説明

Bi系酸化物超伝導体用の前駆材料および該材料を調製する方法

【課題】オキサイド・パウダー・イン・チューブ(OPIT)技法によって調整される超伝導体を得るために有益に使用されうる前駆材料を提供する。
【解決手段】BiSrCa1Cu8+δに基づく超伝導体の調製のための前駆材料は、平衡状態に出来る限り接近し、即ち、BiSrCa1Cu8+δ相が2212相における平均2201合生の点で5%未満を有し、部分的溶融物処理によって最終導体に変換されるものである。また、前駆材料は、−0.1≦x≦0.4、−0.1≦y≦1.6、−0.4≦z≦0.2、そして、x+y+z=0の場合に、Bi2+xSr2−yCa1−zCu8+δの組成式を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はBi系酸化物超伝導体の調製のための前駆材料、該前駆材料を調製する方法、および、超伝導体の調製のための前駆材料の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
第1世代の商業的な高温度超伝導体は、短縮された2223のn=3の同族列BiSrCaCu(n+1)6+2n+xと、n=2で、短縮された2212との2つの部材を利用する。ここでxは適切な酸素含有量を表し、それで各化合物が超伝導性を示す。所望の超伝導相2223および2212に加えて、他の相が、2201等の超伝導体材料、酸化銅、アルカリ土類金属の酸化物等々の中で見出され得る。更に、2223および2212の粒子の中で、2212粒子内の2201および2223原子層の短いシーケンス等の同族列の他の部材の合生が見出され得る。
【0003】
しかしながら最終超伝導体における良好な超伝導体性能のため、そうした第2相や合生の含有量は出来る限り小さくすべきであり、更に超伝導体材料の良好に連結され整列された粒子が要求される。
【0004】
特に2212超伝導体は、2212相が2213相よりも安定しているので広範に使用され、一般的、より簡単な処理技術で得ることができる。更に2212超伝導体は、例えば、Ag被覆された単コアの形態での円、正方形、または、長方形状や、多心線テープおよびワイヤ、様々な基板上の厚い膜、バルク・プレート等々断面が大きく変動するテープおよびワイヤ等のより多様性ある形状で作製され得る。
【0005】
最終微細構造および超伝導体性能は、その超伝導体を調製するために使用される前駆材料の特性に強力に依存することが示された。
【0006】
一般に前駆材料として、所望の超伝導体材料の原子比を有する構成元素から成る適切な化合物の粉体混合物が使用され、即ち、2:2:1:2のBi:Sr:Ca:Cuから成るBi2212の場合である。粉体混合物を調製する技術は一般に知られており、例えば、硝酸塩の形態での溶液内の構成元素の化学的混合と、例えばエアゾールスプレー熱分解を介しての引き続く分解、噴霧乾燥法、凍結乾燥法等々の後のシュウ酸塩共沈による。
【0007】
前駆粉体が使用されて、それが組成物の高い均質性と小さな粒度とを有すれば、超伝導体材料の特性は改善され得ることが知られている。
【0008】
超伝導体を製造するために、所謂、オキサイド・パウダー・イン・チューブ(OPIT)技法が有益に使用され得る。この技法において前駆粉体は、一般にAgまたはAg合金が使用される通常導電性材料から成るチューブ内、所謂ビレット内に挿入される。詰められたビレットは例えば引き抜きによって変形させられて、モノフィラメント・ワイヤを作り出す。これらモノフィラメント・ワイヤは、AgまたはAg合金の新しいビレット内に通常組み立てられ、例えば引き抜きおよび/または圧延によって変形させられて、マルチフィラメント・ワイヤやテープに為される。この方法は数回繰り返し可能であって、様々な複雑な超伝導体形状に至る。結果としてのマルチフィラメント・ワイヤの典型的な最終フィラメント径は10μmから20μmである。
【0009】
次いで結果としてのBi2212/Ag超伝導体は熱処理、所謂部分的溶融物処理(PMP)を被る。Bi2212超伝導体のPMPは、良好に連結され、相等質で、良好に整列されたBi2212材料を得ることを目標としている。PMP中、超伝導体は2212相の分解温度以上に加熱され、多孔性や無作為の粒子配向を削減し、次いで、新2212粒子を結晶化すべくゆっくりと冷却される。2212形成のこの逆包晶反応は、融解ステップ中に成長した第2相を消費することから生ずる問題のために完成することが難しい。最適な処理は、通常、融解状態で長時間を要求する良好な連結性と、部分的融解状態の間に成長する第2相の分解を要求する相等質との間の折衷案であると考えられる。
