説明

CD34陽性細胞の巨核球への分化/増殖

臍帯血からの、より効率的な巨核球系細胞への分化、血小板生成方法を提供することを課題とする。 臍帯血を、サイトカイン存在下で、不死化ストローマ細胞と共培養することで、従来得られなかったような、10万倍に及ぶ増殖を可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本願発明は、臍帯血由来CD34陽性細胞の巨核球への分化及び/又は増殖に関する。より具体的には、本願発明は、不死化ストローマ細胞を用いた臍帯血由来CD34陽性細胞の巨核球への分化/増殖に関する。
【背景技術】
白血病などの難治性血液疾患に対して行われている造血幹細胞移植には、大量の血液幹細胞を必要とする。造血幹細胞は、骨髄穿刺あるいは末梢血幹細胞採取等により、骨髄、末梢血や臍帯血から採取することができるが、このうち臍帯血は、骨髄由来の幹細胞よりも増殖力が旺盛で、免疫反応が低いため拒絶反応の可能性が低いという特徴がある。そのため、適切なドナーが見つからない場合は、有力な方法と考えられている。(非特許文献1:New England Journal of Medicine Vol.335,pp.157−166)。
他方、臍帯血は、一度に採取できる細胞数が限られているため、増殖方法について研究されている。骨髄由来の人の幹細胞をSCF(stem cell factor)、FL(Flt−3/Flk−2 ligand)、G−CSF(Granulocyte Colony Stimulating Factor)、IL−3,及びIL−6で刺激することで、2倍に増加することが出来た旨報告があり(非特許文献2:Proc.Natl.Acad.Sci.USA vol.94,13648)、臍帯血についても、Flt−3,FL、SCF、TPO(thrombopoietin)、IL−3(interleukin3、以下IL3とも記載する)を用いて、生体外で増殖させた報告もなされている。(非特許文献3:Stem Cell 2001 Vol19,pp.313−320)
また、臍帯血は、骨髄移植や末梢血幹細胞移植に比べて、赤血球、白血球及び血小板、特に血小板の数に増えるまで時間を要するという欠点があることが知られている(非特許文献4:The New England Journal of Medicine Vol.339,pp.1565−1577)。
【非特許文献1】New England Journal of Medicine Vol.335,pp.157−166
【非特許文献2】Proc.Natl.Acad.Sci.USA vol.94,pp.13648−13653
【非特許文献3】Stem Cell 2001 Vol19,pp.313−320
【非特許文献4】The New England Journal of Medicine Vol.339,pp.1565−1577
【発明の開示】
臍帯血の生体外増殖において、巨核球系細胞への分化増殖も試みられている。例えば、TPOとSCFとを用いた増殖(増幅)では、培養後14日で210倍、培養後21日で240倍へ増加したことが報告されている。しかしながら更なる増幅を求め、まず臍帯血を4週間増幅し、その後巨核球系細胞への分化増幅を行おうとすると、IL−3−SCF−IL−6−TPOを用いてはじめて、14日で40倍程度の増幅しかできず、最大増幅率で依然満足できる物ではなかった。しかも、一度CBを増幅してから分化すると、巨核球系細胞が未熟で、せいぜい4倍体になるにすぎないことが報告されている。そしてこれらは、NOD/SCIDマウスに移植しても一時的にしか、ヒトCD41陽性細胞は見られないと報告されている。(Hematologica Vol.88,pp.379−387(2003 April))
そこで、本願発明は、臍帯血からの、より効率的な巨核球系細胞への分化、血小板生成方法を提供することを課題とする。
本願発明者等は、臍帯血を、サイトカイン存在下で、不死化ストローマ細胞と共培養することで、従来得られなかったような、10万倍に及ぶ増殖を可能とした。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2004−007169号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
図1は、本方法の実施例概略を示す図。
