CA−IX特異的阻害剤
【課題】哺乳類サンプルにおいて前癌細胞あるいは癌細胞を検出する方法を提供する。
【解決手段】哺乳類サンプルに、標識または可視化手段に結合したMN/CA IX特異的阻害剤を接触させ、さらに該サンプル中の細胞上の前記標識または可視化手段を検出または検出および定量することにより、該サンプル中の細胞へのMN/CA IX特異的阻害剤の結合を検出または検出および定量する工程を含み、前記サンプルでの検出または検出および定量のレベルが対照サンプルにおけるものよりも高かった場合に、該サンプル中に前癌細胞あるいは癌細胞が存在することが示唆されることを特徴とする方法。
【解決手段】哺乳類サンプルに、標識または可視化手段に結合したMN/CA IX特異的阻害剤を接触させ、さらに該サンプル中の細胞上の前記標識または可視化手段を検出または検出および定量することにより、該サンプル中の細胞へのMN/CA IX特異的阻害剤の結合を検出または検出および定量する工程を含み、前記サンプルでの検出または検出および定量のレベルが対照サンプルにおけるものよりも高かった場合に、該サンプル中に前癌細胞あるいは癌細胞が存在することが示唆されることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療遺伝学の一般的分野、ならびに、化学、生化学工学および腫瘍学の分野に関する。さらに特定すると、本発明は、有機化合物および無機化合物、特に、芳香環式および複素環式スルホンアミド類を使用し、オンコプロテイン(現在では、MNタンパク質、MN/CA-IXイソ酵素(アイソザイム)、MN/G250タンパク質、あるいは単にMN/CAまたはCA-IXまたはMNと称されている)の炭酸脱水酵素活性を特異的に阻害することにより、腫瘍発生前および/または腫瘍性疾患を治療することに関する。本発明は、MN/CA-IXを過剰発現することによって特徴付けられる腫瘍発生前および/または腫瘍性疾患に対して、細胞膜不透過性のMN/CA-IX阻害剤、好ましくは芳香環式および複素環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体類を投与することによって治療する方法にも関する。さらに本発明は、開示されている強力なCA-IX特異的阻害剤を使用した造影法を含む、腫瘍発生前/腫瘍性疾患のための診断/予後診断法、ならびに、該阻害剤に結合(conjugated)したベクターを用いた遺伝子治療に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の発明者であるシルビア・パストレコヴァ(Silvia Pastrekova)博士およびヤロミール・パストレック(Jaromir Pastorek)博士は、ヤン・ザバダ(Jan Zavada)博士と共に(「ザバダ(Zavada)ら」と称する)、元々MNという名が付けられていた癌関連細胞表面タンパク質MN/CA-IXを発見した(参考文献番号72、123)(特許文献1)。特許文献2および特許文献3は、MN遺伝子およびタンパク質の発見、ならびに、MN遺伝子の発現と腫瘍形成性との間の強固な関連性の発見により、癌および前癌状態に対する診断/予後診断ならびに治療のための方法の開発に至ったことについて開示している。さらにザバダ(Zavada)らは、特許文献4にMN/CA-IXタンパク質およびMN/CA9遺伝子の詳細について開示している。
【0003】
ザバダ(Zavada)らは、MN cDNAおよび遺伝子をクローニング、シークエンスし、MNが、二酸化炭素を重炭酸塩と陽子に転換する反応を可逆的に触媒する酵素である炭酸脱水酵素ファミリーに属することを明らかにした(参考文献番号66、72)。MNタンパク質(炭酸脱水酵素IX、CA-IXと改名)は、N-末端プロテオグリカン様領域および触媒活性炭酸脱水酵素ドメインを含む細胞外部分で構成されている。該タンパク質は、1個の膜透過領域および短い細胞質内尾部によって原形質膜に繋ぎ止められている。
【0004】
CA-IXの発現は、正常組織においてはごくわずかの組織に限定されている(参考文献番号74)が、腫瘍とは密接な関係がある(参考文献番号123)。発現は、イン・ビトロ(in vitro)においては細胞密度によっても制限され(参考文献番号52)、また、イン・ビトロ(in vitro)およびイン・ビボ(in vivo)においては腫瘍の低酸素症によっても強く誘導される(参考文献番号121)。CA-IX値を予後が良くないことの指標として記述している医学文献が多数存在する。CA-IXに関連する研究はすべて、CA-IXが診断および/または予後診断の腫瘍マーカーとして、ならびに治療標的として有用であるというザバダ(Zavada)らが最初にたてた仮説(特許文献1)を支持するために行われたにすぎない。
【0005】
MN/CA-IXは、CA類に特徴的なN-末端プロテオグリカン様ドメイン、活性の高いCA触媒ドメイン、1個の膜透過領域、および短い細胞質内尾部を有する(参考文献番号66、72、74、116)。CA-IXは、子宮頸管、卵巣、腎臓、肺、食道、乳房、結腸、子宮内膜、膀胱、結腸直腸、前立腺、ヒトのその他の腫瘍に由来する多数の癌において異所性発現をすることに関して特に興味が持たれており、これは、正常組織においては、胃腸管上皮などに発現が制限されていることとは対照的である(参考文献番号8、11、21、35、41、48、50、51、56、66、72、74、86、110、111、113、116、121、122)。
【0006】
1997年発行の非特許文献1は、G250抗原がMN/CA-IXと同一物であることを報告しているが、これは、ザバダ(Zavada)らがMN/CA-IXを発見し、シークエンスを行って(参考文献番号73、123)から何年も後のことであった。(非特許文献2および非特許文献3も参照)非特許文献1には、「配列分析およびデータベース検索により、G250抗原は、子宮頸管腫瘍において確認されたMNヒト腫瘍関連抗原(非特許文献2)と同一物であることが明らかになった」と記載されている。
【0007】
MN/CA9およびMN/CA-IX−配列の類似性
図1A〜Cは、1522塩基対(bps)からなるMN/CA9 cDNA配列の全長(配列番号1)および459個のアミノ酸から構成されるMN/CA-IXアミノ酸(aa)配列の全長(配列番号2)を示す。図2A〜Fは、10,898bpからなるMN/CA9のゲノム配列(配列番号3)を示す。
【0008】
DNASISおよびPROSIS(ファルマシア・ソフトウェア・パッケージズ( Pharmacia Software packages )社)を利用してMNcDNA配列のコンピュータ分析を行った。GenBank、EMBL、Protein Identification PesourceおよびSWISS-PROTデータベースについて、配列の類似性の可能性を調査した。さらに、MNと類似した配列を有するタンパク質の検索についても、FastAプログラムを用いてMIPSデータバンクについて行った(参考文献番号75)。
【0009】
シグナルペプチドとCAドメインとの間に存在するプロテオグリカン様ドメイン(アミノ酸番号53〜111;配列番号4)は、ヒトのプロテオグリカンアグリカンの大きな凝集塊のケラタン硫酸接着ドメインと顕著な相同性を示した(同一性38%、可能性44%)(参考文献番号28)。
【0010】
CAドメイン(アミノ酸番号135〜391;配列番号5)は、265個のアミノ酸から構成されており、ヒトCA-VIアイゾザイムとのアミノ酸同一性は38.9%であった(参考文献番号5)。MN/CA-IXとその他のアイソザイム類との相同性は以下の通りであった:CA-IIとは35.2%(アミノ酸重複数261個)(参考文献番号63)、CA-Iとは31.8%(アミノ酸重複数261個)(参考文献番号7)、CA-IVとは31.6%(アミノ酸重複数266個)(参考文献65)、CA-IIIとは30.5%(アミノ酸重複数259個)(参考文献番号55)。
【0011】
CAドメインのほかに、MN/CA-IXは、N-末端伸長部およびC-末端伸長部を有するが、これらは他のCAアイソザイムには存在していない。膜透過領域(膜透過固定部)および細胞質内尾部を有するC-末端部分のアミノ酸配列は、既知の如何なるタンパク質配列ともはっきりした相同性を示さなかった。
【0012】
MN遺伝子(MN/CA9またはCA9)は、ヒトゲノム由来の新規の配列であることが明らかになった。MN/CA9のcDNA配列と別異のCAアイソエンザイムをコードしているcDNA配列との間の配列全体の相同性は48〜50%であり、当業者の判断では低いとみなされる。故に、MN/CA9のcDNA配列は、如何なるCAのcDNA配列とも近似していない。
【0013】
MNタンパク質を一定量以上発現する正常組織は非常に少ないことがわかっている。そのようなMN発現性正常組織としては、ヒト消化管粘膜および胆嚢上皮、ならびに消化管のその他いくつかの正常組織が挙げられる。矛盾しているようではあるが、MN遺伝子の発現は、正常状態でMNを発現している組織(例えば、消化管粘膜など)においては、腫瘍およびその他の腫瘍発生前/腫瘍性疾患においては消失または減少することがわかっている。
【0014】
CA-IXおよび低酸素症
CA-IXの発現と腫瘍内低酸素症(微小電極によって測定、または低酸素症マーカー物質であるピモニダゾール(pimonidazole)の取込によって検出、あるいは壊死の程度によって評価)との間には強い関係があることが子宮頸管、乳房、頭および首、膀胱ならびに非小細胞性肺癌(NSCLC)において示されている(参考文献番号8、11、21、35、48、56、111、122)。さらに、NSCLCおよび乳癌においては、血管形成、アポトーシス阻害および細胞−細胞間接着破壊に関与しているタンパク質の型とCA-IXとの間に相関関係が観察されており、該酵素の強い関与が、臨床転帰が良くないことの一因であると考えられる(参考文献番号8)。低酸素症は、腫瘍の浸潤を助長させる細胞外環境の酸性化に関係しており、そのような過程の中において、CA-IXは、その触媒活性を介して作用するものと考えられる(参考文献番号86)。従って、特異的阻害剤を用いてMN/CA-IXを阻害することは、CA-IXを発現している癌の治療に対して新規な方法を確立するものである。
【0015】
CAI類
非特許文献4においては、CA阻害剤(CAI)の基本型であるアセタゾラミドは、別異の細胞毒性物質と組み合わせることによって抗癌治療における調節物質として作用することが報告されており、そのような細胞毒性物質としては、アルキル化剤;ヌクレオシドアナログ類;プラチナ誘導体類、ならびに、いくつかの腎腫瘍細胞系(Caki-1、Caki-2、ACHNおよびA-498)に対して腫瘍転移を抑制し、浸潤能を低下させるようなその他の物質などが挙げられる。そのような研究においては、CAIは、ひとつまたはそれ以上のCAアイソザイム類を過剰発現する腫瘍の制御に使用できることが示されている。アセタゾラミド(単独または組み合わせて)の抗癌効果は、CA阻害後に生じた腫瘍内環境の酸性化によるものであるという仮説が立てられた(参考文献番号20)が、このとき、該薬物のその他の作用機構については除外されていない。非特許文献5は、臨床的に使用されている2つの強力なスルホンアミドCAI類、すなわちメタゾラミドおよびエトクスゾラミドを用いてヒトリンパ腫細胞の細胞培養系を処理した場合にイン・ビトロ(in vitro)増殖阻害が起こったことは、CA阻害の結果、ヌクレオチド合成のための重炭酸塩(HCO3-はカルバモイルリン酸合成酵素IIの基質である)の蓄えが減少したからではないかという仮説を記載している(参考文献番号20)。
【0016】
臨床薬物または診断薬として使用されている古典的な6種のCAI類(アセタゾラミド、メタゾラミド、エトクスゾラミド、ジクロロフェナミド、ドルゾラミドおよびジクロロフェナミド)は、全てある程度の腫瘍増殖阻害特性を示す(参考文献番号18、78、101、102)。
【0017】
本発明の発明者であるクラウディア・スプラン(Claudia Supuran)博士とアンドレア・スコッツァファヴァ(Andrea Scozzafava)博士は、スルホンアミドCAI類のいくつかのクラスについての構造およびイン・ビトロ(in vitro)抗腫瘍活性について報告しており、重要な生理学的役割を有することが既知である古典的なアイソザイム類(CA-I、CA-IIおよびCA-IVなど)に対して、nMレベルで阻害剤として作用することを示した。これらの化合物は、ある種の白血病、非小細胞性肺癌、卵巣、メラノーマ、結腸、CNS、腎臓、前立腺および乳癌の細胞系に対して強力な細胞増殖阻害作用を発揮することも示されており、GI50値は10〜75nMの場合があった(参考文献番号77、91、92、100)。
【0018】
非特許文献6は、3種類の古典的なスルホンアミド薬物類(アセタゾラミド、エトクスゾラミドおよびメトクスゾラミド)がnMレベルのKI値でCA-IX炭酸脱水酵素活性を阻害したことを報告している(参考文献番号116)。しかしながら、本発明以前においては、CA-IX(単独または他のCAアイソザイムとの比較において)に対するスルホンアミド阻害に関する体系的な構造活性相関研究は行われていない。
【0019】
ある種の芳香環式/複素環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体類は、CA-IIおよびCA-IVに対してnMレベルで親和性を示したが、より重要な点は、イン・ビボ(in vivo)においてそれらが原形質膜を通過することができなかったことである(参考文献番号17)。
【0020】
非特許文献7は、アセタゾラミドなどの古典的阻害剤に加えて、膜不透過性のスルホンアミド阻害剤類を用い、アデノーマ重炭酸塩類転送因子の抑制制御とCA-IIとの間の機能上および物理的関係について調査しており、これらの生理学的過程における細胞質基質関連アイソザイムの関与と膜関連アイソザイムの関与とを明確に区別することができた(参考文献番号85)。
【0021】
CA類
炭酸脱水酵素(CA類)は、生理学的に非常に重要な亜鉛金属酵素をコードしている遺伝子群からなる大きなファミリーを形成している。二酸化炭素の水和に関する可逆的触媒として、これらの酵素は、呼吸、石灰化、酸塩基平衡、骨吸収、房水の生成、髄液、唾液および胃酸を含む多様な生物学的過程に関与している(非特許文献8)。CA類は、生物に広く分布している。ヒトを含む高等脊椎動物においては、14種類の別異のCAアイソザイムまたはCA関連タンパク質(CARP)について文献に記載されており、細胞レベル下での局在および組織分布が非常に異なっている(参考文献番号40、93、95、94、102)。基本的には、数種のサイトゾル型(CA-I〜III、CA-VII)、4種の膜結合アイソザイム(CA-IV、CA-IX、CA-XIIおよびCA-XIV)、1種類のミトコンドリア型(CA-V)、ならびに分泌されたCAアイソザイムであるCA-VIが存在する(参考文献番号40、93、94、95、102)。
【0022】
いくつかの腫瘍細胞においては、ある種の膜関連CAアイソザイム類(例えば、CA-IXおよびCA-XIIなど)のみを主に発現することが示されている(参考文献番号2、67、68、78、87、93、95)。稀に、ある種のアイソエンザイムが核に局在していることが報告されている(参考文献番号64、69、70)。現在のところ、細胞に局在しているその他のアイソザイム類はほとんど知られていない。
【0023】
CA類およびCA関連タンパク質は、組織分布、レベル、ならびに推定もしくは確認された生物学的作用が非常に広範にわたっている(参考文献番号105)。いくつかのCA類は、ほぼ全ての組織において発現されており(CA-II)、その他のCA類の発現はより限定的である(例えば、CA-VIおよびCA-VIIは唾液腺で発現される)(参考文献番号32、69、71)。CA類およびCA関連タンパク質は、動的特性および阻害剤に対する感受性も異なっている(参考文献番号82)。
【0024】
臨床に使用される上述のスルホンアミド類の大多数は、全身作用性の阻害剤であり、標的組織臓器内に存在する多数の別異のCAアイソザイム類(現在のところ、ヒトにおいては14個のイソ型が知られている)を阻害することによって、所望しない副作用を引き起こす。(参考文献番号93、94、95、102)。故に、そのような副作用を回避することを目的として、新規のスルホンアミド類を設計・合成しようとする試みに関して、近年、多くの報告がなされている(参考文献番号13、17、42、62、80、99、100)。すくなくとも4種類のCAアイソザイム(CA-IV、CA-IX、CA-XIIおよびCA-XIV)は細胞膜に関与しており、一般的に、酵素活性部位は細胞外に向いている(参考文献番号93、94、95、102)。これらのアイソザイムのうちのいくつかは、生理学に重要な役割を果たしていることが示されているが(例えば、目、肺、および腎臓内に存在するCA-IVおよびXII、消化管粘膜および多数の腫瘍細胞内に存在するCA-IXなど)(参考文献番号3、18、22、29、49、67、68、83、93、94、95、102)、CA-XIVなどのその他のアイソザイム類の作用については現在のところよくわかっていない(参考文献番号93、95)。これらのアイソザイム類が細胞外に存在していることから、膜不透過性のCA阻害剤(CAI類)を設計することができるならば、膜関連性のCA類のみが影響を受けることになる。
【0025】
歴史的観点から見ると、CAI類を膜不透過性にしようとする最初の試みは、ポリマー類(例えば、ポリエチレングリコール、アミノエチルデキストランまたはデキストランなど)に芳香環式/複素環式スルホンアミド類を結合させることであった(参考文献番号39、60、107)。そのようにして調製された分子量が3.5〜99kDaの範囲の化合物は、分子量が大きいために確かに膜不透過性を示し、また、腎および肺に関する数例の生理学的実験に使用したところ、イン・ビボ(in vivo)においてCA-IVのみを選択的に阻害し、サイトゾル性アイソザイム類(主にCA-II)は阻害しなかった(参考文献番号39、60、107)。そのような化合物は分子量が大きいことから、イン・ビボ(in vivo)において強力なアレルギー反応を誘発したので、薬物/診断用材料として開発することはできなかった(参考文献番号39、60、93、95、107)。膜不透過性にするための第二の試みは、高極性、塩様化合物を使用することであった。生理学的実験においては、スルホンアミドのうちのQAS(スルファニルアミド四級アンモニウム塩)のみが最近まで使用されており、多様な節足動物(例えば、カニ(カリネクテス・サピドゥス(Callinectes sapidus)など)および魚類において、細胞外CA類のみを阻害することが報告されている(参考文献番号57)。QASの重大な欠点は、高等脊椎動物において毒性が高いことである(参考文献番号57)。
【0026】
炭酸脱水酵素の酵素活性(CA-IXのそれも含む)は、スルホンアミド阻害剤によって効果的に阻止することができる。そのような事実は、ある種のCAイソ型の過度の活性が原因であるような疾患(例えば、緑内障におけるCA-IIなど)の治療に利用されてきた。スルホンアミド類はイン・ビトロ(in vitro)においては腫瘍細胞の増殖および浸潤を阻止し、イン・ビボ(in vivo)においては腫瘍の増殖を阻害するという経験的に見出された事実があるが、そのようなスルホンアミド類の標的は確認されていない。しかしながら、スルホンアミド類は、細胞レベル下の別異のコンパートメントに局在しており、多岐にわたる生物学的役割を担っている多様なCAアイソザイム(現在、ヒトでは14種類が既知である)を無差別に阻害することはできる。このような選択性の欠如は、多数のCAイソ型が同時に阻害され、所望しない副作用が生じることから、これらの化合物の臨床上の利用価値を低下させ、また、抗癌治療においてCA-IXに対してスルホンアミドを投与した場合の重大な欠点でもある。
【0027】
従って、当該分野においては、膜不透過性の強力なCA-IX阻害剤に対する要求があり、そのような阻害剤はCA-IXに対して二重の選択性を有することになる。本発明者らは、これまでにも本明細書に記載している数種の膜不透過性分子を調製し、それらについて記載しているが、それらには、CA-I、CA-IIおよびCA-IVを阻害する能力についてのみが特記されている。その他については、網膜色素沈着上皮または筋肉内において、膜不透過性物質によって細胞外CAを選択的に阻害することによる影響について研究が行われている(参考文献番号34、120)が、これらの物質がCA-IXを阻害する能力については調べられていない。CA-IXは、数少ない細胞外炭酸脱水酵素のうちのひとつであることから、CA-IXの膜不透過性選択的阻害剤は該酵素に対して二重の選択性を有し、さらに、CAの非特異的阻害に伴う副作用を回避する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】ザバダ(Zavada)ら、米国特許第5,387,676号
【特許文献2】ザバダ(Zavada)ら、国際公開WO93/18152号
【非特許文献】
【0029】
【非特許文献1】ウエムラ(Uemura)ら、J.Urology,1571(4):377(要約1475)(1997年4月16日)(参考文献番号112)
【非特許文献2】パストレック(Pastorek)ら、Oncogene,9:2788-2888(1994)(参考文献番号72)
【非特許文献3】オパヴスキ(Opavsky)ら、Genomics,33:480-487(1996)(参考文献番号66)
【非特許文献4】テイチャー(Teicher)ら、Anticancer Research,13:1549-1556(1993)(参考文献番号106)
【非特許文献5】チェグィッデン(Chegwidden)ら、「癌における炭酸脱水素酵素アイソザイム類の役割(The Roles of carbonic anhydrase isozymes in cancer)」、遺伝子ファミリー:DNA、RNA、酵素およびタンパク質の研究(Gene Families:Studies of DNA,RNA,Enzymes and Proteins)より、シェ(Xue)ら編、ワールド・サイエンティフィック(World Scientific)社、シンガポール、pp.157-169(2001)(参考文献番号20)
【非特許文献6】ウィンゴ(Wingo)ら、Biochem.Biophys.Res.Comm.,288:666-669(2001)(参考文献番号116)
【非特許文献7】スターリング(Sterling)ら、Am.J.Physiol.-Cell Physiol.,283:C1522-C1529(2002)(参考文献番号85)
【非特許文献8】ドッジソン(Dodgson)ら、「炭酸脱水酵素(The Carbonic Anhydrases)」、プレナム・プレス(Plenum Press)社、ニューヨーク−ロンドン、pp398(1991)(参考文献番号27)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
発明者らは、他のCAイソ型からCA-IXを区別している特徴を利用することにより、CAI類の選択性の欠如という問題に取り組んだ。まず始めに、CA-IXは、原形質膜タンパク質が集積したものであり、活性部位が細胞外部に向かって露出している。この点については、いくつかのCA類(CA-IV、CA-XIIおよびCA-XIV)と同様であるが、その他全てのイソ型とは異なっている。これらの膜結合性アイソザイムの中では、触媒性ドメインのアミノ酸配列において、CA-IXはいくつかの相異点があり、このことが活性部位のくぼみの立体配置、さらにスルホンアミド類との相互作用に影響していると考えられる。さらに、他のCAイソ型とは異なり、CA-IXは予後が良くない腫瘍の低酸素領域に多く発現している。
【課題を解決するための手段】
【0031】
発明者らは、一連の芳香環式および複素環式化合物を用いてCA-IXの阻害プロファイルの評価を行い、それらの化合物のうちのいくつかは、広く分布しているイソ型であるCA-I、CA-IIおよびCA-IVよりもCA-IXを効率的に阻害することを見出した。芳香環式および複素環式化合物において、nMレベルでCA-IXを阻害する化合物がいくつか検出された。この知見は、それらの化合物の物理化学的特性(例えば、電荷、大きさおよび生物学的還元性など)を変化させてCA-IXの特徴的な特性に適合させることにより、CA-IX特異的阻害剤を設計するためには非常に有望である。
【0032】
発明者らは、CA-IXを強力に阻害する、よりかさ高い化合物のうちのいくつかは、CA-I、CA-IIおよびCA-IVの阻害剤としては非常に弱いことを発見したが、これは、調査したその他のアイソザイムの活性部位のくぼみよりもCA-IXのそれが大きいという事実に由来すると考えられる。本明細書に開示されており、腫瘍関連性イソ型であるCA-IXの選択的阻害に基づくスクリーニングで確認されたそのような型の化合物は、特に好ましいCA-IX特異的阻害剤であると考えられ、新規な抗癌治療および本発明に従う診断/予後診断法に使用することができる。
【0033】
発明者らは、CA-IXは、細胞の浸潤能を高めるために重要と考えられているE-カドヘリンを介した細胞−細胞接着を減弱させることができることを示した(参考文献番号103)。さらに、CA-IXは、低酸素状態においては細胞外のpHの酸性化に寄与しているが、酸素正常状態では寄与していないこともわかった(未発表データ)。後者の結果は、低酸素状態では、CA-IXの発現レベルおよび酵素活性の両方が促進制御されていること、すなわち、低酸素状態によってCA-IXのCA触媒活性が活性化されることを示唆している。これは非常に重要な知見である。なぜならば、腫瘍内の低酸素状態は、腫瘍細胞の攻撃性の増強および治療効果の低下に関して臨床的に有意味な因子だからである。通常、低酸素状態は、細胞外の微小環境の酸性化に付随して生じ、そのことによって腫瘍の浸潤および転移が促進される。この現象において、CA-IXは、二酸化炭素の水和を触媒して重炭酸イオン類および陽子を生成させることによって関与していると考えられ、生成した重炭酸イオン類は細胞内部に輸送され、陽子は細胞外のpHを酸性化する。故に、CA-IXの触媒活性を阻害することによって細胞外の酸性化を阻止することは、直接的な抗癌作用であると考えられ、あるいは、従来から使用されており、取込みがpH依存性であるような化学療法剤の効果を調節するものと考えられる。
本発明は、(1)癌関連、低酸素状態誘導性のMN/CA-IXを選択的に標的とするある種の炭酸脱水酵素阻害剤(CAI類)、好ましくはスルホンアミド類を認識すること;(2)そのようなCAI類、好ましくはスルホンアミド類を先導化合物としてMN/CA-IX特異的阻害剤の設計および合成に使用すること;(3)MN/CA-IXを介した腫瘍微小環境の酸性化を阻害することに基づく抗癌治療に該MN/CA-IX特異的阻害剤を使用すること;(4)造影法(シンチグラフィーなど)を含む診断/予後診断法、ならびに遺伝子治療にMN/CA-IX特異的な強力阻害剤を使用することに関する。特に、本発明は、抗癌特性を有する薬物の開発にCA-IX特異的阻害剤を使用すること、ならびに、CA-IX発現、特にCA-IXの過剰発現によって特徴付けられる腫瘍発生前および腫瘍性疾患に対して従来から行われている化学療法を調節することに関する。
【0034】
ひとつの側面から見ると、本発明は、前癌性または癌性疾患を有する哺乳類を治療する方法に関し、該疾患は、MN/CA-IXタンパク質を過剰発現することによって特徴付けられ、該方法は、治療有効量の組成物を該哺乳類に投与することを含み、このとき、該組成物は、有機分子および無機分子よりなる群から選択され、次のようなスクリーニングアッセイにおいてMN/CA-IXの酵素活性の強力な阻害剤であることが確認された化合物を含む:
a)化合物の一連の希釈液、ならびに、MN/CA-IXタンパク質もしくはMN/CA-IXタンパク質の炭酸脱水酵素ドメインを含有するフラグメントの一連の希釈液を調製し;
b)前記化合物の希釈液を、前記MN/CA-IXタンパク質もしくは該MN/CA-IXタンパク質のフラグメントの希釈液と混合して、20℃で10分間プレインキュベートし;
c)反応容器内において、前記化合物の希釈液と前記MN/CA-IXタンパク質もしくはタンパク質のフラグメントの希釈液との混合物をプレインキュベートしたものを、飽和CO2溶液、0.2mMのフェノールレッド、0.1MのNa2SO4、および10mMのHepes緩衝液(pH7.5 )から実質的になる基質と、20℃で10〜100秒かけて混合し;
d)同時に、ストップフロー分光光度計を用いて、反応容器の内容物について吸収極大波長557nmにおける吸光度を測定し;さらに、
e)前記化合物の阻害定数KIを求め;
このとき、該阻害定数KIが約50nM未満の場合に、該化合物はMN/CA-IX酵素活性の強力な阻害剤であると判断され;さらに、該化合物は、アセタゾラミド、エトクスゾラミド、メタゾラミドおよびシアナートよりなる群から選択されたものではない。前記哺乳類は、好ましくはヒトであり、KIは、好ましくは約35nM未満、より好ましくは約25nM未満、さらに好ましくは約10nM未満である。
【0035】
そのような方法は、前癌状態および/もしくは癌を治療する、または、哺乳類患者体内における前癌および/もしくは癌細胞の増殖を阻害する方法としても利用することができ、このとき、該腫瘍発生前および腫瘍状態は、MN/CA-IXの過剰発現によって特徴付けられる。前記の方法は、MN/CA-IXを過剰発現している腫瘍発生前または腫瘍性哺乳類細胞の増殖を阻害することにも利用することができ、このとき、該細胞に本発明に従うCA-IX特異的阻害剤を接触させることを含む。
【0036】
本発明に従うCA-IX特異的阻害剤は、治療効果を発揮する量を投与することができ、好ましくは、生理学的に許容される非毒性液体ビヒクルに分散させる。腫瘍発生前/腫瘍性疾患の部位または型(例えば、充実性腫瘍、非充実性(non-solid)腫瘍または転移など)に応じて、別異の投与経路を選択することが好ましい。一般的には、腸管外投与が好ましく、そのことにより、全身性処置による所望しない副作用、例えば、胃腸管粘膜に阻害剤が結合することによって引き起こされるものなどを回避することができる。一般的には、腫瘍発生前/腫瘍性疾患の内部またはその近傍に注入することが好ましい。例えば、そのような注入法としては、静脈内、腹膜内、直腸内、皮下、筋肉内、眼窩内、被膜内、脊髄内、胸骨内、髄内、損傷部内、皮内、その他の注入経路などが挙げられる。他の投与形式、例えば、坐剤または局所投与なども標的疾患に合わせて使用することができる。製剤は、投与経路に適した既知の基準に従って設計することができる。
【0037】
前記CA-IX特異的阻害剤は、好ましくは有機性であり、より好ましくは芳香環式もしくは複素環式であり、さらに好ましくは、芳香環式スルホンアミドもしくは複素環式スルホンアミドである。前記芳香環式スルホンアミドは、置換された芳香環式スルホンアミドであり、該芳香環式スルホンアミドは芳香環構造を含み、該環構造にはスルホンアミド部位を有し、さらに、ハロゲン基、ニトロ基およびアルキルアミノ基よりなる群から独立して選択される1個またはそれ以上の置換基を追有し、このとき、該アルキルアミノ基のアルキルラジカルは1〜4個の炭素原子を含む。
【0038】
本発明に従う好ましいCA-IX特異的阻害剤は、CA-I、CA-IIおよびCA-IVよりなる群から選択される炭酸脱水酵素の酵素活性よりもMN/CA-IX酵素活性をより強く阻害する。より好ましくは、CA-IX特異的阻害剤は、CA-I、CA-IIおよびCA-IVよりなる群から選択される少なくとも2種類の炭酸脱水酵素の酵素活性よりも、MN/CA-IX酵素活性をより強く阻害する。さらに好ましくは、CA-IX特異的阻害剤は、CA-I、CA-IIおよびCA-IVを含む群の炭酸脱水酵素の個々の酵素活性よりもMN/CA-IX酵素活性をより強く阻害する。
【0039】
しかしながら、サイトゾル性のCA-IIは特に豊富かつ顕著なCAであることから、重要な点は、本発明に従うCA-IX特異的阻害剤が膜不透過性ではない場合には、そのような阻害剤は、CA-IIの酵素活性阻害剤としてよりもMN/CA-IXのより強力な酵素活性阻害剤になり得ることである。以下の工程を含む方法は、CA-IIの酵素活性を阻害する化合物のKIを決定するために使用することができるスクリーニングアッセイの例である:
a)化合物の一連の希釈液およびCA-IIの一連の希釈液を調製し;
b)前記化合物の希釈液をCA-IIの希釈液と混合して、20℃で10分間プレインキュベートし;
c)前記化合物と前記CA-IIとの混合物をプレインキュベートしたものを、反応容器内の無水アセトニトリル中の4−ニトロフェニルアセタートから実質的になる基質溶液に、25℃において1〜3分間かけて加え;
d)同時に、分光光度計を用いて、前記反応容器の内容物について、吸収極大波長400nmにおける吸光度を測定し;さらに、
e)前記化合物の阻害定数KI を求める。
【0040】
本発明に従う芳香環式スルホンアミドまたは複素環式スルホンアミドCA-IX特異的阻害剤の好ましい例は、次の化合物よりなる群から選択される:
【化1】
【0041】
芳香環式スルホンアミドCA-IX特異的阻害剤の好ましい例は、次の化合物よりなる群から選択される。
【化2】
【0042】
好ましい芳香環式スルホンアミドCA-IX特異的阻害剤は、該芳香環式スルホンアミドの芳香環の少なくとも1個の炭素原子にハロゲン原子が結合しているものである。
【0043】
好ましい複素環式スルホンアミドCA-IX特異的阻害剤は、置換基を有する複素環式スルホンアミド類であり、置換基を有する該複素環式スルホンアミドは、該環構造に結合しているスルホンアミド部位を有し、さらに、ハロゲン基、ニトロ基およびアルキルアミノ基よりなる群からそれぞれ独立して選択される1個またはそれ以上の置換基を追有する複素環式環構造をとっており、ここで、該アルキルアミノ基のアルキルラジカルは1〜4個の炭素原子を含む。好ましい複素環式スルホンアミドCA-IX特異的阻害剤はハロゲン化されている。
【0044】
さらに好ましい複素環式スルホンアミドCA-IX特異的阻害剤は、次の化合物よりなる群から選択される:
【化3】
【0045】
さらに、MN/CA-IXタンパク質の過剰発現によって特徴付けられる腫瘍発生前または腫瘍性疾患を有する哺乳類を治療する好ましい方法は、該哺乳類に膜不透過性のCA-IX特異的阻害剤を投与することを含む。そのような膜不透過性CA-IX特異的阻害剤の治療有効量は、膜不透過性化合物を含む組成物として投与することができ、ここで、該膜不透過性阻害剤化合物は有機分子および無機分子よりなる群から選択され、次のようなスクリーニングアッセイにおいてMN/CA-IX酵素活性の強力な阻害剤であることが確認されたものを含有する:
a)化合物の一連の希釈液、ならびに、MN/CA-IXタンパク質もしくはMN/CA-IXタンパク質の炭酸脱水酵素ドメインを含有するフラグメントの一連の希釈液を調製し;
b)前記化合物の希釈液を、前記MN/CA-IXタンパク質もしくは該MN/CA-IXタンパク質のフラグメントの希釈液と混合して、20℃で10分間プレインキュベートし;
c)反応容器内において、前記化合物の希釈液と前記MN/CA-IXタンパク質もしくはタンパク質のフラグメントの希釈液との混合物をプレインキュベートしたものを、飽和CO2溶液、0.2mMのフェノールレッド、0.1MのNa2SO4、および10mMのHepes緩衝液(pH7.5 )から実質的になる基質と、20℃で10〜100秒かけて混合し;
d)同時に、ストップフロー分光光度計を用いて、反応容器の内容物について吸収極大波長557nmにおける吸光度を測定し;さらに、
e)前記膜不透過性化合物の阻害定数KIを求め;
このとき、該阻害定数KIが約50nM未満の場合に、該膜不透過性化合物はMN/CA-IX酵素活性の強力な阻害剤であると判断される。前記哺乳類は、好ましくはヒトであり、KIは、好ましくは約35nM未満、より好ましくは約25nM未満、さらに好ましくは約10nM未満である。
【0046】
そのような膜不透過性CA-IX特異的阻害剤化合物は、好ましくは有機性であり、より好ましくは、芳香環式スルホンアミドのピリジニウム誘導体または複素環式スルホンアミドのピリジニウム誘導体である。そのような膜不透過性CA-IX特異的阻害剤は、CA-I、CA-IIおよびCA-IVよりなる群から選択される炭酸脱水酵素の酵素活性よりも、MN/CA-IX酵素活性をより強く阻害することが好ましく、さらに、CA-I、CA-IIおよびCA-IVよりなる群から選択される少なくとも2種の炭酸脱水酵素の酵素活性よりもMN/CA-IXの酵素活性をより強く阻害することが好ましい。さらにまた、前記膜不透過性CA-IX特異的阻害剤は、CA-I、CA-IIおよびCA-IVを含む群内の各炭酸脱水酵素の酵素活性よりもMN/CA-IXの酵素活性をより強く阻害することが好ましい。CA-IXおよびCA-IVは膜結合性CA類であるので、膜不透過性CA-IX特異的阻害剤が、CA-IV酵素活性よりもCA-IX酵素活性をより強力に阻害する阻害剤であることが特に重要である。
【0047】
以下の工程を含む方法は、CA-IV酵素活性を阻害する化合物のKIを求めるのに使用することができるスクリーニングアッセイの例である:
a)膜不透過性化合物の一連の希釈液およびCA-IVの一連の希釈液を調製し;
b)前記膜不透過性化合物の希釈液をCA-IVの希釈液と混合して、20℃で10分間プレインキュベートし;
c)前記化合物と前記CA-IVとの混合物をプレインキュベートしたものを、反応容器内の無水アセトニトリル中の4−ニトロフェニルアセタートから実質的になる基質溶液に、25℃において1〜3分間かけて加え;
d)同時に、分光光度計を用いて、前記反応容器の内容物について、吸収極大波長400nmにおける吸光度を測定し;さらに
e)前記膜不透過性化合物の阻害定数KI を求める。
【0048】
