説明

CD45陰性造血幹細胞

【課題】これまで種々の検査手段では確実な検出が困難であった骨髄異形成症候群(MDS)あるいは白血病化MDSを確実に検出するために有用な造血幹細胞を提供することを課題とする。
【解決手段】MDS患者が疑われるの骨髄液または末梢血から、CD45陰性かつCD34陰性かつLineage抗原陰性であることを特徴とするCD45陰性造血幹細胞の組成物を検出することにより、MDSの確定診断法を行なうことができる。更にはCD45陰性造血幹細胞を用いてMDSの新規な治療剤を開発することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨髄異形成症候群(Myelodysplastic syndromes:MDS)の検出に有用なCD45陰性造血幹細胞に関する。また、CD45陰性造血幹細胞を傷害あるいは正常に分化させることによる、MDSの新規な治療剤の開発に関する。
【背景技術】
【0002】
骨髄異形成症候群(MDS)は、造血幹細胞のクローン性異常による骨髄の機能異常を伴った骨髄異形成と血球減少によって特徴づけられる症候群である。血球減少(貧血、白血球減少、血小板減少等)を示す症例があれば、各血球系の形態異常(異形成)を確認し、骨髄または末梢血における芽球比率によって判断することが出来る。しかし、しばしば芽球比率が増加し、臨床検査では真正の急性骨髄性白血病(de novo AML)と区別がつかない白血病化MDSへと移行する。
【0003】
MDSの現在の診断方法としては、血球減少(貧血、白血球減少、血小板減少、bicytopenia、汎血球減少)を示す症例がいれば、各血球系の形態異常(異形成)を確認し、骨髄での芽球の比率や染色体の核型分析によって診断する。
【0004】
赤血球系では軽度の大球性貧血(MCVで100〜110 fl)が骨髄異形成症候群を疑うきっかけとなり、骨髄での最も特徴的な所見は、巨赤芽球様変化(megaloblastoid change)と環状鉄芽球である。白血球系では、好中球の顆粒減少と偽ペルゲル異常のような核の分葉の減少が、血小板系では巨大血小板と骨髄での小型巨核球が特徴的である。しかし、これらの形態異常は、ビタミンB12欠乏・葉酸欠乏・HIVなどのウイルス感染、さらに抗癌剤や抗生剤および有機溶媒への暴露などによっても生ずる可能性があるので、鑑別には注意が必要である。
【0005】
骨髄異形成症候群の10〜15%は低形成性骨髄異形成症候群であり、再生不良性貧血などとの鑑別が難しいこともある。一部には線維症を伴った症例もあることが知られているので、骨髄生検も実施することが重要である。
【0006】
診断の手順は、骨髄検査により細胞密度および骨髄像を評価する。FAB分類では、有核細胞中の芽球が30%未満の場合か、有核細胞中の赤芽球が50%以上ならば赤芽球以外の細胞中の芽球の比率が30%未満の場合に、骨髄異形成症候群と診断したが、新たに提唱されたWHO分類では芽球の比率が20%以上の場合が急性白血病と定義されている。以下にFAB分類の5病型について簡単に記載する。(非特許文献1参照)
【0007】
A)不応性貧血(RA、refractory anemia)
骨髄異形成症候群の20〜35%を占めている。骨髄の芽球比率は5%未満、環状鉄芽球は15%未満である。
【0008】
B)鉄芽球性貧血(RARS、sideroblastic anemia)
骨髄異形成症候群の2〜20%を占めている。骨髄の鉄芽球の中で環状鉄芽球が15%以上を占めているが、骨髄の芽球比率は5%未満である。
【0009】
C)芽球過剰性不応性貧血(RAEB、RAEM、refractory anemia with excess of blast)
骨髄異形成症候群の20%〜1/3を占めている。芽球の比率は、骨髄で5〜20%、末梢血で1〜5%を占める。
【0010】
D)移行期芽球過剰性不応性貧血(RAEB in T、refractory anemia with excess of blast in transformation)
FAB分類では、芽球の比率が骨髄で21〜30%を占めるものとされていたが、予後が急性白血病と同じことからWHO分類では削除され、急性白血病として扱われることになった。
【0011】
E)慢性骨髄単球性白血病(chronic myelomonocytic leukemia、CMMoL)
骨髄異形成症候群の15〜20%を占め、FAB分類では末梢血中の単球数が1,000/μl以上で、芽球の比率が骨髄で20%未満とされていたが、WHO分類では骨髄異形成症候群よりも骨髄増殖性疾患(myeloproliferative diseases、MPD)に含まれる病態であると定義されている。
【0012】
最近の疫学調査の結果によれば、MDSの発症頻度は骨髄系腫瘍の中で最多である(非特許文献2参照)。しかしながら、多くの研究にもかかわらず、未だ有用な治療法は確立されておらず、白血病化MDSは治療に不応性のことが多い。一方de novo AMLでは治療に良く反応することが多い。したがって、白血病化MDSであるか、de novo AMLであるかを早期に鑑別することは、その患者の予後推定、治療方針の決定等に重要である。
【0013】
de novo AMLとMDSの鑑別を行う方法として、MDSに特異的な遺伝子D1kの発現を検出することによる分子診断法(特許文献1参照)が開示されている。しかし、この方法は、遺伝子発現又は発現産物のレベルを指標とし、DNAマイクロアレイや二次元電気泳動を使用する複雑な方法であり、感度も低い。
