説明

CD8+細胞傷害性Tリンパ球エピトープペプチド及びその用途

【課題】エプスタイン−バールウイルスに特異的なCD8+細胞傷害性Tリンパ球エピトープペプチドを提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列を含むペプチド類からなる群から選択されるエプスタイン−バールウイルスに対するCD8+細胞傷害性Tリンパ球エピトープペプチド。それらを使用して、エプスタイン−バールウイルス抗原提示細胞およびCD8+細胞傷害性Tリンパ球を作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エプスタイン−バールウイルス(Epstein-Barr virus、以下、EBVと称する)又はヒトサイトメガロウイルス(human cytomegalovirus、以下、HCMVと称する)に特異的なCD8+細胞傷害性Tリンパ球(cytotoxic T lymphocyte、以下、CTLと称する)エピトープペプチド、ならびにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
EBVは、Burkittリンパ腫、上咽頭癌の発症と深く関わりがあり、Hodgkin病、胃癌などとの関連が注目されている。また、先天性免疫不全、エイズ患者や臓器移植後などで問題になっている日和見リンパ腫の主な原因ウイルスとして重要であり、その抑圧は患者の予後を大きく左右する。
【0003】
一方、HCMVは、エイズ患者や臓器移植後などで問題になっている日和見感染症の原因ウイルスとして最も重要な病原体である。また、骨髄バンクと臍帯血バンクの拡充により、非血縁者間及び臍帯血を利用した造血幹細胞移植が近年著しく増加している。このような移植では、拒絶予防のため通常よりも強力な免疫抑制をするので、HCMVを代表とする日和見感染症が高頻度に発生し、重症化のみならず死亡例も稀ではない。
【0004】
このような医療事情と社会背景において、EBV及びHCMVを安全にかつ有効に制御する新しい方法が強く望まれている。
【0005】
EBV及びHCMV感染細胞の活動を制御している主な免疫担当細胞はCD8+CTLである。CD8+CTLはEBV及びHCMV感染細胞を発見するとそれを破壊する能力を持っているため、その機能を有効に活性化すれば、EBV及びCMV関連疾患の新しい診断と治療法の開発につながる可能性が高い。
【0006】
CTLがウイルス感染細胞を認識する際、以下のような特徴がある。(1)CTLはウイルス粒子そのものを認識することはできない。(2)CTLはウイルスタンパク質中の特定部位にある9〜10個のアミノ酸からなるペプチド(以下、エピトープペプチドと称する)を認識して感染細胞を破壊する。(3)この特定の9〜10個のアミノ酸は、ウイルス感染細胞表面にあるヒト白血球抗原(human leucocyte antigen、以下、HLAと称する)に結合してCTLに提示される。(4)HLAは人種間、個人間によって異なり、HLAが異なると同じウイルスでもエピトープペプチドが異なる。
【0007】
以上の(1)から(4)で述べたことから明らかなように、EBV及びHCMVに特異的なエピトープペプチドとなり得るアミノ酸を過不足なく決定することは、これらのウイルス感染症に対して有効な免疫があるか否かの診断、さらには、免疫治療法を施す際の必須の事項となり得る。しかし、日本人の多くが保有するHLA 型について、これらのEBV又はHCMVに特異的なCD8+CTLエピトープペプチドの報告は極めて少なく、EBV又はHCMVの感染を治療又は予防するのに有用なエピトープペプチドの開発が求められている。
【0008】
これまでに見出されたEBV又はHCMVに対する細胞傷害性T細胞エピトープペプチドは、例えば非特許文献1及び2、特許文献1〜3に記載されている。
【0009】
【非特許文献1】D. A. Thorley-Lawsonら, Proc. Natl. Acad. Sci. (1987), Vol. 84, No. 15, pp.5384-5388
【非特許文献2】K. Kuzushimaら, J. Clin. Invest. (1999), Vol. 104, No. 2, pp.163-171
【特許文献1】特表平10-501682号公報
【特許文献2】国際公開第00/075180号パンフレット
【特許文献3】国際公開第99/19349号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、EBV及びHCMVに特異的なCD8+CTLエピトープペプチド並びにその用途、例えば、EBV又はHCMVの感染を治療又は予防するワクチン、EBV又はHCMVに対する受動免疫療法剤、及びEBV又はHCMVに特異的なCD8+CTLの定量方法などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、EBV及びHCMVを制御するCD8+CTLが認識し得るエピトープペプチドを複数見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、EBV及びHCMVに特異的なCD8+CTLエピトープペプチド、それを含む組成物を提供する。
【0013】
また、本発明は、EBV又はHCMVに特異的なCD8+CTLエピトープペプチドを用いて作製された抗原提示細胞、あるいはEBV又はHCMVに特異的なCD8+CTL を提供する。
【0014】
このようなエピトープペプチド、抗原提示細胞またはCD8+CTL は、EBV又はHCMVの感染を治療又は予防するためのワクチン、EBV又はHCMVに対する受動免疫療法剤などに使用可能である。
【0015】
また、本発明は、EBV又はHCMVに特異的なCD8+CTLの定量方法に関する。
具体的には、本発明は、以下の特徴を含む。
【0016】
本発明は、その態様において、エプスタイン−バールウイルス又はヒトサイトメガロウイルスに特異的なCD8+細胞傷害性Tリンパ球エピトープペプチドを提供する。
【0017】
その実施形態において、エプスタイン−バールウイルスに特異的なCD8+細胞傷害性Tリンパ球エピトープペプチドが配列番号1〜配列番号22からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むものである。
【0018】
別の実施形態において、ヒトサイトメガロウイルスに特異的なCD8+細胞傷害性Tリンパ球エピトープペプチドが配列番号23〜配列番号32からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むものである。
【0019】
