添加していない場合(図2)と比較して、正誤差が拡大する傾向が見られた。
【0039】
次に、BF4−標準溶液(10ppm)を被検溶液として4回連続で計測を実施した。結果を図4に示す。この場合には、計測回数の増加に伴って計測値の正誤差が減少し、設定濃度(10ppm)に収束する傾向が見られた。
【0040】
以上の結果から、以下の知見が得られた。
・プロセス排水を被検溶液とすると2回目以降の計測値に正誤差が発生
・プロセス排水のBF4−濃度が高い程、正誤差が拡大
・正誤差が発生する状況でBF4−標準溶液をフローセル内に流通させると正誤差減少
【0041】
(3)正誤差の要因となるパラメータの推定
図13に示すBF4−計測システム1によって計測した際に、BF4−の計測値に正誤差を生じさせる要因となるパラメータについて検討した。
【0042】
まず、BF4−標準溶液(10ppm)を被検溶液として、流速を振って(5mL/min、7.5mL/min、10mL/min)計測を実施した。結果を図5に示す。BF4−の計測値は、流速にかかわらず、一定値(10ppm)を示した。
【0043】
上記(2)で使用した脱硫排水Aとは異なるユニットから採取した脱硫排水Bを被検溶液として上記と同様の実験を実施した。結果を図6に示す。BF4−の計測値は、時間の経過と共に上昇し、その傾きは流速に依存していた。
【0044】
以上の結果から、BF4−の計測値の正誤差の要因となるパラメータは、液体膜型BF4−電極6の電極感応膜を通過する排水量、即ち被検溶液中の計測妨害成分の濃度ではなく、電極感応膜を通過した計測妨害成分の絶対量であることが明らかとなった。
【0045】
尚、本実施例において使用した脱硫排水Aと脱硫排水Bの性状を以下に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
(4)正誤差の解消に関する検討A
BF4−の計測値の正誤差の解消に関する検討として、プロセス排水の希釈について検討した。
【0048】
まず、本実施例において構築した計測システム1の定量性について検討した結果、0.1mg/LオーダーのBF4−の定量が可能であることが確認できた。そこで、脱硫排水(A、B)について、希釈の有無による計測値の変化を検討した。結果を表2と表3に示す。尚、表3に示されているBF4−の濃度は、希釈分を考慮して換算したBF4−の濃度である。
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
尚、表2及び表3において、「脱硫排水A+5ppm BF4」とは、脱硫排水AにBF4−を5mg/L標準添加したことを意味している。また、「脱硫排水B+5ppm BF4」とは、脱硫排水BにBF4−を5mg/L標準添加したことを意味している。
【0052】
また、この実験では、被検溶液の流速を5mL/minとした。さらに、計測終了後はフローセル3内に純水を流通(5mL/min、7分、以下、この処理を純水洗浄と呼ぶこともある)させ、次の計測を実行した。
【0053】
表2及び表3に示される結果から、純水による10倍希釈を行うことで、標準添加したBF4−の濃度が計測値としてより正確に反映されることが明らかとなった。
【0054】
また、3回連続計測結果(計測終了後に純水洗浄を行い次の計測を実行)を図7〜図10に示す。図7が被検溶液を脱硫排水A(希釈無し)とした結果を示す図であり、図8が被検溶液を脱硫排水A+5ppm BF4(希釈無し)とした結果を示す図であり、図9が被検溶液を脱硫排水A(10倍希釈)とした結果を示す図であり、図10が被検溶液を脱硫排水A+5ppm BF4(希釈無し)とした結果を示す図である。
【0055】
図7〜図10に示されるいずれの結果においても、計測回数の増加と共にBF4−の計測値に正誤差が生じ、しかも計測回数の増加に伴って正誤差が大きくなる傾向が見られた。また、BF4−を標準添加した被検溶液を計測した場合の方が、BF4−の計測値の正誤差が拡大する傾向が見られた。
【0056】
以上の結果から、被検溶液の希釈によって、計測妨害成分の影響を低減して、BF4−の計測値をより正確なものとできる効果が奏されることを確認できた。しかしながら、被検溶液の希釈によって、2回目以降のBF4−の計測値に正誤差が生じることを解消することはできなかった。
【0057】
(5)正誤差の解消に関する検討B
上記(2)において、プロセス排水を被検溶液として計測に供した後に、BF4−標準溶液をフローセル3内に流通させると、BF4−の計測値の正誤差が減少して設定値に収束する傾向が見られた。そこで、計測終了後にBF4−標準溶液(100ppm)を流速5mL/minで7分以上フローセル3内に流通させ(以下、この処理をBF4−洗浄と呼ぶこともある)、10倍希釈した脱硫排水Aを被検溶液として3回連続計測した際のBF4−の計測値の正誤差の発生状況を検討した。また、比較試験として、BF4−洗浄に替えて純水洗浄を行った場合についても検討した。結果を図11に示す。尚、図11において、右側が計測終了毎にBF4−洗浄を行った結果を示す図であり、左側が計測終了毎に純水洗浄を行った結果を示す図である。