近年、ヒト細胞表面抗原に対する多数のモノクローナル抗体の開発と、これらを用いたフローサイトメトリー(flow cytometry: FCM)により、造血器腫瘍細胞の検出、特に白血病の診断が可能となった。
【0014】
FCMで白血病細胞を分析する場合、白血病細胞が他の細胞とはっきり区別が出来る場合は問題が無いが、他の細胞のサイトグラムとオーバーラップして何処をゲーティングしてよいかわからない場合や、白血病細胞の数が減少している場合等は、白血球共通抗原であるCD45抗原の発現が弱いという特徴を利用した、CD45−SSCパラメーターdot-plotを用いたゲート設定法(CD45blast gating法)が普及してきている。CD45blast gating法は、CD45抗原が弱発現である分化レベルの未熟な急性白血病細胞と、CD45抗原が強発現である正常成熟細胞とを明確に分離することができるため、精度の高い白血病細胞表面抗原解析を行うことができる(非特許文献3参照)が、このときCD45抗原に注目したのは、あくまでも白血病細胞を特定するために過ぎなかった。
【0015】
さらに、CD45以外の細胞表面抗原の発現パターンによって白血病細胞を検出する方法(特許文献2参照)も報告されている。
発明者の一人である緒方は、CD45陰性芽球に注目して、MDSを検出する方法(特許文献3参照)を報告している。
【特許文献1】特開2001−269174号公報
【特許文献2】特開2000−241427号公報
【特許文献3】特願2004−028266号
【非特許文献1】http://www.ncc.go.jp/jp/ncc-cis/pro/cancer/020302.html(国立がんセンターホームページ、伊藤 国明 著)
【非特許文献2】Aul C,Giagounidis A, Germing U. Epidemiological features of myelodysplasticsyndromes: results from regional cancer serveys and hospital-based statistics.Int J Hematol. 2001; 73(4): 405-10
【非特許文献3】Borowitzら, Am. J. Clin.Pathol 100, 534-540, 1993
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、骨髄異形成症候群(Myelodysplastic
syndromes:MDS)の検出に有用なCD45陰性造血幹細胞を提供する。更にはまた、CD45陰性幹細胞を傷害あるいは正常に分化させる、MDSの新規な治療剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、MDSに特異的な細胞集団であるCD45陰性芽球を更に精査することで、MDSに特有に存在する細胞集団が分化機能に異常を有する造血幹細胞であることを発見し、本発明を完成させた。
【0018】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)CD45陰性かつCD34陰性かつLineage抗原陰性であることを特徴とするCD45陰性造血幹細胞の組成物。
(2)Lineage抗原がCD13、CD33、CD41a、GlycophorinA、CD3、CD19及びCD56からなる群から選ばれる1種以上の抗原である前記(1)に記載の造血幹細胞の組成物。
(3)細胞組成物が自己再生でき、単球系、赤芽球系、巨核球系、好中球系細胞またはリンパ系の造血系メンバーへの分化を行うことができることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の細胞組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明の造血幹細胞を用いれば、MDSの鑑別を速やかに行うことができる。白血病化MDSとde novo AMLとでは治療方針が異なるため、両者の鑑別が速やかに行えれば、患者の予後推定、治療方針の決定等に非常に重要である。さらに本発明の造血幹細胞を傷害あるいは正常に分化させることによる、MDSの治療に有用な治療剤を作ることができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明においてMDSとは、造血幹細胞のクローン性異常による骨髄の機能異常を伴った骨髄異形成と血球減少によって特徴づけられる症候群である。血球減少(貧血、白血球減少、血小板減少等)を示す症例があれば、各血球系の形態異常(異形成)を確認し、骨髄または末梢血における芽球比率によって判断することが出来る。しかし、しばしば芽球比率が増加し、臨床検査では真正の急性骨髄性白血病(de novo AML)と区別がつかない白血病化MDSへと移行する。
【0021】
一方、de novo AML及び白血病化MDSは、骨髄の造血幹細胞より前駆細胞にかけての未分化なクローン性腫瘍細胞の増殖が起こる白血病である。白血病細胞は正常な前駆細胞としての分化が止まっていたり、異常な分化を示したりする。これらは、臨床所見からは白血病化MDSかde novo AMLか判別がつかないが、白血病MDSとは異なりde novo AMLは薬剤に対する感受性が高く、速やかな治療が望まれている。
【0022】
本発明において、MDSに罹患していることが疑われるとは、MDS(白血病化MDSを含む)あるいはde novo AMLのいずれかに罹患しているが、そのいずれに罹患しているのかは不明の状態であることをいう。
【0023】
