説明

BF4−電極の処理方法

【課題】より良好にBF電極の再生処理及びコンディショニング処理を行う。
【解決手段】処理対象のBF電極2を通電しながらBF溶液に浸漬させる。BF電極2はイオンメータ4に接続してホウ素濃度の測定に用いられるものであり、イオンメータ4を使用してBF電極2に通電するようにしても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BF電極の処理方法に関する。更に詳しくは、本発明は、溶液中のホウ素濃度を測定するのに使用され、前記溶液中に漬けた状態で測定に使用されるBF電極への適用に好適な処理方法、即ち再生(復活)処理方法及びコンディショニング処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶液中のホウ素濃度を測定するのに使用されるBF電極は繰り返しの使用によって劣化するものであり、劣化した場合には再生する必要がある。従来、BF電極の再生は、劣化したBF電極をBFの濃度が10ppm(ホウ素原子として10ppm)のBF溶液に10分〜30分だけ浸漬させることで行っていた。
【0003】
また、新品又は新品同等のBF電極を測定可能な状態にする場合等には、BF電極のコンディショニングを行う必要がある。従来、BF電極のコンディショニングは、再生処理と同じ方法、即ちBF電極をBFの濃度が10ppmのBF溶液に10分〜30分だけ浸漬させることで行っていた。また、BF電極内部の溶液の交換や補充を行ったり、感応膜を交換することでコンディショニングを行うこともあった(非特許文献1,2)。
【0004】
なお、BF電極についてのものではないが、ナトリウムイオン電極のコンディショニング処理方法として、例えば特開平6−265513号公報に開示された技術がある。
【0005】
【特許文献1】特開平6−265513号
【非特許文献1】東亜ディーケーケー株式会社製フッ化ホウ素酸イオン電極の取扱説明書No.ION−LB8101
【非特許文献2】イオン電極測定方法通則 JIS K0122
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の再生処理方法やコンディショニング処理方法では一定の効果は認められるものの、より一層優れた再生処理方法やコンディショニング処理方法の開発が要請されていた。
【0007】
本発明は、より効果の優れたBF電極の処理方法、即ち再生処理方法及びコンディショニング処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために請求項1記載のBF電極の処理方法は、処理対象のBF電極を通電しながらBF溶液に浸漬させるものである。BF電極の正常な電位差勾配(slope)は−59mV程度である。繰り返しの使用によってBF電極が劣化し、電極校正時の電位差勾配は大きく(絶対値は小さく)なる。また、BF電極の劣化によってy切片(E0値)は小さくなる。劣化したBF電極を通電しながらBF溶液に浸漬させることで、大きくなった電位差勾配と小さくなったE0値をそれぞれ正常値に近い値に復帰させることができる。また、新品又は新品同等のBF電極を使い始める場合、そのままで使用したのでは安定した測定や正確な測定は困難である。新品又は新品同等のBF電極を使い始める前に通電しながらBF溶液に浸漬させることで、安定した測定や正確な測定が可能になる。
【0009】
また、請求項2記載のBF電極の処理方法のように、BF電極はイオンメータに接続してホウ素濃度の測定に用いられるものであり、イオンメータを使用してBF電極に通電するようにしても良い。
【0010】
また、請求項3記載のBF電極の処理方法は、BF溶液のBF濃度をBF電極が適正に計測できる範囲の濃度としている。BF電極が適正に計測できる範囲の濃度は、例えば0.05〜10ppmである。この範囲の濃度のBF溶液を使用して、劣化したBF電極の電位差勾配とE0値を十分回復させることができると共に、新品又は新品同等のBF電極の性能を十分引き出すことができる。なお、BF溶液の濃度の範囲としては、例えば1〜10ppmがより好ましい。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載のBF電極の処理方法では、処理対象のBF電極を通電しながらBF溶液に浸漬させるので、劣化したBF電極の電位差勾配とE0値をそれぞれ正常値に近い値に戻すことができる。即ち、劣化したBF電極を再生することができる。また、処理対象のBF電極が新品又は新品同等のものである場合には、そのBF電極のコンディショニングが行われ、電位の安定的な測定や正確な測定が可能になる。
【0012】
