説明

CMP用研磨液及びこれを用いた研磨方法

【課題】 酸化ケイ素膜に対する十分に高い研磨速度を達成できるCMP用研磨液及び研磨方法を提供すること。
【解決手段】 砥粒と、下記一般式(1)で表される3−カルボニル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオン系化合物を含む添加剤と、水と、を含有するCMP用研磨液を用い、酸化ケイ素膜を研磨する。より好ましくは、3−カルボニル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオン系化合物は、6−メチル−3−アセチル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ材料のケミカルメカニカルポリッシング(CMP)に用いる研磨液及びこれを用いた研磨方法、例えば、半導体ウエハの表面に設けられた酸化ケイ素膜を研磨するためのCMP用研磨液及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造の分野では、超LSIデバイスの高性能化に伴い、従来技術の延長線上の微細化技術では高集積化及び高速化を両立することが限界になってきている。そこで、半導体素子の微細化を進めつつ、垂直方向にも高集積化する技術、すなわち配線を多層化する技術が開発されている。
【0003】
配線が多層化されたデバイスを製造するプロセスにおいて最も重要な技術の一つに、CMP技術がある。CMP技術は、化学気相蒸着(CVD)などによって基板上に薄膜を形成した後、その表面を平坦化する技術である。例えば、リソグラフィの焦点深度を確保するには、CMPによる平坦化の処理が不可欠である。基板表面に凹凸があると、露光工程における焦点合わせが不可能となったり、微細な配線構造を十分に形成できなくなったりするなどの不都合が生じる。また、CMP技術は、デバイスの製造過程において、プラズマ酸化膜(BPSG、HDP−SiO、p−TEOS)の研磨によって素子分離領域を形成する工程、層間絶縁膜を形成する工程、あるいは、酸化ケイ素を含む膜を金属配線に埋め込んだ後にプラグ(例えば、Al・Cuプラグ)を平坦化する工程などにも適用される。
【0004】
CMPは、通常、研磨パッド上に研磨液を供給することができる装置を用いて行われる。そして、基板表面と研磨パッドとの間に研磨液を供給しながら、基板を研磨パッドに押し付けることにより、基板表面が研磨される。このように、CMP技術においては、研磨液が要素技術の一つであり、高性能の研磨液を得るため、これまでにも種々の研磨液の開発がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−288537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、基板上に素子分離領域を形成する工程においては、予め基板表面に溝を設け、この溝を埋めるように絶縁膜(例えば、酸化ケイ素膜)がCVDなどによって形成される。その後、絶縁膜の表面をCMPによって平坦化することによって素子分離領域が形成される。この際、表面に溝などの素子分離構造が設けられた基板上に絶縁膜を形成する場合、絶縁膜の表面にも素子分離構造の凹凸に応じた凹凸が生じる。このような凹凸を有する表面に対しては、凸部を優先的に除去する一方、凹部をゆっくりと除去することによって平坦化がなされる。
【0007】
半導体生産のスループットを向上するためには、基板上に形成した絶縁膜の不要な部分を可能な限り速く除去することが好ましい。例えば、素子分離領域の狭幅化に対応すべく、シャロー・トレンチ分離(STI)を採用した場合、絶縁膜として基板上に設けた酸化ケイ素膜の不要な部分を高い研磨速度で取り除くことが要求される。
【0008】
しかし、酸化ケイ素膜に対する研磨速度が速いCMP用研磨液を用いると、一般に研磨終了後の研磨面が粗くなり、平坦性に劣る傾向がある。このため、絶縁膜の研磨処理を二段階に分け、種類の異なる研磨液をそれぞれの工程で使用することによって、生産効率の向上を図る場合がある。第1の工程(荒削り工程)では酸化ケイ素膜に対する研磨速度が高い研磨液を使用して酸化ケイ素膜の大部分を除去する。第2の工程(仕上げ工程)では酸化ケイ素膜をゆっくりと除去し、研磨面が十分に平坦となるように仕上げる。
【0009】
ところが、従来、同じ研磨液を使用する場合であっても、基板表面の状態によっては十分に高い研磨速度を達成できない場合があった。例えば、ある研磨液を用いる場合、平坦な基板とその表面に設けられた平坦な酸化ケイ素膜とを備えるウエハ(酸化ケイ素膜のブランケットウエハ)を研磨するときには、酸化ケイ素膜の高い研磨速度を達成できる一方、表面に凹凸を有するウエハを研磨するときには、期待したような研磨速度を達成できないことがある。酸化ケイ素膜がCMPによって研磨されるメカニズムについては未解明の部分が多く、このような現象の原因は明らかではない。
【0010】
また、基板の表面に形成される凹凸にも様々な態様がある。例えば、配線幅に起因する凹凸の幅、凹凸の高さ又は配線の方向が各工程やデバイスの用途によって相違する。従来のCMP用研磨液は、所定の凹凸が形成された基板は良好に研磨できたとしても、別のタイプの基板で必ずしも同様に研磨できるとは限らないのが現状である。上記のように、酸化ケイ素膜に対するCMPを二段階以上に分ける場合は、第1の工程では平坦性よりも高い研磨速度が優先されるため、基板の種類による研磨速度の低下は生産性の低下を招来する。
【0011】
