説明

C型肝炎に対するペグインターフェロン・リバビリン併用療法の治療効果の予測方法およびそれに用いられる予測キット

【課題】C型肝炎に対するペグインターフェロン・リバビリン併用療法の治療効果の予測方法を提供すること。
【解決手段】C型肝炎の患者の血清中のC3f分解産物の量を指標として、その患者に対するペグインターフェロン・リバビリン併用療法の治療効果を予測する。患者の血清中のC3f分解産物の量を測定し、C3f分解産物が所定の値より多いとき、その患者にはペグインターフェロン・リバビリン併用療法が有効である可能性が高いと判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C型肝炎に対するペグインターフェロン・リバビリン併用療法の治療効果の予測方法およびそれに用いられる予測キットに関する。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎は、C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus;以下「HCV」と略記する)の感染により発症するウイルス性肝炎の一種である。HCVに感染すると、多くの場合は慢性肝炎状態となり、この状態を放置しておくと肝硬変、肝細胞癌へと進行することもある。現在、HCVの感染者は、日本に約200万人存在し、世界に2億人存在すると推定されている。
【0003】
現在、C型肝炎に対する治療方法として最も一般的なものが、ペグインターフェロン・リバビリン併用療法(以下「PEG−IFN/RBV療法」と略記する)である(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、PEG−IFN/RBV療法の有効例は約6割であり、残りの4割が無効例または再燃例である。
【0004】
PEG−IFN/RBV療法では、ほぼ全例において発熱などの副作用が生じるため、無効例または再燃例となる患者に対してPEG−IFN/RBV療法を実施することは好ましくない。したがって、PEG−IFN/RBV療法を実施する前に、PEG−IFN/RBV療法の治療効果を予測できる検査方法の開発が望まれている。これまで、PEG−IFN/RBV療法の治療効果の予測マーカーとしては、1)ウイルスの量やアミノ酸変異などのウイルス因子、2)PEG−IFN/RBVの投与量などの薬剤因子、3)患者の年齢や性別、肝線維化進展度、インシュリン抵抗性などの宿主因子などが報告されている。しかしながら、これらの因子による治療効果の予測方法は、感度および特異度が低く、確立されたものとはいえない。
【0005】
一方、ヒトの血液中には、補体と総称されるタンパク質群が存在する。補体は、C1〜C9の9つの補体成分(タンパク質)を含み、成体防御に寄与する。9つの補体成分の中でも補体成分C3は、補体系の活性化を担う重要なタンパク質である。C3は、補体系を活性化する過程で分解され、様々な種類の分解産物を生成する。C3の分解産物の一つとして、17残基のアミノ酸からなる補体成分C3fが挙げられる。このC3fも、さらに分解されて新たな分解産物を生成しうることが知られている。近年、血清中の特定のC3f分解産物の増減が、特定の疾患のバイオマーカーとなりうることが報告されている(例えば、非特許文献2〜5参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】McHutchison JG, Gordon SC, Schiff ER, Shiffman ML, Lee WM, Rustgi VK, Goodman ZD, Ling MH, CortS and Albrecht JK, "Interferon alfa-2b alone or in combination with ribavirin as Initial treatment for chronic hepatitis C", N. Engl. J. Med., Vol.339, pp.1485-1492.
【非特許文献2】Lin XL, Yang SY, Du J, Tian YX, Bu LN, Huo SF, Wang FP and Nan YD., "Detection of lung adenocarcinoma using magnetic beads based matrix-assisted laser desorption/ionization time-of-flight mass spectrometry serum protein profiling", Chin. Med. J., Vol.123, No.1, pp.34-39.
【非特許文献3】Kaneshiro N, Xiang Y, Nagai K, Kurokawa MS, Okamoto K, Arito M, MasukoK, Yudoh K, Yasuda T, SuematsuN, Kimura K and Kato T., "Comprehensive analysis of short peptides in sera from patients with IgA nephropathy", Rapid Commun. Mass Spectrom., Vol.23, pp.3720-3728.
