説明

Bi系超電導体、超電導線材および超電導機器

【課題】超電導転移が急峻で臨界温度が110Kよりも高いBi系超電導体、このBi系超電導体を含む超電導線材および超電導機器を提供する。
【解決手段】本Bi系超電導体は、超電導相として(Bi,Pb)2223を含むBi系超電導体であって、(Bi,Pb)2223のc軸に平行な方向に磁場が印加されている状態で測定され50Kで規格化された磁化率が−0.5となる第1の臨界温度T1Cが110.0Kより高く、磁化率が−0.1となる第2の臨界温度T2Cと前記第1の臨界温度T1Cとの差|T2C−T1C|が1.0K以下である。さらに好ましくは、磁化率が−0.001となる第3の臨界温度T3Cと前記第1の臨界温度T1Cとの差|T3C−T1C|が3.0K以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Bi系超電導体、超電導線材および超電導機器に関し、特に、臨界温度が110Kよりも高いBi系超電導体に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導相としてBi2212(Bi2Sr2Ca1Cu28+δをいう、以下同じ)、Bi2223(Bi2Sr2Ca2Cu310+δをいう、以下同じ)などを含むBi系超電導体は、臨界温度が高く、高温酸化物超電導体の代表的なものとして、超電導線材などの用途に用いられている。
【0003】
かかるBi系超電導体の中でも、Bi2223は臨界温度が高いものとして知られている。しかし、Bi2223の単相を得ることが非常に難しい。一方、このBi2223のBiサイト(超電導体結晶においてBiが配置される場所をいう、以下同じ)にPbを多量にドーピングすることによりBiサイトのBi原子の一部がPb原子により置換された(Bi,Pb)2223((Bi1-pPbp2Sr2Ca2Cu310+δ、ここで0<p<0.25、以下同じ)は、容易に単相が得られることが確認され、かかる(Bi,Pb)2223について臨界温度を向上させるための検討が進められている。特に、原材料を焼結して得られた(Bi,Pb)2223をアニールすることにより、臨界温度を110Kより高くできることが報告されている(たとえば、非特許文献1を参照)。
【0004】
しかし、(Bi,Pb)2223を含む臨界温度が108.2KのBi系超電導体を700℃で酸素分圧21kPa(0.2気圧)の条件で100時間のアニールを行なったところ、常電導体から超電導体に転移(以下、超電導転移という)し始める温度(以下、転移開始温度という)は、114.8Kにまで高められたが、臨界温度は106.4Kと低下してしまった。これは、アニールによって、超電導転移の急峻さが失われてしまったものと考えられる。
【非特許文献1】Jie Wang,他4名,“Enhancement of TC in (Bi,Pb)-2223 superconductor by vacuum encapsulation and post-annealing”,Physica C 208,(1993),p323-327
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、超電導転移が急峻で臨界温度が110Kよりも高いBi系超電導体、このBi系超電導体を含む超電導線材および超電導機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、超電導相として(Bi,Pb)2223を含むBi系超電導体であって、(Bi,Pb)2223のc軸に平行な方向に磁場が印加されている状態で測定され50Kで規格化された磁化率が−0.5となる第1の臨界温度T1Cが110.0Kより高く、磁化率が−0.1となる第2の臨界温度T2Cと第1の臨界温度T1Cとの差|T2C−T1C|が1.0K以下であるBi系超電導体である。
【0007】
本発明にかかるBi系超電導体において、さらに、磁化率が−0.001となる第3の臨界温度T3Cと前記第1の臨界温度T1Cとの差|T3C−T1C|が3.0K以下とすることができる。
【0008】
また、本発明は、上記Bi系超電導体を含む超電導線材である。さらに、本発明は、この超電導線材を含む超電導機器である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、超電導転移が急峻で臨界温度が110Kよりも高いBi系超電導体、このBi系超電導体を含む超電導線材および超電導機器が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(実施形態1)
