説明

CMP−デアミノノイラミン酸の製造法

【課題】 CMP−デアミノノイラミン酸(CMP−KDN)の効率的な大量合成法及び精製法を提供する。
【解決手段】シチジン5’−トリリン酸(5’−CTP)とデアミノノイラミン酸(KDN)から酵素的にCMP−デアミノノイラミン酸(CMP−KDN)を製造する方法において、酵素としてCMP−N−アセチルノイラミン酸合成酵素(CMP−NeuAcシンセターゼ)を使用する、CMP−KDNの製造法を提供する。
また、工程1〜4よりなるCMP−KDNの精製法を提供する。
(工程1)CMP−KDN含有液に2価カチオンを添加し、共存するリン酸、ピロリン酸、ヌクレオチドを沈殿させる工程、(工程2)アルカリホスファターゼ反応によりヌクレオチドをヌクレオシドに変換する工程、(工程3)有機溶媒によりCMP−KDNを沈殿させる工程、及び(工程4)CMP−KDNを回収する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖鎖合成の原料であるCMP−デアミノノイラミン酸(CMP−KDN)の製造法、精製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素骨格9からなるα−ケト酸であるシアル酸は生物界に広く存在し、炭素5位のアミノアシル基の違い、あるいは炭素4位、同7位、同8位、同9位の水酸基のアシル基の有無の違いから30種類以上存在することが明らかとなっている。
【0003】
シアル酸の中で最も主要なものとしては、N−アセチルノイラミン酸(NeuAc)が挙げられ、当該シアル酸は、糖鎖の還元末端に位置し、細胞接着、ウイルス感染の際の受容体となるなど生体内における認識という行為において重要な役割を果たしている。
【0004】
そのような理由からこのNeuAcを含めシアル酸を含有するオリゴ糖、糖脂質、糖タンパク質、あるいはある種の担体と結合させた複合糖質を医薬品又は機能性素材として用途開発することが期待されている。
【0005】
デアミノノイラミン酸(2−ケト−3−デオキシ−D−グリセロ−D−ガラクト−ノノン酸;KDN)は、5位のN−アシル基がOH基に置換しているシアル酸である。ニジマスの卵糖タンパク質から初めて発見され、その後、魚類以外にも細菌しょう膜多糖、両生類の卵、哺乳類の糖タンパク質や糖脂質など、生物界に広く存在することが明らかとなっている。
【0006】
KDN又はそれを含有シアロ糖鎖の特徴は、細菌、ウイルス、並びにある種の動物細胞由来のシアリダーゼに対して抵抗性を有することである。NeuAcなどのシアル酸含有糖質を血中などの生体内に導入した場合、シアル酸あるいはシアル酸残基がシアリダーゼによって分解されてアシアロ糖質となり、これが肝臓などで速やかに代謝されることから、KDN又はそれを含有シアロ糖鎖の安定性、半減期の減少などが問題とされていた。また、ウイルスなどの吸着用素材として使用したシアロ糖鎖含有糖質が、ウイルスなどの吸着物由来のシアリダーゼによりシアル酸が分解され、吸着活性が低下するといった問題も指摘されていた。
【0007】
しかし、NeuAcと構造類似体であるKDNがシアリダーゼ抵抗性を持つことから、NeuAcの替わりにKDNを用いることで、シアロ糖鎖含有糖質の生体内、特に血中などにおける安定性、半減期の飛躍的な向上が期待されるため、すなわちアシアロ糖鎖、糖質の分解ブロッカーとして機能することが考えられるため、KDN含有シアロ糖質の応用開発が望まれていた。
【0008】
このようなKDN含有シアロ糖鎖又は糖質は、一般的にシアル酸糖転移酵素の触媒反応により糖供与体としてCMP−KDNを用いて合成できることが報告されている。しかしながら、その糖供与体であるCMP−KDNについて量産方法は確立されておらず、また、現在では試薬としても販売されていないことから入手が極めて困難であり、これがKDN含有シアロ糖質の開発、実用化の妨げになっていると言っても過言ではない。
【0009】
