説明

CB1受容体アゴニスト

【課題】薬物依存性が低く、CB1受容体アゴニスト活性を有する食欲増進剤の提供。
【解決手段】式Iで表わされる化合物


(式中:Rは、H、又は置換されていてもよいC1〜6アルキルであるか;又はORにおいて、Oはそれが結合する炭素原子とともに6員環を構成し、Rは存在せず;Xは、H又はOである。)の少なくとも一を有効成分として含む、食欲増進用の、医薬組成物又は食品組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CB1受容体アゴニスト活性を有する化合物又はそれを用いた食欲増進方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カンナビスに含まれる一連の生理活性物質(CB)が、CB1やCB2といわれるGタンパク共役型のCB受容体に結合することにより、様々な生理作用を引き起こすことが知られている。CB1受容体は主に中枢及び末梢神経末端で発現し神経伝達物質放出の制御に関与していると考えられている。また、CB2受容体は免疫細胞で多く発現しており、炎症応答に関与していると考えられている。
【0003】
また、CB受容体がクローニングされてから、その内在性受容体リガンドが見出され、これらの生理作用についても調べられている。例えば、内在性CB1受容体リガンドである2-アラキドノイルグリセロールなどの内在性CB1受容体リガンドが、視床下部における食欲の調節に関与し、肥満との関連が注目されている。CB受容体のリガンドについての研究が進むにつれ、その関連化合物の医薬品としての応用が進められるようになった。現在最も開発が進んでいるのは選択的CB1受容体アンタゴニストについてである。CB1受容体アンタゴニストで食欲は減少する。
【0004】
一方、近年、エイズ患者に見られるHIV消耗性症候群や、抗ガン剤治療による食欲不振を訴える患者に対して、食欲増進作用を示す化合物が求められている。この候補の一つとして上記CB1受容体アゴニストが挙げられる。CB1受容体アゴニストをラットに投与することにより、食欲増進作用をもたらすホルモン、ghrelinが増加することが報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Folia Histochemica Et Cytobiologica, 2008, 46(2), 219-224
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
食欲増進作用を示す化合物として、CB1受容体アゴニストが考えられるが、特にエイズ患者に見られるHIV消耗性症候群や、抗ガン剤治療による食欲不振を訴える患者、高齢者や摂食障害(拒食症)の患者が日常的に経口摂取できる緩効性で安全性の高い食欲促進サプリメントが望まれている。本発明はこのようなニーズに対応して、薬物依存性の少ないCB1受容体アゴニストにより、食欲を増進する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、ホップにおいてCB1受容体結合活性を示す物質が存在することを見出した。CB1受容体への結合能、及び、CB1受容体アゴニストのシグナルによって低下する細胞内cAMPを指標とした細胞アッセイ系を用いて、当該物質をホップ中から単離し、構造決定した。その結果、キサントフモール、イソキサントフモール、8-プレニルナリンゲニンの3つの成分がCB1受容体結合活性を示すことを明らかにした。さらに、これらの物質のCB1受容体アゴニスト活性について検討したところ、いずれの化合物も容量依存的なCB1受容体アゴニスト活性を示すことが明らかになった。
【0008】
さらに本発明においては、キサントフモール、イソキサントフモールの類縁体化合物がCB1受容体への結合能を有することを確認し、また単離されたキサントフモールが、in vivoでも、CB1受容体アゴニスト様活性を示すかどうかについて、被験物質投与後のラット血中ghrelin濃度を測定することにより検討した。
【0009】
本発明は、以下を提供する。
1) 式Iで表わされる化合物
【0010】
【化1】

【0011】
(式中:
実線と破線とで表わされた結合(a)及び(b)は、それぞれ独立に、単結合又は二重結合であり;
は、H、置換されていてもよいC1〜6アルキル、又は置換されていてもよいC1〜6アシルであり;
は、H、又は置換されていてもよいC1〜6アルキルであるか;又はORにおいて、Oはそれが結合する炭素原子とともに6員環を構成し、Rは存在せず;
、及びRは、それぞれ独立に、H、置換されていてもよいC1〜6アルキル、又は置換されていてもよいC1〜6アシルであり;
、及びRは、一方が、H、又は置換されていてもよいC1〜6アルキル、又はプレニル、ゲラニル、若しくはファルネシルであり、他方が、置換されていてもよいC1〜6アルキル、又はプレニル、ゲラニル、若しくはファルネシルであり;
Xは、H又はOである。)の少なくとも一を有効成分として含む、食欲増進用の、医薬組成物又は食品組成物。
2) R〜Rの少なくとも一つが、Hである、1)記載の組成物。
3) Rが、H、又はメチルであり;
が、Hであり、このとき実線と破線で表された結合(a)が、二重結合であり;又はORにおいて、Oはそれが結合する炭素原子とともに6員環を構成し、Rは存在せず、このとき実線と破線とで表わされた結合(a)が、単結合であり;
、及びRが、Hである、2)記載の組成物。
4) 式Iで表わされる化合物が、キサントフモール、イソキサントフモール、8−プレニルナリンゲニン、(E)-1-(2-ヒドロキシ-4,6-ジメトキシ-3-(3-メチルブト-2-エニル)フェニル)-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロプ-2-エン-1-オン、1-(2,4-ジヒドロキシ-3-イソペンチル-6-メトキシフェニル)-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン-1-オン、2-(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメトキシ-8-(3-メチルブト-2-エニル)クロマン-4-オン、5,7-ジメトキシ-2-(4-メトキシフェニル)-8-(3-メチルブト-2-エニル)クロマン-4-オン、又は2-4-ヒドロキシフェニル)-8-イソペンチル-5-メトキシクロマン-7-オールである、3)記載の組成物。
5) 式Iで表わされる化合物
【0012】
【化2】

【0013】
(式中:
実線と破線とで表わされた結合(a)及び(b)は、それぞれ独立に、単結合又は二重結合であり;
は、H、置換されていてもよいC1〜6アルキル、又は置換されていてもよいC1〜6アシルであり;
は、H、又は置換されていてもよいC1〜6アルキルであるか;又はORにおいて、Oはそれが結合する炭素原子とともに6員環を構成し、Rは存在せず;
、及びRは、それぞれ独立に、H、置換されていてもよいC1〜6アルキル、又は置換されていてもよいC1〜6アシルであり;
、及びRは、一方が、H、又は置換されていてもよいC1〜6アルキル、又はプレニル、ゲラニル、若しくはファルネシルであり、他方が、置換されていてもよいC1〜6アルキル、又はプレニル、ゲラニル、若しくはファルネシルであり;
Xは、H又はOである。)の少なくとも一を含む、CB1受容体アゴニスト剤。
6) R〜Rの少なくとも一つが、Hである、5)記載の剤。
7) Rが、H、又はメチルであり;
が、Hであり、このとき実線と破線で表された結合(a)が、二重結合であり;又はORにおいて、Oはそれが結合する炭素原子とともに6員環を構成し、Rは存在せず、このとき実線と破線とで表わされた結合(a)が、単結合であり;
、及びRが、Hである、6)記載の剤。
8) 式Iで表わされる化合物が、キサントフモール、イソキサントフモール、8−プレニルナリンゲニン、(E)-1-(2-ヒドロキシ-4,6-ジメトキシ-3-(3-メチルブト-2-エニル)フェニル)-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロプ-2-エン-1-オン、1-(2,4-ジヒドロキシ-3-イソペンチル-6-メトキシフェニル)-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン-1-オン、2-(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメトキシ-8-(3-メチルブト-2-エニル)クロマン-4-オン、5,7-ジメトキシ-2-(4-メトキシフェニル)-8-(3-メチルブト-2-エニル)クロマン-4-オン、又は2-4-ヒドロキシフェニル)-8-イソペンチル-5-メトキシクロマン-7-オールである、7)記載の剤。
9) 非依存性及び/又は非向精神作用性である、5)〜8)のいずれか1に記載の剤。
10) 食品組成物であり、組成物全重量に対して有効成分を5 ppm以上含む、1)又は2)に記載の組成物。
11) 1日あたり、1.0 mg〜1000 mgを摂取又は投与するための、1)又は2)に記載の組成物。
12) 全重量に対して有効成分を2%以上含む、1)又は2)に記載の組成物。
13) 1)〜4)のいずれか1に定義された式Iで表される化合物を含む、グレリン分泌促進剤。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、HL-E、HL-B、HL-WのCB1受容体結合活性を比較したグラフである。
【図2】図2は、HL-E-1〜4のCB1受容体結合活性を比較したグラフである。
【図3】図3は、キサントフモールのCB1受容体結合活性を示したグラフである。
【図4】図4は、3成分のCB1受容体結合活性を比較したグラフである。
【図5】図5は、イソキサントフモールのCB1受容体結合活性を示したグラフである。
【図6】図6は、8-プレニルナリンゲニンのCB1受容体結合活性を示したグラフである。
【図7】図7は、キサントフモールのCB1受容体アゴニスト活性を示したグラフである。
【図8】図8は、イソキサントフモールのCB1受容体アゴニスト活性を示したグラフである。
【図9】図9は、8-プレニルナリンゲニンのCB1受容体アゴニスト活性を示したグラフである。
【図10】図10は、3成分とCP55940とのCB1受容体結合活性を比較したグラフである。
【図11】図11は、3成分とCP55940とのCB1受容体アゴニスト活性を比較したグラフである。
【図12】図12は、類縁体化合物のCB1受容体結合活性を比較したグラフである。
【図13】図13は、Active ghrelinの変化量を示したグラフである。
【図14】図14は、Desacyl ghrelinの変化量を示したグラフである。
【図15】図15は、Total ghrelinの変化量を示したグラフである。
【図16】図16は、Insulinの変化量を示したグラフである。
【図17】図17は、Xn001、Xn005、Ix001及びIx002のCB1受容体結合活性を示したグラフである。
【図18】図18は、摂食量測定結果を示したグラフである。
【図19】図19は、飲水量測定結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らの検討によると、下記の式Iで表わされる化合物は、CB1受容体アゴニストとして作用しうる。また本発明の組成物は、有効成分として、下記の式Iで表される化合物の少なくとも一つを含む。なお本明細書において、式Iの化合物について説明するときは、特に示した場合を除き、その説明は、CB1受容体アゴニストとしての化合物と、本発明の組成物の有効成分としての化合物との双方に当てはまる。
【0016】
【化3−1】

