説明

BiSrCaCuO(BSCCO)系の改良された高温超伝導材料とそのための出発組成物

【課題】溶融キャステング技術により得られ、クラックが改良され、曲がりの少ない、臨界電流の均一性が改良され、そして好ましくは臨界電流が増加するBiSrCaCuO系の高温超伝導体を提供する。
【解決手段】溶融キャストBiSrCaCuO−タイプの高温超伝導材料であって、超伝導相内のSr割合の一部がBaで置換されていることを特徴とするBiSrCaCuO−系の高温超伝導材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスマス−ストロンチウム−カルシウム−銅―酸化物系の改良された溶融キャスト高温超伝導材料、そのための出発組成物、及び遠心溶融キャスティング技術におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導体の種類の中に、結晶単位格子において多くの銅酸化物層の異なるいくつかの超伝導相が存在する。この系の超伝導相の組成は、一般に理想式BiSrCan−1Cuで表される。ここでnは、銅酸化物層の数を示す。技術的な適用のために、最も興味深い相は、n=2とn=3を有するものであり、それぞれおよその臨界温度が85KであるBiSrCaCuO(BSCCO)−2212(また「Bi-2221」とも称される)と、およその臨界温度が110KであるBSCCO−2223(また「Bi-2223」とも称される)について言及されている。
【0003】
これらの相の単位格子は、銅酸化物シートの層構造を有するプロブスカイトのようなSrCan−1Cu1−2n単位が交互に存在するBiO二重層からなる層構造を有する。
一般に、これらの相のいくつかの金属原子は、少なくとも部分的に、1又はそれ以上他の個々の元素により置換されうる。例えば、Biを部分的にPbで置換することがよく知られている。特に、BiのPb置換は、2223相の場合の性質を改良する。更に、カルシウムとストロンチウムは互いに置換できる。
【0004】
一般に、BSCCO−系の高温超伝導体とその製造法は、当該技術分野で知られており、多くの学術論文がこれらの超伝導体の発見と、適切な出発組成物と熱処理を含む新しい方法の開発に関して発表されている。例えば、適切な方法の要約は、「超伝導体、科学と技術」(Superconductor, Science and Technology)“銅酸化物超伝導体の合成”6巻、1号 1月1993年 p1−22、及びWO00/08657に明示的に言及されている。
例えば、いわゆるセラミックルートでは、それぞれの金属酸化膜、炭酸塩あるいは他の塩類のような出発物質の重量の粉状混合物は、所望の予定組成物を与えるように形成、また、混合物は均質化され、所望の超伝導体を得るために適切な熱処理にさらされる。
【0005】
熱処理については、出発混合物は、約700〜900℃の温度で約2〜200時間、か焼することができる。か焼された混合物は、その後粉砕され、所望の形に変更され、そして約800〜1100℃の温度で半溶融状態又は完全溶融状態で焼結される。高品質超伝導材料を得るために、か焼、焼結そして任意に後アニーリングのような焼成工程を実施することが好ましく、これらの操作は一度の焼結操作又は場合によっては繰り返しのサブ工程で行われる。適切なBSCCO−ベースの合成物およびその生産方法の例は、EP−B−0330305及びEP−A−0327044で明確に言及されている。
【0006】
溶解キャステングプロセスによって所望の超伝導体を生産できることは知られている。溶解キャステングプロセスのために、粉状の出発混合物を溶融し、溶融物を型に注ぎ、その中でゆっくりと凝固する。凝固された成形体は、型から取り除かれ、最終の超伝導体を得るために例えば大気を含む酸素中で700〜900℃の温度で熱処理を行う。溶解キャステングプロセスの原理は、DE−A−3830092で明らかに言及されている。これによって、棒、プレートのような固体材料の部品を得ることができる。
【0007】
成形可能性の拡大は、セラミック溶融の遠心鋳造(キャステング)により方向ずけられている。この技術の原理は、DE−A−4019368に明確に言及されている。
この技術は、特にチューブ形状と環状形状の超伝導体に適している。遠心キャステングにおいて、予め決定した化学量論量を有する溶融状態の出発混合物は、回転キャステングゾーン(例えばその水平軸について回転するキャステング)中で900℃から1100℃の温度で操作される。
凝固された成形体は、キャステングゾーンから取り出され、大気を含む酸素中で約700から900℃で約4〜150時間の間熱処理にさらされる。
【0008】
