説明

CNSクロライドの調節およびその使用

疼痛を緩和または治療するため、また痛覚を低下させるための方法および生成物が記載される。これらの方法および生成物は、CNSの細胞内クロライド濃度の調節に基づく。これらの方法および生成物は、KCC2カリウム-クロライド共輸送体などのクロライド輸送体の、活性および/または発現の調節に関する可能性もある。このような調節に基づく市販のパッケージおよび使用も、本明細書に記載される。疼痛の治療、痛覚の低下、ならびに疼痛の診断および予後判定用の化合物を同定または特徴付けるための関連法も記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中枢神経系(CNS)神経細胞中のアニオン濃度の調節、特に、CNSの細胞内クロライド濃度の調節、および疼痛を治療、予防、診断および予後判定するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている2003年5月16日出願の米国仮特許出願第60/470,885号の、合衆国法典第35巻第119条(e)に基づく優先権を主張するものである。
【0003】
疼痛を治療するための新たな改善された方法および物質に関する必要性は、医学分野の重大な現在の関心事である。例えば障害または疾患と関係がある、急性痛は重症である可能性があり、患者の回復に対して重大な影響を有する可能性がある。さらに多大な関心事は慢性痛であり、これは大部分の個体群に影響を与え、重大な不快感を引き起こすだけでなく、自尊心が低くなり、憂鬱、怒りをもたらす可能性があり、典型的な日常の活動に干渉するか、あるいは患者をそれから完全に妨げる可能性がある。
【0004】
幾つかの研究がこの分野でなされてきているが、痛覚に関する多くの機構および経路は、依然としてあまり理解されていない。さまざまな刺激の感覚の場合と同様に、痛覚は変更型の神経の興奮性と関係があることが示唆されてきている。
【0005】
幾つかの場合において、イオンの共輸送は、ある刺激の処理において役割を果たすと考えられてきている。例えばHowardら、(28)は、KCC3搬出体をコードする標的Slc12a6遺伝子の欠失によって作製したマウスは、歩行性障害、末梢神経障害、および感覚運動ゲート障害を含めた脳梁の無発生の特徴を示すことを実証している。Sungら、(29)は、NKCC1共輸送体をコードするSlc12a2遺伝子が破壊されたマウスでは、熱刺激に対する感受性が、野生型およびヘテロ接合体(NKCC1+/-)マウスと比較して大幅に低下することを報告している。
【0006】
痛覚に関する機構をより明確に定義して、この点における治療介入の新しい戦略を与える必要性が依然として存在する。
【特許文献1】米国仮特許出願第60/470,885号
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【特許文献6】PCT出願WO89/07136
【特許文献7】PCT出願WO89/02468
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【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は疼痛、およびこのような疼痛を治療、予防、診断および予後判定する方法に関する。本発明は、神経障害性疼痛およびCNS機能不全に伴う疼痛にも関する。本発明は、中枢神経系(CNS)神経細胞中の細胞内クロライド濃度を低下させる方法にも関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様によれば本発明は、対象の疼痛を治療または予防する方法であって、対象の中枢神経系(CNS)神経細胞中の細胞内クロライド濃度を低下させる工程を含む方法を提供する。一実施形態では、この方法は、CNS細胞中のクロライド輸送体の活性または発現を調節し、それによってクロライド濃度を低下させる工程を含む。他の実施形態では、クロライド輸送体はKCC2であり、方法はKCC2の活性または発現を増大させる工程を含む。他の実施形態では、CNS神経細胞は脊髄神経細胞である。さらに他の実施形態では、疼痛のシグナルは末梢神経系(PNS)細胞またはCNS神経細胞に対して経シナプス性の感覚線維で生じる。さらに他の実施形態では、疼痛は神経障害性疼痛であり、他の実施形態では、この神経障害性疼痛が神経損傷または路損傷に伴うか、あるいは体性痛および内臓痛からなる群から選択される。さらに他の実施形態では、疼痛は慢性炎症性疼痛、関節炎に伴う疼痛、線維筋痛、背痛、癌に伴う疼痛、消化系疾患に伴う疼痛、クローン病に伴う疼痛、自己免疫疾患に伴う疼痛、内分泌疾患に伴う疼痛、糖尿病性神経障害に伴う疼痛、幻脚痛、自発痛、慢性術後痛、慢性顎関節痛、カウザルギー、ヘルペス後神経痛、AIDS関連痛、複合性局所疼痛I型およびII型症候群、三叉神経痛、慢性背痛、脊髄障害に伴う疼痛および再発性の急性痛からなる群から選択される。
【0009】
一実施形態では、本発明の方法は、CNS細胞中の細胞内クロライド濃度を低下させることができる化合物を対象に投与する工程を含む。さらに他の実施形態では、化合物はCNS細胞中のクロライド輸送体の活性または発現を調節することができる。さらに他の実施形態では、クロライド輸送体はKCC2であり、さらに他の実施形態では、化合物はKCC2の活性または発現を増大させることができる。他の実施形態では、化合物はK-252aまたは抗TrkB抗体などのTrkBの阻害剤である。他の実施形態では、化合物は環状AMP依存性キナーゼ(PKA)の阻害剤 (例えばH-89)である。他の実施形態では、化合物はカルモジュリン依存性キナーゼ(CAMキナーゼ)の阻害剤であり、さらにそれはKN-93である。一実施形態ではKCC2が、配列番号2、4、6およびその断片からなる群から選択される配列と実質的に同一なアミノ酸配列を含む。
【0010】
本発明の他の態様によれば、CNS神経細胞中の細胞内クロライド濃度を低下させることができる化合物、および薬剤として許容可能な担体を含む、対象の疼痛を治療または予防するための組成物が提供される。一実施形態では化合物は、CNS神経細胞中のクロライド輸送体の活性または発現を調節することができる。他の実施形態では、クロライド輸送体はKCC2であり、さらに化合物はKCC2の活性または発現を増大させることができる。
【0011】
本発明のさらに他の態様によれば、本明細書に記載の組成物、および疼痛の治療または予防においてそれを使用するための指示書を含む市販のパッケージを提供する。
【0012】
本発明のさらに他の態様によれば、CNS神経細胞中の細胞内クロライド濃度を低下させることができる化合物、および疼痛の治療または予防にそれを使用するための指示書を含む市販のパッケージを提供する。一実施形態では化合物は、前記CNS神経細胞中のクロライド輸送体の活性または発現を調節することができる。他の実施形態では、クロライド輸送体はKCC2であり、さらに化合物は、前記KCC2の活性または発現を増大させることができる。
【0013】
本発明の他の態様によれば、疼痛を治療または予防するため、かつ/あるいは疼痛を治療または予防するための薬剤を調製するための本明細書に記載の組成物の使用を提供する。
【0014】
本発明のさらに他の態様によれば、疼痛を治療または予防するため、かつ/あるいは疼痛を治療または予防するための薬剤を調製するための、CNS神経細胞中の細胞内クロライド濃度を低下させることができる化合物の使用が提供される。一実施形態では化合物は、前記CNS細胞中のクロライド輸送体の活性または発現を調節することができる。他の実施形態では、クロライド輸送体はKCC2であり、さらに化合物は、KCC2の活性または発現を増大させることができる。他の実施形態では、化合物はTrkBの阻害剤であり、さらに阻害剤はK-252aおよび抗TrkB抗体からなる群から選択される。他の実施形態では、化合物は環状AMP依存性キナーゼ(PKA)の阻害剤であり、さらにそれはH-89である。他の実施形態では、化合物はカルモジュリン依存性キナーゼの阻害剤であり、さらにそれはKN-93である。
【0015】
本発明のさらに他の態様によれば、疼痛を治療または予防するための化合物を同定または特徴付ける方法であって、試験化合物とCNS由来細胞を接触させる工程と、細胞内クロライド濃度が試験化合物の存在下で低下しているかどうか判定する工程とを含み、その低下が疼痛を治療または予防するために試験化合物を使用できることを示す方法が提供される。
【0016】
本発明の他の態様によれば、疼痛を治療または予防するための化合物を同定または特徴付ける方法であって、試験化合物とクロライド輸送体を発現するCNS由来細胞を接触させる工程と、クロライド輸送体の活性または発現が、試験化合物の存在下において調節されて、細胞内クロライドの濃度を低下させるかどうか判定する工程を含み、その調節が疼痛を治療または予防するために試験化合物を使用できることを示す方法を提供する。一実施形態では、クロライド輸送体はKCC2であり、さらに方法は、前記KCC2の発現または活性が試験化合物の存在下で増大し、その調節が増大であるかどうか判定する工程を含む。他の実施形態では、KCC2の活性が、カリウム輸送、クロライド輸送、細胞内クロライド濃度およびアニオン逆転電位(anion reversal potential)からなる群から選択されるパラメータを測定することによって決定される。さらに他の実施形態では、疼痛が慢性炎症性疼痛、関節炎に伴う疼痛、線維筋痛、背痛、癌に伴う疼痛、消化系疾患に伴う疼痛、クローン病に伴う疼痛、自己免疫疾患に伴う疼痛、内分泌疾患に伴う疼痛、糖尿病性神経障害に伴う疼痛、幻脚痛、自発痛、慢性術後痛、慢性顎関節痛、カウザルギー、ヘルペス後神経痛、AIDS関連痛、複合性局所疼痛I型およびII型症候群、三叉神経痛、慢性背痛、脊髄障害に伴う疼痛および再発性の急性痛からなる群から選択される。
【0017】
本発明のさらに他の態様によれば、疼痛を治療または予防するための化合物を同定または特徴付ける方法であって、レポータータンパク質をコードすることができるレポーター遺伝子を含む第2の核酸と機能的に連結している、クロライド輸送体遺伝子と通常に結合している転写調節性エレメントを含む第1の核酸を含むCNS由来細胞と、試験化合物を接触させる工程と、レポーター遺伝子の発現またはレポータータンパク質の活性が試験化合物の存在下で調節されるかどうか判定する工程とを含み、レポーター遺伝子の発現またはレポータータンパク質の活性の調節が、疼痛を治療または予防するために試験化合物を使用できることを示す方法を提供する。他の実施形態では、クロライド輸送体はKCC2であり、さらにレポーター遺伝子の発現またはレポータータンパク質の活性が、試験化合物の存在下で増大する。
【0018】
本発明の一態様によれば、対象の痛覚を低下させるための方法であって、対象のCNS神経細胞中の細胞内クロライドを低下させる工程を含む方法を提供する。一実施形態では方法は、CNS神経細胞中のクロライド輸送体の活性または発現を調節することを含む。他の実施形態では、クロライド輸送体はKCC2であり、さらに方法はKCC2の活性または発現を増大させる工程を含む。他の実施形態では、方法はKCC2の活性または発現を増大させることができる化合物とCNS神経細胞を接触させる工程をさらに含む。さらに他の実施形態では、化合物はTrkBの阻害剤であり、さらに阻害剤はK-252aおよび抗TrkB抗体からなる群から選択される。さらに他の実施形態では、化合物は環状AMP依存性キナーゼ(PKA)の阻害剤であり、さらにそれはH-89である。さらに他の実施形態では、化合物はカルモジュリン依存性キナーゼの阻害剤であり、さらにそれはKN-93である。さらに他の実施形態ではKCC2が、配列番号2、4、6およびその断片からなる群から選択される配列と実質的に同一なアミノ酸配列を含む。
【0019】
本発明の他の態様によれば、疼痛を経験している対象のCNS機能不全に伴う疼痛を診断または予後判定する方法であって、試験したCNS細胞内クロライド濃度が対応する対照のクロライド濃度に対して増大しているかどうか判定する工程を含み、その増大が対象がCNS機能不全に伴う疼痛を経験していることを示す方法を提供する。一実施形態では方法は、CNSクロライド輸送体の活性または発現が、対照輸送体の活性または発現に対して調節されるかどうか判定する工程をさらに含む。他の実施形態では、クロライド輸送体はKCC2であり、さらに方法は、KCC2の活性または発現が対照の活性または発現に対して低下しているかどうか判定する工程を含む。さらに他の実施形態では、対照の細胞内クロライド濃度が、確立した標準、初期に対象中で測定した対応する細胞内クロライド濃度、対象があまり疼痛を経験していないかあるいは実質的に疼痛を経験していないときに、対象中で測定した対応する細胞内クロライド濃度、およびあまり疼痛を経験していないかあるいは実質的に疼痛を経験していない対照対象中で測定した対応する細胞内クロライド濃度からなる群から選択される。さらに他の実施形態では、対照の活性または発現が、KCC2活性または発現の確立した標準、初期に対象中で測定した対応するKCC2活性または発現の濃度、対象があまり疼痛を経験していないかあるいは実質的に疼痛を経験していないときに、対象中で測定した対応するKCC2活性または発現の濃度、およびあまり疼痛を経験していないかあるいは実質的に疼痛を経験していない対照対象中で測定した対応するKCC2活性または発現の濃度からなる群から選択される。他の実施形態では、KCC2の活性はカリウム輸送、クロライド輸送、細胞内クロライド濃度およびアニオン逆転電位からなる群から選択されるパラメータを測定することによって決定する。さらに他の実施形態では、指標化合物が対象のCNS神経細胞と接触するように、クロライド濃度を示す指標化合物を対象に投与する工程と、指標化合物と関係があるin vivoのシグナルを評価する工程とによって、細胞内クロライド濃度を測定する。さらに他の実施形態では、CNS機能不全に伴う疼痛は神経障害性疼痛である。さらに他の実施形態では、指標化合物は放射性核種であり、さらに放射性核種は201Tl、99Tcm-テ
トロフォスミン、99Tcm-MIBI、99Tcm-HMPAOおよび36Clからなる群から選択される。さらに他の実施形態では、in vivoのシグナルを画像診断技術によって評価する。さらに他の実施形態では、in vivoのシグナルは指標化合物の保持指標である。他の実施形態では、画像診断技術は単一光子放射コンピュータ断層撮影法、陽電子放射断層撮影法、および磁気共鳴画像診断法からなる群から選択される。さらに他の実施形態では、指標化合物はKCC2発現を示し、さらにそれはKCC2を対象とする抗体である。
【0020】
本発明のさらに他の態様によれば、対象中のCNS機能不全に伴う疼痛を治療する方法であって、対象のCNS機能不全に伴う疼痛を本明細書に記載の方法に従い診断または予後判定する工程と、対象のCNS細胞中の細胞内クロライド濃度を低下させる工程を含む方法を提供する。
【0021】
一実施形態では、前記対象は哺乳動物であり、他の実施形態ではヒトである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本明細書に記載するのは、末梢神経障害後の脱抑制の新規な機構である。それは表面後角(SDH)内の薄層Iニューロン中の、アニオン恒常性の経シナプス的破壊に関するものであり、主要な脊髄の侵害受容性出力経路の1つである(7)。結果として生じる膜を介したアニオン勾配の変化は、通常は抑制性のアニオンシナプス電流を興奮性にし、薄層Iニューロンの実質的な興奮性を大幅に増大させることが示されている。本明細書に示すように、末梢神経障害は、中枢神経系(CNS)ニューロン中の細胞内クロライド濃度の増大を経シナプス的にもたらす、シグナルの伝播によって感知される。さらに、侵害受容閾値を著しく低下させたインタクトなラットにおける脊髄KCC2輸送体の局所的阻害または破壊によって示されるように、本明細書に記載する試験によって、CNSニューロンのクロライド濃度の低下が、この現象を逆転させる可能性があることを実証した。このことによって、報告された薄層Iニューロン中のアニオン恒常性の破壊は、神経障害性疼痛を引き起こすのに充分であったことが確認された。
【0023】
したがって、本明細書に記載する試験は、末梢神経障害後の後に起こる現象を試験することによって痛覚の機構を調べた。このように、このような現象は、中枢神経系(CNS)ニューロン、一実施形態では脊髄ニューロンに、経シナプス的に伝播する(例えば末梢神経系(PNS)細胞または感覚線維によって)ことを本明細書で示す。さらに本明細書の試験は、侵害受容性シグナルおよび痛覚の伝播は、CNS組織中の細胞内クロライド濃度の調節(例えばカリウム-クロライド共輸送体KCC2などのクロライド輸送体によって調節される)によって最終的に影響を受けることを実証する。KCC2(概要に関しては(37)を参照のこと)は、ラット、マウスおよびヒト中で同定されているカリウム-クロライド共輸送体である(ヒトKCC2に関しては、例えば2003年2月6日に公開されたMount他の米国特許出願第20030027983号を参照のこと)。マウスにおけるKCC2遺伝子のホモ接合破壊およびヘテロ接合破壊の試験によって、発作の表現型が明らかになり、てんかんにおけるKCC2の考えられる役割が示唆された(38)。CNS機能におけるKCC2の正確な役割は、まだ完全には理解されていない。
