CD36の発現を減少させる方法
【課題】本発明は、細胞でCD36の発現を減少させる方法を提供する。
【解決手段】本発明の方法は、以下の性質を有する芳香族性陽イオンペプチドの有効量と細胞を接触させることを含む:少なくとも1つの正味の陽電荷;最小限4つのアミノ酸;最大限約20のアミノ酸;正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間で、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係;及び芳香族基の最小数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)との間で、2aはpt+1以下の最大数であるが、aが1のときはptもまた1でありえる関係。
【解決手段】本発明の方法は、以下の性質を有する芳香族性陽イオンペプチドの有効量と細胞を接触させることを含む:少なくとも1つの正味の陽電荷;最小限4つのアミノ酸;最大限約20のアミノ酸;正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間で、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係;及び芳香族基の最小数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)との間で、2aはpt+1以下の最大数であるが、aが1のときはptもまた1でありえる関係。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCD36の発現を減少させる方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
CD36は、クラスBスカベンジャーレセプターファミリーの膜貫通タンパク質である。前記タンパク質は、多数の細胞(例えば毛細血管内皮、マクロファージ、血小板、脂肪細胞、上皮細胞(例えば腸上皮及び腎細管細胞など)、膵小島細胞、及び心筋)上で広く発現される。前記レセプターは、多数の細胞外リガンド、例えばトロンボスポンジン-1、長鎖脂肪酸、及び酸化低密度リポタンパク質と相互作用することができる。
CD36の異常な発現は極めて多様な疾患及び症状に関与している。例えば、CD36を欠くマウスは、西洋型の飼料を与えられたとき野生型マウスと比較してアテローム性病巣が少ない。さらにまた、CD36ノックアウトマウスは、急性脳虚血から保護されると報告された。
したがって、CD36の発現を減少させる方法は、CD36の異常な発現を特徴とする疾患又は症状の治療に有益である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明はCD36の発現を減少させる方法を提供する。
また、本発明は、哺乳動物においてCD36の発現の増加を特徴とする疾患又は症状を治療する方法を提供する。
本発明は哺乳動物の尿管閉塞を治療する方法を提供も提供する。
さらに、本発明は摘出器官又は組織でCD36発現を減少させる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の方法は、細胞を有効量の芳香族性陽イオンペプチドと接触させることを含む。
本発明の方法は、有効量の芳香族性陽イオンペプチドを哺乳動物に投与することを含む。
本発明の方法で有用な芳香族性陽イオンペプチドは、少なくとも1つの正味の陽電荷;最小限で4つのアミノ酸;最大限で約20のアミノ酸;正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間で、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係;及び芳香族基の最小数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)との間で、2aはpt+1以下の最大の数であるが、ただしaが1のときはptもまた1でありえるという関係を有する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】SS-31は、マウスの腹腔マクロファージでoxLDL-誘発CD36 mRNA発現、CD36タンパク質発現、及び泡沫細胞形成を減少させた。
【図2】SS-31による治療は、急性脳虚血に付した野生型マウスで梗塞体積及び半球腫脹を減少させた。
【図3】SS-31による治療は、野生型マウスの虚血後の脳における還元グルタチオン(GSH)の低下を減少させた。
【図4】SS-31は、急性脳虚血に付したCD36ノックアウトマウスで梗塞体積及び半球腫脹を減少させる効果を示さなかった。
【図5】SS-31は、CD36ノックアウトマウスの虚血後の脳でGSH枯渇を減少させなかった。
【図6】SS-31は、野生型マウスの虚血後の脳でCD36 mRNAの発現を減少させた。
【図7】SS-31は、一側性尿管閉塞(UUO)後の腎細管細胞におけるCD36発現を減少させた。反対側の非閉塞腎(図7A);生理食塩水処理動物の閉塞腎(図73B);及びSS-31処理ラットから得た閉塞腎(図7C)。
【図8】SS-31は、UUO後に腎における脂質の過酸化を減少させる。閉塞腎の尿細管細胞(図8B);反対側の非閉塞コントロール(図8A);SS-31処理ラットの閉塞腎(図8C)。
【図9】SS-31は、UUO後の閉塞腎における尿細管細胞のアポトーシスを減少させる。生理食塩水処理動物の閉塞腎(図9B);反対側の非閉塞コントロール(図9A);SS-31処理動物の閉塞腎(図9C)。
【図10】SS-31は、UUOによって誘発される閉塞腎のマクロファージ浸潤を減少させる。閉塞腎(図10B);反対側の非閉塞コントロール(図10A);SS-31処理ラット(図10C)。
【図11】SS-31は、UUO後の閉塞腎における間質性線維症を減少させる。閉塞腎(図11B);反対側の非閉塞コントロール(図11A);SS-31処理ラット(図11C)。
【図12】単離した心臓のSS-31又はSS-20との低温保存はCD36のアップレギュレーションを防ぐ。“バックグラウンド”コントロール(図12A及び12B)は、抗CD36一次抗体で処理されていない正常な非虚血心の2つの切片を示す。“正常な心臓”(図12C及び12D)は、非虚血心から得た2つの切片を示す。セント・トーマス溶液中にて18時間4℃で保存した代表的な心臓の切片(図12E及び12F)は、“正常な心臓”と比較してCD36染色の増加を示した。CD36染色は、セント・トーマス溶液中の1nMのSS-31(図12G及び12H)又は100nMのSS-20(図12I及び12J)とともに保存した心臓で有意に減少した。
【図13】SS-31及びSS-20は、長時間の低温虚血の後、温かい再灌流に付したモルモット単離心臓の脂質の過酸化を減少させた。非虚血心(図13A)と比較したセント・トーマス溶液中で18時間低温保存に付した心臓のHNE染色(図13B)。HNE染色は、SS-31(図9C)又はSS-20(図13D)とともに保存した心臓で減少した。
【図14】SS-31及びSS-20は、長時間の低温虚血の後、温かい再灌流に付したモルモット単離心臓における内皮のアポトーシスを止めた。セント・トーマス溶液中で18時間低温保存に付した心臓(図14C及び14D);非虚血正常心(図14A及び14B)。SS-31(図14E及び14F)又はSS-20(図14G及び14H)とともに保存した心臓ではアポトーシスは観察されなかった。
【図15】SS-31及びSS-20は、長時間低温虚血の後で温かい再灌流に付したモルモット単離心臓で冠状動脈流を温存させる。モルモットの心臓を、心停止溶液(セント・トーマス溶液)単独、又は1nMのSS-31(図15A)又は100nMのSS-20(図15B)を含むセント・トーマス溶液で3分間灌流し、続いて18時間の低温虚血(4℃)に付した。
【図16】SS-31は、糖尿病マウスの近位尿細管に対する損傷を防ぐ。5日間ストレプトゾトシン(STZ)を注射することによって糖尿病を誘発した。3週間後に得た腎切片は、STZ処理動物(図16A、B)の刷子縁の消失を示した(前記はSTZで処理されていないマウス(A)では観察されなかった)。刷子縁の消失は、毎日SS-31(3mg/kg)を投与したSTZ処理動物(C)では観察されなかった。
【図17】SS-31は、糖尿病マウスで腎細管上皮細胞のアポトーシスを防ぐ。糖尿病は、5日間ストレプトゾトシン(STZ)を注射することによって誘発した。3週間後に得た腎切片は、STZ処理動物(図17A、b)の近位尿細管におけるアポトーシス細胞の劇的な増加を示した(これはSTZで処理されていないマウス(図17A、a)では観察されなかった)。STZ誘発アポトーシスは、毎日SS-31(3mg/kg)を投与したマウス(図17A、図版c)では観察されなかった。STZによって引き起こされるアポトーシス細胞のパーセントはSS-31処理によって有意に減少した(図17B)。
【発明を実施するための形態】
【0006】
ペプチド
本発明は、ある種の芳香族性陽イオンペプチドによるCD36発現の減少を目的とする。前記芳香族性陽イオンペプチドは水溶性であり、高度に極性である。これらの特性にもかかわらず、前記ペプチドは容易に細胞膜を貫通する。
本発明で有用な芳香族性陽イオンペプチドは、ペプチド結合によって結合された、最小限3つのアミノ酸、好ましくは最小限4つのアミノ酸を含む。
本発明の芳香族性陽イオンペプチドに存在するアミノ酸の最大数は約20アミノ酸であり、ペプチド結合によって結合されている。好ましくは、アミノ酸の最大数は約12、より好ましくは約9、もっとも好ましくは約6つである。最適には、前記ペプチドに存在するアミノ酸の数は4つである。
本発明で有用な芳香族性陽イオンペプチドのアミノ酸はいずれのアミノ酸でもよい。本明細書で用いられる、“アミノ酸”という用語は、少なくとも1つのアミノ基及び少なくとも1つのカルボキシル基を含む任意の有機分子を指す。好ましくは、少なくとも1つのアミノ基はカルボキシル基に対してα位に存在する。
前記アミノ酸は天然に存在しえる。天然に存在するアミノ酸には、例えば哺乳動物のタンパク質で通常的に見出される、20のもっとも一般的な左旋性(L)アミノ酸、すなわちアラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ileu)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)及びバリン(Val)が含まれる。
【0007】
他の天然に存在するアミノ酸には、例えばタンパク質合成とは関連しない代謝過程で合成されるアミノ酸が含まれる。例えばアミノ酸、オルニチン及びシトルリンは、尿の生成時に哺乳動物の代謝で合成される。天然に存在するアミノ酸のまた別の例にはヒドロキシプロリン(Hyp)が含まれる。
本発明で有用なペプチドは、場合によって1つ以上の天然には存在しないアミノ酸を含む。最適には、前記ペプチドは天然に存在するアミノ酸を含まない。前記天然に存在しないアミノ酸は、左旋性(L-)、右旋性(D-)又はその混合物でありえる。
天然に存在しないアミノ酸は、典型的には生きている生物で通常の代謝過程で合成されず、天然にはタンパク質中に存在しないアミノ酸である。さらにまた、本発明で有用な天然に存在しないアミノ酸はまた一般的なプロテアーゼによって認識されない。
天然に存在しないアミノ酸は前記ペプチドの任意の位置に存在することができる。例えば天然に存在しないアミノ酸は、N-末端、C-末端、又はN-末端とC-末端との間の任意の位置に存在することができる。
前記天然に存在しないアミノ酸は、天然のアミノ酸では見出されない、例えばアルキル、アリール、又はアルキルアリール基を含むことができる。非天然のアルキルアミノ酸のいくつかの例には、α-アミノ酪酸、β-アミノ酪酸、γ-アミノ酪酸、δ-アミノ吉草酸、及びε-アミノカプロン酸が含まれる。非天然のアリールアミノ酸のいくつかの例には、オルト-、メタ-及びパラ-アミノ安息香酸が含まれる。非天然のアルキルアリールアミノ酸のいくつかの例には、オルト-、メタ-及びパラ-アミノフェニル酢酸、及びγ-フェニル-β-アミノ酪酸が含まれる。
天然に存在しないアミノ酸には天然に存在するアミノ酸の誘導体が含まれる。天然に存在するアミノ酸の誘導体は、例えば天然に存在するアミノ酸への1つ以上の化学基の付加を含む。
【0008】
例えば、1つ以上の化学基を、フェニルアラニン又はチロシン残基の芳香環の2'、3'、4'、5'若しくは6'位の1つ以上に、又はトリプトファン残基の芳香環の4'、5'、6'若しくは7'位の1つ以上に付加することができる。前記の基は、芳香環に付加することができる任意の化学基でありえる。そのような基のいくつかの例には、分枝又は非分枝C1−C4アルキル(例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル又はt−ブチル)、C1−C4アルキルオキシ(すなわちアルコキシ)、アミノ、C1−C4アルキルアミノ及びC1−C4ジアルキルアミノ(例えばメチルアミノ、ジメチルアミノ)、ニトロ、ヒドロキシル、ハロ(すなわちフルオロ、クロロ、ブロモ、又はヨード)が含まれる。天然に存在するアミノ酸の天然に存在しない誘導体のいくつかの具体的な例にはノルバリン(Nva)及びノルロイシン(Nle)が含まれる。
本発明の方法で有用なペプチドにおけるアミノ酸の改変のまた別の例は、前記ペプチドのアスパラギン酸又はグルタミン酸残基のカルボキシル基の誘導体化である。誘導体化のある例は、アンモニアによるか、又は第一若しくは第二アミン(例えばメチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン又はジエチルアミン)によるアミド化である。誘導体化のまた別の例には、例えばメチルアルコール又はエチルアルコールによるエステル化が含まれる。
また別のそのような改変の例にはリジン、アルギニン又はヒスチジン残基のアミノ基の誘導体化が含まれる。例えば、そのようなアミノ基はアシル化することができる。いくつかの適切なアシル基には、例えば、上記に記載したC1−C4アルキル基のいずれかを含むベンゾイル基又はアルカノイル基が含まれる(例えばアセチル基又はプロピオニル基)。
【0009】
天然に存在しないアミノ酸は、一般的なプロテアーゼに対して好ましくは耐性、より好ましくは非感受性である。プロテアーゼに対して耐性又は非感受性である、天然に存在しないアミノ酸の例には、上記に記載した天然に存在するL-アミノ酸のいずれかの右旋型とともに、天然に存在しないL-及び/又はD-アミノ酸が含まれる。D-アミノ酸はタンパク質中に通常は存在しないが、ただしそれらは、細胞内の通常のリボソームタンパク質合成機構以外の手段によって合成されるある種のペプチド抗生物質で見出される。本明細書においてはD-アミノ酸は天然に存在しないアミノ酸であると考える。
プロテアーゼ感受性を最小限にするために、本発明の方法で有用なペプチドは、アミノ酸が天然に存在するものであれ又は天然に存在しないものであれ、通常のプロテアーゼによって認識される、5つ未満、好ましくは4つ未満、より好ましくは3つ未満、もっとも好ましくは2つ未満の連続するL-アミノ酸を有するべきである。最適には、前記ペプチドはD-アミノ酸のみを有するか、又はL-アミノ酸を全くもたない。
前記ペプチドがプロテアーゼ感受性アミノ酸配列を含む場合、前記アミノ酸の少なくとも1つは、好ましくは天然に存在しないD-アミノ酸であり、それによってプロテアーゼ耐性を付与する。プロテアーゼ感受性配列の例には、通常のプロテアーゼ(例えばエンドプロテアーゼ及びトリプシン)によって容易に切断される2つ以上の連続する塩基性アミノ酸が含まれる。塩基性アミノ酸の例にはアルギニン、リジン及びヒスチジンが含まれる。
【0010】
芳香族性陽イオンペプチドが、ペプチド中のアミノ酸残基総数に対して、生理学的pHにおいて正味陽電荷の最小数を有するということは重要である。生理学的pHでの正味の陽電荷の最小数は下記では(pm)と称される。ペプチド中のアミノ酸残基の総数は下記では(r)と称される。
下記で考察される正味の陽電荷の最小数はいずれも生理学的pHにおける数である。本明細書で用いられる、“生理学的pH”という用語は、哺乳動物の体の組織及び器官の細胞における正常なpHを指す。例えば、ヒトの生理学的pHは通常はほぼ7.4であるが、哺乳動物での正常な生理学的pHは約7.0から約7.8の任意のpHでありえる。
本明細書で用いられる、“正味の電荷”は、ペプチド中に存在するアミノ酸によって保有される陽電荷数及び陰電荷数の差引き値を指す。本明細書では、正味の電荷は生理学的pHで測定されることは理解されよう。生理学的pHで陽性に荷電される天然に存在するアミノ酸には、L-リジン、L-アルギニン、及びL-ヒスチジンが含まれる。生理学的pHで陰性に荷電される天然に存在するアミノ酸には、L-アスパラギン酸及びL-グルタミン酸が含まれる。
典型的には、ペプチドは、陽性に荷電されたN-末端アミノ基及び陰性に荷電されたC-末端カルボキシル基を有する。電荷は生理学的pHで互いに相殺される。
正味の電荷の計算例として、ペプチドTyr-Arg-Phe-Lys-Glu-His-Trp-Argは、1つの陰性荷電アミノ酸(すなわちGlu)及び4つの陽性荷電アミノ酸(すなわち2つのArg残基、1つにLys及び1つのHis)を有する。したがって上記ペプチドは正味3つの陽電荷を有する。
【0011】
本発明のある実施態様では、芳香族性陽イオンペプチドは、生理学的pHでの正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係を有する。この実施態様では、正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間の関係は以下のとおりである:
別の実施態様では、芳香族性陽イオンペプチドは、正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間に、2pmはr+1以下の最大の数であるという関係を有する。この実施態様では、正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間の関係は以下のとおりである:
ある実施態様では、正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)は等しい。別の実施態様では、ペプチドは3つ又は4つのアミノ酸残及び最低限1つの正味の陽電荷、好ましくは最低限2つの正味の陽電荷、より好ましくは最低限3つの正味の陽電荷を有する。