MDSを検出するのに用いられる試料として好適なものは、MDSに罹患していることが疑われる患者から採取した検体であって芽球に富むものであり、例えば、末梢血もしくは骨髄細胞等が挙げられる。
【0024】
骨髄細胞、または末梢血の採取方法としては、患者への侵襲度の低い方法であればいかなる方法でも良い。例えば骨髄細胞の場合、局所麻酔の後、腸骨の背側(骨盤骨)から骨盤穿刺針を用いて注射器で吸引する等、一般的な方法が用いられる。
【0025】
検体採取時にはヘパリン等の抗凝固剤を加え、採取後速やかに用いることが好ましい。
しかし、末梢血はそのまま、骨髄穿刺液は10%FCS加RPMI−1640に浮遊させ、4℃以下にて24時間まで保存しておくことができる。また、4〜−80℃、好ましくは−20℃から−70℃の低温条件下で24時間以上保存しておくこともできる。保存に際しては、変性等を抑制するような保存剤等を必要に応じて添加しても良い。
【0026】
採取した検体はそのまま用いることもできるが、検体中の芽球比率が低い場合には、適切な試薬を用いて芽球比率を高めてから、解析に用いることができる。芽球比率を高めるための適当な試薬としては、例えば、本願発明者らが開発した芽球精製法に基づき商品化されたBlastretriever(登録商標)試薬(日本抗体研究所、高崎)等が挙げられる。検体中の芽球比率はサイトスピン標本を顕微鏡下に観察する等の方法によって測定することができる。芽球比率が低いとは、検体中の芽球の比率が一定以下、例えば全血球に対して芽球が30%以下であることをいう。芽球比率が一定以上ある検体について、定法により、混入赤血球の溶血作業をおこなう。
【0027】
上記検体を用いてMDSに特異的な細胞集団を検出する。MDSに特異的な細胞集団は、検体に含まれる特定の芽球の集団であり、MDSとしての特異性はその芽球集団の抗原発現により特徴付けられる。具体的には、MDSに特異的な細胞集団は、CD45陰性の芽球(本明細書中でCD45陰性芽球と称する)である。
【0028】
さらに、MDSに特異的な細胞集団は、CD13陽性率が同一検体中に見られるCD45陽性の骨髄芽球集団中のCD13陽性率と比較して低下しており、更にCD33陽性率が同一検体中に見られるCD45陽性の骨髄芽球集団中のCD33陽性率と比較して低下している。本発明において、CD13陽性率とは、解析対象の芽球集団中でCD13陽性芽球の占める比率をいう。CD33陽性率についても同様である。すなわち、MDSに特異的な細胞集団であるCD45陰性芽球の集団では、同一検体中のCD45陽性の骨髄芽球集団と比較して、CD13陽性芽球及びCD45陽性芽球の占める比率がそれぞれ低下している。この比率がCD45陰性芽球の集団においてCD45陽性の骨髄芽球集団よりも低い数値となっていれば低下していると判断されるが、好ましくは30%以上、更に好ましくは50%以上、更に好ましくは70%以上低下していればより確実である。
【0029】
赤芽球、血小板、形質細胞等の混入がない検体の場合においては、このようにCD45が陰性であり、さらにCD13陽性率とCD33陽性率がCD45陽性の骨髄芽球集団におけるものと比較して低下しているということが、MDSに特異的な細胞集団として必要にして十分な特徴である。
【0030】
CD45陰性の細胞集団には、赤芽球、血小板、形質細胞が混入していることがあるため、確実な検出のためにはこれらの混入細胞の存在を確認しなければならない。そのためには、末梢血等赤芽球や形質細胞のほとんど含まれない検体を解析するか、以下の方法により、MDSに特異的な細胞をこれらの混入細胞と区別して解析するのがよい。
【0031】
本発明においてLineage抗原とは、骨髄系抗原、血小板系抗原、赤芽球系抗原、リンパ系抗原等の血球の系統を表す抗原をいう。より詳しくは、骨髄系抗原としては、CD13、CD33等、血小板系抗原としてはCD41a等、赤芽球系抗原としてはGlycophorin A(GPA)等、リンパ系抗原としてはCD3、CD19、CD56等の血球の系統を表す抗原をいう。そのため、Lineage陰性とはこれらの抗原に陰性であることをいい、赤芽球、血小板、形質細胞が混入していないことを示すものである。
【0032】
赤芽球や血小板はいずれもCD45陰性または弱陽性であるが、細胞の大きさや特徴的な抗原の相違を利用してMDSに特異的な細胞と区別することができる。例えば、血小板は通常の細胞よりも小さいこと、特徴的な抗原として赤芽球に発現するGPAや形質細胞に発現するCD38に着目することにより、MDSに特異的な細胞とこれらの混入細胞を区別することができる。具体的には、例えば、上述の、CD45陰性かつCD13陽性率及びCD33陽性率がCD45陽性の骨髄芽球集団と比較して低下しているという特徴に加えてさらにGPAとCD38が陰性であることをもって、MDSに特異的な細胞集団の特徴とすることができる。
【0033】
このような抗原発現の特徴により、MDSに特異的な細胞集団を検出することができる。検出の方法としては、抗原の発現および細胞の大きさを判別することのできる方法である必要があるため、上述したCD45、CD13、CD33、GPA、CD38等のヒト造血系抗原に特異的な抗体を用いた免疫学的方法を用いるのがよい。
【0034】
免疫学的方法としては、細胞を用いて抗原の存在を検出することのできる方法であれば特に限定はされないが、実際の臨床現場において、簡便にかつ迅速に多量の試料を同時に測定できるという利点から、好適にはFCMを用いて複数の蛍光標識抗体を組み合わせて検査を行うのが好ましい。
【0035】