本発明はまた、別の態様において、上記ペプチドを有効成分として含む、エプスタイン−バールウイルスまたはヒトサイトメガロウイルスの感染を治療又は予防するためのワクチンを提供する。
【0020】
本発明はさらに、別の態様において、上記ペプチドをパルスした抗原提示細胞を有効成分として含む、エプスタイン−バールウイルスまたはヒトサイトメガロウイルスの感染を治療又は予防するためのワクチンを提供する。
【0021】
本発明はさらに、別の態様において、上記ペプチド又は該ペプチドをパルスした抗原提示細胞により末梢血リンパ球を刺激して得られるCD8+細胞傷害性Tリンパ球を含む、エプスタイン−バールウイルス又はヒトサイトメガロウイルスに対する受動免疫療法剤を提供する。
【0022】
本発明はさらに、別の態様において、上記ペプチドから調製した主要組織適合抗原複合体及び/又は主要組織適合抗原複合体−テトラマーと末梢血リンパ球とを反応させ、該主要組織適合抗原複合体及び/又は主要組織適合抗原複合体−テトラマーにCD8+細胞傷害性Tリンパ球が結合した結合体を形成させ、該結合体から単離して得られるCD8+細胞傷害性Tリンパ球を含む、エプスタイン−バールウイルス又はヒトサイトメガロウイルスに対する受動免疫療法剤を提供する。
【0023】
本発明はさらに、別の態様において、上記ペプチドから調製した主要組織適合抗原複合体−標識磁気ビーズと末梢血リンパ球とを反応させ、主要組織適合抗原複合体−標識磁気ビーズにCD8+細胞傷害性Tリンパ球が結合した結合体を形成させ、該結合体から単離して得られるCD8+細胞傷害性Tリンパ球を含む、エプスタイン−バールウイルス又はヒトサイトメガロウイルスに対する受動免疫療法剤を提供する。
【0024】
本発明はさらに、別の態様において、上記ペプチドで末梢血を刺激し、該ウイルスに特異的なCD8+細胞傷害性Tリンパ球を得、該CD8+細胞傷害性Tリンパ球が産生するサイトカイン及び/又はケモカインを測定することを特徴とするエプスタイン−バールウイルス又はヒトサイトメガロウイルスに特異的なCD8+細胞傷害性Tリンパ球の定量方法を提供する。
【0025】
本発明はさらに、別の態様において、上記ペプチドから主要組織適合性複合体及び/又は主要組織適合性複合体−テトラマーを調製し、該主要組織適合性複合体及び/又は主要組織適合性複合体−テトラマーと末梢血とを反応させる、該末梢血中のエプスタイン−バールウイルス又はヒトサイトメガロウイルスに特異的なCD8+細胞傷害性Tリンパ球の定量方法を提供する。
【0026】
さらに具体的には、本発明は、以下の特徴を有する。
(1)配列番号2〜18、20〜22に示される各アミノ酸配列を含むペプチド類からなる群から選択されるエプスタイン−バールウイルスに対するCD8+細胞傷害性Tリンパ球エピトープペプチドを含む組成物。
(2)エプスタイン−バールウイルスの感染を治療又は予防するためのものである、上記(1)に記載の組成物。
(3)上記(1)または(2)に記載の組成物由来のエピトープペプチドによってパルスされた抗原提示細胞。
(4)上記(1)または(2)に記載の組成物由来のエピトープペプチドあるいは(3)に記載の抗原提示細胞により末梢血リンパ球を刺激して得られる、エプスタイン−バールウイルスに対するCD8+細胞傷害性Tリンパ球。
(5)上記(1)または(2)に記載の組成物由来のエピトープペプチドから調製された主要組織適合抗原複合体及び/又は主要組織適合抗原複合体−テトラマーと末梢血リンパ球とを反応させ、得られた主要組織適合抗原複合体及び/又は主要組織適合抗原複合体−テトラマーにCD8+細胞傷害性Tリンパ球が結合した結合体を形成させ、該結合体から単離して得られる、エプスタイン−バールウイルスに対するCD8+細胞傷害性Tリンパ球。
(6)上記(1)または(2)に記載の組成物由来のエピトープペプチドから調製された主要組織適合抗原複合体−標識磁気ビーズと末梢血リンパ球とを反応させ、得られた主要組織適合抗原複合体−標識磁気ビーズにCD8+細胞傷害性Tリンパ球が結合した結合体を形成させ、該結合体から単離して得られる、エプスタイン−バールウイルスに対するCD8+細胞傷害性Tリンパ球。
(7)上記(1)または(2)に記載の組成物由来のエピトープペプチドで末梢血を刺激し、エプスタイン−バールウイルスに対するCD8+細胞傷害性Tリンパ球を得、該CD8+細胞傷害性Tリンパ球が産生するサイトカイン及び/又はケモカインを測定することを含む、エプスタイン−バールウイルスに対するCD8+細胞傷害性Tリンパ球の定量方法。
(8)上記(1)または(2)に記載の組成物由来のエピトープペプチドから主要組織適合性複合体及び/又は主要組織適合性複合体−テトラマーを調製し、該主要組織適合性複合体及び/又は主要組織適合性複合体−テトラマーと末梢血とを反応させることを含む、該末梢血中のエプスタイン−バールウイルスに対するCD8+細胞傷害性Tリンパ球の定量方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、EBV又はHCMVに特異的なCD8+CTLエピトープペプチドを提供することができる。これらのエピトープペプチドは、EBV又はHCMVの感染を管理、治療又は予防するために使用することができる。さらにまた、これらのエピトープペプチドはEBV又はHCMVに特異的なCD8+CTLを定量するために使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明についてさらに詳細に説明する。
1.エピトープペプチド
本発明でいうペプチドは、生理活性を有し、隣接するアミノ酸残基のα−アミノ基とカルボキシル基間のペプチド結合により相互に結合した線状のアミノ酸の分子鎖を意味する。ペプチドは特定長のものを意味するものではなく、種々の長さであり得る。また、無電荷又は塩の形態であってもよく、場合によっては、グリコシル化、アミド化、ホスホリル化、カルボキシル化、リン酸化等により修飾されていてもよい。さらには、本発明のエピトープの生理活性及び免疫活性を実質的に改変せず、投与した場合に有害な活性を有するものでない限り、1個又は数個(例えば、1〜10個)のアミノ酸の挿入、付加、置換等が生じたペプチドも本発明に含まれる。例えば、ペプチドのN末端又はC末端に付加的アミノ酸配列が介在するものも含まれる。また、本発明のペプチドは、糖類、ポリエチレングリコール、脂質等が付加された複合体、放射性同位元素等による誘導体、あるいは重合体等の形態として用いることができる。
【0029】