【非特許文献4】Liang T, Wang N, Li W, Li A, Wang J, Cui J, Liu N, Li Y, Li L, Yang G, DuZ, Li D, He K and Wang G., "Identification of complement C3f-desArg and its derivative for acute leukemia diagnosis and minimal residual disease assessment", Proteomics, Vol.10, No.1, pp.90-98.
【非特許文献5】Xiang Y, Matsui T, Matsuo K, Shimada K, Tohma S, Nakamura H, Masuko K, Yudoh K, Nishioka K and Kato T., "Comprehensive investigation of disease-specific short peptides in sera from patients with systemic sclerosis: complement C3f-des-arginine, detected predominantly in systemic sclerosis sera, enhances proliferation of vascular endothelial cells", Arthritis Rheum., Vol.56, No.6, pp.2018-2030.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在までに、PEG−IFN/RBV療法の治療効果を予測する検査方法は確立されていない。したがって、その患者に対してPEG−IFN/RBV療法が有効であるかどうかが不明である状態で、PEG−IFN/RBV療法を実施せざるを得ない。上述の通り、PEG−IFN/RBV療法では、ほぼ全例において発熱などの副作用が生じるため、無効例または再燃例となる患者に対してPEG−IFN/RBV療法を実施することは好ましくない。以上の点から、現在、C型肝炎の患者に対してPEG−IFN/RBV療法が有効であるかどうかを、治療前に予測する方法を確立することが強く望まれている。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、C型肝炎に対するPEG−IFN/RBV療法の治療効果の予測方法および予測キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、C型肝炎の患者の血清中のペプチドについて網羅的に解析を行ったところ、補体成分C3fの分解産物がPEG−IFN/RBV療法の治療効果の予測マーカーとなりうることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のPEG−IFN/RBV療法の治療効果の予測方法に関する。
[1]C型肝炎の患者から採取された生体試料中のC3f分解産物の量を測定するステップを含む、C型肝炎に対するペグインターフェロン・リバビリン併用療法の治療効果の予測方法。
[2]前記C3f分解産物の量が所定の値より多いとき、前記患者についてペグインターフェロン・リバビリン併用療法が有効である可能性が高いと判定するステップをさらに含む、[1]に記載の予測方法。
[3]前記C3f分解産物は、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド、配列番号3のアミノ酸配列を有するペプチド、配列番号4のアミノ酸配列を有するペプチド、配列番号6のアミノ酸配列を有するペプチドおよび配列番号7のアミノ酸配列を有するペプチドからなる群から選択される1または2以上のペプチドである、[1]または[2]に記載の予測方法。
[4]前記C3f分解産物は、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド、配列番号3のアミノ酸配列を有するペプチドおよび配列番号4のアミノ酸配列を有するペプチドからなる群から選択される1または2以上のペプチドである、[3]に記載の予測方法。
[5]前記生体試料は血清である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の予測方法。
[6]前記C3f分解産物の量は、質量分析法により測定される、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の予測方法。
[7]前記C3f分解産物の量は、免疫測定法により測定される、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の予測方法。
【0011】
