説明

CDC45Lペプチドおよびそれを含むワクチン

本発明は、HLA抗原に結合し、かつ細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を誘導する、SEQ ID NO:18由来の単離されたペプチドまたは断片を提供する。本ペプチドは、1個、2個、または数個のアミノ酸配列の置換、欠失、または付加を有する上記アミノ酸配列の1つを含み得る。本発明はまた、これらのペプチドを含む薬学的組成物を提供する。本発明のペプチドは、がんを治療するために用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願は、2009年5月26日に出願された米国仮特許出願第61/217,133号の恩典を主張し、その内容の全体は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明は、生物科学の分野、より具体的にはがん治療の分野に関連する。特に本発明は、がんワクチンとして極めて有効な新規ペプチド、ならびに腫瘍を治療および予防するための薬物に関連する。
【背景技術】
【0003】
肺癌は最もよく見られるがんであり、1年当たりのがんの新規症例1,090万例のうち135万例を占める。肺癌はがん関連疾患による死亡原因の第1位でもあり、世界的に見てがん関連死670万例のうち118万例を占める(非特許文献1)。化学療法および分子標的療法などの全身療法における最近の改善にもかかわらず、進行期肺癌患者の予後は依然として非常に悪いままである(非特許文献2)。肺癌は術後患者の50%で再発し、25%未満の患者しか全身化学療法に反応しない。したがって、より効果的な治療様式が緊急に必要とされており、免疫療法は将来の肺癌療法の1つの有望なアプローチを示す(非特許文献3〜5)。
【0004】
治療用がんワクチンの成功は、最終的には、正常組織と比べて腫瘍において過剰発現する免疫原性抗原の同定に依存し得る。腫瘍関連抗原(TAA)による細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の効果的な誘導は、有望な結果を示した(非特許文献6〜7)。最近、ゲノム情報と併せたcDNAマイクロアレイ技術の開発により、悪性細胞の遺伝子発現の包括的プロファイルが提供され、これは次いで正常細胞のものと比較され得る(非特許文献8)。cDNAマイクロアレイ技術による遺伝子発現プロファイリングは、がんの診断および免疫療法に有用な新規TAAを同定するための有効なアプローチを構成する(非特許文献9〜12)。
【0005】
肺癌で発現するいくつかの候補TAAが公表されたが(非特許文献13〜14)、より効果的なT細胞媒介性がん免疫療法を開発するためには、特定のがんで過剰発現する複数のTAAを同定することが重要である(非特許文献15)。
【0006】
CDC45L(細胞分裂周期45様(cell division cycle 45−like))は、DNA複製の開始および伸長の両方において機能して、染色体DNAが細胞周期当たり1回しか複製されないことを保証する必須の細胞タンパク質である(非特許文献16〜19)。CDC45Lはすべての真核生物の中で高度に保存されており、この遺伝子の標的破壊はマウスにおいて胚性致死を引き起こす(非特許文献20)。成人では、大多数の細胞が分化し、細胞分裂を終えており、ごく一部の細胞のみがいくつかの自己再生組織で増殖しているに過ぎない(非特許文献21)。そのため、CDC45Lは、長期静止している、最終分化した、および老化したヒト細胞には存在しないが、増殖性のがん細胞の細胞周期を通して存在している(非特許文献18)。したがって、CDC45L発現は増殖細胞集団と密接に関連しており、よってがん細胞生物学における新規増殖マーカーの有望な候補であると見なされている(非特許文献18、22)。しかしながら、がん免疫療法の標的としてのCDC45Lの有用性は、まだ十分に研究されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Parkin DM et al. CA Cancer J Clin 2005;55:74-108
【非特許文献2】Bunn PA, Jr. et al. Conclusion. Oncologist 2008;13 Suppl 1:37-46
【非特許文献3】Ruttinger D et al. Surg Oncol Clin N Am 2007;16:901-18
【非特許文献4】Hirschowitz EA et al. Proc Am Thorac Soc 2009;6:224-32
【非特許文献5】Romero P et al. Clin Lung Cancer 2008;9 Suppl 1:S28-36
【非特許文献6】Stevanovic S et al. Nat Rev Cancer 2002;2:514-20
【非特許文献7】Brichard VG et al. Vaccine 2007;25 Suppl 2:B61-71
【非特許文献8】Hasegawa S et al. Cancer Res 2002;62:7012-7
【非特許文献9】Mathiassen S et al. Eur J Immunol 2001;31:1239-46
【非特許文献10】Schmidt SM et al. Cancer Res 2004;64:1164-70
【非特許文献11】Yamabuki T et al. Int J Oncol 2006;28:1375-84
【非特許文献12】Imai K et al. Clin Cancer Res 2008;14:6487-95
【非特許文献13】Harao M et al. Int J Cancer 2008;123:2616-25
【非特許文献14】Yokomine K et al. Int J Cancer 2009;126:2153-63
【非特許文献15】Fukushima S et al. J Immunother 2009;32:219-31
【非特許文献16】Aparicio T et al. Nucleic Acids Res 2009;37:2087-95
【非特許文献17】Saha P et al. J Biol Chem 1998;273:18205-9
【非特許文献18】Pollok S et al. FEBS J 2007;274:3669-84
【非特許文献19】Bauerschmidt C et al. Genes Cells 2007;12:745-58
【非特許文献20】Pollok S et al. Biochem Biophys Res Commun 2007;362:910-5
【非特許文献21】Hall PA et al. Development 1989;106:619-33
【非特許文献22】Li JN et al. BMC Cancer 2008;8:395
【発明の概要】
【0008】
本発明は、免疫療法の標的として役立ち得るペプチドの発見に少なくとも一部基づいている。TAAは場合によっては免疫系により「自己」として認識され、したがって免疫原性を有さない場合が多いため、適切な標的の発見は極めて重要である。上記したように、CDC45L(典型的なアミノ酸配列および遺伝子配列はそれぞれSEQ ID NO:18およびSEQ ID NO:17に示され、配列はまたGenBankアクセッション番号NM_003504からも入手可能である)は、がんにおいて上方制御されるとして同定され、がんの例には、精巣腫瘍、膵癌、膀胱癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、食道癌、前立腺癌、慢性骨髄性白血病(CML)、軟部組織腫瘍、胃癌、肝胆道癌、および結腸直腸癌が含まれるが、これらに限定されない。したがって、CDC45Lはがん/腫瘍免疫療法の標的の候補である。
【0009】
本発明はさらに、CDC45Lに特異的なCTLを誘導する能力を有する、CDC45Lの遺伝子産物の特異的エピトープペプチドの同定に関する。以下に詳述するように、健常ドナーから得た末梢血単核細胞(PBMC)を、CDC45L由来のHLA−A2402またはHLA−A0201結合候補ペプチドを用いて刺激した。その後、各候補ペプチドをパルスしたHLA−A24またはHLA−A2陽性標的細胞に対する特異的細胞傷害性を有するCTL株が樹立された。これらの結果から、これらのペプチドが、CDC45Lを発現する細胞に対して強力かつ特異的な免疫応答を誘導し得るHLA−A24またはHLA−A2拘束性エピトープペプチドであることが実証される。さらに、結果から、CDC45Lは免疫原性が強いこと、およびそのエピトープはがん/腫瘍免疫療法の有効な標的であることが示される。
【0010】
したがって、本発明の目的は、HLA抗原に結合する単離されたペプチド、特にCDC45L(SEQ ID NO:18)に由来するもの、またはその免疫学的活性断片を提供することである。これらのペプチドは、CTL誘導能を有すると予測され、したがってCTLをエクスビボで誘導するために、または精巣腫瘍、膵癌、膀胱癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、食道癌、前立腺癌、慢性骨髄性白血病(CML)、軟部組織腫瘍、胃癌、肝胆道癌、結腸直腸癌等のがんに対する免疫応答を誘導する目的で対象に投与するために、用いることができる。好ましいペプチドはノナペプチドまたはデカペプチドであり、より好ましくはSEQ ID NO:1〜16の中より選択されるアミノ酸配列を有するものである。これらのうち、SEQ ID NO:2、3、4、7、および12の中より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドは強力なCTL誘導能を示したことから、最も好ましい。
【0011】
本発明のペプチドは、結果として生じた改変ペプチドが元のCTL誘導能を保持する限り、1個、2個、またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、または付加されているペプチドも包含する。
【0012】
本発明はまた、本発明のペプチドのいずれか1つをコードする単離されたポリヌクレオチドを提供する。これらのポリヌクレオチドは、本発明のペプチドとほぼ同様に、CTL誘導能を有するAPCを誘導するために用いることができ、かつがんに対する免疫応答を誘導するために対象に投与することができる。
【0013】
対象に投与した場合、本発明のペプチドは、各ペプチドを標的とするCTLを誘導するように、好ましくはAPCの表面上に提示される。したがって、本発明のさらなる目的は、CTLを誘導する組成物または剤であって、本発明の1種または複数種のペプチドまたはポリヌクレオチドを含むそのような組成物または物質を提供することである。本発明はさらに、精巣腫瘍、膵癌、膀胱癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、食道癌、前立腺癌、慢性骨髄性白血病(CML)、軟部組織腫瘍、胃癌、肝胆道癌、および結腸直腸癌を含むがこれらに限定されないがんの治療および/または予防、ならびに術後のその再発の予防のために製剤化された、本発明の1種または複数種のペプチドまたはポリヌクレオチドを含む組成物または剤を意図する。したがって本発明はまた、がんの治療および/もしくは予防、ならびに/または術後のその再発の予防のための薬学的な組成物または剤であって、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドの1種または複数種を含むそのような薬学的な組成物または剤を提供する。本発明の薬学的な組成物または剤は、前述のペプチドもしくはポリヌクレオチドに加えて、および/または前述のペプチドもしくはポリヌクレオチドの代わりに、本発明のペプチドの1種または複数種を提示するAPCまたはエキソソームを有効成分として任意に含み得る。
【0014】
本発明のペプチドおよびポリヌクレオチドは、例えば、対象由来のAPCを本発明のペプチドと接触させることにより、またはそのようなペプチドをコードするポリヌクレオチドをAPCに導入することにより、HLA抗原と本発明のペプチドとの複合体をその表面上に提示するAPCを誘導することができる。このようなAPCは標的ペプチドに対する高いCTL誘導能を有し、がん免疫療法に使用される。したがって本発明は、CTL誘導能を有するAPCを誘導するための方法、およびこのような方法によって得られるAPCを包含する。
【0015】
本発明はまた、CD8陽性細胞を、本発明のペプチドをその表面上に提示するAPCまたはエキソソームと共培養する段階を含む、CTLを誘導するための方法を提供する。あるいは本方法は、本発明のペプチドに結合することができるT細胞受容体(TCR)サブユニットポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子を導入する段階を含み得る。このような方法によって得られるCTLは、がんの治療および/または予防に使用することができ、がんの例には、精巣腫瘍、膵癌、膀胱癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、食道癌、前立腺癌、慢性骨髄性白血病(CML)、軟部組織腫瘍、胃癌、肝胆道癌、および結腸直腸癌が含まれるが、これらに限定されない。したがって本発明は、本発明の方法によって得られるCTLを包含する。
【0016】
本発明のさらに別の目的は、がんに対する免疫応答を、それを必要とする対象において誘導するための方法であって、本発明のCDC45Lポリペプチドもしくはその免疫学的活性断片、本発明のCDC45Lポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、またはそのようなCDC45Lポリペプチドを提示するエキソソームもしくはAPCを含む組成物または剤を投与する段階を含むそのような方法を提供することである。
【0017】
具体的には、本発明は以下の[1]から[22]を提供する:
[1] HLA抗原に結合し、かつ細胞傷害性Tリンパ球(CTL)誘導能を有する、単離されたペプチドであって、SEQ ID NO:18のアミノ酸配列からなるポリペプチドに由来するか、またはその免疫学的活性断片である単離されたペプチド、
[2] HLA抗原がHLA−A24またはHLA−A2である、[1]の単離されたペプチド、
[3] 以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、[1]または[2]の単離されたペプチド:
(a) SEQ ID NO:4、2、3、7、および12;ならびに
(b) 1個、2個、または数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失、および/または付加されている、SEQ ID NO:4、2、3、7、および12、
[4] 以下の特徴の一方または両方を有する、[1]〜[3]のいずれか1つの単離されたペプチド:
(a) N末端から2番目のアミノ酸が、フェニルアラニン、チロシン、メチオニン、およびトリプトファンからなる群より選択されるアミノ酸であるか、または該アミノ酸であるように改変されている;ならびに
(b) C末端のアミノ酸が、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、およびメチオニンからなる群より選択されるアミノ酸であるか、または該アミノ酸であるように改変されている、
[5] 以下の特徴の一方または両方を有する、[1]〜[3]のいずれか1つの単離されたペプチド:
(a) N末端から2番目のアミノ酸が、ロイシンおよびメチオニンからなる群より選択されるアミノ酸であるか、または該アミノ酸であるように改変されている;ならびに
(b) C末端のアミノ酸が、バリンおよびロイシンからなる群より選択されるアミノ酸であるか、または該アミノ酸であるように改変されている、
[6] ノナペプチドまたはデカペプチドである、[1]〜[5]のいずれか1つの単離されたペプチド、
[7] [1]〜[6]のいずれか1つのペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチド、
[8] CTLを誘導するための組成物であって、[1]〜[6]のいずれか1つに記載の1種もしくは複数種のペプチド、または[7]に記載の1種もしくは複数種のポリヌクレオチドを含む組成物、
[9] がんの治療および/もしくは予防のための、ならびに/または術後のその再発の予防のための薬学的組成物であって、[1]〜[6]のいずれか1つに記載の1種もしくは複数種のペプチド、または[7]に記載の1種もしくは複数種のポリヌクレオチドを含む薬学的組成物、
[10] HLA抗原がHLA−A24またはHLA−A2である対象への投与のために製剤化される、[9]の薬学的組成物、
[11] がんを治療するために製剤化される、[9]または[10]の薬学的組成物、
[12] CTL誘導能を有する抗原提示細胞(APC)を誘導するための方法であって、以下からなる群より選択される段階を含む方法:
(a) APCを、[1]〜[6]のいずれか1つのペプチドとインビトロ、エクスビボ、またはインビボで接触させる段階、および
(b) [1]〜[6]のいずれか1つのペプチドをコードするポリヌクレオチドを、APCに導入する段階、
[13] CTLを誘導するための方法であって、以下からなる群より選択される段階を含む方法:
(a) CD8陽性T細胞を、HLA抗原と[1]〜[6]のいずれか1つのペプチドとの複合体をその表面上に提示するAPCと共培養する段階;
(b) CD8陽性T細胞を、HLA抗原と[1]〜[6]のいずれか1つのペプチドとの複合体をその表面上に提示するエキソソームと共培養する段階;および
(c) [1]〜[6]のいずれか1つのペプチドに結合することができるT細胞受容体(TCR)サブユニットポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子を、T細胞に導入する段階、
[14] HLA抗原と[1]〜[6]のいずれか1つのペプチドとの複合体をその表面上に提示する、単離されたAPC、
[15] [12]の方法によって誘導される、[14]のAPC、
[16] [1]〜[6]のいずれかのペプチドを標的とする、単離されたCTL、
[17] [13]の方法によって誘導される、[16]のCTL、
[18] 対象においてがんに対する免疫応答を誘導する方法であって、[1]〜[6]のいずれかの1種もしくは複数種のペプチド、1種もしくは複数種のその免疫学的活性断片、または該ペプチドもしくは該断片をコードする1種もしくは複数種のポリヌクレオチドを含む組成物を該対象に投与する段階を含む方法、
[19] [1]〜[6]のいずれかのペプチドに対する抗体またはその断片、
[20] [1]〜[6]のいずれかのペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むベクター、
[21] [20]に記載の発現ベクターを用いて形質転換またはトランスフェクトされた宿主細胞、
[22] [1]〜[6]のいずれかのペプチド、[7]のヌクレオチド、または[19]の抗体を含む、診断キット。
【0018】
本発明の適用性は、がんのような、CDC45L過剰発現に関連するか、またはCDC45L過剰発現から生じるいくつかの疾患のいずれにも及び、がんの例には、精巣腫瘍、膵癌、膀胱癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、食道癌、前立腺癌、慢性骨髄性白血病(CML)、軟部組織腫瘍、胃癌、肝胆道癌、および結腸直腸癌が含まれるが、これらに限定されない。
【0019】
上記に加え、本発明のその他の目的および特徴は、添付の図面および実施例と併せて以下の詳細な説明を読むことによって、より十分に明らかになるであろう。しかしながら、前述の本発明の概要および以下の詳細な説明はいずれも例示的な態様であり、本発明または本発明のその他の代替的な態様を限定するものではないことが理解されるべきである。特に、本発明はいくつかの特定の態様に関して本明細書において説明されるが、その説明は本発明を例証するものであり、本発明を限定するものとして構成されていないことが理解されよう。添付の特許請求の範囲によって記載される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、当業者は様々な変更および適用に思い至ることができる。同様に、本発明のその他の目的、特徴、利益、および利点は、本概要および以下に記載する特定の態様から明らかになると考えられ、当業者には容易に明白になるであろう。そのような目的、特徴、利益、および利点は、添付の実施例、データ、図面、およびそれらから引き出されるすべての妥当な推論と併せて上記から、単独で、または本明細書に組み入れられる参考文献を考慮して、明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明の様々な局面および適用は、以下の図面の簡単な説明ならびに本発明の詳細な説明およびその好ましい態様を考慮することで、当業者に明白となるであろう。
【図1−1】図1は、ヒト正常組織、がん細胞株、およびがん組織において発現されるCDC45L mRNAの解析の結果を示す一連の写真A〜Fから構成される。A部、B部:様々な正常組織において発現されるCDC45L mRNAのRT−PCRおよびノーザンブロット解析。C部:様々ながん細胞株において発現されるCDC45L mRNAのRT−PCR解析。D部:肺癌組織および隣接する正常肺組織において発現されるCDC45L mRNAのRT−PCR解析。
【図1−2】図1は、ヒト正常組織、がん細胞株、およびがん組織において発現されるCDC45L mRNAの解析の結果を示す一連の写真A〜Fから構成される。E部:胃癌、肝胆道癌、乳癌、膵癌、および結腸直腸癌に由来する様々ながん細胞株において発現されるCDC45L mRNAのRT−PCR解析。F部:腺癌、扁平上皮癌、小細胞癌、正常肺、精巣、および正常皮膚において発現されるCDC45Lタンパク質の免疫組織化学解析(元の倍率×400)。陽性染色シグナルは褐色として観察される。スケールバー、50μm。
【図2】図2は、PBMCからCDC45L特異的CTLを誘導するためのプロトコールを示す。ドナーからPBMCを単離し、HLA−A24陽性健常ドナーおよび肺癌患者のPBMCから、それぞれ抗CD8 mAbまたは抗CD14 mAbコーティングマイクロビーズを用いて、CD8 T細胞およびCD14細胞を単離した。GM−CSFおよびIL−4の存在下での5日間の培養を通して、CD14細胞からDCを得た。β2−ミクログロブリンの存在下で、DCにHLA−A24結合ペプチドを37℃で2時間パルスした。次に、ペプチドをパルスしたこれらのDCを放射線照射し、自己CD8 T細胞と1:20比で混合して、ペプチド反応性CTLを作製した。0日目に、2%自己血清を補充したAIM−V中で細胞をIL−7と共に培養し、2日目にこれらの培養物にIL−2を補充した。ペプチドを負荷した自己PHA−芽細胞による付加的な週1回の刺激を2回、7日目および14日目に実施した。CD8 T細胞の3ラウンド目のペプチド刺激から6日後に、INF−γ ELISPOTアッセイ、CD107a動員アッセイ、および51Cr放出アッセイを実施した。
【図3】図3は、健常ドナーにおけるCDC45L由来ペプチドに対するCTL応答を示す一連の棒グラフA〜Cから構成される。A部、B部、C部:HLA−A24陽性健常ドナー(A、C、健常ドナー1;B、健常ドナー4)のPBMCから作製されたCDC45Lペプチド反応性CTLのELISPOTアッセイ。CD8 T細胞を、16種の候補ペプチド(SEQ ID NO:1〜16)のうちの4種の混合物をパルスした自己単球由来DC(0日目)および自己PHA−芽細胞(7日目および14日目)で刺激した。20日目にCTLを回収し、ELISPOTアッセイによってIFN−γを産生するCTLを検出した。バーは、CDC45L由来ペプチド(白バー)または非関連HIV−A24ペプチド(黒バー)をパルスしたC1R−A2402細胞でCTL株を再刺激した場合の、IFN−γスポットの数を示す。エフェクター対標的細胞比は10:1である。データは、3連のアッセイの平均値±SDとして示す。各ドナーについて、同様の結果を有する2回の独立した実験の代表例を示す。
【図4】図4は、抗原刺激後のCD8 T細胞の細胞表面上に露出されたCD107aのレベルを示す一連のパネルから構成される。ペプチドはすべて1μg/mlの最終濃度で使用した。示される事象は、CD8 T細胞についてゲートをかけたものである。上部および中央部パネル:同族CDC45L由来ペプチドで刺激した。下部パネル:非関連HIV−A24ペプチドで刺激した。プロット中の数字は、この象限の特性(CD8 CD107a Tリンパ球)を有する細胞集団の割合を示す。各レーンは、同様の結果を有する2回の独立した実験の代表例である。
【図5−1】図5は、HLA−A24陽性肺癌患者のPBMCからのCDC45L特異的ヒトCTLの誘導を示す一連のグラフA〜Dから構成される。A部:CDC45L−A24−9−109−2(SEQ ID NO:2)、CDC45L−A24−9−294−3(SEQ ID NO:3)、CDC45L−A24−9−556−4(SEQ ID NO:4)、CDC45L−A24−9−370−7(SEQ ID NO:7)、またはCDC45L−A24−10−556−12(SEQ ID NO:12)ペプチドをパルスした標的細胞と共培養した、肺癌患者から誘導されたCTLのELISPOTアッセイ。ペプチドパルスしたC1R−A2402細胞で刺激したIFN−γ産生は、HIVペプチドをパルスしたC1R−A2402細胞で刺激したものよりも有意に高かった。バーは、作製されたCTL株を、CDC45L由来ペプチド(白バー)または非関連HIV−A24ペプチド(黒バー)をパルスしたC1R−A2402細胞で再刺激した場合の、IFN−γスポットの数を示す。エフェクター対標的細胞比は10:1である。データは、3連のアッセイの平均値±SDとして示す。B部:51Cr放出アッセイにおける、同族CDC45L由来ペプチド(白三角;CDC45L−A24−9−109−2(SEQ ID NO:2)、CDC45L−A24−9−294−3(SEQ ID NO:3)、CDC45L−A24−9−556−4(SEQ ID NO:4)、CDC45L−A24−9−370−7(SEQ ID NO:7)、またはCDC45L−A24−10−556−12(SEQ ID NO:12))をパルスしたC1R−A2402細胞、および非関連HIV−A24ペプチド(黒三角)をパルスしたC1R−A2402細胞に対するCTLの細胞傷害性。各値は、3連のアッセイの平均値に基づいて算出された特異的溶解の割合を示す。C部:抗CDC45L抗体を用いた、Lu99細胞(左パネル、レーン1)、CDC45L siRNA(左パネル、レーン2)または対照GFP siRNA(左パネル、レーン3)をトランスフェクトしたLu99細胞、およびEBC−1細胞(右パネル、レーン1)、CDC45L siRNA(右パネル、レーン2)または対照GFP siRNA(右パネル、レーン3)をトランスフェクトしたEBC−1細胞に由来する全細胞溶解物のウェスタンブロット解析。β−アクチンを内部対照とした。
