説明

Bi系超電導体、超電導線材および超電導機器

【課題】 Bi系超電導体に有効な磁束ピニング領域を導入することにより、臨界電流密度が高いBi系超電導体、超電導線材および超電導機器を提供する。
【解決手段】 Bi原子、Sr原子、Ca原子、Cu原子、O原子とFe原子またはY原子を含むBi系超電導体であって、Cu原子およびFe原子の合計量に対するFe原子の含有量が0.01原子%以上1原子%以下、または、Ca原子およびY原子の合計に対するY原子の含有量が0.01原子%以上1原子%以下であることを特徴とするBi系超電導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨界電流密度が高いBi系超電導体、超電導線材および超電導機器に関し、詳しくは、Bi原子、Sr原子、Ca原子、Cu原子およびO原子に加えて、Fe原子またはY原子を含むBi系超電導体、これを含む超電導線材、さらにこれを含む超電導機器に関する。
【背景技術】
【0002】
Bi2212(Bi2Sr2CaCu28+δ)、Bi(Pb)2223((Bi1-pPbp2Sr2Ca2Cu310+δ、ここで0<p<0.25)などのBi系超電導体は、高温酸化物超電導体の代表的なものとして、超電導線材などの用途に用いられている。
【0003】
超電導体材料をさらに高温および/または高磁場下における使用を可能とするためには、超電導材料に有効な磁束ピニング領域を導入することが重要とされている。超電導キャリアの凝縮エネルギーの局部的な急激な変化領域に磁束がピニングされやすいため、超電導領域の一部に結晶の格子欠陥、ディスロケーション、結晶粒界、小さな析出物を導入することにより、その部分の超電導状態が破壊されて磁束ピニング領域が形成されるものと考えられている。
【0004】
Bi系超電導体についても、Bi系超電導体に磁束ピニング領域を導入する検討がされてきた。たとえば、Bi2212において、Biサイト(超電導体結晶においてBiが配置される場所をいう、以下同じ)にPbを多量にドーピングすることによりBiサイトのBi原子の一部がPb原子により置換されたBi(Pb)2212((Bi1-pPbp2Sr2CaCu28+δ、ここで0<p<0.25)は、Bi2212に比べて高い臨界電流密度および磁束ピニング力(磁束をピン止めする力、以下同じ)を有することが報告されている(非特許文献1および非特許文献2を参照)。
【0005】
しかし、上記Bi系超電導体は、互いに垂直な軸であるa軸、b軸およびc軸から形成される結晶軸においてc軸に垂直なab面に平行なCuO2面層が超電導層として機能する層状構造を有するため、c軸に平行な磁束をピニングする力が小さいため、Bi系超電導体に有効な磁束ピニング領域を形成することが困難と考えられていた。
【非特許文献1】I. Chong,他8名、“High Critical Current Density in the Heavily Pb-Doped Bi2Sr2CaCu2O8+δ Generation of Novel Pinning Centers”,Science276,770(1997)
【非特許文献2】J. Shimoyama,他6名、 “Strong Flux Pinning up to Liquid Nitrogen Temperature Discovered in Heavily Pb-Doped and Oxygen Controlled Bi2212 Single Crystals”,Physica C 281,69(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、Bi系超電導体に有効な磁束ピニング領域を導入することにより、臨界電流密度が高いBi系超電導体、超電導線材および超電導機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、Bi原子、Sr原子、Ca原子、Cu原子、O原子およびFe原子を含むBi系超電導体であって、Cu原子およびFe原子の合計量に対するFe原子の含有量が0.01原子%以上1原子%以下であることを特徴とするBi系超電導体である。
【0008】
また、本発明は、Bi原子、Sr原子、Ca原子、Cu原子、O原子およびY原子を含むBi系超電導体であって、Ca原子およびY原子の合計量に対するY原子の含有量が0.01原子%以上1原子%以下であることを特徴とするBi系超電導体である。
【0009】
本発明にかかるBi系超電導体において、さらにPb原子を含むことができる。
