説明

CD20認識モノクローナル抗体、ハイブリドーマ、CD20の検出方法および診断方法

【課題】C末端細胞質内領域に遺伝子変異を有するCD20分子も含めて、より広範なCD20分子を認識することができるCD20認識モノクローナル抗体を提供する。
【解決手段】CD20のN末端細胞質内領域を認識するCD20認識モノクローナル抗体である。このCD20認識モノクローナル抗体を用いることにより、C末端細胞質内領域に遺伝子変異を有するCD20分子も含めて、より広範なCD20分子を認識することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD20分子を認識するCD20認識モノクローナル抗体、そのCD20認識モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、そのCD20認識モノクローナル抗体を用いるCD20の検出方法および診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
正常B細胞あるいはB細胞性リンパ腫細胞の細胞表面に発現するCD20分子は、近年抗体療法の標的分子として利用されている。最近になって、CD20分子のC末端細胞質内領域に遺伝子変異を獲得したリンパ腫細胞は、抗CD20モノクローナル抗体医薬の一つであるリツキシマブ(rituximab)を併用した化学療法に対して耐性を示すことが示されている(非特許文献1参照)。
【0003】
一方、現在まで、CD20分子に対する病理組織化学染色はほぼ寡占的にL26と命名されたモノクローナル抗体が用いられてきた。この抗体はCD20分子の細胞質内領域を認識することが報告されていた(非特許文献2参照)が、そのエピトープの詳細に関する報告は現在までされていない。
【0004】
また、現在までにCD20分子を認識する各種のモノクローナル抗体が市販されているが、C末端細胞質内領域に遺伝子変異を有するCD20分子を認識することは困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Clin Cancer Res., 2009 Apr 1; 15(7): pp. 2523-30
【非特許文献2】Am J Pathol., 1990 Jun; 136(6): pp. 1215-22
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、C末端細胞質内領域に遺伝子変異を有するCD20分子も含めて、より広範なCD20分子を認識することができるCD20認識モノクローナル抗体、そのCD20認識モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、そのCD20認識モノクローナル抗体を用いるCD20の検出方法および診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、CD20のN末端細胞質内領域を認識するCD20認識モノクローナル抗体である。
【0008】
また、前記CD20認識モノクローナル抗体において、前記N末端細胞質内領域におけるアミノ酸配列23番目から36番目のアミノ酸残基を含むエピトープを認識するCD20認識モノクローナル抗体であることが好ましい。
【0009】
また、本発明は、前記CD20認識モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマである。
【0010】
また、本発明は、前記CD20認識モノクローナル抗体を用いる抗原抗体反応を利用してCD20を検出するCD20の検出方法である。
【0011】
また、前記CD20の検出方法において、前記検出する方法が、免疫組織化学染色法であることが好ましい。
【0012】
また、前記CD20の検出方法において、前記検出する方法が、ウエスタンブロッティング法であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、前記CD20認識モノクローナル抗体を用いる抗原抗体反応を利用して、CD20陽性のB細胞性リンパ腫およびB細胞性白血病の診断を行う診断方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、CD20のN末端細胞質内領域を認識することが可能なCD20認識モノクローナル抗体により、C末端細胞質内領域に遺伝子変異を有するCD20分子も含めて、より広範なCD20分子を認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】B細胞におけるCD20分子の構造を示す概略模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係るCD20認識モノクローナル抗体およびL26によるCD20分子の認識部位の一例を示す概略模式図である。
