説明

C型肝炎ウイルス株の評価方法およびその利用

【課題】C型肝炎ウイルス株の発癌性の評価方法およびその利用を提供する。
【解決手段】C型肝炎ウイルスのNS3タンパク質のアミノ末端領域における第56位および第86位のアミノ酸残基を検出する工程を含み、上記第56位のアミノ酸残基がチロシンであり、かつ第86位のアミノ酸残基がグルタミンであることを、高発癌性の指標とするC型肝炎ウイルス株の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C型肝炎ウイルス株の評価方法およびその利用に関し、具体的には、C型肝炎ウイルスが高発癌性か否かを評価し、当該C型肝炎ウイルス株の感染による肝癌の発症リスクを予測するためのデータ取得方法等の利用技術に関する。
【背景技術】
【0002】
フラビウイルス科に属するC型肝炎ウイルス(以下、「HCV」と称する場合がある。)は慢性肝疾患の主要な原因ウイルスであり、感染者の15〜20%に肝硬変をおこす。そして、肝硬変患者では年率1〜4%の割合で原発性肝細胞癌(肝癌)が発生する。我が国では、肝硬変患者が肝癌を発症する頻度は年率7%といわれ、HCV感染者の約30%あるいはそれ以上が確実に肝癌になると推測されている。
【0003】
HCVのゲノム(遺伝子)は、1本鎖プラス鎖の約9600塩基のRNAからなり、一つの大きなオープンリーディングフレーム(ORF)を有し、約3000アミノ酸残基からなる前駆体タンパク質をコードしている。この前駆体タンパク質は、宿主細胞のシグナルペプチダーゼとウイルス遺伝子にコードされる2種類のプロテアーゼ(HCV亜鉛プロテアーゼおよびHCVセリンプロテアーゼ)によりプロセシングされ、コア、エンベロープ1(E1)、E2、p7、NS2、NS3、NS4A、NS4B、NS5AおよびNS5Bの10種類のウイルスタンパク質を生じる。NS3を含め、NS2〜NS5Bはウイルス粒子を構成しないが、ウイルスの増殖には必須の非構造タンパク質である。
【0004】
ウイルスゲノムは変異に富んでおり、それに基づいてHCVは7種類のゲノタイプと70種類以上のサブタイプに分類されている。サブタイプ1b型は日本を含むアジア地域で最も頻度の高いサブタイプで、アジア以外でも、欧米を含む世界中どこにでも多く検出される。一般的に、サブタイプ1b型は他のサブタイプに比べてインターフェロン感受性が低く、また、肝癌をおこしやすいことが知られている。一方、ゲノタイプやサブタイプに関連する差異以外に、同じサブタイプ内でもウイルス株によって様々な性質の違いがあることも観察されている。例えば、サブタイプ1b型のHCVにおけるNS5Aのアミノ酸配列の違いによって、インターフェロン感受性や血中ウイルス量の異なることが報告されている。
【0005】
ここで、非構造タンパク質であるNS3は、そのアミノ末端領域にセリンプロテアーゼを、またカルボキシル末端にNTP分解酵素やヘリカーゼをコードしている。NS3のアミノ末端領域はNS4Aと結合し、これを介してNS3が安定化され、そのセリンプロテアーゼ活性が亢進される。NS3は、このようなウイルス増殖に不可欠な酵素活性以外に、肝癌の発生に関わっていると考えられている。例えば、NS3のアミノ末端領域が培養細胞(NIH3T3細胞)を悪性形質転換(癌化)させることが報告されている(非特許文献1,2)。
【0006】
本発明者も、NS3のアミノ末端領域がp53癌抑制タンパク質と相互作用すること、およびその相互作用はNS3アミノ末端領域の配列によって異なることを報告している(非特許文献3〜5)。また、NS3のアミノ末端領域の2次構造を解析して高発癌性HCV株を同定する技術(特許文献1)、さらにNS3アミノ末端領域においてp53癌抑制タンパク質との結合に関与する重要なアミノ酸残基を同定することにより、新規医薬のスクリーニング方法を開発している(特許文献2)。
【0007】
一方、HCVのコアタンパク質はウイルス粒子内部のカプシドを構成するのみならず、細胞死や細胞の癌化に重要な役割を果たしている。臨床的にも、コアタンパク質における特定のアミノ酸変異と肝癌の発症頻度が密接に関連する可能性が指摘されている(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−210181号公報(2003年7月29日公開)
【特許文献2】特開2006−075038号公報(2006年3月23日公開)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Sakamuro, D., T. Furukawa, and T. Takegami. 1995. Hepatitis C virus nonstructural protein NS3 transforms NIH3T3 cells. J. Virol. 69: p3893-3896.
【非特許文献2】He, Q. Q., R. X. Cheng, Y. Sun, D. Y. Feng, Z. C. Chen, and H. Zeng. 2003. Hepatocyte transformation and tumor development induced by hepatitis C virus NS3 C-terminal deleted protein. World J. Gastroenterol. 9: p474-478.
【非特許文献3】Ishido, S., and H. Hotta. 1998. Complex formation of the nonstructural protein 3 of hepatitis C virus with the p53 tumor suppressor. FEBS Lett. 438: p258-262.
【非特許文献4】Ishido, S., T. Fujita, and H. Hotta. 2000. Possible involvement of the NS3 protein of hepatitis C virus in hepatocarcinogenesis: Its interaction with the p53 tumor suppressor, p. 37-55. In N. A. Habib, (ed.), Hepatocellular Carcinoma: Methods and Protocols. Humana Press, Totowa, NJ.
【非特許文献5】Muramatsu, S., S. Ishido, T, Fujita, M. Itoh, and H. Hotta. 1997. Nuclear localization of the NS3 protein of hepatitis C virus and factors affecting the localization. J. Virol. 71: p4954-4961.