また、請求項2記載のBF電極の処理方法のように、BF電極はイオンメータに接続してホウ素濃度の測定に用いられるものであり、イオンメータを使用してBF電極に通電するようにしても良い。
【0013】
また、請求項3記載のBF電極の処理方法では、BF溶液のBF濃度をBF電極が適正に計測できる範囲の濃度としている。この範囲の濃度のBF溶液を使用して、劣化したBF電極の電位差勾配とE0値を十分回復させることができ、劣化したBF電極を良好に再生することができると共に、新品又は新品同等のBF電極の性能を十分引き出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0015】
本発明のBF電極の処理方法は、処理対象のBF電極を通電しながらBF溶液に浸漬させるものである。処理対象のBF電極が劣化したBF電極である場合にはBF電極の再生(復活)処理が行われ、処理対象のBF電極が新品又は新品同等のBF電極である場合にはBF電極のコンディショニング処理が行われる。先ず最初に、劣化したBF電極を処理対象にしたBF電極の再生処理方法について説明する。
【0016】
BF電極の正常な電位差勾配(slope)は理論値では−59mV程度である。ただし、劣化したBF電極を再生してその使用を継続する場合は、例えば−66〜−50mV程度の範囲の値が継続して使用可能と判断できる目安の値となる。ただし、再生したBF電極の電位差勾配の値が上述の範囲から多少ずれていても、使用時の経時変化が少なく、安定して測定できるときには使用可能である。また、電位差勾配の値が例えば−50mVよりも大きくなった場合にBF電極が使用不能となり再生処理が必要であると判断しても良い。
【0017】
また、BF電極の正常なy切片(E0値)は300〜320mV程度である。ただし、劣化したBF電極を再生してその使用を継続する場合は、例えば265〜327mV程度の値が継続して使用可能と判断できる目安の値となる。ただし、再生したBF電極のE0値が上述の範囲から多少ずれていても、使用時の経時変化が少なく、安定して測定できるときには使用可能である。また、E0値が例えば265mVよりも小さくなった場合にBF電極が使用不能となり再生処理が必要であると判断しても良い。
【0018】
繰り返しの使用によってBF電極が劣化すると、電極校正時の電位差勾配は大きく(絶対値は小さく)なり、上述の使用可能と判断できる値から外れる。また、BF電極の劣化によってE0値は小さくなり、上述の使用可能と判断できる値から外れる。劣化したBF電極を通電しながらBF溶液に浸漬させることで、大きくなった電位差勾配と小さくなったE0値をそれぞれ正常値に近い値に復帰させることができる。即ち、劣化したBF電極を再生することができる。
【0019】
ここで、BF電極は、例えばイオンメータに接続してホウ素濃度の測定に用いられるものである。図1に、ホウ素濃度の測定装置の一例を示す。この測定装置1は、例えば特開2004−325264号公報に開示されたホウ素濃度の測定方法を実施するもので、BF電極2と、比較電極3と、イオンメータ4と、演算装置5を備えている。BF電極2と被検溶液6との間には被検溶液6中のBF濃度に応じた電位が発生する。イオンメータ4はこの電位差を濃度値(mg/l)に換算して表示すると共に、その値を演算装置5に供給する。演算装置5はコンピュータであり、OS等の制御プログラム、測定方法などの手順を規定したプログラム等を実行し、メモリに記憶している各種データやイオンメータ4の測定値に基づいて被検溶液6中のホウ素濃度を算出する。
【0020】
被検溶液6はホウ素を含む液体で、例えばプラスチック製ビーカー等の測定セル7に入れられている。被検溶液6が例えば火力発電所の排水である場合には、所定量の硫酸(HSO)とフッ素源として例えばNaFが添加されている。HSOとNaFが添加された排水(被検溶液)6はマグネチックスターラー8によって撹拌される。
【0021】
排水6にHSOとNaFを添加すると、排水6中のホウ酸(HBO)とNaFが反応してテトラフルオロホウ酸イオン(BF)が生成される。そして、BFの濃度に応じた電位がBF電極2と排水6との間に発生するので、イオンメータ4はこの電位差に基づいてBFの濃度を測定できる。
【0022】
本発明のBF電極の再生処理方法では、例えばイオンメータ4を使用してBF電極2に通電している。即ち、ホウ素濃度の測定に使用するイオンメータ4をそのまま再生処理の電源として利用することができる。この場合には、再生処理用の電源を別に準備する必要がなく大変便利である。ただし、再生処理用の電源を別に準備しても良い。
【0023】