本発明にかかるBi系超電導体の一実施形態は、図1を参照して、超電導相として(Bi,Pb)2223を含むBi系超電導体であって、(Bi,Pb)2223のc軸に平行な方向に磁場が印加されている状態で測定され50Kで規格化された磁化率(以下、−M/M(50K)という)が−0.5となる第1の臨界温度T1Cが110.0Kより高く、−M/M(50K)が−0.1となる第2の臨界温度T2Cと第1の臨界温度T1Cとの差|T2C−T1C|が1.0K以下である。好ましくは、さらに−M/M(50K)が−0.001となる第3の臨界温度T3Cと第1の臨界温度T1Cとの差|T3C−T1C|が3.0K以下である。ここで、50Kで規格化するとは、その物質の任意の温度における磁化率の大きさを50Kにおける磁化率に対する比で表すことをいう。
【0011】
本実施形態のBi系超電導体は、T1Cが110.0Kより高く|T2C−T1C|が1.0K以下であり、好ましくはさらに|T3C−T1C|が3.0K以下であることから、超電導転移が急峻で臨界温度が110Kを超える優れた超電導特性を有する。
【0012】
(Bi,Pb)2223などの高温超電導物質においては、その物質の一部が常電導体から超電導体に転移(以下、超電導転移という)し始める温度(以下、転移開始温度という)と、その物質の全部が超電導体となる温度(以下、転移終了温度という)に差が生じる。したがって、臨界温度を高めるためには、転移開始温度を高くするのみではなく、急峻な超電導転移を実現することが必要である。
【0013】
超電導体の臨界温度は、その物質の電気抵抗を測定する他に、その物質の磁化率を測定することによっても求めることができる。磁化率測定による臨界温度は、物質が常電導体から超電導体に変化する際に、その物質の磁化率が0からその物質固有の磁化率Mに変化する現象を利用して算出されるものである。電気抵抗測定による臨界温度は、抵抗が減少を開始する温度の判断が難しく、また抵抗が0になる温度が試料の状態に依存するという問題点がある。これに対して、磁化率測定による臨界温度には、電気抵抗測定による臨界温度の場合の上記問題点がなく、容易に正確な測定が行なえる。
【0014】
ここで、(Bi,Pb)2223を含む超電導体の磁化率の測定においては、(Bi,Pb)2223のc軸に対して、平行な方向の磁場(以下、c軸に平行な方向の磁場という)が印加されている状態で測定する方法と、垂直な方向の磁場(以下、c軸に垂直な方向の磁場という)が印加されている状態で測定する方法とがある。(Bi,Pb)2223は、その結晶構造から、c軸に平行な方向の量子化磁束のピニング力がc軸に垂直な方向の量子化磁束のピニング力に比べて弱い。このため、c軸に平行な方向の磁場が印加されている状態で測定された超電導体の磁化率から算出された臨界温度は、c軸に垂直な方向の磁場が印加されている状態で測定された超電導体の磁化率から算出された臨界温度より低くなる。すなわち、(Bi,Pb)2223を含む超電導体においては、c軸に平行な方向に磁場が印加されている状態で測定された磁化率から算出された臨界温度は、より厳しい条件で測定された臨界温度といえる。
【0015】
ここで、本発明においては、図1を参照して、−M/M(50K)が−0.5となる第1の臨界温度T1Cをその超電導体の臨界温度とする。また、−M/M(50K)が−0.1となる第2の臨界温度T2Cおよび−M/M(50K)が−0.001となる第3の臨界温度T3Cを定義して、T2CとT1Cとの差|T2C−T1C|およびT3CとT1Cとの差|T3C−T1C|を、超電導転移の急峻さの指標とする。すなわち、|T2C−T1C|および|T3C−T1C|が小さいほど超電導転移が急峻であることを示す。また、第3の臨界温度T3Cは、物質の一部が常電導体から超電導体に転移し始める転移開始温度に相当する。
【0016】
1Cが110.0Kより高く、|T2C−T1C|が1.0K以下であり、好ましくは|T3C−T1C|が3.0K以下であるBi系超電導体は、たとえば、以下の方法により製造することができる。まず、Bi原子、Pb原子、Sr原子、Ca原子、Cu原子およびO原子を含み、粉末全体として(Bi1-pPbp2Sr2Ca2Cu310+δ(0<p<0.25)の化学組成を有する原材料の粉末を熱処理して、(Bi,Pb)2223を形成する。