FCMの操作方法は公知の方法(例えば、野村和弘ら編「フローサイトメトリー〜手技と実際〜」1984年,蟹書房、河本圭司ら編「フローサイトメトリー入門」1989年,医学書院、河本圭司ら編「応用サイトメトリー」2000年,医学書院)に準じて行うことができる。
【0036】
また、FCMで用いる蛍光標識には、FITC(Fluorescein-isothiocyanate)やPE(phycoerythrin)、APC(Allophycocyanin)、PerCP(peridin-chlorophyll)、ECD(phycoerythrin-Texas-Red)、PC5(phycoerythrin-cyanin5.1)、PC7(phycoerythrin-cyanin7)等一般的に市販されている蛍光標識を用いることが出来、これらの組み合わせは自由に行うことができる。
【0037】
また、FCMは3カラー又は4カラー解析法によって行うことができるが、4カラー解析法によればより効率よく解析を行うことができる。
本発明において、CD45陰性芽球とは特願2004−028266号と同様に同定した細胞をさす。
【0038】
つまりCD45とSSCで展開した図において、CD45-またはCD45-/±の細胞集団を認めた場合、MDSあるいは白血病化MDSの可能性ありとして、次に赤芽球、血小板、形質細胞の混入をGPA、CD38の発現や細胞の大きさ等により調べる。赤血球、血小板、形質細胞の混入が無いか軽度な検体であれば、そのままCD13とCD33のそれぞれの陽性率低下を同一症例のCD45陽性の骨髄芽球集団のCD13とCD33の発現と比較し、MDSあるいは白血病化MDSの可能性があると判定することができる。CD13陽性率とCD33陽性率の低下は、通常CD38陽性率の低下を伴う。CD13陽性率低下とCD33陽性率低下が見られた場合は、MDSあるいは白血病化MDSの可能性ありとする。赤芽球、血小板、形質細胞の混入のある場合は、赤芽球、血小板、形質細胞以外の細胞集団について、CD13とCD33の陽性率低下を調べる。例えば、CD45抗体としてCD45-PerCPを用いた場合では、さらに細胞にGPA−FITC、CD38−FITC、CD13−PEの3抗体を加え、FITC陰性細胞のCD13の発現を評価する。同様にCD13−PEの代わりにCD33−PEを使用し、CD33の発現を評価する。
【0039】
上述のように、本発明の方法によりMDSを検出するのに用いられる試料として好適なのは、MDSに罹患していることが疑われる患者から採取した検体である。しかしながら、実際の臨床現場においてはMDS(白血病化MDSを含む)あるいはde novo AMLのいずれかであろうと判断される以前の検体を扱う必要も生ずることがある。また、検体の採取状態によって、FCM解析の邪魔をする物質が混入することもある。このような検体を用いた場合であっても、MDSに特異的な細胞集団を確実に検出するために、上記の抗体に加えて、CD34、CD11b、CD15、CD2、CD3、CD10、CD19、CD20、CD44、CD7、CD56、CD117、CD133、CD41a、CD123、HLA−DR等の一般的なマーカーを用いて解析を行ってもよい。これらの抗体を使用することにより、検出の精度を高め、より確実な診断をすることが可能となる。
【0040】
例えば、誤って急性リンパ性白血病の検体を検査した場合、CD2、CD3、CD10、CD20等が陽性となり、MDSに罹患していることが疑われる患者ではないことが判明する。また、骨髄芽球のゲーティングが困難な試料においてもCD34を使用することで骨髄芽球を明確にゲーティングができる。また、血小板は色々な細胞に対して付着しやすい性質があるため、MDSに特異的な細胞に血小板が付着し、見かけ上血小板抗原(CD41a等)陽性を示すことがある。この場合、さらに細胞の大きさ、CD44の発現(血小板は陰性または弱陽性、MDS特異的細胞は陽性を示す場合がある)等で、MDS特異的細胞の存在を確認してもよい。
【0041】
MDS特異的細胞であるCD45陰性芽球について、更に純化を行い、その性質の分析を行うことでその性質を明確にすることができる。
純化の方法は、一般的に行われている純化の方法であればいずれでもよく、上記で用いたフローサイトメトリーを用いた細胞分離のほか、抗体で被覆した磁性マイクロビーズを用いた磁気分離、アフィニティークロマトグラフィー、固体マトリックス、プレート吸着等のいずれで行っても良い。
磁性マイクロビーズを用いた場合は、細胞の試料と接触/インキュベートすることで、特定の抗原を持つ細胞が磁性マイクロビーズに被覆した抗体に結合する。次に、磁気カラムに検体を通すことによって、特定の抗原を持つ細胞は磁性マイクロビーズごとカラムに吸着され、目的となる細胞のみを抽出することができる。
【0042】
具体的には、FCMの展開図において、CD45陰性芽球を同定し、その同定した図を解析することで、その検体にどのような物質が混入しているのかを判断する。この混入物質は患者ごとに異なるため、それぞれの検体においてLineageが陰性になるように抗体を選別し、磁性マイクロビーズ抗体を選択する。より具体的には、Lineage抗原とは、骨髄系抗原、血小板系抗原、赤芽球系抗原、リンパ系抗原等の血球の系統を表す抗原をいう。そのため、Lineageが陰性であるとはこれらの抗原に陰性であることをいい、赤芽球、血小板、形質細胞が混入していないことを示すものである。この選択した磁性マイクロビーズ抗体を検体に吸着させるために加え、リンパ球、赤血球、成熟骨髄球を除去して、CD45陰性造血幹細胞を純化することができる。
【0043】