イオンメータ4としては、例えば電気化学計器株式会社製IOL−40、東亜ディーケーケー株式会社製マルチ水質計MM−60R等の使用が可能である。また、BF電極としては、例えば東亜ディーケーケー株式会社製液体膜型フッ化ホウ素酸イオン電極7460型等の使用が可能である。
【0024】
そして、イオンメータ4を電源として利用する場合には、セル7を含めた測定装置1をそのまま利用してBF電極の再生処理を行うことが可能である。セル7にBF溶液を入れておき、このBF溶液にBF電極を浸漬させると共にイオンメータ4に接続し、通電を行う。測定装置1を利用してそのままBF電極の再生処理を行うことができるので、大変便利である。また、再生処理を行うために劣化したBF電極を別の装置類に付け替える必要がなくなり、そのまま再生処理を行うことができるので、この点からも大変便利である。
【0025】
さらに、被検溶液6はBFを含んでいるので、被検溶液6自体をBF溶液として利用することもできる。この場合には、再生処理用のBF溶液を別に準備する必要がなくなり、大変便利である。また、被検溶液6のホウ素濃度を測定しながら、同時にBF電極2の再生処理を行うことができ、この点からも大変便利である。例えば、測定と待機を繰り返すオンラインホウ素モニターでは、測定しながら同時に再生処理を行い、測定から待機に移行した後もそのまま再生処理を継続することができる。
【0026】
BF電極2への通電は、例えばホウ素濃度の測定に用いられる大きさの電流を使用することが好ましい。例えば、1pA程度の微弱電流、又は1pA以下(例えば0.1pA)の微弱電流を使用することが好ましい。ただし、1pA程度の電流や1pA以下の電流以外の電流を通電に使用しても良い。
【0027】
BF溶液のBF濃度はBF電極2が適正に計測できる範囲の濃度であることが好ましい。ここで、BF電極2が適正に計測できる範囲のBF溶液のBF濃度は、例えば0.05〜10ppm、より好ましくは1〜10ppmである。この範囲の濃度のBF溶液を使用して、劣化したBF電極2の電位差勾配とE0値を十分回復させることができる。即ち、劣化したBF電極2を良好に再生することができる。また、新品又は新品同等のBF電極2を良好にコンディショニングすることができる。ただし、BF溶液のBF濃度は上述の範囲に限るものではなく、その他の値でも良い。例えば濃度の範囲の上限は25ppmでも良い。
【0028】
また、BF電極2の再生処理の場合は、少なくとも5時間、上述の通電と浸漬を継続することが好ましい。少なくとも5時間継続することによって、劣化したBF電極2の電位差勾配とE0値を十分回復させることができ、劣化したBF電極を良好に再生することができる。ただし、5時間よりも十分長い時間処理を継続しても良く、例えば、少なくとも12時間程度処理を継続することがより好ましい。また、通電と浸漬を継続する時間は、例えば再生するBF電極2の劣化の状態等に応じて決定しても良い。
【0029】
本発明のBF電極の再生処理方法は、例えば15〜50℃の範囲の温度、より好ましくは25℃の温度で行われる。ただし、この温度以外の温度で行っても良い。
【0030】
以上、劣化したBF電極2を処理対象とするBF電極の再生処理方法について説明したが、新品又は新品同等のBF電極2を処理対象とすることで、BF電極2のコンディショニング処理を行うことができる。即ち、BF電極の再生処理方法と同じ方法でBF電極のコンディショニング処理方法を行うことができる。
【0031】
つまり、新品又は新品同等のBF電極2を通電しながらBF溶液に浸漬させることで、安定的な電位の測定や正確な電位の測定が可能になる。即ち、新品又は新品同等のBF電極をコンディショニングすることができる。
【0032】
ここで、コンディショニング処理の場合には、測定に使用可能と判断できる電位差勾配(スロープ値)の目安の値は、例えば−66〜−50mV程度の値である。ただし、コンディショニング処理後のBF電極の電位差勾配の値が上述の範囲から多少ずれていても、使用時の経時変化が少なく、安定して測定できるときには使用可能である。
【0033】
また、コンディショニング処理の場合の測定に使用可能と判断できるE0値の目安の値は、例えば300〜335mV程度の値である。ただし、コンディショニング処理後のBF電極のE0値が上述の範囲から多少ずれていても、使用時の経時変化が少なく、安定して測定できるときには使用可能である。
【0034】
BF電極のコンディショニング処理においても、上述のイオンメータ4を使用して通電を行うことができる。このようにイオンメータ4をそのままコンディショニング処理の電源として利用する場合には、コンディショニング処理用の電源を別に準備する必要がなく大変便利である。ただし、コンディショニング処理用の電源を別に準備しても良い。
【0035】