【0017】
次に、この(Bi,Pb)2223を、以下の条件でアニールする。図2を参照して、このアニール条件は、酸素分圧x(kPa)とアニール温度y(℃)とが以下の式(1−1)〜式(1−6)の線分で囲まれる領域(各式の線分を含む)に存在し、
x=0.01 (620≦y≦680) ・・・(1−1)
y=34.744×ln(x)+840 (0.01≦x≦0.1)
・・・(1−2)
y=0.0663x5−1.3297x4+9.9628x3−35.166x2+62.864x+754.66 (0.1≦x≦7) ・・・(1−3)
y=−4.3429×ln(x)+600 (0.01≦x≦0.1)
・・・(1−4)
y=−0.0294x5+0.5136x4−2.2529x3−5.4341x2+63.824x+602.41 (0.1≦x≦7) ・・・(1−5)
x=7 (750≦y≦810) ・・・(1−6)
かつ、アニール時間を1時間以上とする。アニール時間は、20時間以上であることが好ましい。
【0018】
上記の条件のアニールを行うことにより、(Bi,Pb)2223の単位結晶格子におけるc軸長さ、a軸長さおよびb軸長さが伸び、(Bi,Pb)2223および(Bi,Pb)2212内のCuO2面の平坦性が増大するため、超電導転移が急峻となり臨界温度も高くなるものと考えられる。また、上記のアニールにより、(Bi,Pb)2223の結晶相の間に存在する非結晶相が低減することも、超電導転移が急峻となり臨界温度も高くなるひとつの原因と考えられる。
【0019】
(実施形態2)
本発明にかかる超電導線材の一実施形態は、上記実施形態1のBi系超電導体を含む線材である。実施形態1のBi系超電導体は超電導転移が急峻で臨界温度が110Kを超えているため、超電導転移が急峻で臨界温度が110Kを超える超電導線材が得られる。
【0020】
本実施形態の超電導線材の製造方法は、特に制限はなく、以下のようにして行なうことができる。まず、原料としてBi23、SrCO3、CaCO3、CuOおよびPbOを、(Bi1-pPbp2Sr2Ca2Cu310+δ(0<p<0.25)の化学組成となるように配合、混合した後、700℃〜860℃の温度で焼成し、得られた多結晶体を粉砕して原材料の粉末を得る。ここで、原材料の粉末は、粉末全体として、(Bi1-pPbp2Sr2Ca2Cu310+δ(0<p<0.25)の化学組成を有する。
【0021】
次に、上記の方法により得られた原材料粉末をAgなどの金属管に充填し伸線する。伸線した線材を圧延(これを1次圧延という、以下同じ)した後、800℃〜850℃の熱処理を加えて、(Bi,Pb)2223を形成させる(これを1次焼結という、以下同じ)。
【0022】
次に、熱処理後の線材を圧延(これを2次圧延という、以下同じ)した後、800℃〜850℃の熱処理を加えて、(Bi,Pb)2223の結晶を粒接合させる(これを2次焼結という、以下同じ)。さらに、酸素分圧x(kPa)とアニール温度y(℃)とが、上記の式(1−1)〜式(1−6)の線分で囲まれる領域(各式の線分を含む)に存在し、アニール温度が1時間以上の条件でアニールを行なう。
【0023】
(実施形態3)
本発明にかかる超電導機器は、超電導転移が急峻で臨界温度が110.0Kより高い実施形態2の超電導線材を含んでいるため、優れた超電導特性を有する。ここで、超電導機器は、上記超電導線材を含むものであれば特に制限なく、超電導ケーブル、超電導コイル、超電導変圧器、超電導限流器、超電導電力貯蔵装置などが挙げられる。
【実施例】
【0024】
(比較例1)
原料として、Bi23、SrCO3、CaCO3、CuOおよびPbOを、Bi1.8Pb0.3Sr1.9Ca2.0Cu3.010+δの組成となるような化学量論比で配合、混合した後、830℃で24時間焼成して得られた多結晶体を粉砕して原材料粉末を調整した。この原材料粉末を直径46mmの銀管に充填した後、伸線加工して、直径4.4mmのクラッド線を得た。このクラッド線61本を束ねて再び直径46mmの銀管に挿入し、伸線加工して、原材料粉末がフィラメント状となった多芯線を得た。
【0025】