更に、SrSO及び/又はBaSOのような、高融点のアルカリ土類硫酸塩とBSCCO−超伝導体用の粉状出発混合物を混合することは知られている。硫酸塩は、20重量%以下、BaSOの場合には好ましくは唯一約10重量%以下とする。
このようなアルカリ土類硫酸塩を混合することにより得られる超伝導体は、EP−A−0524442とEP−A−0573798で明らかに言及されている。
【0009】
熱分析による研究では、アルカリ土類金属硫酸塩が出発混合物、例えば共融物の形成を伴う、ビスマス、ストロンチウム、カルシウム、銅、そして任意には鉛の酸化物と溶融することを示している。硫酸バリウムおよび硫酸ストロンチウムの融点は、特に相当に高く、それぞれ1580℃および1600℃である。
セラモグラフィカルな研究および走査電子顕微鏡で得られた写真は、硫酸ストロンチウムおよび硫酸バリウムの析出が高温超伝導材料中に存在することを示す。
アルカリ土類元素の超伝導相の単位格子結晶構造への挿入、特に単位格子結晶構造の元素のアルカリ土類元素による置換は、観察されていない。
【0010】
U.P. Trociewitz等著「ミクロ構造体へのBaO添加の影響及びBiSrCaCu8+δの超伝導体性質」Physica C000 2001年 p1−13において、BaOは出発混合物と混合され、そしてセラミックルートで処理される。得られた超伝導体において、Bi−2212におけるテクスチャの開発でBaOの添加の影響が観察された。しかしながら、再び、単位格子の元素はBaで置換されないことが報告された。代わりに、BaOが新しい第2の相の形成の基で反応したことが観察された。
SrSOを出発混合物へ添加して共に溶融することは、溶融キャストBSCCO2212の割れのリスクを減少できることが報告された(Elschner等著、「超伝導体において溶融キャスト処理されたBiSrCaCuにおける粒度が臨界電流密度に及ぼす影響」Sci. Technol. 6巻 1993年 413−120)。
【0011】
Tomochi Kawai等著の「Baの添加がBi-Pb-Sr-Ca-Cu-O超導電体の性質の及ぼす影響」Japanese Journal of Applied Physics, 27巻 12号 1998年 L2296
−L2299 において、BaCOは、Bi23、PbO、SrCO3、CaCO3およびCuOからなる粉状の出発混合物に添加され焼結により、すなわち、セラミックルートにより、それぞれ超伝導体に処理された。Ba添加の特有の影響は、高いTc−相の生成を伴うBaBiOとBaCuOの生成に伴い、BSCCO超伝導体の低いTc−相の分解となることが、述べられている。すなわち、Baの単位格子の結晶構造への挿入か置換ではなく第2の相の形成が観察されている。
【0012】
WO97/49118は、固相反応により得られるBSCCO物質を教示していて、ここでBiは、Pb、Hg、Re、Osのような高原子価の原子により部分的に置換され、またSrは、Ba又は大きなランタニド希土類元素により置換されうる。この発表によると、置換のために、BSCCO構造内でBi-O層の酸素取得(up-take)が高まると、臨界電流密度が増加することになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述したように、円筒状のチューブ、棒、環状体のような本質的に円形の断面を有する超伝導体は、遠心溶融キャステングプロセスにより有利に生産することができる。
しかしながら、先行技術の追試によりSrSOの存在に関係ない、出発物質を遠心溶融キャステングすることにより得られるチューブ状の超伝導構成材に関しては、電流を遮断するクラックが観察される。
更に、得られた溶融キャストで成形された超伝導組成物は、アニーリングの間に曲がりやすい、このことは、薄いチューブおよび棒その他のような薄い物体を処理するときに特に問題となる。これらの悪影響により、超伝導物臨界電流の均一性は、相当程度変わり、そして超伝導物質の機能性を低下させる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、新規なBSCCO系の高温超伝導体を提供することにあり、これは、溶融キャステング技術、特に遠心溶融キャステング技術により得られ、クラックが改良され、曲がりの少ない、臨界電流の均一性が改良され、そして好ましくは臨界電流が増加する。
さらに本発明の目的は、遠心溶融キャステングプロセスに特に適する改良された出発組成物を提供することにあり、これはこのような出発物質を遠心溶融キャステングプロセスに使用可能であると共に、優れた臨界電流の均一性と臨界電流を有する薄い超伝導体を製造することが可能となる。