好ましい膜不透過性CA-IX特異的阻害剤化合物は、芳香環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体類であり、スルファニルアミド、ホモスルファニルアミドおよび4−アミノエチルベンゼンスルホンアミドよりなる群から選択される。芳香環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体類のうちで好ましいものは、以下の一般式を有し:
【化4】
【0049】
ここで、
nは0、1または2であり;
R2、R3、R4およびR6は、水素、炭素数が1〜12であるアルキル部位、およびアリール部位よりなる群からそれぞれ独立して選択される。さらに好ましくは、そのような化合物は、
R2は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、tert−ブチルおよびフェニルよりなる群から選択され;
R3は、水素およびメチルよりなる群から選択され;
R4は、水素、メチルおよびフェニルよりなる群から選択され;さらに、
R6は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルおよびフェニルよりなる群から選択される。またさらに好ましくは、そのような化合物は、
R3は水素であり;
R4およびR6はフェニルであり;
nが0の場合には、R2は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルおよびフェニルよりなる群から選択され;さらに、
nが1または2の場合には、R2は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、tert−ブチルおよびフェニルよりなる群から選択される。その他の好ましい化合物としては、
R3が水素であり;
R4はフェニルであり;さらに、
nが0の場合にはR2とR6は同じ置換基であって、メチル、エチル、n−プロピルおよびイソプロピルよりなる群から選択され;さらに、
nが1または2の場合にはR2とR6は同じ置換基であって、メチル、エチル、n−プロピルおよびイソプロピルよりなる群から選択される。その他の好ましい化合物としては、R2、R3、R4およびR6がメチルであるものが挙げられる。さらに好ましいCA-IX特異的阻害剤化合物は、
nが0、1または2の場合には、R2、R4およびR6はメチルであり、R3は水素であり;あるいは、
nが1または2の場合には、R2はイソプロピルであり、R3は水素であり、R4はメチルであり、R6はメチルもしくはイソプロピルであり;あるいは、
nが1または2の場合には、R2およびR6はフェニルであり、R3およびR4は水素である。
【0050】
さらに好ましいそのような化合物としては、
nが2の場合に、R2およびR6はメチルであり、R3は水素であり、R4はフェニルであり;あるいは、
nが2の場合に、R2およびR6はエチルであり、R3は水素であり、R4はフェニルであり;あるいは、
nが2の場合に、R2、R3、R4およびR6はメチルである。
【0051】
前記CA-IX特異的阻害剤が、複素環式スルホンアミド類の膜不透過性ピリジニウム誘導体である場合には、好ましい化合物は、アミノベンゾールアミドのピリジニウム誘導体である。
【0052】
複素環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体であるCA-IX特異的阻害剤のうちの好ましいものは、次のような一般式で表される:
【化5】
【0053】
ここで、R1、R2、R3、R4およびR5は、水素、炭素数が1〜12であるアルキル部位およびアリール部位よりなる群からそれぞれ独立して選択される。さらに好ましい化合物においては、
R1は、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、n−ブチル、tert−ブチルおよびフェニルよりなる群から選択され;
R2は、水素およびメチルよりなる群から選択され;
R3は、水素、メチル、n−ノニルおよびフェニルよりなる群から選択され;
R4は、水素およびメチルよりなる群から選択され;さらに、
R5は、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、n−ブチル、tert−ブチル、n−ノニルおよびフェニルよりなる群から選択される。さらに好ましい化合物においては、
R2およびR4は水素であり;
R3はメチルであり;さらに、
R1およびR5は、同じ置換基であって、メチル、イソプロピルおよびtert−ブチルよりなる群から選択される。またさらに好ましい化合物においては、
R2およびR4は水素であり;
R3はフェニルであり;さらに、
R1およびR5は、同じ置換基であって、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、n−ブチルおよびフェニルよりなる群から選択される。さらに好ましい化合物においては、
R1は、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピルおよびn−ブチルよりなる群から選択され;
R2およびR4は水素であり;さらに、
R3およびR5はフェニルである。その他の好ましい化合物においては、
R2およびR4は水素であり、R3は水素またはメチルであり、R1およびR5はフェニルである;あるいは、
R1、R2およびR5はメチルであり、R3はフェニルであり、R4は水素である;あるいは、
R1およびR4はメチルであり、R2は水素であり、R3およびR5はn−ノニルである。
【0054】
さらなる好ましい化合物においては、
R1はメチルまたはイソプロピルであり、R3およびR5はメチルであり、R2およびR4は水素である;あるいは、
R1およびR5は同じ置換基であって、メチルまたはエチルであり、R2およびR4は水素であり、R3はフェニルである;あるいは、
R1、R2、R3およびR5はメチルであり、R4は水素である。
【0055】
別の観点から見ると、本発明は、腫瘍を有する患者の体内において腫瘍の増殖を阻害する方法に関し、そのような腫瘍の細胞は、MN/CA-IXタンパク質を過剰発現することによって特徴付けられる。そのような方法としては、化合物を含む組成物の治療有効量を該患者に投与することを含み、ここで、該化合物は、有機分子および無機分子よりなる群から選択され、MN/CA-IXに関して上述したように、飽和CO2溶液を用いたスクリーニングアッセイにおいてMN/CA-IX酵素活性の強力な阻害剤であると判断されたものである。
【0056】
さらに本発明は、本明細書に開示している多様な方法において、CA-IX特異的阻害剤として有用な新規化合物に関する。そのような新規化合物は、複素環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体を含み、次のような一般式を有する:
【化6】
【0057】
ここで、R1は、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、n−ブチル、tert−ブチルおよびフェニルよりなる群から選択され;
R2は、水素およびメチルよりなる群から選択され;
R3は、水素、メチル、n−ノニルおよびフェニルよりなる群から選択され;
R4は、水素およびメチルよりなる群から選択され;さらに
R5は、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、n−ブチル、tert−ブチル、n−ノニルおよびフェニルよりなる群から選択されるが、例外的に次のような場合がある
R2およびR4が水素であって、R3およびR5がメチルである場合には、R1はメチルではない;さらに、
R2およびR4が水素であって、R3がフェニルであって、R5がメチルである場合には、R1はメチルではない;さらに、
R2およびR4が水素であって、R3およびR5がフェニルである場合には、R1はフェニルではない。複素環式スルホンアミド類の好ましいピリジニウム誘導体類としては、
R2およびR4は水素であり;
R3はメチルであり;さらに、
R1およびR5は同じ置換基であって、イソプロピルおよびtert−ブチルよりなる群から選択されるものであり、ならびに、
R2およびR4は水素であり;
R3はフェニルであり;さらに、
R1およびR5は同じ置換基であって、エチル、イソプロピル、n−プロピルおよびn−ブチルよりなる群から選択されるのもであり;ならびにさらに好ましくは、
R1は、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、n−ブチルおよびtert−ブチルよりなる群から選択され;
R2およびR4は水素であり;
R3およびR5はフェニルであるものが挙げられる。複素環式スルホンアミド類のさらに好ましいピリジニウム誘導体類としては、
R1はイソプロピルであり、R3およびR5はメチルであり、R2およびR4は水素であるもの;あるいは、
R2およびR4は水素であり、R3は水素またはメチルであり、R1およびR5はフェニルであるもの;あるいは、
R1、R2およびR5はメチルであり、R3はフェニルであり、R4は水素であるもの;あるいは、
R1、R2、R3およびR5はメチルであり、R4は水素であるもの;あるいは、
R1およびR4はメチルであり、R2は水素であり、R3およびR5はn−ノニルであるものが挙げられる。
【0058】
本発明の別の治療側面から見ると、CA-IX特異的阻害剤は、投与に際して放射性同位元素と結合させることができる。また、CA-IX特異的阻害剤は、放射線および/もしくは、次に挙げている化合物のうちの1種またはそれ以上を含有する生理学的に許容される製剤と同時ならびに/または連続して投与することができ、そのような化合物としては、従来から使用されている抗癌剤、化学療法剤、癌関連経路に対する別異の阻害剤、生体還元性薬剤、生物学的に活性なCA-IX特異的抗体およびCA-IX特異的抗体のフラグメントなどが挙げられる。好ましくは、該CA-IX特異的抗体およびCA-IX特異的抗体のフラグメントは、ヒト型化されたもの、または完全にヒト型であり、細胞毒性の対象に結合することができる。
【0059】
別の治療側面から見ると、本発明は、腫瘍発生前または腫瘍性疾患の哺乳類を治療する方法に関し、ここで、そのような疾患は、MN/CA-IXタンパク質が過剰発現していることによって特徴付けられ、そのような方法は、強力なCA-IX特異的阻害剤に結合したベクターを含有する生理学的に許容される製剤の治療有効量を該哺乳類に投与することを含む。該ベクターは、CA-IX発現細胞(すなわち、腫瘍発生前または腫瘍性の細胞)に欠損している、または突然変異を起こしている野生型遺伝子を発現し、ここで、該野生型遺伝子の生成物は、該細胞内において抗癌活性を発揮するものであり、あるいは、該ベクターは、細胞毒性タンパク質を発現する遺伝子を含む。野生型遺伝子の例としては、腎細胞腫瘍においてCA-IXの本質的な発現に直接関与していることが知られているフォンヒッペル−リンダウ遺伝子などが挙げられる。
【0060】
好ましくは、前記ベクターは、MN/CA-IXプロモーターまたはMN/CA-IXプロモーターフラグメントを有しており、ここで、該プロモーターまたはプロモーターフラグメントは、1種またはそれ以上の低酸素症応答配列(hypoxia response element)(HRE)を含み、さらに、該プロモーターまたはプロモーターフラグメントは、前記野生型遺伝子または細胞毒性タンパク質を発現する遺伝子に、機能発揮できるように連結されている。好ましくは、ベクターに結合したCA-IX特異的阻害剤は、上述のCO2飽和アッセイにおいて測定されたKIが約50nM未満であり、より好ましくは、約35nM未満であり、さらに好ましくは約25nM未満であり、またさらに好ましくは約10nM未満である。好ましくは、そのような強力なCA-IX阻害剤は、アセタゾラミド、エトクスゾラミド、メタゾラミドおよびシアナートよりなる群から選択されるものではない。
【0061】
さらに別の側面から見ると、本発明は、腫瘍発生前または腫瘍状態の診断、ならびに診断および予後診断の方法に関する。例えば、そのような方法は、哺乳類サンプルに、標識もしくは可視化手段に結合したCA-IX特異的阻害剤を接触させ、次に、該サンプル内の細胞上の標識もしくは可視化手段を検出または検出・定量することにより、サンプル内の細胞に対するCA-IX特異的抗体の結合を検出または検出・定量するが、このとき、検出または検出・定量のレベルが対照サンプル以上であることが、サンプル内においてCA-IXを過剰発現している腫瘍発生前または腫瘍性細胞の指標になる。
【0062】
そのような方法は、低酸素状態によって活性化されたCA-IXを検出および検出・定量することにより、診断および予後診断に関して特に重要である。CA-IXの過剰発現を併発する低酸素症は、サンプルの採取元である哺乳類の予後が良くないことを示唆しており、そのような哺乳類の治療は、低酸素状態であるという観点に立って決定される。一般的に、低酸素症マーカーとしてのMN/CA-IXは、治療方針の決定に有用である。例えば、腫瘍がMN/CA-IXを異常に高レベルで発現していることがわかっている癌患者は、ある種の化学療法および放射線療法の対象ではなく、低酸素症選択的化学療法の対象である。
【0063】
ブラウン(Brown),J.M.は、参考文献16の157ページに次のように指摘している:「充実性腫瘍は、正常組織よりもかなり酸素が少ない。このことにより、放射線療法および抗癌剤による化学療法に対して抵抗性を示すことになり、また、腫瘍の転移が起こりやすくなる。」ブラウン(Brown)は、癌治療において腫瘍の低酸素症を如何に利用すべきかを説明している。癌治療に対して腫瘍低酸素症を利用するためのひとつの方法は、ブラウン(Brown)らによって呈示されており(参考文献番号16)、低酸素状態においてのみ毒性を発揮する薬物を使用することである。そのような方法において使用することができる薬物の例および好ましいものとしては、ティラパザミン(tirapazamine)およびミトザントローム(mitozantrome)のジ−N−オキシドアナログであるAQ4Nなどが挙げられる。
【0064】
ブラウン(Brown)によって提唱された第二番目の低酸素症利用法(参考文献番号16)は、HIF-1の選択的誘導を利用するために開発された遺伝子治療法である。ブラウン(Brown)は、腫瘍特異的送達系を開発できることを指摘しているが、このとき、HIF-1に対する応答性が高いプロモーターは、低酸素状態においては条件付きで致死遺伝子の発現を活性化するが、酸素量が正常な状態においてはしない。MN/CA-IXプロモーターは、低酸素症に対する応答性が高い、まさにそのようなプロモーターであり、さらに、MN/CA-IXプロモーターフラグメントは1個またはそれ以上のHREを有する。「低酸素症応答性プロモーター(すなわち、MN/CA-IXプロモーター)の制御下において、正常な状態ではヒトの体内で検出されない酵素が発現することにより、非毒性のプロドラッグが腫瘍内部で毒性薬物に転換される。」(ブラウン(Brown)、参考文献番号16、160ページ)ブラウン(Brown)による、バクテリア由来のシトシンデアミナーゼを利用した例(この酵素は、非毒性の5−フルオロシトシンを抗癌剤である5−フルオロウラシル(5-FU)に転換する)がトリン(Trinh)らによって引用されている(参考文献番号109)。
【0065】
ラットクリフ(Ratcliffe)らは、米国特許第5,942,434号および第6,265,390号において、低酸素状態において抗癌剤が如何に活性化されたかを説明している(参考文献番号119)が、薬物活性化系(薬物を活性化する酵素は、低酸素状態において顕著に増加する)を利用することにより、治療効果が増強された。
【0066】
さらに本発明は、患者の体内でCA-IXを発現している腫瘍および/または転移組織を画像化する方法に関し、造影剤に結合させたCA-IX特異的阻害剤を患者に投与することを含む。好ましい画像法は、シンチグラフィーである。
【0067】
本発明に従うアッセイは、診断および/または予後診断の両方に利用でき、すなわち、診断/予後診断である。本明細書において使用している「診断/予後診断」とは、臨床情況に鑑みて、個別にまたは累積的に以下の過程を包含する:疾患の存在の判断、疾患の性質の判断、ある疾患と別の疾患との区別、病状から導かれる結果の予測、症例の性質および症状から示唆される疾患からの回復の見込みの判断、患者の病状のモニタリング、疾患の再燃に関する患者のモニタリング、および/または、患者に適した治療方法の決定。本発明に従う診断/予後診断法は、例えば、腫瘍性または腫瘍発生前疾患の存在に関する集団スクリーニング、腫瘍性疾患を発症するリスクの判断、腫瘍性および/もしくは腫瘍発生前疾患の存在に関する診断、腫瘍性疾患の患者の病状のモニタリング、ならびに/または腫瘍性疾患の経過の予後に関する判断などに有用である。
【0068】
本発明は、次のような多様な腫瘍発生前/腫瘍性疾患の存在に関する治療およびスクリーニングに有用である:乳癌、結腸直腸癌、尿管癌、卵巣癌、子宮癌、子宮頸管癌、子宮内膜癌、扁平上皮細胞癌および腺扁平上皮癌;頭部および頸部癌;中胚葉性腫瘍(神経芽細胞腫および網膜芽腫など);肉腫(骨肉腫およびユーイング肉腫など);ならびにメラノーマなど。特に興味深いのは、卵巣癌、子宮癌、子宮頸管癌、膣癌、外陰癌および子宮内膜癌などを含む婦人科系の癌であり、とりわけ関心があるのは、卵巣癌、子宮癌、子宮頸管癌および子宮内膜癌である。同様に興味深いのは、乳癌、胃腸管癌、食道を含む腹部の癌、結腸癌、腎臓癌、前立腺癌、肝癌、膀胱を含む尿管癌、肺癌ならびに頭部および頸部の癌である。婦人科系の癌で特に興味深いのは、子宮頸管、子宮内膜および卵巣の腫瘍であり、中でも特に興味深いのは、子宮頸管扁平上皮細胞癌、腺扁平上皮細胞癌、腺癌、ならびに婦人科系の腫瘍発生前状態(例えば、子宮頸管組織の異形成およびコンジロームなど)などである。
【0069】
本発明は、宿主から採取したばかりの細胞群内などに悪性腫瘍または悪性腫瘍発生前の細胞が存在している可能性を評価するための方法および組成物を提供する。そのようなアッセイを利用することにより、腫瘍の検出、それらの増殖の定量化、ならびに疾患の診断および予後診断の一助とすることが可能になる。そのようなアッセイを利用することにより、癌の転移を検出することができ、さらに、手術、癌の化学療法および/もしくは放射線療法後に全ての腫瘍組織が消失している、または除去されていることを確認することもできる。さらに、そのようなアッセイを利用して癌の化学療法および腫瘍の再発をモニターすることもできる。
【0070】
MN抗原の存在は、既に確立された多数の診断アッセイを利用して検出および/または定量することができる。当業者であれば、従来から行われている任意のイムノアッセイフォーマットを改変することにより、本明細書に開示されているようなMN抗原を検出および/または定量することができる。本発明に従うイムノアッセイは、本発明に従う強力なCA-IX特異的阻害剤を含む試験キットを包含しており、ここで該阻害剤は、適切に標識されている、および/もしくは、当該分野において既知の可視化手段に結合されている。そのような試験キットは、固相フォーマット様式にすることができるが、それらに限定されるわけではなく、液相フォーマット様式にすることもでき、さらに、免疫組織化学的アッセイ、ELISA、粒子アッセイ、放射計もしくは蛍光計アッセイ(例えば、増幅させていないもの、またはアビジン/ビオチン法などを用いて増幅させたものについて行う)、その他のアッセイフォーマット様式にすることもできる。
【0071】
本発明に従うCA-IX特異的阻害剤の例示化合物は、MN/CA-IXを発現しない非トランスフェクト細胞と比較して、構造的にMN/CA-IXを発現するトランスフェクト細胞の方を治療することが示された。CA-IX特異的阻害剤の例示化合物は、低酸素状態での細胞培養内に存在するMN/CA-IXによって誘導される細胞外pHの酸性化を阻害することが示された。
【0072】
さらに、標識したスルホンアミド類などのような、CA-IX特異的阻害剤を標識した例示化合物(例えば、フルオレセインイソチオシアナート(FITC)に結合したものなど)は、低酸素状態のみにおいて、MN/CA-IXトランスフェクト細胞の表面に結合し(酸素正常状態では生じない)、対照細胞には結合しないことが示された。これらの実験により、本明細書に記載しているスルホンアミド化合物などのようなCA-IX特異的阻害剤は、腫瘍内微小環境に特徴的な条件下においてMN/CA-IXを特異的に標的にし得ることが確認された。
【0073】
本発明に従うCA-IX特異的阻害剤は、腫瘍発生前および腫瘍状態の診断および予後診断に使用することができ、さらに、患者の状態を判断することができ、さらに、治療的に、従来から使用されている治療法とは独立して、もしくは別の組み合わせで、腫瘍発生前ならびに/または腫瘍の治療をすることができる。CA-IX特異的阻害剤は、癌研究にも使用することができる。
【0074】
腫瘍発生前および/もしくは腫瘍の治療に限定すると、本発明に従うCA-IX特異的阻害剤を用いることにより、CA-IX活性を阻止して癌の拡大および/もしくは進行を妨げることができる。CA-IX特異的阻害剤は、放射線治療用に放射性同位元素と結合させることができる。CA-IX特異的阻害剤は、CA-IX特異的抗体、および従来から使用されている多様な治療薬、例えば、癌関連経路に対する別異の阻害剤、生体還元性薬物、および/もしくは放射線治療剤などと組み合わせることができ、このとき、本発明に従うCA-IX特異的阻害剤を用いた治療方法を独立して組み合わせることにより、全体的な治療効果が増すと考えられる。特に、本発明に従うCA-IX特異的阻害剤は、MN/CA-IX特異的抗体および/もしくはCA-IX特異的抗体のフラグメント、好ましくは、ヒト型化CA-IX特異的抗体および/もしくは生物学的に活性なそれらのフラグメント、さらに好ましくは、完全にヒト型のCA-IX特異的抗体および/もしくは完全にヒト型のCA-IX特異的かつ生物学的に活性な抗体のフラグメントを用いた治療と組み合わせることができる。該CA-IX特異的抗体ならびにCA-IX特異的抗体の生物学的に活性なフラグメント(好ましくはヒト型化されたもの、より好ましくは完全にヒト型)は、細胞毒性物質、例えば、リシンAなどの細胞毒性タンパク質、およびその他多数の細胞毒性物質に結合させることができる。
【0075】
さらに、本発明に従うCA-IX特異的阻害剤は、遺伝子治療(例えば、野生型のフォンヒッペル−リンダウ遺伝子)を目的として、または、細胞毒性タンパク質を効率的に発現させることを目的として、CA-IXを特異的に発現する細胞に標的送達するためのベクターに結合させることができ、ここで、好ましくは該ベクターは、MN/CA-IXの低酸素症応答配列(HRE)もしくはその他の遺伝子のHREを含むMN/CA-IXプロモーターまたはMN/CA-IXプロモーターフラグメントを有しており、より好ましくは、CA-IXプロモーターもしくはCA-IXプロモーターフラグメントは、1個またはそれ以上のHREを含んでおり、該HREは、MN/CA-IXおよび/もしくは他の遺伝子ならびに/または、好ましい関係内で遺伝子操作されたHREコンセンサス配列である。
【0076】
特に、本発明に従うCA-IX特異的阻害剤は、CA-IX、好ましくは低酸素状態において活性化されたCA-IXに結合させることにより、診断/予後診断に使用して腫瘍発生前および/または腫瘍細胞を検出することができ、このとき、該CA-IX特異的阻害剤は、標識または何らかの可視化手段に結合している。そのような検出、特に低酸素状態およびCA-IXの過剰発現の検出は、有効な治療選択を決定する場合、ならびに、治療効果および疾患の進行の予後を予測する場合に役立つ。さらに、CA-IX特異的阻害剤を標識した、または適切な可視化手段に結合した場合には、CA-IXを発現する腫瘍および/または転移の画像化に役立つ。
【0077】
本発明に従うCA-IX特異的阻害剤は、基礎的および前臨床研究にも有用である。例えば、CA-IX特異的阻害剤を用いることにより、CA-IX酵素活性の制御に関する研究、腫瘍の増殖および代謝におけるCA-IXの役割に関する研究、ならびに、薬剤、放射線、阻害剤およびその他の治療法による治療に対する応答におけるCA-IXの役割に関する研究を行うことができる。
【0078】
さらに、膜結合性炭酸脱水酵素であるCA-IXに対して高い親和性を有しており、正の電荷を帯び、膜不透過性である複素環式スルホンアミドCA阻害剤の調製法についても開示している。特に好ましいCA-IX特異的阻害剤は、そのような芳香環式および複素環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体類である。スルホンアミド類の好ましいピリジニウム誘導体類の一般的な構造は、化合物の芳香環式または複素環式スルホンアミド部分の「尾部」にピリジニウム部分が結合した形で表わすことができる。
【0079】
さらに、脊椎動物、好ましくは哺乳類、さらに好ましくはヒト由来の腫瘍発生前または腫瘍性細胞であって、MNタンパク質を異常発現するものの増殖を阻害するために有用な化合物に関するスクリーニングアッセイも提供される。そのようなスクリーニングアッセイは、該化合物によってMNの酵素活性を阻害する試験を含む。本明細書において提供される追加アッセイでは、該化合物の細胞膜不透過性について試験を行う。
【0080】
本明細書に開示している本発明の側面については、以下に詳細に記載する。
【参考文献】
【0081】
略号
本明細書においては以下の略号を使用している:
aa−アミノ酸
AAZ−アセタゾラミド
ATCC−アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)
bp−塩基対
BRL−ベセスダ研究所(Bethesda Research Laboratories)
BRZ−ブリンゾラミド
BSA−ウシ血清アルブミン
CA−炭酸脱水酵素
CAI−炭酸脱水酵素阻害剤
CAM−細胞接着分子
CARP−炭酸脱水酵素関連タンパク質
Ci−キュリー
cm−センチメートル
CNS−中枢神経系
cpm−カウント/分
C-末端−カルボキシ末端
℃−摂氏温度
DCP−ジクロロフェナミド
DEAE−ジエチルアミノエチル
DMEM−ダルベッコ変形イーグル培地(Dulbecco modified Eagle medium)
ds−二重らせんの
DZA−ドルゾラミド
EDTA−エチレンジアミン四酢酸
EZA−エトクスゾラミド
F−繊維芽細胞
FCS−ウシ胎仔血清
FITC−フルオレセインイソチオシアナート
H−HeLa細胞
IC−細胞内
kb−キロベース
kbp−キロベース対
kdまたはkDa−キロダルトン
KI−阻害定数
KS−ケラタン硫酸
LTR−長末端反復
M−モル濃度
mA−ミリアンペア
MAb−モノクローナル抗体
ME−メルカプトエタノール
MEM−最小必須培地
min.−分
mg−ミリグラム
ml−ミリリットル
mM−ミリモル濃度
MMC−マイトマイシンC
mmol−ミリモル
MZA−メタゾラミド
N−正常濃度
NEG−ネガティブ、負、マイナス
ng−ナノグラム
nm−ナノメーター
nM−ナノモル濃度
nt−ヌクレオチド
N-末端−アミノ末端
ODN−オリゴデオキシヌクレオチド
ORF−オープンリーディングフレーム
PA−プロテインA
PBS−リン酸緩衝生理食塩水
PCR−ポリメラーゼ連鎖反応
PG−プロテオグリカン
pI−等電点
PMA−フォルボール12−ミリステート13−アセテート
POS−ポジティブ、正、プラス
Py−ピリミジン
QAS−スルホニルアミド4級アンモニウム塩
QSAR−定量的構造活性相関
RACE−cDNA末端の迅速増幅
RCC−腎細胞癌
RIA−ラジオイムノアッセイ
RIP−放射免疫沈降
RIPA−放射免疫沈降アッセイ
RNP−リボヌクレアーゼ保護アッセイ
RT-PCT−逆転写ポリメラーゼ連鎖反応
SAC−黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)細胞
SAR−構造活性相関
sc−皮下
SDS−ドデシル硫酸ナトリウム
SDS-PAGE−ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動
SINE−短い散在反復配列
SP−シグナルペプチド
SP-RIA−固相ラジオイムノアッセイ
TBE−Tris−ホウ酸/EDTA電気泳動緩衝液
TC−組織培養
TCA−トリクロロ酢酸
TC培地−組織培養培地
tk−チミジンキナーゼ
TM−膜貫通
Tris−tris(ヒドロキシメチル)アミノメタン
μCi−マイクロキュリー
μg−マイクログラム
μl−マイクロリットル
μM−マイクロモル濃度
細胞系
BL21(DE3)−リンズコッグ(Lindskog)らのグループによって記載されている大腸菌(Escherichia coli)株(CA-I,II発現用)(リンズコッグ(Lindskog)ら、「部位特異的突然変異誘発によって実験を行ったヒト炭酸脱水酵素IIの構造活性相関(Structure-function relations in human carbonic anhydrase II as studied by site-directed mutagenesis 」、「炭酸脱水酵素−生化学および遺伝学から生理学および臨床薬物まで(Carbonic anhydrase-From biochemistry and genetics to physiology and clinical medicine)」より(ボトレ(Botre)ら編、VCH、ワインハイム、pp.1-13(1991))
BL21-GOLD(DE3)−CA-IXの発現用に使用した大腸菌(Escherichia coli)株(ストラタジーン(Stratagene)社)
ヌクレオチドおよびアミノ酸配列記号
本明細書においては、以下の記号を用いてヌクレオチドを表記する:
塩基
記号 意味
A アデニン
C シトシン
G グアニン
T チミン
U ウラシル
I イノシン
M AまたはC
R AまたはG
W AまたはT/U
S CまたはG
Y CまたはT/U
K GまたはT/U
V AまたはCまたはG
H AまたはCまたはT/U
D AまたはGまたはT/U
B CまたはGまたはT/U
N/X AまたはCまたはT/U
アミノ酸は20個あり、それらは、隣接する3個のヌクレオチドの別異の配列(トリプレットコードまたはコドン)によって特定され、特定の順序で連結されることにより、特徴的なタンパク質を形成する。本明細書においては、3文字または1文字協定を用いてそのようなアミノ酸を特定し、以下のように取り決める(例えば、図1参照):
アミノ酸名 3文字略号 1文字略号
アラニン Ala A
アルギニン Arg R
アスパラギン Asn N
アスパラギン酸 Asp D
システイン Cys C
グルタミン酸 Glu E
グルタミン Gln Q
グリシン Gly G
ヒスチジン His H
イソロイシン Ile I
ロイシン Leu L
リシン Lys K
メチオニン Met M
フェニルアラニン Phe F
プロリン Pro P
セリン Ser S
スレオニン Thr T
トリプトファン Trp W
チロシン Tyr Y
バリン Val V
未知のもの、その他 X
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1A】図1(A〜C)は、MN/CA-IXの全長のcDNA(配列番号1)を表す。また、該cDNAによってコードされている推定アミノ酸配列(配列番号2)も示す。
【図1B】図1Aの続き。
【図1C】図1Cの続き。
【図2A】図2(A〜F)は、10,898bpからなるMN/CA-9の完全ゲノム配列(配列番号3)を示す。塩基数は次の通りである:Aは2654個、Cは2739個、Gは2645個、Tは、2859個。11個のエクソンを大文字で示しているが、エクソン1は、RNase保護アッセイにより、アミノ酸番号3507から始まっていると考えられる。
【図2B】図2Aの続き。
【図2C】図2Bの続き。
【図2D】図2Cの続き。
【図2E】図2Dの続き。
【図2F】図2Eの続き。
【図3】ヒトMN/CA9遺伝子のエクソン−イントロン地図を示す。エクソン(番号を付け、斜線を付けた枠)、Alu繰り返しエレメント(中空枠囲み)、およびLTR-関連配列(番号を付けていない一番最初の位置にある斑点を付けた囲み)の位置ならびに大きさは、表示のスケールに合わせている。個々のMN/CA-IXタンパク質ドメインに対応するエクソンは、PG(プロテオグリカン様ドメイン)、CA(炭酸脱水酵素ドメイン)、TM(膜貫通アンカー)およびIC(細胞質内尾部)と名前を付けている破線枠内に存在している。地図の下部のアミノ酸配列並びは、MN/CAタンパク質のPG領域(アミノ酸番号53〜111)(配列番号4)とヒトアグリカン(アミノ酸番号781〜839)(配列番号5)との間の相同性を示す。
【図4A】図4(A〜B)は、実施例1において試験した26個の別異のスルホンアミド化合物の化学式を示す。
【図4B】図4Aの続き。
【図5】実施例3の化合物71〜91の一般的な合成経路を示す(スキーム1)。
【図6】実施例3に記載しているピリリウム塩とアミンとの反応の経路を示す(スキーム2)。
【発明を実施するための形態】
【0083】
本発明に従う新規な方法は、MNタンパク質の酵素活性を阻害する化合物を用い、MNタンパク質を過剰発現する腫瘍細胞の増殖を阻害することを含む。そのような化合物は、有機性または無機性であり、好ましくは有機性であり、より好ましくはスルホンアミド類である。さらに好ましくは、該化合物は、芳香環式もしくは複素環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体類である。スルホンアミド類のこのような好ましいピリジニウム誘導体類は、次の3つの点において、他の化合物よりも副作用がすくない傾向を有する:分子量が小さい、膜不透過性である、および腫瘍関連MN/CA-IXタンパク質の酵素活性に対して特異的な強力な阻害剤である。
【0084】
新規癌治療の開発を目的として、標的としてオンコプロテインを使用することは、当業者においては従来から考えられていたことである(例えば、メンデルソーン(Mendelsohn)およびリップマン(Lippman)、参考文献番号61などを参照)。しかしながら、MNの使用は新規である。他の腫瘍関連分子(例えば、増殖因子およびそれらのレセプターなど)と比較して、MNは、腫瘍発生前/腫瘍性組織内と正常組織内における発現が異なるという特徴的な性質を有しており、それらの組織は、解剖学的な差異によって区別することができる。
【0085】
本発明に従うスルホンアミド類のピリジニウム誘導体類は、以下に記載しているように、例えば、ピリリウム塩と芳香環式もしくは複素環式スルホンアミド反応試薬との間に結合を形成することによって調製することができる。スルホンアミド化合物のピリジニウム塩を構成している芳香環式もしくは複素環式スルホンアミド部分は、「頭部」と称され、ピリジニウム部分は「尾部」と称される。
【0086】
当業者であれば、その他の多様な様式の結合によっても、ピリジニウム部分にスルホンアミド部分を結合させることができることは自明である。さらに、本明細書に開示している方法に加え、別の方法を用いて本発明に従うピリジニウム誘導体類を調製することもできる。
【0087】
本明細書において使用している「癌(様)」および「腫瘍(様)」という語は同じ意味であり、「前癌」および「腫瘍発生前」という語も同じ意味を有する。
【0088】
本明細書において使用している「芳香環式」とは、スルホンアミド構造に対して使用する場合には、「追加の複素環を有しない、芳香環を含む」という意味である。「複素環式」とは、スルホンアミド構造に対して使用する場合には、「追加の芳香環を有するまたは有しない複素環を含む」という意味である。
【0089】
本明細書において使用している「アルキル」とは、単独または組み合わせて、炭素数が1〜12個、好ましくは1〜6個、より好ましくは1〜4個であるような、直鎖または分岐鎖アルキルラジカルをさす。そのようなラジカル類の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソアミル、ヘキシル、デシルなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0090】
「アリール」という語は、単独または組み合わせにおいて、フェニルまたはナフチルラジカルを意味し、次の群から選択される1個またはそれ以上の置換基を追有する:アルキル、アルコキシ、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、シアノ、ハロアルキル、カルボキシ、アルコキシカルボニル、シクロアルコキシ、ヘテロシクロアルキル、アミド、モノおよびジアルキル置換アミノ、モノおよびジアルキル置換アミドなど。アリール化合物の例としては、フェニル、p−トリル、4−メトキシフェニル、4−(tert−ブトキシ)フェニル、3−メチル−4−メトキシフェニル、4−フルオロフェニル、4−クロロフェニル、3−ニトロフェニル、3−アミノフェニル、3−アセトアミドフェニル、4−アセトアミドフェニル、2−メチル−3−アセトアミドフェニル、2−メチル−3−アミノフェニル、3−メチル−4−アミノフェニル、2−アミノ−3−メチルフェニル、2,4−ジメチル−3−アミノフェニル、4−ヒドロキシフェニル、3−メチル−4−ヒドロキシフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、3−アミノ−1−ナフチル、2−メチル−3−アミノ−1−ナフチル、6−アミノ−2−ナフチル、4,6−ジメトキシ−2−ナフチルなどが挙げられる。
【0091】
本発明に従う好ましいスルホンアミド類は、芳香環式および複素環式スルホンアミド類である。これらの代表的な群に属するスルホンアミド類の構造は、図4の1〜26に示している。
【0092】
本発明に従うより好ましいスルホンアミド類は、芳香環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体類であり、以下に示す一般式(A)で表される。
【化7】
【0093】
ここで、nは0、1または2であり;R2、R3、R4およびR6は、水素、アルキル類およびアリール類からそれぞれ独立して選択される。27〜70で表されるこれらの群に属するスルホンアミド類の構造は、一般式(A)の誘導体として表2に示している。
