説明

CMPリング

【課題】本発明は、従来の熱可塑性ポリエステルよりも成型品の結晶化歪が抑えられ、成形品からの揮発成分が少なく、揮発成分によるシリコンウェハーの汚染が抑制されたCMPリングを提供することにある。
【解決手段】芳香族ポリエステルにポリカーボネートジオールを配合されてなるポリエステルカーボネート組成物からなるCMPリングであって、ポリエステルカーボネート組成物の表面D硬度が75以上、ポリカーボネートジオールの含有量がポリエステルカーボネート組成物中5〜10重量%であることを特徴とするCMPリング。ポリエステルから発生するアウトガス量が20μg/g以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルカーボネート組成物に関し、耐熱性、耐加水分解性、低温特性、耐薬品性、結晶性等に優れた熱可塑性ポリエステルカーボネート組成物、特にフィルム、シートなど各種成型品に用いることができるポリエステルカーボネート組成物、さらに詳しくは、パッキン、チューブなどの成形体に適しており、自動車や家電製品などの耐熱性、耐加水分解性、低温特性等が要求される用途、例えばCMPリングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
CMPリングには、ポリブチレンナフタレート樹脂などの熱可塑性ポリエステル樹脂から構成されているのは公知である。また半導体製造装置の中で、配線間の層間膜の凸凹を平坦にする技術、Vialホールの埋め込み技術としてCMP法(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨方法)が用いられており、この工程に用いられる部材が各種の熱可塑性プラスチックにて製造されている(例えば、特許文献1、2参照。)。しかしながら、CMPリングに使用されるポリブチレンナフタレート樹脂は圧縮成形すると、結晶化歪が大きく成型品の割れが生じてしまう。そこで、この問題を解決するために、CMPリングを成形する際の成形条件を変えることによってこの結晶化歪を抑えている。
【0003】
しかしながら、ポリブチレンナフタレートを用いた場合、摺動性には優れるものの、結晶化が速いために、これまでの熱可塑性ポリエステルでは、市場要求を満足することは出来なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−202333号公報
【特許文献2】特表2009−543058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の熱可塑性ポリエステルよりも成型品の結晶化歪が抑えられ、成形品からの揮発成分が少なく、揮発成分によるシリコンウェハーの汚染が抑制されたCMPリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、上記の課題が解決されることを見出し本発明に到達した。即ち、本発明は芳香族ポリエステルにポリカーボネートジオールを配合されてなるポリエステルカーボネート組成物からなるCMPリングであって、ポリエステルカーボネート組成物の表面D硬度が75以上、ポリカーボネートジオールの含有量がポリエステルカーボネート組成物中5〜10重量%であることを特徴とするCMPリング及びその製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリエステルカーボネート組成物からなる成形品により、成形品の耐熱性、耐熱老化性、耐加水分解性、結晶性に優れ、成形品からの揮発成分も少ないことからシリコンウェハーの汚染が抑制されることから、CMPリングに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明におけるポリエステルカーボネート組成物は芳香族ポリエステルとポリカーボネートジオールを配合されてなり、好ましくははポリブチレンナフタレート(PBN)とポリカーボネート(PC)ジオールからなる。ポリブチレンナフタレートは芳香族ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を主とする芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族及び/又は脂環族のジヒドロキシ化合物を主とするグリコール成分とから構成されたポリエステルからなることが好ましく、ポリカーボネートジオールは数平均分子量が1000〜2000の脂肪族ポリカーボネートジオールである。
【0009】
