説明

C2−4オレフィンの製造方法

【課題】本発明は、特定の分子を選択的に製造することができ、且つ寿命の長い触媒を提供することを課題とする。
【解決手段】上記課題は、アルカリ処理した後にシリル化したアルミノシリケート触媒によって解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C2−4オレフィン、特にプロピレンの製造方法、及び前記方法に使用するための触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンは、アクロレイン、アクリロニトリル、イソプロピルアルコール、アセトン、グリセリン、クメン、プロピレンオキシド、アリルアルコールなどの合成原料として大量に使用されている。また、プロピレンを重合することにより得られるポリプロピレンは、建築資材や食品容器などの幅広い分野で使用されている。
【0003】
従来から、触媒を使用してエタノールやエチレンからプロピレンを製造する方法が報告されている。触媒としては様々なものが知られており、例えば、アルカリ処理したゼオライト触媒などが知られている(非特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Applied Catalysis A: General 219 (2001) 33-43
【非特許文献2】第106回触媒討論会E407
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ゼオライト触媒をアルカリ処理することにより、メソ孔を形成し、吸着物質の拡散性を向上させることができる。これにより、コーキングによる触媒の失活を抑制し、触媒の寿命を延ばすことができる。しかしながら、メソ孔を形成することにより触媒の外表面の面積が増加し、外表面上の活性点が増加してしまう。ゼオライトの細孔中では、分子ふるい効果によって目的のサイズの分子を選択的に生成することができるが、外表面上では分子サイズを制御することが困難である。
【0006】
そのため、本発明は特定の分子を選択的に製造することができ、且つ寿命の長い触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、アルカリ処理により増加した外表面上の活性点をシリル化して不活性化させることにより、特定のサイズの分子を選択的に生成できることを見出した。
【0008】
即ち、本発明は以下を含む。
(1)アルカリ処理した後にシリル化したアルミノシリケート触媒に炭化水素及びオキシジェネートからなる群から選択される原料を接触させることを含む、C2−4オレフィンの製造方法。
(2)アルミノシリケート触媒が更にリンで修飾されている、(1)に記載の方法。
(3)原料がメタノール又はエタノールである、(1)又は(2)に記載の方法。
【0009】
(4)C2−4オレフィンがプロピレンである、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)炭化水素及びオキシジェネートからなる群から選択される原料をC2−4オレフィンに変換するための、アルカリ処理した後にシリル化したアルミノシリケート触媒。
(6)更にリンで修飾されている、(5)に記載のアルミノシリケート触媒。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特定のサイズの分子を選択的に生成することができ、且つ寿命の長い触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】反応時間とプロピレン収率との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
1.アルミノシリケート触媒
本発明は、アルカリ処理し、その後シリル化したアルミノシリケート触媒に関する。
【0013】
アルミノシリケートは分子レベルの細孔を有しており、細孔内表面には内表面活性点が存在する。一方、アルミノシリケートの外表面には外表面活性点が存在する。細孔は一定の径を有しているため、内表面活性点では特定のサイズの分子が生成する。一方、外表面活性点では細孔による分子ふるい効果が発揮されないため、細孔径よりも大きな副生成物(例えば、炭素数が5以上の炭化水素など)が多く生成する。
【0014】
アルミノシリケートをアルカリ処理することにより、メソ孔が形成され、吸着物質の拡散性が向上する。これにより、コーキングによる触媒の失活を抑制し、触媒の寿命を延ばすことができる。しかし、アルカリ処理をすると、外表面の面積が増加し、外表面活性点が増加する。そのため、アルカリ処理した触媒をシリル化することにより、外表面活性点を不活性化する。これにより、コークの原因となる高分子の生成を抑制し、触媒のコーキング劣化を抑制することができる。また、分子ふるい効果を発揮する内表面活性点における反応のみを進行させることにより、目的の分子を選択的に生成することができる。
【0015】
アルミノシリケートとしては、例えば、MFI型ゼオライト、MEL型ゼオライト、FER型ゼオライト、MOR型ゼオライト、CHA型ゼオライト、TON型ゼオライトなどを挙げることができる。特に限定するものではないが、MFI型ゼオライトを使用することが好ましく、ZSM−5型ゼオライトを使用することが特に好ましい。
【0016】
アルミノシリケートにおけるSiとAlとの比率は特に限定されないが、触媒の活性を維持する観点などから、SiO/Al(モル比)が20〜1000であることが好ましく、30〜400であることが特に好ましい。SiO/Al(モル比)は公知の方法を使用して測定することができる。例えば、アルミノシリケートをアルカリ水溶液に溶解し、プラズマ発光分光分析法により分析する方法などを挙げることができる。
【0017】