【0094】
上記化合物とは別に、本発明に従うより好ましいスルホンアミド類は、複素環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体類であり、以下に示す一般式(B)を有し、ここで、該複素環式スルホンアミドのピリジニウム誘導体は、以下の一般式で表される;
【化8】
【0095】
ここで、R1、R2、R3、R4およびR5は、水素、アルキル類およびアリール類からそれぞれ独立して選択される。71〜91で表されるこれらのスルホンアミド類の代表的な構造は、一般式(B)の誘導体として表3に示している。
【0096】
式(A)および(B)で表される化合物群のうちの代表的なスルホンアミド誘導体類は、CA-IX阻害活性を有し、MN関連腫瘍の治療において、抗癌剤として治療上有用である可能性がある。
【0097】
さらに、確認されたスルホンアミド類の生物学的活性は、イン・ビトロ(in vitro)において、MNタンパク質の炭酸脱水酵素活性に対する阻害により、また、MN関連腫瘍細胞(HeLa)および対照細胞の細胞形態および増殖特性に及ぼす影響により試験する(参考文献番号104)。HeLa細胞を注入されたヌードマウスを用いてイン・ビボ(in vivo)スクリーニング試験を行う。
【0098】
CA-IXに対する代表的なスルホンアミド阻害剤
実施例1においては、腫瘍関連アイソザイムであるCA-IXの阻害に関して、1〜26のスルホンアミド類(図4A〜Bに示す)について調べた。化合物1〜6、11〜12、20および26は市販されているが、7〜10(参考文献番号43)、13〜19(参考文献番号24、90、97)および21〜25(参考文献番号79)については既報に従って調製した。臨床的に使用されている6個の化合物についてもアッセイを行った。実施例2の化合物(芳香環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体類)に関しては、スルファニルアミドであるホモスルファニルアミドまたは4−(2−アミノエチル)−ベンゼンスルホンアミドと2,6−ジ−、2,4,6−トリ−または2,3,4,6−テトラ置換ピリリウム塩とを反応させることにより、本明細書において実験を行ったピリジニウム塩27〜70が得られた(一般的なバイエル−ピカード合成による)(参考文献番号9、10、97)。
【0099】
実施例3に記載しているように、正の電荷を帯びた一連のスルホンアミド類(本明細書においては化合物71〜91と称する)は、アミノベンゾールアミド(5−(4−アミノベンゼンスルホニルアミノ)−1,3,4−チアジアゾール−2−スルホンアミド)にトリ/テトラ置換ピリリウム塩(以下に記載しているように、ピリジニウム環にアルキル−、アリール−、または、アルキルおよびアリール基を組み合わせたものを有する)を反応させることによって得られた。これらの化合物のうちの3個(71、75および87)については、別の文献に記載されているが(参考文献番号25、85)、この系列のその他全ての化合物は新規である。
【0100】
CA-IXに対する複素環式スルホンアミド阻害剤:アミノベンゾールアミドのピリジニウム誘導体類の合成
化学:アミノベンゾールアミド(5−(4−アミノベンゼンスルホニルアミノ)−1,3,4−チアジアゾール−2−スルホンアミド)(参考文献番号97)に2,6−ジ−、2,4,6−トリ−もしくは2,3,4,6−テトラ置換ピリリウム塩を反応させるにあたっては、求核剤を用いたそのような誘導体類の一般的な合成法に従うことにより(図5のスキーム1に示す)、本明細書において実験を行ったピリジニウム塩71〜91が得られた(参考文献番号6、26、108)。
【0101】
化合物の調製:アミノ−スルホンアミド類とピリリウム塩との反応(参考文献番号23、88、89)によって調製された正の電荷を帯びた多数のスルホンアミド類については、本発明者らが最近報告しており、一般的には古典的なアイソザイムであるCA-I、IIおよびIVの阻害剤としての試験を行った(参考文献番号81、96、97、98)。正の電荷を帯びたいくつかの誘導体類を含む数種の系統のCA阻害剤に関するQSAR実験に基づき(参考文献番号23、88、89)、CA阻害活性の増強は、分子内に存在する複素環/芳香環上の正の電荷の増加、ならびに阻害分子の「長さ」(すなわち、酵素のZn(II)イオン、スルホンアミドの窒素原子および阻害剤の長軸を貫通する方向に広がっているような分子)と相関していることが明らかになった(参考文献番号23、88、89)。この結果を検証することは興味あることと考えたので、正の電荷を帯びた長いスルホンアミドCAI類を設計した。従って、ピリリウム塩との反応に適し、既に強力かつ分子が長いCAI(すなわち、アミノベンゾールアミド)に、置換されたピリジニウム部位を結合させることを考えた(参考文献番号97)。勿論、この化合物はアイソザイムI、IIおよびIVに対しては非常に強力なCAIとして作用する(阻害定数はnMレベルの小さい値である。以下の記述を参照)。既に示されているように(参考文献番号81、96、97、98)、ピリジニウム環の置換パターンは、この型のスルホンアミドCAI類の生物学的活性には重要である。従って、スキーム1(図5)に記載した反応により、2,4,6−トリアルキルピリジニウム−;2,6−ジアルキル−4−フェニルピリジニウム−;2−アルキル−4,6−ジフェニルピリジニウム−;2,4,6−トリフェニルピリジニウム−、ならびに多様な2,6−ジ置換ピリジニウム−および2,3,5,6−テトラ置換ピリジニウム−アミノベンゾールアミドなどの一連の多数のアミノベンゾールアミド誘導体類を調製した。
【0102】
見かけ上単純であるが、ピリリウム塩とアミンとの反応によってピリジニウム塩を導く反応は、実は複雑な過程をたどる(図6のスキーム2)ことが、バラバン(Balaban)らとカトリスキー(Katrizky)らのグループによる詳細な分光学的および速度論的データから確認された(参考文献番号6、26、108)。従って、ピリリウム陽イオン上への一級アミンRNH2の求核的攻撃は、一般的にα位で生じてIV型の中間体が生成し(図6に示されている)、塩基の存在下で脱プロトン化することによって2−アミノ−テトラデヒドロピラン誘導体類Vが生成する。多くの場合、塩基性が十分であれば、脱プロトン化はアミン自身によって促進される(このことが、本方法に従ってピリジニウム塩を調製する場合に、ピリリウム:アミンのモル比が1:2において、多くの場合に反応が進行する理由である)か、またはトリエチルアミンなどの触媒を外部から反応混合物に加えることによって促進する(参考文献番号6、26、108)。誘導体Vは、一般的に不安定であり、ケトジエンアミン類VIとの互変異性体であるが、この化合物VIは、ピリリウム類からピリジニウム類への転換の際の重要な中間体である(参考文献番号6、26、108)。酸性溶媒中では、全反応過程中の律速段階において、ケトジエンアミン類VIは対応するピリジニウム類塩VIIに転換するが、別異の構造を有するビニログ性アミド類などのようなその他の生成物も単離される(参考文献番号6、26、108)。ピリリウム環の2−および/または6−位がメチルで置換されている場合、反応がさらに複雑化し、ピリジニウム塩類VIIに加えて、アニリン類VIIIの生成を伴う同時環化が起こる可能性がある(参考文献番号6、26、108)。アミンから弱い求核性または塩基性を有するピリジニウム塩への転換を行う場合には、上述したこれらの同時反応は一般的に重要である。この現象は、アミノベンゾールアミドの場合に生じる。実際、多様な条件下(低分子量アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール)、DMF、塩化メチレン、アセトニトリルなどの多様な溶媒;反応試薬のモル数の変更;反応温度は25〜150℃;反応時間は15分〜48時間、など)で行ったアミノベンゾールアミドと数種類のピリリウム塩との反応においては、未反応の原料が単離されたのみであった。ピリジニウム塩III(図5に図示)が生成した唯一の条件は次のようなものであった:溶媒としては無水酢酸の存在下で無水メタノールを使用し、中間体IVの脱プロトン化に対する触媒としてトリエチルアミンを使用。無水酢酸は、縮合反応中に生成した水と反応する役割を有する。実際、この水は、ピリリウム陽イオンとの反応の場合には、アミノベンゾールアミドとの競合求核剤として作用し、その結果、ピリジニウム塩の収率が劇的に低下した。トリエチルアミン(および水捕獲剤としての無水酢酸の存在下において)を添加し、酢酸存在下で2〜5時間還流させることにより、ピリジニウム環への環化(律速段階)が達成された。収率は、特に2−メチル−含有誘導体類の場合には、常に良好とはいえなかった。
【0103】
MNタンパク質および/またはポリペプチドの調製
本明細書において使用している「MN/CA-IX」および「MN/CA-9」とは、MNと同義である。また、G250は、MNタンパク質/ポリペプチドをさすものと考えられている(参考文献番号112)。
【0104】
ザヴァダ(Zavada)らによるWO 93/18152および/またはWO 95/34650は、図1A〜1Cに示しているMN cDNA配列(配列番号1)、同じく図1A〜1Cに示しているMNアミノ酸配列(配列番号2)、ならびに図2A〜2Fに示しているMNゲノム配列(配列番号3)を開示している。MN遺伝子は、11個のエクソンと10個のイントロンで構成されている。
【0105】
図1A〜1Cに示しているMNタンパク質の最初の37個のアミノ酸がMNシグナルペプチド(配列番号6)と推定されている。MNタンパク質は、細胞外ドメイン(図1A〜1Cのアミノ酸番号38〜414:配列番号7)、膜貫通ドメイン(アミノ酸番号415〜434:配列番号8)および細胞内ドメイン(アミノ酸番号435〜459:配列番号9)を有する。細胞外ドメインは、プロテオグリカン様ドメイン(アミノ酸番号53〜111:配列番号4)および炭酸脱水酵素(CA)ドメイン(アミノ酸番号135〜391:配列番号5)を含む。
【0106】
本明細書において使用している「MNタンパク質および/またはポリペプチド」(MNタンパク質/ポリペプチド)とは、MN遺伝子またはそれらのフラグメントによってコードされているタンパク質および/またはポリペプチドを意味するものと定義される。本発明に従う好ましいMNタンパク質の例としては、図1に示している推定アミノ酸配列を有するものである。好ましいMNタンパク質/ポリペプチドとは、図1に示すMNタンパク質と実質的に相同性を有するタンパク質および/またはポリペプチドである。例えば、MNタンパク質/ポリペプチドと実質的に相同なそのようなタンパク質/ポリペプチドとは、MN特異的抗体、好ましくはMabM75またはそれと同等のモノクローナル抗体と反応するものである。M75 Mabを分泌するVU-M75ハイブリドーマは、HB11128として1992年9月17日にATCCに寄託されている。
【0107】
「ポリペプチド」または「ペプチド」は、ペプチド結合によって共有結合しているアミノ酸鎖であり、本明細書においては、50個未満のアミノ酸から構成されているものと考えている。本明細書において使用している「タンパク質」とは、50個以上のアミノ酸から構成されているポリペプチドであると定義する。ポリペプチドという語には、ペプチドおよびオリゴペプチドを含む。
【0108】
イン・ビボ(in vivo)において腫瘍性細胞から産生されるタンパク質もしくはポリペプチドは、細胞培養中の腫瘍細胞によって、または形質転換された細胞によって産生されたタンパク質もしくはポリペプチドとは配列が改変されている可能性があることは明らかである。従って、アミノ酸置換、伸長、欠失、切断およびそれらの組み合わせなどを含む多様なアミノ酸配列を含むMNタンパク質/ポリペプチドは、本発明の範ちゅうに含まれる。体液内に存在するタンパク質は、タンパク質分解過程などの分解過程に組み込まれやすいことは明らかであり、従って、著しく切断されているMNタンパク質およびMNポリペプチドが血清などの体液中に見出される。本明細書において使用している「MN抗原」という語は、MNタンパク質および/またはポリペプチドを包含する。
【0109】
さらに、MNタンパク質およびポリペプチドのアミノ酸配列は、遺伝的手法によっても変化させることができることは明らかである。1個またはそれ以上のアミノ酸を欠失または置換させることができる。そのようなアミノ酸の変化は、タンパク質またはポリペプチドの生物学的活性に何ら変化をもたらすことはなく、本発明の範ちゅうに含まれるタンパク質またはポリペプチド、さらにMNムテインが得られる。
【0110】
本発明に従うMNタンパク質およびポリペプチドは、本発明に従う多様な方法によって調製することができ、そのような方法としては、例えば、組み換え、合成、またはその他の生物学的方法、すなわち、長いタンパク質およびポリペプチドの酵素的および/もしくは化学的な解裂などが挙げられる。MNタンパク質を調製するための好ましい方法は組み換え法である。組換えによってMNタンパク質を調製するための特に好ましい方法を以下に記載する。図1に示すMN タンパク質またはそれらのフラグメントを調製するための代表的な方法は、材料および方法の項に例示しているような適切な発現ベクター内にMN cDNAの全長または適切なフラグメントを挿入することである。
【0111】
MN遺伝子
図1A〜Cには、ザヴァダ(Zavada)らによるWO 95/34650に記載されている単離されたMN cDNAクローンの全長(配列番号1)のヌクレオチド配列を表示している。図2A〜Fは、完全なMN ゲノム配列(配列番号3)を表示している。
【0112】
図1に示すMN cDNAのORFは、459個のアミノ酸から構成され、計算上の分子量が49.7kdであるタンパク質をコードする能力を有する。MN/CA-IXタンパク質の全体的なアミノ酸組成はやや酸性であり、予測pI値は4.3である。二次元電気泳動とそれに続いて行ったイムノブロットにより、CGL3細胞由来の天然MN/CA-IXタンパク質を分析したところ、コンピュータ予測と一致することが示され、MN/CA-IXは、pIが4.7〜6.3であるようないくつかの等電型を示す酸性タンパク質であった。
【0113】
CAドメインはアンカレッジインデペンデンドの誘導に必須であるが、TMアンカーおよびIC尾部はそのような生物学的効果に対して必ずしも必要ではない。MNタンパク質は、形質転換した細胞内の原形質膜を乱すこともでき、そのような細胞が固体支持体に結合する際に寄与すると考えられる。データから、細胞増殖、接着および細胞内連通の制御にMNが関与していることが証明された。
【0114】
酵素スクリーニングアッセイ
本明細書におけるアッセイは、MNタンパク質の酵素活性を阻害する化合物をスクリーニングするためのものである。そのようなアッセイにおいては、該化合物に該MNタンパク質、ならびに飽和CO2および4−ニトロフェニルアセタートよりなる群から選択される基質、好ましくは飽和CO2を加えてインキュベートし、該化合物の阻害定数KIを計算したが、このとき、MNタンパク質の該酵素活性は、ストップフロー分光光度計を用い、インジケーターのpH変化によって測定した。
【0115】
代表的な複素環式および芳香環式スルホンアミド類についてのMNタンパク質阻害に関するスクリーニング:実施例1から、アイソザイムCA-IXの阻害プロファイルは、古典的なアイソザイムであるCA-IおよびII(サイトゾル性)およびCA-IV(膜結合性)のそれとは非常に異なっていることがわかった。以下に特徴的な特性を記載する:(i)実施例1で調べた32個のスルホンアミドは全てCA-IX阻害剤として作用し、阻害定数は14〜285nMであった(表1のデータからわかるように、他の3個のアイソザイムに対する親和性は、より広範囲にばらついていた)。これらのデータに基づき、CA-IXは、CA-IIと同様にスルホンアミド要求性CAであり、現在までのところ、スルホンアミド類の薬理学的効果の主因であると考えられている(参考文献番号22、29、83、93、94、95、102)。さらに、CA-IXと、臨床的に使用されている阻害剤が開発されている他のアイソザイムとの間にはその他多数の差異が観察された;(ii)CA-I、IIおよびIVに対しては、一般的に、複素環式スルホンアミド類と比較した場合に、芳香環式スルホンアミド類は弱い阻害剤として作用する(芳香環式化合物として1〜6またはDCP、と複素環式化合物として15、21、AAZ、MZA、EZA、DZAまたはBRZとを比較した)。CA-IXの場合には、芳香環式化合物(例えば、1、6、11、12、17、18、22〜26)および複素環式化合物(例えば、14、15、21、および臨床的に使用されているスルホンアミド類のうちジクロロフェナミドを除く化合物)はほぼ同程度の阻害定数(14〜50nM)を有していたので、そのような明確な区別をすることは困難であった;(iii)オルタニルアミド誘導体類(1、17、22など)は、CA-IXに対する非常に強力な阻害剤であったが(KI値の範囲は20〜33nM)、CA-I、IIおよびIVに対しては、弱いもしくは中の弱程度の阻害剤であった;(iv)1,3−ベンゼン−ジスルホンアミド誘導体類(11、12、DCP)は、CA-IXに対する強力な阻害剤であったが(KI値の範囲は24〜50nM)、それらの化合物のCA-I、IIおよびIVに対する阻害プロファイルは特に強力ではなかった;(v)メタニルアミド(2)、スルファニルアミド(3)および4−ヒドラジノ−ベンゼンスルホンアミド(4)のCA-IX阻害データは、CA-IIのそれと非常に類似していたが、ホモスルファニルアミド(5)および4−アミノエチル−ベンゼンスルホンアミド(6)は、CA-IIに対してよりもCA-IXに対して阻害剤として強く作用した;(vi)ハロゲンスルファニルアミド類(7〜10)は、CA-IIに対するよりもCA-IXに対する阻害作用が弱かったが、この挙動に関する説明はわかっていない;(vii)調べた化合物中最も強力なCA-II阻害剤であった4−アミノベンゾールアミド15(KI値は2nM)は、CA-IXに対する最も強力な阻害剤ではなかった(KI値は38nM)。調査した化合物中で最も強力なCA-IX阻害剤は、エトクスゾラミドフェノール(21)であった(KI値は14nM)。興味深いことに、21およびEZAは、CA-IIに対する親和性が等しいが、CA-IXに対する親和性は若干異なっており、エトキシ誘導体よりもフェノールの方がより活性が高かった;(viii)臨床使用されている化合物中では、最も強力な阻害剤はアセタゾラミドであり、続いてメタゾラミド、エトクスゾラミド、ブリンゾラミドであった。最も無効な(しかし、アイソザイムIXを多少は阻害する)化合物は、ジクロロフェナミドおよびドルゾラミドであった;(ix)スルホンアミド類20および22〜26は非常に良好なCA-IX阻害剤として作用し、KI値の範囲は16〜32nMであり、臨床使用されている上述のCAIよりもわずかに有効であり、調べた限りでは、最も強力なCA-IX阻害剤に含まれる。従って、そのような化合物は、抗腫瘍剤として使用する、より強力かつ特異的なCA-IX阻害剤を得るための先導分子として使用することができると考えた。
【0116】
MNタンパク質を阻害するための芳香環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体類のうちの代表的な化合物のスクリーニング:スルホンアミド類の膜不透過性ピリジニウム誘導体類について、CA-IXの酵素活性を阻害する能力を調べた実施例2から、表2に示すような以下の結論を得た:(i)ピリジニウム環の与えられた置換パターンにおいては、4−アミノエチル−ベンゼンスルホンアミド誘導体類55〜70は、対応するホモスルファニルアミド誘導体類39〜54よりも活性であり、該39〜54は、対応するスルファニルアミド誘導体類27〜38よりも活性であった。このような挙動は、調査した他の3個のアイソザイムに関しても観察された(参考文献番号96);(ii)ピリジニウム環にかさ高い置換基(主にフェニル類、tert−ブチル類、n−ブチル、n−プロピルまたはイソプロピルなど)を有するいくつかの誘導体類(34〜37、51および67など)は、無効性が高いCA-IX阻害剤であり、阻害定数は>500nMであった;(iii)27、30〜33、44および60を含む他の群の化合物は、腫瘍関連アイソザイムIXに対して緩和な阻害力を示し、KI値の範囲は160〜450nMであった。これらの化合物の大多数はスルファニルアミド誘導体類であり(44と60を除く)、ピリジニウム環の置換パターンは(27を除いて)、4位に少なくとも1個のフェニル基、または、2および4位に2個のフェニル基を有していた。上述のスルファニルアミド類と同様の置換パターンを有する、対応するホモスルファニルアミド類および4−アミノエチルベンゼンスルホンアミド類がより強力なCA-IX阻害剤であったことは特記すべきである(以下の文章を参照);(iv)38、45〜50、52、53、61、63〜66、68および69を含む第三の群の誘導体類は、良好なCA-IX阻害特性を示し、KI値の範囲は64〜135nMであった。上述したように、テトラメチル−ピリジニウム−置換誘導体38を除いては、これらの化合物の大多数は4−フェニル−ピリジニウムまたは2,4−ジフェニルピリジニウム部位を有しているが、一般的に、6位の置換基に関しては多様性に富んでいる(アルキル類またはフェニルも許容される)。この型のCA-IX阻害剤に関する最も興味深い知見は、ホモスルファニルアミドおよび4−アミノエチルベンゼンスルホンアミド(52〜53および68〜69)の2,4,6−トリフェニル−ピリジニウム−誘導体類および2,6−ジフェニル−ピリジニウム誘導体類は、効果的にアイソザイムIXを阻害したが、アイソザイムI、IIおよびIVに対しては非常に弱い阻害剤としてしか作用しなかったという事実から導かれた(表2)。端的に述べると、このことは、hCA-IX活性化部位が、調査した他のアイソザイム特にCA-II、IおよびIVのそれらよりも大きいという事実に由来するものと考えられる;(v)誘導体類の最後の群(28〜29、39〜43、54、55〜59、62および70)は、非常に良好なCA-IX阻害特性を示し、これらの化合物のKI値の範囲は6〜54nMであり、臨床で使用されている阻害剤アセタゾラミド、メタゾラミド、ジクロロフェナミドおよびインディスラムと同様であり、これらの化合物の阻害データを比較のために示しておく。3個の誘導体58、59および70は、阻害定数が<10nMを示し、これまでに報告された中で最も強力なCA-IX阻害剤であったことは特記すべきである。それらの化合物が膜不透過性であることと関連して(参考文献番号96、85)、イン・ビボ(in vivo)において、選択的にCA-IXを阻害する初めての化合物であると考えられる。従って、ピリジニウム環における最良の置換パターンは、小さいアルキル類(39〜41、54、55および70)または2,6−ジアルキル−4−フェニル−ピリジニウム部位(上述の62を除く全ての化合物、62は2−メチル−4,6−ジフェニルピリジニウム環を有する)を有するものである;(vi)ピリジニウム環の置換基の数については、この系統のCAIの活性に対する重要度は低いと考えられるが、それは、ジ−、トリ−またはテトラ−置換誘導体類が良好な阻害力を示したからである。一方、上に詳述したように、これらの群の性質は、(ベンゼンスルホンアミド部位と置換ピリジニウム環との間のリンカーと共に)CA阻害特性に影響を及ぼす最も重要なパラメーターである;(vii)これらの阻害剤に対する親和性に関してhCA-IXと最も類似しているのはhCA-IIであり、hCA-IXとの相同性は33%であったが(パストレック(Pastorek)ら、(1994)、同上)、アイソザイムIおよびIVの親和性は異なっていた。
【0117】
MNタンパク質を阻害するための複素環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体類のうちの代表的な化合物のスクリーニングおよび他のCAアイソザイムに対する阻害との比較:アイソザイムI−表3のデータからわかるように、本明細書に報告されている全ての誘導体類71〜91は、一般的にこの型の阻害剤に対して最も「抵抗性」である該アイソザイムに対し、非常に有効なCAIとして作用した(参考文献番号30、31、100、102)。確かに、アミノベンゾールアミドはかなり強力なCA-I阻害剤である(KI値は6nM)が、阻害剤71〜91の阻害定数は3〜12nMの範囲を示し、臨床的に使用されているスルホンアミドCAIとは対照的であった(それらのKI値は30〜1200nMの範囲であり、阻害剤としての有効性は低い)(表3)。従って、ピリジニウム部位の置換によってかさ高い基(i-Pr、t-Bu、n-Pr、n-Bu、Phなど)を複数有する誘導体類(例えば、73、74、77、78、82、84、85など)は、アミノベンゾールアミドと比較すると阻害活性が低下しており、KI値は7〜12nMの範囲であった(アミノベンゾールアミドのhCA-Iに対するKI値は6nM)。残りの化合物については、CA-Iの阻害に関しては、アミノベンゾールアミドより有効であり、KI値は3〜5nMの範囲であった。最も強力なCA-I阻害剤は75および89〜91であり(KI値は3nM)、それらは全て、ピリジニウム環の置換により、アルキル部位または4−Phのいずれか、ならびにその他のアルキル部位を有している。臨床的に使用されているCAIのアイソザイムIに対する阻害定数はもっと大きいことから、これらは、これまで報告されたもののうちで最も強力なCA-I阻害剤であると考えられる(表3)。
【0118】
アイソザイムII−アミノベンゾールアミドは非常に強力なCA-II阻害剤であり、その阻害定数は約2nMである。74、77、78、82〜88などのいくつかの新規な阻害剤は、アミノベンゾールアミドと比較すると弱いCA-II阻害剤であり、KI値は3.13〜5.96nMの範囲であった(しかしながら、これらの化合物は全て強力な阻害剤として作用し、臨床的に使用されているCAIであるアセタゾラミド、メタゾラミド、ジクロロフェナミドまたはインジスラムよりも有効であった−表3参照)。ピリジニウム環の置換パターンはこれらの化合物の活性に関する主要決定因子であった:上述した活性の低い全ての誘導体類は、ピリジニウム環の主として2−または6−位に少なくとも2個のかさ高い/長い脂肪族基(n-Pr、t-Bu、n-BuおよびPh)を有ている。誘導体類71〜91の中で最も強力なCA-II阻害剤は、ピリジニウム環の置換基として4−Meまたは4−Ph部位と共に、2,6−位により小さな置換基(Me、Etなど)を有するか、あるいは、脂肪族基のみを有しており(71〜73、75、76、79〜81、89〜91など)、KI値は0.20〜1.61nMの範囲であった(従って、最良の阻害剤においては、アミノベンゾールアミドと比較して、阻害力が10倍増加していた)。イソプロピル置換化合物(73、79)はCA-II阻害剤として活性であったが、CA-Iに対する活性はそれほど高くなかったことに言及しておく。
【0119】
アイソザイムIV−大多数のスルホンアミド類において、CA-IVに対する阻害活性は、CA-I(感受性が低い)に対するそれとCA-II(スルホンアミド類に対する親和性が非常に高い)に対するそれとの中間であった。この傾向は、本実験において調べたスルホンアミド類、アミノベンゾールアミドの誘導体についても観察された。従って、親化合物のスルホンアミド(図5に示す)は、強力なCA-IV阻害剤であり、KI値は約5nMであった。一般式(B)の新規誘導体であって、ピリジニウム環にかさ高い置換基を有する化合物(74、77、78、82、84〜88、90など)は、アミノベンゾールアミドよりも効果が低く、KI値は5.2〜10.3nMの範囲であり、一方、上述したその他の置換パターンを有する化合物は、もう少し強力なCA-IV阻害剤であり、KI値は2.0〜4.7nMの範囲であった。
【0120】
アイソザイムIX−上述したアイソザイム類と比較すると、このアイソザイムに対するアミノベンゾールアミドの阻害活性は弱かった(KI値は38nM)。このアイソザイムのX線による結晶構造は未報告であるため、この時点では、この挙動を説明することは困難である。本明細書に記載している一般式(B)の新規誘導体を用いて有望な結果が得られたが、それは、該誘導体のうちのいくつかがCA-IXに対して非常に高い親和性を示し、そのKI値が3〜9nMであったことである(誘導体71、72、75、76および89)。そのような誘導体の全てがピリジニウム環の2−および6−位に脂肪族部位(Me、Etおよびi-Pr)を有し、さらに、4−Meもしくは4−Phであった。四置換化合物は1個のみであり(89)、メチル基のみを有している。最も強力なCA-IX阻害剤(これまで報告されたものの中で最も強力)は71であり、該酵素の阻害活性に関しては、ベンゾールアミドの約13倍であった。新規誘導体類の別の群(73、74、77、79、80、81、83、86〜88、90、91)は、有効なCA-IX阻害を示し、KI値は12〜35nMの範囲であったことから、アミノベンゾールアミドより有効性が高かった。これらの化合物は、先に述べた化合物よりもややかさ高い基を有している。繰り返すが、効力が低かった阻害剤(KIが40〜43nMの範囲)は、ピリジニウム環にかさ高い置換基を複数有し(78、84、85など)、そのような化合物は、ピリジニウム環の2−および6−位に2個のn-Bu、または1個のPhおよびn-Bu/t-Buを有する。従って、SARがこの型のCAIである:最も強力なCA-IX阻害剤は、ピリジニウム環の置換基として分子量およびかさが小さい脂肪族部位のみを有しており、または置換基として4−Phまでは許容されるが、2,6−位の置換基は、やはり分子量およびかさが小さい脂肪族部位でなければならない。この特別な場合においては、四置換誘導体類と比較して、2,4,6−三置換ピリジニウム誘導体類の方がより有効なCA-IX阻害であった。
【0121】
CA-IXに対する複素環式スルホンアミド阻害剤の膜不透過性:実施例3の表4のデータからわかるように、ヒト赤血球(アイソザイムIおよびIIを高濃度で含有する。すなわち、hCA-Iを150μM、hCA-IIを20μM。しかし、膜結合性のCA-IVまたはCA-IXは含有しない(参考文献番号118))にミリモル濃度の別異のスルホンアミド阻害剤(アセタゾラミドまたはメタゾラミドなど)を加えてインキュベートしたところ、短時間(30分間)のインキュベート後に、赤血球中に存在する2種のアイソザイムは阻害剤と飽和したが、ベンゾールアミドまたはアミノベンゾールアミドの場合には、同様の効果が得られるまでにやや長い時間(60分間)を要した(表4)。これは明らかに、最初の3種の阻害剤に関しては、膜を介して拡散する能力が高かったからであり、一方、第二のスルホンアミド群であるベンゾールアミド/アミノベンゾールアミド(pKa値は3.2)(参考文献番号58)は、実験を行ったpH(7.4)においては、主に(ジ)アニオンとして存在し、拡散性が低下しており、膜の透過により時間かがかったからだと考えられる。発明者らによって合成された別の陽イオン性スルホンアミド類(71、76、89、91など)は、同様の条件下においては、赤血球細胞内でごくわずかしか検出されず、このことは、おそらく、該化合物が陽イオン性性質であるために膜を透過することができなかったことを示している。1時間(データは示していないがそれ以上の長時間)インキュベートした後も、細胞溶解物中の化合物の検出に使用した3種類のアッセイによって示されたように、そのような陽イオン性スルホンアミド類は赤血球細胞内に痕跡量しか存在していなかった。これらの結果は互いに良く相関していた(表4)。このことは、膜不透過性を獲得するために提起された方法が、一般式(B)(上掲)を有する正の電荷を帯びたスルホンアミドCAIを設計するにあたって首尾良く機能したことを示している。ごく少量のスルホンアミドが検出された理由は、ごく微量の膜が細胞溶解物に混入していたからだと考えられる。
【0122】
CA-IXに対する膜不透過性スルホンアミド阻害剤の設計
多数のX線結晶構造が利用可能な(単独、または阻害剤と活性剤とのコンプレックスとして)hCA-II(参考文献番号1、2、14、15、19a、19b、37、38)とは全く異なり、現在のところ、アイソザイムIXのX線結晶構造は得られていない。これら2種類のアイソザイムの活性部位残基およびhCA-IIの構造を調べることは、上記の阻害データおよびCA-IX特異的阻害剤に関する関連性を説明する一助になるはずである。
【0123】
まず始めに、これら2種類のアイソザイムの亜鉛リガンドおよび陽イオン輸送残基は同一であった(参考文献番号33、43、72、100、101、102、114、115、117)。重要な差異は、131番目のアミノ酸によってもたらされており、hCA-IIではPheであるが、hCA-IXではValであった。131番のPheは、スルホンアミド阻害剤がhCA-IIに結合するために非常に重要であることがわかっており(参考文献番号2、46、47)、多くの場合において、このかさ高い側鎖は、阻害剤の芳香環の結合空間を狭め、あるいは、内部に存在する基との積み重ね相互作用に関与している(最新の実施例については、参考文献番号2、46、47を参照)。従って、hCA-IX内のかさの小さいそのような残基(すなわち、バリン)は、積み重ね相互作用に関与することができず、結果的に、hCA-IXの活性部位はhCA-IIのそれよりも大きいという事実が導かれた。第二に重要と考えられる残基は132番であり、hCA-IIではGly、hCA-IXではAspである。この残基は、hCA-IIの活性部位の入り口の親水性半分の縁に存在しており(hCA-IXにおいても同様だと考えられる)、発明者らが最近示したように(参考文献番号19b)、長い分子を有する阻害剤との相互作用に重要である。132番のGlyのCONH部位を含む強力な水素結合により、このアイソザイムとp−アミノエチルベンゼンスルホンアミド由来の阻害剤とのコンプレックスが安定化することが示された(参考文献番号19b)。hCA-IXの場合、活性部位の入り口の該当する位置にアスパラギン酸が存在することは、次のことを意味する;(i)COOH部位はより多くの供与原子を有するので、活性部位内部に結合した阻害剤の極性部位とのより強力な相互作用が可能である;(ii)この残基は、立体構造が可変性であり、阻害剤との相互作用において微細調整が可能である。従って、これらの阻害剤のうちで、アイソザイムIIに対する親和性と比較して、より強力なhCA-IX阻害作用を示すもの(例えば、46〜50、52、53、55、58、62および68〜70など)については、上述した2つの活性部位残基の相互作用の差を理由に説明することができた。
【0124】
MN特異的阻害剤の治療応用
本発明に従うMN特異的阻害剤は、有機性および/もしくは無機性、好ましくは有機性であり、また、上に概説したように、単独で、または他の化学療法剤と組み合わせて腫瘍および/もしく腫瘍発生前疾患の治療に使用することができる。
【0125】
MN特異的阻害剤は、好ましくは、生理的に許容され、非毒性の液性ビヒクルに分散することにより、その治療有効量を投与することができる。
【0126】
材料および方法
一般法−融点:加熱プレート顕微鏡(補正なし);IRスペクトル:KBr錠法、400〜4000cm-1、Perkin-Elmer 16PC FTIRスペクトロメーター;1H-NMRスペクトル:Varian 300CXP装置(化学シフトは、Me4Siを標準物質とし、相対的δ値で表した);元素分析:Carlo Erba Instrument CHNS Elemental Analyzer,Model 1106。全ての反応は、0.25mmのプレコートシリカゲルプレート(E.メルク(Merck)社)を用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)によってモニターした。ピリリウム塩は文献(参考文献番号6、26、108)の記載に従い、一般的に、オレフィン(またはそれらの前駆体)のビスアシル化によって調製したが、アミノベンゾールアミドに関してはより早い時期に文献に記載されていた(参考文献番号97)。標準物質として使用したその他のスルホンアミド類は購入可能であった。
【0127】
化合物71〜91(アミノベンゾールアミドのピリジニウム誘導体類)の調製に関する一般的方法
5mlの無水メタノール中に2.9mMのアミノベンゾールアミド(参考文献番号97)および2.9mMのピリリウム塩(図5に図示)を懸濁させ、14.5mMのトリエチルアミンと5.8mMの無水酢酸との撹拌混合物中に加えた。5分間撹拌した後、反応混合物中にさらに10mlのメタノールを加え、これを加熱して15分間還流させた。次に、14.5mMの無水酢酸を加え、さらに2〜5時間加熱を続けた。無水酢酸の役割は、ピリリウム塩と芳香環式アミンとの間の縮合反応中に生成した水と反応することであり、一般式(B)(上述)で表されるピリジニウム塩の生成を平衡化するためである。アミノベンゾールアミドの場合には、この方法が、許容できる収量のピリジニウム塩が得られる唯一の方法であるが、これはおそらく、アミン基上のスルファモイルアミノチアジアゾール部位が脱活性化されることによるものであり、これらの反応試薬に対する該部位の求核性が低下し、反応性が消失する。沈殿したピリジニウム塩は、濃アンモニア溶液で処理することによって精製し(また、この操作により、未反応のピリリウム塩が酸性溶媒に可溶性の対応するピリジンに転換する)、過塩素酸を用いて再沈殿させ、さらに、2〜5%のHClO4を加えた水から再結晶させた。
【0128】
CA-IXの触媒性ドメインの精製