本発明におけるポリエステルカーボネート組成物を構成する芳香族ポリエステルはポリブチレンナフタレートからなり、それを構成する芳香族ジカルボン酸成分としては、主として2,6−ナフタレンジカルボン酸又は2,7−ナフタレンジカルボン酸を挙げることができる。中でも全芳香族ジカルボン酸成分中70モル%以上、好ましくは80モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸で構成される。このとき芳香族ポリエステルはポリブチレン−2,6−ナフタレートなる。他の芳香族ジカルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、4,4′−ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタン−4,4′−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4′−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4′−ジカルボン酸等より選ばれる一種若しくは二種以上の組み合わせを用いることが好ましい。
【0010】
その他の非芳香族の酸成分としてはアジピン酸、セバシン酸、コハク酸、シュウ酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられ、これらの一種若しくは二種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。これらの酸成分は全酸成分に対して30モル%未満、好ましくは20モル%未満である。
【0011】
本発明におけるポリエステルカーボネート組成物の芳香族ポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタン−4,4′−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4′−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4′−ジカルボン酸等の低級アルキルエステルより選ばれる一種若しくは二種以上の組み合わせを用いることが好ましい。その低級アルキルエステルとしてはジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステル、ジブチルエステル等の一種若しくは二種以上の組み合わせを用いることが好ましく、より好ましくはジメチルエステルである。より好ましくは2,6−ナフタレンジカルボン酸の低級アルキルエステルを挙げることができる。より具体的には2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジエチルエステル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジフェニルエステルである。芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体は全酸成分のエステル形成性誘導体の70モル%以上、好ましくは80モル%以上であることが好ましい。
【0012】
その他の酸成分のエステル形成性誘導体としては、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸の低級アルキルエステル、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、シュウ酸等の脂肪族ジカルボン酸の低級アルキルエステルより選ばれる一種若しくは二種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。これらの酸のエステル形成性誘導体成分は、全酸成分のエステル形成性誘導体の30モル%未満、好ましくは20モル%未満である。
【0013】
本発明におけるポリエステルカーボネート組成物のポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸に対して少量のトリメリット酸のような三官能性以上のカルボン酸成分を用いてもよく、無水トリメリット酸のような酸無水物を少量用いてもよい。また、乳酸、グリコール酸のようなヒドロキシカルボン酸又はそのアルキルエステル等を少量用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。
【0014】
本発明におけるポリエステルカーボネート組成物を構成する芳香族ポリエステルはポリブチレンナフタレートからなり、それを構成するグリコール成分としては、1,4−ブタンジオール又はテトラメチレングリコールを好ましい一態様として挙げることができる。中でもグリコール成分中70モル%以上、好ましくは80モル%が1,4−ブタンジオールで構成される。このとき芳香族ポリエステルはポリテトラメチレンナフタレートなり、上述の好ましい芳香族ジカルボン酸等を選択すると、好ましくは芳香族ポリエステルがポリテトラメチレン−2,6−ナフタレートである。他のグリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリ(オキシ)エチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリメチレングリコール等のアルキレングリコールの一種若しくは二種以上の組み合わせを用いることが好ましい。さらに少量のグリセリンのような多価アルコール成分を用いてもよい。また少量のエポキシ化合物を用いてもよい。これらのグリコール成分は、全グリコール成分に対して30モル%以下、好ましくは20モル%以下である。