【図5−2】図5は、HLA−A24陽性肺癌患者のPBMCからのCDC45L特異的ヒトCTLの誘導を示す一連のグラフA〜Dから構成される。D部:Lu99およびEBC−1標的細胞(CDC45L、HLA−A2402)における、CDC45Lタンパク質の下方制御によるCTLのCDC45L特異的細胞傷害活性の抑止。Lu99、EBC−1、CDC45L siRNA Lu99、CDC45L siRNA EBC−1、GFP siRNA Lu99、GFP siRNA EBC−1、またはA549に対するCTLの細胞傷害活性を、51Cr放出アッセイにより解析した。各値は、3連のアッセイの平均値に基づいて算出された特異的溶解の割合を示す。
【図6】図6は、抗HLAクラスI mAbによるCDC45L反応性CTL応答の阻害を示す一連のグラフから構成される。Lu99標的細胞を抗HLAクラスI mAb(W6/32、IgG2a)または対照抗HLAクラスII mAb(IgG2a)と共に1時間インキュベートした後、Lu99細胞を、CDC45L−A24−9−109−2(SEQ ID NO:2)、CDC45L−A24−9−294−3(SEQ ID NO:3)、CDC45L−A24−9−556−4(SEQ ID NO:4)、またはCDC45L−A24−9−370−7(SEQ ID NO:7)ペプチドによる刺激によって健常ドナーまたは肺癌患者のCD8 T細胞から作製されたCTLと共培養した。CTLによって媒介されたIFN−γ産生(A部)および細胞傷害性(B部)を示す。白丸、Lu99;黒丸、Lu99+W6/32;白四角、Lu99+対照mAb。データは、3連のアッセイの平均値±SDとして示す。統計的有意差を星印で示す(P<0.05)。
【図7】図7は、CDC45L−A2−9−556−4(SEQ ID NO:4、本明細書ではCDC45L−A24−9−556−4とも称される)、556KFLDALISL564ペプチドによる刺激によるHLA−A24(A2402)拘束性CTLおよびHLA−A2(A0201)拘束性CTLの両方の誘導を示す一連のグラフA〜Cから構成される。A部:CDC45L−A2−9−556−4(SEQ ID NO:4)ペプチドをパルスしたT2細胞と共培養した、HLA−A0201陽性健常ドナーから誘導されたCTLのIFN−γ ELISPOTアッセイ。データは、3連のアッセイの平均値±SDとして示す。B部:51Cr放出アッセイにより解析した、CDC45L−A2−9−556−4(SEQ ID NO:4)ペプチドをパルスしたT2細胞(白三角)、対照HIV−A2ペプチドをパルスしたT2細胞(黒三角)、およびCDC45L−A2−9−556−4(SEQ ID NO:4)ペプチドをパルスしたC1R−A2402細胞(黒四角)に対するCTLの細胞傷害活性。C部:51Cr放出アッセイにより解析した、抗HLAクラスI mAbによるCDC45L反応性CTL応答の阻害。Panc1標的細胞(CDC45L+、HLA−A2+、HLA−A24−)を抗HLAクラスI mAb(W6/32, IgG2a)または対照抗HLAクラスII mAb(IgG2a)と共に1時間インキュベートした後、Panc1細胞を、CDC45L−A2−9−556−4(SEQ ID NO:4)ペプチドによる刺激によってHLA−A0201陽性健常ドナーのCD8 T細胞から作製されたCTLと共培養した。白丸、Panc1細胞;黒丸、Panc1+W6/32;白四角、Panc1+対照mAb。各値は、3連のアッセイの平均値に基づいて算出された特異的溶解の割合を示す。同様の結果を有する3回の独立した実験による代表的なデータを示す。
【図8−1】図8は、NOD/SCIDマウスにおけるCDC45L反応性ヒトCTLのインビボ抗腫瘍活性を示す一連のグラフA〜Dから構成される。A部、B部、C部:3種のCDC45L由来ペプチドの混合物による刺激によって2名の健常ドナーから作製されたヒトCTLのペプチド特異的細胞傷害活性。A部:CDC45L−A24−9−109−2(SEQ ID NO:2)、CDC45L−A24−9−294−3(SEQ ID NO:3)、またはCDC45L−A24−9−556−4(SEQ ID NO:4)ペプチドのいずれかをパルスしたC1R−A2402細胞と共培養したCTLのIFN−γ ELISPOTアッセイ。B部:51Cr放出アッセイにより解析した、抗HLAクラスI mAb(W6/32、黒丸)または対照抗HLAクラスII mAb(白四角)の非存在下(白丸)または存在下におけるLu99(CDC45L、HLA−A24)に対するCTLのCDC45L特異的細胞傷害性。
【図8−2】図8は、NOD/SCIDマウスにおけるCDC45L反応性ヒトCTLのインビボ抗腫瘍活性を示す一連のグラフA〜Dから構成される。C部:51Cr放出アッセイにより解析した、3種のCDC45L由来ペプチド(白丸、CDC45L−A24−9−109−2(SEQ ID NO:2);白四角、CDC45L−A24−9−294−3(SEQ ID NO:3);白三角、CDC45L−A24−9−556−4(SEQ ID NO:4))または非関連HIV−A24ペプチド(黒丸)のうちの1つをパルスしたC1R−A2402細胞に対するCTLの細胞傷害活性。D部:CDC45Lで誘導されたCTL(黒四角、n=5)、対照CD8 T細胞(白菱形、n=5)、またはPBS単独(白丸、n=5)を静脈内接種したNOD/SCIDマウスにおける腫瘍。皮下腫瘍移植後の7日目に腫瘍サイズがおよそ25mmに到達した時点で、3種のCDC45Lペプチドの混合物に反応するヒトCTL(4×10個)を静脈内接種した。CTL接種を14日目に反復した。非関連HLA−A24拘束性HIVペプチドで刺激した対照CD8 T細胞もまた、対照としてマウスに接種した。腫瘍サイズは平方ミリメートルで表示する。各記号は、各マウス群における平均腫瘍サイズを示す;バーはSDを示す。両側スチューデントt検定を用いて、42日目の2群間の差の有意性を決定した。
【発明を実施するための形態】
【0021】
態様の説明
本発明の態様を実施または試験するにあたって、本明細書に記載の方法および材料と類似のまたは同等な任意の方法および材料を用いることができるが、好ましい方法、装置、および材料をここに記載する。しかしながら、本材料および方法について記載する前に、本明細書に記載の特定の大きさ、形状、寸法、材料、方法論、プロトコール等は慣行的な実験法および/または最適化に従って変更可能であるため、本発明がこれらに限定されないことが理解されるべきである。本記載に使用する専門用語は特定の型または態様のみを説明する目的のためのものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することは意図されないことも、同様に理解されるべきである。
【0022】
本明細書において言及される各出版物、特許、または特許出願の開示は、その全体が参照により本明細書に明確に組み入れられる。しかしながら、本明細書中のいかなるものも、本発明が先の発明によるそのような開示に先行する権利を与えられないことを承認するものとしては解釈されるべきではない。
【0023】
I.定義
本明細書で用いる「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という単語は、特に他に具体的に指示がない限り「少なくとも1つ」を意味する。
【0024】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、本明細書で互換的に用いられ、アミノ酸残基のポリマーを指す。本用語は、1個または複数個のアミノ酸残基が、修飾された残基であっても、または対応する天然アミノ酸の人工的な化学的模倣体などの非天然残基であってもよいアミノ酸ポリマーと、天然アミノ酸ポリマーとに適用される。
【0025】
本明細書で用いる「アミノ酸」という用語は、天然アミノ酸および合成アミノ酸、ならびに天然アミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体を指す。アミノ酸はL−アミノ酸またはD−アミノ酸のいずれかであり得る。天然アミノ酸とは、遺伝暗号によってコードされるアミノ酸、および細胞内で翻訳後に修飾されたアミノ酸(例えば、ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、およびO−ホスホセリン)である。「アミノ酸類似体」という語句は、天然アミノ酸と同じ基本化学構造(水素、カルボキシ基、アミノ基、およびR基に結合したα炭素)を有するが、1つまたは複数の修飾されたR基または修飾された骨格を有する化合物(例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニン、スルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム)を指す。「アミノ酸模倣体」という語句は、一般的なアミノ酸とは異なる構造を有するが、同様の機能を有する化合物を指す。
【0026】
アミノ酸は、本明細書において、IUPAC−IUB生化学命名法委員会(Biochemical Nomenclature Commission)の推奨する、一般に公知の3文字表記または1文字表記により参照されてもよい。
【0027】
「遺伝子」、「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、および「核酸」という用語は、本明細書において互換的に用いられ、他に特記しない限り、これらは、一般に受け入れられている1文字コードにより参照される。
【0028】
本明細書で使用する「組成物」という用語は、特定量の特定成分を含む生成物、および特定量の特定成分の組み合わせから直接または間接的に生じる任意の生成物を包含することが意図される。「薬学的組成物」に関するそのような用語は、有効成分および担体を構成する任意の不活性成分を含む生成物、ならびに任意の2つもしくはそれ以上の成分の組み合わせ、複合体形成、もしくは凝集から、または1つもしくは複数の成分の解離から、または1つもしくは複数の成分の他の種類の反応もしくは相互作用から直接または間接的に生じる任意の生成物を包含することが意図される。したがって、本発明との関連において、「薬学的組成物」という語句は、本発明の化合物と薬学的または生理学的に許容される担体とを混合することにより作製される任意の組成物を包含する。本明細書で使用する「薬学的に許容される担体」または「生理学的に許容される担体」という語句は、有効成分をある臓器または身体の一部から別の臓器または身体の一部へと運搬または輸送することに関与する、液体もしくは固体増量剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、または封入材料を含むがこれらに限定されない、薬学的または生理学的に許容される材料、組成物、物質、または媒体を意味する。
【0029】
特記しない限り、「がん」という用語はCDC45L遺伝子を過剰発現しているがんまたは腫瘍を指し、その例には、精巣腫瘍、膵癌、膀胱癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、食道癌、前立腺癌、慢性骨髄性白血病(CML)、軟部組織腫瘍、胃癌、肝胆道癌、および結腸直腸癌が含まれるが、これらに限定されない。
【0030】
特記しない限り、「細胞傷害性Tリンパ球」、「細胞傷害性T細胞」、および「CTL」という用語は本明細書において互換的に用いられ、特に別段の定めのない限り、非自己細胞(例えば、腫瘍/がん細胞、ウイルス感染細胞)を認識すること、およびそのような細胞の死滅を誘導することができるTリンパ球のサブグループを指す。
【0031】
特記しない限り、「HLA−A24」という用語は、HLA−A2402などのサブタイプを含むHLA−A24型を指す。
【0032】
特記しない限り、本明細書で使用する「HLA−A2」という用語は、典型的には、HLA−A0201およびHLA−A0206などのサブタイプを指す。
【0033】
特記しない限り、本明細書で使用する「キット」という用語は、試薬および他の物質の組み合わせに関して用いられる。本明細書では、キットはマイクロアレイ、チップ、マーカー等を含み得ることが意図される。「キット」という用語は、試薬および/または物質の特定の組み合わせに限定されないことが意図される。
【0034】
本発明の方法および組成物が、がんの「治療」との関連において有用である限り、治療は、その治療が、CDC45L遺伝子の発現の低下、または対象におけるがんの大きさ、有病率、もしくは転移能の減少などの臨床的利益をもたらす場合に、「有効である」と見なされる。治療を予防的に適用する場合、「有効な」とは、治療によって、がんの形成が遅延されるもしくは妨げられるか、またはがんの臨床症状が妨げられるもしくは緩和されることを意味する。有効性は、特定の腫瘍型を診断または治療するための任意の公知の方法と関連して決定される。
【0035】
本発明の方法および組成物が、がんの「予防(prevention)」および「予防(prophylaxis)」との関連において有用である限り、「予防(prevention)」および「予防(prophylaxis)」という用語は本明細書において互換的に用いられ、疾患による死亡率または罹患率の負荷を軽減させる任意の行為を指す。予防(preventionおよびprophylaxis)は、「第一次、第二次、および第三次の予防レベルで」行われ得る。第一次の予防(preventionおよびprophylaxis)は、疾患の発生を回避するのに対し、第二次および第三次レベルの予防(preventionおよびprophylaxis)は、疾患の進行および症状の出現を予防(preventionおよびprophylaxis)することに加え、機能を回復させ、かつ疾患関連の合併症を減少させることによって、既存の疾患の悪影響を低下させることを目的とした行為を包含する。あるいは、予防(preventionおよびprophylaxis)は、特定の障害の重症度を軽減すること、例えば腫瘍の増殖および転移を減少させることを目的とした広範囲の予防的治療を含み得る。
【0036】
本発明との関連において、がんの治療および/もしくは予防、ならびに/または術後のその再発の予防は、以下の段階、例えばがん細胞の外科的除去、がん性細胞の成長の阻害、腫瘍の退行または退縮、寛解の誘導およびがんの発生の抑制、腫瘍の退縮、ならびに転移の低減または阻害などの段階のいずれかを含む。がんの効果的な治療および/または予防は、死亡率を減少させ、がんを有する個体の予後を改善し、血中の腫瘍マーカーのレベルを低下させ、かつがんに伴う検出可能な症状を軽減する。例えば、症状の軽減または改善は効果的な治療を構成し、および/または予防は10%、20%、30%、もしくはそれ以上の軽減または安定した疾患を含む。
【0037】
本発明との関連において、「抗体」という用語は、指定のタンパク質またはそのペプチドと特異的に反応する免疫グロブリンおよびその断片を指す。抗体には、ヒト抗体、霊長類化抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、ヒト化抗体、他のタンパク質または放射標識と融合させた抗体、および抗体断片が含まれ得る。さらに、本明細書において抗体は広義で使用され、具体的には完全なモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2つの完全な抗体から形成される多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)を包含し、かつ抗体断片もそれらが所望の生物活性を示す限り包含する。「抗体」は、すべてのクラス(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgM)を示す。
【0038】
特記しない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解している意味と同じ意味を有する。
【0039】
II.ペプチド
CDC45L由来のペプチドが、CTLによって認識される抗原として機能することを実証するために、CDC45L(SEQ ID NO:18)由来のペプチドを解析して、それらが、一般的に見られるHLAアリルであるHLA−A24またはHLA−A2によって拘束される抗原エピトープであるかどうかを決定した(Date Y et al., Tissue Antigens 47: 93-101, 1996;Kondo A et al., J Immunol 155: 4307-12, 1995;Kubo RT et al., J Immunol 152: 3913-24, 1994)。
【0040】
CDC45L由来のHLA−A24結合ペプチドの候補を、HLA−A24に対するそれらの結合親和性に基づいて同定した。以下のペプチドが免疫療法のための候補ペプチドであると考えられる:
CDC45L−A24−9−237−1 (SEQ ID NO:1)、
CDC45L−A24−9−109−2 (SEQ ID NO:2)、
CDC45L−A24−9−294−3 (SEQ ID NO:3)、
CDC45L−A24−9−556−4 (SEQ ID NO:4)、
CDC45L−A24−9−328−5 (SEQ ID NO:5)、
CDC45L−A24−9−396−6 (SEQ ID NO:6)、
CDC45L−A24−9−370−7 (SEQ ID NO:7)、
CDC45L−A24−9−192−8 (SEQ ID NO:8)、
CDC45L−A24−9−541−9 (SEQ ID NO:9)、
CDC45L−A24−9−364−10 (SEQ ID NO:10)、
CDC45L−A24−10−109−11 (SEQ ID NO:11)、
CDC45L−A24−10−556−12 (SEQ ID NO:12)、
CDC45L−A24−10−271−13 (SEQ ID NO:13)、
CDC45L−A24−10−313−14 (SEQ ID NO:14)、
CDC45L−A24−10−21−15 (SEQ ID NO:15)、および
CDC45L−A24−10−459−16 (SEQ ID NO:16)。
【0041】
さらに、これらのペプチドをパルス(負荷)した樹状細胞(DC)によるT細胞のインビトロでの刺激後、以下の各ペプチドを用いてCTLを樹立することに成功した:
CDC45L−A24−9−109−2 (SEQ ID NO:2)、
CDC45L−A24−9−294−3 (SEQ ID NO:3)、
CDC45L−A24−9−556−4 (SEQ ID NO:4)、
CDC45L−A24−9−370−7 (SEQ ID NO:7)、および
CDC45L−A24−10−556−12 (SEQ ID NO: 12)。
【0042】
樹立されたこれらのCTLは、それぞれのペプチドをパルスした標的細胞に対して強力な特異的CTL活性を示した。これらの結果から、CDC45LがCTLによって認識される抗原であること、および試験された該ペプチドがHLA−A24拘束性のCDC45Lのエピトープペプチドであることが本明細書において実証される。
【0043】
これらのペプチドの中で、CDC45L−A24−9−556−4(SEQ ID NO:4)はHLA−A2結合ペプチドの候補としても同定された。本明細書において、CDC45L−A24−556−4(SEQ ID NO:4)は、HLA−A2拘束性ペプチドとの関連においてCDC45L−A2−9−556−4(SEQ ID NO:4)とも称される。このペプチドを用いて、CDC45LおよびHLA−A2を発現する標的細胞に対するCTLを樹立することに成功した。したがって、CDC45L−A2−9−556−4(SEQ ID NO:4)は、HLA−A24によって拘束されるエピトープペプチドであるばかりでなく、HLA−A24によって拘束されるエピトープペプチドでもある。
【0044】
CDC45L遺伝子は、例えば精巣腫瘍、膵癌、膀胱癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、および食道癌、前立腺癌、慢性骨髄性白血病(CML)、軟部組織腫瘍、胃癌、肝胆道癌、および結腸直腸癌のものを含むがん細胞およびがん組織では過剰発現するが、大部分の正常臓器では発現しないため、これはがんの免疫療法のための優れた標的になる。したがって本発明は、CTLによって認識されるCDC45Lのエピトープに相当するノナペプチド(アミノ酸残基9個からなるペプチド)およびデカペプチド(アミノ酸残基10個からなるペプチド)を提供する。あるいは、本発明は、HLA抗原に結合し、かつ細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を誘導する単離されたペプチドであって、SEQ ID NO:18のアミノ酸配列を有するか、またはその免疫学的活性断片である単離されたペプチドを提供する。本発明の特に好ましい例には、SEQ ID NO:2、3、4、7、および12を有するペプチドが含まれる。
【0045】
一般的に、Parker KC et al., J Immunol 1994 Jan 1, 152(1): 163-75、およびNielsen M et al. Protein Sci 2003; 12: 1007-17に記載されているソフトウェアプログラムなどの、例えばインターネット上で現在利用可能なソフトウェアプログラムを用いて、種々のペプチドとHLA抗原との間の結合親和性をインシリコで算出することができる。例えば以下に記載されているように、HLA抗原との結合親和性を測定することができる:Parker KC et al., J Immunol 1994 Jan 1, 152(1): 163-75, Kuzushima K et al., Blood 2001, 98(6): 1872-81, Larsen MV et al. BMC Bioinformatics. 2007 Oct 31; 8: 424, Buus S et al. Tissue Antigens., 62:378-84, 2003, Nielsen M et al., Protein Sci 2003; 12: 1007-17、およびNielsen M et al. PLoS ONE 2007; 2: e796、これらは例えばLafuente EM et al., Current Pharmaceutical Design, 2009, 15, 3209-3220にまとめられている。結合親和性を決定するための方法は、例えばthe Journal of Immunological Methods, 1995, 185: 181-190;およびProtein Science, 2000, 9: 1838-1846に記載されている。したがって、そのようなソフトウェアプログラムを使用して、HLA抗原との高い結合親和性を有するCDC45L由来の断片を選択することができる。したがって本発明は、そのような公知のプログラムによる、HLA抗原と結合するCDC45L由来の任意の断片から構成されるペプチドを包含する。さらにそのようなペプチドは、全長CDC45Lからなるペプチドを含み得る。
【0046】
本発明のノナペプチドおよびデカペプチドには、結果として生じるペプチドがそのCTL誘導能を保持する限り、付加的なアミノ酸残基を隣接させてもよい。付加的なアミノ酸残基は、それらが元のペプチドのCTL誘導能を損なわない限り、任意の種類のアミノ酸から構成され得る。したがって本発明は、CDC45Lに由来するペプチドを含む、HLA抗原に対する結合親和性を有するペプチドを包含する。そのようなペプチドは、例えば、約40アミノ酸未満であり、約20アミノ酸未満である場合が多く、通常は約15アミノ酸未満である。
【0047】
一般的に、あるペプチド中の1個またはそれ以上のアミノ酸の改変は、該ペプチドの機能に影響を及ぼさず、場合によっては元のタンパク質の所望の機能を増強することさえある。実際に、改変ペプチド(すなわち、元の参照配列と比較して、1個、2個、または数個のアミノ酸残基が改変された(すなわち、置換、付加、欠失、および/または挿入された)アミノ酸配列から構成されるペプチド)は、元のペプチドの生物学的活性を保持することが知られている(Mark et al., Proc Natl Acad Sci USA 1984, 81: 5662-6;Zoller and Smith, Nucleic Acids Res 1982, 10: 6487-500;Dalbadie-McFarland et al., Proc Natl Acad Sci USA 1982, 79: 6409-13)。したがって、1つの態様において、本発明のペプチドは、CTL誘導能、ならびに1個、2個、またはさらにそれ以上のアミノ酸が付加、欠失、および/または置換されている、SEQ ID NO:2、3、4、7、および12の中より選択されるアミノ酸配列の双方を有する。
【0048】
当業者は、単一のアミノ酸またはわずかな割合のアミノ酸を変更する、アミノ酸配列に対する個々の付加、欠失、または置換が、元のアミノ酸側鎖の特性の保存をもたらす傾向があることを認識するであろう。したがって、それらはしばしば「保存的置換」または「保存的改変」と称され、この場合、タンパク質の変化により元のタンパク質と類似の機能を有する改変タンパク質が生じる。機能的に類似しているアミノ酸を提示する保存的置換の表は、当技術分野において周知である。保存するのが望ましいアミノ酸側鎖の特性の例には、例えば、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、ならびに以下の官能基または特徴を共通して有する側鎖が含まれる:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);ヒドロキシル基含有側鎖(S、T、Y);硫黄原子含有側鎖(C、M);カルボン酸およびアミド含有側鎖(D、N、E、Q);塩基含有側鎖(R、K、H);ならびに芳香族基含有側鎖(H、F、Y、W)。加えて、以下の8群はそれぞれ、相互に保存的置換であるとして当技術分野で認められるアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、スレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins 1984を参照されたい)。
【0049】
このような保存的改変ペプチドもまた、本発明のペプチドと見なされる。しかしながら、本発明のペプチドはこれらに限定されず、改変ペプチドが元のペプチドのCTL誘導能を保持する限り、非保存的な改変を含み得る。さらに、改変ペプチドは、CDC45Lの多型バリアント、種間相同体、および対立遺伝子のCTL誘導可能なペプチドを排除しない。
