説明

CD9/CD81二重欠損非ヒト動物

本発明の目的は、低回転型の骨粗鬆症および慢性閉塞性肺疾患の病態をよく表しモデル動物として、骨粗鬆症治療薬または慢性閉塞性肺疾患治療薬の薬剤スクリーニング等に利用できる非ヒト動物を提供することにある。本発明は、少なくとも体細胞において、CD9をコードする遺伝子およびCD81をコードする遺伝子が欠損することを特徴とする非ヒト動物並びに該非ヒト動物の骨形成阻害の程度を測定する工程を含んでなる該ヒト動物の骨粗鬆症モデル動物としての使用方法および該非ヒト動物の慢性閉塞性肺疾患類似の表現形質の程度を測定する工程を含んでなる該ヒト動物の慢性閉塞性肺疾患モデル動物としての使用方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、モデル動物として骨粗鬆症治療薬または慢性閉塞性肺疾患治療薬の開発等に利用できる、CD9遺伝子およびCD81遺伝子を欠損した二重欠損非ヒト動物に関する。
【背景技術】
CD9およびCD81は、テトラスパニンと呼ばれるタンパク質のファミリーメンバーとして知られている。テトラスパニンはその名が示すとおり、細胞膜を4回貫通する構造を持つスーパーファミリーであり、ほ乳類ではこれまでに約30のメンバーが知られている。細胞の増殖、運動、融合や癌細胞の浸潤、転移などに関わっているとされているがその機能の詳細は不明であった。しかし最近、CD81(例えば非特許文献1参照)やCD9(例えば非特許文献2参照)のノックアウトマウスが作成され、それぞれ抗体・サイトカイン産生の異常と不妊症を示すことから、免疫系や生殖系におけるテトラスパニンの重要性が明らかにされた。
骨粗鬆症は主に閉経後の女性や高齢者に見られる疾患であり、病的骨折や脊椎変形の原因となる。そこで、骨粗鬆症のより有効な治療薬の開発が求められているが、その際の実験モデルとなるモデル動物は少ない。現在骨粗鬆症モデル動物としては、卵巣を摘出したマウスが多用されており、このマウスは、閉経後の女性に多く見られる、エストロゲンの低下による破骨細胞活性亢進型の骨粗鬆症のモデル動物として優れていると考えられている。一方、骨粗鬆症のメカニズムとしては、骨形成に関わる骨芽細胞の活性が低下するいわゆる低回転型のものもあり、このような病態をよく表すモデル動物が求められている。
なお、骨芽細胞による骨形成と前記テトラスパニンとの関係については、その関係は全く不明であった。
一方、閉塞性呼吸機能障害をきたす慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease,以下COPDと称することがある)は、胞隔の破壊と気腔の拡大を特徴とする肺気腫と気道分泌物の慢性的な増加を伴う慢性気管支炎とからなるが、しばしばこの両者が混在する。その病態は、喫煙に対する肺への異常な炎症細胞浸潤とタンパク分解酵素の産生である。
COPDは喫煙が発症の大きなリスクファクターであり、その罹患率は世界中で上昇している。WHOによると、現在COPDは死亡原因の第5位であり、2020年には第3位になると予測されている。しかし、COPDの発症メカニズムはまだ明らかではない。また、スモーカーであってもCOPDを発症するのはその15−20%であり、喫煙に対する感受性に個人差があると考えられるが、その科学的な裏付けも十分されていない。
さらに最近、COPD患者が単に肺のみならず、高率に体重減少や筋力低下、骨粗鬆症などの全身性合併症を併発し、ADLや呼吸機能の低下を加速することが分かってきた(例えば非特許文献3参照)。ステロイド薬の投与、ビタミンD不足、喫煙などがこれら全身性変化の要因と考えられているが、肺外病変の真のメカニズムは不明である。
これまでに肺気腫発症のメカニズム解明や治療法開発のため遺伝子操作マウスが作成され、例えばプロテアーゼの一種であるコラゲナーゼ過剰発現マウスでは肺気腫を生じることが確認されている。ノックアウトマウスとしては、surfactant protein Dやインテグリンβ6ノックアウトマウスなどでの肺気腫の報告がなされている(例えば非特許文献4および非特許文献5参照)がその数は少なく、またこれらのマウスで骨粗鬆症などの肺外病変を合併するとの報告はない。
【非特許文献1】Maecker HT.J Exp Med 185:1505−1510,1997
【非特許文献2】Miyado K.Science 287:321−324,2000
【非特許文献3】Biskobing DM.Chest 121:609−620,2002
【非特許文献4】Wert SE.Proc Natl Acad Sci USA 97:5922−5977,2000
【非特許文献5】Morris DG Nature 422:169−173,2003
【発明の開示】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、骨粗鬆症および慢性閉塞性肺疾患(COPD)の少なくともいずれかの病態をよく表すモデル動物として利用できるCD9/CD81二重欠損非ヒト動物、並びに、該非ヒト動物を骨粗鬆症モデル動物およびCOPDモデル動物の少なくともいずれかとして使用する方法を提供することを目的とする。
発明者らは、テトラスパニンタンパクファミリーのメンバーであるCD9とCD81の二重欠損マウスを作成し、この変異マウスに骨粗鬆症およびCOPDが起こるとの知見を得たことにより、本発明に至った。
すなわち本発明の前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
<1> 少なくとも体細胞において、CD9をコードする遺伝子およびCD81をコードする遺伝子の機能が欠損することを特徴とするCD9/CD81二重欠損非ヒト動物である。
<2> 非ヒト動物が齧歯類動物である前記<1>に記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物である。
<3> 齧歯類動物がマウスである前記<2>に記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物である。
<4> CD9をコードする遺伝子が下記(a)および(b)のいずれかであり、CD81をコードする遺伝子が下記(c)および(d)のいずれかである前記<1>から<3>のいずれかに記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物である。
(a)配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAに相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
(c)配列番号2に記載の塩基配列からなるDNA
(d)配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAに相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
