説明

CD4+Tサバイビンエピトープ及びその使用

本発明は、CD4+ Tサバイビンエピトープ、並びにそれらのワクチン及び診断のための使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に白人個体群で優勢(predominant)であるHLA II分子により提示され得るサバイビンのCD4+ Tエピトープを代表するペプチド、並びにそのワクチンとして及び診断のための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍抗原は、腫瘍細胞により発現され、正常細胞がほとんど若しくは全く発現しないか、又はいくつかの型の細胞でのみ見出される一連のタンパク質で一団を形成する。これらの抗原は、それらの発現プロファイルに従って5つのカテゴリーに分けられる:(1) 腫瘍形成に関連する点突然変異に起因する、患者特異的な抗原(MUM-1、CDK4、ベータ-カテニン、HLA-A2、BCR-ABL、CASP-8)、(2) 多くの腫瘍及び通常のHLA分子を全く有さないいくつかの正常組織で発現される、腫瘍特異的抗原又はCT (精巣癌(Cancer Testis))抗原(精巣、胎盤、卵巣;MAGE、BAGE、GAGE、RAGE、NY-ESO1抗原)、(3) 胚形成の間、又は非常に特異的な型の細胞のいずれかで発現される分化抗原(チロシナーゼ、gp-100、melan-A/mart-1、チログロブリン、アルファ-フェトプロテイン、CEA)、(4) 腫瘍により過剰発現される抗原(サバイビン、gp75、PSA、HER-2/neu、p53、テロメラーゼ)、並びに(5) ウイルス抗原(EBV、HPV)。
【0003】
CD4+及びCD8+ Tリンパ球により認識され得、かつ抗腫瘍免疫を誘発し得る全てのこれらのタンパク質は、抗腫瘍免疫化の標的を表す(PCT国際出願WO 2004/055183)。
【0004】
特によく研究されている標的は、主に腫瘍特異的抗原である(MAGE、NY-ESO-1)。しかし、これらの抗原は、これらのほとんどが腫瘍細胞の生存に必須でないので、抗腫瘍免疫化の標的として効果がない可能性があり、該腫瘍細胞は、これらの抗原の発現を低減させるか又は抑制することにより免疫監視から逃げ得る。
【0005】
BIRC5 (バキュロウイルスIAPリピート含有タンパク質5 (Baculoviral IAP repeat-containing protein 5))、IAP4 (アポトーシスタンパク質阻害物質4 (inhibitor of apoptosis protein 4))又はAPI4 (アポトーシス阻害物質4 (apoptosis inhibitor 4))ともよばれるサバイビン(16.5 kDa)は、アポトーシス阻害物質(IAP)ファミリーの最も小さいメンバーである。これは、IAPファミリーのメンバーの全てに特徴的な70アミノ酸のジンクフィンガーモチーフ(アポトーシスタンパク質リピートのバキュロウイルス阻害物質(Baculovirus inhibitor of apoptosis protein repeat)のBIRドメイン)と、高次コイルアルファ-ヘリックスを含むC末端とを含む。サバイビンをコードする遺伝子は、ヒトの第17染色体(17q25)又はマウスの第11染色体(11 E2)上に位置する。エキソン1、2、2B、3及び4を含むプレmRNAの代替のスプライシングにより、3つの転写産物が産生される:(1) サバイビンのアルファ-アイソフォームをコードするエキソン1、2、3及び4を含む転写産物(142アミノ酸、GenBank AAC51660又はSwissProt O15392)、(2) ベータ-アイソフォーム又はサバイビン-2Bをコードするエキソン1、2、2B、3及び4を含む転写産物(165アミノ酸)、これはアルファ-アイソフォームの配列の74位と75位の間への配列IGPGTVAYACNTSTLGGRGGRITR (23アミノ酸、配列番号40)の挿入に起因する、並びに(3) サバイビンΔEx-3をコードするエキソン1、2及び4を含む転写産物。
【0006】
サバイビンは、大多数の腫瘍、特に乳癌、肝臓癌、結腸癌、肺癌、卵巣癌、子宮癌、食道癌、胃癌、膵臓癌及び前立腺癌、ホジキン病、骨髄異形成症候群、不応性貧血、並びに黒色腫、非ホジキンリンパ腫、白血病、神経芽腫、クロム親和性細胞腫、軟部組織肉腫及び脳腫瘍に関連するものにおいて過剰発現される。この非重複(nonredundant)タンパク質の過剰発現は、アポトーシスに対する無反応性を導き、細胞分裂を促進する。さらに、サバイビンのこの過剰発現は、腫瘍細胞の生存に必須である。アンチセンス法又はドミナントネガティブ変異体によるヒト腫瘍細胞系統でのサバイビンの発現の消滅は、細胞分裂及びアポトーシスの阻止をもたらす(Yangら、P.N.A.S.; 2004, 101, 15100〜15105; Altieriら、Oncogene, 2003, 22, 8581〜8589)。
【0007】
この腫瘍抗原は、癌の予後の良好な指標である。サバイビンの高いレベル(mRNA)は、好ましくない予後に関連する(Takeuchiら, Int. J. Cancer, 2005; Rodelら, Cancer Res., 2005, 65, 4881〜4887; Muzioら, Cancer Lett., 2005, 225, 27〜33; Kimら, Cancer Lett., 2005, 224, 253〜261)。
【0008】
一方、サバイビンは、分化した正常組織では実質的には検出されない。これは非常に短い寿命であり、有糸分裂の間のみ存在し、ここでサバイビンは、オーロラBキナーゼ、INCENPタンパク質(内部動原体タンパク質(inner centromere protein))及びTD60 (終期ディスク抗原)を含むCPP (染色体パッセンジャータンパク質)複合体の形成に参加し、カスパーゼ3、7及び9の活性抑制によるアポトーシスの阻害にも関わる(Schimmer, A.D., Cancer Research, 2004, 64, 7183〜7190; Fortugnoら, J. Cell. Science, 2002, 115, 575〜585)。
【0009】
癌に罹患している個体でのサバイビンを指向する免疫応答の研究は、この腫瘍抗原が特異的CD4+ Tリンパ球及びCD8+ Tリンパ球を伴う細胞性応答を誘導し得ることを示す(Andersonら, Cancer Research, 2001, 61, 869〜872及び5964〜5968; Schmidtら, Blood, 2003, 102, 571〜576; Casatiら, Cancer Research, 2003, 63, 4507〜4515; Ichikiら, Lung Cancer, 2005, 48, 281〜289)。特異的抗体も検出されている。しかし、好ましくない予後の癌の場合に検出される抗サバイビン抗体の高い力価は、体液性応答がサバイビンを発現する腫瘍の拒絶に関わらないようであることを示す(Ichikiら, 上記)。
【0010】
結局、サバイビンは、これが腫瘍特異的CD4+及びCD8+ T応答を誘導し、ほとんどの腫瘍で発現され、かつその発現が腫瘍の生存に必須であるという事実のために、抗腫瘍免疫化の特に有利な標的となる。実際に、抗腫瘍免疫化の標的として腫瘍生存に必須の抗原を用いることは、免疫系による認識を逃れる腫瘍の問題を回避することを可能にする。さらに、ほとんどの癌は、サバイビンが大多数の腫瘍で発現されているという事実のために、単一ワクチンで治療できる。
【0011】
よって、サバイビン(組み換えタンパク質)、この抗原の発現ベクター又はこのような発現ベクターでトランスフェクションされた樹状細胞を、抗腫瘍ワクチンとして用いることが提案されている(PCT国際出願WO 00/03693; Pisarevら, Clin., Cancer Res., 2003, 9, 6523〜6533; Siegelら, J. Immunol., 2003, 170, 5391〜5397; Schaftら, J. Immunol., 2005, 174, 3087〜3097)。しかし、抗原に対して効果的なCD4+ T応答とCD8+ T応答とをともに誘導するためには、タンパク質全体よりも、この抗原のCD4+ T及びCD8+ Tエピトープを代表するペプチドを用いることが好ましい。
【0012】
主要組織適合遺伝子複合体I (HLA I又はヒト白血球抗原クラスI分子)のHLA-A1、A2、A3、A11、A24、B7、B8、B15及びB35分子に拘束されるサバイビンCD8+ Tエピトープが同定されている(HLA-A2-拘束性ペプチド95-104及び96-104 (Andersenら, Cancer Res., 2001, 61, 869〜872; Schmitzら, Cancer Res., 2000, 60, 4845〜4849; Schmidtら, 2003, 上記; http://www.cancerimmunity.org/peptidedatabase/tumorspecific.htm; PCT国際出願WO 2004/067023); HLA-A24-拘束性サバイビン2Bペプチド80-88 (Hirohashiら, Clin. Cancer Res., 2002, 8, 1731〜1739); Reckerら, Int. J. Cancer 2004, 108, 937〜941及びCancer Biol. Ther., 2004, 3, 173〜179; Bachinskyら, Cancer Immun., 2005, 5, 6)。ペプチド96-104をのせた自己樹状細胞を用いて、黒色腫に罹患した患者を認識している(Andersenら, Vaccine, 2005, 23, 884〜889)。
【0013】
しかし、CD8+ Tエピトープ単独での免疫化は、腫瘍-抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球を非常に低い頻度で誘発する(CD8+細胞の10-4〜10-7程度; Zhangら, Eur. J. Immunol., 2005, 35, 776〜785)。実際に、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の誘導は、CTLの補充及び維持に特に関わるCD4+ Tリンパ球の活性化に依存する。CD4+ Tリンパ球が、腫瘍の制御に必須の役割を演じることが示されている。細胞の接触及び多数のサイトカインの分泌により、CD4+ Tリンパ球は抗原提示細胞(APC)の活性化を誘発し、これが次に、腫瘍特異的CD8+ Tリンパ球を補充する。これらは、エフェクター細胞、すなわち細胞傷害性Tリンパ球の成熟にも関わる。さらに、腫瘍組織適合遺伝子複合体クラスI分子を発現しないマウスで観察された結果は、CD4+ Tリンパ球が、CTL-依存性の機構、おそらくマクロファージの活性化により腫瘍に対して制御を行っていることも示す。最後に、CD4+ Tリンパ球は、それら自体で細胞傷害性であり得る。
【0014】
CD4+ Tリンパ球は、それらに提示された腫瘍ペプチドを、腫瘍組織適合遺伝子複合体クラスII分子により認識する。ヒトでは、これらはHLA II分子、ヒト白血球抗原クラスII分子とよばれる。認識は直接起こりうるが(すなわち、腫瘍自体がこれらのペプチドをTリンパ球に提示する)、主な活性化経路は、おそらく、樹状細胞を介して起こる。これらの細胞は、実際に、インビボでナイーブTリンパ球を補充可能な主要な抗原提示細胞である。Tエピトープとよばれるこれらの抗原性ペプチドは、抗原提示細胞による抗原のタンパク質分解により得られる。これらは、通常は13〜25アミノ酸の種々の長さを有し、それらをHLA II分子に結合可能にする配列を有する。天然の抗原と同様に、CD4+ Tエピトープを含むペプチドが、該エピトープに特異的なCD4+ T細胞をインビトロで刺激可能であるか、又はCD4+ T細胞をインビボで補充可能であることが公知である。よって、これはCD4+ T応答を誘導するのに充分である。