【非特許文献6】Kobayashi M, Akuta N, Suzuki F, Hosaka T, Sezaki H, Kobayashi M, Suzuki Y, Arase Y, Ikeda K, Watahiki S, Mineta R, Iwasaki S, Miyakawa Y, Kumada H. Influence of amino-acid polymorphism in the core protein on progression of liver disease in patients infected with hepatitis C virus genotype 1b. J Med Virol. 82(1):41-48, 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、HCVの感染は肝癌の発症リスクを高くすることが知られているが、その発症リスクを予測する技術の開発は十分ではない。特にHCV株が高発癌性か否かを評価し、HCV感染に起因する肝癌の発症リスクを予測するための技術開発が強く要望されている。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、HCV株の発癌性の評価方法およびその利用技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、NS3タンパク質のアミノ末端領域における第56位および第86位に特定のアミノ酸残基を有するウイルス株が高発癌性であること、さらにコアタンパク質の第70位のアミノ酸残基も指標とすることで、高発癌性のHCV株をより正確に同定できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
【0013】
1.C型肝炎ウイルスのNS3タンパク質のアミノ末端領域における第56位および第86位のアミノ酸残基を検出する工程を含み、上記第56位のアミノ酸残基がチロシンであり、かつ第86位のアミノ酸残基がグルタミンであることを、高発癌性の指標とするC型肝炎ウイルス株の評価方法。
【0014】
2.さらに、C型肝炎ウイルスのコアタンパク質における第70位のアミノ酸残基を検出する工程を含み、上記第70位のアミノ酸残基がグルタミンであることを、高発癌性の指標とする2に記載のC型肝炎ウイルス株の評価方法。
【0015】
3.上記NS3タンパク質のアミノ末端領域をコードするポリヌクレオチドにおいて、第56位および第86位のアミノ酸残基をコードする塩基配列を検出する工程である1に記載のC型肝炎ウイルス株の評価方法。
【0016】
4.上記コアタンパク質をコードするポリヌクレオチドにおいて、第70位のアミノ酸残基をコードする塩基配列を検出する工程である2に記載のC型肝炎ウイルス株の評価方法。
【0017】
5.C型肝炎ウイルス感染者から分離した生体サンプルを用いて、1〜4のいずれかに記載のC型肝炎ウイルス株の評価方法を行う工程を含む肝癌の発症リスクを予測するためのデータ取得方法。
【0018】
6.C型肝炎ウイルスのNS3タンパク質のアミノ末端領域における第56位および第86位のアミノ酸残基を検出するための試薬を含むC型肝炎ウイルス株の評価キット。
【0019】
7.以下の(i)〜(iv)いずれかに記載の試薬を含む6に記載のC型肝炎ウイルス株の評価キット。
(i)配列番号2に記載の塩基配列において、166〜168位に位置する塩基配列を含む16〜500塩基長の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド(ただし、当該ヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)にハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴまたはポリヌクレオチドあるいはその標識物;
(ii)配列番号2に記載の塩基配列において、256〜258位に位置する塩基配列を含む16〜500塩基長の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド(ただし、当該ヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)にハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴまたはポリヌクレオチドあるいはその標識物;
(iii)配列番号2に記載の塩基配列において、166〜168位に位置するヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド(ただし、当該ヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)にハイブリダイズし、当該オリゴまたはポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15〜35塩基長のオリゴヌクレオチドまたはその標識物;
(iv)配列番号2に記載の塩基配列において、256〜258位に位置するヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド(ただし、当該ヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)にハイブリダイズし、当該オリゴまたはポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15〜35塩基長のオリゴヌクレオチドまたはその標識物。
【0020】
8.さらに、C型肝炎ウイルスのコアタンパク質における第70位のアミノ酸残基を検出するための試薬を含む6または7に記載のC型肝炎ウイルス株の評価キット。
【0021】
9.以下の(v)または(vi)に記載の試薬を含む8に記載のC型肝炎ウイルス株の評価キット。
(v)配列番号4に示す塩基配列において、208〜210位に位置する塩基配列を含む16〜500塩基長の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド(ただし、当該ヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)にハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴまたはポリヌクレオチドあるいはその標識物;
(vi)配列番号4に示す塩基配列において、208〜210位のヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド(ただし、当該ヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)にハイブリダイズし、当該オリゴまたはポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15〜35塩基長のオリゴヌクレオチドまたはその標識物。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、HCV株が高発癌性であるか否かを簡便かつ正確に評価することができる。それゆえ、HCV感染患者における肝癌の発症リスクを判定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】肝癌症例におけるNS3−Y56/Q86株とCore−Q70株の比率を表す図である。
【図2】非肝癌症例におけるNS3−Y56/Q86株とCore−Q70株の比率を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、本明細書に記載した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、塩基およびアミノ酸の表記は、適宜IUPACおよびIUBの定める1文字表記または3文字表記を使用する。本明細書において使用される場合、用語「タンパク質」は、「ペプチド」または「ポリペプチド」と交換可能に使用される。また、用語「ポリヌクレオチド」は、「遺伝子」、「核酸」、「核酸分子」、「DNA」または「RNA」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。
【0025】
<1.本発明に係るC型肝炎ウイルス株の評価方法>
本発明に係るC型肝炎ウイルス株の評価方法は、C型肝炎ウイルスのNS3タンパク質のアミノ末端領域における第56位および第86位のアミノ酸残基を検出する工程を含み、上記第56位のアミノ酸残基がチロシンであり、かつ第86位のアミノ酸残基がグルタミンであることを、高発癌性の指標とするものであればよく、その他の構成は限定されるものではない。
【0026】
本発明が対象とするHCVのNS3タンパク質は、上述したように、HCVの非構造タンパク質であり、これまでも発癌性に関与することが示唆されている。今回、本発明者は、NS3タンパク質のアミノ末端領域における第56位のアミノ酸残基がチロシンであり、かつ第86位のアミノ酸残基がグルタミンであるHCV株は、高発癌性であることを確認した(実施例参照)。
【0027】
本発明でいう「NS3タンパク質のアミノ末端領域」とは、特に解析対象とするNS3タンパク質におけるアミノ末端側の第56位および第86位のアミノ酸残基を検出できればよく、長さ等の具体的な領域については特に限定されないが、例えば、NS3タンパク質におけるアミノ末端側1〜120番目のアミノ酸配列領域を挙げることができる(配列番号1)。もちろん、本発明の趣旨に沿う範囲内で、上記配列の前後に1〜数十アミノ酸残基が付加あるいは欠損していても構わない。