本発明は、上記課題を解決しようとするものであり、酸化ケイ素膜に対する十分に高い研磨速度を達成できるCMP用研磨液及びこれを用いた研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決すべく、CMP用研磨液に配合する添加剤について鋭意検討を重ねた。すなわち、本発明者らは、種々の有機化合物を添加剤として使用して研磨液を多数調製し、これらの研磨液を用いて酸化ケイ素膜を研磨し、研磨速度の評価を行った。その結果、特定の化学構造を有する化合物を添加剤とし、砥粒及び水と組み合わせて使用することによって、高い研磨速度を達成することを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明のCMP用研磨液は、砥粒と、下記一般式(1)で表される3−カルボニル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオン系化合物を含む添加剤と、水とを含有するCMP用研磨液である。
【0014】
【化1】

[式中、Xは、C1〜C4のアルキル基を示し、X及びXは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の置換基を示す。]
【0015】
本発明のCMP用研磨液によれば、酸化ケイ素膜に対する十分に高い研磨速度を達成することが可能となる。かかる効果が奏される要因は必ずしも明らかではないが、添加剤である上述した特定構造を有する3−カルボニル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオン系化合物が溶液中で一般式(1)のケト型と一般式(2)のエノール型の互変異性を行う。このエノール型と砥粒であるセリウム系化合物が反応することで一般式(3)を形成した結果、研磨液と酸化ケイ素膜との相互作用が大きくなり、結果研磨速度が高くなると推測される。ここでXは一般式(3)を形成するに当り、立体障害とならないようにかさ高くないものが好ましく、具体的にはC1〜C4のアルキル基であり、C、CHがより好ましく、CHが特に好ましい。
【0016】
【化2】

【0017】
【化3】

【0018】
本発明のCMP用研磨液は、高い研磨速度を達成できることから、上述したような第1の工程に用いるのに特に好適である。また、本発明のCMP研磨液は、上述した成分を組み合わせて含有するため、基板表面の状態に大きく依存することなく高い研磨速度を達成できるという特長も有している。そのため、凹凸を有する基板上に設けられた酸化ケイ素膜の荒削りに適している。さらに、本発明のCMP研磨液は、従来の研磨液では高い研磨速度を得ることが比較的困難であった凹凸形状を有する半導体基板であっても高速で研磨できるという利点がある。例えば、メモリセルを有する半導体基板のように、上から見たときに凹部又は凸部がT字形状又は格子形状に設けられた部分を有する基板の酸化ケイ素膜を研磨する場合であっても高い研磨速度を達成できる。
【0019】
より具体的には、上記3−カルボニル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオン系化合物は、6−メチル−3−アセチル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオンであると好ましい。
【0020】
本発明のCMP用研磨液は、pHが3.0以上7.0未満であると好ましく、6.0未満であるとより好ましく、5.0未満であると更に好ましい。このようなpHを有することで、CMP研磨液における砥粒の凝集を更に抑制することが可能となる。また、pHは3.0以上が好ましく、3.3以上がより好ましく、3.5以上が更に好ましい。このようなpHを有することで、研磨液と酸化ケイ素膜との相互作用を大きくできる傾向にある。CMP用研磨液は、好適な範囲のpHを有することができるように、pH調整剤を更に含有するものであるとより好ましい。
【0021】
本発明のCMP用研磨液において、添加剤である3−カルボニル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオン系化合物の含有量は、当該研磨液100質量部に対して0.01〜0.1質量部であると好ましい。これにより、研磨速度の向上効果がさらに効率的に得られる。
【0022】
砥粒の含有量は、当該研磨液100質量部に対して0.01〜10質量部であると好ましい。この砥粒の平均粒径は、50〜500nmであると好適である。さらに、砥粒は、セリウム系化合物を含むことが好ましく、このセリウム系化合物は、酸化セリウムであると一層好適である。また、砥粒は、結晶粒界を有する多結晶酸化セリウムを含むものであってもよい。本発明のCMP用研磨液における砥粒が、これらの条件の一つ以上を満たしていることで、酸化ケイ素膜に対する研磨速度がより一層向上するようになる。
【0023】
また、本発明は、表面に酸化ケイ素膜を有する基板を研磨する研磨方法であって、上記本発明のCMP用研磨液を酸化ケイ素膜と研磨部材との間に供給して、研磨部材により酸化ケイ素膜を研磨する工程を含む研磨方法を提供する。この研磨方法によれば、上述した本発明のCMP研磨液を用いるため、砥粒の凝集を抑制しつつ、酸化ケイ素膜に対する十分に高い研磨速度を達成できる。したがって、この研磨方法は酸化ケイ素膜の荒削りやメモリセルを有する半導体基板の研磨に適している。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、酸化ケイ素膜に対する十分に高い研磨速度を達成できるCMP用研磨液及びこれを用いた研磨方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】酸化ケイ素膜が研磨されて半導体基板にシャロー・トレンチ分離構造が形成される過程を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0027】
<CMP用研磨液>
本実施形態に係るCMP用研磨液(以下、「研磨液」と略す。)は、砥粒(研磨粒子)と、添加剤と、水とを含有し、添加剤として特定の化学構造を有する3−カルボニル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオン系化合物を含む。以下、研磨液の調製に使用する各成分について説明する。