【0015】
かかるグリコール成分の芳香族ポリエステル製造工程における使用量は、前記芳香族ジカルボン酸若しくは芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体に対して1.1モル倍以上1.4モル倍以下であることが通常採用される。グリコール成分の使用量が1.1モル倍に満たない場合にはエステル化あるいはエステル交換反応が十分に進行せず好ましくないことがある。また、1.4モル倍以上を超える場合にも、理由は定かではないが反応速度が遅くなり、過剰のグリコール成分からのテトラヒドロフランの副生量が大となり好ましくないことがある。
【0016】
本発明におけるポリエステルカーボネート組成物に用いられるポリカーボネートジオールは数平均分子量が400〜4000のポリカーボネートジオールであることが好ましい。これらのポリカーボネートジオールは例えば、ジエチレンカルボナートと1,6−ヘキサメチレンジオールなどのジオールとの脱アルコール反応により製造できる。本発明において使用されるポリカーボネートジオールの数平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)の測定において、500〜2000の範囲が好ましく、800〜2000が特に好ましい。数平均分子量が400未満では、得られる本発明のポリエステルカーボネート組成物の分子量が十分でないために機械的強度、成形性が悪くなる傾向があり、しかも耐熱性向上効果も少なくなりがちである。また、4000を超えると芳香族ポリエステルとの反応性が低くなり、十分な機能が得られない傾向にあるためCMPリングとしての機能を果たさない。
【0017】
本発明においては特に下記式(I)で表されるポリカーボネートジオールを用いることが好ましい。
【0018】
【化1】

[上記式中、RとRは同一もしくは異なる2価のアルキレン基であり、RとRの炭素数の合計は8〜12個の範囲である。]
【0019】
式(I)において、R及びRは炭素数2〜10個までのアルキレン基であることが好ましい。より好ましくは炭素数2〜8個のアルキレン基を採用することである。本発明のポリエステルカーボネート組成物においては、このようなポリカーボネートジオール成分を用いる事で、本発明のポリエステルカーボネート組成物はエラストマーとして機能しやすくなり、また驚くべきことに成形品からの揮発成分が少なくすることができるとの効果を発現することができる。
【0020】
また、ポリカーボネートジオールの含有量はCMPリングを考慮するとポリエステルカーボネート組成物の全重量の5〜10%であることが好ましい。
また、ポリカーボネートジオールの含有量は芳香族ポリエステルとポリカーボネートジオールの合計質量、本発明のポリエステルカーボネート組成物100質量部に対して、5〜10質量部配合することが必要である。5質量部より少ないと本発明の効果である結晶化歪を抑えるという効果が発揮できず、10質量部を超えるとポリエステルカーボネート組成物自体の強度等の力学物性が低下するので好ましくない。この数値範囲に配合を行うことで、得られるポリエステルカーボネート組成物はCMPリングとして好適に用いることができる。なお、本発明においては、ポリカーボネートジオールは末端にヒドロキシル基を有しているのでポリエステル樹脂に共重合される成分が大部分であると考えられるが、数平均分子量が多くなるに従って共重合に資する割合が減り、組成物として配合されている割合が増加すると考える。
【0021】
本発明におけるポリエステルカーボネート組成物において重合触媒成分として用いられる化合物としてはポリエステル製造用触媒として用いられる化合物、特にポリブチレンナフタレートやポリブチレンテレフタレートで通常用いられる化合物が好ましく採用される。中でもチタン化合物が好ましくもちいられる。そのチタン化合物としては、テトラアルキルチタネートが好ましく、具体的にはテトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラベンジルチタネートなどが挙げられ、これらの混合チタネートとして用いても良い。これらのチタン化合物のうち、特にテトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートが好ましく、最も好ましいのはテトラ−n−ブチルチタネートである。
【0022】