アルカリ処理の方法としては特別な方法を使用する必要はなく、例えば、アルミノシリケートとアルカリ性を示す物質とを混合するだけでもよい。アルカリ性を示す物質としては、例えば、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物及び酸化物などを挙げることができる。特に限定するものではないが、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物を使用することが好ましく、アルカリ金属の水酸化物を使用することがより好ましく、水酸化ナトリウムを使用することが特に好ましい。前記化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
アルカリ処理したアルミノシリケートに対してイオン交換を行ってもよい。イオン交換のために、例えば、硝酸アンモニウムなどを使用することができる。
【0019】
シリル化の方法としては特別な方法を使用する必要はなく、例えば、アルカリ処理したアルミノシリケートとシラン化合物とを混合するだけでもよい。シラン化合物は、内表面活性点を不活性化させることなく、外表面活性点のみを不活性化させるために、アルミノシリケートの細孔径よりも分子サイズの大きなものを使用することが好ましい。
【0020】
シラン化合物としては、例えば、アルコキシシラン、クロロシランなどの反応性の高い化合物を挙げることができる。
【0021】
特に限定するものではないが、以下の式(I):
−Si―R4−x (I)
[式中、
はアルコキシ基であり;
はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、ビニル基、又はアリール基であり;
xは1〜4の整数である]
で表されるアルコキシシランを使用することが好ましい。
【0022】
好ましい実施形態では、RはC1−6アルコキシ基であり、Rはそれぞれ独立して、水素、C1−6アルキル基、ビニル基、又はフェニル基であり、xは1〜4の整数である。
【0023】
更に好ましい実施形態では、RはC1−3アルコキシ基であり、Rはそれぞれ独立して、水素、又はC1−3アルキル基であり、xは1〜4の整数である。
【0024】
特に好ましい実施形態では、RはC1−3アルコキシ基であり、xは4である。具体的には、テトラエトキシシランを使用することが特に好ましい。
【0025】
シラン化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
アルカリ処理及びシリル化をしたアルミノシリケート触媒を更にリンで修飾してもよい。リンで修飾することにより、触媒のコーキング劣化を更に抑制することができる。
【0027】
リンによる修飾の方法としては特別な方法を使用する必要はなく、例えば、アルカリ処理及びシリル化したアルミノシリケート触媒とリン化合物とを混合するだけでもよい。リン化合物としては、特に限定されず、無機リン化合物及び有機リン化合物のいずれも使用することができる。特に、無機リン酸塩が好ましく、例えば、第一リン酸ナトリウム、第二リン酸ナトリウム、第三リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、第一リン酸カリウム、第二リン酸カリウム、第三リン酸カリウム、ピロリン酸カリウム、第一リン酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム、第三リン酸アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム、リン酸2水素アンモニウム、リン酸3アンモニウム、第一リン酸カルシウム、リン酸水素アンモニウムナトリウム、ピロリン水素ナトリウム、ピロリン酸水素カリウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸アンモニウムなどを挙げることができる。リン化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
リン化合物の使用量は特に限定されないが、触媒の寿命を延長させる観点から、アルミノシリケート触媒を基準として、例えば0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜6重量%、特に好ましくは1〜4重量%である。
【0029】
2.低級オレフィンの製造方法
本発明は、炭化水素及びオキシジェネートからなる群から選択される原料を前記触媒に接触させることによって、C2−4オレフィンを製造する方法にも関する。
【0030】
炭化水素としては、例えば、C2−20アルカン及びC2−20アルケン、好ましくはC2−10アルカン及びC2−10アルケンなどを挙げることができる。オキシジェネートとしては、例えば、アルコール、エーテル、カルボニル化合物(アルデヒド、ケトン、カルボン酸、カーボネートなど)、好ましくはC1−20アルコール、C2−20エーテル、C1−20カルボニル化合物、より好ましくはC1−10アルコール、C2−10エーテル、C1−10カルボニル化合物などを挙げることができる。
【0031】
炭化水素及びオキシジェネートのより具体的な例としては、例えば、ブタン、ヘキサン、エチレン、メタノール、エタノール、プロパノール、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル、ホルムアルデヒド、ジメチルケトン、酢酸、ジメチルカーボネートなどを挙げることができる。特に限定するものではないが、原料としてメタノール、又はエタノールを使用することが特に好ましい。
【0032】