次に、上記多芯線について1次圧延、1次焼結、2次圧延および2次焼結を行い、銀比1.5で61芯のフィラメントで構成された幅4.2mm、厚さ0.24mmのテープ状の超電導線材を得た。ここで、1次および2次の焼結は、820℃〜850℃で行なった。これらの焼結により、上記フィラメント状の原材料粉末から(Bi,Pb)2223を含むBi系超電導体が形成される。なお、銀比とは、線材の横断面(幅×厚さ方向の断面)におけるフィラメント部分の面積に対する銀部分の面積の比をいう。
【0026】
得られた超電導線材をZFC(Zero Field Cooling Mode)で50Kまで冷却し、超電導線材のテープ面(幅4.2mmの面)に垂直な方向(これは、(Bi,Pb)2223のc軸に平行な方向である)に0.2Oe(15.8A/m)の磁界を印加して、50Kから昇温させながら、その磁化率をSQUID(超電導量子干渉計)型磁束計(Quantum Design社製MPMS-XL5S)を用いて測定し、T1C、T2C、およびT3Cを算出した。T1Cは108.2K、T2Cは108.8K、T3Cは110.0Kであった。したがって、|T2C−T1C|は0.6K、|T3C−T1C|は1.8Kであった。ここで、超電導線材の昇温速度は、0.3K/minとしていたため、T1C、T2C、およびT3Cのいずれの精度も±0.1K以内と考えられる。結果を表1にまとめた。
【0027】
(比較例2)
比較例1と同様にして、(Bi,Pb)2223を含むBi系超電導体のフィラメントを有する超電導線材(以下、(Bi,Pb)2223を含む超電導線材という)を形成した後、この超電導線材を、酸素分圧21kPa、700℃で100時間アニールをした後、比較例1と同様にして、アニール後の超電導線材の磁化率を測定した。T1Cは106.4K、T2Cは110.9K、T3Cは114.8Kであり、|T2C−T1C|は3.5K、|T3C−T1C|は8.4Kであった。本比較例のアニール条件においては、超電導転移は緩慢であり、比較例1に比べて、T2CおよびT3Cは高くなったが、T1Cは低くなった。結果を表1にまとめた。
【0028】
(実施例1)
アニール条件を、酸素分圧1kPa、アニール温度660℃、アニール時間を100時間としたこと以外は、比較例2と同様にして、アニール後の超電導線材の磁化率を測定した。T1Cは110.2K、T2Cは110.0K、T3Cは113.2Kであり、|T2C−T1C|は0.8K、|T3C−T1C|は3.0Kであった。本実施例のアニール条件においては、超電導転移は急峻となり、比較例2に比べてT3Cは低くなったがT1CおよびT2Cを高くすることができた。また、比較例1に比べて、T1C、T2CおよびT3Cをいずれも高くすることができた。結果を表1にまとめた。
【0029】
(実施例2)
アニール条件を、酸素分圧1kPa、アニール温度680℃、アニール時間を100時間としたこと以外は、比較例2と同様にして、アニール後の超電導線材の磁化率を測定した。T1Cは110.4K、T2Cは110.0K、T3Cは113.0Kであり、|T2C−T1C|は0.6K、|T3C−T1C|は2.6Kであった。本実施例のアニール条件においては、超電導転移は急峻となり、比較例2に比べてT3Cは低くなったがT1CおよびT2Cを高くすることができた。また、比較例1に比べて、T1C、T2CおよびT3Cをいずれも高くすることができた。結果を表1にまとめた。
【0030】
(実施例3)
アニール条件を、酸素分圧1kPa、アニール温度700℃、アニール時間を100時間としたこと以外は、比較例2と同様にして、アニール後の超電導線材の磁化率を測定した。T1Cは111.2K、T2Cは111.8K、T3Cは113.6Kであり、|T2C−T1C|は0.6K、|T3C−T1C|は2.4Kであった。本実施例のアニール条件においては、超電導転移は急峻となり、比較例2に比べてT3Cは低くなったがT1CおよびT2Cを高くすることができた。また、比較例1に比べて、T1C、T2CおよびT3Cをいずれも高くすることができた。結果を表1にまとめた。
【0031】
(実施例4)
アニール条件を、酸素分圧1kPa、アニール温度730℃、アニール時間を24時間としたこと以外は、比較例2と同様にして、アニール後の超電導線材の磁化率を測定した。T1Cは110.1K、T2Cは110.5K、T3Cは112.1Kであり、|T2C−T1C|は0.4K、|T3C−T1C|は2.0Kであった。本実施例のアニール条件においては、超電導転移は急峻となり、比較例2に比べてT2CおよびT3Cは低くなったがT1Cを高くすることができた。また、比較例1に比べて、T1C、T2CおよびT3Cをいずれも高くすることができた。結果を表1にまとめた。