【0028】
(添加剤)
添加剤としては、3−カルボニル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオン系化合物を少なくとも含み、その他の添加剤を組み合わせて含有してもよい。この3−カルボニル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオン系化合物は、少なくともカルボニルの炭素原子に隣接している炭素原子の両端にジオン基が結合した構造を有するものである。ここで、3−カルボニル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオン系化合物とは、オキシ基及びカルボニル基が含まれるとともに、オキシ基に対してカルボニル基が2位及び4位に位置している6員環構造を有する複素環式化合物である。本実施形態の3−カルボニル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオン系化合物は、この6員環における2個のカルボシル基の間にある炭素原子にカルボニル基が結合しており、それ以外の炭素原子には、水素原子以外の置換基が置換していてもよい。
【0029】
このような3−カルボニル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオン系化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0030】
一般式(1)中、XはC1〜C4のアルキル基を示し、X及びXは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の置換基を示す。1価の置換基としては、アルデヒド基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、臭素、塩素、ヨウ素、フッ素、ニトロ基、ヒドラジン基、C1〜C8アルキル基(OH、COOH、Br、Cl、I、又はNOで置換されていてもよい)、ヒドロキシアルキル基、C6〜C12アリール基、及びC1〜C8アルケニル基等が挙げられる。
【0031】
このような3−カルボニル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオン系化合物としては、6−メチル−3−アセチル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオンが好ましい。
【0032】
添加剤である3−カルボニル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオン系化合物は、水溶性であることが好ましい。水への溶解度が高い化合物を使用することで、所望の量の添加剤を良好に研磨液中に溶解させることができ、研磨速度の向上、及び砥粒の凝集の抑制の効果をより一層高水準に達成し得る。3−カルボニル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオン系化合物は、常温(25℃)の水100gに対する溶解度が0.01g以上であることが好ましく、0.05g以上であることがより好ましく、0.1g以上であることが更に好ましい。なお、溶解度の上限は特に制限はない。
【0033】
(砥粒)
砥粒としては、例えば、セリウム系化合物、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、ムライト、窒化ケイ素、α−サイアロン、窒化アルミニウム、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素等を含む粒子を挙げることができる。これらの粒子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、上記添加剤の添加による効果を良好に発揮でき、酸化ケイ素膜に対する高い研磨速度が得られる点で、セリウム系化合物を含む粒子を使用することが好ましい。
【0034】
セリウム系化合物を含む粒子を砥粒として用いた研磨液は、研磨面に生じる研磨傷が比較的少ないという特長を有する。従来、酸化ケイ素膜に対する高い研磨速度を達成しやすい点から、砥粒としてシリカ粒子を含む研磨液が広く用いられていた。しかしながら、シリカ粒子を用いた研磨液は、一般に研磨面に研磨傷が生じやすいという問題があった。そして、配線幅が45nmの世代以降の微細パターンを有するデバイスにおいては、従来問題にならなかったような微細な傷であっても、デバイスの信頼性に影響するおそれがある。
【0035】
一方、セリウム系化合物を含む粒子を砥粒として使用した研磨液は、通常、シリカ粒子を使用したものと比較して、酸化ケイ素膜の研磨速度がやや低い傾向にある。これに対し、本実施形態においては、上述した特定の添加剤を砥粒と組み合わせて用いることから、セリウム系化合物を含む砥粒を用いる場合であっても、酸化ケイ素膜に対する高い研磨速度を達成することができる。
【0036】
セリウム系化合物としては、例えば、酸化セリウム、水酸化セリウム、硝酸アンモニウムセリウム、酢酸セリウム、硫酸セリウム水和物、臭素酸セリウム、臭化セリウム、塩化セリウム、シュウ酸セリウム、硝酸セリウム及び炭酸セリウム等が挙げられる。これらの中でも酸化セリウム粒子を砥粒として用いることが好ましい。酸化セリウム粒子を使用することで、高い研磨速度を達成できるとともに、傷が少なく平坦性に優れた研磨面が得られる。
【0037】
砥粒として使用する酸化セリウムは、結晶粒界を持つ多結晶酸化セリウムを含むことが好ましい。かかる構成の多結晶酸化セリウム粒子は、研磨中に細かくなると同時に活性面が次々と現れる性質を有し、酸化ケイ素膜に対する高い研磨速度を高度に維持することができる。
