説明

Bi12MO20前駆体、Bi12MO20粉体の製造方法および放射線撮像パネルを構成する光導電層の製造方法

【課題】 発生電荷の捕集効果が高く、電気ノイズの小さい酸化ビスマス系複合酸化物からなる光導電層を製造する。
【解決手段】 ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体を得、得られたBi12MO20前駆体を成形し、成形したBi12MO20前駆体を焼成して光導電層を製造する。または、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体を得、得られたBi12MO20前駆体をアルカリ性の液相で加熱して粉体とするか、あるいはBi12MO20前駆体を焼成して粉体とし、この粉体をバインダーと混ぜ合わせて支持体に塗布する等して光導電層を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線撮像パネルを構成する光導電層に好適なBi12MO20前駆体、Bi12MO20粉体の製造方法及び放射線撮像パネルを構成する光導電層の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、医療用X線撮影において、被験者の受ける被爆線量の減少、診断性能の向上等のために、X線に感応する光導電層を感光体として用い、この光導電層にX線により形成された静電潜像を、光或いは多数の電極で読み取って記録するX線撮像パネルが知られている。これらは、周知の撮影法であるTV撮像管による間接撮影法と比較して高解像度である点で優れている。
【0003】
上述したX線撮像パネルは、この撮像パネル内に設けられた電荷生成層にX線を照射することによって、X線エネルギーに相当する電荷を生成し、生成した電荷を電気信号として読み出すようにしたものであって、上記光導電層は電荷生成層として機能する。従来より、この光導電層としてはアモルファスセレンが使用されているが、アモルファスセレンは一般にX線吸収率が低いために光導電層の厚みを厚く(例えば500μm以上)形成する必要がある。
【0004】
しかし、膜厚を厚くすると読取速度が低下するとともに、潜像形成後少なくとも読出しを開始してから終了するまでの間、光導電層に高圧を印加するため、暗電流が増加し、暗電流による電荷が潜像電荷に加算され、低線量域でのコントラストを低下させるという問題がある。また、高圧を印可するためにデバイスを劣化させやすく、耐久性が低下したり、電気ノイズを発生しやすくなる。さらに、光導電層は通常蒸着法によって形成されるため、上述したような厚みとなるまで光導電層を成長させるには相当な時間がかかり、またその管理も大変である。このことは結局のところ製造コストの上昇となり、X線撮像パネルのコストアップを招来することになる。
【0005】
このような問題からセレン以外の光導電層の材料が検討されている。例えば、特許文献1および2には、光導電層を構成する物質として、組成式BiMO(ただし、MはGe,Si,Ti中の少なくとも1種であり、xは10≦x≦14の条件を満たす数であり、yは上記Mおよびxにより化学量論的な酸素原子数を表す。)で表される酸化ビスマス系複合酸化物が記載されている。この酸化ビスマス系複合酸化物によればX線の電荷変換効率を改善することが期待できる。
【0006】
また、Bi12MO20の製造方法として、非特許文献1にはBi(NO33と、Si源としてNa2O・xSiO2や、Ge源としてGeO2やTi源としてTi(OC374を酸に溶解させ、水酸化アルカリ金属を添加して沈殿させ、pHを調整後、適当な温度にしてBi12MO20を合成する方法が記載されている。さらに、非特許文献2にはBi(NO33とTiCl4の混合溶液にNH3水溶液を添加して前駆体を作製し、KOH溶媒で水熱加熱することによりBi12TiO20粉体を合成する方法が記載されている。
【特許文献1】特開平11−237478号
【特許文献2】特開2000−249769号
【非特許文献1】“Solid State Ionics ”32/33 (1989)p678-690
【非特許文献2】“Materials Reserch Bulletin”36 (2001) p355-363
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、Bi23とMO3を800℃で焼成する固相法で合成したBi12MO20は粒径がμmサイズと大きくなり、形成された光導電層は充填密度が低いために発生電荷の捕集効果が悪いという問題がある。ところで、上記特許文献1および2には、光導電層の製造方法としてビスマスおよび金属のアルコキシドを加水分解して得られたゾル若しくはゲルを焼結処理し、これを分散、塗布することによって形成することが記載されている(以下、この方法をゾルゲル法という)。
【0008】
しかし、上記特許文献1および2に記載されている方法は、ビスマス源および金属源にいずれもアルコキシドを用いているため、原料のコストが高いという問題がある。また、ビスマスおよび金属のアルコキシド双方の加水分解の速度を合わせないと片方のみの酸化物が生成してしまう場合があり、加水分解速度の制御が煩雑である。
【0009】
また、非特許文献1に記載されている方法では実際にはBi12TiO20を合成することはできない。さらに、非特許文献2に記載されているように、ビスマス塩と金属塩の組合せでは純度の高いBi12MO20を得ることはできない。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、放射線撮像パネルを構成する光導電層に好適なBi12MO20前駆体、Bi12MO20粉体の製造方法、及び放射線撮像パネルを構成する光導電層の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のBi12MO20前駆体の製造方法は、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体を得ることを特徴とするものである。
【0012】
前記ビスマス塩が硝酸ビスマスまたは酢酸ビスマスであることが好ましい。
【0013】
本発明の放射線撮像パネルを構成する光導電層の第一の製造方法は、放射線画像情報を静電潜像として記録する放射線撮像パネルを構成する光導電層の製造方法であって、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体を得、得られたBi12MO20前駆体を成形し、この成形したBi12MO20前駆体を焼成して前記光導電層を製造することを特徴とするものである。
【0014】
前記Bi12MO20前駆体の成形はCIP法(Cold Isostatic Pressing:冷間等方圧加工法)により行うことが好ましい。このCIP法による成形時の圧力は100MPa〜700MPaであることがより好ましい。
