説明

Bacillusanthracisを迅速かつ特異的に検出および殺滅するファージ関連溶菌酵素の同定

Bacillus anthracis感染を処置する方法および組成物を開示する。この方法は、Bacillus anthracisに特異的なバクテリオファージに遺伝学的にコードされる少なくとも1種類の溶菌酵素の有効量を感染またはコロニー形成部位に投与する工程を含むもので、上記少なくとも1種類の溶菌酵素が上記Bacillus anthracisの細胞壁に対して特異的であり、かつ該細胞壁を消化する能力を有する。上記溶菌酵素は、キメラ溶菌酵素または改造溶菌酵素であってもよく、ホリンタンパク質を用いることも可能である。溶菌酵素γバクテリオファージの配列を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、仮米国出願60/380,875号(2002年5月17日出願)の優先権を主張するもので、上記出願の全体を本明細書では援用する。
【0002】
(分野)
本開示は、Bacillus anthracisを迅速かつ特異的に検出および殺滅するファージ関連溶菌酵素の同定のための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
医薬における重大な問題は、より多くの抗生物質が多種多様な疾患および他の症状に用いられるにつれて薬剤耐性細菌が発生することであった。より多くの抗生物質の使用と耐性を示す細菌の数とによって、処置に要する時間がより長くなる。さらに、広範な非特異的抗生物質は、より頻繁に現在用いられており、そのいくつかが患者に有害な作用を持っている。この使用の増加に関連する問題は、多くの抗生物質が粘膜(mucus linings)に容易には浸透しないということである。さらに、抗生物質に対するアレルギーを有する人々の数は増加し続けているようである。したがって、新規な抗生物質、特に新規の様式で作用するか、または病原性細菌を死滅させる新規の手段を与える抗生物質が商業的に必要とされている。
【0004】
バクテリオファージの使用を介して細菌性疾患を処置するための試みがなされている。米国特許第5,688,501号(Merrilら)は、特定の細菌に特異的な溶菌または非溶菌バクテリオファージを用いて、動物での細菌による感染性疾患を処置する方法を開示している。
【0005】
米国特許第4,957,686号(Norris)は、改善された歯科衛生法を開示しており、これは、唾液腺薄膜(salivary pellicle)に容易に接着する特性を持つ細菌に寄生するバクテリオファージを口腔内に導入することを含む。
【0006】
しかし、バクテリオファージを動物に直接導入して疾患を予防しまたは疾患と闘わせることには、いくつかの欠点がある。特に、細菌およびファージの両方が、ファージが付着するために増殖周期が正確かつ同期していなければならない。さらに、細菌に付着するファージが正確な数でなければならない。すなわち、ファージが多すぎるかまたは少なすぎる場合、付着しないか、または溶菌酵素が生成されないかのいずれかである。ファージは、十分な活性もなくてはならない。ファージは、ファージが攻撃しようとする生物体からの細菌残屑を含む多くの物質にも阻害される。さらに、細菌感染を処置するためのバクテリオファージの直接使用を複雑にしているものは、ファージを機能させなくする免疫反応の可能性である。
【0007】
その結果として、細菌感染を治療および予防するためのより安全かつより効果的な手段の使用が検討されている。具体的には、ファージ関連溶菌酵素の使用が検討されている。
【0008】
バクテリオファージ溶解素は、病原性連鎖球菌の鼻咽頭輸送を除去するために近年提案された溶菌剤の類である(Loeffler,J.M.,Nelson,D.& Fischetti,V.A.Rapid killing of Streptococcus pneumoniae with a bacteriophage ce11 wall hydrolase.Science 294,2170−2(2001);Nelson,D.,Loomis,L.& Fischetti,V.A.Prevention and elimination of upper respiratory colonization of mice by group A streptococcus by using a bacteriophage lytic enzyme.Proc Natl Acad Sci U S A 98,4107−12(2001))。溶解素は、ウイルス粒子形成の完了と宿主溶解とを連係させるために二本鎖DNA(dsDNA)ファージによって用いられる溶菌機構の一部分である。Wang,I.N.,Smith,D.L.&Young,R.Holins:the protein clocks of bacteriophage infections.Annu Rev Microbiol 54,799−825(2000)。感染の後期に、溶解素は、細胞壁マトリックスに転移し、そこで、該溶解素は、ペプチドグリカンの完全性に必須である共有結合を加水分解し、細菌溶解および付随する子孫ファージの放出を引き起こす。溶解素群に属するものは、モジュール設計を示し、その中で通常十分に保存された触媒ドメインがより多様な特異性または結合ドメインに融合する。Lopez,R.,Garcia,E.,Garcia,P.& Garcia,J.L.The pneumococcal cell wall degrading enzymes:modular design to create new lysins? Microb Drug Resist 3,199−211(1997)を参照せよ。
【0009】
米国特許第5,604,109号(Fischettiら)は、半精製C群連鎖球菌ファージ関連溶解素酵素による細菌細胞壁の酵素消化を介した臨床標本中のA群連鎖球菌の迅速な検出に関する。
【0010】
米国特許第5,985,271号(FischettiおよびLoomis)および米国特許第6,017,528号(FischettiおよびLoomis)は、敗血性咽頭炎として通常知られるA群連鎖球菌咽喉感染の予防的および治療的処置のために、C1バクテリオファージに感染したC群連鎖球菌細菌によって産生される溶解素酵素を含有するキャンディ、チューインガム、ロゼンジ、トローチ、錠剤、粉剤、エアロゾル、液体、または液体スプレー等の組成物の使用を開示している。
【0011】
米国特許第6,056,954号(FischettiおよびLoomis)は、皮膚、膣、または眼の細菌感染の予防的および治療的処置のための方法を開示しており、該方法は、感染細菌に特異的な溶菌酵素組成物の有効量を用いた個体の処置を含み、この際該溶菌酵素が感染部位にこの酵素を送達するためのキャリア内にある。
【0012】
米国特許第6,056,955号(FischettiおよびLoomis)は、皮膚組織への局所適用に適したキャリアと混合した溶解素酵素の使用による連鎖球菌感染の局所的処置のための方法および組成物を開示している。皮膚連鎖球菌感染の処置のための方法は、有効量の治療剤を含む組成物を投与することを含み、該治療剤は、C1バクテリオファージに感染したC群連鎖球菌細菌によって産生される溶解素酵素を含む。治療剤は、薬学的に許容されるキャリア内に含有させることができる。
【0013】
米国特許第6,248,324号(FischettiおよびLoomis)は、皮膚組織への局所適用に適したキャリア内の溶菌酵素を用いることによって皮膚感染を処置するための組成物を開示している。皮膚感染を処置するための方法は、有効量の治療剤を含む組成物を投与することを含み、該治療剤は、細菌をその細菌に特異的なファージに感染させることによって産生される溶菌酵素を含む。
【0014】
米国特許第6,254,866号(FischettiおよびLoomis)は、感染細菌に特異的な溶菌酵素の投与を含む消化管の細菌感染を処置するための方法を開示している。好ましくは、消化管内の感染部位への溶菌酵素を送達させるのはキャリアである。処置すべき細菌は、Listeria、Salmonella、E.coli、Campylobacter、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。キャリアは、坐剤浣腸、シロップ剤、または腸溶性錠剤からなる群から選択される。
【0015】
米国特許第6,264,945号(FischettiおよびLoomis)は、侵襲性細菌に特異的な少なくとも1種類のファージ関連溶菌酵素と、患者へ該溶菌酵素を送達するための適当なキャリアとの非経口導入による細菌感染の処置のための方法および組成物を開示している。注射は、筋肉内、皮下、または静脈内でおこなうことができる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0016】
(要旨)
Bacillus anthracisの休眠および耐久胞子形態は、理想的な生物兵器であるとして報告されている(Mock,M.& Fouet,A.Anthrax.Annu Rev Microbiol 55,647−71(2001),Inglesby,T.V.ら、Anthrax as a biological weapon,2002:updated recommendations for management.Jama 287,2236−52(2002))。Bacillus anthracis胞子は、ヒトに非常に有害であり、放出後はほとんど永久的に環境で生存できる。一旦吸入したら、胞子は、肺胞マクロファージによって縦隔および気管支周囲リンパ節に輸送され、そこで該胞子は出芽する。その後の栄養型クローン増殖は、手におえないほどの菌血症および妊娠中毒症を引き起こす。未処置の吸入炭疽に関連する死亡率は99%に達し得るとともに、非特異的な熱症状の発症後に開始した場合抗生物質処置は大部分がうまくいかない。天然発生および遺伝子操作抗生物質耐性の潜在性によって、兵器化した胞子の脅威が増し、改良された処置および意図的な放出後の胞子検出のための方法の必要性が強調される。
【0017】
本開示の実施形態は、Bacillus anthracisの処置のための溶菌酵素に加えて、種々のバクテリオファージ関連ホリン(holin)タンパク質、キメラ溶菌酵素、および改造(shuffled)溶菌酵素の抽出および使用を提供する。より具体的には、本発明は、1種類以上の細菌種から単離される少なくとも1種類の細菌関連ファージ酵素を含む医薬組成物を提供し、Bacillus anthracisの予防的および治療的処置に用いることが可能な少なくとも1種類のファージ溶菌酵素および/またはホリンタンパク質を含む。
【0018】
さらに、本開示の実施形態は、Bacillus anthracis(単に炭疽(anthrax)ともいう)の治療および予防のための細菌ファージ関連溶菌酵素の抽出および使用に関する。1つのそのような実施形態では、感染した細菌内でγファージを増殖させ酵素を回収することによって、細菌ファージ関連溶菌酵素を調製する。別のそのような実施形態では、酵素を生成するトランスジェニック細菌を増殖させ、その後該細菌から酵素を回収することによって、細菌ファージ関連溶菌酵素を組み換え的に調製する。
【0019】
Bacillus anthracisの迅速な検出および死滅のための酵素の固有の特異性を実証するための実験をおこなった。Bacillus anthracisに高度に特異的なγファージから単離および精製されたPlyG溶解素は、Bacillus anthracisおよび桿菌のアンスラシス「群(group)」に属する細菌を迅速かつ特異的に死滅させた。
【0020】
本開示の一実施形態では、PlyG溶解素を配列決定する。
【0021】
別の実施形態では、PlyG溶解素を用いて、Bacillus anthracisを予防的および治療的に処置する。
【0022】
本開示のさらに別の実施形態では、PlyG溶解素を用いて、Bacillus anthracisを検出および同定する。
【0023】
本開示のさらに別の実施形態では、改造溶菌酵素を用いて、Bacillus anthracisが原因の細菌感染を予防的および治療的に処置する。
【0024】
本開示のさらに別の実施形態では、ファージ関連溶菌酵素と組み合わせてホリンタンパク質を用いて、Bacillus anthracisが原因の細菌性疾患を予防的および治療的に処置する。本開示の別の実施形態では、ホリンタンパク質を単独で用いて、Bacillus anthracisが原因の細菌感染を予防的および治療的に処置する。ホリンタンパク質は、Bacillus anthracisによって生じた溶菌酵素に組み合わせたまたは非依存的な改造ホリンタンパク質またはキメラホリンタンパク質でよい。
【0025】
本開示のさらに別の実施形態では、キメラおよび/または改造溶菌酵素を非経口投与し、この際ファージ関連溶菌酵素を筋肉内、髄腔内、真皮下、皮下、または静脈内投与して、Bacillus anthracis酵素による感染を処置する。
【0026】
ファージ関連改造および/またはキメラ溶菌酵素を経静脈的に適用する本開示の別の目的は、Bacillus anthracisの敗血症および一般感染を処置することである。
【0027】
さらに別の実施形態では、キメラ菌溶酵素、改造溶菌酵素、PlyG溶解素の「非改変(unaltered)」型、ホリンタンパク質、およびそれらの組み合わせを用いて、Bacillus anthracisへの暴露を予防的および治療的に処置する。別の実施形態では、キメラ溶菌酵素、改造溶菌酵素、PlyG溶解素の「非改変(unaltered)」型、ホリンタンパク質、およびそれらの組み合わせを用いて、Bacillus anthracisを検出および同定する。一実施形態では、Bacillus anthracisに特異的なファージ関連溶菌酵素を用いて、増殖状態のBacillus anthracisを同定することが可能である。
【0028】
図1に示すように、γファージからPlyG溶解素の配列が単離されており、その一方でBacillus anthracisに特異的なバクテリオファージ由来の他の溶菌酵素をPlyGの代わりに用いることが可能である。一実施形態では、溶菌酵素またはホリンタンパク質(それらのイソ酵素、類似体、または改変体を含む)をコードするDNAを遺伝学的に改変した。別の実施形態では、溶菌酵素またはホリンタンパク質(それらのイソ酵素、類似体、または改変体を含む)を化学的に改変した。さらに別の実施形態では、溶菌酵素またはホリンタンパク質(それらのイソ酵素、類似体、または改変体を含む)を天然形態および修飾(遺伝学的的または化学的に改変した)形態を組み合わせて用いる。化学的合成および/またはDNA組み換え技術によって、溶菌酵素およびホリンタンパク質の修飾または改変形態を合成的に生成する。キメラ化および改造によって、該酵素を合成的に生成する。
【0029】
バクテリオファージ溶菌酵素は、細菌細胞のペプチドグリカンに存在する結合を特異的に切断する酵素であることが、理解されるはずである。細菌細胞壁ペプチドグリカンは、全ての細菌間で高度に保存されているので、細胞壁を破壊するために切断すべき結合はほんのわずかである。これらの結合を切断する酵素は、ムラミダーゼ、グルコサミニダーゼ、エンドペプチダーゼ、またはN−アセチル−ムラモイル−L−アラニン・アミダーゼ(以下、アミダーゼともいう)である。報告されているファージ酵素の大部分は、ムラミダーゼまたはアミダーゼのいずれかであり、バクテリオファージ・グルコサミニダーゼに関しては何ら報告されていない。Fischetti他(1974)は、C1連鎖球菌ファージ溶解素酵素がアミダーゼであると報告した。Garcia他(1987、1990)は、Cp−1ファージからのS.Pneumoniae由来のCp1溶解素がリゾチームであると報告した。CaldenteyおよびBamford(1992)は、φ6シュードモナス属ファージ由来の溶菌酵素が、メソ−ジアミノピメリン酸およびD−アラニンによって形成されるペプチド架橋を分割するエンドペプチダーゼであると報告した。E.coliT1およびT6ファージ溶菌酵素は、Listeriaファージ(ply)由来溶菌酵素様のアミダーゼである(Loessnerら、1996)。細胞壁を切断する他の酵素も存在する。
【0030】
本開示は、特定のバクテリオファージに遺伝学的にコードされるそのような溶菌酵素を、Bacillus anthracisにさらされる可能性のある人々を予防するための予防的処置として、または感染により既に罹患した人々に対する治療的処置として用いる。Bacillus anthracisに特異的でありかつ特定のファージによって遺伝学的にコードされるファージ関連溶菌酵素は、Bacillus anthracisの細胞壁を効果的および効率的に破壊することができる。注目すべきことは、半精製酵素がタンパク質分解酵素活性を失う可能性があるため、細菌細胞壁の消化中に存在する場合、哺乳類タンパク質および組織が破壊されないと考えられることである。
【0031】
別の実施形態は、上記用途のための融合タンパク質を含むキメラタンパク質またはペプチドフラグメントも提供する。
【0032】
使用する単語の定義および本開示へのその適用範囲は、以下のとおりである。
【0033】
すなわち、実施形態のこの文脈では、用語「バクテリオファージに遺伝学的にコードされる溶菌酵素(1ytic enzyme genetically coded for by a bacteriophage)」とは、宿主細菌に対して少なくともある程度の溶菌活性を有するポリペプチドを意味する。このポリペプチドは、溶菌酵素のネイティブ配列およびその改変体を包含する配列を有する。該ポリペプチドを、ファージ等の様々な供給源から単離すること、またはGarcia他による方法等の組み換え法または合成法によって調製することが可能である。全てのポリペプチドは、2つのドメインを有する。一方のドメインは、カルボキシル末端側にあるコリン結合部分であり、他方のドメインは、アミノ末端側のペプチドグリカン内のアミド結合に作用するアミダーゼ活性である。一般的にいえば、本発明に係る溶菌酵素は、分子量25,000〜35,000ダルトンであり、単一のポリペプチド鎖を含む。しかし、これは、酵素鎖によって異なることができる。変性用ドデシル硫酸ナトリウム・ゲル電気泳動でのアッセイおよび分子量マーカーとの比較によって最も都合の良い分子量を決定する。
【0034】
用語「単離された(isolated)」とは、出発物質から少なくとも部分的に精製されていることを意味する。用語「精製された(purified)」とは、生物学的材料の濃度が任意の精製プロセスによって測定可能なかたちで増加し、それによって該材料の調製の際に含まれる前駆物質または他の化学物質等の不純物を部分的に、実質的に、または完全に除去することを意味する。このような精製プロセスとして、限定はされないが、カラム・クロマトグラフィー、HPLC、沈降、および電気泳動が挙げられる。したがって、相同または実質的に相同な(例えば、電気泳動またはクロマトグラフィー等の分離法で単一のタンパク質シグナルを生成する)材料は、単離および精製されるという意味に包含される。当業者は、必要な精製量が材料の用途に依存することを理解するだろう。例えば、ヒトへの投与を目的とした組成物は、通常、規制基準にしたがって高純度に精製されていなければならない。
【0035】
「ネイティブ配列ファージ関連溶菌酵素(native sequence phage associated lytic enzyme)」とは、天然由来の酵素と同じアミノ酸配列を有するポリペプチドである。このようなネイティブ配列酵素を自然界から単離することができ、あるいは組み換えまたは合成手段によって生産することができる。用語「ネイティブ配列酵素(native sequence enzyme)」とは、具体的にはその酵素の天然に存在する形態(例えば、選択的にスプライシングされた形態または修飾された形態)および天然に存在しない改変体を包含する。 本開示の一実施形態では、ネイティブ配列酵素は、Bacillus anthracisに特異的なバクテリオファージ由来の遺伝子に遺伝学的にコードされる成熟または完全長のポリペプチドである。当然、多数の改変体があり得るとともに既知であり、Lopezら,Microbial Drug Rcsistance 3:199−211(1997);Garciaら,Gene 86:81−88(1990);Garciaら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:914−918(1988);Garciaら,Proc.Natl.Acad,Sci.USA 85:914−918(1988);Garciaら,Streptococcal Genetics(J.J.FerrettiおよびCurtis編,1987);Lopezら,FEMS Microbiol,Lett.100:439−448(1992);Romeroら,J.Bacteriol.172:5064−5070(1990);Rondaら,Eur.J.Biochem.164:621−624(1987)、およびSanchezら,Gene 61:13−19(1987)等の文献で確認される。本明細書では、これらの参考文献のそれぞれの内容、特に配列表と配列を比較する関連本文(配列ホモロジーに関する記述を含む)とは、その全体が参考として援用される。
【0036】
「改変配列ファージ関連溶菌酵素(variant sequence phage associated lytic enzyme)」とは、下記に定義するように、配列番号1に示す配列に少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、または少なくとも99.5%ものアミノ酸配列同一性を有し、かつBacillus anthracisに特異的なバクテリオファージに遺伝学的にコードされる機能的に活性な溶菌酵素を意味する。当然、当業者は、この配列のなかで結合および反応触媒等の機能に関連する部分を、容易に認識するだろう。したがって、ポリペプチド配列およびこれらの配列をコードする核酸は、配列番号1の各機能ドメインの少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、またはそれより多くを含むことが企図される。全配列のうちのそのような部分は、治療/予防法と同様に、診断法にも非常に有用である。実際、アミノ酸の数が5つほどの短い配列は、ファージ用のエピトープ・マーカーとしての有用性を持つ。より望ましくは、少なくとも8、9、10、12、15、または20アミノ酸サイズを有する、より大きなタンパク質フラグメントまたは領域とそれらの相同配列とは、エピトープの特徴を有するものであり、実施形態にもとづいて小ペプチドまたはより大きなタンパク質の切片として、用いられてもよい。これらの配列に対応する核酸また、企図される。
【0037】
そのようなファージ関連溶菌酵素改変体として、例えば溶菌酵素ポリペプチドが挙げられ、1個以上のアミノ酸残基が配列番号1の配列のNまたはC末端で付加また欠失する。一実施形態では、配列内の任意の位置または配列部分に対して、1個以上のアミノ酸を置換、欠失、および/または付加する。通常、ファージ関連溶菌酵素は、ネイティブなファージ関連溶菌酵素配列に少なくとも約(例えば厳密に)50%、55%、60%、65%、70%、75%アミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約(例えば厳密に)80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、または99.5%アミノ酸配列同一性を有する。他の実施形態では、ファージ関連溶菌酵素改変体は、配列番号1に示す配列に少なくとも約50%(例えば厳密に50%)、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、または少なくとも99.5%ものアミノ酸配列同一性を有する。
【0038】
本明細書で同定されるファージ関連溶菌酵素配列に関する「%アミノ酸配列同一性(percent amino acid sequence identity)」とは、同一リーディングフレーム内で配列のアラインメントをおこない、配列同一性の一部として何ら同類置換を考慮せずに、配列同一性の割合が最大となるように必要に応じてギャップを導入した後に、ファージ関連溶菌酵素配列内のアミノ酸残基と同一である候補配列内のアミノ酸残基の割合(パーセント値)として定義される。%アミノ酸配列同一性を決定することを目的としたアライメントは、当該分野の技術水準内である種々の方法で達成することができ、該方法として、限定されるものではないが、公的に入手可能なコンピュータ・ソフトウェア(例えば、ブラストソフトウェア)の利用が挙げられる。当業者は、アラインメントを測定するための適当なパラメータを決定することができ、該パラメータには、比較される配列の全長にわたって最大アラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムが含まれる。