hCA-IXの触媒性ドメインのcDNA(パストレック(Pastorek)らの記載(参考文献番号72)に従って単離した)は、PCRおよびベクターpCAL-n-FLAG(ストラタジーン(Stratagene)社から購入)用の特異的プライマーを用いて増幅させた。得られた構築体は、pCAL-n-FLAGベクターに挿入し、大腸菌(Escherichia coli)株BL21-GOLD(DE3)(ストラタジーン(Stratagene)社から購入)内でクローニング、発現させた。ウィンゴ(Wingo)らの記載(参考文献番号116)に従い、4Mの尿素および2%のTriton X-100を含む緩衝溶液(pH8)中でバクテリア細胞を溶解し、ホモジネートした。可溶性タンパク質および膜関連タンパク質、ならびにその他の細胞残渣を除去することを目的として、得られたホモジネートを十分に遠心分離した。残留尿素およびTriton X-100を除去することを目的として、水中でのホモジネーションおよび遠心分離を繰り返すことによって、得られたペレットを洗浄した。精製したCA-IX含有部は、6Mの塩酸グアニジンで変性させ、次に、100mMのMES(pH6)、500mMのL-アルギニン、2mMのZnCl2、2mMのEDTA、2mMの還元グルタチオン、1mMの酸化グルタチオンを含む溶液ですばやく希釈することによって活性型に戻した。活性型CA-IXは、10mMのHEPES(pH7.5)、10mMのTris−塩酸、100mMのNa2SO4および1mMのZnCl2を含む溶液中で十分に透析した。タンパク質量は分光光度計を用いた測定により、また活性はCO2を基質とするストップフロー測定(参考文献番号44)によって求めた。追加として、スルホンアミドアフィニティークロマトグラフィーによってタンパク質をさらに精製し(参考文献番号44)、酵素量は分光光度計を用いた測定により、活性はCO2を基質とするストップフロー測定(参考文献番号44)によって求めた(参考文献番号44)。
【0129】
CA-I、IIおよびIVの精製
リンズコッグ(Lindskog)らの研究グループによって記載されているプラスミドpACA/hCA-IおよびpACA/hCA-IIを用い(参考文献番号54)、大腸菌(Escherichia coli)株BL21(DE3)内でヒトCA-IおよびCA-IIのcDNAを発現させた。細胞増殖の条件については参考文献番号12に記載されており、酵素は、カリファー(Khalifah)らの方法(参考文献番号45)に従ってアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。酵素濃度は280nmにおいて分光光度測定することによって求めたが、このとき、モル吸光度は、CA-Iに対しては49mM-1・cm-1、CA-IIに対しては54mM-1・cm-1であり、また、CA-Iに対してはMr=28.85kDaであり、CA-IIに対してはMr=29.3kDaであった(参考文献番号53、84)。CA-IVは、マレン(Maren)らの記載に従い、ウシ肺ミクロソームから単離し、エトクスゾラミドを用いた滴定によって濃度を求めた(参考文献番号59)。
【0130】
酵素アッセイ
CAの炭酸ヒドラーゼ活性のアッセイ
SX.18MV-R Applied Photophysicsストップフロー装置を用いてCAの炭酸ヒドラーゼ活性を調べた(参考文献番号44)。ポーカー(Poker)およびストーン(Stone)の分光光度法(参考文献番号76)のストップフロー変数を採用し、上述したSX.18MV-R Applied Photophysicsストップフロー装置を使用した(参考文献番号43)。指示薬としてフェノールレッド(濃度0.2mM)を使用し、吸収極大を557nmに設定し、緩衝液として10mMのHEPES(pH7.5)、0.1MのNs2SO4(イオン強度を一定に保つため)を用い、10〜100秒間の間、CAを触媒とする二酸化炭素の水和反応の経過を記録した。基質として、20℃においてCO2を飽和させた水溶液を使用した(参考文献番号44)。阻害剤のストック溶液(1mM)は、10〜20%(v/v)のDMSO(この程度の濃度では阻害作用はない)を加えた蒸留脱イオン水で調製し、その後、蒸留脱イオン水を用いて0.01Mに希釈した。阻害剤と酵素溶液の混合物は、アッセイ前に室温で10分間プレインキュベートすることによってE-Iコンプレックスを形成させた。各阻害剤濃度において3回実験を行い、文献に報告している値は、それらの結果の平均値である。
【0131】
CAのエステラーゼ活性のアッセイ
別異のCAアイソザイムによって触媒される4−ニトロフェニルアセタートの加水分解の初期速度は、IBMコンパチブルPCを配備したCary3装置を使用し、400nmにおいて分光光度計を用いてモニターした(参考文献番号76)。基質溶液は、無水アセトニトリルで調製し、基質濃度は2×10-2〜1×10-6Mとし 、25℃で行った。文献(参考文献番号76)に報告されているように、実験条件(pH7.40)下においては、加水分解によって生成した4−ニトロフェノラートのモル吸光係数εとしては18,400M-1cm-1を用いた。観察された速度から非酵素性加水分解速度を常に差し引いた。阻害剤の各濃度について3回実験を行い、文献に報告した値は各結果の平均値である。阻害剤のストック溶液(1〜3mM)は、10〜20%(v/v)のDMSO(この程度の濃度では阻害作用はない)を加えた蒸留脱イオン水で調製し、その後、蒸留脱イオン水を用いて0.01Mに希釈した。阻害剤と酵素溶液の混合物は、アッセイ前に室温で10分間プレインキュベートすることによってE-Iコンプレックスを形成させた。阻害定数KIは、参考文献番号44、76の記載に従って求めた。
【0132】
膜透過性アッセイ:イクス・ビボ(ex vivo)における赤血球細胞の透過
Tris緩衝液(pH7.40、5mM)を用い、用時単離したヒト赤血球細胞(10ml)を数回十分に洗浄し、10分間遠心分離した後、2mMのスルホンアミド阻害剤25mlを加えて処理した。インキュベーションは、37℃において穏やかに撹拌しながら30〜120分間行った。30、60または120分間インキュベーションを行った後、赤血球を再度10分間遠心分離し、上清を傾捨し、上記緩衝液10mlを用いて細胞を3回洗浄することにより、結合していない阻害剤を除去した(参考文献番号81、96、98)。次に、25mlの蒸留水中で細胞を溶解させ、遠心分離して膜およびその他の不溶性不純物を除去した。得られた溶液を100℃で5分間加熱し(CAを変性させるため)、3種類の方法により、各サンプル中に存在していると考えられるスルホンアミド類をアッセイした:HPLC法(参考文献番号36);分光光度法(参考文献番号4);酵素法(参考文献番号76)。
【0133】
HPLC:発明者らは、ゴマ(Gomma)の方法(参考文献番号36)の変法を開発したが、それは次のようなものであった:分離には市販の5μmのBondapak C-18カラムを使用し、移動相はアセトニトリル−メタノール−リン酸緩衝液(pH7.4)=10:2:88(v/v/v)を流速3ml/分で流し、内部標準として0.3mg/mlのスルファジアジン(シグマ( Sigma )社))を用いた。保持時間は、アセタゾラミド=12.69分、スルファジアジン=4.55分、ベンゾールアミド=10.54分、アミノベンゾールアミド=12.32分、71=3.15分、76=4.41分、89=3.54分および91=4.24分。溶出液については、吸光度(アセタゾラミドに対しては254nm、その他のスルホンアミド類の場合には270〜310nmの範囲)を連続的にモニターした。
【0134】
分光光度:アブディン(Abdine)らのpH誘導性分光光度アッセイの変法(参考文献番号4)を使用し、例えば、アセタゾラミドに対しては260および292nm、スルファニルアミドに対しては225および265nmなどにおいて測定を行った。各阻害剤の標準液は、膜透過実験において使用した緩衝液と同じ液を用いて調製した。
【0135】
酵素法:上述したように(参考文献番号76)、溶解物中に存在するスルホンアミドの量は、エステラーゼ法を用いて測定したhCA-II阻害に基づいて評価した。各スルホンアミドに対して、純粋なスルホンアミド化合物を用いて事前に標準阻害曲線を作成し、これを用いて溶解物中に存在する阻害剤の量を求めた。上記3つの方法によって得られた結果は、実験誤差の許容範囲内で良く一致したことを特記しておく。
【0136】
統計分析:値は、±測定の標準偏差で表した。統計的有意差は、p<0.05を有意差ありとする非対t検定によって判断した。
【0137】
以下の実施例は例示のためのものであり、如何なる意味においても本発明を制限するためのものではない。
【実施例】
【0138】
実施例1:芳香環式および複素環式スルホンアミド類を用いた腫瘍関連アイソザイムIXの阻害
腫瘍関連膜貫通炭酸脱水酵素IX(CA-IX)を阻害することに関しては、臨床的に使用されている6種類の化合物を含む一連の芳香環式および複素環式スルホンアミド類を用いて研究されてきた。臨床的に使用されている化合物としては、アセタゾラミド、メタゾラミド、エトクスゾラミド、ジクロロフェナミド、ドルゾラミドおよびブリンゾラミドが挙げられる。比較のために、生理学的に関連のあるアイソザイムIおよびII(サイトゾル型)ならびにIV(膜結合型)に対する阻害データも提供されている。
【0139】
化学:腫瘍関連アイソザイムCA-IXに対する阻害作用を研究した1〜26の型のスルホンアミド類については図4A〜Bに示す。化合物1〜6,11〜12、20および26は市販されているが、7〜10(参考文献番号43)、13〜19(参考文献番号24、79、90、97)および21〜25(参考文献番号79)は報告に従って調製した。臨床的に使用されている6種類の化合物についてもアッセイを行ったが、そのようなデータに関しては文献に記載されてはいなかった。
【0140】
CA阻害データ:上述の化合物1〜26および臨床的に使用されている6種類の化合物を用いて得られた4種類のCAアイソザイム、すなわち、CA-I、II、IVおよびIXに対する阻害データ(参考文献番号44、72、116)を表1に示す。
【表1】
【0141】
本報告は、臨床的に使用されている6種類の化合物(アセタゾラミド、メタゾラミド、エトクスゾラミド、ジクロロフェナミド、ドルゾラミドおよびブリンゾラミド)を含む一連の芳香環式および複素環式スルホンアミド類を用いて行った腫瘍関連膜貫通アイソザイムCA-IXに対する初めての阻害実験の結果である。比較のために、生理学的に関連のあるアイソザイムIおよびII(サイトゾル型)ならびにIV(膜結合型)に対する阻害データも提供する。これらのスルホンアミド類に関しては、CA-IXに対する非常に興味深い阻害プロファイルが観察され、このことは、抗腫瘍剤として使用できるCA-IX特異的阻害剤の有効な設計に対する創見を約束するものである。nMレベルでCA-IXを阻害する化合物がいくつか検出されているが、それらには、芳香環式のスルホンアミド類(例えば、オルタニルアミド、ホモスルファニルアミド、4−カルボキシ−ベンゼンスルホンアミド、1−ナフタレン−スルホンアミドおよび1,3−ベンゼンジスルホンアミドの誘導体類など)も複素環式スルホンアミド類(例えば、1,3,4−チアジアゾール−2−スルホンアミド、ベンゾチアゾール−2−スルホンアミドなど)も含まれている。
【0142】
実施例2:腫瘍関連アイソザイムIXを標的とする初めての選択的かつ膜不透過性阻害剤
これまで、このような型の膜不透過性のCAIを用いたCA-IX阻害実験は報告されていない。従って、発明者らは、一般式(A)で表されるピリジニウム誘導体類のうちのいくつかについて、発明者らが最近クローニング、精製した腫瘍関連アイソザイムIX(参考文献番号33、43、114、115、117)の触媒性ドメインとの相互作用、ならびに、サイトゾル性で生理学的に関連のあるアイソザイムCA-I、II、および膜結合性アイソザイムCA-IVとの相互作用(参考文献番号88、96)について調査することにした。
【0143】
腫瘍関連膜貫通炭酸脱水酵素IX(CA-IX)アイソザイムに対する阻害については、スルファニルアミド、ホモスルファニルアミドおよび4−アミノエチル−ベンゼンスルホンアミドのピリジニウム誘導体類であって正の電荷を帯びた一連の化合物を用いて実験を行った。比較のために、生理学的に関連のあるアイソザイムIおよびII(サイトゾル型)ならびにIV(膜結合型)に対する阻害データも得た。阻害剤が膜不透過性であり、臨床的に関連のあるアイソザイムIXに対する親和性が高いことから、本報告はCA-IXを選択的に標的とする阻害剤に関する初めての報告である。
【0144】
CA阻害
表2のデータは、化合物27〜70の大多数が有効なCA-IX阻害剤として作用することをはっきりと示しており、このアイソザイムに対する化合物の親和性は、サイトゾル性アイソザイムCA-IおよびII、ならびに膜関連アイソザイムCA-IVに対する親和性と比較するとかなり異なっていた。
【0145】
スルファニルアミド類、ホモスルファニルアミド類およびp−アミノエチルベンゼンスルホンアミド類の一連のピリジニウム置換誘導体類においては、多数の有効なhCA-IX阻害剤が検出された。低nMレベルでCA-IXを阻害する阻害剤のうちのいくつかは初めて報告されたものである。これらの化合物は、その塩様の性質から、膜不透過性であり、また、hCA-IXは、臨床予後の良くない多くの腫瘍の細胞の外側に存在していることから、この型の化合物は、生理学的に重要な役割を果たすことが知られているサイトゾル性CAに影響を与えることなく、腫瘍関連CAアイソザイムを特異的に標的にする。従って、この型の化合物は、CA阻害に基づく新規な抗癌治療の基礎を築くものと考えられる。
【表2−1】
【表2−2】
【0146】
実施例3:ヒト腫瘍関連アイソザイムIXを標的とする選択的、膜不透過性の複素環式スルホンアミド阻害剤の設計
アミノベンゾールアミド(5−(4−アミノベンゼンスルホニルアミノ)−1,3,4−チアジアゾール−2−スルホンアミド)と、ピリジニウム環にアルキル−、アリール−またはアルキルおよびアリール基の組み合わせを有するトリ−/テトラ−置換ピリリウム塩とを反応させることによって、正の電荷を帯びた一連のスルホンアミド類が得られた。これらの新規化合物は、塩様の性質を有することから膜不透過性であり、生理学的に関連のある4種の炭酸脱水酵素(CA、EC 4.2.1.1)アイソザイム類、すなわち、サイトゾル性のhCA-IおよびII、膜結合性のbCA-IVならびに膜結合性腫瘍関連アイソザイムhCA-IXに対する阻害作用をアッセイした。これら新規誘導体は、腫瘍関連アイソザイムCA-IXに対する親和性が高く、膜不透過性であることから、腫瘍関連アイソザイムのみを選択的に阻害し、サイトゾル性のアイソザイムは阻害しないような(新規誘導体はサイトゾル性アイソザイムに対しても高い阻害作用を有しているが)興味深いCA阻害剤候補となり得る。
【0147】
結果
CA阻害:化合物71〜91を用いたアイソザイムI、II、IVおよびIXに対する阻害データを表3に示す。
【表3−1】
【表3−2】
【0148】
イクス・ビボ(ex vivo)における赤血球の透過:ヒト赤血球にミリモル濃度の阻害剤溶液を加えて30〜60分間インキュベートした後の赤血球中のスルホンアミド類の濃度を表4に示す(そのような実験においては、古典的なスルホンアミド類および正の電荷を帯びたスルホンアミド類を使用した)(参考文献番号4、12、36、45、53、54、58、59、84、116、118)。
【表4】
【0149】
本実験で報告している新規化合物については、標準的な化学的および物理学的方法によって特性付けを行い(元素分析(理論値との誤差は±0.4%以内)、IRおよびNMR)、それによって構造を確定し(詳細については、材料および方法の項、ならびに以下の表5を参照)、アイソザイムhCA-I、hCA-II、bCA-IVおよびhCA-IXに対する阻害を調べた。
【表5】
【0150】
結論
発明者らは、正の電荷を帯び、膜不透過性のスルホンアミドCA阻害剤であって、サイトゾル性アイソザイムCA-IおよびCA-II、ならびに膜結合性のCA-IVおよびCA-IXに対する親和性が高い化合物の調製に関する一般的方法を報告している。そのような化合物は、アミノベンゾールアミド(それ自身が非常に強力なCA阻害剤である)に置換ピリジニウム部位を結合させることによって得た。イクス・ビボ(ex vivo)実験から、本明細書に報告している新規分類の阻害剤は、膜結合性アイソザイムとサイトゾル性アイソザイムとを識別することが示された。これらの化合物のうちのいくつかは、腫瘍関連アイソザイムCA-IXに対して低nMレベルの親和性を有することと相関して、本報告は、イン・ビボ(in vivo)において腫瘍関連CA-IXのみを標的とし、一方、サイトゾル性アイソザイムには影響を与えないという選択的阻害の基礎を呈示している。
【0151】
化合物71〜91の特性付け(調製に関しては、材料および方法の項を参照)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2,4,6−トリメチル−ピリジニウムパークロラート71:白色結晶、融点>300℃;IR(KBr法)、cm-1:(斜体文字で示したバンドは陰イオン由来):595,625,664,787,803,884,915,1100,1150,1190,1200,1285,1360,1495,1604,3065;1H-NMR(D2O)、δ、ppm:3.08(s,6H,2,6-Me2);3.11(s,3H,4-Me),7.30-8.06(m,AA'BB',4H,フェニレン由来のArH);9.05(s,2H,ArH,ピリジニウム由来の3,5-H);この溶媒中では、溶媒とのプロトン交換が非常に迅速なため、スルホンアミドプロトンは観察されなかった。元素分析C16H18N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2−イソプロピル−4,6−ジメチルピリジニウムパークロラート72:無色結晶、融点290〜1℃;IR(KBr法)、cm-1:625,680,720,1100,1165,1330,1640,3020,3235;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:1.50(d,6H,イソプロピル由来の2Me);2.80(s,3H,6-Me);2.90(s,3H,4-Me);3.49(ヘプテット、1H,イソプロピル由来のCH);7.25-8.43(m,AA'BB',4H,1,4−フェニレン由来のArH);7.98(s,2H,ArH,ピリジニウム由来の3,5-H)。元素分析C18H22N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2,6−ジイソプロピル−4−メチルピリジニウムパークロラート73:黄褐色結晶、融点278〜9℃;IR(KBr法)、cm-1:625,685,820,1100,1165,1340,1635,3030,3250;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:1.51(d,12H,2−イソプロピル由来の4Me);2.83(s,3H,4-Me);3.42(ヘプテット、2H,2−イソプロピル由来の2CH);7.31-8.51(m,AA'BB',4H,1,4−フェニレン由来のArH);8.05(s,2H,ArH,ピリジニウム由来の3,5-H)。元素分析C20H26N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2,6−ジメチル−4−フェニルピリジニウムパークロラート75:白色結晶、融点>300℃;IR(KBr法)、cm-1:625,690,770,1100,1170,1330,1635,3030,3260,3330;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:2.62(s,6H,2,6-Me2);8.10-9.12(m,11H,1,4−フェニレン、ピリジニウムおよび4-Ph由来のArH)。元素分析C21H20N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2,6−ジエチル−4−フェニルピリジニウムパークロラート76:黄褐色結晶、融点267〜8℃;IR(KBr法)、cm-1:625,695,765,1100,1180,1340,1630,3040,3270,3360;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:1.43(t,6H,エチル由来の2Me);2.82(q,4H,Et由来の2CH2);7.68-8.87(m,11H,1,4−フェニレン、ピリジニウムおよび4-Ph由来のArH)。元素分析C23H24N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2,6−ジ−n−プロピル−4−フェニルピリジニウムパークロラート77:無色結晶、融点235〜7℃;IR(KBr法)、cm-1:625,695,770,1100,1180,1340,1630,3050,3220,3315;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:1.06(t,6H,プロピル由来の2Me);1.73(ゼクステット,4H,n−プロピル由来の2CH2(β));2.84(t,4H,n−プロピル由来の2CH2(α));7.55-8.71(m,11H,1,4−フェニレン、ピリジニウムおよび4-Ph由来のArH)。元素分析C25H28N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2,6−ジイソプロピル−4−フェニルピリジニウムパークロラート79:白色結晶、融点278〜9℃;IR(KBr法)、cm-1:625,690,765,1100,1180,1340,1625,3040,3270,3315;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:1.45(d,12H,イソプロピル由来の4Me);2.95(ヘプテット,2H,イソプロピル由来の2CH);7.92-8.97(m,11H,1,4−フェニレン、ピリジニウムおよび4-Ph由来のArH)。元素分析C25H28N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2−メチル−4,6−ジフェニルピリジニウムパークロラート80:白色結晶、融点298〜99℃;IR(KBr法)、cm-1:625,710,770,1100,1170,1345,1625,3040,3245,3350;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:2.75(s,3H,2-Me);7.53-8.70(m,16H,1,4−フェニレン、ピリジニウムおよび4,6-Ph2由来のArH)。元素分析C26H22N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2−エチル−4,6−ジフェニルピリジニウムパークロラート81:白色結晶、融点245〜5℃;IR(KBr法)、cm-1:625,700,770,1100,1180,1340,1620,3040,3250,3350;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:1.52(t,3H,エチル由来のMe);2.97(q,2H,CH2);7.40-8.57(m,16H,1,4−フェニレン、ピリジニウムおよび4,6-Ph2由来のArH)。元素分析C27H24N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2−n−プロピル−4,6−ジフェニルピリジニウムパークロラート82:白色結晶、融点214〜5℃;IR(KBr法)、cm-1:625,700,770,1100,1180,1340,1620,3030,3270,3350;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:1.03(t,3H,プロピル由来のMe);1.95(ゼクステッド,2H,n−プロピル由来のβ−CH2);2.88(t,2H,n−プロピル由来のα−CH2);7.39-8.55(m,16H,1,4−フェニレン、ピリジニウムおよび4,6-Ph2由来のArH)。元素分析C28H26N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2−イソプロピル−4,6−ジフェニルピリジニウムパークロラート83:白色結晶、融点186〜8℃;IR(KBr法)、cm-1:625,700,770,1100,1170,1340,1620,3040,3250,3360;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:1.51(d,6H,イソプロピル由来の2Me);2.50-3.27(m,1H,イソプロピル由来のCH);7.32-8.54(m,16H,1,4−フェニレン、ピリジニウムおよび4,6-Ph2由来のArH)。元素分析C28H26N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2−n−ブチル−4,6−ジフェニルピリジニウムパークロラート84:白色結晶、融点241〜3℃;IR(KBr法)、cm-1:625,710,770,1100,1180,1335,1625,3040,3260,3345;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:0.93(t,3H,ブチル由来のMe);1.12-2.14(m,4H,n−ブチル由来のCH3-CH2-CH2-CH2);2.96(t,3H,n−ブチル由来のα−CH2);7.21-8.50(m,16H,1,4−フェニレン、ピリジニウムおよび4,6-Ph2由来のArH)。元素分析C29H28N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2−tert−ブチル−4,6−ジフェニルピリジニウムパークロラート85:白色結晶、融点203〜5℃;IR(KBr法)、cm-1:625,705,765,1100,1160,1310,1620,3060,3250,3270;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:1.91(s,9H,t-Bu);6.80-8.74(m,16H,1,4−フェニレンおよび4,6-Ph2由来のArH、ならびにピリジニウム由来の3,5−H)。元素分析C29H28N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2,4,6−トリフェニルピリジニウムパークロラート87:淡黄色結晶、融点>300℃;IR(KBr法)、cm-1(斜体文字で示したバンドは陰イオン由来):625,635,703,785,896,1100,1150,1204,1355,1410,1520,1600,3065;1H-NMR(D2O)、δ、ppm:7.50-8.60(m,19H,1ArH,3Ph+C6H4);9.27(s,2H,ArH,ピリジニウム由来の3,5-H);この溶媒中では、溶媒とのプロトン交換が非常に迅速なため、スルホンアミドプロトンは観察されなかった。。元素分C31H24N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2,6−ジフェニルピリジニウムパークロラート88:黄色結晶、融点218〜20℃;IR(KBr法)、cm-1:625,705,765,1100,1160,1335,1615,3050,3260;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:6.75-8.43(m,17H,1,4−フェニレン、2,6−Ph2由来のArHならびにピリジニウム由来の3,4,5−H)。元素分析C25H20N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2,3,4,6−テトラメチルピリジニウムパークロラート89:黄褐色結晶、融点>300℃;IR(KBr法)、cm-1:625,800,1100,1165,1330,1630,3030, 3305;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:2.62(s,3H,4-Me);2.74(s,3H,3-Me);2.88(s,6H,2,6-(Me)2);7.21-8.50(m,AA'BB',4H,1,4−フェニレン由来のArH);7.93(s,1H,ArH,ピリジニウム由来の5-H)。元素分析C17H20N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
以下に示す本発明の実施態様は例示および説明を目的とするものである。これらは本発明を網羅するためのものでも範囲を制限するためのものでもなく、上述の狭義に基づいて多様な変形および変更が可能なことは明らかである。実施態様は、本発明の原理を説明することを目的として選択、記述したものであり、本発明の実用化については、当業者であれば、特定の使用目的に添うように多様な実施態様および多様な変形を活用することによって可能である。
【0152】
本明細書中に引用した全ての参考文献を参照として本明細書中に取り入れておく。
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療遺伝学の一般的分野、ならびに、化学、生化学工学および腫瘍学の分野に関する。さらに特定すると、本発明は、有機化合物および無機化合物、特に、芳香環式および複素環式スルホンアミド類を使用し、オンコプロテイン(現在では、MNタンパク質、MN/CA-IXイソ酵素(アイソザイム)、MN/G250タンパク質、あるいは単にMN/CAまたはCA-IXまたはMNと称されている)の炭酸脱水酵素活性を特異的に阻害することにより、腫瘍発生前および/または腫瘍性疾患を治療することに関する。本発明は、MN/CA-IXを過剰発現することによって特徴付けられる腫瘍発生前および/または腫瘍性疾患に対して、細胞膜不透過性のMN/CA-IX阻害剤、好ましくは芳香環式および複素環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体類を投与することによって治療する方法にも関する。さらに本発明は、開示されている強力なCA-IX特異的阻害剤を使用した造影法を含む、腫瘍発生前/腫瘍性疾患のための診断/予後診断法、ならびに、該阻害剤に結合(conjugated)したベクターを用いた遺伝子治療に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の発明者であるシルビア・パストレコヴァ(Silvia Pastrekova)博士およびヤロミール・パストレック(Jaromir Pastorek)博士は、ヤン・ザバダ(Jan Zavada)博士と共に(「ザバダ(Zavada)ら」と称する)、元々MNという名が付けられていた癌関連細胞表面タンパク質MN/CA-IXを発見した(参考文献番号72、123)(特許文献1)。特許文献2および特許文献3は、MN遺伝子およびタンパク質の発見、ならびに、MN遺伝子の発現と腫瘍形成性との間の強固な関連性の発見により、癌および前癌状態に対する診断/予後診断ならびに治療のための方法の開発に至ったことについて開示している。さらにザバダ(Zavada)らは、特許文献4にMN/CA-IXタンパク質およびMN/CA9遺伝子の詳細について開示している。
【0003】
ザバダ(Zavada)らは、MN cDNAおよび遺伝子をクローニング、シークエンスし、MNが、二酸化炭素を重炭酸塩と陽子に転換する反応を可逆的に触媒する酵素である炭酸脱水酵素ファミリーに属することを明らかにした(参考文献番号66、72)。MNタンパク質(炭酸脱水酵素IX、CA-IXと改名)は、N-末端プロテオグリカン様領域および触媒活性炭酸脱水酵素ドメインを含む細胞外部分で構成されている。該タンパク質は、1個の膜透過領域および短い細胞質内尾部によって原形質膜に繋ぎ止められている。
【0004】
CA-IXの発現は、正常組織においてはごくわずかの組織に限定されている(参考文献番号74)が、腫瘍とは密接な関係がある(参考文献番号123)。発現は、イン・ビトロ(in vitro)においては細胞密度によっても制限され(参考文献番号52)、また、イン・ビトロ(in vitro)およびイン・ビボ(in vivo)においては腫瘍の低酸素症によっても強く誘導される(参考文献番号121)。CA-IX値を予後が良くないことの指標として記述している医学文献が多数存在する。CA-IXに関連する研究はすべて、CA-IXが診断および/または予後診断の腫瘍マーカーとして、ならびに治療標的として有用であるというザバダ(Zavada)らが最初にたてた仮説(特許文献1)を支持するために行われたにすぎない。
【0005】
MN/CA-IXは、CA類に特徴的なN-末端プロテオグリカン様ドメイン、活性の高いCA触媒ドメイン、1個の膜透過領域、および短い細胞質内尾部を有する(参考文献番号66、72、74、116)。CA-IXは、子宮頸管、卵巣、腎臓、肺、食道、乳房、結腸、子宮内膜、膀胱、結腸直腸、前立腺、ヒトのその他の腫瘍に由来する多数の癌において異所性発現をすることに関して特に興味が持たれており、これは、正常組織においては、胃腸管上皮などに発現が制限されていることとは対照的である(参考文献番号8、11、21、35、41、48、50、51、56、66、72、74、86、110、111、113、116、121、122)。
【0006】
1997年発行の非特許文献1は、G250抗原がMN/CA-IXと同一物であることを報告しているが、これは、ザバダ(Zavada)らがMN/CA-IXを発見し、シークエンスを行って(参考文献番号73、123)から何年も後のことであった。(非特許文献2および非特許文献3も参照)非特許文献1には、「配列分析およびデータベース検索により、G250抗原は、子宮頸管腫瘍において確認されたMNヒト腫瘍関連抗原(非特許文献2)と同一物であることが明らかになった」と記載されている。
【0007】
MN/CA9およびMN/CA-IX−配列の類似性
図1A〜Cは、1522塩基対(bps)からなるMN/CA9 cDNA配列の全長(配列番号1)および459個のアミノ酸から構成されるMN/CA-IXアミノ酸(aa)配列の全長(配列番号2)を示す。図2A〜Fは、10,898bpからなるMN/CA9のゲノム配列(配列番号3)を示す。
【0008】
DNASISおよびPROSIS(ファルマシア・ソフトウェア・パッケージズ( Pharmacia Software packages )社)を利用してMNcDNA配列のコンピュータ分析を行った。GenBank、EMBL、Protein Identification PesourceおよびSWISS-PROTデータベースについて、配列の類似性の可能性を調査した。さらに、MNと類似した配列を有するタンパク質の検索についても、FastAプログラムを用いてMIPSデータバンクについて行った(参考文献番号75)。
【0009】
シグナルペプチドとCAドメインとの間に存在するプロテオグリカン様ドメイン(アミノ酸番号53〜111;配列番号4)は、ヒトのプロテオグリカンアグリカンの大きな凝集塊のケラタン硫酸接着ドメインと顕著な相同性を示した(同一性38%、可能性44%)(参考文献番号28)。
【0010】
CAドメイン(アミノ酸番号135〜391;配列番号5)は、265個のアミノ酸から構成されており、ヒトCA-VIアイゾザイムとのアミノ酸同一性は38.9%であった(参考文献番号5)。MN/CA-IXとその他のアイソザイム類との相同性は以下の通りであった:CA-IIとは35.2%(アミノ酸重複数261個)(参考文献番号63)、CA-Iとは31.8%(アミノ酸重複数261個)(参考文献番号7)、CA-IVとは31.6%(アミノ酸重複数266個)(参考文献65)、CA-IIIとは30.5%(アミノ酸重複数259個)(参考文献番号55)。
【0011】
CAドメインのほかに、MN/CA-IXは、N-末端伸長部およびC-末端伸長部を有するが、これらは他のCAアイソザイムには存在していない。膜透過領域(膜透過固定部)および細胞質内尾部を有するC-末端部分のアミノ酸配列は、既知の如何なるタンパク質配列ともはっきりした相同性を示さなかった。
【0012】
MN遺伝子(MN/CA9またはCA9)は、ヒトゲノム由来の新規の配列であることが明らかになった。MN/CA9のcDNA配列と別異のCAアイソエンザイムをコードしているcDNA配列との間の配列全体の相同性は48〜50%であり、当業者の判断では低いとみなされる。故に、MN/CA9のcDNA配列は、如何なるCAのcDNA配列とも近似していない。
【0013】
MNタンパク質を一定量以上発現する正常組織は非常に少ないことがわかっている。そのようなMN発現性正常組織としては、ヒト消化管粘膜および胆嚢上皮、ならびに消化管のその他いくつかの正常組織が挙げられる。矛盾しているようではあるが、MN遺伝子の発現は、正常状態でMNを発現している組織(例えば、消化管粘膜など)においては、腫瘍およびその他の腫瘍発生前/腫瘍性疾患においては消失または減少することがわかっている。
【0014】
CA-IXおよび低酸素症
CA-IXの発現と腫瘍内低酸素症(微小電極によって測定、または低酸素症マーカー物質であるピモニダゾール(pimonidazole)の取込によって検出、あるいは壊死の程度によって評価)との間には強い関係があることが子宮頸管、乳房、頭および首、膀胱ならびに非小細胞性肺癌(NSCLC)において示されている(参考文献番号8、11、21、35、48、56、111、122)。さらに、NSCLCおよび乳癌においては、血管形成、アポトーシス阻害および細胞−細胞間接着破壊に関与しているタンパク質の型とCA-IXとの間に相関関係が観察されており、該酵素の強い関与が、臨床転帰が良くないことの一因であると考えられる(参考文献番号8)。低酸素症は、腫瘍の浸潤を助長させる細胞外環境の酸性化に関係しており、そのような過程の中において、CA-IXは、その触媒活性を介して作用するものと考えられる(参考文献番号86)。従って、特異的阻害剤を用いてMN/CA-IXを阻害することは、CA-IXを発現している癌の治療に対して新規な方法を確立するものである。
【0015】
CAI類