また、イオンメータ4を電源として利用する場合には、セル7を含めた測定装置1をそのまま利用してBF電極のコンディショニング処理を行うことが可能である。セル7にBF溶液を入れておき、このBF溶液にBF電極2を浸漬させると共にイオンメータ4に接続し、通電を行う。測定装置1を利用してそのままBF電極2のコンディショニング処理を行うことができるので、大変便利である。また、コンディショニング処理後にそのままホウ素濃度の測定を行うことができるので、この点からも大変便利である。
【0036】
さらに、被検溶液6はBFを含んでいるので、被検溶液6自体をBF溶液として利用することもできる。この場合には、コンディショニング処理用のBF溶液を別に準備する必要がなくなり、大変便利である。
【0037】
また、コンディショニング処理の場合は、少なくとも3時間、上述の通電と浸漬を継続することが好ましい。少なくとも3時間継続することによって、新品又は新品同等のBF電極2の性能を十分に引き出すことができ、コンディショニング処理を良好に行うことができる。ただし、3時間よりも十分長い時間処理を継続しても良く、例えば、少なくとも12時間程度処理を継続することがより好ましい。ただしBF電極2は液膜型の電極であり、新品又は新品同等のBF電極2には初期性能(E0値及びスロープ値)に個体差によるばらつきがあるので、個体毎に適切な通電時間を選択することが好ましい。
【0038】
なお、BF電極2への通電、BF溶液のBF濃度、温度条件等は、上述の再生処理方法と同様である。
【0039】
本発明のBF電極の処理方法は、水中ホウ素の自動測定機(オンラインホウ素モニター)で使用するBF電極が劣化した場合(電位差勾配の絶対値が小さくなった場合、もしくはE0値が小さくなった場合)に電極性能を復活させる(再生させる)方法、ならびにBF電極の性能を長期間安定に維持する方法を含んでおり、これらに適している。これらは、BF電極を通電しながら(オンラインホウ素モニターの通常の測定モード)BF溶液に浸漬することで、電極性能が安定に維持され、また低下した電極性能が復活するというものである。
【0040】
即ち、従来のBF電極内部の溶液の交換や補充を行う方法や、BF電極をBFの濃度が10ppmのBF溶液に10分〜30分だけ浸漬させる方法に比べて、本発明の方法を施すことにより初めて電極性能が顕著に向上し、これを継続することによって電極性能が良好な状態で安定に維持されることを見いだした。
【0041】
したがって、オンラインホウ素モニターの測定待機時も通電しながらBF溶液に浸漬することで、BF電極の良い状態が長期間維持されるため、オンラインホウ素モニターの自動運転にとって本発明は必要不可欠である。
【0042】
オンラインホウ素モニターでは、例えば測定→待機→測定→待機→…を繰り返して連続間歇測定を行っている。1回の測定は長くても例えば30分程度である。また、測定と測定の間の待機は、例えば0.5〜24時間程度である。本発明では、待機時間にもBF電極に通電することで待機時間を利用してBF電極のコンディショニング処理を行うことができる。このとき、待機時間のみをコンディショニング処理に利用しても良く、測定時間と待機時間の両方を通してコンディショニング処理を行っても良い。
【0043】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の再生処理方法及びコンディショニング処理方法では、測定装置1のイオンメータ4を利用してBF電極2の再生処理を行っていたが、処理対象のBF電極2を通電しながらBF溶液に浸漬させることが可能であれば、必ずしも測定装置1のイオンメータ4を利用しなくても良い。例えばビーカー等の容器にBF溶液を溜めてBF電極2を浸漬させるようにしても良い。
【0044】
また、上述の再生処理を複数回繰り返し行っても良く、上述のコンディショニング処理を複数回繰り返し行っても良い。
【実施例1】
【0045】
繰り返しの使用によって劣化したBF電極2を、本発明のBF電極の処理(再生処理)方法によって良好に再生できることを確認するための実験を行った。実験例1(run1)〜実験例6(run6)では、処理の前後の電極校正スロープ値(電位差勾配)を比較した。実験例7(run7)〜実験例14(run14)では、処理の前後の電極校正スロープ値及びE0値を比較した。BF電極2のBF溶液への浸漬時間は、実験例1〜実験例10では12時間、実験例11では3時間、実験例12では5時間、実験例13では4時間、実験例14では18時間である。また、処理温度は、25℃である。
【0046】