【0039】
各々の場合で、当然、%アミノ酸配列同一性を決定する際、保存的アミノ酸置換を同時におこなうことが可能である。例えば、15アミノ酸長のタンパク質領域は、配列番号1の領域に50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%配列相同性を有することが可能である。同時に、該15アミノ酸長のタンパク質領域は、保存的置換で置換した0.5%、1%、2%、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、65%、75%までのまたはより多くのアミノ酸を有することも可能である。好ましくは、該領域は、30%、20%、10%より少ないまたはさらにより少ない保存的置換を有する。そのような場合での「%アミノ酸配列同一性(percent amino acid sequence identity)」の見積もりは、保存的アミノ酸置換がおこなわれた場合の実際の%配列同一性より高い。
【0040】
本明細書で同定されるファージ関連溶菌酵素配列に関する「%核酸配列同一性(percent nucleic acid sequence identity)」は、配列のアラインメントをおこない、必要に応じて配列同一性の割合が最大となるようにギャップを導入した後に、ファージ関連溶菌酵素配列内のヌクレオチドと同一である候補配列内のヌクレオチドの割合(パーセント値)として定義される。%核酸配列同一性を決定することを目的としたアライメントは、当業者の範囲内である種々の方法で達成することができ、該方法として、限定されるものではないが、公的に入手可能なコンピュータ・ソフトウェアの利用が挙げられる。当業者は、比較される配列の完全長にわたる最大アラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アラインメント測定用の適当なパラメータを決定することができる。
【0041】
「ポリペプチド」とは、自然界で生ずるポリヌクレオチド配列にコードされるものに対応するアミノ酸から構成される分子を指す。ポリペプチドは、保存的置換を含むものであってもよく、自然界で生ずるアミノ酸を同様の特性を有するものと置換させることで、このような保存的置換によるポリペプチド機能の変化は生じない(例えばLewin“Genes V”Oxford University Press Chapter 1,pp.9−13 1994を参照せよ)。
【0042】
「キメラタンパク質」または「融合タンパク質」は、異種ポリペプチドに作用自在に結合する本開示のポリペプチドの全てまたは(好ましくは生物学的に活性な)部分を含む。例えば、2つ以上の活性部位を有する2種類以上のタンパク質を組み合わせることによって、キメラタンパク質またはペプチドを生産する。キメラタンパク質およびペプチドは同じまたは異なる分子に独立して作用することができるため、2種類以上の異なる細菌感染を同時に処置する潜在能力を有する。また、キメラタンパク質およびペプチドを用いて、細胞壁を一カ所以上切断することによって、細菌感染の処置がおこなわれる。
【0043】
用語「作用自在に結合する(operably linked)」とは、本開示のポリペプチドと異種ポリペプチドとをフレーム単位(in−frame)で融合することを意味する。本開示のポリペプチドのN末端またはC末端に異種ポリペプチドを融合することができる。化学的合成または組み換えDNA技術によって、キメラタンパク質を酵素的に生産する。多数のキメラ溶菌酵素を生産および研究している。遺伝子E−L、すなわちバクテリオファージphiX174およびMS2溶菌タンパク質EおよびLからそれぞれ構築されるキメラ溶菌に内部欠失を施し、改変溶菌または殺滅特性を有する一連の新規E−Lクローンを作製した。本研究では、異なる膜貫通ドメインの構造上の相違にもとづいて、親遺伝子E、L、E−L、およびE−Lの内部トランケーション形態の溶菌活性について調べ、異なる溶菌メカニズムの特徴付けをおこなった。細胞質および周辺質空間に対するマーカー酵素の放出と電子顕微鏡検査とによって、E.coliの内膜または内膜および外膜のタンパク質の貫通に応じて、2つの異なる溶菌メカニズムが識別可能であることが明らかになった。FEMS Microbiol.Lett.1998 Ju1 1,164(1);159−67(本明細書中に参考として援用)。
【0044】
別の実験では、ラクトコッカス・ファージTuc2009溶解素のN末端半分をコードする領域と、主要なニューモコッカス自己溶解素のC末端ドメインをコードする領域とを融合することによって、活性キメラ細胞壁溶解酵素(TSL)を構築した。このキメラ酵素は、コリン含有ニューモコッカス細胞壁を加水分解することができるグリコシダーゼ活性を示した。有用な融合タンパク質の一例には、GST融合タンパク質があり、その中で本開示のポリペプチドがGST配列のC末端に融合される。そのようなキメラタンパク質によって、本開示の組み換え型ポリペプチドの精製が容易になり得る。
【0045】
別の実施形態では、キメラタンパク質またはペプチドは、そのN末端に異種シグナル配列を含有する。例えば、本開示のポリペプチドのネイティブなシグナル配列を除去し、別のタンパク質由来のシグナル配列と置換することができる。例えば、バキュロウイルス・エンベロープ・タンパク質のgp67分泌配列を異種シグナル配列として用いることができる(Current Protocols in Molecular Biology,Ausubelら,eds.,John Wiley&Sons,1992、本明細書中に参考として援用)。真核生物の異種シグナル配列の他の例として、メリチンおよびヒト胎盤アルカリ・ホスファターゼ(Stratagene;La Jolla,California)の分泌配列が挙げられる。さらに別の例では、有用な原核生物の異種シグナル配列として、phoA分泌シグナル(Sambrookら,前出)およびタンパク質A分泌シグナル(Pharmacia Biotech;Piscataway,New Jersey)が挙げられる。
【0046】
別の実施形態では、免疫グロブリン融合タンパク質が開示されており、本開示のポリペプチドの全てまたは一部が、免疫グロブリン・タンパク質群の一タンパク質に由来した配列に融合される。免疫グロブリン融合タンパク質を医薬組成物中に組み込み、被験体に投与して、リガンド(可溶性または膜結合)および細胞表面上のタンパク質(受容体)間の相互作用を阻害して、それによって、インビボでのシグナル変換を抑制することができる。免疫グロブリン融合タンパク質は、本開示のポリペプチドの同種リガンドのバイオアベイラビリティーを変化させることができる。リガンド/受容体相互作用の阻害は、細菌関連疾患および障害の処置ならびに細胞生存率の調節(すなわち、促進および阻害)の両方にとって治療上有用であり得る。さらに、本開示の免疫グロブリン融合タンパク質を免疫原として用い、被験体内の本開示のポリペプチドに対する抗体の生産、リガンドの精製ならびに、スクリーニング・アッセイでリガンドと受容体の相互作用を阻害する分子の同定をおこなうことができる。標準的組み換えDNA技術によって、本開示のキメラタンパク質ならびに融合タンパク質およびペプチドを生産することができる。
【0047】
別の実施形態では、自動DNA合成機を含む従来の技術によって融合遺伝子を合成することができる。または、2つの連続する遺伝子フラグメント間の相補的オーバーハングを生じさせるアンカー・プライマーを用いて、遺伝子フラグメントのPCR増幅を実行することができ、その後で、該相補的オーバーハングをアニーリングおよび再増幅して、キメラ遺伝子配列を生成することができる(すなわち、Ausubelら(前出)を参照せよ)。さらに、融合部(すなわち、GSTポリペプチド)が既にコードされた多くの発現ベクターが市販されている。融合部が本開示のポリペプチドにフレーム単位で結合するように、本開示のポリペプチドをコードする核酸をそのような発現ベクターにクローニングすることができる。
【0048】
本明細書で使用するように、改造・タンパク質またはペプチド、遺伝子産物、あるいは2種類以上の関連ファージ・タンパク質に対するペプチドまたはタンパク質ペプチドフラグメントを無作為に切断して、より活性なタンパク質または特異的なタンパク質に再構築した。改造・オリゴヌクレオチド、ぺプチド、またはペプチドフラグメント分子を選択またはスクリーニングして、所望の機能特性を有する分子を同定する。この方法は、例えば、Stemmer、米国特許第6,132,970号(ポリヌクレオチドを改造する方法);Kauffman、米国特許第5,976,862号(コドンに基づく合成を介した進化)、およびHuse、米国特許第5,808.022号(直接的コドン合成)に記載されている。これらの特許の内容を、参考として本明細書中に参考として援用する。改造を用いて、鋳型タンパク質より10〜100倍活性なタンパク質を構築する。多種多様な溶解素またはホリンタンパク質間で鋳型タンパク質を選択する。改造・タンパク質またはペプチドは、例えば、1つ以上の結合ドメインおよび1つ以上の触媒ドメインを構成する。各結合または触媒ドメインは、同じまたは異なるファージまたはファージ・タンパク質に由来する。改造・ドメインは、単独でまたは他の遺伝子もしくは遺伝子産物と組み合わせてペプチドフラグメント中に翻訳可能な遺伝子または遺伝子産物としてのオリゴヌクレオチド・ベースの分子であるか、あるいはペプチド・ベースの分子である。遺伝子フラグメントとしては、DNA、RNA、DNA−RNAハイブリッド、アンチセンスRNA、リボザイム、EST、SNIP、および他のオリゴヌクレオチド・ベースの分子の任意のものが含まれ、それらは単独で、または他の分子と組み合わせて、ペプチド中に翻訳可能または不可能なオリゴヌクレオチド分子を産生する。
【0049】
上に示したように、本開示は、ホリンタンパク質の使用を論じている。ホリンタンパク質は、細胞膜中に穴を生じさせる。より具体的には、ホリンは、致命的な膜損傷を形成する。溶菌タンパク質と同様に、ホリンタンパク質は、ファージにコードされ、保有される。実際、ホリンタンパク質の遺伝コードは、ファージ溶菌酵素に対するコードに隣接またはコード内にさえ存在するのが極めて一般的である。大部分のホリンタンパク質配列は短く、全体的に自然界では疎水性であるとともに、高度に親水性のカルボキシ末端ドメインを有する。多くの場合、推定ホリンタンパク質は、ファージの酵素活性ドメイン内の異なるリーディングフレーム上でコードされる。他の場合では、ホリンタンパク質は、細胞壁溶菌タンパク質をコードするDNAに隣接または近接したDNA上にコードされる。ホリンタンパク質は、しばしば、ファージ感染の後期段階中で合成され、該ホリンタンパク質が膜損傷を引き起こす細胞膜内で見出される。
【0050】
ホリンは、1次構造分析にもとづいて2つの一般的なクラスに分類できる。クラスIホリンは、通常、95残基長以上であり、3つの潜在的膜貫通ドメインを有することが可能である。クラスIIホリンは、通常、約65〜95残基とより短く、荷電または疎水性残基の分布が2つのTMドメインを示す(Youngら、Trends in Microbiology v.8,NO.4,March 2000)。しかし、少なくともグラム陽性宿主のファージに対しては、ニ成分溶菌系は、普遍的でなくてもよい。ホリンの存在が複数のファージで判明または示唆されている。しかし、全てのファージについて、推定ホリンをコードする遺伝子は未だ発見されていない。ホリンは複数の細菌に存在することが判明しており、該細菌としては、例えば、ラクトコッカス・バクテリオファージTuc2009、ラクトコッカスNLC3、ニューモコッカス・バクテリオファージEJ−1、ラクトBacillus・ガセリ(Lactobacillus gasseri)バクテリオファージNadh、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)バクテリオファージTwort、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)バクテリオファージ、ニューモコッカス・ファージCp−1、Bacillus・スブチリス(Bacillus subtillis)ファージM29、ラクトBacillus・デルブルエッキ(Lactobacillus delbrueckki)バクテリオファージLL−H溶解素、および黄色ブドウ球菌(Staphyloccous aureus)バクテリオファージN11が挙げられる(Loessnerら、,Journal of Bacteriology,Aug.1999,p,4452−4460)。
【0051】
該タンパク質またはペプチドおよびペプチドフラグメントの改変または修飾形態としては、本明細書に開示するように、化学的に合成されるか、または組み換えDNA技術により調製されるか、あるいは両方によるタンパク質またはペプチドおよびペプチドフラグメントが挙げられる。これらの技術としては、例えば、キメラ化および改造が挙げられる。タンパク質またはペプチドを化学合成によって生産する際、化学的前駆物質または他の化学物質を実質的に含まないことが好ましい。すなわち、該タンパク質またはペプチドは、タンパク質の合成に関連する化学的前駆物質または他の化学物質から分離される。したがって、そのようなタンパク質調製は、化学的前駆物質または目的のポリペプチド以外の化合物を約30%、20%、10%、5%(乾燥重量で)未満で有する。
【0052】
本発明の一実施形態では、ポリペプチドのシグナル配列は、本発明のタンパク質およびペプチドおよびペプチドフラグメントの粘膜からおよび粘膜への膜貫通移動を促進することに加えて、分泌タンパク質または他の目的のタンパク質の分泌および単離を促進することができる。シグナル配列は、通常、1回以上の切断現象で分泌中に成熟タンパク質から概して切断される疎水性アミノ酸のコアによって特徴づけられる。そのようなシグナル・ペプチドは、このシグナル・ペプチドが分泌経路を通過するとき成熟タンパク質からのシグナル配列の切断を可能にするプロセッシング部位を含む。したがって、本発明は、シグナル配列を有する記載したポリペプチドと、シグナル配列自体およびシグナル配列が存在しないポリペプチド(すなわち、切断産物)とに属する。一実施形態では、本発明のシグナル配列をコードする核酸配列を発現ベクター中で目的のタンパク質に作用自在に結合することができ、目的のタンパク質としては、例えば、通常は分泌されないか、または単離することが困難なタンパク質がある。シグナル配列は、発現ベクターを形質転換させる真核生物宿主等からのタンパク質の分泌を導き、その後または同時に、このシグナル配列を切断する。その後、当該技術分野で認められる方法によって、細胞外媒体からタンパク質を容易に精製することができる。または、精製を容易にする配列(例えばGSTドメインを有する)を用いてシグナル配列を目的のタンパク質に結合することができる。
【0053】
別の実施形態では、シグナル配列を用いて、調節配列、すなわちプロモーター、エンハンサー、リプレッサーを同定することができる。シグナル配列はペプチドの大部分を占めるアミノ末端配列であるので、そのアミノ末端側にあるシグナル配列に隣接する核酸が転写に影響する調節配列であると考えられる。したがって、シグナル配列の全てまたは一部分をコードするヌクレオチド配列をプローブとして用いて、シグナル配列およびそのフランキング領域を同定および単離することができ、このフランキング領域を研究して、その中の調節エレメントを同定することができる。本発明は、本発明のポリペプチドの他の変異体にも関する。そのような変異体は、アゴニスト(模倣体)またはアンタゴニストとして機能することができる改変アミノ酸配列を有する。突然変異生成、すなわち別個の点突然変異またはトランケーションによって、変異体を生成することができる。アゴニストは、タンパク質の自然発生的形態の生物学的活性の実質的に同様のものまたはサブセットを保有することができる。タンパク質のアンタゴニストは、例えば、目的のタンパク質を含む細胞内シグナル伝達カスケードの下流または上流側の一部分に競合的に結合することによって、タンパク質の自然発生的形態の1つ以上の活性を阻害することができる。したがって、限定的な機能の変異体を用いた処置によって、特異的な生物学的効果を誘出することができる。タンパク質の自然発生的形態の生物学的活性のサブセットを有する変異体での被験体の処置は、タンパク質の自然発生的形態での処置と比べて、被験体内での副作用をより少なくすることができる。アゴニスト(模倣体)またはアンタゴニストとして機能する本発明のタンパク質の変異体を、突然変異体、すなわち本発明のタンパク質のトランケーション突然変異体の組み合わせライブラリをアゴニストまたはアンタゴニスト活性に対してスクリーニングすることによって同定することができる。一実施形態では、変異体の異型ライブラリ(variegated library)は、核酸レベルでの組み合わせ突然変異生成によって生成され、遺伝子の異型ライブラリにコードされる。例えば、潜在的タンパク質配列の縮重セットが個々のポリペプチドとしてまたは代わりにより大きな融合タンパク質のセット(すなわち、ファージ・ディスプレイに対して)として発現可能であるように遺伝子配列中に合成オリゴヌクレオチドの混合物を酵素的にライゲートすることによって、変異体の異型ライブラリを生産することができる。縮重オリゴヌクレオチド配列から本発明のポリペプチドの潜在的変異体のライブラリを生産するために用いることができる様々な方法がある。縮重オリゴヌクレオチドを合成するための方法は、当該技術分野で公知である(すなわち、Narang(1983)Tetrahedron 39:3;Itakuraら、(1984)Annu.Rev.Biochem.53:323;Itakuraら、(1984)Science 198:1056;Ikeら、(1983)Nucleic Acid Res.11:477を参照せよ。全てが本明細書中に参考として援用される)。
【0054】
さらに、本発明のポリペプチドのコーディング配列のフラグメントのライブラリを用いて、変異体のスクリーニングおよびその後の選択のために、ポリペプチドの異型集団(variegated population)を生成することができる。例えば、分子ごとに約1個のみニッキングが生じて、二本鎖DNAを変性し、このDNAを復元して異なるニッキング産物由来のセンス/アンチセンス対を含むことができる二本鎖DNAを形成し、S1ヌクレアーゼでの処置によって再編成二本鎖から一本鎖部分を除去し、得られたフラグメント・ライブラリを発現ベクターにライゲートする条件下で、目的のコーディング配列の二本鎖PCRフラグメントをヌクレアーゼで処置することによって、コーディング配列フラグメントのライブラリを生成することができる。この方法によって、様々な大きさの目的のタンパク質のN末端および内部フラグメントをコードする発現ライブラリを派生させることができる。点突然変異またはトランケーションによって作製される組み合わせライブラリの遺伝子産物をスクリーニングするため、および選択した特性を有する遺伝子産物に対するcDNAライブラリをスクリーニングするための複数の技術が当該技術分野で公知である。大きな遺伝子ライブラリをスクリーニングするための最も広く用いられている技術としては、ハイ・スループット分析に適用可能であり、通常、遺伝子ライブラリを複製可能な発現ベクター中にクローニングすること、得られたベクターのライブラリで適当な細胞を形質転換すること、さらに、所望の活性の検出によって、遺伝子産物が検出された遺伝子をコードするベクターの単離を容易にする条件下で組み合わせ遺伝子を発現させることが含まれる。ライブラリ中の機能的突然変異体の出現率を高める技術である再帰的アンサンブル突然変異生成(recursive ensemble mutagenesis(REM))をスクリーニング・アッセイと組み合わせて用いて、本発明のタンパク質の変異体を同定することができる(ArkinおよびYourvan(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:7811−7815;Delgraveら、(1993)Protein Engineering 6(3):327−331)。
【0055】
タンパク質またはペプチドフラグメントの免疫学的活性部分には、ファージ酵素を認識する抗体に結合する領域が含まれる。この状況では、実施形態に係るタンパク質(またはこのタンパク質をコードする核酸)の最小部分は、溶解素タンパク質を生成するファージに特異的であるとして認識可能なエピトープである。したがって、抗体に結合すると予期でき、かつ複数の実施形態で有用な最小ポリペプチド(およびこのポリペプチドをコードする関連核酸)は、8、9、10、11、12、13、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、75、85、または100アミノ酸長であってもよい。8、9、10、11、12、または15アミノ酸長ほどの短さの小配列は、エピトープとして作用するのに十分な構造を確実に含むが、5、6、または7アミノ酸長のより短い配列は、いくつかの条件でエピトープ構造を示すことができ、一実施形態で有益である。したがって、タンパク質または配列番号1に記載される核酸配列の最小部分には、5、6、7、8、9、または10アミノ酸長ほどの小ささのポリペプチドが含まれる。
【0056】
そのような小タンパク質および/または核酸(あるいはタンパク質および/またはより大きな分子の核酸領域)と機能を共有する相同タンパク質および核酸を、当業者により認識されるように調製することができる。特異的に相同であり得るそのような小分子およびより大きな分子の短い領域が実施形態として意図される。好ましくは、そのような有益な領域の相同性は、配列番号1に対して、少なくとも50%、65%、75%、85%であり、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、98%、または少なくとも99%である。これらの%相同性値は、保存的アミノ酸置換が原因の改変は含まない。
【0057】
当然、本明細書に記載されるエピトープを用いて、抗体を生成することが可能であり、かつこのエピトープを用いて、溶解素タンパク質を認識する分子への結合を検出することもできる。別の実施形態では、抗体または他の特異的な結合因子等の分子であり、この分子を、通常の免疫化またはファージ・ディスプレイ手法等によるエピトープの使用を介して生成することが可能であり、この際エピトープを用いて潜在的結合因子があるかについてライブラリをスクリーングすることができる。そのような分子は、溶解素タンパク質の1つ以上のエピトープまたは溶解素タンパク質をコードする核酸を認識する。エピトープを認識する抗体は、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、または抗体タンパク質の一部分であってもよい。望ましくは、エピトープを認識する分子は、この分子が血清アルブミンに対して持つ特異的結合の少なくとも10倍強い特異的な結合をそのエピトープに対して有する。特異的結合を親和性(Km)として測定することができる。より望ましくは、特異的結合は、同じ条件下で、血清アルブミンに対する特異的結合よりも、少なくとも10、10、10、10、10、10、10、またはそれよりもさらに高い。
【0058】
望ましい実施形態では、抗体または抗体フラグメントは、溶解素タンパク質の存在を検出するために有用な形態で存在する。種々の形態およびそれらの合成方法が当業者に認識されるように既知である。蛍光、光学シグナルを生成する酵素、化学発光団、微粒子、または放射性原子等のレポーター分子または原子と抗体を結合(共有結合的に複合体化)することが可能である。動物の免疫化後に、抗体または抗体フラグメントをインビボで合成することが可能である。例えば、遺伝学的組み換え後に細胞培養を介して、抗体または抗体フラグメントを合成することが可能である。細胞合成と化学的修飾との組み合わせによって、抗体または抗体フラグメントを調製することが可能である。
【0059】
この実施形態のタンパク質またはペプチドフラグメントの生物学的活性部分には、本明細書に記載されるように、本発明のファージ・タンパク質のアミノ酸配列に十分に同一なまたは由来するアミノ酸配列を含むポリペプチドが含まれ、このポリペプチドは、ファージ・タンパク質の完全長タンパク質より少ないアミノ酸を含み、対応する完全長タンパク質の少なくとも1つの活性を示す。通常、生物学的活性部分は、対応するタンパク質の少なくとも1つの活性を有するドメインまたはモチーフを含む。本発明のタンパク質またはタンパク質フラグメントの生物学的活性部分を、例えば10、25、50、100以下のアミノ酸長であるポリペプチドとすることができる。さらに、タンパク質の他の領域が欠失または付加されている他の生物学的活性部分を、組み換え技術によって調製することができ、この実施形態のポリペプチドのネイティブ形態の1つ以上の機能的活性について評価することができる。