【0015】
これらの観察は、強いCD4+ T応答を刺激し得るこのようなサバイビン特異的抗原性ペプチドの、特に同じ抗原に特異的なCD8+ Tエピトープとの組み合わせのヒトでの抗腫瘍ワクチン組成物の製造のための使用に有利である。
【0016】
さらに、腫瘍抗原に特異的なCD4+ Tリンパ球により認識されるこのようなペプチドは、特にクラスII分子/ペプチド複合体の多量体の存在下でのフローサイトメトリによる直接的、又は特にリンパ球増殖アッセイ若しくは抗体若しくはサイトカインアッセイによる間接的な該CD4+ T細胞の検出に基づく、ヒトでの癌の診断試験、予後の評価の試験又は治療の監視の試験における試薬としても有用である。
【0017】
しかし、サバイビンCD4+ Tエピトープは同定されていない。実際に、これらのペプチドの抗原としての使用を制限する主要な問題点の1つは、HLA II分子の多型性によりCD4+ Tエピトープの配列が個体ごとに変動することに鑑みて、CD4+ Tエピトープの同一性である。HLA II分子は、多型性のアルファ鎖(α)及び多型性のベータ鎖(β)からなるヘテロ二量体である。4種類のHLA II分子が個体当たりに存在し(2 HLA-DR、1 HLA-DQ及び1 HLA-DP)、最も多型であるベータ鎖をコードする対立遺伝子により命名されている。HLA-DR分子は、非常に多型である。実際に、そのアルファ鎖は3つの対立遺伝子しか有さないが、最も広く発現されるDRB1遺伝子によりコードされるベータ鎖(β)は、現在までに458個の対立遺伝子を有する。HLA-DQ及びHLA-DP分子について、これらが形成される2つの鎖(α及びβ)は多型であるが、有する対立遺伝子がより少ない。28個のDQA1対立遺伝子(HLA-DQのα鎖)、60個のDQB1対立遺伝子(HLA-DQのβ鎖)、22個のDPA1対立遺伝子(HLA-DPのα鎖)及び116個のDPB1対立遺伝子(HLA-DPのβ鎖)が数えられている。しかし、これらの対立遺伝子によりコードされる2つのα鎖とβ鎖との組み合わせは、多数のHLA-DQ及びHLA-DP分子を増加させる。
【0018】
この多型性の結果として、これらのアイソフォームは、それぞれ異なる結合特性を有し、このことは、これらが同じ抗原の異なるペプチドに結合し得ることを意味する。つまり、HLA II分子へのペプチドの結合方法は、HLA I分子のものよりも複雑であり、HLA II分子に結合可能なペプチドを予測するための信頼できるプログラムは存在しない。実際に、HLA分子は、非常によく似た3次元構造を有するが、HLA II分子の結合部位は2つの末端で開放されている溝である。この理由のために、HLA II分子は、多様なサイズ、通常、13〜25アミノ酸のHLA II分子拘束性ペプチドを受容する。この溝は、5つの特異性ポケットにより特徴付けられ(それらが収容できるペプチドの残基の位置に対応してP1、P4、P6、P7及びP9)、これらは多型性残基を有する。種々のHLA II分子間の配列における違いがペプチド結合部位のポケット内に位置するので、これらは、各分子に結合するペプチドのレパトアに直接関わる。
【0019】
つまり、各個体は、抗原中の一連のペプチドを認識し、該ペプチドの性質は、それを特徴付けるHLA II分子に依存する。多数のHLA II対立遺伝子が存在するので、所定の配列中には、非常に異なる配列のTエピトープの大きいレパトアが存在し、それぞれが異なる対立遺伝子について特異的である。よって、ある個体において腫瘍抗原に対して特異的なCD4+ T応答を刺激可能なペプチドは、他の個体の大多数において不活性であり得る。なぜなら、他の個体は、同じエピトープを介しては腫瘍抗原を認識しないからである。
【0020】
しかし、HLA II分子は、腫瘍の認識に一律に用いられていないようである。実際に、腫瘍抗原に由来するTエピトープは、ほとんどの部分がHLA-DR分子に拘束され、このことは、HLA-DQ分子が腫瘍の認識に明らかに弱くしか用いられていないことを示唆する。
【0021】
さらに、HLA II対立遺伝子は、全世界に一律に分散していない。つまり、10個のHLA-DR分子は、欧州及び米国で優勢であり、個体群のほとんどをカバーする。これらは、そのベータ鎖が、遺伝子座HLA-DRB1: *0101、*0301、*0401、*0701、*1101、*1301、*1501の7つの対立遺伝子、並びに遺伝子座DRB3*0101、DRB4*0101及びDRB5*0101によりコードされる分子である(表I)。
【0022】
【表1−1】

【0023】
【表1−2】

【0024】
例えば、白人個体群(アメリカ合衆国、ヨーロッパ)の特徴的な個体群であるフランス人個体群では、DRB1遺伝子座の7対立遺伝子のみが5%を超える対立遺伝子頻度を有している。これらの7つのDRB1対立遺伝子は、それら自体で個体群の63%である。これらの同じDRB1対立遺伝子は、他の白人個体群で最も豊富なHLA-DR対立遺伝子である。これらの頻度は、53% (スペイン)〜82% (デンマーク)の間で変動する。アメリカ合衆国及びカナダについては、これらはそれぞれ、個体群の対立遺伝子の58%及び55%である。
【0025】
さらに、白人個体群において最も頻度が高いDRB1対立遺伝子のいくつかは、アフリカ人個体群(DRB1*0301、*0701及び*1101)、インド人個体群(DRB1*0301、*0701、*1301及び*1501)、及び日本人個体群(DRB1*1501) においても頻度が高い。
【0026】
そのβ鎖がDRB1遺伝子によりコードされていないHLA-DR分子であるHLA-DRB3、-DRB4及び-DRB5分子も、ヨーロッパ、アメリカ合衆国及び日本において優勢である。なぜなら、これらはDRB1分子よりも多型性がより低いからである(表I)。例えば、フランスでは、それらの対立遺伝子頻度は、DRB3*0101について9.2%、DRB4*0101について28%、及びDRB5*0101について7.9%である。よって、これらは、フランスにおける対立遺伝子頻度の45%をそれら自体で占めている。
【0027】
さらに、あるHLA-DR分子の結合モチーフは、ペプチドがいくつかのHLA-DR分子に結合し得る程度に同一である。さらに、ペプチド配列がいくつかのCD4+ Tエピトープを含み得る程度にCD4+ Tエピトープが互いに関連することは、希なことではない。
【0028】
最後に、2つのHLA-DP4分子(DP401及びDP402)は、それら自体で、白人個体群におけるHLA-DPの対立遺伝子頻度の大部分を占め(ヨーロッパで50%程度、北アメリカで80%程度)、その他の個体群でも小さくない頻度で存在する(南アメリカで60%程度、インドで60%程度、アフリカで30%程度、及び日本で40%程度の対立遺伝子頻度; 表I)。これらのDP4分子のそれぞれは、最も頻度が高いDPA1*0103対立遺伝子(78.2%)、又はDPA1*0201対立遺伝子(20.2%)のいずれかによりコードされるアルファ鎖と、DPB1*0401対立遺伝子(HLA-DP401分子)又はDPB1*0402対立遺伝子(HLA-DP402分子)によりコードされるベータ鎖とを含む。
【0029】
破傷風毒素、B型肝炎ウイルス及びヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssimus)メジャーアレルゲンのような非常に多様な抗原を用いて多数のHLA-DP4-拘束性Tクローンが単離される限りは、HLA-DR分子と同様に、HLA-DP4分子は、完全に、Tリンパ球にペプチドを提示し得る。
【0030】
個体群において最も頻度が高い対立遺伝子によりコードされるHLA II分子(優勢HLA II分子)に結合するペプチドは、よって個体群の大多数のTエピトープを含む。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
本発明者らは、白人個体群において優勢な12のHLA II分子に拘束されるCD4+ Tエピトープを含むサバイビンの3つの領域を同定した。これらのペプチドは、これらが、免疫された患者の大多数において腫瘍に指向されたCD4+ T応答を誘導し得ることに鑑みて、癌に対する予防的又は治療的免疫化のための潜在的な候補である。なぜなら、(i) これらは腫瘍細胞の大多数により発現される抗原に由来し、(ii) これらはこの抗原に特異的なCD4+ Tリンパ球を誘導でき、そして(iii) これらはHLA II分子の多型を考慮に入れているからである。
【0032】
さらに、腫瘍細胞の大多数により発現される腫瘍抗原に特異的なCD4+ Tリンパ球により認識されるこれらのペプチドは、癌の予後の確立及び進展の監視のために用い得る。
【課題を解決するための手段】
【0033】
よって、本発明の主題は、癌に対する予防的若しくは治療的な免疫化、又は癌の診断、予後若しくは治療の監視における抗原として用いるためのサバイビンのアルファ-アイソフォームに由来するペプチドであり、該ペプチドは、次の群:
a) サバイビンのアルファ-アイソフォームの17位と34位の間に位置する13〜18連続アミノ酸のペプチド、
b) サバイビンのアルファ-アイソフォームの84位と113位との間に位置する13〜30連続アミノ酸のペプチド、
c) サバイビンのアルファ-アイソフォームの122位と142位の間に位置する13〜21連続アミノ酸のペプチド、及び
d) a)、b)又はc)で規定されるペプチドの変異型
から選択され、a)、b)若しくはc)のペプチド、又はd)の変異型は、白人個体群において優勢な少なくとも1つのHLA II分子に関する結合活性が1000 nM未満であり、かつサバイビン特異的CD4+ Tリンパ球を誘導可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
定義
「少なくとも1つのHLA II分子により提示され得るペプチド」の表現は、1000 nM未満の少なくとも1つのHLA II分子についての結合活性を有するペプチドを意味することを意図する。
【0035】
用語「サバイビン」は、サバイビンの3つのアイソフォーム:アルファ-アイソフォーム、サバイビン-2B及びサバイビンΔEx-3を意味することを意図する。これらのアイソフォームは、いずれの哺乳動物に由来してもよい。これらは、好ましくはヒトのアイソフォームである。サバイビンのアルファ-アイソフォームは、142アミノ酸のサバイビンに相当する。位置は、ヒト配列(Genbank AAC51660又はSwissProt O15392)について示す。
【0036】
「白人個体群において優勢なHLA II分子」又は「優勢HLA II分子」の表現は、上記の表Iで特定されるような白人個体群におけるその頻度が5%を超える対立遺伝子によりコードされるベータ鎖を含むHLA II分子を意味することを意図する。白人個体群において優勢なHLA II分子のいくつか、特にHLA-DP401及びHLA-DP402分子は、他の個体群(南アメリカ、インド、日本、アフリカ; 表I)においても優勢である。よって、本発明によるペプチドは、白人個体群での使用に限定されず、これらは、表Iに示すように上記のHLA II分子が優勢である北アメリカ及びヨーロッパ以外の国の個体を免疫するためにも用い得る。
【0037】
「癌」の用語は、限定されないが、乳癌、肝臓癌、結腸癌、肺癌、卵巣癌、子宮癌、食道癌、胃癌、膵臓癌及び前立腺癌、黒色腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、白血病、不応性貧血を伴う骨髄異形成症候群、神経芽腫、クロム親和性細胞腫、軟部組織肉腫及び脳腫瘍のようなサバイビンの過剰発現に関連する癌を意味することを意図する。