【0038】
酸化セリウムの粒子の製造方法としては、例えば、焼成又は過酸化水素等による酸化法等が挙げられる。焼成する場合、焼成時の温度は、350〜900℃が好ましい。製造された酸化セリウム粒子が凝集している場合は、これを機械的に粉砕することが好ましい。粉砕方法としては、例えば、ジェットミル等による乾式粉砕や遊星ビーズミル等による湿式粉砕方法が好ましい。ジェットミルは、例えば、「化学工学論文集」、第6巻第5号、(1980)、527〜532頁に説明されているものを使用することができる。
【0039】
砥粒の平均粒径は、50nm以上が好ましく、70nm以上がより好ましく、80nm以上が更に好ましい。砥粒の平均粒径が50nm以上であると、50nm未満の場合と比較して、酸化ケイ素膜に対する研磨速度を高くできる。他方、砥粒の平均粒径は、500nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましく、280nm以下が更に好ましく、250nm以下が特に好ましく、200nm以下がより一層好ましい。平均粒径が500nm以下であると、500nmを越える場合と比較して、研磨傷を抑制することができる。
【0040】
ここで、砥粒の平均粒径とは、砥粒が分散したスラリのサンプルを、動的光散乱式粒度分布計で測定した体積分布の中央値を意味し、堀場製作所製のLB−500(商品名)等を用いて測定することができる値である。例えば、砥粒の含有量がサンプル100質量部に対して0.5質量部になるように砥粒を水に分散させて濃度を調整し、これをLB−500にセットして体積分布の中央値の測定を行う。なお、LB−500によってメジアン径(累積中央値)を測定することで、砥粒の凝集の程度を評価することもできる。また、研磨液からの砥粒の粒径を測定する場合は、砥粒の含有量がサンプル100質量部に対して0.5質量部になるように研磨液の濃度を調整してサンプルを作成し、これを用いて同様の方法により測定することができる。
【0041】
(水)
研磨液の調製に用いる水は、特に制限されるものではないが、脱イオン水、イオン交換水又は超純水が好ましい。なお、更に必要に応じて、エタノール、酢酸、アセトン等の極性溶媒等を水と併用してもよい。
【0042】
(他の成分)
本実施形態に係る研磨液は、所望とする特性に合わせてその他の成分を更に含有していてもよい。このような成分としては、後述するようなpH調整剤や、アミノカルボン酸、環状モノカルボン酸等が挙げられる。これらの成分の添加量は、研磨剤による上記効果を過度に低下させない範囲とすることが望ましい。
【0043】
<研磨液の調製法及び使用法>
上述した各成分を組み合わせて含有する研磨液は、(A)通常タイプ、(B)濃縮タイプ及び(C)2液タイプに分類でき、タイプによってそれぞれ調製法及び使用法が相違する。(A)通常タイプは、研磨時に希釈等の前処理をせずにそのまま使用できる研磨液である。(B)濃縮タイプは、保管や輸送の利便性を考慮し、(A)通常タイプと比較して含有成分を濃縮した研磨液である。(C)2液タイプは、保管時や輸送時には一定の成分を含む液Aと他の成分を含む液Bとに分けた状態としておき、使用に際してこれらの液を混合して使用する研磨液である。
【0044】
(A)通常タイプは、上記特定の化合物を含む添加剤、砥粒及び必要に応じてその他の成分を、主な分散媒である水に溶解又は分散させることによって得ることができる。例えば、研磨液100質量部に対する砥粒の含有量:0.5質量部、添加剤の含有量:0.1質量部の研磨液1000gを調製するには、研磨液全量に対して砥粒:5g、添加剤:1gとなるように配合量を調整すればよい。
【0045】
研磨液の調製は、例えば、攪拌機、ホモジナイザ、超音波分散機、湿式ボールミル等を使用して行うことができる。なお、砥粒の平均粒径が所望の範囲となるように、研磨液の調製過程において砥粒を微粒子化する処理を行ってもよい。砥粒の微粒子化処理は、沈降分級法や高圧ホモジナイザを用いた方法によって実施できる。沈降分級法は、砥粒を含むスラリを遠心分離機で強制的に沈降させる工程と、上澄み液のみ取り出す工程とを有する方法である。一方、高圧ホモジナイザを用いた方法は、分散媒中の砥粒同士を高圧で衝突させる方法である。
【0046】
研磨液における添加剤である3−カルボニル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオン系化合物の含有量は、研磨液100質量部に対して0.01質量部以上が好ましく、0.03質量部以上がより好ましく、0.05質量部以上が更に好ましい。添加剤の量が0.01質量部以上であると、0.01質量部未満の場合と比較して安定した研磨速度を達成しやすい傾向にある。他方、添加剤の含有量は、0.1質量部以下が好ましい。添加剤の量が0.1質量部を超えると、25℃の水への溶解度を超えるため、溶け残りが生じる。
【0047】
砥粒の含有量(粒子濃度)は、研磨液100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、0.15質量部以上がより好ましく、0.2質量部以上が更に好ましく、0.25質量部以上が特に好ましい。砥粒の量が0.1質量部以上であると、0.1質量部未満の場合と比較して高い研磨速度が達成される傾向にある。他方、砥粒の含有量は、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以下が更に好ましく、2.0質量部以下が特に好ましく、1.0質量部以下がより一層好ましい。添加剤の量が10質量部以下であると、10質量部を越える場合と比較して砥粒の凝集を抑制しやすく、高い研磨速度が達成される傾向にある。
【0048】