非特許文献4においては、CA阻害剤(CAI)の基本型であるアセタゾラミドは、別異の細胞毒性物質と組み合わせることによって抗癌治療における調節物質として作用することが報告されており、そのような細胞毒性物質としては、アルキル化剤;ヌクレオシドアナログ類;プラチナ誘導体類、ならびに、いくつかの腎腫瘍細胞系(Caki-1、Caki-2、ACHNおよびA-498)に対して腫瘍転移を抑制し、浸潤能を低下させるようなその他の物質などが挙げられる。そのような研究においては、CAIは、ひとつまたはそれ以上のCAアイソザイム類を過剰発現する腫瘍の制御に使用できることが示されている。アセタゾラミド(単独または組み合わせて)の抗癌効果は、CA阻害後に生じた腫瘍内環境の酸性化によるものであるという仮説が立てられた(参考文献番号20)が、このとき、該薬物のその他の作用機構については除外されていない。非特許文献5は、臨床的に使用されている2つの強力なスルホンアミドCAI類、すなわちメタゾラミドおよびエトクスゾラミドを用いてヒトリンパ腫細胞の細胞培養系を処理した場合にイン・ビトロ(in vitro)増殖阻害が起こったことは、CA阻害の結果、ヌクレオチド合成のための重炭酸塩(HCO3-はカルバモイルリン酸合成酵素IIの基質である)の蓄えが減少したからではないかという仮説を記載している(参考文献番号20)。
【0016】
臨床薬物または診断薬として使用されている古典的な6種のCAI類(アセタゾラミド、メタゾラミド、エトクスゾラミド、ジクロロフェナミド、ドルゾラミドおよびジクロロフェナミド)は、全てある程度の腫瘍増殖阻害特性を示す(参考文献番号18、78、101、102)。
【0017】
本発明の発明者であるクラウディア・スプラン(Claudia Supuran)博士とアンドレア・スコッツァファヴァ(Andrea Scozzafava)博士は、スルホンアミドCAI類のいくつかのクラスについての構造およびイン・ビトロ(in vitro)抗腫瘍活性について報告しており、重要な生理学的役割を有することが既知である古典的なアイソザイム類(CA-I、CA-IIおよびCA-IVなど)に対して、nMレベルで阻害剤として作用することを示した。これらの化合物は、ある種の白血病、非小細胞性肺癌、卵巣、メラノーマ、結腸、CNS、腎臓、前立腺および乳癌の細胞系に対して強力な細胞増殖阻害作用を発揮することも示されており、GI50値は10〜75nMの場合があった(参考文献番号77、91、92、100)。
【0018】
非特許文献6は、3種類の古典的なスルホンアミド薬物類(アセタゾラミド、エトクスゾラミドおよびメトクスゾラミド)がnMレベルのKI値でCA-IX炭酸脱水酵素活性を阻害したことを報告している(参考文献番号116)。しかしながら、本発明以前においては、CA-IX(単独または他のCAアイソザイムとの比較において)に対するスルホンアミド阻害に関する体系的な構造活性相関研究は行われていない。
【0019】
ある種の芳香環式/複素環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体類は、CA-IIおよびCA-IVに対してnMレベルで親和性を示したが、より重要な点は、イン・ビボ(in vivo)においてそれらが原形質膜を通過することができなかったことである(参考文献番号17)。
【0020】
非特許文献7は、アセタゾラミドなどの古典的阻害剤に加えて、膜不透過性のスルホンアミド阻害剤類を用い、アデノーマ重炭酸塩類転送因子の抑制制御とCA-IIとの間の機能上および物理的関係について調査しており、これらの生理学的過程における細胞質基質関連アイソザイムの関与と膜関連アイソザイムの関与とを明確に区別することができた(参考文献番号85)。
【0021】
CA類
炭酸脱水酵素(CA類)は、生理学的に非常に重要な亜鉛金属酵素をコードしている遺伝子群からなる大きなファミリーを形成している。二酸化炭素の水和に関する可逆的触媒として、これらの酵素は、呼吸、石灰化、酸塩基平衡、骨吸収、房水の生成、髄液、唾液および胃酸を含む多様な生物学的過程に関与している(非特許文献8)。CA類は、生物に広く分布している。ヒトを含む高等脊椎動物においては、14種類の別異のCAアイソザイムまたはCA関連タンパク質(CARP)について文献に記載されており、細胞レベル下での局在および組織分布が非常に異なっている(参考文献番号40、93、95、94、102)。基本的には、数種のサイトゾル型(CA-I〜III、CA-VII)、4種の膜結合アイソザイム(CA-IV、CA-IX、CA-XIIおよびCA-XIV)、1種類のミトコンドリア型(CA-V)、ならびに分泌されたCAアイソザイムであるCA-VIが存在する(参考文献番号40、93、94、95、102)。
【0022】
いくつかの腫瘍細胞においては、ある種の膜関連CAアイソザイム類(例えば、CA-IXおよびCA-XIIなど)のみを主に発現することが示されている(参考文献番号2、67、68、78、87、93、95)。稀に、ある種のアイソエンザイムが核に局在していることが報告されている(参考文献番号64、69、70)。現在のところ、細胞に局在しているその他のアイソザイム類はほとんど知られていない。
【0023】
CA類およびCA関連タンパク質は、組織分布、レベル、ならびに推定もしくは確認された生物学的作用が非常に広範にわたっている(参考文献番号105)。いくつかのCA類は、ほぼ全ての組織において発現されており(CA-II)、その他のCA類の発現はより限定的である(例えば、CA-VIおよびCA-VIIは唾液腺で発現される)(参考文献番号32、69、71)。CA類およびCA関連タンパク質は、動的特性および阻害剤に対する感受性も異なっている(参考文献番号82)。
【0024】
臨床に使用される上述のスルホンアミド類の大多数は、全身作用性の阻害剤であり、標的組織臓器内に存在する多数の別異のCAアイソザイム類(現在のところ、ヒトにおいては14個のイソ型が知られている)を阻害することによって、所望しない副作用を引き起こす。(参考文献番号93、94、95、102)。故に、そのような副作用を回避することを目的として、新規のスルホンアミド類を設計・合成しようとする試みに関して、近年、多くの報告がなされている(参考文献番号13、17、42、62、80、99、100)。すくなくとも4種類のCAアイソザイム(CA-IV、CA-IX、CA-XIIおよびCA-XIV)は細胞膜に関与しており、一般的に、酵素活性部位は細胞外に向いている(参考文献番号93、94、95、102)。これらのアイソザイムのうちのいくつかは、生理学に重要な役割を果たしていることが示されているが(例えば、目、肺、および腎臓内に存在するCA-IVおよびXII、消化管粘膜および多数の腫瘍細胞内に存在するCA-IXなど)(参考文献番号3、18、22、29、49、67、68、83、93、94、95、102)、CA-XIVなどのその他のアイソザイム類の作用については現在のところよくわかっていない(参考文献番号93、95)。これらのアイソザイム類が細胞外に存在していることから、膜不透過性のCA阻害剤(CAI類)を設計することができるならば、膜関連性のCA類のみが影響を受けることになる。
【0025】
歴史的観点から見ると、CAI類を膜不透過性にしようとする最初の試みは、ポリマー類(例えば、ポリエチレングリコール、アミノエチルデキストランまたはデキストランなど)に芳香環式/複素環式スルホンアミド類を結合させることであった(参考文献番号39、60、107)。そのようにして調製された分子量が3.5〜99kDaの範囲の化合物は、分子量が大きいために確かに膜不透過性を示し、また、腎および肺に関する数例の生理学的実験に使用したところ、イン・ビボ(in vivo)においてCA-IVのみを選択的に阻害し、サイトゾル性アイソザイム類(主にCA-II)は阻害しなかった(参考文献番号39、60、107)。そのような化合物は分子量が大きいことから、イン・ビボ(in vivo)において強力なアレルギー反応を誘発したので、薬物/診断用材料として開発することはできなかった(参考文献番号39、60、93、95、107)。膜不透過性にするための第二の試みは、高極性、塩様化合物を使用することであった。生理学的実験においては、スルホンアミドのうちのQAS(スルファニルアミド四級アンモニウム塩)のみが最近まで使用されており、多様な節足動物(例えば、カニ(カリネクテス・サピドゥス(Callinectes sapidus)など)および魚類において、細胞外CA類のみを阻害することが報告されている(参考文献番号57)。QASの重大な欠点は、高等脊椎動物において毒性が高いことである(参考文献番号57)。
【0026】
炭酸脱水酵素の酵素活性(CA-IXのそれも含む)は、スルホンアミド阻害剤によって効果的に阻止することができる。そのような事実は、ある種のCAイソ型の過度の活性が原因であるような疾患(例えば、緑内障におけるCA-IIなど)の治療に利用されてきた。スルホンアミド類はイン・ビトロ(in vitro)においては腫瘍細胞の増殖および浸潤を阻止し、イン・ビボ(in vivo)においては腫瘍の増殖を阻害するという経験的に見出された事実があるが、そのようなスルホンアミド類の標的は確認されていない。しかしながら、スルホンアミド類は、細胞レベル下の別異のコンパートメントに局在しており、多岐にわたる生物学的役割を担っている多様なCAアイソザイム(現在、ヒトでは14種類が既知である)を無差別に阻害することはできる。このような選択性の欠如は、多数のCAイソ型が同時に阻害され、所望しない副作用が生じることから、これらの化合物の臨床上の利用価値を低下させ、また、抗癌治療においてCA-IXに対してスルホンアミドを投与した場合の重大な欠点でもある。
【0027】
従って、当該分野においては、膜不透過性の強力なCA-IX阻害剤に対する要求があり、そのような阻害剤はCA-IXに対して二重の選択性を有することになる。本発明者らは、これまでにも本明細書に記載している数種の膜不透過性分子を調製し、それらについて記載しているが、それらには、CA-I、CA-IIおよびCA-IVを阻害する能力についてのみが特記されている。その他については、網膜色素沈着上皮または筋肉内において、膜不透過性物質によって細胞外CAを選択的に阻害することによる影響について研究が行われている(参考文献番号34、120)が、これらの物質がCA-IXを阻害する能力については調べられていない。CA-IXは、数少ない細胞外炭酸脱水酵素のうちのひとつであることから、CA-IXの膜不透過性選択的阻害剤は該酵素に対して二重の選択性を有し、さらに、CAの非特異的阻害に伴う副作用を回避する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】ザバダ(Zavada)ら、米国特許第5,387,676号
【特許文献2】ザバダ(Zavada)ら、国際公開WO93/18152号
【非特許文献】
【0029】
【非特許文献1】ウエムラ(Uemura)ら、J.Urology,1571(4):377(要約1475)(1997年4月16日)(参考文献番号112)
【非特許文献2】パストレック(Pastorek)ら、Oncogene,9:2788-2888(1994)(参考文献番号72)
【非特許文献3】オパヴスキ(Opavsky)ら、Genomics,33:480-487(1996)(参考文献番号66)
【非特許文献4】テイチャー(Teicher)ら、Anticancer Research,13:1549-1556(1993)(参考文献番号106)
【非特許文献5】チェグィッデン(Chegwidden)ら、「癌における炭酸脱水素酵素アイソザイム類の役割(The Roles of carbonic anhydrase isozymes in cancer)」、遺伝子ファミリー:DNA、RNA、酵素およびタンパク質の研究(Gene Families:Studies of DNA,RNA,Enzymes and Proteins)より、シェ(Xue)ら編、ワールド・サイエンティフィック(World Scientific)社、シンガポール、pp.157-169(2001)(参考文献番号20)
【非特許文献6】ウィンゴ(Wingo)ら、Biochem.Biophys.Res.Comm.,288:666-669(2001)(参考文献番号116)
【非特許文献7】スターリング(Sterling)ら、Am.J.Physiol.-Cell Physiol.,283:C1522-C1529(2002)(参考文献番号85)
【非特許文献8】ドッジソン(Dodgson)ら、「炭酸脱水酵素(The Carbonic Anhydrases)」、プレナム・プレス(Plenum Press)社、ニューヨーク−ロンドン、pp398(1991)(参考文献番号27)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
発明者らは、他のCAイソ型からCA-IXを区別している特徴を利用することにより、CAI類の選択性の欠如という問題に取り組んだ。まず始めに、CA-IXは、原形質膜タンパク質が集積したものであり、活性部位が細胞外部に向かって露出している。この点については、いくつかのCA類(CA-IV、CA-XIIおよびCA-XIV)と同様であるが、その他全てのイソ型とは異なっている。これらの膜結合性アイソザイムの中では、触媒性ドメインのアミノ酸配列において、CA-IXはいくつかの相異点があり、このことが活性部位のくぼみの立体配置、さらにスルホンアミド類との相互作用に影響していると考えられる。さらに、他のCAイソ型とは異なり、CA-IXは予後が良くない腫瘍の低酸素領域に多く発現している。
【課題を解決するための手段】
【0031】
発明者らは、一連の芳香環式および複素環式化合物を用いてCA-IXの阻害プロファイルの評価を行い、それらの化合物のうちのいくつかは、広く分布しているイソ型であるCA-I、CA-IIおよびCA-IVよりもCA-IXを効率的に阻害することを見出した。芳香環式および複素環式化合物において、nMレベルでCA-IXを阻害する化合物がいくつか検出された。この知見は、それらの化合物の物理化学的特性(例えば、電荷、大きさおよび生物学的還元性など)を変化させてCA-IXの特徴的な特性に適合させることにより、CA-IX特異的阻害剤を設計するためには非常に有望である。
【0032】
発明者らは、CA-IXを強力に阻害する、よりかさ高い化合物のうちのいくつかは、CA-I、CA-IIおよびCA-IVの阻害剤としては非常に弱いことを発見したが、これは、調査したその他のアイソザイムの活性部位のくぼみよりもCA-IXのそれが大きいという事実に由来すると考えられる。本明細書に開示されており、腫瘍関連性イソ型であるCA-IXの選択的阻害に基づくスクリーニングで確認されたそのような型の化合物は、特に好ましいCA-IX特異的阻害剤であると考えられ、新規な抗癌治療および本発明に従う診断/予後診断法に使用することができる。
【0033】
発明者らは、CA-IXは、細胞の浸潤能を高めるために重要と考えられているE-カドヘリンを介した細胞−細胞接着を減弱させることができることを示した(参考文献番号103)。さらに、CA-IXは、低酸素状態においては細胞外のpHの酸性化に寄与しているが、酸素正常状態では寄与していないこともわかった(未発表データ)。後者の結果は、低酸素状態では、CA-IXの発現レベルおよび酵素活性の両方が促進制御されていること、すなわち、低酸素状態によってCA-IXのCA触媒活性が活性化されることを示唆している。これは非常に重要な知見である。なぜならば、腫瘍内の低酸素状態は、腫瘍細胞の攻撃性の増強および治療効果の低下に関して臨床的に有意味な因子だからである。通常、低酸素状態は、細胞外の微小環境の酸性化に付随して生じ、そのことによって腫瘍の浸潤および転移が促進される。この現象において、CA-IXは、二酸化炭素の水和を触媒して重炭酸イオン類および陽子を生成させることによって関与していると考えられ、生成した重炭酸イオン類は細胞内部に輸送され、陽子は細胞外のpHを酸性化する。故に、CA-IXの触媒活性を阻害することによって細胞外の酸性化を阻止することは、直接的な抗癌作用であると考えられ、あるいは、従来から使用されており、取込みがpH依存性であるような化学療法剤の効果を調節するものと考えられる。
本発明は、(1)癌関連、低酸素状態誘導性のMN/CA-IXを選択的に標的とするある種の炭酸脱水酵素阻害剤(CAI類)、好ましくはスルホンアミド類を認識すること;(2)そのようなCAI類、好ましくはスルホンアミド類を先導化合物としてMN/CA-IX特異的阻害剤の設計および合成に使用すること;(3)MN/CA-IXを介した腫瘍微小環境の酸性化を阻害することに基づく抗癌治療に該MN/CA-IX特異的阻害剤を使用すること;(4)造影法(シンチグラフィーなど)を含む診断/予後診断法、ならびに遺伝子治療にMN/CA-IX特異的な強力阻害剤を使用することに関する。特に、本発明は、抗癌特性を有する薬物の開発にCA-IX特異的阻害剤を使用すること、ならびに、CA-IX発現、特にCA-IXの過剰発現によって特徴付けられる腫瘍発生前および腫瘍性疾患に対して従来から行われている化学療法を調節することに関する。
【0034】
ひとつの側面から見ると、本発明は、前癌性または癌性疾患を有する哺乳類を治療する方法に関し、該疾患は、MN/CA-IXタンパク質を過剰発現することによって特徴付けられ、該方法は、治療有効量の組成物を該哺乳類に投与することを含み、このとき、該組成物は、有機分子および無機分子よりなる群から選択され、次のようなスクリーニングアッセイにおいてMN/CA-IXの酵素活性の強力な阻害剤であることが確認された化合物を含む:
a)化合物の一連の希釈液、ならびに、MN/CA-IXタンパク質もしくはMN/CA-IXタンパク質の炭酸脱水酵素ドメインを含有するフラグメントの一連の希釈液を調製し;
b)前記化合物の希釈液を、前記MN/CA-IXタンパク質もしくは該MN/CA-IXタンパク質のフラグメントの希釈液と混合して、20℃で10分間プレインキュベートし;
c)反応容器内において、前記化合物の希釈液と前記MN/CA-IXタンパク質もしくはタンパク質のフラグメントの希釈液との混合物をプレインキュベートしたものを、飽和CO2溶液、0.2mMのフェノールレッド、0.1MのNa2SO4、および10mMのHepes緩衝液(pH7.5 )から実質的になる基質と、20℃で10〜100秒かけて混合し;
d)同時に、ストップフロー分光光度計を用いて、反応容器の内容物について吸収極大波長557nmにおける吸光度を測定し;さらに、
e)前記化合物の阻害定数KIを求め;
このとき、該阻害定数KIが約50nM未満の場合に、該化合物はMN/CA-IX酵素活性の強力な阻害剤であると判断され;さらに、該化合物は、アセタゾラミド、エトクスゾラミド、メタゾラミドおよびシアナートよりなる群から選択されたものではない。前記哺乳類は、好ましくはヒトであり、KIは、好ましくは約35nM未満、より好ましくは約25nM未満、さらに好ましくは約10nM未満である。
【0035】
そのような方法は、前癌状態および/もしくは癌を治療する、または、哺乳類患者体内における前癌および/もしくは癌細胞の増殖を阻害する方法としても利用することができ、このとき、該腫瘍発生前および腫瘍状態は、MN/CA-IXの過剰発現によって特徴付けられる。前記の方法は、MN/CA-IXを過剰発現している腫瘍発生前または腫瘍性哺乳類細胞の増殖を阻害することにも利用することができ、このとき、該細胞に本発明に従うCA-IX特異的阻害剤を接触させることを含む。
【0036】
本発明に従うCA-IX特異的阻害剤は、治療効果を発揮する量を投与することができ、好ましくは、生理学的に許容される非毒性液体ビヒクルに分散させる。腫瘍発生前/腫瘍性疾患の部位または型(例えば、充実性腫瘍、非充実性(non-solid)腫瘍または転移など)に応じて、別異の投与経路を選択することが好ましい。一般的には、腸管外投与が好ましく、そのことにより、全身性処置による所望しない副作用、例えば、胃腸管粘膜に阻害剤が結合することによって引き起こされるものなどを回避することができる。一般的には、腫瘍発生前/腫瘍性疾患の内部またはその近傍に注入することが好ましい。例えば、そのような注入法としては、静脈内、腹膜内、直腸内、皮下、筋肉内、眼窩内、被膜内、脊髄内、胸骨内、髄内、損傷部内、皮内、その他の注入経路などが挙げられる。他の投与形式、例えば、坐剤または局所投与なども標的疾患に合わせて使用することができる。製剤は、投与経路に適した既知の基準に従って設計することができる。
【0037】
前記CA-IX特異的阻害剤は、好ましくは有機性であり、より好ましくは芳香環式もしくは複素環式であり、さらに好ましくは、芳香環式スルホンアミドもしくは複素環式スルホンアミドである。前記芳香環式スルホンアミドは、置換された芳香環式スルホンアミドであり、該芳香環式スルホンアミドは芳香環構造を含み、該環構造にはスルホンアミド部位を有し、さらに、ハロゲン基、ニトロ基およびアルキルアミノ基よりなる群から独立して選択される1個またはそれ以上の置換基を追有し、このとき、該アルキルアミノ基のアルキルラジカルは1〜4個の炭素原子を含む。
【0038】
本発明に従う好ましいCA-IX特異的阻害剤は、CA-I、CA-IIおよびCA-IVよりなる群から選択される炭酸脱水酵素の酵素活性よりもMN/CA-IX酵素活性をより強く阻害する。より好ましくは、CA-IX特異的阻害剤は、CA-I、CA-IIおよびCA-IVよりなる群から選択される少なくとも2種類の炭酸脱水酵素の酵素活性よりも、MN/CA-IX酵素活性をより強く阻害する。さらに好ましくは、CA-IX特異的阻害剤は、CA-I、CA-IIおよびCA-IVを含む群の炭酸脱水酵素の個々の酵素活性よりもMN/CA-IX酵素活性をより強く阻害する。
【0039】
しかしながら、サイトゾル性のCA-IIは特に豊富かつ顕著なCAであることから、重要な点は、本発明に従うCA-IX特異的阻害剤が膜不透過性ではない場合には、そのような阻害剤は、CA-IIの酵素活性阻害剤としてよりもMN/CA-IXのより強力な酵素活性阻害剤になり得ることである。以下の工程を含む方法は、CA-IIの酵素活性を阻害する化合物のKIを決定するために使用することができるスクリーニングアッセイの例である:
a)化合物の一連の希釈液およびCA-IIの一連の希釈液を調製し;
b)前記化合物の希釈液をCA-IIの希釈液と混合して、20℃で10分間プレインキュベートし;
c)前記化合物と前記CA-IIとの混合物をプレインキュベートしたものを、反応容器内の無水アセトニトリル中の4−ニトロフェニルアセタートから実質的になる基質溶液に、25℃において1〜3分間かけて加え;
d)同時に、分光光度計を用いて、前記反応容器の内容物について、吸収極大波長400nmにおける吸光度を測定し;さらに、
e)前記化合物の阻害定数KI を求める。
【0040】
本発明に従う芳香環式スルホンアミドまたは複素環式スルホンアミドCA-IX特異的阻害剤の好ましい例は、次の化合物よりなる群から選択される:
【化1】
【0041】
芳香環式スルホンアミドCA-IX特異的阻害剤の好ましい例は、次の化合物よりなる群から選択される。
【化2】
【0042】
好ましい芳香環式スルホンアミドCA-IX特異的阻害剤は、該芳香環式スルホンアミドの芳香環の少なくとも1個の炭素原子にハロゲン原子が結合しているものである。
【0043】
好ましい複素環式スルホンアミドCA-IX特異的阻害剤は、置換基を有する複素環式スルホンアミド類であり、置換基を有する該複素環式スルホンアミドは、該環構造に結合しているスルホンアミド部位を有し、さらに、ハロゲン基、ニトロ基およびアルキルアミノ基よりなる群からそれぞれ独立して選択される1個またはそれ以上の置換基を追有する複素環式環構造をとっており、ここで、該アルキルアミノ基のアルキルラジカルは1〜4個の炭素原子を含む。好ましい複素環式スルホンアミドCA-IX特異的阻害剤はハロゲン化されている。
【0044】
さらに好ましい複素環式スルホンアミドCA-IX特異的阻害剤は、次の化合物よりなる群から選択される:
【化3】
【0045】
さらに、MN/CA-IXタンパク質の過剰発現によって特徴付けられる腫瘍発生前または腫瘍性疾患を有する哺乳類を治療する好ましい方法は、該哺乳類に膜不透過性のCA-IX特異的阻害剤を投与することを含む。そのような膜不透過性CA-IX特異的阻害剤の治療有効量は、膜不透過性化合物を含む組成物として投与することができ、ここで、該膜不透過性阻害剤化合物は有機分子および無機分子よりなる群から選択され、次のようなスクリーニングアッセイにおいてMN/CA-IX酵素活性の強力な阻害剤であることが確認されたものを含有する:
a)化合物の一連の希釈液、ならびに、MN/CA-IXタンパク質もしくはMN/CA-IXタンパク質の炭酸脱水酵素ドメインを含有するフラグメントの一連の希釈液を調製し;
b)前記化合物の希釈液を、前記MN/CA-IXタンパク質もしくは該MN/CA-IXタンパク質のフラグメントの希釈液と混合して、20℃で10分間プレインキュベートし;
c)反応容器内において、前記化合物の希釈液と前記MN/CA-IXタンパク質もしくはタンパク質のフラグメントの希釈液との混合物をプレインキュベートしたものを、飽和CO2溶液、0.2mMのフェノールレッド、0.1MのNa2SO4、および10mMのHepes緩衝液(pH7.5 )から実質的になる基質と、20℃で10〜100秒かけて混合し;
d)同時に、ストップフロー分光光度計を用いて、反応容器の内容物について吸収極大波長557nmにおける吸光度を測定し;さらに、
e)前記膜不透過性化合物の阻害定数KIを求め;
このとき、該阻害定数KIが約50nM未満の場合に、該膜不透過性化合物はMN/CA-IX酵素活性の強力な阻害剤であると判断される。前記哺乳類は、好ましくはヒトであり、KIは、好ましくは約35nM未満、より好ましくは約25nM未満、さらに好ましくは約10nM未満である。
【0046】
そのような膜不透過性CA-IX特異的阻害剤化合物は、好ましくは有機性であり、より好ましくは、芳香環式スルホンアミドのピリジニウム誘導体または複素環式スルホンアミドのピリジニウム誘導体である。そのような膜不透過性CA-IX特異的阻害剤は、CA-I、CA-IIおよびCA-IVよりなる群から選択される炭酸脱水酵素の酵素活性よりも、MN/CA-IX酵素活性をより強く阻害することが好ましく、さらに、CA-I、CA-IIおよびCA-IVよりなる群から選択される少なくとも2種の炭酸脱水酵素の酵素活性よりもMN/CA-IXの酵素活性をより強く阻害することが好ましい。さらにまた、前記膜不透過性CA-IX特異的阻害剤は、CA-I、CA-IIおよびCA-IVを含む群内の各炭酸脱水酵素の酵素活性よりもMN/CA-IXの酵素活性をより強く阻害することが好ましい。CA-IXおよびCA-IVは膜結合性CA類であるので、膜不透過性CA-IX特異的阻害剤が、CA-IV酵素活性よりもCA-IX酵素活性をより強力に阻害する阻害剤であることが特に重要である。
【0047】
以下の工程を含む方法は、CA-IV酵素活性を阻害する化合物のKIを求めるのに使用することができるスクリーニングアッセイの例である:
a)膜不透過性化合物の一連の希釈液およびCA-IVの一連の希釈液を調製し;
b)前記膜不透過性化合物の希釈液をCA-IVの希釈液と混合して、20℃で10分間プレインキュベートし;
c)前記化合物と前記CA-IVとの混合物をプレインキュベートしたものを、反応容器内の無水アセトニトリル中の4−ニトロフェニルアセタートから実質的になる基質溶液に、25℃において1〜3分間かけて加え;
d)同時に、分光光度計を用いて、前記反応容器の内容物について、吸収極大波長400nmにおける吸光度を測定し;さらに
e)前記膜不透過性化合物の阻害定数KI を求める。
【0048】
好ましい膜不透過性CA-IX特異的阻害剤化合物は、芳香環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体類であり、スルファニルアミド、ホモスルファニルアミドおよび4−アミノエチルベンゼンスルホンアミドよりなる群から選択される。芳香環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体類のうちで好ましいものは、以下の一般式を有し:
【化4】
【0049】
ここで、
nは0、1または2であり;
R2、R3、R4およびR6は、水素、炭素数が1〜12であるアルキル部位、およびアリール部位よりなる群からそれぞれ独立して選択される。さらに好ましくは、そのような化合物は、
R2は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、tert−ブチルおよびフェニルよりなる群から選択され;
R3は、水素およびメチルよりなる群から選択され;
R4は、水素、メチルおよびフェニルよりなる群から選択され;さらに、
R6は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルおよびフェニルよりなる群から選択される。またさらに好ましくは、そのような化合物は、
R3は水素であり;
R4およびR6はフェニルであり;
nが0の場合には、R2は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルおよびフェニルよりなる群から選択され;さらに、
nが1または2の場合には、R2は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、tert−ブチルおよびフェニルよりなる群から選択される。その他の好ましい化合物としては、
R3が水素であり;
R4はフェニルであり;さらに、
nが0の場合にはR2とR6は同じ置換基であって、メチル、エチル、n−プロピルおよびイソプロピルよりなる群から選択され;さらに、
nが1または2の場合にはR2とR6は同じ置換基であって、メチル、エチル、n−プロピルおよびイソプロピルよりなる群から選択される。その他の好ましい化合物としては、R2、R3、R4およびR6がメチルであるものが挙げられる。さらに好ましいCA-IX特異的阻害剤化合物は、
nが0、1または2の場合には、R2、R4およびR6はメチルであり、R3は水素であり;あるいは、
nが1または2の場合には、R2はイソプロピルであり、R3は水素であり、R4はメチルであり、R6はメチルもしくはイソプロピルであり;あるいは、
nが1または2の場合には、R2およびR6はフェニルであり、R3およびR4は水素である。
【0050】
さらに好ましいそのような化合物としては、
nが2の場合に、R2およびR6はメチルであり、R3は水素であり、R4はフェニルであり;あるいは、
nが2の場合に、R2およびR6はエチルであり、R3は水素であり、R4はフェニルであり;あるいは、
nが2の場合に、R2、R3、R4およびR6はメチルである。
【0051】
前記CA-IX特異的阻害剤が、複素環式スルホンアミド類の膜不透過性ピリジニウム誘導体である場合には、好ましい化合物は、アミノベンゾールアミドのピリジニウム誘導体である。
【0052】
複素環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体であるCA-IX特異的阻害剤のうちの好ましいものは、次のような一般式で表される:
【化5】
【0053】
ここで、R1、R2、R3、R4およびR5は、水素、炭素数が1〜12であるアルキル部位およびアリール部位よりなる群からそれぞれ独立して選択される。さらに好ましい化合物においては、
R1は、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、n−ブチル、tert−ブチルおよびフェニルよりなる群から選択され;
R2は、水素およびメチルよりなる群から選択され;
R3は、水素、メチル、n−ノニルおよびフェニルよりなる群から選択され;
R4は、水素およびメチルよりなる群から選択され;さらに、
R5は、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、n−ブチル、tert−ブチル、n−ノニルおよびフェニルよりなる群から選択される。さらに好ましい化合物においては、
R2およびR4は水素であり;
R3はメチルであり;さらに、
R1およびR5は、同じ置換基であって、メチル、イソプロピルおよびtert−ブチルよりなる群から選択される。またさらに好ましい化合物においては、
R2およびR4は水素であり;
R3はフェニルであり;さらに、
R1およびR5は、同じ置換基であって、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、n−ブチルおよびフェニルよりなる群から選択される。さらに好ましい化合物においては、
R1は、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピルおよびn−ブチルよりなる群から選択され;
R2およびR4は水素であり;さらに、
R3およびR5はフェニルである。その他の好ましい化合物においては、
R2およびR4は水素であり、R3は水素またはメチルであり、R1およびR5はフェニルである;あるいは、
R1、R2およびR5はメチルであり、R3はフェニルであり、R4は水素である;あるいは、
R1およびR4はメチルであり、R2は水素であり、R3およびR5はn−ノニルである。
【0054】
さらなる好ましい化合物においては、
R1はメチルまたはイソプロピルであり、R3およびR5はメチルであり、R2およびR4は水素である;あるいは、
R1およびR5は同じ置換基であって、メチルまたはエチルであり、R2およびR4は水素であり、R3はフェニルである;あるいは、
R1、R2、R3およびR5はメチルであり、R4は水素である。
【0055】
別の観点から見ると、本発明は、腫瘍を有する患者の体内において腫瘍の増殖を阻害する方法に関し、そのような腫瘍の細胞は、MN/CA-IXタンパク質を過剰発現することによって特徴付けられる。そのような方法としては、化合物を含む組成物の治療有効量を該患者に投与することを含み、ここで、該化合物は、有機分子および無機分子よりなる群から選択され、MN/CA-IXに関して上述したように、飽和CO2溶液を用いたスクリーニングアッセイにおいてMN/CA-IX酵素活性の強力な阻害剤であると判断されたものである。
【0056】
さらに本発明は、本明細書に開示している多様な方法において、CA-IX特異的阻害剤として有用な新規化合物に関する。そのような新規化合物は、複素環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体を含み、次のような一般式を有する:
【化6】
【0057】
ここで、R1は、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、n−ブチル、tert−ブチルおよびフェニルよりなる群から選択され;
R2は、水素およびメチルよりなる群から選択され;
R3は、水素、メチル、n−ノニルおよびフェニルよりなる群から選択され;
R4は、水素およびメチルよりなる群から選択され;さらに
R5は、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、n−ブチル、tert−ブチル、n−ノニルおよびフェニルよりなる群から選択されるが、例外的に次のような場合がある
R2およびR4が水素であって、R3およびR5がメチルである場合には、R1はメチルではない;さらに、
R2およびR4が水素であって、R3がフェニルであって、R5がメチルである場合には、R1はメチルではない;さらに、
R2およびR4が水素であって、R3およびR5がフェニルである場合には、R1はフェニルではない。複素環式スルホンアミド類の好ましいピリジニウム誘導体類としては、
R2およびR4は水素であり;
R3はメチルであり;さらに、
R1およびR5は同じ置換基であって、イソプロピルおよびtert−ブチルよりなる群から選択されるものであり、ならびに、
R2およびR4は水素であり;
R3はフェニルであり;さらに、
R1およびR5は同じ置換基であって、エチル、イソプロピル、n−プロピルおよびn−ブチルよりなる群から選択されるのもであり;ならびにさらに好ましくは、
R1は、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、n−ブチルおよびtert−ブチルよりなる群から選択され;
R2およびR4は水素であり;
R3およびR5はフェニルであるものが挙げられる。複素環式スルホンアミド類のさらに好ましいピリジニウム誘導体類としては、
R1はイソプロピルであり、R3およびR5はメチルであり、R2およびR4は水素であるもの;あるいは、
R2およびR4は水素であり、R3は水素またはメチルであり、R1およびR5はフェニルであるもの;あるいは、
R1、R2およびR5はメチルであり、R3はフェニルであり、R4は水素であるもの;あるいは、
R1、R2、R3およびR5はメチルであり、R4は水素であるもの;あるいは、
R1およびR4はメチルであり、R2は水素であり、R3およびR5はn−ノニルであるものが挙げられる。
【0058】
本発明の別の治療側面から見ると、CA-IX特異的阻害剤は、投与に際して放射性同位元素と結合させることができる。また、CA-IX特異的阻害剤は、放射線および/もしくは、次に挙げている化合物のうちの1種またはそれ以上を含有する生理学的に許容される製剤と同時ならびに/または連続して投与することができ、そのような化合物としては、従来から使用されている抗癌剤、化学療法剤、癌関連経路に対する別異の阻害剤、生体還元性薬剤、生物学的に活性なCA-IX特異的抗体およびCA-IX特異的抗体のフラグメントなどが挙げられる。好ましくは、該CA-IX特異的抗体およびCA-IX特異的抗体のフラグメントは、ヒト型化されたもの、または完全にヒト型であり、細胞毒性の対象に結合することができる。
【0059】
別の治療側面から見ると、本発明は、腫瘍発生前または腫瘍性疾患の哺乳類を治療する方法に関し、ここで、そのような疾患は、MN/CA-IXタンパク質が過剰発現していることによって特徴付けられ、そのような方法は、強力なCA-IX特異的阻害剤に結合したベクターを含有する生理学的に許容される製剤の治療有効量を該哺乳類に投与することを含む。該ベクターは、CA-IX発現細胞(すなわち、腫瘍発生前または腫瘍性の細胞)に欠損している、または突然変異を起こしている野生型遺伝子を発現し、ここで、該野生型遺伝子の生成物は、該細胞内において抗癌活性を発揮するものであり、あるいは、該ベクターは、細胞毒性タンパク質を発現する遺伝子を含む。野生型遺伝子の例としては、腎細胞腫瘍においてCA-IXの本質的な発現に直接関与していることが知られているフォンヒッペル−リンダウ遺伝子などが挙げられる。
