説明

C型肝炎治療剤

【課題】シクロスポリンAに比らべて、活性の強さ、血中移行性、選択性、副作用の低減等の改良されたC型肝炎治療剤の提供。
【解決手段】下記の一般式(I)


で示される化合物(I)またはその塩を有効成分とするC型肝炎治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C型肝炎治療剤に関する。さらに詳しくは、C型肝炎ウイルス(以下HCV)レプリコンのRNA複製阻害剤に関する。特に、本発明は、下記の化合物(I)またはその塩を有効成分として含有することを特徴とするC型肝炎治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
HCVの推定キャリア数は全世界で約1.7億人(約3%)、国内でも約150万人にのぼる。治療法の第一選択肢であるインターフェロン(以下IFN)-リバビリン(Virazole)併用療法においても、有効率は全型のHCVを通じて40%、特に国内で多くみられるIFN耐性型のウイルス(genotype 1b)において有効率は15〜20%に過ぎず、一方で副作用の頻度も高い。現行療法ではウイルスの完全駆除は困難である。慢性肝炎が根治できない場合には、肝硬変 (30%)、肝細胞癌 (25%) へと確実に進展する。欧米においてC型肝炎は、肝臓移植の主要なインディケーションになっている。しかしながら、移植後の肝臓においてもHCV再出現の頻度が少なくない。従って、有効性、安全性共に改善され、より抗ウイルス効果が高く、C型肝炎を抑制できる新薬のニーズは、社会的に非常に大きい。
【0003】
HCVは、プラス鎖RNAを遺伝子として持つウイルスで、遺伝子塩基配列の解析からフラビウイルス科(Flaviviridae)に分類される。Fields Virology fourth edition, D. Knipe et al ed., Philadelphia, Lippincott Williams & Wilkins 2001, 1127-1161によればHCVの存在は、1970年代に想定されていたが、その発見は困難を極め非A非B肝炎ウイルスと呼ばれる時代が長く続いた。1989年にChoo Q-L et al., Science 244,359-362 (1989)によって感染実験動物の血清から本ウイルス遺伝子の一部がクローニングされ、そのcDNA配列が同定されて確認されたことによりHCVと名付けられた。ゲノムRNAは、約9,500塩基で、約3,000のアミノ酸残基からなるポリプロテインをコードする読み取り枠を有する。そのポリプロテインにおいて、ウイルス粒子を形成する構造タンパク質はN末側に位置し、コアタンパク質C、2種類のエンベロープタンパク質E1、E2さらに非構造タンパク質NS1の順に並んでいる。ポリプロテインがプロセシングをうけ、それによりウイルスゲノムRNAの複製に必要な複製装置を構成するタンパク質が作られる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シクロスポリン A (Cyclosporin A: Sandimmun) は、免疫抑制剤として臓器移植に使用されている。M. Thali et al., Nature 372, 363-365 (1994) は、シクロスポリンAが、Human Immunodeficiency Virus Type 1 (HIV-1) のウイルス粒子形成タンパク質とシクロフィリンAとの相互作用を阻害して抗HIV-1活性を示すことを報告している。また、シクロスポリンAが、直接的な抗HCV作用を有しているとの報告としては、K. Inoue et al, 6th International Symposium on Hepatitis C and Related Virus. 3-6 June (2000) Bethesda, MD, USA.らの発表がある。但し、今日までこの知見を支持する他のグループの発表はなされていない。
【0005】
臨床においては、免疫抑制剤であるシクロスポリンA の使用は、移植患者におけるHCVの増殖を進展させるというM. Berenguer et al., J. Hepatol 32, 673-684 (2000) らの報告がある。また、肝臓移植においてシクロスポリンAと他の免疫抑制剤についてHCVの再感染を比較したところ、再感染率に差がなかったとするG. Everson, Liver Transplantation 10 Suppl 1:S19-27 (2002)の報告もある。
【0006】
IFNとシクロスポリンAとの併用療法は、IFN単独療法に比べて効果があるとの試験結果が、先述のK. Inoue et al., J. Gastroenterol 38, 567-572 (2003) により示唆されている一方、この報告の追試をおこなったS. Cotler et al., J. Clin. Gastroenterol, 36 352-355 (2003) の研究では、IFNとシクロスポリンAとの併用療法は現行のペグ化 (Pegylated) IFNとリバビリンとの併用治療に比べて効果は劣るという報告がある。しかしながら、本報告において、少数例ではあるが、シクロスポリンAの血中トラフ値の高い症例において比較的良好な治療結果が示されている。
【0007】
こうしたことから、シクロスポリンAに比べて、例えば活性の強さ、血中移行性、選択制、副作用の低減等の改良をなされたC型肝炎治療剤が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の化合物(I)は、下記の式で示され、シクロスポリンAとは化学構造、特に構成アミノ酸の異なる化合物であり、たとえば、特開平5-271267号公報に記載の方法に従って、カビ(Stachybotrys chartaum No. 19392: 寄託番号FERM BP-3364)から生産することができる。
【0009】
【化1】