【0010】
共通して使用される前駆材料は組成に関して高い均質性を有すると共に、通常、1μmから5μmの粒度を有する。更に共通して使用される前駆材料のBi2212粒子は、2201の10%から20%の合生を示す。
【0011】
部分的な融解処理の更なる最適化に対する必要性があった。特に一方において粒子間の良好な連結性を有するが、他方においては融解処理中に第2相だけの最小形成の有無を伴う最終超伝導体材料を得る必要性があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明に従えば、先に議論された問題は、BiSrCa1Cu8+xに基づく酸化物超伝導体を調製するためのBiSrCa1Cu8+xに基づく前駆材料の使用によって解決され、その前駆材料のBiSrCa1Cu8+x相が2212相内でBiSrCu1O6+x(Bi2201)の平均合生の点で5%未満を含む。本発明の意味合いの範囲内で、そうした材料は「平衡材料」と呼称される。
【0013】
2201合生の低密度を伴う2212材料の調製は文献に記載されている。
【0014】
Heebらによる文献(Heeb et al. “From imperfect to perfect Bi2Sr2CaCu2Ox(Bi-2212)grains”, J. Mater. Res., Vol.8, No. 9, Sep. 1993, pages 2170 to 2176)には、2212超伝導体の低減された2201合生を伴っての製造が開示されて、アニーリング時間による2201合生の依存性が特に考慮されている。Heebらによれば、最終超伝導体における2201合生は約100時間のアニーリング時間によって劇的に低減され得る。
【0015】
Rikelらによる文献(Rikel et al. “Effect of solidification conditions on microstructure of melt processed Bi2212/Ag conductors”, Physica C372-376(2002) 1839-1842)は、部分的融解処理を介しての最終2212材料の調製に向けられている。ここで前駆体を伴うサンプルが包晶融解温度以上に加熱されて、その包晶融解温度以下の固化温度まで冷却されて、アニーリングのためのその固化温度に保持される。2212相における2201合生の密度が減少する冷却速度と共に減少することが観測される。ここで2212超伝導体材料は、ほんの0.6±0.3%2201合生を伴うことが開示されている。しかしながらこのRikelらの文献に記載されるように、これは液体と平衡する2212相の緩慢な形成によると共に、別個の相としての2201の形成の代償として達成されて、最終材料は平衡ではない。
【0016】
留意することは、微細構造平衡(特に、2212相における2201合生の密度を減少すること)が最終生産物だけへの適用にあたっての課題として考慮されたことである。以上の例において、それらは、Heebらによるゾーン融解処理バルク2212と、Rikelらによる部分的融解処理Ag被覆2212導体とであった。OPIT導体に対する前駆材料として使用される粉体材料の調製において、材料平衡の課題は通常全く考慮されなかった。
【0017】
例えば、Bloomらによる文献(Bloom et al. “Solid state synthesis of Bi2Sr2CaCu2Ox superconductor” Mat. Res. Bull., Vol. 26, pp. 1269-1276, 1991)は、Bi化合物の初期形成を介しての酸化物および炭酸塩の反応、2201相およびCa-Cu酸化物の形成のための引き続く反応、そして、2201相の2212相への変換によって、2212超伝導体の形成に対する反応シーケンスの研究を提供している。それらのX線回折データに基づき、単一相領域(D6=Majewski 1997)の外側に横たわるべく引き続き示される組成のための単一相2212の形成についてBloomらによる文献は報告している。その理由は、それら粉体の不完全な平衡である。008および0010線の強度と、以下で議論される(第X頁)2212相における2201合生の平均密度<f>との間の相関を用いて、Bloomらによる文献(第1273頁)に提示されたXRDパターンから、それらの粉体は5.9±1.1% 2201合生(パラメータX8.10=0.72±0.04)を有する2212相から構成されていることを我々は結論する。