従来、CMP−KDNの合成法としては、化学法及び酵素法が挙げられる。化学合成法は、糖由来の水酸基、並びにヌクレオチド由来のリン酸基の保護、脱保護が必要であり、煩雑なステップを踏むことから、また、生成する副産物の分離を行うために各種クロマトグラフィーが必要となることでかなりの労力が必要であることから、試薬レベルならまだしも、実用、量産に適した方法とは言い難い。
【0010】
酵素合成法としては、Teradaらは、ニジマス精巣由来CMP−KDN合成酵素を用いてシチジン5’−トリリン酸(5’−CTP)とKDNからの合成を報告している(非特許文献1)。
【0011】
伊藤らは利用価値のないウシ顎下腺、またはブタ肝臓の水性抽出物の上澄液中に存在するCMP−KDN合成活性(酵素)を利用したCMP−KDN合成について報告している(特許文献1)。
【0012】
一方、CMP−KDN合成液からCMP−KDNを取得する方法としては、Teradaらは、合成反応終了液を仔牛由来アルカリホスファターゼを用いて処理することで、反応で生成した5’−CTP由来のヌクレオチドをヌクレオシドに分解した後、ペーパークロマトグラフィーによる分離、並びにペーパーからの有機溶媒抽出、その後、ゲルろ過クロマトグラフィーを行うことでCMP−KDNを取得できることを報告している(非特許文献1)。
【0013】
また、伊藤らは、CMP−KDN合成液を有機溶媒系を用いるシリカゲルカラムクロマトグラフィーを2回実施した後、最後にゲルろ過クロマトグラフィーを行うことでCMP−KDNを取得できることを報告している(特許文献1)。
【0014】
【特許文献1】特開平6−141880
【非特許文献1】J.Biol.Chem.,268,2640−2648(1993)
【非特許文献2】Glycobiology,11,685−692(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、Teradaらの方法(非特許文献1)は、当該合成反応に用いた酵素がニジマス精巣から調製したものであることから、当該酵素の大量調製、取得が困難であり、これを解決するために当該遺伝子をクローニングし、大腸菌内での発現系が検討しているが(非特許文献2)、発現量が不十分で、量産に対応できる量が取得できているとは言えなかった。さらに、ニジマス由来調製の酵素を用いた反応でCMP−KDNを調製した場合、CMP−KDNの収率は、対KDNあたり8.2%、対CTPあたり3.3%、また、大腸菌生産の組換え酵素を用いた反応でも対KDN及び対CTPあたり12%と極めて低い収率でしかCMP−KDNを合成することができず、満足できる方法とは言いものであった。
【0016】
一方、伊藤らの方法(特許文献1)は、利用価値のないウシ顎下腺、またはブタ肝臓の水性抽出物の上澄液中に存在するCMP−KDN合成活性(酵素)を利用しており、酵素の原料としては安価で、大量入手可能な材料を用いてはいるが、酵素の由来が動物由来であり、現在問題となっているBSEなどの感染症の問題があり、酵素源としては好ましいものではなかった。また、基質である5’−CTPの分解活性など、共雑活性を取り除くため酵素を高純度に精製する必要があり、かつウシ顎下腺調製酵素を用いた反応でのCMP−KDNの収率は、対KDNあたり40%と若干高いものの、対5’−CTPあたり13.3%と低く、ブタ肝臓調製酵素反応では対KDNあたり18.0%、対5’−CTPあたり6.0%と、必ずしも満足する収率とは言い難かった。
【0017】