また、本発明は、以下のPEG−IFN/RBV療法の治療効果の予測キットに関する。
[8]C3f分解産物を特異的に認識する抗体またはその断片を有する、C型肝炎に対するペグインターフェロン・リバビリン併用療法の治療効果の予測キット。
[9]前記C3f分解産物は、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド、配列番号3のアミノ酸配列を有するペプチド、配列番号4のアミノ酸配列を有するペプチド、配列番号6のアミノ酸配列を有するペプチドおよび配列番号7のアミノ酸配列を有するペプチドからなる群から選択される1または2以上のペプチドである、[8]に記載の予測キット。
[10]前記C3f分解産物は、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド、配列番号3のアミノ酸配列を有するペプチドおよび配列番号4のアミノ酸配列を有するペプチドからなる群から選択される1または2以上のペプチドである、[9]に記載の予測キット。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、C型肝炎の患者に対して、PEG−IFN/RBV療法が有効である可能性が高いかどうかを治療前に評価することができる。したがって、本発明によれば、PEG−IFN/RBV療法が有効である可能性が高い患者に対してPEG−IFN/RBV療法を早期にかつ安心して実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1Aは、著効患者群の血清の平均ペプチドプロファイルである。図1Bは、無効患者群の血清の平均ペプチドプロファイルである。
【図2】図1Aおよび図1BのペプチドプロファイルにおけるAの部分の拡大図である。
【図3】ゲルイメージ化した各患者の血清ペプチドプロファイルである。
【図4】図4Aは、著効患者の血清中のC3f分解産物のプロファイルである。図4Bは、無効患者の血清中のC3f分解産物のプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.本発明の予測方法
本発明の予測方法は、C型肝炎に対するPEG−IFN/RBV療法の治療効果の予測方法であって、C型肝炎の患者から採取された生体試料中の補体成分C3fの分解産物の量を測定するステップを含む。
【0015】
補体成分C3fは、補体成分C3bの分解産物であり、血液中に存在している。C3fは、配列番号1のアミノ酸配列を有する17残基のアミノ酸からなるペプチドである(NCBIアクセッション番号:1413205A)。本明細書では、17残基のアミノ酸からなる補体成分C3fを「C3f1−17」と表記することがある。C3fは、平滑筋を収縮させたり血管透過性を上昇させたりすることが知られているが、C型肝炎との関連は報告されていない。
【0016】
血液中には、C3fのN末端またはC末端のアミノ酸が離脱したC3fの分解産物も存在する。C3f(C3f1−17)の分解産物の例には、次に説明するC3f1−16やC3f2−16、C3f3−16、C3f4−16、C3f5−16、C3f6−16、C3f7−16などが含まれる。
【0017】
「C3f1−16」は、配列番号2のアミノ酸配列を有する16残基のアミノ酸からなるペプチドである。C3f1−16は、C3f(C3f1−17)のC末端のアルギニン残基が離脱したものである。
【0018】
「C3f2−16」は、配列番号3のアミノ酸配列を有する15残基のアミノ酸からなるペプチドである。C3f2−16は、C3f(C3f1−17)のN末端のセリン残基およびC末端のアルギニン残基が離脱したものである。
【0019】
「C3f3−16」は、配列番号4のアミノ酸配列を有する14残基のアミノ酸からなるペプチドである。C3f3−16は、C3f(C3f1−17)のN末端の2つのセリン残基およびC末端のアルギニン残基が離脱したものである。
【0020】
「C3f4−16」は、配列番号5のアミノ酸配列を有する13残基のアミノ酸からなるペプチドである。C3f4−16は、C3f(C3f1−17)のN末端の3つのアミノ酸残基およびC末端のアルギニン残基が離脱したものである。
【0021】
「C3f5−16」は、配列番号6のアミノ酸配列を有する12残基のアミノ酸からなるペプチドである。C3f5−16は、C3f(C3f1−17)のN末端の4つのアミノ酸残基およびC末端のアルギニン残基が離脱したものである。
【0022】
「C3f6−16」は、配列番号7のアミノ酸配列を有する11残基のアミノ酸からなるペプチドである。C3f6−16は、C3f(C3f1−17)のN末端の5つのアミノ酸残基およびC末端のアルギニン残基が離脱したものである。
【0023】
「C3f7−16」は、配列番号8のアミノ酸配列を有する10残基のアミノ酸からなるペプチドである。C3f7−16は、C3f(C3f1−17)のN末端の6つのアミノ酸残基およびC末端のアルギニン残基が離脱したものである。