図2は、実施例により得られた総細胞数。
図3は、実施例により得られたCD41陽性細胞の割合。
図4は、実施例によるCD41陽性細胞の増殖度。
図5は、実施例における培養後14日、21日、25日及び28日目のメイギムザ染色および28日目の位相差顕微鏡像(右下)。
【発明を実施するための最良の形態】
本願発明には、不死化されたストローマ細胞と、CD34陽性細胞とを共培養することを含む、CD41陽性細胞(巨核球系細胞)を効率的に調整する方法を包含する。
本願発明で用いるCD34陽性細胞は、骨髄、末梢血、臍帯血から得ることができ、更に、ES細胞から分化させたCD34陽性細胞及び他の(幹)細胞から分化させたCD34陽性細胞を用いることもできる。好適には、臍帯血からのCD34陽性細胞を用いることができる。
臍帯血由来のCD34陽性細胞としては、例えば、臍帯血から、Ficoll Hypaque密度勾配法により単核球を分離し、更に、例えば、CD34特異的抗体、スーパーパラマグネティックマイクロビーズ及びminiMACSを用いる方法、又はmulti−MACSを用いた方法等で分離することもできる。
本願方法には、(1)CD34陽性細胞と不死化ストローマ細胞とを共培養する方法、(2)CD34陽性細胞と不死化ストローマ細胞とを共培養する工程、及び不死化ストローマ細胞を除去後サイトカイン存在下でCD34陽性細胞を更に培養する方法、(3)CD34陽性細胞と不死化ストローマ細胞とをサイトカイン存在下で培養する方法が包含される。
本願発明で用いる不死化ストローマ細胞は、哺乳動物のストローマ細胞、特にヒト由来のストローマ細胞を不死化させた不死化ストローマ細胞が好適である。好適には、WO03/038076号公報に記載のhTERT遺伝子が導入されたヒト骨髄ストローマ細胞(以下hTERTストローマ細胞という)を用いることができる。なお、hTERTの配列は、例えば、Science 277,p.955−959に記載されている。
hTERTストローマ細胞は、例えば、次のようにして調製できる。
pCI−Neo−hTERT−HAよりPCRにて得たhTERT EcoRV−SalI fragmentをpBABE−hygroにcloningしpBABE−hygro−hTERTを調製する(Proc.Natl.Acad.SCi.USA vol95,p14723−14728)。
次に、BOSC23パッケージング細胞(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:8392−8396,1993)を用いて、ΨCRIPパッケージング細胞(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:3539−3543,1993)を作成する。上記のベクターを、レトロウイルス産生細胞(ψCRIP/P131)で増殖させる。
そして、感染を行う前日に、ストローマ細胞を播きなおし、レトロウイルスを産生するψCRIP/P131の培地を代えて培養する。次に上清に産生された組み換えレトロウイルスベクターをストローマ細胞(stromal cell)に感染させた。4時間後培養上清を新しい培地に換えてさらに2日間培養した。その後、pBABE−hygro−hTERTはハイグロマイシン100μg/mlで5日間、薬剤選択を行ってhTERTストローマ細胞を調製することができる。
本願発明を、CD34陽性細胞と不死化ストローマ細胞とを共培養する工程(第1工程)及び不死化ストローマ細胞を除去後サイトカイン存在下で培養する工程(第2工程)の2段階で調製する場合は、好適には、第1工程を、CD34陽性細胞が巨核球系前駆細胞(巨核球系細胞へ分化しうる造血前駆細胞)へと分化するまで、具体的には、5−21日、又は10−20日、たとえば、14日間培養を続けることができる。又第1工程において存在させるサイトカイン類としては、SCF、TPO及びFlt−3/Flk−2 ligandを組み合わせて用いることができる。
第2工程は、巨核球系前駆細胞が巨核球系細胞(CD41陽性細胞)へと分化するまで、具体的には7−21日間、又は12−16日間、例えば、14日間培養することができる。第2工程に存在させるサイトカインとしては、(1)TPO,(2)TPO及びinterleukin(IL)3,(3)TPO,IL1,IL3,IL6及びIL11、又は(4)TPO,IL1,IL3,IL6,IL11,SCF及びFLを挙げることができる。