【0028】
配列表の配列番号1に「NS3タンパク質のアミノ末端領域」の一例を示すが、配列番号1に示すアミノ酸配列では、第56位のアミノ酸残基がチロシンであり、かつ第86位のアミノ酸残基がグルタミンである。なお、この1〜120番目のアミノ酸配列は、HCV遺伝子がコードする全アミノ酸配列のうち1027〜1146番目までのアミノ酸配列に相当する。また配列番号1に示すアミノ酸配列を有するNS3タンパク質のアミノ末端領域をコードする塩基配列を配列番号2に示す。HCV遺伝子の全ゲノムの塩基配列およびアミノ酸配列は、上記特許文献1に記載されている。
【0029】
また本発明では、上記のNS3タンパク質を指標とした評価方法に加えて、さらにHCVのコアタンパク質における第70位のアミノ酸残基を検出する工程を含み、上記第70位のアミノ酸残基がグルタミンであることを、高発癌性の指標とすることが好ましい。
【0030】
従来、HCVのコアタンパク質における第70位のアミノ酸残基がアルギニンからグルタミンに変異している場合、高発癌性の可能性が高いことが報告されている(非特許文献6)。本発明者は、HCVのコアタンパク質における第70位のグルタミン残基のみを指標としてHCVの発癌性を評価する場合に比べ、上述したようにNS3タンパク質のアミノ末端領域における第56位および第86位のアミノ酸残基の検出と組み合わせることによって、HCV株の発癌性をより正確に評価できることを確認している(実施例参照)。
【0031】
配列番号3にHCVのコアタンパク質のアミノ酸配列を示すが、第70位はグルタミンである。もちろん、本発明の趣旨に沿う範囲内で、上記配列の前後に数〜数十アミノ酸残基が付加あるいは欠損していても構わない。また、配列番号3に示すアミノ酸配列を有するコアタンパク質をコードする塩基配列を配列番号4に示す。
【0032】
ここで、HCVのNS3タンパク質のアミノ末端領域およびコアタンパク質は、HCVの種々のゲノタイプ(genotype)およびサブタイプにおいて高度に保存されているため、本発明が対象とするHCVのゲノタイプおよびサブタイプについては特に限定されず、7種類のゲノタイプと70種類以上のサブタイプのいずれをも対象とできる。例えば、ゲノタイプでいうと、1a型、1b型、1c型、2a型、2b型、2c型、3a型、3b型、4型、5a型および6b型を対象とすることができる。なかでも、サブタイプ1b型を対象とすることが好ましい。サブタイプ1b型は日本を含むアジア地域で最も頻度の高いサブタイプで、アジア以外でも、欧米を含む世界中どこにでも多く検出されるため、高発癌性か否かを検出するニーズは極めて高い。
【0033】
NS3タンパク質のアミノ末端領域および/またはコアタンパク質のアミノ酸残基を検出する工程においては、上記タンパク質をコードするポリヌクレオチドを用いる方法を例示できる。すなわち、上記NS3タンパク質のアミノ末端領域をコードするポリヌクレオチドにおいて、第56位および第86位のアミノ酸残基をコードする塩基配列を検出する工程である。また、上記コアタンパク質をコードするポリヌクレオチドにおいて、第70位のアミノ酸残基をコードする塩基配列を検出する工程である。
【0034】
例えば、上記NS3タンパク質のアミノ末端領域をコードするポリヌクレオチドを用いる場合、(i) 上記NS3タンパク質のアミノ末端領域をコードするポリヌクレオチドにおいて、第56位および第86位のアミノ酸残基をコードする塩基配列を含む領域についてPCRを行い、SSCP法で検出する方法、(ii) 上記領域でPCRを行い、PCR産物に対する制限酵素の切断様式から検出する方法、(iii) 同PCR産物を直接シーケンシングして、配列を決定する方法、(iv) 上記領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプローブとして使用し、検出対象のポリヌクレオチドとハイブリダイズさせるASO(allele specific oligonucleotide)法、(v) 上記領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプローブとして使用して質量分析装置等で検出する方法など、公知の方法を用いることにより行うことができる。なお、HCVのゲノムはRNAであるため、必要に応じて、逆転写反応によりDNAとする工程を前処理工程として設けてもよい。上記の例示はNS3タンパク質をコードする遺伝子について述べたが、コアタンパク質をコードするポリヌクレオチドについても、第70位のアミノ酸残基をコードする塩基配列を含む領域に関して、同様に検出することができる。
【0035】
より具体的には、上記NS3タンパク質のアミノ末端領域をコードするポリヌクレオチド(配列番号2)の場合、NS3タンパク質のアミノ末端領域における第56位のアミノ酸残基をコードする塩基配列に相当する166〜168位がtat(アデニン、チミン、アデニン)またはtac(アデニン、チミン、シトシン)であるか否かを検出する方法(ただし、これらのオリゴヌクレオチド若しくはポリヌクレオチドがRNAである場合は、配列表中の塩基記号「t(チミン)」は「u(ウラシル)」に読み替えるものとする)、またNS3タンパク質のアミノ末端領域における第86位のアミノ酸残基をコードする塩基配列に相当する256〜258位がcaa(シトシン、アデニン、アデニン)またはcag(シトシン、アデニン、グアニン)であるか否かを検出する方法を挙げることができる。
【0036】
また、コアタンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号4)において、第70位のアミノ酸残基をコードする塩基配列に相当する208〜210位がcaa(シトシン、アデニン、アデニン)またはcag(シトシン、アデニン、グアニン)であるか否かを検出する方法を挙げることができる。
【0037】
具体的には、本発明に係る評価方法は、例えば、HCV由来のポリヌクレオチド(ゲノムRNAおよびその逆転写DNA産物等)に含まれるNS3タンパク質のアミノ末端領域をコードする遺伝子および/またはコアタンパク質をコードする遺伝子を対象として、配列番号2の166〜168位および256〜258位、あるいは配列番号4の208〜210位を含む領域の塩基配列を検出することで実施できる。
【0038】
すなわち、本発明の一実施形態として、HCV感染患者の血清あるいは肝細胞組織等からHCVの遺伝子(ゲノムRNA)を含む試料を調製し、逆転写反応を行って上記HCV遺伝子から鋳型となるDNAを作製した後、後述のプライマーを用いてPCR法による増幅を行い(すなわち、RT−PCR反応を行い)、遺伝子上のNS3タンパク質のアミノ末端領域をコードするポリヌクレオチド、および/またはコアタンパク質をコードするポリヌクレオチドが増幅された増幅DNA断片を取得し、当該増幅DNA断片の塩基配列を決定する方法を挙げることができる。
【0039】
ここで、上記RT−PCR反応では、まず逆転写反応により、上記HCVゲノムを含む試料からcDNAを作製する。次に、このcDNAを鋳型にして2度のPCR反応を行う。より具体的には、一組のプライマーセットを用いて1回目のPCRによる増幅反応を行い、その後さらに、他の一組のプライマーを用いて2回目のPCRによる増幅反応を行う。これにより、HCVゲノム上のNS3タンパク質のアミノ末端領域をコードするポリヌクレオチドが増幅された増幅DNA断片を取得することができる。
【0040】
上記1回目のPCRに用いるプライマーセットとしては、例えば、後述する実施例で用いている配列番号5,6に記載のプライマーセットを挙げることができる。配列番号5で示される塩基配列からなるプライマーは、日本遺伝子データバンクに登録(登録番号D90208)されているHCV−1bのプロトタイプ(以下、これを「HCV−J」という)の遺伝子配列においては、3295番目から3316番目までの塩基配列に相当するセンスプライマーである。また、配列番号6に示される塩基配列からなるプライマーは、上記HCV−Jの遺伝子配列において、4019番目から4040番目までの塩基配列の相補配列に相当するアンチセンスプライマーである。なお、上記HCV−Jの遺伝子配列の全長は、上記特許文献1に記載されている配列番号5,6を適宜参照できる。
【0041】
また、上記2回目のPCRに用いるプライマーセットとしては、配列番号7,8に記載のプライマーセットを挙げることができる。配列番号7に示される塩基配列からなるプライマーは、上記HCV−Jの遺伝子配列において、3390番目から3407番目までの塩基配列に相当するセンスプライマーである。また、配列番号8に示される塩基配列からなるプライマーは、上記HCV−Jの遺伝子配列において、3985番目から4006番目までの塩基配列の相補配列に相当するアンチセンスプライマーである。
【0042】
また、コアタンパク質についても同様の手法を用いることができる。具体的には、1回目のPCRに用いるプライマーセットとして、例えば、後述する実施例で用いている配列番号9,10に記載のプライマーセットを挙げることができる。配列番号9で示される塩基配列からなるプライマーは、HCV−Jの遺伝子配列においては、259番目から279番目までの塩基配列に相当するセンスプライマーである。また、配列番号10に示される塩基配列からなるプライマーは、上記HCV−Jの遺伝子配列において、963番目から981番目までの塩基配列の相補配列に相当するアンチセンスプライマーである。
【0043】