【図3】本発明の実施例におけるL26抗体のエピトープ探索における染色結果を示す図である。
【図4】本発明の実施例における21種類のハイブリドーマのウエスタンブロッティング法による評価結果を示す図である。
【図5】本発明の実施例における病理標本の組織免疫染色の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0017】
<CD20認識モノクローナル抗体>
図1に、B細胞におけるCD20分子の構造を示す概略模式図を示す。図1に示すように、CD20分子50は、細胞膜52に対してN末端側から、細胞質内72に位置するN末端細胞質内領域(cytoplasmic)54、細胞膜52内に位置する細胞膜内領域(TM)56、細胞膜外74に位置する細胞膜外領域(extracellular)58、細胞膜内領域60、細胞質内領域62、細胞膜内領域64、細胞膜外領域66、細胞膜内領域68、C末端細胞質内領域70の順に構成されている。CD20分子50において、抗CD20モノクローナル抗体医薬の一つであるリツキシマブは、通常、細胞膜外領域66におけるリツキシマブ認識領域76を認識する。
【0018】
本発明者らが、CD20分子へのL26抗体の抗体結合位置を実験的に特定したところ、図2に示すように、CD20分子のC末端細胞質内領域70におけるアミノ酸配列264番目から281番目の領域78内の領域を認識していることが明らかになり(実施例の欄参照)、理論上、C末端細胞質内領域70に遺伝子変異を有するCD20分子の大部分を認識できないことが判明した。そこで本発明者らは、このようなC末端細胞質内領域70に遺伝子変異を有するCD20分子も含めて、より広範なCD20分子を認識することができる、CD20分子のN末端細胞質内領域を認識するモノクローナル抗体を確立した。
【0019】
本発明の実施形態に係るCD20認識モノクローナル抗体は、CD20分子のN末端細胞質内領域を認識して結合しうる抗体分子である。本発明の実施形態に係るCD20認識モノクローナル抗体は、CD20分子のN末端細胞質内領域54を認識して結合しうるものであればよく、特に制限はない。CD20認識モノクローナル抗体が認識する認識部位は、N末端細胞質内領域54のうち、N末端になるべく近い方がよく、かつ抗体が生成しやすい部位であることが望ましい。
【0020】
ここで、「N末端細胞質内領域」とは、CD20分子のアミノ酸配列1番目から64番目までの領域(MTTPRNSVNGTFPAEPMKGPIAMQSGPKPLFRRMSSLVGPTQSFFMRESKTLGAVQIMNGLFHI)のことをいう。「C末端細胞質内領域」とは、CD20分子のアミノ酸配列210番目から297番目までの領域(GIVENEWKRTCSRPKSNIVLLSAEEKKEQTIEIKEEVVGLTETSSQPKNEEDIEIIPIQEEEEEETETNFPEPPQDQESSPIENDSSP)のことをいう。
【0021】
本実施形態に係るCD20認識モノクローナル抗体は、この「N末端細胞質内領域」において、抗体が生成しやすい等の点で、アミノ酸配列23番目から36番目のアミノ酸残基(MQSGPKPLFRRMSS)(図2の領域80に相当)、43番目から52番目のアミノ酸残基(配列:SFFMRESKTL)を含むエピトープを認識するCD20認識モノクローナル抗体であることが好ましく、その中でも23番目から36番目のアミノ酸残基(MQSGPKPLFRRMSS)を含むエピトープを認識するCD20認識モノクローナル抗体であることが特に好ましい。
【0022】
本実施形態に係るCD20認識モノクローナル抗体は、ヒト型抗体またはヒト抗体であってもよい。
【0023】
<CD20認識モノクローナル抗体、ハイブリドーマの作製方法>