【0017】
(式中:
実線と破線とで表わされた結合(a)及び(b)は、それぞれ独立に、単結合又は二重結合であり;
は、H、置換されていてもよいC1〜6アルキル、又は置換されていてもよいC1〜6アシルであり;
は、H、又は置換されていてもよいC1〜6アルキルであるか;又はORにおいて、Oはそれが結合する炭素原子とともに6員環を構成し、Rは存在せず;
、及びRは、それぞれ独立に、H、置換されていてもよいC1〜6アルキル、又は置換されていてもよいC1〜6アシルであり;
、及びRは、一方が、H、又は置換されていてもよいC1〜6アルキル、又はプレニル、ゲラニル、若しくはファルネシルであり、他方が、置換されていてもよいC1〜6アルキル、又はプレニル、ゲラニル、若しくはファルネシルであり;
Xは、H又はOである。
【0018】
XがOであって実線と破線とで表わされた結合(b)が二重結合であるときの式Iの化合物は、下記のように表わすことができる。
【0019】
【化3−2】

【0020】
本発明において、「アルキル」又は「アシル」というときは、特に示した場合を除き、その炭素鎖は直鎖状であっても分岐していてもよく、「置換されていてもよい」というときは、特に示した場合を除き、置換は、ハロ、ニトロ、シアノ、OH、OR、5〜10員ヘテロサイクリル、C6〜10アリール、−S(O)、及び−SONR(nは0〜2の整数、R、及びRは、それぞれ独立にH又はC1〜6アルキル)からなる群から独立的に選択される1〜3個の置換基による置換を意味する。C1〜6アルキルは、炭素数が1〜6であるアルキルをいい、好ましい例は、メチル、エチル又はプロピルである。プレニル(ジメチルアリル)、ゲラニル及びファルネシルは、いずれもC5のイソプレン単位1〜3で構成される基である。C1〜6アシルは、炭素数が1〜6であるアシルをいい、好ましい例は、ホルミル、アセチル又はプロピオニルである。
【0021】
好ましい一態様においては、Rが、H、又はメチルであり;
が、Hであり、このとき実線と破線で表された結合(a)が、二重結合であり;又はORにおいて、Oはそれが結合する炭素原子とともに6員環を構成し、Rは存在せず、このとき実線と破線とで表わされた結合(a)が、単結合であり;
、及びRが、Hである。
【0022】
式Iに包含される化合物の具体例は、キサントフモール、イソキサントフモール、8−プレニルナリンゲニン、デスメチルキサントフモールである。本発明の特に好ましい一態様においては、CB1受容体アゴニストは、キサントフモール、イソキサントフモール又は8−プレニルナリンゲニンであり、本発明の剤又は組成物は、キサントフモール、イソキサントフモール及び8−プレニルナリンゲニンから選択される一以上を含む。
【0023】
キサントフモールは、カルコンに分類されるフラボノイドの一種であり、分子量は約354の比較的安定な物質(遮光、冷蔵保存の場合、6ヶ月安定)である。pH<4.5の酸性条件、又はpH>7.5のアルカリ条件では不安定である。
【0024】
式Iで表される化合物は、キサントフモール又はイソキサントフモールの、下記の類縁体化合物を包含する。
が、H、又はメチルであり;
が、Hであり、このとき実線と破線で表された結合(a)が、二重結合であり;
及びRが、それぞれ独立にH、又はメチルであり;及び
、及びRの一方が、H、プレニル若しくはゲラニル、又はプレニルから誘導される基(例えば、3-イソペンチル、3-メトキシ-3-メチルブチル、又は3-ヒドロキシ-3-メチルブチル)であり、他方が、プレニル若しくはゲラニル、又はプレニルから誘導される基であるが、一方がHであり、他方がプレニル若しくはゲラニル、又はプレニルから誘導される基であることが好ましく;
Xは、H(このとき実線と破線で表された結合(b)が、単結合である。)又はO(このとき実線と破線で表された結合(b)が、二重結合である。)である。あるいは、
が、H、又はメチルであり;
ORにおいて、Oはそれが結合する炭素原子とともに6員環を構成し、Rは存在せず、このとき実線と破線とで表わされた結合(a)が、単結合であり;
及びRが、それぞれ独立にH、又はメチルであり;及び
、及びRの一方が、H、プレニル若しくはゲラニル、又はプレニルから誘導される基であり、他方が、プレニル若しくはゲラニル、又はプレニルから誘導される基であるが、一方がHであり、他方がプレニル若しくはゲラニル、又はプレニルから誘導される基であることが好ましく;
Xは、H(このとき実線と破線で表された結合(b)が、単結合である。)又はO(このとき実線と破線で表された結合(b)が、二重結合である。)である。
【0025】
類縁体化合物の具体例として、下記の化合物を挙げることができる:
(E)-1-(2-ヒドロキシ-4,6-ジメトキシ-3-(3-メチルブト-2-エニル)フェニル)-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロプ-2-エン-1-オン、又は4’-O-メチルキサントフモール;
(E)-1-(2,4-ジヒドロキシ-6-メトキシ-3-(3-メチルブト-2-エニル)フェニル)-3-(4-メトキシフェニル)プロプ-2-エン-1-オン、又は4-O-メチルキサントフモール;
(E)-1-(2-ヒドロキシ-4,6-ジメトキシ-3-(3-メチルブト-2-エニル)フェニル)-3-(4-メトキシフェニル)プロプ-2-エン-1-オン、又は4-O,4’-O-ジメチルキサントフモール;
(E)-3-(4-メトキシフェニル)-1-(2,4,6-トリメトキシ-3-(3-メチルブト-2-エニル)フェニル)プロプ-2-エン-1-オン、又は4-O,4’-O,6’-O-トリメチルキサントフモール;
1-(2,4-ジヒドロキシ-3-イソペンチル-6-メトキシフェニル)-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン-1-オン;
2-(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメトキシ-8-(3-メチルブト-2-エニル)クロマン-4-オン、又は7-O-メチルイソキサントフモール;
5,7-ジメトキシ-2-(4-メトキシフェニル)-8-(3-メチルブト-2-エニル)クロマン-4-オン、又は7-O,4’-O-ジメチルイソキサントフモール;
5,7-ジヒドロキシ-2-(4-ヒドロキシフェニル)-8-(3-メトキシ-3-メチルブチル)クロマン-4-オン;
5,7-ジヒドロキシ-8-(3-ヒドロキシ-3-メチルブチル)-2-(4-ヒドロキシフェニル)クロマン-4-オン;
(E)-1-(2,4-ジビドロキシジビドロキシ
-6-メトキシフェニル)-3-(4-ヒドロキシフェニルフェニル)プロプ-2-エン-1-オン;
2-4-ヒドロキシフェニル)-8-イソペンチル-5-メトキシクロマン-7-オール。
【0026】
下記の類縁体化合物は、キサントフモール、イソキサントフモールと同等のCB1受容体結合活性が、低濃度(10μg/mL)でも得られるとの観点から、特に好ましい例である:
(E)-1-(2-ヒドロキシ-4,6-ジメトキシ-3-(3-メチルブト-2-エニル)フェニル)-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロプ-2-エン-1-オン;
1-(2,4-ジヒドロキシ-3-イソペンチル-6-メトキシフェニル)-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン-1-オン;
2-(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメトキシ-8-(3-メチルブト-2-エニル)クロマン-4-オン;
5,7-ジメトキシ-2-(4-メトキシフェニル)-8-(3-メチルブト-2-エニル)クロマン-4-オン;2-4-ヒドロキシフェニル)-8-イソペンチル-5-メトキシクロマン-7-オール。
【0027】
本発明者らの検討によると、本発明者らが合成した類縁体化合物においては、フェノール性水酸基の水素を、メチル基に置換してゆくにつれ、CB1受容体結合活性が低下する傾向にある。式Iで表わされる化合物においては、少なくともR〜Rのいずれか一つがHであることが好ましい。一方で、キサントフモールの4'位の水酸基をメチル化した類縁体化合物 (Xn001)、又はイソキサントフモールの7位の水酸基をメチル化した類縁体化合物(Ix001)においては、CB1受容体結合活性は維持された。また、キサントフモール及びイソキサントフモール中の二重結合を還元しても(Xn005)、CB1受容体結合活性は維持された。他方、イソキサントフモールの8位のプレニル基をHに置換した化合物は、CB1受容体結合活性が低下する傾向にある。
【0028】
式Iで表される化合物の構造は、これまで知られているCB、例えば、THC(テトラヒドロカンナビノール)、CBN(カンナビノール)、CBC(カンナビクロメン)、CBD(カンナビジオール)、CBE(カンナビエルソイン)、CBG(カンナビゲロール)、CBDG(カンナビジバリン);及びCB1受容体アゴニスト、例えば、CP 55940: IUPAC名 2-[(1S,2R,5S)-5-hydroxy-2-(3-hydroxypropyl) cyclohexyl]-5-(2-methyloctan-2-yl)phenol、C24H40O3、分子量376.573)、Anandamide、R-(+)-Methananandamideのいずれとも全く異なる。