【0050】
必要なCTL誘導能を保持するために、少数の(例えば、1個、2個、または数個の)またはわずかな割合のアミノ酸を改変する(すなわち、挿入、欠失、付加、および/または置換する)ことができる。本明細書において、「数個」という用語は、5個またはそれ未満のアミノ酸、例えば4個、または3個、またはそれ未満を意味する。改変するアミノ酸の割合は、好ましくは20%もしくはそれ未満、より好ましくは15%もしくはそれ未満、さらにより好ましくは10%もしくはそれ未満、または1〜5%である。
【0051】
がん免疫療法との関連で用いられた場合、本発明のペプチドは、好ましくはHLA抗原との複合体として、細胞またはエキソソームの表面上に提示されるべきである。したがって、CTLを誘導するばかりでなく、HLA抗原に対する高い結合親和性を有するペプチドを選択することが好ましい。そのために、アミノ酸残基の置換、挿入、および/または付加によってペプチドを改変して、結合親和性が改善された改変ペプチドを得ることができる。天然に提示されるペプチドに加えて、HLA抗原への結合によって提示されるペプチドの配列の規則性は既知であるため(J Immunol 1994, 152: 3913;Immunogenetics 1995, 41: 178;J Immunol 1994, 155: 4307)、そのような規則性に基づいた改変を本発明の免疫原性ペプチドに導入してもよい。
【0052】
例えば、HLA−A24結合親和性を増大させるためには、N末端から2番目のアミノ酸をフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、もしくはトリプトファンで置換すること、および/またはC末端のアミノ酸をフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、もしくはメチオニンで置換することが望ましい場合がある。したがって、N末端から2番目のアミノ酸がフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、もしくはトリプトファンで置換されている、および/またはC末端がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、もしくはメチオニンで置換されている、SEQ ID NO:2、3、4、7、および12の中より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドは、本発明によって包含される。
【0053】
あるいは、HLA−A2結合親和性を増大させるためには、N末端から2番目のアミノ酸をロイシンもしくはメチオニンで置換すること、および/またはC末端のアミノ酸をバリンもしくはロイシンで置換することが望ましい場合がある。したがって、N末端から2番目のアミノ酸がロイシンもしくはメチオニンで置換されている、および/またはC末端がバリンもしくはロイシンで置換されているSEQ ID NO:4の中より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドは、本発明によって包含される。
【0054】
末端のアミノ酸においてだけでなく、ペプチドの潜在的なT細胞受容体(TCR)認識の部位においても、置換を導入することができる。いくつかの研究は、例えばCAP1、p53(264−272)、Her−2/neu(369−377)、またはgp100(209−217)など、アミノ酸置換を有するペプチドが、元のものと同等のまたはより優れた機能を持ち得ることを実証している(Zaremba et al. Cancer Res. 57, 4570-4577, 1997、T. K. Hoffmann et al. J Immunol. (2002) Feb 1;168(3):1338-47.、S. O. Dionne et al. Cancer Immunol immunother. (2003) 52: 199-206、およびS. O. Dionne et al. Cancer Immunology, Immunotherapy (2004) 53, 307-314)。
【0055】
本発明はまた、本発明のペプチドのN末端および/またはC末端に1個、2個、または数個のアミノ酸が付加され得ることも意図する。高いHLA抗原結合親和性を有し、かつCTL誘導能を保持するそのような改変ペプチドもまた、本発明に包含される。
【0056】
しかしながら、ペプチド配列が、異なる機能を有する内因性または外因性のタンパク質のアミノ酸配列の一部と同一である場合、自己免疫障害および/または特定の物質に対するアレルギー症状などの副作用が誘発される可能性がある。したがって、ペプチドの配列が別のタンパク質のアミノ酸配列と一致する状況を回避するために、第一に、利用可能なデータベースを用いて相同性検索を行うことが好ましい。相同性検索から、対象ペプチドと比較して1個または2個のアミノ酸が異なるペプチドさえも存在しないことが明らかになった場合には、前記副作用のいかなる危険も伴わずに、HLA抗原とのその結合親和性を増大させるために、および/またはそのCTL誘導能を増大させるために、該対象ペプチドを改変することができる。
【0057】
上記のようにHLA抗原に対する高い結合親和性を有するペプチドは、非常に効果的であると予測されるが、指標としての高い結合親和性の存在に従って選択された候補ペプチドを、CTL誘導能の存在についてさらに調べる。本明細書において「CTL誘導能」という語句は、抗原提示細胞(APC)上に提示された場合に細胞傷害性リンパ球(CTL)を誘導するペプチドの能力を示す。さらに、「CTL誘導能」は、CTL活性化を誘導する、CTL増殖を誘導する、CTLによる標的細胞の溶解を促進する、およびCTLのIFN−γ産生を増加させる、ペプチドの能力を含む。
【0058】
CTL誘導能の確認は、ヒトMHC抗原を保有するAPC(例えば、Bリンパ球、マクロファージ、および樹状細胞(DC))、またはより具体的にはヒト末梢血単核白血球由来のDCを誘導し、かつペプチドによる刺激後、CD8陽性細胞と混合し、その後、標的細胞に対してCTLによって産生および放出されたIFN−γを測定することにより達成される。反応システムとして、ヒトHLA抗原を発現するように作製されたトランスジェニック動物(例えば、BenMohamed L, Krishnan R, Longmate J, Auge C, Low L, Primus J, Diamond DJ, Hum Immunol 2000 Aug, 61(8): 764-79, Related Articles, Books, Linkout Induction of CTL response by a minimal epitope vaccine in HLA A*0201/DR1 transgenic mice: dependent on MHC (HLA) class II restricted T(H) responseに記載されているもの)を用いることができる。例えば、標的細胞を51Cr等で放射標識してもよく、標的細胞から放出された放射能から細胞傷害活性を算出してもよい。あるいは、固定化したペプチドを保有するAPCの存在下で、CTLによって産生および放出されたIFN−γを測定し、抗IFN−γモノクローナル抗体を用いて培地上の阻止帯を可視化することによって、CTL誘導能を評価すること、試験することができる。
【0059】
上記のようにペプチドのCTL誘導能を試験した結果、SEQ ID NO:2、3、4、7、および12の中より選択されるノナペプチドまたはデカペプチドが、HLA抗原に対する高い結合親和性に加えて、特に高いCTL誘導能を示すことが判明した。したがって、これらのペプチドは本発明の好ましい態様として例示される。
【0060】
さらに、相同性解析の結果から、これらのペプチドが、任意の他の公知のヒト遺伝子産物に由来するペプチドと有意な相同性を有していないことが示された。したがって、免疫療法に用いた場合の未知または望ましくない免疫応答の可能性は低くなる。したがって、この局面からもまた、これらのペプチドはがん患者においてCDC45Lに対する免疫を誘発するのに使用される。よって、本発明のペプチドは、好ましくはSEQ ID NO:2、3、4、7、および12の中より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドである。
【0061】
上記の改変に加えて、本発明のペプチドはまた、結果として生じる連結ペプチドが元のペプチドの必要なCTL誘導能を保持する限り、他のペプチドに連結させてもよい。適切なペプチドの例には、本発明のペプチド、または他のTAAに由来するCTL誘導性ペプチドが含まれる。ペプチド間の適切なリンカーは当技術分野で周知であり、これには、例えばAAY(P. M. Daftarian et al., J Trans Med 2007, 5:26)、AAA、NKRK(R. P. M. Sutmuller et al., J Immunol. 2000, 165: 7308-7315)、またはK(S. Ota et al., Can Res. 62, 1471-1476、K. S. Kawamura et al., J Immunol. 2002, 168: 5709-5715)が含まれる。
【0062】
例えば、HLAクラスIおよび/またはクラスIIを介する免疫応答を増大させるために、CDC45Lではない腫瘍関連抗原ペプチドもまた実質的に同時に使用することができる。がん細胞が2種以上の腫瘍関連遺伝子を発現し得ることは、十分に確立されている。したがって、特定の対象が付加的な腫瘍関連遺伝子を発現するかどうかを決定すること、ならびに次に、そのような遺伝子の発現産物に由来するHLAクラスIおよび/またはHLAクラスII結合ペプチドを、本発明によるCDC45L組成物またはワクチン中に含めることは、当業者の慣行的な実験法の範囲内である。
【0063】
HLAクラスIおよびHLAクラスII結合ペプチドの例は当業者に公知であり(例えば、Coulie, Stem Cells 13:393-403, 1995を参照されたい)、本明細書に開示したものと同様の様式で本発明において用いることができる。したがって当業者は、1種もしくは複数種のCDC45LペプチドおよびCDC45Lではない1種もしくは複数種のペプチドを含むポリペプチド、またはそのようなポリペプチドをコードする核酸を、分子生物学の標準的な手順を用いて容易に調製することができる。
【0064】
そのような上記の連結ペプチドを本明細書では「ポリトープ」と称し、これはすなわち、様々な配置で共に連結され得る(例えば、鎖状になる、重複する)、2つまたはそれ以上の潜在的な免疫原性または免疫応答刺激性ペプチドの群である。ポリトープ(または該ポリトープをコードする核酸)を標準的な免疫化プロトコールで例えば動物に投与して、免疫応答の促進、増強、および/または誘発における該ポリトープの有効性を試験することができる。
【0065】
ペプチドを直接的にまたは隣接配列の使用により共に連結してポリトープを形成することができ、かつポリトープのワクチンとしての使用は当技術分野において周知である(例えば、Thomson et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 92(13):5845-5849, 1995;Gilbert et al., Nature Biotechnol. 15(12):1280-1284, 1997;Thomson et al., J Immunol. 157(2):822-826, 1996;Tarn et al., J Exp. Med. 171(1):299-306, 1990を参照されたい)。様々な数および組み合わせのエピトープを含むポリトープを調製することができ、CTLによる認識について、および免疫応答の増大における有効性について試験することができる。
【0066】
本発明のペプチドはまた、結果として生じる連結ペプチドが元のペプチドの必要なCTL誘導能を保持する限り、他の物質に連結させてもよい。適切な例には、例えば、ペプチド、脂質、糖および糖鎖、アセチル基、天然および合成のポリマー等が含まれる。ペプチドは、修飾によって元のペプチドの生物学的活性が損なわれないとの条件で、糖鎖付加、側鎖酸化、またはリン酸化などの修飾を含んでもよい。これらの種類の修飾は、付加的な機能(例えば、標的化機能および送達機能)の付与、またはポリペプチドの安定化を成し遂げ得る。
【0067】
例えば、ポリペプチドのインビボ安定性を高めるために、D−アミノ酸、アミノ酸模倣体、または非天然アミノ酸を導入することが当技術分野で公知であり、この概念を本発明のポリペプチドに適合させてもよい。ポリペプチドの安定性は、多数の方法でアッセイし得る。例えば、ペプチダーゼ、ならびにヒトの血漿および血清などの様々な生物学的媒質を用いて、安定性を試験することができる(例えば、Verhoef et al., Eur J Drug Metab Pharmacokin 1986, 11: 291-302を参照されたい)。
【0068】
さらに、上記したように、1個、2個、または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、および/または付加した改変ペプチドの中から、元のペプチドと比較して同じかまたはそれよりも高い活性を有するものをスクリーニングまたは選択することができる。したがって本発明はまた、元と比較して同じかまたはそれよりも高い活性を有する改変ペプチドをスクリーニングまたは選択する方法を提供する。例証となる方法は以下の段階を含み得る:
a:本発明のペプチドの少なくとも1つのアミノ酸残基を置換、欠失、または付加する段階、
b:段階(a)で産生されたペプチドの活性を決定する段階、および
c:元と比較して同じかまたはそれよりも高い活性を有するペプチドを選択する段階。
【0069】
本明細書において、アッセイする活性には、MHC結合活性、APCまたはCTL誘導能、および細胞傷害活性が含まれ得る。好ましくは、アッセイする活性はCTL誘導能であり、そのような活性は「実施例」に記載される方法を用いてアッセイすることができる。
【0070】
本明細書において、本発明のペプチドはまた、「CDC45Lペプチド」または「CDC45Lポリペプチド」とも記載され得る。
【0071】
III.CDC45Lペプチドの調製
周知の技法を用いて、本発明のペプチドを調製してもよい。例えば、組換えDNA技術または化学合成を用いて、ペプチドを合成的に調製してもよい。本発明のペプチドは、個々に、または2つもしくはそれ以上のペプチドを含むより長いポリペプチドとして、合成してもよい。その後ペプチドを、単離、すなわち他の天然の宿主細胞タンパク質およびそれらの断片、または任意の他の化学物質を実質的に含まないように、精製または単離してもよい。
【0072】
本発明のペプチドは、元のペプチドの生物学的活性が修飾によって損なわれないとの条件で、糖鎖付加、側鎖酸化、またはリン酸化などの修飾を含み得る。例証となる他の修飾には、例えばペプチドの血清半減期を延長させるために用いられ得る、D−アミノ酸または他のアミノ酸模倣体の取り込みが含まれる。
【0073】
選択されたアミノ酸配列に基づいた化学合成によって、本発明のペプチドを得てもよい。該合成に適合され得る従来のペプチド合成法の例には、以下のものが含まれる:
(i)Peptide Synthesis, Interscience, New York, 1966;
(ii)The Proteins, Vol. 2, Academic Press, New York, 1976;
(iii)Peptide Synthesis (日本語), Maruzen Co., 1975;
(iv)Basics and Experiment of Peptide Synthesis (日本語), Maruzen Co., 1985;
(v)Development of Pharmaceuticals (second volume) (日本語), Vol. 14 (peptide synthesis), Hirokawa, 1991;
(vi)WO99/67288;および
(vii)Barany G. & Merrifield R.B., Peptides Vol. 2, 「Solid Phase Peptide Synthesis」, Academic Press, New York, 1980, 100-118。
【0074】
あるいは、ペプチドを作製するための任意の公知の遺伝子工学的方法(例えば、Morrison J, J Bacteriology 1977, 132: 349-51;Clark-Curtiss & Curtiss, Methods in Enzymology (eds. Wu et al.) 1983, 101: 347-62)を適合させて、本発明のペプチドを得てもよい。例えば、最初に、発現可能な形態で(例えば、プロモーター配列に相当する調節配列の下流に)目的のペプチドをコードするポリヌクレオチドを有する適切なベクターを調製し、適切な宿主細胞に入れて形質転換する。本発明は、このようなベクターおよび宿主細胞もまた提供する。次いで、該宿主細胞を培養して、関心対象のペプチドを産生させる。インビトロ翻訳システムを用いて、ペプチドをインビトロで作製してもよい。
【0075】
IV.ポリヌクレオチド
本発明はまた、前述の本発明のペプチドのいずれかをコードするポリヌクレオチドを提供する。これらは、天然CDC45L遺伝子(GenBankアクセッション番号NM_003504(例えば、SEQ ID NO:17))由来のポリヌクレオチド、およびその保存的に改変されたヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを含む。本明細書において「保存的に改変されたヌクレオチド配列」という語句は、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする配列を指す。遺伝暗号の縮重のため、数多くの機能的に同一な核酸が任意の特定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸のアラニンをコードする。したがって、あるコドンによってアラニンが指定されるあらゆる位置において、コードされるポリペプチドを変化させることなく、該コドンを、記載された対応するコドンのいずれかに変更し得る。このような核酸の変異は「サイレント変異」であり、保存的に改変された変異の一種である。ペプチドをコードする本明細書中のあらゆる核酸配列は、該核酸の可能性のあるあらゆるサイレント変異をも表す。核酸中の各コドン(通常メチオニンに対する唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンに対する唯一のコドンであるTGGを除く)を改変して、機能的に同一な分子を得てもよいことを、当業者は認識するであろう。したがって、ペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、公開した各配列において非明示的に記載されている。
【0076】
本発明のポリヌクレオチドは、DNA、RNA、またはそれらの誘導体から構成され得る。当技術分野において周知の通り、DNA分子は塩基、例えば天然の塩基A、T、C、およびGなどから構成され、RNAではTはUに置き換えられる。非天然の塩基もまたポリヌクレオチドに含まれることを、当業者は認識するであろう。
【0077】
本発明のポリヌクレオチドは、介在するアミノ酸配列を伴って、または伴わずに、本発明の複数のペプチドをコードし得る。例えば、介在するアミノ酸配列は、ポリヌクレオチドまたは翻訳されたペプチドの切断部位(例えば、酵素認識配列)を提供し得る。さらに、ポリヌクレオチドは、本発明のペプチドをコードするコード配列に対する任意の付加的配列を含み得る。例えば、ポリヌクレオチドは、ペプチドの発現に必要な調節配列を含む組換えポリヌクレオチドであってもよく、またはマーカー遺伝子等を有する発現ベクター(プラスミド)であってもよい。一般に、例えばポリメラーゼおよびエンドヌクレアーゼを用いた従来の組換え技法によりポリヌクレオチドを操作することによって、そのような組換えポリヌクレオチドを調製し得る。
【0078】
組換え技法および化学合成技法の両方を用いて、本発明のポリヌクレオチドを作製してもよい。例えば、適切なベクター内に挿入することによってポリヌクレオチドを作製してもよく、これはコンピテント細胞にトランスフェクトした場合に発現され得る。あるいは、PCR技法または適切な宿主内での発現を用いて、ポリヌクレオチドを増幅してもよい(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, 1989を参照されたい)。あるいは、Beaucage SL & Iyer RP, Tetrahedron 1992, 48: 2223-311;Matthes et al., EMBO J 1984, 3: 801-5に記載されているような固相技法を用いて、ポリヌクレオチドを合成してもよい。
【0079】
V.エキソソーム
本発明は、本発明のペプチドとHLA抗原との間で形成された複合体を自身の表面上に提示する、エキソソームと称される細胞内小胞をさらに提供する。エキソソームは、例えば公表特許公報特表平11−510507号およびWO99/03499に詳述されている方法を用いることによって調製することができ、治療および/または予防の対象となる患者から得られたAPCを用いて調製することができる。本発明のエキソソームは、本発明のペプチドと同様の様式で、ワクチンとして接種することができる。
【0080】
前記複合体中に含まれるHLA抗原の型は、治療および/または予防を必要とする対象のものと一致しなければならない。例えば日本人集団では、HLA−A24およびHLA−A2、特にHLA−A*2402およびHLA−A*0201およびHLA−A*0206が最もよく見られ、したがって日本人患者の治療に適していると考えられる。日本人および白人の間で高発現しているA24およびA2型の使用は、有効な結果を得るのに好ましく、A*2402、A*0201、およびA*0206等のサブタイプもまた使用される。典型的には、クリニックにおいて、治療を必要とする患者のHLA抗原の型があらかじめ調べられ、これにより、特定の抗原に対して高レベルの結合親和性を有する、または抗原提示によるCTL誘導能を有するペプチドの適切な選択が可能となる。さらに、高い結合親和性およびCTL誘導能の両方を有するペプチドを取得するために、天然のCDC45Lの部分ペプチドのアミノ酸配列に基づいて、1個、2個、または数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、および/または付加を行ってもよい。
【0081】
本発明のエキソソームに対してA24型HLA抗原を用いる場合、SEQ ID NO:2、3、4、7、および12の中より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドが使用される。
【0082】
あるいは、本発明のエキソソームに対してA2型HLA抗原を用いる場合、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列を有するペプチドが使用される。
【0083】
VI.抗原提示細胞(APC)
本発明はまた、HLA抗原と本発明のペプチドとにより形成された複合体を自身の表面上に提示する単離された抗原提示細胞(APC)を提供する。APCは、治療および/または予防の対象となる患者に由来していてもよく、かつ、単独で、または本発明のペプチド、エキソソーム、もしくはCTLを含む他の薬物と組み合わせて、ワクチンとして投与することができる。
【0084】
前記APCは、特定の種類の細胞に限定されず、リンパ球によって認識されるように自身の細胞表面上にタンパク質性抗原を提示することが知られている樹状細胞(DC)、ランゲルハンス細胞、マクロファージ、B細胞、および活性化T細胞を含む。DCは、APCの中で最も強力なCTL誘導活性を有する代表的なAPCであるため、DCは本発明のAPCとして使用される。
【0085】
例えば、本発明のAPCは、末梢血単球からDCを誘導し、次にそれらをインビトロ、エクスビボ、またはインビボで本発明のペプチドと接触させる(で刺激する)ことによって得てもよい。本発明のペプチドを対象に投与した場合、本発明のペプチドを提示するAPCが該対象の体内で誘導される。「APCを誘導する」という語句は、細胞を、本発明のペプチドまたは本発明のペプチドをコードするヌクレオチドと接触させて(で刺激して)、HLA抗原と本発明のペプチドとの間に形成された複合体を細胞表面上に提示させることを含む。したがって、本発明のAPCは、本発明のペプチドを対象に投与した後、該対象からAPCを回収することによって得てもよい。あるいは、本発明のAPCは、対象から回収されたAPCを本発明のペプチドと接触させることによって得てもよい。
【0086】
対象においてがんに対する免疫応答を誘導するために、本発明のAPCを単独で、または本発明のペプチド、エキソソーム、もしくはCTLを含む他の薬物と組み合わせて対象に投与してもよい。例えば、エクスビボ投与は、以下の段階を含み得る:
a:第1の対象からAPCを回収する段階、
b:段階aのAPCをペプチドと接触させる段階、および
c:段階bのAPCを第2の対象に投与する段階。
【0087】
第1の対象と第2の対象は同一の個体であってもよく、または異なる個体であってもよい。段階bによって得られたAPCを、がん、例としては、精巣腫瘍、膵癌、膀胱癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、食道癌、前立腺癌、慢性骨髄性白血病(CML)、軟部組織腫瘍、胃癌、肝胆道癌、および結腸直腸癌が含まれるが、これらに限定されないがんを治療および/または予防するためのワクチンとして使用してもよい。
【0088】
本発明は、本発明のペプチドを用いて誘導されたこのような抗原提示細胞を含む薬学的組成物の製造を提供する。
【0089】