【0038】
本発明によるペプチドは、少なくとも1つの優勢HLA II分子に提示され得るサバイビンCD4+ Tエピトープを含み、該エピトープは、HLA II分子に繋留するための残基を含む9アミノ酸の配列からなり、その末端の一方、好ましくは両方の末端で、少なくとも2アミノ酸、好ましくは3アミノ酸と接する。
【0039】
本発明によるペプチドは、以下の特性を有する:
- HLA II分子結合活性:本発明によるペプチドは、特に白人個体群において優勢な優勢HLA II分子について良好な親和性を有する(結合活性<1000 nM)。結合活性は、HLA-DR及びHLA-DP4分子についてそれぞれ米国特許第6,649,166号及びPCT国際出願WO 03/040299に記載される原理に従って、免疫酵素的可視化を用いる競合的HLA II/ペプチド結合アッセイにより測定可能である。
【0040】
- 免疫原性:これらのペプチドは、ナイーブ個体の大多数に存在する前駆体からサバイビン特異的CD4+ T細胞を誘導可能であるか、又はサバイビンの過剰発現に関連する癌に罹患している個体の大多数においてそのような細胞を刺激可能である。ペプチドの免疫原性は、例えば、細胞増殖アッセイ、ELISPOTアッセイ(サイトカイン産生細胞のアッセイ)、又は細胞内サイトカインのアッセイのための試験(INF-γ、IL-2、IL-4及びIL-10)のような当業者に知られるいずれの適切なアッセイにより、特に末梢血単核細胞(PBMC)を用いて決定できる。
【0041】
ヒトサバイビンのアルファ-アイソフォームの配列中の1又は複数のアミノ酸の変異(挿入、欠失、置換)により得られる天然又は合成の変異型は、該変異型が、特に白人個体群において優勢な少なくとも1つの優勢HLA II分子についての良好な親和性(結合活性<1000 nM)を保存し、かつ免疫原性であるという条件で、本発明に包含される。天然の変異型は、特にサバイビンの多型に起因する。さらに、HLA-DR及びHLA-DP4分子への結合に参加するアミノ酸残基(アンカー残基)及びこれらの残基の改変によるHLA-DR及びHLA-DP4分子への結合に対する影響が当業者に知られていることに鑑みて、その他の変異型は容易に構築できる。PCT国際出願WO 03/040299は、特に、HLA-DP4に結合するためには、P6での残基が芳香族若しくは疎水性であるか又はシステイン残基(C)からなり、かつ残基P1及びP9の少なくとも一方が、P1が芳香族若しくは疎水性であるか、及び/又はP9が芳香族若しくは疎水性であるか又は残基C、D、Q、S、T又はEからなるようなものであるが、P4での残基は任意のアミノ酸残基であってよいことを教示している。米国特許第6,649,166号は、HLA DR分子に繋留するための残基(P1、P4、P6、P7及びP9)を決定するための一般的な方法、並びにHLA DR分子についての親和性を改変可能にするこれらの残基の変異の性質について記載している。HLA DR分子結合モチーフは、特に、Sturnolioら, Nat. Biotech, 1999, 17, 533〜534及びRammenseeら, Immunogenetics, 1995, 41, 178〜228に記載されている。
【0042】
1又は複数のアミノ酸残基、ペプチド結合又はペプチドの末端のレベルでの任意の改変の導入による上記のペプチドに由来する改変ペプチドも、該改変ペプチドが、特に白人個体群において優勢な少なくとも1つの優勢HLA II分子についての良好な親和性(結合活性<1000 nM)を保存し、かつ免疫原性であるという条件で、本発明に包含される。当業者に知られる従来の方法によりペプチドに導入されるこれらの改変は、限定されないが、タンパク質非構成アミノ酸(Dアミノ酸又はアミノ酸アナログ)でのアミノ酸の置換;反応性官能基、特に側鎖Rでの化学基の付加(脂質、オリゴ糖又は多糖) ;ペプチド結合(-CO-NH-)の、特にレトロ若しくはレトロインバーソ型(-NH-CO-)の結合、又はペプチド結合以外の結合での改変;環化;ペプチド(免疫化の対象のエピトープ;ペプチド精製のために用い得る、特にプロテアーゼにより切断可能な形のタグ) の融合;該ペプチドの配列の、タンパク質、特にHLA II分子のα鎖若しくはβ鎖、又は該鎖の細胞外ドメインの配列、或いはIiインバリアント(invariable)鎖又はLAMP-1タンパク質に特に由来するエンドソームを標的するための配列との融合;適切な分子、特に標識、例えば蛍光色素への結合を含む。これらの改変は、特に、安定性、より具体的にはタンパク質溶解に対する耐性、及び溶解性又は免疫原性を増大させること、又は本発明によるペプチド若しくは該ペプチドに特異的なCD4+細胞のいずれかの精製又は検出を促進することを意図する。
【0043】
上記のペプチドの有利な実施形態によると、白人個体群において優勢なHLA II分子は、HLA-DR1、HLA-DR3、HLA-DR4、HLA-DR7、HLA-DR11、HLA-DR13、HLA-DR15、HLA-DRB3、HLA-DRB4、HLA-DRB5及びHLA-DP4分子、好ましくはHLA-DR1、HLA-DR4、HLA-DR7、HLA-DR11、HLA-DR13、HLA-DR15、HLA-DRB5、HLA-DP401及びHLA-DP402分子から選択される。
【0044】
上記のHLA II分子は、有利には、HLA対立遺伝子DRB1*0101、DRB1*0301、DRB1*0401、DRB1*0701、DRB1*1101、DRB1*1301、DRB1*1501、DRB3*0101、DRB4*0101、DRB5*0101、DP*0401及びDP*0402によりそれぞれコードされる。
【0045】
白人個体群において優勢なこれらのHLA II分子のうち、HLA-DP401及びHLA-DP402分子は、南アメリカ、インド、アフリカ及び日本においても優勢である。
【0046】
特に有利には、上記のペプチドは、少なくとも1つのHLA-DP401又はHLA-DP402分子により提示され得る。
【0047】
上記のペプチドの別の有利な実施形態によると、これは、白人個体群において優勢な少なくとも3つのHLA II分子、好ましくはこの個体群において優勢な少なくとも4つのHLA II分子により提示され得る。
【0048】
上記の実施形態の有利な態様によると、上記のペプチドは、サバイビンのアルファ-アイソフォームの以下の位置の間に位置する15アミノ酸のペプチドからなる群より選択される:17〜31、19〜33、20〜34、84〜98、90〜104、91〜105、93〜107、96〜110、99〜113、122〜136、及び128〜142。これらのペプチドは、白人個体群において優勢な少なくとも3つのHLA II分子について良好な親和性を有する(結合活性<1000 nM)。
【0049】
上記のペプチドは、有利には、配列番号5、6、7、17、19、20、21、23、24、27及び28の配列からなる群より選択される。
【0050】
好ましくは、上記のペプチドは、白人個体群において優勢な少なくとも4つのHLA II分子について良好な親和性を有する(結合活性<1000 nM)ペプチド:17-31、19-33、20-34、84-98、90-104、91-105、93-107、96-110及び128-142からなる群より選択される。
【0051】
特に、ペプチド128-142を除く、白人個体群において優勢な少なくとも4つのHLA II分子について良好な親和性を有する全てのペプチドは、少なくとも1つのHLA-DP401又はHLA-DP402分子について良好な親和性も有する。
【0052】
このようなペプチドは、白人個体群の個体をワクチンで良好にカバーすること、及び他の個体群(南アメリカ、アフリカ、インド及び日本)の個体までワクチンで広げてカバーすることをともに可能にする。
【0053】
好ましくは、上記のペプチドは、ペプチド17-31、19-33、90-104、93-107、96-110及び128-142からなる群より選択される。
さらにより好ましくは、上記のペプチドは、ペプチド19-33、90-104及び93-107からなる群より選択される。
【0054】
上記のペプチドの別の有利な実施形態によると、該ペプチドは、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24又は25アミノ酸の配列を有する。
【0055】
上記のペプチドの別の有利な実施形態によると、該ペプチドは、HLA II分子を繋留するための残基P1、P6及び/又はP9の少なくとも1つの芳香族又は疎水性アミノ酸での置換、残基P6のシステイン(C)での置換、残基P9のC、D、Q、S、T又はEでの置換、及び/又は残基P4の別の天然若しくは合成アミノ酸での置換により得られる、上記のペプチドの1つの変異型である。
【0056】
用語「天然又は合成アミノ酸」は、タンパク質において通常見出される20個の天然α-アミノ酸(A、R、N、D、C、Q、E、G、H、I、L、K、M、F、P、S、T、W、Y及びV)、タンパク質ではほとんど遭遇しないある種のアミノ酸(ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、メチルリジン、ジメチルリジンなど)、タンパク質中には存在しないアミノ酸、例えばβ-アニリン、γ-アミノ酪酸、ホモシステイン、オルニチン、シトルリン、カナバニン、ノルロイシン、シクロヘキシルアラニンなど、並びに上記のアミノ酸の鏡像異性体及びジアステレオマーを意味することを意図する。
【0057】
用語「疎水性アミノ酸」は、(1文字コードで):A、V、L、I、P、W、F及びMから選択されるアミノ酸を意味することを意図する。
用語「芳香族アミノ酸」は、(1文字コードで):F、W及びYから選択されるアミノ酸を意味することを意図する。
【0058】
上記のペプチドの別の有利な実施形態によると、該ペプチドは、標識されているか又は複合化されている(complexed)。これは、特に、標識された、例えばビオチン標識されたHLA II分子と複合化されて、HLA II/ペプチド複合体、特にテトラマーのような多量体複合体を形成し得る。
【0059】
本発明の主題は、癌に対する予防的若しくは治療的免疫化、又は癌の診断、予後若しくは治療的監視において抗原として用いるための、少なくとも一方が上記で定義されるペプチドに含まれるサバイビンCD4+ Tエピトープである少なくとも2つの同一又は異なるエピトープの連鎖(concatenation)を含むポリエピトープフラグメントでもある。
【0060】
好ましくは、上記のポリエピトープフラグメントは、20〜1000アミノ酸、好ましくは20〜100アミノ酸の長さを有する。
【0061】
上記のポリエピトープフラグメントは、該フラグメントの精製又は検出のために、その末端の一方に融合されたタグを含むことが有利である。タグ、特にポリヒスチジン配列又は抗原のBエピトープは、融合体からポリエピトープ配列を単離するように、プロテアーゼのための開裂部位によりポリエピトープ配列と分けられていることが好ましい。
【0062】
上記のポリエピトープフラグメントの有利な実施形態によると、該ポリエピトープフラグメントは、上記のペプチドに含まれる少なくとも1つのサバイビンCD4+ Tエピトープと、次の群から選択される少なくとも1つのエピトープの連鎖を含む:
- HLA I分子により提示され、かつ該抗原に特異的な細胞傷害性Tリンパ球により認識されるサバイビンCD8+ Tエピトープ。このようなCD8+ Tエピトープは、特に、サイトhttp://www.cancerimmunity.org/peptidedatabase/tumorspecific.htmに記載されている。好ましくは、CD8+ Tエピトープは、サバイビン96-104 (LTLGEFLKL、配列番号37)又は95-104 (LTLGEFLKL、配列番号38)、サバイビン-2B 80-88 (AYACNTSTL、配列番号39)及びBachinskyら, Cancer Immun., 2005, 5, 6の表Iに記載されるようなペプチドから選択される;