【0060】
好ましくは、前記ベクターは、MN/CA-IXプロモーターまたはMN/CA-IXプロモーターフラグメントを有しており、ここで、該プロモーターまたはプロモーターフラグメントは、1種またはそれ以上の低酸素症応答配列(hypoxia response element)(HRE)を含み、さらに、該プロモーターまたはプロモーターフラグメントは、前記野生型遺伝子または細胞毒性タンパク質を発現する遺伝子に、機能発揮できるように連結されている。好ましくは、ベクターに結合したCA-IX特異的阻害剤は、上述のCO2飽和アッセイにおいて測定されたKIが約50nM未満であり、より好ましくは、約35nM未満であり、さらに好ましくは約25nM未満であり、またさらに好ましくは約10nM未満である。好ましくは、そのような強力なCA-IX阻害剤は、アセタゾラミド、エトクスゾラミド、メタゾラミドおよびシアナートよりなる群から選択されるものではない。
【0061】
さらに別の側面から見ると、本発明は、腫瘍発生前または腫瘍状態の診断、ならびに診断および予後診断の方法に関する。例えば、そのような方法は、哺乳類サンプルに、標識もしくは可視化手段に結合したCA-IX特異的阻害剤を接触させ、次に、該サンプル内の細胞上の標識もしくは可視化手段を検出または検出・定量することにより、サンプル内の細胞に対するCA-IX特異的抗体の結合を検出または検出・定量するが、このとき、検出または検出・定量のレベルが対照サンプル以上であることが、サンプル内においてCA-IXを過剰発現している腫瘍発生前または腫瘍性細胞の指標になる。
【0062】
そのような方法は、低酸素状態によって活性化されたCA-IXを検出および検出・定量することにより、診断および予後診断に関して特に重要である。CA-IXの過剰発現を併発する低酸素症は、サンプルの採取元である哺乳類の予後が良くないことを示唆しており、そのような哺乳類の治療は、低酸素状態であるという観点に立って決定される。一般的に、低酸素症マーカーとしてのMN/CA-IXは、治療方針の決定に有用である。例えば、腫瘍がMN/CA-IXを異常に高レベルで発現していることがわかっている癌患者は、ある種の化学療法および放射線療法の対象ではなく、低酸素症選択的化学療法の対象である。
【0063】
ブラウン(Brown),J.M.は、参考文献16の157ページに次のように指摘している:「充実性腫瘍は、正常組織よりもかなり酸素が少ない。このことにより、放射線療法および抗癌剤による化学療法に対して抵抗性を示すことになり、また、腫瘍の転移が起こりやすくなる。」ブラウン(Brown)は、癌治療において腫瘍の低酸素症を如何に利用すべきかを説明している。癌治療に対して腫瘍低酸素症を利用するためのひとつの方法は、ブラウン(Brown)らによって呈示されており(参考文献番号16)、低酸素状態においてのみ毒性を発揮する薬物を使用することである。そのような方法において使用することができる薬物の例および好ましいものとしては、ティラパザミン(tirapazamine)およびミトザントローム(mitozantrome)のジ−N−オキシドアナログであるAQ4Nなどが挙げられる。
【0064】
ブラウン(Brown)によって提唱された第二番目の低酸素症利用法(参考文献番号16)は、HIF-1の選択的誘導を利用するために開発された遺伝子治療法である。ブラウン(Brown)は、腫瘍特異的送達系を開発できることを指摘しているが、このとき、HIF-1に対する応答性が高いプロモーターは、低酸素状態においては条件付きで致死遺伝子の発現を活性化するが、酸素量が正常な状態においてはしない。MN/CA-IXプロモーターは、低酸素症に対する応答性が高い、まさにそのようなプロモーターであり、さらに、MN/CA-IXプロモーターフラグメントは1個またはそれ以上のHREを有する。「低酸素症応答性プロモーター(すなわち、MN/CA-IXプロモーター)の制御下において、正常な状態ではヒトの体内で検出されない酵素が発現することにより、非毒性のプロドラッグが腫瘍内部で毒性薬物に転換される。」(ブラウン(Brown)、参考文献番号16、160ページ)ブラウン(Brown)による、バクテリア由来のシトシンデアミナーゼを利用した例(この酵素は、非毒性の5−フルオロシトシンを抗癌剤である5−フルオロウラシル(5-FU)に転換する)がトリン(Trinh)らによって引用されている(参考文献番号109)。
【0065】
ラットクリフ(Ratcliffe)らは、米国特許第5,942,434号および第6,265,390号において、低酸素状態において抗癌剤が如何に活性化されたかを説明している(参考文献番号119)が、薬物活性化系(薬物を活性化する酵素は、低酸素状態において顕著に増加する)を利用することにより、治療効果が増強された。
【0066】
さらに本発明は、患者の体内でCA-IXを発現している腫瘍および/または転移組織を画像化する方法に関し、造影剤に結合させたCA-IX特異的阻害剤を患者に投与することを含む。好ましい画像法は、シンチグラフィーである。
【0067】
本発明に従うアッセイは、診断および/または予後診断の両方に利用でき、すなわち、診断/予後診断である。本明細書において使用している「診断/予後診断」とは、臨床情況に鑑みて、個別にまたは累積的に以下の過程を包含する:疾患の存在の判断、疾患の性質の判断、ある疾患と別の疾患との区別、病状から導かれる結果の予測、症例の性質および症状から示唆される疾患からの回復の見込みの判断、患者の病状のモニタリング、疾患の再燃に関する患者のモニタリング、および/または、患者に適した治療方法の決定。本発明に従う診断/予後診断法は、例えば、腫瘍性または腫瘍発生前疾患の存在に関する集団スクリーニング、腫瘍性疾患を発症するリスクの判断、腫瘍性および/もしくは腫瘍発生前疾患の存在に関する診断、腫瘍性疾患の患者の病状のモニタリング、ならびに/または腫瘍性疾患の経過の予後に関する判断などに有用である。
【0068】
本発明は、次のような多様な腫瘍発生前/腫瘍性疾患の存在に関する治療およびスクリーニングに有用である:乳癌、結腸直腸癌、尿管癌、卵巣癌、子宮癌、子宮頸管癌、子宮内膜癌、扁平上皮細胞癌および腺扁平上皮癌;頭部および頸部癌;中胚葉性腫瘍(神経芽細胞腫および網膜芽腫など);肉腫(骨肉腫およびユーイング肉腫など);ならびにメラノーマなど。特に興味深いのは、卵巣癌、子宮癌、子宮頸管癌、膣癌、外陰癌および子宮内膜癌などを含む婦人科系の癌であり、とりわけ関心があるのは、卵巣癌、子宮癌、子宮頸管癌および子宮内膜癌である。同様に興味深いのは、乳癌、胃腸管癌、食道を含む腹部の癌、結腸癌、腎臓癌、前立腺癌、肝癌、膀胱を含む尿管癌、肺癌ならびに頭部および頸部の癌である。婦人科系の癌で特に興味深いのは、子宮頸管、子宮内膜および卵巣の腫瘍であり、中でも特に興味深いのは、子宮頸管扁平上皮細胞癌、腺扁平上皮細胞癌、腺癌、ならびに婦人科系の腫瘍発生前状態(例えば、子宮頸管組織の異形成およびコンジロームなど)などである。
【0069】
本発明は、宿主から採取したばかりの細胞群内などに悪性腫瘍または悪性腫瘍発生前の細胞が存在している可能性を評価するための方法および組成物を提供する。そのようなアッセイを利用することにより、腫瘍の検出、それらの増殖の定量化、ならびに疾患の診断および予後診断の一助とすることが可能になる。そのようなアッセイを利用することにより、癌の転移を検出することができ、さらに、手術、癌の化学療法および/もしくは放射線療法後に全ての腫瘍組織が消失している、または除去されていることを確認することもできる。さらに、そのようなアッセイを利用して癌の化学療法および腫瘍の再発をモニターすることもできる。
【0070】
MN抗原の存在は、既に確立された多数の診断アッセイを利用して検出および/または定量することができる。当業者であれば、従来から行われている任意のイムノアッセイフォーマットを改変することにより、本明細書に開示されているようなMN抗原を検出および/または定量することができる。本発明に従うイムノアッセイは、本発明に従う強力なCA-IX特異的阻害剤を含む試験キットを包含しており、ここで該阻害剤は、適切に標識されている、および/もしくは、当該分野において既知の可視化手段に結合されている。そのような試験キットは、固相フォーマット様式にすることができるが、それらに限定されるわけではなく、液相フォーマット様式にすることもでき、さらに、免疫組織化学的アッセイ、ELISA、粒子アッセイ、放射計もしくは蛍光計アッセイ(例えば、増幅させていないもの、またはアビジン/ビオチン法などを用いて増幅させたものについて行う)、その他のアッセイフォーマット様式にすることもできる。
【0071】
本発明に従うCA-IX特異的阻害剤の例示化合物は、MN/CA-IXを発現しない非トランスフェクト細胞と比較して、構造的にMN/CA-IXを発現するトランスフェクト細胞の方を治療することが示された。CA-IX特異的阻害剤の例示化合物は、低酸素状態での細胞培養内に存在するMN/CA-IXによって誘導される細胞外pHの酸性化を阻害することが示された。
【0072】
さらに、標識したスルホンアミド類などのような、CA-IX特異的阻害剤を標識した例示化合物(例えば、フルオレセインイソチオシアナート(FITC)に結合したものなど)は、低酸素状態のみにおいて、MN/CA-IXトランスフェクト細胞の表面に結合し(酸素正常状態では生じない)、対照細胞には結合しないことが示された。これらの実験により、本明細書に記載しているスルホンアミド化合物などのようなCA-IX特異的阻害剤は、腫瘍内微小環境に特徴的な条件下においてMN/CA-IXを特異的に標的にし得ることが確認された。
【0073】
本発明に従うCA-IX特異的阻害剤は、腫瘍発生前および腫瘍状態の診断および予後診断に使用することができ、さらに、患者の状態を判断することができ、さらに、治療的に、従来から使用されている治療法とは独立して、もしくは別の組み合わせで、腫瘍発生前ならびに/または腫瘍の治療をすることができる。CA-IX特異的阻害剤は、癌研究にも使用することができる。
【0074】
腫瘍発生前および/もしくは腫瘍の治療に限定すると、本発明に従うCA-IX特異的阻害剤を用いることにより、CA-IX活性を阻止して癌の拡大および/もしくは進行を妨げることができる。CA-IX特異的阻害剤は、放射線治療用に放射性同位元素と結合させることができる。CA-IX特異的阻害剤は、CA-IX特異的抗体、および従来から使用されている多様な治療薬、例えば、癌関連経路に対する別異の阻害剤、生体還元性薬物、および/もしくは放射線治療剤などと組み合わせることができ、このとき、本発明に従うCA-IX特異的阻害剤を用いた治療方法を独立して組み合わせることにより、全体的な治療効果が増すと考えられる。特に、本発明に従うCA-IX特異的阻害剤は、MN/CA-IX特異的抗体および/もしくはCA-IX特異的抗体のフラグメント、好ましくは、ヒト型化CA-IX特異的抗体および/もしくは生物学的に活性なそれらのフラグメント、さらに好ましくは、完全にヒト型のCA-IX特異的抗体および/もしくは完全にヒト型のCA-IX特異的かつ生物学的に活性な抗体のフラグメントを用いた治療と組み合わせることができる。該CA-IX特異的抗体ならびにCA-IX特異的抗体の生物学的に活性なフラグメント(好ましくはヒト型化されたもの、より好ましくは完全にヒト型)は、細胞毒性物質、例えば、リシンAなどの細胞毒性タンパク質、およびその他多数の細胞毒性物質に結合させることができる。
【0075】
さらに、本発明に従うCA-IX特異的阻害剤は、遺伝子治療(例えば、野生型のフォンヒッペル−リンダウ遺伝子)を目的として、または、細胞毒性タンパク質を効率的に発現させることを目的として、CA-IXを特異的に発現する細胞に標的送達するためのベクターに結合させることができ、ここで、好ましくは該ベクターは、MN/CA-IXの低酸素症応答配列(HRE)もしくはその他の遺伝子のHREを含むMN/CA-IXプロモーターまたはMN/CA-IXプロモーターフラグメントを有しており、より好ましくは、CA-IXプロモーターもしくはCA-IXプロモーターフラグメントは、1個またはそれ以上のHREを含んでおり、該HREは、MN/CA-IXおよび/もしくは他の遺伝子ならびに/または、好ましい関係内で遺伝子操作されたHREコンセンサス配列である。
【0076】
特に、本発明に従うCA-IX特異的阻害剤は、CA-IX、好ましくは低酸素状態において活性化されたCA-IXに結合させることにより、診断/予後診断に使用して腫瘍発生前および/または腫瘍細胞を検出することができ、このとき、該CA-IX特異的阻害剤は、標識または何らかの可視化手段に結合している。そのような検出、特に低酸素状態およびCA-IXの過剰発現の検出は、有効な治療選択を決定する場合、ならびに、治療効果および疾患の進行の予後を予測する場合に役立つ。さらに、CA-IX特異的阻害剤を標識した、または適切な可視化手段に結合した場合には、CA-IXを発現する腫瘍および/または転移の画像化に役立つ。
【0077】
本発明に従うCA-IX特異的阻害剤は、基礎的および前臨床研究にも有用である。例えば、CA-IX特異的阻害剤を用いることにより、CA-IX酵素活性の制御に関する研究、腫瘍の増殖および代謝におけるCA-IXの役割に関する研究、ならびに、薬剤、放射線、阻害剤およびその他の治療法による治療に対する応答におけるCA-IXの役割に関する研究を行うことができる。
【0078】
さらに、膜結合性炭酸脱水酵素であるCA-IXに対して高い親和性を有しており、正の電荷を帯び、膜不透過性である複素環式スルホンアミドCA阻害剤の調製法についても開示している。特に好ましいCA-IX特異的阻害剤は、そのような芳香環式および複素環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体類である。スルホンアミド類の好ましいピリジニウム誘導体類の一般的な構造は、化合物の芳香環式または複素環式スルホンアミド部分の「尾部」にピリジニウム部分が結合した形で表わすことができる。
【0079】
さらに、脊椎動物、好ましくは哺乳類、さらに好ましくはヒト由来の腫瘍発生前または腫瘍性細胞であって、MNタンパク質を異常発現するものの増殖を阻害するために有用な化合物に関するスクリーニングアッセイも提供される。そのようなスクリーニングアッセイは、該化合物によってMNの酵素活性を阻害する試験を含む。本明細書において提供される追加アッセイでは、該化合物の細胞膜不透過性について試験を行う。
【0080】
本明細書に開示している本発明の側面については、以下に詳細に記載する。
【参考文献】
【0081】
略号
本明細書においては以下の略号を使用している:
aa−アミノ酸
AAZ−アセタゾラミド
ATCC−アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)
bp−塩基対
BRL−ベセスダ研究所(Bethesda Research Laboratories)
BRZ−ブリンゾラミド
BSA−ウシ血清アルブミン
CA−炭酸脱水酵素
CAI−炭酸脱水酵素阻害剤
CAM−細胞接着分子
CARP−炭酸脱水酵素関連タンパク質
Ci−キュリー
cm−センチメートル
CNS−中枢神経系
cpm−カウント/分
C-末端−カルボキシ末端
℃−摂氏温度
DCP−ジクロロフェナミド
DEAE−ジエチルアミノエチル
DMEM−ダルベッコ変形イーグル培地(Dulbecco modified Eagle medium)
ds−二重らせんの
DZA−ドルゾラミド
EDTA−エチレンジアミン四酢酸
EZA−エトクスゾラミド
F−繊維芽細胞
FCS−ウシ胎仔血清
FITC−フルオレセインイソチオシアナート
H−HeLa細胞
IC−細胞内
kb−キロベース
kbp−キロベース対
kdまたはkDa−キロダルトン
KI−阻害定数
KS−ケラタン硫酸
LTR−長末端反復
M−モル濃度
mA−ミリアンペア
MAb−モノクローナル抗体
ME−メルカプトエタノール
MEM−最小必須培地
min.−分
mg−ミリグラム
ml−ミリリットル
mM−ミリモル濃度
MMC−マイトマイシンC
mmol−ミリモル
MZA−メタゾラミド
N−正常濃度
NEG−ネガティブ、負、マイナス
ng−ナノグラム
nm−ナノメーター
nM−ナノモル濃度
nt−ヌクレオチド
N-末端−アミノ末端
ODN−オリゴデオキシヌクレオチド
ORF−オープンリーディングフレーム
PA−プロテインA
PBS−リン酸緩衝生理食塩水
PCR−ポリメラーゼ連鎖反応
PG−プロテオグリカン
pI−等電点
PMA−フォルボール12−ミリステート13−アセテート
POS−ポジティブ、正、プラス
Py−ピリミジン
QAS−スルホニルアミド4級アンモニウム塩
QSAR−定量的構造活性相関
RACE−cDNA末端の迅速増幅
RCC−腎細胞癌
RIA−ラジオイムノアッセイ
RIP−放射免疫沈降
RIPA−放射免疫沈降アッセイ
RNP−リボヌクレアーゼ保護アッセイ
RT-PCT−逆転写ポリメラーゼ連鎖反応
SAC−黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)細胞
SAR−構造活性相関
sc−皮下
SDS−ドデシル硫酸ナトリウム
SDS-PAGE−ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動
SINE−短い散在反復配列
SP−シグナルペプチド
SP-RIA−固相ラジオイムノアッセイ
TBE−Tris−ホウ酸/EDTA電気泳動緩衝液
TC−組織培養
TCA−トリクロロ酢酸
TC培地−組織培養培地
tk−チミジンキナーゼ
TM−膜貫通
Tris−tris(ヒドロキシメチル)アミノメタン
μCi−マイクロキュリー
μg−マイクログラム
μl−マイクロリットル
μM−マイクロモル濃度
細胞系
BL21(DE3)−リンズコッグ(Lindskog)らのグループによって記載されている大腸菌(Escherichia coli)株(CA-I,II発現用)(リンズコッグ(Lindskog)ら、「部位特異的突然変異誘発によって実験を行ったヒト炭酸脱水酵素IIの構造活性相関(Structure-function relations in human carbonic anhydrase II as studied by site-directed mutagenesis 」、「炭酸脱水酵素−生化学および遺伝学から生理学および臨床薬物まで(Carbonic anhydrase-From biochemistry and genetics to physiology and clinical medicine)」より(ボトレ(Botre)ら編、VCH、ワインハイム、pp.1-13(1991))
BL21-GOLD(DE3)−CA-IXの発現用に使用した大腸菌(Escherichia coli)株(ストラタジーン(Stratagene)社)
ヌクレオチドおよびアミノ酸配列記号
本明細書においては、以下の記号を用いてヌクレオチドを表記する:
塩基
記号 意味
A アデニン
C シトシン
G グアニン
T チミン
U ウラシル
I イノシン
M AまたはC
R AまたはG
W AまたはT/U
S CまたはG
Y CまたはT/U
K GまたはT/U
V AまたはCまたはG
H AまたはCまたはT/U
D AまたはGまたはT/U
B CまたはGまたはT/U
N/X AまたはCまたはT/U
アミノ酸は20個あり、それらは、隣接する3個のヌクレオチドの別異の配列(トリプレットコードまたはコドン)によって特定され、特定の順序で連結されることにより、特徴的なタンパク質を形成する。本明細書においては、3文字または1文字協定を用いてそのようなアミノ酸を特定し、以下のように取り決める(例えば、図1参照):
アミノ酸名 3文字略号 1文字略号
アラニン Ala A
アルギニン Arg R
アスパラギン Asn N
アスパラギン酸 Asp D
システイン Cys C
グルタミン酸 Glu E
グルタミン Gln Q
グリシン Gly G
ヒスチジン His H
イソロイシン Ile I
ロイシン Leu L
リシン Lys K
メチオニン Met M
フェニルアラニン Phe F
プロリン Pro P
セリン Ser S
スレオニン Thr T
トリプトファン Trp W
チロシン Tyr Y
バリン Val V
未知のもの、その他 X
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1A】図1(A〜C)は、MN/CA-IXの全長のcDNA(配列番号1)を表す。また、該cDNAによってコードされている推定アミノ酸配列(配列番号2)も示す。
【図1B】図1Aの続き。
【図1C】図1Cの続き。
【図2A】図2(A〜F)は、10,898bpからなるMN/CA-9の完全ゲノム配列(配列番号3)を示す。塩基数は次の通りである:Aは2654個、Cは2739個、Gは2645個、Tは、2859個。11個のエクソンを大文字で示しているが、エクソン1は、RNase保護アッセイにより、アミノ酸番号3507から始まっていると考えられる。
【図2B】図2Aの続き。
【図2C】図2Bの続き。
【図2D】図2Cの続き。
【図2E】図2Dの続き。
【図2F】図2Eの続き。
【図3】ヒトMN/CA9遺伝子のエクソン−イントロン地図を示す。エクソン(番号を付け、斜線を付けた枠)、Alu繰り返しエレメント(中空枠囲み)、およびLTR-関連配列(番号を付けていない一番最初の位置にある斑点を付けた囲み)の位置ならびに大きさは、表示のスケールに合わせている。個々のMN/CA-IXタンパク質ドメインに対応するエクソンは、PG(プロテオグリカン様ドメイン)、CA(炭酸脱水酵素ドメイン)、TM(膜貫通アンカー)およびIC(細胞質内尾部)と名前を付けている破線枠内に存在している。地図の下部のアミノ酸配列並びは、MN/CAタンパク質のPG領域(アミノ酸番号53〜111)(配列番号4)とヒトアグリカン(アミノ酸番号781〜839)(配列番号5)との間の相同性を示す。
【図4A】図4(A〜B)は、実施例1において試験した26個の別異のスルホンアミド化合物の化学式を示す。
【図4B】図4Aの続き。
【図5】実施例3の化合物71〜91の一般的な合成経路を示す(スキーム1)。
【図6】実施例3に記載しているピリリウム塩とアミンとの反応の経路を示す(スキーム2)。
【発明を実施するための形態】
【0083】
本発明に従う新規な方法は、MNタンパク質の酵素活性を阻害する化合物を用い、MNタンパク質を過剰発現する腫瘍細胞の増殖を阻害することを含む。そのような化合物は、有機性または無機性であり、好ましくは有機性であり、より好ましくはスルホンアミド類である。さらに好ましくは、該化合物は、芳香環式もしくは複素環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体類である。スルホンアミド類のこのような好ましいピリジニウム誘導体類は、次の3つの点において、他の化合物よりも副作用がすくない傾向を有する:分子量が小さい、膜不透過性である、および腫瘍関連MN/CA-IXタンパク質の酵素活性に対して特異的な強力な阻害剤である。
【0084】
新規癌治療の開発を目的として、標的としてオンコプロテインを使用することは、当業者においては従来から考えられていたことである(例えば、メンデルソーン(Mendelsohn)およびリップマン(Lippman)、参考文献番号61などを参照)。しかしながら、MNの使用は新規である。他の腫瘍関連分子(例えば、増殖因子およびそれらのレセプターなど)と比較して、MNは、腫瘍発生前/腫瘍性組織内と正常組織内における発現が異なるという特徴的な性質を有しており、それらの組織は、解剖学的な差異によって区別することができる。
【0085】
本発明に従うスルホンアミド類のピリジニウム誘導体類は、以下に記載しているように、例えば、ピリリウム塩と芳香環式もしくは複素環式スルホンアミド反応試薬との間に結合を形成することによって調製することができる。スルホンアミド化合物のピリジニウム塩を構成している芳香環式もしくは複素環式スルホンアミド部分は、「頭部」と称され、ピリジニウム部分は「尾部」と称される。
【0086】
当業者であれば、その他の多様な様式の結合によっても、ピリジニウム部分にスルホンアミド部分を結合させることができることは自明である。さらに、本明細書に開示している方法に加え、別の方法を用いて本発明に従うピリジニウム誘導体類を調製することもできる。
【0087】
本明細書において使用している「癌(様)」および「腫瘍(様)」という語は同じ意味であり、「前癌」および「腫瘍発生前」という語も同じ意味を有する。
【0088】
本明細書において使用している「芳香環式」とは、スルホンアミド構造に対して使用する場合には、「追加の複素環を有しない、芳香環を含む」という意味である。「複素環式」とは、スルホンアミド構造に対して使用する場合には、「追加の芳香環を有するまたは有しない複素環を含む」という意味である。
【0089】
本明細書において使用している「アルキル」とは、単独または組み合わせて、炭素数が1〜12個、好ましくは1〜6個、より好ましくは1〜4個であるような、直鎖または分岐鎖アルキルラジカルをさす。そのようなラジカル類の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソアミル、ヘキシル、デシルなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0090】
「アリール」という語は、単独または組み合わせにおいて、フェニルまたはナフチルラジカルを意味し、次の群から選択される1個またはそれ以上の置換基を追有する:アルキル、アルコキシ、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、シアノ、ハロアルキル、カルボキシ、アルコキシカルボニル、シクロアルコキシ、ヘテロシクロアルキル、アミド、モノおよびジアルキル置換アミノ、モノおよびジアルキル置換アミドなど。アリール化合物の例としては、フェニル、p−トリル、4−メトキシフェニル、4−(tert−ブトキシ)フェニル、3−メチル−4−メトキシフェニル、4−フルオロフェニル、4−クロロフェニル、3−ニトロフェニル、3−アミノフェニル、3−アセトアミドフェニル、4−アセトアミドフェニル、2−メチル−3−アセトアミドフェニル、2−メチル−3−アミノフェニル、3−メチル−4−アミノフェニル、2−アミノ−3−メチルフェニル、2,4−ジメチル−3−アミノフェニル、4−ヒドロキシフェニル、3−メチル−4−ヒドロキシフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、3−アミノ−1−ナフチル、2−メチル−3−アミノ−1−ナフチル、6−アミノ−2−ナフチル、4,6−ジメトキシ−2−ナフチルなどが挙げられる。
【0091】
本発明に従う好ましいスルホンアミド類は、芳香環式および複素環式スルホンアミド類である。これらの代表的な群に属するスルホンアミド類の構造は、図4の1〜26に示している。
【0092】
本発明に従うより好ましいスルホンアミド類は、芳香環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体類であり、以下に示す一般式(A)で表される。
【化7】
【0093】
ここで、nは0、1または2であり;R2、R3、R4およびR6は、水素、アルキル類およびアリール類からそれぞれ独立して選択される。27〜70で表されるこれらの群に属するスルホンアミド類の構造は、一般式(A)の誘導体として表2に示している。
【0094】
上記化合物とは別に、本発明に従うより好ましいスルホンアミド類は、複素環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体類であり、以下に示す一般式(B)を有し、ここで、該複素環式スルホンアミドのピリジニウム誘導体は、以下の一般式で表される;
【化8】
【0095】
ここで、R1、R2、R3、R4およびR5は、水素、アルキル類およびアリール類からそれぞれ独立して選択される。71〜91で表されるこれらのスルホンアミド類の代表的な構造は、一般式(B)の誘導体として表3に示している。
【0096】
式(A)および(B)で表される化合物群のうちの代表的なスルホンアミド誘導体類は、CA-IX阻害活性を有し、MN関連腫瘍の治療において、抗癌剤として治療上有用である可能性がある。
【0097】
さらに、確認されたスルホンアミド類の生物学的活性は、イン・ビトロ(in vitro)において、MNタンパク質の炭酸脱水酵素活性に対する阻害により、また、MN関連腫瘍細胞(HeLa)および対照細胞の細胞形態および増殖特性に及ぼす影響により試験する(参考文献番号104)。HeLa細胞を注入されたヌードマウスを用いてイン・ビボ(in vivo)スクリーニング試験を行う。
【0098】
CA-IXに対する代表的なスルホンアミド阻害剤
実施例1においては、腫瘍関連アイソザイムであるCA-IXの阻害に関して、1〜26のスルホンアミド類(図4A〜Bに示す)について調べた。化合物1〜6、11〜12、20および26は市販されているが、7〜10(参考文献番号43)、13〜19(参考文献番号24、90、97)および21〜25(参考文献番号79)については既報に従って調製した。臨床的に使用されている6個の化合物についてもアッセイを行った。実施例2の化合物(芳香環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体類)に関しては、スルファニルアミドであるホモスルファニルアミドまたは4−(2−アミノエチル)−ベンゼンスルホンアミドと2,6−ジ−、2,4,6−トリ−または2,3,4,6−テトラ置換ピリリウム塩とを反応させることにより、本明細書において実験を行ったピリジニウム塩27〜70が得られた(一般的なバイエル−ピカード合成による)(参考文献番号9、10、97)。
【0099】
実施例3に記載しているように、正の電荷を帯びた一連のスルホンアミド類(本明細書においては化合物71〜91と称する)は、アミノベンゾールアミド(5−(4−アミノベンゼンスルホニルアミノ)−1,3,4−チアジアゾール−2−スルホンアミド)にトリ/テトラ置換ピリリウム塩(以下に記載しているように、ピリジニウム環にアルキル−、アリール−、または、アルキルおよびアリール基を組み合わせたものを有する)を反応させることによって得られた。これらの化合物のうちの3個(71、75および87)については、別の文献に記載されているが(参考文献番号25、85)、この系列のその他全ての化合物は新規である。
【0100】
CA-IXに対する複素環式スルホンアミド阻害剤:アミノベンゾールアミドのピリジニウム誘導体類の合成
化学:アミノベンゾールアミド(5−(4−アミノベンゼンスルホニルアミノ)−1,3,4−チアジアゾール−2−スルホンアミド)(参考文献番号97)に2,6−ジ−、2,4,6−トリ−もしくは2,3,4,6−テトラ置換ピリリウム塩を反応させるにあたっては、求核剤を用いたそのような誘導体類の一般的な合成法に従うことにより(図5のスキーム1に示す)、本明細書において実験を行ったピリジニウム塩71〜91が得られた(参考文献番号6、26、108)。
【0101】
化合物の調製:アミノ−スルホンアミド類とピリリウム塩との反応(参考文献番号23、88、89)によって調製された正の電荷を帯びた多数のスルホンアミド類については、本発明者らが最近報告しており、一般的には古典的なアイソザイムであるCA-I、IIおよびIVの阻害剤としての試験を行った(参考文献番号81、96、97、98)。正の電荷を帯びたいくつかの誘導体類を含む数種の系統のCA阻害剤に関するQSAR実験に基づき(参考文献番号23、88、89)、CA阻害活性の増強は、分子内に存在する複素環/芳香環上の正の電荷の増加、ならびに阻害分子の「長さ」(すなわち、酵素のZn(II)イオン、スルホンアミドの窒素原子および阻害剤の長軸を貫通する方向に広がっているような分子)と相関していることが明らかになった(参考文献番号23、88、89)。この結果を検証することは興味あることと考えたので、正の電荷を帯びた長いスルホンアミドCAI類を設計した。従って、ピリリウム塩との反応に適し、既に強力かつ分子が長いCAI(すなわち、アミノベンゾールアミド)に、置換されたピリジニウム部位を結合させることを考えた(参考文献番号97)。勿論、この化合物はアイソザイムI、IIおよびIVに対しては非常に強力なCAIとして作用する(阻害定数はnMレベルの小さい値である。以下の記述を参照)。既に示されているように(参考文献番号81、96、97、98)、ピリジニウム環の置換パターンは、この型のスルホンアミドCAI類の生物学的活性には重要である。従って、スキーム1(図5)に記載した反応により、2,4,6−トリアルキルピリジニウム−;2,6−ジアルキル−4−フェニルピリジニウム−;2−アルキル−4,6−ジフェニルピリジニウム−;2,4,6−トリフェニルピリジニウム−、ならびに多様な2,6−ジ置換ピリジニウム−および2,3,5,6−テトラ置換ピリジニウム−アミノベンゾールアミドなどの一連の多数のアミノベンゾールアミド誘導体類を調製した。
【0102】
見かけ上単純であるが、ピリリウム塩とアミンとの反応によってピリジニウム塩を導く反応は、実は複雑な過程をたどる(図6のスキーム2)ことが、バラバン(Balaban)らとカトリスキー(Katrizky)らのグループによる詳細な分光学的および速度論的データから確認された(参考文献番号6、26、108)。従って、ピリリウム陽イオン上への一級アミンRNH2の求核的攻撃は、一般的にα位で生じてIV型の中間体が生成し(図6に示されている)、塩基の存在下で脱プロトン化することによって2−アミノ−テトラデヒドロピラン誘導体類Vが生成する。多くの場合、塩基性が十分であれば、脱プロトン化はアミン自身によって促進される(このことが、本方法に従ってピリジニウム塩を調製する場合に、ピリリウム:アミンのモル比が1:2において、多くの場合に反応が進行する理由である)か、またはトリエチルアミンなどの触媒を外部から反応混合物に加えることによって促進する(参考文献番号6、26、108)。誘導体Vは、一般的に不安定であり、ケトジエンアミン類VIとの互変異性体であるが、この化合物VIは、ピリリウム類からピリジニウム類への転換の際の重要な中間体である(参考文献番号6、26、108)。酸性溶媒中では、全反応過程中の律速段階において、ケトジエンアミン類VIは対応するピリジニウム類塩VIIに転換するが、別異の構造を有するビニログ性アミド類などのようなその他の生成物も単離される(参考文献番号6、26、108)。ピリリウム環の2−および/または6−位がメチルで置換されている場合、反応がさらに複雑化し、ピリジニウム塩類VIIに加えて、アニリン類VIIIの生成を伴う同時環化が起こる可能性がある(参考文献番号6、26、108)。アミンから弱い求核性または塩基性を有するピリジニウム塩への転換を行う場合には、上述したこれらの同時反応は一般的に重要である。この現象は、アミノベンゾールアミドの場合に生じる。実際、多様な条件下(低分子量アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール)、DMF、塩化メチレン、アセトニトリルなどの多様な溶媒;反応試薬のモル数の変更;反応温度は25〜150℃;反応時間は15分〜48時間、など)で行ったアミノベンゾールアミドと数種類のピリリウム塩との反応においては、未反応の原料が単離されたのみであった。ピリジニウム塩III(図5に図示)が生成した唯一の条件は次のようなものであった:溶媒としては無水酢酸の存在下で無水メタノールを使用し、中間体IVの脱プロトン化に対する触媒としてトリエチルアミンを使用。無水酢酸は、縮合反応中に生成した水と反応する役割を有する。実際、この水は、ピリリウム陽イオンとの反応の場合には、アミノベンゾールアミドとの競合求核剤として作用し、その結果、ピリジニウム塩の収率が劇的に低下した。トリエチルアミン(および水捕獲剤としての無水酢酸の存在下において)を添加し、酢酸存在下で2〜5時間還流させることにより、ピリジニウム環への環化(律速段階)が達成された。収率は、特に2−メチル−含有誘導体類の場合には、常に良好とはいえなかった。
【0103】
MNタンパク質および/またはポリペプチドの調製
本明細書において使用している「MN/CA-IX」および「MN/CA-9」とは、MNと同義である。また、G250は、MNタンパク質/ポリペプチドをさすものと考えられている(参考文献番号112)。
【0104】
ザヴァダ(Zavada)らによるWO 93/18152および/またはWO 95/34650は、図1A〜1Cに示しているMN cDNA配列(配列番号1)、同じく図1A〜1Cに示しているMNアミノ酸配列(配列番号2)、ならびに図2A〜2Fに示しているMNゲノム配列(配列番号3)を開示している。MN遺伝子は、11個のエクソンと10個のイントロンで構成されている。
【0105】
図1A〜1Cに示しているMNタンパク質の最初の37個のアミノ酸がMNシグナルペプチド(配列番号6)と推定されている。MNタンパク質は、細胞外ドメイン(図1A〜1Cのアミノ酸番号38〜414:配列番号7)、膜貫通ドメイン(アミノ酸番号415〜434:配列番号8)および細胞内ドメイン(アミノ酸番号435〜459:配列番号9)を有する。細胞外ドメインは、プロテオグリカン様ドメイン(アミノ酸番号53〜111:配列番号4)および炭酸脱水酵素(CA)ドメイン(アミノ酸番号135〜391:配列番号5)を含む。
【0106】