さらに、CMP−KDN合成液からCMP−KDNを取得する方法としては、Teradaらの方法(非特許文献1)では、ペーパークロマトグラフィーによる分離、並びにペーパーからの有機溶媒抽出、その後、ゲルろ過クロマトグラフィーを採用しており、このような方法はスケールアップが非常に困難なことから、量産は事実上不可能と考えられ、伊藤らの方法(特許文献1)では、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを2回実施した後、最後にゲルろ過クロマトグラフィーを行う方法を採用しているものの、この方法もまたスケールアップが困難で、必ずしも実用的な方法とは言えなかった。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記問題点を解決すべく、鋭意検討したところ、(1)安全で大量取得が容易な微生物由来CMP−NeuAc合成酵素が、本来の活性であるCMP−NeuAc合成活性以外にもCMP−KDN合成活性をも併せ持ち、この酵素を用いることで効率よく5’−CTPとKDNからCMP−KDNが合成できること、(2)当該反応液から、複雑なクロマトグラフィー処理を行わずとも、2価カチオンを添加し、CMP−KDNを沈殿させるという簡単な操作を行うことで高純度のCMP−KDNを容易に取得できることを見出し、この方法は、スケールアップが可能で量産に耐えうるCMP−KDNの工業的な大量製造法に適した方法であることを確認し、本発明を完成させた。
【0019】
したがって、本発明は以下の通りである。
【0020】
〔1〕シチジン5’−トリリン酸(5’−CTP)とデアミノノイラミン酸(KDN)から酵素的にCMP−デアミノノイラミン酸(CMP−KDN)を製造する方法において、酵素としてCMP−N−アセチルノイラミン酸合成酵素(CMP−NeuAcシンセターゼ)を使用する、CMP−KDNの製造法。
〔2〕KDNとして、N−アセチルノイラミン酸リアーゼを用いてマンノース及びピルビン酸から調製したもの、あるいはその反応液を使用する、〔1〕記載の方法。
〔3〕工程1〜4よりなるCMP−KDNの精製法。
工程1:CMP−KDN含有液に2価カチオンを添加し、共存するリン酸、ピロリン酸、ヌクレオチドを沈殿させる工程、
工程2:アルカリホスファターゼ反応によりヌクレオチドをヌクレオシドに変換する工程、
工程3:有機溶媒によりCMP−KDNを沈殿させる工程、及び
工程4:CMP−KDNを回収する工程
〔4〕工程4の前後に、イオン交換樹脂を用いて、CMP−KDNの塩の交換を行う、〔1〕記載の精製法。
【発明の効果】
【0021】
本発明のCMP−KDN合成は、安全で大量調製可能な微生物由来CMP−NeuAc合成酵素を用いた反応であり、反応効率も従来のCMP−KDN合成酵素を用いた方法と比較し、著しく高いことから効率的な大量合成法としては極めて有意義な方法である。
【0022】
さらに、本発明のCMP−KDNの精製法は、2価カチオンを添加し、CMP−KDNを沈殿させるという簡単な操作を基本とするため、煩雑なクロマトグラフィーを使用せずとも高純度のCMP−KDNを容易に取得できることから、スケールアップが容易で、工業的な大量製造法に適した極めて有意義な方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(1)酵素の調製
本発明で使用するCMP−NeuAc合成酵素とは、5’−CTPとNeuAcを基質としてCMP−NeuAcを合成する反応を触媒する活性を有するものを意味し、微生物由来のCMP−NeuAc合成酵素は、上記反応以外にも5’−CTPとKDNを基質としてCMP−KDNを生成する触媒活性も併せ持つものである。
【0024】
このような微生物由来のCMP−NeuAc合成酵素は公知の酵素であり、当該活性を有する細胞(形質転換体を含む)またはその処理物、あるいはこれらの精製物を例示することができる。これらの酵素がCMP−KDNの合成活性が強いか否かは、簡単は反応試験で判別可能である。特に、ヘモフィラス・インフルエンザ(H.influenzae)株、ヘモフィラス・ディクレイ(H.ducreyi)株、大腸菌K1(E.coli)、ナイセリア・メニンギティディス(N.meningitidis)、カンピロバクター・ジェジュニ(C.jejuni)、スプレプトコッカス・アガラクチェ(S.agalactiae)、ヘリコバクター・ピロリ(H.pylori)株由来のもなどが好適な酵素として利用可能である。
【0025】