【0012】
芳香族性陽イオンペプチドが正味の陽電荷の総数(pt)に対して最低限の芳香基数を有することもまた重要である。芳香基の最小数は下記では(a)と称される。
芳香基を有する、天然に存在するアミノ酸には、ヒスチジン、トリプトファン、チロシン及びフェニルアラニンが含まれる。例えば、ヘキサペプチドのLys-Gln-Tyr-Arg-Phe-Trpは、2つの正味の陽電荷(リジン及びアルギニン残基による)及び3つの芳香基(チロシン、フェニルアラニン及びトリプトファン残基による)を有する。
本発明のある実施態様では、本発明の方法で有用な芳香族性陽イオンペプチドは、芳香基の最小数(a)と生理学的pHにおける正味の陽電荷の総数(pt)との間に、3aはpt+1以下の最大の数であるが、ただしptが1のときaもまた1でありえる関係を有する。この実施態様では、芳香基の最小数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)との間の関係は以下のとおりである:
また別の実施態様では、芳香族性陽イオンペプチドは、芳香基の最小数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)との間に、2aがpt+1以下の最大の数であるいう関係を有する。この実施態様では、芳香族アミノ酸残基の最小数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)との間の関係は以下のとおりである:
別の実施態様では、芳香基の数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)は等しい。
【0013】
カルボキシル基、特にC-末端アミノ酸の末端カルボキシル基は好ましくは、例えばアンモニアでアミド化されて、C-末端アミドを形成する。また別には、C-末端アミノ酸の末端カルボキシル基は、任意の第一又は第二アミンでアミド化することができる。第一又は第二アミンは、例えばアルキル(特に分枝又は非分枝C1−C4アルキル)、又はアリールアミンでありえる。したがって、ペプチドのC-末端のアミノ酸は、アミド、N-メチルアミド、N-エチルアミド、N,N-ジメチルアミド、N,N-ジエチルアミド、N-メチル-N-エチルアミド、N-フェニルアミド又はN-フェニル-N-エチルアミド基に変換することができる。
本発明の芳香族性陽イオンペプチドのC-末端には出現しないアスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸及びグルタミン酸残基の遊離カルボキシレート基もまた、それらがペプチド内に出現する場合はいつでもアミド化することができる。これら内部の位置のアミド化は、上記で述べたように、アンモニア又は任意の第一若しくは第二アミンによることができる。
ある実施態様では、本発明の方法で有用な芳香族性陽イオンペプチドは、2つの正味の陽電荷及び少なくとも1つの芳香族アミノ酸を有するトリペプチドである。具体的な実施態様では、本発明の方法で有用な芳香族性陽イオンペプチドは、2つの正味の陽電荷及び2つの芳香族アミノ酸を有するトリペプチドである。
【0014】
本発明の方法で有用な芳香族性陽イオンペプチドには以下のペプチド例が含まれる(ただしこれらに限定されない):
Lys-D-Arg-Tyr-NH2;
Phe-D-Arg-His;
D-Tyr-Trp-Lys-NH2;
Trp-D-Lys-Tyr-Arg-NH2;
Tyr-His-D-Gly-Met;
Phe-Arg-D-His-Asp;
Tyr-D-Arg-Phe-Lys-Glu-NH2;
Met-Tyr-D-Lys-Phe-Arg;
D-His-Glu-Lys-Tyr-D-Phe-Arg;
Lys-D-Gln-Tyr-Arg-D-Phe-Trp-NH2;
Phe-D-Arg-Lys-Trp-Tyr-D-Arg-His;
Gly-D-Phe-Lys-Tyr-His-D-Arg-Tyr-NH2;
Val-D-Lys-His-Tyr-D-Phe-Ser-Tyr-Arg-NH2;
Trp-Lys-Phe-D-Asp-Arg-Tyr-D-His-Lys;
Lys-Trp-D-Tyr-Arg-Asn-Phe-Tyr-D-His-NH2;
Thr-Gly-Tyr-Arg-D-His-Phe-Trp-D-His-Lys;
Asp-D-Trp-Lys-Tyr-D-His-Phe-Arg- D-Gly-Lys-NH2;
D-His-Lys-Tyr- D-Phe-Glu- D-Asp- D-His- D-Lys-Arg-Trp-NH2;
Ala-D-Phe-D-Arg-Tyr-Lys-D-Trp-His-D-Tyr-Gly-Phe;
Tyr-D-His-Phe- D-Arg-Asp-Lys- D-Arg-His-Trp-D-His-Phe;
Phe-Phe-D-Tyr-Arg-Glu-Asp-D-Lys-Arg-D-Arg-His-Phe-NH2;
Phe-Try-Lys-D-Arg-Trp-His-D-Lys-D-Lys-Glu-Arg-D-Tyr-Thr;
Tyr-Asp-D-Lys-Tyr-Phe- D-Lys- D-Arg-Phe-Pro-D-Tyr-His-Lys;
Glu-Arg-D-Lys-Tyr- D-Val-Phe- D-His-Trp-Arg-D-Gly-Tyr-Arg-D-Met-NH2;
Arg-D-Leu-D-Tyr-Phe-Lys-Glu- D-Lys-Arg-D-Trp-Lys- D-Phe-Tyr-D-Arg-Gly;
D-Glu-Asp-Lys-D-Arg-D-His-Phe-Phe-D-Val-Tyr-Arg-Tyr-D-Tyr-Arg-His-Phe-NH2;
Asp-Arg-D-Phe-Cys-Phe-D-Arg-D-Lys-Tyr-Arg-D-Tyr-Trp-D-His-Tyr-D-Phe-Lys-Phe;
His-Tyr-D-Arg-Trp-Lys-Phe-D-Asp-Ala-Arg-Cys-D-Tyr-His-Phe-D-Lys-Tyr-His-Ser-
NH2;
Gly-Ala-Lys-Phe-D-Lys-Glu-Arg-Tyr-His-D-Arg-D-Arg-Asp-Tyr-Trp-D-His-Trp-His-
D-Lys-Asp;及び
Thr-Tyr-Arg-D-Lys-Trp-Tyr-Glu-Asp-D-Lys-D-Arg-His-Phe-D-Tyr-Gly-Val-Ile-D-His-
Arg-Tyr-Lys-NH2。
【0015】
ある実施態様では、本発明の方法で有用なペプチドは、ミュー-オピオイドレセプターアゴニスト活性を有する(すなわちそれらはミュー-オピオイドレセプターを活性化する)。ミュー-オピオイドレセプターの活性化は典型的には鎮痛作用を誘引する。
ある種の事例では、ミュー-オピオイドレセプターアゴニスト活性を有する芳香族性陽イオンペプチドが好ましい。例えば、短期治療時に(例えば急性疾患又は症状で)、ミュー-オピオイドレセプターを活性化する芳香族性陽イオンペプチドを使用することは有益でありえる。そのような急性疾患及び症状はしばしば中等度又は重度の痛みを伴う。これらの事例では、芳香族性陽イオンペプチドの鎮痛作用は、人間の患者又は他の哺乳動物の治療計画で有益でありえる。しかしながら、ミュー-オピオイドレセプターを活性化しない芳香族性陽イオンペプチドもまた、臨床的必要性に応じて鎮痛剤とともに、又は鎮痛剤なしで用いることができる。
あるいは、他の事例ではミュー-オピオイドレセプターアゴニスト活性を有しない芳香族性陽イオンペプチドが好ましい。例えば、長期治療時に(例えば慢性疾患又は症状で)、ミュー-オピオイドレセプターを活性化する芳香族性陽イオンペプチドの使用は禁忌でありえる。これらの事例では、芳香族性陽イオンペプチドの潜在的な副作用又は中毒作用は、人間の患者又は他の哺乳動物の治療計画におけるミュー-オピオイドレセプターを活性化する芳香族性陽イオンペプチドの使用を不可能にするであろう。潜在的な副作用には、鎮静作用、便秘及び呼吸器系の抑制が含まれえる。そのような事例では、ミュー-オピオイドレセプターを活性化しない芳香族性陽イオンペプチドが適切な治療でありえる。
【0016】
ミュー-オピオイドレセプターアゴニスト活性を有する、本発明の方法で有用なペプチドは、典型的には、N-末端(すなわち第一のアミノ酸の位置)にチロシン残基を有するか又はチロシン誘導体である。チロシンの好ましい誘導体には、2'-メチルチロシン(Mmt);2',6'-ジメチルチロシン(2'6'Dmt);3',5'-ジメチルチロシン(3'5'Dmt);N,2',6'-トリメチルチロシン(Tmt);及び2'-ヒドロキシ-6'-メチルチロシン(Hmt)が含まれる。
特に好ましい実施態様では、ミュー-オピオイドレセプターアゴニスト活性を有するペプチドは、式Tyr-D-Arg-Phe-Lys-NH2(便利なように頭文字DALDAによって表され、本明細書ではSS-01と称される)を有する。DALDAはアミノ酸のチロシン、アルギニン及びリジンの寄与による3つの正味の陽電荷を有し、さらにアミノ酸のフェニルアラニン及びチロシンの寄与による2つの芳香基を有する。DALDAのチロシンは、チロシンの改変誘導体、例えば2',6'-ジメチルチロシンであってもよく、式2',6'-Dmt-D-Arg-Phe-Lys-NH2(すなわちDmt1-DALDA、本明細書ではSS-02と称される)を有する化合物を生成する。
ミュー-オピオイドレセプターアゴニスト活性を有しないペプチドは、一般的には、N-末端(すなわちアミノ酸1位)にチロシン残基又はチロシン誘導体をもたない。N-末端のアミノ酸は、チロシン以外の天然に存在するか又は天然に存在しないアミノ酸のいずれかでありえる。
【0017】
ある実施態様では、N-末端のアミノ酸はフェニルアラニン又はその誘導体である。フェニルアラニンの好ましい誘導体には、2'-メチルフェニルアラニン(Mmp);2',6'-ジメチルフェニルアラニン(Dmp);N,2',6'-トリメチルフェニルアラニン(Tmp);及び2'-ヒドロキシ-6'-メチルフェニルアラニン(Hmp)が含まれる。
ミュー-オピオイドレセプターアゴニスト活性を有しない、また別の芳香族性陽イオンペプチドは、式Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(すなわちPhe1-DALDA、本明細書ではSS-20と称される)を有する。また別には、N-末端フェニルアラニンはフェニルアラニンの誘導体、例えば2',6'-ジメチルフェニルアラニン(2'6'Dmp)でもよい。アミノ酸1位に2',6'-ジメチルフェニルアラニンを含むDALDAは、式2',6'-Dmp-D-Arg-Phe-Lys-NH2(すなわち2'6'Dmp1-DALDA)を有する。
好ましい実施態様では、Dmt1-DALDA(SS-02)のアミノ酸配列は、DmtがN-末端に存在しないように再編成される。ミュー-オピオイドレセプターアゴニスト活性を有しないそのような芳香族性陽イオンペプチドの例は、式D-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(本明細書ではSS-31と称される)を有する。
DALDA、Phe1-DALDA、SS-31及びそれらの誘導体は、さらに機能的類似体を含むことができる。類似体が、DALDA、Phe1-DALDA又はSS-31と同じ機能を有するならば、前記ペプチドは、DALDA、Phe1-DALDA又はSS-31の機能的類似体と考えられる。例えば、1つ以上のアミノ酸が別のアミノ酸に置換されている場合、前記類似体はDALDA、Phe1-DALDA又はSS-31の置換変種でありえる。
【0018】
DALDA、Phe1-DALDA又はSS-31の適切な置換変種は保存的なアミノ酸置換を含む。アミノ酸はそれらの物理化学的特徴にしたがって以下のようにグループ分けすることができる:(a)非極性アミノ酸:Ala(A)、Ser(S)、Thr(T)、Pro(P)、Gly(G);
(b)酸性アミノ酸:Asn(N)、Asp(D)、Glu(E)、Gln(Q);
(c)塩基性アミノ酸:His(H)、Arg(R)、Lys(K);
(d)疎水性アミノ酸:Met(M)、Leu(L)、Ile(I)、Val(V);及び
(e)芳香族アミノ酸:Phe(F)、Tyr(Y)、Trp(W)、His(H)。
ペプチド内のアミノ酸の同じグループ内の別のアミノ酸による置換は保存的置換と称され、最初のペプチドの物理化学的特徴を保存することができる。対照的に、ペプチド内のアミノ酸の異なるグループの別のアミノ酸による置換は、一般的には最初のペプチドの特徴を変化させる蓋然性が高くなる。
ミュー-オピオイドレセプターを活性化する、本発明の実施で有用な類似体の例には表1に示す芳香族性陽イオンペプチドが含まれる(ただしこれらに限定されない)。
【0019】
表1
Dab = ジアミノ酪酸
Dap = ジアミノプロピオン酸
Dmt = ジメチルチロシン
Mmt = 2'-メチルチロシン
Tmt = N,2',6'-トリメチルチロシン
Hmt = 2'-ヒドロキシ-6'メチルチロシン
dnsDap = β-ダンシル-L-α,β-ジアミノプロピオン酸
atnDap = β-アントラニロイル-L-α,β-ジアミノプロピオン酸
Bio = ビオチン
【0020】
ミュー-オピオイドレセプターを活性化しない、本発明の実施で有用な類似体の例には表2に示す芳香族性陽イオンペプチドが含まれる(ただしこれらに限定されない)。
表2
Cha = シクロヘキシル
表1及び2に示したペプチドのアミノ酸はL-又はD-配置のどちらかである。
【0021】
方法
上記に記載した芳香族性陽イオンペプチドは、細胞のCD36発現の誘導に有用である。本明細書の目的のためには、細胞のCD36発現は、CD36の発現が約10%、好ましくは約25%、より好ましくは約50%、さらに好ましくは約75%減少した場合に減少したとみなされる。最適には、CD36は細胞内でほぼ正常レベルに減少する。
CD36は極めて多様な細胞で発現される。そのような細胞の例には、マクロファージ;血小板;脂肪細胞;内皮細胞、例えば微細血管内皮細胞及び臍帯静脈内皮細胞;上皮細胞、例えば腸管上皮細胞、胆嚢上皮細胞、膀胱上皮細胞、気管支上皮細胞及び肺胞上皮細胞;腎細管細胞;膵臓小島細胞;肝細胞;骨格筋細胞;心筋細胞;神経細胞;神経膠細胞;膵臓細胞;精子細胞などが含まれる。
本明細書の目的のためには、正常細胞よりも約10%、典型的には約25%、より典型的には約50%、さらに典型的には約75%を超えるCD36を発現する細胞は、増加レベルのCD36を発現したとみなされる。
ある実施態様では、本発明は、細胞のCD36発現を減少させる方法を提供する。CD36を発現するいずれの細胞も本発明の方法で用いることができ、これらの細胞には上記に記載した細胞が含まれる。細胞のCD36発現を減少させる方法は、細胞を上記に記載した芳香族性陽イオンペプチドの有効量と接触させることを含む。
別の実施態様では、本発明は、その必要がある哺乳動物でCD36発現を減少させる方法を提供する。哺乳動物でCD36発現を減少させる前記方法は、本明細書に記載した芳香族性陽イオンペプチドの有効量を哺乳動物に投与することを含む。
【0022】
CD36発現を減少させる必要がある哺乳動物には、例えばCD36発現が増加した哺乳動物が含まれる。CD36の発現増加は多様な疾患及び症状に付随する。CD36発現の増加を特徴とする疾患及び症状の例には、アテローム性硬化症、炎症、異常な血管形成、異常な脂質代謝、アポトーシス細胞の異常な除去、虚血(例えば脳虚血及び心筋虚血)、虚血再灌流、尿管閉塞、卒中、アルツハイマー病、糖尿病、糖尿病性腎症、及び肥満が含まれるが、ただしこれらに限定されない。アテローム性硬化症におけるCD36の中心的な関与に関する考察は以下の文献で見出すことができる:“Targeted disruption of the class B scavenger receptor CD36 protrcts against atherosclerotic lesion development in mice”, M. Febbraio, EA Podrez, JD Smith, DP Hajjar, SL Hazen et al. J Clinical Investigation (2000) 105:1049-1056;及び”CD36: a class B scavenger receptor involved in angiogenesis, atherosclerosis, inflammation, and lipid metabolism”, M. Febbraio, DP. Hajjar and RL Silverstein, Journal of Clinical Investigation (2001) 108:785
-791。
CD36発現を減少させる必要がある哺乳動物にはまた糖尿病の合併症をもつ哺乳動物が含まれる。糖尿病のいくつかの合併症には、腎症の他に、神経症、網膜症、冠状動脈疾患、及び糖尿病に付随する抹消血管の疾患が含まれる。
また別の実施態様では、本発明は摘出器官及び組織でCD36発現を減少させる方法に関する。前記方法は、上記に記載した芳香族性陽イオンペプチドの有効量と摘出器官又は組織を接触させることを含む。例えば、器官又は組織は、例えば自家移植又は他家移植のために摘出される。器官及び組織のいくつかの例には心臓、肺臓、膵臓、腎臓、皮膚などが含まれる。
【0023】
ペプチドの合成
本発明の方法で有用なペプチドは、当分野で周知の任意の方法によって合成することができる。化学的にタンパク質を合成するための適切な方法には、例えば以下の文献に記載された方法が含まれる:Stuart and Young in “Solid Phase Peptide Synthesis”, Second Edition, Pierce Chemical Company (1984);及び”Solid Phase Peptide Synthesis”, Methods Enzymol. 289, Academic (1997) New york, Inc., New York。
【0024】
投与の態様
細胞、器官又は組織をペプチドと接触させるための当業者に公知の任意の方法を用いることができる。適切な方法には、in vitro、ex vivo、又はin vitroの方法が含まれる。