【0015】
本発明は、BiSrCaCuOを基礎とした高温超伝導材料に関する、ここで、超伝導相又は複数の超伝導相のSrの一部は、Baによって置換されている。
更に、本発明は、本発明のBSCCO−タイプの高温超伝導材料用の出発組成物に関する、これは、所望の最終組成物を得るために適切な混合比にあるそれぞれの金属元素の出発物の混合物である。
更に、本発明は、遠心溶融キャステングプロセスに使用する、所望のBSCCO−タイプの高温超伝導材料用を得るのに適切な割合にあるそれぞれの金属元素の出発化合物の混合物からなる出発組成物に関する、ここで、超伝導相のストロンチウムの一部は、Baにより置換されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明によると、BSCCO−タイプの高温超伝導材料において、超伝導相内のSrの一部は、Baにより置換されている。好ましい置換を行うためには、反応性の出発材料は、Ba化合物から選択される。適切な反応性の出発材料は、例えば、バリウムの酸化物、水酸化物、炭酸塩、水和物、及びシュウ酸塩であり、酸化バリウムが好ましい。
これらの化合物は、安定な化合物である硫酸バリウムと比較すると明らかに反応性がある。硫酸バリウムを好ましいBSCCO−タイプの高温超伝導材料の出発組成物に添加すると、超伝導相内のSrのBa置換は観察されない、これは硫酸バリウムの不活性によるもの考えられ、そして本発明の有利な効果は得られない。
【0017】
更に、本発明によれば、出発組成物が所望の最終の高温組成物を形成するのに適切な比率にあるそれぞれの金属元素に対応する出発化合物を既に有しているときは、バリウム化合物は出発組成物に別途添加されないで、出発組成物内でSrに対し出発組成物の適切な割合の一部を置換する。
すなわち、BSCCO−タイプの所望の最終高温超伝導材料の成分に適合するように、出発組成物は、より少ないSr出発材料とし、そして実際のSr存在割合と必要とされる成分の差はBa出発材料により調整される。
【0018】
本発明において、BSCCO−系の好ましい高温超伝導材料は、BSCCO−2233とBSCCO−2212であり、BSCCO−2212が特に好ましい。更に、本発明において、特に好ましいのは、Biの一部がPbで置換されているこれらのBSCCO超伝導体である。本発明のシステムの高温超伝導体は、単相又は多相材料である。
本発明による高温超伝導材料は、硫酸ストロンチウムを0.1〜30重量%、好ましくは3〜10重量%含めること、及び/又は硫酸バリウムを0.1〜20重量%、好ましくは3〜10重量%含める方向に更に発展しうる。
このケースでは、好ましい硫酸ストロンチウム及び/又は硫酸バリウムの量は、本発明の出発物質に添加されるが、この場合には所望の高温超伝導体の生成に必要なストロンチウムに対する出発化合物の一部はバリウム出発物質で置換えられる。
【0019】
本発明は、遠心溶融キャステングプロセスによりBSCCO−系の高温超伝導体を得るに特に適している。遠心溶融キャステングプロセスにおいて、粉状出発組成物は溶融され、この溶融物は型へ注がれ、回転している型の上で凝固させる。凝固後、得られた成形体は、型から取り出され、適切な熱処理により成形体材料を所望の超伝導材料に変化させる。
【0020】
好ましくは、本プロセスは、溶融物は水平に調節され、その縦軸について回転する型に注がれる;更に熱処理のために得られた成形体は250〜350℃/hの昇温速度で700℃まで迅速に加熱される、そして前記温度から更に5〜20℃/hでゆっくり加熱される;熱処理は空気と窒素の容積比が1:1の大気圧下で行われる;必要に応じて熱処理は純粋な酸素雰囲気で行われる。
【0021】
Srの一部をBaで置換すると同様に、BSCCO−系の高温超伝導材料のこれらの2つのそれぞれの金属元素に対する好ましい出発化合物は、金属酸化物、水酸化物、炭酸塩、水和物、シュウ酸塩、又は他の反応性前駆物質であり、金属酸化物が好ましい。出発化合物は、湿式又は乾式混合、溶液からの物質の共沈、又は反応性粒子の親和性の高い混合物が得られる他のいかなる方法でも製造される。
【0022】
本発明によると、好ましいBSCCO−系の高温超伝導材料において、Baで置換されるSrの割合は、好ましくは5%を越え、50%未満である。
本発明の好ましい態様によると、BSCCO−系の高温超伝導材料は、Bi2.2−xSr2−yBaCa1−zCu8+d(ここで、0≦x<0.4、0.05<y<0.5、そして0<z<0.2である)の組成式を有する。
更に、Biは、22重量%の割合までPbで置換することができる。
【0023】