また、本発明は、上記のBi系超電導体を含む超電導線材である。さらに本発明は、上記超電導線材を含む超電導機器である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、臨界電流密度が高いBi系超電導体、超電導線材および超電導機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(実施形態1)
本発明にかかる1つのBi系超電導体は、Bi原子、Sr原子、Ca原子、Cu原子、O原子およびFe原子を含むBi系超電導体であって、Cu原子およびFe原子の合計量に対するFe原子の含有量が0.01原子%以上1原子%以下であることを特徴とする。
【0012】
本実施形態のBi系超電導体は、Bi原子、Sr原子、Ca原子、Cu原子、O原子を含むBi系超電導体のCuサイトのCu原子の一部がFe原子に置換されているものである。以下、図3に基づいて具体的に説明する。
【0013】
Bi原子、Sr原子、Ca原子、Cu原子、O原子を含むBi系超電導体には、特に制限はなく、たとえば、図3(a)に示すBi2212、図3(b)に示すBi2223などが、臨界温度の高い観点から好ましく挙げられる。図3(a)を参照して、Bi2212は、BiO面層、SrO面層、CuO2面層、Ca面層、CuO2面層、SrO面層、BiO面層が積層した構造を有している。図3(a)を参照して、Bi2223は、BiO面層、SrO面層、CuO2面層、Ca面層、CuO2面層、Ca面層、CuO2面層、SrO面層、BiO面層が積層した構造を有している。ここで、Bi2212およびBi2223は、いずれもCuO2面層が超電導層である。
【0014】
図3を参照して、Bi原子、Sr原子、Ca原子、Cu原子およびO原子を含む原料に、Fe原子を含む材料をドーピングすることにより、Bi原子、Sr原子、Ca原子、Cu原子、O原子を含むBi系超電導体(Bi2212、Bi2223)のCuサイトのCu原子の一部がFe原子に置換されたBi系超電導体(Feドープされている系超電導体という、以下同じ)が形成される。本実施形態にかかるFeドープされているBi系超電導体としては、たとえば、Bi2Sr2Ca(Cu1-xFex28+δ、Bi2Sr2Ca2(Cu1-xFex310+δなどが挙げられる。
【0015】
Bi原子、Sr原子、Ca原子、Cu原子およびO原子を含むBi系超電導体において、CuサイトのCu原子の一部をFe原子に置換することによって、その部分の超電導層であるCuO2面層が破壊されて、磁束ピニング力の高い有効なピニング領域が形成される。このため、FeドープされているBi系超電導体(たとえば、Bi2Sr2Ca(Cu1-xFex28+δ、Bi2Sr2Ca2(Cu1-xFex310+δ)は、FeドープされていないBi系超電導体(たとえば、Bi2Sr2CaCu28+δ、Bi2Sr2Ca2Cu310+δ)に比べて、大きな磁束ピニング力を有し、高い臨界電流密度が得られる。
【0016】
本実施形態のFeドープされているBi系超電導体においては、Cu原子およびFe原子の合計量に対するFe原子の含有量が0.01原子%以上1原子%以下である。すなわち、Bi2Sr2Ca(Cu1-xFex28+δ、Bi2Sr2Ca2(Cu1-xFex310+δにおいて、xは0.0001≦x≦0.01以下である。Fe原子の含有量が0.01原子%未満であると、磁束をピニングするのに十分なピニング領域を形成することができないため、超電導体の磁束ピニング力および臨界電流密度は増大しない。一方、Fe原子の含有量が1原子%を超えると、超電導体内に磁束ピニング領域が多く形成され、超電導領域が低減するため、超臨界電流密度が低下する。かかる観点から、Cu原子およびFe原子の合計量に対するFe原子の含有量は、0.05原子%以上0.5原子%以下がより好ましく、0.1原子%以上0.3原子%以下であることがさらに好ましい。
【0017】
なお、本実施形態においては、Fe原子がドーピングされているBi系超電導体について説明したが、原子の性質の類似性から、Co原子またはNi原子がドーピングされる場合についても、同様の効果が期待できる。
【0018】
(実施形態2)
本発明にかかる他のBi系超電導体は、Bi原子、Sr原子、Ca原子、Cu原子、O原子およびY原子を含むBi系超電導体であって、Ca原子およびY原子の合計量に対するY原子の含有量が0.01原子%以上1原子%以下であることを特徴とする。
【0019】
本実施形態のBi系超電導体は、Bi原子、Sr原子、Ca原子、Cu原子およびO原子を含むBi系超電導体のCaサイトのCa原子の一部がY原子に置換されているものである。以下、図3に基づいて具体的に説明する。