本発明のCD8+CTLとは、ヒトリンパ球上に存在する表面抗原分子の一つであるCD8を発現しているCD8+細胞傷害性Tリンパ球を意味する。また、EBV又はHCMVに特異的なCD8+CTLエピトープペプチドとは、CD8+CTLに認識され得るEBV又はHCMVタンパク質中の特定部位にある9〜10個のアミノ酸配列からなるペプチドであって、CD8+CTLの抗原受容体と免疫的に結合するEBV又はHCMVの構造部分であり、EBV又はHCMV 感染細胞を直接に傷害し、ウイルスを排除し得るCD8+CTLの細胞性免疫機構を活性化する抗原基を意味する。図1にその機構を示す。
【0030】
本発明のEBV又はHCMVに特異的なCD8+CTLエピトープペプチドは、EBV又はHCMVタンパク質のアミノ酸配列について、HLA-A24、A26等の結合モチーフを有する9〜10個のアミノ酸よりなるエピトープペプチドを検索し得る照合媒体、例えば、インターネット上に公開されているBioInformatics & Molecular Analysis Section (BIMAS)のHLA Peptide Binding Predictions (http://bimas.dcrt.nih.gov/molbio/hla_bind/index.html.)によって照合し、エピトープペプチドとなり得るペプチド(以下、エピトープ候補ペプチドと称する)をスクリーニングすることができる。
【0031】
本発明の配列番号1〜32のアミノ酸配列を有するペプチドは、上記のようなスクリーニングの結果、CD8+CTLエピトープペプチドとして確認されたものである。すなわち、本発明の配列番号1〜32に示されるエピトープペプチドは、従来の各種のペプチド合成方法によって調製され得る。例えば、固相ペプチド合成法等の有機化学的合成法、あるいは、ペプチドをコードするDNAを調製し、組換えDNA技術を用いて調製することも可能である。また、市販の化学合成装置(例えば、アプライドバイオシステムズ社の ペプチド合成装置)による合成も可能である。
【0032】
エピトープ候補ペプチドは、通常の化学合成により得ることができる。得られたエピトープ候補ペプチドについて、例えば、以下に示すような方法のいずれかによりEBV又はHCMVに特異的なCD8+CTLエピトープペプチドであるか否かを決定することができる。
【0033】
(1)エピトープペプチド決定方法1
10%ウシ胎児血清含有RPMI1640培地に2×106/ml の細胞濃度でEBV又はHCMVに感染している成人から分離したリンパ球を浮遊させ、該リンパ球を同じ人からあらかじめ分離培養しておいたEBV又はHCMV感染細胞1×105/mlと混合し、炭酸ガス恒温槽にて37℃で10日間培養する。培養10日目にインターロイキン2(以下、IL-2と称する)を添加し、以後、EBV又はHCMV感染細胞とIL-2による刺激を週に1度くり返すことにより、EBV又はHCMVに特異的なCD8+CTLを誘導する。このようにして誘導したCD8+CTLに対してエピトープ候補ペプチドが刺激する能力を有するか否かについては、エリスポットアッセイ等で判定する。エリスポットアッセイは、Kuzushima K他著、The Journal of Clinical Investigation, 104巻:163-171頁,1999年等で報告されている。
【0034】
(2)エピトープペプチド決定方法2
10%ウシ胎児血清含有RPMI1640培地に2×106/mlの細胞濃度でEBV又はHCMVに感染している成人から分離したリンパ球を浮遊し、これにエピトープ候補ペプチドの中の任意の1種を1μg/mlの濃度で加える。炭酸ガス恒温槽にて37℃で10日間培養する。10日目にIL-2を添加し、以後、前記ペプチドとIL-2による刺激を週に1度くり返すことにより、特異的なCD8+CTLを誘導する。このようにして誘導したEBV又はHCMVに特異的なCD8+CTLに対してエピトープ候補ペプチドが刺激するか否かについては、エリスポットアッセイ等で判定する。
【0035】
(3)エピトープペプチド決定方法3
EBV又はHCMVタンパク質全体を網羅する20個前後のアミノ酸よりなるペプチドライブラリーを合成する。合成したペプチドに対して、CD8+CTLが反応したペプチドについて順次短くし、最終的に9〜10個のアミノ酸からなるエピトープペプチドを得て本発明のエピトープペプチドとする。
【0036】
2.ワクチン
本発明のCD8+CTLエピトープペプチドは、能動免疫ペプチドワクチン療法においてワクチンとして用いることができる。すなわち、本発明のCD8+CTLエピトープペプチドを含んでなるワクチンを患者に投与し、EBV又はHCMVに特異的なCD8+CTLを体内で増殖させ、疾患に対する予防及び治療に役立てることができる。使用するエピトープペプチドは1種のみの使用であっても、あるいはワクチンの使用目的に応じて2種以上のペプチドを組み合わせ、混合して使用することもできる。
【0037】
また、抗原提示細胞(例えば、樹状突起細胞、B細胞、マクロファージ等)に本発明のCD8+CTLエピトープペプチドをパルスしたもの(以下、CD8+CTLエピトープペプチドパルス細胞と称する)を含むワクチンも使用することができる。ここで、抗原提示細胞とは、該ペプチドが結合し得るHLAをその表面上に発現する細胞の中でCD8+CTL刺激能を有するものを意味し、パルスするとは、適当な培養液中で、抗原提示細胞と該ペプチドを30分から1時間混合することを意味する。
【0038】
本発明のCD8+CTLエピトープペプチド、又はCD8+CTLエピトープペプチドパルス細胞を含んでなるワクチンは、当分野において公知の方法を用いて調製することができる。例えば、かかるワクチンとしては、本発明のCD8+CTLエピトープペプチド又はCD8+CTLエピトープペプチドパルス細胞を有効成分として含有する注射剤又は固形剤等がある。エピトープペプチドは、中性又は塩の形態で処方することができ、例えば、薬学上許容され得る塩としては、塩酸、リン酸などの無機塩、又は、酢酸、酒石酸などの有機酸が挙げられる。また、本発明のエピトープペプチド又はエピトープペプチドパルス細胞は、製薬上許容され、該ペプチド又は該細胞の活性と相容性を有する賦形剤、例えば、水、食塩水、デキストロース、エタノール、グリセロール、DMSO、及びその他のアジュバント等、又はこれらの組み合わせと混合して用いることができる。さらに、必要に応じて、アルブミン、湿潤剤、乳化剤等の補助剤を添加してもよい。
【0039】
本発明のワクチンは、非経口投与及び経口投与により投与することができるが、一般には非経口投与が好ましい。非経口投与としては皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射等の注射剤、座薬等がある。また、経口投与としては、スターチ、マンニトール、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、セルロース等の賦形剤との混合物として調製することができる。