【0029】
本発明においては、化合物の調製方法は、特に限定されず、天然物から抽出してもよく、合成してもよい。これらの化合物の調整方法は、当業者にはよく知られており、必要に応じ、本明細書の実施例や後掲の文献(Tetrahedron 2006, 62, 6961-6966)等を参考にすることができる。
【0030】
本発明で、「CB1受容体アゴニスト」というときは、特別な場合を除き、CB1受容体に結合し、かつ細胞内cAMPの産生を抑制する作用を有する物質をいう。ある物質の、CB1受容体結合能及び細胞内cAMPの産生抑制能は、本明細書の実施例や、後掲の文献(J. Pharmacol. Exp. Ther., 1996, 278(2), 871-878)、Mol. Pharmacol., 1995, 48(3), 443-450)にしたがって、必要に応じ、既存のCB1受容体アゴニスト(例えば、CP 55940)の共存化での試験により、評価することができる。本発明でCB1受容体アゴニストというときは、具体的には、特に示した場合を除き、CP 55940共存化で評価した結果に基づき、CB1受容体結合活性のIC50が500μM以下である場合、好ましくは250μM以下である場合、より好ましくは125μM以下である場合、さらに好ましくは75μM以下である場合であって、かつCB1受容体アゴニスト活性(cAMPの産生抑制能)のIC50が5000μM以下である場合、好ましくは2500μM以下である場合、より好ましくは1250μM以下である場合、さらに好ましくは1000μM以下である場合をいう。本発明者らの検討によるキサントフモール、イソキサントフモール及び8−プレニルナリンゲニンのCB1受容体結合活性、及びCB1受容体アゴニスト活性は、本明細書の実施例に示されている。また、キサントフモールの類縁体化合物及びイソキサントフモールの類縁体化合物のCB1受容体結合活性は、本明細書の実施例に含まれている。
【0031】
CB1受容体アゴニストは食欲増進作用を有する。またCB1受容体アゴニストをラットに投与することにより、食欲増進作用をもたらすホルモン、グレリンが増加することが報告されている(前掲非特許文献1)。したがって、本発明の剤又は組成物は、食欲に関連した処置(発症リスクの軽減を含む予防、進行の停止又は緩和、対処的又は根本的な治療)のために、より具体的には食欲増進用に、健常者又は患者に対して用いることができる。食欲を増進することが好ましい疾患又は状態としては、疾患又は薬物治療に起因する食欲不振(エイズ患者に見られるHIV消耗性症候群における食欲不振、抗ガン剤治療による食欲不振等)、高齢、摂食障害(拒食症)を例示することができる。
【0032】
グレリンは、胃から分泌され、成長ホルモン(GH)分泌の調節に機能することが知られている。グレリンはまた、脳内の視床下部弓状核のニューロンでも産生され、またグレリン受容体は脳のさまざまな部位で発現しているので、GHの分泌刺激のほかにも種々の中枢生理機能にかかわっていると考えられており、また循環器系でも機能するとの報告もある。例えば、食欲不振や嘔吐症状、HIV消耗性症候群、神経症、うつ病などのなどに関与していることが知られている。したがって、本発明の組成物は、このようなグレリンの機能に関連した疾患又は状態の処置のためにも用いうる。なお、グレリンには、2つのメジャーな構造、active ghrelinと、脱オクタン酸化されたdesacyl ghrelinが存在するが、本発明で「グレリンの機能に関連した疾患又は状態」というときは、特別な場合を除き、active ghrelinとdesacyl ghrelinとのうち、少なくとも一方の機能に関連したものをいう。
【0033】
内因性CBの生理的役割は、食欲以外に、鎮痛、認識、記憶、嘔吐、眼内圧調節、炎症、免疫調節などに関与していると考えられている。したがって、本発明の剤又は組成物は、このような目的にも用いうる。
【0034】
なお、CB1受容体アゴニストとして、ドロナビノール(商品名マリノール)、ナビロン(商品名セサメット)が、化学合成医薬品として存在する(日本では未承認)。
本発明の剤及び組成物は、非依存性でありうる。本発明において、「非依存性」というときは、特に示した場合を除き、依存が形成されないか又は依存が形成されにくいことをいう。一般に、薬物に対する依存(症)とは、ある薬物の摂取を繰り返し行った結果、摂取を求める抑えがたい欲求が生じ、摂取を追い求める行動が優位となり、摂取がないと不快な精神的・身体的症状を生じる精神的・身体的・行動的状態のことをいい、このような状態のことを依存が形成されたというが、本発明においても同様の意味で用いている。
【0035】
本発明の剤及び組成物はまた、非向精神作用性でありうる。本発明において、「非向精神作用性」というときは、特に示した場合を除き、望ましくない向精神作用(例えば幻覚、幻聴)が表れないか又は表れにくいことをいう。
【0036】
本発明の剤又は組成物が非依存性であるか否か、及び/又は本発明の剤又は組成物が非向精神用性であるか否かは、CP 55940共存化で評価した結果に基づき、CB1受容体アゴニスト活性のIC50が50μM以上であること、好ましくは100μM以上であること、より好ましくは125μM以上であること、さらに好ましくは140μM以上であることにより、確認することができる。
【0037】
本明細書に記載されたキサントフモールの類縁体化合物及びイソキサントフモール類縁体化合物はいずれも、キサントフモール又はイソキサントフモールと同等のCB1受容体結合活性が認められたこと等から、キサントフモール、イソキサントフモールと同様、非依存性であり、及び/又は非向精神作用性の、CB1受容体アゴニストであると推察される。
【0038】
本発明の剤又は組成物は、好ましい一態様においては、組成物全重量に対して有効成分を0.01 %以上、好ましくは0.5 %以上、より好ましくは0.1 %、さらに好ましくは1 %以上含む。本発明において、有効成分の量をいうときは、特に示した場合を除き、有効成分足りうるすべての化合物の総量を指し、重量に基づく値である。
【0039】
本発明の剤又は組成物は、1日あたり、有効成分として0.0020 mg〜200 mg、好ましくは0.0040 mg〜100 mg、より好ましくは、0.020 mg〜20 mg摂取又は投与するために用いうる。本発明の剤又は組成物は、有効成分を含む抽出物、濃縮物、又は粗製物としては、1日あたり、0.10 mg〜10,000 mg、好ましくは0.20 mg〜5000 mg、より好ましくは、1.0 mg〜1000 mgを摂取又は投与するために用いうる。摂取又は投与は、単回でおこなってもよく、複数回(例えば2〜6回)に分けて行ってもよい。摂取又は投与の時間は、特に限定されず、食前、食間若しくは食後に、又は時間毎に行うことができる。
【0040】
本発明において「剤」又は「組成物」とは、少なくとも2成分を含むものをいう(なお、本明細書では「組成物」を例に説明することがあるが、その説明は、特別な場合を除き、「剤」にも当てはまる。)。組成物は、抽出物、濃縮物、反応生成物及び粗製物である場合がある。組成物は、食品組成物又は医薬組成物であり得る。本発明の食品組成物には、人が食用にする品物(狭義の食品)のほか、動物用食品(ペットフード)、飲料、調味料、サプリメント、機能性食品、特定保健用食品が含まれる。ただし、いずれの場合も、本発明の食品組成物の範囲からは、本出願時に公知の天然物(例えば、ホップ及びその乾燥物)、及び本願出願時に公知の既存の食品自体は除かれる。本明細書で医薬組成物というときは、ヒトのための医薬品及び医薬部外品、並びに動物用医薬品を含む。
【0041】
本発明の組成物は、食品又は医薬品として許容される種々の添加物を含んでもよい。このような添加剤の例としては、ビタミンE、ビタミンC等のビタミン類、ミネラル類、栄養成分、香料などの生理活性成分のほか、製剤化において配合される賦形剤、結合剤、乳化剤、緊張化剤(等張化剤)、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤、着色剤、凝固剤、コーティング剤等である。
【0042】
本発明の組成物が食品である場合、その形態は、錠剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、ドリンク剤(溶液剤及び懸濁液剤が含まれる)等の健康食品の形態とすることができ、清涼飲料、茶飲料、ヨーグルトや乳酸菌飲料等の乳製品、調味料、加工食品、デザート類、菓子(例えば、ガム、キャンディ、ゼリー)等の形態とすることもできる。本発明の食品組成物は、有効成分の含量がいずれの場合においても、ビール飲料又は発泡酒飲料以外の飲料の形態、又は飲料以外の形態(例えば、固形の剤)とすることができる。固形の剤である食品組成物は、有効成分の含量がいずれの場合においても、食品として許容される、附形剤、結合剤、コーティング剤、崩壊剤を含んでもよい。
【0043】