【0024】
本出願人は、CNS細胞または組織中の細胞内クロライド濃度(例えば、KCC2などのクロライド輸送体の活性/発現による)と、痛覚の間の相関関係を本明細書で実証する。以下の実施例に示すように、末梢神経障害(PNI)は、CNSニューロン、例えば脊髄、例えば表面後角(SDH)内の薄層I(LI)ニューロンの過興奮性または感作をもたらす。このような過興奮性は、経シナプス的に(すなわち、損傷した末梢ニューロンから)生じ、これは本明細書の本出願人による試験の前には記載されなかった現象である。このような過興奮性は、侵害受容閾値の低下をもたらす。
【0025】
本明細書に示すように、前述の過興奮性は、SDH中の細胞内クロライド濃度の増大と相関関係がある(例えば、クロライド輸送体[KCC2など]の活性および/または発現の調節[例えば低下])。この点におけるKCC2の役割は、KCC2遮断剤DIOAまたはKCC2アンチセンスオリゴヌクレオチドを脊髄組織に投与することによって確認し、いずれも痛覚に関する閾値の迅速な低下をもたらした。したがって、KCC2の活性および/または発現の低下は、それが高いCNSニューロンのクロライド濃度をもたらす場合、痛覚に関する閾値の低下をもたらす可能性があり、および逆に、KCC2の活性および/または発現の増大または誘導は、それがCNSニューロンのクロライドの低下をもたらす場合、痛覚に関する閾値の増大をもたらし、これによって疼痛の予防および治療を与える可能性がある。他方で、例えば[K+]0が上昇する幾つかの病態生理条件下では、KCC2はCl-をニューロン中に蓄積させ、それによってニューロンの興奮性を増大させることができる(42)ことが報告されてきている。このような条件下では、KCC2はCNSニューロンのクロライドに対して正反対の影響を有し、これによってCNSニューロンのクロライドの増大、したがって低下した侵害受容閾値および増大した痛覚をもたらすことが想定される。このように、KCC2の活性および/または発現の調節は、クロライドイオンの流れの指向性に応じて、痛覚の原因となるか痛覚を緩和する可能性がある。
【0026】
したがって、第1の態様では本発明は、CNS細胞内クロライド濃度の調節、さらにクロライド輸送体、例えばKCC2カリウム-クロライド共輸送体の活性および/または発現の調節に基づいて疼痛を治療するための方法および物質に関する。本明細書で使用する「クロライド輸送体」は、細胞膜中のクロライドアニオンの移動に影響を与えることができる細胞膜と結合した、ポリペプチド/タンパク質またはその複合体として定義する。「搬出(体)」は細胞の内側から外側への実質的な移動を指し、「移入(体)」は細胞の外側から内側への実質的な移動を指す。
【0027】
したがって、一実施形態では本発明は、細胞、例えばCNS神経細胞中の細胞内クロライド濃度を低下させることによって、疼痛を治療するための方法に関する。他の実施形態では、クロライド輸送体(例えばKCC2)の調節物質を使用して、細胞内クロライド濃度を低下させることができる。一実施形態では本発明は、疼痛を緩和するための手段として、CNS神経細胞中の細胞内クロライド濃度を低下させる化合物または薬剤の全身または局所施用に関する。この結果を得るために、前述の化合物または薬剤は、CNSニューロン中のクロライド輸送体(例えばKCC2共輸送体)の機能または発現を調節することができる。さらに他の実施形態では、化合物または薬剤は、クロライド輸送体すなわちKCC2の発現または活性を増大させることができる。
【0028】
一実施形態では、細胞内クロライド濃度が調節されるCNS神経細胞は、表面後角または脊髄に位置することができる。さらに細胞は、疼痛のシグナルが由来する末梢神経細胞または感覚線維に対して経シナプス性であってもよい。
【0029】
一実施形態では、本発明は、急性および慢性痛の治療、より詳細には神経障害性疼痛の治療にも関する。本明細書で使用する「神経障害性疼痛」は、神経障害(例えば、神経のクラッシュ、横断または圧迫の後、あるいは疾患が原因である神経変性の後)と関係がある慢性痛を指す。一実施形態では、神経障害性疼痛は神経障害または管損傷(tract injury)に伴う。他の実施形態では、神経障害性疼痛は内臓の疼痛および/体性の疼痛に伴う。本発明はさらに、CNSニューロンのクロライド濃度を低下させて(例えばクロライド輸送体[KCC2など]の活性および/または発現の調節によって)、痛覚を低下させることに関する。本明細書で使用する「痛覚」は、疼痛の感覚的要素を指す。疼痛は、圧力、障害、熱刺激または化学(例えばイオン性)刺激だけには限られないがこれらを含めた、さまざまな刺激の結果である可能性がある。幾つかの実施形態では、疼痛は慢性炎症性疼痛、関節炎、線維筋痛、背痛、癌に伴う疼痛、消化系疾患に伴う疼痛、クローン病に伴う疼痛、自己免疫疾患に伴う疼痛、内分泌疾患に伴う疼痛、糖尿病性神経障害に伴う疼痛、幻脚痛、自発痛、慢性術後痛、慢性顎関節痛、カウザルギー、ヘルペス後神経痛、AIDS関連痛、複合性局所疼痛I型およびII型症候群、三叉神経痛、慢性背痛、脊髄障害に伴う疼痛および/または再発性の急性痛などの多くの状態と関連があるものであってよい。本発明は、CNS機能不全に伴う疼痛を評価するための診断法および予後判定法にも関する。一実施形態では、このような診断/予後判定を、本明細書に記載する治療法の前、または治療養生法中に行って、疼痛の性質またはその進行をさらに特徴付け、したがって例えば、このような診断/予後判定から得られる結果に従い、このような疼痛の治療行程を選択するために使用することができる情報を与えることができる。本明細書で使用する「CNS機能不全に伴う疼痛」は、CNS組織中のイオン(例えばアニオン)恒常性の変化によって引き起こされる痛覚に関する。一実施形態では、アニオンはクロライドイオンである。他の実施形態では、この変化はCNS細胞中の細胞内クロライド濃度の増大である。さらに他の実施形態では、対象がCNS機能不全に伴う疼痛を経験しているとき、クロライド輸送体の活性または発現を調節することができる(例えばKCC
2の活性または発現を調節する[例えば低下させる]ことができる)。
【0030】
本明細書で使用する「KCC2」は、ニューロン中で発現する特定の型のカリウム-クロライド共輸送体を指す。幾つかの実施形態では、KCC2は、配列番号2のポリペプチド(ヒトKCC2;図9も参照)、配列番号4のポリペプチド(マウスKCC2;図10も参照)または配列番号6のポリペプチド(ラットKCC2;図11も参照)の配列、これらの断片またはこれらと実質的に同一な配列を含む。他の実施形態ではKCC2は、配列番号2、4、または6のポリペプチド、またはこれらの断片、またはこれらと実質的に同一な配列をコードすることができる核酸配列によってコードされており、あるいはハイブリダイゼーション方法(以下参照)によって関連付けられる。他の実施形態では、このような核酸配列は、配列番号1(ヒトKCC2のDNA;図9も参照)、配列番号3(マウスKCC2のDNA;図10も参照)または配列番号5(ラットKCC2のDNA;図11も参照)、これらの断片またはこれらと実質的に同一な配列を含み、あるいはハイブリダイゼーション方法(以下参照)によって関連付けられる。
【0031】
本明細書で使用する「クロライド輸送体の活性」は、細胞膜を介したクロライドの輸送を指す。このような輸送活性は、その幾つかの例を本明細書に記載する、当技術分野で知られているさまざまな方法を使用することにより、直接的または間接的手段によって測定することができる。本明細書で使用する「KCC2の活性」は、KCC2と関係がある任意の検出可能な表現型を指す。一実施形態では、KCC2の活性は、カリウム輸送、クロライド輸送を含むが、これらだけには限られず、例えばこれらは、例えばパッチクランプ法による逆転電位測定、クロライド/カリウム感受性染料(例えば、Haugland、R.P.、Handbook of Fluorescent Probes and Research Products、第9版、2002、Molecular Probes、Inc.、Eugene、OR、USAを参照)電極を使用して、細胞の内側および/または外側のカリウムおよび/またはクロライドの濃度を(直接的または間接的に)評価することによって測定することができる。さらにKCC2の活性は、神経細胞のアニオン逆転電位(Eanion)に影響を与える可能性もある。アニオン逆転電位は、例えばグラミシジン穿孔パッチクランプ記録法を使用することによって測定することができる。
【0032】
「クロライド輸送体の発現」(例えばKCC2の発現)は、クロライド輸送体の転写物(例えばKCC2の転写物)またはクロライド輸送体のポリペプチドまたはタンパク質(例えばKCC2のポリペプチドまたはタンパク質)の生成に関する。したがってクロライド輸送体の発現(例えばKCC2の発現)は、幾つかの実施形態では、タンパク質濃度を直接(例えば免疫細胞化学および/またはウエスタン分析によって)、またはクロライド輸送体をコードする核酸の濃度(例えば、クロライド輸送体をコードするmRNAなどのクロライド輸送体をコードする核酸の濃度)を評価することによって測定することができ、例えば逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応[RT-PCR]法、マイクロアレイ系の方法などの方法を使用することによって、あるいはノーザン分析によって測定することができる。
【0033】
CNS神経細胞中の細胞内クロライド濃度を低下させることができる化合物は、例えば、クロライド輸送体の活性および発現(例えばKCC2の活性および発現)を調節することができる。一実施形態では、クロライド輸送体の活性または発現(例えばKCC2の活性または発現)を増大させることができる。一実施形態では、これらの化合物を、それらがCNS組織またはCNS細胞と接触するように投与することができる。使用することができる化合物には、タンパク質の活性を直接的または間接的に変える化合物、およびタンパク質の生成および/または安定性(例えば、転写、翻訳、成熟、翻訳後修飾、リン酸化および分解のレベル)を調節する化合物があるが、これらだけには限られない。
【0034】
このような化合物の1つのクラスは、KCC2上の1つまたは複数の部位のリン酸化を調節することによって作用する化合物である。KCC2のクローニングによって(20)、KCC2はPKAに関する共通のリン酸化部位は含まないが、PKCに関する5つの部位(Thr34、Ser728、Thr787、Ser940およびSer1034)を含むことが報告されてきている。1つの共通部位を、カルボキシ末端のチロシンタンパク質リン酸化に関して同定した(Tyr1081)。このチロシンキナーゼの共通のリン酸化部位はKCClまたはKCC4イソ型中には存在しないが、それはKCC3タンパク質中では保存されている(21)。このように、KCC2の活性を上方制御するかあるいは増大させることができる化合物には、タンパク質キナーゼ阻害剤(例えばN-エチルマレイミド(23〜25)、スタウロスポリン(29)、およびK-252aなどの受容体チロシンキナーゼ阻害剤);幾つかのキナーゼまたはKCC2上のキナーゼリン酸化部位に対して作製した抗体または抗体断片、あるいはKCC2のリン酸化により直接的に干渉する化合物(例えば、KCC2上のリン酸化部位と競合することができるオリゴペプチド)、またはKCC2のリン酸化にあまり直接的に干渉しない化合物(例えば、キナーゼ活性および/または発現を調節する化合物)があるが、これらだけには限られない。一実施形態では、このような化合物はリン酸化仲介シグナル経路のレベルで作用し、KCC2のリン酸化に最終的に影響を与えることができる。他の実施形態では、TrkBを調節してKCC2のリン酸化に影響を与え、KCC2の活性を最終的に調節することができる。したがって一実施形態では、例えばTrkB活性を阻害する化合物を、この点で使用することができる。このような化合物はK-252a(Calbiochemから市販されている)またはTrkBに対する中和抗体(抗TrkB抗体[例えばIgG])(BD Transduction Laboratoriesから市販されている)を含むことができるが、これらだけには限られない。さらに他の実施形態では、環状AMP依存性キナーゼまたはPKAの調節、例えば阻害は、KCC2のリン酸化を調節する際に有用である可能性があり、最終的には疼痛の治療または予防において使用することができる。例えば、PKA阻害剤H-89(EMD Biosciencesから市販されている)を、この点で使用することができる。他の実施形態では、カルモジュリン依存性キナーゼ(CAMキナーゼ、例えばIIおよびIV)の調節、例えば阻害は、KCC2の活性、例えばリン酸化を調節することによって、対象の疼痛を緩和または予防することができる。このようなキナーゼを阻害することができる化合物には、KN-93(EMD Biosciencesから市販されている)があるが、これだけには限られない。さらに他の実施形態では、TrkB経路の他のメンバー(例えばホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼC、またはホスファチジルコリン特異的ホスホリパーゼC、例えばホスホリパーゼCガンマ(PLCγ))の調節物質、例えば阻害剤を使用して、CNS神経細胞中の細胞内クロライド濃度を低下させることができる。このような化合物には、トリシクロデカン-9-イル-キサントゲネート、1-O-オクタデシル-2-O-メチル-rac-グリセロ-3-ホスホリルコリン、硫酸ネオマイシン、スペルミンテトラヒドロクロリド、1-[6-((17β-3-メトキシエストラ-l,3,5(10)-トリエン-17-イル)アミノ)ヘキシル]-1H-ピロール-2,5-ジオン、または1-[6-((17β-3-メトキシエストラ-1,3,5(10)-トリエン-l7-イル)アミノ)ヘキシル]-2,5-ピロリジンジオンがあるが、これらだけには限られない。
【0035】
さらにKCC2発現の調節は、KCC2発現を制御する転写因子の(例えばリン酸化によって仲介される)調節から生じる可能性もある。他の態様では本発明は、対象または動物において、疼痛を治療するためあるいは痛覚を予防/低下させるための方法であって、CNSニューロンまたは組織中の細胞内クロライド濃度を調節すること、幾つかの実施形態では低下または減少させる工程を含む方法を提供する。一実施形態では、細胞内クロライド濃度のこのような減少は、対象のCNSニューロンまたは組織中のクロライド輸送体(例えばKCC2)の活性または発現を調節する、例えば減少させることによって得られる。他の実施形態では、対象は脊椎動物である。他の実施形態では対象は哺乳動物であり、さらに他の実施形態ではヒトである。一実施形態では、CNS組織は脊髄組織であり、神経細胞は脊髄神経細胞である。
【0036】
したがって本発明は、疼痛を治療する方法であって、対象のCNS組織(例えばCNS神経細胞)中の細胞内クロライド濃度を調節すること、一実施形態では減少または低下させることができる化合物を投与する工程を含む方法を提供する。一実施形態では、調節、例えばクロライド輸送体(例えばKCC2)の活性および/または発現の増大は、対象中の細胞内クロライド濃度の低下に影響を与える。一実施形態では、CNS組織は脊髄組織であり、神経細胞は脊髄神経細胞である。
【0037】
一実施形態ではKCC2は、配列番号2、4、6で規定される配列と実質的に同一なアミノ酸配列、またはこれらの断片を含む。他の実施形態ではKCC2は、配列番号2、4、6をコードすることができるヌクレオチド配列またはその断片、例えば配列番号1、3、5で規定される配列と実質的に同一な配列またはその断片と実質的に同一な核酸によってコードされていてよい。
【0038】
前述のように、活性を保持しているKCC2の相同体、変異体および/または断片を、本発明の方法で使用することもできる。相同体は、KCC2のアミノ酸配列と実質的に同一であり、KCC2と相当な構造的および機能的相同性を共有するタンパク質配列を含む。変異体には、任意の修飾、および/またはアミノ酸置換、欠失または付加によってKCC2と異なるタンパク質またはペプチドがあるが、これらだけには限られない。修飾は、ポリペプチド骨格(すなわちアミノ酸配列)、アミノ酸側鎖およびアミノまたはカルボキシ末端を含めた任意の場所で、起こる可能性がある。このような置換、欠失または付加は、1つまたは複数のアミノ酸に関するものである。断片は、KCC2の断片または一部分、あるいはKCC2の相同体または変異体の断片または一部分を含む。
【0039】