【0015】
本発明のBi12MO20粉体の第一の製造方法は、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体(ただし、MはGe,Si,Ti中の少なくとも1種である。以下、この記載は省略する。)を得、該Bi12MO20前駆体をアルカリ性の液相で加熱して粉体を得ることを特徴とするものである。
【0016】
Bi12MO20前駆体をアルカリ性の液相で加熱するとは、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合したBi12MO20前駆体をアルカリ性のままで液相加熱することを意味し、アルカリ性であれば、さらにここにアルカリ水溶液を添加してもよいし、あるいは一度溶媒を除去して新たにアルカリ水溶液を添加してもよい。
【0017】
前記液相加熱は液相で加熱する処理、例えば水熱処理が好ましい。前記液相加熱の温度はビスマス塩、金属アルコキシド、アルカリ水溶液の選択、組合せによっても異なるが、50〜250℃であることが好ましい。
【0018】
前記ビスマス塩は、硝酸ビスマスまたは酢酸ビスマスであることが好ましい。
【0019】
本発明の放射線撮像パネルを構成する光導電層の第二製造方法は、放射線画像情報を静電潜像として記録する放射線撮像パネルを構成する光導電層の製造方法であって、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体を得、該Bi12MO20前駆体をアルカリ性の液相で加熱して粉体とし、該粉体を用いて前記光導電層を製造することを特徴とするものである。
【0020】
本発明のBi12MO20粉体の第二の製造方法は、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体を得、該Bi12MO20前駆体を焼成して粉体を得ることを特徴とするものである。
【0021】
前記ビスマス塩が硝酸ビスマスまたは酢酸ビスマスであることが好ましい。
【0022】
本発明の放射線撮像パネルを構成する光導電層の第三の製造方法は、放射線画像情報を静電潜像として記録する放射線撮像パネルを構成する光導電層の製造方法であって、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体を得、該Bi12MO20前駆体を焼成して粉体を得、得られた粉体を用いて前記光導電層を製造することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明のBi12MO20前駆体の製造方法は、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体を得るので、金属塩や金属酸化物を原料とする場合に比べて、金属の純度を高くすることが可能となり、純度の高いBi12MO20前駆体を得ることが可能となる。
【0024】
本発明の放射線撮像パネルを構成する光導電層の第一の製造方法は、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体を得、得られたBi12MO20前駆体を成形し、この成形したBi12MO20前駆体を焼成して光導電層を製造するので、従来の固相法により製造する場合に比較して得られる粉体の粒径をサブμmサイズと小さくすることができ、光導電層のBi12MO20の充填率を高くすることが可能となる。このため、発生電荷の捕集効果が高まり、電気ノイズが小さくなるため、画像の粒状性を改善することが可能となり、感度の高い光導電層を得ることができる。
【0025】
なお、Bi12MO20前駆体の成形をCIP法によって成形をすると充填密度を高くすることが可能となり、発生電荷の捕集効果をより高めることができる。
【0026】
本発明のBi12MO20粉体の第一の製造方法は、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体を得、このBi12MO20前駆体をアルカリ性の液相で加熱して粉体を得るので、金属塩や金属酸化物を原料とする場合に比べて、金属の純度を高くすることが可能となり、純度の高いBi12MO20粉体を得ることが可能となる。
【0027】
また、従来より知られているBi23と金属酸化物とを焼成してBi12MO20粉体を合成する固相法に比較して、本発明のBi12MO20粉体の製造方法は液相であるため低温反応であり、液相において結晶化できるため、急激な結晶成長が起こることがなく、結晶欠陥の少ない、均一組成のBi12MO20粉体を得ることが可能である。
【0028】
本発明の放射線撮像パネルを構成する光導電層の第二の製造方法は、上記したような純度が高く均一組成のBi12MO20粉体により光導電層を製造するので、発生電荷の捕集効果が高まり、電気ノイズが小さくなるため、画像の粒状性を改善することが可能となり、感度の高い光導電層を得ることができる。
【0029】
本発明のBi12MO20粉体の第二の製造方法は、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体を得、このBi12MO20前駆体を焼成して粉体を得るので、金属塩や金属酸化物を原料とする場合に比べて、金属の純度を高くすることが可能となり、純度の高いBi12MO20粉体を得ることが可能となる。
【0030】
また、従来より知られているBi23 と金属酸化物とを焼成してBi12MO20粉体を合成する固相法に比較して、本発明のBi12MO20粉体の製造方法は均一組成となっている前駆体を焼成するため、均一組成のBi12MO20粉体を得ることが可能である。
【0031】
本発明の放射線撮像パネルを構成する光導電層の第三の製造方法は、上記したような純度が高く均一組成のBi12MO20粉体により光導電層を製造するので、発生電荷の捕集効果が高まり、電気ノイズが小さくなるため、画像の粒状性を改善することが可能となり、感度の高い光導電層を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明のBi12MO20前駆体の製造方法は、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体を得ることを特徴とする。ビスマス塩は硝酸ビスマスまたは酢酸ビスマスであることが好ましく、金属アルコキシドはGe,Si,Tiのアルコキシド、より具体的には、Ge(O−CH34,Ge(O−C254,Ge(O−iC374,Si(O−CH34,Si(O−C254,Si(O−iC374,Ti(O−CH34,Ti(O−C254 ,Ti(O−iC374 ,Ti(O−nC494 などを好ましくあげることができる。
【0033】
ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体を得る場合には、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液が混合できれば、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液にアルカリ水溶液を加えてもよいし、アルカリ水溶液にビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液を加えてもよい。これは後述のBi12MO20粉体の第一、第二の製造方法においても同様である。
【0034】
ビスマス塩と金属アルコキシドを混合する場合の溶媒としては、メトキシエタノール、エトキシエタノール、酢酸、硝酸、グリセリンなどが好ましくあげられる。アルカリ水溶液としては、LiOH水溶液、NaOH水溶液、KOH水溶液、NH3水溶液、(Cn2n+14NOH水溶液などが好ましくあげられる。
【0035】
光導電層を製造するには、得られた前駆体を成形する。成形は得られた前駆体が少なくとも一定の形状となるように形成されている状態を意味し、具体的な方法としては、Bi12MO20前駆体をゴム袋のような変形抵抗の少ない成形モールドの中に密封して液圧を加えて方向性なく圧縮成形するCIP法が好ましくあげられる。CIP法による成形時の圧力(液圧)は100MPa〜700MPaであることがより好ましい。
【0036】
なお、数100℃の高温と数10〜数100MPaの等方的な圧力をBi12MO20前駆体に同時に加えて処理するHIP法(Hot Isostatic Pressing:熱間等方圧加工法)」、Bi12MO20前駆体に対して、一軸方向からのみの加圧によってプレスするホットプレス法、Bi12MO20前駆体体をバインダーを用いて塗布してグリーンシート(バインダーを含んだ膜)を作製し、このグリーンシートを焼成して脱バインダー化及び粉末の焼結化を行う方法などの公知の方法を用いることも可能である。
【0037】
このように、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体を得ると、金属塩や金属酸化物を原料とする場合に比べて、金属の純度を高くすることが可能となり、純度の高いBi12MO20前駆体を得ることが可能となる。このような純度が高く均一組成のBi12MO20前駆体を用いて光導電層を製造すれば、発生電荷の捕集効果が高まり、電気ノイズが小さくなるため、画像の粒状性を改善することが可能となり、感度の高い光導電層を得ることができる。なお、CIP法によって成形をすると充填密度を高くすることが可能となり、発生電荷の捕集効果をより高めることができる。
【0038】
本発明のBi12MO20粉体の第一の製造方法は、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体(ただし、MはGe,Si,Ti中の少なくとも1種である。)を得、このBi12MO20前駆体をアルカリ性の液相で加熱して粉体を得ることを特徴とする。ここで、ビスマス塩、金属アルコキシドはBi12MO20前駆体の製造方法にあげたものと同様のものを好ましくあげることができる。
【0039】
ビスマス塩と金属アルコキシドを混合する場合の溶媒としては、Bi12MO20前駆体の製造方法にあげたものと同様のものを好ましくあげることができる。
【0040】
Bi12MO20前駆体を得た後、このBi12MO20前駆体をアルカリ性の液相で加熱することによって粉体を得るが、この場合、上記したアルカリ水溶液をさらに添加して液相加熱を行ってもよい。液相加熱は液相で加熱する処理、例えば水熱処理が好ましいが、還流によっても行うことができる。液相加熱の温度はビスマス塩、金属アルコキシド、アルカリ水溶液の選択、組合せによっても異なるが、50〜250℃であることが好ましい。アルカリ性のpHを高くすると、液相加熱温度を下げることができる。
【0041】
得られた粉体を用いて光導電層を製造する具体的な方法としては、例えば、粉体をバインダーと混ぜ合わせて支持体に塗布し、塗布後に乾燥させるバインダー塗布法、真空中でBi12MO20粉体をキャリアガスで巻き上げて、そのBi12MO20粉体の混じったキャリアガスを真空中で支持体に吹き付けてBi12MO20粉体を堆積させるエアロゾルデポジション法、Bi12MO20粉体をプレス機を用いて高圧力でプレスすることで膜化し、得られた膜を焼結させるプレス焼結法、Bi12MO20粉体をゴム袋のような変形抵抗の少ない成形モールドの中に密封して液圧を加えて方向性なく圧縮成形するCIP法(Cold Isostatic Pressing:冷間等方圧加工法)、数100℃の高温と数10〜数100MPaの等方的な圧力をBi12MO20粉体に同時に加えて処理するHIP法(Hot Isostatic Pressing:熱間等方圧加工法)」、Bi12MO20粉体に対して、数100℃の高温と一軸方向からのみの加圧によってプレスするホットプレス法、Bi12MO20粉体をバインダーを用いて塗布してグリーンシート(バインダーを含んだ膜)を作製し、このグリーンシートを焼成して脱バインダー化及び粉末の焼結化を行う方法(以下、グリーンシート法)などの公知の方法を用いることができる。
【0042】
上記バインダー塗布法に用いられるバインダーとしては、ニトロセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロース、塩化ビニリデン・塩化ビニルコポリマー、ポリアルキルメタアクリレート、ポリウレタン、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリスリレン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマー、セルロースアセテート、ポリビニルアルコール、線状ポリエステル等が好ましく、また、グリーンシート法に用いられるバインダーとしては、セルロースアセテート、ポリアルキルメタアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等が好ましい。
【0043】
このように、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体を得、このBi12MO20前駆体をアルカリ性の液相で加熱して粉体を得ると、金属塩や金属酸化物を原料とする場合に比べて、金属の純度を高くすることが可能となり、純度の高いBi12MO20粉体を得ることが可能となる。また、本発明のBi12MO20粉体の製造方法は液相であるため低温反応であり、液相において結晶化できるため、急激な結晶成長が起こることがなく、結晶欠陥の少ない、均一組成のBi12MO20粉体を得ることが可能である。このような純度が高く均一組成のBi12MO20粉体を用いて光導電層を製造すれば、発生電荷の捕集効果が高まり、電気ノイズが小さくなるため、画像の粒状性を改善することが可能となり、感度の高い光導電層を得ることが可能となる。