本実施形態に係るCD20認識モノクローナル抗体は、当該分野で周知の各種の方法で製造することができる。例えば、CD20分子のN末端細胞質内領域における所望の領域のアミノ酸配列のN末端にシステイン(Cys)を配置した合成ペプチドを作製し、末端システイン残基にKLH等のキャリアタンパク質を結合(コンジュゲーション)したものを、必要に応じてフロイント(Freund)の完全アジュバント等のアジュバントと混合し、ラット、マウス、ウサギ等の哺乳動物の皮下等に投与する。投与は、同じ抗原を用いて所定の間隔で複数回行ってもよい。最終感作を行った後、所定の間隔をおいてから、抗体を産生した哺乳動物より、脾臓細胞等の抗体産生細胞を採取し、常法に従いマウス骨髄腫細胞等との細胞融合を実施してハイブリドーマを作製する。なお、抗体の産生は、投与した哺乳動物より血清を採取し、免疫に用いた合成ペプチドを用いて酸素結合免疫吸着測定法等により確認することができる。ハイブリドーマはクローニングを実施し、培養上清を用い、免疫に用いた合成ペプチドを用いて酸素結合免疫吸着測定法を実施して、候補細胞を選択してハイブリドーマを確立することができる。
【0024】
抗原の哺乳動物1匹当たりの投与量は、例えば、アジュバントを用いないときは0.5mg〜1mgであり、アジュバントを用いるときは0.05mg〜0.1mgである。
【0025】
アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(CFA)、フロイント不完全アジュバント(IFA)、合成サーファクタント、リポソーム等が挙げられる。
【0026】
免疫は、主として静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内等に注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、例えば、数日から数週間間隔、好ましくは2週間〜3週間間隔で、1〜5回、好ましくは2〜4回免疫を行う。そして、例えば、最終の免疫日から1〜7日後、好ましくは1〜5日後に抗体産生細胞を採取する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞、骨髄細胞等が挙げられるが、脾臓細胞が好ましい。
【0027】
細胞融合ハイブリドーマを得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、例えば、マウスなどの動物の一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。ミエローマ細胞としては、例えば、マウス骨髄腫細胞等が挙げられる。
【0028】
抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合は、例えば、HAT培地等の培地中で、1〜10×10個/mLの抗体産生細胞と1〜5×10個/mLミエローマ細胞とを混合し、細胞融合促進剤の存在下で融合反応を行う。抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞比は、例えば、2:1〜10:1である。細胞融合促進剤として、重量平均分子量1,000〜6,000のポリエチレングリコール等を使用することができる。また、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させてもよい。
【0029】
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。細胞懸濁液を例えば限界希釈等の方法により培養を行う。培養により生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。そして、増殖したハイブリドーマの培養上清中に、目的とする抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法により行えばよく、特に限定されるものではない。例えば、ハイブリドーマとして生育したウエルに含まれる培養上清の一部を採集し、酸素結合免疫吸着測定法、フローサイトメトリー法、イムノブロット法等によってスクリーニングすればよい。陽性の融合細胞のクローニングを、限界希釈法等により行い、モノクローナル抗体産生細胞であるハイブリドーマを樹立することができる。
【0030】
樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法としては、通常の細胞培養法、腹水形成法等を用いればよい。細胞培養法においては、例えば、ハイブリドーマをRPMI基本培地等の培地中で、30℃〜38℃、好ましくは37℃の培養条件で3日〜60日間培養し、その培養上清からモノクローナル抗体を取得することができる。