【0040】
本発明のワクチンは、治療上有効な量で投与する。投与される量は、治療対象、免疫系に依存し、必要とする投与量は臨床医の判断により決定される。通常、適当な投与量は、患者一人当たり、エピトープペプチドでは1 〜100mg、エピトープペプチドパルス細胞では106〜109個の含有量とする。また、投与間隔は、対象、目的により設定することができる。
【0041】
3.受動免疫療法剤
本発明のCD8+CTLエピトープペプチドは、EBV又はHCMVに対する受動免疫免疫治療剤の調製に用いることができる。すなわち、1)末梢血リンパ球を該ペプチドで刺激して得られるCD8+CTL、2)末梢血リンパ球を該ペプチドから調製した主要組織適合抗原複合体(major histocompatibility complex、以下、MHCと称する)又はMHC−テトラマーと反応させ、MHC又はMHC−テトラマーにCD8+CTLが結合した結合体を形成させ、該結合体から単離して得られるCD8+CTL、又は、3)末梢血リンパ球を該ペプチドから調製したMHC−標識磁気ビーズと反応させ、MHC−標識磁気ビーズにCD8+CTLが結合した結合体を形成させ、該結合体から単離して得られるCD8+CTL、を含む、受動免疫免疫治療剤を得ることができる。
【0042】
CD8+CTLエピトープペプチドを使用したMHC及びMHC-テトラマーは、例えば、以下のように調製することができる。タンパク質発現用の大腸菌から精製したHLA重鎖、β2ミクログロブリン及び本発明のCD8+CTLエピトープペプチドの複合体である、MHCをバッファー内で形成させる。組換えHLA重鎖タンパク質のC末端には予めビオチン結合部位を付加しておき、MHC形成後この部位にビオチンを付加する。市販の標識色素ストレプトアビジンとビオチン化MHCをモル比1:4で混合することによってMHC-テトラマーを作製する。図2及び図3に得られたMHC-テトラマーとその反応機構をそれぞれ示す。なお、各ステップにおいて、ゲル濾過によるタンパク質精製を行うのが好ましい。
【0043】
受動免疫療法剤に含まれるEBV又はHCMVに特異的なCD8+CTLは、以下のような調製方法によって得ることができる。
(1)CD8+CTL調製方法1
リンパ球を末梢血等から分離し、これを適当な濃度のMHC又はMHC-テトラマーと37℃、15分間反応させる。MHC又はMHC-テトラマーと結合したEBV又はHCMVに特異的なCD8+CTLは標識色素により染色されるので、フローサイトメーター、顕微鏡などを用いて染色されたCD8+CTLのみを単離する。あるいは、予め無菌プレートなどに固相化したMHC及び/又はMHC-テトラマーに反応させることもできる。プレートに固相化されたMHC及び/又はMHC-テトラマーに結合したEBV又はHCMV特異的CD8+CTLを単離するためには、結合せずに浮遊している他の細胞を洗い流した後に、プレート上に残った抗原特異的CD8+CTLだけを新しい培養液に懸濁する。このようにして単離されたEBV又はHCMVに特異的なCD8+CTLは、抗CD3抗体、PHA、IL-2等のT細胞刺激薬剤で刺激増殖させ、受動免疫療法に必要な細胞数を確保する。
【0044】
(2)CD8+CTL調製方法2
前述のようにペプチドから調製したビオチン化MHCをストレプトアビジン標識磁気ビーズと結合させ、結合体(以下、MHC-磁気ビーズと称する)を作製する。MHC-磁気ビーズを図4に示す。リンパ球を末梢血等から分離し、適当な濃度の前記MHC-磁気ビーズをリンパ球:ビーズ比、1:10で反応させる。MHC-磁気ビーズと結合したEBV又はHCMVに特異的なCD8+CTLの入った試験管を磁場におくと、ビーズと結合したCD8+CTLは磁石のある側の試験管内壁に寄せられる。その機構を図5に示す。その後、それ以外の細胞を洗い流した後に、試験管を磁場からはずし、試験管内壁に残った抗原特異的CD8+CTLだけを新しい培養液に懸濁する。このように単離されたEBV又はHCMVに特異的なCD8+CTLは、抗CD3抗体、PHA、IL-2等のT細胞刺激薬剤で刺激増殖させ、受動免疫療法に必要な細胞数を確保する。
【0045】
(3)CD8+CTL調製方法3
末梢血から分離したリンパ球を本発明のCD8+CTLエピトープペプチドで直接刺激するか、該ペプチドをパルスした抗原提示細胞(例えば、樹状突起細胞、B細胞、マクロファージ等)で刺激する。刺激によって誘導されたCD8+CTLを炭酸ガス恒温槽にて37℃で7〜10日培養する。その後IL-2を添加し、CD8+CTLエピトープペプチドとIL-2、又は該抗原提示細胞とIL-2による刺激を週に1度くり返すことによって受動免疫療法に必要な細胞数のCD8+CTLを確保する。
【0046】
上記のようにして得られたEBV又はHCMVに特異的なCD8+CTLはヒトアルブミン含有PBS等に懸濁させて、EBV又はHCMVに対する受動免疫療法剤とすることができる。
【0047】
4.CD8+CTLの定量
EBV及びHCMVに特異的なCD8+CTLが、ハイリスクの患者(何らかの原因により免疫能が低下した人、先天性免疫不全症、造血幹細胞移植又は固形臓器移植を受けて拒絶予防のために免疫抑制剤の投与を受けている患者、慢性ウイルス感染症患者、エイズ患者、高齢者、幼小児、妊婦等)の末梢血に存在するか否かを知ることは、抗ウイルス剤や免疫抑制剤の適正な使用を含め、これらの感染症管理の上で重要な情報である。EBV又はHCMVに特異的なCD8+CTLの定量は、本発明のCD8+CTLエピトープペプチドを用いた以下の2つの方法によって行うことができる。
【0048】
第1の定量方法は、末梢血から分離されたリンパ球を本発明のCD8+CTLエピトープペプチドで刺激することによって誘導されるCD8+CTLが産生するインターフェロンガンマ(IFNγ)、インターロイキン等のサイトカイン及び/又はケモカインを定量する方法である。以下にIFNγを例にとり具体的に方法を示す。
【0049】
(1)サイトカイン定量による方法1(細胞内IFNγ産生細胞定量)
末梢血から分離したリンパ球を10%ウシ胎児血清含有RPMI1640培地に2×106/mlの細胞濃度で浮遊させ、本発明のCD8+CTLエピトープペプチドを1μg/mlの濃度で加える。さらに細胞内蛋白輸送阻止剤であるBrefeldin A等を加え、炭酸ガス恒温槽にて37℃で5〜6時間培養する。培養後、細胞を固定、膜透過処理を行い、色素標識抗IFNγ抗体、抗CD8抗体と反応させる。フローサイトメーター等を用いて、CD8+リンパ球中のIFNγ陽性細胞%を定量する。
【0050】
(2)サイトカイン定量による方法2(エリスポットアッセイ)