【0060】
ファージ関連溶菌酵素をコードする多様な単離cDNA配列およびそのような遺伝子配列にハイブリダイズする部分的配列は、この溶菌酵素の組み換え的生産に有用である。この状況での代表的な核酸配列は、図1に示す配列番号1の配列と、ストリンジェントな条件下で図1の配列のDNAの相補的配列にハイブリダイズする配列とである。入手可能な天然変異体を含むこれらの配列および図に示す配列にハイブリダイズする核酸配列のさらに別の変異体も、本発明に係る溶菌酵素の生産の際使用するために考察される。
【0061】
多くの考えられる変異体DNA分子としては、M13プライマー突然変異生成等の標準的DNA突然変異生成技術によって作製されるものが挙げられる。これらの技術の詳細については、Sambrookら、(1989) Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,N.Y.(本明細書中に参考として援用)に提供される。そのような技術を用いることによって、開示されているものとは細かい点で異なる変異体を作製することが可能である。本明細書で具体的に開示されているものの誘導体であり、かつBSMRタンパク質の機能特性を保持するタンパク質のコーディングを保ちながらヌクレオチドの欠失、付加、または置換をおこなうことによって開示されているものとは異なるDNA分子およびヌクレオチド配列が、本開示によって検討される。開示するDNA分子に由来するある種の小DNA分子も包含される。そのような小DNA分子としては、ハイブリダイゼーションプローブとして、またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)プライマーとして使用するのに適したオリゴヌクレオチドが挙げられる。このように、これらの小DNA分子は、Bacillus anthracisに特異的なバクテリオファージに遺伝学的にコードされる溶菌酵素の少なくともセグメントを含み、PCR目的としては、遺伝子の少なくとも10〜15ヌクレオチド配列、より好ましくは15〜30ヌクレオチド配列を含む。上記のような開示されるDNA分子に由来するDNA分子およびヌクレオチド配列を、ストリンジェントな条件下で、開示されるDNA配列またはそのフラグメントにハイブリダイズするDNA配列として定義することも可能である。
【0062】
ストリンジェンシーの特定の程度に対応するハイブリダイゼーション条件は、選択されるハイブリダイゼーション法の性質と、用いられるハイブリダイズするDNAの組成と長さとによって変わる。一般に、ハイブリダイゼーション温度およびハイブリダイゼーション緩衝液のイオン強度(特にナトリウムイオン濃度)によって、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーが決まる。特定の度合いのストリンジェンシーを達成するために必要なハイブリダイゼーション条件に関する計算については、Sambrookら(1989) Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,N.Y.,chapters 9 and 11(本明細書中に参考として援用)によって論じられている。
【0063】
そのような計算の例は以下の通りである。すなわち、標的DNA分子へのDNA分子(例えばBacillus anthracisに特異的なバクテリオファージに遺伝学的にコードされる天然変異の溶菌酵素)のハイブリダイゼーションによって、ハイブリダイゼーション実験を実行することが可能である。標的DNA分子は、例えば、対応するcDNAでよく、このcDNAを、当該分野で周知かつSambrookら、(1989) Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,N.Y.(本明細書中に参考として援用)に記載されている技術であるサザンブロッティング法(Southern(1975).J,Mol.Biol.98:503)によって、アガロースゲルで電気泳動し、ニトロセルロース膜に転写する。6×SSC等の高イオン強度溶液中で、融解温度のTm(下記に記載)を20〜25℃下回る温度で、同位体P(32)標識dCTPで標識した標的プローブへのハイブリダイゼーションを実行する。サザンブロット法での標的DNA分子がDNA10ng以上を含有するそのようなサザンハイブリダイゼーション実験のために、放射標識プローブ1〜2ng/ml(比活性が10CPM/mug以上のもの)を用いて、ハイブリダイゼーションを6〜8時間実行する。ハイブリダイゼーション後に、ニトロセルロースフィルターを洗浄して、バックグラウンドハイブリダイゼーションを除去する。洗浄条件は、特異的なハイブリダイゼーションシグナルを保有すると同時にバックグラウンドハイブリダイゼーションを除去するために可能な限りストリンジェントである。用語「Tm」とは、その温度を超えると、一般的なイオン条件下で放射標識プローブ分子がその標的DNA分子にハイブリダイズしない温度を表す。
【0064】
そのようなハイブリッド分子のTmを以下の方程式によって概算することが可能である。すなわち、Tm=81.5℃−16.6(ナトリウムイオン濃度の常用対数)+0.41(%G十C)−0.63(%ホルムアミド)−(600/l)であり、式中l=塩基対中のハイブリッドの長さである。この方程式は、0.01Mから4M範囲のナトリウムイオン濃度に対して有効であり、より高いナトリウムイオン濃度の溶液でのTmの計算に関しては精度が落ちる(BoltonおよびMcCarthy(1962).Proc.Natl.Acad.Sci.USA 48:1390)(本明細書中に参考として援用)。上記方程式は、30%から75%内のG+C含有量を有するDNAに対しても有効であり、100ヌクレオチド長を超えるハイブリッドにも適用する。オリゴヌクレオチドプローブの挙動については、Sambrookら、(1989),Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,N.Y.(本明細書中に参考として援用)の11章に詳細に記載されている。本明細書に記載する好例の条件は、溶菌遺伝子の変異を選択する際使用するために特に考慮されている。
【0065】
したがって、%GC=45%を有するcDNAのオープンリーディングフレームの初めの150塩基対に由来する150塩基対DNAプローブの例として、特定のストリンジェンシーを得るために必要なハイブリダイゼーション条件の計算を、以下のようにおこなうことができる。
【0066】
すなわち、ハイブリダイゼーション後に0.3×SSC溶液でフィルターを洗浄したと仮定して、ナトリウムイオン=0.045M、GC%=45%、ホルムアミド濃度=0、l=150塩基対(Sambrookら、の方程式参照)なので、Tm=74.4℃である。二本鎖DNAのTmは、相同性が1%減少するごとに1〜1.5℃減少する(Bonnerら(1973).J.Mol.Biol.81:123)。したがって、この与えられた例では、0.3×SSCで、59.4〜64.4℃でフィルターを洗浄することによって、90%(標的BSMRcDNAに対して10%を超える配列変異を有するDNA分子がハイブリダイズしない)に等価なハイブリダイゼーションストリンジェンシーが生じる。または、0.3×SSCで、65.4〜68.4℃の温度でハイブリダイズしたフィルターを洗浄することによって、94%(標的BSMRcDNA分子に対して6%を超える配列変異を有するDNA分子がハイブリダイズしない)のハイブリダイゼーションストリンジェンシーが生じる。理論的説明によって、上記の例が完全に与えられる。当業者は、他のハイブリダイゼーション技術を利用することが可能であることと、実験条件を変更するにはストリンジェンシーを得るために別の計算方法が必要であることを十分理解するだろう。
【0067】
本発明の好ましい実施形態では、25%を超える配列変異(「ミスマッチ(mismatch)とも称する」を有するDNA分子がハイブリダイズしない条件としてストリンジェントな条件を定義することが可能である。より好ましい実施形態では、ストリンジェントな条件は、15%を超えるミスマッチを有するDNA分子がハイブリダイズしない条件であり、さらにより好ましくは、ストリンジェントな条件は、10%を超えるミスマッチを有するDNA配列がハイブリダイズしない条件である。好ましくは、ストリンジェントな条件は、6%を超えるミスマッチを有するDNA配列がハイブリダイズしない条件である。
【0068】
遺伝コードの縮重は、コードされるタンパク質のアミノ酸配列を維持する一方でDNA分子のヌクレオチド配列での主要な変異を可能にするので、該実施形態の範囲をさらに広げる。例えば、代表的なアミノ酸残基はアラニンである。これは、cDNA内で、ヌクレオチドコドントリプレットGCTにコードされる。遺伝コードの縮重のために、3種類の他のヌクレオチドコドントリプレット、すなわちGCT、GCC、およびGCAもアラニンをコードする。したがって、コードされるタンパク質のアミノ酸組成またはタンパク質の特質に影響を及ぼすことなしに、この位置でこれらの3種類のコドンの任意のものに遺伝子のヌクレオチド配列を変化させることができる。特定のアミノ酸に対する遺伝コードおよびヌクレオチドコドンでの変異は、当業者に周知である。遺伝コードの縮合にもとづいて、上述の標準的DNA突然変異生成技術を用いて、またはDNA配列の合成によって、変異DNA分子は、本明細書に開示されるcDNA分子から派生することが可能である。遺伝コードの縮重にもとづいた配列変異のために、ストリンジェントな条件下で、開示されるcDNA配列にハイブリダイズしないDNA配列は、本開示により本明細書に包含される。
【0069】
当業者は、本明細書に記載されるDNA突然変異生成技術が、Bacillus anthracisに特異的なバクテリオファージ溶解素をコードする多様なDNA分子を生産することができ、該DNA分子は溶菌タンパク質の本質的な特質を維持していることを認識している。下記により詳細に記載されるように、溶菌酵素の特質に関する変異を得るために、新規に誘導されたタンパク質も選択することが可能である。そのような誘導体としては、少量の欠失、付加、および置換を含むアミノ酸配列での変異を有するものが挙げられる。
【0070】
アミノ酸配列変異を導入するための部位を予め定める一方で、突然変異自体を予め定めておく必要はない。例えば、所定の位置での突然変異の実行を最適化するために、標的コドンまたは領域で無作為な当然変異生成を実行することが可能であり、所望の活性の最適組み合わせについて、発現したタンパク質変異体をスクリーニングすることが可能である。上述のような既知配列を有するDNA内の所定の部位で置換突然変異を構築するための技術は周知である。
【0071】
アミノ酸置換は、通常、単一残基のアミノ酸置換である。挿入は、通常、約1〜10程度のアミノ酸残基である。欠失は、約1〜30残基の範囲である。欠失または挿入は、単一の形態であるが、好ましくは、隣接する対で、すなわち、2残基の欠失または2残基の挿入でおこなわれる。置換、欠失、挿入、またはその任意の組み合わせを組み合わせて、最終コンストラクトに到達することが可能である。明白なように、タンパク質をコードするDNA内で構築される突然変異は、リーディングフレーム外に配列を配置させてはならず、好ましくは、二次的なmRNA構造を産生することが可能な相補的領域を生成しない(EP 75,444A)。
【0072】
置換変異体は、アミノ酸配列内の少なくとも1つの残基が除去され、異なる残基がその位置に挿入されているものである。タンパク質の特質を精巧に調節することを所望する際、そのような置換を下記の表1にしたがっておこなうことが可能である。表1は、タンパク質内の元のアミノ酸に対して置換され得、かつ保存的置換としてみなされるアミノ酸を示す。
【0073】
【表1】

【0074】

【0075】
表1内のものよりもあまり保存的でない置換を選択すること、すなわち、(a)例えばシートまたはヘリックスコンフォメーションとしての置換エリア内のポリペプチド骨格構造、(b)標的部位にある分子の電荷または疎水性、あるいは(c)側鎖のバルクを維持する上でのそれらの効果でより有意に異なる残基を選択することによって、機能または免疫学的アイデンティティでの実質的な変化をおこなう。タンパク質の特性で最大の変化を生じると一般的に考えられる置換は、(a)親水性残基、例えばセリルまたはスレオニルが疎水性残基、例えばロイシル、イソロイシル、フェニルアラニル、バリル、またはアラニルに対して(によって)置換されている、(b)システインまたはプロリンが任意の他の残基に対して(によって)置換されている、(c)電気陽性側鎖を有する残基、例えばリシル、アルギニル、またはヒスチジルが電気陰性残基、例えばグルタミルまたはアスパルチルに対して(によって)置換されている、あるいは(d)バルキーな側鎖を有する残基、例えばフェニルアラニンが側鎖を持たないもの、例えばグリシンに対して(によって)置換されている置換である。
【0076】
感染細菌宿主中のファージによって示されるDNA架橋剤への感度を補完する誘導体タンパク質の能力を分析することによって、これらのアミノ酸置換または欠失または付加の効果を溶菌タンパク質の誘導体に対して評価することが可能である。上述のように、細菌中に誘導体タンパク質をコードするDNA分子をトランスフェクションすることによって、これらのアッセイを実行することが可能である。
【0077】
Bacillus anthracisに特異的なバクテリオファージに遺伝学的にコードされる溶菌酵素およびその酵素のフラグメントをコードするヌクレオチド配列を本明細書で提供しており、それに対応して、cDNA分子の相補DNA鎖およびストリンジェントな条件下で溶菌酵素cDNA分子にハイブリダイズするDNA分子またはその相補鎖を提供する。そのようなハイブリダイズする分子としては、ヌクレオチド置換、欠失、および付加を含む少量の配列変化によってのみ異なるDNA分子が挙げられる。cDNA分子またはその相補鎖の少なくともセグメントを含む単離オリゴヌクレオチドについてもこの開示によって企図され、該単離オリゴヌクレオチドには、例えば、効果的なDNAハイブリダイゼーションプローブとして、またはポリメラーゼ連鎖反応で有用なプライマーとして用いることが可能なオリゴヌクレオチドがある。標準的分子生物技術によって、溶菌酵素cDNA上のハイブリダイズするDNA分子および変異体を容易に生成することが可能である。
【0078】
特異的なオリゴヌクレオチドを用いたハイブリダイゼーション(Wallaceら、(1986).Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.51:257−261)、直接的DNA配列決定(ChurchおよびGilbert(1988).Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:1991−1995)、制限酵素の使用(Flavellら(1978).Cell 15:25)、変性用試薬を用いたゲル内での電気泳動移動度にもとづく識別(MyersおよびManiatis(1986).Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.51:275−284)、RNase保護(Myersら、(1985).Science 230:1242)、化学的切断(Cottonら(1985).Proc.Natl.Acad,Sci.USA 85:4397−4401)(本明細書で参考として援用)、およびリガーゼ媒介検出手順(Landegrenら,1988)等の方法によって、特異的DNA突然変異の検出を実行することが可能である。
【0079】
市販の機械を用いて正常または突然変異配列に特異的なオリゴヌクレオチドを化学的に合成し、同位体(32P等)で放射的にまたはビオチン等のタグ(WardおよびLangerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:6633−6657 1981)(本明細書で参考として援用)で非放射的に標識し、ドットブロット法によってまたは電気泳動後のゲルからの転写によって膜または他の固体支持体に固定化した個々のDNA試料にハイブリダイズする。オートラジオグラフィーあるいは蛍光または比色反応等の方法によって、これらの特異的配列の有無を可視化する(Gebeyehuら、Nucleic Acids Res.15:4513−4534 1987)(本明細書で参考として援用)。
【0080】
ChurchおよびGilbert(1988)(本明細書で参考として援用)の直接的DNA配列決定法によって、遺伝子の正常形態と突然変異形態との配列の相違も明らかにすることが可能である。クローニングしたDNAセグメントをプローブとして用いて、特異的DNAセグメントを検出することが可能である。PCRと組み合わせると、この方法の感度が非常に高まる(Stofletら、Science 239:491−494,1988)(本明細書で参考として援用)。この手法では、改変型PCRによって生成した二本鎖PCR産物または一本鎖テンプレートとともに、増幅配列内にある配列決定プライマーを用いる。放射標識ヌクレオチドを用いた従来の手順によって、または蛍光タグを用いた自動化された配列決定法によって配列決定を実行する。そのような配列は、本発明の実施形態に係る溶菌酵素の生産に有用である。
【0081】
本開示で見出される実施形態の付加的な目的および利点は、この後の説明で記載され、部分的には説明から自明であり、または実施形態の実施によって教示され得る。本発明の目的および利点は、添付の請求項の記載で具体的に指摘する手段および組み合わせによって理解および達成され得る。
【0082】
本明細書に組み込まれ、かつ明細書の部分を構成する添付図面は、本開示の現在好ましい実施形態を説明し、上記に提供した一般的説明および下記に提供する好ましい実施形態の詳細な説明とともに、本発明の原理を説明するために役立つ。
【0083】
(詳細な説明)
(G溶解素の同定)
図1〜17を参照すると、Bacillus anthracisのdsDNAファージは、Bacillus anthracisの遺伝学的均一性を反映すると考えられる非常に相同なファミリーを形成する。Redmond,C.,Henderson,I.,Turnbull,P.C.B.&Bowen,J.Phage from different strains of Bacillus anthracis.Salisbury Med Bu11−Specia1 Supplement 87,60−3(1996)。Bacillus anthracisのγファージは、臨床研究所で標準的診断用ツールであるので、該γファージを溶解素ソースとして選択した。Brown,E.R.&Cherry,W.B.Specific identification of Bacillus anthracis by means of a variant bacteriophage.J Infect Dis 96,34−9(1955)。 は、ビルレンスプラスミド治癒炭疽または潜在的な炭疽前駆体の環境的保有体を代表することが可能である密接に関連するが希少なB.セレウス(B.cereus)菌株を含む全てのBacillus anthracis単離物の>85%に感染する。Turnbull,P.C.B.Definitive identification of Bacillus anthracis−a review.J Appl Microbiol 87,237−40(1999)。
【0084】
γファージをBacillus anthracisから単離し、Hans W.Ackermann(Laval University,Quebec,Canada)から入手した。表1に示す菌株の新たな菌叢に高力価gアリコート10mlを添加することによって、ファージ感受性を始めに試験した。16時間の増殖後のクリアランスが感受性を示した。RSVF1を用いて、2.2×1010プラーク形成単位(pfu)ml−1を含有する高力価ファージストックを従来記載の方法によって調製した(Loeffler,J.M.,Nelson,D.&Fischetti,V.A.Rapid killing of Streptococcus pneumoniae with a bacteriophage cell wall hydrolase.Science 294,2170−2(2001))。pfuは、感染可能な細菌の菌叢上での感染、増殖、および放出の連続ラウンド後に小さい透明地帯またはプラークを形成する単一のファージである。RSVF−1由来ファージストックを図2に示す力価決定で用いた。
【0085】
Helgasonらは、B.セレウス(B.cereus)RSVF1およびBacillus anthracis菌株が複数のアロザイム遺伝子座で単形態性であり、そのためB.セレウス(B.cereus)系統の同じクラスタの部分であることを示すそのような作用している菌株を示唆した。
【0086】
γファージおよび得られた溶菌酵素の特異性および強度を研究するために、Bacillus属の異なる菌株を調製した。ルリアブロス(LB)またはブレイン−ハートインフュージョンブロス(BHI)(必要な際は、1.5%寒天を添加)中で、大部分の菌株を30℃で増殖させた。大腸菌(E.coli)XL1−Blue(Stratagene)を含む分析を37℃で実行した一方で、B.ステアロサーモフィラス(B.stearothermophilis)を55℃で処理した。菌株RSVF1は、B.セレウス(B.cereus)参照菌株ATCC4342のストレプトマイシン耐性誘導体である。RSVF1およびBacillus anthracis間の類似性にもかかわらず、重要な遺伝子型相違が存在し、RSFV1は、誤認されるBacillus anthracis菌株ではない(Pannucci,J.,Okinaka,R.T.,Sabin,R.&Kuske,C.R.Bacillus anthracis pXOl plasmid sequence conservation among closely related bacterial species.J Bacteriol 184,134−41(2002);Helgason,E.,Caugant,D.A.,Olsen,I.&Kolsto,A.B.Genetic structure of population of Bacillus cereus and B.thuringiensis isolates associated with periodontitis and other human infections.J Clin Microbiol 38,1615−22(2000);Ticknor,L.O.ら、Fluorescent Amplified Fragment Length Polymorphism Analysis of Norwegian Bacillus cereus and Bacillus thuringiensis Soil Isolates.Appl Environ Microbiol 67,4863−73(2001))。RSVF1のvrrA遺伝子座の分析を記載されるように実行した(Jackson,P.J.ら、Characterization of the variable−number tandem repeats in vrrA from different Bacillus anthracis isolates.Appl Environ Microbiol 63,1400−5(1997))。Bacillus anthracis操作は、Leonard W.Mayer(Centers for Disease Control,Atlanta,Georgia)およびAbraham L.Turetsky(Aberdeen Proving Grounds,Aberdeen,Maryland)によって提供された。その後、これらの細菌菌株をγファージに暴露した。
【0087】
RSVF1は、gによる感染に感受性があり、図5に示すように、無光沢のコロニー形態、糸状構造、および超可変vrrA遺伝子座内で反復配列を示し、これら全てはBacillus anthracisの特性であることが判明した。図5の誤差バーは、実験を3ないし5回、それぞれ独立して行った場合の標準偏差を示す。指定の液体細菌培養物のパネルをPlyG(20単位)またはリン酸緩衝液に暴露することによって、PlyGの溶菌活性(γファージに産生されるγ溶解素)を調べた。殺傷倍数(fold killing)は、緩衝液処置と比べて、溶菌後15分で測定された細菌生存率の減少を表す。「Bc」および「Bt」接頭語はそれぞれ、B.セレウス(B.cereus)またはB.チューリンジエンシス(B.thuringiensis)菌株を示す。RSVF1は、ビルレンスプラスミドを持たないが、それにもかかわらず、Bacillus anthracisおよび適当なγファージ宿主に非常に関連する。