【0063】
- 天然又は合成のユニバーサルCD4+ Tエピトープ、例えば破傷風毒素ペプチドTT 830-846 (O'Sullivanら, J. Immunol., 1991, 147, 2663〜2669)、インフルエンザウイルスヘマグルチニンペプチドHA 307-319 (O'Sullivanら, 上記)、PADREペプチド(KXVAAWTLKAA、配列番号41; Alexanderら, Immunity, 1994, 1, 751〜761)、及び熱帯熱マラリア(Plasmodium falciparum)抗原に由来するペプチド、例えばCS.T3ペプチド(Sinigagliaら, Nature, 1988, 336, 778〜780)及びCSP、SSP2、LSA-1及びEXP-1ペプチド(Doolanら, J. Immunol., 2000, 165, 1123〜1137);
【0064】
- 糖から形成されるBエピトープ(Alexanderら, 上記)、該Bエピトープは、糖ペプチドの形であるのが好ましい;並びに
- 腫瘍抗原に指向された抗体により特異的に認識されるサバイビンBエピトープ。
【0065】
上記で定義されるエピトープの少なくとも1つとのCD4+ Tエピトープの組み合わせは、抗腫瘍免疫応答を誘発又は調節することを有利に可能にする。
【0066】
本発明の主題は、癌に対する予防的若しくは治療的免疫化、又は癌の診断、予後若しくは治療的監視において抗原として用いるための、上記で定義されるペプチド又はポリエピトープフラグメントを含むリポペプチドでもある。
【0067】
上記のリポペプチドは、特に、上記のペプチド又はポリエピトープフラグメントのアミノ酸のα-アミノ官能基又は側鎖の反応性官能基への脂質の付加により得られる。これは、任意に分岐しているか又は不飽和であってよいC4〜C20脂肪酸(パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、2-アミノヘキサデカン酸、ピメラウチド(pimelautide)、トリメキサウチド(trimexautide))、又はステロイドの誘導体に由来する1又は複数の鎖を含み得る。好ましい脂質部分は、特に、Ac-K (Pam)ともよばれるNα-アセチルリジン Nε (パルミトイル)基により表される。
【0068】
本発明の主題は、癌に対する予防的若しくは治療的免疫化、又は癌の診断、予後若しくは治療的監視において抗原として用いるための、上記で定義されるペプチド又はポリエピトープフラグメントと融合したタンパク質又はタンパク質フラグメントからなる融合タンパク質でもある。
【0069】
ペプチド又はポリエピトープフラグメントは、上記のタンパク質のNH2-又はCOOH-末端と融合されるか、又は該タンパク質の配列内に挿入され得る。
【0070】
上記の融合タンパク質の有利な実施形態によると、該融合タンパク質は、好ましくはヒトインバリアント鎖Ii又はLAMP-1タンパク質に由来する、エンドソームを標的にする配列と融合した上記で定義されるペプチドからなる。エンドソームを標的にする配列及び抗原をエンドソームに標的させるためのその使用については、特に、Sandersonら(P.N.A.S., 1995, 92, 7217〜7222)、Wuら(P.N.A.S., 1995, 92, 11671〜11675)及びThompsonら(J. Virol., 1998, 72, 2246〜2252)に記載されている。
【0071】
上記の融合タンパク質の別の有利な実施形態によると、これは、HLA II分子の鎖の1つ、好ましくはベータ鎖、又は可溶性HLA II分子に対応するそのフラグメント、特に同種のシグナルペプチド若しくは異種のシグナルペプチドが先行する細胞外ドメインに対応するフラグメントと融合した、上記で定義されるペプチドからなる。該ペプチドは、HLA-DR分子について記載されるように(Kolzinら, PNAS, 2000, 97, 291〜296)、シグナルペプチドと、β鎖の細胞外ドメインのNH2-末端との間に挿入されるのが有利である。
【0072】
あるいは、上記のペプチド又はポリエピトープフラグメントは、その精製又は検出を促進するための当業者に知られるタンパク質、特にグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)及び蛍光タンパク質(GFP及びその誘導体)と融合される。この場合、興味のあるペプチド又はポリエピトープフラグメントの配列は、該ペプチド又はポリエピトープフラグメントの精製を促進するために、プロテアーゼのための開裂部位によりタンパク質の残りから分けられていることが好ましい。
【0073】
本発明の主題は、癌に対する予防的若しくは治療的免疫化、又は癌の診断若しくは予後において抗原として用いるための、上記で定義されるペプチド、ポリエピトープフラグメント又は融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを、転写及び任意に翻訳のための適切な調節配列の制御下に含む発現ベクターでもある。
【0074】
本発明によると、上記のポリヌクレオチドの配列は、上記のペプチド又はポリエピトープフラグメント又は融合タンパク質をコードするcDNAの配列である。上記の配列は、有利には、それが発現される宿主内でコドン使用が最適になるように改変され得る。さらに、上記のポリヌクレオチドは、少なくとも1つの異種配列に連結され得る。
【0075】
本発明の目的について、「サバイビンをコードする核酸配列に関して異種である配列」との表現は、該サバイビンペプチドをコードする上記の核酸配列に天然に直接隣接するもの以外の任意の核酸配列を意味することを意図する。
【0076】
本発明によると、上記の組換えベクターは、上記で定義される少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む発現カセットを、転写及び任意に翻訳のための適切な調節配列(プロモーター、エンハンサー、イントロン、開始コドン(ATG)、停止コドン、ポリアデニル化シグナル)の制御下に含む。
【0077】
興味のある核酸分子を、それを真核又は原核の宿主細胞に導入して維持するために挿入可能な多くのベクターが、それら自体で知られている。適切なベクターの選択は、このベクターについて構想される使用(例えば、興味のある配列の複製、この配列の発現、染色体外の形でのこの配列の維持、又は宿主の染色体物質への組込み)、及び宿主細胞の性質にも依存する。例えば、とりわけ、興味のある配列が予め挿入されたアデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、AAV及びバキュロウイルスのようなウイルスベクターを用い得る。上記の配列(単離されているか又はプラスミドベクターに挿入されている)は、宿主細胞の膜を横切ることを可能にする物質、例えばナノ輸送体又はリポソーム若しくはカチオン性ポリマーの調製物のような輸送体と組み合わせてもよいか、或いは該配列は、エレクトロポレーション又はマイクロインジェクションのような物理的方法を用いて宿主細胞に導入してもよい。さらに、これらの方法は、組み合わせることが有利であり得、例えばリポソームと組み合わせたエレクトロポレーションを用い得る。
【0078】
本発明の主題は、上記で定義される少なくとも1つのペプチド、少なくとも1つのポリエピトープフラグメント、少なくとも1つの融合タンパク質、少なくとも1つのリポペプチド又は少なくとも1つのベクターと、医薬的キャリア、キャリアサブスタンス又はアジュバントとを含むことを特徴とする免疫原性又はワクチン組成物でもある。
【0079】
本発明による免疫原性組成物は、非経口(皮下、筋肉内、静脈内)、経腸(経口、舌下)、又は局所(直腸、膣)の投与に適する医薬形態である。
【0080】
医薬的に許容されるキャリア、キャリアサブスタンス及びアジュバントは、従来用いられているものである。
アジュバントは、油性エマルジョン、無機物質(mineral substances)、細菌抽出物、サポニン、水酸化アルミナ(alumina hydroxide)、モノホスホリル-リピドA及びスクアレンからなる群より有利に選択される。
キャリアサブスタンスは、単層若しくは多層リポソーム、ISCOM、ウイロソーム、ウイルス擬似粒子、サポニンミセル、糖(ポリ(ラクチド-コ-グリコリド))又は特に金含有である固形マイクロスフェア、及びナノ粒子からなる群より有利に選択される。
【0081】
上記の組成物の有利な実施形態によると、これは、上記で定義されるペプチドの混合物、ポリエピトープフラグメント及び/又は該ペプチド若しくはフラグメントをコードする発現ベクターの形で少なくとも1つのサバイビンCD4+ Tエピトープと少なくとも1つのサバイビンCD8+ Tエピトープを含む。
【0082】
上記の組成物のこの実施形態の有利な態様によると、CD8+ Tエピトープは、サバイビン96-104 (LTLGEFLKL)又は95〜104 (LTLGEFLKL)、サバイビン-2B 80-88 (AYACNTSTL)及びBachinskyら, Cancer Immun., 2005, 5, 6の表Iに記載されるようなペプチドから選択される。
【0083】
上記の組成物の別の有利な実施形態によると、該組成物は、以下の組み合わせの1つからなる群より選択される、上記で定義されるCD4+ Tエピトープを含む少なくとも2つのサバイビンペプチドを含む:
- ペプチド17-31と、少なくとも1つのペプチド19-33、90-104又は128-142、
- ペプチド19-33と、ペプチド96-110、
- ペプチド90-104と、ペプチド17-31、
- ペプチド96-110と、ペプチド90-104、及び
- ペプチド93-107及び128-142と、少なくとも1つのペプチド17-31、19-33、96-110又は90-104。
【0084】
このような組み合わせは、免疫される実質的に全ての個体において有利にCD4+ Tリンパ球を誘導することを可能にする。
【0085】
上記の組成物のさらに別の有利な実施形態によると、該組成物は、上記で定義されるユニバーサルCD4+ Tエピトープを含むペプチドを含む。
【0086】
本発明の主題は、上記で定義される少なくとも1つのペプチド、少なくとも1つのポリエピトープフラグメント、少なくとも1つの融合タンパク質、少なくとも1つのリポペプチド及び/又は少なくとも1つのベクターの、癌の予防又は治療用のワクチンの製造のための使用でもある。
【0087】
本発明によるペプチド及び誘導生成物(ポリエピトープフラグメント、融合タンパク質、リポペプチド、組換えベクター)は、サバイビンを過剰発現する腫瘍の治療における免疫療法において用い得る。上記のペプチド又は誘導生成物は、ワクチンとして若しくは細胞療法において、又は2つのアプローチの組み合わせにより用いられる。
【0088】
細胞療法は、治療される患者からの末梢血単核細胞(PBMC)の単離、及びペプチドの存在下での樹状細胞の培養を含む通常のプロトコルによる抗原提示細胞(樹状細胞)の調製を含む。第二の工程において、ペプチドをのせた抗原提示細胞は、患者に再注入される。
【0089】
本発明の主題は、上記で定義される少なくとも1つのペプチド、少なくとも1つのポリエピトープフラグメント、少なくとも1つの融合タンパク質、少なくとも1つのリポペプチド及び/又は少なくとも1つのベクターの、癌の診断、予後の評価又は治療の監視のための試薬の製造のための使用でもある。好ましくは、該試薬は、任意に標識又は複合化された上記で定義されるペプチド又は融合タンパク質、特に、四量体のような多量体複合体の形の標識された、例えばビオチン標識されたHLA II分子と複合化されたものを含む。