【0044】
本発明のBi12MO20粉体の第二の製造方法は、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体を得、このBi12MO20前駆体を焼成して粉体を得ることを特徴とする。ここで、ビスマス塩、金属アルコキシドはBi12MO20前駆体の製造方法にあげたものと同様のものを好ましくあげることができる。
【0045】
ビスマス塩と金属アルコキシドを混合する場合の溶媒としては、Bi12MO20前駆体の製造方法にあげたものと同様のものを好ましくあげることができる。
【0046】
ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体を得たら、このBi12MO20前駆体を焼成して粉体を得る。焼成温度は、ビスマス塩、金属アルコキシド、アルカリ水溶液の選択、組合せによっても異なるが、500〜800℃であることが好ましい。
【0047】
得られた粉体を用いて光導電層を製造する具体的な方法は、第二の製造方法であげたものと同様のものを好ましくあげることができる。
【0048】
このように、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体を得、このBi12MO20前駆体を焼成して粉体を得ると、金属塩や金属酸化物を原料とする場合に比べて、金属の純度を高くすることが可能となり、純度の高いBi12MO20粉体を得ることが可能となる。また、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合して得られるBi12MO20前駆体は均一組成となっておりこの前駆体を焼成するため、均一組成のBi12MO20粉体を得ることが可能である。このような純度が高く均一組成のBi12MO20粉体を用いて光導電層を製造すれば、発生電荷の捕集効果が高まり、電気ノイズが小さくなるため、画像の粒状性を改善することが可能となり、感度の高い光導電層を得ることが可能となる。
【0049】
続いて本発明の製造方法によって得られたBi12MO20粉体、Bi12MO20前駆体を用いて製造される放射線撮像パネルについて説明する。放射線撮像パネルには、放射線を直接電荷に変換し電荷を蓄積する直接変換方式と、放射線を一度CsIなどのシンチレータで光に変換し、その光をa−Siフォトダイオードで電荷に変換し蓄積する間接変換方式があるが、本発明の製造方法によって製造される光導電層は前者の直接変換方式に用いることができる。なお、放射線としてはX線の他、γ線、α線などについて使用することが可能である。
【0050】
また、本発明の製造方法によって得られたBi12MO20粉体、Bi12MO20前駆体を用いて製造される光導電層は、光の照射により電荷を発生する半導体材料を利用した放射線画像検出器により読み取る、いわゆる光読取方式にも、放射線の照射により発生した電荷を蓄積し、その蓄積した電荷を薄膜トランジスタ(thin film transistor:TFT)などの電気的スイッチを1画素ずつON・OFFすることにより読み取る方式(以下、TFT方式という)にも用いることができる。
【0051】
まず、前者の光読取方式に用いられる放射線撮像パネルを例にとって説明する。図1は本発明の製造方法により製造される光導電層を有する放射線撮像パネルの一実施の形態を示す断面図を示すものである。
【0052】
この放射線撮像パネル10は、後述する記録用の放射線L1に対して透過性を有する第1の導電層1、この導電層1を透過した放射線L1の照射を受けることにより導電性を呈する記録用放射線導電層2、導電層1に帯電される電荷(潜像極性電荷;例えば負電荷)に対しては略絶縁体として作用し、かつ、電荷と逆極性の電荷(輸送極性電荷;上述の例においては正電荷)に対しては略導電体として作用する電荷輸送層3、後述する読取用の読取光L2の照射を受けることにより導電性を呈する読取用光導電層4、読取光L2に対して透過性を有する第2の導電層5を、この順に積層してなるものである。
【0053】
ここで、導電層1および5としては、例えば、透明ガラス板上に導電性物質を一様に塗布したもの(ネサ皮膜等)が適当である。電荷輸送層3としては、導電層1に帯電される負電荷の移動度と、その逆極性となる正電荷の移動度の差が大きい程良く、ポリN−ビニルカルバゾール(PVK)、N,N'−ジフェニル−N,N'−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1'−ビフェニル〕−4,4'−ジアミン(TPD)やディスコティック液晶等の有機系化合物、或いはTPDのポリマー(ポリカーボネート、ポリスチレン、PVK)分散物,Clを10〜200ppmドープしたa−Se等の半導体物質が適当である。特に、有機系化合物(PVK,TPD、ディスコティック液晶等)は光不感性を有するため好ましく、また、誘電率が一般に小さいため電荷輸送層3と読取用光導電層4の容量が小さくなり読み取り時の信号取り出し効率を大きくすることができる。
【0054】
読取用光導電層4には、a−Se,Se−Te,Se−As−Te,無金属フタロシアニン,金属フタロシアニン,MgPc( Magnesium phtalocyanine),VoPc(phaseII of Vanadyl phthalocyanine),CuPc(Cupper phtalocyanine)等のうち少なくとも1つを主成分とする光導電性物質が好適である。
【0055】
記録用放射線導電層2には、本発明の製造方法によって製造される光導電層を使用する。すなわち、本発明の製造方法によって製造される光導電層は記録用放射線導電層である。
【0056】
続いて、静電潜像を読み取るために光を用いる方式について簡単に説明する。図2は放射線撮像パネル10を用いた記録読取システム(静電潜像記録装置と静電潜像読取装置を一体にしたもの)の概略構成図を示すものである。この記録読取システムは、放射線撮像パネル10、記録用照射手段90、電源50、電流検出手段70、読取用露光手段92並びに接続手段S1、S2とからなり、静電潜像記録装置部分は放射線撮像パネル10、電源50、記録用照射手段90、接続手段S1とからなり、静電潜像読取装置部分は放射線撮像パネル10、電流検出手段70、接続手段S2とからなる。
【0057】
放射線撮像パネル10の導電層1は接続手段S1を介して電源50の負極に接続されるとともに、接続手段S2の一端にも接続されている。接続手段S2の他端の一方は電流検出手段70に接続され、放射線撮像パネル10の導電層5、電源50の正極並びに接続手段S2の他端の他方は接地されている。電流検出手段70はオペアンプからなる検出アンプ70aと帰還抵抗70b とからなり、いわゆる電流電圧変換回路を構成している。
【0058】