チタン化合物の添加量は生成したポリエステルカーボネート組成物中のチタン原子含有量として、200ppm以下であることが好ましく、より好ましくは10〜150ppm、さらに好ましくは50〜100ppmである。ポリエステルカーボネート組成物中のチタン原子含有量が200ppmを超える場合は、本発明のポリエステルカーボネート組成物の色調及び熱安定性が低下するために好ましくないことがある。またチタン原子含有量として少ない場合には、芳香族ポリエステル製造時の触媒化合物としてチタンを用いるのに充分な触媒活性を発揮できない場合がある。そのような場合には他の金属化合物を触媒として用いることになるが、熱安定性、色相、耐加水分解性などに問題を生じる場合がある。
【0023】
また、本発明におけるポリエステルカーボネート組成物には、例えば、オクタアルキルトリチタネートもしくはヘキサアルキルジチタネートなどのテトラアルキルチタネート以外のアルキルチタネート、酢酸チタンやシュウ酸チタンなどのチタンの弱酸塩、酸化チタンなどのチタン酸化物、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキサイドなどの有機スズ化合物、塩化カリウム、カリウムミョウバン、ギ酸カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸水素二カリウム、クエン酸二水素カリウム、グルコン酸カリウム、コハク酸カリウム、酪酸カリウム、シュウ酸二カリウム、シュウ酸水素カリウム、ステアリン酸カリウム、フタル酸カリウム、フタル酸水素カリウム、メタリン酸カリウム、リンゴ酸カリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、亜硝酸カリウム、安息香酸カリウム、酒石酸水素カリウム、重蓚酸カリウム、重フタル酸カリウム、重酒石酸カリウム、重硫酸カリウム、硝酸カリウム、酢酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸カリウムナトリウム、炭酸水素カリウム、乳酸カリウム、硫酸カリウム硫酸水素カリウム、塩化ナトリウム、ギ酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、酪酸ナトリウム、シュウ酸二ナトリウム、シュウ酸水素ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、フタル酸ナトリウム、フタル酸水素ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、酒石酸水素ナトリウム、重シュウ酸ナトリウム、重フタル酸ナトリウム、重酒石酸ナトリウム、重硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、乳酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、塩化リチウム、ギ酸リチウム、クエン酸三リチウム、クエン酸水素二リチウム、クエン酸二水素リチウム、グルコン酸リチウム、コハク酸リチウム、酪酸リチウム、シュウ酸二リチウム、シュウ酸水素リチウム、ステアリン酸リチウム、フタル酸リチウム、フタル酸水素リチウム、メタリン酸リチウム、リンゴ酸リチウム、リン酸三リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸二水素リチウム、亜硝酸リチウム、安息香酸リチウム、酒石酸水素リチウム、重シュウ酸リチウム、重フタル酸リチウム、重酒石酸リチウム、重硫酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、乳酸リチウム、硫酸リチウム、硫酸水素リチウムなどのアルカリ金属塩、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、コハク酸カルシウム、酪酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、リン酸カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化マグネシウム、ギ酸マグネシウム、コハク酸マグネシウム、酪酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩の1種もしくは2種以上をチタン化合物と組み合わせても良い。
【0024】
本発明のポリエステルカーボネートを構成するポリエステル[ポリブチレンナフタレート]は、ナフタレンジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を主とするジカルボン酸成分と1,4−ブタンジオールを主とするグリコール成分、ポリカーボネートジオールを一括して仕込んだのちに、チタン化合物の存在下にてエステル化反応工程あるいはエステル交換反応工程と、それに続く重縮合反応工程とを経由して製造される。