<5> 体細胞および生殖細胞においても、CD9をコードする遺伝子およびCD81をコードする遺伝子の機能が欠損する前記<1>から<4>のいずれかに記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物である。
<6> 生殖細胞特異的に発現する遺伝子のプロモーターの下流にCD9をコードする遺伝子およびCD81をコードする遺伝子の少なくともいずれかが導入され、生殖細胞においてCD9をコードする遺伝子およびCD81をコードする遺伝子の少なくともいずれかの機能が欠損しない前記<1>から<4>のいずれかに記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物である。
<7> 骨形成が阻害された表現形質および慢性閉塞性肺疾患類似の表現形質の少なくともいずれかを有する前記<1>から<6>のいずれかに記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物である。
<8> 骨粗鬆症モデル動物および慢性閉塞性肺疾患モデル動物の少なくともいずれかである前記<1>から<7>のいずれかに記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物である。
<9> 前記<1>から<7>のいずれかに記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物の骨形成阻害の程度を測定する工程を含んでなることを特徴とする、該CD9/CD81二重欠損非ヒト動物を骨粗鬆症モデル動物として使用する方法である。
<10> 前記<1>から<7>のいずれかに記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物に被験物質に投与し、該被験物質が骨形成阻害を抑制する効果を有するかどうか検定する骨粗鬆症治療薬スクリーニング方法である前記<9>に記載の方法である。
<11> 前記<1>から<7>のいずれかに記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物の慢性閉塞性肺疾患類似の表現形質の程度を測定する工程を含んでなることを特徴とする、該CD9/CD81二重欠損非ヒト動物を慢性閉塞性肺疾患モデル動物として使用する方法である。
<12> 前記<1>から<7>のいずれかに記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物に被験物質に投与し、該被験物質が慢性閉塞性肺疾患を表す表現形質を抑制する効果を有するかどうか検定する慢性閉塞性肺疾患治療薬スクリーニング方法である前記<11>に記載の方法である。
<13> 前記<1>に記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物の、骨粗鬆症モデル動物および慢性閉塞性肺疾患モデル動物の少なくともいずれかを製造するための使用である。
【図面の簡単な説明】
図1は、CD9の全長DNA配列を表す。
図2は、CD81の全長DNA配列を表す。
図3は、CD9ノックアウトマウス製造のための遺伝子ターゲッティングに関するゲノムDNA、構築ベクターおよび組換えDNAを表す。
図4は、CD9サザンブロットの結果を表す。
図5は、CD9PCRの結果を表す。
図6は、30週令の野生型(wild)およびCD9/CD81二重欠損(DKO)マウスの全身骨格のX線像である。
図7は、30週令の野生型(wild)およびCD9/CD81二重欠損(DKO)マウスの大腿骨のX線像である。
図8は、30週令の野生型(wild)およびCD9/CD81二重欠損(DKO)マウスの脊椎のX線像である。
図9は、8週令の野生型(wild)およびCD9/CD81二重欠損(DKO)マウスの脛骨近位部における骨組織を、上段がトルイジンブルーおよび下段がTRAPで染色した結果を表す。
図10Aは、8週令の野生型(wild)とCD9欠損マウス、CD81欠損マウス、CD9/CD81二重欠損(DKO)マウス骨のpQCT解析結果を表す。
図10Bは、骨量の解析結果を示す。
図10Cは、骨強度の解析結果を示す。
図11Aは、8週令の野生型、CD9欠損(CD9KO)マウス、CD81欠損(CD81KO)マウス、CD9/CD81ダブルヘテロ(CD9/CD81DHO)マウス、CD9/CD81二重欠損ホモ(CD9/CD81DKO)マウスの脛骨近位部の形態計測結果のうち、単位骨量を表す。
図11Bは、図11Aと同様のマウスの形態計測結果のうち、骨梁幅を表す。
図11Cは、図11Aと同様のマウスの形態計測結果のうち、骨梁数を表す。
図11Dは、図11Aと同様のマウスの形態計測結果のうち、類骨厚を表す。
図11Eは、図11Aと同様のマウスの形態計測結果のうち、類骨面を表す。
図11Fは、図11Aと同様のマウスの形態計測結果のうち、骨芽細胞面を表す。
図11Gは、図11Aと同様のマウスの形態計測結果のうち、破骨細胞数を表す。
図11Hは、図11Aと同様のマウスの形態計測結果のうち、破骨細胞面を表す。
図12Aは、8週令の野生型(wild)マウス、CD9欠損(CD9KO)マウス、CD81欠損(CD81KO)マウスおよびCD9/CD81二重欠損(DKO)マウスにおけるカルセインアッセイの結果を表す。
図12Bは、カルセインアッセイによる骨形成率を表す。
図13は、実施例8における、野生型(Wild)マウスおよびCD9/CD81二重欠損(DKO)マウスにおける気腔の拡大と胞隔への炎症細胞浸潤を表す。
図14は、実施例8における、形態計測による野生型(Wild)マウスおよびCD9/CD81二重欠損(DKO)マウス肺胞腔径の加令変化を表す。
図15は、実施例8における、野生型(Wild)マウスおよびCD9/CD81二重欠損マウス(DKO)における弾性線維の断裂と杯細胞の過形成を表す。
図16は、実施例9における、野生型(Wild)マウスおよびCD9/CD81二重欠損(DKO)マウス気管支肺胞洗浄液中のMMP活性亢進を表す。
図17は、実施例9における、野生型(Wild)マウスおよびCD9/CD81二重欠損(DKO)マウスの気管支肺胞洗浄液中の細胞数増加を表す。
【発明を実施するための最良の形態】
発明者らは、テトラスパニンタンパクファミリーのメンバーであるCD9とCD81の二重欠損マウスを初めて作成し、この変異マウスに骨粗鬆症が起こるとの知見を得た。CD9/CD81二重欠損マウスはワイルドタイプマウスに比べ、骨格が小さく脊椎後弯を認め、皮質骨の菲薄化、骨のX線透過性亢進が認められた。骨組織の形態学的解析から、破骨細胞の増加と機能低下、骨芽細胞の機能低下が示唆された。また、カルセイン注射により、CD9/CD81二重欠損マウスでの骨形成率はワイルドタイプの60%に低下していることが明らかとなった。以上から、CD9/CD81二重欠損マウスは低回転型の骨粗鬆症を示し、ヒトの老化の一徴候としての骨粗鬆症のモデルとなることが確認された。