細胞中のKCC2の発現の増大または上方制御に関して、KCC2コード核酸を細胞中に導入するさまざまな方法を使用することができ、その幾つかの例を以下に記載する。以下に論じる遺伝子療法などの方法は、この点で使用することができる。KCC2コード核酸の例には、配列番号2、4、または6のポリペプチドをコードすることができる核酸(例えば、配列番号1、3、および5の核酸)、またはこれらと実質的に同一な核酸がある。この方法は、例えばこのようなKCC2コード核酸を含む神経細胞またはその前駆体(例えば幹細胞)を移植または導入することによって、このようなKCC2コード核酸を含む細胞を神経領域または神経組織、例えばCNS組織に投与することも含むことができる。さらにこの方法は、KCC2の発現を調節、例えば上方制御するかあるいは増大させることができる化合物を、対象に投与することを伴う可能性がある。このような化合物は、以下に記載するスクリーニング法によって、例えば同定し特徴付けることができる。更に、このような化合物は、化合物および薬剤として許容可能な担体を含む組成物として提供することができる。一実施形態では、組成物はCNSへの投与用に配合するか、あるいはそれに適合させる。このような化合物または組成物は、それを使用するための指示書を含む市販のパッケージ中に提供することができる。
【0040】
「相同性」および「相同的」は、2つのペプチドまたは2つの核酸分子間の配列類似性を指す。アラインメントした配列中のそれぞれの位置を比較することによって、相同性を決定することができる。核酸間またはアミノ酸配列間の相同性の程度は、その配列によって共有される位置における同一またはマッチしたヌクレオチドまたはアミノ酸の数の関数である。その語を本明細書で使用するとき、2つの配列が実質的に同一であり配列の機能活性が保存される場合、核酸配列は他の配列と「相同的」である(本明細書で使用する場合には、用語「相同的」は、進化の関連性を指すわけではない)。(ギャップを挿入して)最適にアラインメントさせたときに、配列が少なくとも約50%の配列類似性または同一性を共有する場合、あるいは配列が明確な機能モチーフを共有する場合、2つの核酸配列は実質的に同一であると考えられる。他の実施形態では、最適にアラインメントをとる実質的に同一である配列中の配列類似性は、少なくとも60%、70%、75%、80%、85%、90%または95%であってよい。本明細書で使用するように、配列間の所与の相同性の割合は、最適にアラインメントした配列中の配列同一性の程度を示す。「無関係」または「非相同的な」配列は、配列番号1〜6のいずれかと40%未満の同一性、ただし好ましくは約25%未満の同一性を共有する。
【0041】
実質的に相補的な核酸は、1つの分子の「相補分子」が他方の分子と実質的に同一である核酸である。同一性を比較するための配列の最適なアラインメントは、SmithおよびWaterman、1981、Adv.Appl. Math 2: 482の局所相同性アルゴリズム、NeedlemanおよびWunsch、1970、J.Mol.Biol.48: 443の相同性アラインメントアルゴリズム、PearsonおよびLipman、1988、Proc.Natl.Acad.Sci.USA85: 2444の類似性探索法、およびこれらのアルゴリズムのコンピュータによる実施(GAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA、Wisconsin Geneticsソフトウェアパッケージ中、Genetics Computer Group、Madison、WI、米国)などの、さまざまなアルゴリズムを使用して行うことができる。配列同一性は、Altschulら、1990、J.Mel.Biol.215: 403〜10(公開されているデフォルト設定を使用する)中に記載されたBLASTアルゴリズムを使用して決定することもできる。BLAST分析を行うためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Informationを介して(インターネットを介してhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/で)入手することができる。BLASTアルゴリズムは、データベース配列中の同じ長さの語とアラインメントをとるとき、幾つかのプラスの値の閾値Tとマッチするかあるいはそれを満たす、検索配列中の長さWの単語を同定することによって、high scoring sequence pair(HSP)を最初に同定することを含む。Tは文字列の値の閾値を指す。最初の文字列のヒットは、さらに長いHSPを発見するためのリサーチを開始する元として働く。文字列のヒットは、累積アラインメントスコアが増大する可能性がある限り、それぞれの配列に沿って両方向に広がる。それぞれの方向の文字列のヒットの広がりは、以下のパラメータが適合するとき停止する:累積アラインメントスコアが、その最大値を得た値から量Xに低下する;1つまたは複数のマイナスの値の残基アラインメントの蓄積のために、累積スコアが0以下になる;あるいはいずれかの配列の端に達する。BLASTアルゴリズムのパラメータW、TおよびXは、アラインメントの感度および速度を決定する。BLASTプログラムは、11のword length(W)、50のBLOSUM62 scoring matrix (HenikoffおよびHenikoff、1992、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89: 10915〜10919) alignments(B)、10(または1または0.1または0.01または0.001または0.0001) のexpectation(E)、M=5、N=4、および両鎖の比較値をデフォルトとして使用することができる。BLASTアルゴリズムを使用した2配列間の統計的類似性の1つの測定値は、最小合計確率(P(N))であり、2ヌクレオチドまたはアミノ酸配列間の適合が偶然起こると思われる確率の指標を与える。本発明の他の実施形態では、試験配列の比較値の最小合計確率が約1未満、好ましくは約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、および最も好ましくは約0.001未満である場合、ヌクレオチドまたはアミノ酸配列は実質的に同一であると考える。
【0042】
2つの核酸配列が実質的に相補的である他の指標は、2つの配列が適度にストリンジェントな、あるいは好ましくはストリンジェントな条件下において、互いにハイブリダイズすることである。適度にストリンジェントな条件下でのフィルタ-結合配列とのハイブリダイゼーションは、例えば、0.5MのNaHPO4、7%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、1mMのEDTA中において65℃で行うことができ、0.2×SSC/0.1%SDS中において42℃で洗浄することができる(Ausubelら(編)、1989、Current Protocols in Molecular Biology、Vol.1、Green Publishing Associates、Inc.、およびJohn Wiley & Sons、Inc.、ニューヨーク、p.2.10.3を参照のこと)。あるいは、ストリンジェントな条件下でのフィルタ-結合配列とのハイブリダイゼーションは、例えば、0.5MのNaHPO4、7%SDS、1mMのEDTA中において65℃で行うことができ、0.1×SSC/0.1%SDS中において68℃で洗浄することができる(Ausubelら(編)、1989、上記を参照のこと)。ハイブリダイゼーション条件は、対象とする配列に応じて知られている方法に従い変更することができる(Tijssen、1993、Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology -- Hybridization with Nucleic Acid Probes、PartI、Chapter2 「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays」、Elsevier、ニューヨークを参照のこと)。一般に、一定のイオン強度およびpHでの特定の配列の融解点より約5℃低い、ストリンジェントな条件が選択される。
【0043】
他の態様によれば本発明は、対象の痛覚を減少させるための方法も提供する。一実施形態では、この方法は、対象の細胞、例えばCNS細胞中の細胞内クロライド濃度を調節する、例えば減少させることを含む。他の実施形態ではこの方法は、クロライド輸送体の活性または発現、例えばKCC2の活性または発現を調節する、例えば増大させることも含む。さらに他の実施形態ではこの方法は、クロライド輸送体の活性を調節することができる化合物とCNS神経細胞を接触させることも含む。このような化合物には、TrkB阻害剤(K-252aまたは抗TrkB抗体など)、PKA阻害剤(H-89など)またはCAMキナーゼ阻害剤(KN-93など)があるが、これらだけには限られない。
【0044】
本発明はさらに、疼痛を予防および/または治療するための組成物であって、薬剤として許容可能な担体と混合した、細胞内クロライド濃度を調節する、例えば減少させることができる化合物を含む組成物を提供する。一実施形態では、このような組成物は、クロライド輸送体の活性、例えばKCC2の活性および/または発現を調節する、例えば増大させるかあるいは上方制御することができる。一実施形態では、このような組成物は、CNS神経細胞または脊髄組織もしくは細胞などの組織への投与に適しているか、あるいはそれに適合させてある。さらに他の実施形態では、このような組成物は、KCC2発現または活性の誘導物質であってよい。本明細書で使用する「誘導物質」は、KCC2遺伝子の発現、KCC2のmRNAの安定性、KCC2のmRNAの翻訳、KCC2ポリペプチドの成熟、細胞膜へのKCC2ポリペプチドの輸送、例えば循環、またはKCC2ポリペプチドの輸送体の活性を直接的または間接的に上方制御するかあるいは増大させる化合物である。一実施形態では、「誘導物質」は、KCC2阻害剤を下方制御または阻害することもできる。
【0045】
本発明はさらに、疼痛を治療または予防するための、細胞内クロライド濃度を調節する、例えば減少させることができる、前述の組成物または前述の化合物の使用を提供する。本発明は、疼痛を治療または予防するための薬剤を調製するための、細胞内クロライド濃度を調節する、例えば減少させることができる、前述の組成物または前述の化合物の使用も提供する。一実施形態では、化合物または組成物は、クロライド輸送体(例えばKCC2)の活性および/または発現を調節する、例えば増大させるかあるいは上方制御する。さらに他の実施形態では、化合物または組成物は、TrkB阻害剤(K-252aまたは抗TrkB抗体など)、PKA阻害剤(H-89など)またはCAMキナーゼ阻害剤(KN-93など)を含むことができる。さらに他の実施形態では、対象のCNS組織、例えばCNS細胞に投与するための薬剤を配合することができる。さらに化合物は、例えばKCC2の発現または活性の誘導物質であってよい。
【0046】
本発明はさらに、細胞内クロライド濃度を調節する、例えば減少させることができる化合物、または前に記載した組成物、および疼痛の治療または予防においてそれを使用するための指示書を含む市販のパッケージを提供する。一実施形態では、化合物はクロライド輸送体すなわちKCC2の活性および/または発現を調節する、例えば増大させるかあるいは上方制御することができる。
【0047】
さまざまな実施形態において、CNS細胞中の細胞内クロライド濃度を調節する、例えば減少させることができる化合物は、疼痛を治療するための配合物または薬剤中に治療上使用することができる。例えば化合物は、クロライド輸送体(例えばKCC2)の活性および/または発現を調節する、例えば増大させるかあるいは上方制御することができる。本発明は、細胞内クロライド濃度を調節する、一実施形態では減少させることができる治療用量の化合物を薬理学的に許容される配合物に投与する、対応する医学的治療の方法も提供する。したがって本発明は、細胞内クロライド濃度を調節する、一実施形態では減少させることができる化合物、および薬理学的に許容される賦形剤または担体を含む治療組成物も提供する。治療組成物は、生理学的に許容されるpHで水溶液に可溶であってよい。
【0048】
一実施形態では、本発明の化合物は、それがCNS組織またはCNSニューロンと接触するように投与する。本明細書で使用する「中枢神経系」すなわちCNSは、脳および脊髄(例えば腰部領域中)を含む神経系の一部分である。対照的に、「末梢神経系」すなわちPNSは、脳および脊髄以外の神経系の一部分である。一実施形態ではCNS組織は表面後角であり、他の実施形態では薄層Iニューロンである。このように、幾つかの実施形態では、本発明の化合物を投与して、直接的な頭蓋内またはクモ膜下注射あるいは脳脊髄液中への注射によって、in vivoでのCNS細胞を治療することができる。あるいは、化合物を全身に(例えば静脈内あるいは経口的に)、血液脳関門を横切りCNSに入ることができる形で投与することができる。「神経の」と「ニューロンの」は本明細書では互換的に使用し、両者はニューロンおよび神経系に関する。
【0049】
本発明はさらに、CNS細胞中の細胞内クロライド濃度を調節する、一実施形態では減少させることができる化合物を含む、医薬組成物(薬剤)を提供する。一実施形態では、このような組成物は、疼痛を治療するかあるいは緩和するのに充分な治療上または予防上有効な量の化合物、および薬剤として許容可能な担体を含む。「治療上有効な量」は、疼痛の低下などの望ましい治療結果を得るのに必要な、用量および期間において有効な量を指す。CNS細胞中の細胞内クロライド濃度を調節する、一実施形態では減少させることができる化合物の治療上有効な量は、個体の疾患状態、年齢、性別、および体重、ならび個体中で望ましい応答を誘導する化合物の能力などの要因に従い変わる可能性がある。用量処方計画を調節して、最適な治療応答を与えることができる。治療上有効な量は、化合物の任意の毒性のまたは有害な影響を治療上有益な影響が上回る量でもある。「予防上有効な量」は、疼痛の発症または疼痛の重度の増大の予防または阻害などの、望ましい予防結果を得るのに必要な、用量および期間において有効な量を指す。予防上有効な量は、治療上有効な量に関して前に記載したのと同様に決定することができる。任意の特定の対象用に、特異的な用量処方計画を、個体の必要性、および組成物を投与するかあるいは組成物の投与を管理する人の専門的判断に応じて経時的に調節することができる。
【0050】
本明細書で使用する「薬剤として許容可能な担体」または「賦形剤」は、生理的に適合性がある、任意のあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延剤などを含む。一実施形態では、担体は非経口投与に適している。あるいは担体は、静脈内、腹腔内、筋肉内、頭蓋内、クモ膜下、舌下または経口投与に適したものであってよい。薬剤として許容可能な担体には、滅菌済み水溶液または分散液、および滅菌済みの注射用溶液または分散液の即時調合剤用の滅菌済み粉末がある。薬剤として活性がある物質用にこのような媒体および物質を使用することは、当技術分野ではよく知られている。任意の従来の媒体または物質が活性化合物と不適合である場合を除いて、本発明の医薬組成物中でのそれらの使用が企図される。補助的活性化合物を、組成物中に取り込ませることもできる。
【0051】
典型的には治療組成物は、製造および保存の条件下において滅菌され、かつ安定していなければならない。溶液、マイクロエマルジョン、リポソーム、または高い薬剤濃度に適した他の構造体として、組成物を配合することができる。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、およびこれらの適切な混合物を含む溶媒または分散媒であってよい。適切な流動性は、例えばレシチンなどのコーティングを使用すること、分散液の場合必要とされる粒子の大きさを保つこと、および界面活性剤を使用することによって保つことができる。多くの場合、等張化剤、例えば糖、マンニトール、ソルビトールなどのポリアルコール、または塩化ナトリウムを組成物中に含むことが好ましいであろう。注射用組成物の長期の吸収は、吸収を遅らせる物質、例えばモノステアリン酸塩およびゼラチンを組成物中に含ませることによってもたらすことができる。さらに、KCC2の活性および/または発現を調節する、一実施形態では増大させるかあるいは上方制御することができる化合物を、経時的放出性配合物中、例えば徐放性ポリマーを含む組成物中で投与することができる。迅速な放出に対して化合物を保護する担体を用いてインプラントおよびミクロ被包送達系を含む制御型放出配合物など)、活性化合物を調製することができる。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、ポリ乳酸およびポリ乳酸とポリグリコール酸のコポリマー(PLG)などの生分解性生体適合性ポリマーを使用することができる。このような配合物を調製するための多くの方法は特許が与えられており、あるいは当業者には一般的に知られている。