【0018】
特定の前駆材料に言及している刊行物には、平衡の度合いも考慮に入れられていなかった。例えば、Neubacherらによる米国特許第5,541,154号は、2223および2212高温度超伝導体を調製するOPIT技法に対する前駆材料を調製する方法が開示されている。この方法に従えば出発粉体は、所望の高温度超伝導体を得るために、600℃と900℃の間の温度に加熱される。留意することは、OPIT導体に使用される2223前駆材料が基本的には決して平衡ではないことである(OPIT2223導体の調製に使用される部分的融解方法の準安定性のため)。2212粉体の平衡の度合いは決して重要なパラメータであると考えられておらず、それは十中八九、そうした前駆体を用いて調製されたOPIT導体が、この初期状態が「忘れられた」と考えられる際、部分的融解処理を被るからである(D5=Sager et al. 2005を参照のこと)。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明において、我々は、最終生産物の微細構造がその初期状態を「思い出させ」て、2212OPIT導体の調製に使用される前駆材料の平衡の度合いに特別な注意を払わせることを示す。我々が主張することは、平衡前駆材料を使用して、平衡状態への接近を明確にすることが有益であることである。我々は、BiSrCa1Cu8+x相がBiSrCu1O6+x(Bi2201)の平均合生の点で5%未満を有している前駆材料を「平衡」として考えている。
【0020】
更なる局面に従えば、本発明は、−0.1≦x≦0.4; −0.1≦y≦1.6; −0.4≦z≦0.2の場合、化学式Bi2+xSr2−yCa1−zCu8+δに従った組成式の前駆材料であり、2212相内において2201の平均合生の点で5%未満を有する前駆材料に向けられている。
【0021】
本発明の前駆材料は、単一相材料を多数相材料と共に含み、好ましくは、多数相材料の場合、第2相の含有量が15%またはそれ未満であり、より好ましくは10%またはそれ以下である。
【0022】
更には、本発明は本発明に使用されている前駆材料を調製するための方法に関する。
【0023】
特に、本発明は2212高温度超伝導体の生産のため、特に溶融物鋳造技法、より好ましくは部分的溶融物鋳造技法による生産のための2212相における2201の平均合生の点で5%未満を伴う前駆材料の使用に向けられている。
【0024】
即ち、本発明に従えば、先行技術に関わる先に引用された問題は、出来る限り平衡状態に接近した前駆材料を用いることによって解決される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
一般に、所与の化学的組成の材料は、その自由エネルギーが最小の際、圧力および温度の所与の外的条件の下、「熱力学的平衡」であると言える。物理学的にこれが意味することは、材料が所与の圧力および温度の下で貯蔵された際、ひとたび到達されたならば決して変化しない状態である。実際に平衡である材料は生産が殆ど不可能であり、且つ、平衡の状態の決定は、本発明の意味合いにおいて、これも明らかに可能ではない無限時間の試験を要求するので、用語「平衡状態にある前駆材料」は出来る限り平衡に接近する前駆材料を意味している。前駆材料の平衡の状態を決定するため、本発明におけるBi2212相中のBi2201合生の密度のような特性が使用される。即ち、本発明に従えば、「平衡前駆材料」とも呼称される「その平衡状態にある前駆材料」はその相組成に関して平衡に接近している材料である。よって、本発明の前駆材料は、それにおけるBi2212が平均でBi2201合生を、5%未満、好ましくは3%未満、そしてより好ましくは1%未満を含んでいることを特徴としている。
【0026】