造血幹細胞は自分自身を複製する能力(自己複製能)を有し、更にはリンパ球・破骨細胞・樹状細胞などを含む全ての成熟血液細胞を作り出す能力(多分化能)を有することが知られている。これらの造血幹細胞を同定するためにはストローマ細胞との共培養系、in vitroコロニー法、長期骨髄再構築能など様々な方法が知られており、これらのいずれの方法を用いてもよい。
【0044】
ストローマ細胞との共培養系では、造血幹細胞の分化・増殖に密接に関係がある造血微小環境の再現が可能である。そのため、この培養系では、造血前駆細胞は早期にコロニー形成能を失うのに対して、未分化な造血幹細胞は長期間コロニー形成能や骨髄再構築能を維持できる。このため未分化な造血幹細胞活性の測定にも用いられる。特にヒトにおいてはin vivoの系が用いにくいため、ストローマ細胞上で長期間コロニー形成能を維持できる細胞をLTC−IC(Long term culture-initiating cells)として未分化な造血幹細胞の指標として用いられている。これらの方法は既に確立されており、「造血幹細胞−分子から臨床まで−」(三浦恭定編、南江堂)に準じて行うことができる。
ストローマ細胞としては、HESS−5、HESS−1、CL.3等、造血幹細胞の培養に適したものであればどのようなものでも用いることができる。
【0045】
in vitroコロニー法は造血細胞(骨髄細胞・脾細胞等)を各種サイトカイン存在下にメチルセルロース、軟寒天等の半固形培地中で培養し、形成された細胞集団(コロニー)から造血幹細胞の数や性質を推定する方法である。このコロニーを分析することにより、in vitroにおいて種々の造血前駆細胞や造血幹細胞の分化・増殖過程の観察や測定が可能になっている。混合コロニー(CFU-Mix,CFU-GEMM)や分化能の高いコロニー(HPP-CFC;high
proliferative potential colony forming cells)は、単系統のコロニーを形成する細胞(CFU-GM, BFU-E)等より未分化であり、芽球コロニー形成細胞(CFU-blast)は最も未分化であるとされている。この方法によりin vitroにおいて造血幹細胞や前駆細胞の増殖・分化過程をとらえることができる。また無血清培地を用いたり造血幹細胞の単細胞培養を行うことにより、造血に関与する種々のサイトカインの作用を推定することができる。
【0046】
本発明はさらに、CD45陰性幹細胞の同定に特異的な抗体を含むMDS又の鑑別用キットを提供する。CD45陰性幹細胞の同定に特異的な抗体としては、上述のように、CD45、CD13、CD33、GPA、CD38、CD44等のヒト抗原に対するモノクローナル抗体を用いることができる。
【0047】
検出法において標識剤として酵素を用いる場合には、本発明のキットは下記の構成試薬を含むことができる。
(1)酵素標識化モノクローナル抗体
(2)基質溶液
また、上記キットの変形としてサンドイッチELISA法を用いる場合には、本発明のキットは下記の試薬を含むことができる。
【0048】
(1)モノクローナル抗体
(2)酵素標識化モノクローナル抗体あるいはポリクローナル抗体
(3)基質溶液
また、上記キットの変形としてビオチン−アビジン法を用いる場合には、本発明のキットは下記の試薬を含むことができる。
【0049】
(1)ビオチン化モノクローナル抗体
(2)酵素標識化アビジン又はストレプトアビジン
(3)基質溶液
【0050】
また、上記キットの変形としてサンドイッチELISA法及びビオチン−アビジン法を用いる場合には、本発明のキットは下記の試薬を含むことができる。
(1)モノクローナル抗体
(2)ビオチン化モノクローナル抗体あるいはポリクローナル抗体
(3)酵素標識化アビジン又はストレプトアビジン
(4)基質溶液
【0051】
本発明に使用するモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体の詳しい作製方法については公知の方法(例えば、富山朔二ら編「単クローン抗体実験マニュアル」1987年,講談社、右田俊介ら翻訳「免疫化学実験法」1992年,西村書店)に準じて行うことができる。
【0052】
以下本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に何等限定されるものではない。
【実施例1】
【0053】
A.MDSの鑑別
1.検体の採取
検体としては、ヒトの末梢血または骨髄液を用いた。これらの検体は、MDSが疑われる患者に採取及び研究目的の使用について充分に説明を行い、同意を得たあとに用いた。末梢血、骨髄液のいずれも抗凝固剤としてヘパリンを添加した。
【0054】
2.検体の調整
内径14 mmのガラス製チューブにBlastretriever(登録商標)2.5mlを入れ、その上に末梢血あるいは骨髄液(骨髄液の場合、RPMI-1640培地[SIGMA]で2倍に希釈したものを用いた)2.5mlを静かに重層した。550gで10分間、室温で遠心分離した。中間層のみを回収し、0.5%BSA−PBS(−)(以後、PBSと略す)で懸濁して10分間遠心分離を行って細胞を洗浄した。上清を廃棄し、再度洗浄を行い細胞ペレットに溶血剤(0.83%NHCl、0.1%KHCO、0.004%EDTA−4Na)を十分量加え、室温で5分間放置した。その後室温で遠心分離した後同様に洗浄した。細胞はPBSで懸濁した。
【0055】
3.染色及び測定