各実験の条件と結果を表1に示す。なお、表1において、「通電」の項目の○は通電しながらの実験であることを意味し、×は通電せずに行った実験であることを意味している。また、「電極状態」の項目の○は測定に使用可能の状態であることを意味し、×は測定に使用できない状態であることを意味している。
【0047】
【表1】

【0048】
表1からも明らかなように、通電オフ(通電なし)では、悪化しているスロープ値を回復させることはできず、またE0値を悪化させることになった(実験例1、実験例7)のに対し、通電オン(通電あり)では、12時間の通電で悪化したスロープ値とE0値をいずれも良好に回復させることができた(実験例2〜実験例4、実験例8〜実験例9)。
【0049】
また、通電オンでも、その通電時間が4時間以下(実験例11,13)では悪化したスロープ値とE0値を良好に回復させることはできないが、5時間以上通電を維持する(実験例12,14)ことで、悪化したスロープ値とE0値を良好に回復させることができることがわかった。
【0050】
これらの結果、本発明のBF電極の処理方法を使用することで、劣化したBF電極2を良好に再生できることを確認できた。そして、通電時間は少なくとも5時間程度必要であることもわかった。また、正常な電極に対して再生処理を行ってもその性能を悪化させることがないことを確認できた(実験例5〜6、実験例10)。このため、劣化の有無を気にせず再生処理を行うことができることがわかった。例えば、正常なBF電極2に対して再生処理を行っても支障がないので、劣化の有無にかかわらず、測定装置1を使用してホウ素濃度の測定を行いながら同時にBF電極2の再生処理を行うことができる。
具体的には以下の通りである。
【0051】
(実験例1)
劣化したBF電極2を通電せずにBF濃度が1ppmのBF溶液に一晩(12時間。以下同じ)浸漬(電極のコンディショニング)したところ、処理前の電極校正スロープ値−34.5mVが処理後には−29.1mVとなり、BF電極2への通電が無い状態でBF溶液に浸漬してもその効果は認められなかった(正常なBF電極2のスロープ値は−59mV程度)。なお、この場合の通電とは、BF電極2の電位を計測するためにイオンメータ4等の電源を入れてBF電極2を接続し、電位を計測できる状態のことをいう。
【0052】
(実験例2)
劣化したBF電極2を通電した状態でBF濃度が1ppmのBF溶液に一晩浸漬したところ、処理前の電極校正スロープ値−26.3mVが処理後には−59.1mVになった。すなわち、BF電極2を通電状態でBF溶液に長時間浸漬することで、スロープ値が著しく向上し、電極測定が可能になった。
【0053】
(実験例3)
劣化したBF電極2を通電した状態でBF濃度が1ppmのBF溶液に一晩浸漬したところ、処理前の電極校正スロープ値−30.5mVが処理後には−60.5mVになった。すなわち、BF電極2を通電状態でBF溶液に長時間浸漬することで、スロープ値が著しく向上し、電極測定が可能になった。
【0054】
(実験例4)
劣化したBF電極2を通電した状態でBF濃度が1ppmのBF溶液に一晩浸漬したところ、処理前の電極校正スロープ値−83.4mVが処理後には−60.4mVになった。すなわち、BF電極2を通電状態でBF溶液に長時間浸漬することで、スロープ値を適正な範囲内の値にし、正常な電極測定が可能になった。
【0055】
(実験例5)
正常状態のBF電極2を通電した状態でBF濃度が1ppmのBF溶液に一晩浸漬したところ、処理前の電極校正スロープ値−63.1mVは処理後に−62.5mVになった。すなわち、BF電極2を通電状態でBF溶液に長時間浸漬することで、引き続き適正なスロープ値が維持され、正常な電極測定を継続することができた。
【0056】
(実験例6)
正常状態のBF電極2を通電した状態でBF濃度が1ppmのBF溶液に一晩浸漬したところ、処理前の電極校正スロープ値−63.2mVは処理後に−65.8mVになった。すなわち、BF電極2を通電状態でBF溶液に長時間浸漬することで、引き続き適正なスロープ値が維持され、正常な電極測定を継続することができた。
【0057】
(実験例7)
正常状態のBF電極2を、通電しない状態で測定対象試料と同等のイオン強度を有するBF溶液(BF濃度:1ppm、NaF濃度:0.08mol/L、HSO:5%の混合溶液)に一晩浸漬したところ、処理前の電極校正スロープ値は処理前後でほとんど変わらなかったものの(処理前:−50.9mV、処理後:−51.0mV)、電極校正時E0値は、処理前の267.5mVが処理後に242.0mVに低下した。すなわち、電極への通電が無い状態でBF溶液に浸漬すると、E0値が著しく低下し、適正な電極測定が困難となった。
【0058】
(実験例8)
