説明

C2−3オレフィンの製造方法及び製造装置

【課題】本発明は、低級オレフィンを低コスト且つ高収率で製造できる方法を提供することを課題とする。
【解決手段】C1−2炭化水素及びC1−2オキシジェネートからなる群から選択される原料を固体酸触媒に接触させる第1工程;及び第1工程で得られた生成物を固体塩基触媒に接触させる第2工程;を含む、C2−3オレフィンの製造方法により、上記課題を達成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸触媒及び固体塩基触媒を用いて炭化水素又はオキシジェネートを低級オレフィンに変換する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンは、アクロレイン、アクリロニトリル、イソプロピルアルコール、アセトン、グリセリン、クメン、プロピレンオキシド、アリルアルコールなどの合成原料として大量に使用されている。また、プロピレンを重合することにより得られるポリプロピレンは、建築資材や食品容器などの幅広い分野で使用されている。
【0003】
従来からプロピレンを製造する方法は数多く知られており、触媒を使用してエタノールやエチレンなどからプロピレンを製造する方法が報告されている。例えば、特許文献1では、固体酸触媒及びアルミニウム原子含有処理剤を使用して、炭化水素をオレフィンに変換する方法を開示している。特許文献2では、固体酸触媒を使用してオレフィン重合体を製造する方法において、失活した前記触媒を固定床の運転を中止することなく再活性化する方法を開示している。特許文献3では、メタノール又はジメチルエーテルを触媒に接触させることにより生じる生成物から、特定の炭素数を有する生成物を分離し、再利用する方法を開示している。特許文献4では、C3−8アルカンを酸素雰囲気下で酸化して、二酸化炭素、水蒸気、及び未反応アルカンを含む混合ガスを生成させ、前記混合ガスをスチームクラッキング触媒に接触させることによりC3−8アルケンを製造する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−219560号公報
【特許文献2】特開2001−213904号公報
【特許文献3】特開2008−81438号公報
【特許文献4】特開2009−67808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
接触分解反応により低級オレフィンを製造する方法は数多く知られているが、低級オレフィンの製造効率は未だ十分ではない。例えば、特許文献3の方法では、副生成物をリサイクルすることにより目的物の収率を向上させることができるが、副生成物の分離装置が必要となるため、製造コストが上昇する。また、特許文献4の方法では、反応温度が異なる複数の反応を行うため、複数の反応炉が必要となり、製造コストが上昇する。
【0006】
そのため、本発明は、低級オレフィンを低コスト且つ高収率で製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、固体酸触媒と固体塩基触媒を組み合わせて使用することによって、上述の課題を解決できることを見出した。
【0008】
即ち、本発明は以下を包含する。
(1)C1−2炭化水素及びC1−2オキシジェネートからなる群から選択される原料を固体酸触媒に接触させる第1工程;及び
第1工程で得られた生成物を固体塩基触媒に接触させる第2工程;
を含む、C2−3オレフィンの製造方法。
(2)第1工程と第2工程との間で生成物の分離精製工程を含まない、(1)に記載の方法。
(3)固体酸触媒がアルミノシリケートである、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)固体塩基触媒がアルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、又はリン酸塩である、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)原料がエタノールである、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)固体酸触媒を備える第1の反応炉;及び
第1の反応炉に連結した、固体塩基触媒を備える第2の反応炉;
を有する、C2−3オレフィンの製造装置。
(7)上流側に配置された固体酸触媒と下流側に配置された固体塩基触媒とを備える反応炉を有する、C2−3オレフィンの製造装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低コスト且つ高収率で低級オレフィンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例及び比較例におけるエタノール接触分解活性評価を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、C1−2炭化水素及びC1−2オキシジェネートからなる群から選択される原料を固体酸触媒に接触させる第1工程;及び第1工程で得られた生成物を固体塩基触媒に接触させる第2工程;を含む、C2−3オレフィンの製造方法に関する。