【0010】
化合物(I)の適当な塩は医薬上許容され得る通常の無毒の塩であり、無機塩基との塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩)、有機塩基との塩(例えば、トリエチルアミン塩、ジイソプロピルエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、エタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N'N'−ジベンジルエチレンジアミン塩等の有機アミン塩)、無機酸付加塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩等)、有機カルボン酸あるいはスルホン酸付加塩(例えば、ギ酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、グルコン酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩等)、塩基性あるいは酸性アミノ酸(例えば、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸等)との塩等の、塩基との塩または酸付加塩が挙げられる。
【0011】
本発明において、化合物(I)またはその塩を有効成分とするHCV治療剤は、経口;舌下;頬;鼻腔;呼吸器;腸管外(皮内、臓器内、皮下、皮膚内、筋肉内、関節内、中心静脈、肝静脈、末梢静脈、リンパ液、心臓、動脈、目周囲への注射を含む眼内、あるいは眼周囲点滴);眼球内、眼球構造、眼球層への点滴;耳管チューブを含む耳、乳頭状空気室、外部及び内部聴覚管、鼓膜、中耳、蝸牛らせんガングリオン、迷路等を含む内耳;腸管;直腸;膣;尿管;膀胱へ投与に適した有機、または無機担体または賦形剤との混合物として含有でき、例えば、固体、半固体、または液体の形の医薬製剤の形態で使用できる。子宮内及び周産適応症についても、母体の血管内、あるいは子宮、子宮頚部、膣を含む母体器官、胎胚、胎児、新生児及び連合組織及び羊膜、臍帯、臍帯動脈及び静脈、胎盤のような空間の中であり、腸管外が好ましいが、これら経路は患者の状態によって変わる。
【0012】
化合物(I)またはその塩を治療剤として単独で投与することは可能であるが、これを処方調剤の一部として利用するのも望ましい。本発明の「HCV治療剤」は少なくとも1つ、あるいはいくつかの適当な有機、または無機担体または賦形剤、あるいは他の薬理学的な治療剤との混合物として含有し、例えば、固体、半固体、または液体の形の医薬製剤の形態で使用でき、有効成分は、例えば、製薬上通常の無毒性担体と混合して、顆粒剤、錠剤、ペレット剤、トロ−チ剤、カプセル剤、坐剤、クリーム剤、軟膏剤、エアゾール剤、吹入用粉剤、注射用液剤、乳剤、または懸濁剤等の液体形態;経口摂取剤;点眼剤;その他の使用に適した任意の形態とすることができる。そして、必要ならば、安定剤、増粘剤、湿潤剤、硬化剤、着色剤等の補助剤;香料または緩衝剤;その他任意の常用添加剤を上記製剤に添加できる。
【0013】
本発明の「HCV治療剤」には、化合物(I)またはその塩を疾患の経過または状態に応じて、所望のHCV抑制効果が得られるのに十分な量を配合する。
【0014】
化合物(I)またはその塩の治療有効投与量は、処置すべき各患者の年齢および状態によって相違し、その治療剤が投与される処方のタイプ及びその投与が行なわれる態様並びに疾患の段階または投与の間隔にも依存するが、通常、治療薬を全組成物の重量の0.1から90%までの量で含んでいる。HCV抑制のためには、腸管外投与に対しては体重1kg当り1日について0.0001mgないし50mg、または好ましくは0.001ないし25mgの量を、そして腸内投与に対しては体重1kg当り1日について0.001ないし100mg、好ましくは0.01ないし60mgの量を与えることができる。しかしながら、これらの投与量は、治療結果を得るためにその上限を超えなければならないこともある。
【0015】
化合物(I)またはその塩は、1個またはそれ以上の不斉炭素原子および二重結合による光学異性体および幾何異性体等の立体異性体を含んでいてもよく、全てのそのような異性体およびそれらの混合物も本発明に含まれる。
【0016】
化合物(I)またはその塩には、溶媒和化合物(例えば、水和物、エタノレート等)も含まれる。
【0017】
化合物(I)またはその塩には、結晶形態、非結晶形態の両方の形態も含まれる。
【0018】
化合物(I)またはその塩には、プロドラッグの形態も含まれる。
【0019】
本発明は、明細書を通じて記載された条件において、HCV治療剤を使用することに関するものである。本発明には、そのために、全ての広告、ラベリング、包装、情報資料、差し込み広告、産物明細、広告資料、文字、パンプレット、雑誌、本等、或いは会話、ファックス、電話、写真、ラジオ、ビデオ、テレビジョン、フィルム、インターネット、e−メール等による情報交換媒体、コンピューターによる情報手段、臨床試験に関する提案、HCV抑制作用についての治療剤を用いた臨床試験のための研究プロトコール等も含まれる。
【0020】
ここに引用される特許明細書および刊行物は、引用されることによって本明細書に包含される。
【0021】
V. Lohmann et al., Science 285,110-113 (1999) は、subgenomic HCV RNA 分子を導入したヒト肝癌細胞株(Huh7)を作製し、その細胞内に導入したがsubgenomic HCV RNAが高率に複製していることを報告している。これらの細胞株でのsubgenomic HCV RNAの複製メカニズムは、HCVが感染している肝細胞内における完全長のHCV RNAゲノムの複製と極めて近似していると考えられている。従って、subgenomic HCV RNAを導入したHuh-7細胞を用いる細胞レベルでのアッセー方法が、本発明であるHCV複製を阻害する化合物(I)またはその塩の活性評価方法のベースとなっている。
【0022】
本発明の化合物(I)またはその塩の有用性を示すために、その試験例を以下に示す。
【実施例】
【0023】
HCVレプリコン複製阻害活性
HCVレプリコン複製に対する阻害作用の評価は細胞からRNA抽出カラムを用いて精製したレプリコンRNAをTaq-Manケミストリーを利用したreal-time RT-PCRで直接定量する事により行った。評価方法はLohmann et al.,Science 285:110(1999)、およびTakeuchi et al, Gastroenterology 116:636-642(1999)に変更を加えたものである。詳細は以下に記した。
【0024】
試験化合物
【0025】
【化2】