また、2回目のPCRに用いるプライマーセットとしては、配列番号11,12に記載のプライマーセットを挙げることができる。配列番号11に示される塩基配列からなるプライマーは、上記HCV−Jの遺伝子配列において、276番目から295番目までの塩基配列に相当するセンスプライマーである。また、配列番号12に示される塩基配列からなるプライマーは、上記HCV−Jの遺伝子配列において、930番目から952番目までの塩基配列の相補配列に相当するアンチセンスプライマーである。
【0044】
なお、詳細な条件等については、公知の方法(例えば、Bruce, et al., Geneme Analysis/A laboratory Manual (vol.4), Cold Spring Harbor Laboratory, NY., (1999))を適宜参考できる。
【0045】
また、逆転写反応についても従来公知の手法を利用でき特に限定されないが、例えば、文献(Verma, I.M. (1974) In: The Enzymes, Boyer, P.D., ed., Academic Press, NY, 87. 、Kacian, D,L. (1977) Meth. Virol. 6, 143. 、Houts, G.E. et al. (1979) J. Virol. 29, 517. 、Roth, M.J., Tanese, N. and Goff, S.P. (1985) J. Biol, Chem. 260, 9326. 、Tanese, N. and Goff, S. P. : Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 1777(1988) 、Gerard, G.F. and D'Alessio, J. (1993) In: Methods in Molecular Biology, Vol. 16: Enzymes of Molecular Biology, Burrell, M.M., ed., Humana Press, Totowa, NJ, 73. 、Eun, H.-M. (1996) Enzymology Primer for Recombinant DNA Technology, Academic Press, San Diego, CA, 427.)等に基づいて行うことができる。
【0046】
また、上述のように該当領域の塩基配列を直接検出(決定)する方法の他に、検出対象の領域(多型配列)が制限酵素認識部位である場合は、制限酵素切断パターンの相違を利用して、遺伝子型を決定する方法(以下、RFLPという)、多型特異的なプローブを用いたハイブリダイゼーションを基本とする方法(例えば、チップやガラススライド、ナイロン膜上に特定なプローブを張り付け、それらのプローブに対するハイブリダイゼーション強度の差を検出することによって、多型の種類を決定する、あるいは特異的なプローブのハイブリダイゼーションの効率を、鋳型2本鎖増幅時にポリメレースが分解するプローブの量を検出することにより遺伝子型を特定する方法、ある種の2本鎖特異的な蛍光色素が発する蛍光を、温度変化を追うことにより2本鎖融解の温度差を検出し、これにより多型を特定する方法、多型部位特異的なオリゴプローブの両端に相補的な配列を付け、温度によって該当プローブが自己分子内で2次構造をつくるか、ターゲット領域にハイブリダイズするかの差を利用して遺伝子型を特定する方法など)がある。また、さらに鋳型特異的なプライマーからポリメレースによって塩基伸長反応を行わせ、その際に多型部位に取り込まれる塩基を特定する方法(ダイデオキシヌクレオタイドを用い、それぞれを蛍光標識し、それぞれの蛍光を検出する方法、取り込まれたダイデオキシヌクレオタイドをマススペクトロメトリーにより検出する方法)、さらに鋳型特異的なプライマーに続いて変異部位に相補的な塩基対または非相補的な塩基対の有無を酵素によって認識させる方法などを利用することもできる。
【0047】
以下、従来公知の代表的な遺伝子多型の検出方法を列記するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0048】
RFLP(制限酵素切断断片長多型)法、PCR−SSCP法(一本鎖DNA高次構造多型解析)〔Biotechniques, 16, 296-297 (1994)、及びBiotechniques, 21, 510-514 (1996)〕、ASO(Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法〔Clin. Chim. Acta, 189, 153-157 (1990)〕、ダイレクトシークエンス法〔Biotechniques, 11, 246-249 (1991)〕、ARMS(Amplification Refracting Mutation System)法〔Nuc. Acids. Res., 19, 3561-3567 (1991);Nuc. Acids. Res., 20, 4831-4837 (1992)〕、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis;DGGE)法〔Biotechniques, 27, 1016-1018 (1999)〕、RNaseA切断法〔DNA Cell. Biol., 14, 87-94 (1995)〕、化学切断法〔Biotechniques, 21, 216-218 (1996)〕、DOL(Dye-labeled Oligonucleotide Ligation)法〔Genome Res., 8, 549-556 (1998)〕、TaqMan−PCR法〔Genet. Anal., 14, 143-149 (1999);J. Clin. Microbiol., 34, 2933-2936 (1996)〕、インベーダー法〔Science, 5109, 778-783 (1993);J.Biol.Chem., 30,21387-21394 (1999);Nat. Biotechnol., 17, 292-296 (1999)〕、MALDI−TOF/MS法(Matrix Assisted Laser Desorption-time of Flight/Mass Spectrometry)法〔Genome Res., 7, 378-388 (1997);Eur.J.Clin.Chem.Clin.Biochem., 35, 545-548 (1997)〕、TDI(Template-directed Dye-terminator Incorporation)法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 10756-10761 (1997)〕、モレキュラー・ビーコン(Molecular Beacons)法〔Nat. Biotechnol., 1, p49-53 (1998);遺伝子医学、4, p46-48 (2000)〕、ダイナミック・アレル−スペシフィック・ハイブリダイゼーション(Dynamic Allele-Specific Hybridization;DASH)法〔Nat.Biotechnol.,1.p.87-88 (1999);遺伝子医学,4, 47-48 (2000)〕、パドロック・プローブ(Padlock Probe)法〔Nat. Genet.,3,p225-232 (1998) ;遺伝子医学,4, p50-51 (2000)〕、UCAN法〔タカラ酒造株式会社ホームぺージ(http://www.takara.co.jp)参照〕、DNAチップまたはDNAマイクロアレイ(「SNP遺伝子多型の戦略」松原謙一・榊佳之、中山書店、p128-135)、ECA法〔Anal. Chem., 72, 1334-1341, (2000)〕。
【0049】
以上、代表的な遺伝子多型検出方法であるが、本発明のHCV株の評価方法には、これらに限定されず、他の公知または将来開発される検出技術を用いることもできる。また、本発明の目的に応じて、これらの遺伝子多型検出方法を単独で使用してもよいし、また2以上を組み合わせて使用することもできる。
【0050】
さらに、本発明のHCV株の評価方法では、上述したポリヌクレオチドを用いることが好ましいが、塩基配列を検出する方法に限らず、NS3タンパク質のアミノ末端領域におけるアミノ酸配列(配列番号1)の第56位および第86位のアミノ酸残基、またはコアタンパク質のアミノ酸配列(配列番号3)の第70位のアミノ酸残基を直接検出する方法であってもよい。かかる方法としては、被験者(HCV感染患者)から調製したNS3タンパク質またはコアタンパク質についてアミノ酸配列を決定する方法のほか、当該タンパク質を特異的に認識する抗体を用いたウエスタンブロッティング法、ドットブロッティング法、免疫沈降法、酵素結合免疫測定法(ELISA)、および免疫蛍光法等の各種の免疫学的手法を好適に利用することができる。
【0051】
また、本発明者は、高発癌性のHCV株であるか否かを評価するために、「NS3タンパク質のアミノ末端領域における第56位および第86位のアミノ酸残基」、さらに「コアタンパク質における第70位のアミノ酸残基」という3つの指標を見出したが、上述したように、HCVのNS3タンパク質のアミノ末端領域およびコアタンパク質は、上記3つのアミノ酸残基以外の領域は、HCVの種々のゲノタイプおよびサブタイプにおいて比較的よく保存されている。このため、本発明の方法を実施するにあたり、上記指標となる3つのアミノ酸残基以外の部分は、特に考慮する必要はないといえる。
【0052】
このため、本発明に係る方法に利用できるNS3タンパク質のアミノ末端領域および当該タンパク質をコードするポリヌクレオチドとして、以下のものを例示できる。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、NS3タンパク質のアミノ末端領域の機能(例えば、セリンプロテアーゼ酵素活性)を有するタンパク質;