研磨液のpHは、7.0未満が好ましく、6.0未満がより好ましく、5.0未満が更に好ましい。pHが7.0未満であると、7.0以上である場合と比較して砥粒の凝集などを抑制しやすくなり、上記添加剤を添加した効果が得られやすい傾向にある。他方、研磨液のpHは、3.0以上が好ましく、3.3以上がより好ましく、3.5以上が更に好ましい。pHが3.0以上であると、3.0未満の場合と比較して酸化ケイ素膜のゼータ電位の絶対値を大きな値とすることができ、研磨液と酸化ケイ素膜との相互作用を大きくできる傾向にある。
【0049】
また、研磨液のpHを3.0以上7.0未満の範囲内に調整することによって、上記に加えて、次の2つの効果も得られると考えられる。
(1)プロトンやヒドロキシアニオンが添加剤として配合した化合物に作用して当該化合物の化学形態が変化し、基板表面の酸化ケイ素膜、あるいは、ストッパ膜である窒化ケイ素膜に対する濡れ性や親和性が向上し、これによっても高い研磨速度が得られる。
(2)砥粒が酸化セリウムである場合、上記pH範囲において砥粒と酸化ケイ素膜との接触効率が向上し、高い研磨速度が達成される。これは、酸化セリウムはゼータ電位の符号が正であるのに対し、酸化ケイ素膜はゼータ電位の符号が負であり、両者の間に静電的引力が働くためである。
【0050】
研磨液のpHは、添加剤として使用する化合物の種類によって変化し得るため、pHを上記の範囲に調整するために、pH調整剤を添加剤に含有させてもよい。pH調整剤としては、特に制限はないが、例えば、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホウ酸、酢酸等の酸、水酸化ナトリウム、アンモニア水、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の塩基等が挙げられる。なお、生産性を向上させる観点から、pH調整剤を使用することなく研磨液を調製し、この研磨液をそのままCMPに適用してもよい。
【0051】
(B)濃縮タイプは、使用直前に含有成分が所望の含有量となるように水で希釈される。希釈後には、(A)通常タイプと同程度の液状特性(例えばpHや砥粒の粒径等)及び研磨特性(例えば酸化ケイ素膜の研磨速度や窒化ケイ素との選択比)が得られるまで、任意の時間にわたって攪拌を行ってもよい。このような(B)濃縮タイプでは、濃縮の度合いに応じて容積が小さくなるため、保管及び輸送にかかるコストを減らすことができる。
【0052】
濃縮倍率は、1.5倍以上が好ましく、2倍以上がより好ましく、3倍以上が更に好ましく、5倍以上が特に好ましい。濃縮倍率が1.5倍以上であると、1.5倍未満の場合と比較して保管及び輸送に関するメリットが得られやすい傾向にある。他方、濃縮倍率は、40倍以下が好ましく、20倍以下がより好ましく、15倍以下が特に好ましい。濃縮倍率が40倍以下であると、40倍を超える場合と比較して砥粒の凝集を抑制しやすい傾向にある。
【0053】
(B)濃縮タイプの研磨液を使用する際には、水による希釈の前後でpHが変化する。そこで、(A)通常タイプと同じpHの研磨液を(B)濃縮タイプから調製するには、水との混合によるpH上昇を考慮に入れ、濃縮タイプの研磨液のpHを予め低めに設定しておけばよい。例えば、二酸化炭素が溶解した水(pH:約5.6)を使用し、pH4.0の(B)濃縮タイプの研磨液を10倍に希釈した場合、希釈後の研磨液はpHが4.3程度にまで上昇する。
【0054】
(B)濃縮タイプのpHは、水による希釈後に適したpHの研磨液を得る観点から、2.5〜7.0が好ましい。pHの下限は2.7が更に好ましい。また、砥粒の凝集を抑制する観点から、pHの上限は、7.0が好ましく、6.7がより好ましく、6.0が更に好ましく、5.5が特に好ましい。
【0055】
(C)2液タイプは、液Aと液Bとを適切に分けることで、(B)濃縮タイプと比較して砥粒の凝集等を回避できるという利点がある。ここで、液A及び液Bにそれぞれ含有せしめる成分は任意である。例えば、砥粒と必要に応じて配合される界面活性剤等とを含むスラリを液Aとし、他方、添加剤と必要に応じて配合される他の成分とを含む溶液を液Bとすることができる。この場合、液Aにおける砥粒の分散性を高めるため、任意の酸又はアルカリを液Aに配合し、pH調整を行ってもよい。
【0056】
(C)2液タイプの研磨液は、混合すると、砥粒の凝集等によって研磨特性が比較的短時間で低下する傾向にある成分の組み合わせの場合に有用である。なお、保管及び輸送にかかるコスト削減の観点から、液A及び液Bを少なくとも一方を濃縮タイプとしてもよい。この場合、研磨液を使用する際に、液Aと液Bと水とを混合すればよい。液A又は液Bの濃縮倍率、pHは任意であり、最終的な混合物が液状特性及び研磨特性の点で(A)通常タイプの研磨液と同程度とできればよい。
【0057】
<研磨方法>
本実施形態に係る研磨方法は、各成分の含有量及びpH等が調整された研磨液を使用し、表面に酸化ケイ素膜を有する基板をCMP技術によって平坦化するものである。具体的には、表面に酸化ケイ素膜を有する基板における酸化ケイ素膜と所定の研磨用の部材(研磨部材)との間に、上述した実施形態の研磨液を供給し、その状態で研磨部材によって酸化ケイ素膜を研磨する工程を含む。
【0058】
本実施形態の研磨方法は、以下のようなデバイスの製造過程において表面に酸化ケイ素膜を有する基板を研磨するのに適している。デバイスとしては、例えば、ダイオード、トランジスタ、化合物半導体、サーミスタ、バリスタ、サイリスタ等の個別半導体、DRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリー)、SRAM(スタティック・ランダム・アクセス・メモリー)、EPROM(イレイザブル・プログラマブル・リード・オンリー・メモリー)、マスクROM(マスク・リード・オンリー・メモリー)、EEPROM(エレクトリカル・イレイザブル・プログラマブル・リード・オンリー・メモリー)、フラッシュメモリ等の記憶素子、マイクロプロセッサー、DSP、ASIC等の理論回路素子、MMIC(モノリシック・マイクロウェーブ集積回路)に代表される化合物半導体等の集積回路素子、混成集積回路(ハイブリッドIC)、発光ダイオード、電荷結合素子等の光電変換素子等が挙げられる。