E0値が低下した劣化電極(実験例7終了後のBF電極2)を通電した状態で測定対象試料と同等のイオン強度を有するBF溶液(BF濃度:1ppm、NaF濃度:0.08mol/L、HSO:5%の混合溶液)に一晩浸漬したところ、処理前の電極校正スロープ値は処理前後でほとんど変わらなかったものの(処理前:−51.0mV、処理後:−51.4mV)、電極校正E0値は、処理前の242.0mVから処理後には、259.8mVに向上した。未だ、正常値(実験例7の267.5mV)には及ばないものの、通電状態での長時間浸漬が電極性能の向上、復活(再生)に有効であることがわかった。
【0059】
(実験例9)
E0値が低下した劣化電極(実験例8終了後のBF電極2)を通電した状態で測定対象試料と同等のイオン強度を有するBF溶液(BF濃度:1ppm、NaF濃度:0.08mol/L、HSO:5%の混合溶液)にさらに一晩浸漬したところ、処理前の電極校正スロープ値は処理前後でほとんど変わらなかったものの(処理前:−51.4mV、処理後:−52.3mV)、電極校正E0値は、処理前の259.8mVから処理後には、265.3mVにまで向上した。すなわち、通電状態でBF溶液に長時間浸漬することで、性能劣化前の電極状態(実験例7:E0値267.5mV)に戻すことができ、正常測定が可能となった。
【0060】
(実験例10)
正常状態の電極を、通電した状態で測定対象試料と同等のイオン強度を有するBF溶液(BF濃度:1ppm、NaF濃度:0.08mol/L、HSO:5%の混合溶液)に一晩浸漬したところ、処理前の電極校正スロープ値は処理前後で変わらなかった(処理前:−52.5mV、処理後:−52.5mV)。また、電極校正E0値も処理前後でほとんど変わらなかった(処理前:271.6mV、処理後:272.1mV)。すなわち、BF電極2を通電状態でBF溶液に長時間浸漬することで、引き続き適正なスロープ値とE0値が維持され、正常な電極測定を継続することができた。
【0061】
(実験例11)
劣化したBF電極2を通電した状態で測定対象試料と同等のイオン強度を有するBF溶液(BF濃度:1ppm、NaF濃度:0.08mol/L、HSO:5%の混合溶液)に3時間浸漬したところ、電極校正スロープ値及び電極校正E0値は処理前後で殆ど変わらなかった(処理前の電極校正スロープ値:−6.3mV、処理後の電極校正スロープ値:−6.6mV、処理前の電極校正E0値:186.6mV、処理後の電極校正E0値:184.2mV)。すなわち、BF電極2を通電状態で3時間、BF溶液に浸漬しても、その効果は認められなかった。
【0062】
(実験例12)
劣化したBF電極2を通電した状態で測定対象試料と同等のイオン強度を有するBF溶液(BF濃度:1ppm、NaF濃度:0.08mol/L、HSO:5%の混合溶液)に5時間浸漬したところ、処理前の電極校正スロープ値:−6.3mVが処理後には−56.5mVになり、処理前の電極校正E0値186.6mVが処理後には302.5mVになった。すなわち、BF電極2を通電状態で5時間、BF溶液に浸漬することで、スロープ値が著しく向上し、電極測定が可能になった。
【0063】
(実験例13)
劣化したBF電極2を通電した状態で測定対象試料と同等のイオン強度を有するBF溶液(BF濃度:1ppm、NaF濃度:0.08mol/L、HSO:5%の混合溶液)に4時間浸漬したところ、電極校正スロープ値及び電極校正E0値は処理前後で殆ど変わらなかった(処理前の電極校正スロープ値:−4.0mV、処理後の電極校正スロープ値:−6.8mV、処理前の電極校正E0値:190.0mV、処理後の電極校正E0値:193.1mV)。すなわち、BF電極2を通電状態で4時間、BF溶液に浸漬しても、その効果は殆ど認められなかった。
【0064】
(実験例14)
劣化したBF電極2を通電した状態で測定対象試料と同等のイオン強度を有するBF溶液(BF濃度:1ppm、NaF濃度:0.08mol/L、HSO:5%の混合溶液)に18時間浸漬したところ、処理前の電極校正スロープ値:−4.0mVが処理後には−60.4mVになり、処理前の電極校正E0値190.0mVが処理後には326.5mVになった。すなわち、BF電極2を通電状態で18時間、BF溶液に浸漬することで、スロープ値が著しく向上し、電極測定が可能になった。
【実施例2】
【0065】
新品のBF電極2を、本発明のBF電極の処理(コンディショニング処理)方法によって良好にコンディショニングできることを確認するための実験を行った。実験例15(run15)〜実験例26(run26)では、処理の前後の電極校正スロープ値及びE0値を比較した。処理温度は、25℃である。
【0066】
各実験の条件と結果を表2に示す。なお、表2において、「通電」の項目の○は通電しながらの実験であることを意味する。また、「電極状態」の項目の○は測定に使用可能の状態であることを意味し、△は使用可能に対して若干劣る状態であることを意味し、×は測定に使用できない状態であることを意味している。