【0031】
腹水形成法の場合は、例えば、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種系動物の腹腔内にハイブリドーマを1〜2×10個投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、1〜2週間後に腹水を採集して、モノクローナル抗体を取得することができる。
【0032】
モノクローナル抗体は必要に応じて精製を行ってもよい。精製法としては、例えば、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィ、ゲル濾過、アフィニティクロマトグラフィ等の方法が挙げられ、これらの方法を適宜選択して、またはこれらを組み合わせることにより精製すればよい。
【0033】
<CD20の検出方法>
本実施形態に係るCD20認識モノクローナル抗体を用いる抗原抗体反応を利用して、CD20を検出することができる、すなわち、測定対象試料がCD20(タンパク質、DNA、RNA)を含むかどうかを評価することができる。測定対象試料としては、細胞、組織、血液、リンパ液および骨髄液等である。検出方法としては、免疫組織化学染色法、ウエスタンブロッティング法(Western Blotting法)、ELISA(Enzyme−Linked ImmunoSorbentAssay)法、RIA(RadioImmunoAssay)法等が挙げられる。
【0034】
免疫組織化学染色法は、例えば、ホルマリン固定パラフィン包埋切片等に対して本実施形態に係るCD20認識モノクローナル抗体を用いて抗原抗体反応を行い、発色操作により可視化を行う方法である。本実施形態に係るCD20認識モノクローナル抗体を用いることにより、C末端細胞質内領域に遺伝子変異を有するCD20分子も含めて、より広範なCD20分子に特異的な、良好な染色像を得ることができる。
【0035】
ウエスタンブロッティング法は、例えば、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動等の電気泳動によって試料を分離して、膜に転写し、本実施形態に係るCD20認識モノクローナル抗体を用いて抗原抗体反応を行い、発色操作により可視化を行う方法である。本実施形態に係るCD20認識モノクローナル抗体を用いることにより、C末端細胞質内領域に遺伝子変異を有するCD20分子も含めて、より広範なCD20分子を良好に検出することができる。
【0036】
本実施形態に係るCD20認識モノクローナル抗体を用いるCD20の検出方法は、びまん性大細胞型リンパ腫、バーキットリンパ腫、濾胞性リンパ腫、MALTリンパ腫等のB細胞性リンパ腫である非ホジキン悪性リンパ腫等の固形悪性腫瘍(リンフォーマ)や、血液浮遊系の悪性腫瘍の一つであるB細胞性白血病(ロイケミア)の臨床検査、診断等に用いることができる。
【0037】
本実施形態に係るCD20認識モノクローナル抗体は、ヒト型抗体またはヒト抗体とすることにより、B細胞性リンパ腫等の治療用の抗体とすることができ、現行の治療用の抗CD20モノクローナル抗体医薬の一つであるリツキシマブより治療効果の高い、CD20陽性のB細胞性リンパ腫等の治療用免疫治療薬が得られる可能性がある。
【0038】
本実施形態に係るCD20認識モノクローナル抗体は、L26抗体等のモノクローナル抗体等との併用により、リツキシマブ治療等に対する不可逆的な耐性を示す症例を早期に検出することを可能にし、リツキシマブによる治療等の継続の是非、あるいは将来的に導入が見込まれるより低い発現量の抗原に対して効果が期待される新規抗体医薬への治療方針転換を判断するための重要な知見を提供することが期待される。
【実施例】
【0039】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
<L26抗体のエピトープ探索>