また、当該活性を増強させるための手段として、該酵素遺伝子群(J.Biol.Chem.,271,15373-15380,1996、Glycobiology,1,187-191,1991、J.Biol.Chem.,264,14769-14774,1989)をクローンニングし、菌体内でこれを大量発現させた部生物種を用いる、いわゆる組換えDNA手法を用いるのが好適である。
【0026】
遺伝子のクローニング、クローン化したDNA断片を用いた発現ベクターの調製、発現ベクターを用いた目的とする酵素活性を有する酵素タンパク質の調製などは、分子生物学の分野に属する技術者にとっては周知の技術であり、具体的には、例えば「Molecular Cloning」(Maniatisら編、Cold Spring Harbor Laboratories, Cold Spring Harbor、New York(1982))に記載の方法に従って行うことができる。
【0027】
たとえば、報告されている塩基配列をもとにプローブを合成し、微生物の染色体DNAより目的とする酵素活性を有する酵素タンパク質をコードする遺伝子を含有するDNA断片をクローニングすればよい。クローン化に用いる宿主は特に限定されないが、操作性及び簡便性から大腸菌を宿主とするのが適当である。
【0028】
クローン化した遺伝子の高発現系を構築するためには、たとえばマキザムーギルバートの方法(Methods in Enzymology,65,499(1980))もしくはダイデオキシチェインターミネーター法(Methods in Enzymology,101,20(1983))などを応用してクローン化したDNA断片の塩基配列を解析して該遺伝子のコーディング領域を特定し、宿主微生物に応じて該遺伝子が菌体中で自発現可能となるように発現制御シグナル(転写開始及び翻訳開始シグナル)をその上流に連結した組換え発現ベクターを作製する。
【0029】
ベクターとしては、種々のプラスミドベクター、ファージベクターなどが使用可能であるが、大腸菌菌体内で複製可能であり、適当な薬剤耐性マーカーと特定の制限酵素切断部位を有し、菌体内のコピー数の高いプラスミドベクターを使用するのが望ましい。具体的には、pBR322(Gene,2,95(1975))、pUC18,pUC19(Gene、33,103(1985))などを例示することができる。
【0030】
作製した組換えベクターを用いて大腸菌を形質転換する。宿主となる大腸菌としては、例えば組換えDNA実験に使用されるK12株、C600菌、JM105菌、JM109菌(Gene,33,103-119(1985))などが使用可能である。大腸菌を形質転換する方法はすでに多くの方法が報告されており、低温下、塩化カルシウム処理して菌体内にプラスミドを導入する方法(J.Mol.Biol.,53,159(1970))などにより大腸菌を形質転換することができる。
【0031】
得られた形質転換体は、当該微生物が増殖可能な培地中で増殖させ、さらにクローニングした目的とする酵素活性を有するタンパク質の発現を誘導して菌体内に当該酵素タンパク質が大量に蓄積するまで培養を行う。形質転換体の培養は、炭素源、窒素源などの当該微生物の増殖に必要な栄養源を含有する培地を用いて常法に従って行えばよい。例えば、培地としてブイヨン培地、LB培地(1%トリプトン、0.5%イーストエキストラクト、1%食塩)または2×YT培地(1.6%トリプトン、1%イーストエキストラクト、0.5%食塩)などの大腸菌の培養に常用されている培地を用い、30〜50℃の培養温度で10〜50時間程度必要により通気攪拌しながら培養することができる。また、ベクターとしてプラスミドを用いた場合には、培養中におけるプラスミドの脱落を防ぐために適当な抗生物質(プラスミドの薬剤耐性マーカーに応じ、アンピシリン、カナマイシンなど)の薬剤を適当量培養液に加えて培養する。
【0032】