本発明の組成物が医薬品である場合、投与経路は特に限定されないが、経口であることが好ましい。経口投与に適した医薬組成物の形態には、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、溶液剤、懸濁液剤、シロップ剤などが含まれる。
【実施例】
【0044】
実施例1 CB1受容体結合能の評価
文献(J. Pharmacol. Exp. Ther., 1996, 278(2), 871-878)記載のようにして、ヒトCB1受容体を発現させたCHO細胞膜のホモジネート(タンパク量として25μg)を含むアッセイバッファー(250μL)中に、被験サンプル(各容量)と、CB1のリガンドとして[H]CP 55940(0.5nM)を添加して反応液を調製し、37℃で120分間インキュベートした。アッセイバッファーは、50mM Tris-HCl(pH7.4)、5mM MgCl、2.5mM EDTA、0.3%BSAとなるよう調製した。(CP 55940: IUPAC名 2-[(1S,2R,5S)-5-hydroxy-2-(3-hydroxypropyl) cyclohexyl]-5-(2-methyloctan-2-yl)phenol、C24H40O3、分子量376.573)
インキュベーション後、前述の反応液を、0.3%PEIに浸したガラス繊維フィルター(GF/B:Packard社製)で速やかに吸引濾過し、氷冷したバッファーで数回洗浄した。洗浄用のバッファーは、50mM Tris-HCl(pH7.4)、0.5%BSAとなるよう調製した。
【0045】
次に、ガラス繊維フィルターを乾燥させ、シンチレーションカクテル(Microscint 0:Packard社製)を加え、フィルター上に残存する放射活性をシンチレーションカウンター(Topcount:Packard社製)を用いて測定した。
【0046】
被験サンプル、及び [H]CP 55940の特異的結合量は、WIN 55212−2(10μM)存在下での非特異的結合量を差し引くことにより算出した。また、被験サンプルの結合能(%)は、被験サンプルと [H]CP 55940共存下で得られた放射活性を、[H]CP 55940単独で得られた放射活性で割り、100倍することにより算出した。
【0047】
実施例2 CB1受容体アゴニスト活性の評価
CB1受容体アゴニストがCB1受容体に結合することにより、細胞内cAMPの産生が抑制されることがわかっている。そこで、文献(Mol. Pharmacol., 1995, 48(3), 443-450)記載のようにして、ヒトのCB1受容体を発現させたCHO細胞を用いて、CB1受容体アゴニストのシグナルによって低下する細胞内cAMPを測定することにより、被験サンプルもしくは被験化合物のCB1受容体アゴニスト活性評価を行った。
【0048】
まず、細胞を20mM Hepes/NaOH(pH7.4)、138mM NaCl、5.33mM00 KCl、0.441mM KH2PO4、0.3mM Na2PO4、1.25mM CaCl2、0.5mM MgCl2、0.41mM MgSO4、0.1% グルコース、0.1% BSAを含むHBSSバッファーで懸濁した。懸濁した細胞は、96穴プレートに 1×10cells/wellとなるよう播いた。そこに被験サンプル(各容量)と、リファレンスアゴニスト(CP 55940:100nM)、コントロールとしてHBSSバッファーを添加し、室温で10分間インキュベートした。その後、細胞内のcAMP産生を誘導する為、アデニル酸シクラーゼ活性化剤であるフォルスコリン誘導体NKH477(3μM)を添加し、37℃で10分間インキュベートした。インキュベートした後、フルオレセンスアクセプター(D2-ラベルされたcAMP)と、フルオレセンスドナー(ユーロピウムでラベルされた抗cAMP抗体)を加えた。60分間、室温で静置した後、フルオレセンストランスファーを、マイクロプレートリーダー(Rubystar:BMG社製)で、励起波長λex=337nm、蛍光主波長λem=620nm、蛍光副波長λem=665nmの条件で測定した。cAMP産生量は、620nmで測定したシグナルを、665nmで測定したシグナルで割ることにより算出した。
結果は、リファレンスアゴニストである100nM CP 55940添加で得られた数値を100%として、被験サンプル各容量で得られた数値を割り、100倍することによって示した。
【0049】
実施例3 ホップにおけるCB1受容体結合活性の検出
乾燥したホップをペレット状にしたもの500 gを、3 Lのメタノールに浸漬して室温で2日間抽出して抽出液を得た。これを3回繰り返し、得られた抽出液を合わせ、メタノールを減圧留去することでメタノール抽出物(HL-M)151gを得た。
【0050】
さらにHL-Mを酢酸エチル 1.5 Lと水 1.5 Lで分配し、酢酸エチル層を減圧留去することで酢酸エチル可溶画分(HL-E)90gと、水可溶画分を得た。そのうち、水可溶画分をさらに、n-ブタノール可溶画分(HL-B)と、水可溶画分(HL-W)に分配し、それぞれ12gと50gを得た。
【0051】
HL-E、HL-B、HL-Wについて、実施例1に記載のCB1受容体結合活性を調べたところ、酢酸エチル可溶画分HL-Eに、CB1受容体結合活性が集中することがわかった(図1)。さらにHL-Eのうち10gをシリカゲルカラムクロマトグラフィにより分画し、HL-E-1〜6を、それぞれ、1475mg、2437mg、1399mg、578mg、1774mg、308mg得た。
【0052】
これら6画分について、実施例1に記載のCB1受容体結合活性を調べたところ、HL-E-4に活性が集中することがわかった(図2)。そこで、HL-E-4のうち296mgをさらにシリカゲルカラムクロマトグラフィに付し、ヘキサン-クロロホルム又はクロロホルム-メタノールの混合溶媒系で溶出を行った。得られた7画分のうち、クロロホルムで溶出した画分からキサントフモール 116mgを得た。キサントフモールのCB1受容体結合活性を実施例1に記載の方法にて調べたところ、濃度依存的なCB1受容体結合活性が認められた(図3)。
【0053】
実施例4 キサントフモールの単離・精製
乾燥したホップをペレット状にしたもの500 gを、3 Lのメタノールに浸漬して室温で2日間抽出して抽出液を得た。これを3回繰り返し、得られた抽出液を合わせ、メタノールを減圧留去することでメタノール抽出物151gを得た。これを酢酸エチル 1.5 Lと水 1.5 Lで分配し、酢酸エチル層を減圧留去することで酢酸エチル可溶画分 90gを得た。
【0054】
上記の酢酸エチル可溶画分80gを酢酸エチル1.5 Lと1M 水酸化ナトリウム水溶液 1.5 Lで分配した。水酸化ナトリウム水溶液可溶画分に 3M塩酸 600 mL を加えて酸性化したのちに、酢酸エチル 1.5 Lと分配し、この酢酸エチル層を減圧留去することで、酸性物質画分 9.1 gを得た。
【0055】
上記の酸性物質画分 9.1 g をシリカゲルカラムクロマトグラフィに付し、ヘキサン-酢酸エチル、酢酸エチル-メタノールの混合溶媒系で溶出を行った。得られた10画分のうち、ヘキサン-酢酸エチル (1:1) で溶出した画分に実施例1に記載のCB1受容体結合能がみられた。この画分 3.5 g をさらにシリカゲルカラムクロマトグラフィに付し、クロロホルム-メタノールの混合溶媒系で溶出を行った。得られた7画分のうち、実施例1に記載のCB1受容体結合能がみられたクロロホルム-メタノール (99:1) で溶出した画分 1.1 g を再度シリカゲルカラムクロマトグラフィに付し、ヘキサン-酢酸エチルの混合溶媒系で溶出を行った。得られた5画分のうち、実施例1に記載のCB1受容体結合能がみられたヘキサン-酢酸エチル (2:1) で溶出した画分からキサントフモール 815 mg を得た。
【0056】
実施例5 イソキサントフモールの単離・精製
キサントフモールよりイソキサントフモールを生成するために、氷冷下、キサントフモール 276 mgを 0.25M 水酸化ナトリウム水溶液 100 mLに溶かし、3時間攪拌した。3M塩酸 15 mLを加えて酸性化したのちに、酢酸エチル100 mLで3回抽出した。酢酸エチル層を合わせ、飽和重曹水 100 mL、飽和食塩水 100 mLで洗浄後、無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。濾過により硫酸ナトリウムを除去し、酢酸エチルを減圧留去した。その残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィに付し、ヘキサン-酢酸エチル、酢酸エチル-メタノールの混合溶媒系で溶出を行い、酢酸エチルで溶出した画分よりイソキサントフモール 228 mg を得た。
【0057】
実施例6 イソキサントフモールから8-プレニルナリンゲニンへの変換
イソキサントフモールは、摂取することにより、腸内細菌や肝臓での代謝酵素により、8-プレニルナリンゲニンへと変換されることがわかっている(前掲非特許文献1及びDrug Metabolism and Disposition, 2006, 34, 1152-1159)。そこで、文献(Tetrahedron 2006, 62, 6961-6966)記載の方法に従ってイソキサントフモールから 8-プレニルナリンゲニンへの変換を行った。
【0058】
【化4】