(c)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにコードされるタンパク質;
(d)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、NS3タンパク質のアミノ末端領域の機能(例えば、セリンプロテアーゼ酵素活性)を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(f)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(g)上記(d)〜(f)のポリヌクレオチドのうちいずれかのポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0053】
また、本発明に係る方法に利用できるコアタンパク質および当該タンパク質をコードするポリヌクレオチドとして、以下のものを例示できる。
(a’)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b’)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、コアタンパク質としての機能を有するポリペプチド;
(c’)配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにコードされるタンパク質;
(d’)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e’)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、コアタンパク質としての機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(f’)配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(g’)上記(d’)〜(f’)のポリヌクレオチドのうちいずれかのポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0054】
本明細書において、「1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ペプチド作製法により欠失、置換もしくは付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下、3個以下)のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されることを意味する。このような変異タンパク質は、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するタンパク質に限定されるものではなく、天然に存在するタンパク質を単離精製したものであってもよい。
【0055】
タンパク質のアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このタンパク質の構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけでなく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
【0056】
好ましい変異体は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、または添加を有する。好ましくは、サイレント置換、添加、および欠失であり、特に好ましくは、保存性置換である。これらは、本発明に係るポリペプチド活性を変化させない。
【0057】
代表的に保存性置換と見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、およびIleの中での1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換、ヒドロキシル残基SerおよびThrの交換、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGlnの間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換、ならびに芳香族残基Phe、Tyrの間の置換である。
【0058】
また、本明細書において、上記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも97%の同一性が配列間に存在するときにのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。具体的には、例えば、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄する条件を挙げることができる。
【0059】
ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(2001)に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同性の高いポリヌクレオチドを取得することができる。
【0060】
アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、アルゴリズムBLAST(Karlin S, Altschul SF, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87: 2264-2268 (1990); Karlin S, Altschul SF, Proc. Natl. Acad Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993) )を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al., J. Mol. Biol., 215: 403 (1990) )。
【0061】
このように、本発明に係るHCVの評価方法によれば、高発癌性のウイルス株か否かを簡便かつ正確に評価することができる。
【0062】
<2.本発明に係る肝癌の発症リスクを予測するためのデータ取得方法>
本発明に係る肝癌の発症リスクを予測するためのデータ取得方法は、C型肝炎ウイルス感染者から分離した生体サンプルを用いて、上述したC型肝炎ウイルス株の評価方法を行う工程を含むものであればよく、その他の具体的な構成は限定されない。
【0063】
例えば、本発明に係る肝癌の発症リスクを予測するためのデータ取得方法は、以下の工程(a)および(b)を行うことによって実施できる。
(a)被験者(HCV感染患者)の生体試料からHCV由来のポリヌクレオチド(ゲノムRNAおよびその逆転写DNA産物等)を抽出する工程、および;
(b)上記HCV株の評価方法を実施する工程。
【0064】
ここで、本発明の検査に供することができる生体試料としては、被験者および臨床検体等から単離されたあらゆる細胞(培養細胞を含む。ただし生殖細胞は除く)、組織(例えば、肝臓、腎臓、副腎、子宮、脳など。培養組織を含む)、血液ならびに血液成分(血清、血漿、血球など)、体液(例えば、唾液、リンパ液、気道粘膜、精液、汗、尿等)、毛髪、バイオプシーなどで切除された組織の一部などの生体由来の固体・液体成分を挙げることができる。好ましくは血液または血液成分であり、特に好ましくは血清である。また、肝臓組織も好ましく利用できる。なお、生体から採取された試料を直接使用しても、また何かの処理を加えて調製した試料も本発明の生体試料の対象として使用することができる。これらの材料は、臨床検査において通常用いられる方法に従って単離することができる。
【0065】
被験者としては、好ましくはヒトである。ただし、これに限定されることなく、ヒト以外のHCVに感染する哺乳動物、たとえばチンパンジーやサルなども対象となり得る。なお、被験者は、HCVの既感染者であることが好ましい。例えば、検査により抗HCV抗体が検出されるか、HCV感染者に特徴的な症状または所見を有するか、またはHCV感染の診断基準によりHCV感染が疑われる者を例示できる。
【0066】
生体試料からHCV由来のポリヌクレオチド(ゲノムRNA、逆転写のDNA産物等)の抽出は、当該技術分野で周知の方法(例えば、Sambrook J. et. al., “Molecular Cloning: A Laboratry Manual (2nd Ed.)”Cold Spring Harbor Laboratory, NY)や、市販のRNA抽出キット、DNA抽出キット等を利用して行うことができる。さらに必要に応じて、NS3タンパク質のアミノ末端領域をコードする遺伝子またはコアタンパク質をコードする遺伝子を含むポリヌクレオチドを単離してもよい。当該ポリヌクレオチドの単離は、上記遺伝子にハイブリダイズするプライマーを用いて、ゲノムRNA(またはその逆転写DNA産物)を鋳型としたPCR等に、公知の手法によって行うことができる。
【0067】
具体的には、後述の実施例のように、血清あるいは外科的に切除した肝臓組織からHCVゲノムを含む試料を調製することができる。検査材料となる試料は、血清や肝臓組織のような患者から得られた試料そのもの以外に、血清や肝臓組織からC型肝炎ウイルスをポリエチレングリコール法等によって濃縮し、これを試料として用いることもできる。このようなC型肝炎ウイルスが濃縮された試料を用いる場合、1度のPCR(いわゆるワンステップPCR)で所望の増幅DNA断片が得られる可能性があり、2度のPCR(いわゆるnested PCR)を行う場合に比べて増幅ステップをより簡便にできる可能性がある。