本発明者等は、均質な前駆材料から作り出された超伝導体ボディが部分的融解処理を被る際、その前駆材料が部分的溶融の充分前に不均質を与える5%未満などの2201合生の高い含有量を含むことを観測した。即ち、均質な前駆材料が超伝導体ボディを調製するために使用される際でさえ、その材料はその融解領域に到達する際に不均質となる。この不均質性の故に、融解事象は広げられ、即ち、融解は均質材料の場合よりも幅広い温度範囲にわたって生ずる。この広範な融解範囲の結果、大きな相分離が融解中に生じ、その結果として、最終超伝導体の性能が劣化する。
【0027】
本発明者によって信じられることは、5%以上の2201合生を含む前駆材料における不均質性の形成の理由としては、そうした材料が平衡ではないことである。そうした非平衡材料から作り出された超伝導体を加熱するに及んで、その材料は平衡に到達するために反応を被る。しかしながら平衡へのアプローチまたは到達された平衡の度合いは超伝導体の様々な部分において異なる。超伝導体の様々な部分における平衡へのこうした異なるアプローチの故に、材料は加熱中に不均質となる。
【0028】
この効果は超伝導体フィラメントの場合に特に重要である。通常は20μm未満の小さなフィラメント径の故に、形状的な制限が存在し、それが超伝導体フィラメント長にわたる平衡状態への接近に関しての相違を高める。
【0029】
本前駆材料において、Bi2212相はBi2201の平均合生の点で5%未満を有し、即ちその材料は既に平衡に接近している。そうした平衡前駆材料から作り出された超伝導体が加熱される際、任意の化学反応に対して何等駆動力はなく、その結果、その材料は加熱中および部分的融解中に均質性を維持する。結果として、融解範囲は狭く、加熱中の相分離は回避されるかまたは少なくとも最少化される。
【0030】
本発明の前駆材料は粉体またはバルク材料の形態を有し得る。
粉体材料の場合、粒度は必要に応じて選択され得る。通常、先行技術と同一粒度が適用され得て、例えば、約1μmから5μmであるd50の粒度分布である。
【0031】
本発明の前駆材料に対して、Biの一部がPbによって代替可能である。
【0032】
要求に応じて、更なる元素が前駆材料内に存在し得る。例えば、本発明の前駆材料はSrSOおよび/またはBaSOを、20重%までの量の補助として含有し、または、BaSOが使用された際、構成元素Biと、任意選択的なPb、Sr、Ca、Cuによる成分の混合物、例えばそれら構成元素の酸化物の混合物に基づき、好ましくは約10重%までだけを含有し得る。そうした化合物は、例えば、それらについて明確に述べられているEP-A-0 524 442およびEP-A-0 573 798に開示されている。
【0033】
本発明は以下の式によって表現される組成式による前駆材料に更に向けられている。
Bi+Sr2−yCa1−zCu8+δ
ここで、−0.1≦x≦0.4; −0.1≦y≦1.6; −0.4≦z≦0.2、そして、x+y+z=0である。これはこの式と算術的に同等な種々の組成物をも含み、それら組成物は平衡に接近しており、即ち、材料中の2212相は2201合生の点で5%未満を含有する。
【0034】
2212相における2201合生の密度、そしてそれ故の平衡の度合いはx線回折パターン(XRD)を用いて決定可能である。密度fの合生の存在は図心のシフトと、XRDパターンにおける00/偏向の拡大とを生ずる。第1近似のため、これらは以下の数式によって付与される:
【数1】

【数2】

ここで、c1およびc2は、それぞれ、Bi2201およびBi2212の格子パラメータであり、θは回折角度であり、lは反射のミラー指数であり、FWHMは半値全幅であり、ブラケット<…>は平均を意味する。
【0035】
しかしながら数式(1)および(2)を用いて合生の密度を計算することはかなり面倒である。<f>を算定するためのより速い方式として、本発明者等は、XRDパターンにおける2212相の008および00.10反射の下の強度lと面積Aとを用いるより簡略化された手続きを開発した。線シフトからの合生密度の計算の彼等による経験に基づき、<f>と量χ8.10=(I008/I00.10)×(A00.10/A008)との間の相関を見出した。強度に対する面積の比が積分幅β=A/I を規定しているので、導入された量は積分幅00.10および008反射のχ8.10=β00.10/β008の比である。使用された回折計−Cu Kα放射の回折条件のため、LaB NiST(米国標準局)基準サンプルのKα1線の半値全幅は、18<2θ<90°に対する0.11±0.01°(2θ) − 相関が、<f>=(−0.113±0.023)×(χ8.10−0.88)+(0.03.8±0.003)を示す。