【0059】
実施例7 3成分についてのCB1受容体結合活性の評価
実施例1のようにしてキサントフモール、イソキサントフモール、8−プレニルナリンゲニンのCB1受容体結合活性を測定した。
【0060】
3成分におけるCB1受容体結合活性は、以下に示す通り、いずれの化合物も容量依存的なCB1受容体結合活性を示した。また、その活性の強さは、キサントフモール>イソキサントフモール>8−プレニルナリンゲニンの順となった(参照:表1、図3〜6)。
【0061】
【表1】

【0062】
実施例8 3成分についてのCB1受容体アゴニスト活性の評価
前述の通り、キサントフモール、イソキサントフモール、8−プレニルナリンゲニンの3成分に、容量依存的なCB1受容体結合活性が認められたことから、これら3成分について実施例2の方法によってCB1受容体のアゴニスト活性を調べた。結果は以下に示す通り、8-プレニルナリンゲニンでやや活性が落ちるものの(キサントフモール、イソキサントフモールの約1/6程度)、いずれの化合物も容量依存的なCB1受容体アゴニスト活性を示すことがわかった(参照:表2、図7〜9)。また、念のためCB1受容体アンタゴニスト活性を、同様のアッセイ法にて調べたが、CB1受容体アンタゴニスト活性は認められなかった。
【0063】
【表2】

【0064】
実施例9 3成分についてのCB1受容体結合力の評価(緩効性)
これら3成分と、公知のCB1受容体アゴニストCP 55940のCB1受容体結合活性の強さを、実施例1の方法にて比較した。
いずれの3成分も、公知のCB1受容体アゴニストに比べて、CB1受容体結合活性が弱いことがわかった(図10)。
【0065】
実施例10 3成分についてのCB1受容体アゴニスト活性の評価(非依存性)
これら3成分と、公知のCB1受容体アゴニストCP 55940のCB1受容体アゴニスト活性の強さを、実施例2の方法にて比較した。
【0066】
いずれの3成分も、公知のCB1受容体アゴニストに比べて、CB1受容体結合活性は弱いことがわかった(図11)。
<考察>
今回単離した3成分のin vitroでのCB1受容体アゴニスト活性は、いずれも既存のCB1アゴニスト化合物より作用がマイルドであった。8-プレニルナリンゲニンについては、血液脳関門を通過し、中枢に直接作用することが示唆されている(British J. Clinical Pharmacol., 2006, 62(3), 288-296)。キサントフモール、イソキサントフモールについても、基本骨格が類似していることから、血液脳関門を通過する可能性が考えられ、もし、血液脳関門を通過するとすれば、作用がマイルドであっても、十分に効果を示す可能性があると考えられる。また、今回単離された3成分のCB1受容体アゴニスト作用がマイルドであることの利点として、既存のCB1受容体アゴニストとは異なり、薬物依存性がつきにくく、その一方で食欲増進作用はもたらす効果が期待される。
【0067】
実施例11 種々の類縁体化合物の合成
実施例4に記載の方法で得たキサントフモール (61 mg) をアセトン (2 mL) に溶かし、炭酸カリウム (71 mg) 及び ヨウ化メチル (54 mg) を加えて室温にて撹拌した。7時間後、反応液を 1M 塩酸 (20 mL) に注ぎ、酢酸エチル (20 mL) で3回抽出した。酢酸エチル層を全て合わせて、飽和重曹水 (30 mL)、飽和食塩水 (30 mL) で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィに付し、ヘキサン-酢酸エチル (19:1) で溶出した画分より、Xn003 (5 mg) を、ヘキサン-酢酸エチル (9:1) で溶出した画分より Xn001 (10 mg) 及び Xn002 (6 mg) を得た。
【0068】
【化5】