例えば、本発明の高温超伝導材料を得るために、上記式の所望の最終高温超伝導材料を得るのに適切な混合比における金属酸化物の適切な出発組成物は、遠心溶融キャステング技術、例えば水平遠心溶融キャステングプロセスにより処理される。
【0024】
得られる最終の超伝導成形体は、無置換の超伝導材料すなわち原理的に本発明の超伝導材料と同じ組成を有するがSr含有量が本発明のSrと置換材料のBaの含有量合計に等しい材料に相当するものよりも、著しく割れが改良され、かつアニーリングにおいて曲げが生じずらくなる改良性能を有する。
【0025】
更に、臨界電流の均一性は、無置換の超伝導材料に相当するよりもバラツキで約30%改良され、5%以下の値になる。更に臨界電流自体20%まで増加する。
本発明の出発組成物を遠心溶融キャステングプロセスに適用することにより、直径が5mmで長さが約300mmであるアニーリング中に曲げの生じない棒状チューブのような筒状に成形された超伝導体を製造することが可能である。
【0026】
本発明は、特にチューブ状又は環状の成形体、例えば棒、チューブ等のような本質的に円形断面構造を有する成形体を得るのに特に有用である。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融キャストBiSrCaCuO(BSCCO)−タイプの高温超伝導材料であって、超伝導相内のSr割合の一部がBaで置換されていることを特徴とするBiSrCaCuO−系の高温超伝導材料。
【請求項2】
Baで置換されたSr割合が原子比で0.05を超え、0.50未満であることを特徴とする請求項1に記載の高温超伝導材料。
【請求項3】
高温超伝導材料が遠心溶融キャストプロセスにより得られた成形体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高温超伝導材料。
【請求項4】
組成式がBi2.2−xSr2−yBaCa1−zCu2O8+d(ここで、0≦x<0.4、0.05<y<0.5、そして0<z<0.2である)であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の高温超伝導材料。
【請求項5】
Bi割合の一部がPbで置換されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の高温超伝導材料。
【請求項6】
高温超伝導材料において、円形の横断面を有する成形体であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の高温超伝導材料。
【請求項7】
成形体が棒又はチューブであることを特徴とする請求項6に記載の高温超伝導材料。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載のBiSrCaCuO−系の高温超伝導材料の製造用の出発組成物であって、該出発組成物が適切な比率にある高温超伝導材料の金属元素の出発化合物の混合物において、それぞれ非置換高温超伝導材料に必要である出発化合物のSrの一部が出発化合物のBaで置換されていることを特徴とする、BiSrCaCuO−系の高温超伝導材料製造用の出発組成物。
【請求項9】
出発化合物のSrが出発化合物のBaで置換された割合が、原子比で0.05を超え、0.50未満であることを特徴とする、請求項8に記載の出発組成物。
【請求項10】
混合物中の金属元素の化学量論比が式Bi2.2−xSr2−yBaCa1−zCu8+d(ここで、0≦x<0.4、0.05<y<0.5、そして0<z<0.2である)を満たすことを特徴とする、請求項8又は9に記載の出発組成物。
【請求項11】
出発材料のBiの一部が出発材料のPbで原子比で22以下に相当する割合で置換されていることを特徴とする請求項8ないし10のいずれか1項に記載の出発組成物。
【請求項12】
遠心溶融キャスティングプロセスに使用する、請求項8ないし10のいずれか1項記載の出発組成物。
【請求項13】
水平遠心溶融キャスティングプロセスに使用する、請求項8ないし10のいずれか1項記載の出発組成物。
【請求項14】
BSCCO−2223又はBSCCO−2212に基づく高温超伝導材料の製造に使用する、請求項12又は13に記載の出発組成物。


【公開番号】特開2006−151794(P2006−151794A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−303965(P2005−303965)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(501044725)ネクサン (81)
【Fターム(参考)】