本明細書において使用している「MNタンパク質および/またはポリペプチド」(MNタンパク質/ポリペプチド)とは、MN遺伝子またはそれらのフラグメントによってコードされているタンパク質および/またはポリペプチドを意味するものと定義される。本発明に従う好ましいMNタンパク質の例としては、図1に示している推定アミノ酸配列を有するものである。好ましいMNタンパク質/ポリペプチドとは、図1に示すMNタンパク質と実質的に相同性を有するタンパク質および/またはポリペプチドである。例えば、MNタンパク質/ポリペプチドと実質的に相同なそのようなタンパク質/ポリペプチドとは、MN特異的抗体、好ましくはMabM75またはそれと同等のモノクローナル抗体と反応するものである。M75 Mabを分泌するVU-M75ハイブリドーマは、HB11128として1992年9月17日にATCCに寄託されている。
【0107】
「ポリペプチド」または「ペプチド」は、ペプチド結合によって共有結合しているアミノ酸鎖であり、本明細書においては、50個未満のアミノ酸から構成されているものと考えている。本明細書において使用している「タンパク質」とは、50個以上のアミノ酸から構成されているポリペプチドであると定義する。ポリペプチドという語には、ペプチドおよびオリゴペプチドを含む。
【0108】
イン・ビボ(in vivo)において腫瘍性細胞から産生されるタンパク質もしくはポリペプチドは、細胞培養中の腫瘍細胞によって、または形質転換された細胞によって産生されたタンパク質もしくはポリペプチドとは配列が改変されている可能性があることは明らかである。従って、アミノ酸置換、伸長、欠失、切断およびそれらの組み合わせなどを含む多様なアミノ酸配列を含むMNタンパク質/ポリペプチドは、本発明の範ちゅうに含まれる。体液内に存在するタンパク質は、タンパク質分解過程などの分解過程に組み込まれやすいことは明らかであり、従って、著しく切断されているMNタンパク質およびMNポリペプチドが血清などの体液中に見出される。本明細書において使用している「MN抗原」という語は、MNタンパク質および/またはポリペプチドを包含する。
【0109】
さらに、MNタンパク質およびポリペプチドのアミノ酸配列は、遺伝的手法によっても変化させることができることは明らかである。1個またはそれ以上のアミノ酸を欠失または置換させることができる。そのようなアミノ酸の変化は、タンパク質またはポリペプチドの生物学的活性に何ら変化をもたらすことはなく、本発明の範ちゅうに含まれるタンパク質またはポリペプチド、さらにMNムテインが得られる。
【0110】
本発明に従うMNタンパク質およびポリペプチドは、本発明に従う多様な方法によって調製することができ、そのような方法としては、例えば、組み換え、合成、またはその他の生物学的方法、すなわち、長いタンパク質およびポリペプチドの酵素的および/もしくは化学的な解裂などが挙げられる。MNタンパク質を調製するための好ましい方法は組み換え法である。組換えによってMNタンパク質を調製するための特に好ましい方法を以下に記載する。図1に示すMN タンパク質またはそれらのフラグメントを調製するための代表的な方法は、材料および方法の項に例示しているような適切な発現ベクター内にMN cDNAの全長または適切なフラグメントを挿入することである。
【0111】
MN遺伝子
図1A〜Cには、ザヴァダ(Zavada)らによるWO 95/34650に記載されている単離されたMN cDNAクローンの全長(配列番号1)のヌクレオチド配列を表示している。図2A〜Fは、完全なMN ゲノム配列(配列番号3)を表示している。
【0112】
図1に示すMN cDNAのORFは、459個のアミノ酸から構成され、計算上の分子量が49.7kdであるタンパク質をコードする能力を有する。MN/CA-IXタンパク質の全体的なアミノ酸組成はやや酸性であり、予測pI値は4.3である。二次元電気泳動とそれに続いて行ったイムノブロットにより、CGL3細胞由来の天然MN/CA-IXタンパク質を分析したところ、コンピュータ予測と一致することが示され、MN/CA-IXは、pIが4.7〜6.3であるようないくつかの等電型を示す酸性タンパク質であった。
【0113】
CAドメインはアンカレッジインデペンデンドの誘導に必須であるが、TMアンカーおよびIC尾部はそのような生物学的効果に対して必ずしも必要ではない。MNタンパク質は、形質転換した細胞内の原形質膜を乱すこともでき、そのような細胞が固体支持体に結合する際に寄与すると考えられる。データから、細胞増殖、接着および細胞内連通の制御にMNが関与していることが証明された。
【0114】
酵素スクリーニングアッセイ
本明細書におけるアッセイは、MNタンパク質の酵素活性を阻害する化合物をスクリーニングするためのものである。そのようなアッセイにおいては、該化合物に該MNタンパク質、ならびに飽和CO2および4−ニトロフェニルアセタートよりなる群から選択される基質、好ましくは飽和CO2を加えてインキュベートし、該化合物の阻害定数KIを計算したが、このとき、MNタンパク質の該酵素活性は、ストップフロー分光光度計を用い、インジケーターのpH変化によって測定した。
【0115】
代表的な複素環式および芳香環式スルホンアミド類についてのMNタンパク質阻害に関するスクリーニング:実施例1から、アイソザイムCA-IXの阻害プロファイルは、古典的なアイソザイムであるCA-IおよびII(サイトゾル性)およびCA-IV(膜結合性)のそれとは非常に異なっていることがわかった。以下に特徴的な特性を記載する:(i)実施例1で調べた32個のスルホンアミドは全てCA-IX阻害剤として作用し、阻害定数は14〜285nMであった(表1のデータからわかるように、他の3個のアイソザイムに対する親和性は、より広範囲にばらついていた)。これらのデータに基づき、CA-IXは、CA-IIと同様にスルホンアミド要求性CAであり、現在までのところ、スルホンアミド類の薬理学的効果の主因であると考えられている(参考文献番号22、29、83、93、94、95、102)。さらに、CA-IXと、臨床的に使用されている阻害剤が開発されている他のアイソザイムとの間にはその他多数の差異が観察された;(ii)CA-I、IIおよびIVに対しては、一般的に、複素環式スルホンアミド類と比較した場合に、芳香環式スルホンアミド類は弱い阻害剤として作用する(芳香環式化合物として1〜6またはDCP、と複素環式化合物として15、21、AAZ、MZA、EZA、DZAまたはBRZとを比較した)。CA-IXの場合には、芳香環式化合物(例えば、1、6、11、12、17、18、22〜26)および複素環式化合物(例えば、14、15、21、および臨床的に使用されているスルホンアミド類のうちジクロロフェナミドを除く化合物)はほぼ同程度の阻害定数(14〜50nM)を有していたので、そのような明確な区別をすることは困難であった;(iii)オルタニルアミド誘導体類(1、17、22など)は、CA-IXに対する非常に強力な阻害剤であったが(KI値の範囲は20〜33nM)、CA-I、IIおよびIVに対しては、弱いもしくは中の弱程度の阻害剤であった;(iv)1,3−ベンゼン−ジスルホンアミド誘導体類(11、12、DCP)は、CA-IXに対する強力な阻害剤であったが(KI値の範囲は24〜50nM)、それらの化合物のCA-I、IIおよびIVに対する阻害プロファイルは特に強力ではなかった;(v)メタニルアミド(2)、スルファニルアミド(3)および4−ヒドラジノ−ベンゼンスルホンアミド(4)のCA-IX阻害データは、CA-IIのそれと非常に類似していたが、ホモスルファニルアミド(5)および4−アミノエチル−ベンゼンスルホンアミド(6)は、CA-IIに対してよりもCA-IXに対して阻害剤として強く作用した;(vi)ハロゲンスルファニルアミド類(7〜10)は、CA-IIに対するよりもCA-IXに対する阻害作用が弱かったが、この挙動に関する説明はわかっていない;(vii)調べた化合物中最も強力なCA-II阻害剤であった4−アミノベンゾールアミド15(KI値は2nM)は、CA-IXに対する最も強力な阻害剤ではなかった(KI値は38nM)。調査した化合物中で最も強力なCA-IX阻害剤は、エトクスゾラミドフェノール(21)であった(KI値は14nM)。興味深いことに、21およびEZAは、CA-IIに対する親和性が等しいが、CA-IXに対する親和性は若干異なっており、エトキシ誘導体よりもフェノールの方がより活性が高かった;(viii)臨床使用されている化合物中では、最も強力な阻害剤はアセタゾラミドであり、続いてメタゾラミド、エトクスゾラミド、ブリンゾラミドであった。最も無効な(しかし、アイソザイムIXを多少は阻害する)化合物は、ジクロロフェナミドおよびドルゾラミドであった;(ix)スルホンアミド類20および22〜26は非常に良好なCA-IX阻害剤として作用し、KI値の範囲は16〜32nMであり、臨床使用されている上述のCAIよりもわずかに有効であり、調べた限りでは、最も強力なCA-IX阻害剤に含まれる。従って、そのような化合物は、抗腫瘍剤として使用する、より強力かつ特異的なCA-IX阻害剤を得るための先導分子として使用することができると考えた。
【0116】
MNタンパク質を阻害するための芳香環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体類のうちの代表的な化合物のスクリーニング:スルホンアミド類の膜不透過性ピリジニウム誘導体類について、CA-IXの酵素活性を阻害する能力を調べた実施例2から、表2に示すような以下の結論を得た:(i)ピリジニウム環の与えられた置換パターンにおいては、4−アミノエチル−ベンゼンスルホンアミド誘導体類55〜70は、対応するホモスルファニルアミド誘導体類39〜54よりも活性であり、該39〜54は、対応するスルファニルアミド誘導体類27〜38よりも活性であった。このような挙動は、調査した他の3個のアイソザイムに関しても観察された(参考文献番号96);(ii)ピリジニウム環にかさ高い置換基(主にフェニル類、tert−ブチル類、n−ブチル、n−プロピルまたはイソプロピルなど)を有するいくつかの誘導体類(34〜37、51および67など)は、無効性が高いCA-IX阻害剤であり、阻害定数は>500nMであった;(iii)27、30〜33、44および60を含む他の群の化合物は、腫瘍関連アイソザイムIXに対して緩和な阻害力を示し、KI値の範囲は160〜450nMであった。これらの化合物の大多数はスルファニルアミド誘導体類であり(44と60を除く)、ピリジニウム環の置換パターンは(27を除いて)、4位に少なくとも1個のフェニル基、または、2および4位に2個のフェニル基を有していた。上述のスルファニルアミド類と同様の置換パターンを有する、対応するホモスルファニルアミド類および4−アミノエチルベンゼンスルホンアミド類がより強力なCA-IX阻害剤であったことは特記すべきである(以下の文章を参照);(iv)38、45〜50、52、53、61、63〜66、68および69を含む第三の群の誘導体類は、良好なCA-IX阻害特性を示し、KI値の範囲は64〜135nMであった。上述したように、テトラメチル−ピリジニウム−置換誘導体38を除いては、これらの化合物の大多数は4−フェニル−ピリジニウムまたは2,4−ジフェニルピリジニウム部位を有しているが、一般的に、6位の置換基に関しては多様性に富んでいる(アルキル類またはフェニルも許容される)。この型のCA-IX阻害剤に関する最も興味深い知見は、ホモスルファニルアミドおよび4−アミノエチルベンゼンスルホンアミド(52〜53および68〜69)の2,4,6−トリフェニル−ピリジニウム−誘導体類および2,6−ジフェニル−ピリジニウム誘導体類は、効果的にアイソザイムIXを阻害したが、アイソザイムI、IIおよびIVに対しては非常に弱い阻害剤としてしか作用しなかったという事実から導かれた(表2)。端的に述べると、このことは、hCA-IX活性化部位が、調査した他のアイソザイム特にCA-II、IおよびIVのそれらよりも大きいという事実に由来するものと考えられる;(v)誘導体類の最後の群(28〜29、39〜43、54、55〜59、62および70)は、非常に良好なCA-IX阻害特性を示し、これらの化合物のKI値の範囲は6〜54nMであり、臨床で使用されている阻害剤アセタゾラミド、メタゾラミド、ジクロロフェナミドおよびインディスラムと同様であり、これらの化合物の阻害データを比較のために示しておく。3個の誘導体58、59および70は、阻害定数が<10nMを示し、これまでに報告された中で最も強力なCA-IX阻害剤であったことは特記すべきである。それらの化合物が膜不透過性であることと関連して(参考文献番号96、85)、イン・ビボ(in vivo)において、選択的にCA-IXを阻害する初めての化合物であると考えられる。従って、ピリジニウム環における最良の置換パターンは、小さいアルキル類(39〜41、54、55および70)または2,6−ジアルキル−4−フェニル−ピリジニウム部位(上述の62を除く全ての化合物、62は2−メチル−4,6−ジフェニルピリジニウム環を有する)を有するものである;(vi)ピリジニウム環の置換基の数については、この系統のCAIの活性に対する重要度は低いと考えられるが、それは、ジ−、トリ−またはテトラ−置換誘導体類が良好な阻害力を示したからである。一方、上に詳述したように、これらの群の性質は、(ベンゼンスルホンアミド部位と置換ピリジニウム環との間のリンカーと共に)CA阻害特性に影響を及ぼす最も重要なパラメーターである;(vii)これらの阻害剤に対する親和性に関してhCA-IXと最も類似しているのはhCA-IIであり、hCA-IXとの相同性は33%であったが(パストレック(Pastorek)ら、(1994)、同上)、アイソザイムIおよびIVの親和性は異なっていた。
【0117】
MNタンパク質を阻害するための複素環式スルホンアミド類のピリジニウム誘導体類のうちの代表的な化合物のスクリーニングおよび他のCAアイソザイムに対する阻害との比較:アイソザイムI−表3のデータからわかるように、本明細書に報告されている全ての誘導体類71〜91は、一般的にこの型の阻害剤に対して最も「抵抗性」である該アイソザイムに対し、非常に有効なCAIとして作用した(参考文献番号30、31、100、102)。確かに、アミノベンゾールアミドはかなり強力なCA-I阻害剤である(KI値は6nM)が、阻害剤71〜91の阻害定数は3〜12nMの範囲を示し、臨床的に使用されているスルホンアミドCAIとは対照的であった(それらのKI値は30〜1200nMの範囲であり、阻害剤としての有効性は低い)(表3)。従って、ピリジニウム部位の置換によってかさ高い基(i-Pr、t-Bu、n-Pr、n-Bu、Phなど)を複数有する誘導体類(例えば、73、74、77、78、82、84、85など)は、アミノベンゾールアミドと比較すると阻害活性が低下しており、KI値は7〜12nMの範囲であった(アミノベンゾールアミドのhCA-Iに対するKI値は6nM)。残りの化合物については、CA-Iの阻害に関しては、アミノベンゾールアミドより有効であり、KI値は3〜5nMの範囲であった。最も強力なCA-I阻害剤は75および89〜91であり(KI値は3nM)、それらは全て、ピリジニウム環の置換により、アルキル部位または4−Phのいずれか、ならびにその他のアルキル部位を有している。臨床的に使用されているCAIのアイソザイムIに対する阻害定数はもっと大きいことから、これらは、これまで報告されたもののうちで最も強力なCA-I阻害剤であると考えられる(表3)。
【0118】
アイソザイムII−アミノベンゾールアミドは非常に強力なCA-II阻害剤であり、その阻害定数は約2nMである。74、77、78、82〜88などのいくつかの新規な阻害剤は、アミノベンゾールアミドと比較すると弱いCA-II阻害剤であり、KI値は3.13〜5.96nMの範囲であった(しかしながら、これらの化合物は全て強力な阻害剤として作用し、臨床的に使用されているCAIであるアセタゾラミド、メタゾラミド、ジクロロフェナミドまたはインジスラムよりも有効であった−表3参照)。ピリジニウム環の置換パターンはこれらの化合物の活性に関する主要決定因子であった:上述した活性の低い全ての誘導体類は、ピリジニウム環の主として2−または6−位に少なくとも2個のかさ高い/長い脂肪族基(n-Pr、t-Bu、n-BuおよびPh)を有ている。誘導体類71〜91の中で最も強力なCA-II阻害剤は、ピリジニウム環の置換基として4−Meまたは4−Ph部位と共に、2,6−位により小さな置換基(Me、Etなど)を有するか、あるいは、脂肪族基のみを有しており(71〜73、75、76、79〜81、89〜91など)、KI値は0.20〜1.61nMの範囲であった(従って、最良の阻害剤においては、アミノベンゾールアミドと比較して、阻害力が10倍増加していた)。イソプロピル置換化合物(73、79)はCA-II阻害剤として活性であったが、CA-Iに対する活性はそれほど高くなかったことに言及しておく。
【0119】
アイソザイムIV−大多数のスルホンアミド類において、CA-IVに対する阻害活性は、CA-I(感受性が低い)に対するそれとCA-II(スルホンアミド類に対する親和性が非常に高い)に対するそれとの中間であった。この傾向は、本実験において調べたスルホンアミド類、アミノベンゾールアミドの誘導体についても観察された。従って、親化合物のスルホンアミド(図5に示す)は、強力なCA-IV阻害剤であり、KI値は約5nMであった。一般式(B)の新規誘導体であって、ピリジニウム環にかさ高い置換基を有する化合物(74、77、78、82、84〜88、90など)は、アミノベンゾールアミドよりも効果が低く、KI値は5.2〜10.3nMの範囲であり、一方、上述したその他の置換パターンを有する化合物は、もう少し強力なCA-IV阻害剤であり、KI値は2.0〜4.7nMの範囲であった。
【0120】
アイソザイムIX−上述したアイソザイム類と比較すると、このアイソザイムに対するアミノベンゾールアミドの阻害活性は弱かった(KI値は38nM)。このアイソザイムのX線による結晶構造は未報告であるため、この時点では、この挙動を説明することは困難である。本明細書に記載している一般式(B)の新規誘導体を用いて有望な結果が得られたが、それは、該誘導体のうちのいくつかがCA-IXに対して非常に高い親和性を示し、そのKI値が3〜9nMであったことである(誘導体71、72、75、76および89)。そのような誘導体の全てがピリジニウム環の2−および6−位に脂肪族部位(Me、Etおよびi-Pr)を有し、さらに、4−Meもしくは4−Phであった。四置換化合物は1個のみであり(89)、メチル基のみを有している。最も強力なCA-IX阻害剤(これまで報告されたものの中で最も強力)は71であり、該酵素の阻害活性に関しては、ベンゾールアミドの約13倍であった。新規誘導体類の別の群(73、74、77、79、80、81、83、86〜88、90、91)は、有効なCA-IX阻害を示し、KI値は12〜35nMの範囲であったことから、アミノベンゾールアミドより有効性が高かった。これらの化合物は、先に述べた化合物よりもややかさ高い基を有している。繰り返すが、効力が低かった阻害剤(KIが40〜43nMの範囲)は、ピリジニウム環にかさ高い置換基を複数有し(78、84、85など)、そのような化合物は、ピリジニウム環の2−および6−位に2個のn-Bu、または1個のPhおよびn-Bu/t-Buを有する。従って、SARがこの型のCAIである:最も強力なCA-IX阻害剤は、ピリジニウム環の置換基として分子量およびかさが小さい脂肪族部位のみを有しており、または置換基として4−Phまでは許容されるが、2,6−位の置換基は、やはり分子量およびかさが小さい脂肪族部位でなければならない。この特別な場合においては、四置換誘導体類と比較して、2,4,6−三置換ピリジニウム誘導体類の方がより有効なCA-IX阻害であった。
【0121】
CA-IXに対する複素環式スルホンアミド阻害剤の膜不透過性:実施例3の表4のデータからわかるように、ヒト赤血球(アイソザイムIおよびIIを高濃度で含有する。すなわち、hCA-Iを150μM、hCA-IIを20μM。しかし、膜結合性のCA-IVまたはCA-IXは含有しない(参考文献番号118))にミリモル濃度の別異のスルホンアミド阻害剤(アセタゾラミドまたはメタゾラミドなど)を加えてインキュベートしたところ、短時間(30分間)のインキュベート後に、赤血球中に存在する2種のアイソザイムは阻害剤と飽和したが、ベンゾールアミドまたはアミノベンゾールアミドの場合には、同様の効果が得られるまでにやや長い時間(60分間)を要した(表4)。これは明らかに、最初の3種の阻害剤に関しては、膜を介して拡散する能力が高かったからであり、一方、第二のスルホンアミド群であるベンゾールアミド/アミノベンゾールアミド(pKa値は3.2)(参考文献番号58)は、実験を行ったpH(7.4)においては、主に(ジ)アニオンとして存在し、拡散性が低下しており、膜の透過により時間かがかったからだと考えられる。発明者らによって合成された別の陽イオン性スルホンアミド類(71、76、89、91など)は、同様の条件下においては、赤血球細胞内でごくわずかしか検出されず、このことは、おそらく、該化合物が陽イオン性性質であるために膜を透過することができなかったことを示している。1時間(データは示していないがそれ以上の長時間)インキュベートした後も、細胞溶解物中の化合物の検出に使用した3種類のアッセイによって示されたように、そのような陽イオン性スルホンアミド類は赤血球細胞内に痕跡量しか存在していなかった。これらの結果は互いに良く相関していた(表4)。このことは、膜不透過性を獲得するために提起された方法が、一般式(B)(上掲)を有する正の電荷を帯びたスルホンアミドCAIを設計するにあたって首尾良く機能したことを示している。ごく少量のスルホンアミドが検出された理由は、ごく微量の膜が細胞溶解物に混入していたからだと考えられる。
【0122】
CA-IXに対する膜不透過性スルホンアミド阻害剤の設計
多数のX線結晶構造が利用可能な(単独、または阻害剤と活性剤とのコンプレックスとして)hCA-II(参考文献番号1、2、14、15、19a、19b、37、38)とは全く異なり、現在のところ、アイソザイムIXのX線結晶構造は得られていない。これら2種類のアイソザイムの活性部位残基およびhCA-IIの構造を調べることは、上記の阻害データおよびCA-IX特異的阻害剤に関する関連性を説明する一助になるはずである。
【0123】
まず始めに、これら2種類のアイソザイムの亜鉛リガンドおよび陽イオン輸送残基は同一であった(参考文献番号33、43、72、100、101、102、114、115、117)。重要な差異は、131番目のアミノ酸によってもたらされており、hCA-IIではPheであるが、hCA-IXではValであった。131番のPheは、スルホンアミド阻害剤がhCA-IIに結合するために非常に重要であることがわかっており(参考文献番号2、46、47)、多くの場合において、このかさ高い側鎖は、阻害剤の芳香環の結合空間を狭め、あるいは、内部に存在する基との積み重ね相互作用に関与している(最新の実施例については、参考文献番号2、46、47を参照)。従って、hCA-IX内のかさの小さいそのような残基(すなわち、バリン)は、積み重ね相互作用に関与することができず、結果的に、hCA-IXの活性部位はhCA-IIのそれよりも大きいという事実が導かれた。第二に重要と考えられる残基は132番であり、hCA-IIではGly、hCA-IXではAspである。この残基は、hCA-IIの活性部位の入り口の親水性半分の縁に存在しており(hCA-IXにおいても同様だと考えられる)、発明者らが最近示したように(参考文献番号19b)、長い分子を有する阻害剤との相互作用に重要である。132番のGlyのCONH部位を含む強力な水素結合により、このアイソザイムとp−アミノエチルベンゼンスルホンアミド由来の阻害剤とのコンプレックスが安定化することが示された(参考文献番号19b)。hCA-IXの場合、活性部位の入り口の該当する位置にアスパラギン酸が存在することは、次のことを意味する;(i)COOH部位はより多くの供与原子を有するので、活性部位内部に結合した阻害剤の極性部位とのより強力な相互作用が可能である;(ii)この残基は、立体構造が可変性であり、阻害剤との相互作用において微細調整が可能である。従って、これらの阻害剤のうちで、アイソザイムIIに対する親和性と比較して、より強力なhCA-IX阻害作用を示すもの(例えば、46〜50、52、53、55、58、62および68〜70など)については、上述した2つの活性部位残基の相互作用の差を理由に説明することができた。
【0124】
MN特異的阻害剤の治療応用
本発明に従うMN特異的阻害剤は、有機性および/もしくは無機性、好ましくは有機性であり、また、上に概説したように、単独で、または他の化学療法剤と組み合わせて腫瘍および/もしく腫瘍発生前疾患の治療に使用することができる。
【0125】
MN特異的阻害剤は、好ましくは、生理的に許容され、非毒性の液性ビヒクルに分散することにより、その治療有効量を投与することができる。
【0126】
材料および方法
一般法−融点:加熱プレート顕微鏡(補正なし);IRスペクトル:KBr錠法、400〜4000cm-1、Perkin-Elmer 16PC FTIRスペクトロメーター;1H-NMRスペクトル:Varian 300CXP装置(化学シフトは、Me4Siを標準物質とし、相対的δ値で表した);元素分析:Carlo Erba Instrument CHNS Elemental Analyzer,Model 1106。全ての反応は、0.25mmのプレコートシリカゲルプレート(E.メルク(Merck)社)を用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)によってモニターした。ピリリウム塩は文献(参考文献番号6、26、108)の記載に従い、一般的に、オレフィン(またはそれらの前駆体)のビスアシル化によって調製したが、アミノベンゾールアミドに関してはより早い時期に文献に記載されていた(参考文献番号97)。標準物質として使用したその他のスルホンアミド類は購入可能であった。
【0127】
化合物71〜91(アミノベンゾールアミドのピリジニウム誘導体類)の調製に関する一般的方法
5mlの無水メタノール中に2.9mMのアミノベンゾールアミド(参考文献番号97)および2.9mMのピリリウム塩(図5に図示)を懸濁させ、14.5mMのトリエチルアミンと5.8mMの無水酢酸との撹拌混合物中に加えた。5分間撹拌した後、反応混合物中にさらに10mlのメタノールを加え、これを加熱して15分間還流させた。次に、14.5mMの無水酢酸を加え、さらに2〜5時間加熱を続けた。無水酢酸の役割は、ピリリウム塩と芳香環式アミンとの間の縮合反応中に生成した水と反応することであり、一般式(B)(上述)で表されるピリジニウム塩の生成を平衡化するためである。アミノベンゾールアミドの場合には、この方法が、許容できる収量のピリジニウム塩が得られる唯一の方法であるが、これはおそらく、アミン基上のスルファモイルアミノチアジアゾール部位が脱活性化されることによるものであり、これらの反応試薬に対する該部位の求核性が低下し、反応性が消失する。沈殿したピリジニウム塩は、濃アンモニア溶液で処理することによって精製し(また、この操作により、未反応のピリリウム塩が酸性溶媒に可溶性の対応するピリジンに転換する)、過塩素酸を用いて再沈殿させ、さらに、2〜5%のHClO4を加えた水から再結晶させた。
【0128】
CA-IXの触媒性ドメインの精製
hCA-IXの触媒性ドメインのcDNA(パストレック(Pastorek)らの記載(参考文献番号72)に従って単離した)は、PCRおよびベクターpCAL-n-FLAG(ストラタジーン(Stratagene)社から購入)用の特異的プライマーを用いて増幅させた。得られた構築体は、pCAL-n-FLAGベクターに挿入し、大腸菌(Escherichia coli)株BL21-GOLD(DE3)(ストラタジーン(Stratagene)社から購入)内でクローニング、発現させた。ウィンゴ(Wingo)らの記載(参考文献番号116)に従い、4Mの尿素および2%のTriton X-100を含む緩衝溶液(pH8)中でバクテリア細胞を溶解し、ホモジネートした。可溶性タンパク質および膜関連タンパク質、ならびにその他の細胞残渣を除去することを目的として、得られたホモジネートを十分に遠心分離した。残留尿素およびTriton X-100を除去することを目的として、水中でのホモジネーションおよび遠心分離を繰り返すことによって、得られたペレットを洗浄した。精製したCA-IX含有部は、6Mの塩酸グアニジンで変性させ、次に、100mMのMES(pH6)、500mMのL-アルギニン、2mMのZnCl2、2mMのEDTA、2mMの還元グルタチオン、1mMの酸化グルタチオンを含む溶液ですばやく希釈することによって活性型に戻した。活性型CA-IXは、10mMのHEPES(pH7.5)、10mMのTris−塩酸、100mMのNa2SO4および1mMのZnCl2を含む溶液中で十分に透析した。タンパク質量は分光光度計を用いた測定により、また活性はCO2を基質とするストップフロー測定(参考文献番号44)によって求めた。追加として、スルホンアミドアフィニティークロマトグラフィーによってタンパク質をさらに精製し(参考文献番号44)、酵素量は分光光度計を用いた測定により、活性はCO2を基質とするストップフロー測定(参考文献番号44)によって求めた(参考文献番号44)。
【0129】
CA-I、IIおよびIVの精製
リンズコッグ(Lindskog)らの研究グループによって記載されているプラスミドpACA/hCA-IおよびpACA/hCA-IIを用い(参考文献番号54)、大腸菌(Escherichia coli)株BL21(DE3)内でヒトCA-IおよびCA-IIのcDNAを発現させた。細胞増殖の条件については参考文献番号12に記載されており、酵素は、カリファー(Khalifah)らの方法(参考文献番号45)に従ってアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。酵素濃度は280nmにおいて分光光度測定することによって求めたが、このとき、モル吸光度は、CA-Iに対しては49mM-1・cm-1、CA-IIに対しては54mM-1・cm-1であり、また、CA-Iに対してはMr=28.85kDaであり、CA-IIに対してはMr=29.3kDaであった(参考文献番号53、84)。CA-IVは、マレン(Maren)らの記載に従い、ウシ肺ミクロソームから単離し、エトクスゾラミドを用いた滴定によって濃度を求めた(参考文献番号59)。
【0130】
酵素アッセイ
CAの炭酸ヒドラーゼ活性のアッセイ
SX.18MV-R Applied Photophysicsストップフロー装置を用いてCAの炭酸ヒドラーゼ活性を調べた(参考文献番号44)。ポーカー(Poker)およびストーン(Stone)の分光光度法(参考文献番号76)のストップフロー変数を採用し、上述したSX.18MV-R Applied Photophysicsストップフロー装置を使用した(参考文献番号43)。指示薬としてフェノールレッド(濃度0.2mM)を使用し、吸収極大を557nmに設定し、緩衝液として10mMのHEPES(pH7.5)、0.1MのNs2SO4(イオン強度を一定に保つため)を用い、10〜100秒間の間、CAを触媒とする二酸化炭素の水和反応の経過を記録した。基質として、20℃においてCO2を飽和させた水溶液を使用した(参考文献番号44)。阻害剤のストック溶液(1mM)は、10〜20%(v/v)のDMSO(この程度の濃度では阻害作用はない)を加えた蒸留脱イオン水で調製し、その後、蒸留脱イオン水を用いて0.01Mに希釈した。阻害剤と酵素溶液の混合物は、アッセイ前に室温で10分間プレインキュベートすることによってE-Iコンプレックスを形成させた。各阻害剤濃度において3回実験を行い、文献に報告している値は、それらの結果の平均値である。
【0131】
CAのエステラーゼ活性のアッセイ
別異のCAアイソザイムによって触媒される4−ニトロフェニルアセタートの加水分解の初期速度は、IBMコンパチブルPCを配備したCary3装置を使用し、400nmにおいて分光光度計を用いてモニターした(参考文献番号76)。基質溶液は、無水アセトニトリルで調製し、基質濃度は2×10-2〜1×10-6Mとし 、25℃で行った。文献(参考文献番号76)に報告されているように、実験条件(pH7.40)下においては、加水分解によって生成した4−ニトロフェノラートのモル吸光係数εとしては18,400M-1cm-1を用いた。観察された速度から非酵素性加水分解速度を常に差し引いた。阻害剤の各濃度について3回実験を行い、文献に報告した値は各結果の平均値である。阻害剤のストック溶液(1〜3mM)は、10〜20%(v/v)のDMSO(この程度の濃度では阻害作用はない)を加えた蒸留脱イオン水で調製し、その後、蒸留脱イオン水を用いて0.01Mに希釈した。阻害剤と酵素溶液の混合物は、アッセイ前に室温で10分間プレインキュベートすることによってE-Iコンプレックスを形成させた。阻害定数KIは、参考文献番号44、76の記載に従って求めた。
【0132】
膜透過性アッセイ:イクス・ビボ(ex vivo)における赤血球細胞の透過
Tris緩衝液(pH7.40、5mM)を用い、用時単離したヒト赤血球細胞(10ml)を数回十分に洗浄し、10分間遠心分離した後、2mMのスルホンアミド阻害剤25mlを加えて処理した。インキュベーションは、37℃において穏やかに撹拌しながら30〜120分間行った。30、60または120分間インキュベーションを行った後、赤血球を再度10分間遠心分離し、上清を傾捨し、上記緩衝液10mlを用いて細胞を3回洗浄することにより、結合していない阻害剤を除去した(参考文献番号81、96、98)。次に、25mlの蒸留水中で細胞を溶解させ、遠心分離して膜およびその他の不溶性不純物を除去した。得られた溶液を100℃で5分間加熱し(CAを変性させるため)、3種類の方法により、各サンプル中に存在していると考えられるスルホンアミド類をアッセイした:HPLC法(参考文献番号36);分光光度法(参考文献番号4);酵素法(参考文献番号76)。
【0133】
HPLC:発明者らは、ゴマ(Gomma)の方法(参考文献番号36)の変法を開発したが、それは次のようなものであった:分離には市販の5μmのBondapak C-18カラムを使用し、移動相はアセトニトリル−メタノール−リン酸緩衝液(pH7.4)=10:2:88(v/v/v)を流速3ml/分で流し、内部標準として0.3mg/mlのスルファジアジン(シグマ( Sigma )社))を用いた。保持時間は、アセタゾラミド=12.69分、スルファジアジン=4.55分、ベンゾールアミド=10.54分、アミノベンゾールアミド=12.32分、71=3.15分、76=4.41分、89=3.54分および91=4.24分。溶出液については、吸光度(アセタゾラミドに対しては254nm、その他のスルホンアミド類の場合には270〜310nmの範囲)を連続的にモニターした。
【0134】
分光光度:アブディン(Abdine)らのpH誘導性分光光度アッセイの変法(参考文献番号4)を使用し、例えば、アセタゾラミドに対しては260および292nm、スルファニルアミドに対しては225および265nmなどにおいて測定を行った。各阻害剤の標準液は、膜透過実験において使用した緩衝液と同じ液を用いて調製した。
【0135】
酵素法:上述したように(参考文献番号76)、溶解物中に存在するスルホンアミドの量は、エステラーゼ法を用いて測定したhCA-II阻害に基づいて評価した。各スルホンアミドに対して、純粋なスルホンアミド化合物を用いて事前に標準阻害曲線を作成し、これを用いて溶解物中に存在する阻害剤の量を求めた。上記3つの方法によって得られた結果は、実験誤差の許容範囲内で良く一致したことを特記しておく。
【0136】
統計分析:値は、±測定の標準偏差で表した。統計的有意差は、p<0.05を有意差ありとする非対t検定によって判断した。
【0137】
以下の実施例は例示のためのものであり、如何なる意味においても本発明を制限するためのものではない。
【実施例】
【0138】
実施例1:芳香環式および複素環式スルホンアミド類を用いた腫瘍関連アイソザイムIXの阻害
腫瘍関連膜貫通炭酸脱水酵素IX(CA-IX)を阻害することに関しては、臨床的に使用されている6種類の化合物を含む一連の芳香環式および複素環式スルホンアミド類を用いて研究されてきた。臨床的に使用されている化合物としては、アセタゾラミド、メタゾラミド、エトクスゾラミド、ジクロロフェナミド、ドルゾラミドおよびブリンゾラミドが挙げられる。比較のために、生理学的に関連のあるアイソザイムIおよびII(サイトゾル型)ならびにIV(膜結合型)に対する阻害データも提供されている。
【0139】
化学:腫瘍関連アイソザイムCA-IXに対する阻害作用を研究した1〜26の型のスルホンアミド類については図4A〜Bに示す。化合物1〜6,11〜12、20および26は市販されているが、7〜10(参考文献番号43)、13〜19(参考文献番号24、79、90、97)および21〜25(参考文献番号79)は報告に従って調製した。臨床的に使用されている6種類の化合物についてもアッセイを行ったが、そのようなデータに関しては文献に記載されてはいなかった。
【0140】
CA阻害データ:上述の化合物1〜26および臨床的に使用されている6種類の化合物を用いて得られた4種類のCAアイソザイム、すなわち、CA-I、II、IVおよびIXに対する阻害データ(参考文献番号44、72、116)を表1に示す。
【表1】
【0141】
本報告は、臨床的に使用されている6種類の化合物(アセタゾラミド、メタゾラミド、エトクスゾラミド、ジクロロフェナミド、ドルゾラミドおよびブリンゾラミド)を含む一連の芳香環式および複素環式スルホンアミド類を用いて行った腫瘍関連膜貫通アイソザイムCA-IXに対する初めての阻害実験の結果である。比較のために、生理学的に関連のあるアイソザイムIおよびII(サイトゾル型)ならびにIV(膜結合型)に対する阻害データも提供する。これらのスルホンアミド類に関しては、CA-IXに対する非常に興味深い阻害プロファイルが観察され、このことは、抗腫瘍剤として使用できるCA-IX特異的阻害剤の有効な設計に対する創見を約束するものである。nMレベルでCA-IXを阻害する化合物がいくつか検出されているが、それらには、芳香環式のスルホンアミド類(例えば、オルタニルアミド、ホモスルファニルアミド、4−カルボキシ−ベンゼンスルホンアミド、1−ナフタレン−スルホンアミドおよび1,3−ベンゼンジスルホンアミドの誘導体類など)も複素環式スルホンアミド類(例えば、1,3,4−チアジアゾール−2−スルホンアミド、ベンゾチアゾール−2−スルホンアミドなど)も含まれている。