【0069】
【数1】

【0070】
【化6】

【0071】
【数2】

【0072】
【化7】

【0073】
【数3】

【0074】
実施例4に記載の方法で得たキサントフモール (60 mg) を N,N-ジメチルホルムアミド (2 mL) に溶かし、水素化ナトリウム (60% 鉱油分散物) (24 mg) を加えて室温にて攪拌した。30 分後、さらにヨウ化メチル (73 mg) を加えて室温にて撹拌した。7時間後、反応液を 1M 塩酸 (20 mL) に注ぎ、酢酸エチル (20 mL) で3回抽出した。酢酸エチル層を全て合わせて、飽和重曹水 (30 mL)、飽和食塩水 (30 mL) で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィに付し、ヘキサン-酢酸エチル (19:1) で溶出した画分より Xn004 (29 mg) を得た。
【0075】
【化8】

【0076】
【数4】

【0077】
実施例4に記載の方法で得たキサントフモール (30 mg) を メタノール (2 mL) に溶かし、水酸化パラジウム炭素 (20%) (5 mg) を加えて、水素雰囲気下室温にて攪拌した。3時間後、反応液を濾過し、濾液を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィに付し、ヘキサン-酢酸エチル (3:1) で溶出した画分より、Xn005 (25 mg) を得た。
【0078】
【化9】

【0079】
【数5】

【0080】
実施例5に記載の方法で得たイソキサントフモール (60 mg) をアセトン (3 mL) に溶かし、炭酸カリウム (73 mg) 及び ヨウ化メチル (110 mg) を加えて50℃にて撹拌した。20時間後、反応液を 1M 塩酸 (20 mL) に注ぎ、酢酸エチル (30 mL) で3回抽出した。酢酸エチル層を全て合わせて、飽和重曹水 (50 mL)、飽和食塩水 (50 mL) で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィに付し、ヘキサン-クロロホルム (1:1) で溶出した画分より、Ix001 (36 mg) を、クロロホルムで溶出した画分より Ix002 (9 mg) を得た。
【0081】
【化10】

【0082】
【数6】

【0083】
【数11】

【0084】
【数7】

【0085】
実施例5に記載の方法で得たイソキサントフモール (16 mg) をテトラヒドロフラン (3 mL) に溶かし、ヨウ化カリウム (12 mg) 及び トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム (66 mg) を加えて60℃にて撹拌した。5時間後、反応液を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィに付し、ヘキサン-酢酸エチル (3:1) で溶出した画分より、Ix003 (2 mg)、Ix004 (2 mg) 及び 8-プレニルナリンゲニン (3 mg) をそれぞれ得た。
【0086】
【化12】

【0087】
【数8】

【0088】
【化13】

【0089】
【数9】

【0090】
4-ヒドロキシベンズアルデヒド (244 mg) をジクロロメタン (4 mL) に溶かし、氷浴上でクロロメチルメチルエーテル (0.39 mL) および N,N-ジイソプロピルエチルアミン (0.35 mL) を加えて撹拌した。5時間後、反応液を 1M 塩酸 (20 mL) に注ぎ、酢酸エチル (20 mL) で3回抽出した。酢酸エチル層を全て合わせて、飽和食塩水 (30 mL) で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィに付し、ヘキサン-酢酸エチル (9:1) で溶出した画分より化合物A (314 mg) を得た。
【0091】
2’,4’,6’-トリヒドロキシアセトフェノン (168 mg) をアセトン (3 mL) に溶かし、氷浴上で炭酸カリウム (276 mg) および クロロメチルメチルエーテル (0.23 mL) を加えて撹拌した。2時間後、反応液を 1M 塩酸 (20 mL) に注ぎ、酢酸エチル (20 mL) で3回抽出した。酢酸エチル層を全て合わせて、水 (30 mL)、飽和食塩水 (30 mL) で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィに付し、ヘキサン-酢酸エチル (9:1) で溶出した画分より化合物B (43 mg) を得た。
【0092】
化合物 B (20 mg) を N,N-ジメチルホルムアミド (2 mL) に溶かし、炭酸カリウム (32 mg) および p-トルエンスルホン酸メチル (45 mg) を加えて室温にて攪拌した。6時間後、反応液を 1M 塩酸 (15 mL) に注ぎ、酢酸エチル (15 mL) で3回抽出した。酢酸エチル層を全て合わせて、飽和重曹水 (20 mL)、飽和食塩水 (20 mL) で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィに付し、ヘキサン-酢酸エチル (4:1) で溶出した画分より化合物C (16 mg) を得た。
【0093】
化合物 A (13 mg) と化合物 C (8 mg) をエタノール (2 mL) に溶かし、室温下で 10% 水酸化カリウム水溶液 (0.2 mL) を加えて加熱還流した。18時間後、反応液を氷浴で冷却し、1M 塩酸 (15 mL) に注ぎ、酢酸エチル (15 mL) で3回抽出した。酢酸エチル層を全て合わせて、飽和重曹水 (20 mL)、飽和食塩水 (20 mL) で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィに付し、ヘキサン-酢酸エチル (1:1) で溶出した画分より化合物D (9 mg) を得た。
【0094】
化合物 D (9 mg) を10% 塩化水素メタノール溶液 (2 mL) に溶かし 50℃にて撹拌した。24時間後、反応液を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィに付し、ヘキサン-酢酸エチル (2:1) で溶出した画分より Xn006 (4 mg) を、ヘキサン-酢酸エチル (1:1) で溶出した画分より Ix006 (2 mg) をそれぞれ得た。
【0095】
Xanthohumol (30 mg) を メタノール (2 mL) に溶かし、水酸化パラジウム炭素(20%) (5 mg) を加えて、水素雰囲気下室温にて攪拌した。18時間後、反応液を濾過し、濾液を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィに付し、ヘキサン-酢酸エチル (4:1) で溶出した画分より、Ix005 (17 mg) を得た。
【0096】
【化14】

【0097】
【数10】

【0098】
【数11】

【0099】
【数12】

【0100】
【数13】

【0101】
【化15】

【0102】
【数14】

【0103】
【化16】

【0104】
【数15】

【0105】
【化17】

【0106】
【数16】

【0107】
実施例12 類縁体化合物についてのCB1受容体結合活性の評価
実施例11で得た類縁体化合物ついて、実施例1のようにして、CB1受容体結合活性を測定した。
【0108】
Xn004及びIx006を除くすべての化合物が100μg/mLにおいて、70%以上のCB1受容体結合活性を示した(参照:図12、表3)。
【0109】
【表3】