発明者らは、更に、この変異マウスにヒトの慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease,COPD)類似の病態が起こるとの知見を得た。CD9/CD81二重欠損マウス肺を組織学的に解析すると、加齢とともにワイルドタイプマウスに比べ胞隔に多くの炎症細胞が浸潤し、気腔の拡大を認めた。また、胞隔弾性線維の断裂像と気管支粘液産生細胞の過形成像が観察され、ヒトでのCOPDの病態に矛盾しないものであったため、該CD9/CD81二重欠損マウスはCOPDのモデルとなることが確認された。
本発明の非ヒト動物は、少なくとも体細胞において、CD9をコードする遺伝子およびCD81をコードする遺伝子の機能が欠損する(本明細書中、「CD9/CD81二重欠損」ということがある)。
非ヒト動物は、ヒト以外の動物であれば特に制限はないが、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、ヒツジ、ヤギなどの哺乳動物、ニワトリなどの鳥類、マス等の魚類等が挙げられ、哺乳動物であることが好ましく、齧歯類動物であることがより好ましい。中でもマウスはライフサイクルが短く繁殖が容易であり、遺伝子欠損動物の作成技術も確立されている点で特に好ましい。
ここで、「遺伝子の機能が欠損する非ヒト動物」とは、遺伝子に変異を有することにより、該遺伝子の機能が欠損している遺伝子を有する非ヒト動物をいう。機能が欠損した遺伝子としては、変異の無い正常遺伝子と比較して、遺伝子発現が抑制されるか、その遺伝子産物の活性が失われたり低下したりする遺伝子が挙げられる。この要件を具備する限り、変異は欠失のみでなく、付加および置換も含み、変異の部位や長さには制限がない。変異の導入方法としては特に制限はないが、細胞に、標的となる遺伝子の塩基配列に変異を導入したDNAを導入し、相同的組換え体を選択することにより、標的とする遺伝子に突然変異を導入する遺伝子ターゲッティングの手法により行なうことができる。変異を導入するターゲッティングの部位は、プロモータ領域、非翻訳領域、翻訳領域などいずれであってもよい。例えば、遺伝子のプロモータ領域の塩基配列の欠失や置換によって、転写活性が損なわれた変異遺伝子を得ることができる。また、非翻訳領域の塩基配列の欠失や置換によって安定な転写産物が合成されなくなった変異遺伝子を得ることもできる。また、翻訳領域内の塩基配列の欠失や置換によって、遺伝子産物が得られないか、遺伝子産物が得られても、それがタンパク質として正常に機能しない変異遺伝子などを得ることもできる。遺伝子の機能を効率よく完全に欠損させるには、翻訳領域をターゲット部位とすることが好ましい。また、導入される遺伝子には、薬剤に対する耐性遺伝子等、選択マーカーを挿入することが目的の組換え体を容易に選択することができる観点などから好ましい。ここで、CD9をコードする遺伝子およびCD81をコードする遺伝子の機能が欠損するとは、CD9をコードする遺伝子の機能とCD81をコードする遺伝子の機能とが共に欠損することをいい、主として、いわゆるダブルノックアウトをいう。
また、本発明の非ヒト動物としては、機能が欠損している変異型遺伝子が染色体上でホモの状態で存在しているもの(ホモ接合体)であってもよいし、ヘテロの状態で存在しているもの(ヘテロ接合体)であってもよい。ヘテロ接合体は主にホモ接合体の繁殖のために利用できる。
ここで、CD9をコードする遺伝子は、サケ(AF427519)、ニワトリ(AB032767)、マウス(NM_007657)、ラット(XM_216279)、ネコ(D30786)、イヌ(U15792)、ブタ(AF525029)、ウシ(NM_173900)、サル(D10726)およびヒト(NM_001769)などに存在することが知られており、CD81をコードする遺伝子は、ゼブラフィッシュ(NM_131518)、ニワトリ(AB101638)、マウス(NM_133655)、ラット(NM_013087)、サル(AF116600)およびヒト(NM_004356)などに存在することが知られている。なお、括弧内はGenbankのアクセッション番号であり、この番号から、遺伝子の塩基配列情報および該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列情報にアクセスすることができる。例えば、既報のマウスにおける、CD9をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号1(図1)、CD81をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号2(図2)に記載した。また、マウスのCD9タンパク質のアミノ酸配列を配列番号10に、CD81タンパク質のアミノ酸配列を配列番号11に示す。

また、CD9をコードする遺伝子およびCD81をコードする遺伝子は、既報の配列を有するものに限られず、前記以外の動物においても、CD9をコードする遺伝子は、配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAに相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、CD81をコードする遺伝子は、配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAに相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとして存在する。ここで、ストリンジェントな条件の例としては、65℃ 4x SSCにおけるハイブリダイゼーション、次いで65℃で1時間0.1x SSC中での洗浄などが挙げられる。また、前記以外の動物のCD9をコードする遺伝子としては、配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列(配列番号10)において、1若しくは複数、好ましくは1若しくは数個のアミノ酸残基が付加、欠失または置換されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。同様に、前記以外の動物のCD81をコードする遺伝子としては、配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列(配列番号11)において、1若しくは数個のアミノ酸残基が付加、欠失または置換されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。