導電層1の上面には被写体9が配設されており、被写体9は放射線L1に対して透過性を有する部分9aと透過性を有しない遮断部(遮光部)9bが存在する。記録用照射手段90は放射線L1を被写体9に一様に曝射するものであり、読取用露光手段92は赤外線レーザ光やLED、EL等の読取光L2を図3中の矢印方向へ走査露光するものであり、読取光L2は細径に収束されたビーム形状をしていることが望ましい。
【0059】
以下、上記構成の記録読取システムにおける静電潜像記録過程について電荷モデル(図3)を参照しながら説明する。図2において接続手段S2を開放状態(接地、電流検出手段70の何れにも接続させない)にして、接続手段S1をオンし導電層1と導電層5との間に電源50による直流電圧Edを印加し、電源50から負の電荷を導電層1に、正の電荷を導電層5に帯電させる(図3(A)参照)。これにより、放射線撮像パネル10には導電層1と5との間に平行な電場が形成される。
【0060】
次に記録用照射手段90から放射線L1を被写体9に向けて一様に曝射する。放射線L1は被写体9の透過部9aを透過し、さらに導電層1をも透過する。放射線導電層2はこの透過した放射線L1を受け導電性を呈するようになる。これは放射線L1の線量に応じて可変の抵抗値を示す可変抵抗器として作用することで理解され、抵抗値は放射線L1によって電子(負電荷)とホール(正電荷)の電荷対が生じることに依存し、被写体9を透過した放射線L1の線量が少なければ大きな抵抗値を示すものである(図3(B)参照)。なお、放射線L1によって生成される負電荷(−)および正電荷(+)を、図面上では−または+を○で囲んで表している。
【0061】
放射線導電層2中に生じた正電荷は放射線導電層2中を導電層1に向かって高速に移動し、導電層1と放射線導電層2との界面で導電層1に帯電している負電荷と電荷再結合して消滅する(図3(C),(D)を参照)。一方、放射線導電層2中に生じた負電荷は放射線導電層2中を電荷輸送層3に向かって移動する。電荷輸送層3は導電層1に帯電した電荷と同じ極性の電荷(本例では負電荷)に対して絶縁体として作用するものであるから、放射線導電層2中を移動してきた負電荷は放射線導電層2と電荷輸送層3との界面で停止し、この界面に蓄積されることになる(図3(C),(D)を参照)。蓄積される電荷量は放射線導電層2中に生じる負電荷の量、即ち、放射線L1の被写体9を透過した線量によって定まるものである。
【0062】
一方、放射線L1は被写体9の遮光部9bを透過しないから、放射線撮像パネル10の遮光部9bの下部にあたる部分は何ら変化を生じない( 図3(B)〜(D)を参照)。このようにして、被写体9に放射線L1を曝射することにより、被写体像に応じた電荷を放射線導電層2と電荷輸送層3との界面に蓄積することができるようになる。なお、この蓄積せしめられた電荷による被写体像を静電潜像という。
【0063】
次に静電潜像読取過程について電荷モデル(図4)を参照しつつ説明する。接続手段S1を開放し電源供給を停止すると共に、S2を一旦接地側に接続し、静電潜像が記録された放射線撮像パネル10の導電層1および5を同電位に帯電させて電荷の再配列を行った後に(図4(A)参照)、接続手段S2を電流検出手段70側に接続する。
【0064】
読取用露光手段92により読取光L2を放射線撮像パネル10の導電層5側に走査露光すると、読取光L2は導電層5を透過し、この透過した読取光L2が照射された光導電層4は走査露光に応じて導電性を呈するようになる。これは上記放射線導電層2が放射線L1の照射を受けて正負の電荷対が生じることにより導電性を呈するのと同様に、読取光L2の照射を受けて正負の電荷対が生じることに依存するものである(図4(B)参照)。なお、記録過程と同様に、読取光L2によって生成される負電荷(−)および正電荷(+)を、図面上では−または+を○で囲んで表している。
【0065】
電荷輸送層3は正電荷に対しては導電体として作用するものであるから、光導電層4に生じた正電荷は蓄積電荷に引きつけられるように電荷輸送層3の中を急速に移動し、放射線導電層2と電荷輸送層3との界面で蓄積電荷と電荷再結合をし消滅する(図4(C)参照)。一方、光導電層4に生じた負電荷は導電層5の正電荷と電荷再結合をし消滅する(図4(C)参照)。光導電層4は読取光L2により十分な光量でもって走査露光されており、放射線導電層2と電荷輸送層3との界面に蓄積されている蓄積電荷、即ち静電潜像が全て電荷再結合により消滅せしめられる。このように、放射線撮像パネル10に蓄積されていた電荷が消滅するということは、放射線撮像パネル10に電荷の移動による電流Iが流れたことを意味するものであり、この状態は放射線撮像パネル10を電流量が蓄積電荷量に依存する電流源で表した図4(D)のような等価回路でもって示すことができる。
【0066】
このように、読取光L2を走査露光しながら、放射線撮像パネル10から流れ出す電流を検出することにより、走査露光された各部(画素に対応する)の蓄積電荷量を順次読み取ることができ、これにより静電潜像を読み取ることができる。なお、本放射線検出部動作については特開2000-105297号等に記載されている。
【0067】
次に、後者のTFT方式の放射線撮像パネルについて説明する。この放射線撮像パネルは、図5に示すように放射線検出部100とアクティブマトリックスアレイ基板(以下AMA基板)200が接合された構造となっている。図6に示すように放射線検出部100は大きく分けて放射線入射側から順に、バイアス電圧印加用の共通電極103と、検出対象の放射線に感応して電子−正孔対であるキャリアを生成する光導電層104と、キャリア収集用の検出電極107とが積層形成された構成となっている。共通電極の上層には放射線検出部支持体102を有していてもよい。
【0068】
光導電層104は本発明の製造方法によって製造されるものである。共通電極103や検出電極107は、例えばITO(インジウム錫酸化物)や、AuあるいはPtなどの導電材料からなる。バイアス電圧の極性に応じて、正孔注入阻止層、電子注入阻止層が共通電極103や検出電極107に付設されていてもよい。
【0069】
AMA基板200の各部の構成について簡単に説明する。AMA基板200は図7に示すように、画素相当分の放射線検出部105の各々に対して電荷蓄積容量であるコンデンサ210とスイッチング素子としてTFT220とが各1個ずつ設けられている。支持体102においては、必要画素に応じて縦1000〜3000×横1000〜3000程度のマトリックス構成で画素相当分の放射線検出部105が2次元配列されており、また、AMA基板200においても、画素数と同じ数のコンデンサ210およびTFT220が、同様のマトリックス構成で2次元配列されている。光導電層で発生した電荷はコンデンサ210に蓄積され、光読取方式に対応して静電潜像となる。TFT方式においては、放射線で発生した静電潜像は電荷蓄積容量に保持される。