【実施例1】
不死化ストローマ細胞を用いた臍帯血由来CD34陽性細胞の巨核球への分化/増殖に関する検討:
(1)概要:
不死化ストローマ細胞(hTERT stromal cell)と14日間共培養することで増殖させた臍帯血由来CD34陽性細胞を、さらに14日間トロンボポエチン(TPO)を含むサイトカイン存在下で液体培養することにより、効率的にCD41陽性(巨核球系)細胞へと分化/増殖させた。(図1参照)
(2)材料、方法:
CD34陽性細胞は、臍帯血より、MACS分離キット(Miltenyi Biotec社)を用いて、CD34陽性細胞を分離したものを用いた。
不死化ストローマ細胞(hTERT stromal cell)は、WO03/038076号公報に記載のhTERT遺伝子が導入されたヒト骨髄ストローマ細胞を用いた。
CD41陽性(巨核球系)細胞への分化増殖は二段階によった。
(a)第1工程(CD34細胞を分離後0日目〜14日目):75cmflaskを用いて、上記分離されたCD34陽性細胞は、コンフルエント(confluent)となった不死化ストローマ細胞(hTERT stromal cell)と共に、X−VIVO 10にstem cell factor(SCF)10ng/ml,thrombopoietin(TPO)50ng/ml,Flt−3/Flk−2 ligand(FL)50ng/mlを加えた培地(medium)に、5x10/9mlの濃度で細胞を浮遊し、14日間培養した。
培養後7日目に、上記と同組成の培地(medium)を9ml追加した。
(b)第2工程(培養開始14日目〜28日目)では、第1工程で調製した浮遊細胞からなる巨核系前駆細胞を6穴プレート(6−well plate)を用いて、X−VIVO 10に(1)TPO、(2)TPO及びinterleukin(IL)3、(3)TPO、IL1、IL3、IL6及びIL11,又は(4)TPO、IL1、IL3、IL6、IL11、SCF及びFLを添加した4系統の培地に2x10/mlの濃度で細胞を浮遊し、14日間液体培養した。サイトカイン濃度はそれぞれ、TPO50ng/ml,IL1 25ng/ml,IL3 25ng/ml,IL6 25ng/ml,IL11 25ng/ml,SCF 25ng/ml,FL 50ng/mlであった。
第21日目で細胞を回収し、新しいメディウムに交換した。いずれも37℃、5%CO)の条件下で培養した。第21日目及び第28日目に細胞を回収し総細胞数をカウントし、フローサイトメトリーを用いて細胞の表面形質を解析した。またサイトスピン標本を作成し、メイ・ギムザ染色を行い細胞の形態を観察した。
(3)結果:
図2に培養により得られた総細胞数を示す。
(a)第1工程の共培養にて総細胞数は、5x10から4x10まで8,000倍に増幅された。
(b)さらに第2工程の液体培養で、(1)TPOを添加した場合は1.7x10(330倍),(2)TPOおよびIL3を添加した場合は5.2x10(104,000倍),(3)TPO,IL1,IL3,IL6及びIL11を添加した場合は1.5x10(30,000倍),(4)TPO,IL1,IL3,IL6,IL11,SCF及びFLを添加した場合は2.8x10(56,000倍)まで増幅された。
(c)図3にフローサイトメトリーを用いた解析の結果を示す。
第14日目の時点では、CD41陽性細胞は66%で、第21日目では、CD41陽性細胞は、(1)TPOでは89%,(2)TPO及びIL3では60%,(3)TPO、IL1、IL3、IL6及びIL11では60%,(4)TPO、IL1、IL3、IL6、IL11、SCF及びFLでは60%であった。
第25日目においては、CD41陽性細胞は、(1)TPOでは81%,(2)TPO及びIL3は70%,(3)TPO、IL1、IL3、IL6及びIL11は50%,(4)TPO、IL1、IL3、IL6、IL11、SCF及びFLでは45%であった。
また、第28日目では、CD41陽性細胞は、(1)TPOは81%,(2)TPO及びIL3では70%,(3)TPO、IL1、IL3、IL6及びIL11では44%,(4)TPO、IL1、IL3、IL6、IL11、SCF及びFLでは39%であった。