本発明の非ヒト動物は、CD9をコードする遺伝子およびCD81をコードする遺伝子の機能が欠損するものであるが、この「機能の欠損」は少なくとも体細胞系において起こっていれば良い。すなわち、該非ヒト動物元来のCD9遺伝子およびCD81遺伝子の機能が欠損しており、体細胞において通常の条件において発現しないプロモーター下に新たに導入されたCD9をコードする遺伝子および/またはCD81をコードする遺伝子が存在している場合等であっても本発明から排除されない。生殖細胞に特異的に発現するプロモーター下にCD9やCD81を導入したトランスジェニックマウスであってもよい。
すなわち、後述するような通常の遺伝子ターゲッティングの手法によれば、生殖細胞を含めた全ての細胞で組換えが起き、全ての細胞で機能を有する標的タンパク質が発現しない非ヒト動物が得られるが、CD9遺伝子欠損雌マウスは不妊であるため、通常このマウスを得るためにはヘテロ接合体同士の交配、あるいはヘテロ接合体雌とCD9遺伝子欠損雄マウスの交配によって作成する必要がある。また、CD81遺伝子欠損雌マウスも出産数が少なく、マウスの系統によっては不妊になることが知られている。したがって、現行の技術で、CD9/CD81二重欠損マウスホモ接合体を作成するためには、CD9/CD81二重欠損雄マウスとCD9/CD81二重欠損ヘテロ接合体雌マウスの交配によって得ることが最も効率的であるが、この交配でCD9/CD81二重欠損マウスホモ接合体が生まれる確立は25%であり、実験モデルマウスとして有用なCD9/CD81二重欠損マウスホモ接合体を大量に作成するには不利である。CD9遺伝子欠損雌マウスが不妊である理由は、CD9が卵細胞に発現しており、精子と受精反応を起こす際に必須であることによる。しかし、ひとたび受精が成立すると、その後の発生過程にCD9は必要でなく、CD9を持たないマウスにおいても胎仔を出産することが明らかになっている。この知見をもとに、ホモ接合体雌雄間において交配可能であり、ストレイン化可能なように本発明者らが考案した、生殖細胞に特異的に発現するプロモーター下に少なくともCD9を導入した(CD81も導入していてもよい)CD9/CD81二重欠損マウスも本発明に含まれる。また、同様に、生殖細胞に特異的に発現するプロモーター下にCD81を導入したCD9/CD81二重欠損マウスも本発明から排除されない。
前記のような生殖細胞に特異的に発現するプロモーター下にCD9等が導入されたCD9/CD81二重欠損マウスは、例えば以下のように作製できる。卵細胞特異的に発現する遺伝子であるZP3の遺伝子のプロモーターの下流にCD9構造遺伝子を導入したトランスジェニックマウス(TGPzp3::CD9)を作成し、次に、TGPzp3::CD9とCD9遺伝子欠損マウスを交配させ、CD9遺伝子は持たないがPzp3::CD9遺伝子を持つマウスを作成したところ、得られたマウスは、卵細胞においてはCD9を発現し、子孫を作ることができた。このように、ZP3のような卵細胞特異的に発現する遺伝子のプロモーターの下流にCD9を遺伝子導入する手法を用いることにより、体細胞ではCD9遺伝子の機能が欠損してCD9が発現せず、CD9遺伝子欠損マウスの性質を有し、かつ、ホモ接合体雌雄間での交配が可能となり、CD9遺伝子欠損マウスやCD9/CD81二重欠損マウスを大量に作成する上で大変有利である。
このようにして得られたCD9欠損マウスと通常の方法により得られたCD81欠損マウスとを交配させることにより作成されたCD9/CD81二重欠損マウスは、生殖細胞も体細胞も新たに導入されたCD9(TGPzp3::CD9)を有しているが、体細胞においては通常の状態でCD9を発現しないことから、機能を有するCD9を発現するとはいえず、少なくとも、体細胞系において、CD9欠損が起こっているといえる。したがって、このようなマウスも本発明の範囲に含まれる。
CD81欠損雌マウスの不妊傾向もCD81が受精過程に必要であるからと考えられており、CD9遺伝子欠損マウスと同様の方法で解決が可能である。このような、ZP3遺伝子プロモーターの下流でCD9、又は、CD9とCD81とを発現するCD9/CD81二重欠損マウスは、CD9/CD81二重欠損マウスホモ接合体雌雄間での交配が可能となり、モデルマウスとして大量作成が容易である観点から有利である。
本発明のCD9/CD81二重欠損動物において、ホモ接合体は、骨形成が阻害された表現形質を有する。骨形成が阻害された表現形質を有するとは、体の少なくとも一部の骨組織において、野生型に比べて、少なくともカルセイン注射により測定される骨形成率の低下および組織形態計測による骨形成パラメーター(類骨厚、類骨面、骨芽細胞面)の減少のいずれかが生じていることをいう。
また、本発明のCD9/CD81二重欠損動物において、ホモ接合体は、ヒトのCOPDに類似の表現形質を有する。COPDに類似の表現形質とは、最も特徴的には、加齢した非ヒト動物の肺の胞隔における炎症細胞の浸潤および気腔の拡大が挙げられる。CD9/CD81二重欠損マウス肺を組織学的に解析すると、加齢とともにワイルドタイプマウスに比べ胞隔に多くの炎症細胞が浸潤し、気腔の拡大が認められる。これらは、ヒトのCOPDにおける肺気腫の組織学的特徴と一致する。また、胞隔弾性線維の断裂像と気管支粘液産生細胞の過形成像が観察され、ヒトでのCOPDの病態と矛盾しない。
前記非ヒト動物は、骨粗鬆症モデル動物およびCOPDモデル動物の少なくともいずれかとなることができる。
該非ヒト動物を骨粗鬆症モデル動物として使用する方法は、前記本発明の非ヒト動物の骨形成阻害を測定する工程を含んでなる。骨形成阻害の測定方法としては、実際の骨量の測定等の他、前記カルセイン注射によるアッセイおよび骨形成パラメーター(類骨厚、類骨面、骨芽細胞面)の組織形態計測や、破骨細胞による骨吸収のパラメータの測定等、骨形成阻害に関連する測定方法であれば、特に制限はなく、公知の測定方法中からの中から適宜選択することができる。
また、前記非ヒト動物を骨粗鬆症モデル動物として使用する方法としては、骨粗鬆症治療薬スクリーニング方法が挙げられる。該非ヒト動物に、薬剤の候補化合物である被験物質を投与し、骨形成阻害の程度を測定し、該被験物質が骨形成阻害を抑制する効果を有するかどうか検定することにより、有効な薬剤をスクリーニングできる。
被験物質の投与形態には特に制限はなく、例えば、経口、注射、塗布等により投与することができる。
該COPDモデル動物として使用する方法は、本発明のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物の慢性閉塞性肺疾患類似の表現形質の程度を測定する工程を含んでなる。慢性閉塞性肺疾患類似の表現形質の測定方法としては、肺の組織学的解析により、加齢した非ヒト動物の肺における、胞隔における炎症細胞の浸潤および気腔の拡大を解析する方法が挙げられる。また、組織学的解析により、胞隔弾性線維の断裂像や気管支粘液産生細胞の過形成像を解析する方法も挙げられる。更に、本発明の非ヒト動物に認められ、COPDに関与すると考えられる、気管支肺胞洗浄液中のマクロファージの数増加や、マトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase,MMP)活性(特にMMP−2およびMMP−9)の増強を測定する方法も挙げられる。