in vitroの方法は典型的には培養サンプルを含む。例えば、細胞を容器(例えば組織培養プレート)に入れ、CD36発現を減少させるために適切な条件下で、芳香族性陽イオンペプチドとともにインキュベートすることができる。当業者は適切なインキュベーション条件を容易に決定することができる。
ex vivoの方法は典型的には哺乳動物(例えばヒト)から摘出した細胞、器官又は組織を含む。例えば、前期細胞、器官又は組織を適切な条件下でペプチドとともにインキュベートすることができる。接触させた細胞、器官又は組織は通常はドナーに戻すか、レシピエントに移植するか、又は将来の使用に備えて保存される。したがって、本ペプチドは一般的には医薬的に許容できる担体中に存在する。
in vivoの方法は典型的には、芳香族性陽イオンペプチド(例えば上記に記載されたもの)の哺乳動物(好ましくはヒト)への投与に限定される。本発明の方法で有用なペプチドは、CD36の発現の減少又は哺乳動物の治療に有効な量で哺乳動物に投与される。前記有効な量は、前臨床又は臨床試験時に、内科医及び臨床医に周知の方法によって決定される。
本発明の方法で有用なペプチド(好ましくは医薬組成物中のペプチド)の有効量は、その必要がある哺乳動物に、医薬化合物の投与のためによく知られている多数の方法のいずれかによって投与されえる。本ペプチドは全身的に又は局所的に投与することができる。
ある実施態様では、本ペプチドは静脈内に投与される。例えば、本発明の方法で有用な芳香族性陽イオンペプチドは、迅速な静脈内ボーラス投与により投与することができる。しかしながら好ましくは、本ペプチドは一定速度の静脈内輸液として投与される。
【0025】
ペプチドはまた、経口的、局所的、鼻内、筋肉内、皮下又は経皮的に投与することもできる。好ましい実施態様では、本発明の方法による芳香族性陽イオンペプチドの経皮的投与はイオン導入による。前記では、電荷を有するペプチドは電流によって皮膚を通過してデリバーされる。
他の投与ルートには、脳室内又は脊髄内ルートが含まれる。脳室内ルートは脳室系への投与をさす。脊髄内ルートは、脊髄のクモ膜下腔への投与を指す。したがって、脳室内又は脊髄内投与は、中枢神経系の器官又は組織に影響を及ぼす疾患及び症状に対して好ましい。
本発明の方法で有用なペプチドはまた、当分野で公知のように、持続性放出によって哺乳動物に投与することができる。持続性放出投与は、一定の期間にわたって一定の薬剤レベルを達成するための薬剤デリバリー方法である。薬剤レベルは典型的には血清又は血中濃度によって測定される。
制御放出によって化合物をデリバーする方法の説明は国際PCT出願WO02/083106で見出すことができる。前記PCT出願は参照により本明細書に含まれる。
製薬業界で公知のいずれの処方も、本発明の方法で有用な芳香族性陽イオンペプチドの投与に適している。経口投与のために、液体又は固体処方物を用いることができる。処方物のいくつかの例には錠剤、ゼラチンカプセル、ピル、トローチ、エリキシル、懸濁液、シロップ、ウェファース、チューインガムなどが含まれる。当業者に知られているように、ペプチドは、適切な担体(ビヒクル)又は賦形剤と混合することができる。担体及び賦形剤の例には、デンプン、ミルク、砂糖、ある種のタイプの粘土、ゼラチン、乳酸、ステアリン酸又は前記の塩(ステアリン酸マグネシウム又はカルシウムを含む)、タルク、植物脂肪又は油、ゴム及びグリコールが含まれる。
【0026】
全身的、脳室内、脊髄内、鼻内、皮下又は経皮投与のために、本発明の方法で有用な芳香族性陽イオンペプチドの処方物は、通常の稀釈剤、担体又は賦形剤など(例えばペプチドをデリバーするために当分野で公知のもの)を利用することができる。例えば、前記処方物は以下の1つ以上を含むことができる:安定化剤、界面活性剤、好ましくは非イオン性界面活性剤、及び場合によって塩及び/又は緩衝剤。ペプチドは水溶液の形態で又は凍結乾燥形で配布することができる。
例えば、安定化剤は、アミノ酸(例えばグリシン);オリゴ糖(例えばシュクロース、トレハロース、ラクトース又はデキストラン)でありえる。また別には、安定化剤は糖アルコール(例えばマンニトール);又は前記の組合せでもよい。好ましくは、安定化剤又は安定化剤の組合せは、ペプチド重量に対して約0.1%から約10質量%を構成する。
界面活性剤は、好ましくは非イオン性界面活性剤(例えばポリソルベート)である。適切な界面活性剤のいくつかの例には、トゥイーン20、トゥイーン80;ポリエチレングリコール又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(例えば約0.001%(w/v)から約10%(w/v)のプルロニック(Pluronic)F-68)が含まれる。
塩又は緩衝剤は、任意の塩又は緩衝剤、例えばそれぞれ塩化ナトリウム又はリン酸ナトリウム/カリウムでありえる。好ましくは、緩衝剤は医薬組成物のpHを約5.5から約7.5の範囲に維持する。塩及び/又は緩衝剤はまた、人間又は動物への投与に適したレベルのオスモル濃度を維持するために有用である。好ましくは、塩又は緩衝剤は、約150mMから約300mMのほぼ等張濃度で存在する。
本発明の方法で有用なペプチドの処方物は、さらに1つ以上の通常の添加物を含むことができる。そのような添加物のいくつかの例には、安定化剤(例えばグリセロール);抗酸化剤(例えば塩化ベンザルコニウム(“quats”として知られている第四アンモニウム化合物の混合物)、ベンジルアルコール、クロレトン又はクロロブタノール);麻酔剤(例えばモルヒネ誘導体);又は等張剤など(例えば上記に記載したもの)が含まれる。酸化又は他の破壊に対する更なる予防措置として、医薬組成物は非透過性の栓で封印したバイアル中で窒素ガス下にて保存することができる。
本発明にしたがって処置される哺乳動物は、任意の哺乳動物例えば農場動物(例えばヒツジ、ブタ、乳牛及びウマ);ペット動物、例えばイヌ及びネコ;実験動物、例えばラット、マウス及びウサギでありえる。好ましい実施態様では、哺乳動物は人間である。
【0027】
本発明の例示的態様を以下に列挙する。
(1) 以下の(a)−(e)を有する芳香族性陽イオンペプチドの有効量と細胞を接触させることを含む、CD36の発現を減少させる方法:
(a)少なくとも1つの正味の陽電荷;
(b)最小限4つのアミノ酸;
(c)最大限約20のアミノ酸;
(d)正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間で、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係;及び
(e)芳香族基の最小数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)との間で、2aはpt+1以下の最大の数であるが、ただしaが1のときはptもまた1でありえる関係。
(2) 芳香族性陽イオンペプチドがPhe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(SS-20)を含む、(1)に記載の方法。
(3) 芳香族性陽イオンペプチドがD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)を含む、(1)に記載の方法。
(4) 以下の(a)−(e)を有する芳香族性陽イオンペプチドの有効量を哺乳動物に投与することを含む、その必要がある哺乳動物でCD36の発現を減少させる方法:
(a)少なくとも1つの正味の陽電荷;
(b)最小限4つのアミノ酸;
(c)最大限約20のアミノ酸;
(d)正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間で、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係;及び
(e)芳香族基の最小数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)との間で、2aはpt+1以下の最大の数であるが、ただしaが1のときはptもまた1でありえる関係。
(5) 芳香族性陽イオンペプチドがPhe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(SS-20)を含む、(4)に記載の方法。
(6) 芳香族性陽イオンペプチドがD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)を含む、(4)に記載の方法。
(7) 以下の(a)−(e)を有する芳香族性陽イオンペプチドの有効量を哺乳動物に投与することを含む、その必要がある哺乳動物において、CD36発現の増加を特徴とする疾患又は症状を治療する方法:
(a)少なくとも1つの正味の陽電荷;
(b)最小限4つのアミノ酸;
(c)最大限約20のアミノ酸;
(d)正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間で、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係;及び
(e)芳香族基の最小数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)との間で、2aはpt+1以下の最大の数であるが、ただしaが1のときはptもまた1でありえる関係。
(8) CD36発現の増加を特徴とする疾患又は症状がアテローム性硬化症を含む、(7)に記載の方法。
(9) CD36発現の増加を特徴とする疾患又は症状がアルツハイマー病を含む、(7)に記載の方法。
(10) CD36発現の増加を特徴とする疾患又は症状が糖尿病を含む、(7)に記載の方法。
(11) CD36発現の増加を特徴とする疾患又は症状が糖尿病の合併症を含む、(7)に記載の方法。
(12) 芳香族性陽イオンペプチドがPhe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(SS-20)を含む、(7)に記載の方法。
(13) 芳香族性陽イオンペプチドがD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)を含む、(7)に記載の方法。
(14) 以下の(a)−(e)を有する芳香族性陽イオンペプチドの有効量を哺乳動物に投与することを含む、その必要がある哺乳動物の尿管閉塞を治療する方法:
(a)少なくとも1つの正味の陽電荷;
(b)最小限4つのアミノ酸;
(c)最大限約20のアミノ酸;
(d)正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間で、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係;及び
(e)芳香族基の最小数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)との間で、2aはpt+1以下の最大の数であるが、ただしaが1のときはptもまた1でありえる関係。
(15) 芳香族性陽イオンペプチドがPhe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(SS-20)を含む、(14)に記載の方法。
(16) 芳香族性陽イオンペプチドがD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)を含む、(14)に記載の方法。
(17) 以下の(a)−(e)を有する芳香族性陽イオンペプチドの有効量を哺乳動物に投与することを含む、その必要がある哺乳動物で糖尿病性腎症を治療する方法:
(a)少なくとも1つの正味の陽電荷;
(b)最小限4つのアミノ酸;
(c)最大限約20のアミノ酸;
(d)正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間で、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係;及び
(e)芳香族基の最小数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)との間で、2aはpt+1以下の最大の数であるが、ただしaが1のときはptもまた1でありえる関係。
(18) 芳香族性陽イオンペプチドがPhe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(SS-20)を含む、(17)に記載の方法。
(19) 芳香族性陽イオンペプチドがD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)を含む、(17)に記載の方法。
(20) 以下の(a)−(e)を有する芳香族性陽イオンペプチドの有効量と器官を接触させることを含む、摘出器官又は組織でCD36発現を減少させる方法:
(a)少なくとも1つの正味の陽電荷;
(b)最小限4つのアミノ酸;
(c)最大限約20のアミノ酸;
(d)正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間で、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係;及び
(e)芳香族基の最小数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)との間で、2aはpt+1以下の最大の数であるが、ただしaが1のときはptもまた1でありえる関係。
(21) 芳香族性陽イオンペプチドがPhe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(SS-20)を含む、(20)に記載の方法。
(22) 芳香族性陽イオンペプチドがD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)を含む、(20)に記載の方法。
【実施例1】
【0028】
実施例1:SS-31は、マウス腹腔マクロファージで、酸化低密度リポタンパク質(oxLDL)誘発CD36発現及び泡沫細胞形成を減少させる
アテローム性硬化症は、血管壁マクロファージによる脂質取り込みが泡沫細胞の発達並びにサイトカイン及びケモカインの作出をもたらし、そのために平滑筋細胞が増殖した結果として進行する。CD36は、oxLDLのマクロファージへの取り込み及びその後に続く泡沫細胞発達を仲介するスカベンジャーレセプターである。CD36ノックアウトマウスはoxLDLの取り込みの減少及びアテローム硬化症の抑制を示した。
CD36発現は、種々の細胞刺激(グルコース及びoxLDLを含む)によって転写レベルで調節される。マクロファージをマウスの腹腔から採集し、48時間oxLDL(50μg/mL)の存在下又は非存在下で一晩培養した。oxLDLとのインキュベーションはCD36 mRNAを顕著に増加させた(図1A)。培養液にSS-31(10nM又は1μM)を添加することによってCD36のアップレギュレーションが打ち消された(図1A)。SS-31自体はCD36発現に対する影響はなかった。
ウェスタンブロットによって決定したCD36タンパク質の発現もまた、ビヒクルコントロール(V)と比較したとき、25μg/mL のoxLDL(oxL)との48時間インキュベーション後に顕著に増加した(図1B)。他のコントロールには、マウスの心臓(H)のCD36発現及びCD36ノックアウトマウス(KO)から得たマクロファージのCD36発現が含まれていた。CD36タンパク質の量はβ-アクチンに対して正規化した。SS-31(1μM)(S)とのインキュベーションは、ビヒクルコントロール(V)に暴露したマクロファージと比較して、CD36タンパク質発現を顕著に減少させた(P<0.01、ポストホックニューマン・クールズ(Neuman Keuls)検定を用いたANOVA)。SS-31(1μM)による同時インキュベーションもまた、25μg/mLのoxLDLに48時間暴露したマクロファージ(oxL/S)で、CD36タンパク質発現のアップレギュレーションを顕著に抑制した(P<0.01、ポストホックニューマン・クールズ検定を用いたANOVA)。
oxLDLによるマクロファージの48時間インキュベーションはまた泡沫細胞形成を増加させた(図1C)。泡沫細胞はオイルレッドO(脂質滴を赤く染色する)で示されている。SS-31(1μM)の添加はoxLDL誘発泡沫細胞形成を防止した(図1C)。
マクロファージとoxLDLとのインキュベーションはアポトーシス細胞を6.7%から32.8%へ増加させた。SS-31(1nM)による同時処理は、oxLDLによって誘発されるアポトーシス細胞のパーセンテージを20.8%に顕著に減少させた。
【実施例2】
【0029】
実施例2:SS-31は急性脳虚血からマウスを保護した
脳虚血は、脳の損傷をもたらす細胞事象及び分子事象の連鎖反応を開始させる。そのような事象の1つは虚血後炎症である。脳虚血再灌流のマウスモデル(中間脳動脈の20分閉塞)を用いて、CD36は、虚血後の脳のミクログリア及びマクロファージでアップレギュレートし、反応性酸素種の生成が増加することが見出された。CD36ノックアウトマウスは虚血後の反応性酸素種の顕著な減少を示し、野生型マウスと比較して神経学的機能が改善された。
脳虚血は右中間脳動脈の30分閉塞によって誘発した。野生型(WT)マウスには生理食塩水ビヒクル(Veh)(ip, n=9)又はSS-31(2mg/kg又は5mg/kg, ip, n=6)のどちらかを虚血後0、6、24及び48時間に与えた。虚血後3日してマウスを殺した。脳を取り出し、凍結し、切片を作成した。脳切片をニッスル(Nissl)染色によって染色した。梗塞体積及び半球の腫脹を画像分析で決定した。ポストホック分析を用いた一元配置ANOVAによってデータを解析した。
中間脳動脈の30分閉塞から0、6、24及び48時間後のSS-31(2mg/kg又は5mg/kg, ip, n=6)によるマウスの処置は、生理食塩水コントロールと比較して梗塞体積(図2A)及び半球腫脹(図2B)の有意な減少をもたらした(*Vehと比較してP<0.05)。
WTマウスの30分脳虚血は、ビヒクル処置動物の反対側の部位と比較して、同側の皮質及び線条で還元グルタチオン(GSH)の顕著な枯渇をもたらした(図3)。同側の皮質におけるGSHの枯渇は、SS-31(2mg/kg又は5mg/kg, ip, n=6)で処置したマウスで有意に減少した(図3)。線条におけるGSHの枯渇もまたSS-31処置によって減少したが、統計的有意には達しなかった。
【実施例3】