【0052】
滅菌済み注射用溶液は、活性化合物(例えば、CNS細胞中の細胞内クロライド濃度を調節する、一実施形態では減少させることができる化合物)を必要とされる量、必要に応じて前に列挙した成分の1つまたは組合せと共に適切な溶媒中に取り込ませ、次に濾過滅菌することによって調製することができる。一般に分散液は、塩基性分散媒および前に列挙した成分由来の必要とされる他の成分を含む滅菌済み賦形剤中に、活性化合物を取り込ませることによって調製される。滅菌済み注射用溶液を調製するための滅菌済み粉末の場合、調製の好ましい方法は、真空乾燥および凍結乾燥であり、これらの方法により、事前に滅菌濾過した溶液由来の活性成分および任意の他の望ましい成分の粉末が生成される。本発明の他の態様によれば、CNS細胞中の細胞内クロライド濃度を調節する、一実施形態では減少させることができる化合物は、その溶解度を高める1つまたは複数の他の化合物と共に配合することができる。
【0053】
本発明の他の態様によれば、CNS細胞中の細胞内クロライド濃度を調節する、一実施形態では減少させることができる化合物を含む本発明の治療組成物は、疼痛の治療用にそれらを使用するための指示書をさらに含む、容器または市販のパッケージ中に与えることができる。
【0054】
細胞中の低下した細胞内クロライド濃度は、クロライド輸送体(KCC2)の濃度/活性の調節、例えば増大と関係があり、本明細書に記載する痛覚の減少とさらに相関関係があるとすると、本発明の他の態様は、KCC2をコードする核酸分子、あるいはKCC2活性を保持するその変異体または断片を、対象に(例えばCNS組織に)投与することによる疼痛の治療である。適切な投与法は遺伝子療法を含む。
【0055】
本発明の核酸は、DNAの直接的注射、受容体を介したDNAの取り込み、ウイルスを介したトランスフェクションまたは非ウイルストランスフェクションおよび脂質系トランスフェクションなどの方法(いずれも遺伝子療法ベクターの使用を含み得る)を使用して、in vivoで細胞に送達することができる。直接的注射を使用して、裸のDNAをin vivoで細胞に導入している(例えばAcsadiら、(1991) Nature 332: 815〜818; Wolffら、(1990) Science 247: 1465〜1468を参照のこと)。DNAをin vivoで細胞に注入するための送達装置(例えば「遺伝子ガン」)を使用することができる。このような装置は(例えばBioRadからの)市販のものであってよい。ポリリシンなどのカチオンとDNAを複合体形成させることによって、裸のDNAを細胞中に導入することもでき、これを細胞表面受容体のリガンドと結合させる(例えばWu、G.およびWu、C.H.(1988) J.Biol.Chem.263: 14621; Wilsonら、(1992) J.Biol.Chem.267: 963〜967;および米国特許第5,166,320号を参照のこと)。DNA-リガンド複合体と受容体の結合は、受容体を介したエンドサイトーシスによるDNAの取り込みを容易にする可能性がある。エンドソームを破壊しそれによって細胞質中に物質を放出させる、アデノウイルスキャプシドと連結したDNA-リガンド複合体を使用して、細胞内リソソームによる複合体の分解を回避することができる(例えばCurielら、(1991) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88: 8850; Cristianoら、(1993) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90: 2122〜2126を参照のこと)。遺伝子療法ベクターとして使用するための欠損レトロウイルスは、充分に特徴付けられている(総説に関しては、Miller、A.D.(1990) Blood 76; 271を参照のこと)。組換えレトロウイルスを生成するため、およびこのようなウイルスを用いてin vitroまたはin vivoで細胞を感染させるためのプロトコルは、Current Protocols in Molecular Biology、Ausubel、F.M.ら(編) Greene Publishing Associates、(1989)、Sections 9.10-9.14、および他の標準的な研究室用マニュアル中に見ることができる。適切なレトロウイルスの例にはpLJ、pZIP、pWEおよびpEMがあり、これらは当業者によく知られている。適切なパッケージングウイルス系統の例には.psi.Crip、.psi.Cre、.psi.2および.psi.Amがある。レトロウイルスを使用して、in vitroおよび/またはin vivoにおいて、上皮細胞、内皮細胞、リンパ球、筋芽細胞、肝細胞、骨髄細胞を含めた多くの異なる細胞型中にさまざまな遺伝子が導入されている(例えばEglitisら、(1985) Science 230: 1395-1398; DanosおよびMulligan (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:6460〜6464; Wilsonら、(1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:3014〜3018; Armentanoら、(1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:6141〜6145; Huberら、(1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:8039〜8043; Ferryら、(1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88: 8377〜8381; Chowdhuryら、(1991) Science 254: 1802〜1805; van Beusechemら、(1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 7640〜7644; Kayら、(1992) Human Gene Therapy 3: 641〜647; Daiら、(1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10892〜10895; Hwuら、(1993) J. Immunol. 150: 4104〜4115;米国特許第4,868,116号;米国特許第4,980,286号;PCT出願WO89/07136;PCT出願WO89/02468;PCT出願WO89/05345;およびPCT出願WO92/07573を参照のこと)。
【0056】
遺伝子療法ベクターとして使用するために、アデノウイルスのゲノムは、それが本発明のポリペプチド化合物をコードし発現するが、通常の細胞溶解ウイルスのライフサイクルでは複製能力の点で不活性であるように操作することができる。例えばBerknerら、(1988) BioTechniques 6: 616; Rosenfeldら、(1991) Science 252: 431〜434;およびRosenfeldら、(1992) Cell 68: 143〜155を参照のこと。アデノウイルス菌株Ad型5d1324または他のアデノウイルスの菌株(例えばAd2、Ad3、Ad7など)に由来する、適切なアデノウイルスベクターは当業者によく知られている。組換えアデノウイルスは、それらが有効な遺伝子送達媒体になるように細胞分裂させるを必要とせず、これらを使用して気道上皮(Rosenfeldら、(1992)前述)、内皮細胞(Lemarchandら、(1992) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89: 6482〜6486)、肝細胞(HerzおよびGerard(1993) Prop.Natl.Acad.Sci.USA 90: 2812〜2816)、および筋肉細胞(Quantinら、(1992) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89: 2581〜2584)を含めた広くさまざまな細胞型を感染させることができる点で有利である。
【0057】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、遺伝子療法目的でDNAを送達するための、遺伝子療法ベクターとして使用することができる。AAVは、有効に複製するために、そして生活環において必要であるヘルパーウイルスとして、アデノウイルスまたはヘルペスウイルスなどの他のウイルスを必要とする、天然に存在する欠損ウイルスである(Muzyczkaら、Curr.Topics in Micro.およびImmunol.(1992) 158: 97〜129)。AAVを使用して、非分裂細胞中にDNAを組み込むことができる(例えばFlotteら、(1992) Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.7: 349〜356; Samulskiら、(1989) J.Virol.63: 3822〜3828;およびMcLaughlinら、(1989) J.Virol.62: 1963〜1973を参照のこと)。Tratschinら、(1985) Mol.Cell.Biol.5:3251〜3260中に記載されたのと同様にAAVベクターを使用して、細胞中にDNAを導入することができる(例えばHermonatら、(1984) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81: 6466〜6470; Tratschinら、(1985) Mol.Cell.Biol.4: 2072〜2081; Wondisfordら、(1988) Mol.Endocrinol.2: 32〜39; Tratschinら、(1984) J.Virol.51: 611〜619;およびFlotteら、(1993) J.Biol.Chem.268: 3781〜3790を参照のこと)。レンチウイルス遺伝子療法ベクターを、本発明の使用に適合させることもできる。
【0058】
遺伝子療法の一般的な方法は、当技術分野で知られている。例えばAnderson他による米国特許第5,399,346号を参照のこと。遺伝物質を送達するための生体適合性カプセルは、Baetge他によるPCT公開WO95/05452中に記載されている。造血細胞中に遺伝子を移動させる方法も以前に報告されている(Clapp、D.W.ら、Blood 78: 1132〜1139 (1991); Anderson、Science 288: 627〜9(2000);およびCavazzana-Calvoら、Science 288: 669〜72(2000)を参照のこと)。本発明はさらに、KCC2をコードすることができる核酸を含む細胞を対象中に導入するための移植法、または(例えば、化合物を含む適切な培地中で細胞を培養することによって)細胞内クロライド濃度を低下させることができる化合物を用いてin vitroまたはex vivoで処理した細胞を、対象中に導入するための移植法に関する。一実施形態では、このような細胞は神経細胞またはその前駆体、例えば神経細胞(神経子孫細胞)に発達/分化することができる幹細胞である。神経幹細胞の単離、増殖、特徴付けおよび/または移植に関する方法は、例えば米国特許第5,851,832号、米国特許第5,968,829号、米国特許第5,411,883号、米国特許第5,750,376号、米国特許第6,040,180号、米国特許第5,753,506号および米国特許第6,001,654号中に記載されている。核酸は前に記載したようにベクター中に存在してよく、ベクターは例えば前に記載した方法を使用して、in vitroで細胞中に導入される。一実施形態では、細胞は自己由来であり対象から得られる。幾つかの実施形態では、細胞は同種または異種である。
【0059】
CNS細胞中の細胞内クロライド濃度と疼痛の間の相関関係を考慮すると、CNS細胞中の細胞内クロライド濃度を調節する、例えば低下させることができる化合物は、疼痛を予防および治療するために使用することができる。一実施形態では、KCC2などのクロライド輸送体の活性/発現を調節する、例えば増大させるかあるいは上方制御することができる化合物は、細胞内クロライド濃度を低下させ、最終的に疼痛を予防または治療するために使用することができる。したがって、本発明はさらに、細胞内クロライド濃度および/またはクロライド輸送体の活性および/または発現を調節することができる化合物を、同定し特徴付けるためのスクリーニング法に関する。したがって、本発明はさらに、候補化合物が細胞中の細胞内クロライド濃度を調節することができ、したがって疼痛を予防および治療するのに有用であるかどうか決定する方法を提供する。一実施形態ではこの方法は、CNS由来細胞と前記候補化合物を接触させること、および細胞内クロライド濃度が試験化合物の存在下で低下しているかどうかを決定することを含む。細胞内クロライド濃度の低下は、疼痛を治療または予防するために試験化合物を使用できることを示す。本明細書で使用する「CNS由来細胞」は、CNS組織から単離されたかあるいはそれに由来する細胞であり、幾つかの実施形態では、一次神経培養物、不朽神経細胞系、かつ容認されているin vitro神経モデル系(例えばin vitroでニューロンに分化する細胞)を含む。一実施形態では、前述の細胞はクロライド輸送体またはKCC2活性を有する。さらに他の実施形態では、細胞はクロライド輸送体(例えばKCC2)を内因的に発現する。他の実施形態では、前述の細胞をクロライド輸送体遺伝子またはKCC2遺伝子を発現するように遺伝子工学処理している。一実施形態では細胞は、外因的に導入されたKCC2などのクロライド輸送体の源を含む、適切な宿主細胞であってよい。クロライド輸送体またはKCC2をコードする核酸配列を宿主細胞に導入すること、およびこのような核酸を発現させるための条件を与えることによって、このような宿主細胞を調製することができる。一実施形態では、このような核酸はDNAである。このような宿主細胞は、両生類または哺乳動物細胞などの真核生物の細胞であってよい。一実施形態では、
このような宿主細胞はヒトである。
【0060】
本発明は、疼痛を治療および予防するのに有用な化合物を同定または特徴付ける他の方法も提供する。一実施形態では、この方法はCNS由来細胞と候補化合物を接触させること、およびクロライド輸送体の活性が試験化合物の存在下で調節されているかどうかを決定することを含む。クロライド輸送体の活性の調節、例えば増大は、疼痛の治療または予防用に試験化合物を使用できることを示す。一実施形態では、クロライド輸送体はKCC2である。例えばカリウム輸送、クロライド輸送、細胞内クロライド濃度およびアニオン逆転電位を測定することによって、KCC2の活性を決定することができる。
【0061】
前述の方法は、一つの試験化合物、または、複数の試験化合物もしくは試験化合物のライブラリー(例えばコンビナトリアルライブラリー)を用いて使用することができる。後者の場合、化合物の組合せによって与えられる共同作用効果を、同定し特徴付けることもできる。前述の化合物は疼痛を予防および/または治療するために使用することができ、あるいは改善された特異性、効率および/または薬理学(例えば薬物動態)性を有する他の化合物を開発し試験するための、リード化合物として使用することができる。一実施形態では化合物は、適切な作用部位、例えばCNS組織中(例えば脊髄中)においてその活性形に変わるプロドラッグであってよい。幾つかの実施形態では、本発明のスクリーニング/試験法の1つまたは複数の工程を自動化することができる。
【0062】