また、前記非ヒト動物をCOPDモデル動物として使用する方法としては、慢性閉塞性肺疾患治療薬スクリーニング方法が挙げられる。該非ヒト動物に、薬剤の候補化合物である被験物質を投与し、骨形成阻害の程度を測定し、該被験物質が慢性閉塞性肺疾患を表す表現形質を抑制する効果を有するかどうか検定することにより、有効な薬剤をスクリーニングできる。
CD9/CD81二重欠損非ヒト動物の製法については、特に制限はなく、公知の方法で行うことができるが、マウスに例を挙げると、通常以下のように製造することができる。
CD9遺伝子を単離して、その一部を遺伝マーカーで置換した変異遺伝子配列を含むターゲッティングベクターを作成する。このターゲッティングベクターをマウス胚性幹細胞(ES細胞)に導入し、CD9遺伝子と相同的組換えを起こさせ、遺伝マーカーを指標にして相同的組換えを起こしたES細胞を取得する。相同的組換えを起こしたマウスES細胞を受精卵へマイクロインジェクションし、偽妊娠雌マウスの子宮へ移植し、発生さてキメラマウスの成獣を得る。この雄キメラマウスを野生型雌マウスと交配し、毛色等から生殖細胞系にES細胞由来のCD9欠損遺伝子がとりこまれたキメラマウス個体と野生型とのヘテロ接合体を選択する。CD81についても同様にヘテロ接合体を得る。CD9欠損ヘテロ接合体とCD81欠損ヘテロ接合体とを交配させて、CD9/CD81二重欠損マウスが得られる。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これにより本発明の範囲が限定されるものではない。実施例においてすべてのマウスは、大阪大学医学部附属動物実験施設において、特定病原体フリー(SPF)の条件下、環境的に調節されたクリーンルーム内で飼育した。ケージ、水ビン、木屑そして餌粒を含めたすべての器具および糧食は、滅菌して用いた。
【実施例1】
CD9/CD81遺伝子2重欠損マウス(ダブルノックアウトマウス)の製造
(ステップ1) CD9遺伝子のゲノムDNAクローニングとCD9欠損マウスの作出
マウスCD9に対するゲノムDNAは、マウスCD9のcDNA全長(配列番号1)をプローブとして、Stratagene社から購入した129/svマウスゲノムファージライブラリーから単離した。およそ9x10のファージクローンをプラークハイブリダイゼーションによりスクリーニングし、そして20個の陽性クローンを得た。これらのクローンがCD9をコードしているか否かを決定するために、CD9プローブを用いた第2スクリーニングを別個に行った。この結果、すべてのクローンが単一のファージクローン由来のCD9陽性クローンであることがわかった。得られたクローンをいくつかの制限酵素によるゲノムクローンの消化および部分配列決定により、ゲノムクローンの構造地図を作製した(図3)。得られたCD9クローンは、遺伝子の60kbをカバーし、そしてヒトCD9遺伝子のエクソン1からエクソン6に対応する相同配列を含んでいた。
(ステップ2)CD9ターゲッティングベクターの構築
CD9遺伝子のターゲッティングストラテジーを図3に示す。CD9遺伝子のターゲッティングベクターを作製するために、単離したゲノムクローンの一部を制限酵素により削除し、陽性選択マーカー遺伝子(neo−polyAカセット)(polyAはポリAを意味する)を挿入した。
CD9のターゲッティングベクターの構築は、それぞれエクソン3およびエクソン4のApaIおよびBamHI部位間の成熟CD9についての第2膜貫通領域の一部から第4膜貫通領域までを含む約1.3kbのDNA断片を削除し、そしてneo−polyAカセットをDNA断片の代わりに挿入した。さらに陰性マーカーとしてジフテリア毒素A断片遺伝子(DT)をチミジンキナーゼプロモーター調節下においてベクターの3’末端に挿入した(図3)。5’および3’末端の相同領域は、それぞれ約4kbおよび5kbであった。
(ステップ3)ターゲッティングベクターを導入したES細胞の作製
本発明において使用するES細胞は、C57BL6+CBAマウスから得られたTT2細胞である。TT2細胞は、相沢慎一博士(実験医学別冊バイオマニュアルシリーズ8、ジーンターゲティングーES細胞を用いた変異マウスの作製,羊土社,1995)に記載されているように取得することができる。ES細胞に対してエレクトロポーレーションを行うことにより、10細胞あたり約20−25μgの直鎖化ターゲッティングベクターを導入する。エレクトロポーレーションは例えばBio−Rad Gene Pulser中で、250Vおよび500μFで行うことができる。次いで細胞を、ES培地(20%ウシ胎児血清(シグマ)、マウス白血病阻止因子(LIF エズグロアムラド社)、ピルビン酸ナトリウム(ナカライテスク)、非必須アミノ酸(和光)、およびベータメルカプトエタノール(ナカライテスク)を添加したDulbecco改変Eagle培地(ナカライテスク)中で、ネオマイシン(200μg/ml シグマ)を選択薬剤として用いて選択培養する。薬剤を含む培地は毎日交換する。
ネオマイシン存在下に生育した116個のESクローンをプールし、それらからゲノムDNAを単離した。クローンは相同組み換えが起こったかどうかを確認するため、サザンブロットハイブリダイゼーション法によってスクリーニングした。ApaI−ApaI断片を5’プローブ(図3プローブA)として、そしてXhoI−EcoRI断片を3’プローブ(図3プローブB)として使用し、ターゲッティングされたCD9遺伝子についてサザンブロットハイブリダイゼーション解析を行った。ES細胞から得られたゲノムDNAをHindIIIにより消化し、0.5%アガロースゲル上で電気泳動し、そしてナイロンメンブレン(Amasham)に転写する。ハイブリダイゼーションはハイブリダイゼーションバッファー中(東洋紡)で32Pで標識されたプローブAおよびBを用いて68℃で行う。メンブレンは洗浄後フィルムに感光させ検出した。
サザンハイブリダイゼーションにより、CD9の野生型アリル由来のバンドに相当する6.4kb(プローブA)および6.8kb(プローブB)のバンド、および変異アレル由来のバンドに相当する7.5kb(プローブA)および5.7kb(プローブB)の予想されるDNAバンドを検出した(図4)。このことはターゲッティングされるESクローン中の野生型アレルのうち1つが、変異遺伝子により正しく置換されていることを示していた。CD9遺伝子のターゲッティング効率は、6.0%であった。このうちターゲッティングされる遺伝子の生殖系列への導入は、2クローン中2クローンで確認された。
(ステップ4)CD9遺伝子欠損マウスの作出