【0012】
第1工程では、原料と固体酸触媒との反応により様々な炭素数の化合物を含む混合物が生じるため、低級オレフィンを高収率で得ることはできない。そのため、第2工程において、第1工程で得られた混合物を固体塩基触媒と反応させることにより、混合物中における炭素数の多い化合物がクラッキングされ、低級オレフィンの含有量を増加させることができる。また、第1工程と第2工程の間で副生成物を分離する必要がないため、第1工程と第2工程を連続して行うことができる。これにより、低コストで低級オレフィンを製造することが可能となる。
【0013】
固体酸触媒とは、陽子供与体又は電子受容体として機能する固体の触媒であり、例えば、シリカアルミナ、通常の酸を担体に付着させた固形化酸(例えば、シリカゲルやアルミナに硫酸やリン酸などを付着させたもの)、酸化アルミニウム、酸化バナジウムなどを挙げることができる。特に限定するものではないが、固体酸触媒としてゼオライト、特にアルミノシリケート又はシリコアルミノリン酸塩を使用することが好ましい。
【0014】
アルミノシリケートとしては、例えば、MFI型ゼオライト、MEL型ゼオライト、FER型ゼオライト、MOR型ゼオライト、CHA型ゼオライト、TON型ゼオライトなどを挙げることができる。特に限定するものではないが、MFI型ゼオライトを使用することが好ましく、ZSM−5型ゼオライトを使用することが特に好ましい。
【0015】
アルミノシリケートにおけるSiとAlとの比率は特に限定されないが、触媒の活性を維持する観点などから、SiO/Al(モル比)が20〜1000であることが好ましく、30〜400であることが特に好ましい。SiO/Al(モル比)は公知の方法を使用して測定することができる。例えば、アルミノシリケートをアルカリ水溶液に溶解し、プラズマ発光分光分析法により分析する方法などを挙げることができる。
【0016】
シリコアルミノリン酸塩としては、例えば、SAPO−5、SAPO−11、SAPO−14、SAPO−17、SAPO−18、SAPO−34、SAPO−39、SAPO−42などを挙げることができる。特に限定するものではないが、酸素8員環で規定される細孔入口を有するシリコアルミノリン酸塩を使用することが好ましく、チャバサイト型のシリコアルミノリン酸塩を使用することがより好ましく、SAPO−34を使用することが特に好ましい。
【0017】
アルミノシリケート及びシリコアルミノリン酸塩は、Si及びAl以外に任意の金属原子を含んでいてもよい。例えば、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、鉛(Pb)などを含んでいてもよい。
【0018】
固体塩基触媒とは、固体状態でその表面が塩基性を示す物質であり、例えば、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、並びにこれらを含む混合酸化物などを挙げることができる。より具体的には、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、ハイドロタルサイトなどを挙げることができる。
【0019】
本発明ではC1−2炭化水素又はC1−2オキシジェネートを原料として使用する。C1−2炭化水素としては、例えば、メタン、エタン、エチレン、アルキレンなどを挙げることができる。C1−2オキシジェネートとしては、例えば、メタノール、エタノール、ジメチルエーテル、ホルムアルデヒド、ギ酸、酢酸などを挙げることができる。特に限定するものではないが、原料としてエタノールを使用することが好ましい。
【0020】
原料はそのまま供給してもよいし、希釈ガスとの混合ガスとして供給してもよい。希釈ガスとしては原料が気体で存在する条件下において気体で存在し、原料からC2−3オレフィンへの変換に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。例えば、不活性ガスの窒素やアルゴンなどを使用することができる。工業的に利用するためには原料を高濃度で使用することが好ましい。例えば、原料濃度(モル比)が50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
【0021】
本発明により製造されるC2−3オレフィンとしては、エチレン及びプロピレンを挙げることができる。
【0022】
反応温度は、原料及び第1工程における生成物が効率的且つ選択的に低級オレフィンに変換されれば特に限定されないが、例えば、300〜700℃が好ましく、400〜600℃が特に好ましい。第1工程と第2工程における反応温度は同一でもよいし、異なっていてもよい。製造コストの観点からは、第1工程と第2工程を同一の反応温度で行うことが好ましい。
【0023】
原料から低級オレフィンへの変換は、生成したガスをガスクロマトグラフィーで分析することにより確認することができる。
【0024】