ヒトBurkittリンパ腫細胞株Daudi細胞から、RNA抽出試薬(Invitrogen社 TRIzol)を用いてtotalRNAを抽出した。本RNAを鋳型に、逆転写反応によりcDNAを調製し、ヒトCD20遺伝子のタンパク質コード領域の全長を挟むように設計されたオリゴDNAプライマーを用いて、ヒトCD20遺伝子のタンパク質コード領域の全長(297アミノ酸をコード)を含む配列をPCR法により増幅した。逆転写反応、PCR反応はTakara社、 PrimeScript RT−PCRキットを使用した。これにより得られたDNAをレトロウイルスベクター(Takara社 pDON−AIベクター)に制限酵素を用いてクローニングした。DNA配列解析装置(Applied Biosystems社 Genetic Analyser 3130)を用いて、導入した遺伝子配列を確認後、このヒトCD20遺伝子のタンパク質コード領域の全長を導入したベクターを鋳型に、Stratagene社 Mutagenesis kitを使用し、CD20アミノ酸配列281番目のグルタミン酸、263番目のグルタミン酸、245番目のグルタミン酸、228番目のバリン、210番目のグリシン残基の直後にそれぞれ終止コドンができるように遺伝子変異を挿入し、C末端欠失変異ベクター5種類を作製した。
【0041】
野生型ヒトCD20全長、および5種類のCD20欠失変異株をコードする遺伝子を導入したベクター、および外来遺伝子を導入しないmockベクターの7種類のレトウイルスベクターを使用し、パッケージング細胞株G3Thi(Takara社)を用いてレトロウイルスを産生させた。これらの7種類のレトロウイルスを用いて、CD20タンパク質を発現しないヒト骨髄腫細胞株KMS12PE細胞に感染させ、C末端細胞質内領域の長さの異なる6種類のCD20を発現する細胞株とmockベクターを導入した陰性対照細胞株を作製した。
【0042】
これら7種類の細胞株および陽性対照細胞株として、ヒトBurkittリンパ腫細胞株Raji細胞を、75mMの塩化カリウム水溶液で膨潤後、コラーゲンIでコートされたカバーグラス(IWAKI社)にマウントした。細胞標本は3.7%ホルムアミド/0.5%グルタルアルデヒド溶液で固定、0.2% Triton X−100溶液で浸透化処理を施した後、L26抗体(DAKO社)溶液を添加し、抗原抗体反応を実施した。標本を0.2% Triton X−100溶液で洗浄後、Alexa Fluor488で標識された抗マウスIgGヤギ抗体(Invitrogen社)で2次染色を実施した。標本は0.2% Triton X−100溶液で洗浄後、5μg/mLのDAPI溶液で核染色を実施した。これらの標本について、共焦点顕微鏡(オリンパス社)を用いて観察を行った。結果を図3に示す。L26抗体による特異的な染色シグナルが、野生型CD20分子、281番目のグルタミン酸残基の直後に終止コドンを挿入したCD20分子を発現する細胞、および陽性対照細胞にのみ認められたことから、L26抗体のCD20分子上の結合位置が、アミノ酸配列264番目〜281番目の間にあることが強く示唆された。
【0043】
<CD20認識モノクローナル抗体の作製>
CD20(配列番号1)のN末端細胞質内領域(アミノ酸23〜36番目)のアミノ酸配列のN末端にシステイン(Cys)を配置したCMQSGPKPLFRRMSS(配列番号2)と相同な合成ペプチドを作製し、末端システイン残基にKLHを結合したものを、Freundの完全アジュバントと混合し、3匹のBALB/Cマウスの皮下に投与した。具体的には、0.5mg/mLに調製したKLM結合合成ペプチドを等量のフロイント完全アジュバントと混合してエマルジョンを形成させたものを、0.05mLずつマウスの背部皮下に投与した。マウスは同じ抗原で2週間間隔にて、さらに4回感作(最終感作は静注)を行った。最終感作から4日後、各マウスより血清を採取し、免疫に用いた合成ペプチドを用いて酸素結合免疫吸着測定法にて、抗体の産生を確認した。抗体を産生したマウスより、脾臓細胞を採取し、常法に従い、マウス骨髄腫細胞との細胞融合を実施し、ハイブリドーマを作製した。具体的には、上記の脾臓細胞1×10個と、マウスミエローマP3U1細胞2×10個とを混合した後、1,000rpm、10分間の遠心分離にかけた。上清を吸引除去し、沈殿画分として細胞を取得し、これに25%(w/v)のポリエチレングリコール1500(PEG1500、ベーリンガー社製)1mLを加えた後、さらにRPMI培地10mLをゆっくり加えて、総量を10mLとした。これに、20%FCSを含むRPMI培地10mLを加えて、少し静置させた後、1,000rpm、5分間の遠心分離にかけ、得られた沈殿画分(細胞画分)に20%FCSを含むRPMI培地を加えて細胞濃度が10個/mLになるように調整した細胞懸濁液を、コーニング社製の96穴培養プレートに200μL/ウエルずつ分注した。5%CO・37℃インキュベーター中で24時間培養後、HAT溶液(インビトロジェン社製)を添加した後、さらに2週間培養した。ハイブリドーマはクローニングを実施し、培養上清を用いて、再度、免疫に用いた合成ペプチドを用いて酸素結合免疫吸着測定法を実施して候補細胞を選択して21種類のハイブリドーマを確立した。サブクラスとしてはIgG1、IgG2b、IgG3の抗体が含まれた。