【0067】
【表2】

【0068】
表2からも明らかなように、通電時間(処理を継続する時間)にばらつきがあるものの、処理対象のBF電極2を通電しながらBF溶液に浸漬させることで、そのスロープ値及びE0値を適正値にすることができた。即ち、本発明のコンディショニング処理方法によって新品又は新品同等のBF電極を良好にコンディショニングすることができることを確認できた。
【0069】
なお、通電時間のばらつきの原因として、以下の事項が考えられる。即ち、コンディショニング処理前のBF電極には初期性能(E0値、スロープ値)に個体差によるばらつきがある。特に、BF電極は液膜型の電極であり、個体差によるばらつきは比較的大きいと考えられる。また、このタイプの電極性能が過去の履歴(製造されてから計測されるまでの環境や使用状況履歴)の影響を受けやすいこともある。これらに起因して、測定可能な性能が得られるまでのコンディショニング条件に個体毎のばらつきがあると考えられる。
【0070】
新品のBF電極として、最初から十分な性能を示しておりコンディショニング処理が不要のもの(実験例25)、比較的短時間のコンディショニング処理で測定可能な性能が得られるもの(実験例18)、50〜72時間のコンディショニング処理でようやく測定可能な性能が得られるもの(実験例21,23)があった。
【0071】
また、最初から十分な性能を有している電極に対してコンディショニング処理を行ってもその性能を悪化させることがないことを確認できた(実験例25)。このため、コンディショニング処理の必要性の有無を気にせずにコンディショニング処理を行うことができることがわかった。
具体的には以下の通りである。
【0072】
(実験例15)
新品のBF電極2を、通電した状態で測定対象試料と同等のイオン強度を有するBF溶液(BF濃度:1ppm、NaF濃度:0.08mol/L、HSO:5%の混合溶液。以下同じ。)に21時間浸漬したところ、処理前の電極校正スロープ値:−49.3mVが処理後には−34.0mVになり、処理前の電極校正E0値:274.9mVが処理後には298.3mVになった。E0値は適正値に近づいたが、スロープ値は悪化しコンディショニングの効果は認められなかった。
【0073】
(実験例16)
実験例15終了後のBF電極2を、通電した状態で測定対象試料と同等のイオン強度を有するBF溶液にさらに24時間浸漬したところ、処理前の電極校正スロープ値:−34.0mVが処理後には−51.2mVになり、処理前の電極校正E0値:298.3mVが処理後には302.9mVになった。すなわち、BF電極2を通電状態でさらに24時間、BF溶液に浸漬することで、スロープ値及びE0値が向上し、電極測定が可能になった。
【0074】
(実験例17)
実験例16終了後のBF電極2を、通電した状態で測定対象試料と同等のイオン強度を有するBF溶液にさらに25時間浸漬したところ、処理前の電極校正スロープ値:−51.2mVが処理後には−56.3mVになり、処理前の電極校正E0値:302.9mVが処理後には334.1mVになった。すなわち、BF電極2を通電状態でさらに25時間、BF溶液に浸漬することで、引き続き適正なスロープ値及びE0値が維持され、正常な電極測定を継続することができた。
【0075】
(実験例18)
新品のBF電極2を、通電した状態で測定対象試料と同等のイオン強度を有するBF溶液に3時間浸漬したところ、処理前の電極校正スロープ値:−53.9mVは処理後に−56.6mVになり、処理前の電極校正E0値:293.6mVは処理後に306.9mVになった。適正なスロープ値が引き続き維持され、適正値に満たなかったE0値は適正値となり、コンディショニングの効果が認められた。
【0076】
(実験例19)
実験例18終了後のBF電極2を、通電した状態で測定対象試料と同等のイオン強度を有するBF溶液にさらに15時間浸漬したところ、処理前の電極校正スロープ値は処理前後で変わらなかった(処理前:−56.6mV、処理後:−56.6mV)。また、電極校正E0値も処理の前後で変わらなかった(処理前:306.9mV、処理後:306.9mV)。すなわち、BF電極2を通電状態でさらに15時間、BF溶液に浸漬することで、引き続き適正なスロープ値及びE0値が維持され、正常な電極測定を継続できることを確認できた。
【0077】
(実験例20)