本発明はC2−3オレフィンの製造装置にも関する。本発明の製造装置は、固体酸触媒を備える第1の反応炉;及び第1の反応炉に連結した、固体塩基触媒を備える第2の反応炉;を有する。原料は初めに第1の反応炉に供給され、第1の反応炉で生じた生成物が第2の反応炉に移行する。
【0025】
本発明の製造装置は、固体酸触媒及び固体塩基触媒を備えた単一の反応炉を有していてもよい。この場合、反応炉の上流側に固体酸触媒を配置し、下流側に固体塩基触媒を配置することにより、原料を初めに固体酸触媒と反応させ、続いて固体塩基触媒と反応させることができる。単一の反応炉を使用することにより設備コストを低減することができる。また、反応温度を維持するためのエネルギーが、複数の反応炉を使用する場合と比較して少ないため、製造コストを低減することもできる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0027】
実施例1
固体酸触媒:
0.5gのNH−ZSM−5型ゼオライト(東ソー製、SiO/Alモル比 39)を活性評価に使用した。
【0028】
固体塩基触媒:
20gの塩化マグネシウム6水和物を100mlのイオン交換水に溶解させ、攪拌しながら10%アンモニア水を40ml滴下した。得られた沈殿物を濾別し、乾燥し、空気雰囲気下において600℃で1時間焼成して、白色粉末の酸化マグネシウムを得た。1gの酸化マグネシウムを活性評価に使用した。
【0029】
活性評価:
固定床の流通型反応装置を用いて、エタノール接触分解反応を測定した。反応炉の上流側にNH−ZSM−5型ゼオライトを充填し、下流側に酸化マグネシウムを充填した。1分間で278mlの気化エタノール+窒素混合ガス(EtOH:N=90:10)を前記触媒に500℃で接触させた。生成したガスをガスクロマトグラフィーで分析した。
【0030】
炭素収率は以下の式により算出した。
炭素収率(%)=[生成ガスのモル数×各成分1モル当たりの炭素数/(供給エタノールのモル数×2)]×100
【0031】
実施例2
固体塩基触媒として、1gの酸化マグネシウム(和光純薬工業株式会社製)を使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0032】
実施例3
固体塩基触媒として、1gのハイドロキシアパタイト(和光純薬工業株式会社製)を使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0033】
実施例4
固体塩基触媒として、酢酸カルシウム1水和物(ナカライテスク製)を空気雰囲気下において600℃で1時間焼成して得られた白色粉末を1g使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0034】
比較例1
固体塩基触媒を使用しない以外は実施例1と同様の操作を行った。
実施例1〜4及び比較例1におけるエタノール接触分解活性評価を表1及び図1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
固体塩基触媒を併用することで、炭素数4以上のオレフィン生成量が減少し、エチレン及びプロピレンの生成量が向上した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1−2炭化水素及びC1−2オキシジェネートからなる群から選択される原料を固体酸触媒に接触させる第1工程;及び
第1工程で得られた生成物を固体塩基触媒に接触させる第2工程;
を含む、C2−3オレフィンの製造方法。
【請求項2】
第1工程と第2工程との間で生成物の分離精製工程を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
固体酸触媒がアルミノシリケートである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
固体塩基触媒がアルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、又はリン酸塩である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
原料がエタノールである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
固体酸触媒を備える第1の反応炉;及び
第1の反応炉に連結した、固体塩基触媒を備える第2の反応炉;
を有する、C2−3オレフィンの製造装置。
【請求項7】
上流側に配置された固体酸触媒と下流側に配置された固体塩基触媒とを備える反応炉を有する、C2−3オレフィンの製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−254951(P2012−254951A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128407(P2011−128407)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】