処理後の細胞をPerCP標識のCD45(Becton-Dickinson)、FITC標識した抗ヒトCD2、CD3、CD7、CD10、CD19、CD15、CD38、HLA−abc(以上Becton-Dickinson)GlycophorinA(Immunotech)と、PE標識した抗ヒトCD11b、CD16、CD33、CD34、CD56(以上Becton-Dickinson)、CD13、CD117(以上Immunotech)、CD133(Miltenyi-Biotec-GmbH)で反応させた。測定はFACScan(Becton-Dickinson)で行い、解析はCellQuest(Becton-Dickinson)で行った。それぞれの細胞集団の細胞表面抗原について解析した結果を図1に示す。それぞれの抗体は20%以上発現している場合を陽性(+)とみなした。
【0056】
図1のAはMDSの末梢血から生細胞の領域(R1)を選択したものである。このR1の領域を、横軸にCD45 PerCP、縦軸にSide Scatterをとり、骨髄芽球細胞の集団(R2)とCD45陰性芽球(R3)の細胞集団にゲートをかけて解析した。MDS患者末梢血には、骨髄芽球に加えて(図1B、R2)、健常人では見られないCD45陰性芽球細胞集団(図1B、R3)が見出された。骨髄芽球をR2から分離したのがC、Eの図である。Eは横軸にCD45、縦軸にCD34をとっており、CD45low+CD34+であることを示している。また同様にしてR3からCD45陰性芽球を分離したのがD、Fの図である。CD45陰性芽球がCD45−CD34−(以後、本発明細胞と呼ぶ)であることを示している。この細胞集団はCD34の発現も認められず(図1F)、骨髄芽球と明らかに異なる細胞集団であった。
【0057】
それぞれの患者から採取した検体での結果を表1に示す。参考のため、疾患名と染色体解析結果も示す。
【表1】

疾患名に記載のAL−MDSは白血病化MDSを示す。患者からCD45陰性芽球が得られた場合は○を記載した。この結果MDS患者からはCD45陰性芽球細胞が得られることが確認できた。
【0058】
更にCD45陰性芽球細胞の細胞形質と、骨髄芽球の細胞形質との差異を調べるために、フローサイトメーターで解析した。骨髄芽球細胞の発現抗原を見たところ、CD34、CD38、CD33、CD13、CD7、CD117、CD133が陽性であった。また、CD45陰性芽球細胞はHLA−abcが陽性で、CD34、CD38が弱陽性であった。CD45陰性芽球細胞はほぼすべての抗原を発現していないことから、未分化な細胞であることが示唆された。
【実施例2】
【0059】
B.CD45陰性芽球が幹細胞であることの証明
1.骨髄芽球およびCD45陰性芽球細胞の純化
実施例1においてフローサイトメトリーで解析したCD45陰性芽球細胞を純化するため、各検体のCD45陰性細胞のフローサイトメトリーのデータを参考に、混入している細胞の抗原に合わせてマイクロビーズ抗体、FCM抗体を選択し、以下の細胞分離に用いた。
抗ヒトCD3マイクロビーズ抗体、抗ヒトGlycophorinAマイクロビーズ抗体、抗ヒトCD15マイクロビーズ抗体、抗ヒトCD33マイクロビーズ抗体、抗ヒトCD56マイクロビーズ抗体(以上Miltenyi-Biotec-GmbH)の中から必要な抗体を加え、30分間4.0℃でインキュベートした後洗浄し、PBSで細胞を懸濁した。LDカラム(Miltenyi-Biotec-GmbH)によってNegative Sortingを行い、リンパ球、赤血球、成熟骨髄球を除去した。Negative画分を洗浄し、抗ヒトCD34マイクロビーズ抗体を加え、前述と同様にLDカラムでNegative Sortingを行った。
磁気ビーズによる純化で得られたCD34陽性およびCD34陰性画分に抗ヒトCD45 FITC抗体(Becton-Dickinson)と抗ヒトCD34 PE抗体(Becton-Dickinson)、抗ヒトCD38 PE抗体、抗ヒトCD33 PE抗体(その他必要に応じて使用)を加え、4.0℃で30分間インキュベートした。その後洗浄を行い、EPICS ALTRA(Beckman-Coulter)により、CD34陽性画分からCD34陽性細胞(骨髄芽球)を、CD34陰性画分からは本発明細胞を分離した。
【0060】
2.HESS-5との共培養
培地は12.5%ウマ血清(HS)(JRH)-12.5%胎児ウシ血清(FCS)-αMEM(GIBCO)を用いた。さらに、培養液にインターロイキン3(IL-3)(KIRIN)を終濃度10ng/mlになるように加え、さらにステムセルファクター(SFC)、トロンボポイエチン(TPO)(以上KIRIN)、Flt3-L(IBL)を終濃度50ng/mlになるように加えた。細胞はマウスストローマ細胞株のHESS−5細胞と共培養させた。HESS−5細胞は96穴プレート(NUNC)で10%HS−αMEM培地によって培養し、80%程度コンフルエントになった状態で15Gyの放射線を照射したものを共培養に用いた。細胞は37℃、5.0%CO2でインキュベートした。
【0061】
骨髄芽球細胞をHESS−5存在下で8日間培養した結果を図2Aに示す。骨髄芽球細胞はHESS−5の下にもぐりこみ、大きなコロニーを形成していた。骨髄芽球細胞をHESS−5の非存在下で8日間培養した結果を図2Bに示す。骨髄芽球は増殖しているが、死滅した細胞も多く見られ、細胞増殖はHESS−5と共培養していた場合と比較すると低下していた。
【0062】
本発明細胞をHESS−5細胞と20日間共培養した結果を図2Cに示す。骨髄芽球と比べるとコロニー形成を始める時期も遅く、増殖能も低いが、HESS−5に潜り込み増殖していた。本発明細胞をHESS−5非存在下で20日間培養した結果を図2Dに示す。細胞は1週間程で死滅し、以後増殖はみられなかった。