前述のように、本発明はさらに、クロライド輸送体、例えばKCC2の遺伝子発現を調節する、一実施形態では増大させることができる化合物を同定し特徴付けるための方法に関する。このような方法は、クロライド輸送体、例えばKCC2の遺伝子発現を、試験化合物の存在対不在下でアッセイすることを含むことができる。このような遺伝子発現は、対応するRNAまたはタンパク質を検出することによって、あるいはレポーター遺伝子と機能的に連結したこのようなクロライド輸送体またはKCC2遺伝子と通常に結合した転写調節エレメントを含む、適切なレポーター構築体を使用することによって測定することができる。第1の核酸配列は、この第1の核酸配列が第2の核酸配列と機能的関係に位置するとき、第2の核酸配列と「機能的に連結する」ことができる。例えば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を与える場合、プロモーターはコード配列と機能的に連結している。一般に、機能的に連結したDNA配列は隣接しており、必要な場合はリーディングフレーム中で2つのタンパク質コード領域と接合する。しかしながら、例えば一般にエンハンサーはプロモーターから数キロベース離れているときに機能し、イントロン配列はさまざまな長さである可能性があるので、幾つかのポリヌクレオチドエレメントは機能的に連結することはできるが、隣接していない。「転写調節エレメント」は、開始および停止シグナル、エンハンサー、およびプロモーター、スプライシングシグナル、それによって機能的に連結するタンパク質コード配列の転写を誘導または調節するポリアデニル化シグナルなどのDNA配列を指す一般用語である。このようなレポーター遺伝子の発現は、転写または翻訳レベルで、例えば生成されたRNAまたはタンパク質の量によって測定することができる。RNAは例えばノーザン分析によって、あるいは逆転写酵素によるポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)方法によって検出することができる(例えばSambrookら、(1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual(第2版)、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、ニューヨーク、米国を参照のこと)。タンパク質レベルは、親和性試薬を直接使用して(例えば抗体またはその断片[方法に関しては、例えばHarlow、E.およびLane、D(1988) Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、ニューヨークを参照のこと];タンパク質と結合するリガンド)、あるいは他の性質(例えば緑色蛍光タンパク質の場合、蛍光性)によって、あるいは検出可能な産物(例えば改変された分光性を有する)または検出可能な表現型(例えば細胞増殖の改変)を生成するための酵素活性を伴う可能性がある、タンパク質の活性を測定することによって検出することができる。適切なレポーター遺伝子には、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、β-Dガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、または緑色蛍光タンパク質があるが、これらだけには限られない。一実施形態では、候補化合物をさらにアッセイして、それがクロライド輸送体仲介のプロセス(例えばKCC2仲介のプロセス)、またはクロライド輸送体の活性(例えばKCC2の活性)を調節することができるかどうかを決定することができる。一実施形態では、このようなクロライド輸送体仲介のプロセスは、例えば以下の実施例に記載したのと同様に、例えばカリウムおよび/またはクロライド濃度(例えば細胞内)を評価することによって、あるいは(電気生理的)アニオン逆転電位、膜電位を測定することによって決定されるように、イオン輸送、例えばカリウムまたはクロライド輸送である。
【0063】
本発明は、疼痛の診断および予後判定にも関する。一実施形態では疼痛は、対象のイオン、例えばアニオンまたはクロライド、神経系、例えば中枢神経系の恒常性の変化によって引き起こされる。任意の特定の理論に縛られることを望まずに、中枢神経系(CNS)中のニューロンからカリウムおよびクロライドが搬出される能力が減少することは、持続的な神経の過興奮性、および最終的には疼痛をもたらす可能性がある。
【0064】
したがって本発明は、CNS機能不全に伴う疼痛を診断または予後判定するための方法を提供する。本明細書で使用する「CNS機能不全」は、CNSの神経中のイオンの恒常性の変化である。一実施形態では、このようなCNS機能不全に伴う疼痛は、神経障害性疼痛である。一実施形態では方法は、CNS神経細胞中の細胞内クロライド濃度を測定すること、およびそのクロライド濃度を対応する対照濃度と比較することを含む。この特定の方法では、対照濃度に対する試験した濃度の増大は、対象がCNS機能不全に伴う疼痛を経験していることの指標である。一実施形態ではこの方法は、CNSクロライド輸送体の活性または発現(例えばKCC2の活性または発現)が、対照の活性または発現に対して調節、例えば上方制御されるかあるいは増大するかどうか判定することを含むことができる。さらに他の実施形態では、対照のクロライド濃度は、確立した標準、初期に対象中で測定した対応するクロライド濃度、対象があまり疼痛を経験していない(前に述べた現在の痛覚に対して)か、あるいは実質的に疼痛を経験していないときに前記対象中で測定した対応するクロライド濃度、または(前に述べた試験対象における現在の痛覚に対して)あまり疼痛を経験していないかあるいは実質的に疼痛を経験していない、対照対象中で測定した対応するクロライド濃度から選択することができる。一実施形態では、あまり疼痛を経験していないかあるいは実質的に疼痛を経験していない対象または対照対象は、その中枢または末梢神経系に対する明らかな障害(例えば神経障害性疼痛)または持続的な疼痛を示さない。さらに他の実施形態では、対照の活性または発現は、KCC2活性または発現の確立した標準、初期に対象中で測定した対応するKCC2活性または発現の濃度、対象が(前述のように)あまり疼痛を経験していないかあるいは実質的に疼痛を経験していないときに、対象中で測定した対応するKCC2活性または発現の濃度、または(前述のように)あまり疼痛を経験していないかあるいは実質的に疼痛を経験していない対照対象中で測定した対応するKCC2活性または発現の濃度から選択することができる。一実施形態では、前に記載したのと同様にKCC2活性を測定することができる。
【0065】
例えば細胞内クロライド濃度は、その対象のCNS神経細胞と接触することができる指標化合物(クロライド濃度を示す化合物など)を、対象に投与することによって測定することができる。指標化合物の投与の後、このような指標化合物と関係があるin vivoのシグナルの評価を行うことができる。一実施形態では、放射性核種(例えばタリウム-201(201Tl)、99Tcm-テトロフォスミン、99Tcm-MIBIまたは99Tcm-HMPAOまたはこれらのクロライド結合体)、またはKCC2発現(免疫検出系試薬など(例えばKCC2ポリペプチドを対象とする抗体、単鎖抗体またはFab断片))の指標となる化合物などの指標化合物を使用することができる。さらに他の実施形態では、指標化合物は静脈内注射によって、血液脳関門を横切りカリウムと同様にCNSのニューロン中に蓄積することができる、すなわちカリウム濃度を反映することができる。他の実施形態では、このような放射性核種(例えば201Tl)の線量は約100MBq(3mCi)であってよい。さらに他の実施形態では、放射性核種(例えば201Tl)をSPECT映像化の前に15〜20分間注射することができる。指標化合物の注射後に、画像診断技術を行って指標化合物と関係があるin vivoのシグナルを評価することができる。このような画像診断技術には、単一光子放射コンピュータ断層撮影法(SPECT)、陽電子放射断層撮影法および/または磁気共鳴画像診断法があるが、これらだけには限られない。画像診断技術は、神経のカリウム勾配など指標化合物のin vivoのシグナル、を評価することができる。例えば高解像度(5〜7mm)コリメーターを備え専用のコンピュータ系と相互作用するγ線カメラを使用することによって、映像を得ることができる。一実施形態では、連続した投影像は180°弧で得ることができる。さらに他の実施形態では、ニューロンによる放射性核種(例えば201Tl)の保持を、保持指標(RI)として表すことができる。本明細書に記載する「保持指標」は、以下のものとして定義する:
(遅延保持-初期保持)/初期保持×100
【0066】
一実施形態では、保持指標の「保持」は、特定の組織によってある時間保持される、指標化合物(例えばトレーサーまたは放射性核種)の量として本明細書において定義する。他の実施形態では、遅延保持の前に初期保持を評価する。他の実施形態では、保持指標はCNS組織中で測定する。
【0067】
一実施形態では、前述の診断/予後判定法を前述の治療/予防法と共に、対象のCNS機能不全に伴う疼痛を予防または治療するために行うことができる。したがってこのような方法は、対象のCNS細胞中の細胞内クロライド濃度の診断/予後、低下に従った、CNS機能不全に伴う疼痛の診断または予後判定を含み、これによって疼痛を予防または治療する。
【0068】
本発明のさまざまな実施形態を本明細書で開示するが、多くの適合形態および変更形態は、当業者の共通の一般的な知識に従い本発明の範囲内で作製することができる。このような変更形態には、ほぼ同じ方法で同じ結果を得るための本発明の任意の態様の知られている均等物の置換形がある。数値範囲は、その範囲を定義する数を含む。特許請求の範囲中では、語句「含む」は、語句「含むが、それだけに限定されない」とほぼ均等な、いろいろと解釈が可能な用語として使用する。以下の実施例は本発明のさまざまな態様を例示するものであるが、本明細書で開示する本発明の広域な態様を制限するものではない。
【0069】
本出願を通じて、さまざまな参照文献を引用して、本発明に関する現況技術をより完全に記載する。これらの参照文献の開示は、参照により本開示中に組み込まれている。
【実施例】
【0070】
(実施例1:方法)
[神経障害]
簡潔には、末梢神経障害を、前に記載したのと同様に(16)、成体オスSpague-Dawleyラットの坐骨神経周辺に、ポリエチレンカフ(〜2mm長、0.7mm内径)を外科手術により移植することによって誘導した。一群のラットには擬似手術も施した。(14〜17日間で)2.0g以下までの機械的閾値の段階的低下を示した動物のみを、他の実験用に使用した。
【0071】
[挙動試験]
侵害受容性の脚の撤去反射に関する熱および機械的閾値を、前に記載したのと同様に試験した(17)。
【0072】
[切片作製]
脊髄の傍矢状切片(300〜350μm)を、前に記載したのと同様に(9)、成体(50日齢を超える)オスラットから作製した。126のNaCl、2.6のNaHCO3、10のグルコース、2.5のKCl、2のCaCl2、2のMgCl2、1.25のNaH2PO4、0.001のTTX(95%のO2-5%のCO2、pH〜7.4を用いて気泡を発生させた)を(mM単位で)含む人口脳脊髄液(ACSF)を切片に連続的に注ぎ(2〜3ml・min-1)、このときGABAA/GlyR仲介型電流を測定し、10μMの6-シアノ-7-ニトロキノキサリン-2,3-ジオン(CNQX)および40μMのD2-アミノ-5-ホスホノ吉草酸(APV)を加えて、最初のグルタミン酸伝達をブロックした。
【0073】
[記録]
有孔パッチによる記録用に、130のグルコン酸セシウム(CsGluc)、5のCsCl、2のMgCl2、11のBAPTAカルシウムキレート剤(緩衝液)、1のCaCl2、4のATP、0.4のGTP、10のHEPES(pH〜7.4)を(mM単位で)含む溶液を、ピペット先端に充填した。25μg/mlのグラミシジンD(グラミシジンストックはDMSO中に10mg/mlであった)を補ったこの同じ溶液を、ピペットの反対側に充填した。接触抵抗が25〜45MΩの間で安定しているとき、この形式の記録を選択した。全細胞の電位固定記録用に、グラミシジンDを含まない前述の溶液をピペットに充填した。同様に、全細胞の電流固定記録を、電位固定の場合と同じ細胞内溶液を充填したピペットを使用して行った。ただし、硫酸カリウムメチル(KMeSO4)を使用してCsGlucを交換した。Eanionを0mVに固定するために、CsGlucを細胞内溶液に溶かした110mMのCsClと交換した。Eanion=0mVにおける全細胞の記録はいずれも、GluR遮断剤の存在下においてVm=-60mVで行った。パッチマイクロピペットによる圧力駆出によって、GABAを30〜250msで局所に施した。PSCのデータの獲得および分析は、前に記載したのと同様に行った(9)。全ての測定値は、示す場合以外は平均±SEMとして与える。統計的有意は、平均値の比較に関してはスチューデントのt検定、分割表に関してはカイ二重値検定、および反復測定値に関しては混合設計型ANOVA(事後-ターキーHSD)を使用して試験した。
【0074】
[カルシウムの映像化]
電気生理学的分析用に前に詳細に述べたのと同様に、PNIおよび非投薬ラットから切片を作製した。ACSF中での15分間のインキュベーションの後、1時間HEPES緩衝生理食塩水(+10%のDMSO)に溶かした10μMのFura-2-AM(蛍光のカルシウム指標、AM=アセトキシメチル)を切片に充填した。切片を記録用チャンバーに載せるまでACSFを用いて15分まで洗浄し、そこでACSFを注ぎ続けた(2〜3ml・min-1)。[Ca2+]iは、エピ蛍光光学装置を備えるZeiss Axioscopeを使用して蛍光測定した。CCDカメラと結び付けたTILL Photonicsモノクロメーターを使用して映像を得て、当該の領域は(分配用に)明らかに異なる神経細胞体上に引き出した。
【0075】
[イムノブロッティング]
SDHの水平方向切片(150μm)を、PNIおよび非投薬成体ラットの腰部の引き伸ばしから作製した。0.32Mのスクロース、0.5mMのTris-HCl、pH7.5、2mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、2.5mMのβ-メルカプトエタノール、およびプロテアーゼ阻害剤のカクテル(Complete(商標)、Roche Diagnostics)を含む緩衝液中でテフロン(登録商標)乳棒を用いて切片を均質化することによって、組織抽出物を調製した。3,000g(20分)および10,000g(30分)の遠心分離からの上清を回収した。サンプル緩衝液に希釈した等量のタンパク質(20μg/レーン)を37℃で30分間予め加熱し、SDS-PAGEによって分離し、ニトロセルロース膜上にエレクトロブロッティングした。膜は5%の無脂肪乾燥乳を含むTBST緩衝液(150mMのNaCl、10mMのTris-HCl、pH7.4、0.05%のTween-20)中で30分間ブロッキングし、ウサギ抗KCC2抗体(1:1000、Upstate Biotechnology)と共に一晩4℃でインキュベートした。TBST中で数回洗浄した後、ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ウサギ抗体(1:2000)と共に、膜を30分間室温でインキュベートした。化学発光バンドは、Super Signal Femto(商標)(Pierce Biotechnology)を使用して検出した。デジタル映像はVersaDoc(商標)映像システム(BioRad)を用いて捉え、データはQuantity One(商標)ソフトウェア(BioRad)を用いて分析した。
【0076】
[オリゴデオキシヌクレオチド]
全ての位置でホスホロチオエート化した、KCC2アンチセンスおよびスクランブルオリゴデオキシヌクレオチドを、前に記載したのと同様に設計した(18):アンチセンス、5'-TCTCCTTGGGATTGCCGTCA-3'(配列番号7;ATG開始シグナルに対して+59);スクランブル、5'-TCTTCTTGAGACTGCAGTCA-3'(配列番号8)。
【0077】
[クモ膜下注射]
薬剤投与前の少なくとも3日間、ペントバルビタールナトリウム(65mg kg-1)を用いてラットに麻酔をかけ、前に記載したのと同様に(11)、腰部脊髄用カテーテルをクモ膜下空間中に挿入した。簡潔には、小さな開口部をクモ膜下槽に作製し、カテーテルをクモ膜下空間中に挿入し、脊髄の腰部膨張部に対して尾側に8cmまで向けた。外科手術からの回復時に、下半身麻痺をi.t.(クモ膜下)リドカイン(2%、30μl)注射によって誘導して、正確なカテーテル位置を確認した。リドカインに対する適切で一時的な麻痺、および運動欠陥の欠如を示す動物のみを挙動試験用に使用した。薬剤/賦形剤を投与した後、動物を殺傷し、それらの脊柱を切開してカテーテルの正確な配置を肉眼で確認した。薬剤はDIOA(10〜30μg、0.9%NaCl、10%DMSO中)およびオリゴデオキシヌクレオチド(O時間、12時間および24時間で2μgの一回用量;0.9%NaCl)を含んでいた。挙動試験は前と同様に行った;脚の撤去反射応答に関する正常な(15gまでの)収縮閾値を、薬剤または賦形剤を与える前に非投薬ラットで確認した。使用した用量で、反射作用および挙動の観察結果を把握し、正し、位置付けることによって評価したように、化合物が運動障害または鎮静作用を引き起こすことはなかった(17)。
【0078】
[コンピュータシミュレーション](図5参照)
全てのシミュレーションは、(19)に基づく形態および受動的な膜の性質を有する、一般的な脊髄薄層I紡錘状ニューロンの区画モデルを使用してNEURON4.3.1によって行った。第四位まで分かれた樹状突起および(19)に記載されたのと同様の軸索を体幹に結合させた。(30)に基づく迅速なNa+および遅延整流K+電流を、それぞれ0.1および0.01S/cm2で体幹および軸索起始部および節に挿入し、刺激の電位閾値は-49mVであった。2組の抑制性シナプスが体幹周辺領域にランダムに分布しており、4組の興奮性シナプスはさらに遠位に存在した;それぞれの組を(31)および(32)から外挿した割合で独立したポアソン過程によって処理した。