96穴MultiScreen-HAプレート(Mi11ipore)を抗IFNγモノクローナル抗体で一晩、4℃でコーティングし各穴をPBSで洗浄した後、末梢血から分離したリンパ球を各穴にまく。エピトープペプチドを各穴に入れ37℃の5% CO2培養器にて20時間培養する。翌日、0.05%Tween‐20添加PBSでプレートを洗浄した後、抗IFNγウサギ血清、ペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgGヤギ血清の順で各々90分ずつ室温で反応させる。さらに3-amino-9-ethylcarbasole (Sigma)と0.015%のH2O2を含む0.1M 酢酸ナトリウムバッファー(pH 5.0)を各穴に入れ、室温で40分反応させる。IFNγスポットを可視化し、実体顕微鏡でカウントする。
【0051】
(3)サイトカイン定量による方法3(培養上清中に分泌されたIFNγを定量する方法)
末梢血から分離したリンパ球を10%ウシ胎児血清含有RPMI1640培地に2×106/mlの細胞濃度で浮遊させ、本発明のCD8+CTLエピトープペプチドを1μg/mlの濃度で加える。炭酸ガス恒温槽にて37℃で24-48時間培養する。培養後、上清を回収し、その中に含まれるIFNγ濃度を市販のELISA キット(例えばENDOGEN社のHUMAN IFN gamma ELISA)を使用して定量する。
【0052】
第2の定量方法としては、本発明のCD8+CTLエピトープペプチドを使用して作製したMHC-テトラマーを用いて、末梢血中のEBV及びHCMVに特異的なCD8+CTLを定量することができる。MHC-テトラマーの調製は前述のとおりである。定量は、例えば、以下のようにして実施することができる。末梢血などからリンパ球を分離し、適当な濃度のMHC-テトラマーと37℃、15分反応させる。該テトラマーと結合したCD8+CTLは標識色素により染色されるので、フローサイトメーター、顕微鏡等を用いてカウントする。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1] EBVに特異的なCD8+CTLエピトープ候補ペプチドのスクリーニング
本発明のEBVに特異的なCD8+CTLエピトープペプチドは、EBVタンパク質のアミノ酸配列について、HLA-A24、A26、B61の各結合モチーフを有する9〜10個のアミノ酸よりなるエピトープペプチドを検索し得る、インターネット上に公開されているBioInformatics & Molecular Analysis Section(BIMAS)のHLA Peptide Binding Predictions(http://bimas.dcrt.nih.gov/molbio/hla_bind/index.html.)によって照合し、HLA-A24、A26、B61の各結合モチーフを有する9〜10個のアミノ酸よりなる抗原エピトープ候補ペプチドを多数スクリーニングし、約100種のエピトープ候補ペプチドを合成した。
【0054】
[実施例2] EBVに特異的なCD8+CTLエピトープペプチドの同定
1.各種材料の調製
(1)血液の入手
既にEBVの感染を受けている健康成人の末梢血からリンパ球を分離した。HLA型は血清法を用いて測定した。
(2)EBV感染B細胞株
末梢血リンパ球にEBV産生細胞株であるB95-8細胞の上清(生EBVウイルスを含む)を感染させて、EBV感染B細胞株(Lymphoblastoid cell line、以下、EBV感染LCLと称する)を樹立した。
(3)ペプチド提示用細胞
ペプチド提示用の細胞として174CEM.T2(以下、T2細胞と称する)にHLA-A24、A26、B61遺伝子を各々導入し、HLA-A24、A26、B61各結合ペプチドを提示する細胞(以下、各々、T2-A24、T2-A26、T2-B61細胞と称する)を得た。各T2-A24、T2-A26、T2-B61細胞は10%牛胎児血清、L-グルタミン、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲネチシンを添加したIscove's modified Dulbecco's medium(GIBCO)を用いて培養した。
【0055】
2.EBVに特異的なCD8+CTLの培養樹立
(1)EBVに特異的なCD8+CTL
前記1.(1)で取得した末梢血リンパ球を、あらかじめ同じ人から樹立しておいた前記1.(2)のLCLとともにフラスコ内で混合培養した。この際に、LCLには細胞致死量の放射線を照射しておき増殖をしないようにした。血液の供給者がHLA-A24、A26又はB61に対して陽性の場合、その人のLCL細胞表面にあるHLA-A24、A26又はB61分子の一部にはEBVタンパク質由来の9〜10個のアミノ酸よりなる抗原エピトープが提示され、それに反応したCD8+CTLが増殖を開始した。CD8+CTLの増殖を助けるために、培養液にはIL-2を添加した。
(2)EBVに特異的なCD8+CTLクローンの樹立
樹立したEBVに特異的なCD8+CTL株から、限界希釈法を用いてCD8+CTLクローンを樹立した。
【0056】
3.エリスポットアッセイ
96穴MultiScreen-HAプレート(Mi11ipore)を抗IFNγモノクローナル抗体(R&D Systems, Minneapolis, MN)で一晩、4℃でコーティングした。各穴をPBSで洗浄した後、T2-A24、A26、B61の各細胞を各穴にまいた。実施例1で合成した各エピトープ候補ペプチドを各穴に入れて、30分室温で静置した後、適当な数のEBVに特異的なCD8+CTLを添加し、37℃の5% CO2培養器にて20時間培養した。エピトープ候補ペプチドに反応したCD8+CTLはこの培養期間にIFNγを分泌した。翌日、0.05%Tween‐20添加PBSでプレートを洗浄した後、抗IFNγウサギ血清(Genzyme, Cambridge, MA)、ペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgGヤギ血清の順で各々90分ずつ室温で反応させた。さらに3-amino-9-ethylcarbasole (Sigma)と0.015%のH2O2を含む0.1M sodium acetate buffer (pH 5.0)を各穴に入れ、室温で40分反応させ、IFNγスポットを可視化した。スポットは実体顕微鏡でカウントした。
【0057】