【0088】
表現型スクリーニングを用いて、RSVF1を「外側から(from without)」溶解するγファージ・タンパク質を同定した。E.coliバックグラウンドでの誘導γファージ発現ライブラリを透過化処理して、RSVF1菌叢で覆った。キアゲン社(Qiagen Inc.)の1マキシ・キット(1 Maxi kit)を用いて、GゲノムDNAを単離した。Tsp509Iと、アラビノース誘導性発現ベクターpBAD24のEcoRI部位に0.5〜3.0kb範囲でクローニングしたフラグメントとで、gDNAの5mgアリコートを部分的に消化した。その後、得られた発現ライブラリをE.coli XL1−Blueに形質転換し、100mg ml−1のアンピシリンおよび0.25%アラビノースを含有するガラス製LBプレート上で、溶解素活性についてスクリーニングした。誘導ライブラリをクロロホルム蒸気で透過化(clearing)処理して、0.75%LB寒天中で対数期のRSVF1で覆った。24時間のインキュベーション後に、ライブラリを構成するもの全体にわたって、はっきりとした透明帯、すなわち溶解帯を識別した。対応するプラスミドDNAを調製および配列決定した。DNA配列分析および操作には、BRASTP(NCBI)、ORFファインダ(NCBI)、およびSeqMan5.0(Dnastar Inc.)プログラムを必要とした。
【0089】
ライブラリ・サーチで回収され、かつplyGORFのみをコードするpBAD24::plyGコンストラクトの1つを組換えPlyGのソースとして用いた。アンピシリン100mg ml−1を添加したLB一晩培養物中で、0.25%L−アラビノースによって発現を誘導した。細胞を洗浄して、50mM Tris(pH8.0)に再懸濁し、16.6%濃度で添加されたクロロホルムで溶解した。細胞片およびクロロホルムを遠心により除去して、未精製PlyG上清を生成した。PlyGの陽イオン性によって、PlyGは、大分部の夾雑物に結合するHiTrap Q Sepharose XLカラム(Amersham Biosciences)を通過することができる。Mono S HR 5/5カラム(Amersham Biosciences)に通して、1M NaClを含有する線形勾配中で溶出することによって、該酵素をさらに精製した。活性画分をプールして、ゲル電気泳動と、ゲル濾過スタンダード(Bio−Rad)で平衡化したSuperose 12カラム(Amersham Biosciences)上でのクロマトグラフィーとによって、純度を評価した。
【0090】
図2に示すように、溶解地帯を生成したクローンは全て、N−アセチルムラモイル−L−アラニンアミダーゼと呼ばれる溶解素と相同な産物をコードする702bpのgORFを含有していた。TP21およびf 105はそれぞれ、B.cereusおよびB.subtilisのファージ・アミダーゼを示す。CwlAおよびClyAはそれぞれ、B.cereusおよびB.subtilisのゲノム中でコードされる。濃い陰影は、配列同一性を表し、薄めの陰影は、類似性を表す。相同性は、それらの触媒NH2末端半分に限定されており、溶解素特異的COOH−末端結合ドメイン中には存在しない。精製PlyGのクーマシーブルー(Coomassie Blue)染色SDS−PAGEを用いたカラム・クロマトグラフィーによって、組換えg溶解素(名称PlyG、ファージ溶解素γに対するもの)を均質に精製した(図3)。カレイドスコープ(Kaleidoscope)スタンダード(Bio−Rad)の位置にもとづいて、分子質量を概算した(図示せず)。このバンドのN末端配列は、予測PlyG配列に一致する。ゲル濾過によって、27kDaまでの予測サイズが確認され、PlyGが単量体として作用し、かつタンパク質分解処置されないことが示唆される。
【0091】
(インビトロ溶解素活性)
複数の方法で活性を調べた。Spectramax Plus 384分光高度計(Molecular Devices)を用いて、精製PlyGの段階希釈を用いて37℃で15分間インキュベートした対数期のRSVF1のOD650での降下を追跡した。その後、単位ml−1での酵素活性を記載されるように測定した(Nelson,D.,Loomis,L.&Fischetti,V.A.,Prevention and elimination of upper respiratory colonization of mice by group A streptococcus by using a bacteriophage lytic enzyme.Proc Natl Acad Sci U S A 98,4107−12(2001))。酵素の1単位は、PlyG1mgに相当すると推定された。溶解素特異性の未精製での測定を実行し、この際指定の菌株に由来する新たな菌叢に精製PlyG(0.5単位)の10mlを滴下した。一晩のインキュベーションの後に、透明地帯の出現を用いて、活性を評価した。液体殺滅アッセイ(liquid killing assay)も使用し、この際対数期の細胞1.0ml(〜1.0×10細胞)を、37℃で15分間、指定量のPlyGで処理した。指定時間点で、試料を取り出し、洗浄して、溶解素を除去し、計数用にプレートした。PlyG誘導溶解現象の測定として、ルシフェリン/ルシフェラーゼ試薬およびマイクロルミノメーター(PROFILE−1試薬キットおよびモデル3550iルミノメーター、New Horizons Diagnostics Corp.)を含む反応で、製造元のプロトコールにしたがって、死滅しかけている細胞から放出されたATPを間接的に測定した。要約すると、指定の菌株の栄養細胞を、0.4ml反応チャンバの底部にある0.45μMフィルター上で固定化した。固定化した細胞を体細胞放出剤で2回洗浄して、夾雑物を除去し、リン酸緩衝液中のPlyGの0.1mlを2分間添加した。キット付属のルシフェリン/ルシフェラーゼ試薬の0.05mlを添加して、直ちに、室温で10秒間アッセイした。全ての試料を5回試験した。RSVF1に放出された相対光単位は、一貫して、その放出可能光全量の10〜20%であった(キット付属の強洗剤混合物を用いて測定)。
【0092】
RSVF1は、アメリカ、欧州、アジア、およびアフリカから得たBacillus anthracis単離物のセットと同程度にPlyG殺滅に感受性があった(13および表1)。Bacillus anthracisに密接に関連する希少な菌株であるB.cereus10987は、PlyGにわずかに感受性があった一方で、検査した他の菌株全ては、耐性であった。Helgason,E.ら、Bacillus anthracis,Bacillus cereus,and Bacillus thuringiensis−one species on the basis of genetic evidence.Appl Environ Microbiol 66,2627−30(2000)。PlyG媒介殺滅のより高感度な試験を、5.0×10までの細菌を含有する緩衝液で評価し、PlyGの20単位で15分間処置した。RSVF1は、>1.6×10倍減少した(図5)一方で、ATCC10987は、〜100倍減少した。検査した他の菌株、3時間のインキュベーション後でさえ耐性が大であった。PlyGは、Bacillus anthracis クラスタへの強力かつ特異的な致死作用を明確に導くことができ、γファージ宿主範囲に密接に一致する基質特異性を示す。さらに、検査した複数のBacillus anthracis菌株の莢膜化状態によって、莢膜が細胞壁へのPlyGの侵入を遮断しないことが示された。
【0093】
PlyGは、大部分の溶解素と同様に、非常に活性な酵素であることが判明した。1.0×10までのRSVF1にPlyGの2単位を添加することによって、細胞内ATPの即時放出が引き起こされ(ホタルルシフェリン/ルシフェラーゼによる発光として測定)(図6)、これは、迅速な溶解効果と整合している。この効果は、RSVF1に特異的であり、試験した他の単離物では観測されなかったため、ATP放出アッセイがg感受性Bacillus対する強力な診断用ツールであることが示唆される。RSVF1死滅の異なる動力学的分析では、図7に示すように、2単位ほどの少量のPlyGで、20秒以内に生存率が1.7×10倍減少し、2分目で殺菌が生ずることが判明した。ここで、培養物中のRSVF1死滅の時間経過を緩衝液(r)またはPlyG(TM)1単位で処置した。各時間点で測定された培養物1ml当たりのコロニー形成単位として、これらの値を示す。PlyG処置試料(I)に対して測定された対応するOD600を示す。興味深いことに、培養物の光学密度の消失は、生存率での消失よりも遅れ、PlyGによる殺滅が必ずしも広範な細胞壁分解を必要としないことが示唆される。
【0094】
(顕微鏡検査)
溶解効果を可視的に検査するために、PlyG処置RSVF1の位相差顕微鏡検査を用いた。正常に糸状なRSVF1(図8)は、暴露後30秒で、短竿状形態およびミニ細胞状形態に迅速に変換することが判明した(図9)。細胞質物質のほぼ完全な消失が15分目までに起こり、「ゴースト(ghost)」細胞が残された(図10)。竿状形態の透過電子顕微鏡検査によって、局所的細胞壁加水分解の領域から突出する細胞膜が明らかになった。これらの構造は、通常、極性および中隔位置で識別でき(図11)、破裂して、ゴースト様形態を生成する(図12)。
【0095】
(インビボ溶解素活性)
PlyGの溶解効果によって、それを用いて、マウス感染モデル内でg感受性細菌を殺滅できることが示唆された。4〜8週齢のBALB/c雌は、チャールズ・リバー・ラボラトリーズ(Charles River Laboratories)から購入し、ロックフェラー大学(Rockefeller University)のラボラトリー・アニマル・リサーチ・センター(Laboratory Animal Research Center)で飼育した。既述の方法を変更して、マウス感染を実行した。BHI培地で増殖させた対数期のRSVF1をペレット化し、50mM K−P0緩衝液(pH7.4)で2回洗浄した。緩衝液中の1.0×10までの細胞のアリコートをマウスに0.1ml投与量で腹腔内(i.p.)注入した。15分後に、緩衝液単独か、または緩衝液中に含有したPlyGの0.5mlを腹膜腔に注入した。PlyG単独(細菌無し)の注入も実行して、毒性を評価した。3〜4日までの間、マウスをモニターし、その期間で、全ての生存マウスが正常かつ通常の外見を回復した。
【0096】
複数のB.cereus単離物のi.p.注入によって、実験用炭疽と類似する迅速な致死性の疾患を誘導することができる。BALB/cマウスに対するRSVF1細胞(〜1.0×10)の注入は、5時間以下で全ての被験体を殺滅した(図13)。より具体的には、マウスに、1.0×10以下のRSVF1cfuをi.p.注入し、15分後にリン酸緩衝液(n=15)か、50UのPlyG(n=17)か、または150UのPlyG(n=9)で処理を施した。付加的な対照として、細菌に攻撃されていないマウスに、50UのPlyG(n=5)を注入した。72時間目に実験を停止した。感染マウスへの50Uまたは150Uの投与は、緩衝液対照と比べて有意に予防的であった(P<0.0001)。緩衝液処置マウスに対する中央生存時間は、2時間であった。死亡時に、多くのマウスは、接種部位に重度の浮腫を示し、眼および口から出血を示した。感染後15分に、PlyG(50単位)をip注入したとき、顕著な治療効果が観察された。すなわち、19匹のマウスのうち13匹が完全に回復した一方で、残りは、6時間から21時間生存した。PlyGの150単位を用いたとき、類似の回復率が観察された。PlyG単独のi.p.またはi.v.注入で、毒性は検出されなかった。したがって、PlyG投与量は、感染動物中のg感受性細菌を迅速に殺滅する。
【0097】
次に、発芽胞子を分解するPlyGの能力を検査した。Mazas,M.,Martinez,S.,Lopez,M.,Alvarez,A.B.&Martin,R.Thermal inactivation of Bacillus cereus spores affected by the solutes used to control water activity of the heating medium.Int J Food Microbiol 53,61−7(1999)に記載されるように、胞子を調製した。位相差顕微鏡検査によって測定された95〜99%の屈折性内生胞子を含有する試料を水中に4℃で保存した。胞子殺滅実験として、2.0×10以下の胞子の0.2mlアリコートを65℃で5分間熱活性化した。試料をペレット化して、37℃で5分間、L−アラニン100mMを含有する(発芽誘導のため)1.0mlトリプチック・ソイ・ブロス(tryptic soy broth)(TSB、Difco)に懸濁した。その後、細胞を、37℃で5分間、PlyG(10単位)1.0mlで処置して、計数用にプレートした。L−アラニンを有するTSBは、各胞子型に対する発芽の強力な誘導物質であり、15分以内に、使用した各胞子型の>99%を熱感受性形態に変換する。D−アラニンの存在下では、発芽頻度は、<10%に減少する。
【0098】
胞子検出用に、マイクロルミノメーター(モデル3550i、New Horizons Diagnostics Corp.)とともに使用するために胞子殺滅プロトコールを改良した。基本的に、熱活性化胞子0.1ml(65℃、5分)を、0.4ml反応管内の0.45mMフィルター上に固定化した。固定化した胞子を体細胞放出剤で2回洗浄して、室温で5分間、100mMのL−アラニンを有する0.15mlTSBで処置した。その後、試料を洗浄して、室温で5分間、0.15mlのPlyG(2単位)で処置した。指定期間の間、ルシフェリン/ルシフェラーゼ試薬50mlを添加して、相対発光量として与えられる得られた光の定量的測度をルミノメーターによって示した。休眠状態では、胞子のペプチドグリカンまたは皮層は、タンパク質外被によって、リゾチームおよびアミダーゼから防護される。しかし、発芽誘導の10分以内に、外被空隙率は、分解し始めるにつれて増加する。基盤をなすペプチドグリカンがPlyGに敏感であると推論された。
【0099】
このことを評価するために、RSVF1、密接に関連するB.cereus(ATCC14579)およびB.thuringiensis(ATCC33679)菌株、ならびにB.subtilisから胞子を調製した。5分間、約108個の熱活性化胞子のアリコートを誘導して発芽させ、その後、PlyG(10単位)で5分間処理した。得られた胞子生存率を、発芽阻害物質D−アラニンで処理した胞子の生存率と比較した(図14)。全てのD−アラニン処理胞子試料がPlyG耐性であった一方で、RSVF1のみがL−アラニンの存在下での発芽後に感受性であり、log103.9の生存率の劇的な減少を示した。そのため、PlyGが皮層に接近し得る可能性があるときに、発芽誘導後に殺胞子性作用が迅速に起こる。皮層の厚さを考慮すると、迅速なPlyG効果によって、多量の分解作用ではなく、胞子成長(outgrowth)を減じる微妙な変化が示唆される。
【0100】
(胞子検出)
発芽胞子を殺滅するPlyGの能力を利用して、手持ち型ルミノメーターを用いたg感受性胞子を検出するための迅速かつ特異的なシステムを開発した。胞子を、フィルター上またはキュベット内(溶液中で)に固定化または位置させ、少なくとも1種類の発芽剤およびPlyG(2単位)を用いて、少なくとも1回の5分間ラウンドでインキュベートした。インキュベーションをおこなう温度は、室温から60℃までであった。初めに、胞子を発芽剤中でインキュベートし、その後、PlyG中またはPlyGおよび発芽剤とともにインキュベートした。ファージ関連溶菌酵素は、PlyGである必要はないが、試験する胞子に特異的でなければならない。その後、ルシフェリン/ルシフェラーゼ試薬の存在下で放出される光「フラッシュ(flash)」として、分解している胞子からのATPの放出を測定した。ルシフェリン/ルシフェラーゼの存在下で、PlyG処理発芽胞子から放出されたATPを評価した。2.5×10のRSVF1胞子をL−アラニンで誘導して、発芽させ、2単位のPlyGで処理した。PlyG媒介フラッシュを図15に示す。Bc14579、Bt33679、およびB.subtilisの発芽胞子は活性を示さなかった。このことにより、PlyGの予期された認識特異性が実証された。予想どおり、胞子調製物を混合すると、RSVF1を含有する組み合わせのみが光シグナルを生成した。RSVF1を含む(RSVF+ミックス)かまたはRSVF1を含まない(RSVF1−ミックス)、2.5×10のBc14579、Bt33679、およびB.subtilisの胞子を含有する試料を、L−アラニン中で誘導して、発芽させた。PlyG処理(2単位)後の発光強度を図16に示す。約100個程度の少数の胞子を含有する試料を用いて、本発明者らのシステムの感度を検査した。PlyGおよびルシフェリン/ルシフェラーゼ試薬の存在下での60分間のインキュベーション後に、即時の光フラッシュよりもむしろ、RSVF1シグナルが観察された(図17)。このシグナルは、低レベルの「グロー(glow)」と整合し、放出される可能性がある低レベルのATPに整合する。他の発芽胞子型の存在下では、グローは検出されなかったため、グローは、g感受性胞子に特異的である。本発明者らの検出方法の特異性、迅速性、および高度な携帯性と組み合わせたこの感度によって、生物兵器としてBacillus anthracisが国内および戦場両方で使用されることをモニタリングする際の適用が示唆される。この技術を用いて、他の細菌種由来の胞子の存在を、それらの種に特異的なバクテリオファージ溶解素を用いて同定し得る。
【0101】
Bacillus anthracis胞子を溶菌するために用いられるファージ関連酵素は、溶菌酵素、キメラ溶菌酵素、改造溶菌酵素、およびその組み合わせでもよい。ファージ関連溶菌酵素およびその改変形態は、PlyG酵素またはBacillus anthracisに特異的な別のファージ関連溶菌酵素でもよい。
【0102】
ホリンタンパク質も用いて、発芽胞子を溶菌するのを補助し得る。ホリンタンパク質は、非改変ホリンタンパク質、キメラホリンタンパク質、改造・ホリンタンパク質、またはその組み合わせでもよい。
【0103】
ATPの検出用に用いられ得るルミノメーターの性質およびその使用方法は、米国特許第6,395,504号(本明細書中で参考として援用する)に見出され、かつ記載されている。
【0104】
(PlyG耐性のための変異誘発およびスクリーニング)
初めに、記載されているように(Loefflerら)、寒天プレート上で低濃度にて、または液体アッセイで漸増濃度にて、PlyGに繰り返し暴露することによって、自然発生的な溶解素耐性を検査した。耐性は検出されなかった。
【0105】
自然発生的な耐性が本当に可能であるかを決定するために、化学的に変異誘発した細胞を検査した。濃度150mMでメタンスルホン酸エチルエステル(EMS)を用いて、対数期のRSVF1を4時間処理し、90%殺滅を生じさせた。その後、その細胞をBHIで洗浄して、−70℃で冷凍する前に、3時間増殖させた(3回の細胞倍加)。150mg ml−1のストレプトマイシン耐性(strep)または3.5mg ml−1のノボビオシン耐性(nov)を生じる変異の頻度によって、変異誘発の効率を評価した。非変異誘発培養での自然発生頻度は、sterpに対して2.4×10−9およびstrepに対して4.0×10−10であった。EMS処理RSVF1に関しては、頻度は、strepに対して2.1×10−6およびstrepに対して4.3×10−6であった。その後、スクリーニングのために、冷凍変異誘発細胞を解凍して、BHIで洗浄し、30℃で30分間増殖させた。1mlアリコート(約1.0×10細胞)をPlyGとともに37℃で30分間インキュベートし、洗浄して、BHIで一晩プレートまたはインキュベートした。分光光度溶解素アッセイで、プレートした細胞から生じたコロニーを選別し、20単位のPlyGへの耐性に対して評価した。一晩BHI培養に対して、対数期の細胞を確立して、前回と同様に、再びPlyGで最終的に処理した。これを4日連続で繰り返した。実験の1つのセットでは、20単位のPlyGを各処理で用いた一方で、別のセットでは、0.05単位を使用した後、翌日に、連続的な10倍より高い用量を用いた。各処理後に細菌をプレートし、その後、分光光度溶解素アッセイで、20単位のPlyGへの耐性に対して検査した。耐性は検出されなかった。
【0106】
(γファージ溶解素結合部位に由来する新規の診断剤および治療剤)
γファージ溶解素結合部位は、そのタンパク質のカルボキシル末端領域に存在し、炭疽の検出および治療に特に有益である。
【0107】
本開示の実施形態は、本明細書で教示されるような配列を有する結合タンパク質間の結合反応によって、炭疽を検出および/または殺滅することができる新規のタンパク質、核酸、および他の分子を提供する。診断法のために、結合には、検出ステップが付随するか、または続き、この検出ステップは、例えば、金ゾル粒子の蓄積、連結タグからの蛍光、連結タグからの化学発光等がある。殺滅のためには、結合体結合部位と細菌壁との間に結合が生じ、この際、結合体の非結合部分が作用して、直接的または間接的に細菌を殺滅する。
【0108】
そのような実施形態では、発見されたγファージ溶解素結合部位を模倣した結合部位を用いて、シグナル伝達部分または殺菌部分を細菌に対して導く。細菌を殺滅する医薬品についての実施形態では、N−アセチル−ムラモイル−L−アラニンアミダーゼ、グルコサミニダーゼ、ムラミダーゼ、および/またはエンドペプチダーゼ等の殺滅物質と結合部位領域を連結する。殺滅物質は、天然に存在するγファージ酵素から簡便に入手または誘導し得る。細菌検出のための実施形態では、金ゾル粒子、セレンゾル粒子、発色酵素、蛍光生成酵素、化学蛍光生成酵素、蛍石、化学発光団等の検出可能物質と結合部位領域を連結する。それぞれの場合で、結合部位は、細菌の外表面に特異的に(好ましくは少なくとも10、より好ましくは10、さらにより好ましくは10の親和性定数で)結合する。特異的結合によって、好適には結合部位に共有結合的に連結する共役部による検出および殺滅両方が可能になる。
【0109】
次に論じるように、検出剤および治療剤を標的とするために、多様な結合部位が利用可能である。
【0110】
(天然結合部位領域変化形)
この生物に著しく十分に結合する配列の発見に基づいて、結合部位領域を構築するために、多様なアミノ酸配列が有用である。図1に示すように、γファージ溶解素のアミノ末端部分は、TP21、XlyA、phi−105、およびCwlAの触媒領域に高い相同性を示す。対照的に、残基番号約157から始まって233まで、これらの配列間で、より少ない配列相同性が見られ、この領域が、菌株および種特異的である特異的結合領域であることが示される。本開示の複数の実施形態では、位置157から233(「天然結合領域(Natural Binding Region)」)に示される配列を有するアミノ酸ストレッチを含有するタンパク質および他の分子は、炭疽の検出および/または治療に非常に有用である。
【0111】
図1に図示するように、RでKを、V、I、およびLを互いに、かつW、F、およびYを互いにというような配列への保存的アミノ酸変化を行い得る一方で、少なくともある程度の活性が保存される。さらに、多くのタンパク質とは異なり、本明細書中で示されるγファージ溶解素は、その細胞表面同種パートナーに著しく強力に結合し、1011程度の高い結合定数が測定された。したがって、1つ以上の保存的アミノ酸変化をこの配列におこなうことができる。そのような変化が結合親和性を10,000分の1に減少させる場合でさえ、そのタンパク質は、依然として、約10の結合定数で十分に結合する。この極度の結合のために、いくつかの場合では、保存的アミノ酸変化をおこなうことは、結合領域の構造を離調することによる成果を改善することができ、その結合領域が多様な結合パートナーに結合することにより、異なる壁特性を有する多様な炭疽菌株に潜在的に応答することを可能にする。
【0112】
高度に関連する生物、すなわちB.cereusに関する実験データによって、図1に示される厳密な配列を有するタンパク質がこの細菌の細胞壁と反応でき、かつその細胞壁を溶解できることが示された。すなわち、該データによって、保存的置換で1〜10%のアミノ酸を置換すること等のアミノ酸修飾に関連する結合親和性の低下が有利な特性を提供できることが示される。考えられる特性は、実験結果により示される方法で、特異性領域を拡大するための1、2、5、8、10、12、または15%までのアミノ酸の置換である。