【0059】
上述した本発明の研磨液によれば、被研磨面の凹凸形状に大きく依存することなく、高い研磨速度を達成できる。このため当該研磨液を用いた研磨方法は、従来のCMP用研磨液を用いた方法では高い研磨速度を達成することが困難であった基板に対しても適用できる。
【0060】
特に、本発明の研磨方法は、表面に段差(凹凸)を有する被研磨面の平坦化に適している。このような被研磨面を有する基板としては、例えば、ロジック用の半導体デバイスが挙げられる。また、この研磨方法は、上から見たときに凹部又は凸部がT字形状又は格子形状になっている部分を含む表面を研磨するのに適している。例えば、メモリセルを有する半導体デバイス(例えば、DRAM、フラッシュメモリ)の表面に設けられた酸化ケイ素膜も高い速度で研磨できる。これらは、従来のCMP用研磨液を用いた方法では高い研磨速度を達成することが困難であったものであり、本発明のCMP研磨液が、被研磨面の凹凸形状に大きく依存することなく、高い研磨速度を達成できることを示している。
【0061】
なお、本発明の研磨方法を適用できる基板は、基板表面全体に酸化ケイ素膜のみが形成されたものに限らず、基板表面に酸化ケイ素膜の他に窒化ケイ素膜、多結晶シリコン膜等を更に有したものであってもよい。また、当該研磨方法は、所定の配線を有する配線板上に、酸化ケイ素膜、ガラス、窒化ケイ素等の無機絶縁膜、ポリシリコン、Al、Cu、Ti、TiN、W、Ta、TaN等を主として含有する膜が形成された基板に対しても適用できる。
【0062】
基板表面に酸化ケイ素膜を形成する方法としては、低圧CVD法、プラズマCVD法等が挙げられる。低圧CVD法による酸化ケイ素膜の形成は、Si源としてモノシラン(SiH)、酸素源として酸素(O)を用いる。このSiH−O系酸化反応を400℃以下の低温で行わせることによって酸化ケイ素膜が形成される。場合によっては、CVD後に1000℃又はそれ以下の温度での熱処理が実施される。
【0063】
プラズマCVD法は、通常の熱平衡下では高温を必要とする化学反応が低温でできる利点を有する。プラズマ発生法には、容量結合型と誘導結合型の2つが挙げられる。反応ガスとしては、Si源としてSiH、酸素源としてNOを用いたSiH−NO系ガスや、テトラエトキシシラン(TEOS)をSi源に用いたTEOS−O系ガス(TEOS−プラズマCVD法)が挙げられる。基板温度は250〜400℃及び反応圧力は67〜400Paの範囲が好ましい。
【0064】
高温リフローによる表面平坦化を図るために、酸化ケイ素膜にリン(P)をドープしてもよい。その場合、SiH−O−PH系反応ガスを用いることが好ましい。このように、研磨対象の酸化ケイ素膜は、リン、ホウ素等の元素がドープされたものであってもよい。
【0065】
窒化ケイ素膜も酸化ケイ素膜と同様、低圧CVD法、プラズマCVD法等により形成することができる。低圧CVD法では、Si源としてジクロルシラン(SiHCl)、窒素源としてアンモニア(NH)を用いる。このSiHCl−NH系酸化反応を900℃の高温で行わせることによって窒化ケイ素膜が形成される。プラズマCVD法では、Si源としてSiH、窒素源としてNHを用いたSiH−NH系ガスが反応ガスとして挙げられる。この場合、基板温度は300〜400℃が好ましい。
【0066】
以下、図1を参照しながら、本実施形態に係る研磨方法の一例として、CMPによってシャロー・トレンチ分離(STI)構造を形成するプロセスについて説明する。
【0067】
本実施形態に係る研磨方法は、酸化ケイ素膜3を高い速度で研磨する第1の工程(荒削り工程)と、残りの酸化ケイ素膜3を比較的低い速度で研磨する第2の工程(仕上げ工程)とを有する。
【0068】
図1は、酸化ケイ素膜が研磨されて半導体基板にシャロー・トレンチ分離構造が形成される過程を示す模式断面図である。図1(a)は、研磨前の基板を示す断面図である。図1(b)は、第1の工程後の基板を示す断面図である。図1(c)は、第2の工程後の基板を示す断面図である。
【0069】
これらの図に示すように、STI構造を形成する過程では、シリコン基板1上に成膜した酸化ケイ素膜3の段差4を解消するため、部分的に突出した不要な箇所をCMPによって優先的に除去する。なお、表面が平坦化した時点で適切に研磨を停止させるため、酸化ケイ素膜3の下には、研磨速度の遅い窒化ケイ素膜2(ストッパ膜)を予め形成しておくことが好ましい。第1及び第2の工程を経ることによって酸化ケイ素膜3の段差4が解消され、埋め込み部分5を有する素子分離構造が形成される。
【0070】
酸化ケイ素膜3を研磨するには、酸化ケイ素膜3の上面と研磨パッドとが当接するように研磨パッド上にウエハを配置し、この研磨パッドによって酸化ケイ素膜3の表面を研磨する。より具体的には、研磨定盤の研磨パッドに酸化ケイ素膜3の被研磨面側を押し当て、被研磨面と研磨パッドとの間に研磨液を供給しながら、両者を相対的に動かすことによって酸化ケイ素膜3を研磨する。なお、ここでは、研磨部材として研磨パッドを例示したが、研磨部材としては、研磨の機能を有するものであれば特に制限なく適用できる。
【0071】
上述した実施形態の研磨液は、第1及び第2の工程のいずれにも適用できるが、高い研磨速度を達成し得る点で第1の工程において使用することが特に好ましい。なお、ここでは、研磨工程を2段階に分けて実施する場合を例示したが、図1(a)に示す状態から図1(c)に示す状態まで一段階で研磨処理することも可能である。
【0072】