【0063】
これらの結果から、MDS患者から採取される本発明細胞ではストローマ細胞と共培養しないと細胞が1週間以内に死んでしまい、その後も培養を続けていても細胞は増殖しないことが判明した。また、共培養下での骨髄芽球と本発明細胞で増殖の様子を比べると、骨髄芽球では急速にその数を増やすが、本発明細胞は培養8日目程度で細胞の増殖が観察され始め、培養2週間目あたりで20〜30細胞ほどで構成されるコロニーを作るが、増殖する一方で死細胞も現れはじめ、それ以上大きくなることはなかった。しかし増殖が見られた5例中1例では本発明細胞を100日以上培養し続けることができた。
【0064】
3.共培養後の細胞の表面抗原の解析
共培養後、培養液を15mlチューブに採った。付着細胞を回収するためにウェルにEDTA添加PBSを入れて10分程度放置した。HESS−5細胞がウェルからはがれたところで充分ピペッティングし、先に採った培養液に加えた。5分間遠心分離後、上清を取り除き、細胞をPBSで懸濁した。回収された細胞は抗ヒトCD45 PerCPと、FITC標識した抗ヒトCD38、CD19、CD14と、PE標識した抗ヒトCD34、CD11b、CD13と反応させた。測定はFACScanで行い、解析はCellQuestで行った。
【0065】
解析結果を図3に示す。
Aは骨髄芽球の解析結果であり、左から培養日数ごとに記載した。右上の数値はCD45+CD34+細胞の割合である。CD34陽性発現は失われ、培養24日から35日では殆ど見られなくなった。Bは共培養後の本発明細胞であり、右上の数値はCD45+CD34+細胞の割合である。本発明細胞は9日目でCD45、CD34陽性を発現し、以後CD34陽性細胞は減少したが、骨髄芽球よりも長期間にわたって見られた。Cは本発明細胞によるその他の表面抗原の発現を確認したものである。骨髄芽球ではCD34やCD38といった造血幹・前駆細胞の表面抗原の発現は落ち、成熟した細胞の表面抗原であるCD13、D11b、CD14の発現が高くなっていった。本発明細胞のうち図3に示した細胞では、培養9日目でCD34陽性細胞発現細胞が最も多く確認された。以後、CD34陽性細胞の割合は落ちていったが、培養35日目の解析でも4%弱残っていることが確認できた。その他の表面抗原は培養9日目でCD38、CD13、CD11b、CD14の発現が確認され、その後はCD38の発現は落ち、CD13、CD14、CD11bの発現は高くなっていった。
【0066】
4.共培養の細胞の形態観察
2で共培養を行った骨髄芽細胞と本発明細胞を50μlの10%FCS(日本バイオテスト研究所)-RPMI1640中に5000〜2万個懸濁し、シランコーティングスライドガラス(MATSUNAMI)の上に2分間遠心して貼り付かせた。貼り付けた細胞はスライドガラスごと100%メタノール(和光)に5分間浸けて固定し、冷風乾燥させた。これをメイグリシュンワルド染色液(ナカライテクス)で3分間静置して染色した。等量のPBS(10mM NaPB,
0.15% NaCl)を加え静かに混和して1分間静置した。流水で洗浄し、10%Giemsa液(メルク・ジャパン)に10分間浸した。染色後、顕微鏡で形態を観察し、100×10倍率で撮影したものを図4に示す。
【0067】
Aは骨髄芽球を観察したものである。(a)純化直後の細胞は芽球特有な形態を示した。(b)HESS−5と共培養させ9日目の細胞は前骨髄球が大半で、骨髄球も観られた。(c)培養17日目では前骨髄球は減少し、骨髄球や後骨髄球が増え、(d)培養24日目や(e)35日目では後骨髄球ばかり観察された。Bは本発明細胞を観察したものである。(a)純化直後の細胞の中には骨髄芽球よりも小さな芽球の形態を示すものが多く見られた。(b)培養9日目ではほとんど前骨髄球で、骨髄芽球もみられた。(c)培養17日目でも前骨髄球が多く、骨髄芽球も確認された。骨髄球も現れ始めた。(d)培養24日目でも多くの前骨髄球が観察された。骨髄芽球や後骨髄球の割合が増えてきた。(e)培養35日目では成熟細胞の方が多く観られたが、前骨髄球も存在した。(C)培養24日目の骨髄芽球細胞。異常形態の後骨髄球が観察された。(D)培養49日目の本発明細胞で、過分様の後骨髄球を発見した。
【0068】
これらの結果から培養9日目まではどちらの細胞集団でも大半が前骨髄球で芽球も観られた。17日目の骨髄芽球培養細胞では前骨髄球と骨髄球、後骨髄球が混在していたが、一方の本発明細胞では17日目でも前骨髄球の割合は高く、芽球も観られた。さらに骨髄芽球を培養して24、35日目では後骨髄球ばかりであるのに対し、本発明細胞では成熟細胞が大半を占めるものの、前骨髄球も観られた。以上のフローサイトメーターによる解析や細胞形態から本発明細胞が骨髄芽球より未分化な細胞集団である可能性が考えられ、さらに分化能を有することが確認された。
【0069】
5.FISH(fluorescent in situ hybridization)解析