新品のBF電極2を、通電した状態で測定対象試料と同等のイオン強度を有するBF溶液に25時間浸漬したところ、処理前の電極校正スロープ値:−54.9mVは処理後に−57.0mVになり、処理前の電極校正E0値:294.2mVは処理後に299.2mVになった。適正なスロープ値が引き続き維持され、また、適正値に満たなかったE0値は適正値に近づいた。E0値が正常値に及ばないものの、通電状態での長時間浸漬がBF電極2のコンディショニングに有効であることがわかった。
【0078】
(実験例21)
実験例20終了後のBF電極2を、通電した状態で測定対象試料と同等のイオン強度を有するBF溶液にさらに24時間浸漬したところ、処理前の電極校正スロープ値:−57.0mVが処理後には−56.6mVになり、処理前の電極校正E0値:299.2mVが処理後には306.9mVになった。BF電極2を通電状態でさらに24時間、BF溶液に浸漬することで、適正なスロープ値は維持され、僅かに劣っていたE0値は適正値になり、コンディショニングの効果が認められた。
【0079】
(実験例22)
新品のBF電極2を、通電した状態で測定対象試料と同等のイオン強度を有するBF溶液に64時間浸漬したところ、処理前の電極校正スロープ値:−52.5mVは処理後に−59.3mVになり、処理前の電極校正E0値:231.1mVは処理後に251.9mVになった。適正なスロープ値は引き続き維持されたが、適正値に満たないE0値を適正値にすることはできなかった。ただし、E0値を向上させることはできた。
【0080】
(実験例23)
実験例22終了後のBF電極2を、通電した状態で測定対象試料と同等のイオン強度を有するBF溶液にさらに8時間浸漬したところ、処理前の電極校正スロープ値:−59.3mVは処理後に−53.5mVになり、処理前の電極校正E0値:251.9mVは処理後に304.0mVになった。適正なスロープ値が引き続き維持され、適正値に満たなかったE0値が適正値となった。これにより、さらに8時間コンディショニングを継続することでその効果が認められた。
【0081】
(実験例24)
実験例23終了後のBF電極2を、通電した状態で測定対象試料と同等のイオン強度を有するBF溶液にさらに17時間浸漬したところ、処理前の電極校正スロープ値:−53.5mVは処理後には−56.8mVになり、処理前の電極校正E0値:304mVは処理後には320mVになった。すなわち、BF電極2を通電状態でさらに17時間、BF溶液に浸漬することで、引き続き適正なスロープ値及びE0値が維持され、正常な電極測定を継続できることを確認できた。
【0082】
(実験例25)
新品のBF電極2を、通電した状態で測定対象試料と同等のイオン強度を有するBF溶液に27時間浸漬したところ、処理前の電極校正スロープ値:−57.5mVは処理後に−58.4mVになり、処理前の電極校正E0値:312.9mVは処理後に317.8mVになった。最初から良好な状態のBF電極2のコンディショニングを27時間継続しても性能を維持できることを確認できた。
【0083】
(実験例26)
実験例25終了後のBF電極2を、通電した状態で測定対象試料と同等のイオン強度を有するBF溶液にさらに24時間浸漬したところ、処理前の電極校正スロープ値:−58.4は処理後に−58.7mVになり、処理前の電極校正E0値:317.8mVは処理後には318.7mVになった。すなわち、BF電極2を通電状態でさらに24時間、BF溶液に浸漬することで、引き続き適正なスロープ値及びE0値が維持され、良い性能を継続できることを確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明のBF電極の処理方法を実施する測定装置の一例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0085】
2 BF電極
4 イオンメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象のBF電極を通電しながらBF溶液に浸漬させることを特徴とするBF電極の処理方法。
【請求項2】
前記BF電極はイオンメータに接続してホウ素濃度の測定に用いられるものであり、前記イオンメータを使用して前記BF電極に通電することを特徴とする請求項1記載のBF電極の処理方法。
【請求項3】
前記BF溶液のBF濃度は前記BF電極が適正に計測できる範囲の濃度であることを特徴とする請求項1又は2記載のBF電極の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−218880(P2007−218880A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43118(P2006−43118)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)