【0026】
1)細胞への薬剤添加
HCVレプリコン発現細胞(Kishine et al.,B.B.R.C 293: 993-999 (2002))を6wellマイクロタイタープレート(コーニング社製)に1ウェルあたりに5%ウシ胎児血清およびG418 300μg/ml含有D-MEM 培地2ml中に1.5x10(6)個となるよう調製し播種した。37℃、5%CO2存在下で16時間培養後、試験化合物を溶解した上記D-MEM培地と交換した。
【0027】
2)細胞からのRNA抽出
さらに2日間培養後、RNA抽出カラムRNeasy Mini(Qiagen社製)のプロトコールに従って、細胞からトータルRNAを抽出し、DU800紫外可視分光解析システム(Beckman社製)で吸光度比(260nm/280nm)を測定することによってトータルRNA量を求めた。
【0028】
3)real-time RT-PCR法によるレプリコンRNA量の定量
real-time RT-PCRはHCV 遺伝子の配列の一部を増幅するプライマー、相補するプローブの組み合わせによって行った(すべて宝酒造製)。
2)で抽出したRNAをRNase inhibitor含有NF水にて、25ng/μlに希釈し、2μl ずつ384ウェルPCRプレートに分注した。RT-PCR用の反応液はTaqMan Ez RT-PCR Core Reagent( Applied Biosystems社)をプロトコールに従い混合し、8μl ずつ添加した。
ABI PRISM 7900HT sequence detection system( Applied Biosystems社)にて、RT-PCRを行い、HCVレプリコンRNAの定量を行った。検量線は合成HCV RNAを10倍希釈して用いた。ネガティブコントロールはRNA無添加で反応を行った。
【0029】
4)内在性コントロールRNAの定量
内在性コントロールとして、Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)mRNAを3)と同様にreal-time RT-PCRにより定量した。PrimerおよびprobeはApplied Biosystems社のTaqMan GAPDH control reagentを用いた。検量線はキット添付のコントロールRNAを10倍希釈して用いた。ネガティブコントロールはRNA無添加で反応を行った。
【0030】
細胞毒性の検定
HCVレプリコン発現細胞をレプリコン複製阻害活性の評価系と同一条件で培養し、細胞を0.05%Trypsin-0.5mMEDTAで分散し、0.1%エリスロシン-PBS(-)で染色し、生細胞数を顕微鏡下でカウントした。
【0031】
試験結果
レプリコンRNAの定量値を内在性コントロール(GAPDH)の定量値で補正した値について、コントロール(薬剤無添加群−DMSOのみ)に対して、50%のRNAレベルを示す薬剤濃度をプロットにより算出し、EC50値とした。細胞毒性は生細胞数がコントロール(薬剤無添加群−DMSOのみ)に対して、50%レベルを示す薬剤濃度をプロットにより算出し、CC50値とした。
結果は表1に示した。
【0032】
【表1】

【0033】
上記試験例の結果より、本発明の化合物(I)またはその塩が抗C型肝炎ウイルス活性を有することが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I):
【化1】

で示される化合物(I)またはその塩を有効成分とするC型肝炎治療剤。
【請求項2】
C型肝炎を予防および/または治療するための医薬を製造するための請求項1の化合物(I)またはその塩の使用。
【請求項3】
請求項1の化合物(I)またはその塩をヒトまたは動物に投与することを特徴とするC型肝炎の予防および/または治療方法。
【請求項4】
請求項1の化合物(I)またはその塩がC型肝炎の予防および/または治療に用いられるか、または用いられるべきものであることを記述した能書からなる市販用包装品。

【公開番号】特開2007−15926(P2007−15926A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−346891(P2003−346891)
【出願日】平成15年10月6日(2003.10.6)
【出願人】(000005245)藤沢薬品工業株式会社 (2)
【出願人】(591063394)財団法人 東京都医学研究機構 (69)
【Fターム(参考)】