【0079】
[電子顕微鏡](図6参照)
前に記載したのと同様に(35)、超微細構造分析用に組織を調製した。簡潔にはラットを、0.9%のNaCl、次に4%パラホルムアルデヒドを含む固定溶液(Sigma-Aldrich、ドイツ)を大動脈弓中に灌流させた。灌流後、脊髄を除去し、冠状塊を切開し、次いで60μmの薄い切片を切断し凍結防止し、液体窒素で凍結解凍させ、一次抗血清中でのインキュベーション前にリン酸緩衝液中で数回洗浄した。インキュベーション後、2%のウシ血清アルブミン(BSA)を含むブロッキング溶液中で、切片をウサギ抗KCC2中で(1:500、Upstate Biotechnology、米国)48時間4℃でインキュベートした。充分な洗浄後、切片を1nmの金結合抗ウサギ二次抗体(1:250、Aurion)と共に12時間4℃でインキュベートし、次に銀を増大させた(SE-EM、Aurion)。切片は0.5%のOsO4(20分)で処理し、特級エタノール中、次いでプロピレンオキシド中で脱水し、Durcupan ACM(Fluka)中に包埋した。超薄片化(Ultracut(商標) UCT、Leica、ドイツ)の後、電子顕微鏡(MegaView(商標)CCDカメラを備えるPhilips Tecnai12)を使用して試料を調べた。非連続的(間隔>3μm)超薄片を電子顕微鏡で分析した。シナプス概略を有するボタン部分をランダムに選択し、KCC2タンパク質の発現に関して薄層IおよびIIならびに白い物体を分析した(36)。
【0080】
[K-252aのクモ膜下投与](図8参照)
10%のDMSOを含む0.9%のNaCl溶液25ul中でK-252aを調製した。クモ膜下へのカテーテル挿入は、小さな開口部をクモ膜下槽に作製し、P10ポリエチレンチューブをクモ膜下空間中に挿入し、脊髄の腰部膨張部に対して尾側に8cmまで向けることによって行った。
【0081】
(実施例2:結果)
坐骨神経を慢性的に収縮させることによって、ラットにおいて末梢神経障害を誘導した(図1a)。末梢神経障害(PNI)に付随するSDHニューロンの過興奮性(感作)が、アニオン勾配の変化(▽anion)と関係があるかどうかを試験するために、アニオン逆転電位(Eanion)はグラミシジン穿孔パッチ固定記録法を使用して測定した。この技法によって、細胞内アニオン濃度が乱れることを回避する(8)。外因性GABAの施用に対する応答性によって、PNIラットから得た薄層I(LI)ニューロンのアニオン逆転電位(Eanion)は、非投薬ラット由来のLIニューロンの-72.6±3.5mV(範囲:-63.0〜-79.9mV、n=5;p<0.005)と比較して、-49.0±2.3mV(範囲:-40〜-62.2mV、n=9)であったことが示された(図1b〜d)。静止膜電位が、PNI(-62±4mV、n=7)と非投薬ラットLIニューロン(-61±2mV、n=16;p>0.1)の間で著しく異なることはなかった。迅速なグルタミン酸受容体(GluR)遮断剤の存在下においてPNIラットのLIニューロンから記録した、自発性および誘発シナプス後電流(PSC)が内側にも存在し(静止状態から脱分極して)、それらの平均逆転電位は、非投薬ラット(n=6、PNI;n=4、非投薬)由来の薄層Iニューロン中のそれに対して16.1mV増大した。シナプス伝播の他の性質がPNI後にSDH中で変化したかどうかを次いで調べた。非投薬ラット由来のLIニューロン中の抑制性微小PSC(mPSC)は、GABAとグリシンが局所の抑制性介在ニューロンから同時に放出されるにもかかわらず、グリシン受容体(GlyR)のみによって仲介されている(9;図2a)。GluR仲介のmPSCはPNIによって影響を受けなかったが(図2b)、PNIラットから試験した全細胞において、0mVにおいて一群の外側mPSCが、GlyRアンタゴニストのストリキニンの存在下において持続した(1μmまで;n=4)。これらの残りのmPSCはGABAARSによって仲介される。何故なら、それらはビククリン(10μM)によって抑制され、GlyR仲介の要素(τD(GABAAR)=34.0±2.9ms、n=5、対τD(GlyR)=11.3±1.3ms、n=6;p<0.01;図2C)と比較して、長期の減衰動態を示したからである。
【0082】
動態分析によって、減衰期の36.9±2.3%のmPSCが、二重指数関数に従ったことがさらに明らかとなった(τD1=7.5±2.0msおよびτD2=51.3±7.9ms;n=6;図2c)。これらの現象は、GABAARとGlyR仲介要素の両方を有していた。何故ならストリキニンまたはビククリンが、そのそれぞれの要素(n=4)の消失をもたらすことができたからである。したがって、▽anionの低下と平行して、PNIはLIシナプスの再編成を引き起こし、それによってGABAAR単一および混合GABAAR/GlyR仲介のmPSC、さらにGlyRのみによって仲介されるmPSCが明らかになった。このシナプス編成は、未発達LI-IIニューロン中で観察されるシナプス編成と類似している(9)。このシナプス変化の実質的影響は、それが非常に長期の減衰動態を有する一群の素量シナプス現象をもたらしたことである。
【0083】
mPSCに対するPNI誘導型GABAAR仲介の貢献の機能を調べるために、我々はピークコンダクタンスとmPSCの周波数の両方を分析した。これはCsCl充填ピペットを使用して行い、推進力の変化から生じるmPSCの偏った検出を防ぐためにPNIおよび非投薬ラットから採取した両方のLIニューロン中のEanionを0mVに固定した。PNIラットから採取したLIニューロン中で記録したG1yR単一のmPSCのピークコンダクタンスは、非投薬ラットLIニューロン(図2d)から記録したそれより有意に小さかった(2倍まで)。しかしながら、PNI条件にGABAAR仲介の現象を加えることによって、GlyR単一のコンダクタンスの低下を部分的に補った。GluR仲介型素量現象のピークコンダクタンスは、非投薬およびPNIラットから採取したLIニューロン間で有意に異なることはなかった(図2d)。
【0084】
ピークコンダクタンス、動態、および推進力の変化を一緒に考慮すると、PNIラットから採取したLIニューロン中で静止膜電位においてGlyR単一mPSCによって保有される純電荷は、非投薬ラット中のそれよりほぼ3倍小さかった(図2e)。しかしながらGABAARの貢献によって、PNIラット中でmPSCによって保有される純電荷は、非投薬ラット中でGlyRによって仲介されたそれまで上昇した。この結果は、同程度ながら、非投薬LIニューロン中の過分極電荷はGlyR仲介型mPSCのみによって保有され、一方脱分極電荷は、GABAAR仲介型mPSCの長期の減衰動態のために、PNIラットのLIニューロン中でGABAARを介して主に移動したことを示唆する。
【0085】
PNIラット由来のLIニューロン中で記録したGlyR単一mPSCの周波数(0.13±0.04Hz、n=5)は、非投薬ラットLIニューロン中のGlyR単一mPSCの周波数(0.18±0.04Hz、n=6;p<0.05;図2f)より有意に低かったことを観察した。しかしながらピークコンダクタンスに関しては、GABAAR仲介型mPSCを加えることによって、PNI誘導型の周波数の低下を補った(組み合わせた全てのGABAARおよび/またはGlyR仲介現象に関して0.22±0.10Hz、n=4;p>0.5)。対照的に、非投薬ラット由来のLIニューロンと比較して(0.82±0.40Hz、n=S;p>0.3;図2f)、PNIラットから単離したLIニューロンにおいて(1.51±0.90Hz、n=9)、GlyR仲介現象の周波数の有意な変化はなかった。
【0086】
脱分極GABAAR/GlyR仲介のシナプス後電流が、PNIのLIニューロン中で実質的な刺激的影響を発揮する場合、それらは直接活動電位を誘導し、Ca2+流入を結果的にもたらすはずである。この仮説を試験するために我々は、fura-2-am充填LIニューロン切片を使用してCa2+映像を用いて、大きなデータセットを得た。外因性のGABAを神経体に施すことによって、PNIの部位と同側に存在するLIニューロンの細胞内Ca2+([Ca2+]i)の19%の濃度の有意な増大を引き起こした(n=53;図3a、c)。GABA施用に対する[Ca2+]iの増大が試験した37ニューロンの1つのみで観察された、非投薬および/または反対側の後角中に見られるLIニューロンと比較して、これは7倍の増大を表す(図3b、c)。これらの応答は、ビククリン(10μM;n=5)によって、かつ電位感受性ナトリウムチャンネル遮断剤テトロドトキシン(TTX;1μM;n=31)によって遮断された。次いで我々は、施したGABAおよびシナプス誘導型アニオン性シナプス後電位は、活動電位を直接誘発することができることを電気生理学的にさらに確認した(図3d、e)。これらの結果は、シナプス後アニオン流入が、PNIラットの薄層Iニューロン中の実質的な興奮を引き起こす可能性があることを示す。次いで我々は、SDHの水平切片のイムノブロッティングによって、KCC2のタンパク質濃度を比較した。PNIと同側の腰部SDH中でのKCC2の発現濃度は、障害と反対側に対して(2倍を超えて)有意に低下した(図3f)。非投薬ラットでは、両側間で有意な違いはなかった(n=3)。
【0087】
KCC2輸送体の発現の低下がニューロンの[Cl-]iの増大、したがってGABAAR仲介の脱分極化をもたらす場合、非投薬ラット由来のLIニューロン中のKCC2輸送体の薬理学的遮断は同じ影響を有するはずである。この可能性を試験するために、我々は選択的KCC2遮断剤DIOA(30μM)を非投薬脊髄切片に加えて浸した。PNI条件と同様に、DIOAの存在下でのGABA施用は、試験した非投薬LIニューロンの30%の[Ca2+]iの増大を引き起こした(図3b、c)。
【0088】
経験的に測定したGABAAR/GlyR仲介のシナプス後調節の変化が、PNI後の中枢性感作を説明するのに充分であるかどうか評価するために、我々は生物物理的に実現可能なニューロンモデルを使用してin vivoの状態をシミュレートした(図5)。このシミュレーションによって、PNI後にLIニューロン感作の程度が、わずかな脱抑制状態から実質的な過剰興奮状態までの範囲で、それらのEanionの関数として変化したことを確認した。脚
【0089】
この過興奮性(感作)が刺激閾値の低下をもたらして、侵害受容性の脚の撤去反射を誘発するかどうかを試験するために、我々はDIOA(15〜30μg)を直接、クモ膜下用カテーテルを介して無傷のラットの脊髄の腰部膨張部に施した。DIOAは機械的および熱刺激に対する侵害受容閾値の迅速で可逆的な減少を引き起こした(図4a〜b)。侵害受容閾値の類似の減少を、KCC2のmRNAに対するアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドの脊髄投与を使用する輸送体の選択的破壊によってさらに得て(図4e)、KCC2下方制御の機能的影響をさらに確認した。
【0090】
図7に示すように、末梢神経障害を有するラットから採取した薄層Iニューロン中において、膜貫通アニオン逆転電位(Eanion)は、非投薬ラットから採取した薄層Iニューロン中の電位より著しく脱分極することを我々は実証している。非投薬ラットから採取した薄層Iニューロンから記録した、アニオン(重炭酸イオンおよび塩化イオン)の逆転電位(Eanion)は、末梢神経障害(PNI)を与えたラットの薄層Iニューロンから記録した電位より著しく低かった。BDNF(50ng/ml;N/BDNF)およびNGF(50ng/ml;N/NGF)を浴施用することによって、非投薬ラットの薄層Iニューロンから記録したEanionを著しく脱分極状態にし、膜貫通アニオン勾配の破壊を示した。あるいは、PNIラットから採取した薄層Iニューロンに、TrkBアンタゴニストK-252a(200nM;P/K252a)を浴施用することによって、非投薬ラットから採取した薄層Iニューロン中で観察された濃度と同等の濃度まで、Eanionの過分極化を引き起こした。全てのEanion値は、グラミシジン-D穿孔パッチ電位固定記録法を使用して確認した。この脱分極Eanionは、前述のように、神経障害ラットから採取した薄層Iニューロン中でのKCC2共輸送体の低下した発現の結果である。非投薬ラット由来の薄層Iニューロン中では、成長因子NGFおよびBDNFの灌流によってEanionが大幅に脱分極する可能性があることを本明細書においてさらに示し、これらの成長因子は、表面後角中のKCC2タンパク質の機能および/または発現を低下させることができることが示唆される。あるいは、タンパク質キナーゼ阻害剤K-252aを使用して、神経障害ラットから採取した薄層Iニューロン中のBDNF受容体、TrkBを遮断することによって、Eanionの脱分極が逆の状態になり、この値が非投薬ラットから採取した薄層Iニューロン中で観察された濃度と同等の濃度に戻ることを本明細書において示す。さらに、図8に示すように、(賦形剤注射のみではなく)受容体チロシンキナーゼ阻害剤K-252a(6nM)のクモ膜下投与は、末梢神経障害を与えたラットにおいて、触覚侵害受容性の脚の撤去反射に関する閾値の増大をもたらした。したがってK-252aは、末梢神経障害後のその発症後に、痛覚過敏症/異痛症を逆の状態にすることができる。反射作用および挙動の観察結果を把握し、正し、位置付けることによって評価したように、K-252aはいかなる運動障害または鎮静作用も生み出すことはなかった。この阻害剤は、おそらく輸送体上あるいはその転写因子(または他の調節物質)上のタンパク質チロシンキナーゼ部位でリン酸化を阻害することによって、神経障害ラットから採取した薄層Iニューロン中のKCC2共輸送体を再活性化させることが想定される。
【0091】
本明細書の結果は、PNI後の疼痛のある神経障害は、KCC2輸送体の下方制御およびその結果生じる脊髄LTニューロン中の▽anionの変化によって説明することができることを示す。本明細書の結果は、成体動物中でのこのような▽anionの変化は、障害部位に対してニューロン経シナプス性で起こる可能性があることも実証する。末梢神経障害に特徴的な過興奮性の根底にある物質を同定するための以前の努力は、GABA活性化介在ニューロンの数、GABA含有量またはGABAAR発現の変化を測定することに焦点を置いてきた。これらの結果は矛盾するものとなっている(3〜6)。本明細書に示す発見は、このような脱抑制の機構を理解するための新たな手段を与える。▽anionの変化によるGABAAR/GlyR仲介のシナプス後作用の転換は、ニューロン応答性および刺激入力の数の増大を含めた、中枢性感作の機械的基盤を与える。
【0092】
脊髄の重要な特徴は、それが2つの非常に異なるGABA活性化阻害機構を使用することである:感覚線維の中枢末端のGABA活性化調節は既に、GABA活性化阻害が過分極化に関するものである後角細胞とは対照的に、脱分極機構に関するものである(39)。したがって、ここで報告するKCC2発現の変化は、感覚入力を調節する2つの阻害機構のただ1つにおいてのみ、GABA作用の極性に影響を与える。一次求心性神経がKCC2の発現を欠く事実によって、このことが確認される(図4f、g;図6も参照)。GABA/グリシン仲介脱分極は、電位感受性Ca2+チャンネル(VSCC)およびNMDA受容体/チャンネル(10)を介した刺激を可能にするためのゲーティング機構として働くこともできる。これらのチャンネルを介したCa2+流入は、脊髄ニューロンの感作に重要であると考えられる(11)。実際、ガバペンチンおよびケタミンなどの薬剤によってヒト中のこれらのCa2+チャンネルを遮断することは、神経障害性疼痛を治療する際に非常に有効であることが証明されてきている(12〜14)。しかしながら、Ca2+チャンネル遮断剤、特にケタミンおよび他のNMDAアンタゴニストの使用は、多くの望ましくない副作用を伴う(14、15)。
【0093】
(実施例3:in vitroでのTrkB依存性のKCC2調節)
脊髄の傍矢状切片(250〜300μ)を、非投薬ラットまたはPNIラットの後角から作製した。酸素処理したリンガーの溶液を切片に連続的に注ぎ、操作前に少なくとも1.5時間平衡状態にした。他に示さない限り、切片には10μMのCNQX、非NMDA向イオン性グルタミン酸受容体の遮断剤をさらに注いだ。グラミシジン-D穿孔パッチまたは全細胞の電位固定記録を使用して、肉眼で識別した薄層Iニューロンから記録を行った。いずれの場合も、主要なイオン種として硫酸カリウムメチルまたはグルコン酸セシウムを含む細胞内溶液をピペットに充填した。当該のニューロン体に外因性GABAの一連の簡潔な(5〜10ms)施用を施すことによって、内側および外側アニオン電流を誘発しなかったGABAをEanionとして解釈した地点で、ニューロンの膜電位を操作することによってEanionを測定した。膜電位の測定値はすべて、液間電位、ピペットオフセット、および抵抗に関して補正した。