目的の酵素活性を有する菌体としては、上記の方法で得られる培養液から遠心分離、膜分離などの固液分離手段で回収したものを例示することができる。また、回収した菌体を、機械的破壊(ワーリングブレンダー、フレンチプレス、ホモジナイザー、乳鉢などによる)、凍結融解、自己消化、乾燥(凍結乾燥、風乾などによる)、酵素処理(リゾチームなどによる)、超音波処理、化学処理(酸、アルカリ処理などによる)などの一般的な処理法に従って処理して得られる処理物、もしくは該菌体処理物から目的の酵素活性を有する画分を通常の酵素の精製手段(塩析処理、等電点沈澱処理、有機溶媒沈澱処理、透析処理、各種クロマトグラフィー処理など)を施して得られる粗酵素または精製酵素も菌体処理物として利用することができる。
【0033】
(2)CMP−KDNの合成
CMP−KDN合成反応に使用するKDNとしては、(1)ニジマス卵、精巣などの天然物より抽出、取得したもの(Anal.Biochem.,202,25-34(1992))、(2)ピルビン酸とマンノースからNeuAcリアーゼの触媒反応により可逆的に合成したもの(J.Am.Chem.Soc.,110,6481-6486(1988)、Tetrahedran,46,201-214(1990))、(3)ホスホエノールピルビン酸とマンノースからNeuAc−9リン酸シンセターゼの触媒反応によりKDN−9リン酸を不可逆的に合成した後、ホスファターゼによりKDNにしたもの(J.Biol.Chem.,275,17869-17877(2000))、あるいは微生物由来NeuAcシンセターゼの触媒反応により不可逆的に合成したものなどを利用することが可能であり、これらを各種クロマトグラフィーにより精製、単離したもの、あるいはKDN抽出液、あるいは合成反応液をそのまま使用することができる。
【0034】
これらの内、調製が比較的容易なことからNeuAcリアーゼの触媒反応を用いて合成したものをそのまま使用することが、工程的にもコスト的にも有利で望ましい。使用するKDN及び5’−CTPの各濃度としては、1〜2000mM、好ましくは10〜1000mMの範囲から便宜設定することができる。
【0035】
合成反応は上記範囲での基質濃度で、CMP−NeuAc合成酵素を反応液1L当たり1ユニット以上、好ましくは10〜50000ユニットを添加し、50℃以下、好ましくは15〜45℃で1〜150時間程度、必要により攪拌しながら反応させることにより実施できる。
【0036】
CMP−KDN合成反応においては、必要に応じてマグネシウムを添加するのが好ましい。マグネシウムとしては、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウムなどの無機酸のマグネシウム塩、クエン酸マグネシウムなどの有機酸マグネシウム塩を使用することができ、その使用濃度としては1〜1000mMの範囲から便宜設定することが出来る。
【0037】
(3)CMP−KDNの精製
このようにして得られたCMP−KDN合成液は、その不安定さから高純度のものの取得が非常に困難であったが、2価カチオンを添加し、共存するリン酸、ピロリン酸、ヌクレオチドを沈殿させ(工程1)、アルカリホスファターゼ反応によりヌクレオチドをヌクレオシドに変換した後(工程2)、有機溶媒によりCMP−KDNを沈殿させ(工程3)、必要によりイオン交換カラムにより塩置換を行った後、CMP−KDNを回収する(工程4)ことで、高純度のCMP−KDNを簡単な操作により回収することができる。以下、各工程毎に説明する。
【0038】
(工程1)
工程1は、CMP−KDN含有液に2価カチオンを添加し、共存するリン酸、ピロリン酸、ヌクレオチドを沈殿させる工程である。
【0039】
添加する2価カチオンとしては、無機リン酸、ピロリン酸もしくはヌクレオチドと不溶性の沈殿を形成するものであれば特に限定されず、例えばカルシウム又はマンガンの各イオンを挙げることができる。具体的には、カルシウムイオンを添加する場合には、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等の水溶性カルシウム塩を使用することができ、マンガンイオンを添加する場合には塩化マンガン、硫酸マンガン等の水溶性マンガン塩を使用することができる。添加濃度としては、0.1〜2000mMの範囲から適宜設定すればよい。