【0036】
2212粒子における5%未満の2201合生を含有する本発明の平衡前駆材料は、(I008/I00.10)×(A00.10/A008)>0.77を満足するXRDパターンを有し、ここで、I008およびI00.10は最大強度であり、A008およびA00.10は008および00.10線下の面積である。1%未満の2201合生を伴うより好適な平衡前駆材料に対して、この条件は、(I008/I00.10)×(A00.10/A008)>1.12である。
【0037】
本発明の平衡前駆材料の調製に対する出発材料は、任意の既知の材料が使用されて、2212超伝導体の調製に適用される。例えばその出発材料は溶融物鋳造、溶融物冷却、シュウ酸塩のエアゾール熱分解またはスプレー乾燥法によって作り出され得て、溶融物鋳造がより好ましい。
Bi2212の出発材料は使用され得て、構成元素の酸化物が所望のBi2212超伝導体を得るための適切な原子比で混合される。2:2:1:2の原子は理想的な化学量論であることが周知であり、理解して頂くべきことは、この比が、例えば、式1または式1に従った前駆材料と算術的に同等である組成の前駆材料に対して変動し得ることである。
【0038】
本発明の平衡前駆材料は結果として生ずる粉体混合物をアニーリングすることによって得るか、または、材料を融解すること無しに、材料の包晶融解温度(T)に出来る限り密接した温度で成形品をアニーリングすることで得ることができる。
【0039】
好ましくは、本発明の平衡前駆材料は結果として生ずる粉体混合物をアニーリングすることによって得るか、または、例えば850℃である材料の包晶融解温度(T)の20℃から5℃低い温度で成形品を大気中でアニーリングすることで得ることができる。即ち、前駆材料がアニーリングのために加熱される際、融解ステップは何等含まれない。
【0040】
融解無しにこの温度範囲でのアニーリングによって、前駆材料は得ることができ、そこでは、2212相が平均2201合生で5%未満を含有する。
【0041】
の20℃以上、特に40℃またはそれ以上の低い温度で、前駆材料は得られ、そこでは2212相に関する2201合生の密度は5%を超える。
【0042】
平衡に近づくことは、バルク材料が使用される際に促進される。それ故に、平衡アニーリング熱処理は、凝集材料、好ましくは圧縮ロッドまたはバルク塊(溶融物鋳造材料の場合)を用いて好ましくは為される。融解に密接する温度でのアニーリングは、超伝導体の生産のためには小さな粒度が好ましいが大きな粒度を生ずる材料焼結および結晶粒成長の理由で通常は回避される。しかしながら本発明に従えば、この問題はアニーリングされた材料の粉砕を用いて粒度を制御して調整することによって解決され得る。
【0043】
2212相内での平均2201合生の点で5%未満を伴う平衡前駆材料が使用される場合、2212超伝導体は、超伝導体のキロメートル長においてでさえ、4.2Kでの臨界電流に関して2倍から3倍のより良好な性能を示して得ることができる。
【0044】
以下、本発明は特定の例によって更に説明される。それらの例において、本発明の平衡前駆材料は同一の組成式を有する非平衡前駆材料と比較される。これらの例において、提示されたXRDパターンは、CuKα放射(二次的な単色光分光器)、自動発散スリット、および、0.4°受取スリットを用いてX’PRT回折計(フィリップス)で測定された。条件は、LaB NiST(米国標準局)18<2θ<90°に対する0.11±0.01°(2θ)の基準サンプルのKα1のFWHMを提供する。SEM画像(後方散乱電子モード)はJEOL JSM6400Fスキャニング電子顕微鏡で得られた。
【実施例1】
【0045】
前駆材料はBi2.00Sr2.00Ca1.00Cu2.00の組成式を有して調製される。
【0046】
平衡前駆材料および非平衡前駆材料の両方に対して、出発材料の調製は同一であった:Bi、SrO、CaO、および、CuO−各粉体がBi2.00Sr2.00CaCu2.00化学量論に対して適切な量でだけ採取され、全体にわたって混合され、大気中においてPt坩堝内において1100℃で0.5時間にわたって融解された。次いでその溶融物はCuベース上に注がれて固化された。結果として生ずるバルク・プレートは3mmから7mm厚であり、そして、結晶相Bi2201、(Sr,Ca)CuOアルカリ土類銅酸化物[1:1AEC]相、Bi(Sr,Ca) 銅無し[2:3CF]相、および、プレート厚みに沿って変動する形態を伴うCuOから構成されている。溶融物鋳造プレートは人工大気中、10時間にわたって740℃で先ず酸化され、750℃以上の加熱に及んでの融解を回避した。