【0070】
AMA基板200におけるコンデンサ210およびTFT220の具体的構成は、図6に示す通りである。すなわち、AMA基板支持体230は絶縁体であり、その表面に形成されたコンデンサ210の接地側電極210aとTFT220のゲート電極220aの上に絶縁膜240を介してコンデンサ210の接続側電極210bとTFT220のソース電極220bおよびドレイン電極220cが積層形成されているのに加え、最表面側が保護用の絶縁膜250で覆われた状態となっている。また接続側電極210bとソース電極220bはひとつに繋がっており同時形成されている。コンデンサ210の容量絶縁膜およびTFT220のゲート絶縁膜の両方を構成している絶縁膜240としては、例えば、プラズマSiN膜が用いられる。このAMA基板200は、液晶表示用基板の作製に用いられるような薄膜形成技術や微細加工技術を用いて製造される。
【0071】
続いて放射線検出部100とAMA基板200の接合について説明する。検出電極107とコンデンサ210の接続側電極210bを位置合わせした状態で、両基板100、200を銀粒子などの導電性粒子を含み厚み方向のみに導電性を有する異方導電性フィルム(ACF)を間にして加熱・加圧接着して貼り合わせることで、両基板100、200が機械的に合体されると同時に、検出電極107と接続側電極210bが介在導体部140によって電気的に接続される。
【0072】
さらに、AMA基板200には、読み出し駆動回路260とゲート駆動回路270とが設けられている。読み出し駆動回路260は、図7に示すように、列が同一のTFT220のドレイン電極を結ぶ縦(Y)方向の読み出し配線(読み出しアドレス線)280に接続されており、ゲート駆動回路270は行が同一のTFT220のゲート電極を結ぶ横(X)方向の読み出し線(ゲートアドレス線)290に接続されている。なお、図示しないが、読み出し駆動回路260内では、1本の読み出し配線280に対してプリアンプ(電荷−電圧変換器)が1個それぞれ接続されている。このように、AMA基板200には、読み出し駆動回路260とゲート駆動回路270とが接続されている。ただし、AMA基板200内に読み出し駆動回路260とゲート駆動回路270とを一体成型し、集積化を図ったものも用いられる。
【0073】
なお、上述の放射線検出器100とAMA基板200とを接合合体させた放射線撮像装置による放射線検出動作については例えば特開平11-287862号などに記載されている。
以下に本発明の放射線撮像パネルを構成する光導電層の製造方法の実施例を示す。
【0074】
〔実施例I〕
本発明の放射線撮像パネルを構成する光導電層の第一の製造方法の実施例を示す。
【0075】
(実施例1)
5NのBi(NO33・5H2Oと6NのTi(O−iC374の混合メトキシエタノール溶液にNH3水溶液(28重量%)を添加してBi12TiO20前駆体を得た。得られたBi12SiO20前駆体を一軸プレス(10MPa〜140MPa)で成型し、その後CIP成型(200〜700MPa)を行った。これを大気中800℃で2時間、Arフロー条件で焼成してBi12SiO20焼成膜を形成した。このBi12TiO20焼成膜をITO基板に銀ペーストで貼り付けて、最後にBi12TiO20焼成膜上に上部電極としてAuを60nmの厚さでスパッタし、Bi12SiO20焼成膜からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルを完成させた。
【0076】
(実施例2)
実施例1で使用したTi(O−iC374の替わりにSi(O−C254を用いた以外は実施例1と同様の手順で、Bi12SiO20焼成膜からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルを完成させた。
【0077】
(実施例3)
実施例1で使用したTi(O−iC374の替わりにGe(O−C254を用いた以外は実施例1と同様の手順で、Bi12GeO20焼成膜からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルを完成させた。
【0078】
(実施例4)
実施例1において、一軸プレス(10MPa〜140MPa)のみで成型し、CIP成型を行わなかった以外は同じようにして光導電層を備えた放射線撮像パネルを完成させた。
【0079】
(比較例1)
Bi23粉末とTiO2粉末を混合し、800℃で焼成して得られたBi12TiO20粉末を42MPaで一軸プレス成形を行い、この成形体を800℃で2時間、Arフロー条件で焼結させた。この焼結膜をITO基板に銀ペーストで貼り付けた。最後に、Bi12TiO20焼結膜上に上部電極としてAuを60nmの厚さでスパッタし、Bi12TiO20膜からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルを完成させた。
【0080】
(比較例2)
比較例1で使用したTiO2粉末の替わりにSiO2粉末を用いた以外は比較例1と同様の手順で、Bi12SiO20膜からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルを完成させた。
【0081】
(比較例3)
比較例1で使用したTiO2粉末の替わりにGeO2粉末を用いた以外は比較例1と同様の手順で、Bi12GeO20膜からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルを完成させた。
【0082】
(評価方法および評価結果)
実施例1〜4および比較例1〜3の放射線撮像パネルに対し、電圧2.5V/μmの条件で10mRのX線を0.1秒間照射し、電圧を印加した条件で生じたパルス上の光電流を電流増幅器で電圧に変換し、デジタルオシロスコープで測定した。得られた電流・時間カーブより、X線照射時間の範囲において積分し、発生荷電量として測定したところ、実施例1〜3の放射線撮像パネルの光導電層はそれぞれ、比較例1〜3の放射線撮像パネルの光導電層に比較して膜厚200μm換算で1.8倍高い値を示した。なお、実施例4は成形においてCIP成形を行わなかったものであるが、この場合には比較例1よりも1.2倍高い値を示した。
【0083】
以上のように、本発明の放射線撮像パネルを構成する光導電層の第一の製造方法は、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体を得、得られたBi12MO20前駆体を成形し、この成形したBi12MO20前駆体を焼成して光導電層を製造するので、従来の固相法により製造する場合に比較して得られる粉体の粒径をサブμmサイズと小さくすることができ、光導電層のBi12MO20の充填率を高くすることが可能であるため、固相法よりも感度を高くすることが可能となる。このため、発生電荷の捕集効果が高まり、電気ノイズが小さくなるため、画像の粒状性を改善することが可能となり、感度の高い光導電層を得ることができる。