【0030】
実施例3:急性脳虚血に対するSS-31仲介保護は、CD36ノックアウトマウスで観察される保護に類似する
CD36ノックアウト(CD36KO)マウスを実施例2に記載したように急性脳虚血させた。CD36KOマウスに生理食塩水ビヒクル(Veh)(ip, n=5)又はSS-31(2mg/kg, ip, n=5)のどちらかを30分の虚血後0、6、24及び48時間に与えた。CD36KOマウスの梗塞体積(図4A)及び半球腫脹(図4B)は、生理食塩水又はSS-31を与えられたか否かにかかわらず同様であった。
CD36KOマウスのSS-31(2mg/kg, ip, n=5)による処置もまた、30分の虚血によって生じる同側の皮質のGSH枯渇を防ぐことができなかった(図5)。
これらのデータは、急性脳虚血に対するSS-31の保護作用は、CD36のアップレギュレーションの阻害によって仲介される可能性を示唆している。
【実施例4】
【0031】
実施例4:SS-31は虚血後の脳におけるCD36 mRNAの発現を減少させる
中間脳動脈の一過性の閉塞は、虚血後の脳でミクログリア及びマクロファージのCD36 mRNA発現を顕著に増加させることが示された。野生型のマウスに生理食塩水ビヒクル(Veh, ip., n=6)又はSS-31(5mg/kg, ip, n=6)を30分虚血の0時間後及び6時間後に投与し、リアルタイムPCRを用いてCD36 mRNAレベルを決定した。CD36発現は、生理食塩水を投与したマウスの反対側の脳と比較して同側の脳ではほぼ6倍アップレギュレートされた(図6)。CD36 mRNAは、SS-31処置を受けたマウスの同側脳で顕著に減少した。
【実施例5】
【0032】
実施例5:SS-31は、一側性尿管閉塞後の腎細管細胞のCD36アップレギュレーションを抑制する
一側性尿管閉塞(UUO)は、尿細管アポトーシス、マクロファージ浸潤および間質線維症を伴う一般的な異常である。間質線維症は低酸素性環境をもたらし、外科手術による修正にもかかわらず腎機能の進行性低下をもたらす。CD36は腎細管細胞で発現することが示されている。
CD36は、UUOの後に尿細管細胞でアップレギュレートされることが示されている。UUOはスプラーグ-ドウリーラットで実施した。ラットを生理食塩水(ip., n=6)又はSS-31(1mg/kg, ip, n=6)で、UUOの誘発の1日前及びUUO後の14日間に1日1回処理した。ラットを殺し、腎臓を取り出し、パラフィンに包埋して切片を作成した。抗CD36ポリクローナルIgG(Santa Cruz #sc-9154;ブロッキング血清にて1:100)でスライドを室温で1.5時間処理した。続いてこのスライドをビオチン結合第二抗体(抗ウサギIgG-B1;ABCキット、PK-6101)とともに室温で30分インキュベートした。続いて、前記スライドをアビジンで処理し、DABで現像し、10%ヘマトキシリンで対比染色した。反対側の非閉塞腎を各動物のコントロールとして供した。
UUOは尿細管拡張及び尿細管細胞のCD36発現に顕著な増加をもたらした(図7)。尿細管拡張はまたSS-31処理ラットでも観察されたが、CD36発現の顕著な減少があった(図3)。CD36発現(茶色の染色)は主として反対側の非閉塞腎細管細胞上で認められた(図7A)。CD36発現は生理食塩水処理動物の閉塞腎で増加したが(図7B)、SS-31処理ラットから得た閉塞腎ではるかに減少した(図7C)。
SS-31がUUO後に腎における脂質の過酸化を減少させるか否かを決定するために、ラットを、生理食塩水(n=6)又はSS-31(1mg/kg, ip, n=6)で、UUOの誘発の1日前及びUUO後の14日間に1日1回処理した。続いてラットを殺し、腎臓を取り出し、パラフィンに包埋して切片を作成した。スライドを抗HNEウサギIgGとともにインキュベートし、さらにビオチン結合抗ウサギIgGを第二抗体として用いた。スライドをDABで現像した。UUOによって増加した脂質の過酸化は、SS-31処理によって減少した。HNE染色(茶色)は、反対側のコントロールと比較して閉塞腎の尿細管細胞で顕著に増加した(図8B)。SS-31で処理したラットの閉塞腎は、生理食塩水処理ラットと比較して顕著に少ないHNE染色を示した(図8B)。
SS-31がUUO後の閉塞腎で尿細管細胞のアポトーシスを減少させるか否かを決定するために、ラットを、生理食塩水(n=6)又はSS-31(1mg/kg, ip, n=6)で、UUOの誘発の1日前及びUUO後の14日間に1日1回処理した。続いてラットを殺し、腎臓を取り出し、パラフィンに包埋して切片を作成した。断片化DNAを有する核を定量するために、in situ TUNELキット(Intergen, Purchase, NY)を用いてTUNELアッセイを実施した。スライドをDABで現像し、10%ヘマトキシリンで対比染色した。尿細管細胞のアポトーシスを伴う生理食塩水処理コントロールのCD36アップレギュレーションは、SS-31処理によって顕著に抑制された(図9)。反対側の非閉塞コントロール(図9A)と比較して、アポトーシス細胞の顕著な増加が生理食塩水処理動物の閉塞腎(図9B)で観察された。アポトーシス細胞の数は、SS-31処理動物(図9C)の閉塞腎で顕著に減少した(P<0.001;n=6)。
SS-31処理はまたマクロファージ浸潤(図10)及び間質線維症(図11)を防いだ。ラットを、生理食塩水(n=6)又はSS-31(1mg/kg, ip, n=6)で、UUOの誘発の1日前及びUUO後の14日間に1日1回処理した。続いてラットを殺し、腎臓を取り出し、パラフィンに包埋して切片を作成した。ED1マクロファージに対するモノクローナル抗体(1:75、Setotec)でスライドを処理した。セイヨウワサビペルオキシダーゼ結合ウサギ抗マウス二次抗体(Dako)をマクロファージ検出に用いた。続いて切片を10%ヘマトキシリンで対比染色した。生理食塩水処理ラットの閉塞腎(図10B)のマクロファージ数は、反対側の非閉塞コントロール(図10A)と比較して顕著に増加した。マクロファージ浸潤はSS-31処理ラットで顕著に減少した(図10C)(P<0.05;t-検定)。
ラットを、生理食塩水(n=6)又はSS-31(1mg/kg, ip, n=6)で、UUOの誘発の1日前及びUUO後の14日間に1日1回処理した。続いてラットを殺し、腎臓を取り出し、パラフィンに包埋して切片を作成した。スライドを10%ヘマトキシリンおよびエオシンで、さらに間質線維症のためにメーソンのトリコム(Masson's trichome)(青色染色)で染色した。生理食塩水処理ラット(図11B)の閉塞腎は、反対側のコントロール(図11A)と比較して線維症の増加を示し、一方、SS-31処理ラットの閉塞腎は顕著に少ない線維症を示した(P<0.05;t-検定)。
これらの結果は、SS-31はUUOによって誘発される腎細管細胞のCD36アップレギュレーションを抑制することを示している。
【実施例6】
【0033】
実施例6:SS-31及びSS-20は、長時間の低温虚血保存後の再灌流時の単離した心臓におけるCD36発現を減少させた
器官移植は、レシピエントへの輸送のために、単離した器官の低温保存を必要とする。これまでのところ、心臓移植は、冠状動脈血流が重度に損なわれる前に耐ええる短時間(<4時間)の低温虚血保存に限定される。冠状動脈内皮及び心筋のCD36の発現は、長時間の低温虚血保存及び温かい再灌流に付された単離心臓でアップレギュレートされる。
単離したモルモットの心臓を、セント・トーマス(St. Thomas)溶液のみ、又は1nMのSS-31若しくは100nMのSS-20を含むセント・トーマス溶液で3分間灌流し、続いて同じ溶液に4℃で18時間保存した。虚血保存後に、34℃のクレブ-ヘンゼライト(Kreb-Henseleit)溶液で90分灌流した。モルモットから新しく単離した心臓をコントロールとして用いた。
心臓をパラフィン中で固定し、抗CD36ウサギポリクローナル抗体による免疫染色のために薄く切った。結果は図12に示されている。2つの切片は各処理群を示す。抗体染色は、CD36が正常な心臓の内皮及び心筋で発現することを示した。“バックグラウンド”コントロール(図12A及び12B)は、一次抗体で処理されていない正常な非虚血心臓の2つの切片を表している。“正常な心臓”(図12C及び12D)は、非虚血心臓から得られた2つの切片を表している。セント・トーマス溶液中で4℃にて18時間保存された代表的な心臓の切片(図12E及び12F)は、“正常な心臓”と比較してCD36染色の増加を示した。CD36染色は、1nMのSS-31(図12G及び12H)又は100nMのSS-20(図12I及び12J)とともにセント・トーマス溶液中で18時間保存された心臓では顕著に減少した。
CD36染色は、18時間の低温虚血保存及び温再灌流に付された心臓で増加する。しかしながら、1nMのSS-31又は100nMのSS-20とともに保存された心臓は、CD36発現のアップレギュレーションを示さなかった。
心臓における脂質の過酸化もまた芳香族性陽イオンペプチドによって減少した。モルモットの心臓を心停止溶液(セント・トーマス溶液)のみ、又は1nMのSS-31若しくは100nMのSS-20を含むセント・トーマス溶液で3分間灌流し、続いて18時間の低温虚血(4℃)に付した。続いて、前記心臓をクレブ-ヘンゼライト緩衝液で34℃にて90分灌流した。組織薄片のパラフィン切片中の4-ヒドロキシノネノール(HNE)修飾タンパク質の免疫組織化学分析を、抗HNE抗体(Santa Cruz)及び蛍光用二次抗体とともにインキュベートすることにより実施した。HNE染色は、非虚血心臓(図13A)と比較してセント・トーマス溶液中で18時間の低温保存に付された心臓(図13B)で顕著に増加した。HNE染色はSS-31(図13C)又はSS-20(図13D)で保存した心臓で減少した。
さらにまた、前記ペプチドは内皮のアポトーシスを劇的に減少させた(図14)。モルモットの心臓を心停止溶液(セント・トーマス溶液)のみ、又は1nMのSS-31若しくは100nMのSS-20を含むセント・トーマス溶液で3分間灌流し、続いて18時間の低温虚血(4℃)に付した。続いて、前記心臓をクレブ-ヘンゼライト緩衝液で34℃にて90分灌流した。脱パラフィン後に、切片をジオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(Tdt)及びジゴキシゲニン-dNTPとともに1時間インキュベートした。反応は停止緩衝液で停止させた。続いて蛍光抗ジゴキシゲニン抗体を適用した。セント・トーマス溶液中で18時間の低温保存に付した心臓(図14C及び14D)は顕著な内皮のアポトーシスを示したが、一方、非虚血正常心臓では内皮のアポトーシスは観察されなかった。アポトーシス細胞はSS-31(図14E及び14F)又はSS-20(図14G及び14H)で保存した心臓では観察されなかった。
長時間の低温虚血保存及び温再灌流後の冠状動脈血流の顕著な改善が得られた(図15)。モルモットの心臓を心停止溶液(セント・トーマス溶液)のみ、又は1nMのSS-31(図15A)若しくは100nMのSS-20(図15B)を含むセント・トーマス溶液で3分間灌流し、続いて18時間の低温虚血(4℃)に付した。続いて、前記心臓をクレブ-ヘンゼライト緩衝液で34℃にて90分灌流した。冠状動脈血流は、虚血前コントロール(100%として表した)と比較して、長時間虚血後に顕著に減少した。SS-31またはSS-20中の保存は、虚血前の血流のほぼ80%まで冠状動脈流を回復させた。
【実施例7】
【0034】
実施例7:SS-31は糖尿病マウスの腎臓損傷を防ぐ
CD36の発現は、糖尿病患者の多様な組織(単球、心臓、腎臓及び血漿を含む)でアップレギュレートする。高グルコースは、CD36のmRNAの翻訳効率を改善することによってCD36の発現をアップレギュレートすることが知られている。糖尿病性腎症は1型及び2型糖尿病の一般的な合併症であり、尿細管上皮の変性及び間質線維症を伴う。CD36は、糖尿病性腎症の尿細管上皮のアポトーシスの仲介物質として特定された。高グルコースは近位の尿細管上皮細胞のCD36発現及びアポトーシスを刺激する。
ストレプトゾトシン(STZ)をマウスの糖尿病誘発に用いた。CD-1マウスの3群を用いた:I群−STZ処置無し;II群−STZ(50mg/kg, ip)を1日1回5日間投与;III群−STZ(50mg/kg, ip)を1日1回5日間投与、及びSS-31(3mg/kg, ip)を1日1回16日間投与。STZ処置は血中グルコースの進行性増加をもたらした。3週目までに、血中グルコースは以下のとおりであった:I群(10.6±0.27mmol/L);II群(24.5±1.15mmol/L);III群(21.3±1.48mmol/L)。動物は3週間後に犠牲にし、腎臓組織は組織病理検査のために保存した。腎細管の刷子縁については腎切片を過ヨウ素酸シッフ染色(PAS)で調べた。
STZ処置は、腎皮質の近位尿細管の刷子縁の劇的な消失を引き起こした(図16)。STZで処理されなかったマウスでは、皮質の腎刷子縁はPASで赤く染色された(図16A、白い矢印を参照)。STZで処置したマウスでは、刷子縁は消失し、尿細管上皮細胞は小さな凝縮核を示した(図16B)。毎日SS-31(3mg/kg, ip)で処置することによって、STZ処置マウスの刷子縁の消失が防止され(図16C)、核は正常な外観を示した(図16C、上下の図版)。一般的には、近位の腎細管の構造はSS-31処置糖尿病マウスで保存された。
STZ処置は尿細管上皮細胞で顕著なアポトーシスを誘発した(図17)。TUNELアッセイを用い、腎切片をアポトーシスについて調べた。脱パラフィン後、切片をジオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(Tdt)及びジゴキシゲニン-dNTPとともに1時間インキュベートした。反応は停止緩衝液で停止させた。続いて蛍光抗ジゴキシゲニン抗体を適用した。STZ処理マウスの腎切片は、STZで処置しなかったマウスの非アポトーシス細胞(図17A、図版a)と比較して、近位の尿細管に多数のアポトーシス核を示した(図17A、図版b)。毎日のSS-31による処理は、近位尿細管のアポトーシス細胞を劇的に減少させた(図17A、図版c)。図17Bは、SS-31により提供される尿細管細胞アポトーシスの顕著な減少を示す。
近位尿細管上皮細胞におけるCD36発現は、高グルコースによって増加することが知られており、糖尿病モデルではアップレギュレートされる。CD36の発現を減少させることによって、血中グルコースに影響を与えることなく、STZ処理マウスで尿細管細胞のアポトーシス及び刷子縁消失を抑制することができた。
【技術分野】
【0001】
本発明はCD36の発現を減少させる方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
CD36は、クラスBスカベンジャーレセプターファミリーの膜貫通タンパク質である。前記タンパク質は、多数の細胞(例えば毛細血管内皮、マクロファージ、血小板、脂肪細胞、上皮細胞(例えば腸上皮及び腎細管細胞など)、膵小島細胞、及び心筋)上で広く発現される。前記レセプターは、多数の細胞外リガンド、例えばトロンボスポンジン-1、長鎖脂肪酸、及び酸化低密度リポタンパク質と相互作用することができる。
CD36の異常な発現は極めて多様な疾患及び症状に関与している。例えば、CD36を欠くマウスは、西洋型の飼料を与えられたとき野生型マウスと比較してアテローム性病巣が少ない。さらにまた、CD36ノックアウトマウスは、急性脳虚血から保護されると報告された。
したがって、CD36の発現を減少させる方法は、CD36の異常な発現を特徴とする疾患又は症状の治療に有益である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明はCD36の発現を減少させる方法を提供する。
また、本発明は、哺乳動物においてCD36の発現の増加を特徴とする疾患又は症状を治療する方法を提供する。
本発明は哺乳動物の尿管閉塞を治療する方法を提供も提供する。
さらに、本発明は摘出器官又は組織でCD36発現を減少させる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の方法は、細胞を有効量の芳香族性陽イオンペプチドと接触させることを含む。
本発明の方法は、有効量の芳香族性陽イオンペプチドを哺乳動物に投与することを含む。
本発明の方法で有用な芳香族性陽イオンペプチドは、少なくとも1つの正味の陽電荷;最小限で4つのアミノ酸;最大限で約20のアミノ酸;正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間で、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係;及び芳香族基の最小数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)との間で、2aはpt+1以下の最大の数であるが、ただしaが1のときはptもまた1でありえるという関係を有する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】SS-31は、マウスの腹腔マクロファージでoxLDL-誘発CD36 mRNA発現、CD36タンパク質発現、及び泡沫細胞形成を減少させた。
【図2】SS-31による治療は、急性脳虚血に付した野生型マウスで梗塞体積及び半球腫脹を減少させた。
【図3】SS-31による治療は、野生型マウスの虚血後の脳における還元グルタチオン(GSH)の低下を減少させた。
【図4】SS-31は、急性脳虚血に付したCD36ノックアウトマウスで梗塞体積及び半球腫脹を減少させる効果を示さなかった。
【図5】SS-31は、CD36ノックアウトマウスの虚血後の脳でGSH枯渇を減少させなかった。
【図6】SS-31は、野生型マウスの虚血後の脳でCD36 mRNAの発現を減少させた。
【図7】SS-31は、一側性尿管閉塞(UUO)後の腎細管細胞におけるCD36発現を減少させた。反対側の非閉塞腎(図7A);生理食塩水処理動物の閉塞腎(図73B);及びSS-31処理ラットから得た閉塞腎(図7C)。
【図8】SS-31は、UUO後に腎における脂質の過酸化を減少させる。閉塞腎の尿細管細胞(図8B);反対側の非閉塞コントロール(図8A);SS-31処理ラットの閉塞腎(図8C)。