【0032】
(実施例5)
アニール条件を、酸素分圧1kPa、アニール温度730℃、アニール時間を70時間としたこと以外は、比較例2と同様にして、アニール後の超電導線材の磁化率を測定した。T1Cは110.6K、T2Cは111.1K、T3Cは112.6Kであり、|T2C−T1C|は0.5K、|T3C−T1C|は2.0Kであった。本実施例のアニール条件においては、超電導転移は急峻となり、比較例2に比べてT3Cは低くなったがT1CおよびT2Cを高くすることができた。また、比較例1に比べて、T1C、T2CおよびT3Cをいずれも高くすることができた。結果を表1にまとめた。
【0033】
(実施例6)
アニール条件を、酸素分圧1kPa、アニール温度730℃、アニール時間を100時間としたこと以外は、比較例2と同様にして、アニール後の超電導線材の磁化率を測定した。T1Cは110.9K、T2Cは111.5K、T3Cは113.1Kであり、|T2C−T1C|は0.6K、|T3C−T1C|は2.2Kであった。本実施例のアニール条件においては、超電導転移は急峻となり、比較例2に比べてT3Cは低くなったがT1CおよびT2Cを高くすることができた。また、比較例1に比べて、T1C、T2CおよびT3Cをいずれも高くすることができた。結果を表1にまとめた。
【0034】
(実施例7)
アニール条件を、酸素分圧1kPa、アニール温度730℃、アニール時間を170時間としたこと以外は、比較例2と同様にして、アニール後の超電導線材の磁化率を測定した。T1Cは111.1K、T2Cは111.7K、T3Cは113.2Kであり、|T2C−T1C|は0.6K、|T3C−T1C|は2.1Kであった。本実施例のアニール条件においては、超電導転移は急峻となり、比較例2に比べてT3Cは低くなったがT1CおよびT2Cを高くすることができた。また、比較例1に比べて、T1C、T2CおよびT3Cをいずれも高くすることができた。結果を表1にまとめた。
【0035】
(実施例8)
アニール条件を、酸素分圧0.02kPa、アニール温度630℃、アニール時間を100時間としたこと以外は、比較例2と同様にして、アニール後の超電導線材の磁化率を測定した。T1Cは111.2K、T2Cは111.5K、T3Cは113.2Kであり、|T2C−T1C|は0.3K、|T3C−T1C|は2.0Kであった。本実施例のアニール条件においては、超電導転移は急峻となり、比較例2に比べてT3Cは低くなったがT1CおよびT2Cを高くすることができた。また、比較例1に比べて、T1C、T2CおよびT3Cをいずれも高くすることができた。結果を表1にまとめた。
【0036】
(実施例9)
アニール条件を、酸素分圧0.02kPa、アニール温度700℃、アニール時間を100時間としたこと以外は、比較例2と同様にして、アニール後の超電導線材の磁化率を測定した。T1Cは111.2K、T2Cは111.7K、T3Cは113.3Kであり、|T2C−T1C|は0.5K、|T3C−T1C|は2.1Kであった。本実施例のアニール条件においては、超電導転移は急峻となり、比較例2に比べてT3Cは低くなったがT1CおよびT2Cを高くすることができた。また、比較例1に比べて、T1C、T2CおよびT3Cをいずれも高くすることができた。結果を表1にまとめた。
本実施例のアニール条件においては、超電導転移は急峻であり、比較例1に比べて、T1C、T2CおよびT3Cをいずれも高くすることができた。結果を表1にまとめた。
【0037】
(実施例10)
アニール条件を、酸素分圧0.1kPa、アニール温度630℃、アニール時間を100時間としたこと以外は、比較例2と同様にして、アニール後の超電導線材の磁化率を測定した。T1Cは110.5K、T2Cは111.1K、T3Cは112.8Kであり、|T2C−T1C|は0.6K、|T3C−T1C|は2.3Kであった。本実施例のアニール条件においては、超電導転移は急峻となり、比較例2に比べてT3Cは低くなったがT1CおよびT2Cを高くすることができた。また、比較例1に比べて、T1C、T2CおよびT3Cをいずれも高くすることができた。結果を表1にまとめた。
【0038】
(実施例11)