本発明の局面によると、APCは高レベルのCTL誘導能を有する。「高レベルのCTL誘導能」という用語において、高レベルとは、ペプチドと接触させていないAPC、またはCTLを誘導することができないペプチドと接触させたAPCによるCTL誘導能のレベルと比較したものである。高レベルのCTL誘導能を有するそのようなAPCは、上記の方法に加え、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドをインビトロでAPCに導入する段階を含む方法によって調製してもよい。導入する遺伝子は、DNAまたはRNAの形態であってよい。導入のための方法の例には、特に制限されることなく、リポフェクション、エレクトロポレーション、またはリン酸カルシウム法が使用され得るように、当技術分野において従来より実施される様々な方法が含まれる。より具体的には、Cancer Res 1996, 56: 5672-7;J Immunol 1998, 161: 5607-13;J Exp Med 1996, 184: 465-72;公表特許公報第2000−509281号に記載されているように、それを実施し得る。遺伝子をAPCに導入することによって、該遺伝子は細胞内で転写、翻訳等を受け、次いで、得られたタンパク質はMHCクラスIまたはクラスIIによってプロセシングされて、提示経路を経て部分的なペプチドが提示される。
【0090】
好ましい態様において、本発明のAPCは、HLA−A2402などのHLA−A24抗原と本発明のペプチドとの間に形成された複合体をその表面上に提示するAPCであってよい。あるいは、本発明のAPCは、HLA−A0201などのHLA−A2抗原とSEQ ID NO:4のペプチドまたはその改変ペプチドとの間に形成された複合体をその表面上に提示し得る。
【0091】
VII.細胞傷害性Tリンパ球(CTL)
本発明のペプチドのいずれか1つに対して誘導されたCTLは、インビボでがん細胞を標的とする免疫応答を増強させるため、ペプチド自体と同様の様式でワクチンとして用い得る。したがって本発明は、本発明のペプチドのいずれか1つによって特異的に誘導または活性化された、単離されたCTLを提供する。
【0092】
そのようなCTLは、(1)本発明のペプチドを対象に投与すること;または(2)対象由来のAPCおよびCD8陽性細胞もしくは末梢血単核白血球をインビトロで本発明のペプチドと接触させる(で刺激する)こと;または(3)CD8陽性細胞もしくは末梢血単核白血球を、HLA抗原とペプチドとの複合体をその表面上に提示するAPCもしくはエキソソームとインビトロで接触させること;または(4)本発明のペプチドに結合することができるT細胞受容体(TCR)サブユニットをコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子を導入することによって、得てもよい。このようなAPCまたはエキソソームは上記の方法によって調製してよく、(4)の方法の詳細は下記「VIII.T細胞受容体(TCR)」の章において記載する。
【0093】
本発明のCTLは、治療および/または予防の対象となる患者に由来してよく、かつ、単独で投与しても、または効果を調節する目的で本発明のペプチドもしくはエキソソームを含む他の薬物と組み合わせて投与してもよい。得られたCTLは、本発明のペプチド、例えば誘導に用いた同一のペプチドを提示する標的細胞に対して特異的に作用する。標的細胞は、がん細胞などの、CDC45Lを内因的に発現する細胞、またはCDC45L遺伝子をトランスフェクトされた細胞であってよく、かつ、本発明のペプチドによる刺激によって該ペプチドを細胞表面上に提示する細胞もまた、活性化されたCTLの攻撃の標的となり得る。
【0094】
VIII.T細胞受容体(TCR)
本発明はまた、T細胞受容体(TCR)のサブユニットを形成することができるポリペプチドをコードする核酸を含む組成物、およびそれを用いる方法を提供する。本発明のTCRサブユニットは、CDC45Lを提示する腫瘍細胞に対する特異性をT細胞に付与するTCRを形成する能力を有する。当技術分野における公知の方法を用いることにより、本発明の1種または複数種のペプチドを用いて誘導されたCTLのTCRサブユニットを構成するα鎖およびβ鎖をコードする核酸を同定し得る(WO2007/032255、およびMorgan et al., J Immunol, 171, 3288 (2003))。例えば、TCRサブユニットをコードするヌクレオチド配列を解析するためにはPCR法が好ましい。解析のためのPCRプライマーは、例えば、5'側プライマーとしての5'−Rプライマー(5'−gtctaccaggcattcgcttcat−3')(SEQ ID NO:23)、および3'側プライマーとしての、TCRα鎖C領域に特異的な3−TRa−Cプライマー(5'−tcagctggaccacagccgcagcgt−3')(SEQ ID NO:24)、TCRβ鎖C1領域に特異的な3−TRb−C1プライマー(5'−tcagaaatcctttctcttgac−3')(SEQ ID NO:25)、またはTCRβ鎖C2領域に特異的な3−TRβ−C2プライマー(5'−ctagcctctggaatcctttctctt−3')(SEQ ID NO:26)であり得るが、これらに限定されない。TCR誘導体は、CDC45Lペプチドを提示する標的細胞と高い結合力で結合することができ、かつ任意で、CDC45Lペプチドを提示する標的細胞の効率的な殺傷をインビボおよびインビトロで媒介することができる。
【0095】
TCRサブユニットをコードする核酸を、適切なベクター、例えばレトロウイルスベクターに組み込むんでもよい。これらのベクターは、当技術分野において周知である。該核酸またはそれらを有用に含むベクターを、T細胞、例えば患者由来のT細胞に導入してもよい。有利には、本発明は、患者自身のT細胞(または別の哺乳動物のT細胞)の迅速な改変により、優れたがん細胞殺傷特性を有する改変T細胞を迅速かつ容易に作製することを可能にする、既製の組成物を提供する。
【0096】
特異的TCRとは、TCRがT細胞の表面上に存在する場合に、本発明のペプチドとHLA分子との複合体を特異的に認識して、標的細胞に対するT細胞特異的活性を付与することができる受容体である。上記複合体の特異的認識は任意の公知の方法によって確認してよく、その好ましい例には、HLA分子および本発明のペプチドを用いたHLA多量体染色解析、ならびにELISPOTアッセイが含まれるが、これらに限定されない。ELISPOTアッセイを行うことにより、TCRサブユニットをコードする核酸を形質導入されたT細胞が、HLA分子およびCDC45Lを発現する細胞を認識するかどうか、ならびにシグナルが細胞内で伝達されるかどうかを確認することができる。当技術分野で公知の方法により、T細胞に導入されたTCRサブユニットがT細胞細胞傷害活性を付与し得るかどうかを確認することもできる。好ましい方法には、例えば、HLA−A2陽性であり、かつCDC45Lを過剰発現する細胞を標的細胞として用いたクロム放出アッセイが含まれる。
【0097】
また本発明は、HLA−A2との関連で、例えばSEQ ID NO:4のCDC45Lペプチド、ならびにまたHLA−A24との関連で、例えばSEQ ID NO:2、3、4、7、および12のCDC45Lペプチドに結合するTCRサブユニットポリペプチドをコードする核酸を、形質導入することによって調製されるCTLを提供する。形質導入されたCTLは、インビボでがん細胞にホーミングすることができ、かつ周知のインビトロ培養法によって増殖させることができる(例えば、Kawakami et al., J Immunol., 142, 3452-3461 (1989))。本発明のCTLは、治療または防御を必要としている患者におけるがんの治療および/または予防に有用な免疫原性組成物を形成するために使用し得る(その内容の全体が参照により本明細書に組み入れられる、WO2006/031221を参照されたい)。
【0098】
IX.薬学的な剤または組成物
CDC45Lの発現は、正常組織と比較して、がん、例としては、精巣腫瘍、膵癌、膀胱癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、食道癌、前立腺癌、慢性骨髄性白血病(CML)、軟部組織腫瘍、胃癌、肝胆道癌、および結腸直腸癌が含まれるが、これらに限定されないがんにおいて特異的に上昇するため、本発明のペプチドおよびそのようなペプチドをコードするポリヌクレオチドは、がんの治療および/もしくは予防において、ならびに/または術後のその再発の予防において有用である。したがって本発明は、がんを治療および/もしくは予防するための、ならびに/または術後のその再発を予防するための薬学的な剤または組成物を提供し、そのような薬学的な剤または組成物は、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドの1種または複数種を有効成分として含む。あるいは、薬学的な剤または組成物として用いるために、本発明のペプチドを、前述のエキソソームまたはAPCなどの細胞のいずれかの表面上に発現させてもよい。加えて、本発明のペプチドのいずれか1つを標的とする前述のCTLもまた、本発明の薬学的な剤または組成物の有効成分として用いることができる。
【0099】
本発明の薬学的な剤および組成物(すなわち、「薬剤」)は、ワクチンとしても使用される。本発明との関連において、「ワクチン」(「免疫原性組成物」とも称される)という語句は、動物に接種した際に、抗腫瘍免疫を誘導する機能を有する物質を指す。
【0100】
本発明の薬学的な剤または組成物は、ヒト、ならびに非限定的にマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、サル、ヒヒ、およびチンパンジー、特に商業的に重要な動物または家畜を含む任意の他の哺乳動物を含む対象または患者において、がんを治療および/もしくは予防するために、ならびに/または術後のその再発を予防するために用いることができる。
【0101】
別の態様において、本発明はまた、がんまたは腫瘍を治療または予防するための薬学的な組成物または剤の製造における、以下の中より選択される有効成分の使用を提供する:
(a)本発明のペプチド;
(b)本明細書に開示するようなペプチドを発現可能な形態でコードする核酸;
(c)本発明のペプチドをその表面上に提示するAPCまたはエキソソーム;および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0102】
あるいは、本発明はさらに、がんまたは腫瘍の治療または予防において用いるための、以下の中より選択される有効成分を提供する:
(a) 本発明のペプチド;
(b) 本明細書に開示するようなペプチドを発現可能な形態でコードする核酸;
(c) 本発明のペプチドをその表面上に提示するAPCまたはエキソソーム;および
(d) 本発明の細胞傷害性T細胞。
【0103】
あるいは、本発明はさらに、がんまたは腫瘍を治療または予防するための薬学的な組成物または剤を製造するための方法または工程であって、有効成分として以下の中より選択される有効成分と共に、薬学的にまたは生理学的に許容される担体を製剤化する段階を含む、方法または工程を提供する:
(a)本発明のペプチド;
(b)本明細書に開示するようなペプチドを発現可能な形態でコードする核酸;
(c)本発明のペプチドをその表面上に提示するAPCまたはエキソソーム;および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0104】
別の態様において、本発明はまた、がんまたは腫瘍を治療または予防するための薬学的な組成物または剤を製造するための方法または工程であって、以下の中より選択される有効成分を薬学的にまたは生理学的に許容される担体と混合する段階を含む、方法または工程を提供する:
(a)本発明のペプチド;
(b)本明細書に開示するようなペプチドを発現可能な形態でコードする核酸;
(c)本発明のペプチドをその表面上に提示するAPCまたはエキソソーム;および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0105】
本発明により、SEQ ID NO:2、3、4、7、および12のアミノ酸配列を有するペプチドは、強力かつ特異的な免疫応答を誘導し得るHLA−A24拘束性エピトープペプチドまたはその候補であることが判明した。したがって、SEQ ID NO:2、3、4、7、および12のアミノ酸配列を有するこれらのペプチドのいずれかを含む本発明の薬学的な剤または組成物は、HLA抗原がHLA−A24である対象に投与するのに特に適している。SEQ ID NO:4のアミノ酸配列を有するペプチドはまた、HLA−A2拘束性エピトープペプチドであることも判明した。したがって、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列を有するペプチドを含む薬学的な剤または組成物は、HLA抗原がHLA−A24である対象に加えて、HLA抗原がHLA−A2である対象に投与するのにも適している。同じことが、これらのペプチドのいずれかをコードするポリヌクレオチド(すなわち、本発明のポリヌクレオチド)を含む薬学的な剤または組成物にも当てはまる。
【0106】
本発明の薬学的な剤または組成物によって治療されるがんは限定されず、例えば精巣腫瘍、膵癌、膀胱癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、食道癌、前立腺癌、慢性骨髄性白血病(CML)、軟部組織腫瘍、胃癌、肝胆道癌、および結腸直腸癌を含む、CDC45Lが関与する(例えば、過剰発現する)任意のがんを含む。
【0107】
本発明の薬学的な剤または組成物は、前述の有効成分に加えて、がん性細胞に対するCTLを誘導する能力を有するその他のペプチド、該その他のペプチドをコードするその他のポリヌクレオチド、該その他のペプチドを提示するその他の細胞等を含み得る。本明細書において、がん性細胞に対するCTLを誘導する能力を有するその他のペプチドは、がん特異的抗原(例えば、同定されたTAA)によって例示されるが、これに限定されない。
【0108】
必要であれば、本発明の薬学的な剤または組成物は、例えば本発明のペプチドのいずれかといった有効成分の抗腫瘍効果をその他の治療物質が阻害しない限り、有効成分として該治療物質を任意に含み得る。例えば、製剤は、抗炎症剤または抗炎症組成物、鎮痛剤、化学療法剤等を含み得る。薬物自体に他の治療物質が存在することに加えて、本発明の薬物を、1つまたは複数の他の薬理学的な剤または組成物と連続してまたは同時に投与することもできる。薬物および薬理学的な剤または組成物の量は、例えば、使用される薬理学的な剤または組成物の種類、治療する疾患、ならびに投与のスケジュールおよび投与経路に依存する。
【0109】
本明細書において特に言及される成分に加えて、本発明の薬学的な剤または組成物は、問題の製剤の種類を考慮して、当技術分野において慣例的な他の剤または組成物も含み得ることが理解されるべきである。
【0110】
本発明の1つの態様において、本発明の薬学的な剤または組成物を、例えばがんのような治療されるべき疾患の病態を治療するのに有用な材料を含む製品およびキットに含めてもよい。該製品は、ラベルを有する本発明の薬学的な物質または組成物のいずれかの容器を含み得る。適切な容器には、ボトル、バイアル、および試験管が含まれる。該容器は、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成され得る。容器上のラベルには、物質または組成物が、疾患の1つまたは複数の状態の治療または予防のために用いられることが示されるべきである。ラベルはまた、投与等に関する指示も示し得る。
【0111】
上記の容器に加えて、本発明の薬学的な剤または組成物を含むキットは、任意で、薬学的に許容される希釈剤を収容した第2の容器をさらに含み得る。それは、使用のための指示書と共に、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、注射針、シリンジ、および添付文書を含む、商業上および使用者の立場から見て望ましい他の材料をさらに含み得る。必要に応じて、有効成分を含む1つまたは複数の単位剤形を含み得るパックまたはディスペンサー装置にて、薬学的組成物を提供することができる。該パックは、例えば、ブリスターパックのように金属またはプラスチックホイルを含み得る。パックまたはディスペンサー装置には、投与に関する指示書が添付され得る。
【0112】
(1)有効成分としてペプチドを含む薬学的な剤または組成物
本発明のペプチドは、薬学的な剤もしくは組成物として直接投与することができ、または必要であれば、従来の製剤方法によって製剤化される。後者の場合、本発明のペプチドに加えて、薬物に通常用いられる担体、賦形剤等が特に制限なく適宜含まれ得る。そのような担体の例は、滅菌水、生理食塩水、リン酸緩衝液、培養液等である。さらに、薬学的な剤または組成物は、必要に応じて、安定剤、懸濁液、保存剤、界面活性剤等を含み得る。本発明の薬学的な剤または組成物は、抗がん目的に用いることができる。
【0113】
インビボでCTLを誘導するために、本発明のペプチドを、本発明のペプチドの2種またはそれ以上から構成される組み合わせとして調製することができる。ペプチドの組み合わせはカクテルの形態をとってよく、または標準的な技法を用いて互いにコンジュゲートしてもよい。例えば、該ペプチドを化学的に結合させてもよく、または該ペプチドを、1個または数個のアミノ酸をリンカー(例えば、リジンリンカー:K. S. Kawamura et al. J. Immunol. 2002, 168: 5709-5715)として有し得る単一の融合ポリペプチド配列として発現させてもよい。組み合わせにおけるペプチドは、同一であっても異なっていてもよい。本発明のペプチドを投与することによって、該ペプチドはHLA抗原によってAPC上に高密度で提示され、次いで、提示されたペプチドと該HLA抗原との間に形成された複合体に対して特異的に反応するCTLが誘導される。あるいは、APC(例えば、DC)を対象から取り出し、次にこれを本発明のペプチドにより刺激して、本発明のペプチドのいずれかをそれらの細胞表面上に提示するAPCを得る。これらのAPCを対象に再び投与して、対象においてCTLを誘導し、その結果、腫瘍関連内皮に対する攻撃性を増大させることができる。
【0114】
有効成分として本発明のペプチドを含む、がんの治療および/または予防のための薬学的な剤または組成物は、細胞性免疫を効率的に確立することが知られているアジュバントもまた含み得る。あるいは、薬学的な物質または組成物は、他の有効成分と共に投与することができ、かつ顆粒内への製剤化によって投与することもできる。アジュバントとは、免疫学的活性を有するタンパク質と共に(または連続して)投与した場合に、該タンパク質に対する免疫応答を増強させる任意の化合物、物質、または組成物を指す。本明細書において意図されるアジュバントには、文献(Clin Microbiol Rev 1994, 7: 277-89)に記載されているものが含まれる。適切なアジュバントの例には、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ミョウバン、コレラ毒素、サルモネラ毒素、フロイント不完全アジュバント(IFA)、フロイント完全アジュバント(CFA)、ISCOMatrix、GM−CSF、CpG、O/Wエマルション等が含まれるが、これらに限定されない。
【0115】
さらに、リポソーム製剤、直径数マイクロメートルのビーズにペプチドが結合している顆粒製剤、およびペプチドに脂質が結合している製剤が好都合に用いられ得る。
【0116】
本発明の別の態様において、本発明のペプチドは、薬学的に許容される塩の形態で投与してもよい。好ましい塩の例には、アルカリ金属との塩、金属との塩、有機塩基との塩、有機酸との塩、および無機酸との塩が含まれる。
【0117】
いくつかの態様において、本発明の薬学的な剤または組成物は、CTLを刺激する(prime)成分をさらに含み得る。脂質は、ウイルス抗原に対してインビボでCTLを刺激し得る剤または組成物として同定された。例えば、パルミチン酸残基をリジン残基のεアミノ基およびαアミノ基に付着させ、次に本発明のペプチドに連結させることができる。次いで、脂質付加したペプチドを、ミセルもしくは粒子の状態で直接投与すること、リポソーム中に取り込ませること、またはアジュバント中に乳化させることができる。CTL応答の脂質による刺激の別の例として、トリパルミトイル−S−グリセリルシステイニル−セリル−セリン(P3CSS)などの大腸菌(E.coli)リポタンパク質を、適切なペプチドに共有結合させて、CTLを刺激するために用いることができる(例えば、Deres et al., Nature 1989, 342: 561-4を参照されたい)。
【0118】
投与方法は、経口、皮内、皮下、静脈内注射等、および全身投与または標的部位の近傍への局所投与であってよい。投与は、単回投与によって行うこともできるし、または複数回投与によって強化することもできる。本発明のペプチドの用量を、治療する疾患、患者の年齢、体重、投与方法等に従って適切に調節することができ、これは通常0.001mg〜1,000mg、例えば0.001mg〜1,000mg、例えば0.1mg〜10mgであり、数日から数ヶ月に1度投与することができる。当業者は、適切な用量を適切に選択することができる。
【0119】
(2)有効成分としてポリヌクレオチドを含む薬学的な剤または組成物
本発明の薬学的な剤または組成物はまた、本明細書に開示するペプチドをコードする核酸を発現可能な形態で含み得る。本明細書において、「発現可能な形態で」という語句は、ポリヌクレオチドが、細胞内に導入された場合に抗腫瘍免疫を誘導するポリペプチドとしてインビボで発現され得ることを意味する。例示的な態様において、関心対象のポリヌクレオチドの核酸配列は、該ポリヌクレオチドの発現に必要な調節エレメントを含む。ポリヌクレオチドには、標的細胞のゲノム中への安定的な組み込みが達成されるように、必要なものを備えさせることができる(相同組換えカセットベクターの説明に関しては、例えばThomas KR & Capecchi MR, Cell 1987, 51: 503-12を参照されたい)。例えば、Wolff et al., Science 1990, 247: 1465-8;米国特許第5,580,859号;第5,589,466号;第5,804,566号;第5,739,118号;第5,736,524号;第5,679,647号;およびWO 98/04720も参照されたい。DNAに基づく送達技術の例には、「裸のDNA」、促進された(ブピバカイン、ポリマー、ペプチド媒介性)送達、カチオン性脂質複合体、および粒子媒介性(「遺伝子銃」)または圧力媒介性の送達が含まれる(例えば、米国特許第5,922,687号を参照されたい)。
【0120】
ウイルスベクターまたは細菌ベクターによって、本発明のペプチドを発現させることもできる。発現ベクターの例には、ワクシニアウイルスまたは鶏痘ウイルスなどの弱毒化ウイルス宿主が含まれる。このアプローチは、例えば、ペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現させるためのベクターとして、ワクシニアウイルスの使用を伴う。宿主内に導入すると、組換えワクシニアウイルスは免疫原性ペプチドを発現し、それによって免疫応答を誘発する。免疫化プロトコールに有用なワクシニアベクターおよび方法は、例えば米国特許第4,722,848号に記載されている。別のベクターはBCG(カルメット・ゲラン桿菌)である。BCGベクターは、Stover et al., Nature 1991, 351: 456-60に記載されている。治療的投与または免疫化に有用である多種多様な他のベクター、例えばアデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、チフス菌(Salmonella typhi)ベクター、無毒化炭疽毒素ベクター等が明らかである。例えば、Shata et al., Mol Med Today 2000, 6: 66-71;Shedlock et al., J Leukoc Biol 2000, 68: 793-806;Hipp et al., In Vivo 2000, 14: 571-85を参照されたい。
【0121】
ポリヌクレオチドの患者内への送達は、直接的であってもよいし(ポリヌクレオチドを保有するベクターに患者を直接曝露する)、または間接的であってもよい(まずインビトロで細胞を関心対象のポリヌクレオチドで形質転換し、次いで該細胞を患者内に移植する)。これら2つのアプローチはそれぞれ、インビボおよびエクスビボの遺伝子治療として公知である。
【0122】
遺伝子治療の方法の一般的な総説に関しては、Goldspiel et al., Clinical Pharmacy 1993, 12: 488-505;Wu and Wu, Biotherapy 1991, 3: 87-95;Tolstoshev, Ann Rev Pharmacol Toxicol 1993, 33: 573-96;Mulligan, Science 1993, 260: 926-32;Morgan & Anderson, Ann Rev Biochem 1993, 62: 191-217;Trends in Biotechnology 1993, 11(5): 155-215を参照されたい。組換えDNA技術の分野において一般に公知の方法は、本発明にも用いることができる。例えば、Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NY, 1993;およびKrieger, Gene Transfer and Expression, A Laboratory Manual, Stockton Press, NY, 1990を参照されたい。
【0123】
投与方法は、経口、皮内、皮下、静脈内注射等であってよく、全身投与または標的部位の近傍への局所投与が用いられる。投与は、単回投与によって行うこともできるし、または複数回投与によって強化することもできる。適切な担体中のポリヌクレオチドの用量、または本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドで形質転換した細胞の用量を、治療する疾患、患者の年齢、体重、投与方法等に従って適切に調節することができ、これは通常0.001mg〜1000mg、例えば0.001mg〜1000mg、例えば0.1mg〜10mgであり、数日に1度〜数ヶ月に1度投与することができる。当業者は、適切な用量を適切に選択することができる。
【0124】
X.ペプチド、エキソソーム、APC、およびCTLを用いる方法
APCおよびCTLを調製または誘導するために、本発明のペプチドおよびポリヌクレオチドを用いることができる。CTLを誘導するために、本発明のエキソソームおよびAPCを用いることもできる。ペプチド、ポリヌクレオチド、エキソソーム、およびAPCは、任意の他の化合物がそれらのCTL誘導能を阻害しない限り、該化合物と組み合わせて用いることができる。したがって、前述の本発明の薬学的な剤または組成物のいずれかをCTLを誘導するために用いることができ、それに加えて、前記ペプチドおよびポリヌクレオチドを含むものを、以下により詳細に考察するように、APCを誘導するために用いることもできる。
【0125】
(1)抗原提示細胞(APC)を誘導する方法