【0110】
実施例12 ビール及びキサントフモール(XH)投与による、血中ghrelin及びinsulin動態の測定
<目的・背景>
単離されたXHが、in vivoでも、CB1受容体アゴニスト様活性を示すかどうかについて、被験物質投与後のラット血中ghrelin濃度を測定することにより検討した。また、ghrelinとinsulinの分泌は、共に拮抗関係にあることが報告されている(Diabetes, 55, 2006, 3486-3493)。この為、insulinも同時に測定することとした。
【0111】
<試験材料>
被験物質
・コントロール(0.5%カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)水溶液): CMC-Na(ナカライテスク株式会社)20mgに対し、注射用水(株式会社大塚製薬工場)4mLの割合で溶かし、必要量調製した。
・ビール: ビールコンジェナー(Beer)(ビール製品中のアルコールと水分を飛ばして調製)400mg、CMC-Na 20mg、注射用水4mLの割合で溶かし、必要量調製した。
・XH: XH(実施例4記載の方法によりホップより抽出)40mg、CMC-Na 20mg、注射用水4mLの割合で溶かし、必要量調製した。
【0112】
使用動物
種 : SDラット(24匹)
性別 : 雄
週齢 : 入手時8週齢、使用時9週齢
供給源 : 日本クレア株式会社
馴化期間: 5〜6日間
飼料 : 基礎飼料CE-2(ペレット)にて飼育
試薬
・ネンブタール注射液(大日本住友製薬株式会社)
・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA・2Na)(和光純薬工業株式会社)
・アプロチニン、ウシ肺由来(生化学用)(和光純薬工業株式会社)
・6mol/L塩酸(6N)(ナカライテスク株式会社)
・生理食塩水(株式会社大塚製薬工場)
・ヘパリンナトリウム注射液(味の素株式会社)
・注射用ペニシリンGカリウム20万単位(明治製菓株式会社)
・外用消毒剤イソジン液(明治製菓株式会社)
・外用薬5%ヒビテン液(住友製薬株式会社)
測定キット
・Active Ghrelin ELISA Kit(株式会社三菱化学ヤトロン)
・Desacyl-Ghrelin ELISA Kit(株式会社三菱化学ヤトロン)
・超高感度ラットインスリン測定キット(株式会社森永生科学研究所)
【0113】
<試験方法>
本研究では、馴化期間(5〜6日間)を経たラットに、大腿動脈からカニューレを挿入し、経時的に採血できるよう施術したラットを用いた。
イントラメディックポリエチレンチュービングPE No.10(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)、イントラメディックポリエチレンチュービングPE No.20(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)、マンドリン針 0.15×20cm(スター)、マンドリン針 0.25×20cm(スター)、ライターを用いて、大腿動脈採血用のカニューレを下図のように作製した。カニューレを作製し終わった段階で、27Gシリンジ(先をやすりで削ったもの)を先端に刺し、液体が漏れることなく通過するかを確認した。
【0114】
【化14】

【0115】
施術は、以下の手順に従い実施した。施術で利用した器具は、全て外用薬5%ヒビテン液を適度に希釈した溶液に浸し、殺菌処理したものを用いた。
ネンブタール注射液を、腹腔から約1mL/kg体重の割合で注射し、麻酔下で処置をした。頭頂部と、右大腿部の体毛を、毛刈りバサミと剃刀で剃り、頭頂部と右大腿部の皮膚を、ハサミ(もしくは剃刀)で切開した。続けて皮下組織を切開し、ステン線(星盛堂医療器工業)にカニューレをつなげ、ステン線を皮下に通して右大腿部から頭頂部へと、カニューレを通した。カニューレ内にはヘパリンナトリウム注射液(生理食塩水で2倍希釈したもの)を満たしておき、頭頂部側に27Gシリンジ(先端を削ったもの)を刺しておいた。右大腿部の結合組織をピンセットで剥離し、大腿動脈を分離した。大腿動脈の下にサージカルシルク 18''(45cm)A-182 (ジョンソン&ジョンソン株式会社)を2本通し、それぞれを軽く結んだ。心臓側をクレンメで止め、末梢側の糸を結紮し、末梢側の結紮部位に近い位置に血管鋏で切れ込みを入れた。
【0116】
【化15】

【0117】
カニューレ(PE No.10側)を挿入し、クレンメをはずして更にカニューレを奥まで挿入した。次に、心臓側の血管を結紮した。カニューレを玉の所まで入れ、心臓側の糸で血管とカニューレを共に結紮した。
【0118】
【化16】

【0119】
末梢側の糸をカニューレに結びつけた。抹消側の糸と、心臓側の糸同士を結んだ。大腿部と頭頂部をそれぞれ針付きのサージカルシルク1/2Circle 23mm 632G(ジョンソン&ジョンソン株式会社)で縫い合わせた。頭部より出ているカニューレを鉗子で止め、適当な長さで切断し、PE-20用のストッパーで止めた。縫合した傷口をイソジンで消毒し、さらに、大腿筋に注射用ペニシリンGカリウムを4000単位/匹となるよう生理食塩水で希釈したものを、注射した。
【0120】
施術した動物は、回復期間として、2日間、1匹ずつ、無拘束下で通常飼育した後、約17時間の絶食処置(水は自由摂取)を行い、下記の手順で被験物質を投与、採血した。
頭部から出ているカニューレを鉗子で止め、ストッパーをはずした後、頭部-PE-20-50用ジョイントを挿入し、23Gシリンジ(先端を削ったもの)をつけ、カニューレ内を、ヘパリンナトリウム注射液(生理食塩水で10倍希釈したもの)で満たした。シリンジを引いてカニューレに血液が戻ってくることを確認し、ヘパリンの混入している血液を50μL程度除去した。その後、続けて投与前(0時間)の検体を採取した(350μL)。採血後は、ヘパリンナトリウム注射液(生理食塩水で10倍希釈したもの)をカニューレ内に満たし(約200μL)、カニューレ内で血液が固まらないよう処置した。採取した検体のうち、ghrelin測定用の血液(200μL)を、EDTA・2Na、及びアプロチニンが、最終濃度1.25mg/mL、500KIU/mLとなるよう、生理食塩水で調製された溶液に添加し、すぐに転倒混和した。その後、1500G、4℃、15分の条件で遠心分離し、最終濃度が0.1mol/Lになるように調製した塩酸溶液に上清を加え、転倒混和した。残りの検体(150μL)は、insulin測定用の血液として、微量血液収容容器ミニコレクトチューブ(積水メディカル株式会社)に添加し、転倒混和した。その後、3000G、室温、10分の条件で遠心分離し、上清を採取した。血液処理が完了した検体は、全て、測定時まで−80℃で保存した。
【0121】
被験物質投与前(0時間)の検体を採取した後、順次、被験物質を、10mL/kgの容量で、動物に経口投与した。その後、前述の採血、及び血液処理の手順に従い、投与後0.5、1、2、3、4時間のポイントで採血し、検体を処理した。
血中ghrelin、及びinsulinの測定は、市販のELISAキットで推奨されている方法にて測定した。
【0122】
<結果>
Ghrelinには、2つのメジャーな構造、active ghrelinと、脱オクタン酸化されたdesacyl ghrelinが存在する(Biochemical and Biophysical Research Communications, 279(3), 2000, 909-913)。このことから、総 ghrelin量の変動を知る為に、active ghrelin、desacyl ghrelinの2項目を測定した。
【0123】
Active ghrelinの変化量は、beer投与群3時間のポイントで上昇傾向が見られた(v.s.コントロール群 30.15fmol/mL)(参照:図13)。
一方、desacyl ghrelinの変化量は、beer投与群0.5時間のポイントで、コントロール群よりも有意に減少することがわかった(v.s.コントロール群 188.97fmol/mL)。また、XH投与群においては、投与後1時間でピークを迎え(v.s.コントロール群 253.39fmo/mL)、その後4時間まで、コントロール群よりも高いレベルで推移することがわかった。投与前のレベルまで戻るのに、およそ3〜4時間かかった(参照:図14)。
【0124】
Total ghrelin(active ghrelinとdesacyl ghrelinを合わせた総分泌量)の変化量はdesacyl ghrelinの結果をほぼ反映する形となった(参照:図15)。
Inuslinの変化量は、beer投与群0.5時間のポイントで、顕著に上昇することがわかった(v.s.コントロール群 0.36ng/mL)。この結果は、beerに糖分が含まれる為、投与後血糖値が上昇すると共に、insulin分泌が促進されたものと考えられる。また、insulinとghrelinが拮抗関係にあることから、投与後0.5時間でinsulinが急激に上昇したことで、同total ghrelinが有意に低下したものと推察される(参照:図16)。また、beer投与群1、3、4時間のポイント、及びXH投与群2時間のポイントでも、コントロール群に比べて、insulinの変化量は上昇傾向を示すことがわかった(beer投与群1、3、4時間;v.s.コントロール群 0.22ng/mL、0.16ng/mL、0.25ng/mL、XH投与群2時間;v.s.コントロール群 0.12ng/mL)。
【0125】
<考察>
コントロール群で、total ghrelinが経時的に減少していくのは、胃壁へのボリューム負荷がかかったことにより、摂食後と同じようなシグナル伝達が行われたのではないかと考えられる。今回、XH投与により、摂食シグナルともいえるinsulinに顕著な変動はみられなかった。一方で、ghrelin動態のみが変動するという点で、リーズナブルなデータであると考えられる。その理由は、カロリー負荷ではなく、ボリューム負荷による試験であることを考えると、insulinは変動すべきではないからである。また、XHがghrelinのみを単独で動かす可能性も考えられる。Ghrelinは、これまでに知られている抹消性摂食調節ホルモンの中で、唯一摂食促進作用を有するホルモンである(第124回日本医学会シンポジウム、肥満の科学、45-52)。本検討では、XHが、数ある摂食調節ホルモンの中でも、摂食促進に働くghrelin分泌に影響を及ぼした点で、非常に有用な成分であることが示唆された。また、in vivoの試験においても、CB1受容体アゴニスト様活性を惹起することが示された。
【0126】
実施例13 類縁体化合物のCB1受容体結合活性の評価
実施例1の方法にて、Xn001、Xn005、Ix001、及びIx002について、CB1受容体結合活性を測定した。いずれの化合物も、濃度依存的なCB1受容体結合活性を示し、そのIC50値は、5.86μg/mL、6.73μg/mL、16.8μg/mL、11.6μg/mLであることがわかった(図17)。
【0127】
実施例14 ホップエキスの食欲増進作用の確認(in vivo摂餌量測定試験)
CB1受容体アゴニストは、摂食促進作用を有することが広く知られている。よって、ラットに、XH、IXH、及び8-PNを単離する前の粗抽出物である、ホップエキスを投与した後、摂餌量、及び飲水量を測定することで、CB1受容体アゴニスト作用の有無を検討した。
【0128】
<試験材料>
被験物質
・コントロール(0.5%カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)水溶液): CMC-Na(ナカライテスク株式会社)20mgに対し、注射用水(株式会社大塚製薬工場)4mLの割合で溶かし、必要量調製した。
・ホップエキス: ホップエキス(ペレット状にした乾燥ホップ 5 kgを、45 Lのメタノールに浸漬し、室温で2日間抽出して抽出液を得た。これを3回繰り返し、得られた抽出液を合わせ、メタノールを減圧留去することでホップエキス1.5 kg を得た。)200mg、CMC-Na 20mg、注射用水4mLの割合で溶かし、必要量調製した。
【0129】
使用動物
種 : SDラット(17匹)
性別 : 雄
週齢 : 入手時7週齢、使用時8週齢
供給源 : 株式会社オリエンタルバイオサービス
馴化期間: 7日間
飼料 : 基礎飼料CE-2(ペレット)にて飼育
【0130】
<試験方法>
あらかじめ体重を測定したラットに、各濃度に調製済みの被験物質を、単回経口投与した。投与前を0時間として、投与後0.5、2、3、4時間後の摂餌量、及び飲水量を測定した。
なお、摂餌量、飲水量は、体重100g当たりの摂取量として算出した。
【0131】
<結果>
ホップエキス投与群4時間のポイントで、コントロール群に比べて、摂餌量の上昇傾向が認められた(v.s.コントロール群 0.444g/100g body weight)(図18)。また、ホップエキス投与群3時間、及び4時間のポイントで、コントロール群に比べて有意な飲水量の上昇が認められた(ホップエキス投与群3、4時間;v.s.コントロール群 0.745g/100g body weight、0.715g/100g body weight)(図19)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iで表わされる化合物
【化1】