原料はそのまま供給してもよいし、希釈ガスとの混合ガスとして供給してもよい。希釈ガスとしては原料が気体で存在する条件下において気体で存在し、原料からC2−4オレフィンへの変換に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。例えば、不活性ガスの窒素やアルゴンなどを使用することができる。工業的に利用するためには原料を高濃度で使用することが好ましい。例えば、原料濃度(モル比)が50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
【0033】
本発明により製造されるC2−4オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレンなどを挙げることができる。特に限定するものではないが、プロピレンを製造することが好ましい。
【0034】
反応温度は、原料が効率的且つ選択的に低級オレフィンに変換されれば特に限定されないが、例えば、200〜700℃が好ましく、300〜600℃が特に好ましい。
【0035】
原料から低級オレフィンへの変換は、生成したガスをガスクロマトグラフィーで分析することにより確認することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0037】
比較例1
NH型のZSM−5ゼオライト(東ソー製、SiO/Alモル比 39)を未処理のまま以下のエタノール変換活性評価に使用した。
【0038】
比較例2
アルカリ処理:
NH型のZSM−5ゼオライト(東ソー製、SiO/Alモル比 39)を空気雰囲気下、550℃で2時間加熱し、H型とした。テフロンビーカーに0.2Mの水酸化ナトリウム水溶液を調製し、2gの前記ゼオライトを加え、80℃で30分間攪拌した。ゼオライトをろ過し、pHが中性になるまでイオン交換水で洗浄し、105℃で10時間乾燥した。
イオン交換:
得られたゼオライトを1Mの硝酸アンモニウム水溶液に加え、80℃で2時間攪拌した後、ゼオライトをろ過した。この操作を3回繰り返し、NH型のZSM−5ゼオライトとした(以下「アルカリ処理ゼオライト」という)。
【0039】
比較例3
アルカリ処理において、水酸化ナトリウム水溶液中での攪拌を80℃で120分行った以外は比較例2と同様の操作を行った。
【0040】
比較例4
アルカリ処理において、水酸化ナトリウム水溶液中での攪拌を80℃で240分行った以外は比較例2と同様の操作を行った。
【0041】
実施例1
シリル化:
比較例2で調製したアルカリ処理ゼオライトを空気雰囲気下、550℃で2時間攪拌し、H型とした。20mlのn−ヘキサンに0.67gのテトラエトキシシランを溶解し、前記ゼオライトを加え、60℃で還流させて1時間攪拌した。ゼオライトをろ過し、20mlのヘキサンで3回洗浄し、90℃で1時間乾燥させた。その後、空気雰囲気下、550℃で1時間焼成した(以下「アルカリ処理シリル化ゼオライト」という)。
【0042】
実施例2
リン修飾:
10mlの水に0.054gのリン酸水素2アンモニウムを溶解し、2gのアルカリ処理シリル化ゼオライトを加え、80℃で還流させて1時間攪拌させた。その後、大気開放し、1時間かけて水を蒸発させ、105℃で10時間乾燥した。
【0043】
実施例3
リン酸水素2アンモニウムを0.108g使用した以外は実施例2と同様の操作を行った。
【0044】
エタノール変換活性評価
固定床の流通型反応装置を用い、実施例1〜3及び比較例2〜4で調製した触媒、並びに比較例1の未処理触媒のエタノール接触分解反応を測定した。気化エタノール+窒素混合ガス(EtOH:N=50:50)を空間速度(WHSV)が34.2h−1(エタノール)となるように、0.5gの触媒に500℃で接触させた。反応開始後15分の生成ガスをガスクロマトグラフィーで分析し、その後1時間おきに5時間まで測定した。
【0045】
炭素収率は以下の式により算出した。
炭素収率(%)=[生成ガスのモル数×各成分1モル当たりの炭素数/(供給エタノールのモル数×2)]×100
結果を表1〜7及び図1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【表6】

【0051】
【表7】

【0052】
アルカリ処理、シリル化、及びリン修飾を行うにつれて、プロピレン収率を維持する時間が延長された。また、リン修飾の程度によって、初期プロピレン収率の向上(実施例3)、又は長期プロピレン収率の維持(実施例2)が可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ処理した後にシリル化したアルミノシリケート触媒に炭化水素及びオキシジェネートからなる群から選択される原料を接触させることを含む、C2−4オレフィンの製造方法。
【請求項2】
アルミノシリケート触媒が更にリンで修飾されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
原料がメタノール又はエタノールである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
2−4オレフィンがプロピレンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
炭化水素及びオキシジェネートからなる群から選択される原料をC2−4オレフィンに変換するための、アルカリ処理した後にシリル化したアルミノシリケート触媒。
【請求項6】
更にリンで修飾されている、請求項5に記載のアルミノシリケート触媒。

【図1】
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【公開番号】特開2012−254405(P2012−254405A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128459(P2011−128459)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】