【0090】
本発明の主題は、
- 個体からの生体試料を上記で定義されるペプチドと接触させ、
- いずれの適切な手段によりサバイビン特異的CD4+ Tリンパ球を検出する
ことを含むことを特徴とする、個体における癌の診断、予後の評価又は治療の監視のためのインビトロの方法でもある。
【0091】
本発明の主題は、上記で定義される少なくとも1つのペプチドと、任意に、CD4+ Tリンパ球を検出するための試薬とを含むことを特徴とする、癌の診断、予後の評価又は治療の監視のためのキットでもある。
【0092】
本発明による方法は、癌又は抗腫瘍治療、特に抗腫瘍免疫療法の経過の間に、サバイビンに指向されたCD4+ T応答の進展を監視することを可能にする。サバイビン特異的CD4+ Tリンパ球は、TH1型(IFN-γの分泌)、TH2型(IL-4の分泌)又は制御T型(IL-10又はTGF-βの分泌)であり得る。TH1型T応答が癌の好ましい進展の徴候であり、制御T応答が癌の好ましくない進展の徴候であることが予測される。検出は、CD4+ T細胞を含む生体試料、特に末梢血試料から単離された単核細胞の試料(PBMC)を用いて行われる。
【0093】
サバイビン特異的CD4+ Tリンパ球は、それらの自体で公知の任意の手段により検出される。例えば、上記で定義されるような多量体複合体の存在下でのフローサイトメトリのような直接的手段、又はリンパ球増殖アッセイ及びIL-2、IL-4、IL-5、IL-10及びIFN-γのようなサイトカインについての、特に免疫酵素法(ELISA、RIA、ELISPOT)又はフローサイトメトリ(細胞内サイトカインのアッセイ)によるアッセイのような間接的手段を用い得る。
【0094】
より具体的には、
細胞の懸濁物(PBMC、CD8+細胞欠乏PBMC、上記で定義されるペプチドとのインビトロ培養工程により予め濃縮されたTリンパ球、又はクローン化されたTリンパ球)を、上記のペプチドと、所望により、適切な提示細胞、例えば樹状細胞、自己若しくは異種PBMC、リンパ芽球細胞、例えばEBVウイルスでの感染後に得られるもの、又は遺伝的に改変された細胞との存在下で3〜5日間培養する。最初の懸濁物中のサバイビン特異的CD4+ T細胞の存在は、以下の方法の1つに従って、ペプチドにより検出される。
【0095】
*増殖アッセイ:
サバイビン特異的CD4+ T細胞の増殖は、細胞のDNAへのトリチウム化チミジンの取り込みにより測定される。
【0096】
*ELISPOTアッセイ:
ELISPOTアッセイは、上記で定義されるペプチドに特異的なサイトカイン(IL-2、IL-4、IL-5、IL-10及びIFN-γ)分泌T細胞の存在を明らかにすることを可能にする。このアッセイの原理は、Czerkinskyら, J. Immunol. Methods, 1983, 65, 109〜121、及びSchmittelら, J. Immunol. Methods, 1997, 210, 167〜174に記載され、その実行は、国際出願WO 99/51630又はGahery-Segardら, J. Virol., 2000, 74, 1694〜1703に記載されている。
【0097】
*サイトカインの検出:
IL-2、IL-4、IL-5、IL-10及びIFN-γのようなサイトカイン分泌サバイビン特異的T細胞の存在は、特に市販のキットを用いる免疫酵素学的アッセイにより培養上清に存在するサイトカインをアッセイすることによるか、又はフローサイトメトリにより細胞内のサイトカインを検出することにより検出される。細胞内サイトカインの検出の原理は、Goulderら, J. Exp. Med., 2000, 192, 1819〜1832、及びMaeckerら, J. Immunol. Methods, 2001, 255, 27〜40に記載され、その実施は、Draenertら, J. Immunol. Methods, 2003, 275, 19〜29に記載されている。
【0098】
*多量体複合体
- 生体試料、好ましくは末梢血単核細胞(PBMC)は、可溶性HLA II分子と上記で定義されるペプチドとの結合により形成された、標識された、特に蛍光色素で標識された多量体複合体と接触させ、
- 上記の多量体複合体で標識された細胞を、特にフローサイトメトリで分析する。
【0099】
有利には、上記の複合体と生体試料とを接触させる前に、該生体試料を抗CD4抗体と接触させることにより、CD4+ T細胞を濃縮する。
【0100】
HLA II/ペプチド多量体複合体は、HLA II分子を発現する細胞から抽出された天然分子、又は例えばNovakら(J. Clin. Investig., 1999, 104, R63〜R67)又はKurodaら(J. Virol., 2000, 74, 18, 8751〜8756)に記載されるような適切な宿主細胞で産生された組換え分子から調製できる。これらのHLA II分子は、特に短くしてもよく(膜貫通ドメインの欠失)、それらの配列を、それらを可溶性にするために又はアルファ鎖とベータ鎖の対形成を促進するために改変してもよい(Novakら, 上記)。
【0101】
HLA II分子にペプチドをのせることは、上記のようなHLA II分子の調製物を、ペプチドと接触させることにより行い得る。例えば、ビオチン標識した可溶性HLA II分子を、37℃にて72時間、上記で定義されるような10倍過剰で、4.5〜7のpHの0.15 M NaCl含有10 mMリン酸塩-クエン酸塩バッファー中でインキュベートする。
【0102】
あるいは、ペプチドの配列を、融合タンパク質を発現する適切な宿主細胞からのHLA II/ペプチド多量体複合体の調製を可能にする融合タンパク質の形のHLA II分子の鎖の1つに導入し得る。上記の複合体は、次いで、特にビオチンで標識し得る。
【0103】
四量体型の多量体複合体は、特に、ペプチドをのせたHLA II分子に、蛍光色素で標識されたストレプトアビジンを、HLA II分子に対して1/4量(モル対モル)で加え、次いで、混合物全体を充分な時間、例えば一晩、周囲温度にてインキュベートすることにより得られる。
【0104】
多量対複合体は、HLA I分子について記載されるような(Bodinierら, Nature, 2000, 6, 707〜710)HLA II/ペプチド単量体の、ストレプトアビジンと結合した磁性ビーズとのインキュベーションによるか、又はマウスMHCクラスII分子について記載されるような(Prakken, Nature Medicine, 2000, 6, 1406〜1410)HLA II/ペプチド単量体の、脂質小胞への挿入によっても形成できる。
【0105】
特に四量体型のこれらのHLA II/ペプチド多量体複合体を用いるために、細胞の懸濁物(PBMC、CD8+細胞欠乏PBMC、上記で定義されるようなペプチドとのインビトロ工程により予め濃縮されたTリンパ球、又はクローン化Tリンパ球)を、適切な濃度で(例えば10〜20μg/ml程度)、複合体とサバイビン特異的CD4+ Tリンパ球との間の結合を可能にするのに充分な時間(例えば1〜3時間程度)、HLA II/ペプチド多量体複合体と接触させる。洗浄後、懸濁物を、フローサイトメトリにより分析する。細胞の標識は、蛍光である多量体複合体により可視化される。
【0106】
フローサイトメトリは、HLA II/ペプチド多量体複合体で標識された細胞を、未標識の細胞から分けることを可能にするので、細胞の弁別を行うことを可能にする。
【0107】
よって、本発明の主題は、少なくとも以下の工程:
- インビトロにて、細胞試料を、標識された、特に蛍光色素で標識されたHLA II/ペプチド多量体複合体と接触させ、該複合体は可溶性HLA II分子と上記で定義される少なくとも1つのペプチドとの結合により形成され、
- 上記のHLA II/ペプチド複合体に結合した細胞を、特にフローサイトメトリにより弁別する
を含むことを特徴とする、サバイビン特異的CD4+ Tリンパ球を弁別する方法でもある。
【0108】
本発明の主題は、サバイビンのアルファ-アイソフォームの89位〜101位に位置するペプチド(ペプチド89-101)を除く、上記で定義されるペプチドでもある。
【0109】
本発明の主題は、上記で定義されるようなポリエピトープフラグメント、融合タンパク質、リポペプチド、ポリヌクレオチド、発現カセット、組換えベクター及び改変された原核又は真核宿主細胞でもある。
【0110】
本発明は、特に以下のものを包含する:
a) 上記で定義される少なくとも1つのポリヌクレオチドを、転写及び任意に翻訳のための適切な調節配列(プロモーター、エンハンサー、イントロン、開始コドン(ATG)、停止コドン、ポリアデニル化シグナル)の制御下に含む発現カセット、及び
b) 本発明によるポリヌクレオチドを含む組換えベクター。有利には、これらのベクターは、上記で定義される少なくとも1つの発現ベクターを含む発現ベクターである。
【0111】
上記で定義されるポリヌクレオチド、組換えベクター及び形質転換された細胞は、本発明によるペプチド、ポリエピトープフラグメント及び融合タンパク質の産生のために特に用い得る。
【0112】
本発明によるポリヌクレオチド、組換えベクター及び形質転換細胞は、Current Protocols in Molecular Biology (Frederick M. AUSUBEL, 2000, Wiley and son Inc, Library of Congress, USA)に記載されるもののような標準的なプロトコルに従って、それら自体で公知の通常の方法により得られる。例えば、これらは、PCR又はRT-PCRによる核酸配列の増幅により、相同プローブとのハイブリダイゼーションによるゲノムDNAライブラリーのスクリーニングにより、又は完全な若しくは部分的な化学合成により得ることができる。組換えベクターは、それら自体で公知の通常の組換えDNA及び遺伝子工学技術により構築され、宿主細胞に導入される。
【0113】
上記で定義されるペプチド及びそれらの誘導体(変異型、改変ペプチド、リポペプチド、ポリエピトープフラグメント、融合タンパク質)は、当業者に知られる通常の技術により、特に固相若しくは液相合成により、又は適切な細胞系(真核又は原核)での組換えDNAの発現により調製される。
【0114】
より具体的には:
- ペプチド及びその誘導体(変異型、ポリエピトープフラグメント)は、Merrifieldら(J. Am. Chem. Soc., 1964, 85: 2149〜)により最初に記載されたFmoc技術に従って固相合成され、逆相高性能液体クロマトグラフィーにより精製され得る;
- リポペプチドは、特に、国際出願WO 99/40113又はWO 99/51630に記載される方法に従って調製され得る;
- ペプチド並びに変異型、ポリエピトープフラグメント及び融合タンパク質のような誘導体は、当業者に知られる任意の手段により得られる対応するcDNAからも産生できる。cDNAは、真核又は原核発現ベクターにクローニングされ、組換えベクターで改変された細胞で産生されるタンパク質又はフラグメントを、任意の適切な手段、特にアフィニティクロマトグラフィーにより精製する。
【0115】
上記の態様に加えて、本発明は、添付の図面を参照にして本発明の主題の実施例に言及する以下の記載から明らかになるその他の態様も含む。添付の図面において:
- 図1は、正常な提供者171及び174のPBMCから得られたCD4+ Tリンパ球系統の特異性を示す。CD4+ Tリンパ球系統は、選択された7つのペプチド(17-31、20-34、84-98、90-104、93-107、96-110及び128-142)の混合物をのせた自己樹状細胞で、1週間間隔で3回刺激した後に得られた。Tリンパ球系統の特異性は、IFN-γELISPOTにより評価した。104個のCD4+ Tリンパ球を、二重に、105の自己PBMCと、ペプチドの存否でインキュベートした。スポットは、インキュベーションの24時間後に明示した。各バーは、二重のスポットの平均数±標準偏差を表す。陽性の値は、ネガティブコントロールのものより少なくとも3倍大きいものである。
【0116】
- 図2は、6人の正常な提供者(169、171、174、187、188、208)からの、種々のサバイビンペプチドに特異的なCD4+ Tリンパ球系統のHLA II拘束要素(restriction element)を示す。CD4+ Tリンパ球系統は、選択された7つのペプチドの混合物(17-31、20-34、84-98、90-104、93-107、96-110及び128-142)をのせた自己樹状細胞で、1週間間隔で3回刺激した後に得られた。Tリンパ球系統のHLA II拘束性は、IFN-γELISPOTにより評価した。104個のCD4+ Tリンパ球を、二重に、HLA-DR又はHLA-DP4分子の一方でトランスフェクションした3×104個のL細胞と、適切なペプチドの存否でインキュベートした。各バーは、二重のスポットの平均数±標準偏差を表す。
【0117】
- 図3は、ペプチド特異的CD4+ Tリンパ球系統へのサバイビンの提示を示す。サバイビン特異的CD4+ Tリンパ球系統は、2人の正常な提供者(187及び188)からのPBMCから得た。サバイビン(BIR5)及びHIV Nefタンパク質を、未熟な自己樹状細胞と4時間インキュベートした。樹状細胞(DC)を、次いで、洗浄し、CD4+ Tリンパ球とインキュベートした(2×104個のDCs及び104個のCD4+ Tリンパ球)。CD4+ Tリンパ球応答を、IFN-γELISPOTにより測定した。各バーは、二重のスポットの平均値±標準偏差を表す。
【0118】
- 図4は、サバイビン特異的CD4+ Tリンパ球系統の、ペプチド用量の低下に対する応答を示す。サバイビン特異的CD4+ Tリンパ球系統は、2人の正常な提供者(174及び188)からのPBMCから得られた。該系統を、減少する濃度(10-5〜10-10 M)のペプチド17-31(▲)、90-104(■)、93-107(■)、96-110 (△)又は128-142(□)と、105個の自己PBMCの存在下でインキュベートした。CD4+ Tリンパ球応答は、IFN-γELISPOTにより測定した。
【0119】
実施例1:HLA II分子に対するサバイビンペプチドの結合活性
1) 材料及び方法
a) ペプチド及びタンパク質
サバイビンの全体の配列(SwissProt O15392)をカバーする15アミノ酸のペプチド(15マー)を、HLA-DR及びHLA-DP4分子のP1ポケットに繋留するための1位〜5位、特に3位又は4位での芳香族又は疎水性残基の存在に従って選択した。
選択されたペプチドの配列を、表II及び添付の配列表に示す。
【0120】
ペプチドは、固相並行合成によるFmocストラテジに従って合成し(357 MPS合成機、Advanced Chemtech Europe)、RP-HPLC (Vydac C18カラム、Interchim)により任意に精製し、質量分析(ES-MS)及び分析用HPLCにより制御した。
【0121】
サバイビン(Bir5又はBIR5)及びHIV Nefタンパク質を、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質の形でE. coliにて産生し、グルタチオンカラムで精製して、タンパク質溶解切断によりGSTから分離した。
【0122】
【表2】

【0123】
b) HLA II/ペプチド結合アッセイ
HLA II分子への結合についてのアッセイは、HLA-DR分子について米国特許第6,649,166号、Texierら, J. Immunol., 2000, 164, 3177〜3184、及びTexierら, Eur. J. Immunol., 2001, 31, 1837〜1846に、HLA-DP4分子についてPCT国際出願WO 03/040299及びCastelliら, J. Immunol., 2002, 169, 6928〜6934に記載されるように、免疫酵素学的可視化を用いる競合的結合アッセイである。種々の抗原に由来するペプチドの結合活性の測定のためのこれらのアッセイの使用は、米国特許第6,649,166号並びにPCT国際出願WO 02/090382、WO 03/040299及びWO 2004/014936に記載されている。
【0124】
より具体的には、Texierら, J. Immunol., 2000, 164, 3177〜3184に記載されるプロトコルに従ってNH2末端残基でビオチン標識されたペプチド:HA 306-318 (PKYVKQNTLKLAT、配列番号29)、A3 152-166 (EAEQLRAYLDGTGVE、配列番号30)、MT 2-16 (AKTIAYDEEARRGLE、配列番号31)、B1 21-36 (TERVRLVTRHIYNREE、配列番号32)、YKL (AAYAAAKAAALAA、配列番号33)、LOL 191-210 (ESWGAVWRIDTPDKLTGPFT、配列番号34)、E2/E168 (AGDLLAIETDKATI、配列番号35)及びOxy 271-287 (EKKYFAATQFEPLAARL、配列番号36)を、以下の表に記載する条件下でトレーサーとして用いる。
【0125】
【表3】

【0126】
結果は、ビオチン標識トレーサーペプチドの最大結合の50%を阻害する競合ペプチドの濃度(nM) (IC50)の形で表す。各アッセイの感度は、トレーサーに対応する非ビオチン標識ペプチドを用いて観察されるIC50値により反映される。トレーサーのIC50値は、3未満の係数で変動する。1000 nM未満のHLA II分子に対する結合活性(IC50)を有するペプチドは、このHLA II分子について良好な親和性を有し、100 nM未満のHLA II分子に対する結合活性(IC50)を有するペプチドは、このHLA II分子に対して強い親和性を有する。
【0127】
2) 結果
サバイビンの3つの別個の領域は、特に白人個体群において優勢な、少なくとも3つの優勢HLA II分子:17-34 (N末端)、84-113及び122-142 (C末端)領域に良好な親和性(IC50<1000 nM)で結合し得る(表IV)。
【0128】
【表4−1】

【0129】
【表4−2】

【0130】
一方、残りの配列に由来するペプチドは、白人個体群において優勢な少なくとも3つのHLA II分子に対する著しい結合活性を全く示さない。さらに、どのペプチドも、DR3分子にもDRB3分子にも結合しない。
【0131】
いくつかのペプチドは対立遺伝子に対して特異的であり、例えばHLA-DR11分子にのみ結合するペプチド1-15、4-18及び52-66、並びにHLA-DRB4分子にのみ結合するペプチド41-55である。
【0132】
N末端領域のペプチドは、HLA-DR1、DR7、DR11、DR13、DR15、DRB5、DP401及びDP402分子に対して良好な親和性を有する。
領域84〜113において、4つの重複ペプチド84-98、90-104、93-107及び96-110の結合能力は、HLA-DR1、DR4、DR7、DR11、DR13、DR15、DRB5、DP401及びDP402分子をカバーする。ペプチド91-105は、DR1、DR7、DRB5、DP401及びDP402分子に対して高い親和性を有する。
【0133】
C末端領域において、ペプチド128-142は、DR1及びDR11分子に対して高い親和性を、そしてHLA-DR4及びHLA-DR15分子に対してより低い親和性を有する。
HLA-DR1、-DR4、-DR7、-DR11、-DR15、DRB5、DP401及びDP402から選択される白人個体群において優勢な少なくとも4つのHLA II分子について良好な親和性を有する7つのペプチドを、免疫原性試験のために選択した:17-31、20-34、84-98、90-104、93-107、96-110及び128-142。
【0134】
実施例2:インビトロでのサバイビンペプチドの免疫原性
白人個体群において優勢なHLA II分子に対する良好な親和性を有するペプチドの、特異的Tリンパ球の刺激を誘発する能力を、正常な個体(腫瘍を有さない)からの血液試料を用いて評価した。目的は、CD4+前駆リンパ球を、ナイーブな個体ではそれらは非常に頻度が低いが、補充する能力を評価すること、すなわちこれらのペプチドによるインビトロ免疫化を行うことである。
【0135】
1) 材料及び方法
a) 試験された個体
7人の正常な提供者の末梢血単核細胞(PBMC)を、フィコール勾配(Ficoll-Hypaque, Sigma-Aldrich)で分離し、次いで、提供者のHLA-DR及びHLA-DP遺伝子型をSSPにより、Olerup SSPTM HLA-DPB1及びHLA-DRB1キット(Olerup SSP AB)を用いて決定した。これらの個体のHLA-DRB1及びHLA-DPB1対立遺伝子を、表Vに示す。
【0136】
【表5】

【0137】
b) サバイビンに特異的でありかつ優勢HLA II分子に拘束されるCD4+ Tリンパ球の産生
末梢血単核細胞(PBMC)を、フィコール勾配(Ficoll-Hypaque, Sigma-Aldrich)で分離した。次いで、PBMCを、AIM V培地(Life Technologies; 107細胞/ml)で培養し、37℃、5% CO2存在下のインキュベータ中のフラスコ内でインキュベートした。一晩のインキュベーションの後に、非接着細胞を回収し、次いで、CD4+ Tリンパ球を磁気ビーズ(Myltenyi Biotechキット)に結合した抗CD4抗体を用いて精製し、製造者(Myltenyi Biotech)の推奨に従ってフローサイトメトリ(MACS)により弁別し、凍結した。接着細胞を、1000 U/mlの組換えヒトGM-CSF及び1000 U/mlの組換えヒトIL-4 (rh-GM-CSF及びrh-IL-4; Tebu)を含有するAIM V培地で5〜6日間インキュベートし、樹状細胞(未成熟樹状細胞)に分化した細胞を、その後、それらの成熟を誘発するように、1μg/mlのLPS (Sigma)、1000 U/mlのrh-IL-4及び1000 U/mlのrh-GM-CSFの存在下で2日間培養した。
【0138】
樹状細胞調製物の質を、Cell Quest ProTMソフトウェア(Becton Dickinson)で支援されたフローサイトメトリ(FACScaliburフローサイトメータTM, Becton Dickinson)により評価する。このために、樹状細胞を、蛍光色素とコンジュゲートした抗-CD14、-CD86、-HLA-DR、-CD80 (Becton Dickinson)、-Cd1a、-HLA-ABC、-CD83及び-CD16 (Beckman Coulter)抗体で標識する。
【0139】
このようにして得られた成熟樹状細胞(DC; 1 ml中に5×105細胞)を、グルタミン(24 mM, Sigma)、アスパラギン類(55 mM, Sigma)、アルギニン(150 mM, Sigma)、ペニシリン(50 IU/ml, Invitrogen)、ストレプトマイシン(50 mg/ml, Invitrogen)及び10%ヒト血清を補ったIMDM培地(Invitrogen) (以下、完全IMDM培地という)中のペプチド混合物(各ペプチド10μg)と、37℃にて4時間インキュベートした。その後、成熟樹状細胞を洗浄し、予め融解させた自己CD4+ Tリンパ球(104個のDC及び105個のCD4+ T)の存在下に、1000 U/ml IL-6 (R&D systems)及び10 ng/ml IL-12 (R&D systems)を含有する完全IMDM培地200μl中でインキュベートした。7日後(D7)、培養物を、IL-2 (10 U/ml)及びIL-7 (5 ng/ml)を含有する培地中で、予め融解させ、ペプチド混合物をのせた成熟樹状細胞により初めて刺激した。ペプチド混合物をのせた樹状細胞によりさらに2回刺激した後に(D14及びD21)、ペプチドに対する細胞の特異性を、D28及びD29に、IFN-γの産生をELISPOTにより測定することにより分析した。