【0058】
図11に示される結果から、BF4−洗浄を行うことで、BF4−の計測値の正誤差の発生をほぼ完全に抑えられることが明らかとなった。したがって、計測終了後のBF4−洗浄は、次回の計測において、BF4−の計測値の正誤差の発生を解消する有効な手法であることが確かめられた。
【0059】
(6)計測妨害成分の特定
脱硫排水(A、B)に含まれる計測妨害成分の特定を行った。
【0060】
以下の被検溶液について、計測終了毎にBF4−洗浄を行い3回連続で計測を実施した。
(a)脱硫排水Aを10倍希釈
(b)脱硫排水Aを陰イオン除去処理した後、10倍希釈
(c)脱硫排水Aを有機物除去処理した後、10倍希釈
【0061】
また、以下の被検溶液について、計測終了毎にBF4−洗浄を行い3回連続で計測を実施した。但し、(e)についてのみ、計測終了毎にBF4−洗浄した場合と純水洗浄した場合について検討を行った。
(d)脱硫排水Bを10倍希釈
(e)脱硫排水Bを有機物除去処理した後、10倍希釈
【0062】
尚、陰イオン除去処理と有機物除去処理は、ジーエルサイエンス社製のイオンクロマトグラフィー向け前処理カートリッジMetaSEP(登録商標)ICを用いて行った。陰イオン除去処理にはMetaSEP IC−MAを用い、有機物除去処理にはMetaSEP IC−RPを用いた。結果を表4に示す。
【0063】
【表4】
【0064】
陰イオン除去処理を行った場合には、BF4−濃度が著しく低くなった。このことから、陰イオン除去処理を行うと、BF4−が除去されてしまうことが明らかとなった。
【0065】
有機物除去処理を行った場合には、BF4−洗浄を行った場合だけでなく、純水洗浄を行った場合にも、BF4−計測値に正誤差が生じなかった。このことから、BF4−計測値に正誤差を生じさせる要因が、被検溶液中の有機物であると考えられた。
【0066】
そして、上記(5)において、計測終了毎にBF4−洗浄を行うことで、BF4−の計測値の正誤差の発生を解消できることが示されたことから、BF4−洗浄には、液体膜型BF4−電極6の電極感応膜に付着(吸着)した有機物を除去する作用があり、この作用によって、計測妨害成分を排除して、BF4−の計測値の正誤差の発生を解消できているものと考えられた。
【符号の説明】
【0067】
3(3a) 流通路(フローセル)
6 液体膜型BF4−電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検溶液を流通路に流通させて、前記流通路に設置された液体膜型BF4−電極にて前記被検溶液のBF4−濃度を計測するに際し、前記被検溶液の計測終了後の後処理として前記流通路にBF4−溶液を流通させることを特徴とするBF4−計測の後処理方法。
【請求項2】
被検溶液を流通路に流通させて、前記流通路に設置された液体膜型BF4−電極にて前記被検溶液のBF4−濃度を計測する方法において、前記被検溶液の計測終了後の後処理として前記流通路にBF4−溶液を流通させた後、新たな被検溶液の計測を実施することを特徴とするBF4−計測方法。
【請求項3】
前記新たな被検溶液を希釈して計測に供する請求項2に記載のBF4−計測方法。
【請求項1】
被検溶液を流通路に流通させて、前記流通路に設置された液体膜型BF4−電極にて前記被検溶液のBF4−濃度を計測するに際し、前記被検溶液の計測終了後の後処理として前記流通路にBF4−溶液を流通させることを特徴とするBF4−計測の後処理方法。
【請求項2】
被検溶液を流通路に流通させて、前記流通路に設置された液体膜型BF4−電極にて前記被検溶液のBF4−濃度を計測する方法において、前記被検溶液の計測終了後の後処理として前記流通路にBF4−溶液を流通させた後、新たな被検溶液の計測を実施することを特徴とするBF4−計測方法。
【請求項3】
前記新たな被検溶液を希釈して計測に供する請求項2に記載のBF4−計測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図12】
【公開番号】特開2013−83488(P2013−83488A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222273(P2011−222273)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
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