【0025】
そのエステル化反応あるいはエステル交換反応終了の際に180℃以上220℃以下の範囲にある事が好ましい。当該反応が220℃を超える場合には反応速度は大きくなるが、テトラヒドロフランの副生が多くなり好ましくない。また、180℃未満では反応が進行しなくなる。エステル化反応あるいはエステル交換反応により得られた反応生成物は、当該反応生成物をポリエステルカーボネート組成物の融点以上260℃以下の温度において0.4kPa(3Torr)以下の減圧下で重縮合させることが好ましい。重縮合反応温度が260℃を超える場合にはむしろ反応速度が低下して、着色も大となるので好ましくない。
【0026】
重縮合反応において、重合触媒として通常用いられている触媒を前記チタン化合物と併用することも可能であるが、前記チタン化合物をエステル化あるいはエステル交換反応及び重縮合反応の共通触媒として用いることが好ましい。他の触媒を併用するとポリエステルカーボネート組成物の着色が大となり、ひいてはポリエステルカーボネート組成物の色調も低下するので好ましくない。また、重縮合反応速度も前記チタン化合物を単独にて使用した場合と比較して大差が無く、併用効果が得られない。
【0027】
本発明のポリエステルカーボネート組成物を構成する芳香族ポリエステルの末端カルボキシル基濃度は40eq/T(40当量/10g)以下であり、好ましくは35eq/T(35当量/10g)である。末端カルボキシル基濃度が40eq/T(40当量/10g)を超える場合には熱安定性や加水分解性が低下し、ひいてはポリエステルカーボネート組成物の熱安定性や加水分解性も低下するので好ましくない。
【0028】
本発明のポリエステルカーボネート組成物は、次の方法で製造することができる。すなわち、芳香族ポリエステル製造工程の重縮合反応が終了する以前の任意の段階でカーボネートジオールを添加しても良いし、ベントつき二軸押出機に芳香族ポリエステル及びポリカーボネートジオールを供給し、混練押出しにより、製造してもよい。
【0029】
本発明のポリエステルカーボネート組成物は上述のように成形性に優れているので、各種成形方法に用いて、ポリエステルカーボネート樹脂を材料とする成形体を製造することは、非常に好ましい様態である。すなわち、本発明のポリエステルカーボネート樹脂成形体の製造方法は、ポリエステルカーボネートを材料とする成形体を製造する方法であって、本発明のポリエステルカーボネート組成物を用いて押出成形、射出成形、ブロー成形、発泡成形及び紡糸成形から選ばれる少なくとも1種の成形を行うことによりポリエステルカーボネート樹脂成形体を得ることができる。またその中で押出成形は薄膜ダイから押出しによるフィルム製膜であっても良い。
【0030】
本発明のポリエステルカーボネート組成物を用いて得られる有用な成形品としては、例えば、射出成形による中空成形体、射出成形体等が挙げられる。その具体例としては、電気・電子部品、自動車用部品、機構部品等が挙げられる。成形条件としては、シリンダー温度245℃、金型温度25℃にて射出成形を行い、射出成形体を得ることができる。
【0031】
本発明に用いられるポリエステルカーボネート組成物は、ハードセグメントがポリブチレンナフタレート単位よりなり、かつ得られるポリエステルカーボネート組成物の融点が230〜260℃であることが好ましい。融点が230℃よりも低いと電線被覆材に成形した際の耐熱性が低下する。230℃を超えると、電線被覆材の成形時における品質変動が大きくなり成形品の品質の低下や成形サイクルの悪化に繋がるため好ましくない。
【0032】
本発明に使用されるポリエステルカーボネート組成物中のポリカーボネートジオールの配合量は樹脂硬度や機械的性質を決定する重要な因子であり、ポリエステルカーボネート組成物の硬度や融点、さらには結晶性に大きな影響を及ぼす。一般にソフトセグメント成分の配合量が増加するにつれ成形品は柔らかくなり融点も低くなる。ポリカーボネートジオールの配合量の増加は融点の低下つまりは耐熱性の低下を意味し、樹脂硬度や引張強度や弾性率など機械的性質の低下、さらには結晶性の低下をも引き起こすために好ましくない。
【0033】
本発明のポリエステルカーボネート組成物の水存在下170℃で5時間保持後固有粘度保持率は、95%以上が好ましい。数値が高くなるほど、ポリエステルカーボネート組成物の加水分解性が抑えられる。固有粘度保持率が95%よりも低くなった場合、ポリエステルカーボネート組成物の加水分解率が高くなることによりCMPリングとしての役割を果たさないために好ましくない。また、ポリカーボネートジオールを5〜10質量部配合することにより固有粘度保持率を95%以上にすることができる。製造方法については、芳香族ポリエステル製造工程の重縮合反応が終了する以前の任意の段階で芳香族ポリエステル100質量部に対し5〜10質量部になるようにポリカーボネートジオールを添加しても良いし、ベントつき二軸押出機に芳香族ポリエステル及びポリカーボネートジオールを供給し、混練押出により製造してもよい。