本発明は、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドを用いた、高いCTL誘導能を有するAPCを誘導する方法を提供する。
【0126】
本発明の方法は、APCを本発明のペプチドとインビトロ、エクスビボ、またはインビボで接触させる段階を含む。例えば、APCを該ペプチドとエクスビボまたはインビトロで接触させる方法は、以下の段階を含み得る:
a:対象からAPCを回収する段階、および
b:段階aのAPCをペプチドと接触させる段階。
【0127】
前記APCは特定の種類の細胞に限定されず、リンパ球によって認識されるように自身の細胞表面上にタンパク質性抗原を提示することが知られているDC、ランゲルハンス細胞、マクロファージ、B細胞、および活性化T細胞を含む。好ましくは、DCが、APCの中でも最も強力なCTL誘導能を有するために、用いられ得る。本発明の任意のペプチドを、単独で、または本発明の他のペプチドとともに、用いることができる。
【0128】
一方、本発明のペプチドを対象に投与する場合は、APCを該ペプチドとインビボで接触させ、結果的に高いCTL誘導能を有するAPCを対象の体内で誘導する。したがって本発明は、本発明のペプチドを対象に投与することを含む。同様に、本発明のポリヌクレオチドを発現可能な形態で対象に投与する場合は、本発明のペプチドを発現させてAPCとインビボで接触させ、結果的に高いCTL誘導能を有するAPCを対象の体内で誘導する。したがって本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドを対象に投与することを含み得る。「発現可能な形態」という語句は、上記「IX.薬学的な剤または組成物、(2)有効成分としてポリヌクレオチドを含む薬学的な剤または組成物」の章に記載されている。
【0129】
本発明はまた、CTL誘導能を有するAPCを誘導するように、本発明のポリヌクレオチドをAPCに導入する段階を含み得る。例証となるそのような方法の例としては、以下の段階が含まれ得る:
a:対象からAPCを回収する段階、および
b:本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドを導入する段階。
【0130】
段階bは、上記「VI.抗原提示細胞」の章に記述した通りに行うことができる。
【0131】
あるいは、本発明は、CDC45Lに対するCTL活性を特異的に誘導する抗原提示細胞(APC)を調製するための方法であって、以下の段階の1つを含み得る方法を提供する:
(a)APCを本発明のペプチドとインビトロ、エクスビボ、またはインビボで接触させる段階;および
(b)本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドをAPCに導入する段階。
【0132】
(2)CTLを誘導する方法
さらに本発明は、本発明のペプチド、ポリヌクレオチド、エキソソームまたはAPCを用いてCTLを誘導するための方法を提供する。
【0133】
本発明はまた、本発明のペプチドとHLA抗原との複合体を認識するT細胞受容体(TCR)サブユニットを形成し得るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを用いて、CTLを誘導するための方法を提供する。好ましくは、CTLを誘導するための方法は、以下からなる群より選択される少なくとも1つの段階を含み得る:
a)CD8陽性T細胞を、HLA抗原と本発明のペプチドとの複合体をその表面上に提示する抗原提示細胞および/またはエキソソームと接触させる段階;ならびに
b)本発明のペプチドとHLA抗原との複合体を認識するTCRサブユニットを形成し得るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、CD8陽性細胞に導入する段階。
【0134】
本発明のペプチド、ポリヌクレオチド、APC、またはエキソソームを対象に投与した場合、該対象の体内でCTLが誘導され、がん細胞を標的とする免疫応答の強度が増強される。したがって本発明の方法は、本発明のペプチド、ポリヌクレオチド、APC、またはエキソソームを対象に投与する段階を含む。
【0135】
あるいは、エクスビボまたはインビトロでの使用によってCTLを誘導することもでき、かつCTLを誘導した後、活性化したCTLを対象に戻すことができる。例えば、この方法は、以下の段階を含み得る:
a:対象からAPCを回収する段階;
b:段階aのAPCをペプチドと接触させる段階;および
c:段階bのAPCをCD8陽性細胞と共培養する段階。
【0136】
上記の段階cにおいてCD8陽性細胞と共培養するAPCは、上記「VI.抗原提示細胞」の章に記述した通りに、本発明のポリヌクレオチドを含む遺伝子をAPCに導入することによって調製することもできるが、本発明はこれに限定されず、したがってHLA抗原と本発明のペプチドとの複合体をその表面上に効果的に提示する任意のAPCを含み得る。
【0137】
そのようなAPCの代わりに、HLA抗原と本発明のペプチドとの複合体をその表面上に提示するエキソソームを用いることもできる。すなわち、本発明は、HLA抗原と本発明のペプチドとの複合体をその表面上に提示するエキソソームを共培養する工程を含み得る。そのようなエキソソームは、上記「V.エキソソーム」の章に記述した方法によって調製することができる。
【0138】
さらに、本発明のペプチドに結合するTCRサブユニットをコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子をCD8陽性細胞に導入することによって、CTLを誘導することができる。そのような形質導入は、上記「VIII.T細胞受容体(TCR)」の章に記述した通りに行うことができる。
【0139】
加えて、本発明は、本発明のペプチドを薬学的に許容される担体と共に混合または製剤化する段階を含む方法である、CTLを誘導する薬学的な物質または組成物を製造するための方法または工程を提供する。
【0140】
(3)免疫応答を誘導する方法
さらに本発明は、CDC45Lに関連する疾患に対する免疫応答を誘導する方法を提供する。適切な疾患にはがんが含まれ、その例には、精巣腫瘍、膵癌、膀胱癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、食道癌、前立腺癌、慢性骨髄性白血病(CML)、軟部組織腫瘍、胃癌、肝胆道癌、および結腸直腸癌が含まれるが、これらに限定されない。
【0141】
本発明の方法は、本発明のペプチドまたはそれらをコードするポリヌクレオチドのいずれかを含む剤または組成物を投与する段階を含み得る。本発明の方法はまた、本発明のペプチドのいずれかを提示するエキソソームまたはAPCの投与を意図する。詳細については、「IX.薬学的な剤または組成物」の項目、特にワクチンとしての本発明の薬学的な剤または組成物の使用について記載している部分を参照されたい。加えて、免疫応答を誘導するための本発明の方法に用いることができるエキソソームおよびAPCは、上記「V.エキソソーム」、「VI.抗原提示細胞(APC)」、ならびに「X.ペプチド、エキソソーム、APC、およびCTLを用いる方法」の(1)および(2)の項目において詳述されている。
【0142】
本発明はまた、本発明のペプチドを薬学的に許容される担体と共に混合または製剤化する段階を含み得る方法である、免疫応答を誘導する薬学的な剤または組成物を製造するための方法または工程を提供する。
【0143】
あるいは、本発明の方法は、以下を含むワクチンまたは薬学的な剤または組成物を投与する段階を含み得る:
(a)本発明のペプチド;
(b)本明細書に開示するようなペプチドを発現可能な形態でコードする核酸;
(c)本発明のペプチドをその表面上に提示するAPCまたはエキソソーム;または
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0144】
本発明との関連においては、CDC45Lを過剰発現するがんをこれらの有効成分を用いて治療することができる。そのようながんの例には、精巣腫瘍、膵癌、膀胱癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、食道癌、前立腺癌、慢性骨髄性白血病(CML)、軟部組織腫瘍、胃癌、肝胆道癌、および結腸直腸癌が含まれるが、これらに限定されない。したがって、有効成分を含むワクチンまたは薬学的な剤または組成物を投与する前に、治療すべき細胞または組織におけるCDC45Lの発現レベルが、同じ臓器の正常細胞と比較して増強されているかどうかを確認することが好ましい。したがって1つの態様において、本発明は、以下の段階を含み得る、CDC45Lを(過剰)発現するがんを治療するための方法を提供する:
i)治療すべきがんを有する対象から得られた細胞または組織において、CDC45Lの発現レベルを決定する段階;
ii)CDC45Lの発現レベルを正常対照レベルと比較する段階;および
iii)上記の(a)〜(d)からなる群より選択される少なくとも1つの成分を、正常対照と比較してCDC45Lを過剰発現するがんを有する対象に投与する段階。
【0145】
あるいは、本発明は、CDC45Lを過剰発現するがんを有する対象への投与において用いるための、上記の(a)〜(d)からなる群より選択される少なくとも1つの成分を含むワクチンまたは薬学的な剤または組成物を提供し得る。換言すれば、本発明はさらに、本発明のCDC45Lポリペプチドで治療すべき対象を、同定するための方法を提供し、そのような方法は、対象由来の細胞または組織におけるCDC45Lの発現レベルを決定する段階を含み、ここで、該レベルが、該遺伝子の正常対照レベルと比較して上昇していることにより、対象が、本発明のCDC45Lポリペプチドで治療され得るがんを有し得ることが示される。本発明のがんを治療する方法を、以下により詳細に説明する。
【0146】
CDC45Lの目的の転写産物または翻訳産物を含む限り、対象由来の任意の細胞または組織をCDC45L発現の測定に使用することができる。適切な試料の例には、身体組織、ならびに血液、痰、および尿などの体液が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、対象由来の細胞または組織試料は、上皮細胞、より好ましくはがん性上皮細胞、またはがん性である疑いのある組織に由来する上皮細胞を含む細胞集団を含む。さらに、必要に応じて、得られた身体組織および体液から細胞を精製し、その後これを対象由来試料として用いてもよい。
【0147】
本発明との関連において、がん性でないと判明している生物学的試料から測定された対照レベルは「正常対照レベル」と称される。一方、対照レベルががん性生物学的試料から測定される場合には、これは「がん性対照レベル」と称される。試料の発現レベルと対照レベルとの差を、その発現レベルが細胞のがん性状態または非がん性状態に応じて異ならないことが判明している対照核酸、例えばハウスキーピング遺伝子の発現レベルに対して正規化することができる。例示的な対照遺伝子には、β−アクチン、グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素、およびリボソームタンパク質P1が含まれるが、これらに限定されない。
【0148】
本発明の方法によって治療される対象は、好ましくは哺乳動物である。例示的な哺乳動物には、例えばヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、および雌ウシが含まれるが、これらに限定されない。
【0149】
本発明に従って、対象から得られた細胞または組織におけるCDC45Lの発現レベルを決定し得る。発現レベルは、当技術分野で公知の方法を用いて、転写(核酸)産物レベルで決定することができる。例えば、CDC45LのmRNAは、ハイブリダイゼーション法(例えば、ノーザンハイブリダイゼーション)により、プローブを用いて定量してもよい。検出は、チップまたはアレイ等の上で実施してもよい。アレイの使用は、CDC45Lの発現レベルを検出するのに好ましい場合がある。当業者は、CDC45Lの配列情報を使用して、このようなプローブを調製することができる。例えば、CDC45LのcDNAをプローブとして用いてもよい。必要であれば、色素、蛍光物質、および同位体などの適切な標識でプローブを標識することができ、ハイブリダイズした標識の強度として、遺伝子の発現レベルを検出することができる。
【0150】
さらに、CDC45L(例えば、SEQ ID NO:17)の転写産物は、増幅に基づく検出法(例えば、RT−PCR)により、プライマーを用いて定量することができる。このようなプライマーは、該遺伝子の入手可能な配列情報に基づいて調製することができる。
【0151】
具体的には、本発明の方法のために用いられるプローブまたはプライマーは、ストリンジェントな条件、中程度にストリンジェントな条件、または低ストリンジェントな条件の下で、CDC45LのmRNAにハイブリダイズする。本明細書において使用する場合、「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という語句は、プローブまたはプライマーがその標的配列にハイブリダイズするが、他の配列にはハイブリダイズしない条件を指す。ストリンジェントな条件は、配列依存性であり、異なる状況下では異なる。より長い配列の特異的ハイブリダイゼーションは、より短い配列よりも高い温度で観察される。一般に、ストリンジェントな条件の温度は、規定のイオン強度およびpHにおける特定の配列の融解温度(Tm)よりも約5℃低くなるように選択される。Tmとは、平衡時に、標的配列に相補的なプローブの50%が標的配列とハイブリダイズする(規定のイオン強度、pH、および核酸濃度における)温度である。標的配列は一般に過剰に存在するため、Tmでは、平衡時に、プローブの50%が占有される。典型的には、ストリンジェントな条件とは、pH7.0〜8.3において、塩濃度が約1.0 M未満のナトリウムイオン、典型的には約0.01〜1.0 Mのナトリウムイオン(または他の塩)であり、かつ温度が、短いプローブまたはプライマー(例えば、10〜50ヌクレオチド)の場合は少なくとも約30℃であり、より長いプローブまたはプライマーの場合は少なくとも約60℃である条件である。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドなどの脱安定化物質を添加することによって達成してもよい。
【0152】
あるいは、本発明の診断のために翻訳産物を検出することもできる。例えば、CDC45Lタンパク質(SEQ ID NO:18)またはその免疫学的断片の量を決定することができる。翻訳産物としてタンパク質の量を決定するための方法には、該タンパク質を特異的に認識する抗体を使用するイムノアッセイ法が含まれる。抗体は、モノクローナルであってもよく、またはポリクローナルであってもよい。さらに、抗体の任意の断片または改変体(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab')、Fv等)も、その断片または改変抗体がCDC45Lタンパク質への結合能を保持している限り、検出のために用いることができる。本発明はまた、本発明のペプチドおよびその断片に対するそのような抗体を提供する。タンパク質を検出するためのこれらの種類の抗体を調製する方法は、当技術分野において周知であり、本発明においては、任意の方法を使用して、そのような抗体およびそれらの等価物を調製することができる。
【0153】
CDC45L遺伝子の発現レベルをその翻訳産物に基づいて検出する別の方法として、CDC45Lタンパク質に対する抗体を用いた免疫組織化学解析により、染色強度を測定してもよい。すなわちこの測定では、強い染色により、タンパク質の存在/レベルの上昇が示され、それと同時にCDC45L遺伝子の高い発現レベルが示される。
【0154】
がん細胞における、標的遺伝子、例えばCDC45L遺伝子の発現レベルは、そのレベルが、標的遺伝子の対照レベル(例えば、正常細胞におけるレベル)よりも例えば10%、25%、もしくは50%上昇しているか、または1.1倍超、1.5倍超、2.0倍超、5.0倍超、10.0倍超、もしくはそれ以上に上昇している場合に、上昇していると決定することができる。
【0155】
対照レベルは、疾患状態(がん性または非がん性)が既知である対象から予め回収し保存しておいた試料を用いることにより、がん細胞と同時に決定することができる。加えて、治療すべきがんを有する臓器の非がん性領域から得られた正常細胞を、正常対照として用いてもよい。あるいは、対照レベルは、疾患状態が既知である対象由来の試料中のCDC45L遺伝子の予め決定された発現レベルを解析することによって得られた結果に基づいて、統計的方法により決定してもよい。さらに、対照レベルは、予め試験された細胞由来の発現パターンのデータベースに由来し得る。さらに、本発明の1つの局面に従って、生物学的試料中のCDC45L遺伝子の発現レベルは、複数の参照試料から決定された複数の対照レベルと比較してもよい。対象由来の生物学的試料の組織型と類似の組織型に由来する参照試料から決定された対照レベルを用いることが好ましい。さらに、疾患状態が既知である集団におけるCDC45L遺伝子の発現レベルの標準値を用いることが好ましい。標準値は、当技術分野において公知の任意の方法によって得ることができる。例えば、平均値±2S.D.または平均値±3S.D.の範囲を、標準値として用いることができる。
【0156】
CDC45L遺伝子の発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇しているか、またはがん性対照レベルと類似している/同等である場合、対象は、治療すべきがんを有すると診断され得る。
【0157】
本発明はまた、(i)治療すべきがんを有する疑いのある対象かどうかを診断する、および/または(ii)がん治療のための対象を選択する方法であって、以下の段階を含み得る方法を提供する:
a)治療すべきがんを有する疑いのある対象から得られた細胞または組織におけるCDC45Lの発現レベルを決定する段階;
b)CDC45Lの発現レベルを正常対照レベルと比較する段階;
c)CDC45Lの発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇している場合に、該対象を、治療すべきがんを有すると診断する段階;および
d)段階c)において、対象が、治療すべきがんを有すると診断された場合に、がん治療のために該対象を選択する段階。
【0158】
あるいは、そのような方法は以下の段階を含み得る:
a)治療すべきがんを有する疑いのある対象から得られた細胞または組織におけるCDC45Lの発現レベルを決定する段階;
b)CDC45Lの発現レベルをがん性対照レベルと比較する段階;
c)CDC45Lの発現レベルががん性対照レベルと比較して類似しているか、または同等である場合に、該対象を、治療すべきがんを有すると診断する段階;および
d)段階c)において、対象が、治療すべきがんを有すると診断された場合に、がん治療のために該対象を選択する段階。
【0159】
本発明はまた、本発明のCDC45Lポリペプチドで治療され得るがんに罹患しているか罹患している疑いのある対象を診断または決定するための診断キットを提供し、該キットはまた、がんの予後を評価する、および/または特定のがん療法の有効性または利用可能性、より具体的には、がん免疫療法の有効性または利用可能性をモニターするのにも使用され得る。例証となる適切ながんの例には、精巣腫瘍、膵癌、膀胱癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、食道癌、前立腺癌、慢性骨髄性白血病(CML)、軟部組織腫瘍、胃癌、肝胆道癌、および結腸直腸癌が含まれるが、これらに限定されない。より具体的には、キットは、対象由来の細胞におけるCDC45L遺伝子の発現を検出するための少なくとも1つの試薬を含み得ることが好ましく、そのような試薬は以下の群より選択される:
(a)CDC45L遺伝子のmRNAを検出するための試薬;
(b)CDC45Lタンパク質またはその免疫学的断片を検出するための試薬;および
(c)CDC45Lタンパク質の生物学的活性を検出するための試薬。
【0160】
CDC45L遺伝子のmRNAを検出するのに適した試薬の例には、CDC45L mRNAの一部に相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドなどの、CDC45L mRNAに特異的に結合するかまたはCDC45L mRNAを同定する核酸が含まれ得る。これらの種類のオリゴヌクレオチドの例は、CDC45L mRNAに特異的なプライマーおよびプローブである。これらの種類のオリゴヌクレオチドは、当技術分野において周知の方法に基づいて調製することができる。必要であれば、CDC45L mRNAを検出するための試薬を固体マトリックス上に固定化してもよい。さらに、CDC45L mRNAを検出するための2つ以上の試薬をキットに含めることができる。
【0161】
一方、CDC45Lタンパク質またはその免疫学的断片を検出するのに適した試薬の例には、CDC45Lタンパク質またはその免疫学的断片に対する抗体が含まれ得る。抗体は、モノクローナルであってもよく、またはポリクローナルであってもよい。さらに、抗体の任意の断片または改変体(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab')2、Fv等)も、その断片または改変抗体がCDC45Lタンパク質またはその免疫学的断片への結合能を保持している限り、試薬として用いることもできる。タンパク質を検出するためのこれらの種類の抗体を調製する方法は、当技術分野において周知であり、本発明においては、任意の方法を使用して、そのような抗体およびそれらの等価物を調製することができる。さらに、直接連結または間接標識技術により、抗体をシグナル生成分子で標識することができる。標識、および抗体を標識してそれらの標的に対する抗体の結合を検出するための方法は、当技術分野において周知であり、任意の標識および方法を本発明のために使用することができる。さらに、CDC45Lタンパク質を検出するための2つ以上の試薬をキットに含めることができる。
【0162】
キットは、前述の試薬のうち2つ以上を含有していてもよい。キットはさらに、CDC45L遺伝子に対するプローブまたはCDC45Lペプチドに対する抗体を結合させるための固体マトリックスおよび試薬、細胞を培養するための培地および容器、陽性対照試薬および陰性対照試薬、ならびにCDC45Lペプチドに対する抗体を検出するための二次抗体を含み得る。例えば、がんに罹患していないまたはがんに罹患している対象から得られた組織試料は、有用な対照試薬として役立ち得る。本発明のキットは、緩衝液、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、および使用のための説明を含む添付文書(例えば、文書、テープ、CD−ROM等)を含む、商業上の観点および使用者の観点から望ましいその他の材料をさらに含んでもよい。これらの試薬等は、ラベルを有する容器中に保持され得る。適切な容器には、瓶、バイアル、および試験管が含まれ得る。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの種々の材料から形成され得る。
【0163】
本発明の態様としては、試薬がCDC45LのmRNAに対するプローブである場合、少なくとも1つの検出部位が形成されるよう、該試薬を多孔質ストリップなどの固体マトリックスの上に固定化することができる。多孔質ストリップの測定領域または検出領域は、各々が核酸(プローブ)を含有している複数の部位を含んでいてもよい。テストストリップはまた、陰性対照および/または陽性対照のための部位を含んでいてもよい。あるいは、対照部位は、テストストリップとは別のストリップ上に配置されてもよい。任意で、異なる検出部位は、固定化された核酸を、異なる量含有していてもよく、すなわち、第1の検出部位ではより多い量を含有し、以降の部位ではより少ない量を含有していてもよい。試験試料を添加すると、検出可能なシグナルを示す部位の数により、試料中に存在するCDC45L mRNAの量の定量的な指標が提供される。検出部位は、適切に検出可能な任意の形状で構成することができ、典型的には、テストストリップの幅にわたるバーまたはドットの形状である。
【0164】
本発明のキットは、陽性対照試料またはCDC45L標準試料をさらに含み得る。本発明の陽性対照試料は、CDC45L陽性試料を回収し、次にそれらのCDC45Lレベルをアッセイすることによって調製することができる。あるいは、精製CDC45Lタンパク質またはポリヌクレオチドを、CDC45Lを発現しない細胞に添加して、陽性試料またはCDC45L標準試料を形成してもよい。本発明において、精製CDC45Lは組換えタンパク質であってよい。陽性対照試料のCDC45Lレベルは、例えばカットオフ値よりも高い。
【0165】
1つの態様において、本発明はさらに、本発明の抗体またはその免疫学的断片を特異的に認識することができるタンパク質またはその部分タンパク質を含む診断キットを提供する。
【0166】
本明細書において意図する本発明のタンパク質の部分ペプチドおよび免疫原性断片の例には、本発明のタンパク質のアミノ酸配列中の少なくとも8個、好ましくは15個、およびより好ましくは20個の連続したアミノ酸から構成されるポリペプチドが含まれる。本発明のタンパク質またはペプチド(ポリペプチド)を用いて試料(例えば、血液、組織)中の抗体を検出することにより、がんを診断することができる。本発明のペプチドまたはタンパク質を調製するための方法は、上記の通りである。
【0167】
抗CDC45L抗体の量と、上記のような対応する対照試料中の抗CDC45L抗体の量との差を決定することにより、本発明のがんを診断するための方法を行うことができる。対象の細胞または組織が該遺伝子の発現産物(CDC45L)に対する抗体を含み、かつ抗CDC45L抗体の量が、正常対照中の抗CDC45L抗体の量と比較してカットオフ値よりもレベルが高いと決定される場合に、該対象ががんに罹患していることが疑われる。
【0168】
別の態様において、本発明の診断キットは、本発明のペプチドおよびそれに結合するHLA分子を含み得る。抗原性ペプチドおよびHLA分子を使用して抗原特異的CTLを検出するための適切な方法は、既に確立されている(例えば、Altman JD et al., Science. 1996, 274(5284): 94-6)。したがって、腫瘍抗原特異的CTLを検出するための検出法に、本発明のペプチドとHLA分子との複合体を適用することができ、それによってがんの再発および/または転移のより早期の発見が可能になる。さらに、本発明のペプチドを有効成分として含む医薬を適用できる対象を選択するために、または医薬の治療効果を評価するために、これを使用することができる。