【0040】
このような2価カチオンをCMP−KDN含有液に添加し、温度0〜60℃の条件下、必要によりpHを6.0〜13.0に調整し、及び/又は撹拌することで、リン酸カルシウム、リン酸マンガン等の不溶塩が沈降してくるので、沈殿物を通常の固液分離手段(ろ過、遠心分離等)で取り除き、次工程に供する。
【0041】
(工程2)
工程2は、CMP−KDN含有液にホスファターゼを添加し、共存するヌクレオチドをヌクレオシドに変換する工程である。
【0042】
反応に使用するホスファターゼとしては、ヌクレオチドのリン酸残基を脱リン酸してヌクレシドに変換できる酵素で、5’−CMP、5’−CDP、5’−CTPを特異的にシチジンまで加水分解できる酵素であれば特に限定されず、特に、反応時におけるCMP−KDNの安定性や酵素調製の容易性等を考慮すると、アルカリホスファターゼ、特に大腸菌アルカリホスファターゼが好適である。
【0043】
ホスファターゼ反応は、CMP−KDN含有液1ml当たり0.01ユニット以上、好ましくは0.1〜50ユニット添加し、70℃以下、好ましくは20〜60℃で0.1〜50時間程度、必要により撹拌し、pHを調整しながら反応させることにより実施できる。
【0044】
なお、上記工程1と工程2は、順序は特に関係なく、どちらを先に行ってもかまわず、同時に行っても良い。例えば、工程1、工程2の順番で実施した場合、反応後、反応液中に2価イオンが存在するため、ホスファターゼ処理中あるいは処理後、リン酸カルシウム、リン酸マンガン等の不溶塩が沈降してくるので、沈殿物を通常の固液分離手段(ろ過、遠心分離等)で取り除き、次工程に供する。
【0045】
(工程3)
工程3は、有機溶媒を添加し、CMP−KDNを沈殿させる工程である。
【0046】
添加する有機溶媒としては、炭素数1〜5のアルコールが好ましく、具体的にはメタノール、エタノール、イソプロパノール等を使用することができる。また、有機溶媒の添加量としては、反応液当たり0.1〜20倍量の範囲から適宜設定することができる。
【0047】
このような有機溶媒を上記工程1又は工程2の処理後の液に添加し、温度−80〜60℃の条件下、必要によりpHを6.0〜13.0に調整し、及び/又は撹拌することで、CMP−KDNが沈降してくる。
【0048】
(工程4)
工程4は、沈殿したCMP−KDNを回収する工程である。
【0049】
回収の方法は、通常の固液分離手段(ろ過、遠心分離等)によって行うことができ、回収後、必要により乾燥させて製品とする。
【0050】
また、上記工程3と本工程4を複数回(通常、2〜5回程度)実施することで、より高純度のCMP−KDNを取得することができる。
【0051】
(付加工程)
上記工程4終了前後、CMP−KDNはカルシウム塩、マンガン塩等の塩となっているため、必要に応じて、例えばナトリウム塩等に変換することも可能である。
【0052】
塩の交換反応は、回収した沈殿を再溶解し、例えば、目的とする塩に置換したカチオン交換樹脂に接触(当該樹脂カラムへ通液等)させることで実施することができる。
このようにして得られたCMP−KDNはHPLCよる純度が95%以上で、5’−CMP等の夾雑物が極めて少ない高純度の製品である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明がこれに限定されないことは明らかである。なお、NeuAcリアーゼ、CMP−NeuAc合成酵素、及びアルカリホスファターゼの調製法並びに当該酵素活性の定義等は、日本特許第3833584号公報及び国際公開番号WO2005/030974公報の記載に準じて行った。
【0054】