【0034】
また、本発明のポリエステルカーボネート組成物の表面硬度は、75以上であることが好ましい。数値が低くなるほどポリエステルカーボネート組成物の硬度が低くなる。表面硬度が75を下回った場合は硬度の低下によりCMPリングとしての役割を果たさないために好ましくない。なお本発明におけるとは「CMPリング」とは上述の半導体製造装置の中でCMP工程を実施するに当って研磨されるシリコンウェハーを研磨装置に固定する際に固定器具との間に挟み、密着させるためのリングを表わす。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。各記載中、「部」は質量部、「%」は質量%を示す。また、諸物性の測定は以下の方法により実施した。
【0036】
1)固有粘度(IV)測定
常法に従って、溶媒であるオルトクロロフェノール中、35℃で測定した。
【0037】
2)チタン原子含有量測定
ポリエステルカーボネート組成物中のチタン原子量は理学電機社製蛍光X線測定機ZSXを用いて定量した。
【0038】
3)末端カルボキシル濃度(COOH)測定
ポリエステルカーボネート組成物サンプルをベンジルアルコールに溶解して、0.1N−NaOHにて滴定した値であり、1×10g当たりのカルボキシル当量である。
【0039】
4)D硬度
ポリエステルカーボネート組成物チップを日精樹脂工業製HM7−Cの射出成形機にてシリンダー温度245℃、金型温度25℃にて射出成形し、得られたプレート(30mm×30mm×3Tサイズ)をテクロック社製デュロメータGS−720Hにて測定した。また、測定方法については、日本工業規格JIS K−7215のタイプDデュロメータの操作方法に準じて行った。
【0040】
5)融点測定
示差走査型熱量計を用いて10℃/分で測定した。
【0041】
6)アウトガス量測定
ガスクロマトグラフィーは、Agilent Technologies社製6850を使用した。カラムはTC−1701を使用して、カラム温度は50℃にて5分間保持したのち、10℃/分にて250℃まで昇温したのち、250℃にて10分間保持した。キャリアガスにはヘリウムを使用した。
また、アウトガスの採取はPerkinn Elmer社製ヘッドスペースサンプラーを使用して、150℃、30分間の加熱条件にて実施した。ポリエステルカーボネート組成物から発生したアウトガス量は、ガスクロマトグラフィーによって検出されたピークを2通り(アセトアルデヒド(AA)及びテトラヒドロフラン(THF)ピークに近いもの)に分類し、AAピークに近いピークはAAの検量線式を、THFピークに近いピークはTHFの検量線式を使用し算出した。
【0042】
7)脂肪族ポリカーボネート樹脂
本発明の実施例で用いたポリエステルカーボネート組成物はジエチルカーボネートと1,6−ヘキサメチレンジオールとの脱アルコール反応により製造されるが、今回は品質の安定している市販ポリカーボネート樹脂(旭化成ケミカルズ「PCDL」T5651、T5652)を使用した。脂肪族ポリカーボネート樹脂として用いたときの数平均分子量はそれぞれ1000、2000であった。
【0043】
8)成形品としての評価
本発明で得られたポリエステルカーボネート組成物を日精樹脂工業製HM−7−Cの射出成形機にてシリンダー温度245℃、金型温度25℃にて射出成形し、得られたプレート(30mm×30mm×3Tサイズ)を結晶化させたときの外観を観察する(外観観察)。さらに、この成形品を190℃のギアー式老化試験機で1時間加熱処理を行い、亀裂や破断の有無を確認した(熱老化評価)。このとき、評価結果に問題がなかったものを○とし、問題が生じたものを×とした。
【0044】
[実施例1]
ポリエステルカーボネート組成物の生成量が100質量部となるように、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル85.9部、1,4−ブタンジオール44.4部、分子量1000の上記の脂肪族ポリカーボネート樹脂5.0部にテトラ−n−ブチルチタネート0.014部をエステル交換反応槽に入れ、エステル交換反応槽が190℃となるように昇温しながら210分間エステル交換反応を行った。ついで得られた反応生成物を重縮合反応槽に移して重縮合反応を開始した。
重縮合反応は常圧から0.133kPa(1Torr)以下まで40分かけて徐々に減圧し、同時に所定の反応温度250℃まで昇温し、以降は所定の重合温度、0.133kPa(1Torr)の状態を維持して100分間重縮合反応を行った。100分が経過した時点でポリエステルカーボネート組成物を少量採取して固有粘度を測定した。固有粘度は0.73dL/gであった。