CD9遺伝子をターゲッティングしたES細胞を、受精胚中に移植した。移植する方法は当業者が適宜改変することができるが、本実施例においては、オリジナルの報告(Nagy et al.,1993,Proc.Acad.Sci.USA 90,8424−8428)から改変した、8細胞期胚に対するインジェクション法により、キメラ胚を作製した。すなわち、プラスチックディッシュ上の穴の中で、コンパクションを起こしていない8細胞期の透明帯と割球の間にES細胞を入れ、そしてBBW培地またはM16培地中で一晩培養し、その後十分に形成した胞胚を偽妊娠メスマウスの子宮内に移植した(Hogan et al.Manipurating the mouse embryo,coldspring harbor laboratory press,1994)。インジェクション法において8細胞期胚として使用することができる胚の由来する系統は、純系どうしの交配に由来するものでも純系間での交配に由来するものでもよい。本発明においては、ICRのF1由来の胚を使用することが望ましい。
ES細胞導入胚由来のオスのキメラマウスが成熟した後、このマウスを純系マウス系統のメスマウスと交配させ、そして次世代産仔の被毛色により、ES細胞がキメラマウスの生殖系列へ導入されたことを確認するできる。本実施例においては、前述した様に野鼠色(agouti)系統(TT2)由来のES細胞を使用したため、作出したオスのキメラマウスを、黒色であるC57BL6メスマウスと交配させ、そして次世代産仔の被毛色野鼠色(agouti)+黒色(black)であることにより、ES細胞がキメラマウスの生殖系列へ導入されたことを確認した。得られたCD9遺伝子欠損マウスヘテロ接合体同士を交配させることにより、目的とするCD9の遺伝子欠損ホモ接合体マウスを得ることができた。
(ステップ5)遺伝子型解析
本実施例で作出されたCD9遺伝子欠損マウスの仔において、ヘテロ接合体は健康で繁殖能力も有していた。ヘテロ接合体同士の交配で得られたマウスにおいて、相同組み換えされたアレルを持つかどうかを尻尾から単離されたDNAを使用したPCRにてスクリーニングを行った。PCR反応はプライマー以下の配列番号3から5のものを用いた。

配列番号3と配列番号4は欠損したアリル、配列番号4と配列番号5は野生型アリルを検出するために用いた。PCR反応バッファーは、50mMのTris−HCl(pH8.0)、0.1mMのEDTA、1mMのDTT、0.001%のTween20、0.001%のNP−40、50%グリセロール、25mM MgSO、2mMdNTPそして1U/μlのポリメラーゼ(KODPlus 東洋紡)にて行った。PCRサイクルの条件は、94℃で15秒、62℃で30秒,68℃で1分を1サイクルとして30サイクルの反応を行った。図5に示すようにヘテロ接合体(H)では組み換えを起こしたアレルと野生型のアレル両方を,ホモ接合体(K)では組み換えを起こしたアレルのみ持つことが確認された。またホモ接合体はヘテロ接合体同士の交配でメンデル比に従って産まれることを見出した。
(ステップ6)CD81ターゲッティングベクターの構築
「Miyazaki,T.et al.(1997)The EMBO Journal Vol.16,pp4217−4225」に記載されている方法に従って作製したが、簡単に説明すると、CD81遺伝子のターゲッティングベクターを作製するために、単離したゲノムクローンの一部のDNA断片を制限酵素により削除し、陽性選択マーカー遺伝子(neo−polyAカセット)を挿入した。
具体的には、エクソン3からエクソン7のすべてとエクソン8の一部を含む領域、即ち成熟CD81についての第2膜貫通領域の一部からC末端までを含む約3kbのDNA断片を制限酵素BamHIで削除し、neo−polyAカセットをDNA断片の代わりに挿入した。(CD81のイントロン、エクソン情報としては、アクセッション番号AJ251835で見ることができる)
ネオマイシン存在下に生育したESクローンをプールし、それらからゲノムDNAを単離した。クローンは相同組み換えが起こったかどうかを確認するため、サザンブロットハイブリダイゼーション法によってスクリーニングした。
(ステップ7)CD81遺伝子欠損マウスの作出と遺伝子型解析
CD81遺伝子欠損マウスをCD9と同様の方法により作出した。作出されたCD81遺伝子欠損マウスの仔において、ヘテロ接合体は健康で繁殖能力も有していた。ヘテロ接合体同士の交配で得られたマウスにおいて、相同組み換えされたアレルを持つかどうかを尻尾から単離されたDNAを使用したPCRにてスクリーニングを行った。PCR反応はプライマーは以下の配列番号6〜9のものを用いた。

配列番号6と配列番号7は野生型アリル、配列番号8と配列番号9は欠損したアリルを検出するために使用した。
なお、CD81のノックアウトマウスの作成は、非特許文献1で挙げた「Maecker HT,Levy S. J Exp Med.1997 Apr 21;185(8):1505−10. Normal lymphocyte development but delayed humoral immune response in CD81−null mice.」や、「Tsitsikov EN,Gutierrez−Ramos JC,Geha RS. Proc Natl Acad Sci U S A.1997 Sep 30;94(20):10844−9. Impaired CD19 expression and signaling,enhanced antibody response to type II T independent antigen and reduction of B−1 cells in CD81−deficient mice.」にも記載されている。
(ステップ8)CD9/CD81遺伝子2重欠損マウスの作出
CD9遺伝子欠損マウス(ヘテロ接合体)とCD81遺伝子欠損マウス(ヘテロ接合体)を交配させることにより、CD9/CD81遺伝子2重欠損マウスヘテロ接合体を作出した。更に、CD9/CD81遺伝子2重欠損マウスヘテロ接合体雌雄を交配させることにより、CD9/CD81遺伝子2重欠損マウスホモ接合体を作出した。
【実施例2】
30週令マウスの骨X線撮影を行なった。X線撮影は、マウスを麻酔した後、micro−FX1000(Fuji Film,Inc.)を使用して行った。全身骨格のX線像を図6、大腿骨のX線像を図7、脊椎のX線像を図8に示す。CD9/CD81二重欠損(DKO)マウスでは野生型(wild type)マウスに比べ骨格が小さく、脊椎の後弯が認められた。また、骨のX線透過性が亢進しており、骨非薄化が観察された。なお、本実施例および以下の実施例において、CD9/CD81二重欠損マウスは、ホモ接合体を用いた。
【実施例3】
8週令マウスにて脛骨近位部の組織学的検討を行った。
8週令の野生型とCD9/CD81二重欠損マウスの脛骨を90%エタノールで固定し、非脱灰標本をグリコメタクリレートに包埋した。脛骨近位部3mm幅のセクションをトルイジンブルー染色またはTRAP染色した。
トルイジンブルーによる染色結果を図9上段に、TRAPによる染色結果を図9下段に示す。図の左側が野生型、右側がCD9/CD81二重欠損マウスであり、図9上段において、Bar=250μ、図9下段においてBar=100μmである。