【0024】
本発明の予測方法は、C3f分解産物を予測マーカーとして用いることを一つの特徴とする。上述のように、C3f分解産物には様々なペプチドが含まれるが、感度および特異度を向上させる観点からは、C3f1−16(配列番号2)、C3f2−16(配列番号3)、C3f3−16(配列番号4)、C3f5−16(配列番号6)およびC3f6−16(配列番号7)からなる群から選択される1または2以上のペプチドを予測マーカーとして用いることが好ましい。また、感度および特異度をさらに向上させたい場合は、上記5種類のペプチドの中でも、C3f1−16(配列番号2)、C3f2−16(配列番号3)およびC3f3−16(配列番号4)からなる群から選択される1または2以上のペプチドを予測マーカーとして用いることが好ましい。これらのペプチドは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。2種以上のペプチドを組み合わせて使用することで、感度および特異度をより向上させることができる。
【0025】
本発明者は、PEG−IFN/RBV療法の治療効果の予測マーカーとなりうるペプチドを網羅的に探索したところ、生体試料(特に血清)中のC3f分解産物がPEG−IFN/RBV療法の治療効果の予測マーカーになりうることを見出した。本発明者の研究によれば、C3f分解産物の濃度が高い患者は、PEG−IFN/RBV療法が有効である可能性が高い。実施例に示されるように、C3f分解産物を予測マーカーとして用いる本発明の予測方法は、適切なカットオフ値を設定することで高感度かつ高特異度の予測方法となりうる。
【0026】
測定対象となる生体試料の種類は、特に限定されないが、血液や血漿、血清、尿、これらの希釈液などを用いることができる。検査を簡便に行う観点からは、生体試料として血清を用いることが好ましい。
【0027】
生体試料中のC3f分解産物の量を測定する方法は、特に限定されず、質量分析法や免疫測定法、電気泳動法、液体クロマトグラフィー(LC)法、ガスクロマトグラフィー(GC)法などの当業者に公知の測定法から適宜選択されうる。
【0028】
質量分析方法の例としては、レーザーイオン化飛行時間型質量分析計(LDI−TOF型質量分析計)を用いた方法や、ESI法(ElectrosprayIonization)を用いた質量分析法などが挙げられる。LDI−TOF型質量分析計の例には、マトリックス支援レーザーイオン化飛行時間型質量分析計(MALDI−TOF型質量分析計)や、表面増強レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(SELDI−TOF型質量分析計)などが含まれる。たとえば、実施例に示すように、弱陽イオン交換体を結合した磁性ビーズを用いてC3f分解産物を単離した後、MALDI−TOF型質量分析計を用いてC3f分解産物を定量すればよい(ClinProtシステム;ブルカー・ダルトニクス株式会社)。
【0029】
免疫測定法の例には、ELISA法、放射能免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、化学発光免疫測定法(CLIA)、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、電気化学発光免疫測定法(ECLIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、ウェスタンブロット法、ラテックス凝集法、イムノクロマト法などが含まれる。たとえば、物理吸着や化学結合などにより抗体を結合させた固相担体を用いて生体試料中のC3f分解産物を捕捉した後、固相担体に固定化した抗体とは抗原認識部位が異なる標識化抗体(酵素や蛍光物質などで標識した抗体)を用いて捕捉されたC3f分解産物を定量すればよい。
【0030】
免疫測定法によりC3f分解産物の量を測定する場合、使用する抗体は、C3fの特定の分解産物(例えば、C3f1−16)に特異的に結合しうる抗体またはその断片であれば特に限定されない。前述の通り、C3fはC3bの分解産物である。また、C3f(C3f1−17)は、予測マーカーとして使用することはできない。したがって、使用する抗体は、C3bおよびC3f(C3f1−17)のいずれにも結合しないものでなければならない。抗体の種類は、モノクローナル抗体であってもよいしポリクローナル抗体であってもよいが、通常はモノクローナル抗体である。また、抗体の断片の例には、Fab断片、F(ab)’断片、単鎖抗体(scFv)などが含まれる。また、これらの抗体は、酵素、放射性同位体、蛍光色素、アビジン、ビオチンなどで標識されていてもよい。
【0031】