【0169】
詳細には、公知の方法に従って(例えば、Altman JD et al., Science. 1996, 274(5284): 94-6を参照されたい)、放射標識HLA分子と本発明のペプチドとの四量体といったオリゴマー複合体を調製することができる。複合体を用いて、がんに罹患している疑いのある対象に由来する末梢血リンパ球中の抗原ペプチド特異的CTLを定量することができる。
【0170】
本発明はさらに、本明細書に記載するようなペプチドエピトープを用いた、対象の免疫学的応答を評価するための方法および診断剤を提供する。本発明の1つの態様において、本明細書に記載するようなHLA拘束性ペプチドを、対象の免疫応答を評価または予測するための試薬として用いることができる。評価する免疫応答は、免疫原を免疫担当細胞とインビトロまたはインビボで接触させることにより誘導され得る。特定の態様において、試薬として使用する物質または組成物は、ペプチドエピトープを認識し、これに結合する抗原特異的CTLの産生をもたらし得る任意の物質または組成物であってよい。ペプチド試薬を免疫原として使用する必要はない。そのような解析に用いられるアッセイシステムには、四量体、細胞内リンホカイン染色、およびインターフェロン放出アッセイ、またはELISPOTアッセイなどの比較的最近の技術開発が含まれる。好ましい態様において、ペプチド試薬と接触させる免疫担当細胞は、樹状細胞を含む抗原提示細胞であってよい。
【0171】
例えば、本発明のペプチドを四量体染色アッセイにおいて使用して、腫瘍細胞抗原または免疫原への曝露後の抗原特異的CTLの存在について末梢血単核細胞を評価することができる。HLA四量体複合体を使用して、抗原特異的CTLを直接可視化し(例えば、Ogg et al., Science 279: 2103-2106, 1998;およびAltman et al, Science 174 : 94-96, 1996を参照されたい)、末梢血単核細胞の試料中の抗原特異的CTL集団の頻度を決定することができる。本発明のペプチドを使用する四量体試薬は、以下に記載するように作製することができる。
【0172】
HLA分子に結合するペプチドは、対応するHLA重鎖およびβ2−ミクログロブリンの存在下で再び折り畳まれて、3分子複合体を生成する。この複合体において、該重鎖のカルボキシ末端の前もってタンパク質中に作製した部位をビオチン化する。次にストレプトアビジンを該複合体に添加して、3分子複合体およびストレプトアビジンからなる四量体を形成する。蛍光標識ストレプトアビジンの手法によって、四量体を使用して、抗原特異的細胞を染色することができる。次いで、この細胞を例えばフローサイトメトリーによって同定することができる。そのような解析を、診断または予後診断目的に使用することができる。この手順によって同定された細胞を治療目的に使用することもできる。
【0173】
本発明はまた、本発明のペプチドを含む、免疫リコール応答を評価するための試薬を提供する(例えば、Bertoni et al, J. Clin. Invest. 100: 503-513, 1997、およびPenna et al., J Exp. Med. 174: 1565-1570, 1991を参照されたい)。例えば、治療すべきがんを有する個体からの患者PBMC試料を、特異的ペプチドを用いて抗原特異的CTLの存在について解析することができる。PBMCを培養し、その細胞を本発明のペプチドで刺激することによって、単核細胞を含む血液試料を評価することができる。適切な培養期間後、増殖した細胞集団を例えばCTL活性について解析することができる。
【0174】
本ペプチドは、ワクチンの有効性を評価するための試薬として用いることもできる。免疫原をワクチン接種した患者から得られたPBMCを、例えば上記の方法のいずれかを用いて解析することができる。患者のHLA型を決定し、該患者に存在するアリル特異的分子を認識するペプチドエピトープ試薬を解析のために選択する。ワクチンの免疫原性は、PBMC試料中のエピトープ特異的CTLの存在によって示され得る。本発明のペプチドは、当技術分野で周知の技法を用いて抗体を作製するために使用することもでき(例えば、CURRENTPROTOCOLSINIMMUNOLOGY, Wiley/Greene, NY;およびAntibodies A Laboratory Manual, Harlow and Lane, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989を参照されたい)、この抗体は、がんを診断、検出、またはモニターするための試薬として使用され得る。そのような抗体は、HLA分子との関連でペプチドを認識する抗体、すなわちペプチド−MHC複合体に結合する抗体を含み得る。
【0175】
本発明のペプチドおよび組成物はいくつかの付加的な用途を有し、そのうちのいくつかを本明細書に記載する。例えば、本発明は、CDC45L免疫原性ポリペプチドの発現を特徴とする障害を診断または検出するための方法を提供する。そのような方法は、生物学的試料におけるCDC45L HLA結合ペプチド、またはCDC45L HLA結合ペプチドとHLAクラスI分子との複合体の発現を決定する段階を含む。ペプチドまたはペプチドとHLAクラスI分子との複合体の発現は、該ペプチドまたは該複合体の結合パートナーを用いてアッセイすることによって、決定または検出することができる。好ましい態様において、ペプチドまたは複合体の結合パートナーは、該ペプチドを認識し、これに特異的に結合する抗体であってよい。腫瘍生検などの生物学的試料中のCDC45Lの発現は、CDC45Lプライマーを用いた標準的なPCR増幅プロトコールによって試験することもできる。腫瘍発現の例は本明細書に提示してあり、CDC45L増幅のための例示的な条件およびプライマーのさらなる開示は、WO2003/27322に見出すことができる。
【0176】
好ましい診断法は、対象から単離された生物学的試料をCDC45L HLA結合ペプチドに特異的な剤と接触させて、該生物学的試料中のCDC45L HLA結合ペプチドの存在を検出する段階を含む。本明細書で使用する「接触させる」とは、生物学的試料中に存在するCDC45L HLA結合ペプチドと剤との間の特異的相互作用が可能となるように、生物学的試料を、例えば濃度、温度、時間、イオン強度の適切な条件下で、剤に十分に近接させて配置することを意味する。一般的に、剤と生物学的試料とを接触させるための条件は、分子と生物学的試料中のその同族物(例えば、タンパク質とその受容体同族物、抗体とそのタンパク質抗原同族物、核酸とその相補的配列同族物)との間の特異的相互作用を促進するための、当業者に公知の条件である。分子とその同族物との間の特異的相互作用を促進するための例示的な条件は、Lowらに対して発行された米国特許第5,108,921号に記載されている。
【0177】
本発明の診断法は、インビボおよびインビトロの一方または両方で行うことができる。したがって、生物学的試料は、本発明においてインビボまたはインビトロに位置し得る。例えば、生物学的試料はインビボの組織であってよく、かつCDC45L免疫原性ポリペプチドに特異的な剤を用いて、組織中のそのような分子の存在を検出することができる。あるいは、生物学的試料をインビトロで採取または単離することができる(例えば、血液試料、腫瘍生検、組織抽出物)。特に好ましい態様において、生物学的試料は細胞を含む試料であってよく、より好ましくは、診断または治療される対象から採取された腫瘍細胞を含む試料であってよい。
【0178】
あるいは、フルオレセイン標識HLA多量体複合体で染色することによって、抗原特異的T細胞の直接的な定量を可能にする方法を用いて、診断を行うこともできる(例えば、Altman, J. D. et al., 1996, Science 274 : 94;Altman, J. D. et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 : 10330)。細胞内リンホカイン染色、およびインターフェロン−γ放出アッセイ、またはELISPOTアッセイもまた提供されている。多量体染色、細胞内リンホカイン染色、およびELISPOTアッセイはすべて、より慣例的なアッセイより少なくとも10倍感度が高いようである(Murali-Krishna, K. et al., 1998, Immunity 8: 177;Lalvani, A. et al., 1997, J. Exp. Med. 186: 859;Dunbar, P. R. et al., 1998, Curr. Biol. 8: 413)。五量体(例えば、US 2004−209295A)、デキストラマー(dextramer)(例えば、WO 02/072631)、およびストレプタマー(streptamer)(例えば、Nature medicine 6. 631-637 (2002))を使用してもよい。
【0179】
XI.抗体
本発明はさらに、本発明のペプチドに結合する抗体を提供する。好ましい抗体は本発明のペプチドに特異的に結合し、本発明のペプチドではないものには結合しない(または弱く結合する)。あるいは、抗体は本発明のペプチドおよびその相同体に結合する。本発明のペプチドに対する抗体は、がんの診断および予後診断アッセイ、ならびに画像化方法論において使用することができる。同様に、そのような抗体は、CDC45Lがやはりがん患者において発現または過剰発現する限り、他のがんの治療、診断、および/または予後診断において使用することができる。さらに、細胞内で発現する抗体(例えば、一本鎖抗体)は、CDC45Lの発現が関与するがんの治療において治療的に使用することができ、がんの例には、精巣腫瘍、膵癌、膀胱癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、食道癌、前立腺癌、慢性骨髄性白血病(CML)、軟部組織腫瘍、胃癌、肝胆道癌、および結腸直腸癌が含まれるが、これらに限定されない。
【0180】
本発明はまた、CDC45Lタンパク質(SEQ ID NO:18)、またはSEQ ID NO:2、3、4、7、および12からなる群より選択されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含むその断片を検出および/または定量するための様々な免疫学的アッセイを提供する。そのようなアッセイは、必要に応じて、CDC45Lタンパク質またはその断片を認識し、それと結合することができる1種または複数種の抗CDC45L抗体を含み得る。本発明との関連において、CDC45Lポリペプチドに結合する抗CDC45L抗体は、好ましくは、SEQ ID NO:2、3、4、7、および12からなる群より選択されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを認識する。抗体の結合特異性は、阻害試験で確認することができる。すなわち、解析される抗体とCDC45Lポリペプチドの全長との間の結合が、SEQ ID NO:2、3、4、7、および12のアミノ酸配列からなる任意の断片ポリペプチドの存在下で阻害される場合、この抗体が該断片に特異的に結合することが示される。本発明との関連において、そのような免疫学的アッセイは、様々な型の放射免疫測定法、免疫クロマトグラフ技法、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、酵素結合免疫蛍光測定法(ELIFA)等を含むがこれらに限定されない、当技術分野で周知の様々な免疫学的アッセイ形式の範囲内で行われる。
【0181】
本発明の免疫学的であるが非抗体性の関連アッセイには、T細胞免疫原性アッセイ(阻害性または刺激性)およびMHC結合アッセイもまた含まれ得る。加えて、本発明は、CDC45Lを発現するがんを検出することができる免疫学的画像化法を意図し、その例には、本発明の標識抗体を使用する放射性シンチグラフィー画像化法が含まれるが、これに限定されない。そのようなアッセイ法は、CDC45Lを発現するがんの検出、モニタリング、および予後診断において臨床的に使用され、がんの例には、精巣腫瘍、膵癌、膀胱癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、食道癌、前立腺癌、慢性骨髄性白血病(CML)、軟部組織腫瘍、胃癌、肝胆道癌、および結腸直腸癌などが含まれるが、これらに限定されない。
【0182】
本発明はまた、本発明のペプチドに結合する抗体を提供する。本発明の抗体は、例えばモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体などの任意の形態で用いることができ、ウサギなどの動物を本発明のペプチドで免疫することにより得られる抗血清、すべてのクラスのポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、ヒト抗体、ならびに遺伝子組換えにより作製されたヒト化抗体をさらに含み得る。
【0183】
抗体を得るための抗原として用いられる本発明のペプチドは、任意の動物種に由来し得るが、好ましくはヒト、マウス、またはラットなどの哺乳動物、より好ましくはヒトに由来する。ヒト由来のペプチドは、本明細書に開示するヌクレオチド配列またはアミノ酸配列から得ることができる。
【0184】
本発明によれば、免疫抗原として用いられるペプチドは、完全なタンパク質または該タンパク質の部分ペプチドであってよい。部分ペプチドは、例えば、本発明のペプチドのアミノ(N)末端断片またはカルボキシ(C)末端断片を含み得る。
【0185】
本明細書では、抗体を、CDC45Lペプチドの全長または断片のいずれかと反応するタンパク質と定義する。好ましい態様において、本発明の抗体は、SEQ ID NO:2、3、4、7、および12からなる群より選択されるアミノ酸配列からなるCDC45Lの断片ペプチドを認識することができる。オリゴペプチドを合成する方法は、当技術分野において周知である。合成後、免疫原として使用する前にペプチドを任意に精製してもよい。本発明との関連において、免疫原性を高めるために、オリゴペプチド(例えば、9merまたは10mer)を担体と結合または連結させてもよい。担体として、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)が周知である。KLHとペプチドを結合する方法もまた、当技術分野において周知である。
【0186】
あるいは、本発明のペプチドまたはその断片をコードする遺伝子を公知の発現ベクターに挿入してもよく、次にこれを用いて本明細書に記載の宿主細胞を形質転換する。所望のペプチドまたはその断片を、任意の標準的な方法により宿主細胞の外部または内部から回収することができ、後にこれを抗原として用いることができる。あるいは、ペプチドを発現する細胞全体もしくはそれらの溶解物、または化学合成したペプチドを抗原として用いてもよい。
【0187】
任意の哺乳動物を前記抗原で免疫することができるが、細胞融合に用いられる親細胞との適合性を考慮に入れることが好ましい。一般に、齧歯目(Rodentia)、ウサギ目(Lagomorpha)、または霊長目(Primate)の動物を使用し得る。齧歯目科の動物には、例えばマウス、ラット、およびハムスターが含まれる。ウサギ目科の動物には、例えばウサギが含まれる。霊長目科の動物には、例えばカニクイザル(Macaca fascicularis)、アカゲザル、マントヒヒ、およびチンパンジーなどの狭鼻下目(Catarrhini)(旧世界ザル)のサルが含まれる。
【0188】
動物を抗原で免疫するための方法は、当技術分野で公知である。抗原の腹腔内注射または皮下注射は、哺乳動物を免疫するための標準的な方法である。より具体的には、抗原を適量のリン酸緩衝食塩水(PBS)、生理食塩水等で希釈し、懸濁し得る。必要に応じて、抗原懸濁液を、フロイント完全アジュバントなどの適量の標準的アジュバントと混合し、乳化した後、哺乳動物に投与することができる。その後、適量のフロイント不完全アジュバントと混合した抗原を、4〜21日ごとに数回投与することが好ましい。免疫化には、適切な担体を用いてもよい。上記のように免疫した後、血清を、所望の抗体の量の増加に関して標準的な方法で調べることができる。
【0189】
本発明のペプチドに対するポリクローナル抗体は、血清中の所望の抗体の増加に関して調べた免疫後の哺乳動物から血液を回収し、任意の従来法により血液から血清を分離することによって、調製することができる。ポリクローナル抗体はポリクローナル抗体を含む血清を含んでよく、かつポリクローナル抗体を含む画分を該血清から単離してもよい。免疫グロブリンGまたはMは、本発明のペプチドのみを認識する画分から、例えば、本発明のペプチドを結合させたアフィニティーカラムを用いた上で、さらにこの画分をプロテインAまたはプロテインGカラムを用いて精製して、調製することができる。
【0190】
モノクローナル抗体を調製するには、抗原で免疫した哺乳動物から免疫細胞を回収し、上記のように血清中の所望の抗体のレベル上昇について確かめた上で、細胞融合に供する。細胞融合に用いる免疫細胞は、好ましくは脾臓から得ることができる。上記の免疫細胞と融合させる他の好ましい親細胞には、例えば、哺乳動物の骨髄腫細胞、およびより好ましくは薬物による融合細胞の選択のための特性を獲得した骨髄腫細胞が含まれる。
【0191】
公知の方法、例えばMilsteinら(Galfre and Milstein, Methods Enzymol 73: 3-46 (1981))の方法に従って、上記の免疫細胞と骨髄腫細胞を融合させることができる。
【0192】
細胞融合によって結果として得られたハイブリドーマは、それらをHAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含む培地)などの標準的な選択培地中で培養することによって選択することができる。細胞培養は典型的には、HAT培地中で、所望のハイブリドーマを除く他のすべての細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な期間である数日間から数週間にわたって継続する。その後、標準的な限界希釈を行い、所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞をスクリーニングおよびクローニングすることができる。
【0193】
ハイブリドーマを調製するために非ヒト動物を抗原で免疫する上記の方法に加えて、EBウイルスに感染したリンパ球などのヒトリンパ球を、ペプチド、ペプチド発現細胞、またはそれらの溶解物でインビトロにおいて免疫することもできる。次いで、免疫後のリンパ球を、U266などの無限に分裂可能なヒト由来骨髄腫細胞と融合させて、該ペプチドに結合することができる所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを得る(公開特許公報特開昭63−17688号)。
【0194】
続いて、得られたハイブリドーマをマウスの腹腔内に移植し、腹水を抽出する。得られたモノクローナル抗体は、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、プロテインAもしくはプロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、または本発明のペプチドを結合させたアフィニティーカラムにより精製することができる。本発明の抗体は、本発明のペプチドの精製および検出のためだけでなく、本発明のペプチドのアゴニストおよびアンタゴニストの候補として使用することもできる。
【0195】
あるいは、免疫化リンパ球等の、抗体を産生する免疫細胞をがん遺伝子によって不死化し、モノクローナル抗体の調製に用いてもよい。
【0196】
このようにして得られるモノクローナル抗体は、遺伝子操作技法を用いて組換えにより調製することもできる(例えば、MacMillan Publishers LTD (1990)により英国で刊行された、Borrebaeck and Larrick, Therapeutic Monoclonal Antibodiesを参照されたい)。例えば、抗体をコードするDNAを、抗体を産生するハイブリドーマまたは免疫化リンパ球などの免疫細胞からクローニングし、適切なベクターに挿入した上で、宿主細胞に導入して、組換え抗体を調製することができる。本発明はまた、上記のようにして調製された組換え抗体を提供する。
【0197】
さらに、本発明の抗体は、本発明のペプチドの1種または複数種に結合する限り、抗体の断片または修飾抗体であってもよい。例えば、抗体断片は、Fab、F(ab')、Fv、またはH鎖およびL鎖由来のFv断片が適切なリンカーによって連結されている一本鎖Fv(scFv)であってよい(Huston et al., Proc Natl Acad Sci USA 85: 5879-83 (1988))。より具体的には、抗体断片は、抗体をパパインまたはペプシンなどの酵素で処理することにより作製することができる。あるいは、抗体断片をコードする遺伝子を構築し、発現ベクターに挿入し、適切な宿主細胞内で発現させることができる(例えば、Co et al., J Immunol 152: 2968-76 (1994);Better and Horwitz, Methods Enzymol 178: 476-96 (1989);Pluckthun and Skerra, Methods Enzymol 178: 497-515 (1989);Lamoyi, Methods Enzymol 121: 652-63 (1986);Rousseaux et al., Methods Enzymol 121: 663-9 (1986);Bird and Walker, Trends Biotechnol 9: 132-7 (1991)を参照されたい)。
【0198】
抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)などの様々な分子との結合によって修飾してもよい。本発明は、そのような修飾抗体を提供する。修飾抗体は、抗体を化学的に修飾することによって得ることができる。これらの修飾法は、当技術分野で慣例的である。
【0199】
あるいは、本発明の抗体は、非ヒト抗体に由来する可変領域とヒト抗体に由来する定常領域との間のキメラ抗体として、または非ヒト抗体に由来する相補性決定領域(CDR)ならびにヒト抗体に由来するフレームワーク領域(FR)および定常領域を含むヒト化抗体として得ることもできる。そのような抗体は、公知の技術に従って調製することができる。ヒト化は、齧歯類のCDRまたはCDR配列でヒト抗体の対応する配列を置換することによって行うことができる(例えば、Verhoeyen et al., Science 239:1534-1536 (1988)を参照されたい)。したがって、そのようなヒト化抗体は、実質的に完全には満たないヒト可変ドメインが、非ヒト種由来の対応する配列によって置換されたキメラ抗体である。
【0200】
ヒトのフレームワーク領域および定常領域に加えて、ヒト可変領域をも含む完全なヒト抗体を用いることもできる。そのような抗体は、当技術分野で公知の様々な技法を用いて作製することができる。例えば、インビトロ法は、バクテリオファージ上に提示されたヒト抗体断片の組換えライブラリーの使用を含む(例えば、Hoogenboom & Winter, J. Mol. Biol. 227: 381 (1991))。同様に、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を、内因性免疫グロブリン遺伝子が部分的または完全に不活性化されたトランスジェニック動物、例えばマウスに導入することによって、ヒト抗体を作製することもできる。このアプローチは、例えば米国特許第6,150,584号、第5,545,807号;第5,545,806号;第5,569,825号;第5,625,126号;第5,633,425号;第5,661,016号に記載されている。
【0201】
上記のようにして得られた抗体は、均一になるまで精製してもよい。例えば、一般的なタンパク質に対して用いられる分離法および精製法に従って、抗体の分離および精製を行うことができる。例えば、これらに限定されないが、アフィニティークロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、および等電点電気泳動を適切に選択しかつ組み合わせて使用することにより、抗体を分離および単離することができる(Antibodies: A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory (1988))。プロテインAカラムおよびプロテインGカラムをアフィニティーカラムとして使用することができる。用いられる例示的なプロテインAカラムには、例えば、Hyper D、POROS、およびSepharose F.F.(Pharmacia)が含まれる。
【0202】
例示的なクロマトグラフィーには、アフィニティークロマトグラフィー以外に、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が含まれる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996))。クロマトグラフィー手順は、HPLCおよびFPLCなどの液相クロマトグラフィーによって行うことができる。
【0203】
例えば、吸光度の測定、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)、および/または免疫蛍光法を用いて、本発明の抗体の抗原結合活性を測定することができる。ELISAの場合、本発明の抗体をプレート上に固定化し、本発明のペプチドを該プレートに添加し、次に抗体産生細胞の培養上清または精製抗体等の所望の抗体を含む試料を添加する。次いで、一次抗体を認識しかつアルカリホスファターゼなどの酵素で標識された二次抗体を添加し、プレートをインキュベートする。続いて洗浄後に、p−ニトロフェニルリン酸などの酵素基質を該プレートに添加し、吸光度を測定して、試料の抗原結合活性を評価する。抗体の結合活性を評価するために、C末端またはN末端断片などのペプチドの断片を抗原として用いてもよい。本発明による抗体の活性を評価するために、BIAcore(Pharmacia)を用いてもよい。
【0204】
本発明の抗体を本発明のペプチドを含むと推定される試料に対して曝露し、該抗体と該ペプチドによって形成される免疫複合体を検出または測定することにより、上記の方法によって本発明のペプチドの検出または測定が可能になる。
【0205】
本発明によるペプチドを検出または測定する方法はペプチドを特異的に検出または測定することができるため、この方法は、該ペプチドを使用する種々の実験において使用され得る。
【0206】
XII.ベクターおよび宿主細胞