得られたポリエステルカーボネート組成物の固有粘度、アウトガス量、末端カルボキシル基濃度、D硬度、融点、ポリエステルカーボネート組成物中のチタン原子含有量等の測定を行って、その結果を表1に示した。また得られたポリエステルカーボネート組成物から射出成形によりCMPリングを製造した。
【0045】
[実施例2]
脂肪族ポリカーボネート樹脂の添加量を10部に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステルカーボネート組成物を得た。得られたポリエステルカーボネート組成物の固有粘度、アウトガス量、末端カルボキシル基濃度、D硬度、融点、ポリエステルカーボネート組成物中のチタン原子含有量等の測定を行って、その結果を表1に示した。また得られたポリエステルカーボネート組成物から射出成形によりCMPリングを製造した。
【0046】
[実施例3]
脂肪族ポリカーボネート樹脂の分子量を2000に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステルカーボネート組成物を得た。得られたポリエステルカーボネート組成物の固有粘度、アウトガス量、末端カルボキシル基濃度、D硬度、融点、ポリエステルカーボネート組成物中のチタン原子含有量等の測定を行って、その結果を表1に示した。また得られたポリエステルカーボネート組成物から射出成形によりCMPリングを製造した。
【0047】
[実施例4]
脂肪族ポリカーボネート樹脂の添加量を10部に変更した以外は、実施例3と同様にしてポリエステルカーボネート組成物を得た、得られたポリエステルカーボネート組成物の固有粘度、アウトガス量、末端カルボキシル基濃度、D硬度、融点、ポリエステルカーボネート組成物中のチタン原子含有量等の測定を行って、その結果を表1に示した。また得られたポリエステルカーボネート組成物から射出成形によりCMPリングを製造した。
【0048】
[比較例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル122.1部、1,4−ブタンジオール65.3部にテトラ−n−ブチルチタネート0.021部をエステル交換反応槽に入れ、反応槽が190℃となるように昇温しながら210分間エステル交換反応を行った。ついで得られた反応生成物を重縮合反応槽に移して重縮合反応を開始した。重縮合反応は常圧から0.133kPa(1Torr)以下まで40分かけて徐々に減圧し、同時に所定の反応温度250℃まで昇温し、以降は所定の重合温度、1Torrの状態を維持して100分間重縮合反応を行った。重縮合反応は常圧から0.133kPa(1Torr)以下まで40分かけて徐々に減圧し、同時に所定の反応温度250℃まで昇温し、以降は所定の重合温度、0.133kPa(1Torr)の状態を維持して100分間重縮合反応を行った。100分が経過した時点でポリエステルカーボネート組成物を少量採取して固有粘度を測定した。固有粘度は0.63dL/gであった。
得られたポリエステルカーボネート組成物の固有粘度、アウトガス量、末端カルボキシル基濃度、D硬度、融点、ポリエステルカーボネート組成物中のチタン原子含有量等の測定を行って、その結果を表1に示した。また得られたポリエステルカーボネート組成物から射出成形によりCMPリングを製造した。
【0049】
[比較例2]
脂肪族ポリカーボネートジオールの添加量を20部に変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルカーボネート組成物を得た。得られたポリエステルカーボネート組成物の固有粘度、アウトガス量、末端カルボキシル基濃度、D硬度、融点、ポリエステルカーボネート組成物中のチタン原子含有量等の測定を行って、その結果を表1に示した。また得られたポリエステルカーボネート組成物から射出成形によりCMPリングを製造した。
【0050】
[比較例3]
脂肪族ポリカーボネートジオールの添加量を30部に変更した以外は比較例2と同様にしてポリエステルカーボネート組成物を得た。得られたポリエステルカーボネート組成物の固有粘度、アウトガス量、末端カルボキシル基濃度、D硬度、融点、ポリエステルカーボネート組成物中のチタン原子含有量等の測定を行って、その結果を表1に示した。また得られたポリエステルカーボネート組成物から射出成形によりCMPリングを製造した。
【0051】
【表1】

【0052】
[比較例4]
脂肪族ポリカーボネートジオールの添加量を40部に変更した以外は比較例2と同様にしてポリエステルカーボネート組成物を得た。得られたポリエステルカーボネート組成物の固有粘度、アウトガス量、末端カルボキシル基濃度、D硬度、融点、ポリエステルカーボネート組成物中のチタン原子含有量等の測定を行って、その結果を表1に示した。また得られたポリエステルカーボネート組成物から射出成形によりCMPリングを製造した。
【0053】
[比較例5]