【0020】
Bi原子、Sr原子、Ca原子、Cu原子およびO原子を含むBi系超電導体には、特に制限はなく、たとえば、図3(a)に示すBi2212、図3(b)に示すBi2223などが、臨界温度の高い観点から好ましく挙げられる。図3(a)を参照して、Bi2212は、BiO面層、SrO面層、CuO2面層、Ca面層、CuO2面層、SrO面層、BiO面層が積層した構造を有している。図3(a)を参照して、Bi2223は、BiO面層、SrO面層、CuO2面層、Ca面層、CuO2面層、Ca面層、CuO2面層、SrO面層、BiO面層が積層した構造を有している。ここで、Bi2212およびBi2223は、いずれもCuO2面層が超電導層である。
【0021】
図3を参照して、Bi原子、Sr原子、Ca原子、Cu原子およびO原子を含む原料に、Y原子を含む材料をドーピングすることにより、Bi原子、Sr原子、Ca原子、Cu原子およびO原子を含むBi系超電導体(Bi2212、Bi2223)のCaサイトのCa原子の一部がY原子に置換されたBi系超電導体(YドープされているBi系超電導体という、以下同じ)が形成される。本実施形態にかかるYドープされているBi系超電導体としては、たとえば、Bi2Sr2(Ca1-yy)Cu28+δ、Bi2Sr2(Ca1-yy2Cu310+δなどが挙げられる。
【0022】
Bi原子、Sr原子、Ca原子、Cu原子およびO原子を含むBi系超電導体において、CaサイトのCa原子の一部をY原子に置換することによって、Ca原子より原子価が大きく原子半径の小さいY原子は、Ca原子より強くCuO2面層内のO原子を引きつけるため、その部分の超電導層であるCuO2面層が局所的な格子変形を受けて、超電導性が失われ磁束ピニング力の高い有効なピニング領域が形成される。このため、YドープされているBi系超電導体(たとえば、Bi2Sr2(Ca1-yy)Cu28+δ、Bi2Sr2(Ca1-yy2Cu310+δ)は、FeドープされていないBi系超電導体(たとえば、Bi2Sr2CaCu28+δ、Bi2Sr2Ca2Cu310+δ)に比べて、大きな磁束ピニング力を有し、高い臨界電流密度が得られる。
【0023】
本実施形態のYドープされているBi系超電導体においては、Ca原子およびY原子の合計量に対するY原子の含有量が0.01原子%以上1原子%以下である。すなわち、Bi2Sr2(Ca1-yy)Cu28+δ、Bi2Sr2(Ca1-yy2Cu310+δにおいて、yは0.0001≦y≦0.01以下である。Y原子の含有量が0.01原子%未満であると、磁束をピニングするのに十分なピニング領域を形成することができないため、超電導体の磁束ピニング力および臨界電流密度が低下する。一方、Y原子の含有量が1原子%を超えると、超電導体内にピニング領域が多く形成され、超電導領域が低減するため、超臨界電流密度が低下する。かかる観点から、Cu原子およびFe原子の合計量に対するFe原子の含有量は、0.05原子%以上0.5原子%以下がより好ましく、0.1原子%以上0.3原子%以下であることがさらに好ましい。
【0024】
なお、本実施形態においては、Y原子がドーピングされているBi系超電導体について説明したが、原子の性質の類似性から、元素番号が57から71までのランタノイド元素の原子がドーピングされる場合についても、同様の効果が期待できる。
【0025】
(実施形態3)
本発明にかかるさらに他のBi系超電導体は、上記実施形態1または実施形態2において、さらにPb原子を含む。すなわち、図3を参照して、上記実施形態1のFeドープされているBi系超電導体または実施形態2のYドープされているBi系超電導体において、BiサイトのBi原子の一部がPb原子に置換されているものである。BiサイトのBi原子の一部をPb原子に置換することによって、Bi系超電導体の電気的磁気的な異方性が低減するため、磁束ピニング力が増大する。この場合において、有効なピニング領域を形成するためには、Pb原子のドープ量、すなわち、Bi原子およびPb原子の合計量に対するPb原子の含有量は、大きいことが必要であり、1原子%以上30原子%以下であることが好ましく、10原子%以上20原子%以下であることがより好ましい。
【0026】
本実施形態のBi系超電導体としては、たとえば、(Bi1-pPbp2Sr2Ca(Cu1-xFex28+δ、(Bi1-pPbp2Sr2Ca2(Cu1-xFex310+δなどのFeドープされているBi(Pb)系超電導体、(Bi1-pPbp2Sr2(Ca1-yy)Cu28+δ、(Bi1-pPbp2Sr2(Ca1-yy2Cu310+δなどのYドープされているBi(Pb)系超電導体が挙げられる。