図9上段において、矢頭は皮質骨を示し、CD9/CD81二重欠損マウスでは、野生型に比べ皮質骨が菲薄化していた。また、TRAP染色では、濃く(実際の写真では赤く)染まっているのが破骨細胞である。
【実施例4】
8週令の野生型マウス、CD9/CD81二重欠損マウス、CD9欠損マウスおよびCD81欠損マウスについて、大腿骨幹部をpQCT(peripheral quantitative computed tomography)解析により解析した。pQCT解析は、マウス大腿骨を10%ホルマリンで固定した後、XCT research SA(Stratec Medizintechnik)を用いて測定を行った。骨幹部輪郭をpQCTソフトウェアアルゴリズムによる自動解析にて決定した。解析結果を図10A〜Cに表す。
CD9/CD81二重欠損(WKO)マウスでは野生型マウス、CD9欠損(KO)マウスおよびCD81欠損(KO)マウスに比べ、骨量の低下、骨強度の低下を認めた。
以上実施例2および4の結果から、CD9/CD81二重欠損マウスでは骨密度が底下していることがわかった。
【実施例5】
8週令マウスの脛骨近位部の形態計測を行なった。
8週令の野生型(Wild)、CD9欠損(CD9KO)マウス、CD81欠損(CD81KO)マウス、CD9/CD81ダブルヘテロ(CD9/CD81DHO)マウスおよびCD9/CD81二重欠損(CD9/CD81DKO)マウス、各々3サンプルの脛骨近位部の組織形態計測をOsteoplan II(Zeiss)セミオートメーションシステムにより行なった。
測定結果を図11A〜Hに表す。
単位骨量、骨梁幅、骨梁数については、CD9/CD81二重欠損マウスでは、減少は見られず、海綿骨の減少は認めなかった(図9、図11A〜C)。
しかし、類骨厚、類骨面、骨芽細胞面については、CD9/CD81二重欠損マウスでは野生型マウス、CD9欠損マウスおよびCD81欠損マウスに比べ、有意な減少が認められ、骨芽細胞のマトリックス形成の低下が示唆された(図11D〜F)。
また、破骨細胞数の増加を認めたが、破骨細胞面の有意な減少はなく、破骨細胞の機能低下の可能性が示唆された(図9下段、図11GおよびH)。
【実施例6】
次に骨形成と石灰化における骨芽細胞の機能を、8週令マウスにカルセインを腹腔内注入して検討した。
カルセインアッセイは、カルセインが骨形成の過程で骨に取り込まれることを利用して、骨芽細胞による骨形成を測定するときに慣用される確立した手法である。
マウス腹腔内にカルセインを4日間隔で2回注射し、大腿骨の非脱灰標本を作成し石灰化先端部を蛍光顕微鏡にて計測した。蛍光顕微鏡による写真と、Osteoplan II(Zeiss)セミオートメーションシステムにより算出した骨形成率を図12A及びBに表す。
CD9/CD81二重欠損(DKO)マウスでは、野生型(wild)マウスに比べ2本のバンド間の距離が縮小しており、骨形成率の低下が認められた。CD9/CD81二重欠損マウスの骨形成率は、野生型の約60%に低下していた。
CD9/CD81二重欠損マウスは膜タンパクの欠損マウスであり、老化に見られる低回転型の骨粗鬆症と似かよった病態を示す。このことから低回転型骨粗鬆症の動物モデルとなることが確認された。
【実施例7】
生殖細胞にのみ発現するCD9遺伝子を有するCD9/CD81二重欠損マウスの製造
卵細胞特異的に発現する遺伝子であるZP3を分離し、この遺伝子のプロモーターを含む約6kbの断片の下流にEcoRV部位を人工的に挿入し、このEcoRV部位に平滑末端化したCD9構造遺伝子を挿入したベクターを作成し、この遺伝子を持つトランスジェニックマウス(TGPzp3::CD9)を作成した。
次に、TGPzp3::CD9とCD9遺伝子欠損マウスを交配させ、CD9遺伝子は持たないがPzp3::CD9遺伝子を持つマウスを作成したところ、得られたマウスは、卵細胞においてはCD9を発現し、ホモ接合体雌雄間での交配が可能で子孫を作ることができた。
このようにして得られたPzp3::CD9遺伝子を有するCD9欠損マウスと通常の方法により得られたCD81欠損マウスとを交配させ、生殖細胞も体細胞も新たに導入されたCD9(TGPzp3::CD9)を有しているが、体細胞においては通常の状態でCD9を発現しないCD9/CD81二重欠損マウスを作成した。
【実施例8】
マウス肺の形態学的解析
マウス肺は25cm水柱圧下で10%ホルマリン固定を行い、パラフィン包埋した後、5μm幅のセクションをヘマトキシリン・エオジン染色した。肺胞腔の大きさはRay(J Clin Invest 10:2501−2511,1997)らの方法に従い、10視野以上の肺組織像をNIH画像プログラムで解析し、Chord lengthの平均値を算出した。1視野につき200回以上の測定を行い、また野生型(Wild)とCD9/CD81二重欠損マウス(DKO)それぞれ3匹以上解析した。弾性線維と杯細胞の観察には、それぞれOrceinによる染色とperiodic acid−Schiff(PAS)染色を行った。
ヘマトキシリン・エオジン染色の結果から、CD9/CD81二重欠損マウス(DKO)の肺を野生型(Wild)と比較すると、3週令(3W)では大きな差は認められないが、10週令(10W)マウスでは肺胞腔の拡大(肺胞構造の破壊)と単核球主体の炎症細胞浸潤を認め、気腫性変化を呈した(図13)。これらの変化は、同令のCD9ノックアウトマウス、CD81ノックマウスではほとんど認めないか、あっても軽度であった(データ掲載せず)。
画像プログラムを用いて組織標本からChord length(肺胞腔径)を算出したところ、加齢とともに肺胞腔の拡大が亢進することが確認された(図14)。
さらに、Orcein染色により弾性線維の断裂像を認め、PAS染色により粘液産生能を持つ杯細胞(赤色に染色されている)の過形成像が観察され、これらはCOPDで見られる病理組織に類似していた(図15)。
これら結果から、CD9/CD81二重欠損マウス(DKO)肺はヒトCOPD類似の病態を示すことが組織学的に確認された。
【実施例9】
MMP活性の測定
無作為に選んだ10週令のCD9/CD81二重欠損マウスと野生型マウスから気管支肺胞洗浄液を回収し、ゲラチンザイモグラムにてMMP活性を検討した。
気管支肺胞洗浄
マウス肺を1mlの0.1%BSAを含むPBSで3回洗浄し回収した。洗浄液中の細胞をサイトスピンスライド上に遠沈し、Wright染色した後、検鏡にて総細胞数、マクロファージ、リンパ球の数を算出した。野生型とCD9/CD81二重欠損マウスそれぞれ3匹以上解析した。(図17)
ゲラチンザイモグラム
10週令の野生型およびCD9/CD81二重欠損マウスから無作為に選んだそれぞれ4匹から気管支肺胞洗浄液上清を回収しCentricon 10にて10倍濃縮した。濃縮液を10%ゲラチンザイモグラムゲルに注入し非還元条件下に電気泳動を行った。クマシーブルーで染色後、脱染しMMPのゲラチン溶解活性を検出した。