【図9】SS-31は、UUO後の閉塞腎における尿細管細胞のアポトーシスを減少させる。生理食塩水処理動物の閉塞腎(図9B);反対側の非閉塞コントロール(図9A);SS-31処理動物の閉塞腎(図9C)。
【図10】SS-31は、UUOによって誘発される閉塞腎のマクロファージ浸潤を減少させる。閉塞腎(図10B);反対側の非閉塞コントロール(図10A);SS-31処理ラット(図10C)。
【図11】SS-31は、UUO後の閉塞腎における間質性線維症を減少させる。閉塞腎(図11B);反対側の非閉塞コントロール(図11A);SS-31処理ラット(図11C)。
【図12】単離した心臓のSS-31又はSS-20との低温保存はCD36のアップレギュレーションを防ぐ。“バックグラウンド”コントロール(図12A及び12B)は、抗CD36一次抗体で処理されていない正常な非虚血心の2つの切片を示す。“正常な心臓”(図12C及び12D)は、非虚血心から得た2つの切片を示す。セント・トーマス溶液中にて18時間4℃で保存した代表的な心臓の切片(図12E及び12F)は、“正常な心臓”と比較してCD36染色の増加を示した。CD36染色は、セント・トーマス溶液中の1nMのSS-31(図12G及び12H)又は100nMのSS-20(図12I及び12J)とともに保存した心臓で有意に減少した。
【図13】SS-31及びSS-20は、長時間の低温虚血の後、温かい再灌流に付したモルモット単離心臓の脂質の過酸化を減少させた。非虚血心(図13A)と比較したセント・トーマス溶液中で18時間低温保存に付した心臓のHNE染色(図13B)。HNE染色は、SS-31(図9C)又はSS-20(図13D)とともに保存した心臓で減少した。
【図14】SS-31及びSS-20は、長時間の低温虚血の後、温かい再灌流に付したモルモット単離心臓における内皮のアポトーシスを止めた。セント・トーマス溶液中で18時間低温保存に付した心臓(図14C及び14D);非虚血正常心(図14A及び14B)。SS-31(図14E及び14F)又はSS-20(図14G及び14H)とともに保存した心臓ではアポトーシスは観察されなかった。
【図15】SS-31及びSS-20は、長時間低温虚血の後で温かい再灌流に付したモルモット単離心臓で冠状動脈流を温存させる。モルモットの心臓を、心停止溶液(セント・トーマス溶液)単独、又は1nMのSS-31(図15A)又は100nMのSS-20(図15B)を含むセント・トーマス溶液で3分間灌流し、続いて18時間の低温虚血(4℃)に付した。
【図16】SS-31は、糖尿病マウスの近位尿細管に対する損傷を防ぐ。5日間ストレプトゾトシン(STZ)を注射することによって糖尿病を誘発した。3週間後に得た腎切片は、STZ処理動物(図16A、B)の刷子縁の消失を示した(前記はSTZで処理されていないマウス(A)では観察されなかった)。刷子縁の消失は、毎日SS-31(3mg/kg)を投与したSTZ処理動物(C)では観察されなかった。
【図17】SS-31は、糖尿病マウスで腎細管上皮細胞のアポトーシスを防ぐ。糖尿病は、5日間ストレプトゾトシン(STZ)を注射することによって誘発した。3週間後に得た腎切片は、STZ処理動物(図17A、b)の近位尿細管におけるアポトーシス細胞の劇的な増加を示した(これはSTZで処理されていないマウス(図17A、a)では観察されなかった)。STZ誘発アポトーシスは、毎日SS-31(3mg/kg)を投与したマウス(図17A、図版c)では観察されなかった。STZによって引き起こされるアポトーシス細胞のパーセントはSS-31処理によって有意に減少した(図17B)。
【発明を実施するための形態】
【0006】
ペプチド
本発明は、ある種の芳香族性陽イオンペプチドによるCD36発現の減少を目的とする。前記芳香族性陽イオンペプチドは水溶性であり、高度に極性である。これらの特性にもかかわらず、前記ペプチドは容易に細胞膜を貫通する。
本発明で有用な芳香族性陽イオンペプチドは、ペプチド結合によって結合された、最小限3つのアミノ酸、好ましくは最小限4つのアミノ酸を含む。
本発明の芳香族性陽イオンペプチドに存在するアミノ酸の最大数は約20アミノ酸であり、ペプチド結合によって結合されている。好ましくは、アミノ酸の最大数は約12、より好ましくは約9、もっとも好ましくは約6つである。最適には、前記ペプチドに存在するアミノ酸の数は4つである。
本発明で有用な芳香族性陽イオンペプチドのアミノ酸はいずれのアミノ酸でもよい。本明細書で用いられる、“アミノ酸”という用語は、少なくとも1つのアミノ基及び少なくとも1つのカルボキシル基を含む任意の有機分子を指す。好ましくは、少なくとも1つのアミノ基はカルボキシル基に対してα位に存在する。
前記アミノ酸は天然に存在しえる。天然に存在するアミノ酸には、例えば哺乳動物のタンパク質で通常的に見出される、20のもっとも一般的な左旋性(L)アミノ酸、すなわちアラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ileu)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)及びバリン(Val)が含まれる。
【0007】
他の天然に存在するアミノ酸には、例えばタンパク質合成とは関連しない代謝過程で合成されるアミノ酸が含まれる。例えばアミノ酸、オルニチン及びシトルリンは、尿の生成時に哺乳動物の代謝で合成される。天然に存在するアミノ酸のまた別の例にはヒドロキシプロリン(Hyp)が含まれる。
本発明で有用なペプチドは、場合によって1つ以上の天然には存在しないアミノ酸を含む。最適には、前記ペプチドは天然に存在するアミノ酸を含まない。前記天然に存在しないアミノ酸は、左旋性(L-)、右旋性(D-)又はその混合物でありえる。
天然に存在しないアミノ酸は、典型的には生きている生物で通常の代謝過程で合成されず、天然にはタンパク質中に存在しないアミノ酸である。さらにまた、本発明で有用な天然に存在しないアミノ酸はまた一般的なプロテアーゼによって認識されない。
天然に存在しないアミノ酸は前記ペプチドの任意の位置に存在することができる。例えば天然に存在しないアミノ酸は、N-末端、C-末端、又はN-末端とC-末端との間の任意の位置に存在することができる。
前記天然に存在しないアミノ酸は、天然のアミノ酸では見出されない、例えばアルキル、アリール、又はアルキルアリール基を含むことができる。非天然のアルキルアミノ酸のいくつかの例には、α-アミノ酪酸、β-アミノ酪酸、γ-アミノ酪酸、δ-アミノ吉草酸、及びε-アミノカプロン酸が含まれる。非天然のアリールアミノ酸のいくつかの例には、オルト-、メタ-及びパラ-アミノ安息香酸が含まれる。非天然のアルキルアリールアミノ酸のいくつかの例には、オルト-、メタ-及びパラ-アミノフェニル酢酸、及びγ-フェニル-β-アミノ酪酸が含まれる。
天然に存在しないアミノ酸には天然に存在するアミノ酸の誘導体が含まれる。天然に存在するアミノ酸の誘導体は、例えば天然に存在するアミノ酸への1つ以上の化学基の付加を含む。
【0008】
例えば、1つ以上の化学基を、フェニルアラニン又はチロシン残基の芳香環の2'、3'、4'、5'若しくは6'位の1つ以上に、又はトリプトファン残基の芳香環の4'、5'、6'若しくは7'位の1つ以上に付加することができる。前記の基は、芳香環に付加することができる任意の化学基でありえる。そのような基のいくつかの例には、分枝又は非分枝C1−C4アルキル(例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル又はt−ブチル)、C1−C4アルキルオキシ(すなわちアルコキシ)、アミノ、C1−C4アルキルアミノ及びC1−C4ジアルキルアミノ(例えばメチルアミノ、ジメチルアミノ)、ニトロ、ヒドロキシル、ハロ(すなわちフルオロ、クロロ、ブロモ、又はヨード)が含まれる。天然に存在するアミノ酸の天然に存在しない誘導体のいくつかの具体的な例にはノルバリン(Nva)及びノルロイシン(Nle)が含まれる。
本発明の方法で有用なペプチドにおけるアミノ酸の改変のまた別の例は、前記ペプチドのアスパラギン酸又はグルタミン酸残基のカルボキシル基の誘導体化である。誘導体化のある例は、アンモニアによるか、又は第一若しくは第二アミン(例えばメチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン又はジエチルアミン)によるアミド化である。誘導体化のまた別の例には、例えばメチルアルコール又はエチルアルコールによるエステル化が含まれる。
また別のそのような改変の例にはリジン、アルギニン又はヒスチジン残基のアミノ基の誘導体化が含まれる。例えば、そのようなアミノ基はアシル化することができる。いくつかの適切なアシル基には、例えば、上記に記載したC1−C4アルキル基のいずれかを含むベンゾイル基又はアルカノイル基が含まれる(例えばアセチル基又はプロピオニル基)。
【0009】
天然に存在しないアミノ酸は、一般的なプロテアーゼに対して好ましくは耐性、より好ましくは非感受性である。プロテアーゼに対して耐性又は非感受性である、天然に存在しないアミノ酸の例には、上記に記載した天然に存在するL-アミノ酸のいずれかの右旋型とともに、天然に存在しないL-及び/又はD-アミノ酸が含まれる。D-アミノ酸はタンパク質中に通常は存在しないが、ただしそれらは、細胞内の通常のリボソームタンパク質合成機構以外の手段によって合成されるある種のペプチド抗生物質で見出される。本明細書においてはD-アミノ酸は天然に存在しないアミノ酸であると考える。
プロテアーゼ感受性を最小限にするために、本発明の方法で有用なペプチドは、アミノ酸が天然に存在するものであれ又は天然に存在しないものであれ、通常のプロテアーゼによって認識される、5つ未満、好ましくは4つ未満、より好ましくは3つ未満、もっとも好ましくは2つ未満の連続するL-アミノ酸を有するべきである。最適には、前記ペプチドはD-アミノ酸のみを有するか、又はL-アミノ酸を全くもたない。
前記ペプチドがプロテアーゼ感受性アミノ酸配列を含む場合、前記アミノ酸の少なくとも1つは、好ましくは天然に存在しないD-アミノ酸であり、それによってプロテアーゼ耐性を付与する。プロテアーゼ感受性配列の例には、通常のプロテアーゼ(例えばエンドプロテアーゼ及びトリプシン)によって容易に切断される2つ以上の連続する塩基性アミノ酸が含まれる。塩基性アミノ酸の例にはアルギニン、リジン及びヒスチジンが含まれる。
【0010】
芳香族性陽イオンペプチドが、ペプチド中のアミノ酸残基総数に対して、生理学的pHにおいて正味陽電荷の最小数を有するということは重要である。生理学的pHでの正味の陽電荷の最小数は下記では(pm)と称される。ペプチド中のアミノ酸残基の総数は下記では(r)と称される。
下記で考察される正味の陽電荷の最小数はいずれも生理学的pHにおける数である。本明細書で用いられる、“生理学的pH”という用語は、哺乳動物の体の組織及び器官の細胞における正常なpHを指す。例えば、ヒトの生理学的pHは通常はほぼ7.4であるが、哺乳動物での正常な生理学的pHは約7.0から約7.8の任意のpHでありえる。
本明細書で用いられる、“正味の電荷”は、ペプチド中に存在するアミノ酸によって保有される陽電荷数及び陰電荷数の差引き値を指す。本明細書では、正味の電荷は生理学的pHで測定されることは理解されよう。生理学的pHで陽性に荷電される天然に存在するアミノ酸には、L-リジン、L-アルギニン、及びL-ヒスチジンが含まれる。生理学的pHで陰性に荷電される天然に存在するアミノ酸には、L-アスパラギン酸及びL-グルタミン酸が含まれる。
典型的には、ペプチドは、陽性に荷電されたN-末端アミノ基及び陰性に荷電されたC-末端カルボキシル基を有する。電荷は生理学的pHで互いに相殺される。
正味の電荷の計算例として、ペプチドTyr-Arg-Phe-Lys-Glu-His-Trp-Argは、1つの陰性荷電アミノ酸(すなわちGlu)及び4つの陽性荷電アミノ酸(すなわち2つのArg残基、1つにLys及び1つのHis)を有する。したがって上記ペプチドは正味3つの陽電荷を有する。
【0011】
本発明のある実施態様では、芳香族性陽イオンペプチドは、生理学的pHでの正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係を有する。この実施態様では、正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間の関係は以下のとおりである:
別の実施態様では、芳香族性陽イオンペプチドは、正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間に、2pmはr+1以下の最大の数であるという関係を有する。この実施態様では、正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間の関係は以下のとおりである:
ある実施態様では、正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)は等しい。別の実施態様では、ペプチドは3つ又は4つのアミノ酸残及び最低限1つの正味の陽電荷、好ましくは最低限2つの正味の陽電荷、より好ましくは最低限3つの正味の陽電荷を有する。
【0012】
芳香族性陽イオンペプチドが正味の陽電荷の総数(pt)に対して最低限の芳香基数を有することもまた重要である。芳香基の最小数は下記では(a)と称される。
芳香基を有する、天然に存在するアミノ酸には、ヒスチジン、トリプトファン、チロシン及びフェニルアラニンが含まれる。例えば、ヘキサペプチドのLys-Gln-Tyr-Arg-Phe-Trpは、2つの正味の陽電荷(リジン及びアルギニン残基による)及び3つの芳香基(チロシン、フェニルアラニン及びトリプトファン残基による)を有する。
本発明のある実施態様では、本発明の方法で有用な芳香族性陽イオンペプチドは、芳香基の最小数(a)と生理学的pHにおける正味の陽電荷の総数(pt)との間に、3aはpt+1以下の最大の数であるが、ただしptが1のときaもまた1でありえる関係を有する。この実施態様では、芳香基の最小数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)との間の関係は以下のとおりである:
また別の実施態様では、芳香族性陽イオンペプチドは、芳香基の最小数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)との間に、2aがpt+1以下の最大の数であるいう関係を有する。この実施態様では、芳香族アミノ酸残基の最小数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)との間の関係は以下のとおりである:
別の実施態様では、芳香基の数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)は等しい。
【0013】
カルボキシル基、特にC-末端アミノ酸の末端カルボキシル基は好ましくは、例えばアンモニアでアミド化されて、C-末端アミドを形成する。また別には、C-末端アミノ酸の末端カルボキシル基は、任意の第一又は第二アミンでアミド化することができる。第一又は第二アミンは、例えばアルキル(特に分枝又は非分枝C1−C4アルキル)、又はアリールアミンでありえる。したがって、ペプチドのC-末端のアミノ酸は、アミド、N-メチルアミド、N-エチルアミド、N,N-ジメチルアミド、N,N-ジエチルアミド、N-メチル-N-エチルアミド、N-フェニルアミド又はN-フェニル-N-エチルアミド基に変換することができる。
本発明の芳香族性陽イオンペプチドのC-末端には出現しないアスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸及びグルタミン酸残基の遊離カルボキシレート基もまた、それらがペプチド内に出現する場合はいつでもアミド化することができる。これら内部の位置のアミド化は、上記で述べたように、アンモニア又は任意の第一若しくは第二アミンによることができる。
ある実施態様では、本発明の方法で有用な芳香族性陽イオンペプチドは、2つの正味の陽電荷及び少なくとも1つの芳香族アミノ酸を有するトリペプチドである。具体的な実施態様では、本発明の方法で有用な芳香族性陽イオンペプチドは、2つの正味の陽電荷及び2つの芳香族アミノ酸を有するトリペプチドである。
【0014】
本発明の方法で有用な芳香族性陽イオンペプチドには以下のペプチド例が含まれる(ただしこれらに限定されない):
Lys-D-Arg-Tyr-NH2;
Phe-D-Arg-His;
D-Tyr-Trp-Lys-NH2;
Trp-D-Lys-Tyr-Arg-NH2;
Tyr-His-D-Gly-Met;
Phe-Arg-D-His-Asp;
Tyr-D-Arg-Phe-Lys-Glu-NH2;
Met-Tyr-D-Lys-Phe-Arg;
D-His-Glu-Lys-Tyr-D-Phe-Arg;
Lys-D-Gln-Tyr-Arg-D-Phe-Trp-NH2;
Phe-D-Arg-Lys-Trp-Tyr-D-Arg-His;
Gly-D-Phe-Lys-Tyr-His-D-Arg-Tyr-NH2;
Val-D-Lys-His-Tyr-D-Phe-Ser-Tyr-Arg-NH2;
Trp-Lys-Phe-D-Asp-Arg-Tyr-D-His-Lys;
Lys-Trp-D-Tyr-Arg-Asn-Phe-Tyr-D-His-NH2;
Thr-Gly-Tyr-Arg-D-His-Phe-Trp-D-His-Lys;
Asp-D-Trp-Lys-Tyr-D-His-Phe-Arg- D-Gly-Lys-NH2;
D-His-Lys-Tyr- D-Phe-Glu- D-Asp- D-His- D-Lys-Arg-Trp-NH2;
Ala-D-Phe-D-Arg-Tyr-Lys-D-Trp-His-D-Tyr-Gly-Phe;
Tyr-D-His-Phe- D-Arg-Asp-Lys- D-Arg-His-Trp-D-His-Phe;
Phe-Phe-D-Tyr-Arg-Glu-Asp-D-Lys-Arg-D-Arg-His-Phe-NH2;
Phe-Try-Lys-D-Arg-Trp-His-D-Lys-D-Lys-Glu-Arg-D-Tyr-Thr;
Tyr-Asp-D-Lys-Tyr-Phe- D-Lys- D-Arg-Phe-Pro-D-Tyr-His-Lys;
Glu-Arg-D-Lys-Tyr- D-Val-Phe- D-His-Trp-Arg-D-Gly-Tyr-Arg-D-Met-NH2;
