説明

CNT浸出セラミック繊維材料及びそのプロセス

組成物には、カーボンナノチューブ(CNT)浸出セラミック繊維材料が含まれ、CNT浸出セラミック繊維材料は、巻き取り可能な寸法のセラミック繊維材料と、セラミック繊維材料に結合するカーボンナノチューブ(CNTs)と、を含む。CNTsは、長さ及び分布が均一である。連続的なCNT浸出プロセスには、(a)巻き取り可能な寸法のセラミック繊維材料の表面にカーボンナノチューブ形成触媒を配置すること、及び(b)セラミック繊維材料上にカーボンナノチューブを合成し、これにより、カーボンナノチューブ浸出セラミック繊維材料を形成すること、が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維材料に関し、より具体的に言えば、カーボンナノチューブで修飾されたセラミック繊維材料に関する。
【0002】
(関連出願の相互参照)
本願は、2007年1月3日出願の米国特許出願第11/619,327号の一部継続出願である。本願は、2009年4月10日出願の米国仮出願第61/168,516号、2009年4月14日出願の米国仮出願第61/169,055号、2009年2月27日出願の米国仮出願第61/155,935号、2009年3月3日出願の米国仮出願第61/157,096号、及び2009年5月29日出願の米国仮出願第61/182,153号に基づいて優先権を主張するものであり、全体を参照することにより全内容が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
繊維材料は、例えば、商用航空産業、レクリエーション産業、工業及び運輸業など、多種多様な産業で様々な用途に用いられる。これらの、及び他の用途に共通して用いられる繊維材料には、例えば、セラミック繊維、セルロース系繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維及びアラミド繊維が含まれる。
【0004】
セラミック繊維は、特に、断熱用途、弾道保護用途、ジェットエンジンのタービンブレードのような高性能用途、及びミサイルのノーズコーン(nose cone)に有用である。セラミック複合材料における高い破壊靭性を実現するために、セラミック繊維とマトリックス材との間には強固な相互作用があるべきである。このような相互作用は、繊維サイジング剤の使用により達成可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のサイジング剤の殆どは、それらが適用されるセラミック繊維材料よりも界面強度が低い。結果として、サイジング剤強度及びその耐界面応力性が複合材料全体の強度を決定する。このため、従来のサイジング剤を使用することにより、得られる複合材料は、通常、セラミック繊維材料よりも強度が低くなる。
【0006】
前述のいくつかの問題に対処することに加え、セラミック繊維材料に好ましい特性を付与するために、サイジング剤、及びこれをセラミック繊維材料にコーティングするプロセスを開発できれば有益である。本発明はこの必要性を満たし、関連する利点をも提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ある態様において、本明細書に開示される実施形態は、カーボンナノチューブ(CNT)が浸出したセラミック繊維材料を含む組成物に関し、ここでCNTが浸出したセラミック繊維材料には、巻き取り可能な寸法のセラミック繊維材料、及びセラミック繊維材料に結合するカーボンナノチューブ(CNTs)が含まれる。CNTsは、長さと分布が均一である。
【0008】
ある態様において、本明細書に開示される実施形態は、連続的なCNTの浸出プロセスに関し、これには、(a)巻き取り可能な寸法のセラミック繊維材料の表面にカーボンナノチューブ形成触媒を配置すること、及び(b)セラミック繊維材料上にカーボンナノチューブを合成し、これにより、カーボンナノチューブ浸出セラミック繊維材料を形成すること、が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】CNTが浸出したセラミック繊維より採取された多層カーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