この結果、CD9/CD81二重欠損マウス(DKO)では、野生型(Wild)に比べMMP−2とMMP−9活性が亢進していた(図16)。また、CD9/CD81二重欠損マウスでは、野生型に比べ気管支肺胞洗浄により回収されるBALF中の総細胞数(TCC、Total cell count)が増加しており、その大部分はマクロファージ(Macrophage)であった(図17)これらのことから、CD9/CD81二重欠損マウス肺では、MMP活性が亢進し、マクロファージが増加していることが分かった。この結果は、MMP−2活性、MMP−9活性、または、マクロファージ増加と、COPDとの関連を示唆するものであり、本発明のCD9/CD81二重欠損マウスにおいて、肺のMMP−2活性、MMP−9活性またはマクロファージ増加が、COPDとの関連においてひとつの指標となり得ることを示している。
以上の実施例から、CD9/CD81二重欠損マウスは肺気腫と共に粘液産生細胞の過形成を認め、ヒトでのCOPDの病理像に合致する肺病変を有する。さらにCOPD患者に高率に合併する骨粗鬆症をも示すことから、これまでに報告された遺伝子操作マウスよりもCOPDの病態をより忠実に反映する疾患モデルと考えられ、骨粗鬆症モデル動物としては勿論のこと、COPDモデル動物としても、治療薬のスクリーニング等に有効である。
【発明の効果】
本発明によると、骨粗鬆症およびCOPDの病態をよく表しモデル動物として利用できるCD9/CD81二重欠損非ヒト動物、並びに、該非ヒト動物を骨粗鬆症モデル動物およびCOPDモデル動物の少なくともいずれかとして使用する方法を提供することができる。
【配列表】












【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】









【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも体細胞において、CD9をコードする遺伝子およびCD81をコードする遺伝子の機能が欠損することを特徴とするCD9/CD81二重欠損非ヒト動物。
【請求項2】
非ヒト動物が齧歯類動物である請求の範囲第1項に記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物。
【請求項3】
齧歯類動物がマウスである請求の範囲第2項に記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物。
【請求項4】
CD9をコードする遺伝子が下記(a)および(b)のいずれかであり、CD81をコードする遺伝子が下記(c)および(d)のいずれかである請求の範囲第1項から第3項のいずれかに記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物。
(a)配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAに相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
(c)配列番号2に記載の塩基配列からなるDNA
(d)配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAに相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
【請求項5】
生殖細胞においても、CD9をコードする遺伝子およびCD81をコードする遺伝子の機能が欠損する請求の範囲第1項から第4項のいずれかに記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物。
【請求項6】
生殖細胞特異的に発現する遺伝子のプロモーターの下流にCD9をコードする遺伝子およびCD81をコードする遺伝子の少なくともいずれかが導入され、生殖細胞においてCD9をコードする遺伝子およびCD81をコードする遺伝子の少なくともいずれかの機能が欠損しない請求の範囲第1項から第4項のいずれかに記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物。
【請求項7】
骨形成が阻害された表現形質および慢性閉塞性肺疾患類似の表現形質の少なくともいずれかを有する請求の範囲第1項から第6項のいずれかに記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物。
【請求項8】
骨粗鬆症モデル動物および慢性閉塞性肺疾患モデル動物の少なくともいずれかである請求の範囲第1項から第7項のいずれかに記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物。
【請求項9】
請求の範囲第1項から第7項のいずれかに記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物の骨形成阻害の程度を測定する工程を含んでなることを特徴とする、該CD9/CD81二重欠損非ヒト動物を骨粗鬆症モデル動物として使用する方法。
【請求項10】
請求の範囲第1項から第7項のいずれかに記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物に被験物質に投与し、該被験物質が骨形成阻害を抑制する効果を有するかどうか検定する骨粗鬆症治療薬スクリーニング方法である請求の範囲第9項に記載の方法。
【請求項11】
請求の範囲第1項から第7項のいずれかに記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物の慢性閉塞性肺疾患類似の表現形質の程度を測定する工程を含んでなることを特徴とする、該CD9/CD81二重欠損非ヒト動物を慢性閉塞性肺疾患モデル動物として使用する方法。
【請求項12】
請求の範囲第1項から第7項のいずれかに記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物に被験物質に投与し、該被験物質が慢性閉塞性肺疾患を表す表現形質を抑制する効果を有するかどうか検定する慢性閉塞性肺疾患治療薬スクリーニング方法である請求の範囲第11項に記載の方法。
【請求項13】
請求の範囲第1項に記載のCD9/CD81二重欠損非ヒト動物の、骨粗鬆症モデル動物および慢性閉塞性肺疾患モデル動物の少なくともいずれかを製造するための使用。

【国際公開番号】WO2004/108924
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506852(P2005−506852)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008261
【国際出願日】平成16年6月7日(2004.6.7)
【出願人】(801000061)財団法人大阪産業振興機構 (168)
【Fターム(参考)】