Arg-D-Leu-D-Tyr-Phe-Lys-Glu- D-Lys-Arg-D-Trp-Lys- D-Phe-Tyr-D-Arg-Gly;
D-Glu-Asp-Lys-D-Arg-D-His-Phe-Phe-D-Val-Tyr-Arg-Tyr-D-Tyr-Arg-His-Phe-NH2;
Asp-Arg-D-Phe-Cys-Phe-D-Arg-D-Lys-Tyr-Arg-D-Tyr-Trp-D-His-Tyr-D-Phe-Lys-Phe;
His-Tyr-D-Arg-Trp-Lys-Phe-D-Asp-Ala-Arg-Cys-D-Tyr-His-Phe-D-Lys-Tyr-His-Ser-
NH2;
Gly-Ala-Lys-Phe-D-Lys-Glu-Arg-Tyr-His-D-Arg-D-Arg-Asp-Tyr-Trp-D-His-Trp-His-
D-Lys-Asp;及び
Thr-Tyr-Arg-D-Lys-Trp-Tyr-Glu-Asp-D-Lys-D-Arg-His-Phe-D-Tyr-Gly-Val-Ile-D-His-
Arg-Tyr-Lys-NH2。
【0015】
ある実施態様では、本発明の方法で有用なペプチドは、ミュー-オピオイドレセプターアゴニスト活性を有する(すなわちそれらはミュー-オピオイドレセプターを活性化する)。ミュー-オピオイドレセプターの活性化は典型的には鎮痛作用を誘引する。
ある種の事例では、ミュー-オピオイドレセプターアゴニスト活性を有する芳香族性陽イオンペプチドが好ましい。例えば、短期治療時に(例えば急性疾患又は症状で)、ミュー-オピオイドレセプターを活性化する芳香族性陽イオンペプチドを使用することは有益でありえる。そのような急性疾患及び症状はしばしば中等度又は重度の痛みを伴う。これらの事例では、芳香族性陽イオンペプチドの鎮痛作用は、人間の患者又は他の哺乳動物の治療計画で有益でありえる。しかしながら、ミュー-オピオイドレセプターを活性化しない芳香族性陽イオンペプチドもまた、臨床的必要性に応じて鎮痛剤とともに、又は鎮痛剤なしで用いることができる。
あるいは、他の事例ではミュー-オピオイドレセプターアゴニスト活性を有しない芳香族性陽イオンペプチドが好ましい。例えば、長期治療時に(例えば慢性疾患又は症状で)、ミュー-オピオイドレセプターを活性化する芳香族性陽イオンペプチドの使用は禁忌でありえる。これらの事例では、芳香族性陽イオンペプチドの潜在的な副作用又は中毒作用は、人間の患者又は他の哺乳動物の治療計画におけるミュー-オピオイドレセプターを活性化する芳香族性陽イオンペプチドの使用を不可能にするであろう。潜在的な副作用には、鎮静作用、便秘及び呼吸器系の抑制が含まれえる。そのような事例では、ミュー-オピオイドレセプターを活性化しない芳香族性陽イオンペプチドが適切な治療でありえる。
【0016】
ミュー-オピオイドレセプターアゴニスト活性を有する、本発明の方法で有用なペプチドは、典型的には、N-末端(すなわち第一のアミノ酸の位置)にチロシン残基を有するか又はチロシン誘導体である。チロシンの好ましい誘導体には、2'-メチルチロシン(Mmt);2',6'-ジメチルチロシン(2'6'Dmt);3',5'-ジメチルチロシン(3'5'Dmt);N,2',6'-トリメチルチロシン(Tmt);及び2'-ヒドロキシ-6'-メチルチロシン(Hmt)が含まれる。
特に好ましい実施態様では、ミュー-オピオイドレセプターアゴニスト活性を有するペプチドは、式Tyr-D-Arg-Phe-Lys-NH2(便利なように頭文字DALDAによって表され、本明細書ではSS-01と称される)を有する。DALDAはアミノ酸のチロシン、アルギニン及びリジンの寄与による3つの正味の陽電荷を有し、さらにアミノ酸のフェニルアラニン及びチロシンの寄与による2つの芳香基を有する。DALDAのチロシンは、チロシンの改変誘導体、例えば2',6'-ジメチルチロシンであってもよく、式2',6'-Dmt-D-Arg-Phe-Lys-NH2(すなわちDmt1-DALDA、本明細書ではSS-02と称される)を有する化合物を生成する。
ミュー-オピオイドレセプターアゴニスト活性を有しないペプチドは、一般的には、N-末端(すなわちアミノ酸1位)にチロシン残基又はチロシン誘導体をもたない。N-末端のアミノ酸は、チロシン以外の天然に存在するか又は天然に存在しないアミノ酸のいずれかでありえる。
【0017】
ある実施態様では、N-末端のアミノ酸はフェニルアラニン又はその誘導体である。フェニルアラニンの好ましい誘導体には、2'-メチルフェニルアラニン(Mmp);2',6'-ジメチルフェニルアラニン(Dmp);N,2',6'-トリメチルフェニルアラニン(Tmp);及び2'-ヒドロキシ-6'-メチルフェニルアラニン(Hmp)が含まれる。
ミュー-オピオイドレセプターアゴニスト活性を有しない、また別の芳香族性陽イオンペプチドは、式Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(すなわちPhe1-DALDA、本明細書ではSS-20と称される)を有する。また別には、N-末端フェニルアラニンはフェニルアラニンの誘導体、例えば2',6'-ジメチルフェニルアラニン(2'6'Dmp)でもよい。アミノ酸1位に2',6'-ジメチルフェニルアラニンを含むDALDAは、式2',6'-Dmp-D-Arg-Phe-Lys-NH2(すなわち2'6'Dmp1-DALDA)を有する。
好ましい実施態様では、Dmt1-DALDA(SS-02)のアミノ酸配列は、DmtがN-末端に存在しないように再編成される。ミュー-オピオイドレセプターアゴニスト活性を有しないそのような芳香族性陽イオンペプチドの例は、式D-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(本明細書ではSS-31と称される)を有する。
DALDA、Phe1-DALDA、SS-31及びそれらの誘導体は、さらに機能的類似体を含むことができる。類似体が、DALDA、Phe1-DALDA又はSS-31と同じ機能を有するならば、前記ペプチドは、DALDA、Phe1-DALDA又はSS-31の機能的類似体と考えられる。例えば、1つ以上のアミノ酸が別のアミノ酸に置換されている場合、前記類似体はDALDA、Phe1-DALDA又はSS-31の置換変種でありえる。
【0018】
DALDA、Phe1-DALDA又はSS-31の適切な置換変種は保存的なアミノ酸置換を含む。アミノ酸はそれらの物理化学的特徴にしたがって以下のようにグループ分けすることができる:(a)非極性アミノ酸:Ala(A)、Ser(S)、Thr(T)、Pro(P)、Gly(G);
(b)酸性アミノ酸:Asn(N)、Asp(D)、Glu(E)、Gln(Q);
(c)塩基性アミノ酸:His(H)、Arg(R)、Lys(K);
(d)疎水性アミノ酸:Met(M)、Leu(L)、Ile(I)、Val(V);及び
(e)芳香族アミノ酸:Phe(F)、Tyr(Y)、Trp(W)、His(H)。
ペプチド内のアミノ酸の同じグループ内の別のアミノ酸による置換は保存的置換と称され、最初のペプチドの物理化学的特徴を保存することができる。対照的に、ペプチド内のアミノ酸の異なるグループの別のアミノ酸による置換は、一般的には最初のペプチドの特徴を変化させる蓋然性が高くなる。
ミュー-オピオイドレセプターを活性化する、本発明の実施で有用な類似体の例には表1に示す芳香族性陽イオンペプチドが含まれる(ただしこれらに限定されない)。
【0019】
表1
Dab = ジアミノ酪酸
Dap = ジアミノプロピオン酸
Dmt = ジメチルチロシン
Mmt = 2'-メチルチロシン
Tmt = N,2',6'-トリメチルチロシン
Hmt = 2'-ヒドロキシ-6'メチルチロシン
dnsDap = β-ダンシル-L-α,β-ジアミノプロピオン酸
atnDap = β-アントラニロイル-L-α,β-ジアミノプロピオン酸
Bio = ビオチン
【0020】
ミュー-オピオイドレセプターを活性化しない、本発明の実施で有用な類似体の例には表2に示す芳香族性陽イオンペプチドが含まれる(ただしこれらに限定されない)。
表2
Cha = シクロヘキシル
表1及び2に示したペプチドのアミノ酸はL-又はD-配置のどちらかである。
【0021】
方法
上記に記載した芳香族性陽イオンペプチドは、細胞のCD36発現の誘導に有用である。本明細書の目的のためには、細胞のCD36発現は、CD36の発現が約10%、好ましくは約25%、より好ましくは約50%、さらに好ましくは約75%減少した場合に減少したとみなされる。最適には、CD36は細胞内でほぼ正常レベルに減少する。
CD36は極めて多様な細胞で発現される。そのような細胞の例には、マクロファージ;血小板;脂肪細胞;内皮細胞、例えば微細血管内皮細胞及び臍帯静脈内皮細胞;上皮細胞、例えば腸管上皮細胞、胆嚢上皮細胞、膀胱上皮細胞、気管支上皮細胞及び肺胞上皮細胞;腎細管細胞;膵臓小島細胞;肝細胞;骨格筋細胞;心筋細胞;神経細胞;神経膠細胞;膵臓細胞;精子細胞などが含まれる。
本明細書の目的のためには、正常細胞よりも約10%、典型的には約25%、より典型的には約50%、さらに典型的には約75%を超えるCD36を発現する細胞は、増加レベルのCD36を発現したとみなされる。
ある実施態様では、本発明は、細胞のCD36発現を減少させる方法を提供する。CD36を発現するいずれの細胞も本発明の方法で用いることができ、これらの細胞には上記に記載した細胞が含まれる。細胞のCD36発現を減少させる方法は、細胞を上記に記載した芳香族性陽イオンペプチドの有効量と接触させることを含む。
別の実施態様では、本発明は、その必要がある哺乳動物でCD36発現を減少させる方法を提供する。哺乳動物でCD36発現を減少させる前記方法は、本明細書に記載した芳香族性陽イオンペプチドの有効量を哺乳動物に投与することを含む。
【0022】
CD36発現を減少させる必要がある哺乳動物には、例えばCD36発現が増加した哺乳動物が含まれる。CD36の発現増加は多様な疾患及び症状に付随する。CD36発現の増加を特徴とする疾患及び症状の例には、アテローム性硬化症、炎症、異常な血管形成、異常な脂質代謝、アポトーシス細胞の異常な除去、虚血(例えば脳虚血及び心筋虚血)、虚血再灌流、尿管閉塞、卒中、アルツハイマー病、糖尿病、糖尿病性腎症、及び肥満が含まれるが、ただしこれらに限定されない。アテローム性硬化症におけるCD36の中心的な関与に関する考察は以下の文献で見出すことができる:“Targeted disruption of the class B scavenger receptor CD36 protrcts against atherosclerotic lesion development in mice”, M. Febbraio, EA Podrez, JD Smith, DP Hajjar, SL Hazen et al. J Clinical Investigation (2000) 105:1049-1056;及び”CD36: a class B scavenger receptor involved in angiogenesis, atherosclerosis, inflammation, and lipid metabolism”, M. Febbraio, DP. Hajjar and RL Silverstein, Journal of Clinical Investigation (2001) 108:785
-791。
CD36発現を減少させる必要がある哺乳動物にはまた糖尿病の合併症をもつ哺乳動物が含まれる。糖尿病のいくつかの合併症には、腎症の他に、神経症、網膜症、冠状動脈疾患、及び糖尿病に付随する抹消血管の疾患が含まれる。
また別の実施態様では、本発明は摘出器官及び組織でCD36発現を減少させる方法に関する。前記方法は、上記に記載した芳香族性陽イオンペプチドの有効量と摘出器官又は組織を接触させることを含む。例えば、器官又は組織は、例えば自家移植又は他家移植のために摘出される。器官及び組織のいくつかの例には心臓、肺臓、膵臓、腎臓、皮膚などが含まれる。
【0023】
ペプチドの合成
本発明の方法で有用なペプチドは、当分野で周知の任意の方法によって合成することができる。化学的にタンパク質を合成するための適切な方法には、例えば以下の文献に記載された方法が含まれる:Stuart and Young in “Solid Phase Peptide Synthesis”, Second Edition, Pierce Chemical Company (1984);及び”Solid Phase Peptide Synthesis”, Methods Enzymol. 289, Academic (1997) New york, Inc., New York。
【0024】
投与の態様
細胞、器官又は組織をペプチドと接触させるための当業者に公知の任意の方法を用いることができる。適切な方法には、in vitro、ex vivo、又はin vitroの方法が含まれる。
in vitroの方法は典型的には培養サンプルを含む。例えば、細胞を容器(例えば組織培養プレート)に入れ、CD36発現を減少させるために適切な条件下で、芳香族性陽イオンペプチドとともにインキュベートすることができる。当業者は適切なインキュベーション条件を容易に決定することができる。
ex vivoの方法は典型的には哺乳動物(例えばヒト)から摘出した細胞、器官又は組織を含む。例えば、前期細胞、器官又は組織を適切な条件下でペプチドとともにインキュベートすることができる。接触させた細胞、器官又は組織は通常はドナーに戻すか、レシピエントに移植するか、又は将来の使用に備えて保存される。したがって、本ペプチドは一般的には医薬的に許容できる担体中に存在する。
in vivoの方法は典型的には、芳香族性陽イオンペプチド(例えば上記に記載されたもの)の哺乳動物(好ましくはヒト)への投与に限定される。本発明の方法で有用なペプチドは、CD36の発現の減少又は哺乳動物の治療に有効な量で哺乳動物に投与される。前記有効な量は、前臨床又は臨床試験時に、内科医及び臨床医に周知の方法によって決定される。
本発明の方法で有用なペプチド(好ましくは医薬組成物中のペプチド)の有効量は、その必要がある哺乳動物に、医薬化合物の投与のためによく知られている多数の方法のいずれかによって投与されえる。本ペプチドは全身的に又は局所的に投与することができる。
ある実施態様では、本ペプチドは静脈内に投与される。例えば、本発明の方法で有用な芳香族性陽イオンペプチドは、迅速な静脈内ボーラス投与により投与することができる。しかしながら好ましくは、本ペプチドは一定速度の静脈内輸液として投与される。
【0025】
ペプチドはまた、経口的、局所的、鼻内、筋肉内、皮下又は経皮的に投与することもできる。好ましい実施態様では、本発明の方法による芳香族性陽イオンペプチドの経皮的投与はイオン導入による。前記では、電荷を有するペプチドは電流によって皮膚を通過してデリバーされる。
他の投与ルートには、脳室内又は脊髄内ルートが含まれる。脳室内ルートは脳室系への投与をさす。脊髄内ルートは、脊髄のクモ膜下腔への投与を指す。したがって、脳室内又は脊髄内投与は、中枢神経系の器官又は組織に影響を及ぼす疾患及び症状に対して好ましい。
本発明の方法で有用なペプチドはまた、当分野で公知のように、持続性放出によって哺乳動物に投与することができる。持続性放出投与は、一定の期間にわたって一定の薬剤レベルを達成するための薬剤デリバリー方法である。薬剤レベルは典型的には血清又は血中濃度によって測定される。
制御放出によって化合物をデリバーする方法の説明は国際PCT出願WO02/083106で見出すことができる。前記PCT出願は参照により本明細書に含まれる。
製薬業界で公知のいずれの処方も、本発明の方法で有用な芳香族性陽イオンペプチドの投与に適している。経口投与のために、液体又は固体処方物を用いることができる。処方物のいくつかの例には錠剤、ゼラチンカプセル、ピル、トローチ、エリキシル、懸濁液、シロップ、ウェファース、チューインガムなどが含まれる。当業者に知られているように、ペプチドは、適切な担体(ビヒクル)又は賦形剤と混合することができる。担体及び賦形剤の例には、デンプン、ミルク、砂糖、ある種のタイプの粘土、ゼラチン、乳酸、ステアリン酸又は前記の塩(ステアリン酸マグネシウム又はカルシウムを含む)、タルク、植物脂肪又は油、ゴム及びグリコールが含まれる。
【0026】
全身的、脳室内、脊髄内、鼻内、皮下又は経皮投与のために、本発明の方法で有用な芳香族性陽イオンペプチドの処方物は、通常の稀釈剤、担体又は賦形剤など(例えばペプチドをデリバーするために当分野で公知のもの)を利用することができる。例えば、前記処方物は以下の1つ以上を含むことができる:安定化剤、界面活性剤、好ましくは非イオン性界面活性剤、及び場合によって塩及び/又は緩衝剤。ペプチドは水溶液の形態で又は凍結乾燥形で配布することができる。
例えば、安定化剤は、アミノ酸(例えばグリシン);オリゴ糖(例えばシュクロース、トレハロース、ラクトース又はデキストラン)でありえる。また別には、安定化剤は糖アルコール(例えばマンニトール);又は前記の組合せでもよい。好ましくは、安定化剤又は安定化剤の組合せは、ペプチド重量に対して約0.1%から約10質量%を構成する。
界面活性剤は、好ましくは非イオン性界面活性剤(例えばポリソルベート)である。適切な界面活性剤のいくつかの例には、トゥイーン20、トゥイーン80;ポリエチレングリコール又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(例えば約0.001%(w/v)から約10%(w/v)のプルロニック(Pluronic)F-68)が含まれる。
塩又は緩衝剤は、任意の塩又は緩衝剤、例えばそれぞれ塩化ナトリウム又はリン酸ナトリウム/カリウムでありえる。好ましくは、緩衝剤は医薬組成物のpHを約5.5から約7.5の範囲に維持する。塩及び/又は緩衝剤はまた、人間又は動物への投与に適したレベルのオスモル濃度を維持するために有用である。好ましくは、塩又は緩衝剤は、約150mMから約300mMのほぼ等張濃度で存在する。
本発明の方法で有用なペプチドの処方物は、さらに1つ以上の通常の添加物を含むことができる。そのような添加物のいくつかの例には、安定化剤(例えばグリセロール);抗酸化剤(例えば塩化ベンザルコニウム(“quats”として知られている第四アンモニウム化合物の混合物)、ベンジルアルコール、クロレトン又はクロロブタノール);麻酔剤(例えばモルヒネ誘導体);又は等張剤など(例えば上記に記載したもの)が含まれる。酸化又は他の破壊に対する更なる予防措置として、医薬組成物は非透過性の栓で封印したバイアル中で窒素ガス下にて保存することができる。