本発明はまた、本発明のペプチドをコードするヌクレオチドが導入されたベクターおよび宿主細胞を提供する。本発明のベクターは、宿主細胞中に本発明のヌクレオチド、特にDNAを保持するために、本発明のペプチドを発現させるために、または遺伝子治療用に本発明のヌクレオチドを投与するために使用され得る。
【0207】
大腸菌が宿主細胞であり、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、DH5α、HB101、またはXL1Blue)内で増幅させて大量に生成する場合、ベクターは、大腸菌内で増幅するための「複製起点」、および形質転換された大腸菌を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコール等の薬物によって選択される薬物耐性遺伝子)を有すべきである。例えば、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR−Script等を用いることができる。加えて、pGEM−T、pDIRECT、およびpT7もまた上記のベクターと同様に、cDNAのサブクローニングおよび抽出に用いることができる。ベクターを本発明のタンパク質の産生に用いる場合には、発現ベクターを使用することができる。例えば、大腸菌内で発現させる発現ベクターは、大腸菌内で増幅するために上記の特徴を有すべきである。JM109、DH5α、HB101、またはXL1 Blueなどの大腸菌を宿主細胞として用いる場合、ベクターは、大腸菌内で所望の遺伝子を効率的に発現することができるプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Ward et al., Nature 341: 544-6 (1989);FASEB J 6: 2422-7 (1992))、araBプロモーター(Better et al., Science 240: 1041-3 (1988))、T7プロモーター等を有すべきである。この点に関して、例えば、pGEX−5X−1(Pharmacia)、「QIAexpressシステム」(Qiagen)、pEGFP、およびpET(この場合、宿主は好ましくはT7 RNAポリメラーゼを発現するBL21である)を上記のベクターの代わりに用いることができる。さらにベクターは、ペプチド分泌のためのシグナル配列を含んでもよい。ペプチドを大腸菌のペリプラズムに分泌させる例示的なシグナル配列は、pelBシグナル配列である(Lei et al., J Bacteriol 169: 4379 (1987))。ベクターを標的宿主細胞に導入する手段には、例えば塩化カルシウム法およびエレクトロポレーション法が含まれる。
【0208】
大腸菌に加えて、例えば、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(Invitrogen)、およびpEGF−BOS(Nucleic Acids Res 18(17): 5322 (1990))、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば、「Bac−to−BACバキュロウイルス発現システム」(GIBCO BRL)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えば、pMH1、pMH2)、動物ウイルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウイルス由来の発現ベクター(例えば、pZIpneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「ピキア(Pichia)発現キット」(Invitrogen)、pNV11、SP−Q01)、および枯草菌(Bacillus subtilis)由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)を、本発明のポリペプチドの産生に使用することができる。
【0209】
ベクターをCHO、COS、またはNIH3T3細胞などの動物細胞内で発現させるためには、ベクターはこのような細胞における発現に必要なプロモーター、例えば、SV40プロモーター(Mulligan et al., Nature 277: 108 (1979))、MMLV−LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushima et al., Nucleic Acids Res 18: 5322 (1990))、CMVプロモーター等、および好ましくは形質転換体を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、薬物(例えば、ネオマイシン、G418)によって選択される薬物耐性遺伝子)を有すべきである。これらの特徴を有する公知のベクターの例には、例えばpMAM、pDR2、pBK−RSV、pBK−CMV、pOPRSV、およびpOP13が含まれる。
【0210】
本発明を実施または試験するにあたって、本明細書に記載のものと類似または同等の方法および材料を用いることができるが、適切な方法および材料は記載のものである。本明細書において言及した出版物、特許出願、特許、およびその他の参考文献はすべて、その全体が参照により組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含め、本明細書が優先される。加えて、材料、方法、および実施例は単に例示であり、限定することを意図しない。
【0211】
以下の実施例は、本発明を説明するために、ならびに本発明の作製および使用において当業者を支援するために提示される。本実施例は、本発明の範囲を他の形で限定することを意図するものでは決してない。
【実施例】
【0212】
材料および方法
cDNAマイクロアレイ解析
以前に記載されたように、cDNAマイクロアレイ解析により遺伝子発現プロファイルを作製した(Nakamura T, et al., Oncogene 2004;23:2385-400、Taniwaki M et al., Int J Oncol 2006;29:567-75)。マイクロアレイ解析の生データは、中村祐輔教授(東京大学医科学研究所)への依頼により入手可能である。肺癌および隣接する非がん性正常肺組織からの組織試料は外科標本から得たものであり、患者は全員、本研究に参加するために書面によるインフォームドコンセントを提出した。
【0213】
マウス
6週齢の雌非肥満性糖尿病(NOD)/重症複合免疫不全症(SCID)マウスは、Charles River Laboratories Japanより購入した。マウスは熊本大学の動物資源開発研究施設において維持し、熊本大学の動物の取り扱いに関するガイドラインに従って取り扱った。
【0214】
細胞株およびHLA発現
CDC45LおよびHLA−A2402陽性ヒト肺癌細胞株であるEBC−1およびLu99は、ヒューマンサイエンス研究資源バンク(日本、つくば)より供与された。痕跡量の内因性HLAクラスI分子を発現するヒトBリンパ芽球様細胞株C1RのHLA−A2402トランスフェクタントであるC1R−A2402細胞(Karaki S, Kariyone A, Kato N, Kano K, Iwakura Y, Takiguchi M. HLA-B51 transgenic mice as recipients for production of polymorphic HLA-A, B-specific antibodies. Immunogenetics 1993;37:139-42)26は、滝口雅文博士(熊本大学、日本、熊本)より供与された。CDC45L陽性ヒト膵癌細胞株PANC1(HLA−A0201+、HLA−A2402−)、およびTAP欠損かつHLA−A0201陽性細胞株T2は、理研細胞バンクから購入した。アッセイ用にHLA−A24およびHLA−A2陽性血液ドナーを選択するために、HLA−A2およびHLA−A24の発現を、それぞれ抗HLA−A2モノクローナル抗体(mAb)、BB7.2(One Lambda, Inc.、Canoga Park, CA)および抗HLA−A24 mAb(One Lambda, Inc.)を用いたフローサイトメトリーにより調べた。これらの細胞は、5% CO雰囲気中、37℃にて、10% FCSを補充したRPMI 1640培地中インビトロで維持した。
【0215】
患者、血液試料、および腫瘍組織
ドナー由来のPBMCを回収し、使用するための研究プロトコールは、熊本大学の施設内審査委員会によって承認された。血液試料またはがん性組織および隣接非がん性組織は、熊本大学医学部付属病院において、書面によるインフォームドコンセントを得た後に、慣行的な診断手順の中で患者から得た。書面によるインフォームドコンセントを得た後、健常ドナーからも血液試料を得た。試料はすべて身元を隠すためにランダムにコード化し、血液試料は使用時まで−80℃で保存した。
【0216】
逆転写PCRおよびノーザンブロット解析
細胞株および正常組織またはがん性組織の逆転写PCR(RT−PCR)解析は、以前に記載された通りに実施した(Nakatsura T et al., Biochem Biophys Res Commun 2001;281:936-44)。CDC45Lプライマー配列は、5'−CTGGTGTTGCACAGGCTGTCATGG−3'(SEQ ID NO:19)(センス)および5'−CGCACACGGTTAGAAGAGGAG−3'(SEQ ID NO:20)(アンチセンス)であった。対照としてのβ−アクチンmRNAによる正規化後、組織および細胞株におけるCDC45L mRNAの発現を比較した。ノーザンブロット解析は、CDC45L遺伝子特異的cDNAプローブ(1245〜1867 bpに対応)を用いて、以前に記載された通りに実施した(Nakatsura T et al., Biochem Biophys Res Commun 2003;306:16-25)。
【0217】
免疫組織化学染色
ヒトCDC45Lの免疫組織化学試験は、いくらかの改変を加えて以前に記載された通りに実施した(Nakatsura T et al., Biochem Biophys Res Commun 2001;281:936-44)。簡潔に説明すると、組織切片の脱パラフィンおよび再水和後、内因性ペルオキシドをメタノール中の0.3%過酸化水素で15分間失活させ、タンパク質ブロック無血清試薬(Dako)との10分間のインキュベーションにより、非特異的結合を減少させた。緩衝溶液(0.05 M Tris−HCl緩衝液において0.1% Tween 20および0.5 M NaCl)で洗浄した後、Can Get Signal(登録商標)免疫染色溶液A(Toyobo Co.、日本、大阪)中に希釈した一次抗体(ウサギで産生された抗ヒトCDC45L抗体、1:100希釈、HPA000614、アフィニティー精製、Sigma−Aldrich)を試料と共に4℃で一晩インキュベートした。その後、切片を緩衝溶液で注意深くリンスし、二次抗体(標識ポリマー−HRP、抗マウスおよび抗ウサギ抗体、Dako)と共に室温でインキュベートした。緩衝溶液で3回洗浄した後、3,3'−ジアミノベンジジン溶液(液体DAB+基質発色剤システム、Dako)とのインキュベーションにより、染色反応を行った。その後、スライドをヘマトキシリンで軽く対比染色し、エタノール中で脱水し、キシレン中で清澄化した。CDC45Lを発現することが知られている精巣の切片を、抗ヒトCDC45L抗体の陽性対照として使用した。陰性対照については、一次抗体を標準ウサギIgGと置き換えた。
【0218】
ペプチド
HLA−A2404コード分子に対する結合モチーフを保有するヒトCDC45L由来ペプチドを、BIMASソフトウェアプログラム(Bioinformatics and Molecular Analysis Section, Center for Information Technology, NIH、Bethesda, MD)を用いて選択し、16種のペプチド(ノナマー10種およびデカマー6種、純度>95%)を合成した(AnyGen、Gwangju, Korea)(表1)。ペプチドをジメチルスルホキシド中に20μg/mLの濃度で溶解し、−80℃で保存した。2種のHIVペプチド、HLA−A24拘束性RYLRDQQLL(SEQ ID NO:21)ペプチド(HIV−A24)およびHLA−A2拘束性SLYNTYATL(SEQ ID NO:22)ペプチド(HIV−A2)を陰性対照として使用した(Komori H et al., Clin Cancer Res 2006;12:2689-97)。
【0219】
(表1)HLA−A24(A2402)に結合すると予測されるヒトCDC45L由来の候補ペプチド

結合スコアは、BIMASソフトウェア(http://bimas.dcrt.nih.gov/cgi−bin/molbio/ken_parker_comboform)を使用することにより算出した。
【0220】
CDC45L反応性ヒトCTLの作製およびCTL応答のアッセイ
HLA−A24またはHLA−A2陽性の日本人健常ドナーおよび肺癌患者からPBMCを単離し、以前に記載された通りに末梢単球由来樹状細胞(DC)を作製した(Harao M et al., Int J Cancer 2008;123:2616-25、Naito K et al., Int J Oncol 2006;28:1481-9)。2%加熱非働化自己血漿を補充したAIM−V(Invitrogen)中、4μg/mL β2−ミクログロブリン(Sigma−Aldrich)の存在下で、DCに20μg/mLの候補ペプチドを37℃で2時間パルスした。以前に記載された通りに、次に細胞を照射し(40 Gy)、単離されたCD8 T細胞と共にインキュベートした(Imai K et al., Clin Cancer Res 2008;14:6487-95、Harao M et al., Int J Cancer 2008;123:2616-25)。7日目および14日目に、ペプチドを負荷した自己PHA−芽細胞による2回の付加的な刺激を実施した。PHA−芽細胞は、以前に記載された通りに作製し(Inoue M et al., Immunol Lett 2009;126:67-72)、これらのPHA−芽細胞(5×10個)に20μg/mLペプチドを3時間パルスし、放射線照射し(100 Gy)、10 ng/mLヒト組換えIL−7(Wako、日本、大阪)の存在下で2×10個のCD8 T細胞と共に培養した。2日後、この培養物に、20 IU/mLヒト組換えIL−2(PeproTec, Inc.)を補充した。
【0221】
最終刺激の6日後、誘導されたCTLの抗原特異的応答を調べた。ペプチドを負荷した自己PHA−芽細胞による付加的な週1回の刺激を2回、7日目および14日目に実施した。CD4 T細胞が濃縮された自己CD14 CD8細胞をPHA(2μg/mL)およびヒト組換えIL−2(100 IU/mL)と共に2日間培養し、細胞をPBSで洗浄し、ヒト組換えIL−2(100 IU/mL)と共にさらに3日間培養した。2%加熱非働化自己血漿を補充したAIM−V(Invitrogen)中、これらのPHA−芽細胞(5×10個)に50μg/mLペプチドを37℃で2時間パルスした。次に細胞を放射線照射し(100 Gy)、2×10個のCD8 T細胞と共にインキュベートした。これらの培養物を、5 ng/mLヒト組換えIL−7、IL−2、およびIL−15を補充した培地を用いて、24ウェルプレート中に準備した。最終刺激の6日後、以前に記載された通り(Komori H et al. Clin Cancer Res 2006; 12: 2689-97)および以下に記載される通りに、IFN−γ ELISPOTアッセイ、CD107a動員アッセイ、および51Cr放出アッセイにより、誘導されたCTLの抗原特異的応答を調べた。
【0222】
CD107a動員アッセイ
エピトープペプチドで刺激された脱顆粒しているCD8 Tリンパ球を同定するために、細胞表面上に露出されたCD107aをフローサイトメトリーにより解析した(Rubio V et al., Nat Med 2003;9:1377-82、Betts MR et al., J Immunol Methods 2003;281:65-78)。CD107a動員アッセイは、製造業者の説明書に従って、免疫細胞CD107a検出キット(MBL、日本、名古屋)を用いて実施した。誘導されたCTLを、2%加熱非働化自己血漿を補充したAIM−V(Invitrogen)中に細胞2×10個/mLの最終濃度で懸濁し、150μLの細胞懸濁液を96ウェル丸底マイクロプレートの各ウェルに添加した。CDC45L由来ペプチドまたは対照HIVペプチド(1μg/ml)を刺激物質として添加し、FITC標識抗ヒトCD107a mAbまたはFITC標識アイソタイプ対照マウスIgG1およびモネンシンを各ウェルに添加した。細胞を37℃で5時間培養した。培養後、細胞をPE結合抗ヒトCD8a(Biolegend)で染色し、フローサイトメトリー(FACScan;BD Biosciences)により解析した。
【0223】
CDC45Lノックダウン細胞の作製
肺癌細胞におけるCDC45Lの発現をノックダウンするために、CDC45L低分子干渉(si) RNA(ヒトCdc45 siRNA、sc−35044:3種の標的特異的20〜25 nt siRNAのプール;Santa Cruz)を40〜60%コンフルエント細胞に150 nMの最終濃度で添加した。製造業者の説明書に従って、Lipofectamine(商標) 2000(Invitrogen)を用いて、siRNAを細胞中にトランスフェクトした。GFP siRNAを非関連対照として使用した。トランスフェクションから72時間後に、処理した細胞をPBSで1回洗浄し、接着細胞を回収し、51Cr放出アッセイの標的細胞として使用した。siRNAがCDC45L発現を抑制する能力を調べるために、以前に記載された通りにウェスタンブロット解析を実施した(Nakatsura T et al., Biochem Biophys Res Commun 2003;306:16-25)。トランスフェクションから48時間後に、がん細胞をPBSで1回洗浄し、接着細胞を回収して溶解し、CDC45Lの発現レベルを解析し、陰性対照細胞のものと比較した。β−アクチンを内部対照として使用した。CDC45Lに反応するウサギポリクローナル抗体(sc−20685、Santa Cruz Biotechnology)を一次抗体として使用した。
【0224】
がん細胞株に対するヒトCTL応答
Lu99細胞(1×10個/ウェル)またはペプチドパルスしたC1R−A2402細胞およびT2細胞(1×10個/ウェル)で刺激した場合の、1×10個のCTL当たりのインターフェロン(IFN)−γ産生細胞の頻度を、以前に記載された通りにELISPOTアッセイ(ヒトIFN−γ ELISPOTキット、BD Biosciences)により解析した(Komori H et al., Clin Cancer Res 2006;12:2689-97、Bourgault VI et al., Cancer Res 2004;64:8761-6)。CTLを、標的細胞としてのがん細胞またはペプチドパルスしたC1R−A2402細胞およびT2細胞(5×10個/ウェル)と共に表示のエフェクター対標的比で共培養し、以前に記載された通りに標準的な51Cr放出アッセイを実施した(Yokomine K et al., Int J Cancer 2009;126:2153-63、Monji M et al., Clin Cancer Res 2004;10:6047-57)。抗ヒトHLAクラスI mAb、W6/32(IgG2a、Santa Cruz Biotechnology)によるHLA−クラスIのブロッキング、または抗ヒトHLA−DR mAb(IgG2a、BD Biosciences)によるHLA−クラスIIのブロッキングを、以前に記載された通りに実施した(Komori H et al., Clin Cancer Res 2006;12:2689-97、Makita M et al., Clin Cancer Res 2002;8:2626-31)。
【0225】
養子免疫療法モデル
実験的養子免疫療法を、以前に記載された通りに実施した(Imai K et al., Clin Cancer Res 2008;14:6487-95、Komori H et al., Clin Cancer Res 2006;12:2689-97)。簡潔に説明すると、内因性CDC45LおよびHLA−A24の両方について陽性であるLu99細胞(細胞3×10個/マウス)を、NOD/SCIDマウスの右側腹部に皮下接種した。7日目に腫瘍サイズがおよそ25mmに到達した時点で、CDC45L−A24−9−109−2(SEQ ID NO:2)、CDC45L−A24−9−294−3(SEQ ID NO:3)、およびCDC45L−A24−9−556−4(SEQ ID NO:4)ペプチドの混合物によるインビトロ刺激により2名の健常ドナーから誘導されたCDC45L特異的CTL株、または非関連HLA−A24拘束性HIVペプチドによる刺激により誘導されたCTL株を100μLのPBSに懸濁し、静脈内注射した(細胞4×10個/マウス)。CTLの静脈内注射を14日目に反復した。ノギスを用いて腫瘍サイズを週2回評価して、2つの垂直直径を測定した。
【0226】
統計解析
両側スチューデントt検定を用いて、ELISPOTデータの差、および処置群間の腫瘍サイズの差の統計的有意性を評価した。0.05未満のP値を統計的に有意であると見なした。統計解析は、市販の統計ソフトウェアパッケージ(StatView 5.0、Abacus Concepts、Calabasas, CA)を用いて行った。
【0227】
結果
cDNAマイクロアレイ解析に基づいた、肺癌におけるCDC45L遺伝子過剰発現の同定
27,648種の遺伝子を含むゲノム全域にわたるcDNAマイクロアレイを用いて、18例の肺癌組織およびそれらの隣接正常対応物の遺伝子発現プロファイルを調べた。cDNAマイクロアレイ解析から、12名の小細胞肺癌患者(平均相対発現比:163,087;範囲:81,204〜369,309)のすべて、および6名の非小細胞肺癌患者のうちの4名(平均相対発現比:15,170;範囲:0.08〜40,131)の肺癌組織において、CDC45L遺伝子の顕著に増強された発現が明らかになった(表2)。したがって、肺癌の新規TAAとして特徴づけるためにCDC45Lを選択した。CDC45L遺伝子の発現レベルは、cDNAマイクロアレイ解析に基づいて、前立腺癌、乳癌、および膀胱癌を含むいくつかの他の悪性腫瘍の大部分においても増強されていた(表2)。
【0228】
(表2)cDANマイクロアレイ解析により調べられた肺癌および様々な悪性腫瘍におけるCDC45L遺伝子の過剰発現

相対発現比(がん/正常組織)>5を陽性と見なした。
【0229】
正常組織、がん細胞株、および肺癌組織におけるCDC45L mRNAの発現
RT−PCRおよびノーザンブロット解析を用いて、正常組織におけるCDC45L遺伝子のmRNAレベルでの発現を解析した。正常組織におけるCDC45Lの半定量的RT−PCR解析から、CDC45Lが精巣および乳房においてのみわずかに発現することが明らかになった(図1A)。プローブとしてCDC45L cDNAを用いた正常組織におけるノーザンブロット解析から、RT−PCR解析の結果と一致して、精巣を除く22例の重要臓器ではCDC45Lは発現しないことが明らかになった(図1B)。対照的に、CDC45L遺伝子の発現は、RT−PCR解析を用いて、9例の肺癌細胞株のすべてにおいて検出された(図1C)。続いて、CDC45L遺伝子の発現を、肺癌組織においてRT−PCR解析を用いることにより解析した。8名のNSCLC患者のうち7名において、CDC45L mRNAはがん組織において強力に発現していた(図1D上部)。加えて、外科的に切除されたがん組織およびそれらの隣接正常対応物において、CDC45L遺伝子の発現をRT−PCR解析を用いて解析した。CDC45L遺伝子の発現は4例の肺癌組織のすべてにおいて検出されたが、それらの正常対応物では発現はほとんど検出されなかった(図1D下部)。さらに、胃癌、肝胆道癌、乳癌、前立腺癌、および結腸直腸癌に由来する様々ながん細胞株のRT−PCR解析から、CDC45L遺伝子がこれらのがん細胞株の多くでやはり発現することが明らかになった(図1E)。
【0230】
CDC45Lの発現をタンパク質レベルで調べるために、肺癌組織および正常組織の免疫組織化学解析を実施した。腺癌12例(12例中7例は気管支肺胞上皮癌であった)、扁平上皮癌8例、および小細胞癌6例からなる肺癌組織の試料26例を調べた。26例の試料はすべて、CDC45Lの強力な核染色および弱い細胞質染色を示した(図1F)。正常隣接肺組織では、染色は観察されないか、または非常に弱い染色が観察された(図1F)。CDC45Lは精巣では発現したが、脳、心臓、肝臓、腎臓、胃、小腸、結腸、膵臓、皮膚、脾臓、および胸腺を含む他の種類のヒト正常成人組織では、染色は観察されないか、または非常に弱い染色が観察された(図1F、およびデータは示さず)。まとめると、ヒト肺癌におけるCDC45Lのタンパク質発現レベルは、精巣を除いて、正常成体組織中のものよりも明らかにはるかに高かった。これらの結果は、RT−PCRおよびノーザンブロット解析の結果(図1A、B、およびD)と一致する。
【0231】
健常ドナーにおけるCDC45L由来かつHLA−A24拘束性CTLエピトープの同定
HLA−A24拘束性でありかつCDC45Lに由来するCTLエピトープを同定するために、NIH BIMASにより提供されるHLA−ペプチド結合予測ソフトウェアに従って、HLA−A24に対する高い結合親和性を有すると予測された16種の候補ペプチドを選択した(表1)。どのペプチドがペプチド反応性CTLを誘導し得るかを試験するために、健常ドナーのPBMCから選別されたCD8 T細胞を、これら16種のCDC45Lペプチドより選択された4種のペプチドの混合物をパルスした自己単球由来DCと共にインキュベートした。ペプチドを負荷した自己PHA−芽細胞による付加的な週1回の刺激を2回行った後、ペプチドパルスしたC1R−A2402細胞に対する細胞傷害活性を、IFN−γ ELISPOTアッセイにより調べた(図2)。2名のHLA−A24陽性健常ドナーのPBMCから選別されたCD8 T細胞を、16種のCDC45Lペプチドのうちの4種の混合物をパルスした自己単球由来DCで刺激した。結果として生じたCTL株中のCDC45L由来ペプチドに特異的なCD8 T細胞の頻度を、IFN−γ ELISPOTアッセイにより調べた(図3)。バックグラウンド対照を、非関連HIV−A24ペプチドをパルスしたC1R−A2402細胞で刺激した。作製されたCTL株は、CDC45L−A24−9−109−2(SEQ ID NO:2)、109VYNDTQIKL117、CDC45L−A24−9−294−3(SEQ ID NO:3)、294SYTAARFKL302、CDC45L−A24−9−556−4(SEQ ID NO:4)、556KFLDALISL564、CDC45L−A24−9−370−7(SEQ ID NO:7)、370KFLASDVVF378、またはCDC45L−A24−10−556−12(SEQ ID NO:12)、556KFLDALISLL565ペプチドをパルスしたC1R−A2402細胞での刺激に際して、大量のIFN−γを再現性よく産生した。これらの結果から、これら5種のCDC45L由来ペプチドが免疫原性であることが示唆される。