また、CMP−KDNの定量にはHPLC法により行った。具体的には、分離にはYMC社製のODS−HS302カラムを用い、溶出液には0.1Mトリエチルアミンーリン酸(pH6.0)を用いた。KDNの定量にはHPAE−PAD法により行った。具体的には分離、検出には日本ダイオネクス社製のCarboPac PA1、ED40を用い、溶出液としてA液;0.1M NaOH、B液;A液+0.5M酢酸ナトリウムを用い、A液−B液のグラジエントにより行った。
【0055】
実施例
(1)KDN合成
400mMマンノース、400mMピルビン酸溶液(25ml)に2ユニット/ml反応液のNeuAcリアーゼを添加し、室温で反応を行った。63時間後、100℃、5分間の熱処理を行った後、HPPAE−PAD法でKDN生成量を測定したところ、270.3mMのKDNの生成を確認した。
【0056】
(2)CMP−KDN合成
20mM 5’−CTP、20mM KDN(上記(1)で合成した反応液13.8ml相当)、50mM塩化マグネシウムを含有する溶液(200ml)に1.75ユニット/ml反応液当たりのCMP−NeuAc合成酵素を添加し、40℃で反応を行った。反応中pHの低下を抑えるために水酸化ナトリウム溶液を適宜添加した。反応開始45分後、一部を分取し、HPLC分析により確認したところ、15.1mMのCMP−KDNの生成を確認した。対KDN及び対5’−CTPモル収率はそれぞれ75.5%と非常に高い反応率であった。
【0057】
(3)CMP−KDNの取得
上記CMP−KDN合成反応、開始55分後、80mM相当量の塩化カルシウム溶液を添加することで反応を停止させ、続けて40ユニットのアルカリホスファターゼを添加し、40℃で反応を行った。反応途中、pHの低下を抑えるために水酸化ナトリウム溶液を適宜添加した。反応開始60分後に氷上に移すことで反応を終了させた。
【0058】
反応終了液を20,000gx10分の遠心分離により上清を回収し、塩酸でpHを中性に戻した後、活性炭粉末と共に攪拌した。活性炭粉末を除去した後、エバポレーターによる濃縮を行い、濃縮液に5倍量のエタノールを添加した。冷却しながら一晩攪拌を行った後、20,000gx10minの遠心分離を行うことで沈殿画分を回収した。
【0059】
沈殿画分を再度蒸留水で溶解し、同様にエタノールによる沈殿、遠心分離を行うことで沈殿画分を回収した。沈殿画分を蒸留水で再溶解した後、Dowex AG50Wx8(ナトリウム型)カラム(7.5ml)に通液し、さらに30ml蒸留水を通液しこれらを回収した。
【0060】
回収画分をエバポレーター濃縮した後、5倍量のエタノールを添加し、冷却しながら一晩攪拌を行った。沈殿画分を20,000gx10分の遠心分離を行うことで回収し、これを蒸留水で再溶解した後、凍結乾燥を行うことでHPLC純度97.0%のCMP−KDN標品1.43gを回収した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シチジン5’−トリリン酸(5’−CTP)とデアミノノイラミン酸(KDN)から酵素的にCMP−デアミノノイラミン酸(CMP−KDN)を製造する方法において、酵素としてCMP−N−アセチルノイラミン酸合成酵素(CMP−NeuAcシンセターゼ)を使用する、CMP−KDNの製造法。
【請求項2】
KDNとして、N−アセチルノイラミン酸リアーゼを用いてマンノース及びピルビン酸から調製したもの、あるいはその反応液を使用する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程1〜4よりなるCMP−KDNの精製法。
工程1:CMP−KDN含有液に2価カチオンを添加し、共存するリン酸、ピロリン酸、ヌクレオチドを沈殿させる工程、
工程2:アルカリホスファターゼ反応によりヌクレオチドをヌクレオシドに変換する工程、
工程3:有機溶媒によりCMP−KDNを沈殿させる工程、及び
工程4:CMP−KDNを回収する工程
【請求項4】
工程4の前後に、イオン交換樹脂を用いて、CMP−KDNの塩の交換を行う、請求項3記載の精製法。