本発明にしたがって処置される哺乳動物は、任意の哺乳動物例えば農場動物(例えばヒツジ、ブタ、乳牛及びウマ);ペット動物、例えばイヌ及びネコ;実験動物、例えばラット、マウス及びウサギでありえる。好ましい実施態様では、哺乳動物は人間である。
【0027】
本発明の例示的態様を以下に列挙する。
(1) 以下の(a)−(e)を有する芳香族性陽イオンペプチドの有効量と細胞を接触させることを含む、CD36の発現を減少させる方法:
(a)少なくとも1つの正味の陽電荷;
(b)最小限4つのアミノ酸;
(c)最大限約20のアミノ酸;
(d)正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間で、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係;及び
(e)芳香族基の最小数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)との間で、2aはpt+1以下の最大の数であるが、ただしaが1のときはptもまた1でありえる関係。
(2) 芳香族性陽イオンペプチドがPhe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(SS-20)を含む、(1)に記載の方法。
(3) 芳香族性陽イオンペプチドがD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)を含む、(1)に記載の方法。
(4) 以下の(a)−(e)を有する芳香族性陽イオンペプチドの有効量を哺乳動物に投与することを含む、その必要がある哺乳動物でCD36の発現を減少させる方法:
(a)少なくとも1つの正味の陽電荷;
(b)最小限4つのアミノ酸;
(c)最大限約20のアミノ酸;
(d)正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間で、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係;及び
(e)芳香族基の最小数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)との間で、2aはpt+1以下の最大の数であるが、ただしaが1のときはptもまた1でありえる関係。
(5) 芳香族性陽イオンペプチドがPhe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(SS-20)を含む、(4)に記載の方法。
(6) 芳香族性陽イオンペプチドがD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)を含む、(4)に記載の方法。
(7) 以下の(a)−(e)を有する芳香族性陽イオンペプチドの有効量を哺乳動物に投与することを含む、その必要がある哺乳動物において、CD36発現の増加を特徴とする疾患又は症状を治療する方法:
(a)少なくとも1つの正味の陽電荷;
(b)最小限4つのアミノ酸;
(c)最大限約20のアミノ酸;
(d)正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間で、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係;及び
(e)芳香族基の最小数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)との間で、2aはpt+1以下の最大の数であるが、ただしaが1のときはptもまた1でありえる関係。
(8) CD36発現の増加を特徴とする疾患又は症状がアテローム性硬化症を含む、(7)に記載の方法。
(9) CD36発現の増加を特徴とする疾患又は症状がアルツハイマー病を含む、(7)に記載の方法。
(10) CD36発現の増加を特徴とする疾患又は症状が糖尿病を含む、(7)に記載の方法。
(11) CD36発現の増加を特徴とする疾患又は症状が糖尿病の合併症を含む、(7)に記載の方法。
(12) 芳香族性陽イオンペプチドがPhe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(SS-20)を含む、(7)に記載の方法。
(13) 芳香族性陽イオンペプチドがD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)を含む、(7)に記載の方法。
(14) 以下の(a)−(e)を有する芳香族性陽イオンペプチドの有効量を哺乳動物に投与することを含む、その必要がある哺乳動物の尿管閉塞を治療する方法:
(a)少なくとも1つの正味の陽電荷;
(b)最小限4つのアミノ酸;
(c)最大限約20のアミノ酸;
(d)正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間で、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係;及び
(e)芳香族基の最小数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)との間で、2aはpt+1以下の最大の数であるが、ただしaが1のときはptもまた1でありえる関係。
(15) 芳香族性陽イオンペプチドがPhe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(SS-20)を含む、(14)に記載の方法。
(16) 芳香族性陽イオンペプチドがD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)を含む、(14)に記載の方法。
(17) 以下の(a)−(e)を有する芳香族性陽イオンペプチドの有効量を哺乳動物に投与することを含む、その必要がある哺乳動物で糖尿病性腎症を治療する方法:
(a)少なくとも1つの正味の陽電荷;
(b)最小限4つのアミノ酸;
(c)最大限約20のアミノ酸;
(d)正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間で、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係;及び
(e)芳香族基の最小数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)との間で、2aはpt+1以下の最大の数であるが、ただしaが1のときはptもまた1でありえる関係。
(18) 芳香族性陽イオンペプチドがPhe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(SS-20)を含む、(17)に記載の方法。
(19) 芳香族性陽イオンペプチドがD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)を含む、(17)に記載の方法。
(20) 以下の(a)−(e)を有する芳香族性陽イオンペプチドの有効量と器官を接触させることを含む、摘出器官又は組織でCD36発現を減少させる方法:
(a)少なくとも1つの正味の陽電荷;
(b)最小限4つのアミノ酸;
(c)最大限約20のアミノ酸;
(d)正味の陽電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基総数(r)との間で、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係;及び
(e)芳香族基の最小数(a)と正味の陽電荷の総数(pt)との間で、2aはpt+1以下の最大の数であるが、ただしaが1のときはptもまた1でありえる関係。
(21) 芳香族性陽イオンペプチドがPhe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(SS-20)を含む、(20)に記載の方法。
(22) 芳香族性陽イオンペプチドがD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)を含む、(20)に記載の方法。
【実施例1】
【0028】
実施例1:SS-31は、マウス腹腔マクロファージで、酸化低密度リポタンパク質(oxLDL)誘発CD36発現及び泡沫細胞形成を減少させる
アテローム性硬化症は、血管壁マクロファージによる脂質取り込みが泡沫細胞の発達並びにサイトカイン及びケモカインの作出をもたらし、そのために平滑筋細胞が増殖した結果として進行する。CD36は、oxLDLのマクロファージへの取り込み及びその後に続く泡沫細胞発達を仲介するスカベンジャーレセプターである。CD36ノックアウトマウスはoxLDLの取り込みの減少及びアテローム硬化症の抑制を示した。
CD36発現は、種々の細胞刺激(グルコース及びoxLDLを含む)によって転写レベルで調節される。マクロファージをマウスの腹腔から採集し、48時間oxLDL(50μg/mL)の存在下又は非存在下で一晩培養した。oxLDLとのインキュベーションはCD36 mRNAを顕著に増加させた(図1A)。培養液にSS-31(10nM又は1μM)を添加することによってCD36のアップレギュレーションが打ち消された(図1A)。SS-31自体はCD36発現に対する影響はなかった。
ウェスタンブロットによって決定したCD36タンパク質の発現もまた、ビヒクルコントロール(V)と比較したとき、25μg/mL のoxLDL(oxL)との48時間インキュベーション後に顕著に増加した(図1B)。他のコントロールには、マウスの心臓(H)のCD36発現及びCD36ノックアウトマウス(KO)から得たマクロファージのCD36発現が含まれていた。CD36タンパク質の量はβ-アクチンに対して正規化した。SS-31(1μM)(S)とのインキュベーションは、ビヒクルコントロール(V)に暴露したマクロファージと比較して、CD36タンパク質発現を顕著に減少させた(P<0.01、ポストホックニューマン・クールズ(Neuman Keuls)検定を用いたANOVA)。SS-31(1μM)による同時インキュベーションもまた、25μg/mLのoxLDLに48時間暴露したマクロファージ(oxL/S)で、CD36タンパク質発現のアップレギュレーションを顕著に抑制した(P<0.01、ポストホックニューマン・クールズ検定を用いたANOVA)。
oxLDLによるマクロファージの48時間インキュベーションはまた泡沫細胞形成を増加させた(図1C)。泡沫細胞はオイルレッドO(脂質滴を赤く染色する)で示されている。SS-31(1μM)の添加はoxLDL誘発泡沫細胞形成を防止した(図1C)。
マクロファージとoxLDLとのインキュベーションはアポトーシス細胞を6.7%から32.8%へ増加させた。SS-31(1nM)による同時処理は、oxLDLによって誘発されるアポトーシス細胞のパーセンテージを20.8%に顕著に減少させた。
【実施例2】
【0029】
実施例2:SS-31は急性脳虚血からマウスを保護した
脳虚血は、脳の損傷をもたらす細胞事象及び分子事象の連鎖反応を開始させる。そのような事象の1つは虚血後炎症である。脳虚血再灌流のマウスモデル(中間脳動脈の20分閉塞)を用いて、CD36は、虚血後の脳のミクログリア及びマクロファージでアップレギュレートし、反応性酸素種の生成が増加することが見出された。CD36ノックアウトマウスは虚血後の反応性酸素種の顕著な減少を示し、野生型マウスと比較して神経学的機能が改善された。
脳虚血は右中間脳動脈の30分閉塞によって誘発した。野生型(WT)マウスには生理食塩水ビヒクル(Veh)(ip, n=9)又はSS-31(2mg/kg又は5mg/kg, ip, n=6)のどちらかを虚血後0、6、24及び48時間に与えた。虚血後3日してマウスを殺した。脳を取り出し、凍結し、切片を作成した。脳切片をニッスル(Nissl)染色によって染色した。梗塞体積及び半球の腫脹を画像分析で決定した。ポストホック分析を用いた一元配置ANOVAによってデータを解析した。
中間脳動脈の30分閉塞から0、6、24及び48時間後のSS-31(2mg/kg又は5mg/kg, ip, n=6)によるマウスの処置は、生理食塩水コントロールと比較して梗塞体積(図2A)及び半球腫脹(図2B)の有意な減少をもたらした(*Vehと比較してP<0.05)。
WTマウスの30分脳虚血は、ビヒクル処置動物の反対側の部位と比較して、同側の皮質及び線条で還元グルタチオン(GSH)の顕著な枯渇をもたらした(図3)。同側の皮質におけるGSHの枯渇は、SS-31(2mg/kg又は5mg/kg, ip, n=6)で処置したマウスで有意に減少した(図3)。線条におけるGSHの枯渇もまたSS-31処置によって減少したが、統計的有意には達しなかった。
【実施例3】
【0030】
実施例3:急性脳虚血に対するSS-31仲介保護は、CD36ノックアウトマウスで観察される保護に類似する
CD36ノックアウト(CD36KO)マウスを実施例2に記載したように急性脳虚血させた。CD36KOマウスに生理食塩水ビヒクル(Veh)(ip, n=5)又はSS-31(2mg/kg, ip, n=5)のどちらかを30分の虚血後0、6、24及び48時間に与えた。CD36KOマウスの梗塞体積(図4A)及び半球腫脹(図4B)は、生理食塩水又はSS-31を与えられたか否かにかかわらず同様であった。
CD36KOマウスのSS-31(2mg/kg, ip, n=5)による処置もまた、30分の虚血によって生じる同側の皮質のGSH枯渇を防ぐことができなかった(図5)。
これらのデータは、急性脳虚血に対するSS-31の保護作用は、CD36のアップレギュレーションの阻害によって仲介される可能性を示唆している。
【実施例4】
【0031】
実施例4:SS-31は虚血後の脳におけるCD36 mRNAの発現を減少させる
中間脳動脈の一過性の閉塞は、虚血後の脳でミクログリア及びマクロファージのCD36 mRNA発現を顕著に増加させることが示された。野生型のマウスに生理食塩水ビヒクル(Veh, ip., n=6)又はSS-31(5mg/kg, ip, n=6)を30分虚血の0時間後及び6時間後に投与し、リアルタイムPCRを用いてCD36 mRNAレベルを決定した。CD36発現は、生理食塩水を投与したマウスの反対側の脳と比較して同側の脳ではほぼ6倍アップレギュレートされた(図6)。CD36 mRNAは、SS-31処置を受けたマウスの同側脳で顕著に減少した。
【実施例5】
【0032】
実施例5:SS-31は、一側性尿管閉塞後の腎細管細胞のCD36アップレギュレーションを抑制する
一側性尿管閉塞(UUO)は、尿細管アポトーシス、マクロファージ浸潤および間質線維症を伴う一般的な異常である。間質線維症は低酸素性環境をもたらし、外科手術による修正にもかかわらず腎機能の進行性低下をもたらす。CD36は腎細管細胞で発現することが示されている。
CD36は、UUOの後に尿細管細胞でアップレギュレートされることが示されている。UUOはスプラーグ-ドウリーラットで実施した。ラットを生理食塩水(ip., n=6)又はSS-31(1mg/kg, ip, n=6)で、UUOの誘発の1日前及びUUO後の14日間に1日1回処理した。ラットを殺し、腎臓を取り出し、パラフィンに包埋して切片を作成した。抗CD36ポリクローナルIgG(Santa Cruz #sc-9154;ブロッキング血清にて1:100)でスライドを室温で1.5時間処理した。続いてこのスライドをビオチン結合第二抗体(抗ウサギIgG-B1;ABCキット、PK-6101)とともに室温で30分インキュベートした。続いて、前記スライドをアビジンで処理し、DABで現像し、10%ヘマトキシリンで対比染色した。反対側の非閉塞腎を各動物のコントロールとして供した。
UUOは尿細管拡張及び尿細管細胞のCD36発現に顕著な増加をもたらした(図7)。尿細管拡張はまたSS-31処理ラットでも観察されたが、CD36発現の顕著な減少があった(図3)。CD36発現(茶色の染色)は主として反対側の非閉塞腎細管細胞上で認められた(図7A)。CD36発現は生理食塩水処理動物の閉塞腎で増加したが(図7B)、SS-31処理ラットから得た閉塞腎ではるかに減少した(図7C)。
SS-31がUUO後に腎における脂質の過酸化を減少させるか否かを決定するために、ラットを、生理食塩水(n=6)又はSS-31(1mg/kg, ip, n=6)で、UUOの誘発の1日前及びUUO後の14日間に1日1回処理した。続いてラットを殺し、腎臓を取り出し、パラフィンに包埋して切片を作成した。スライドを抗HNEウサギIgGとともにインキュベートし、さらにビオチン結合抗ウサギIgGを第二抗体として用いた。スライドをDABで現像した。UUOによって増加した脂質の過酸化は、SS-31処理によって減少した。HNE染色(茶色)は、反対側のコントロールと比較して閉塞腎の尿細管細胞で顕著に増加した(図8B)。SS-31で処理したラットの閉塞腎は、生理食塩水処理ラットと比較して顕著に少ないHNE染色を示した(図8B)。
SS-31がUUO後の閉塞腎で尿細管細胞のアポトーシスを減少させるか否かを決定するために、ラットを、生理食塩水(n=6)又はSS-31(1mg/kg, ip, n=6)で、UUOの誘発の1日前及びUUO後の14日間に1日1回処理した。続いてラットを殺し、腎臓を取り出し、パラフィンに包埋して切片を作成した。断片化DNAを有する核を定量するために、in situ TUNELキット(Intergen, Purchase, NY)を用いてTUNELアッセイを実施した。スライドをDABで現像し、10%ヘマトキシリンで対比染色した。尿細管細胞のアポトーシスを伴う生理食塩水処理コントロールのCD36アップレギュレーションは、SS-31処理によって顕著に抑制された(図9)。反対側の非閉塞コントロール(図9A)と比較して、アポトーシス細胞の顕著な増加が生理食塩水処理動物の閉塞腎(図9B)で観察された。アポトーシス細胞の数は、SS-31処理動物(図9C)の閉塞腎で顕著に減少した(P<0.001;n=6)。