研磨に用いる研磨装置としては、例えば、基板を保持するホルダーと、研磨パッドが貼り付けられる研磨定盤と、研磨パッド上に研磨液を供給する手段とを備える装置が好適である。例えば、株式会社荏原製作所製の研磨装置(型番:EPO−111、EPO−222、F☆REX200、F☆REX300)、AMAT製の研磨装置(商品名:Mirra 3400、Reflexion研磨機)等が挙げられる。研磨パッドとしては、特に制限はなく、例えば、一般的な不織布、発泡ポリウレタン、多孔質フッ素樹脂等を使用することができる。また、研磨パッドは、研磨液が溜まるような溝加工が施されたものであると好ましい。
【0073】
研磨条件としては、特に制限はないが、基板が飛び出さないようにする見地から、研磨定盤の回転速度は200rpm以下が好ましい。また、基板にかける圧力(加工荷重)は、研磨面の傷を抑制するという見地から、100kPa以下が好ましい。研磨している間は、ポンプ等によって研磨パッドに研磨液を連続的に供給することが好ましい。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に研磨液で覆われるようにすることが好ましい。
【0074】
研磨終了後、流水中で基板を十分に洗浄し、更にスピンドライヤ等を用いて基板上に付着した水滴を払い落としてから乾燥させることが好ましい。このように研磨することによって、表面の凹凸を解消し、基板全面にわたって平滑な面を得ることができる。また、膜の形成及びこれを研磨する工程を所定の回数繰り返すことによって、所望の層数を有する基板を製造することができる。
【0075】
このようにして得られた基板は、種々の電子部品として使用することができる。具体例としては、半導体素子、フォトマスク・レンズ・プリズム等の光学ガラス、ITO等の無機導電膜、ガラス及び結晶質材料で構成される光集積回路・光スイッチング素子・光導波路、光ファイバーの端面、シンチレータ等の光学用単結晶、固体レーザ単結晶、青色レーザLED用サファイヤ基板、SiC、GaP、GaAs等の半導体単結晶、磁気ディスク用ガラス基板、磁気ヘッド等が挙げられる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
(砥粒の作製)
炭酸セリウム水和物:40kgをアルミナ製容器10個に分けて入れ、それぞれ830℃で2時間、空気中で焼成して黄白色の粉末を計20kg得た。この粉末についてX線回折法で相同定を行い、当該粉末が多結晶体の酸化セリウムを含むことを確認した。焼成によって得られた粉末の粒子径をSEMで観察したところ、20〜100μmの範囲であった。次いで、酸化セリウム粉末:20kgを、ジェットミルを用いて乾式粉砕を行った。粉砕後の酸化セリウム粉末は比表面積が9.4m/gであった。比表面積の測定はBET法によって実施した。
【0078】
(砥粒を含むスラリの調製)
容器内に、上記で得られた酸化セリウム粉末:15.0kg及び脱イオン水:84.7kgを入れて混合し、さらに1Nの酢酸を0.3kg添加して、10分間攪拌し、酸化セリウム混合液を得た。得られた酸化セリウム混合液を、別の容器に30分かけて送液した。その間、送液する配管内で、酸化セリウム混合液に対し、超音波周波数400kHzにて超音波照射を行った。
【0079】
超音波照射を経て送液された酸化セリウム混合液を、1000mlビーカー4個に各800g±8gずつ入れた。各ビーカー内の酸化セリウム混合液に対し、外周にかかる遠心力が500Gとなるような条件で、20分間遠心分離を行った。遠心分離後、ビーカーの上澄み画分を採取し、スラリ(A)を得た。得られたスラリ(A)には、全質量基準で約10.0質量%の酸化セリウム粒子が含まれていた。
【0080】
このようにして得られたスラリ(A)を、全質量基準で砥粒含有量が0.05質量%となるように純水で希釈して、これを粒径測定用のサンプルとした。このサンプルについて、動的光散乱式粒度分布計(株式会社堀場製作所社製、商品名:LB−500)を用いて砥粒の平均粒径を測定した結果、平均粒径は150nmであった。
【0081】
[CMP用研磨液(研磨液)の作製]
(サンプルNo.1〜12)
サンプルNo.1〜5に係る研磨液は、3−カルボニル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオン系化合物を添加剤として使用して調製されたものである。他方、サンプルNo.6〜12に係る研磨液は、3−カルボニル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオン系化合物ではない化合物を添加剤として使用して調製されたものである。各研磨液における添加剤の種類やその他の成分は、下記表1、2に示す通りとした。
【0082】
まず、所定量の脱イオン水に表1及び2に示す各添加剤を、最終的に表1及び2の濃度が得られるように溶解させて、添加剤溶液(B)を得た。次に、上述のスラリ(A)と添加剤溶液(B)と同量混合し、10分間にわたって攪拌した。これにより、研磨液(C)を得た。この研磨液(C)には、全質量基準で0.5質量%の砥粒と、表1及び2に記載した濃度の添加剤が含まれている。
【0083】
そして、上記方法で調製した5種類の研磨液(C)に2.5%アンモニア水(NHOH)又は1N希硝酸(HNO)をpH調整剤として添加し、表1及び表2に記載のpHとなるように調整して、サンプルNo.1〜5の研磨液を得た。なお、上記のpH調整剤の添加量は微量であるので、pH調整剤の添加後でも、得られた研磨液における砥粒濃度は、全質量基準で0.5質量%であり、また添加剤濃度も表1及び2に示した濃度である。上述したサンプルNo.1〜12のうち、サンプルNo.1〜5の研磨液はそれぞれ実施例に該当し、サンプルNo.6〜12の研磨液はそれぞれ比較例に該当する。
【0084】
[特性評価]