【0094】
図12に示すように、脳由来神経栄養性(BDNF;浴中に50ng/ml)仲介のTrkBの活性化、および神経成長因子(NGF;浴中50ng/ml)仲介のTrkAの活性化は、非投薬ラットから採取した薄層Iニューロン中のアニオン逆転電位(Eanion)の有意な脱分極を引き起こした。
【0095】
Eanionが慢性的に脱分極している末梢神経障害(PNI)ラットから採取した切片を使用して、TrkB受容体と関連した細胞内経路の要素のさまざまな阻害剤の施用は、非投薬ラットから採取した切片中で観察した濃度と同等な濃度までの、Eanion(重炭酸イオンおよび塩化イオン)の有意な過分極化を引き起こすことを示した(図13)。この効果を与えた物質には、TrkBを対象とする抗体(抗TrkB-IgG1μg/ml、浴中);K-252a、TrkA/B自己リン酸化の阻害剤(200nM、浴中);H-89、環状AMP依存性キナーゼ(PKA)の膜浸透性阻害剤;15μM、浴中);およびKN-93、カルモジュリン依存性キナーゼIIおよびIVの膜浸透性阻害剤(5μM、浴中)があるが、これらだけには限られない。
【0096】
(実施例4:in vivoでのTrkB依存性の侵害受容閾値の調節)
クモ膜下用カテーテルによる局所脊髄送達用に使用した全ての薬剤は、10%v/vのDMSOを含むかあるいは含まない0.9%のNaClに溶かした。クモ膜下へのカテーテル挿入は、小さな開口部をクモ膜下槽に作製し、短いP10ポリエチレンチューブをクモ膜下空間中に挿入し、脊髄の腰部膨張部(L4〜5)に対して尾側に8cmまで向けることによって行った。投与した薬剤によって、反射作用および他の挙動の観察結果を把握し、正し、位置付けることによって評価したように、運動障害または鎮静作用が生じることはなかった。フォンフライの試験を使用して、前に記載したのと同様に(41)機械的刺激に対する50%の脚の撤去反射閾値を評価した。全ての実験は、完全な成体Sprague-Dawleyラットで行った。
【0097】
クモ膜下用カテーテルを使用したさまざまな物質の局所脊髄送達は、非投薬ラットにおける触覚刺激に関する侵害受容閾値の低下に影響を与えるか、あるいはPNIラットにおける侵害受容閾値を上昇させる数種の化合物の同定をもたらした。
【0098】
アデノウイルス形質導入緑色蛍光タンパク質ではなく、アデノウイルス形質導入BDNF(図14)またはヒト組換えBDNF(10μg/1日×6日)の局所脊髄送達によって、非投薬ラットにおける機械的刺激に関する侵害受容閾値の有意な低下を引き起こした。同様に、非投薬ラットへのヒト組換えNGF(図15;10μg/1日×6日)のクモ膜下送達は、前記侵害受容閾値の非常に類似した低下を引き起こした。
【0099】
他方で、PNIラットへのクモ膜下用カテーテルによるTrkBを対象とする抗体の一連の投与(抗TrkB-IgG12μ/2時間×3)は、機械的刺激に対する侵害受容閾値の有意な増大に影響を与えた(図16)。PKA阻害剤H-89(380nmol)の局所脊髄送達も、侵害受容閾値の増大を引き起こした(図17)。
【0100】
本出願を通じて、さまざまな参考文献を引用しており、これらは本発明に関する現況技術をより詳細に記載する。これらの参考文献の開示は、参照によってこの本開示中に組み込まれている。
[参考文献]


【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1A】末梢神経障害(PNI)が、同側表面の後角(SDH)内の薄層I(LI)ニューロン中の▽anionの低下を誘導したことを示す図である。a)擬似手術(n=11)ではなく、坐骨神経の慢性収縮障害(n=23)が、ラットの後脚の機械的刺激に対する、50%の侵害受容性の脚の撤去反射閾値の有意な低下を引き起こした(p<0.01)。
【図1B】b)非投薬(△)およびPNI(○)ラットのLIニューロンから記録したEanionの範囲。中実記号=平均Eanion±SEM。
【図1C】c)全クラスのLIニューロン(すなわち、一過性(P)、一回刺激(SS)および持続的(T)発射性を有する[19])が、PNIに応答してEanionの変化を示した。スケールバーは50mV(y)、150ms(x)である。
【図1D】d)さまざまなVmで施したGABAに応じた、非投薬(▲)およびPNI(●)ラット由来のLIニューロン中で測定した平均ピーク電流。水平方向の標準誤差の線は、ピペットオフセットを記録した際の介在ニューロンの違いを表す。挿入図:1つのニューロンからの代表的な痕跡。スケールバーは0.6nA(y)、1.0s(x)である。
【図2A】LIニューロン中でのPNI後の、G1yR(受容体)のみ仲介型から、GABAAR-およびGlyR-混合仲介型微小シナプス後電流(mPSC)の変化の図である。a)非投薬ラットのLIニューロンからの、外側(左側)および内側(右側)微小シナプス現象の生の痕跡。全ての外側mPSCはストリキニンによって消失し、一方で全ての内側mPSC(ストリキニンおよびビククリンの存在下で記録した)は、GluRのアンタゴニストCNQXによって消失した。HP-保持電位。スケールバーは20pA(y)、300ms(x)である。
【図2B】b)PNIラットのLIニューロンから記録した、内側(左側)および外側(右側)微小シナプス現象の生の痕跡。非投薬ラットと異なり、ストリキニンとビククリンの両方が、全ての外側mPSCを消失させるために必要とされた。内側mPSCは、CNQXに完全に感受性がある状態であった。スケールバーは20pA(y)、300ms(x)である。
【図2C】c)左側-PNIラットのLIニューロンから記録した、重ね合わせた個々のmPSC。GlyR単一とGABAAR単一、および混合GABAAR/Glyr仲介型は、ストリキニンおよび/またはビククリンに対するそれらの感受性によって明らかに区別できる。右側-PNIラットのLIニューロンから記録した、100を超えるG1yRおよびGABAAR仲介型mPSCの平均。スケールバーは15pA(y)、20ms(x)である。
【図2D】d)非投薬(N;GlyRに関してn=10;GluRに関してn=5)およびPNI(P;GlyRに関してn=9;GluRに関してn=8)LIニューロンから記録した、mPSCの平均ピークコンダクタンス。P(B)は、ビククリンの存在下での0mVにおける、PNIラットのLIニューロン中(n=12)で記録したGlyR仲介型mPSCを示す。
【図2E】e)非投薬ラット(n=6)中のGlyR仲介型mPSCによって、PNIラットにおけるビククリン-単一GlyR仲介型mPSC[PNI(Bic);n=4]によって、およびPNIラットのLIニューロンにおける混合GABAAR/Glyr仲介型mPSC(PNI;n=12)によって保有される純電荷。
【図2F】f)いずれもEanion=0mVで記録した、非投薬LIニューロン中のGlyR単一mPSCの現象間間隔(I.E.I.)と、PNIラットのLIニューロン[PNI(Bic)]中のビククリン-単一GlyRmPSCのそれの間の違いを示す、累積確率のプロット。GABAAR仲介型mPSC(PNI)を加えることによって、GlyR-単一mPSCの周波数の低下を補った。挿入図-GluR仲介型mPSCの周波数に対してPNIの影響はなかった。
【図3A】PNIと同側のSDH薄層Iニューロン中のKCC2のPNI誘導型の下方制御が、GlyR/GABAAR仲介の刺激をもたらしたことを示す図である。a)簡単なGABA施用(30ms圧力量)は、PNIラットのfura-2-am(Ca2+指標)を載せた切片由来のLIニューロン中の、テトロドトキシン(TTX)およびビククリン感受性の[Ca2+]iの上昇を引き起こした。
【図3B】b)GABA施用ではなく、KCl施用によって(250ms長までの圧力量)、非投薬ラットLIニューロン中の[Ca2+]iの変化が引き起こされることはなかった。KCC2特異的アンタゴニストDIOAの存在下で、GABA施用は非投薬ラットLIニューロン中の[Ca2+]iの上昇を誘導した。スケールバーは0.02(y)、10s(x)である。
【図3C】c)GABA誘導型の[Ca2+]iの上昇を示すLIニューロンの割合。その割合は、PNIラット中(χ2corrected=3.91)および非投薬ラット中DIOAの存在下(χ2corrected=4.43)で有意に高かった。
【図3D】d)外因性GABAは薄層Iニューロン中で活動電位を繰り返し誘導することができたことを確認する、代表的な痕跡。上部スケールバーは5mV(y)、200ms(x)である。下部スケールバーは30mV(y)、4s(x)である。挿入図-これが一回刺激ニューロンであったこと(19)を確認する脱分極パルスに対する応答性。スケールバーは20mV(y)、300ms(x)である。
【図3E】e)同様に、焦点刺激(グルタミン酸受容体遮断剤の存在下)によって、PNIラット由来の薄層Iニューロン中で活動電位を誘導すると可能性がある、ビククリン感受性の単シナプス性脱分極シナプス後電位が誘導された。スケールバーは5mV(y)、250ms(x)である。挿入図-これが一過性ニューロンであったこと(19)を確認する脱分極パルスに対する応答性。スケールバーは20mV(y)、300ms(x)である。
【図3F】f)左側-KCC2濃度はPNIの部位と反対側(Con)ではなく、同側(Ipsi)に存在する腰部SDH中で低下したことを明らかにした、イムノブロッティング。右側-左側と同様に(同側を反対側に正規化した)イムノブロット(n=4)から測定した、KCC2タンパク質の平均強度(±SEM)(アクチンに正規化したもの)。
【図4A】SDH中でのシナプス後KCC2輸送体の選択的阻害または破壊は、侵害受容閾値を有意に低下させたことを示す図である。a)DIOA(n=5)または賦形剤(n=3)のクモ膜下注射後の、時間の関数としての触覚侵害受容性の脚の撤去反射の閾値。
【図4B】b)DIOA(n=3)または賦形剤(n=3)のクモ膜下注射後の、時間の関数としての熱侵害受容性の脚の撤去反射時間。脚の撤去反射によって、ラットはしばしばその脚をなめることもあり、痛覚を示す。
【図4C】c)DIOAの存在下および不在下においてLIニューロン中で、(Eanionを0mVに固定するために)CsCl(塩化セシウム)ピペットを用いて記録した自発性のmPSC。スケールバーは20pA(y)、300ms(x)である。
【図4D】d)DIOAはシナプス現象のピークコンダクタンス(p>0.5)にも、GABA誘導型の応答(n=5;p>0.5、挿入図)にも影響を与えず、したがってGlyRにもGABAARにも作用しないことを示す、累積確率のプロット(n=4ニューロン×50mPSC)。Gpeak=ピークコンダクタンス。
【図4E】e)KCC2アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドの局所腰部脊柱(髄腔内)投与(12時間毎)は、混合オリゴデオキシヌクレオチドを与えたラット(n=7)と比較して、非投薬ラット(n=8)において触覚侵害受容性の脚の撤去反射閾値の有意な低下を引き起こした。挿入図、アンチセンス(AS、12時間または36時間)または混合(S、36時間)オリゴデオキシヌクレオチド処理後に、(イムノブロットによって測定した)脊髄KCC2タンパク質濃度の低下。
【図4F】f)SDHと比較した非投薬ラットの後根神経節(DRG)における、KCC2の免疫反応性の欠如。
【図4G】g)シナプスボタン(B)ではなく(定量的詳細に関しては図6を参照)、SDH樹状突起(D)中のKCC2の選択的発現を示す電子顕微鏡写真。矢印はシナプスを示す。スケールバーは0.2μmである。
【図5A】in vivoシナプス状態のコンピュータシミュレーションによって、Eanionの変化の関数として現れる薄層Iニューロンの感作を確認した図である。a)左側-モデルニューロン(実施例参照)を使用するコンピュータシミュレーションは、どのようにしてGlyRおよびGABAAR仲介PSC[PNI(GlyR+GABAAR)]に対するPNI誘導型の変化が、GluR仲介のPSC周波数の関数としてのLIニューロンの出力発射周波数に影響を与えるかを示す。GlyR仲介[PNI(GlyR単一)]またはGABAAR仲介[PNI(GABAAR単一)]シナプス現象の影響のみを考慮した場合の、PNI後のLIニューロンの結果も示す。右側-左図に示したのと同じデータ、ただし発射周波数の比で表し、これは阻害なしのデータセットで割った特定のデータセット(すなわち、その発射周波数の比は阻害なしと等しい)の商として計算した。正常では過分極化したGlyR仲介のPSC(平均Eanion=非投薬ラット中で-72.8mV)には、出力発射周波数(fout)に対する実質的な阻害効果があったが、脱分極したGlyR仲介のPSC(平均Eanion=PNIラット中で-49.0mV)は、阻害なしに関する結果に予想されたfoutを超えてfoutを増大させ、実質的な刺激効果が示された。この刺激効果は、GABAAR仲介のPSCによって保持される高い電荷のために、GABAAR要素を取り込ませるとさらに広がった。
【図5B】b)左側-PNI後のLIニューロンの発射周波数に対する、(我々の試験で観察した範囲の)Eanionの異なる値の影響。右側-発射周波数の比で表した左図と同じデータ(前と同じ)。
【図6】KCC2輸送体の発現は感覚線維ではなく、後角ニューロンに限られることを示す図である。DRG由来のイムノブロッティングによるKCC2濃度は検出未満であるが(図4f)、KCC2を細胞体から一次求心性の中枢末端に優先的に移動させることができるかどうかを、我々は確認した。a)後角の薄層I中の樹状突起(D)上のKCC2の存在を示す電子顕微鏡写真。薄層Iニューロン体(S)上の膜限定イムノゴールド染色も示す(矢印)。対照的に、KCC2の免疫染色は、ランダムに選択した試験シナプス概略(n=171)のいずれにおいても観察されなかった。b)KCC2免疫反応性も、薄層IおよびII(タイプI:CI;左側;タイプII:CII;右側;矢印は興奮シナプスを示す、D:樹状突起)中のシナプス糸球体の中枢ボタン(n=42のランダムに選択した中枢ボタン)には存在せず、これは一次求心性の中枢末端(A-およびC-線維[34,35])と明らかに対応する。スケールバー:a:2μm;b;0.5μm(左側)、0.2μm(右側)。
【図7】非投薬およびPNIラットの薄層Iニューロンから記録した、アニオン(重炭酸イオンおよび塩化イオン)逆転電位(Eanion)に対するさまざまな処理の影響の図である。
【図8】受容体チロシンキナーゼ阻害剤K-252a(6nM)のクモ膜下投与が、触覚侵害受容性の脚の撤去反射に関する閾値の増大をもたらしたことを示す図である。
【図9】ヒトKCC2のDNA(配列番号1)およびポリペプチド(配列番号2)の配列の図である。
【図10】マウスKCC2のDNA(配列番号3)およびポリペプチド(配列番号4)の配列の図である。
【図11】ラットKCC2のDNA(配列番号5)およびポリペプチド(配列番号6)の配列の図である。
【図12】BDNF、NGFまたは通常の人工脳脊髄溶液(ACSF;図中の「対照」)で灌流した非投薬ラットから採取した切片中の薄層Iニューロンから測定した、アニオン(塩化イオンおよび重炭酸イオン)逆転電位(Eanion)の比較の図である。PNI-末梢神経障害。
【図13】浴施用によって、TrkB(P/TrkBIgG)、H-89(P/H89)、K-252a(P/K252a)およびKN-93(P/KN93)を対象とする抗体を用いて処理した、PNIラットから採取した薄層Iニューロンを含む切片中で測定した、Eanionの比較の図である。PNI-末梢神経障害。
【図14】アデノウイルス形質導入BDNFで処理したラット(■)と、アデノウイルス形質導入緑色蛍光タンパク質で処理したラット(○)の間の、触覚刺激に関する侵害受容閾値の比較の図である。
【図15】ヒト組換えNGF(10μg/1日×6日)で処理したラット(■)と、生理食塩水賦形剤で処理したラット(○)の間の、触覚刺激に関する侵害受容閾値の比較の図である。
【図16】中和抗TrkB抗体(抗TrkB-IgG12μg/2時間x3)で処理したラット(■)と、賦形剤のみで処理したラット(○)の間の、触覚刺激に関する侵害受容閾値の比較の図である。
【図17】PKA阻害剤H-89(380nmol)で処理したラット(■)と、賦形剤のみで処理したラット(○)の間の、機械的刺激に関する侵害受容閾値の比較の図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の疼痛を治療または予防する方法であって、前記対象の中枢神経系(CNS)神経細胞中の細胞内クロライド濃度を低下させる工程を含む方法。
【請求項2】