【0027】
(実施形態4)
本発明にかかる1つの超電導線材は、上記実施形態1から実施形態3までのいずれかのBi系超電導体を含む線材である。実施形態1から実施形態3までのBi系超電導体は、磁束ピニング力が大きく、臨界電流密度が大きいことから、臨界電流密度の高い超電導線材が得られる。
【0028】
本実施形態の超電導線材の製造方法は、特に制限はなく、以下のようにして行なうことができる。たとえば、FeドープされているBi(Pb)系超電導体は、原料としてBi23、SrCO3、CaCO3、CuO、PbOとFeOおよび/またはFe23とを目的とするBi(Pb)系超電導体の化学量論比に応じて配合、混合した後、700℃〜900℃の温度で焼成して、目的のBi(Pb)系超電導体を得る。また、YドープされているBi(Pb)系超電導体は、原料としてBi23、SrCO3、CaCO3、CuO、PbOとY23とを目的とするBi(Pb)系超電導体の化学量論比に応じて配合、混合した後、700℃〜900℃の温度で焼成して、目的のBi(Pb)系超電導体を得る。
【0029】
次に、上記のいずれかの方法により得られたBi(Pb)系超電導体を粉砕してAgなどの金属管に充填し伸線する。伸線した線材を圧延した後、800℃〜900℃の熱処理を加えて、Bi(Pb)系超電導体の結晶を成長させる。必要に応じて、熱処理後の線材を2次圧延した後、800℃〜900℃の2回目の熱処理を加えてBi(Pb)系超電導体の結晶をアニーリングして、超電導キャリアを制御することができる。なお、必要があれば、3次以上の圧延および3回以上の熱処理を行なうこともできる。
【0030】
このようにして得られる超電導線材は、FeドープされているまたはYドープされている臨界電流密度の高いBi系超電導体を有しているため、高い臨界電流密度が得られる。
【0031】
(実施形態5)
本発明にかかる超電導機器は、臨界電流密度が高い実施形態4の超電導線材を含んでいるため、優れた超電導特性を有する。ここで、超電導機器は、上記超電導線材を含むものであれば特に制限なく、超電導ケーブル、超電導変圧器、超電導限流器、超電導電力貯蔵装置などが挙げられる。
【実施例】
【0032】
(実施例1)
原料として、Bi23、SrCO3、CaCO3、CuOおよびPbOと、FeOおよび/またはFe23とを、Bi1.5Pb0.6Sr2Ca(Cu0.998Fe0.00228+δの標準組成となるような化学量論比で配合、混合した後、800℃で24時間焼成して、Bi1.5Pb0.6Sr2Ca(Cu0.998Fe0.00228+δ多結晶を得た。この多結晶を原料として、O2ガスとArガスとの混合ガス(O2ガス:Arガス=5体積%:95体積%)雰囲気下でフロートゾーン法により、Fe原子が0.2原子%ドープされているBi(Pb)2212の化学量論比にほぼ等しい化学組成を有するBi1.5Pb0.6Sr2Ca(Cu0.998Fe0.00228+δ単結晶を得た。得られた単結晶の磁化率をSQUID(超電導量子干渉計)型磁束計(Quantum Design社製MPMS-XL5S)を用いて測定した。ここで、磁化率の測定は、結晶軸のc軸に平行な方向に印加された磁場雰囲気下20Kで行なった。臨界電流密度(Jc)は、拡張されたビーン(Bean)モデルに基づいて、磁化率ヒステリシスループ幅から算出した。また、磁束ピニング力(Fp)は、Jc(臨界電流密度)×B(磁束密度)から算出した。なお、単結晶の化学組成は、ICP(誘導結合プラズマ)発光分析法、TEM(透過型電子顕微鏡)−EDX(エネルギー分散X線)分光法、SEM(走査型電子顕微鏡)−EDX分光法による測定から確認した。結果を図1および図2にまとめた。
【0033】
(実施例2)
原料として、Bi23、SrCO3、CaCO3、CuOおよびPbOと、Y23とを、Bi1.5Pb0.6Sr2(Ca0.9980.002)Cu28+δの標準組成となるような化学量論比で配合、混合した後、800℃で24時間焼成して、Bi1.5Pb0.6Sr2(Ca0.9980.002)Cu28+δ多結晶を得た。この多結晶を原料として、Y原子が0.2原子%ドープされているBi(Pb)2212の化学量論比にほぼ等しい化学組成を有するBi1.5Pb0.6Sr2(Ca0.9980.002)Cu28+δ単結晶を得たこと以外は、実施例1と同様にして、磁化率を測定し、臨界電流密度(Jc)および磁束ピニング力(Fp)を算出するとともに、その化学組成を確認した。結果を図1および図2にまとめた。