【0044】
<ハイブリドーマクローンの評価>
21種類のハイブリドーマをCD−Hybridoma Medium(インビトロジェン)にて培養し、その培養上清を用いて、ウエスタンブロッティング法により、抗体の評価を実施した。
【0045】
評価に用いた抗原試料は、ヒトBurkittリンパ腫細胞株Daudi細胞を遠心分離により回収し、50mM Tris−HCl(pH6.8)、100mM DTT、2% SDS、0.1% ブロモフェノールブルー、10% グリセロールを含むサンプル緩衝液に懸濁したものを用い、10%のSDSポリアクリルアミドゲルの各ウエルにタンパク質量として25μgになるように抗原試料を添加し、電気泳動にて分離し、PVDF製の膜(BioRad社製、ImmunmainasuBlot PVDF)に電気的に転写した。転写終了後、ブロッキング剤(ナカライテスク社製、Blocking One)に室温(22〜27℃)で30分間浸漬後、各レーンを切断し、それぞれ0.1% Tween−20を含むトリス緩衝液で20倍に希釈した培養上清に浸漬し、室温で2時間浸漬を行った。培養上清を廃棄後、十分量の0.1% Tween−20を含むTris緩衝液で3回洗浄後、0.1% Tween−20を含むTris緩衝液で10000倍に希釈したHRP標識−抗マウスヤギIgG(SantaCruz社製)に室温で1時間浸漬した。抗体溶液を廃棄後、十分量の0.1% Tween−20を含むトリス緩衝液で3回洗浄したのち、GEヘルスケア社、ECL プラス Western Blotting Detectionシステムを用いて処理を行い、化学発光用フィルム(GEヘルスケア社、Hyperfilm ECL)にて、シグナルを検出した。評価結果を図4に示す。
【0046】
<病理標本の組織免疫染色>
一次抗体として、L26抗体(DAKO社 コード番号 N1502)、およびハイブリドーマ、クローン4−6H:2C(CD20N)の培養上清より、固相化protein−A樹脂(Pierce社)を用いて精製した免疫グロブリン(サブクラスIgG3)を用いた。
【0047】
[標本作製]
通常のL26抗体を用いた方法によりCD20陽性と評価されたリツキシマブによる治療前の病理組織およびCD20陰性と評価された再発後の胸水フィブリンクロットを、採取後ただちに、組織切片の5〜10倍量の10%の中性ホルマリン固定液に浸した。この際、24時間を超えないようにした。固定後、水洗いし、70%エタノールに浸した。それを順次高濃度となる系列のエタノールに浸して脱水し、さらにキシレンに浸して脱アルコールした後、パラフィン包埋した。パラフィン包埋標本はミクロトームで3〜5μmに薄切し、スライドガラスに貼り付け、恒温槽内で十分に乾燥させた。
【0048】
[脱パラフィン/親水化]
スライドを以下の溶液に順次浸し、脱パラフィンおよび親水化処理を行った。
キシレン5分(2回)、100%エタノール 3分(2回)、95%エタノール 3分(2回)、80%エタノール 3分(2回)、70%エタノール 3分、50%エタノール 3分、精製水 3分(2回)、トリス塩酸緩衝液 3分
【0049】
[抗原賦活処理]
脱パラフィン/親水化処理を行ったスライドは、Target Retrieval Solution、pH9(Dako社)に浸漬し、97℃で40分間加熱し、抗原賦活処理を行った。
【0050】
[標識処理]
抗体標識は、Dako社製自動免疫組織化学装置Autostainer plusを使用し、Dako社のプロトコール通りに実施した。ただし、CD20Nは、抗体希釈用緩衝液(Dako社)にて50倍希釈したものを用いた。
【0051】
[脱水/封入]
検体組織スライドを以下の順に各液に浸漬し、脱水/透徹処理を行った。
精製水1分、50%エタノール 3分、70%エタノール 3分、80%エタノール 3分、95%エタノール 3分、100%エタノール 3分(3回)、キシレン 3分(3回)、その後、封入剤で封入し、カバーガラスをかけた。顕微鏡による観察結果を図5に示す。図5において、上段は、通常のL26抗体を用いた方法によりCD20陽性と評価されたリツキシマブによる治療前の病理組織の観察結果、下段は、CD20陰性と評価された再発後の胸水細胞クロットの観察結果を示す。