たとえば、生体試料中のC3f分解産物の量を測定した結果、C3f分解産物の量が所定のカットオフ値よりも多いときは、その患者に対してPEG−IFN/RBV療法が有効である可能性が高いと判定する。C3f分解産物のカットオフ値は、必要とする感度や特異度などに応じて適宜設定すればよい。たとえば、あるC3f分解産物のカットオフ値を、無効例の患者群における当該分解産物の測定値の最大値とすることで、PEG−IFN/RBV療法が有効である可能性を高い特異度で予測することができる(実施例参照)。
【0032】
本発明の予測方法は、C3f分解産物を予測マーカーとすることで、PEG−IFN/RBV療法が有効である可能性が高いかどうかを迅速かつ容易に予測することができる。本発明の予測方法は、医療従事者がC型肝炎の患者に対してPEG−IFN/RBV療法を実施するかどうかを判断する際の判断材料を提供することができる。
【0033】
2.本発明の予測キット
本発明の予測キットは、生体試料中のC3f分解産物の量を免疫測定法により測定するためのキットであり、本発明の予測方法に用いることができる。
【0034】
本発明の予測キットは、C3f分解産物に特異的に結合しうる抗体を有することを特徴とする。本発明の検査キットは、この抗体とC3f分解産物との抗原抗体反応を検出して、生体試料中のC3f分解産物の量を測定する。
【0035】
前述の通り、抗体は、C3fの特定の分解産物(例えば、C3f1−16)に特異的に結合しうる抗体またはその断片であれば特に限定されない。抗体の種類は、モノクローナル抗体であってもよいしポリクローナル抗体であってもよいが、通常はモノクローナル抗体である。抗体の断片の例には、Fab断片、F(ab)’断片、単鎖抗体(scFv)などが含まれる。これらの抗体は、担体に固定化されていてもよいし、固定化されていなくてもよい。また、これらの抗体は、酵素、放射性同位体、蛍光色素、アビジン、ビオチンなどで標識されていてもよい。
【0036】
生体試料中のタンパク質の量を測定するための検査キットは、タンパク質の種類に応じて様々なものが市販されている。本発明の予測キットも、C3f分解産物に特異的に結合しうる抗体またはその断片を用いることを除き、当業者に公知の検査キットに用いられている各要素によって構成することができる。
【0037】
以下、本発明を実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0038】
倫理性を確保するための手続を終えた後、C型慢性肝炎の患者62名(いずれも遺伝子型1b、高ウイルス量)から血液を採取した。その後、各患者に対してPEG−IFN/RBV療法を24〜72週間実施した。PEG−IFN/RBV療法を終了してから24週間後に、各患者におけるPEG−IFN/RBV療法の治療効果を評価した。その結果、著効患者は49名(治療期間:48〜72週間)、無効患者は13名(治療期間:24〜72週間)であった。
【0039】
PEG−IFN/RBV療法を行う前に各患者から採取した血液から血清(サンプル)を調製した。得られた血清100μL(患者1人当たり。以下同じ)を100kDa分子フィルターに通し、血清中のウイルスを除去した。次いで、弱陽イオン交換体を担持させた磁性ビーズ(MB−WCX;ブルカー・ダルトニクス株式会社)を用いて、ウイルスを除去した血清20μLから弱陽イオン交換体に結合するペプチドを分離回収した。
【0040】
MALDI−TOF型質量分析計(UltraFlex;ブルカー・ダルトニクス株式会社)を用いて、回収したペプチドの質量電荷比(m/z)およびイオン強度を網羅的に測定した。解析プログラム(ClinProTools;ブルカー・ダルトニクス株式会社)を用いて、C型肝炎の患者62名それぞれの血清ペプチドプロファイルを作成した。
【0041】
図1Aは、著効患者群(49名)の血清の平均ペプチドプロファイルである。図1Bは、無効患者群(13名)の血清の平均ペプチドプロファイルである。図1Aに示されるように、著効患者群のペプチドプロファイルでは分子量約1.8kDaのペプチドのピークが観察されたが(図中「A」で示す)、図1Bに示されるように、無効患者群のペプチドプロファイルではこのピークはほとんど観察されなかった。図2は、図1Aおよび図1BのペプチドプロファイルにおけるAの部分の拡大図である。
【0042】
図3は、ゲルイメージ化した各患者の血清ペプチドプロファイルである。上段は著効患者49名の血清ペプチドプロファイルであり、下段は無効患者13名の血清ペプチドプロファイルである。著効患者群と無効患者群との間で濃度に有意差(t検定:p<0.05)が見られたペプチドを検索したところ、9種類のペプチドが検出された(図中「▼」で示す)。これら9種類のペプチドは、いずれも著効患者群の血清中における濃度が無効患者群の血清中における濃度よりも大きかった。
【0043】