【図2】CNTが2ミクロンに近い均一な長さで浸出したアルミナ単繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【図3】CNTがロービング(roving)全体にわたって約10%以内の均一な密度で浸出した複数のアルミナ繊維のSEM画像を示す。
【図4】ある実施形態による、CNTが浸出したセラミック繊維の形成方法のフローチャートを示す。
【図5】熱的及び電気的伝導性の向上を目的として、連続プロセスでセラミック繊維材料にCNTを浸出させる方法のフローチャートを示す。
【図6】例えば、せん断強度などの界面特性を含む機械的性質の向上を目的として、連続プロセスでセラミック繊維材料にCNTを浸出させる方法のフローチャートを示す。
【図7】引張強度の向上が要求される用途のために、連続プロセスでセラミック繊維にCNTを浸出させる方法のフローチャートを示し、ここで、そのシステムは後続の樹脂取り込み及びワインディング(winding)プロセスと連結される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、1つには、カーボンナノチューブ浸出(「CNT浸出」)セラミック繊維材料を対象にする。セラミック繊維材料に対するCNTsの浸出は、例えば、水分などによる損傷に対して保護するサイジング剤としてなど、数多くの機能を果たす。また、CNTベースのサイジング剤は、複合材料におけるセラミックと疎水性マトリックス材との接点としての役割も果たす。さらに、CNTsは、セラミック繊維材料をコーティングするいくつかのサイジング剤の1つとしても機能する。
【0011】
そのうえ、セラミック繊維材料でのCNTsの浸出により、セラミック繊維材料の様々な性質(例えば、熱的若しくは電気的伝導性、又は引張強度など)を変化させることができる。例えば、弾道保護用途に用いられるセラミックにとって、浸出したCNTsの存在による靭性の向上は有益である。CNT浸出セラミック繊維材料を製造するために用いられるプロセスは、略均一な長さ及び分布のCNTsを提供し、これにより、修飾されるセラミック繊維材料全体にわたってその有用な性質を均一に付与する。さらに、本明細書に開示されるプロセスは、巻き取り可能な寸法のCNT浸出セラミック繊維材料を生成するのに適している。
【0012】
また、本開示は、CNT浸出セラミック繊維材料を製造するプロセスも対象にする。本明細書に開示されるプロセスは、セラミック繊維材料に対する典型的なサイジング剤溶液の適用の前に、あるいはこれに代えて、新たに生成される発生期のセラミック繊維材料に適用可能である。あるいは、本明細書に開示されるプロセスは、工業用のセラミック繊維材料(例えば、既に表面にサイジング剤が適用された、セラミック織物テープ(ceramic fabric tape))を利用し得る。このような実施形態において、サイジング剤は、セラミック繊維材料と合成されたCNTsとの間の直接的な接点を提供するために除去される。CNT合成の後、更なるサイジング剤が、所望通りにセラミック繊維材料に適用される。また、セラミックテープ及びセラミック織物は、例えば、ガラス繊維材料などの他の繊維種を組み込むこともできる。本発明のプロセスは、同様にガラス繊維種に適用され、このようにして、複数の繊維種を有する複雑な高規則構造(high order structure)の機能化が可能になる。
【0013】
本明細書に記載されるプロセスは、巻き取り可能な長さの、セラミックトウ(tow)、セラミックロービング、セラミックヤーン(ceramic yarn)、セラミックテープ、セラミック織物などに沿った、均一な長さ及び分布のカーボンナノチューブの連続的製造を可能にする。様々なマット、織物、及び不織布などは本発明のプロセスにより機能化されるが、元となるトウ、ヤーンなどをCNTで機能化した後にこのような高規則構造を生成することも可能である。例えば、CNT浸出短ストランドマット(CNT-infused chopped strand mat)は、CNT浸出セラミック繊維ヤーンから生成され得る。
【0014】