CD8+CTLエピトープペプチドが内因性にプロセスされていることを確認するために、EBVの各タンパク質をコードするワクチニアウイルスをHLA-A24、A26、B61陽性の皮膚線維芽細胞に感染させ、これを抗原提示細胞としたエリスポットアッセイを同様に行った。ここで、内因性にプロセスされているとは、感染細胞内で新規に作られたウイルスタンパク質が、細胞が本来持つ抗原処理機構により正しい長さの抗原ペプチドに切断され、HLA重鎖とβ2ミクログロブリンと複合体を形成し、感染細胞表面に提示されている状態のことを意味する。
【0058】
上記の方法に従って、EBVに特異的なCD8+CTL、またそのCD8+CTLクローンが反応した、以下の配列番号1〜22のCD8+CTLエピトープペプチドを得た。
Arg Tyr Ser Ile Phe Phe Asp Tyr Met(配列番号1)
Leu Tyr Ala Leu Ala Leu Leu Leu Leu(配列番号2)
Ala Tyr Arg Arg Arg Trp Arg Arg Leu(配列番号3)
Arg Tyr Cys Cys Tyr Tyr Cys Leu Thr Leu(配列番号4)
Thr Tyr Pro Val Leu Glu Glu Met Phe(配列番号5)
Ser Tyr Lys Thr Leu Arg Glu Phe Phe(配列番号6)
Asp Tyr Asn Phe Val Lys Gln Leu Phe(配列番号7)
Thr Tyr Thr Ser Gly Glu Ala Cys Leu(配列番号8)
Cys Tyr Glu Asn Asp Asn Pro Gly Leu(配列番号9)
Thr Tyr Trp Gln Leu Asn Gln Asn Leu(配列番号10)
Ala Tyr Ala Glu Ala Thr Ser Ser Leu(配列番号11)
Asp Tyr Met Ala Ile His Arg Ser Leu(配列番号12)
Phe Tyr Arg Ser Leu Leu Thr Ile Leu(配列番号13)
His Tyr Gln Thr Leu Cys Thr Asn Phe(配列番号14)
Phe Tyr Met Thr His Gly Leu Gly Thr Leu(配列番号15)
Gly Glu Thr Ser Gly Ile Arg Arg Ala(配列番号16)
Asp Leu Ser Tyr Ile Lys Ser Phe Val(配列番号17)
Asp Tyr Ser Gln Gly Ala Phe Thr Pro Leu(配列番号18)
Leu Tyr Leu Gln Gln Asn Trp Trp Thr Leu(配列番号19)
Ile Tyr Val Leu Val Met Leu Val Leu(配列番号20)
Ile Tyr Val Leu Val Met Leu Val Leu Leu(配列番号21)
Ser Tyr Ala Ala Ala Gln Arg Lys Leu(配列番号22)
【0059】
[実施例3] HCMVに特異的なCD8+CTLエピトープ候補ペプチドのスクリーニング
本発明のHCMVに特異的なCD8+CTLエピトープペプチドは、HCMVタンパク質のアミノ酸配列について、HLA-A24、A26、B61の各結合モチーフを有する9〜10個のアミノ酸よりなるエピトープペプチドを検索し得る、インターネット上に公開されているBioInformatics & Molecular Analysis Section(BIMAS)のHLA Peptide Binding Predictions(http://bimas.dcrt.nih.gov/molbio/hla_bind/index.html.)によって照合し、HLA-A24、A26、B61の各結合モチーフを有する9〜10個のアミノ酸よりなる抗原エピトープ候補ペプチドを多数スクリーニングし、約100種のエピトープ候補ペプチドを合成した。
【0060】
[実施例4] HCMVに特異的なCD8+CTLエピトープペプチドの同定
1.各種材料の調製
(1)血液及び皮膚線維芽細胞の入手
既にHCMVの感染を受けている健康成人の末梢血からリンパ球を分離した。HLA型は血清法を用いて測定した。一部の人については、線維芽細胞を得るために皮膚の生検を行った。すなわち、皮膚生検組織をハサミで細かく切った後、1O%牛胎児血清、L-グルタミン、ベニシリン、ストレプトマイシンを添加したDulbecco's modified Eagle medium (GIBCO, Grand Island. NY)を用いて皮膚線維芽細胞を培養樹立した。
(2)CMV AD169 strain
CMV AD169 strainは、American Type Culture Collectionから入手した(ATCC VR-538)。
(3)ペプチド提示用細胞
ペプチド提示用の細胞として174CEM.T2(以下、T2細胞と称する)にHLA-A24、A26、B61遺伝子を各々導入し、HLA-A24、A26、B61各結合ペプチドを提示する細胞(以下、各々、T2-A24、T2-A26、T2-B61細胞と称する)を得た。各T2-A24、T2-A26、T2-B61細胞は10%牛胎児血清、L-グルタミン、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲネチシンを添加したIscove's modified Dulbecco's medium(GIBCO)を用いて培養した。
【0061】
2.HCMVに特異的なCD8+CTLの培養樹立
(1)HCMVに特異的なCD8+CTL
前記1.(1)で取得した末梢血リンパ球を、あらかじめ同じ人から樹立しておいた前記1.(1)の皮膚繊維芽細胞にHCMVを感染させたものとフラスコ内で混合培養した。血液の供給者がHLA-A24、A26又はB61に対して陽性の場合、その人の皮膚繊維芽細胞表面にあるHLA-A24、A26又はB61分子の一部にはCMVタンパク質由来の9〜10個のアミノ酸よりなる抗原エピトープが提示され、それに反応したCD8+CTLが増殖を開始した。CD8+CTLの増殖を助けるために、培養液にはIL-2を添加した。
(2)HCMVに特異的なCD8+CTLクローンの樹立
樹立したHCMVに特異的なCD8+CTL株から、限界希釈法を用いてCD8+CTLクローンを樹立した。
【0062】
3.エリスポットアッセイ