アニール条件を、酸素分圧0.1kPa、アニール温度750℃、アニール時間を100時間としたこと以外は、比較例2と同様にして、アニール後の超電導線材の磁化率を測定した。T1Cは110.6K、T2Cは111.1K、T3Cは112.9Kであり、|T2C−T1C|は0.5K、|T3C−T1C|は2.3Kであった。本実施例のアニール条件においては、超電導転移は急峻となり、比較例2に比べてT3Cは低くなったがT1CおよびT2Cを高くすることができた。また、比較例1に比べて、T1C、T2CおよびT3Cをいずれも高くすることができた。結果を表1にまとめた。
【0039】
(実施例12)
アニール条件を、酸素分圧5kPa、アニール温度750℃、アニール時間を100時間としたこと以外は、比較例2と同様にして、アニール後の超電導線材の磁化率を測定した。T1Cは110.2K、T2Cは110.6K、T3Cは112.4Kであり、|T2C−T1C|は0.4K、|T3C−T1C|は2.2Kであった。本実施例のアニール条件においては、超電導転移は急峻となり、比較例2に比べてT2CおよびT3Cは低くなったがT1Cを高くすることができた。また、比較例1に比べて、T1C、T2CおよびT3Cをいずれも高くすることができた。結果を表1にまとめた。
【0040】
(実施例13)
アニール条件を、酸素分圧5kPa、アニール温度800℃、アニール時間を100時間としたこと以外は、比較例2と同様にして、アニール後の超電導線材の磁化率を測定した。T1Cは110.3K、T2Cは110.7K、T3Cは112.7Kであり、|T2C−T1C|は0.4K、|T3C−T1C|は2.4Kであった。本実施例のアニール条件においては、超電導転移は急峻となり、比較例2に比べてT2CおよびT3Cは低くなったがT1Cを高くすることができた。また、比較例1に比べて、T1C、T2CおよびT3Cをいずれも高くすることができた。結果を表1にまとめた。
【0041】
【表1】

【0042】
また、実施例1〜13におけるアニール条件の酸素分圧x(kPa)とアニール温度y(℃)との関係を示す点を、それぞれS1〜13として図2中にプロットした。
【0043】
表1および図2から明らかなように、酸素分圧x(kPa)とアニール温度y(℃)とが、上記の式(1−1)〜式(1−6)の線分で囲まれる領域(各式の線分を含む)に存在し、アニール温度が1時間以上の条件でアニールを行なうことにより、T1Cが110.0Kより大きく、|T2C−T1C|が1.0K以下で、|T3C−T1C|が3.0K以下である、(Bi,Pb)2223を含むBi系超電導体が得られた。
【0044】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】(Bi,Pb)2223を含むBi系超電導体の温度と−M/M(50K)との関係(超電導転移曲線)を示す図である。
【図2】(Bi,Pb)2223を含むBi系超電導体の一実施形態のアニールにおける酸素分圧x(kPa)とアニール温度y(℃)との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導相として(Bi,Pb)2223を含むBi系超電導体であって、
前記(Bi,Pb)2223のc軸に平行な方向に磁場が印加されている状態で測定され50Kで規格化された磁化率が−0.5となる第1の臨界温度T1Cが110.0Kより高く、
前記磁化率が−0.1となる第2の臨界温度T2Cと前記第1の臨界温度T1Cとの差|T2C−T1C|が1.0K以下であるBi系超電導体。
【請求項2】
さらに前記磁化率が−0.001となる第3の臨界温度T3Cと前記第1の臨界温度T1Cとの差|T3C−T1C|が3.0K以下である請求項1に記載のBi系超電導体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のBi系超電導体を含む超電導線材。
【請求項4】
請求項3に記載の超電導線材を含む超電導機器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−74686(P2008−74686A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258721(P2006−258721)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】