【0047】
非平衡前駆材料の調製
先に得られた酸化材料は、粉砕、ジェット-ミルが為され、そして18mm径のロッドに圧縮された。それらロッドは、40時間にわたって、840℃で気流中でアニーリングされた。
【0048】
本発明の平衡前駆材料の調製:
先に得られた酸化プレートは人工的な気流中で865℃まで更に加熱され、約16時間にわたってこの温度でアニーリングされ、次いで、炉冷却に続けて835℃にゆっくりと冷却された。結果として生じた酸化材料は、粉砕、ジェット-ミルが為され、そして18mm径のロッドに圧縮された。それらロッドは、16時間にわたって、865℃で人工的な気流中でアニーリングされた。
【0049】
両前駆材料のXRDパターンは図1に示されている。2212相の008および0010線の強度比に基づき、非平衡前駆材料における2212相が相当により多くの2201合生を含有し、即ち本発明の平衡材料における1%未満に対して8%であることが推定される。これが意味することは、本発明の平衡前駆材料が平衡状態に相当密接していることである。更に線115の絶対強度に基づき、2212相における殆ど無い合生を有する代償として、平衡前駆体は約30%のより多くのCu無し2:4CF-相を含有することが推定され得る。これは短所に見える。しかしながら留意すべきことは、実施例3において判明されるように、融解に接近した非平衡前駆体を用いて作られた導体を加熱する間、Cu無し相の欠如部は何れにせよ形成されることである。
【実施例2】
【0050】
前駆材料は、Bi2.19Sr1.90Ca0.98Cu1.93の全体組成を有して調製された。
【0051】
非平衡前駆体に対する出発材料はシュウ酸塩手段を用いて調製された。Bi、Sr、Ca、および、Cuの各硝酸塩の溶液がBi2.19Sr1.90Ca0.98Cu1.93化学量論に対して適切な各量で混合された。シュウ酸が添加された後、溶液はスプレー乾燥されて、Bi、Sr、Ca、および、Cuの各シュウ酸塩の混合物を作り出した。
【0052】
こうして得られたシュウ酸塩粉体は、ゆっくりとした820℃までの加熱と、約8時間にわたる820℃でのアニーリング(焼鈍)とによって、流動気体(13%O/バランスO)中で分解されて、引き続き炉冷却が伴われた。その結果、2212相、2201相、および、幾つかのミラー相の極度の非平衡相混合物が得られた。結果として生じた粉体からロッドが圧縮されて、16時間にわたって865℃でアニーリングされた。そのアニーリングされたロッドは粉砕およびジェット-ミルが為された。結果として生じた材料は、人工的な流動気体中で、36時間にわたって675℃で最終的にアニーリングされた。
【0053】
本発明平衡前駆材料の調製:
出発材料の調製のため、溶融物鋳造加工(MCP)手段が使用された。Bi2.19Sr1.90Ca0.98Cu1.93に適切な構成元素の原子比での酸化物混合物が溶融物鋳造されて、実施例1で記載されたように処理されたが、ジェット-ミルと人工的な流動気体中での36時間にわたる675℃での最終アニーリングとの2つ以上のステップが、粉体材料を得るため、使用されている例外がある。
【0054】
得られた粉体前駆材料のXRDパターンは図2に示されている。分析データは以下の表1に要約されている。表1中に、2212粒子における合生と共に分離相としての2201の含有量が付与されている。
【0055】
【表1】


XRDおよびSEMデータの相関(不図示)に基づく;**χ8.10=(I008/I00.10)×(A00.10/A008
【0056】
平衡前駆体は、より劣った平衡前駆体ではなくより劣った合生を伴う2212相を含有するが、分離相としてより多くの2201を有する代償として、分離相として且つ合生としての2201の合計は両前駆材料と殆ど同一であることは注目に値する。
【実施例3】
【0057】
実施例1で得られた粉体前駆材料は、Agビレットを用いたOPIT技法に従ってテープを作り出すために使用される。
【0058】