MALDI−TOF/TOF型質量分析計(UltraFlex;ブルカー・ダルトニクス株式会社)を用いた質量分析法により、検出した9種類のペプチドのアミノ酸配列を決定した。決定されたアミノ酸配列を表1に示す。表1に示されるように、9種類のペプチドのうち5種類のペプチドは、C3fの分解産物(C3f1−16、C3f2−16、C3f3−16、C3f5−16およびC3f6−16)であった。
【表1】

【0044】
図4Aは、著効患者(49名)それぞれの血清中の補体成分C3f分解産物のプロファイルである。図4Bは、無効患者(13名)それぞれの血清中の補体成分C3f分解産物のプロファイルである。図4Aおよび図4Bを比較すると、C3f1−16、C3f2−16、C3f3−16、C3f5−16およびC3f6−16は、無効患者の血清中にはほとんど含まれないが、一部の著効患者の血清中では相対的に高い濃度で含まれることがわかる。
【0045】
図4Aおよび図4Bにおける破線は、無効患者群における各分解産物の測定値の最大値を結ぶ線である。たとえば、図4Aに示される著効患者群のプロファイルにおいて、この破線をカットオフ値として、C3f1−16、C3f2−16、C3f3−16、C3f5−16およびC3f6−16のいずれかがカットオフ値よりも大きい場合、その患者にはペグインターフェロン・リバビリン併用療法が有効である可能性が高いと判定する。このようにすることで、感度45%、特異度100%で予測を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の予測方法による検査は、医療従事者がC型肝炎の患者に対して治療方針を決める際の判断材料を提供する検査として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C型肝炎の患者から採取された生体試料中のC3f分解産物の量を測定するステップを含む、C型肝炎に対するペグインターフェロン・リバビリン併用療法の治療効果の予測方法。
【請求項2】
前記C3f分解産物の量が所定の値より多いとき、前記患者についてペグインターフェロン・リバビリン併用療法が有効である可能性が高いと判定するステップをさらに含む、請求項1に記載の予測方法。
【請求項3】
前記C3f分解産物は、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド、配列番号3のアミノ酸配列を有するペプチド、配列番号4のアミノ酸配列を有するペプチド、配列番号6のアミノ酸配列を有するペプチドおよび配列番号7のアミノ酸配列を有するペプチドからなる群から選択される1または2以上のペプチドである、請求項1に記載の予測方法。
【請求項4】
前記C3f分解産物は、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド、配列番号3のアミノ酸配列を有するペプチドおよび配列番号4のアミノ酸配列を有するペプチドからなる群から選択される1または2以上のペプチドである、請求項3に記載の予測方法。
【請求項5】
前記生体試料は血清である、請求項1に記載の予測方法。
【請求項6】
前記C3f分解産物の量は、質量分析法により測定される、請求項1に記載の予測方法。
【請求項7】
前記C3f分解産物の量は、免疫測定法により測定される、請求項1に記載の予測方法。
【請求項8】
C3f分解産物を特異的に認識する抗体またはその断片を有する、C型肝炎に対するペグインターフェロン・リバビリン併用療法の治療効果の予測キット。
【請求項9】
前記C3f分解産物は、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド、配列番号3のアミノ酸配列を有するペプチド、配列番号4のアミノ酸配列を有するペプチド、配列番号6のアミノ酸配列を有するペプチドおよび配列番号7のアミノ酸配列を有するペプチドからなる群から選択される1または2以上のペプチドである、請求項8に記載の予測キット。
【請求項10】
前記C3f分解産物は、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド、配列番号3のアミノ酸配列を有するペプチドおよび配列番号4のアミノ酸配列を有するペプチドからなる群から選択される1または2以上のペプチドである、請求項9に記載の予測キット。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−93230(P2012−93230A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240874(P2010−240874)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(596165589)学校法人 聖マリアンナ医科大学 (53)
【Fターム(参考)】