【0052】
このように、C末端領域に遺伝子変異を有するCD20分子も含めて、より広範なCD20分子を認識する、CD20分子のN末端細胞質内領域を認識するモノクローナル抗体を確立した。本抗体は、ホルマリン固定パラフィン包埋切片を用いた免疫組織化学染色においても、CD20分子特異的な良好な染色像を提供した。さらに、L26抗体を用いた免疫組織化学染色の結果、CD20陰性と評価された標本の再検査により、陽性を示す標本を検出した。この症例のCD20遺伝子配列解析の結果、C末端領域に遺伝子変異が検出された。
【0053】
後方視的な解析の結果、当該遺伝子変異が検出された以降、本症例はリツキシマブ併用化学療法に対して、治療反応が得られていないことが判明した。また本実施例により確立したCD20認識モノクローナル抗体を用いた解析の結果、本症例におけるCD20分子は細胞膜近傍に発現が認められたが、正常なCD20分子と比較すると、リツキシマブの結合が著しく減弱していた(ただし、完全に失われている訳ではなかった)。
【符号の説明】
【0054】
50 CD20分子、52 細胞膜、54 N末端細胞質内領域、56,60,64,68 細胞膜内領域、58,66 細胞膜外領域、62 細胞質内領域、70 C末端細胞質内領域、72 細胞質内、74 細胞膜外、76 リツキシマブ認識領域、78,80 領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD20のN末端細胞質内領域を認識することを特徴とするCD20認識モノクローナル抗体。
【請求項2】
請求項1に記載のCD20認識モノクローナル抗体であって、
前記N末端細胞質内領域におけるアミノ酸配列23番目から36番目のアミノ酸残基を含むエピトープを認識することを特徴とするCD20認識モノクローナル抗体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のCD20認識モノクローナル抗体を産生することを特徴とするハイブリドーマ。
【請求項4】
請求項1または2に記載のCD20認識モノクローナル抗体を用いる抗原抗体反応を利用してCD20を検出することを特徴とするCD20の検出方法。
【請求項5】
請求項4に記載のCD20の検出方法であって、
前記検出する方法が、免疫組織化学染色法であることを特徴とするCD20の検出方法。
【請求項6】
請求項4に記載のCD20の検出方法であって、
前記検出する方法が、ウエスタンブロッティング法であることを特徴とするCD20の検出方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載のCD20認識モノクローナル抗体を用いる抗原抗体反応を利用して、CD20陽性のB細胞性リンパ腫およびB細胞性白血病の診断を行うことを特徴とする診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−121819(P2012−121819A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271699(P2010−271699)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)発明を掲載したホームページのURL http://ash.confex.com/ash/2010/webprogram/Paper29816.html (2)発明の掲載日 平成22年11月 8日 (3)発表者名 三嶋 雄二、照井 康仁、三嶋 裕子、畠 清彦 (4)発表の内容 「52nd ASH Annual Meeting and Exposition」講演予稿集 「Anti−N−Terminal CD20 Monoclonal Antibody and L26 Dual Staining Identifies An Irreversible Resistant Mutant Genes(抗N末端CD20モノクローナル抗体及びL26の併用による不可逆的な耐性変異遺伝子の染色による検出)」
【出願人】(000173588)公益財団法人がん研究会 (34)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】