(式中:
実線と破線とで表わされた結合(a)及び(b)は、それぞれ独立に、単結合又は二重結合であり;
は、H、置換されていてもよいC1〜6アルキル、又は置換されていてもよいC1〜6アシルであり;
は、H、又は置換されていてもよいC1〜6アルキルであるか;又はORにおいて、Oはそれが結合する炭素原子とともに6員環を構成し、Rは存在せず;
、及びRは、それぞれ独立に、H、置換されていてもよいC1〜6アルキル、又は置換されていてもよいC1〜6アシルであり;
、及びRは、一方が、H、又は置換されていてもよいC1〜6アルキル、又はプレニル、ゲラニル、若しくはファルネシルであり、他方が、置換されていてもよいC1〜6アルキル、又はプレニル、ゲラニル、若しくはファルネシルであり;
Xは、H又はOである。)の少なくとも一を有効成分として含む、食欲増進用の、医薬組成物又は食品組成物。
【請求項2】
〜Rの少なくとも一つが、Hである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
が、H、又はメチルであり;
が、Hであり、このとき実線と破線で表された結合(a)が、二重結合であり;又はORにおいて、Oはそれが結合する炭素原子とともに6員環を構成し、Rは存在せず、このとき実線と破線とで表わされた結合(a)が、単結合であり;
、及びRが、Hである、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
式Iで表わされる化合物が、キサントフモール、イソキサントフモール、8−プレニルナリンゲニン、(E)-1-(2-ヒドロキシ-4,6-ジメトキシ-3-(3-メチルブト-2-エニル)フェニル)-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロプ-2-エン-1-オン、1-(2,4-ジヒドロキシ-3-イソペンチル-6-メトキシフェニル)-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン-1-オン、2-(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメトキシ-8-(3-メチルブト-2-エニル)クロマン-4-オン、5,7-ジメトキシ-2-(4-メトキシフェニル)-8-(3-メチルブト-2-エニル)クロマン-4-オン、又は2-4-ヒドロキシフェニル)-8-イソペンチル-5-メトキシクロマン-7-オールである、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
式Iで表わされる化合物
【化2】

(式中:
実線と破線とで表わされた結合(a)及び(b)は、それぞれ独立に、単結合又は二重結合であり;
は、H、置換されていてもよいC1〜6アルキル、又は置換されていてもよいC1〜6アシルであり;
は、H、又は置換されていてもよいC1〜6アルキルであるか;又はORにおいて、Oはそれが結合する炭素原子とともに6員環を構成し、Rは存在せず;
、及びRは、それぞれ独立に、H、置換されていてもよいC1〜6アルキル、又は置換されていてもよいC1〜6アシルであり;
、及びRは、一方が、H、又は置換されていてもよいC1〜6アルキル、又はプレニル、ゲラニル、若しくはファルネシルであり、他方が、置換されていてもよいC1〜6アルキル、又はプレニル、ゲラニル、若しくはファルネシルであり;
Xは、H又はOである。)の少なくとも一を含む、CB1受容体アゴニスト剤。
【請求項6】
〜Rの少なくとも一つが、Hである、請求項5記載の剤。
【請求項7】
が、H、又はメチルであり;
が、Hであり、このとき実線と破線で表された結合(a)が、二重結合であり;又はORにおいて、Oはそれが結合する炭素原子とともに6員環を構成し、Rは存在せず、このとき実線と破線とで表わされた結合(a)が、単結合であり;
、及びRが、Hである、請求項6記載の剤。
【請求項8】
式Iで表わされる化合物が、キサントフモール、イソキサントフモール、8−プレニルナリンゲニン、(E)-1-(2-ヒドロキシ-4,6-ジメトキシ-3-(3-メチルブト-2-エニル)フェニル)-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロプ-2-エン-1-オン、1-(2,4-ジヒドロキシ-3-イソペンチル-6-メトキシフェニル)-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン-1-オン、2-(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメトキシ-8-(3-メチルブト-2-エニル)クロマン-4-オン、5,7-ジメトキシ-2-(4-メトキシフェニル)-8-(3-メチルブト-2-エニル)クロマン-4-オン、又は2-4-ヒドロキシフェニル)-8-イソペンチル-5-メトキシクロマン-7-オールである、請求項7記載の剤。
【請求項9】
非依存性及び/又は非向精神作用性である、請求項5〜8のいずれか1項記載の剤。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項に定義された式Iで表される化合物を含む、グレリン分泌促進剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−140477(P2011−140477A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47405(P2010−47405)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年12月10日 社団法人日本薬学会 医薬化学部会主催の「創薬懇話会2009 in 岐阜」にて「講演要旨集」をもって発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】