本明細書において、用語「セラミック繊維材料」とは、基本的な構成成分としてセラミック繊維を有するいかなる材料も指す。その用語には、繊維、フィラメント、ヤーン、トウ、ロービング、テープ、織物及び不織布、パイル、マット、並びに、他の3次元織物構造体が包含される。本明細書において、用語「セラミック」には、加熱作用とその後の冷却作用により作製される、耐火物、及び/又は、工業的結晶質若しくは部分的結晶質の無機非金属固体のあらゆるものが包含される。当業者は、ガラスもセラミックの一種であることを認識できるが、ガラスは非晶質である。「非晶質」ということは、長範囲の結晶秩序がないことを意味する。このため、ガラスも本明細書に記載されるプロセスに従って機能化可能であるが、用語「セラミック繊維材料」は、本明細書において、特に、非晶質でない、酸化物、炭化物、ホウ化物、窒化物、ケイ化物などを指す。また、用語「セラミック繊維材料」には、当該技術分野において既知の玄武岩繊維材料も含まれるものとする。
【0015】
本明細書において、用語「巻き取り可能な寸法」とは、セラミック繊維材料が有する、長さの限定されない少なくとも1つの寸法であり、セラミック繊維材料をスプール又はマンドレルに保管しておくことが可能なものをさす。「巻き取り可能な寸法」のセラミック繊維材料は、本明細書に記載されるCNT浸出のためのバッチ(batch)プロセス又は連続プロセスのいずれかの使用を示す少なくとも1つの寸法を有する。市販されている巻き取り可能な寸法の1つのセラミック繊維材料は、テックス値333(1テックス=1g/1,000m)又は1500ヤード/ポンドのアルミナケイ酸塩(alumina silicate)セラミック繊維ロービングであるネクステル(登録商標)720〜750(3M社、ミネソタ州セントポール)で例示される。特に、工業用のセラミック繊維ロービングは、例えば、5、10、20、50、及び100ポンドのスプールで得られる。本発明のプロセスは、5〜20ポンドのスプールで容易に稼動するが、より大きなスプールも使用可能である。さらに、非常に大きい巻き取り可能な長さ(例えば、100ポンド)を分割して、例えば、50ポンドのスプールなど取り扱いの容易な寸法にする前処理工程を組み込むことができる。
【0016】
本明細書において、用語「カーボンナノチューブ」(CNT、複数でCNTs)とは、単層カーボンナノチューブ(SWNTs)、2層カーボンナノチューブ(DWNTs)、多層カーボンナノチューブ(MWNTs)など、多数のフラーレン族のうち円筒形状炭素同素体のあらゆるものをさす。CNTsは、フラーレンのような構造体により閉塞されるか、又は両端が開口していてもよい。CNTsには、他の物質を封入するものが含まれる。
【0017】
本明細書において、「長さが均一」という場合、反応器において成長するCNTsの長さについて言及するものである。「均一な長さ」は、約1ミクロンから約500ミクロンの様々なCNT長さに関して、CNTsが、CNTの全長について±約20%またはそれ未満の許容誤差を伴う長さを有することを意味する。例えば、1〜4ミクロンなどの極めて短い長さでは、この誤差は、CNTの全長について±約20%から、±約1ミクロンまでの範囲、すなわち、CNTの全長の約20%よりも若干大きくなる。CNTの長さの均一性は、あらゆる長さの巻き取り可能なセラミック繊維材料全体にわたって得られるが、本発明のプロセスは、巻き取り可能なセラミック繊維材料のあらゆる場所の個々の区域において、CNTの長さを変化させることも可能にする。このため、例えば、巻き取り可能な長さのセラミック繊維材料は、各区域内で均一なCNT長さを有し、区域毎に所望のCNT長さとすることができる。このようなCNTの長さが異なる区域はいかなる順序でも現れ、CNTsの欠如した区域を選択的に含めることも可能である。このようなCNT長さの制御は、本処理のラインスピード、キャリアガス及び炭素原料ガスの流量、及び反応温度を変化させることで可能となる。プロセスにおけるこれらの変量は全て、コンピュータ制御により自動化され管理され得る。
【0018】
本明細書において、「分布が均一」とは、セラミック繊維材料上におけるCNTsの密度が不変であることをいう。「均一な分布」は、CNTsで覆われる繊維の表面積の割合として定義される被覆率の誤差が±約10%となる場合のセラミック繊維材料上の密度をCNTsが備えていることを意味する。これは、直径8nmの5層CNTでは、1平方マイクロメートル当たり±1500のCNTsに相当する。この形状ではCNTsの内部空間を充填可能と仮定している。
【0019】
本明細書において、用語「浸出する」とは結合することを意味し、用語「浸出」とは、結合プロセスを意味する。このような結合には、直接的な共有結合、イオン結合、π−π相互作用又はファンデルワールス力の介在した物理吸着が包含され得る。結合は、CNTsとセラミック繊維材料との間に挟まれて配置される遷移金属ナノ粒子を介してセラミック繊維に浸出する間接的なものであってもよい。本明細書に開示されるCNT浸出セラミック繊維材料において、カーボンナノチューブは、前述のように、直接的にも間接的にもセラミック繊維材料に浸出可能である。CNTがセラミック繊維材料に浸出する態様は、結合モチーフ(bonding motif)と呼ばれる。