テープのSEM画像は図3に示され、そこでは、図3aおよび図3cが、本発明の平衡前駆材料(図3a)と非平衡前駆材料(図3c)とのそれぞれを用いて調製された緑色テープを表している。図3bおよび図3dは、100%酸素中、64時間にわたって865℃の融解温度に接近したアニーリングの後のテープのSEM画像である。
【0059】
図3aおよび図3cを比較すると、非平衡材料の緑色テープは本発明の平衡材料のそれぞれのものより相当により均一なように見える。しかしながらアニーリング後、第2相の粒度分布中にほんのちょっとの変化が本発明の平衡前駆材料を用いて調製されたテープの場合に生じており(図3b)、しかるに非平衡前駆材料を用いて調製されたテープは第2相の「非制御」沈殿によって相当に均一性が劣っている。PMP中、融解に先行して図3dに示される大きな粒子の存在は重大な短所と考えられる。
【0060】
これら例から、本発明の平衡前駆材料がOPIT技法に従って調製される超伝導体を得るために、即ち、OPIT技法によって調製される超伝導体を溶融処理するために有益に使用され得ることが明白となった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、双方が同一組成式を有している、本発明の前駆材料と、非平衡前駆材料とのx線回折(XRD)パターンを示す。
【図2】図2は、双方が同一組成式を有している、本発明の前駆材料と、より劣った平衡前駆材料とのx線回折(XRD)パターンを示す。
【図3】図3は、図1に従った前駆材料から作り出されたテープのSEM(走査型電子顕微鏡)画像を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bi2212系超伝導体の調製のためのBi2212前駆材料であって、
前記前駆材料が2212相における平均2201合生の点で5%未満を有し、前記前駆材料が、−0.1≦x≦0.4; −0.1≦y≦1.6; −0.4≦z≦0.2、そして、x+y+z=0の場合に、Bi2+xSr2−yCa1−zCu8+δの組成式を有することを特徴とするBi2212前駆材料。
【請求項2】
前駆材料が溶融物鋳造材料であることを特徴とする、請求項1に記載のBi2212前駆材料。
【請求項3】
Bi2212系超伝導体の調製のための2212相における平均2201合生の点で5%未満を有するBi2212前駆材料の調製のための方法であって、
所望の原子比での構成元素を伴う前記前駆材料に対する出発混合物が、該出発混合物の包晶温度(T)よりも20℃から5℃低い温度まで加熱されて、この温度でアニーリングされることを特徴とする方法。
【請求項4】
前記出発混合物のバルク部または圧縮ロッドが、Tよりも20℃から5℃低い温度でアニーリングされることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記前駆材料が、−0.1≦x≦0.4; −0.1≦y≦1.6; −0.4≦z≦0.2、そして、x+y+z=0の場合に、Bi2+xSr2−yCa1−zCu8+δの組成式を有することを特徴とする、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記出発混合物が溶融物鋳造から得られることを特徴とする、請求項3乃至5の内の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
Bi2212系超伝導体の調製のための2212相における平均2201合生の点で5%未満を有するBi2212前駆材料の用途。
【請求項8】
部分的溶融物処理によるBi2212超伝導体の調製のための請求項7に記載の用途。
【請求項9】
前記前駆材料が溶融物鋳造材料であることを特徴とする、請求項7または8に記載の用途。
【請求項10】
Bi2212系超伝導体がチューブ技法における酸化物粉体によって調製されて、部分的溶融物処理が為されることを特徴とする、請求項7乃至9の内の何れか一項に記載の用途。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−176396(P2006−176396A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−337020(P2005−337020)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(501044725)ネクサン (81)
【Fターム(参考)】