SS-31処理はまたマクロファージ浸潤(図10)及び間質線維症(図11)を防いだ。ラットを、生理食塩水(n=6)又はSS-31(1mg/kg, ip, n=6)で、UUOの誘発の1日前及びUUO後の14日間に1日1回処理した。続いてラットを殺し、腎臓を取り出し、パラフィンに包埋して切片を作成した。ED1マクロファージに対するモノクローナル抗体(1:75、Setotec)でスライドを処理した。セイヨウワサビペルオキシダーゼ結合ウサギ抗マウス二次抗体(Dako)をマクロファージ検出に用いた。続いて切片を10%ヘマトキシリンで対比染色した。生理食塩水処理ラットの閉塞腎(図10B)のマクロファージ数は、反対側の非閉塞コントロール(図10A)と比較して顕著に増加した。マクロファージ浸潤はSS-31処理ラットで顕著に減少した(図10C)(P<0.05;t-検定)。
ラットを、生理食塩水(n=6)又はSS-31(1mg/kg, ip, n=6)で、UUOの誘発の1日前及びUUO後の14日間に1日1回処理した。続いてラットを殺し、腎臓を取り出し、パラフィンに包埋して切片を作成した。スライドを10%ヘマトキシリンおよびエオシンで、さらに間質線維症のためにメーソンのトリコム(Masson's trichome)(青色染色)で染色した。生理食塩水処理ラット(図11B)の閉塞腎は、反対側のコントロール(図11A)と比較して線維症の増加を示し、一方、SS-31処理ラットの閉塞腎は顕著に少ない線維症を示した(P<0.05;t-検定)。
これらの結果は、SS-31はUUOによって誘発される腎細管細胞のCD36アップレギュレーションを抑制することを示している。
【実施例6】
【0033】
実施例6:SS-31及びSS-20は、長時間の低温虚血保存後の再灌流時の単離した心臓におけるCD36発現を減少させた
器官移植は、レシピエントへの輸送のために、単離した器官の低温保存を必要とする。これまでのところ、心臓移植は、冠状動脈血流が重度に損なわれる前に耐ええる短時間(<4時間)の低温虚血保存に限定される。冠状動脈内皮及び心筋のCD36の発現は、長時間の低温虚血保存及び温かい再灌流に付された単離心臓でアップレギュレートされる。
単離したモルモットの心臓を、セント・トーマス(St. Thomas)溶液のみ、又は1nMのSS-31若しくは100nMのSS-20を含むセント・トーマス溶液で3分間灌流し、続いて同じ溶液に4℃で18時間保存した。虚血保存後に、34℃のクレブ-ヘンゼライト(Kreb-Henseleit)溶液で90分灌流した。モルモットから新しく単離した心臓をコントロールとして用いた。
心臓をパラフィン中で固定し、抗CD36ウサギポリクローナル抗体による免疫染色のために薄く切った。結果は図12に示されている。2つの切片は各処理群を示す。抗体染色は、CD36が正常な心臓の内皮及び心筋で発現することを示した。“バックグラウンド”コントロール(図12A及び12B)は、一次抗体で処理されていない正常な非虚血心臓の2つの切片を表している。“正常な心臓”(図12C及び12D)は、非虚血心臓から得られた2つの切片を表している。セント・トーマス溶液中で4℃にて18時間保存された代表的な心臓の切片(図12E及び12F)は、“正常な心臓”と比較してCD36染色の増加を示した。CD36染色は、1nMのSS-31(図12G及び12H)又は100nMのSS-20(図12I及び12J)とともにセント・トーマス溶液中で18時間保存された心臓では顕著に減少した。
CD36染色は、18時間の低温虚血保存及び温再灌流に付された心臓で増加する。しかしながら、1nMのSS-31又は100nMのSS-20とともに保存された心臓は、CD36発現のアップレギュレーションを示さなかった。
心臓における脂質の過酸化もまた芳香族性陽イオンペプチドによって減少した。モルモットの心臓を心停止溶液(セント・トーマス溶液)のみ、又は1nMのSS-31若しくは100nMのSS-20を含むセント・トーマス溶液で3分間灌流し、続いて18時間の低温虚血(4℃)に付した。続いて、前記心臓をクレブ-ヘンゼライト緩衝液で34℃にて90分灌流した。組織薄片のパラフィン切片中の4-ヒドロキシノネノール(HNE)修飾タンパク質の免疫組織化学分析を、抗HNE抗体(Santa Cruz)及び蛍光用二次抗体とともにインキュベートすることにより実施した。HNE染色は、非虚血心臓(図13A)と比較してセント・トーマス溶液中で18時間の低温保存に付された心臓(図13B)で顕著に増加した。HNE染色はSS-31(図13C)又はSS-20(図13D)で保存した心臓で減少した。
さらにまた、前記ペプチドは内皮のアポトーシスを劇的に減少させた(図14)。モルモットの心臓を心停止溶液(セント・トーマス溶液)のみ、又は1nMのSS-31若しくは100nMのSS-20を含むセント・トーマス溶液で3分間灌流し、続いて18時間の低温虚血(4℃)に付した。続いて、前記心臓をクレブ-ヘンゼライト緩衝液で34℃にて90分灌流した。脱パラフィン後に、切片をジオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(Tdt)及びジゴキシゲニン-dNTPとともに1時間インキュベートした。反応は停止緩衝液で停止させた。続いて蛍光抗ジゴキシゲニン抗体を適用した。セント・トーマス溶液中で18時間の低温保存に付した心臓(図14C及び14D)は顕著な内皮のアポトーシスを示したが、一方、非虚血正常心臓では内皮のアポトーシスは観察されなかった。アポトーシス細胞はSS-31(図14E及び14F)又はSS-20(図14G及び14H)で保存した心臓では観察されなかった。
長時間の低温虚血保存及び温再灌流後の冠状動脈血流の顕著な改善が得られた(図15)。モルモットの心臓を心停止溶液(セント・トーマス溶液)のみ、又は1nMのSS-31(図15A)若しくは100nMのSS-20(図15B)を含むセント・トーマス溶液で3分間灌流し、続いて18時間の低温虚血(4℃)に付した。続いて、前記心臓をクレブ-ヘンゼライト緩衝液で34℃にて90分灌流した。冠状動脈血流は、虚血前コントロール(100%として表した)と比較して、長時間虚血後に顕著に減少した。SS-31またはSS-20中の保存は、虚血前の血流のほぼ80%まで冠状動脈流を回復させた。
【実施例7】
【0034】
実施例7:SS-31は糖尿病マウスの腎臓損傷を防ぐ
CD36の発現は、糖尿病患者の多様な組織(単球、心臓、腎臓及び血漿を含む)でアップレギュレートする。高グルコースは、CD36のmRNAの翻訳効率を改善することによってCD36の発現をアップレギュレートすることが知られている。糖尿病性腎症は1型及び2型糖尿病の一般的な合併症であり、尿細管上皮の変性及び間質線維症を伴う。CD36は、糖尿病性腎症の尿細管上皮のアポトーシスの仲介物質として特定された。高グルコースは近位の尿細管上皮細胞のCD36発現及びアポトーシスを刺激する。
ストレプトゾトシン(STZ)をマウスの糖尿病誘発に用いた。CD-1マウスの3群を用いた:I群−STZ処置無し;II群−STZ(50mg/kg, ip)を1日1回5日間投与;III群−STZ(50mg/kg, ip)を1日1回5日間投与、及びSS-31(3mg/kg, ip)を1日1回16日間投与。STZ処置は血中グルコースの進行性増加をもたらした。3週目までに、血中グルコースは以下のとおりであった:I群(10.6±0.27mmol/L);II群(24.5±1.15mmol/L);III群(21.3±1.48mmol/L)。動物は3週間後に犠牲にし、腎臓組織は組織病理検査のために保存した。腎細管の刷子縁については腎切片を過ヨウ素酸シッフ染色(PAS)で調べた。
STZ処置は、腎皮質の近位尿細管の刷子縁の劇的な消失を引き起こした(図16)。STZで処理されなかったマウスでは、皮質の腎刷子縁はPASで赤く染色された(図16A、白い矢印を参照)。STZで処置したマウスでは、刷子縁は消失し、尿細管上皮細胞は小さな凝縮核を示した(図16B)。毎日SS-31(3mg/kg, ip)で処置することによって、STZ処置マウスの刷子縁の消失が防止され(図16C)、核は正常な外観を示した(図16C、上下の図版)。一般的には、近位の腎細管の構造はSS-31処置糖尿病マウスで保存された。
STZ処置は尿細管上皮細胞で顕著なアポトーシスを誘発した(図17)。TUNELアッセイを用い、腎切片をアポトーシスについて調べた。脱パラフィン後、切片をジオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(Tdt)及びジゴキシゲニン-dNTPとともに1時間インキュベートした。反応は停止緩衝液で停止させた。続いて蛍光抗ジゴキシゲニン抗体を適用した。STZ処理マウスの腎切片は、STZで処置しなかったマウスの非アポトーシス細胞(図17A、図版a)と比較して、近位の尿細管に多数のアポトーシス核を示した(図17A、図版b)。毎日のSS-31による処理は、近位尿細管のアポトーシス細胞を劇的に減少させた(図17A、図版c)。図17Bは、SS-31により提供される尿細管細胞アポトーシスの顕著な減少を示す。
近位尿細管上皮細胞におけるCD36発現は、高グルコースによって増加することが知られており、糖尿病モデルではアップレギュレートされる。CD36の発現を減少させることによって、血中グルコースに影響を与えることなく、STZ処理マウスで尿細管細胞のアポトーシス及び刷子縁消失を抑制することができた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物において糖尿病の合併症を治療するための医薬の調製における芳香族性陽イオンペプチドの使用であって、前記芳香族性陽イオンペプチドが、Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(SS-20)およびD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)からなる群より選ばれる式を有する、前記使用。
【請求項2】
芳香族性陽イオンペプチドがPhe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(SS-20)である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
芳香族性陽イオンペプチドがD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
哺乳動物の尿管閉塞を治療するための医薬の調製における、芳香族性陽イオンペプチドの使用であって、前記芳香族性陽イオンペプチドが、
式Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(SS-20)およびD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)からなる群より選ばれる、前記使用。
【請求項5】
芳香族性陽イオンペプチドがPhe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(SS-20)である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
芳香族性陽イオンペプチドがD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)である、請求項4に記載の使用。
【請求項7】
哺乳動物で糖尿病性腎症を治療するための医薬の調製における、芳香族性陽イオンペプチドの使用であって、前記芳香族性陽イオンペプチドがPhe-D-Arg-Phe-Lys-NH2 (SS-20)およびD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2 (SS-31)からなる群より選ばれる式を有する、前記使用。
【請求項8】
芳香族性陽イオンペプチドがPhe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(SS-20)である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
芳香族性陽イオンペプチドがD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)である、請求項7に記載の使用。
【請求項10】
芳香族性陽イオンペプチドの有効量と摘出器官または臓器を接触させることを含む、摘出器官又は組織でCD36発現を減少させる方法であって、前記芳香族性陽イオンペプチドが、Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2 (SS-20)なる式を有する、前記方法。
【請求項11】
哺乳動物がヒトである、請求項1、4または7記載の使用。
【請求項12】
ペプチドが経口投与、局所投与、全身的投与、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、脳室内投与、クモ膜下腔投与または経皮投与用に処方される、請求項1、4または7記載の使用。
【請求項13】
経皮投与がイオン導入による、請求項12記載の使用。
【請求項1】
哺乳動物において糖尿病の合併症を治療するための医薬の調製における芳香族性陽イオンペプチドの使用であって、前記芳香族性陽イオンペプチドが、Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(SS-20)およびD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)からなる群より選ばれる式を有する、前記使用。
【請求項2】
芳香族性陽イオンペプチドがPhe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(SS-20)である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
芳香族性陽イオンペプチドがD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
哺乳動物の尿管閉塞を治療するための医薬の調製における、芳香族性陽イオンペプチドの使用であって、前記芳香族性陽イオンペプチドが、
式Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(SS-20)およびD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)からなる群より選ばれる、前記使用。
【請求項5】
芳香族性陽イオンペプチドがPhe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(SS-20)である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
芳香族性陽イオンペプチドがD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)である、請求項4に記載の使用。
【請求項7】
哺乳動物で糖尿病性腎症を治療するための医薬の調製における、芳香族性陽イオンペプチドの使用であって、前記芳香族性陽イオンペプチドがPhe-D-Arg-Phe-Lys-NH2 (SS-20)およびD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2 (SS-31)からなる群より選ばれる式を有する、前記使用。
【請求項8】
芳香族性陽イオンペプチドがPhe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(SS-20)である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
芳香族性陽イオンペプチドがD-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)である、請求項7に記載の使用。
【請求項10】
芳香族性陽イオンペプチドの有効量と摘出器官または臓器を接触させることを含む、摘出器官又は組織でCD36発現を減少させる方法であって、前記芳香族性陽イオンペプチドが、Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2 (SS-20)なる式を有する、前記方法。
【請求項11】
哺乳動物がヒトである、請求項1、4または7記載の使用。
【請求項12】
ペプチドが経口投与、局所投与、全身的投与、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、脳室内投与、クモ膜下腔投与または経皮投与用に処方される、請求項1、4または7記載の使用。
【請求項13】
経皮投与がイオン導入による、請求項12記載の使用。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図15】
【図16】
【図1】
【図12】
【図13】
【図14】
【図17】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
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【図11】
【図15】
【図16】
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【図12】
【図13】
【図14】
【図17】
【公開番号】特開2012−233005(P2012−233005A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−181082(P2012−181082)
【出願日】平成24年8月17日(2012.8.17)
【分割の表示】特願2008−531412(P2008−531412)の分割
【原出願日】平成18年9月18日(2006.9.18)
【出願人】(505294425)コーネル リサーチ ファウンデイション インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年8月17日(2012.8.17)
【分割の表示】特願2008−531412(P2008−531412)の分割
【原出願日】平成18年9月18日(2006.9.18)
【出願人】(505294425)コーネル リサーチ ファウンデイション インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】
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