(d)つまり、図4に示すように5x10のCD34陽性細胞から、培養開始後28日目には、それぞれ、(1)TPOは260倍,(2)TPO及びIL3では73,000倍,(3)TPO,IL1,IL3,IL6及びIL11では15,000倍,(4)TPO,IL1,IL3,IL6,IL11,SCF及びFLでは24,000倍のCD41陽性細胞へと分化増殖させることができた。
(e)図5にメイ・ギムザ染色と位相差顕微鏡像を示す。
培養開始後第14日目では殆どが幼若な前駆細胞と思われた。
培養開始後第21日目では、やや大型の細胞が、(1)TPOを用いた場合は35%,(2)TPO及びIL3を用いた場合は25%,(3)TPO、IL1、IL3、IL6及びIL11を用いた場合は20%,(4)TPO、IL1、IL3、IL6、IL11、SCF及びFLを用いた場合は10%を占めた。
培養開始後25日目には、大型の細胞は、(1)TPOを用いた場合は60%,(2)TPO及びIL3を用いた場合は50%,(3)TPO、IL1、IL3、IL6、IL11を用いた場合は40%,(4)TPO、IL1、IL3、IL6、IL11、SCF及びFLは30%を占めた。
培養開始後28日目では、(1)TPOを用いた場合は70%、(2)TPO及びIL3は65%,(3)TPO、IL1、IL3、IL6及びIL11を用いた場合は45%,(4)TPO、IL1、IL3、IL6、IL11、SCF及びFLを用いた場合は30%を占めた。
それぞれの系で経時的に大型の細胞の増加を認めた。
培養開始後28日目に位相差顕微鏡像で、大型の細胞を観察すると、突起を有していることが認められ、proplateletと考えられた。
(f)以上から、不死化ストローマ細胞を用いてin vitroで大量の巨核球系細胞を増殖させる技術を確立した。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
産業上の利用の可能性
本発明の方法により、臍帯血を巨核球系細胞に分化及び又は増殖することで、例えば、化学療法により引き起こされた血小板減少症(thrombocytopenia)等の治療が可能となる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD34陽性細胞及び不死化ストローマ細胞を共培養することを含む、巨核球系細胞の調製方法。
【請求項2】
サイトカインの存在下でCD34陽性細胞及び不死化ストローマ細胞を共培養する請求項1記載の方法。
【請求項3】
CD34陽性細胞及び不死化ストローマ細胞をサイトカインの存在下で共培養する工程(第1工程)、並びに不死化ストローマ細胞を除去後サイトカイン存在下で培養する工程(第2工程)からなる請求項1記載の方法。
【請求項4】
CD34陽性細胞及び不死化ストローマ細胞をサイトカインの存在下で共培養し巨核球系前駆細胞(巨核球系細胞に分化しうる造血前駆細胞)を調製する工程(第1工程)、並びに不死化ストローマ細胞を除去後巨核球系前駆細胞をサイトカイン存在下で培養する工程(第2工程)からなる請求項1記載の方法。
【請求項5】
第1工程で用いるサイトカインが、SCF、TPO、Flt−3/Flk−2 ligandである請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
第2工程で用いるサイトカインが(1)TPO,(2)TPO及びIL3、(3)TPO、IL1、IL3、IL6及びIL11,又は(4)TPO、IL1、IL3、IL6、IL11、SCF及びFLである請求項3又は4記載の方法。
【請求項7】
臍帯血から分離されたCD34陽性細胞を用いる請求項1〜6項いずれか1項記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項記載の方法で調製された巨核球系細胞。

【国際公開番号】WO2005/068613
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【発行日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516956(P2005−516956)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003552
【国際出願日】平成16年3月17日(2004.3.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(502455393)株式会社レノメディクス研究所 (5)
【Fターム(参考)】