【0068】
なお、試料の調製等は、公知の方法(例えば、Bruce, et al., Geneme Analysis/A laboratory Manual (vol.4), Cold Spring Harbor Laboratory, NY., (1999))を用いて行うことができる。
【0069】
本発明の肝癌の発症リスクを予測するためのデータ取得方法によって、肝癌を発症する潜在的な危険度(リスク)が相対的に高いか否かを判定することができる。肝癌の発症リスクが高いことが判明した被験者に対しては、その旨を告知し、その治療若しくは改善、またはその発症を防ぐための的確な対策を講じることができる。したがって、本発明は、肝癌の早期治療若しくは改善、または発症を予防するための、さらにはその進展(進行)を阻止するための検査方法として極めて有用である。なお、被験者について肝癌の発症(罹患)の有無をも判定するためにも利用できる。
【0070】
本発明に係る方法を利用した検査は、上記の判断基準に基づき、医師等の専門知識を有する者の判断を要することなく、機械的に行うこともできる。このため、本発明の方法は、肝癌(将来的に肝癌を発症するリスク)の検出方法ということもできる。
【0071】
<3.本発明に係るC型肝炎ウイルス株の評価キット>
本発明に係るC型肝炎ウイルス株の評価キットは、C型肝炎ウイルスのNS3タンパク質のアミノ末端領域における第56位および第86位のアミノ酸残基を検出するための試薬を含むものであればよく、その他の構成は特に限定されない。さらに、C型肝炎ウイルスのコアタンパク質における第70位のアミノ酸残基を検出するための試薬を含むものであることが好ましい。
【0072】
すなわち、本HCV株の評価キットは、上述した本発明に係るHCV株の評価方法を実施するためのキットであると換言できる。このため、上記試薬としては、例えば、以下に説明するプローブまたはプライマーを挙げることができる。なお、これらは標識されていても、また固相に固定化されていてもよい。また試薬は、これらプローブまたはプライマーの他、必要に応じてハイブリダイゼーション用の試薬、プローブの標識、ラベル体の検出剤、緩衝液、PCR用の酵素・各種材料など、本発明の検査に必要な他の試薬、器具などを適宜含むものであってもよい。
【0073】
(3−1)プローブ
目的とするNS3タンパク質のアミノ末端領域の第56位と第86位のアミノ酸残基の検出には、当該タンパク質をコードする塩基配列(配列番号2)の166〜168位の塩基配列または256〜258位の塩基を含むオリゴまたはポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズし、当該塩基配列または塩基を検出することができるオリゴまたはポリヌクレオチドを用いることができる。また、コアタンパク質の第70位のアミノ酸残基の検出には、当該タンパク質をコードする塩基配列(配列番号4)の208〜210位の塩基配列の塩基を含むオリゴまたはポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズし、当該塩基配列または塩基を検出することができるオリゴまたはポリヌクレオチドを用いることができる。かかるオリゴまたはポリヌクレオチドは、上記塩基配列を含む16〜500塩基長、好ましくは20〜200塩基長、より好ましくは20〜50塩基長の連続した遺伝子領域と特異的にハイブリダイズするように、上記塩基長を有するオリゴまたはポリヌクレオチドとして設計される。
【0074】
ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(2001)に記載の条件)において、他のDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。好適には当該オリゴまたはポリヌクレオチドは、上記検出する塩基配列または塩基を含む遺伝子領域の塩基配列に対して相補的な塩基配列を有することが望ましい。ただし、特異的なハイブリダイゼーションが可能であれば、完全に相補的である必要はない。
【0075】
上記オリゴまたはポリヌクレオチドとして、具体的には、NS3タンパク質のアミノ末端領域をコードする遺伝子の塩基配列(配列番号2)において、166〜168位に位置する塩基配列を含む16〜500塩基長の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド(ただし、当該ヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)にハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴまたはポリヌクレオチド、または256〜258位に位置する塩基配列を含む16〜500塩基長の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド(ただし、当該ヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)にハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴまたはポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0076】
また、同様に、HCV株のコアタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列(配列番号4)において、208〜210位に位置する塩基配列を含む16〜500塩基長の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド(ただし、当該ヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)にハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴまたはポリヌクレオチドを挙げることができる。なお、これらのオリゴまたはポリヌクレオチドは、配列番号2または4に基づいて、例えば市販のヌクレオチド合成機によって常法に従って調製することができる。
【0077】
さらに好ましくは、後述するように、当該プローブは、放射性物質、蛍光物質、化学発光物質、または酵素等で標識されていてもよい。
【0078】
上記プローブ(オリゴまたはポリヌクレオチド)は任意の固相に固定化して用いることもできる。このため本発明は、上記プローブ(オリゴまたはポリヌクレオチド)を固定化プローブ(例えばプローブを固定化した遺伝子チップ、cDNAマイクロアレイ、オリゴDNAアレイ、メンブレンフィルター等)として提供するものであってもよい。当該プローブは、好適にはHCV株の発癌性を評価するためのRNAチップあるいはDNAチップとして利用することができる。
【0079】
また、固定化に使用される固相は、オリゴまたはポリヌクレオチドを固定化できるものであれば特に制限されることなく、例えばガラス板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ、キャピラリーまたはその他の基板等を挙げることができる。固相へのオリゴまたはポリヌクレオチドの固定は、予め合成したオリゴまたはポリヌクレオチドを固相上に載せる方法であっても、また目的とするオリゴまたはポリヌクレオチドを固相上で合成する方法であってもよい。固定方法は、例えばDNAマイクロアレイであれば、市販のスポッターを利用するなど、固定化プローブの種類に応じて当該技術分野で周知である(例えば、photolithographic技術(Affymetrix社)、インクジェット技術(Rosetta Inpharmatics社)によるオリゴヌクレオチドのin situ合成等)。
【0080】
(3−2)プライマー
本発明に係る評価キットに用いられるプライマー(オリゴヌクレオチド)は、NS3タンパク質のアミノ末端領域をコードする遺伝子(配列番号2)において、その塩基配列の166〜168位または256〜258位のヌクレオチドを含む連続したオリゴまたはポリヌクレオチドの一部に特異的にハイブリダイズし、当該オリゴまたはポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15〜35塩基長、好ましくは18〜30塩基長程度のオリゴヌクレオチドとして設計される。また、コアタンパク質をコードする遺伝子(配列番号4)において、その塩基配列の208〜210位のヌクレオチドを含む連続したオリゴまたはポリヌクレオチドの一部に特異的にハイブリダイズし、当該オリゴまたはポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15〜35塩基長、好ましくは18〜30塩基長程度のオリゴヌクレオチドとして設計される。増幅するオリゴまたはポリヌクレオチドの長さは、用いられる検出方法に応じて適宜設定されるが、一般的には15〜1000塩基長、好ましくは20〜500塩基長、より好ましくは20〜200塩基長である。
【0081】