【0142】
実施例2:腫瘍関連アイソザイムIXを標的とする初めての選択的かつ膜不透過性阻害剤
これまで、このような型の膜不透過性のCAIを用いたCA-IX阻害実験は報告されていない。従って、発明者らは、一般式(A)で表されるピリジニウム誘導体類のうちのいくつかについて、発明者らが最近クローニング、精製した腫瘍関連アイソザイムIX(参考文献番号33、43、114、115、117)の触媒性ドメインとの相互作用、ならびに、サイトゾル性で生理学的に関連のあるアイソザイムCA-I、II、および膜結合性アイソザイムCA-IVとの相互作用(参考文献番号88、96)について調査することにした。
【0143】
腫瘍関連膜貫通炭酸脱水酵素IX(CA-IX)アイソザイムに対する阻害については、スルファニルアミド、ホモスルファニルアミドおよび4−アミノエチル−ベンゼンスルホンアミドのピリジニウム誘導体類であって正の電荷を帯びた一連の化合物を用いて実験を行った。比較のために、生理学的に関連のあるアイソザイムIおよびII(サイトゾル型)ならびにIV(膜結合型)に対する阻害データも得た。阻害剤が膜不透過性であり、臨床的に関連のあるアイソザイムIXに対する親和性が高いことから、本報告はCA-IXを選択的に標的とする阻害剤に関する初めての報告である。
【0144】
CA阻害
表2のデータは、化合物27〜70の大多数が有効なCA-IX阻害剤として作用することをはっきりと示しており、このアイソザイムに対する化合物の親和性は、サイトゾル性アイソザイムCA-IおよびII、ならびに膜関連アイソザイムCA-IVに対する親和性と比較するとかなり異なっていた。
【0145】
スルファニルアミド類、ホモスルファニルアミド類およびp−アミノエチルベンゼンスルホンアミド類の一連のピリジニウム置換誘導体類においては、多数の有効なhCA-IX阻害剤が検出された。低nMレベルでCA-IXを阻害する阻害剤のうちのいくつかは初めて報告されたものである。これらの化合物は、その塩様の性質から、膜不透過性であり、また、hCA-IXは、臨床予後の良くない多くの腫瘍の細胞の外側に存在していることから、この型の化合物は、生理学的に重要な役割を果たすことが知られているサイトゾル性CAに影響を与えることなく、腫瘍関連CAアイソザイムを特異的に標的にする。従って、この型の化合物は、CA阻害に基づく新規な抗癌治療の基礎を築くものと考えられる。
【表2−1】
【表2−2】
【0146】
実施例3:ヒト腫瘍関連アイソザイムIXを標的とする選択的、膜不透過性の複素環式スルホンアミド阻害剤の設計
アミノベンゾールアミド(5−(4−アミノベンゼンスルホニルアミノ)−1,3,4−チアジアゾール−2−スルホンアミド)と、ピリジニウム環にアルキル−、アリール−またはアルキルおよびアリール基の組み合わせを有するトリ−/テトラ−置換ピリリウム塩とを反応させることによって、正の電荷を帯びた一連のスルホンアミド類が得られた。これらの新規化合物は、塩様の性質を有することから膜不透過性であり、生理学的に関連のある4種の炭酸脱水酵素(CA、EC 4.2.1.1)アイソザイム類、すなわち、サイトゾル性のhCA-IおよびII、膜結合性のbCA-IVならびに膜結合性腫瘍関連アイソザイムhCA-IXに対する阻害作用をアッセイした。これら新規誘導体は、腫瘍関連アイソザイムCA-IXに対する親和性が高く、膜不透過性であることから、腫瘍関連アイソザイムのみを選択的に阻害し、サイトゾル性のアイソザイムは阻害しないような(新規誘導体はサイトゾル性アイソザイムに対しても高い阻害作用を有しているが)興味深いCA阻害剤候補となり得る。
【0147】
結果
CA阻害:化合物71〜91を用いたアイソザイムI、II、IVおよびIXに対する阻害データを表3に示す。
【表3−1】
【表3−2】
【0148】
イクス・ビボ(ex vivo)における赤血球の透過:ヒト赤血球にミリモル濃度の阻害剤溶液を加えて30〜60分間インキュベートした後の赤血球中のスルホンアミド類の濃度を表4に示す(そのような実験においては、古典的なスルホンアミド類および正の電荷を帯びたスルホンアミド類を使用した)(参考文献番号4、12、36、45、53、54、58、59、84、116、118)。
【表4】
【0149】
本実験で報告している新規化合物については、標準的な化学的および物理学的方法によって特性付けを行い(元素分析(理論値との誤差は±0.4%以内)、IRおよびNMR)、それによって構造を確定し(詳細については、材料および方法の項、ならびに以下の表5を参照)、アイソザイムhCA-I、hCA-II、bCA-IVおよびhCA-IXに対する阻害を調べた。
【表5】
【0150】
結論
発明者らは、正の電荷を帯び、膜不透過性のスルホンアミドCA阻害剤であって、サイトゾル性アイソザイムCA-IおよびCA-II、ならびに膜結合性のCA-IVおよびCA-IXに対する親和性が高い化合物の調製に関する一般的方法を報告している。そのような化合物は、アミノベンゾールアミド(それ自身が非常に強力なCA阻害剤である)に置換ピリジニウム部位を結合させることによって得た。イクス・ビボ(ex vivo)実験から、本明細書に報告している新規分類の阻害剤は、膜結合性アイソザイムとサイトゾル性アイソザイムとを識別することが示された。これらの化合物のうちのいくつかは、腫瘍関連アイソザイムCA-IXに対して低nMレベルの親和性を有することと相関して、本報告は、イン・ビボ(in vivo)において腫瘍関連CA-IXのみを標的とし、一方、サイトゾル性アイソザイムには影響を与えないという選択的阻害の基礎を呈示している。
【0151】
化合物71〜91の特性付け(調製に関しては、材料および方法の項を参照)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2,4,6−トリメチル−ピリジニウムパークロラート71:白色結晶、融点>300℃;IR(KBr法)、cm-1:(斜体文字で示したバンドは陰イオン由来):595,625,664,787,803,884,915,1100,1150,1190,1200,1285,1360,1495,1604,3065;1H-NMR(D2O)、δ、ppm:3.08(s,6H,2,6-Me2);3.11(s,3H,4-Me),7.30-8.06(m,AA'BB',4H,フェニレン由来のArH);9.05(s,2H,ArH,ピリジニウム由来の3,5-H);この溶媒中では、溶媒とのプロトン交換が非常に迅速なため、スルホンアミドプロトンは観察されなかった。元素分析C16H18N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2−イソプロピル−4,6−ジメチルピリジニウムパークロラート72:無色結晶、融点290〜1℃;IR(KBr法)、cm-1:625,680,720,1100,1165,1330,1640,3020,3235;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:1.50(d,6H,イソプロピル由来の2Me);2.80(s,3H,6-Me);2.90(s,3H,4-Me);3.49(ヘプテット、1H,イソプロピル由来のCH);7.25-8.43(m,AA'BB',4H,1,4−フェニレン由来のArH);7.98(s,2H,ArH,ピリジニウム由来の3,5-H)。元素分析C18H22N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2,6−ジイソプロピル−4−メチルピリジニウムパークロラート73:黄褐色結晶、融点278〜9℃;IR(KBr法)、cm-1:625,685,820,1100,1165,1340,1635,3030,3250;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:1.51(d,12H,2−イソプロピル由来の4Me);2.83(s,3H,4-Me);3.42(ヘプテット、2H,2−イソプロピル由来の2CH);7.31-8.51(m,AA'BB',4H,1,4−フェニレン由来のArH);8.05(s,2H,ArH,ピリジニウム由来の3,5-H)。元素分析C20H26N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2,6−ジメチル−4−フェニルピリジニウムパークロラート75:白色結晶、融点>300℃;IR(KBr法)、cm-1:625,690,770,1100,1170,1330,1635,3030,3260,3330;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:2.62(s,6H,2,6-Me2);8.10-9.12(m,11H,1,4−フェニレン、ピリジニウムおよび4-Ph由来のArH)。元素分析C21H20N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2,6−ジエチル−4−フェニルピリジニウムパークロラート76:黄褐色結晶、融点267〜8℃;IR(KBr法)、cm-1:625,695,765,1100,1180,1340,1630,3040,3270,3360;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:1.43(t,6H,エチル由来の2Me);2.82(q,4H,Et由来の2CH2);7.68-8.87(m,11H,1,4−フェニレン、ピリジニウムおよび4-Ph由来のArH)。元素分析C23H24N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2,6−ジ−n−プロピル−4−フェニルピリジニウムパークロラート77:無色結晶、融点235〜7℃;IR(KBr法)、cm-1:625,695,770,1100,1180,1340,1630,3050,3220,3315;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:1.06(t,6H,プロピル由来の2Me);1.73(ゼクステット,4H,n−プロピル由来の2CH2(β));2.84(t,4H,n−プロピル由来の2CH2(α));7.55-8.71(m,11H,1,4−フェニレン、ピリジニウムおよび4-Ph由来のArH)。元素分析C25H28N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2,6−ジイソプロピル−4−フェニルピリジニウムパークロラート79:白色結晶、融点278〜9℃;IR(KBr法)、cm-1:625,690,765,1100,1180,1340,1625,3040,3270,3315;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:1.45(d,12H,イソプロピル由来の4Me);2.95(ヘプテット,2H,イソプロピル由来の2CH);7.92-8.97(m,11H,1,4−フェニレン、ピリジニウムおよび4-Ph由来のArH)。元素分析C25H28N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2−メチル−4,6−ジフェニルピリジニウムパークロラート80:白色結晶、融点298〜99℃;IR(KBr法)、cm-1:625,710,770,1100,1170,1345,1625,3040,3245,3350;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:2.75(s,3H,2-Me);7.53-8.70(m,16H,1,4−フェニレン、ピリジニウムおよび4,6-Ph2由来のArH)。元素分析C26H22N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2−エチル−4,6−ジフェニルピリジニウムパークロラート81:白色結晶、融点245〜5℃;IR(KBr法)、cm-1:625,700,770,1100,1180,1340,1620,3040,3250,3350;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:1.52(t,3H,エチル由来のMe);2.97(q,2H,CH2);7.40-8.57(m,16H,1,4−フェニレン、ピリジニウムおよび4,6-Ph2由来のArH)。元素分析C27H24N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2−n−プロピル−4,6−ジフェニルピリジニウムパークロラート82:白色結晶、融点214〜5℃;IR(KBr法)、cm-1:625,700,770,1100,1180,1340,1620,3030,3270,3350;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:1.03(t,3H,プロピル由来のMe);1.95(ゼクステッド,2H,n−プロピル由来のβ−CH2);2.88(t,2H,n−プロピル由来のα−CH2);7.39-8.55(m,16H,1,4−フェニレン、ピリジニウムおよび4,6-Ph2由来のArH)。元素分析C28H26N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2−イソプロピル−4,6−ジフェニルピリジニウムパークロラート83:白色結晶、融点186〜8℃;IR(KBr法)、cm-1:625,700,770,1100,1170,1340,1620,3040,3250,3360;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:1.51(d,6H,イソプロピル由来の2Me);2.50-3.27(m,1H,イソプロピル由来のCH);7.32-8.54(m,16H,1,4−フェニレン、ピリジニウムおよび4,6-Ph2由来のArH)。元素分析C28H26N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2−n−ブチル−4,6−ジフェニルピリジニウムパークロラート84:白色結晶、融点241〜3℃;IR(KBr法)、cm-1:625,710,770,1100,1180,1335,1625,3040,3260,3345;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:0.93(t,3H,ブチル由来のMe);1.12-2.14(m,4H,n−ブチル由来のCH3-CH2-CH2-CH2);2.96(t,3H,n−ブチル由来のα−CH2);7.21-8.50(m,16H,1,4−フェニレン、ピリジニウムおよび4,6-Ph2由来のArH)。元素分析C29H28N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2−tert−ブチル−4,6−ジフェニルピリジニウムパークロラート85:白色結晶、融点203〜5℃;IR(KBr法)、cm-1:625,705,765,1100,1160,1310,1620,3060,3250,3270;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:1.91(s,9H,t-Bu);6.80-8.74(m,16H,1,4−フェニレンおよび4,6-Ph2由来のArH、ならびにピリジニウム由来の3,5−H)。元素分析C29H28N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2,4,6−トリフェニルピリジニウムパークロラート87:淡黄色結晶、融点>300℃;IR(KBr法)、cm-1(斜体文字で示したバンドは陰イオン由来):625,635,703,785,896,1100,1150,1204,1355,1410,1520,1600,3065;1H-NMR(D2O)、δ、ppm:7.50-8.60(m,19H,1ArH,3Ph+C6H4);9.27(s,2H,ArH,ピリジニウム由来の3,5-H);この溶媒中では、溶媒とのプロトン交換が非常に迅速なため、スルホンアミドプロトンは観察されなかった。。元素分C31H24N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2,6−ジフェニルピリジニウムパークロラート88:黄色結晶、融点218〜20℃;IR(KBr法)、cm-1:625,705,765,1100,1160,1335,1615,3050,3260;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:6.75-8.43(m,17H,1,4−フェニレン、2,6−Ph2由来のArHならびにピリジニウム由来の3,4,5−H)。元素分析C25H20N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
1−N−[5−スルファモイル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル−(アミノスルホニル−4−フェニル)]−2,3,4,6−テトラメチルピリジニウムパークロラート89:黄褐色結晶、融点>300℃;IR(KBr法)、cm-1:625,800,1100,1165,1330,1630,3030, 3305;1H-NMR(TFA)、δ、ppm:2.62(s,3H,4-Me);2.74(s,3H,3-Me);2.88(s,6H,2,6-(Me)2);7.21-8.50(m,AA'BB',4H,1,4−フェニレン由来のArH);7.93(s,1H,ArH,ピリジニウム由来の5-H)。元素分析C17H20N5O4S3+ClO4-(C,H,N)
以下に示す本発明の実施態様は例示および説明を目的とするものである。これらは本発明を網羅するためのものでも範囲を制限するためのものでもなく、上述の狭義に基づいて多様な変形および変更が可能なことは明らかである。実施態様は、本発明の原理を説明することを目的として選択、記述したものであり、本発明の実用化については、当業者であれば、特定の使用目的に添うように多様な実施態様および多様な変形を活用することによって可能である。
【0152】
本明細書中に引用した全ての参考文献を参照として本明細書中に取り入れておく。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類サンプルにおいて前癌細胞あるいは癌細胞を検出する方法であって、哺乳類サンプルに、標識または可視化手段に結合したMN/CA IX特異的阻害剤を接触させ、さらに該サンプル中の細胞上の前記標識または可視化手段を検出または検出および定量することにより、該サンプル中の細胞へのMN/CA IX特異的阻害剤の結合を検出または検出および定量する工程を含み、前記サンプルでの検出または検出および定量のレベルが対照サンプルにおけるものよりも高かった場合に、該サンプル中に前癌細胞あるいは癌細胞が存在することが示唆されることを特徴とする方法。
【請求項2】
低酸素条件によって活性化されたMN/CA IXタンパク質またはポリペプチドを検出または検出および定量し、低酸素条件の存在が、前記サンプルを提供した哺乳類は予後がよくないことを示唆し、さらに該哺乳類に対する治療判断をするのに有用な情報となることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記MN/CA IX特異的阻害剤が有機化合物であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記MN/CA IX特異的阻害剤が、芳香族スルホンアミドまたは複素環式スルホンアミドであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記MN/CA IX特異的阻害剤が、CA I、CA IIおよびCA IVよりなる群から選択される1種類の炭酸脱水酵素の酵素活性に対するよりも、MN/CA IX酵素活性に対してより強力な阻害剤であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記MN/CA IX特異的阻害剤が、CA I、CA IIおよびCA IVよりなる群から選択される炭酸脱水酵素のそれぞれの酵素活性に対するよりも、MN/CA IX酵素活性に対してより強力な阻害剤であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記MN/CA IX特異的阻害剤が、以下の化合物よりなる群から選択されることを特徴とする請求項1記載の方法:
【化1】
【請求項8】
前記MN/CA IX特異的阻害剤が、化合物の阻害定数K1を特定する工程を含みかつ該阻害定数K1が50nM未満の場合に該化合物はMN/CA IX酵素活性の強力な阻害剤であると判断されるスクリーニングアッセイにおいてMN/CA IX酵素活性の強力な阻害剤であると判断された有機分子および無機分子よりなる群から選択される膜不透過性化合物であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記膜不透過性有機化合物が、芳香族スルホンアミドのピリジニウム誘導体または複素環式スルホンアミドのピリジニウム誘導体であることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記膜不透過性化合物が、CA IV酵素活性に対するよりも、MN/CA IX酵素活性に対してより強力な阻害剤であることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項11】
前記芳香族スルホンアミドのピリジニウム誘導体が、以下の一般式で表されることを特徴とする請求項9記載の方法:
【化2】
ここで、nは0、1または2であり;
R2、R3、R4、およびR6は、水素、C1−C12アルキル基およびアリール基よりなる群からそれぞれ独立して選択される。
【請求項12】
前記複素環式スルホンアミドのピリジニウム誘導体が、以下の一般式で表されることを特徴とする請求項9記載の方法:
【化3】
ここで、R1、R2、R3、R4およびR5は、水素、C1−C12アルキル基およびアリール基よりなる群からそれぞれ独立して選択される。
【請求項13】
造影化剤に結合させたMN/CA IX特異的阻害剤を含有することを特徴とする、患者の体内でMN/CA IXタンパク質またはポリペプチドを発現する腫瘍および/または転移を画像化するための組成物。
【請求項14】
低酸素条件によって活性化されたMN/CA IXタンパク質またはポリペプチドが検出または検出および定量され、低酸素条件の存在が、前記患者は予後がよくないことを示唆し、さらに該患者に対する治療判断をするのに有用な情報となることを特徴とする請求項13記載の組成物。
【請求項15】
前記MN/CA IX特異的阻害剤が有機化合物であることを特徴とする請求項13記載の組成物。
【請求項16】
前記MN/CA IX特異的阻害剤が、芳香族スルホンアミドまたは複素環式スルホンアミドであることを特徴とする請求項13記載の組成物。
【請求項17】
前記MN/CA IX特異的阻害剤が、膜不透過性の芳香族スルホンアミドのピリジニウム誘導体、または膜不透過性の複素環式スルホンアミドのピリジニウム誘導体であることを特徴とする請求項13記載の組成物。
【請求項18】
化合物の阻害定数K1を特定する工程を含みかつ該阻害定数K1が50nM未満の場合に該化合物はMN/CA IX酵素活性の強力な阻害剤であると判断されるスクリーニングアッセイにおいてMN/CA IX酵素活性の強力な阻害剤であると判断された有機分子および無機分子よりなる群から選択される膜不透過性化合物を含有することを特徴とする、哺乳類においてMN/CA IXタンパク質を過剰発現することによって特徴付けられる前癌性もしくは癌性疾患を治療するための組成物。
【請求項19】
前記膜不透過性有機化合物が、芳香族スルホンアミドのピリジニウム誘導体または複素環式スルホンアミドのピリジニウム誘導体であることを特徴とする請求項18記載の組成物。
【請求項20】
前記膜不透過性化合物が、CA IV酵素活性に対するよりも、MN/CA IX酵素活性に対してより強力な阻害剤であることを特徴とする請求項18記載の組成物。
【請求項21】
前記芳香族スルホンアミドのピリジニウム誘導体が、以下の一般式で表されることを特徴とする請求項19記載の組成物:
【化4】
ここで、nは0、1または2であり;
R2、R3、R4、およびR6は、水素、C1−C12アルキル基およびアリール基よりなる群からそれぞれ独立して選択される。
【請求項22】
前記複素環式スルホンアミドのピリジニウム誘導体が、以下の一般式で表されることを特徴とする請求項19記載の組成物:
【化5】
ここで、R1、R2、R3、R4およびR5は、水素、C1−C12アルキル基およびアリール基よりなる群からそれぞれ独立して選択される。
【請求項23】
化合物の阻害定数K1を特定する工程を含みかつ該阻害定数K1が50nM未満の場合に該化合物はMN/CA IX酵素活性の強力な阻害剤であると判断されるスクリーニングアッセイにおいてMN/CA IX酵素活性の強力な阻害剤であると判断された、アセタゾラミド、エトクスゾラミド、メタゾラミドおよびシアナート以外の有機および無機分子よりなる群から選択さる化合物を含有することを特徴とする、腫瘍細胞がMN/CA IXタンパク質を過剰発現することによって特徴付けられる腫瘍を有する患者において腫瘍増殖を阻害するための組成物。
【請求項24】
前記化合物が放射性同位元素に結合していることを特徴とする請求項23記載の組成物。
【請求項25】
従来の抗癌剤、化学療法剤、癌関連経路に対する様々な阻害剤、生体還元性薬物、CA IX特異的抗体、およびCA IX特異的抗体の生物学的に活性なフラグメントよりなる群から選択される1種またはそれ以上の腫瘍増殖を阻害するための化合物と併用されることを特徴とする請求項23記載の組成物。
【請求項26】
以下の工程を含むスクリーニングアッセイにおいてMN/CA IX酵素活性の強力な阻害剤であると判断された、アセタゾラミド、エトクスゾラミド、メタゾラミドおよびシアナート以外の有機分子よりなる群から選択さる化合物を含有することを特徴とする、哺乳類においてMN/CA IXタンパク質を過剰発現することによって特徴付けられる前癌性もしくは癌性疾患を治療するための組成物:
a)化合物の一連の希釈液、ならびに、MN/CA IXタンパク質もしくはMN/CA IXタンパク質の炭酸脱水酵素ドメインを含むフラグメントの一連の希釈液を調製し;
b)前記化合物の希釈液を、前記MN/CA IXタンパク質もしくはMN/CA IXタンパク質のフラグメントの希釈液と混合して、20℃で10分間プレインキュベートし;
c)反応容器内において、前記化合物の希釈液と前記MN/CA IXタンパク質もしくはタンパク質のフラグメントの希釈液との混合物をプレインキュベートしたものを、飽和CO2溶液、0.2mMのフェノールレッド、0.1MのNa2SO4、および10mMのHepes緩衝液(pH7.5 )から実質的になる基質と、20℃で10〜100秒かけて混合し;
d)同時に、ストップフロー分光光度計を用いて、反応容器の内容物について吸収極大波長557nmにおける吸光度を測定し;さらに、
e)前記化合物の阻害定数KIを求める;
ここで、阻害定数KIが約50nM未満の場合に、該化合物はMN/CA IX酵素活性の強力な阻害剤であると判断される。
【請求項1】
哺乳類サンプルにおいて前癌細胞あるいは癌細胞を検出する方法であって、哺乳類サンプルに、標識または可視化手段に結合したMN/CA IX特異的阻害剤を接触させ、さらに該サンプル中の細胞上の前記標識または可視化手段を検出または検出および定量することにより、該サンプル中の細胞へのMN/CA IX特異的阻害剤の結合を検出または検出および定量する工程を含み、前記サンプルでの検出または検出および定量のレベルが対照サンプルにおけるものよりも高かった場合に、該サンプル中に前癌細胞あるいは癌細胞が存在することが示唆されることを特徴とする方法。
【請求項2】
低酸素条件によって活性化されたMN/CA IXタンパク質またはポリペプチドを検出または検出および定量し、低酸素条件の存在が、前記サンプルを提供した哺乳類は予後がよくないことを示唆し、さらに該哺乳類に対する治療判断をするのに有用な情報となることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記MN/CA IX特異的阻害剤が有機化合物であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記MN/CA IX特異的阻害剤が、芳香族スルホンアミドまたは複素環式スルホンアミドであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記MN/CA IX特異的阻害剤が、CA I、CA IIおよびCA IVよりなる群から選択される1種類の炭酸脱水酵素の酵素活性に対するよりも、MN/CA IX酵素活性に対してより強力な阻害剤であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記MN/CA IX特異的阻害剤が、CA I、CA IIおよびCA IVよりなる群から選択される炭酸脱水酵素のそれぞれの酵素活性に対するよりも、MN/CA IX酵素活性に対してより強力な阻害剤であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記MN/CA IX特異的阻害剤が、以下の化合物よりなる群から選択されることを特徴とする請求項1記載の方法:
【化1】
【請求項8】
前記MN/CA IX特異的阻害剤が、化合物の阻害定数K1を特定する工程を含みかつ該阻害定数K1が50nM未満の場合に該化合物はMN/CA IX酵素活性の強力な阻害剤であると判断されるスクリーニングアッセイにおいてMN/CA IX酵素活性の強力な阻害剤であると判断された有機分子および無機分子よりなる群から選択される膜不透過性化合物であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記膜不透過性有機化合物が、芳香族スルホンアミドのピリジニウム誘導体または複素環式スルホンアミドのピリジニウム誘導体であることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記膜不透過性化合物が、CA IV酵素活性に対するよりも、MN/CA IX酵素活性に対してより強力な阻害剤であることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項11】
前記芳香族スルホンアミドのピリジニウム誘導体が、以下の一般式で表されることを特徴とする請求項9記載の方法:
【化2】
ここで、nは0、1または2であり;
R2、R3、R4、およびR6は、水素、C1−C12アルキル基およびアリール基よりなる群からそれぞれ独立して選択される。
【請求項12】
前記複素環式スルホンアミドのピリジニウム誘導体が、以下の一般式で表されることを特徴とする請求項9記載の方法:
【化3】
ここで、R1、R2、R3、R4およびR5は、水素、C1−C12アルキル基およびアリール基よりなる群からそれぞれ独立して選択される。
【請求項13】
造影化剤に結合させたMN/CA IX特異的阻害剤を含有することを特徴とする、患者の体内でMN/CA IXタンパク質またはポリペプチドを発現する腫瘍および/または転移を画像化するための組成物。
【請求項14】
低酸素条件によって活性化されたMN/CA IXタンパク質またはポリペプチドが検出または検出および定量され、低酸素条件の存在が、前記患者は予後がよくないことを示唆し、さらに該患者に対する治療判断をするのに有用な情報となることを特徴とする請求項13記載の組成物。
【請求項15】
前記MN/CA IX特異的阻害剤が有機化合物であることを特徴とする請求項13記載の組成物。
【請求項16】
前記MN/CA IX特異的阻害剤が、芳香族スルホンアミドまたは複素環式スルホンアミドであることを特徴とする請求項13記載の組成物。
【請求項17】
前記MN/CA IX特異的阻害剤が、膜不透過性の芳香族スルホンアミドのピリジニウム誘導体、または膜不透過性の複素環式スルホンアミドのピリジニウム誘導体であることを特徴とする請求項13記載の組成物。
【請求項18】
化合物の阻害定数K1を特定する工程を含みかつ該阻害定数K1が50nM未満の場合に該化合物はMN/CA IX酵素活性の強力な阻害剤であると判断されるスクリーニングアッセイにおいてMN/CA IX酵素活性の強力な阻害剤であると判断された有機分子および無機分子よりなる群から選択される膜不透過性化合物を含有することを特徴とする、哺乳類においてMN/CA IXタンパク質を過剰発現することによって特徴付けられる前癌性もしくは癌性疾患を治療するための組成物。
【請求項19】
前記膜不透過性有機化合物が、芳香族スルホンアミドのピリジニウム誘導体または複素環式スルホンアミドのピリジニウム誘導体であることを特徴とする請求項18記載の組成物。
【請求項20】
前記膜不透過性化合物が、CA IV酵素活性に対するよりも、MN/CA IX酵素活性に対してより強力な阻害剤であることを特徴とする請求項18記載の組成物。
【請求項21】
前記芳香族スルホンアミドのピリジニウム誘導体が、以下の一般式で表されることを特徴とする請求項19記載の組成物:
【化4】
ここで、nは0、1または2であり;
R2、R3、R4、およびR6は、水素、C1−C12アルキル基およびアリール基よりなる群からそれぞれ独立して選択される。
【請求項22】
前記複素環式スルホンアミドのピリジニウム誘導体が、以下の一般式で表されることを特徴とする請求項19記載の組成物:
【化5】
ここで、R1、R2、R3、R4およびR5は、水素、C1−C12アルキル基およびアリール基よりなる群からそれぞれ独立して選択される。
【請求項23】
化合物の阻害定数K1を特定する工程を含みかつ該阻害定数K1が50nM未満の場合に該化合物はMN/CA IX酵素活性の強力な阻害剤であると判断されるスクリーニングアッセイにおいてMN/CA IX酵素活性の強力な阻害剤であると判断された、アセタゾラミド、エトクスゾラミド、メタゾラミドおよびシアナート以外の有機および無機分子よりなる群から選択さる化合物を含有することを特徴とする、腫瘍細胞がMN/CA IXタンパク質を過剰発現することによって特徴付けられる腫瘍を有する患者において腫瘍増殖を阻害するための組成物。
【請求項24】
前記化合物が放射性同位元素に結合していることを特徴とする請求項23記載の組成物。
【請求項25】
従来の抗癌剤、化学療法剤、癌関連経路に対する様々な阻害剤、生体還元性薬物、CA IX特異的抗体、およびCA IX特異的抗体の生物学的に活性なフラグメントよりなる群から選択される1種またはそれ以上の腫瘍増殖を阻害するための化合物と併用されることを特徴とする請求項23記載の組成物。
【請求項26】
以下の工程を含むスクリーニングアッセイにおいてMN/CA IX酵素活性の強力な阻害剤であると判断された、アセタゾラミド、エトクスゾラミド、メタゾラミドおよびシアナート以外の有機分子よりなる群から選択さる化合物を含有することを特徴とする、哺乳類においてMN/CA IXタンパク質を過剰発現することによって特徴付けられる前癌性もしくは癌性疾患を治療するための組成物:
a)化合物の一連の希釈液、ならびに、MN/CA IXタンパク質もしくはMN/CA IXタンパク質の炭酸脱水酵素ドメインを含むフラグメントの一連の希釈液を調製し;
b)前記化合物の希釈液を、前記MN/CA IXタンパク質もしくはMN/CA IXタンパク質のフラグメントの希釈液と混合して、20℃で10分間プレインキュベートし;
c)反応容器内において、前記化合物の希釈液と前記MN/CA IXタンパク質もしくはタンパク質のフラグメントの希釈液との混合物をプレインキュベートしたものを、飽和CO2溶液、0.2mMのフェノールレッド、0.1MのNa2SO4、および10mMのHepes緩衝液(pH7.5 )から実質的になる基質と、20℃で10〜100秒かけて混合し;
d)同時に、ストップフロー分光光度計を用いて、反応容器の内容物について吸収極大波長557nmにおける吸光度を測定し;さらに、
e)前記化合物の阻害定数KIを求める;
ここで、阻害定数KIが約50nM未満の場合に、該化合物はMN/CA IX酵素活性の強力な阻害剤であると判断される。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2011−75570(P2011−75570A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250142(P2010−250142)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【分割の表示】特願2005−510334(P2005−510334)の分割
【原出願日】平成15年11月26日(2003.11.26)
【出願人】(501161745)
【出願人】(505191009)
【氏名又は名称原語表記】SUPURAN,Claudiu
【出願人】(505191010)
【氏名又は名称原語表記】SCOZZAFAVA,Andrea
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【分割の表示】特願2005−510334(P2005−510334)の分割
【原出願日】平成15年11月26日(2003.11.26)
【出願人】(501161745)
【出願人】(505191009)
【氏名又は名称原語表記】SUPURAN,Claudiu
【出願人】(505191010)
【氏名又は名称原語表記】SCOZZAFAVA,Andrea
【Fターム(参考)】
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