【0034】
(比較例1)
原料として、Bi23、SrCO3、CaCO3、CuOおよびPbOを、Bi1.5Pb0.6Sr2CaCu28+δの標準組成となるような化学量論比で配合、混合した後、800℃で24時間焼成して、Bi1.5Pb0.6Sr2CaCu28+δ多結晶を得た。この多結晶を原料として、Bi(Pb)2212の化学量論比にほぼ等しい化学組成を有するBi1.5Pb0.6Sr2CaCu28+δ単結晶を得たこと以外は、実施例1と同様にして、磁化率を測定し、臨界電流密度(Jc)および磁束ピニング力(Fp)を算出するとともに、その化学組成を確認した。結果を図1および図2にまとめた。
【0035】
(比較例2)
原料として、Bi23、SrCO3、CaCO3およびCuOを、Bi2Sr2CaCu28+δの標準組成となるような化学量論比で配合、混合した後、800℃で24時間焼成して、Bi2Sr2CaCu28+δ多結晶を得た。この多結晶を原料として、Bi2212の化学量論比にほぼ等しい化学組成を有するBi2Sr2CaCu28+δ単結晶を得たこと以外は、実施例1と同様にして、磁化率を測定し、臨界電流密度(Jc)および磁束ピニング力(Fp)を算出するとともに、その化学組成を確認した。結果を図1および図2にまとめた。
【0036】
図1および図2から明らかなように、Fe原子を0.2原子%ドープしているBi(Pb)2212は、20Kにおいて20kOe以下の磁場雰囲気下において、Bi(Pb)2212よりも臨界電流密度および磁束ピニング力が高かった。また、Y原子を0.2原子%ドープしているBi(Pb)2212は、20Kにおいて50kOe以下の磁場雰囲気下において、Bi(Pb)2212よりも臨界電流密度および磁束ピニング力が高かった。また、上記の結果は、Fe原子ドープまたはY原子ドープによる臨界電流密度および磁束ピニング力の増大が、Bi系超電導体の標準化学式の化学量論比にほぼ等しい化学組成を有するサンプルにおいて得られたものであり、その信頼性は極めて高いと考えられる。
【0037】
図1と図2との対比から、Bi系超電導体の磁束ピニング力の増大に対応してそのBi系超電導体の臨界電流密度が増大していることがわかる。このことから、Bi系超電導体に0.01原子%以上1原子%以下の少量のFe原子またはY原子をドーピングして、有効な磁束ピニング領域を形成することができること、およびこのような磁束ピニング領域の形成により臨界電流密度を増大させる方法は、広く適用可能と考えられる。
【0038】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】Bi系超電導体の磁場と臨界電流密度との関係を示す図である。
【図2】Bi系超電導体の磁場と磁束ピニング力との関係を示す図である。
【図3】Bi系超電導体の結晶構造を示す模式図である。(a)はBi2212を示し、(b)はBi2223を示す。
【符号の説明】
【0040】
1a,2a Fe原子が0.2原子%ドープされているBi(Pb)2212、1b,2b Y原子が0.2原子%ドープされているBi(Pb)2212、1c,2c Bi(Pb)2212、1d,2d Bi2212。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bi原子、Sr原子、Ca原子、Cu原子、O原子およびFe原子を含むBi系超電導体であって、
前記Cu原子および前記Fe原子の合計量に対する前記Fe原子の含有量が0.01原子%以上1原子%以下であることを特徴とするBi系超電導体。
【請求項2】
Bi原子、Sr原子、Ca原子、Cu原子、O原子およびY原子を含むBi系超電導体であって、
前記Ca原子および前記Y原子の合計量に対する前記Y原子の含有量が0.01原子%以上1原子%以下であることを特徴とするBi系超電導体。
【請求項3】
さらにPb原子を含む請求項1または請求項2に記載のBi系超電導体。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載のBi系超電導体を含む超電導線材。
【請求項5】
請求項4に記載の超電導線材を含む超電導機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−306686(P2006−306686A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−134064(P2005−134064)
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】