脂肪族ポリカーボネートジオールの添加量を50部に変更した以外は比較例2と同様にしてポリエステルカーボネート組成物を得た。得られたポリエステルカーボネート組成物の固有粘度、アウトガス量、末端カルボキシル基濃度、D硬度、融点、ポリエステルカーボネート組成物中のチタン原子含有量等の測定を行って、その結果を表1に示した。また得られたポリエステルカーボネート組成物から射出成形によりCMPリングを製造した。
【0054】
[比較例6]
脂肪族ポリカーボネートジオールの添加量を20部に変更した以外は実施例3と同様にしてポリエステルカーボネート組成物を得た。得られたポリエステルカーボネート組成物の固有粘度、アウトガス量、末端カルボキシル基濃度、D硬度、融点、ポリエステルカーボネート組成物中のチタン原子含有量等の測定を行って、その結果を表1に示した。また得られたポリエステルカーボネート組成物から射出成形によりCMPリングを製造した。
【0055】
[比較例7]
脂肪族ポリカーボネートジオールの添加量を30部に変更した以外は比較例6と同様にしてポリエステルカーボネート組成物を得た。得られたポリエステルカーボネート組成物の固有粘度、アウトガス量、末端カルボキシル基濃度、D硬度、融点、ポリエステルカーボネート組成物中のチタン原子含有量等の測定を行って、その結果を表1に示した。また得られたポリエステルカーボネート組成物から射出成形によりCMPリングを製造した。
【0056】
[比較例8]
脂肪族ポリカーボネートジオールの添加量を40部に変更した以外は比較例6と同様にしてポリエステルカーボネート組成物を得た。得られたポリエステルカーボネート組成物の固有粘度、アウトガス量、末端カルボキシル基濃度、D硬度、融点、ポリエステルカーボネート組成物中のチタン原子含有量等の測定を行って、その結果を表1に示した。また得られたポリエステルカーボネート組成物から射出成形によりCMPリングを製造した。
【0057】
[比較例9]
脂肪族ポリカーボネートジオールの添加量を50部に変更した以外は比較例6と同様にしてポリエステルカーボネート組成物を得た。得られたポリエステルカーボネート組成物の固有粘度、アウトガス量、末端カルボキシル基濃度、D硬度、融点、ポリエステルカーボネート組成物中のチタン原子含有量等の測定を行って、その結果を表1に示した。また得られたポリエステルカーボネート組成物から射出成形によりCMPリングを製造した。
【0058】
比較例1〜9により成形されたCMPリングにて化学的機械的研磨方法を行うとシリコンウェハーの汚染が見られたが、実施例1〜4により成形されたCMPリングにて化学的機械的研磨方法を行うとシリコンウェハーの汚染は観察されなかった。
【0059】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のポリエステルカーボネート組成物からなる成形品により、成形品の耐熱性、耐熱老化性、耐加水分解性、結晶性に優れ、成形品からの揮発成分も少ないことからシリコンウェハーの汚染が抑制されることから、CMPリングに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエステルにポリカーボネートジオールを配合されてなるポリエステルカーボネート組成物からなるCMPリングであって、ポリエステルカーボネート組成物の表面D硬度が75以上、ポリカーボネートジオールの含有量がポリエステルカーボネート組成物中5〜10重量%であることを特徴とするCMPリング。
【請求項2】
芳香族ポリエステルがポリブチレンナフタレートである請求項1記載のCMPリング。
【請求項3】
芳香族ポリエステルがポリテトラメチレン−2,6−ナフタレートであり、ポリエステルカーボネート組成物の融点が240〜250℃である請求項1記載のCMPリング。
【請求項4】
ポリカーボネートジオールが下記式(I)で示されるポリカーボネートジオールを含む請求項1〜3のいずれかに記載のCMPリング。
【化1】

[上記式中、RとRは同一もしくは異なる2価のアルキレン基であり、RとRの炭素数の合計は8〜12個の範囲である。]
【請求項5】
芳香族ジカルボン酸又は芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、脂肪族ジオールからなる芳香族ポリエステルにポリカーボネートジオールとを溶融状態で反応させて製造されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のCMPリングの製造方法。

【公開番号】特開2011−206889(P2011−206889A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77709(P2010−77709)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】