かかるプライマーとして、具体的には、NS3タンパク質のアミノ末端領域をコードする遺伝子(配列番号2)において、166〜168位に位置するヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド(ただし、当該ヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)にハイブリダイズし、当該オリゴまたはポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15〜35塩基長、好ましくは18〜30塩基長程度のオリゴヌクレオチド、ならびに256〜258位に位置するヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド(ただし、当該ヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)にハイブリダイズし、当該オリゴまたはポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15〜35塩基長、好ましくは18〜30塩基長程度のオリゴヌクレオチドを例示することができる。
【0082】
また、コアタンパク質をコードする遺伝子(配列番号4)において、208〜210位のヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド(ただし、当該ヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)にハイブリダイズし、当該オリゴまたはポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15〜35塩基長、好ましくは18〜30塩基長程度のオリゴヌクレオチドを挙げることができる。なお、これらのオリゴまたはポリヌクレオチドは、配列番号2または4に基づいて、例えば市販のヌクレオチド合成機によって常法に従って調製することができる。
【0083】
また、本発明で使用するプライマーには、その末端に遺伝子異常の検出のためのリンカー配列が付加されたものも含まれる。このようなリンカー配列としては、例えば、オリゴヌクレオチド5’末端に付加される、フラップ(多型近傍の配列とは全く無関係な配列)等が挙げられる。
【0084】
なお、本発明において、特に好ましく利用できるプライマーとして、実施例で使用しているものを挙げることができる。一般的に、HCV遺伝子は変異に富んでいることから、プライマーの設計は困難であるといわれている(換言すれば、標的遺伝子領域の塩基配列がウイルス株ごとに変異しており、プライマーのアニーリング効率が悪い)が、本実施例で使用したプライマーを用いると、目的とするNS3タンパク質のアミノ末端領域の増幅効率が良い(後述の実施例では陽性率90%以上)。また、本実施例で使用したプライマーによって増幅されたDNA断片のサイズは、以後の解析に適した長さである。また、本実施例で使用したプライマーは、他のプライマーに比べて、プライマー内あるいはプライマー間でアニーリング(相補的結合)がおきにくく、標的遺伝子へのアニーリング効率がよい、といった利点がある。
【0085】
(3−3)標識物
上記本発明のプローブまたはプライマーには、遺伝子異常検出のための適当な標識物、例えば蛍光色素、酵素、タンパク質、放射性同位体、化学発光物質、ビオチン等が付加されたものが含まれる。
【0086】
本発明において用いられる蛍光色素としては、一般にヌクレオチドを標識して、核酸の検出や定量に用いられるものが好適に使用でき、例えば、HEX(4,7,2’,4’,5’,7’-hexachloro-6-carboxylfluorescein、緑色蛍光色素)、フルオレセイン(fluorescein)、NED(商品名、Applied Biosystems社製、黄色蛍光色素)、あるいは、6−FAM(商品名、Applied Biosystems社製、黄緑色蛍光色素)、ローダミン(rhodamin)またはその誘導体(例えば、テトラメチルローダミン(TMR))を挙げることができるが、これらに限定されない。蛍光色素でヌクレオチドを標識する方法は、公知の標識法のうち適当なものを使用することができる(Nature Biotechnology, 14, 303-308 (1996)参照)。また、市販の蛍光標識キットを使用することもできる(例えば、Amersham・Pharmacia社製、オリゴヌクレオチドECL 3’−オリゴラベリングシステム等)。
【0087】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではないことを念のため付言する。
【0089】
〔材料と方法〕
(1)患者と血清:
HCV感染肝癌患者および非癌患者の血清を用いた。肝癌の診断は臨床的および組織学的に行って確定した。血清中の抗HCV抗体は市販の検査キット(Ortho HCV Ab ELISA Test III;Ortho Diagnostics)を用いて、B型肝炎ウイルス抗原は検査キット(AUSAB(登録商標) EIA;Abbott Diagnostics)を用いて常法に従って測定した(Doi, H., C. Apichartpiyakul, K. Ohba, M. Mizokami, and H. Hotta. J.Clin. Microbiol. 34:569-574. 1996.)。C型肝炎ウイルス陽性かつB型肝炎ウイルス陰性の患者を解析対象とした。
【0090】
(2)NS3タンパク質のアミノ末端領域の増幅と塩基配列、アミノ酸配列の解析:
血清(140μl)から、市販のキット(RNeasyMini kit;Qiagen)を用いて、RNA(ゲノム)を抽出した。得られたRNAと市販のキット(Superscript One-Step RT-PCR with Platinum Taq;Gibco BRL)およびNS3領域用に開発した外側プライマーセット(配列番号5,6)を用いて、逆転写反応およびファーストPCRを行った。上記PCR法の反応条件は、まず45℃で30分間の逆転写反応を行い、94℃ 2分間で反応を停止した後、94℃、55℃、72℃それぞれ1分間のPCR反応を40サイクル行った。さらに、Pfu DNAポリメラーゼ(Promega)と内側プライマーセット(配列番号7,8)を用いて、94℃で1分間、55℃で1.5分間、72℃で3分間のPCR反応を35サイクル行った(特許文献1)。
【0091】
この方法により、HCV感染者の90%以上から当該NS3タンパク質のアミノ末端解析領域を増幅することができた。増幅断片は市販のキット(QIAquick PCR Purification kit;Qiagen)を用いて精製し、サブクローニングすることなく、そのまま市販のキット(dRhodamine Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction kit)を用いて、ABI377シークエンサー(PE Applied Biosystems)により塩基配列を決定した。その塩基配列をもとにアミノ酸配列を求め、HCVサブタイプ1bのプロトタイプ(HCV−J;登録番号D90208)(Kato, N., Hijikata, M., Ootsuyama, Y., Nakagawa, M., Ohkoshi, S., Sugimura, T. and Shimotohno, K. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 87:9524-9528, 1990.)と比較した。
【0092】
(3)コア領域の増幅と塩基配列、アミノ酸配列の解析:
上記と同様の方法で、血清からRNAを抽出した。得られたRNAについて、HCVのコアタンパク質用に開発した外側プライマーセット(配列番号9,10)を用いて、上記と同じ条件で逆転写反応およびファーストPCRを行った。さらに、Pfu DNAポリメラーゼ(Promega)と内側プライマーセット(配列番号11,12)を用いて、上記と同じ条件でPCR反応を行った。
【0093】
この方法により、HCV感染者の90%以上から当該コアタンパク質の領域を増幅することができた。増幅断片は、NS3タンパク質と同様に、市販のキット(QIAquick PCR Purification kit;Qiagen)を用いて精製し、サブクローニングすることなく、そのまま市販のキット(dRhodamine Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction kit)を用いて、ABI377シークエンサー(PE Applied Biosystems)により塩基配列を決定した。その後、当該塩基配列をもとにアミノ酸配列を求め、HCVサブタイプ1bのプロトタイプ(HCV−J;登録番号D90208)と比較した。
【0094】
(4)統計処理:
得られたデータはχ2テスト独立性の検定、Studentのt検定、Welchのt検定およびMann−Whitney検定により統計処理を行い、P値が0.05以下の場合を有意差ありと判定した。
【0095】
〔結果と考察〕
(1)肝癌患者及び非癌患者から得られたHCVNS3アミノ末端領域のアミノ酸配列の比較:
肝癌患者(122症例)及び非癌患者(102症例)から得られた検体から増幅されたHCVのNS3タンパク質のアミノ末端領域における配列を調べた。肝癌患者122症例のうち72症例(59%)について、NS3タンパク質のアミノ末端領域における56位および86位のアミノ酸残基がそれぞれチロシンおよびグルタミンであるウイルス株(NS3−Y56/Q86)であった(表1)。
【0096】
【表1】

【0097】
一方、非癌患者102症例のうち32症例(31%)がNS3−Y56/Q86株の感染であり、肝癌症例に比べて、NS3−Y56/Q86株の比率が有意に低値であった(P=0.00004)。NS3−Y56/Q86株は224症例中104症例(46%)において検出され、そのうちの72症例(69%)が肝癌であった(表2)。
【0098】
【表2】