【0113】
本発明の一実施形態では、少なくとも10の5乗、10の6乗、10の7乗、10の8乗、10の9乗、10の10乗、または10の11乗でさえもの結合親和性を有するポリペプチドおよびフラグメントを用いる。この図に示される天然結合領域(Natural Binding Region)に少なくとも50%配列同一性、より好ましくは少なくとも60%配列同一性、より好ましくは少なくとも70%配列同一性、より好ましくは少なくとも80%配列同一性、より好ましくは少なくとも95%配列同一性、より好ましくは少なくとも97%配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも98%配列同一性の相同配列を有する分子を用い得る。結合部位が少なくとも50アミノ酸長、少なくとも60アミノ酸長、または少なくとも70アミノ酸長であるとき、利点が見出され得、この際長さは、図に示す天然結合領域(Natural Binidng Region)に相同であるが、少なくとも8〜10、15、20、25、30、および40アミノ酸の配列が特に考慮される。この文脈での用語「に相同(homologous to)」とは、図1の4つの配列に見られるような最大同一性の対応のために並べられていることを意味する。
【0114】
本明細書で使用する場合、「フラグメント(fragment)」とは、前述のポリペプチドのアミノ酸配列の全てではないが部分として完全に同じであるアミノ酸配列を有する変異ポリペプチドである。フラグメントは、「独立している(free−standing)」か、またはより大きなポリペプチド内に含まれていてもよく、そのより大きなポリペプチドのうち、このフラグメントは、最も好ましくは単一の連続領域として、単一のより大きなポリペプチドの部分または領域を形成する。
【0115】
フラグメントは、例えば、図1に示すように並べられるときの天然結合領域(Natural Binding Region)またはその改変体の少なくとも50アミノ酸長領域に対応する(例えば50%配列同一性、より好ましくは少なくとも60%配列同一性、より好ましくは少なくとも70%配列同一性、より好ましくは少なくとも80%配列同一性、より好ましくは少なくとも95%配列同一性、より好ましくは少なくとも97%配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも98%または98%の配列同一性の)アミノ酸配列の一部分を有するトランケーション・ポリペプチドを含み得、該50アミノ酸長領域は、例えば、アミノ末端を含む連続する一連の残基またはカルボキシル末端を含む連続する一連の残基である。宿主細胞内のこの実施形態のポリペプチドの分解形態もまた、有利である。さらに、α・ヘリックスおよびα・へリックス形成領域、β・シートおよびβ・シート形成領域、ターンおよびターン形成領域、コイルおよびコイル形成領域、親水性領域、疎水性領域、α両親媒性領域、β両親媒性領域、フレキシブル領域、表面形成領域、基質結合領域、ならびに高抗原性インデックス(high antigenic index)領域を含むフラグメント等の構造特質または機能特質によって特徴づけられるフラグメントが有利である。
【0116】
類似の活性または改良された活性を有するもの、あるいは望ましくない活性が減少されているものを含むBacillus anthracisに対して少なくとも10、10、10、または10の結合活性を有するフラグメントもまた、有利である。結合部位および検出可能タグまたは細菌タグの共役体もまた有利であり、これは、望ましい臨床機能を与え、それによって、結合領域が細菌壁に特異的に結合し、炭疽の検出または殺滅を可能にする。
【0117】
ペプチド合成によって対応する完全長ポリペプチドを生産するために、本開示のポリペプチドのフラグメントである改変体を利用し得る。したがって、本開示の実施形態の完全長ポリペプチドを生産するために、これらの改変体を中間体として用い得る。
【0118】
(結合部位および溶解素をコードするポリヌクレオチド)
本開示の別の態様は、完全長遺伝子を含む単離ポリヌクレオチドに関する。該ポリヌクレオチドは、図1の天然結合領域(Natural Binding Region)の推論アミノ酸配列、それに密接に関連するポリヌクレオチド、およびその改変体を有する少なくとも結合部位領域ポリペプチドをコードする。
【0119】
本明細書に提供される情報を利用して、結合部位領域またはγ溶菌ポリペプチド全体をコードする本開示のポリヌクレオチドを、標準的なクローニングおよびスクリーニング法を用いて得ることが可能である。例えば、ファージを感染させた細胞を出発物質として用いて細菌から染色体DNAフラグメントのクローニングおよび配列決定を実行して、その後完全長クローンを得ることが可能である。図1に示した配列等の本開示のポリヌクレオチド配列を得るために、代表的に、部分的配列に由来する好ましくは17merまたはより長い放射標識オリゴヌクレオチドを用いて、E.coliバックグラウンドまたは他の任意の適切な宿主内の誘導γファージ発現ライブラリを探索する。次いで、ストリンジェントな条件を用いて、プローブと同一のDNAを保持するクローンを識別し得る。その後、元の配列から設計した配列決定・プライマーを用いてこのように同定される個々のクローンを配列決定することによって、両方向に配列を伸張して、完全な遺伝子配列を決定し得る。プラスミド・クローンから調製した変性二本鎖DNAを用いて、そのような配列決定を都合よく実行する。適切な技術については、Maniatis,T.,Fritsch,E.F.およびSambrookら,MOLECULAR CLONING,A LABORATORY MANUAL,2nd Ed.;Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)に記載されている(具体的には、Screening By Hybridization 1.90 and Sequencing Denatured Double−Stranded DNA Templates 13.70を参照せよ)。
【0120】
本開示の別の実施形態は、全長にわたって図1のコーディング配列に同一なポリヌクレオチド配列を提供する。成熟ポリペプチドまたはそのフラグメントに対するコーディング配列自体と、リーダー配列または分泌配列、あるいはプレタンパク質、プロタンパク質、またはプレプロタンパク質配列をコードするもの等の他のコーディング配列を有するリーディングフレーム内の成熟ポリペプチドまたはフラグメントに対するコーディング配列ともまた、本開示により提供される。ポリヌクレオチドは、非コーディング配列も含み得、該非コーディング配列としては、限定はされないが、例えば、転写配列、非翻訳配列、終止シグナル、リボソーム結合部位、MRNAを安定化する配列、イントロン、ポリアデニル化シグナル、および付加的なアミノ酸をコードする付加的なコーディング配列等の非コーディング5’および3’配列が挙げられる。例えば、融合ポリペプチドの精製を容易にするマーカー配列がコードされ得る。本開示の特定の実施形態において、マーカー配列は、pQEベクター(Qiagen,Inc.)中で提供される、Gentzら,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 86:821−824(1989)に記載されるヘキサヒスチジン・ペプチドまたはHAタグ(Wilsonら,Cell 37:767(1984)である。本開示のポリヌクレオチドとしては、限定はされないが、構造遺伝子および遺伝子発現を制御するその天然で関連する配列を含むポリヌクレオチドもまた、挙げられる。
【0121】
本開示の実施形態は、天然結合領域(Natural Binding Region)の推論アミノ酸配列を有するポリペプチドの改変体をコードする本明細書に記載されるポリヌクレオチドの改変体をさらに含む。本開示のポリヌクレオチドのフラグメントである改変体を用いて、本開示の完全長ポリヌクレオチドを合成し得る。
【0122】
さらに特に興味深い特徴は、複数、少数、5〜10、1〜5、1〜3、2、1、または0個のアミノ酸残基が、置換、欠失、または付加されているアミノ酸配列を任意の組み合わせ(Bacillus anthracis壁への結合を100倍より多くは減少させないサイレントな置換、付加、および欠失を含む)で有する、天然結合領域(Natural Binding Region)の改変体をコードする、ポリヌクレオチドである。
【0123】
本開示の更なる特徴は、天然結合配列(Natural Binding Sequence)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに、全長にわたって少なくとも50%、60%、または70%同一なポリヌクレオチドおよびそれに相補的なポリヌクレオチドである。あるいは、最高に好ましいのは、結合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに、全長にわたって少なくとも80%同一な領域を含むポリヌクレオチドおよびそれに相補的なポリヌクレオチドである。この点では、上記のものに、全長にわたって少なくとも90%同一なポリヌクレオチドが特に有利であり、これらのポリヌクレオチドの中でも、少なくとも95%であるものは、少なくとも97%のものと、少なくとも98%および少なくとも99%のものとがそうであるように、特定の利点を有する。
【0124】
本開示はさらに、本明細書中の上述の配列にハイブリダイズするポリヌクレオチドに関する。この点では、本開示は特に、ストリンジェントな条件下で本明細書中の上述のポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドに関する。本明細書で使用するように、用語「ストリンジェントな条件(stringent condition)」および「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件(stringent hybridization condition)」とは、配列間で少なくとも95%、好ましくは少なくとも97%の同一性があるときのみにハイブリダイゼーションが生じることを意味する。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例は、50%ホルムアミド、5×SSC(150mM NaCl、15mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト(Denhardt’s)溶液、10%硫酸デキストラン、および20マイクログラム/ml変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中で42℃で一晩インキュベーションした後に、0.1×SSC中で、約65℃でハイブリダイゼーション支持体を洗浄することである。ハイブリダイゼーション条件および洗浄条件は、周知であり、Sambrookら、,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor,N.Y.,(1989)、特にその中の11章に例示されている。
【0125】
本開示は、本明細書で先述したポリヌクレオチド配列またはそのフラグメントに相補的な配列を有するプローブを用いて、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、本明細書で先述したポリヌクレオチド配列に対する完全な遺伝子を含有する適切なライブラリをスクリーニングすることと、上記DNA配列を単離することとによって得ることができるポリヌクレオチド配列から本質的になるポリヌクレオチドもまた、提供する。そのようなポリヌクレオチドを得るために有用なフラグメントとしては、例えば、配列から作製されるプローブおよびプライマーが挙げられる。
【0126】
本開示のポリヌクレオチド・アッセイに関して本明細書でさらに論じるように、例えば、上記に論じたような本開示のポリヌクレオチドを、RNA、cDNA,およびゲノムDNA用のハイブリダイゼーションプローブとして用いて、結合領域をコードする完全長cDNAおよびゲノム・クローンを単離することと、結合領域または完全なγ溶解素遺伝子に高度に類似する配列を有する他の遺伝子のcDNAおよびゲノム・クローンを単離することとが可能である。そのようなプローブは、一般的に、少なくとも15個の塩基を含む。該プローブは、少なくとも30個の塩基を有し得、少なくとも50個の塩基を有してもよい。実施形態には、30個と50個との間の塩基を有するプローブが含まれる。
【0127】
本開示のポリヌクレオチドおよびポリペプチドを、例えば、ポリヌクレオチド・アッセイに関して本明細書でさらに論じるように、疾患、特にヒト疾患の処置および診断の開発のための研究用試薬および材料として用い得る。
【0128】
(γ溶解素を発現するためのベクターおよび宿主細胞、ならびに結合部位試薬)
本開示の実施形態は、結合領域のみ、あるいは全溶解素タンパク質または他のタンパク質との結合領域のライゲーション体/共役体も含む本開示のポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチド群を含むベクターもまた含む。他の実施形態は、本開示のベクターを用いて遺伝子操作された宿主細胞と、組み換え技術よる本開示のポリペプチドの生産とに関する。また、無細胞翻訳系を使用して、本開示のDNAコンストラクトに由来するRNAを用いてそのようなタンパク質を生産し得る。
【0129】
組み換え的生産のために、宿主細胞を遺伝子操作して、発現系またはその部分あるいは本開示のポリヌクレオチドを組み込み得る。Davisら,BASIC METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY,(1986)およびSambrookら,MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)等の多くの標準的な実験室マニュアルに記載されるような方法によって、宿主細胞へのポリヌクレオチドの導入を実行し得、該方法は、例えば、リン酸カルシウム・トランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、トランスベクション(transvection)、微量注入法、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープ・ローディング(scrape loading)、弾丸導入(ballistic introduction)、および感染である。
【0130】
適切な宿主の代表例としては、Streptococcus細胞、Staphylococcus細胞、Enterococcus細胞、E.coli細胞、Streptomyces細胞、およびBacillus subtilis細胞のような細菌細胞と、酵母細胞およびAspergillus細胞のような真菌細胞と、Drosophila S2細胞およびSpodoptera Sf9細胞のような昆虫細胞と、CHO細胞、COS細胞、HeLa細胞、C127細胞、3T3細胞、BHK細胞、293細胞およびBowesメラノーマ細胞のような動物細胞と、植物細胞とが挙げられる。
【0131】
多種多様な発現系を用いて、本開示のポリペプチドを生産することができる。そのようなベクターとしては、中でも、染色体ベクター、エピソーム・ベクター、およびウイルス由来ベクター、例えば、細菌プラスミド由来のベクター、バクテリオファージ由来のベクター、トランスポゾン由来のベクター、酵母エピソーム由来のベクター、挿入エレメント由来のベクター、酵母染色体エレメント由来のベクター、バキュロウイルス由来のベクター、パポーバ・ウイルス(例えばSV40)由来のベクター、ワクシニア・ウイルス由来のベクター、アデノウイルス由来のベクター、鶏痘ウイルス由来のベクター、仮性狂犬病ウイルス由来のベクター、およびレトロウイルス等のウイルス由来のベクターと、プラスミドおよびバクテリオファージ遺伝因子(例えばコスミドおよびファージミド)に由来するもの等のそれらの組み合わせ由来のベクターとが挙げられる。発現系コンストラクトは、発現を調節および生成する制御領域を含有することが可能である。一般的に、この点について、ポリヌクレオチドを維持、増殖、もしくは発現すること、および/または宿主内でポリペプチドを発現させることに適した任意の系またはベクターを発現のために用いることが可能である。例えば、Sambrookら,MOLECULAR CLONING,A LABORATORY MANUAL(前出)に記載されるもの等の種々の周知かつ常法の技術のいずれかによって、適当なDNA配列を発現系に挿入することが可能である。
【0132】
翻訳されたタンパク質を小胞体の内腔、細胞周辺腔、または細胞外環境に分泌させるために、適当な分泌シグナルを発現ポリペプチドに組み込むことが可能である。これらのシグナルはポリペプチドに対して内因性であり得るか、または該シグナルは異種性のシグナルであり得る。
【0133】
周知の方法によって本開示のポリペプチドを組み換え型細胞培養物から回収および精製することができ、該方法としては、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈降、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロース・クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親和クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイト・クロマトグラフィー、およびレクチン・クロマトグラフィーが挙げられる。高速液体クロマトグラフィーも精製のために用いられる。単離および精製の途中でポリペプチドを変性する際、タンパク質の再折りたたみのための周知の技術を用いて、活性コンフォメーションを再生することも可能である。
【0134】
(診断アッセイ)
γ溶解素のC末端結合ドメインは、Bacillus anthracisに極めて特異的であるため、炭疽菌の同定のための診断用ツールとしてこのドメインを用いることが可能である。広範囲なアッセイ技術で、高親和性結合部位を用いて、炭疽菌を検出することが可能である。これらの技術は、当業者に周知である。このようなアッセイ法としては、ラジオイムノアッセイ、金ゾル放射免疫アッセイ、競合的結合アッセイ、ウエスタン・ブロット・アッセイ、およびELISAアッセイが挙げられる。
【0135】
検出アッセイは、異種形式を有利に用い、この際、共役結合物質と被分析物との間の結合反応が生じ、その後洗浄工程で、未結合の共役結合物質を除去する。例えば、粒子表面に固定化される結合タンパク質との結合領域を含むタンパク質を用いて、金ゾル粒子を調製することが可能である。タンパク質と細菌との間に結合が生じるので、粒子が同化し、有色産物を形成する。同様に、βガラクトシダーゼ、ペルオキシダーゼ、またはホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ等の酵素と、好ましくは共有結合的に結合タンパク質を複合することが可能である。洗浄後に、蛍光生成基質または化学発光生成基質等の基質を添加することによって、残存する結合酵素を検出することができる。希土類蛍石等のシグナルを生成することができる任意の他の試薬と、結合タンパク質を複合することが可能であり、時間分解蛍光、放射性物質によって検出することが可能であり、かつ放射能測定または通常の蛍光タグによって検出することが可能であり、かつ蛍光によって検出することが可能である。
【0136】
合成化学または生物学的過程によって、検出可能タグとの結合領域の共役を実行することが可能である。例えば、結合領域をコードするDNA配列または溶解素タンパク質全体のDNA配列を、緑色蛍光タンパク質(GFP)等の検出可能マーカーまたはアルカリ性ホスファターゼ等の酵素をコードする遺伝情報にリンクさせることができる。これは、N末端触媒ドメインを除去して、それを緑色蛍光タンパク質(GFP)等のインジケーター分子とフレーム単位で置換し、炭疽菌同定用の発現融合分子を精製することにより結合ドメインに対するDNAを分離することによって、達成され得る。結合ドメインは、免疫グロブリンG分子の類似の結合親和性を有するので、マークを付けた結合ドメインは、偽陽性の活性ほとんどなしで炭疽菌を効果的に同定する。必要であれば、GFP分子または酵素を全溶解素酵素の5’末端で融合することも可能であり、そうすることによって、酵素ドメインは、少なくとも部分的に不活性化されるが、結合ドメインは、依然として機能して、Bacillusの細胞壁内のその基質に結合することが可能である。
【0137】
触媒ドメインから分離した単離結合ドメインを発現させ、精製し、多数の蛍光分子を用いて標識することが可能であり、該蛍光分子は、例えば、フルオレセイン・イソチオシアネート、ローダミン・イソチオシアネート、および当業者に既知の他のものがある。同定するために、結合ドメインをビオチンで修飾して、結合領域が炭疽菌に付着した後、ビオチン−アビジン複合体の形成を可能にする。
【0138】
他の触媒ドメインを結合領域に付加することが可能である。別の系に対して、Diazら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,87:8125(1990)に例示されるように、触媒ドメインを他のファージ溶菌酵素由来の触媒ドメインと置換して、炭疽菌のペプチドグリカン細胞壁内の他の結合を切断することが可能である。例えば、N末端触媒ドメイン(アミダーゼ)をコードするγ溶解素遺伝子の5’末端部分を除去して、他のBacillus・ファージのファージ溶菌酵素由来の、さらには他のグラム陽性およびグラム陰性細菌のファージ由来の触媒ドメインと置換することが可能である。これらの触媒ドメインは、他のアミダーゼ(高活性または特別の特徴を有し得る)、ムラミダーゼ、グルコサミニダーゼ、またはエンドペプチターゼであってもよく、それら全ては、γ溶解素の結合ドメインに遺伝学的に融合されるときに、炭疽菌のペプチドグリカン内のそれらそれぞれの結合を切断する。関連する実施形態では、単一のγ溶解素結合ドメインに異なる特異性の2つまたは3つ(以上)のタンデムの触媒ドメインを融合(すなわち、ムラミダーゼ−グルコサミニダーゼ−アミダーゼ)して、高度に活性な切断酵素を産生する炭疽菌細胞壁ペプチドグリカン内のこれらの結合を切断することが可能である。Navarre(Identification of a D−alanyl−glycine endopeptidase activity.J Biol Chem.1999 May 28;274:15847−56.)は、3組の酵素ドメインがバクテリオファージ溶菌酵素内に存在することが可能であることを示している。
【0139】
種々の従来のリンカー、例えば、ジイソシアネート、ジイソチオシアネート、カルボジイミド、ビス−ヒドロキシスクシンイミドエステル、マレイミド−ヒドロキシスクシンイミドエステル、グルタルアルデヒド等を用いることができ、好ましくは、米国特許第4,680,338号に開示される無水イソチオシアネート・リンカー等の選択的配列リンカーを用いることができる。
【0140】
(炭疽感染を処置する際使用するための医薬品)
精製PlyG溶解素は、高度に特異的な方法で、強力な溶菌効果を導くことが判明した。すなわち、該精製PlyG溶解素は、B.cereus系列の関連菌株の炭疽菌クラスタのメンバーを迅速に殺滅する。したがって、PlyGは、吸入性の炭疽感染を予防または処置する手段として、かつ炭疽菌増殖形態または胞子形態を検出するためのツールとして用いることが可能な酵素の一例である。
【0141】
溶菌酵素を用いて細菌感染、特に炭疽菌を処置することには多数の利点がある。特異な触媒および結合ドメインを有する溶解素のモジュール設計によって、それらドメインがドメイン・スワッピング実験用に理想的になり、該ドメイン・スワッピング実験では、他の病原菌に対して使用するために細菌特異性および触媒活性を改良または適応することができる。溶解素の触媒および結合ターゲット(それぞれ、ペプチドグリカンおよび関連糖質)は、生存率に対して非常に不可欠であるので、溶解素耐性は、極めて少ない。実際、RSVF1に対して、PlyGに対する自然発生的な耐性(<5.0×10−9の頻度)は観察されなかった。さらに、103〜104倍高い突然変異率を持つ化学的に突然変異生成させたRSVF1培養物でさえ、耐性が観察されなかった。自然発生的な突然変異よりむしろ、耐性を発生させるためには、遺伝子水平移動がより可能性のある手段である。しかし、炭疽菌の短い増殖期およびその拡大した休眠期を考慮すると、異種遺伝子座からのPlyG耐性の獲得は可能性が薄いようである。