【0232】
これら5種の免疫原性ペプチドのCTL刺激能をさらに解析するために、CD107a動員アッセイを実施して、CTLによる細胞溶解性顆粒内容物の抗原特異的分泌を評価した(Rubio V et al., Nat Med 2003;9:1377-82、Betts MR et al. J Immunol Methods 2003;281:65-78)。これら5種の免疫原性ペプチドのうちの1種による刺激によって作製されたCTL株を、それらの同族ペプチドで再刺激した場合に、非関連HIV−A24ペプチドによる再刺激と比較して、有意に高い割合のCD8 T細胞が抗CD107a mAbにより染色された(図4)。
【0233】
肺癌患者におけるCDC45L由来ペプチドに特異的なCTL株の樹立
CDC45L−A24−9−109−2(SEQ ID NO:2)、CDC45L−A24−9−294−3(SEQ ID NO:3)、CDC45L−A24−9−556−4(SEQ ID NO:4)、CDC45L−A24−9−370−7(SEQ ID NO:7)、またはCDC45L−A24−10−556−12(SEQ ID NO:12)ペプチドによる刺激によって、HLA−A24について陽性である肺癌患者のPBMCから、CDC45L特異的CTLを作製した。これらのCTL株は、IFN−γ ELISPOTアッセイにおいて、CDC45L由来ペプチドに応答して有意に大量のIFN−γを産生した(図5A)。加えて、これらのCTL株は、51Cr放出アッセイにおいて、5種のCDC45L由来ペプチドをパルスしたC1R−A2402細胞に対して細胞傷害活性を示したが、非関連HIV−A24ペプチドをパルスしたC1R−A2402細胞に対しては細胞傷害活性を示さなかった(図5B)。これらの結果から、これらのCTLはペプチド特異的細胞傷害活性を有したことが示される。
【0234】
がん細胞におけるCDC45L CTLエピトープの天然のプロセシング
これらのCTLが、CDC45LおよびHLA−A24の両方を天然に発現するヒト肺癌細胞株を殺傷する能力を調べた。Lu99細胞およびEBC−1細胞(CDC45L+、HLA−A24+)、CDC45L特異的siRNAをトランスフェクトしたLu99細胞およびEBC−1細胞(CDC45L−、HLA−A24+)、対照GFP siRNAをトランスフェクトしたLu99細胞およびEBC−1細胞(CDC45L+、HLA−A24+)(図5C)、ならびにA549細胞(CDC45L+、HLA−A24−)を標的細胞として使用した。図5Dに示すように、それぞれCDC45L−A24−9−109−2(SEQ ID NO:2)およびCDC45L−A24−9−556−4(SEQ ID NO:4)ペプチドによる刺激によって健常ドナー4(下パネル、左)および肺癌患者−18(下パネル、右)から作製されたCTL株は、Lu99細胞、および対照GFP siRNAをトランスフェクトしたLu99細胞に対して細胞傷害性を示したが、CDC45L特異的siRNAをトランスフェクトしたLu99細胞(下パネル)およびA549細胞(下パネル、左)に対しては細胞傷害性を示さなかった。同様に、CDC45L−A24−9−294−3(SEQ ID NO:3)ペプチドによる刺激によって肺癌患者−1から作製されたCTLは、EBC−1細胞、およびGFP siRNAをトランスフェクトしたEBC−1細胞に対して細胞傷害性を示したが、CDC45L特異的siRNAをトランスフェクトしたEBC−1細胞およびA549細胞に対しては細胞傷害性を示さなかった(上パネル、左)。また、CDC45L−A24−9−370−7(SEQ ID NO:7)ペプチドによる刺激によって肺癌患者3および8から作製されたCTLは、EBC−1細胞、およびGFP siRNAをトランスフェクトしたEBC−1細胞に対して細胞傷害性を示したが、CDC45L特異的siRNAをトランスフェクトしたEBC−1細胞およびA549細胞に対しては細胞傷害性を示さなかった(上パネル、中央、右)。5種の免疫原性CDC45L由来ペプチドの中で、CDC45L−A24−9−109−2(SEQ ID NO:2)、CDC45L−A24−9−294−3(SEQ ID NO:3)、およびCDC45L−A24−9−556−4(SEQ ID NO:4)の3種は、CDC45LおよびHLA−A24の両方を天然で発現する肺癌細胞を効果的に溶解し得るCDC45L特異的CTLを誘発した。これらの結果から、これら3種のCDC45L由来ペプチドが天然でプロセシングされ、がん細胞においてHLA−A24分子と関連して提示され得ることが示唆される。
【0235】
3種のCDC45L由来ペプチドに特異的なCTLがHLA−クラスI拘束性様式で標的細胞を認識することを確認するために、HLA−クラスIに特異的なmAb(W6/32)を使用して、CTLによる認識をブロックした。IFN−γ産生および細胞傷害性は、HLA−クラスIに対するブロッキングmAbによって有意に阻害されたが、対照抗HLA−クラスII mAbによっては阻害されなかった(図6AおよびB)。これらの結果から、誘導されたこれらのCTLが、HLA−クラスI拘束性様式で、内因性CDC45Lを発現する標的細胞を認識することが明らかに示される。
【0236】
HLA−A2(A0201)およびHLA−A24(A2402)の両方によって拘束されるCTLを誘導し得るCDC45L−9−556−4(SEQ ID NO:4)、556KFLDALISL564ペプチド
HLA−ペプチド結合予測ソフトウェアSYFPEITHI(Institute for Immunology, University of Tubingen、Tubingen, Germany、www.syfpeithi.de/)によると、CDC45L−A2−9−556−4(SEQ ID NO:4、本明細書においてCDC45L−A24−9−556−4とも称される)、556KFLDALISL564ペプチドは、HLA−A24(A2402)のみならずHLA−A2(A0201)に対しても高い結合親和性を有すると予測された。HLA−A2402は日本人集団の中で最も頻度の高いHLAクラスIアリルであり、HLA−A0201は、アジア人、アフリカ人、アフリカ系アメリカ人、および白人を含む様々な民族の中で最もよく見られるHLAアリルの1つである(Browning M et al. Immunol Today 1996;17:165-70)。したがって、CDC45L−A2−9−556−4(SEQ ID NO:4)ペプチドは、HLA−A2およびHLA−A24の両方によって拘束される候補共通CTLエピトープであると仮定された。CDC45L−A2−9−556−4(SEQ ID NO:4)ペプチドがHLA−A2分子に結合することができるかどうかを決定するために、以前に記載された通りに、T2細胞を用いてHLA−A2安定化アッセイを実施した(Yokomine K et al., Int J Cancer 2009;126:2153-63)。CDC45L−A2−9−556−4(SEQ ID NO:4)ペプチドは、陽性対照として使用したHIV−A2ペプチドに匹敵する、HLA−A2を安定化する優れた能力で、HLA−A2分子に結合した(データは示さず)。したがって、HLA−A2に対する該ペプチドの実際の結合が確認された。
【0237】
次に、CDC45L−A2−9−556−4(SEQ ID NO:4)ペプチドによる刺激によって、HLA−A2(A0201)について陽性である健常ドナーのPBMCに由来するCDC45L−A2−9−556−4(SEQ ID NO:4)特異的CTLを作製した。HLA−A2陽性健常ドナーから作製されたCTL株は、該ペプチドをパルスしたT2細胞による刺激に特異的に応答して、IFN−γを産生した(図7A)。加えて、作製されたCTL株は、CDC45L−A2−9−556−4(SEQ ID NO:4)ペプチドをパルスしたT2細胞に対して細胞傷害性を示したが、非関連HIV−A2ペプチドを負荷したT2細胞、またはCDC45L−A2−9−556−4(SEQ ID NO:4)ペプチドを負荷したC1R−A2402細胞に対しては細胞傷害性を示さなかった(図7B)。これらの結果から、これらのCTLはHLA−A2拘束性様式でペプチド特異的細胞傷害性を媒介したことが示される。さらに、作製されたCTL株は、内因性のCDC45LおよびHLA−A2(A0201)分子を発現するがHLA−A24を発現しないPanc1細胞を効果的に溶解することができ、その細胞傷害性は、51Cr放出アッセイにより測定した通り、HLA−クラスIに対するブロッキングmAb(W6/32)により有意に阻害されたが、対照抗HLA−クラスII mAbによっては阻害されなかった(図7C)。
【0238】
これらの結果から、CDC45L−A2−9−556−4(SEQ ID NO:4)ペプチドがCDC45Lタンパク質から天然でプロセシングされ、HLA−A24との関連のみならずHLA−A2との関連においても提示されて、CDC45L−A2−9−556−4(SEQ ID NO:4)ペプチドで誘導されたCTLによって認識されたことが明らかに示される(図5D、6、および図7)。したがって、CDC45L−A2−9−556−4(SEQ ID NO:4)はHLA−A2およびHLA−A24の両方によって拘束される共通のCTLエピトープであり、このペプチドは、CDC45Lを発現するがんを有する日本人患者の80%超の免疫療法に適用可能である。
【0239】
NOD/SCIDマウスにおけるCDC45L反応性ヒトCTLのインビボ抗腫瘍活性
CDC45L陽性ヒト肺癌細胞を移植した免疫無防備状態のマウスへのCDC45L反応性CTLの接種の治療有効性を評価するために、NOD/SCIDマウスにLu99細胞を皮下接種した。7日後、腫瘍の直径がおよそ5×5mmに到達した時点で、CDC45L−A24−9−109−2(SEQ ID NO:2)、CDC45L−A24−9−294−3(SEQ ID NO:3)、およびCDC45L−A24−9−556−4(SEQ ID NO:4)ペプチドの混合物または非関連HIV−A24ペプチドをパルスした自己単球由来DC(0日目)および自己PHA−芽細胞(7日目および14日目)によるCD8 T細胞の刺激によって作製されたヒトCTLをマウスに静脈内注射した。CTLをマウスに接種する前に、CTLのペプチド特異的細胞傷害活性を評価した(図8)。HLA−A24陽性である2名の健常ドナーから作製されたCTL株は、健常ドナー5におけるCDC45L−A24−9−294−3(SEQ ID NO:3)ペプチド以外は、ペプチドをパルスしたC1R−A2402細胞による再刺激に特異的に応答してIFN−γを産生した(図8A)。加えて、CDC45Lペプチドの混合物はLu99細胞を効果的に溶解し得るCTLを誘発し、その細胞傷害性は51Cr放出アッセイにおいて、HLA−クラスIに特異的なブロッキングmAbにより有意に阻害された(図8B)。一方、健常ドナー4および健常ドナー5の両方において、CTL株は、CDC45L−A24−9−109−2(SEQ ID NO:2)ペプチドをパルスしたC1R−A2402に対して特異的溶解を示したが、CDC45L−A24−9−294−3(SEQ ID NO:3)、CDC45L−A24−9−556−4(SEQ ID NO:4)、または非関連HIV−A24ペプチドをパルスしたC1R−A2402に対しては特異的溶解を示さなかった(図8C)。
【0240】
Lu99細胞の接種後42日目に、CDC45Lで刺激されたCTLを接種したマウスにおける腫瘍(n=5;平均値±標準偏差[SD]、108±65mm)は、対照HIVペプチドで誘導されたCD8 T細胞(n=5;平均値±SD、271±94mm)またはPBS単独(n=5;平均値±SD、297±44mm)を接種したマウスのものよりも有意に小さかった(両側スチューデントt検定、P<0.05、**P<0.01;図8D)。結果から、NOD/SCIDマウスにおけるCDC45L陽性ヒト腫瘍に対するCDC45L特異的ヒトCTLの養子移入療法の有効性が明らかに示される。
【0241】
結論として、CDC45L抗原は、免疫原性が高いこと、および自己免疫現象を引き起こすことのない、肺癌のペプチドに基づく免疫療法の有望な標的であることが示唆される。
【0242】
考察
本研究において、肺癌のcDNAマイクロアレイ解析を用いて、新規TAAである細胞分裂周期45様(Cell division cycle 45−like(CDC45L))が同定された。マイクロアレイデータから、CDC45Lが、肺癌に加えて前立腺癌、乳癌、および膀胱癌においても過剰発現することが示された。肺癌組織におけるCDC45L遺伝子発現のcDNAマイクロアレイ解析から得られたデータと一致して、CDC45L遺伝子の発現は、4例の肺癌組織のすべてにおいて検出されたが、それらの正常対応物では検出されなかった。さらに、CDC45L発現は、正常組織でのRT−PCRおよびノーザンブロット解析において、精巣を除く多くの重要臓器ではほとんど検出不可能であった。これらの結果から、CDC45Lの標的化は、自己免疫疾患を引き起こすことのない、これらのがんに対する新規免疫療法アプローチであり得ることが示唆される。
【0243】
CDC45L由来の免疫原性ペプチドであるCDC45L−A24−9−109−2、CDC45L−A24−9−204−3、およびCDC45L−A24−9−556−4は、不完全フロイントアジュバント中に乳化したペプチドで免疫したBALB/cマウスにおいて、エピトープ特異的CTLを誘導し得ることも見出された(データは示さず)。CDC45L由来かつH2−Kd拘束性ペプチドであるCDC45L−A24−9−109−2およびCDC45L−A24−9−204−3で免疫したBALB/cマウスは、長期観察期間中に、リンパ球浸潤または組織破壊などの病理学的変化を示さず、かつ体重減少、下痢、および皮膚異常などの自己免疫疾患の徴候を示さなかった(未発表データ)。これらの結果から、CDC45L由来ペプチドは、マウスにおいて自己免疫疾患を引き起こすことなく、ペプチド反応性CTLをインビボで誘導し得ることも示される。
【0244】
CDC45LがDNA複製の開始および伸長段階において重要な役割を有することは周知であり、したがってがん細胞においてCDC45Lの喪失が生じることは難しい。以前の研究において、Pollokらは、CDC45Lタンパク質レベルが初代ヒト細胞と比較してヒトがん由来細胞において一貫してより高いこと、およびCDC45L発現が増殖細胞集団と密接に関連していることを示した(Pollk S, et al. FEBS J 2007; 274: 3669-3684)。付加的な以前の研究から、CDC45Lの上方制御が異形成の程度およびリンパ節の状態に依存することが示唆された(Li JN, et al. BMC Cancer 2008, 395: 1-8)。さらに、Fengらは最近、特異的si−RNAによるCDC45L遺伝子発現の下方制御により、Hela細胞およびHepG2細胞などのがん細胞株の増殖が顕著に阻害されることを報告し、CDC45Lが抗がん療法の有用な標的であることが示唆された(Feng D, et al. Cancer Res 2003; 63: 7356-7364)。最近の報告書は、臨床試験においてがんワクチンの奏効率は低かった(2.6%)とまとめた(Rosenberg S A, et al. Nat Med 2004;10: 909-15)。考えられる1つの理由は、治療によって誘発される免疫選択の結果として、TAAの欠失、変異、または下方制御に起因するがん細胞の免疫回避が起こるというものである。腫瘍細胞は腫瘍形成に必要とされる抗原を失うことはできないという観点に基づくと、CDC45Lは抗がん免疫療法に有用な可能性のある候補TAAであると見なされる。本発明において、ペプチドによるインビトロ刺激によってPBMCからHLA−A24拘束性ヒトCTLを作製することができる5種のHLA−A24拘束性CDC45Lエピトープペプチド、CDC45L−A24−9−109−2、CDC45L−A24−9−294−3、CDC45L−A24−9−556−4、CDC45L−A24−9−370−7、およびCDC45L−A24−10−556−12が同定された。さらに、CDC45L反応性CTLはまた、これら5種のペプチドによる刺激によって、肺癌患者から単離されたPBMCからも作製され得ることが見出された。4種のCDC45Lエピトープペプチド、CDC45L−A24−9−109−2、CDC45L−A24−9−294−3、CDC45L−A24−9−556−4、およびCDC45L−A24−9−370−7について、ペプチドで誘導されたCTLは、同族ペプチドをパルスしたC1R−A2402細胞のみならず、HLA−A24拘束性様式でCDC45Lを発現するがん細胞株をも殺傷することができた。これらのデータから、これらのCDC45Lペプチドががん細胞においてCDC45Lタンパク質から天然でプロセシングされ、HLA−A24分子との関連で細胞表面上に提示されて、CTLによって認識されることが示唆される。HLA−A24(A2402)は、日本人集団の中で最もよく見られるHLAアリルの1つであることが知られており、推測される抗原頻度は60%であり、これはまた白人にも存在し、推測される抗原頻度は10%である。HLA−A24拘束性でありかつCDC45Lに由来するCTLエピトープの同定はまた、世界中、特にアジアにおける多くの肺癌患者の免疫療法に有用であることが示唆されている(Date, Y., et al. Tissue Antigens, 1996; 47: 93-101)。
【0245】
結論として、本明細書に開示した結果から、CDC45Lは、そのエピトープペプチドが、CDC45LおよびHLA−A24の両方を発現するがん細胞を殺傷することができるCTLを誘発し得る新規TAAであることが示唆される。CDC45Lは肺癌、前立腺癌、乳癌、および膀胱癌を含むいくつかの種類のヒト悪性腫瘍で強力に発現するため、CDC45Lは、いかなる自己免疫現象も引き起こすことのない、上記の悪性腫瘍のペプチドに基づく免疫療法の有望な標的であることが示唆される。
【0246】
産業上の利用可能性
本発明は、新規TAA、特に強力かつ特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導することができ、幅広いがんのタイプに対する適用性を有する、CDC45L由来の新規TAAを提供する。このようなTAAは、CDC45Lに関連した疾患、例えばがん、例としては、精巣腫瘍、膵癌、膀胱癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、食道癌、前立腺癌、慢性骨髄性白血病(CML)、軟部組織腫瘍、胃癌、肝胆道癌、および結腸直腸癌が含まれるが、これらに限定されないがんに対するペプチドワクチンとして有用である。
【0247】
本明細書に引用したすべての特許、特許出願、および出版物は、その全体が参照により組み入れられる。
【0248】
さらに、本発明はその特定の態様に関して本明細書において詳細に記載されるが、前述の説明は本質的に例示的かつ説明的なものであって、本発明およびその好ましい態様を説明することを意図していることが理解されるべきである。当業者は、慣行的な実験を通して、その境域および境界が添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更および修正がなされ得ることを容易に理解するであろう。
【図1a−d】

【図1e−f】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLA抗原に結合し、かつ細胞傷害性Tリンパ球(CTL)誘導能を有する、単離されたペプチドであって、SEQ ID NO:18のアミノ酸配列からなるポリペプチドに由来するか、またはその免疫学的活性断片である単離されたペプチド。
【請求項2】
HLA抗原がHLA−A24またはHLA−A2である、請求項1記載の単離されたペプチド。
【請求項3】
以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1または2記載の単離されたペプチド:
(a) SEQ ID NO:4、2、3、7、および12;ならびに
(b) 1個、2個、または数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失、および/または付加されている、SEQ ID NO:4、2、3、7、および12。
【請求項4】
以下の特徴の一方または両方を有する、請求項1〜3のいずれか一項記載の単離されたペプチド:
(a) N末端から2番目のアミノ酸が、フェニルアラニン、チロシン、メチオニン、およびトリプトファンからなる群より選択されるアミノ酸であるか、または該アミノ酸であるように改変されている;ならびに
(b) C末端のアミノ酸が、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、およびメチオニンからなる群より選択されるアミノ酸であるか、または該アミノ酸であるように改変されている。
【請求項5】
以下の特徴の一方または両方を有する、請求項1〜3のいずれか一項記載の単離されたペプチド:
(a) N末端から2番目のアミノ酸が、ロイシンおよびメチオニンからなる群より選択されるアミノ酸であるか、または該アミノ酸であるように改変されている;ならびに
(b) C末端のアミノ酸が、バリンおよびロイシンからなる群より選択されるアミノ酸であるか、または該アミノ酸であるように改変されている。
【請求項6】
ノナペプチドまたはデカペプチドである、請求項1〜5のいずれか一項記載の単離されたペプチド。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項記載のペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項8】
CTLを誘導するための組成物であって、請求項1〜6のいずれか一項記載の1種もしくは複数種のペプチド、または請求項7記載の1種もしくは複数種のポリヌクレオチドを含む組成物。
【請求項9】
がんの治療および/もしくは予防のための、ならびに/または術後のその再発の予防のための薬学的組成物であって、請求項1〜6のいずれか一項記載の1種もしくは複数種のペプチド、または請求項7記載の1種もしくは複数種のポリヌクレオチドを含む薬学的組成物。
【請求項10】
HLA抗原がHLA−A24またはHLA−A2である対象への投与のために製剤化される、請求項9記載の薬学的組成物。
【請求項11】
がんを治療するために製剤化される、請求項9または10記載の薬学的組成物。
【請求項12】
CTL誘導能を有する抗原提示細胞(APC)を誘導するための方法であって、以下からなる群より選択される段階を含む方法:
(a) APCを、請求項1〜6のいずれか一項記載のペプチドとインビトロ、エクスビボ、またはインビボで接触させる段階、および
(b) 請求項1〜6のいずれか一項記載のペプチドをコードするポリヌクレオチドを、APCに導入する段階。
【請求項13】
CTLを誘導するための方法であって、以下からなる群より選択される段階を含む方法:
(a) CD8陽性T細胞を、HLA抗原と請求項1〜6のいずれか一項記載のペプチドとの複合体をその表面上に提示するAPCと共培養する段階;
(b) CD8陽性T細胞を、HLA抗原と請求項1〜6のいずれか一項記載のペプチドとの複合体をその表面上に提示するエキソソームと共培養する段階;および
(c) 請求項1〜6のいずれか一項記載のペプチドに結合することができるT細胞受容体(TCR)サブユニットポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子を、T細胞に導入する段階。
【請求項14】
HLA抗原と請求項1〜6のいずれか一項記載のペプチドとの複合体をその表面上に提示する、単離されたAPC。
【請求項15】
請求項12記載の方法によって誘導される、請求項14記載のAPC。
【請求項16】
請求項1〜6のいずれか一項記載のペプチドを標的とする、単離されたCTL。
【請求項17】
請求項13記載の方法によって誘導される、請求項16記載のCTL。
【請求項18】
対象においてがんに対する免疫応答を誘導する方法であって、請求項1〜6のいずれか一項記載の1種もしくは複数種のペプチド、1種もしくは複数種のその免疫学的活性断片、または該ペプチドもしくは該断片をコードする1種もしくは複数種のポリヌクレオチドを含む組成物を該対象に投与する段階を含む方法。
【請求項19】
請求項1〜6のいずれか一項記載のペプチドに対する抗体またはその断片。
【請求項20】
請求項1〜6のいずれか一項記載のペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むベクター。
【請求項21】
請求項20記載の発現ベクターを用いて形質転換またはトランスフェクトされた宿主細胞。
【請求項22】
請求項1〜6のいずれか一項記載のペプチド、請求項7記載のポリヌクレオチド、または請求項19記載の抗体を含む、診断キット。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a−c】
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【図5d】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8a−b】
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【図8c−d】
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【公表番号】特表2012−527867(P2012−527867A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550339(P2011−550339)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【国際出願番号】PCT/JP2010/003488
【国際公開番号】WO2010/137295
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】