サンプルNo.1〜5の研磨液を用い、以下のような特性評価を行った。すなわち、まず、各研磨液を用いて表面に酸化ケイ素膜を有する直径:200mmのDRAMパターンテストウエハ(Praesagus製、型番:PCW−STI−811)を研磨した。このDRAMウエハは、微細な凹凸のある酸化ケイ素膜を有したものであり、凸部が凹部に対して約500nm高い初期段差をもち、酸化ケイ素の初期膜厚は約600nmである。配線は、格子形状と平行なラインで形成される。
【0085】
(酸化ケイ素膜の研磨)
研磨装置(アプライドマテリアル製、商品名:Mirra3400)を使用し、上記DRAMウエハの研磨を行った。基板取り付け用の吸着パッドを有するホルダーに、上記DRAMウエハをセットした。一方、直径:500mmの研磨定盤に多孔質ウレタン樹脂製の研磨パッド(k−groove溝、Rohm and Haas社製、型番:IC−1400)を貼り付けた。
【0086】
上記DRAMウエハの酸化ケイ素膜形成面を下に向けて上記ホルダーを研磨パッド上に載せた。インナーチューブ圧力、リテーナリング圧力及びメンブレン圧力は、28kPa、38kPa及び28kPaにそれぞれ設定した。
【0087】
そして、上記のようにして調製した各研磨液を、上記研磨定盤に貼り付けられた上記研磨パッド上に200ml/minの流量で滴下しながら、研磨定盤とDRAMウエハとをそれぞれ93rpm、87rpmで回転させて、酸化ケイ素膜を60秒間研磨した。その後、PVAブラシ(ポリビニルアルコールブラシ)を使用して研磨後のウエハを純水で良く洗浄した後、乾燥させた。
【0088】
(研磨速度の評価)
光干渉式膜厚装置(大日本スクリーン製造株式会社製、商品名:RE−3000)を用いて、研磨前後の酸化ケイ素膜の膜厚変化を測定した。測定点は、上記の直径:200mmのウエハの中心点と、中心点から直径方向に5mm間隔の各点とし、合計41点で測定を行った(なお、中心から95mmの測定点の次の測定点は、中心から97mmの場所とした)。これらの41点の膜厚変化量の平均から研磨速度を算出した。得られた結果を、パターン研磨速度として表1及び2に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
表1及び表2の結果から、3−カルボニル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオン系化合物を添加剤として使用したサンプルNo.1〜5(実施例)に係る研磨液は、サンプルNo.6〜12(比較例)に係る研磨液と比較し、高い速度で酸化ケイ素膜を研磨でることが示された。
【0092】
本発明者は発明を実施する最良の形態を明細書に記述している。上記の説明を同業者が読んだ場合、これらに似た好ましい変形形態が明らかになる場合もある。本発明者等は、本発明の異なる形態の実施、並びに、本発明の根幹を適用した類似形態の発明の実施についても十分意識している。また、本発明にはその原理として、特許範囲の請求中に列挙した内容の全ての変形形態、更に、様々な上記要素の任意の組み合わせが利用できる。その全てのあり得る任意の組み合わせは、本明細書中において特別な限定がない限り、あるいは、文脈によりはっきりと否定されない限り、本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0093】
1 シリコン基板
2 窒化ケイ素膜
3 酸化ケイ素膜
4 酸化ケイ素膜の段差
5 埋め込み部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、下記一般式(1)で表される3−カルボニル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオン系化合物を含む添加剤と、水と、を含有するCMP用研磨液。
【化1】

[式中、Xは、C1〜C4のアルキル基を示し、X及びXは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の置換基を示す。]
【請求項2】
3−カルボニル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオン系化合物が、6−メチル−3−アセチル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオンである、請求項1に記載のCMP用研磨液。
【請求項3】
pHが3.0以上7.0未満である、請求項1又は2に記載のCMP用研磨液。
【請求項4】
pH調整剤を更に含有する、請求項1〜3のいずれかに記載のCMP用研磨液。
【請求項5】
3−カルボニル−2H−ピラン−2,4(3H)−ジオン系化合物の含有量が、CMP用研磨液100質量部に対して0.01〜0.1質量部である、請求項1〜4のいずれかに記載のCMP用研磨液。
【請求項6】
砥粒の含有量が、CMP用研磨液100質量部に対して0.1〜10質量部である、請求項1〜5のいずれかに記載のCMP用研磨液。
【請求項7】
砥粒の平均粒径が、50〜500nmである、請求項1〜6のいずれかに記載のCMP用研磨液。
【請求項8】
砥粒が、セリウム系化合物を含む、請求項1〜7のいずれかに記載のCMP用研磨液。
【請求項9】
セリウム系化合物が、酸化セリウムである、請求項8に記載のCMP用研磨液。
【請求項10】
砥粒が、結晶粒界を有する多結晶酸化セリウムを含む、請求項1〜14のいずれかに記載のCMP用研磨液。
【請求項11】
請求項1〜15のいずれかに記載のCMP用研磨液を酸化ケイ素膜と研磨部材との間に供給して、研磨部材により酸化ケイ素膜を研磨する工程を含む、表面に酸化ケイ素膜を有する基板の研磨方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−243789(P2011−243789A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115243(P2010−115243)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】