【0142】
したがって、炭疽菌に向けられたファージ溶菌酵素の使用は、生体の炭疽感染を処置すること、あるいは物体または表面エリアの炭疽汚染を処置することの実行可能な手段であると考えられる。
【0143】
部屋等の表面またはエリアの潜在的な汚染の場合、炭疽菌に向けられる溶菌酵素を、部屋の表面全体にわたって噴射することが可能であり、部屋に通じる任意の空気ダクトの表面上に、そして部屋から離れて噴射することができる。酵素に対するキャリアは、約4.0〜約8.0の範囲、より最適には約5.5〜約7.5の範囲のpHを有することが可能である。さらに、キャリアを緩衝すべきである。酵素は、安定化緩衝液が約4.0〜約8.0の範囲またはさらに約5.5〜約7.5の範囲のpHを有することができるように機能することが可能である。
【0144】
安定化緩衝液は、溶解素酵素の最適活性を考慮すべきである。緩衝液は、ジチオトレイトール等の還元試薬を含有することが可能である。安定化緩衝液はまた、エチレンジアミン四酢酸ニナトリウム塩等の金属キレート化試薬であるか、または金属キレート化試薬を含むことも可能であり、あるいは、リン酸緩衝液、クエン酸−リン酸緩衝液、または任意の他の緩衝液を含有することも可能である。酵素の有効量または有効用量を提供すると考えられる酵素の活性単位の濃度を、流体1ml当たり約100単位から約500,000単位の範囲とすることができる。いくつかの場合では、流体1ml当たりの活性単位の範囲は、かなりより高くてもよい。さらに、キャリアは、保存料および抗菌剤を含んでもよく(限定はされないが)、細菌生体がキャリアに入らないようにする。
【0145】
図1に示す配列によって説明されるような溶菌酵素を使用することに加え、さらに上記に列記した一覧表中の可能な置換変異体とともに、該溶菌酵素に追加または代用して、キメラ溶菌酵素および改造溶菌酵素も可能である。
【0146】
キャリアは、L−アラニンを含むものであってもよく、これは、存在する任意の炭疽菌胞子の発芽を補助することが可能である。
【0147】
局所的感染を処置するための組成物は、この開示にしたがって生産される少なくとも1種類の溶菌酵素の有効量と、感染皮膚に少なくとも1種類の溶菌酵素を送達するためのキャリアとを含む。溶菌酵素の適用様式には、多数の異なる種類および組成物のキャリアが含まれ、該キャリアとしては、水性液体、アルコールベース液体、水溶性ゲル、ローション剤、軟膏、非水性液体基剤、鉱油基剤、鉱油およびワセリンの混合物、ラノリン、リポソーム、血清アルブミンまたはゼラチン等のタンパク質キャリア、粉末セルロース・カーメル、およびその組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。治療剤を含有するキャリアの送達様式としては、塗抹、スプレー、徐放性貼付剤、液体吸収ワイプ(wipe)、およびその組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。溶菌酵素を、直接または他のキャリアのいずれかで、包帯に適用することが可能である。包帯は、湿っているかまたは乾燥させて販売されており、この際酵素は、包帯上で凍結乾燥形態である。この適用方法は、感染皮膚の処置のために最も効果的である。
【0148】
局所的組成物のキャリアは、半固体およびゲル状ビヒクルを含んでよく、該ビヒクルは、ポリマー増粘剤、水、保存料、活性な界面活性剤または乳化剤、酸化防止剤、遮光剤、および溶剤または混合溶剤系を含む。米国特許第5,863,560号(Osborne)は、薬物への皮膚の暴露を助けることができる多数の異なるキャリアの組み合わせについて論じている。
【0149】
使用可能なポリマー増粘剤としては、当業者に既知のものが挙げられ、例えば、化粧品産業および製薬産業でしばしば用いられる親水性および水性アルコール性のゲル化剤がある。好ましくは、親水性または水性アルコール性のゲル化剤は、「CARBOPOL(登録商標)」(B.F.Goodrich,Cleveland,Ohio)、「HYPAN(登録商標)」(Kingston Technologies,Dayton,N.J.)、「NATROSOL(登録商標)」(Aqualon,Wilmington,Del.)、「KLUCEL(登録商標)」(Aqualon,Wilmington,Del.)、または「STABILEZE(登録商標)」(ISP Technologies,Wayne,N.J.)を含む。好ましくは、ゲル化剤は、組成物の約0.2重量%〜約4重量%を構成する。より具体的には、「CARBOPOL(登録商標)」に対する好ましい組成重量%範囲は、約0.5%〜約2%であり、一方「NATROSOL(登録商標)」および「KLUCEL(登録商標)」に対する好ましい重量%範囲は、約0.5%〜約4%である。「HYPAN(登録商標)」および「STABILEZE(登録商標)」両方に対する好ましい組成重量%範囲は、約0.5%〜約4%である。
【0150】
「CARBOPOL(登録商標)」は、一般的に採用されている名称カルボマーが与えられている多数の架橋アクリル酸ポリマーの1つである。これらのポリマーは、水に溶解し、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン、または他のアミン塩基等の苛性物質と中和すると、透明なまたはわずかに霞んだゲルを形成する。「KLUCEL(登録商標)」は、水中で分散され、完全に水和されると均一なゲルを形成するセルロースポリマーである。他の好ましいゲル化ポリマーとしては、ヒドロキシエチルセルロース、セルロースゴム、MVE/MAデカジエンクロスポリマー、PVM/MAコポリマー、またはその組み合わせが挙げられる。
【0151】
この発明では、保存料も使うことが可能であり、好ましくは全組成物の約0.05重量%〜約0.5重量%を構成する。保存料を使用することによって、産物が微生物に汚染されている場合、処方物が微生物の増殖を阻止または減少させることが確実になる。この発明で有用な複数の保存料としては、メチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、クロロキシレノール、安息香酸ナトリウム、DMDMヒダントイン、3−イオド−2−プロピルブチルカルバメート、ソルビン酸カリウム、クロルヘキシジンジグルコネート、またはその組み合わせが挙げられる。
【0152】
二酸化チタンも遮光剤として用いて、光増感に対する予防として機能することが可能である。別の遮光剤としては、ケイ皮酸メチルが挙げられる。さらに、BHAも、エトキシジグリコールおよび/またはダプソンが酸化によって変色するのを防ぐことに加えて、酸化防止剤として用いることができる。別の酸化防止剤はBHTである。
【0153】
この開示の全ての実施形態で使用するための医薬品としては、抗微生物剤、抗炎症剤、抗ウイルス剤、局所麻酔剤、コルチコステロイド、破壊療法剤、抗真菌剤、および抗男性ホルモン物質が挙げられる。局所的処方物内で用いることが可能な活性医薬品としては、抗微生物剤、特に、ダプソン、エリスロマイシン、ミノサイクリン、テトラサイクリン、クリンダマイシン、および他の抗微生物剤等の抗炎症特性を有するものが挙げられる。抗微生物剤の好ましい重量%は、0.5%〜10%である。
【0154】
局所麻酔剤としては、テトラカイン、塩酸テトラカイン、リドカイン、塩酸リドカイン、ジクロニン、塩酸ジクロニン、ジメチソキン塩酸、ジブカイン、塩酸ジブカイン、ブタンベンピクレート(butambenpicrate)、および塩酸プラモキシンが挙げられる。局所麻酔剤の好ましい濃度は、全組成物の約0.025重量%〜5重量%である。約2重量%〜約25重量%の好ましい濃度で、ベンゾカイン等の麻酔剤も用いることが可能である。
【0155】
使用可能なコルチコステロイドとしては、二プロピオン酸ベタメタゾン、フルオシノロンアクチニド、吉草酸ベタメタゾン、トリアムシノロンアクチニド、プロピオン酸クロベタゾール、デスオキシメタゾン、酢酸ジフロラゾン、アムシノニド、フルランドレノリド、吉草酸ヒドロコルチゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、およびデソニドが挙げられ、約0.01重量%〜1.0重量%の濃度が推奨される。ヒドロコルチゾンまたは酢酸メチルプレドニゾロン等のコルチコステロイドに対する好ましい濃度は、約0.2重量%〜約5.0重量%である。
【0156】
サリチル酸または乳酸等の破壊療法剤も用いることが可能である。約2重量%〜約40重量%の濃度が好ましい。カンタリジンは、約5重量%〜約30重量%の濃度で好ましく利用される。局所的組成物内で使用可能な代表的な抗真菌剤およびそれらの好ましい重量濃度としては、硝酸オキシコナゾール(0.1%〜5.0%)、シクロピロックスオラミン(0.1%〜5.0%)、ケトコナゾール(0.1%〜5.0%)、硝酸ミコナゾール(0.1%〜5.0%)、および硝酸ブトコナゾール(0.1%〜5.0%)が挙げられる。他の局所剤を含んで、当業者に認識されるように生じ得る種々の局所的共感染に対処することが可能である。
【0157】
代表的に、薬剤の組み合わせを用いる処置としては、局所麻酔剤と組み合わせた抗生物質が挙げられ、例えば感染に対する予防および痛みの緩和を提供する局所抗生物質ゲル用のテトラカインと組み合わせた硫酸ポリミキシンBおよび硫酸ネオマイシンがある。別の例は、円形脱毛症の処置のためのコルチコステロイド(例えば、二プロピオン酸ベタメタゾン)と組み合わせたミノキシジルの使用である。白癬感染の処置のためのケトコナゾール等の抗真菌剤とコルチゾン等の抗炎症剤の組み合わせも一例である。
【0158】
一実施形態では、本発明は、約0.5%〜10%のカルボマーおよび約0.5%〜10%の医薬品を有する皮膚科学的組成物も含み、カルボマーおよび医薬品は共に、溶解状態および微粒子状態で存在する。溶解された医薬品は、角質層を通過する能力がある一方で、微粒子状の医薬品にはない。アミン塩基溶液、カリウム溶液、水酸化物溶液、または水酸化ナトリウム溶液は、ゲルの形成を完全なものにする。より具体的には、この医薬品は、抗炎症特性を有する抗微生物剤であるダプソンを含み得る。溶解されたダプソンに対する微粒子状ダプソンの好ましい比率は、5以下である。
【0159】
別の実施形態では、本発明は、約1%のカルボマー、約80〜90%の水、約10%のエトキシジグリコール、約0.2%のメチルパラベン、約0.3%〜3.0%のダプソン(微粒子状タプソンおよび溶解したダプソンの両方を含む)、および約2%の苛性物質を含む。より具体的には、カルボマーとしては、「CARBOPOL(登録商標)980」を挙げることが可能であり、苛性物質としては、水酸化ナトリウム溶液を挙げることが可能である。
【0160】
好ましい実施形態では、組成物は、ダプソンおよびエトキシジグリコールを含み、このことにより、溶解された薬物に対する微粒子状の薬物の比率を最適化することが可能である。この比率によって、角質層内または上部に保有されて角質層上ドメイン内で機能する薬物量と比較した、送達される薬物量が決定される。ダプソンおよびエトキシジグリコール系には、「CARBOPOL(登録商標)」ゲル化ポリマー、メチルパラベン、プロピルパラベン、二酸化チタン、BHA、および「CARBOPOL(登録商標)」を中和するための苛性物質と組み合わせた精製水を含むことが可能である。
【0161】
溶菌酵素のための任意のキャリアを従来の手段により製造することが可能である。しかし、キャリア内にアルコールを用いる場合、この酵素は、酵素の変性を予防するために、ミセル、リポソーム、または「リバース(reverse)」リポソームであるべきである。同様に、溶菌酵素をキャリア中に配置し、キャリアを加熱するか、または加熱した際は、そのような配置は、キャリアをある程度冷却した後に行い、この酵素の熱変性を避けるべきである。本発明の好ましい実施形態では、キャリアは無菌である。
【0162】
液状または凍結乾燥状のこれらの物質にこの酵素を添加することが可能であり、そこで酵素が液体に触れると可溶化される。
【0163】
炭疽暴露または炭疽感染を処置する際、非経口で、あるいは口腔または鼻腔を通って溶菌酵素を好ましく投与することが可能である。
【0164】
Bacillus anthracis感染の予防的処置および治療的処置のために用いることが可能な組成物は、改造および/またはキメラ酵素、ならびに酵素がキャリア系または経口送達様式内に入れられて粘膜内層に達するような口腔および鼻腔の粘膜内層への適用手段(例えば、キャリア系または経口送達様式)を含む。
【0165】
修飾溶菌酵素をキャリア系または経口送達様式に入れる前に、または入れた時に、約4.0と約8.0との間またはより厳密に約5.0と約7.0との間のpH範囲を維持するために、該酵素は、安定化緩衝液環境内にあることが可能である。
【0166】
安定化緩衝液は、溶解素酵素の最適活性を可能とするべきである。この緩衝液は、ジチオトレイトール等の還元試薬を含有することが可能である。安定化緩衝液は、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩等の金属キレート化試薬であってもよく、または金属キレート化試薬を含んでもよく、あるいはリン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、または任意の他の緩衝液を含有してもよい。これらのファージおよび他のファージのDNAコードを改変することにより、組み換え型酵素が2つより多い場所で1つの細胞壁を攻撃すること、組み換え型酵素が1種類より多くの細菌の細胞壁を切断すること、組み換え型酵素が他の細菌を攻撃すること、または任意のその組み合わせが可能になる。組み換え型バクテリオファージ産生酵素に対する改変の種類および数は無数にある。任意数のキメラおよび改造溶菌酵素を、単独でまたはホリンタンパク質とともに構築して、Bacillus anthracisへの暴露を処置することが可能である。
【0167】
例えば、上気道の細菌感染がある場合、細菌に特異的なバクテリオファージに感染させた細菌により産生される少なくとも1種類の溶菌酵素の有効量と、口、咽喉または鼻経路にこの溶菌酵素を送達するためのキャリアとを含む組成物とを用いてこの感染を予防的または治療的に処置することができる。溶菌酵素は、ホリンタンパク質と組み合わせて用いることが可能な、溶菌酵素、キメラ溶菌酵素、および/または改造溶菌酵素、あるいはその組み合わせであってもよい。溶菌酵素は、溶菌酵素の活性を可能にするpHを有する環境内にあることが可能である。この酵素の至適pH範囲は、約4〜8であり、最も至適なのは約6〜7のpHである。個体が、上気道障害を有する者にさらされたとき、溶菌酵素を粘膜内層に存在させ、感染性細菌のあらゆるコロニー形成を防ぐ。
【0168】
溶菌酵素(改変または非改変)の適用手段としては、限定はされないが、直接的な、間接的な、キャリアの、および特定の手段、または手段の任意の組み合わせが挙げられる。溶菌酵素の直接的な適用は、鼻腔スプレー、鼻腔ドロップ、鼻腔軟膏、鼻腔洗浄剤、鼻腔注入剤、鼻腔パッキング、気管支スプレー、および吸入器によるものでよく、あるいは咽喉ロゼンジ、口内洗浄剤、または含嗽剤の使用を介して間接的に、あるいは鼻孔に塗布する軟膏の使用を介して、あるいはこれらの適用法および類似の適用法の任意の組み合わせでもよい。溶菌酵素が投与され得る形態としては、限定はされないが、ロゼンジ、トローチ、キャンディ、注入剤、チューインガム、錠剤、粉剤、スプレー、液体、軟膏、およびエアロゾルが挙げられる。Bacillus anthracisへの暴露が鼻を介していることが最も有望である。細菌への暴露を可能な限りすぐに処置することが最善である。
【0169】
鼻腔スプレー、鼻腔ドロップ、鼻腔軟膏、鼻腔洗浄剤、鼻腔注入剤、鼻腔パッキング、気管支スプレー、口腔スプレー、および吸入器の使用によって溶菌酵素を直接導入する際は、該酵素は、好ましくは、キャリアとして作用する液体を有する液体またはゲル環境内にある。吸入器または気管支スプレーによって修飾酵素の乾燥無水型を投与することが可能であるが、液体送達形態が好ましい。
【0170】
酵素を添加するロゼンジ、錠剤、またはガムは、砂糖、コーン・シロップ、種々の染料、ノンシュガー甘味料、香味料、任意の結合剤、またはその組み合わせを含有することが可能である。同様に、任意のガム・ベース産物は、アカシア、カルナウバ蝋、クエン酸、コーン・スターチ、食用着色剤、香味料、ノンシュガー甘味料、ゼラチン、グルコース、グリセリン、ガム基剤、シェラック、ナトリウムサッカリン、砂糖、水、白蝋、セルロース、他の結合剤、およびその組み合わせを含有することが可能である。
【0171】
ロゼンジは、ショ糖、コーン・スターチ、アカシア、トラガカントゴム、アネトール、亜麻仁、含油樹脂、鉱油、セルロース、他の結合剤、およびその組み合わせをさらに含有することが可能である。本発明の別の実施形態では、デキストロース、ショ糖、または他の砂糖の代わりに、砂糖代用品を用いる。
【0172】
上記で言及したように、酵素を鼻腔スプレー内に入れることも可能であり、この際該スプレーはキャリアである。鼻腔スプレーは、長時間作用性または徐放性スプレーでありえ、当技術で周知の手段によって製造され得る。酵素が肺内を含む気管支内にさらに深く到達することが可能であるように吸入剤も用いることが可能である。
【0173】
溶菌酵素用の任意のキャリアを従来の手段によって製造することが可能である。しかし、任意の口内洗浄剤または類似の種類の産物は、酵素の変性を防ぐためのアルコールを含有しないことが好ましいが、リポソームおよび他の予防様式および形態内の酵素は、アルコール内で用いることが可能である。同様に、製造過程で酵素を咳止めドロップ、ガム、キャンディ、またはロゼンジ内に配置する際は、ロゼンジまたはキャンディは硬化する前、しかし咳止めドロップまたはキャンディはある程度冷却した後でそのような配置をおこない、酵素の熱変性を避けるべきである。十分に高く有効な用量で、咳止めドロップ、ガム、キャンディ、またはロゼンジ表面全体にわたって酵素を噴射することもできる。
【0174】
液状または凍結乾燥状のこれらの物質に酵素を添加することが可能であり、そこで酵素が唾液等の体液と接触する際に可溶化される。酵素は、ミセルまたはリポソーム内にあってもよい。
【0175】
感染を処置するための酵素の有効用量の割合または量は、酵素を治療的または予防的に用いるかどうか、感染性細菌にレシピエントがさらされる継続期間、個体のサイズおよび重量等に部分的に依存する。酵素を含有する組成物の使用のための継続期間も、使用が短期間の時間単位、日にち単位、または週単位であり得る予防目的の使用であるかどうかに依存し、あるいは、用法が数時間、数日、または数週続くか、および/または日周基準であるか、または1日の間で時間調整した間隔であるというような組成物使用のより集中的な養生法が必要となり得る治療目的の使用であるかどうかに依存する。用いられる用量形態は、最小の時間量に対して、最小数の単位を提供するべきである。酵素の有効量または用量を提供することが可能な酵素の活性単位の濃度は、鼻腔および口腔経路の湿潤環境または湿気のある環境でおよび局所的にも、流体1ml当たり約(例えば厳密に)100単位〜約500,000単位の範囲内とすることができ、かつ約100単位/mlから約50,000単位/mlの範囲も可能性がある。したがって、代表値としては、約200単位/ml、300単位/ml、500単位/ml、1,000単位/ml、2,500単位/ml、5,000単位/ml、10,000単位/ml、20,000単位/ml、30,000単位/ml、および40,000単位/mlが挙げられる。より具体的には、活性酵素単位への暴露時間は、1ml当たりの活性酵素単位の所望の濃度に影響を与えることが可能である。「長期間(long)」または「緩慢(slow)」放出性キャリア(例えば、確実な鼻腔スプレーまたはロゼンジ等の)として分類されるキャリアは、より長い期間にわたるが、1ml当たりの活性(酵素)単位のより低い濃度を保持または提供することが可能である一方で、より短い期間ではあるが、「短期間(short)」または「急速(fast)」放出性キャリア(例えば含嗽剤等の)は、1ml当たりの活性(酵素)単位の高濃度を保持または提供することが可能であることに注意すべきである。1ml当たりの活性単位量および暴露時間の継続期間は、感染の性質、処置が予防的または治療的であるかどうか、および他の変数に依存する。したがって、用量回数は、状況に依存し、1日以上当たり1回〜4回の範囲でありえ、継続期間は1日から複数の週までである。感染は、皮膚に生じることができるため、米国特許第6,056,954号および第6,056,955号に記載されるもの等の周知のビヒクルを用いて、該組成物を局所的適用のためにも配合することが可能である。
【0176】
通常は胞子形態の細菌が鼻に吸入されるときに、大部分のBacillus anthracis感染が生じる。その時、胞子は、体内および肺内にさらに吸入され、そこで一連の工程を介して、胞子は発芽して、全身感染および死亡を生じることができる。したがって、可能な限りすぐに感染を処置することが重要であり、好ましくは、胞子が鼻腔または口腔内にある間に処置する。感染を処置するときは、キャリアは、溶菌酵素(および/またはキメラ溶菌酵素および/または改造溶菌酵素)が最も効果的であるように発芽剤、好ましくはL−アラニンをさらに含むべきである。
【0177】
別の実施形態では、修飾溶菌酵素の治療効果を増強するのに有効な量の弱界面活性剤を用いることが可能である。適当な弱界面活性剤としては、特に、ポリオキシエチレンソルビタンのエステル類および脂肪酸のエステル類(Tween系列)、オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(Triton−X系列)、n−オクチル−ベータ−D−グルコピラノシド、n−オクチル−ベータ−D−チオグルコピラノシド、n−デカル−ベータ−Dグルコピラノシド、n−ドデシル−ベータ−D−グルコピラノシド、および生物学的に発生する界面活性剤、例えば、脂肪酸類、グリセリド類、モノグリセリド類、デオキシコレート、およびデオキシコレートのエステル類が挙げられる。他の処置の全てのように、炭疽を罹患または伝染する任意の哺乳類種または任意の動物種でこの処置を用いることが可能である一方で、この産物の最も一般的な使用を、細菌戦争またはテロリズム下にあるヒトに対しておこなうことができる。
【0178】
上記で言及したように、溶菌酵素ならびにキメラ溶菌酵素および/または改造溶菌酵素、あるいはそれらのペプチドフラグメントを粘膜内部に指向させ、そこで存在して、それらは、コロニー形成する疾患細菌を殺滅する。本明細書に開示および記載されるように、粘膜内部としては、例えば、上および下気道、眼、口腔、鼻、直腸、膣、歯周ポケット、腸、および結腸が挙げられる。粘膜組織の天然の除去または浄化メカニズムのために、従来の用量形態は、任意の有意な時間長さで、適用部位で保有されない。
【0179】
これらの理由および他の理由のために、期間にわたって、1種類以上のファージ酵素および他の補助的な物質とともに投与される粘膜組織に付着を示す物質を有することが有利である。調節された放出能力を有する物質が特に望ましく、持効性粘膜粘着剤の使用が大きく注目されている。
【0180】
J.R.Robinson(米国特許第4,615,697号、本明細書中に参考として援用)は、粘膜薬剤送達で用いられる種々の調節放出性ポリマー組成物の評価を提供しており、該特許は、調節放出性処置組成物について記載しており、これは、生体粘着剤および有効量の処置剤を含む。生体粘着剤は、(a)反復単位の少なくとも約80%が少なくとも1つのカルボキシル官能基を含有する多数の反復単位と、(b)ポリアルケニルポリエーテルを実質的に含まない約0.05から約1.5%の架橋剤とを含有し、かつ水により膨張することが可能であるが水に溶けない繊維性の架橋型カルボキシ官能ポリマーである。Robinsonのポリマーは、水により膨張するが溶けない一方で、該ポリマーは、架橋されており、熱可塑性ではなく、本明細書のコポリマー系ほどは活性物質とともにかつ様々な用量形態中に容易に配合されない。ミセルおよびマルチラメラ・ミセルを用いて、酵素の放出の調節をすることも可能である。
【0181】
親水性および疎水性物質の組み合わせである粘膜粘着剤を含む他の手法が既知である。E.R.Squibb &Co製のOrahesive(登録商標)は、口腔粘膜に付着させるために粘着性の炭化水素ポリマー中でペクチン、ゲラチン、およびカルボキシルメチルセルロースナトリウムを組み合わせている粘着剤である。しかし、このような親水性および疎水性成分の物理的混合物は、最終的にはばらばらに分解される。対照的に、本発明の親水性および疎水性ドメインは、不溶性のコポリマーを産生する。