【0084】
〔実施例II〕
本発明の放射線撮像パネルを構成する光導電層の第二の製造方法の実施例を示す。
【0085】
(実施例1)
5NのBi(NO33・5H2Oと6NのTi(O−iC374の混合メトキシエタノール溶液にNH3水溶液(28重量%)を添加しBi12TiO20前駆体を得、このBi12TiO20前駆体をNH3水溶液(28重量%)中、PARR社製耐圧容器(Parr Acid Digestion Bombs )を用いて200℃で水熱処理することにより、Bi12TiO20の粉体を得た。このBi12TiO20粉体を42MPaで一軸プレス成形を行い、この成形体を800℃で2時間、Arフロー条件で焼結させた。この焼結膜をITO基板に銀ペーストで貼り付けた。最後に、Bi12TiO20焼結膜上に上部電極としてAuを60nmの厚さでスパッタし、Bi12TiO20膜からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルを完成させた。
【0086】
(実施例2)
実施例1で使用したTi(O−iC374の替わりにSi(O−C254を用い、液相加熱温度を100℃とした以外は実施例1と同様の手順で、Bi12SiO20膜からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルを完成させた。
【0087】
(実施例3)
実施例1で使用したTi(O−iC374の替わりにGe(O−C254を用いた以外は実施例2と同様の手順で、Bi12GeO20膜からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルを完成させた。
【0088】
(比較例1)
Bi23粉末とTiO2粉末を混合し、800℃で焼成して得られたBi12TiO20粉末を42MPaで一軸プレス成形を行い、この成形体を800℃で2時間、Arフロー条件で焼結させた。この焼結膜をITO基板に銀ペーストで貼り付けた。最後に、Bi12TiO20焼結膜上に上部電極としてAuを60nmの厚さでスパッタし、Bi12TiO20膜からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルを完成させた。
【0089】
(比較例2)
比較例1で使用したTiO2粉末の替わりにSiO2粉末を用いた以外は比較例1と同様の手順で、Bi12SiO20膜からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルを完成させた。
【0090】
(比較例3)
比較例1で使用したTiO2粉末の替わりにGeO2粉末を用いた以外は比較例1と同様の手順で、Bi12GeO20膜からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルを完成させた。
【0091】
(評価方法および評価結果)
実施例1で得られたBi12TiO20の粉体(液相法)と比較例1で得られたBi12TiO20の粉体(固相法)の反射スペクトルを図8に示す。実線が実施例1で得られたBi12TiO20の粉体、点線が比較例1で得られたBi12TiO20の粉体の反射スペクトルである。これより実施例1で得られたBi12TiO20の粉体の方が反射率が高いことがわかる。実施例1で得られたBi12TiO20の粉体と比較例1で得られたBi12TiO20の粉体は物質としては同じBi12TiO20であるから、この反射率の相違は結晶欠陥の差によるものであり、結晶欠陥が少ないほうが反射率は高くなるから、実施例1で得られたBi12TiO20の粉体の方が結晶欠陥が少ないことがわかる。
【0092】
次に、実施例1〜3および比較例1〜3で製造した放射線撮像パネルに対し、電圧2.5V/μmの条件で10mRのX線を0.1秒間照射し、電圧を印加した条件で生じたパルス上の光電流を電流増幅器で電圧に変換し、デジタルオシロスコープで測定した。得られた電流・時間カーブより、X線照射時間の範囲において積分し、発生荷電量として測定したところ、実施例1〜3の放射線撮像パネルの光導電層はそれぞれ、比較例1〜3の放射線撮像パネルの光導電層に比較して膜厚200μm換算で1.5倍高い値を示した。
【0093】
以上のように、本発明の放射線撮像パネルを構成する光導電層の第二の製造方法は、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体を得、このBi12MO20前駆体をアルカリ性の液相で加熱して粉体とし、この粉体を用いて光導電層を製造するので、発生電荷の捕集効果が高まり、電気ノイズが小さくなるため、画像の粒状性を改善することが可能となり、固相法に比較して感度の高い光導電層を得ることが可能となる。
【0094】
〔実施例III〕
本発明の放射線撮像パネルを構成する光導電層の第三の製造方法の実施例を示す。
【0095】
(実施例1)
5NのBi(NO33・5H2Oと6NのTi(O−iC374の混合メトキシエタノール溶液にNH3水溶液(28重量%)を添加してBi12TiO20前駆体を得、その後、これを大気中700℃で2時間焼成して、結晶化したBi12TiO20の粉体を得た。このBi12TiO20粉体を42MPaで一軸プレス成形を行い、この成形体を800℃で2時間、Arフロー条件で焼結させた。この焼結膜をITO基板に銀ペーストで貼り付けた。最後に、Bi12TiO20焼結膜上に上部電極としてAuを60nmの厚さでスパッタし、Bi12TiO20膜からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルを完成させた。
【0096】
(実施例2)
実施例1で使用したTi(O−iC374の替わりにSi(O−C254を用いた以外は実施例1と同様の手順で、Bi12SiO20膜からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルを完成させた。
【0097】
(実施例3)
実施例1で使用したTi(O−iC374の替わりにGe(O−C254を用いた以外は実施例1と同様の手順で、Bi12GeO20膜からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルを完成させた。
【0098】
(比較例1)
Bi23粉末とTiO2粉末を混合し、800℃で焼成して得られたBi12TiO20粉末を42MPaで一軸プレス成形を行い、この成形体を800℃で2時間、Arフロー条件で焼結させた。この焼結膜をITO基板に銀ペーストで貼り付けた。最後に、Bi12TiO20焼結膜上に上部電極としてAuを60nmの厚さでスパッタし、Bi12TiO20膜からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルを完成させた。