【0140】
c) HLA-DP4拘束性サバイビン特異的CD4+ Tリンパ球系統の産生
白人個体群で優勢な一連のHLA-DR分子に拘束されるTリンパ球系統の産生に用いたものと同様のプロトコルに従って、HLA-DP4拘束性サバイビン特異的CD4+ Tリンパ球系統を、自己樹状細胞の刺激のためにペプチド84-98、93-107、90-104及び19-33の混合物を用いて産生した。
【0141】
d) ELISPOTによる系統の特異性の分析
PBSバッファー中で10μg/mlに希釈した抗IFN-γヒトモノクローナル抗体1-D1K (MABTECH)を、ニトロセルロースプレート(Multiscreen HA; Millipore)に、37℃にて1時間吸着させた。その後、プレートをPBSで洗浄し、完全IMDM培地(100μl/ウェル)で、37℃にて1時間飽和させた。抗原提示細胞は、自己PBMC、上記のようにして調製した未成熟自己樹状細胞、又は試験されるHLA-DR又はHLA-DP4分子の一方をコードするcDNAでトランスフェクションされた(Yuら Hum. Immunol. 1990, 27, 132〜135)マウス繊維芽細胞系統(系統L)であり、HLA-DR及びHLA-DP4分子に関する系統の特異性を確認する。抗原提示細胞(105個の自己PBMC、3×104個のトランスフェクションされたL細胞、又は2×104個の未成熟自己樹状細胞)と、試験されるCD4+ Tリンパ球(104個のCD4+ Tリンパ球)とを、その後、プレートに加え、単独のペプチド(2μg)、ペプチド混合物(各ペプチド2μg)、又はタンパク質(Bir5又はNef)の存否で、37℃にて24時間インキュベートした。タンパク質(1μM)を未成熟樹状細胞の存在下で37℃にて4時間インキュベートし、洗浄する。ペプチドを、プレートに直接加える。用量応答実験のために、ペプチドを10-5〜10-10 Mの範囲の種々の濃度で用いる。水、次いでPBSバッファー-0.05% Tween、そして最後にPBS単独で3回連続洗浄した後に、1% BSA含有PBS中で0.25μg/mlに希釈した100μlのビオチンコンジュゲートIFN-γ二次抗体(7-B6-1-ビオチン, MABTECH)を各ウェルに加えた。1時間のインキュベーションの後に、プレートを再び洗浄し、1/6000に希釈した100μl/ウェルのエクストラアビジン(extravidin)-ホスファターゼ(E-2636, SIGMA)とインキュベートした。プレートをPBSバッファーで洗浄した後に、水で希釈した(水10 ml中に1錠) 100μlのNBT/BCIP基質(B-5655, SIGMA)を各ウェルに分配した。免疫酵素学的明示は、約10分後にプレートを水ですすぐことにより停止し、発色したスポットを、自動読み取り機(ELISPOTリーダーシステム, AID)を用いて計測した。系統は、スポットの数が、最少50スポットで、ネガティブコントロール(ペプチドを含まないコントロール)を用いて得られたものの3倍を超えて大きい場合に陽性であるとみなす。提示細胞を含まないコントロールは、HLA-DR又はHLA-DP4についての応答の特異性を確認することを可能にする(拘束性コントロール)。
【0142】
2) 結果
a) 全ての優勢HLA II分子に対して特異的な系統
98種のサバイビン特異的CD4+ Tリンパ球系統を、7人の正常な提供者から得た(表VI)。サバイビンペプチドに対する系統の特異性を、自己PBMCを抗原提示細胞として用いるIFN-γELISPOTにより分析した。
【0143】
【表6】

【0144】
図1は、正常な提供者171及び174に由来する12種のCD4+ Tリンパ球系統を用いて得られた結果を示す。これらの系統は、自己樹状細胞により提示されるペプチド混合物を用いて刺激されるが、混合物の非存在下で刺激されない。各提供者について播種した60個のウェルのうち、提供者171及び提供者174についてそれぞれ12種及び13種のペプチド特異的Tリンパ球系統が得られ、このことは、これらの系統が、ペプチドでの毎週の刺激により増幅されたいくつかのTリンパ球前駆体に由来することを示唆する。実際に、Tリンパ球系統は、単一ペプチド又は2つの重複ペプチドに対して通常特異的であり、このことは、これらが2つのペプチドに共通の領域に対して特異的であることを示唆する(図1)。全てのペプチドが、少なくとも1つの系統を誘導した(表VI及び図1)。
【0145】
7人の提供者は、個体群において優勢なHLA-DRハプロタイプ(表VI)、すなわち:HLA-DR1、-DR4、-DR7、-DR1、-DR13及び-DR15、並びに対応する第2のDR分子(DRB3、DRB4及びDRB5)をカバーする。白人個体群において優勢なHLA-DR分子のうち、HLA-DR3分子のみが存在しない。白人個体群におけるこの分子の頻度によると、5人の提供者がHLA-DP4分子を有する。提供者サンプリングは多重HLA IIハプロタイプを含むように選択されたが、ペプチド混合物は、各提供者において特異的CD4+ Tリンパ球系統を誘導する。ペプチド17-31は18種のTリンパ球系統を誘導し、ペプチド20-34は9系統を誘導し、ペプチド84-98は11系統を誘導し、ペプチド90-104は19系統を誘導し、ペプチド93-107は8系統を誘導し、ペプチド96-110は19系統を誘導し、ペプチド128-142は14系統を誘導する。ペプチド90-104は全ての提供者において免疫原性であり、ペプチド17-31、96-110及び128-142は、7人の提供者のうち5又は6人でTリンパ球系統を誘導した。
【0146】
ペプチドによるCD4+ Tリンパ球の特異的刺激を担うHLA II分子の拘束要素を、19の異なるCD4+ Tリンパ球系統について、HLA-DR分子の1つ若しくはHLA-DP4分子でトランスフェクションされたL細胞の存在下、又は提示細胞の非存在下で、IFN-γELISPOTにより評価した。ペプチドの非存在下でIFN-γ産生が検出されず(図2)、提示細胞の非存在下で穏やかな刺激が観察されることに鑑みると、系統は、抗原提示細胞によるペプチドの提示により特異的に誘発される。
【0147】
図2は、試験した系統のうち12について得られた結果を示す。Tリンパ球系統のほとんどは、単独のHLA II分子により提示されるそれらのペプチドにより刺激される。しかし、認識の低下が、例えば174.31及び187.34系統について観察される。刺激は、活性化された隣接Tリンパ球によるペプチドの提示に起因するのではない。なぜなら、L細胞の非存在下では穏やかな刺激しか観察されないからである。これらの結果は、DR7、DR15、DP4及びDRB4がペプチド17-31についての拘束要素であり、DP4がペプチド20-34についての拘束要素であり、DR7、DR11、DRB5及びDP4がペプチド90-104についての拘束要素であり、DR11及びDP4がペプチド93-107についての拘束要素であり、DR4、DR7及びDRB4がペプチド96-110についての拘束要素であり、DR15がペプチド128-142についての拘束要素であることを示す。
【0148】
2人の異なる提供者に由来する7つのペプチド特異的Tリンパ球系統の、天然タンパク質を認識する能力も分析した。図3に示す結果は、これらの実験の典型である。ペプチド17-31及び20-34に特異的な2つのTリンパ球系統(187.54及び187.34)は、組換えサバイビンを予めのせた自己樹状細胞を特異的に認識する。これらは、組換えサバイビンをのせていない樹状細胞又はHIV Nefタンパク質をのせた樹状細胞の存在下では刺激されない。同様に、Tリンパ球系統188.19及び188.57は、ペプチド90-104及び93-107の単独又は混合物により刺激され、サバイビンタンパク質を特異的に認識する。
【0149】
最後に、Tリンパ球によるペプチド認識の感度を、ペプチドの減少する用量の存在下で評価した(図4)。ペプチド93-107の他に、ペプチドの全てが、10-6 Mを超える濃度でTリンパ球を刺激し、ペプチド特異的Tリンパ球により効率的に認識される。ペプチド17-31は、特に効果的である。なぜなら、これは非常に低い濃度(10-10 M)で自己CD4+ Tリンパ球を刺激し得るからである。
【0150】
b) HLA-DP4-特異的系統
サバイビンペプチドに特異的な4つのHLA-DP4拘束性系統を示した。これらの系統は、HLA-DP4により提示されるペプチド混合物により刺激されるが、混合物の非存在下(ネガティブコントロール)、又はHLA-DP4 (APCなしのコントロール、VII)の非存在下では刺激されない。
【0151】
【表7】

【0152】
各系統は、混合物のペプチドの1つに応答する。混合物の4つのペプチドのうち、3つが、HLA-DP4の関係において免疫原性である(ペプチド93-107、90-104及び19-33)。
【0153】
上記から明らかなように、本発明は、ここでより詳細に記載したその実施、実行及び応用の方法のものに限定されない。逆に、本発明は、本発明の関係又は範囲を超えることなく、当業者が想到し得る全ての変形を含む。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】正常な提供者171及び174のPBMCから得られたCD4+ Tリンパ球系統の特異性を示す。
【図2】6人の正常な提供者(169、171、174、187、188、208)からの、種々のサバイビンペプチドに特異的なCD4+ Tリンパ球系統のHLA II拘束要素を示す。
【図3】ペプチド特異的CD4+ Tリンパ球系統へのサバイビンの提示を示す。
【図4】サバイビン特異的CD4+ Tリンパ球系統の、ペプチド用量の低下に対する応答を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチドが、
a) サバイビンのアルファ-アイソフォームの17位〜34位の間に位置する13〜18連続アミノ酸のペプチド、
b) サバイビンのアルファ-アイソフォームの84位〜113位の間に位置する13〜30連続アミノ酸のペプチド、
c) サバイビンのアルファ-アイソフォームの122位〜142位の間に位置する13〜21連続アミノ酸のペプチド、及び
d) a)、b)又はc)で定義されるペプチドの変異型
からなる群より選択され、
a)、b)若しくはc)のペプチド、又はd)の変異型が、1000 nM未満の白人個体群において優勢な少なくとも1つのHLA II分子に関する結合活性を有し、かつサバイビン特異的CD4+ Tリンパ球を誘導可能である、
癌に対する予防的若しくは治療的免疫化、又は癌の診断、予後若しくは治療的監視における抗原として用いるための、サバイビンのアルファ-アイソフォーム由来のペプチド。
【請求項2】
白人個体群において優勢なHLA II分子が、HLA-DR1、HLA-DR3、HLA-DR4、HLA-DR7、HLA-DR11、HLA-DR13、HLA-DR15、HLA-DRB3、HLA-DRB4、HLA-DRB5及びHLA-DP4からなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