【0020】
本明細書において、用語「遷移金属」とは、周期表のdブロックにおけるあらゆる元素又はその合金をいう。また、用語「遷移金属」には、遷移金属ベースの塩形態(例えば、酸化物、炭化物、窒化物など)も含まれる。
【0021】
本明細書において、用語「ナノ粒子」若しくはNP(複数ではNPs)、又はその文法的な同等物とは、相当球径で約0.1〜約100ナノメートルの大きさに形成された粒子をいうが、NPsは球形である必要はない。遷移金属NPsは、特に、セラミック繊維材料における更なるCNT成長の触媒として機能する。
【0022】
本明細書において、用語「サイジング剤(sizing agent)」、「繊維サイジング剤」、又は単に「サイジング(sizing)」とは、セラミック繊維の健全性を保護し、複合材料におけるセラミック繊維とマトリックス材との間の界面相互作用を強化し、及び/又は、セラミック繊維の特定の物理的性質を変化させる又は高めるためのコーティングとして、セラミック繊維の製造に用いられる材料を総称するものである。ある実施形態において、セラミック繊維材料に浸出するCNTsはサイジング剤として作用する。
【0023】
本明細書において、用語「マトリックス材」とは、サイジングされた(sized)CNT浸出セラミック繊維材料をランダム配向などの特定の配向性で組織化する機能を果たすバルク材をいう。CNT浸出セラミック繊維材料の有する物理的及び/又は化学的性質のある部分をマトリックス材に付与することにより、マトリックス材にとってCNT浸出セラミック繊維材料の存在は有益となる。
【0024】
本明細書において、用語「材料滞留時間」とは、巻き取り可能な寸法のガラス繊維材料に沿った各ポイントが、本明細書に記載されるCNT浸出プロセスの間、CNTの成長状態にさらされる時間をいう。この定義には、複数のCNT成長チャンバーを用いる場合の材料残留時間が含まれる。
【0025】
本明細書において、用語「ラインスピード」とは、本明細書に記載されるCNT浸出プロセスにより、巻き取り可能な寸法のガラス繊維材料を供給できるスピードをいい、この場合、ラインスピードは、(1つの又は複数の)CNTチャンバー長を材料残留時間で除して算出される速度である。
【0026】
ある実施形態において、本発明は、カーボンナノチューブ(CNT)浸出セラミック繊維材料を含む組成物を提供する。CNT浸出セラミック繊維材料には、巻き取り可能な寸法のセラミック繊維材料と、セラミック繊維材料に結合するカーボンナノチューブ(CNTs)と、が含まれる。セラミック繊維材料に対する結合は、例えば、セラミック繊維材料に対するCNTsの直接的な結合、CNTsとセラミック繊維材料との間に配置された遷移金属ナノ粒子を介した間接的な結合、及びこれらの組み合わせなどの結合モチーフが含まれる。
【0027】
理論に拘束されるものではないが、CNT形成触媒として機能する遷移金属ナノ粒子は、CNT成長の種結晶構造体を形成することによりCNT成長に触媒作用を及ぼす。CNT形成触媒は、CNT合成がCNT成長の最前線に沿って進展するCNT合成の間、「浮上する(float)」ことができ、これによりCNT形成触媒は、CNT合成が終了したときに、セラミック繊維材料から遠位のCNT末端に残留する。このような場合において、CNT構造体はセラミック繊維材料に直接浸出する。同様に、CNT形成触媒が「浮上する」がCNTの完成構造体の中間に出現する場合もあり、これは、触媒による成長速度を上回る、触媒によらない種結晶成長の速度によるものである。しかし、その結果生じるCNT浸出はセラミック繊維材料に直接起こる。最後に、CNT形成触媒がセラミック繊維材料の基部にとどまって浸出したままの場合もある。このような場合、遷移金属ナノ粒子触媒により最初に形成される種結晶構造体は、「浮上(floating)」する触媒がなくても、触媒によらないCNT成長を継続する上で十分である。当業者であれば、CNT形成触媒が「浮上する」か否かの制御が可能なCNT成長プロセスの重要性を認識するであろう。例えば、触媒が略全て「浮上」している場合、CNT形成遷移金属触媒は、CNTの合成後、セラミック繊維材料へのCNTsの浸出に影響を及ぼすことなく任意に除去可能である。カーボンナノチューブとセラミック繊維材料との間に形成される実際の結合の種類にかかわらず、浸出したCNTの直接的又は間接的な結合は強固であり、この結合により、CNT浸出セラミック繊維材料がカーボンナノチューブの性質及び/又は特性を示すことができるようになる。