96穴MultiScreen-HAプレート(Mi11ipore)を抗IFNγモノクローナル抗体(R&D Systems, Minneapolis, MN)で一晩、4℃でコーティングした。各穴をPBSで洗浄した後、T2-A24、A26、B61の各細胞を各穴にまいた。実施例1で合成した各エピトープ候補ペプチドを各穴に入れて、30分室温で静置した後、適当な数のCMVに特異的なCD8+CTLを添加し、37℃の5% CO2培養器にて20時間培養した。エピトープ候補ペプチドに反応したCD8+CTLはこの培養期間にIFNを分泌した。翌日、0.05%Tween‐20添加PBSでプレートを洗浄した後、抗IFNγウサギ血清(Genzyme, Cambridge, MA)、ペルオキシダーゼラベル抗ウサギIgGヤギ血清の順で各々90分ずつ室温で反応させた。さらに3-amino-9-ethylcarbasole (Sigma)と0.015%のH2O2を含む0.1M 酢酸ナトリウムバッファー(pH 5.0)を各穴に入れ、室温で40分反応させ、IFNγスポットを可視化した。スポットは実体顕微鏡でカウントした。T2-A24を抗原提示細胞とした実際のIFNγスポット写真を図6Aに示す。また、エピトープ候補ペプチド各々に反応して産生されたIFNγスポットを実体顕微鏡下でカウントした結果を図6Bに示す。棒グラフは、1well当たりのスポット数を示す。図中、ペプチド番号60、81、83が本発明の配列番号30、23、24にそれぞれ該当する。
【0063】
さらに、CD8+CTLエピトープペプチドが内因性にプロセスされていることを確認するために、HCMV、HCMVのgBタンパク質を発現するワクチニアウイルス及びHCMVのpp65を発現するワクチニアウイルスをHLA-A24陽性の皮膚線維芽細胞に感染させ、これを抗原提示細胞とし、配列番号23のペプチド(HCMVのpp65由来)に特異的なCD8+CTLクローンと反応させるエリスポットアッセイを行った。その結果を図7に示す。なお、図中Mockは、ウイルスを感染させていないHLA-A24陽性の皮膚線維芽細胞とCTLクローンを反応させた結果を示す。また、各項目の棒グラフは、左から、1well当たりのCD8+CTLクローンの希釈列、200、100、50、25を示す。その結果、配列番号23のペプチドに特異的なCD8+CTLクローンは、HCMV感染細胞とpp65発現ワクチニアウイルス感染細胞にのみ反応した。
【0064】
上記のような方法に従って、HCMVに特異的なCD8+CTL、またそのCD8+CTLクローンが反応した、以下の配列番号23〜32のCD8+CTLエピトープペプチドを得た。
Gln Tyr Asp Pro Val Ala Ala Leu Phe(配列番号23)
Gln Tyr Asp Pro Val Ala Ala Leu Phe Phe(配列番号24)
Val Glu Leu Arg Gln Tyr Asp Pro Val Ala(配列番号25)
Asp Val Pro Ser Gly Lys Leu Phe Met(配列番号26)
Asp Val Ala Phe Thr Ser His Glu His Phe(配列番号27)
Asp Thr Asp Glu Asp Ser Asp Asn Glu Ile(配列番号28)
Asp Leu Leu Leu Gln Arg Gly Pro Gln Tyr(配列番号29)
Asn Tyr Leu Asp Leu Ser Ala Leu Leu(配列番号30)
Gln Tyr Arg Ile Gln Gly Lys Leu(配列番号31)
Gln Tyr Arg Ile Gln Gly Lys Leu Glu Tyr(配列番号32)
【0065】
[実施例5]ワクチン注射剤
DMSOに、配列番号1〜32のペプチドを最終濃度20mg/mlとなるように各々溶解し、ろ過滅菌した。得られたペプチド含有溶液を滅菌バイアル瓶に1mlずつ分注密栓し、ワクチン注射剤とした。
【0066】
[実施例6]サイトカインを測定することからなるHCMVに特異的なCD8+CTLの定量方法
5人の成人末梢血からリンパ球を分離し、HCMV由来の配列番号23のペプチド及び陰性コントロールとしてのエイズウイルス(HIV)由来のHLA-A24結合ペプチドを用いて刺激した。細胞内に産生蓄積されたIFN-γをFITC標識抗体で染色した。Tリンパ球の活性化マーカーであるCD69をPE標識抗体で同時に染色した。染色された細胞をフローサイトメーター(ベクトン-デイッキンソン社、FACScan)により測定した。その結果を図8に示す。図中、各グラフの右上に示した%は、ペプチドに反応したCD8+CTLの割合を示している。この結果から、本法がエピトープペプチド反応性CD8+CTLを特異的に検出できるということが明らかである。
【0067】
[実施例7]CD8+CTLエピトープペプチドから調製したMHC-テトラマーを用いて末梢血中のHCMVに特異的なCD8+CTLを定量する方法
1.MHC-テトラマーの調製
(1)MHCの調製
大腸菌による組換蛋白発現系を用いてHLA A*2402重鎖およびβ2ミクログロブリンを大量に作成、精製した。なお、HLA A*2402重鎖C末端には、ビオチンリガーゼが認識するアミノ酸配列を予め付加しておいた。精製HLA A*2402重鎖およびβ2ミクログロブリンをそれぞれ8M尿素に溶解した。 200 ml の refolding buffer (pH8.0 ; 100 mM Tris-HCl, 400 mM L-arginine-HCl, 2 mM EDTA, 0.5 mM oxidative glutathione, 5 mM reduced glutathione)内に、配列番号23のペプチド12mg、HLA A*2402重鎖18.6mg、β2ミクログロブリン13.2mgそれぞれを27ゲージ針の付いた注射器を用いて注射した。 10℃恒温槽において48〜72時間撹拌し、MHCの形成を促した後、MHCを含むrefolding bufferを1.8Lの蒸留水に対して24時間、4℃恒温槽において透析し、透析後のrefolding bufferをセントリプレップ10(MILLIPORE, Bedford, MA)を用いて2mlに濃縮した。 Superdex 200 HR (Amersham Pharmacia Biotech AB, Uppsala, Sweden)カラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィーにて分子量45KDあたりに流出するMHCを単離した。
(2)ビオチン化MHCの調製
ビオチンリガーゼ(AVIDITY, Denver, CO)を用いて、HLA A*2402重鎖C末端の特異的部位にビオチンを結合させた。 Superdex 200 HR カラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィーにてビオチンを付加したMHCを精製した。
(3)MHC-テトラマーの調製