前記CNS細胞中のクロライド輸送体の活性または発現を調節し、それによって前記クロライド濃度を低下させる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記クロライド輸送体がKCC2である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記KCC2の活性または発現を増大させる工程をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記CNS神経細胞が脊髄神経細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記疼痛のシグナルが末梢神経系(PNS)細胞または前記CNS神経細胞に対して経シナプス性の感覚線維で生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記疼痛が神経障害性疼痛である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記神経障害性疼痛が神経損傷または管損傷に伴う、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記神経障害性疼痛が体性痛および内臓痛からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記疼痛が慢性炎症性疼痛、関節炎に伴う疼痛、線維筋痛、背痛、癌に伴う疼痛、消化系疾患に伴う疼痛、クローン病に伴う疼痛、自己免疫疾患に伴う疼痛、内分泌疾患に伴う疼痛、糖尿病性神経障害に伴う疼痛、幻脚痛、自発痛、慢性術後痛、慢性顎関節痛、カウザルギー、ヘルペス後神経痛、AIDS関連痛、複合性局所疼痛I型およびII型症候群、三叉神経痛、慢性背痛、脊髄障害に伴う疼痛および再発性の急性痛からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記CNS細胞中の前記細胞内クロライド濃度を低下させることができる化合物を前記対象に投与する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記化合物が前記CNS細胞中のクロライド輸送体の活性または発現を調節することができる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記クロライド輸送体がKCC2である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記化合物が前記KCC2の活性または発現を増大させることができる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記化合物がTrkBの阻害剤である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記阻害剤がK-252aおよび抗TrkB抗体からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記化合物が環状AMP依存性キナーゼ(PKA)の阻害剤である、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記阻害剤がH-89である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記化合物がカルモジュリン依存性キナーゼ(CAMキナーゼ)の阻害剤である、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記阻害剤がKN-93である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記KCC2が、配列番号2、4、6およびその断片からなる群から選択される配列と実質的に同一なアミノ酸配列を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項22】
(a)CNS神経細胞中の細胞内クロライド濃度を低下させることができる化合物;および
(b)薬剤として許容可能な担体;
を含む、対象の疼痛を治療または予防するための組成物。
【請求項23】
前記化合物が前記CNS神経細胞中のクロライド輸送体の活性または発現を調節することができる、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記クロライド輸送体がKCC2である、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
前記化合物が前記KCC2の活性または発現を増大させることができる、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
請求項22に記載の組成物、および疼痛の治療または予防にそれを使用するための指示書を含む市販のパッケージ。
【請求項27】
CNS神経細胞中の細胞内クロライド濃度を低下させることができる化合物、および疼痛の治療または予防にそれを使用するための指示書を含む市販のパッケージ。
【請求項28】
前記化合物が前記CNS神経細胞中のクロライド輸送体の活性または発現を調節することができる、請求項27に記載の市販のパッケージ。
【請求項29】
前記クロライド輸送体がKCC2である、請求項28に記載の市販のパッケージ。
【請求項30】
前記化合物が前記KCC2の活性または発現を増大させることができる、請求項29に記載の市販のパッケージ。
【請求項31】
疼痛を治療または予防するための、請求項22に記載の組成物の使用。
【請求項32】
疼痛を治療または予防するための薬剤を調製するための、請求項22に記載の組成物の使用。
【請求項33】
疼痛を治療または予防するための、CNS神経細胞中の細胞内クロライド濃度を低下させることができる化合物の使用。
【請求項34】
疼痛を治療または予防するための薬剤を調製するための、CNS神経細胞中の細胞内クロライド濃度を低下させることができる化合物の使用。
【請求項35】
前記化合物が前記CNS細胞中のクロライド輸送体の活性または発現を調節することができる、請求項33に記載の使用。
【請求項36】
前記クロライド輸送体がKCC2である、請求項35に記載の使用。
【請求項37】
前記化合物が前記KCC2の活性または発現を増大させることができる、請求項36に記載の使用。
【請求項38】
前記化合物がTrkBの阻害剤である、請求項37に記載の使用。
【請求項39】
前記阻害剤がK-252aおよび抗TrkB抗体からなる群から選択される、請求項38に記載の使用。
【請求項40】
前記化合物が環状AMP依存性キナーゼ(PKA)の阻害剤である、請求項37に記載の使用。
【請求項41】
前記阻害剤がH-89である、請求項40に記載の使用。
【請求項42】
前記化合物がカルモジュリン依存性キナーゼの阻害剤である、請求項37に記載の使用。
【請求項43】
前記阻害剤がKN-93である、請求項42に記載の使用。
【請求項44】
疼痛を治療または予防するための化合物を同定または特徴付ける方法であって、
(a)試験化合物とCNS由来細胞を接触させる工程;および
(b)前記細胞内クロライド濃度が前記試験化合物の存在下で低下しているかどうか判定する工程;
を含み、前記低下が疼痛を治療または予防するために前記試験化合物を使用できることを示す方法。
【請求項45】
疼痛を治療または予防するための化合物を同定または特徴付ける方法であって、
(c)試験化合物とクロライド輸送体を発現するCNS由来細胞を接触させる工程;および
(d)前記クロライド輸送体の活性または発現が、前記試験化合物の存在下で調節されて、細胞内クロライドの濃度を低下させるかどうか判定する工程;
を含み、前記調節が疼痛を治療または予防するために前記試験化合物を使用できることを示す方法。
【請求項46】
前記クロライド輸送体がKCC2である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記KCC2の発現または活性が前記試験化合物の存在下で増大し、前記調節が増大であるかどうか判定する工程を含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記KCC2の活性が、カリウム輸送、クロライド輸送、細胞内クロライド濃度およびアニオン逆転電位からなる群から選択されるパラメータを測定することによって決定される、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記疼痛が慢性炎症性疼痛、関節炎に伴う疼痛、線維筋痛、背痛、癌に伴う疼痛、消化系疾患に伴う疼痛、クローン病に伴う疼痛、自己免疫疾患に伴う疼痛、内分泌疾患に伴う疼痛、糖尿病性神経障害に伴う疼痛、幻脚痛、自発痛、慢性術後痛、慢性顎関節痛、カウザルギー、ヘルペス後神経痛、AIDS関連痛、複合性局所疼痛I型およびII型症候群、三叉神経痛、慢性背痛、脊髄障害に伴う疼痛および再発性の急性痛からなる群から選択される、請求項44に記載の方法。
【請求項50】
疼痛を治療または予防するための化合物を同定または特徴付ける方法であって、
(a)レポータータンパク質をコードすることができるレポーター遺伝子を含む第2の核酸と機能的に連結している、クロライド輸送体遺伝子と通常に結合している転写調節性エレメントを含む第1の核酸を含むCNS由来細胞と、試験化合物を接触させる工程;および
(b)レポーター遺伝子の発現またはレポータータンパク質の活性が前記試験化合物の存在下で調節されるかどうか判定する工程:
を含み、前記レポーター遺伝子の発現またはレポータータンパク質の活性の調節が、疼痛を治療または予防するために前記試験化合物を使用できることを示す方法。
【請求項51】
前記クロライド輸送体がKCC2である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記レポーター遺伝子の発現またはレポータータンパク質の活性が前記試験化合物の存在下で増大する、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
対象の痛覚を低下させるための方法であって、前記対象のCNS神経細胞中の細胞内クロライドを低下させる工程を含む方法。
【請求項54】
前記CNS神経細胞中のクロライド輸送体の活性または発現を調節することを含む、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記クロライド輸送体がKCC2である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記KCC2の活性または発現を増大させる工程をさらに含む、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
KCC2の活性または発現を増大させることができる化合物と前記CNS神経細胞を接触させる工程をさらに含む、請求項55に記載の方法。
【請求項58】
前記化合物がTrkBの阻害剤である、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記阻害剤がK-252aおよび抗TrkB抗体からなる群から選択される、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記化合物が環状AMP依存性キナーゼ(PKA)の阻害剤である、請求項57に記載の方法。
【請求項61】
前記阻害剤がH-89である、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記化合物がカルモジュリン依存性キナーゼの阻害剤である、請求項57に記載の方法。
【請求項63】
前記阻害剤がKN-93である、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記KCC2が、配列番号2、4、6およびその断片からなる群から選択される配列と実質的に同一なアミノ酸配列を含む、請求項55に記載の方法。
【請求項65】
疼痛を経験している対象のCNS機能不全に伴う疼痛を診断または予後判定するための方法であって、試験したCNS細胞内クロライド濃度が対応する対照のクロライド濃度に対して増大しているかどうか判定する工程を含み、前記増大が前記対象がCNS機能不全に伴う疼痛を経験していることを示す方法。
【請求項66】
CNSクロライド輸送体の活性または発現が対照輸送体の活性または発現に対して調節されるかどうか判定する工程をさらに含む、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
前記クロライド輸送体がKCC2である、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記KCC2の活性または発現が前記対照の活性または発現に対して低下しているかどうか判定する工程をさらに含む、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記対照の細胞内クロライド濃度が、
(a)確立した標準;
(b)初期に前記対象中で測定した対応する細胞内クロライド濃度;
(c)前記対象があまり疼痛を経験していないかあるいは実質的に疼痛を経験していないときに、前記対象中で測定した対応する細胞内クロライド濃度;および
(d)あまり疼痛を経験していないかあるいは実質的に疼痛を経験していない対照対象中で測定した対応する細胞内クロライド濃度;
からなる群から選択される、請求項65に記載の方法。
【請求項70】
前記対照の活性または発現が、
(a)KCC2活性または発現の確立した標準;
(b)初期に前記対象中で測定した対応するKCC2活性または発現の濃度;
(c)前記対象があまり疼痛を経験していないかあるいは実質的に疼痛を経験していないときに、前記対象中で測定した対応するKCC2活性または発現の濃度;および
(d)あまり疼痛を経験していないかあるいは実質的に疼痛を経験していない対照対象中で測定した対応するKCC2活性または発現の濃度;
からなる群から選択される、請求項68に記載の方法。
【請求項71】
前記KCC2の活性が、カリウム輸送、クロライド輸送、細胞内クロライド濃度およびアニオン逆転電位からなる群から選択されるパラメータを測定することによって決定される、請求項67に記載の方法。
【請求項72】
前記細胞内クロライド濃度を、
(a)細胞内クロライド濃度を示す指標化合物を前記対象に、前記指標化合物が前記対象のCNS神経細胞と接触するように投与する工程;および
(b)前記指標化合物と関係があるin vivoのシグナルを評価する工程;
によって測定する、請求項65に記載の方法。
【請求項73】
CNS機能不全に伴う前記疼痛が神経障害性疼痛である、請求項65に記載の方法。
【請求項74】
前記指標化合物が放射性核種である、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
前記放射性核種が201Tl、99Tcm-テトロフォスミン、99Tcm-MIBI、99Tcm-HMPAOおよび36Clからなる群から選択される、請求項75に記載の方法。
【請求項76】
前記in vivoのシグナルを画像診断技術によって評価する、請求項73に記載の方法。
【請求項77】
前記in vivoのシグナルが前記指標化合物の保持指標である、請求項72に記載の方法。
【請求項78】
前記画像診断技術が単一光子放射コンピュータ断層撮影法、陽電子放射断層撮影法、および磁気共鳴画像診断法からなる群から選択される、請求項76に記載の方法。
【請求項79】
前記指標化合物がKCC2発現を示す、請求項73に記載の方法。
【請求項80】
前記指標化合物がKCC2に対する抗体である、請求項79に記載の方法。
【請求項81】
対象中のCNS機能不全に伴う疼痛を治療する方法であって、
(a)前記対象のCNS機能不全に伴う疼痛を請求項65に記載の方法に従い診断または予後判定する工程;および
(b)前記対象のCNS細胞中の細胞内クロライド濃度を低下させる工程;
を含む方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図4G】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図9−3】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【図11−3】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2007−501849(P2007−501849A)
【公表日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529490(P2006−529490)
【出願日】平成16年5月14日(2004.5.14)
【国際出願番号】PCT/CA2004/000726
【国際公開番号】WO2004/101072
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(501449470)ユニヴェルシテ ラヴァル (2)
【Fターム(参考)】