【0182】
米国特許第4,948,580号(参考として援用される)は、生体粘着性口腔薬剤送達系について記載している。その組成物は、分散ポリエチレンを含有する鉱油等の軟膏基剤内に分散させたコポリマーポリ(メチルビニルエーテル/無水マレイン酸)およびゼラチンから形成される凍結乾燥ポリマー混合物を含む。米国特許第5,413,792号(本明細書中に参考として援用)は、(A)3:6から6:3の重量比率で好適に存在するポリオルガノシロキサンおよび水溶性ポリマー物質を含むベースト状基剤と、(B)活性成分とを含むペースト状の製剤を開示している。米国特許第5,554,380号は、少なくとも2つの相を有する油中水系を含有する固体または半固体の生体粘着性経口摂取可能薬物送達系を請求している。1つの相は、約25容積%から約75容積%の内側の親水性相を含み、もう1つの相は、約23容積%から約75容積%の外側の疎水性相を含み、この際この外側の疎水性相は、3つの成分、すなわち(a)乳化剤、(b)グリセリドエステル、および(c)蝋物質から構成される。
【0183】
米国特許第5,942,243号は、本発明の実施形態にしたがって抗菌剤を投与するために有用な複数の代表的な放出性物質について記載している。
【0184】
一実施形態では、生物学的活性物質の調節放出のために、親水性主鎖および疎水性グラフト鎖を含むグラフト・コポリマーから本質的になるポリマー粘膜粘着剤を含有する治療用組成物を特徴とする。グラフト・コポリマーは、(1)エチレン性不飽和官能基を有するポリスチレン・マクロモノマーと、(2)エチレン性不飽和官能基を有する少なくとも1種類の親水性酸性モノマーとの反応産物である。グラフト鎖は、ポリスチレンおよび親水性モノマー部の主ポリマー鎖から本質的になり、該親水性モノマー部のいくつかは酸性官能基を有する。グラフト・コポリマー中のポリスチレン・マクロモノマーの重量%は、約1〜約20%であり、グラフト・コポリマー中の全親水性モノマーの重量%は、約80〜99%であり、この際、上記全親水性モノマーの少なくとも10%は酸性であり、該グラフト・コポリマーは、完全に水和されるとき、少なくとも90%の平衡水含有量を有する。
【0185】
コポリマーを含有する組成物は、適用部位での組織液の吸収により徐々に水和し、粘膜表面に付着を示す非常に柔らかいゼリー状の塊を生成する。期間の間で、組成物は、粘膜表面に付着し、該組成物は、粘膜組織により吸収される薬理学的に活性な物質の徐放性を提供する。
【0186】
これらの実施形態の組成物の粘膜粘着性は、大部分、ポリスチレングラフトコポリマー内の鎖の親水性酸性モノマーによって生成される。酸性モノマーとしては、限定はされないが、アクリル酸、メタクリル酸、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、2−スルホエチルメタクリラート、およびビニルホスホン酸が挙げられる。他の共重合可能なモノマーとしては、限定はされないが、N,N−ジメチルアクリルアミド、グリセリルメタクリラート、ポリエチレングリコールモノメタクリラート等が挙げられる。
【0187】
本開示の組成物は、任意に、組成物の粘膜粘着性に対して有害な効果を引き起こすことのない量で、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ビニルピロリドン)、カルボキシメチルセルロースナトリウム可塑剤、および他の薬学的に受容可能な賦形剤等の他のポリマー物質を含有することが可能である。本開示の組成物の投薬量形態を従来の方法によって調製することができる。
【0188】
感染処置を促進するために、治療剤は、溶菌酵素の殺菌活性を増強することもできる少なくとも1種類の相補的物質をさらに含むことが可能である。相補的物質は、溶菌酵素の治療効果を相乗的に高めるために有効な量のエリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、マクロライドファミリーの他のメンバー、ペニシリン、セファロスポリンおよびその任意の組み合わせであり得る。実質的に、任意の他の抗生物質を修飾溶菌酵素とともに用いることが可能である。同様に、他の溶菌酵素をキャリア内に含んで、他の細菌感染を処置することが可能である。ホリンタンパク質を治療的処置に包含することが可能である。
【0189】
一旦Bacillus anthracisが鼻口腔を通過したら、全身感染の可能性が増加する。したがって、感染を非経口で処置することが必要となる。
【0190】
使用できる酵素は、上記のように、溶菌酵素、キメラ溶菌酵素、改造溶菌酵素、およびその組み合わせである。筋肉内、静脈内、皮下(subcutaneously)、皮下(subdermally)、またはその組み合わせで酵素を投与することができる。静脈内処置は、十分に感染した炭疽感染の最善の処置である可能性が最も高い。
【0191】
一実施形態では、適当な改造および/またはキメラ溶菌酵素ならびに酵素用のキャリアを含む治療剤を患者に注入することによって、感染を処置することが可能である。キャリアは、蒸留水、生理食塩水、アルブミン、血清、または任意のその組み合わせから構成され得る。より具体的には、輸液または注射用の溶液を従来の様式で調製することが可能であり、該方法は、例えばp−ヒドロキシベンゾエート等の保存料またはエチレンジアミン四酢酸のアルカリ金属塩等の安定剤を添加して、その後融合用容器、注射用バイアル、またはアンプルへ移すことが可能である。また、他の成分とともにまたは他の成分を含まずに、注射用の化合物を凍結乾燥して、使用時に、適宜、緩衝溶液または蒸留水中で可溶化することが可能である。不揮発性油、リポソーム、およびオレイン酸エチル等の非水性ビヒクルも本明細書で有用である。他のファージ関連溶菌酵素を、ホリンタンパク質とともに、組成物中に含むことが可能である。
【0192】
筋肉内注入が選択された投与様式である場合、好ましくは、等張処方物を用いる。一般に、等張性のための添加物としては、塩化ナトリウム、デキストロース、マンニトール、ソルビトール、およびラクトースが挙げられ得る。いくつかの場合では、リン酸緩衝生理食塩水等の等張溶液を用いる。安定剤には、ゼラチンおよびアルブミンが含まれる。いくつかの実施形態では、血管収縮剤を処方物に添加する。薬学的調製物は、無菌および発熱物質非含有で提供される。一般に、上記のように、静脈内注入が最も適切であり得る。
【0193】
キャリアは、等張性および化学的安定性を増強する物質等の少量の添加物を適切に含有する。このような物質は、使用される投薬量および濃度でレシピエントに対して非毒性であり、緩衝液(例えば、リン酸、クエン酸、コハク酸、酢酸、および他の有機酸またはそれらの塩)、酸化防止剤(例えばアスコルビン酸)、低分子量(約10残基未満)のポリペプチド(例えば、ポリアルギニンまたはトリペプチド)、タンパク質(例えば血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン)、親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン)、グリシン、アミノ酸(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン、またはアルギニン)、単糖、二糖、および他の糖質(セルロースまたはその誘導体、グルコース、マンノース、トレハロース、あるいはデキストリンを含む)、キレート剤(例えば、EDTA)、糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール)、対イオン(例えば、ナトリウム)、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート、ポロキサマー(poloxamer)、またはポリエチレングリコール(PEG))、ならびに/あるいは中性塩(例えばNaCl、KCl、MgCl、CaCl)等を含む。
【0194】
グリセリンまたはグリセロール(1,2,3−プロパントリオール)は、薬学的使用のために市販されている。注入用の無菌水、あるいは塩化ナトリウム注入または他の薬学的に受容可能な水性注入液体でそれを希釈して、0.1から100%(v/v)、好ましくは1.0から50%、より好ましくは約20%の濃度で用いることが可能である。
【0195】
DMSOは、多くの局所的に適用される薬物の浸透を高める際立った能力を有する非プロトン性溶媒である。注入用の無菌水、あるいは塩化ナトリウム注入または他の薬学的に受容可能な水性注入液体でDMSOを希釈して、0.1から100%(v/v)の濃度で用いることが可能である。
【0196】
キャリアビヒクルは、特に静脈内溶液を調製する場合は、リンガー溶液、緩衝溶液、およびデキストロース溶液を含むことも可能である。
【0197】
酵素をキャリア系または経口送達様式に入れる前または入れる時に、約4.0と約8.0、より好ましくは約6.5と約7.5の間のpH範囲を維持する安定化緩衝液環境内に酵素があることが望ましい。
【0198】
安定化緩衝液は、酵素の最適活性を可能にする。該緩衝液は、ジチオスレイトール等の還元剤でもよい。安定化緩衝液は、エチレンジアミン四酢酸ニナトリウム塩等の金属キレート試薬であってもよく、または金属キレート試薬を含んでもよく、あるいはリン酸緩衝液またはクエン酸−リン酸緩衝液を含有してもよい。キャリア内に見出される緩衝液は、溶菌酵素に対する環境を安定化するために機能することができる。
【0199】
非経口で投与される酵素の有効な投薬量の割合または量および処置の継続期間は、感染の重篤度、患者の体重、レシピエントが感染性細菌にさらされる継続期間、感染の重篤度、および種々の多数の他の変数に部分的に依存する。1日1回から数回で組成物を適用することが可能であり、短期間または長期間で適用することが可能である。用法は、数日から数週間続けてよい。用いられる任意の投薬量形態は、最小時間量に対して最小数の単位を提供すべきである。酵素の活性単位の濃度は、有効量を提供すると考えられ、また、酵素の投薬量は、組成物1ml当たり約100単位から約10,000,000単位の範囲、約1000単位/mlから約10,000,000単位/mlの範囲、および約10,000から10,000,000単位/mlの範囲であり得る。1ml当たりの活性単位量および暴露時間の継続期間は、感染の性質およびキャリアにより溶菌酵素が有することが可能になる接触量に依存する。酵素は、流動性環境内にある場合、最もよく作用することに注意すべきである。したがって、酵素の有効性は、部分的に、キャリアによって捕捉される水分量に関連する。処置に対する酵素の濃度は、血液および血液容量内の細菌数に依存する。
【0200】
感染処置を促進するために、治療剤は、溶菌酵素の殺菌活性を増強することもできる少なくとも1種類の補助的物質をさらに含むことが可能である。補助的物質は、Bacillus anthracisに対して有効な任意の抗生物質であり得る。同様に、他の溶菌酵素を含んで、他の細菌感染を処置することが可能である。
【0201】
さらに、多数の方法を用いて、細胞膜を越えて酵素を輸送する際に補助することができる。酵素を既知の技術によってリポソームに「挿入して(inserted)」、酵素をリポソームで輸送することができる。同様に、酵素を逆ミセル内に入れることが可能である。酵素をポリエチレングリコール付加することもでき、酵素の非活性部分にポリエチレングリコールを連結する。また、疎水性分子を用いて、細胞膜を越えて酵素を輸送することができる。最終的には、酵素のグリコシル化を用いて、細胞膜上で、特異的な内在化(internalization)受容体を標的することができる。
【0202】
製薬使用目的のために、任意数の異なる方法によって、溶解素を生産することが可能である。上記Bacillus anthracisに特異的なバクテリオファージによって送達される遺伝コードで該Bacillus anthracisを感染させることによって、溶菌酵素を産生する。本開示の別の実施形態では、配列番号1の塩基配列またはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で配列番号1の塩基の相補体とハイブリダイズする配列を有するDNAを含む核酸からの組み換え的生産によって、溶菌酵素を生産する。ファージゲノムから溶菌酵素に対する遺伝子を除去して、該遺伝子を運搬ベクターに導入し、該運搬ベクターを発現系中にクローニングすることによって、溶菌酵素を産生することが可能であり、この場合、運搬ベクターは、プラスミドである。発現系は、上に列記した群の任意のものから、または最も好ましくはE.coliおよびBacillusからなる群から選択される細菌であり得る。
【0203】
酵素の別の発現系生成は、無細胞発現系によるものである。
【0204】
本明細書に開示される実施形態は、γファージまたはPlyG溶菌酵素の使用に限定されない。実際に、Bacillus anthracisに特異的であり、かつ単独でBacillus anthracisに特異的であるバクテリオファージに遺伝学的にコードされる任意の溶菌酵素を用いて、Bacillus anthracisを同定および処置することが可能である。
【0205】
さらに、他の細菌に特異的な他の特定のファージ関連溶菌酵素を、Bacillus anthracisに特異的な任意のファージ関連溶菌酵素を含有または構成する組成物とともに含むことが可能である。
【0206】
全ての引用参考文献は本明細書に援用される。
【0207】
上記の教示を鑑みて、本開示の多くの改変および変更が可能である。当業者に容易に自明なそのような他の改変および変更は、添付の特許請求の範囲の精神および範囲内に含まれる。添付の特許請求の範囲では、「1つの(a)および(an)」ならびに「特定の(the)」等の項目は、そうではないことが明記されていない限り、1つまたは1つより多いことを意味し得る。群の1つまたは1つより多いメンバー間で「もしくは、または、あるいは(or)」を含む特許請求の範囲は、所定の産物またはプロセスで、群のメンバーの1つ、1つより多く、またはすべてが使用される場合に満たされると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0208】
【図1】図1は、γ溶解素に対する配列である。
【図2】図2は、公知の細胞壁アミダーゼを有するg溶解素PlyGの配列アラインメントである。
【図3】図3は、精製PlyGのクーマシーブルー(Coomassie Blue)染色SDS−PAGEである。
【図4】図4は、アメリカ、欧州、アジア、およびアフリカから得たBacillus anthracis単離物のセットである。
【図5】図5は、Bacillusの異なる菌株に関するg酵素の殺滅率を示すグラフである。
【図6】図6は、BacillusのRSVF1菌株を溶菌するg酵素によって引き起こされる細胞内ATPの即時放出(ホタルルシフェリン/ルシフェラーゼによる発光として測定)を示すグラフである。
【図7】図7は、RSVF1死滅の動力学的分析を示すグラフである。
【図8】図8は、Bacillusの正常な糸状RSVF1菌株の顕微鏡写真である。
【図9】図9は、溶菌酵素への暴露後30秒の短竿状形態およびミニ細胞状形態を示すBacillusのRSVF1菌株の顕微鏡写真である。
【図10】図10は、酵素への暴露後15分に生じた細胞質物質のほぼ完全な消失を示すBacillusのRSVF1菌株の顕微鏡写真である。
【図11】図11は、局所的細胞壁加水分解の領域から突出する細胞膜を現したBacillusのRSVF1菌株の竿状形態の顕微鏡写真である。
【図12】図12は、BacillusのRSVF1菌株の破裂を示すBacillusのRSVF1菌株の顕微鏡写真である。
【図13】図13は、RSVF1に感染させたPlyG処置BALB/cマウスの生存を示すグラフである。
【図14】図14は、胞子生存率に対するPlyGの効果を示すグラフである。
【図15】図15は、発芽胞子の特異的検出を示すグラフである。
【図16】図16は、胞子混合物中の発芽RSVF1胞子の検出を示すグラフである。
【図17】図17は、PlyG処置後の100個のRSVF1胞子の検出を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bacillus anthracis感染を処置するための方法であって、
前記Bacillus anthracisに特異的なバクテリオファージによりコードされる少なくとも1種類の溶菌酵素の有効量を感染またはコロニー形成部位に投与する工程を包含し、
前記少なくとも1種類の溶菌酵素が該Bacillus anthracisに特異的であり、該Bacillus anthracisの細胞壁を消化する能力を有する、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1種類の溶菌酵素が改造溶菌酵素、キメラ溶菌酵素、およびその組み合わせからなる群から選択されるように、該少なくとも1種類の溶菌酵素の遺伝コードが変更される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Bacillus anthracisに特異的なバクテリオファージにより送達される前記遺伝コードに該Bacillus anthracisを感染させることによって、前記少なくとも1種類の溶菌酵素が生産される、請求項1〜2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記溶菌酵素が、配列番号1の塩基配列またはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で配列番号1の塩基の相補体にハイブリダイズする配列を有するDNAに遺伝学的にコードされる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記配列番号1の塩基配列またはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で配列番号1の塩基の相補体にハイブリダイズする配列を有するDNAを含む核酸からの組み換え的生産によって、前記溶菌酵素が生産される、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ファージゲノムから前記溶菌酵素に対する遺伝子を除去して、該遺伝子を運搬ベクター中に導入し、該運搬ベクターを発現系にクローニングすることによって、前記少なくとも1種類の溶菌酵素が生産される、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記運搬ベクターがプラスミドである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記発現系が細菌である、請求項6〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記細菌が、E.coliおよびBacillusからなる群から選択される、請求項6〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記発現系が無細胞発現系である、請求項6〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記感染部位への前記溶菌酵素の送達に適した送達様式によって該溶菌酵素を送達する工程をさらに包含する、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記送達様式が、鼻腔スプレー、鼻腔ドロップ、鼻腔吸入剤、鼻腔軟膏、鼻腔洗浄剤、鼻腔注入剤、ゲル、鼻腔パッキング、ロゼンジ、トローチ、キャンディ、チューインガム、錠剤、スプレー、注入剤、粉剤、および液体からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
吸入器によって前記酵素の乾燥無水型を送達する工程をさらに包含する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
非経口、静脈内、筋肉内、皮下、または髄腔内で前記溶菌酵素を送達する工程をさらに包含する、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1種類の抗生物質を同時投与する工程をさらに包含する、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1種類の抗生物質が、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、ペニシリン、セファロスポリン、およびその任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記Bacillus anthracisの胞子の発芽を補助するためのL−アラニンをさらに含む、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記Bacillus anthracisに特異的なホリンタンパク質の投与をさらに含む、請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記ホリンタンパク質が、キメラホリンタンパク質、改造ホリンタンパク質、およびその組み合わせからなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
Bacillus anthracisの細胞壁を特異的に溶解できる実質的に精製された溶菌酵素。
【請求項21】
前記溶菌酵素が配列番号1に示すアミノ酸配列を含む、請求項20に記載の溶菌酵素。
【請求項22】
前記溶菌酵素が前記配列番号1に示す配列に少なくとも約50%配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項20に記載の溶菌酵素。
【請求項23】
前記溶菌酵素が、配列番号1と比べると、少なくとも約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約97%、約98%、または約99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項22に記載の溶菌酵素。
【請求項24】
請求項20〜23のいずれかに記載の実質的に精製された溶菌酵素を含む組成物。
【請求項25】
請求項20〜24のいずれかに記載の溶菌酵素をコードする単離されたDNA配列。
【請求項26】
前記配列がγファージのDNA内でコードされることが判明している請求項25に記載のDNA配列。
【請求項27】
ストリンジェントな条件下で請求項25および26のDNA配列にハイブリダイズする実質的に単離されたDNA配列。
【請求項28】
a.請求項20〜23記載の少なくとも1種類の溶菌酵素の有効量と、
b.該溶菌酵素を感染部位に送達するために適したビヒクルと
を含むBacillus anthracis感染を処置するための組成物。
【請求項29】
前記少なくとも1種類の溶菌酵素が改造溶菌酵素、キメラ溶菌酵素、およびその組み合わせからなる群から選択されるように、前記少なくとも1種類の溶菌酵素の遺伝コードが変更される、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
請求項5〜10のいずれかに記載の方法にしたがって生産される溶菌酵素を含む、請求項28または29のいずれかに記載の組成物。
【請求項31】
送達様式が、鼻腔スプレー、鼻腔ドロップ、鼻腔吸入剤、鼻腔軟膏、鼻腔洗浄剤、鼻腔注入剤、ゲル、鼻腔パッキング、ロゼンジ、トローチ、キャンディ、チューインガム、錠剤、スプレー、注入剤、粉剤、および液体からなる群から選択される、請求項28〜30のいずれかに記載の組成物。
【請求項32】
吸入器での使用に適した乾燥無水形態の、請求項28〜30のいずれかに記載の組成物。
【請求項33】
前記組成物が、非経口溶液、静脈内溶液、筋肉内溶液、皮下溶液、または髄腔内溶液である、請求項28〜31のいずれかに記載の組成物。
【請求項34】
少なくとも1種類の抗生物質をさらに含む、請求項28〜33のいずれかに記載の組成物。
【請求項35】
前記少なくとも1種類の抗生物質が、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、ペニシリン、セファロスポリン、およびその任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
前記Bacillus anthracisの胞子の発芽を補助するためのL−アラニンをさらに含む、請求項34または35に記載の組成物。