【0099】
(比較例2)
比較例1で使用したTiO2粉末の替わりにSiO2粉末を用いた以外は比較例1と同様の手順で、Bi12SiO20膜からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルを完成させた。
【0100】
(比較例3)
比較例1で使用したTiO2粉末の替わりにGeO2粉末を用いた以外は比較例1と同様の手順で、Bi12GeO20膜からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルを完成させた。
【0101】
(評価方法および評価結果)
実施例1で得られたBi12TiO20の粉体(液相法)と比較例1で得られたBi12TiO20の粉体(固相法)の反射スペクトルを図9に示す。実線が実施例1で得られたBi12TiO20の粉体、点線が比較例1で得られたBi12TiO20の粉体の反射スペクトルである。これより実施例1で得られたBi12TiO20の粉体の方が反射率が高いことがわかる。実施例1で得られたBi12TiO20の粉体と比較例1で得られたBi12TiO20の粉体は物質としては同じBi12TiO20であるから、この反射率の相違は結晶欠陥の差によるものであり、結晶欠陥が少ないほうが反射率は高くなるから、実施例1で得られたBi12TiO20の粉体の方が結晶欠陥が少ないことがわかる。
【0102】
次に、実施例1〜3および比較例1〜3で製造した放射線撮像パネルに対し、電圧2.5V/μmの条件で10mRのX線を0.1秒間照射し、電圧を印加した条件で生じたパルス上の光電流を電流増幅器で電圧に変換し、デジタルオシロスコープで測定した。得られた電流・時間カーブより、X線照射時間の範囲において積分し、発生荷電量として測定したところ、実施例1〜3の放射線撮像パネルの光導電層はそれぞれ、比較例1〜3の放射線撮像パネルの光導電層に比較して膜厚200μm換算で1.2倍高い値を示した。
【0103】
以上のように、本発明の放射線撮像パネルを構成する光導電層の第三の製造方法は、ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体を得、このBi12MO20前駆体を焼成して粉体とし、この粉体を用いて光導電層を製造するので、発生電荷の捕集効果が高まり、電気ノイズが小さくなるため、画像の粒状性を改善することが可能となり、感度の高い光導電層を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の製造方法により製造される光導電層を有する放射線撮像パネルの一実施の形態を示す断面図
【図2】放射線撮像パネルを用いた記録読取システムの概略構成図
【図3】記録読取システムにおける静電潜像記録過程を電荷モデルにより示した図
【図4】記録読取システムにおける静電潜像読取過程を電荷モデルにより示した図
【図5】放射線検出器とAMA基板の合体状態を示す概略模式図
【図6】AMA基板の等価回路を示す電気回路図
【図7】放射線検出部の画素分を示す概略断面図
【図8】光導電層の第二の製造方法における実施例1および比較例1で得られたBi12TiO20の粉体の反射スペクトルを示す図
【図9】光導電層の第三の製造方法における実施例1および比較例1で得られたBi12TiO20の粉体の反射スペクトルを示す図
【符号の説明】
【0105】
1 導電層
2 記録用放射線導電層
3 電荷輸送層
4 読取用光導電層
5 導電層
10 放射線撮像パネル
70 電流検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体(ただし、MはGe,Si,Ti中の少なくとも1種である。)を得ることを特徴とするBi12MO20前駆体の製造方法。
【請求項2】
前記ビスマス塩が硝酸ビスマスまたは酢酸ビスマスであることを特徴とする請求項1記載のBi12MO20前駆体の製造方法。
【請求項3】
放射線画像情報を静電潜像として記録する放射線撮像パネルを構成する光導電層の製造方法であって、請求項1または2記載の製造方法によって得られたBi12MO20前駆体を成形し、該成形したBi12MO20前駆体を焼成して前記光導電層を製造することを特徴とする光導電層の製造方法。
【請求項4】
前記Bi12MO20前駆体の成形をCIP法により行うことを特徴とする請求項3記載の光導電層の製造方法。
【請求項5】
前記成形時の圧力が100MPa〜700MPaであることを特徴とする請求項4記載の光導電層の製造方法。
【請求項6】
ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体(ただし、MはGe,Si,Ti中の少なくとも1種である。)を得、該Bi12MO20前駆体をアルカリ性の液相で加熱して粉体を得ることを特徴とするBi12MO20粉体の製造方法。
【請求項7】
前記液相加熱が水熱処理であることを特徴とする請求項6記載のBi12MO20粉体の製造方法。
【請求項8】
前記液相加熱の温度が50〜250℃であることを特徴とする請求項6記載のBi12MO20粉体の製造方法。
【請求項9】
前記ビスマス塩が硝酸ビスマスまたは酢酸ビスマスであることを特徴とする請求項6,7,8記載のBi12MO20粉体の製造方法。
【請求項10】
放射線画像情報を静電潜像として記録する放射線撮像パネルを構成する光導電層の製造方法であって、請求項6〜9いずれか1項記載の製造方法によって得られた粉体を用いて前記光導電層を製造することを特徴とする光導電層の製造方法。
【請求項11】
ビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体(ただし、MはGe,Si,Ti中の少なくとも1種である。)を得、該Bi12MO20前駆体を焼成して粉体を得ることを特徴とするBi12MO20粉体の製造方法。
【請求項12】
前記ビスマス塩が硝酸ビスマスまたは酢酸ビスマスであることを特徴とする請求項11記載のBi12MO20粉体の製造方法。
【請求項13】
放射線画像情報を静電潜像として記録する放射線撮像パネルを構成する光導電層の製造方法であって、請求項11または12記載の製造方法によって得られた粉体を用いて前記光導電層を製造することを特徴とする光導電層の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−96657(P2006−96657A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−255032(P2005−255032)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【復代理人】
【識別番号】100111040
【弁理士】
【氏名又は名称】渋谷 淑子
【Fターム(参考)】