HLA II分子が、HLA対立遺伝子DRB1*0101、DRB1*0301、DRB1*0401、DRB1*0701、DRB1*1101、DRB1*1301、DRB1*1501、DRB3*0101、DRB4*0101、DRB5*0101、DP*0401及びDP*0402によりそれぞれコードされることを特徴とする請求項2に記載のペプチド。
【請求項4】
白人個体群において優勢な少なくとも3つのHLA II分子により提示され得ることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項5】
少なくとも1つのHLA-DP401又はHLA-DP402分子により提示され得ることを特徴とする請求項3に記載のペプチド。
【請求項6】
サバイビンのアルファ-アイソフォームの17位〜31位、19位〜33位、20位〜34位、84位〜98位、90位〜104位、91位〜105位、93位〜107位、96位〜110位、99位〜113位、122位〜136位及び128位〜142位の間に位置する15アミノ酸のペプチドからなる群より選択されることを特徴とする請求項4又は5に記載のペプチド。
【請求項7】
白人個体群において優勢な少なくとも4つのHLA II分子により提示され得、かつペプチド:17-31、19-33、20-34、84-98、90-104、91-105、93-107、96-110及び128-142からなる群より選択されることを特徴とする請求項6に記載のペプチド。
【請求項8】
HLA-DP401又はHLA-DP402分子により提示され得、かつペプチド:17-31、19-33、20-34、84-98、90-104、91-105、93-107及び96-110からなる群より選択されることを特徴とする請求項7に記載のペプチド。
【請求項9】
配列番号5、6、7、17、19、20、21、23、24、27及び28の配列からなる群より選択されることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項10】
HLA II分子に繋留するための残基P1、P6及び/又はP9の少なくとも1つを芳香族又は疎水性アミノ酸で置換するか、残基P6をシステイン(C)で置換するか、残基P9をC、D、Q、S、T又はEで置換するか、及び/又は残基P4を別の天然若しくは合成のアミノ酸で置換することにより得られる請求項1及び6〜9のいずれか1項で定義されるペプチドの変異型であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項11】
13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24又は25アミノ酸の配列を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項12】
標識されているか又は複合化されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項13】
標識されたHLA II分子と複合化されていることを特徴とする請求項12に記載のペプチド。
【請求項14】
癌に対する予防的若しくは治療的ワクチン接種、又は癌の診断、予後若しくは治療的監視における抗原として用いるための、少なくとも2つの同一又は異なるエピトープの連鎖を含み、そのうちの少なくとも1つが請求項1〜11のいずれか1項に記載のペプチドであるポリエピトープフラグメント。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の少なくとも1つのペプチドと、少なくとも1つのサバイビンCD8+ Tエピトープ及び/又はユニバーサルCD4+ Tエピトープとの連鎖を含むことを特徴とする請求項14に記載のポリエピトープフラグメント。
【請求項16】
CD8+ Tエピトープが、配列番号37〜39の配列から選択されることを特徴とする請求項15に記載のポリエピトープフラグメント。
【請求項17】
癌に対する予防的若しくは治療的免疫化、又は癌の診断、予後若しくは治療的監視における抗原として用いるための、請求項1〜11のいずれか1項に記載のペプチド又は請求項14〜16のいずれか1項に記載のポリエピトープフラグメントと融合しているタンパク質又はタンパク質フラグメントからなる融合タンパク質。
【請求項18】
前記タンパク質又はタンパク質フラグメントが、HLA II分子のアルファ鎖若しくはベータ鎖、可溶性HLA II分子に相当する前記鎖のフラグメント、及びエンドソームを標的にする配列からなる群より選択されることを特徴とする請求項17に記載の融合タンパク質。
【請求項19】
前記標的にする配列が、インバリアント鎖Ii又はLAMP-1タンパク質に由来することを特徴とする請求項18に記載の融合タンパク質。
【請求項20】
癌に対する予防的若しくは治療的免疫化、又は癌の診断、予後若しくは治療的監視における抗原として用いるための、請求項1〜11のいずれか1項に記載のペプチド又は請求項14〜16のいずれか1項に記載のポリエピトープフラグメントのα-アミノ官能基又は側鎖の反応性官能基に脂質を付加することにより得られるリポペプチド。
【請求項21】
癌に対する予防的若しくは治療的免疫化、又は癌の診断、予後若しくは治療的監視における抗原として用いるための、請求項1〜11のいずれか1項に記載のペプチド、請求項14〜16のいずれか1項に記載のポリエピトープフラグメント又は請求項17〜19のいずれか1項に記載の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを、適切な調節配列の制御下に含む発現ベクター。
【請求項22】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の少なくとも1つのペプチド、請求項14〜16のいずれか1項に記載の少なくとも1つのポリエピトープフラグメント、請求項17〜19のいずれか1項に記載の少なくとも1つの融合タンパク質、請求項20に記載の少なくとも1つのリポペプチド、又は請求項21に記載の少なくとも1つのベクターと、医薬的に許容されるキャリア、キャリアサブスタンス又はアジュバントと含むことを特徴とする免疫原性又はワクチン組成物。
【請求項23】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の少なくとも1つのペプチドと、サバイビンCD8+ Tエピトープを含む少なくとも1つのペプチドとを、ペプチド混合物、ポリエピトープフラグメント及び/又は前記ペプチド若しくは前記フラグメントをコードする発現ベクターの形で含むことを特徴とする請求項22に記載の免疫原性又はワクチン組成物。
【請求項24】
CD8+ Tエピトープが、配列番号37〜39の配列から選択されることを特徴とする請求項23に記載の免疫原性又はワクチン組成物。
【請求項25】
以下の:
- ペプチド17-31と、ペプチド19-33、90-104又は128-142の少なくとも1つ、
- ペプチド19-33と、ペプチド96-110、
- ペプチド90-104と、ペプチド17-31、
- ペプチド96-110と、ペプチド90-104、及び
- ペプチド93-107と、ペプチド128-142と、ペプチド17-31、19-33、96-110又は90-104の少なくとも1つ
の組み合わせの1つからなる群から選択される請求項1〜13のいずれか1項で定義される少なくとも2つの異なるペプチドを含むことを特徴とする、請求項22〜24のいずれか1項に記載の免疫原性又はワクチン組成物。
【請求項26】
ユニバーサルCD4+ Tエピトープを含むことを特徴とする請求項22〜25のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項27】
癌の予防又は治療用のワクチンの製造のための、請求項1〜13のいずれか1項に記載の少なくとも1つのペプチド、請求項14〜16のいずれか1項に記載の少なくとも1つのポリエピトープフラグメント、請求項17〜19のいずれか1項に記載の少なくとも1つの融合タンパク質、請求項20に記載の少なくとも1つのリポペプチド、又は請求項21に記載の少なくとも1つのベクターの使用。
【請求項28】
癌の診断、予後の評価又は治療の監視用の試薬の製造のための、請求項1〜13のいずれか1項に記載の少なくとも1つのペプチド、請求項14〜16のいずれか1項に記載の少なくとも1つのポリエピトープフラグメント、請求項17〜19のいずれか1項に記載の少なくとも1つの融合タンパク質、請求項20に記載の少なくとも1つのリポペプチド、又は請求項21に記載の少なくとも1つのベクターの使用。
【請求項29】
- 個体からの生体試料を、インビトロで、請求項1〜13のいずれか1項に記載のペプチドと接触させ、
- 適切な手段によりサバイビン特異的CD4+ Tリンパ球を検出する
ことを含むことを特徴とする、個体での癌の診断、予後の評価又は治療の監視のためのインビトロでの方法。
【請求項30】
少なくとも:
- 細胞試料を、インビトロで、可溶性HLA II分子と請求項1〜13のいずれか1項に記載の少なくとも1つのペプチドとの結合により形成された標識HLA II/ペプチド多量体複合体と接触させ、
- 前記HLA II/ペプチド複合体に結合した細胞を弁別する
工程を含むことを特徴とする、サバイビン特異的CD4+ Tリンパ球を弁別する方法。
【請求項31】
サバイビンのアルファ-アイソフォームの89位〜101位の間に位置するペプチドを除く、請求項1〜13のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項32】
少なくとも2つの同一又は異なるエピトープの連鎖を含み、そのうちの少なくとも1つが請求項1〜13のいずれか1項に記載のペプチドであるポリエピトープフラグメント。
【請求項33】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のペプチド又は請求項32に記載のポリエピトープフラグメントと融合しているタンパク質又はタンパク質フラグメントからなる融合タンパク質。
【請求項34】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のペプチド又は請求項32に記載のポリエピトープフラグメントのα-アミノ官能基又は側鎖の反応性官能基に脂質を付加することにより得られるリポペプチド。
【請求項35】
請求項31に記載のペプチド、請求項32に記載のポリエピトープフラグメント又は請求項33に記載の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項36】
請求項35に記載のポリヌクレオチドを、転写及び任意に翻訳のための適切な調節配列の制御下に含む発現ベクター。
【請求項37】
請求項35に記載のポリヌクレオチド又は請求項36に記載の発現ベクターで改変された宿主細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−509518(P2009−509518A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532826(P2008−532826)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際出願番号】PCT/FR2006/002196
【国際公開番号】WO2007/036638
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(506315103)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE
【住所又は居所原語表記】25,rue Leblanc Immeuble(Le Ponant D),75015 PARIS,France
【Fターム(参考)】