【請求項37】
前記Bacillus anthracisに特異的なホリンタンパク質の投与をさらに含む、請求項34〜36のいずれかに記載の組成物。
【請求項38】
前記ホリンタンパク質が、キメラホリンタンパク質、改造ホリンタンパク質、およびその組み合わせからなる群から選択される、請求項37に記載の組成物。
【請求項39】
Bacillus anthracisの胞子を検出する方法であって、
a.少なくとも1種類の発芽剤とともに該胞子をインキュベートする工程と、
b.該Bacillus anthracisの細胞壁を消化する溶菌酵素とともに該胞子をインキュベートする工程と、
c.ルシフェリンおよびルシフェラーゼを添加する工程と、
d.該ルシフェリンおよび該ルシフェラーゼの存在下でATPの放出を測定し、該ATPの放出からの発光をルミノメーターによって読み取る工程と
を包含する、方法。
【請求項40】
前記ルミノメーターが手持ち型ルミノメーターである、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記胞子を前記発芽剤とともにインキュベートする前に、フィルター上に該胞子を固定化する工程をさらに包含する、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記胞子を液体に入れた後に前記液体をキュベット内に置く工程をさらに包含する、請求項39〜41のいずれかに記載の方法。
【請求項43】
前記発芽剤がL−アラニンである、請求項39〜42のいずれかに記載の方法。
【請求項44】
前記溶菌酵素がPlyGである、請求項39〜43のいずれかに記載の方法。
【請求項45】
前記溶菌酵素が、キメラ溶菌酵素、改造溶菌酵素、およびその組み合わせからなる群から選択される、請求項39〜44のいずれかに記載の方法。
【請求項46】
ホリンタンパク質をさらに含む、請求項39〜45のいずれかに記載の方法。
【請求項47】
前記ホリンタンパク質が、改造溶菌酵素、キメラ溶菌酵素、およびその組み合わせからなる群から選択される、請求項46に記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染の処置のための医薬の製造における組成物の使用であって、該組成物は、以下:
(a)配列番号1のポリペプチドの単離されたアミノ酸配列、
(b)配列番号1のポリペプチドと少なくとも80%の相同性を有する単離されたアミノ酸配列、および
(c)25までのアミノ酸置換を有する配列番号1のポリペプチドの単離されたアミノ酸配列、
からなる群から選択される、単離されたポリペプチドを含む、使用。
【請求項2】
前記単離されたポリペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
請求項1に記載の使用であって、前記溶菌酵素が、配列番号1のポリペプチドと少なくとも80%の相同性を有する第1の単離されたアミノ酸配列を含み;そして、ここで、該溶菌酵素で処理されたRSVF1 B.cereusのサンプルから放出されたATPの発光アッセイにおいて発された光が、該溶菌酵素で処理されたB.cereus 14579についての発光よりも少なくとも100倍高く、該ATPの発光アッセイが、以下:
(a)約1.0×10のフィルター固定化植物性RSVF1 B.cereus細菌を、約150mLの総容量を有する溶液中約2Uの該溶菌酵素と約2分間接触させる工程;および、次いで、
(b)該溶液に約50mLのルシフェリン/ルシフェラーゼ試薬を添加する工程;および
(c)約10秒のインテグレーションで該放出された光を測定する工程
を包含する、使用。
【請求項4】
請求項1に記載の使用であって、前記溶菌酵素が、配列番号1のポリペプチドと少なくとも80%の相同性を有する第1の単離されたアミノ酸配列を含み;そして、ここで、
(a)約1mLの約10CFUの対数期RSVF1 B.cereus細菌の600nmにおける細菌吸光度が、2Uの該溶菌酵素を該RSVF1 B.cereusに接触後10分以内に、少なくとも5倍減少するか;または
(b)約1mLの約10CFUの対数期RSVF1 B.cereus細菌含有物を、37℃にて5分間2Uの該溶菌酵素に接触させることによって、サンプル中のRSVF1 B.cereusの集団が少なくとも10CFU減少する
、使用。
【請求項5】
請求項1に記載の使用であって、前記溶菌酵素が、25までのアミノ酸置換を有する配列番号1のポリペプチドの単離されたアミノ酸配列であって;そして、ここで、該溶菌酵素で処理されたRSVF1 B.cereusのサンプルから放出されたATPの発光アッセイにおいて発された光が、該溶菌酵素で処理されたB.cereus 14579についての発光よりも少なくとも100倍高く、該ATPの発光アッセイが、以下:
(a)約1.0×10のフィルター固定化植物性試験細菌を、約150mLの総容量を有する溶液中約2Uの該溶菌酵素と約2分間接触させる工程;および、次いで、
(b)該溶液に約50mLのルシフェリン/ルシフェラーゼ試薬を添加する工程;および
(c)約10秒のインテグレーションで該放出された光を測定する工程
を包含する、使用。
【請求項6】
請求項1に記載の使用であって、前記溶菌酵素が、25までのアミノ酸置換を有する配列番号1のポリペプチドの単離されたアミノ酸配列であり;そして、ここで、
(a)約1mLの約10CFUの対数期RSVF1 B.cereus細菌の600nmにおける細菌吸光度が、2Uの該溶菌酵素を該RSVF1 B.cereusに接触後10分以内に、少なくとも5倍減少するか;または
(b)約1mLの約10CFUの対数期RSVF1 B.cereus細菌含有物を、37℃にて5分間2Uの該溶菌酵素に接触させることによって、サンプル中のRSVF1 B.cereusの集団が少なくとも10CFU減少する
、使用。
【請求項7】
前記組成物が改造溶菌酵素、キメラ溶菌酵素またはこれらの組合せを含む、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
前記溶菌酵素が、B.anthracisおよびRSVF1 B.cereusに特異的である、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
前記組成物が、B.anthracisに特異的なホリンタンパク質をさらに含む、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
前記組成物がキャリアをさらに含む、請求項1に記載の使用。
【請求項11】
前記組成物が、感染部位に前記溶菌酵素を送達するために適切なビヒクルをさらに含む、請求項1に記載の使用。
【請求項12】
前記組成物がさらに抗生物質を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項13】
感染の処置のための医薬の製造のための組成物の使用であって、ここで、該組成物は、Bacillus anthracisおよびRSVF1 B.cereusに特異的なバクテリオファージによって遺伝的にコードされる少なくとも1種の溶菌酵素を含み、該溶菌酵素は、配列番号1のポリペプチドの単離されたアミノ酸配列、配列番号1のポリペプチドと少なくとも80%の相同性を有する単離されたアミノ酸配列、および25までのアミノ酸置換を有する配列番号1のポリペプチドの単離されたアミノ酸配列、からなる群から選択される単離されたアミノ酸配列を含み、ここで、
(a)該溶菌酵素で処理されたRSVF1 B.cereusのサンプルから放出されたATPの発光アッセイにおいて発された光が、該溶菌酵素で処理されたB.cereus 14579についての発光よりも少なくとも100倍高く、該ATPの発光アッセイが、以下:
(i)約1.0×10のフィルター固定化植物性RSVF1 B.cereus細菌またはB.cereus 14579細菌を、約150mLの総容量を有する溶液中約2Uの該溶菌酵素と約2分間接触させる工程;および、次いで、
(ii)該溶液に約50mLのルシフェリン/ルシフェラーゼ試薬を添加する工程;および
(iii)約10秒のインテグレーションで該放出された光を測定する工程
を包含するか、あるいは
(b)約1mLの約10CFUの対数期RSVF1 B.cereus細菌の600nmにおける細菌吸光度が、2Uの該溶菌酵素を該RSVF1 B.cereusに接触後10分以内に、少なくとも5倍減少するか;あるいは
(c)約1mLの約10CFUの対数期RSVF1 B.cereus細菌含有物を、37℃にて5分間2Uの該溶菌酵素に接触させることによって、サンプル中のRSVF1 B.cereusの集団が少なくとも10CFU減少する、
使用。
【請求項14】
前記組成物がさらに、感染部位に送達するためのキャリアおよびビヒクルをさらに含み、かつ、必要に応じてさらに抗生物質を含む、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記組成物がさらにホリンタンパク質を含む、請求項13に記載の使用。
【請求項16】
B.anthracisまたはB.cereus細菌へ曝露されたか、または曝露される危険性のある被験体の処置のための医薬の製造のための組成物の使用であって、該使用は、以下:
(a)配列番号1のポリペプチドと少なくとも80%の相同性を有するポリペプチドを含む治療用組成物を患者に投与する工程を包含し;
(b)ここで、
(i)該ポリペプチドで処理されたRSVF1 B.cereusのサンプルから放出されたATPの発光アッセイにおいて発された光が、該ポリペプチドで処理されたB.cereus 14579についての発光よりも少なくとも100倍高く、該ATPの発光アッセイが、以下:
(1)約1.0×10のフィルター固定化植物性試験細菌を、約150mLの総容量を有する溶液中約2Uの該ポリペプチドと約2分間接触させる工程;および、次いで、
(2)該溶液に約50mLのルシフェリン/ルシフェラーゼ試薬を添加する工程;および
(3)約10秒のインテグレーションで該放出された光を測定する工程
を包含するか、あるいは
(ii)約1mLの約10CFUの対数期RSVF1 B.cereus細菌の600nmにおける細菌吸光度が、2Uの該ポリペプチドを該RSVF1 B.cereusに接触後10分以内に、少なくとも5倍減少するか;あるいは
(iii)約1mLの約10CFUの対数期RSVF1 B.cereus細菌含有物を、37℃にて5分間2Uの該ポリペプチドに接触させることによって、サンプル中のRSVF1 B.cereusの集団が少なくとも10CFU減少する、
使用。
【請求項17】
B.anthracisに曝露されたか、または曝露される危険性のある被験体を同定する工程をさらに包含する、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
B.anthracisまたはRSVF1 B.cereusの胞子を分解するための使用であって、以下:
(a)B.anthracisまたはRSVF1 B.cereusの胞子に曝露したかもしくは曝露される危険性のあるサンプルを、配列番号1のポリペプチドと少なくとも80%の相同性を有するポリペプチドを含む組成物に接触させる工程を包含し;
(b)該組成物を用いるRSVF1 B.cereusのL−アラニン殺傷アッセイを実施することによって、D−アラニンアッセイと比較して、RSVF1 B.cereus胞子の生存率が少なくとも約10倍減少する
、使用。
【請求項19】
B.anthracis細菌またはRSVF1 B.cereus細菌の集団を減少し、変異誘発に抵抗性である化合物を同定する方法であって、該方法は以下:
(a)B.anthracis細菌またはRSVF1 B.cereus細菌を含む細菌集団を提供する工程;
(b)変異原性試薬を用いて該細菌集団を処理する工程;
(c)配列番号1のポリペプチドと少なくとも80%の相同性を有するポリペプチドに該細菌集団を接触させる工程であって、150mg ml−1のストレプトマイシン(strep)または3.5mg ml−1のノボビオシン(nov)に対して抵抗性を付与する該RSVF1 B.cereusの変異頻度が、20Uの該ポリペプチドを用いる処理後に、5.0×10−9未満である、工程
を包含する、方法。
【請求項20】
製品であって、以下:
(a)配列番号1のポリペプチドと少なくとも80%の相同性を有するポリペプチドを含む組成物を含有する容器であって;ここで
(i)該組成物で処理されたRSVF1 B.cereusのサンプルから放出されたATPの発光アッセイにおいて発された光が、該組成物で処理されたB.cereus 14579についての発光よりも少なくとも100倍高く、該ATPの発光アッセイが、以下:
(1)約1.0×10のフィルター固定化植物性RSVF1 B.cereus細菌またはB.cereus 14579細菌を、約150mLの総容量を有する溶液中約2Uの該ポリペプチドと約2分間接触させる工程;および、次いで、
(2)該溶液に約50mLのルシフェリン/ルシフェラーゼ試薬を添加する工程;および
(3)約10秒のインテグレーションで該放出された光を測定する工程
を包含するか、あるいは
(ii)約1mLの約10CFUの対数期RSVF1 B.cereus細菌の600nmにおける細菌吸光度が、2Uの該ポリペプチドを該RSVF1 B.cereusに接触後10分以内に、少なくとも5倍減少するか;あるいは
(iii)約1mLの約10CFUの対数期RSVF1 B.cereus細菌含有物を、37℃にて5分間2Uの該ポリペプチドに接触させることによって、サンプル中のRSVF1 B.cereusの集団が少なくとも10CFU減少する、
容器、ならびに
(b)以下:
(i)B.anthracis細菌またはB.anthracisの胞子に曝露されたことが予測される患者を同定する工程;および
(ii)該患者に有効量の該組成物を投与する工程
を包含する方法において、B.anthracis細菌またはB.anthracisの胞子に曝露された該患者の処置における該組成物の使用のための指示書
を備える、製品。
【請求項21】
パッケージング材料と、該パッケージング材料内に含まれる治療用組成物とを含む製品であって、
(a)配列番号1のポリペプチドと少なくとも80%の相同性を有するポリペプチドを含む治療用組成物であって;ここで
(i)該組成物で処理されたRSVF1 B.cereusのサンプルから放出されたATPの発光アッセイにおいて発された光が、該組成物で処理されたB.cereus 14579についての発光よりも少なくとも100倍高く、該ATPの発光アッセイが、以下:
(1)約1.0×10のフィルター固定化植物性試験細菌を、約150mLの総容量を有する溶液中約2Uの該ポリペプチドと約2分間接触させる工程;および、次いで、
(2)該溶液に約50mLのルシフェリン/ルシフェラーゼ試薬を添加する工程;および
(3)約10秒のインテグレーションで該放出された光を測定する工程
を包含するか、あるいは
(ii)約1mLの約10CFUの対数期RSVF1 B.cereus細菌の600nmにおける細菌吸光度が、2Uの該ポリペプチドを該RSVF1 B.cereusに接触後10分以内に、少なくとも5倍減少するか;あるいは
(iii)約1mLの約10CFUの対数期RSVF1 B.cereus細菌含有物を、37℃にて5分間2Uの該ポリペプチドに接触させることによって、サンプル中のRSVF1 B.cereusの集団が少なくとも10CFU減少する、
組成物、ならびに
(b)該パッケージング材料が、該治療用組成物は、B.anthracis細菌への曝露、B.anthracis胞子への曝露およびB.anthracis細菌による感染からなる群から選択される状態を処置するために使用され得ることを示すラベルを含む、製品。
【請求項22】
感染の処置のための組成物であって、ここで、該組成物は、少なくとも1種の溶菌酵素を含み、該溶菌酵素は、以下:
(a)配列番号1のポリペプチドの単離されたアミノ酸配列、
(b)配列番号1のポリペプチドと少なくとも80%の相同性を有する単離されたアミノ酸配列、および
(c)25までのアミノ酸置換を有する配列番号1のポリペプチドの単離されたアミノ酸配列、
からなる群から選択される、単離されたポリペプチドを含む、組成物。
【請求項23】
前記単離されたポリペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列である、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
請求項22に記載の組成物であって、前記溶菌酵素が、配列番号1のポリペプチドと少なくとも80%の相同性を有する第1の単離されたアミノ酸配列を含み;そして、ここで、該溶菌酵素で処理されたRSVF1 B.cereusのサンプルから放出されたATPの発光アッセイにおいて発された光が、該溶菌酵素で処理されたB.cereus 14579についての発光よりも少なくとも100倍高く、該ATPの発光アッセイが、以下:
(a)約1.0×10のフィルター固定化植物性RSVF1 B.cereus細菌を、約150mLの総容量を有する溶液中約2Uの該溶菌酵素と約2分間接触させる工程;および、次いで、
(b)該溶液に約50mLのルシフェリン/ルシフェラーゼ試薬を添加する工程;および
(c)約10秒のインテグレーションで該放出された光を測定する工程
を包含する、組成物。
【請求項25】
請求項22に記載の組成物であって、前記溶菌酵素が、配列番号1のポリペプチドと少なくとも80%の相同性を有する第1の単離されたアミノ酸配列を含み;そして、ここで、
(a)約1mLの約10CFUの対数期RSVF1 B.cereus細菌の600nmにおける細菌吸光度が、2Uの該溶菌酵素を該RSVF1 B.cereusに接触後10分以内に、少なくとも5倍減少するか;または
(b)約1mLの約10CFUの対数期RSVF1 B.cereus細菌含有物を、37℃にて5分間2Uの該溶菌酵素に接触させることによって、サンプル中のRSVF1 B.cereusの集団が少なくとも10CFU減少する
、組成物。
【請求項26】
請求項22に記載の組成物であって、前記溶菌酵素が、25までのアミノ酸置換を有する配列番号1のポリペプチドの単離されたアミノ酸配列であって;そして、ここで、該溶菌酵素で処理されたRSVF1 B.cereusのサンプルから放出されたATPの発光アッセイにおいて発された光が、該アミノ酸配列で処理されたB.cereus 14579についての発光よりも少なくとも100倍高く、該ATPの発光アッセイが、以下:
(a)約1.0×10のフィルター固定化植物性試験細菌を、約150mLの総容量を有する溶液中約2Uの該溶菌酵素と約2分間接触させる工程;および、次いで、
(b)該溶液に約50mLのルシフェリン/ルシフェラーゼ試薬を添加する工程;および
(c)約10秒のインテグレーションで該放出された光を測定する工程
を包含する、組成物。
【請求項27】
請求項22に記載の組成物であって、前記溶菌酵素が、25までのアミノ酸置換を有する配列番号1のポリペプチドの単離されたアミノ酸配列であり;そして、ここで、
(a)約1mLの約10CFUの対数期RSVF1 B.cereus細菌の600nmにおける細菌吸光度が、2Uの該溶菌酵素を該RSVF1 B.cereusに接触後10分以内に、少なくとも5倍減少するか;または
(b)約1mLの約10CFUの対数期RSVF1 B.cereus細菌含有物を、37℃にて5分間2Uの該溶菌酵素に接触させることによって、サンプル中のRSVF1 B.cereusの集団が少なくとも10CFU減少する
、組成物。
【請求項28】
前記組成物が改造溶菌酵素、キメラ溶菌酵素またはこれらの組合せを含む、請求項22に記載の組成物。
【請求項29】
前記溶菌酵素が、B.anthracisおよびRSVF1 B.cereusに特異的である、請求項22に記載の組成物。
【請求項30】
前記組成物が、B.anthracisに特異的なホリンタンパク質をさらに含む、請求項22に記載の組成物。
【請求項31】
前記組成物がキャリアをさらに含む、請求項22に記載の組成物。
【請求項32】
前記組成物が、感染部位に前記溶菌酵素を送達するために適切なビヒクルをさらに含む、請求項22に記載の組成物。
【請求項33】
前記組成物がさらに抗生物質を含む、請求項22に記載の組成物。
【請求項34】
感染の処置のための組成物であって、ここで、該組成物は、Bacillus anthracisおよびRSVF1 B.cereusに特異的なバクテリオファージによって遺伝的にコードされる少なくとも1種の溶菌酵素を含み、該溶菌酵素は、配列番号1のポリペプチドの単離されたアミノ酸配列、配列番号1のポリペプチドと少なくとも80%の相同性を有する単離されたアミノ酸配列、および25までのアミノ酸置換を有する配列番号1のポリペプチドの単離されたアミノ酸配列、からなる群から選択される単離されたアミノ酸配列を含み、ここで、
(a)該溶菌酵素で処理されたRSVF1 B.cereusのサンプルから放出されたATPの発光アッセイにおいて発された光が、該溶菌酵素で処理されたB.cereus 14579についての発光よりも少なくとも100倍高く、該ATPの発光アッセイが、以下:
(i)約1.0×10のフィルター固定化植物性RSVF1 B.cereus細菌またはB.cereus 14579細菌を、約150mLの総容量を有する溶液中約2Uの該溶菌酵素と約2分間接触させる工程;および、次いで、
(ii)該溶液に約50mLのルシフェリン/ルシフェラーゼ試薬を添加する工程;および
(iii)約10秒のインテグレーションで該放出された光を測定する工程
を包含するか、あるいは
(b)約1mLの約10CFUの対数期RSVF1 B.cereus細菌の600nmにおける細菌吸光度が、2Uの該溶菌酵素を該RSVF1 B.cereusに接触後10分以内に、少なくとも5倍減少するか;あるいは
(c)約1mLの約10CFUの対数期RSVF1 B.cereus細菌含有物を、37℃にて5分間2Uの該溶菌酵素に接触させることによって、サンプル中のRSVF1 B.cereusの集団が少なくとも10CFU減少する、
組成物。
【請求項35】
前記組成物がさらに、感染部位に送達するためのキャリアおよびビヒクルをさらに含み、かつ、必要に応じてさらに抗生物質を含む、請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
前記組成物がさらにホリンタンパク質を含む、請求項34に記載の組成物。
【請求項37】
B.anthracisまたはB.cereus細菌へ曝露されたか、または曝露される危険性のある被験体の処置のための組成物であって、以下:
(a)配列番号1のポリペプチドと少なくとも80%の相同性を有するポリペプチドを包含し;
(b)ここで、
(i)該ポリペプチドで処理されたRSVF1 B.cereusのサンプルから放出されたATPの発光アッセイにおいて発された光が、該ポリペプチドで処理されたB.cereus 14579についての発光よりも少なくとも100倍高く、該ATPの発光アッセイが、以下:
(1)約1.0×10のフィルター固定化植物性試験細菌を、約150mLの総容量を有する溶液中約2Uの該ポリペプチドと約2分間接触させる工程;および、次いで、
(2)該溶液に約50mLのルシフェリン/ルシフェラーゼ試薬を添加する工程;および
(3)約10秒のインテグレーションで該放出された光を測定する工程
を包含するか、あるいは
(ii)約1mLの約10CFUの対数期RSVF1 B.cereus細菌の600nmにおける細菌吸光度が、2Uの該ポリペプチドを該RSVF1 B.cereusに接触後10分以内に、少なくとも5倍減少するか;あるいは
(iii)約1mLの約10CFUの対数期RSVF1 B.cereus細菌含有物を、37℃にて5分間2Uの該ポリペプチドに接触させることによって、サンプル中のRSVF1 B.cereusの集団が少なくとも10CFU減少する、
組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2006−513149(P2006−513149A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−538165(P2004−538165)
【出願日】平成15年5月19日(2003.5.19)
【国際出願番号】PCT/US2003/015719
【国際公開番号】WO2004/027020
【国際公開日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【出願人】(504423147)ニュー ホライゾンズ ディアグノスティックス コーポレイション (1)
【出願人】(592054292)ザ ロックフェラー ユニバーシティー (7)
【Fターム(参考)】