4で使用した細胞を70%エタノールでメイギムザ染色の脱色を行った。冷風で乾燥させ、室温の75 mM KCl低張液に10分間浸した。次にカルノア固定液(酢酸:メタノール=1:3)に5分間浸け、冷風乾燥後、室温で各1〜2分間70%、85%、100%エタノール(和光)で順次脱水し風燥させた。37℃のエージング溶液(2×SSC, 0.1%NP-40)に30分間浸した。前述同様に70%、85%、100%エタノールで脱水した。73±1℃のdenaturing solution(Vysis)が入ったジャー5分間浸した。-20℃の70%エタノール、4℃の85%エタノール、4℃の100%エタノールで急速に冷やし、DNAのアニーリングを防ぎながら脱水した。自然乾燥させ45℃で2分弱加熱した。Probe(Vysis)を5.0μl乗せてカバーガラスで均一に広げ、ボンドでシールした。これを湿潤箱に入れて2〜3日放置した。37〜42℃の50%ホルムアミド(ホルムアミド 25 ml+4×SSC 25 ml)に浸し、細胞が傷つかないように注意しながらカバーガラスを取った。この液中に10〜15分間標本を浸した。次に遮光し、37〜42℃の4×SSCに浸してロータリーシェーカーで2分間振盪した。さらに37〜42℃の0.1% Triton-100/4×SSCに浸し2分間振盪した後、室温の4×SSCに入れ、2分間振盪させた。室温の2×SSCに浸け、2分間静置した。標本が少々湿った状態でDAPI(通常はDAPI2(125 ng/ml, Vysis)を使用)を滴下し、カバーガラスを載せて全体に広げ、細胞の厚さをできるだけ薄くさせるために十分抑え、マニキュアでカバーガラスを留めた。標本を蛍光顕微鏡で観察し、染色体異常を確認したところ、骨髄芽球と同じ染色体異常を示した。そのため、MDS患者から採取した本発明細胞はMDS異常細胞であることが確認できた。つまりMDSが本発明細胞の腫瘍化を起源にしていることが示唆される。
【0070】
6.コロニーアッセイ
セルソーターで純化した直後の1000個の細胞をMethoCult(Stem Cell Technology)1.0mlに懸濁し、直径35mmのグリット付きディッシュ(NUNC)に入れて37℃、5.0%CO2でインキュベートした。また、1000cells/wellでHESS−5細胞と共培養し、17日目、28日目あるいは35日目に細胞を回収し、同様にアッセイを行った。コロニー数の平均をとるため、同じ培養日数の細胞を2枚以上アッセイした。2週間後、コロニーの種類とその数を顕微鏡で観察しカウントした。
骨髄芽球の場合、純化直後の細胞でコロニーが形成されたが、培養期間が長期なるほどコロニーは形成されなくなっていった。また形成されたコロニーは顆粒球・マクロファージコロニーであった。
【0071】
本発明細胞は検体純化直後ではコロニーを形成しないが、HESS−5との培養によってコロニーを形成した。長期に(28あるいは35日間)培養した場合、構成細胞数の少ないクラスターを作っていた。コロニーおよびクラスターはすべて顆粒球・マクロファージコロニーであった。
【0072】
以上の結果から、本発明細胞は、ストローマとの共培養によって維持することができ、培養後の細胞の表面マーカー解析と形態観察から成熟した細胞へ分化する能力を持っていることから、造血幹細胞であることがわかる。更に骨髄芽球細胞と比較検討した結果、骨髄芽球よりも未分化な細胞集団である事が確認できた。
【0073】
今までに知られている検出方法を用いると、CD45造血幹細胞はMDSに特異的に検出される。しかし一般的に、ある疾患で初めて発見された細胞は、これに対応する細胞が健常者にも存在することが証明される場合が多い。したがって、本CD45造血幹細胞も健常者にも存在しうることが容易に想像できる。この健常者由来のCD45陰性造血幹細胞を単離することができれば、MDSの治療のほか、種々の疾患の治療に役立てることが可能である。例えば、白血病などの造血幹細胞移植や他臓器、心筋へ分化させ移植することで心臓病の治療に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
CD45陰性造血幹細胞は従来の方法を用いて検出する場合は、MDSに特異的に現れることから、CD45陰性造血幹細胞を検出することでMDSを鑑別することができる。また、CD45陰性造血幹細胞を傷害あるいは正常に分化させることにより、MDSの新規な治療剤の開発することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】セルソーターによるMDS患者末梢血から骨髄芽球及びCD45陰性幹細胞を純化するときの図を示す。
【図2】骨髄芽球及びCD45陰性幹細胞をHESS−5細胞存在、または非存在下での培養図を示す。
【図3】共培養後の骨髄芽球及びCD45陰生幹細胞における表面抗原の発現解析図を示す。
【図4】骨髄芽球及びCD45陰性幹細胞の培養後の細胞形態を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD45陰性かつCD34陰性かつLineage抗原陰性であることを特徴とするCD45陰性造血幹細胞の組成物。
【請求項2】
Lineage抗原がCD13、CD33、CD41a、GlycophorinA、CD3、CD19及びCD56からなる群から選ばれる1種以上の抗原である請求項1に記載の造血幹細胞の組成物。
【請求項3】
細胞組成物が自己再生でき、単球系、赤芽球系、巨核球系、好中球系細胞またはリンパ系の造血系メンバーへの分化を行うことができることを特徴とする、請求項1または2に記載の細胞組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−42665(P2006−42665A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227395(P2004−227395)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者:学校法人東京理科大学 刊行物名:平成15年度修士論文発表会要旨集 刊行物発表年月日:平成16年2月5日
【出願人】(803000034)学校法人日本医科大学 (37)
【Fターム(参考)】