【0099】
(2)肝癌患者及び非癌患者から得られたHCVコアタンパク質のアミノ酸配列の比較:
肝癌患者(125症例)及び非癌患者(101症例)から得られた検体から増幅されたHCVのコアタンパク質領域の配列を調べた。肝癌患者125症例のうち60症例(48%)がコアタンパク質の第70位のアミノ酸がグルタミンであるウイルス株(Core−Q70)であった(表3)。
【0100】
【表3】

【0101】
一方、非癌患者101症例のうち24症例(24%)がCore−Q70株の感染であり、肝癌症例に比べて、Core−Q70株の比率が有意に低値であった(P=0.0002)。逆に、非癌患者ではコアタンパク質の第70位のアミノ酸がアルギニンであるウイルス株(Core−R70)が有意に多かった(77症例(76%))。Core−Q70株は226症例中84症例(37%)において検出され、そのうちの60症例(71%)が肝癌であった(表4)。
【0102】
【表4】

【0103】
(3)肝癌患者及び非癌患者から得られたHCVのNS3アミノ末端領域及びコアタンパク質領域のアミノ酸配列による総合的比較:
肝癌患者(122症例)及び非癌患者(100症例)から得られた検体から増幅されたHCVのNS3タンパク質のアミノ末端領域およびコアタンパク質領域の配列を調べ、両者を組み合わせて肝癌との相関を検討した。肝癌患者122症例のうち99症例(81%)がNS3−Y56/Q86株またはCore−Q70株の感染であった(表5)。
【0104】
【表5】

【0105】
一方、非癌患者100症例のうち43症例(43%)がNS3−Y56/Q86株またはCore−Q70株の感染であり、肝癌症例に比べて、NS3−Y56/Q86株またはCore−Q70株の比率が有意に低値であった(P<0.00000001)。NS3−Y56/Q86株またはCore−Q70株は222症例中142症例(64%)において検出され、そのうちの99症例(70%)が肝癌であった(表6)。
【0106】
【表6】

【0107】
肝癌症例ではNS3−Y56/Q86株またはCore−Q70株は全体の81%を占め、それ以外のウイルス株(その他)は19%のみであった(図1)。一方、非癌症例ではNS3−Y56/Q86株またはCore−Q70株は肝癌症例に比べて少なく、それ以外の株(その他)が全体の55%を占めた(図2)。また、同一患者で、数年〜10年間の経過観察により肝癌発症前と発症後の血清が入手できた症例の解析から、NS3−Y56/Q86株およびCore−Q70株は肝癌発症前から患者体内に存在していることが明らかになった。
【0108】
以上をまとめると、NS3−Y56/Q86株およびCore−Q70株は、肝癌発症に密接に関連しており、高発癌性C型肝炎ウイルス株であることが強く示唆された。これらのウイルス株の検出は、C型肝炎ウイルス感染患者の肝癌発症リスクを予測する診断法として有用であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明によれば、以上のように、高発癌性C型肝炎ウイルス株の同定に基づき肝臓癌発症危険性をより正確に予測し得る新たな検査方法を提供することができる。それゆえ、臨床検査・診断などに利用することができ、肝臓癌の早期発見・早期治療にもつながるものである。また、癌疫学調査分野および癌治療のための薬剤の開発等への利用も期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C型肝炎ウイルスのNS3タンパク質のアミノ末端領域における第56位および第86位のアミノ酸残基を検出する工程を含み、
上記第56位のアミノ酸残基がチロシンであり、かつ第86位のアミノ酸残基がグルタミンであることを、高発癌性の指標とすることを特徴とするC型肝炎ウイルス株の評価方法。
【請求項2】
さらに、C型肝炎ウイルスのコアタンパク質における第70位のアミノ酸残基を検出する工程を含み、
上記第70位のアミノ酸残基がグルタミンであることを、高発癌性の指標とすることを特徴とする請求項1に記載のC型肝炎ウイルス株の評価方法。
【請求項3】
上記NS3タンパク質のアミノ末端領域をコードするポリヌクレオチドにおいて、第56位および第86位のアミノ酸残基をコードする塩基配列を検出する工程であることを特徴とする請求項1に記載のC型肝炎ウイルス株の評価方法。
【請求項4】
上記コアタンパク質をコードするポリヌクレオチドにおいて、第70位のアミノ酸残基をコードする塩基配列を検出する工程であることを特徴とする請求項2に記載のC型肝炎ウイルス株の評価方法。
【請求項5】
C型肝炎ウイルス感染者から分離した生体サンプルを用いて、請求項1〜4のいずれかに記載のC型肝炎ウイルス株の評価方法を行う工程を含むことを特徴とする肝癌の発症リスクを予測するためのデータ取得方法。
【請求項6】
C型肝炎ウイルスのNS3タンパク質のアミノ末端領域における第56位および第86位のアミノ酸残基を検出するための試薬を含むことを特徴とするC型肝炎ウイルス株の評価キット。
【請求項7】
以下の(i)〜(iv)いずれかに記載の試薬を含むことを特徴とする請求項6に記載のC型肝炎ウイルス株の評価キット。
(i)配列番号2に記載の塩基配列において、166〜168位に位置する塩基配列を含む16〜500塩基長の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド(ただし、当該ヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)にハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴまたはポリヌクレオチドあるいはその標識物;
(ii)配列番号2に記載の塩基配列において、256〜258位に位置する塩基配列を含む16〜500塩基長の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド(ただし、当該ヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)にハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴまたはポリヌクレオチドあるいはその標識物;
(iii)配列番号2に記載の塩基配列において、166〜168位に位置するヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド(ただし、当該ヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)にハイブリダイズし、当該オリゴまたはポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15〜35塩基長のオリゴヌクレオチドまたはその標識物;
(iv)配列番号2に記載の塩基配列において、256〜258位に位置するヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド(ただし、当該ヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)にハイブリダイズし、当該オリゴまたはポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15〜35塩基長のオリゴヌクレオチドまたはその標識物。
【請求項8】
さらに、C型肝炎ウイルスのコアタンパク質における第70位のアミノ酸残基を検出するための試薬を含むことを特徴とする請求項6または7に記載のC型肝炎ウイルス株の評価キット。
【請求項9】
以下の(v)または(vi)に記載の試薬を含むことを特徴とする請求項8に記載のC型肝炎ウイルス株の評価キット。
(v)配列番号4に示す塩基配列において、208〜210位に位置する塩基配列を含む16〜500塩基長の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド(ただし、当該ヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)にハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴまたはポリヌクレオチドあるいはその標識物;
(vi)配列番号4に示す塩基配列において、208〜210位のヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴまたはポリヌクレオチド(ただし、当該ヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)にハイブリダイズし、当該オリゴまたはポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15〜35塩基長のオリゴヌクレオチドまたはその標識物。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−60914(P2012−60914A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206800(P2010−206800)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構、委託研究(地球規模課題対応国際科学技術協力事業、「抗C型肝炎ウイルス(HCV)物質の同定及びHCVならびにデングワクチンの開発」)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(510249416)
【Fターム(参考)】