PE標識ストレプトアビジン (Molecular Probe, Eugene, OR)と精製ビオチン化MHCをモル比1:4で混合した。 Superdex 200 HR カラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィーにて分子量480KDあたりに流出する配列番号23を含むMHC-テトラマーを単離した。セントリコン10(MILLIPORE)を用いて約3mg/mlに濃縮し、4℃に保存した。保存剤としては、NaAzide、EDTA、 Leupeptin、 Pepstatinを添加した。
【0068】
2.MHC-テトラマーを用いたHCMVに特異的なCD8+CTLの定量
HCMVエピトープペプチド特異的CD8+T細胞クローン(2×105)又はHCMVに感染している成人から分離した末梢血リンパ球(2×106)を1.5mlエッペンドルフチューブ内で50μLの2%FCS含有PBSに懸濁した。これに、MHC-テトラマー、FITC標識抗CD8抗体(CALTAG,burlingame,CA)を各1μLずつ添加し、37℃恒温槽に15分静置し反応させた。反応後の細胞を2% FCS含有PBS 1mlで3回洗浄し、次いで、0.5%パラホルムアルデヒド含有PBS(1ml)に懸濁した。配列番号23を含むMHC-テトラマーと結合したCD8+CTLは標識色素により染色され、FACS Calibur(ベクトン・デイッキンソン)を用いてFITC-CD8+T細胞中のテトラマー陽性細胞をカウントし、%を計算した。
【0069】
解析の結果を図9に示す。MHC-テトラマーに結合したHCMVに特異的なCD8+CTLは染色されるので右に移動する。図中、AはEBV特異的CD8+CTLクローン(陰性コントロール)であり、Bは配列番号23のペプチドに特異的なCD8+CTLクローン(陽性コントロール)である。CはHCMV抗体陰性成人末梢血であり、DはHCMV抗体陽性成人末梢血(図Dの右上の点の集団がテトラマー陽性細胞)である。この結果から、配列番号23を含むMHC-テトラマーがHCMV反応性CD8+CTLを特異的に染色していることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明により、本発明のエピトープペプチドを用いてEBV又はHCMVの感染を管理、治療又は予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】CD8+CTLによるウイルス感染細胞の認識機構を示す図である。図中、CD8+CTLエピトープペプチドは本発明のペプチドである。
【図2】MHC-テトラマーの調製方法を示す図である。
【図3】MHC-テトラマーとEBV又はHCMV特異的CTLの結合を示す図である。
【図4】MHC−磁気ビーズの調製方法を示す図である。
【図5】MHC−磁気ビーズによるEBV又はHCMV特異的CTLの単離を示す図である。
【図6A】エリスポットアッセイによるHCMVに特異的なCD8+CTLエピトープペプチドの同定例におけるIFNγスポットの写真を示す図である。
【図6B】エリスポットアッセイによるHCMVに特異的なCD8+CTLエピトープペプチドの同定例におけるスポットカウント結果を示す図である。
【図7】同定したエピトープペプチドが内因性にプロセスされ感染細胞表面に提示されていることを示す図である。
【図8】IFN-γを指標にしたペプチドに反応するCD8+Tリンパ球の定量例を示す図である。
【図9】本発明のエピトープペプチドにより調製したテトラマーによるHCMVに特異的なCD8+Tリンパ球の同定例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2〜18、20〜22に示される各アミノ酸配列を含むペプチド類からなる群から選択されるエプスタイン−バールウイルスに対するCD8+細胞傷害性Tリンパ球エピトープペプチドを含む組成物。
【請求項2】
エプスタイン−バールウイルスの感染を治療又は予防するためのものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の組成物由来のエピトープペプチドによってパルスされた抗原提示細胞。
【請求項4】
請求項1または2に記載の組成物由来のエピトープペプチドあるいは請求項3に記載の抗原提示細胞により末梢血リンパ球を刺激して得られる、エプスタイン−バールウイルスに対するCD8+細胞傷害性Tリンパ球。
【請求項5】
請求項1または2に記載の組成物由来のエピトープペプチドから調製された主要組織適合抗原複合体及び/又は主要組織適合抗原複合体−テトラマーと末梢血リンパ球とを反応させ、得られた主要組織適合抗原複合体及び/又は主要組織適合抗原複合体−テトラマーにCD8+細胞傷害性Tリンパ球が結合した結合体を形成させ、該結合体から単離して得られる、エプスタイン−バールウイルスに対するCD8+細胞傷害性Tリンパ球。
【請求項6】
請求項1または2に記載の組成物由来のエピトープペプチドから調製された主要組織適合抗原複合体−標識磁気ビーズと末梢血リンパ球とを反応させ、得られた主要組織適合抗原複合体−標識磁気ビーズにCD8+細胞傷害性Tリンパ球が結合した結合体を形成させ、該結合体から単離して得られる、エプスタイン−バールウイルスに対するCD8+細胞傷害性Tリンパ球。
【請求項7】
請求項1または2に記載の組成物由来のエピトープペプチドで末梢血を刺激し、エプスタイン−バールウイルスに対するCD8+細胞傷害性Tリンパ球を得、該CD8+細胞傷害性Tリンパ球が産生するサイトカイン及び/又はケモカインを測定することを含む、エプスタイン−バールウイルスに対するCD8+細胞傷害性Tリンパ球の定量方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載の組成物由来のエピトープペプチドから主要組織適合性複合体及び/又は主要組織適合性複合体−テトラマーを調製し、該主要組織適合性複合体及び/又は主要組織適合性複合体−テトラマーと末梢血とを反応させることを含む、該末梢血中のエプスタイン−バールウイルスに対するCD8+細胞傷害性Tリンパ球の定量方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−188513(P2006−188513A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−373312(P2005−373312)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【分割の表示】特願2001−172569(P2001−172569)の分割
【原出願日】平成13年6月7日(2001.6.7)
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
【Fターム(参考)】