【0028】
CNT浸出セラミック繊維材料を有する組成物は、CNTsが略均一な長さで提供される。本明細書に記載される連続プロセスの場合、CNT成長チャンバーにおけるセラミック繊維材料の滞留時間は調節されて、CNTの成長、及び最終的にはCNTの長さを制御する。これにより、成長するCNTsの特定の性質を制御する手段が提供される。また、CNTの長さは、炭素原料ガス及びキャリアガスの流量並びに成長温度の調節によっても制御される。CNTの性質の更なる制御は、例えば、CNTsを作製するために用いられる触媒のサイズを制御することにより可能となる。例えば、1nmの遷移金属ナノ粒子触媒は、特にSWNTsを提供するために用いられる。より大きな触媒は、主にMWNTsを作製するために用いられる。
【0029】
さらに、用いられるCNT成長プロセスは、前もって形成されたCNTsを溶媒溶液中に懸濁又は拡散してセラミック繊維材料に手作業で塗布するプロセスで起こるCNTsの束化(bundling)及び/又は凝集を回避しつつ、セラミック繊維材料に均一に分布したCNTsを有するCNT浸出セラミック繊維材料を提供する上で有用である。このように凝集したCNTsは、セラミック繊維材料に弱く結合する傾向にあり、特徴的なCNTの性質は、仮に結合したとしても、かすかにしか現れない。ある実施形態において、パーセント被覆率(percent coverage)、すなわち被覆された繊維の表面積として表される最大分布密度は、直径約8nmの5層CNTsを想定すると、約55%もの高率となる。この被覆率は、CNTsの内部空間を「充填可能な(fillable)」空間とみなして算出される。様々な分布/密度の値は、表面における触媒の拡散を変化させるとともにガス組成、プロセス速度、及び成長温度を制御することにより達成できる。一般的に、あるパラメータに関しては、全繊維表面で約10%以内のパーセント被覆率が達成される。密度が高くなりCNTsが短くなると、機械的性質の向上に有用となるのに対し、密度の増大が好ましいことに変わりはないが、密度が低くなりCNTsが長くなると、熱的性質及び電気的性質の向上に有用となる。密度が低くなるのは、より長いCNTsが成長したときであるが、これは、触媒の粒子収量を低下させる高温かつ急速な成長によるものである。
【0030】
CNT浸出セラミック繊維材料を有する本発明の組成物には、例えば、セラミックフィラメントなどのセラミック繊維材料、セラミックトウ、セラミックヤーン、セラミックロービング、セラミックテープ、セラミック繊維編組(ceramic fiber-braid)、一方向織物及びテープ、光ファイバー、セラミックロービング織物、不織セラミック繊維マット、セラミック繊維プライ、並びに3次元織物が含まれる。セラミックフィラメントには、約1ミクロンから約50ミクロンに及ぶ直径を有する高アスペクト比のセラミック素繊維が含まれる。セラミックトウは、一般的にフィラメントを密に結合した束(bundle)であり、通常は撚り合わされてヤーンとなる。また、セラミックトウは、テープ様構造体に平坦化することもできる。
【0031】
ヤーンには、撚り合わされたフィラメントを密に結合した束(bundle)が含まれる。ヤーンにおける各フィラメントの直径は、比較的均一である。ヤーンには、「テックス(tex)」(1000リニアメーター当たりのグラム重量として示される)又は「デニール(denier)」(10,000ヤード当たりのポンド重量として示される)で表される様々な重量があるが、標準的なテックス範囲は、通常、約50テックスから約1200テックスまでである。ロービングには、撚り合わされていないフィラメントを緩く結合した束が含まれる。ヤーンと同様に、ロービングにおけるフィラメントの直径は、概して均一である。また、ロービングにも様々な重量があり、テックス範囲は、通常、約50テックスから約1200テックスである。
【0032】
セラミックテープ(又はより広いシート)は、溶融セラミックから直接引き出され、あるいは織物として組まれる材料である。セラミックテープは様々な幅をもち、通常、リボン類似の両面構造体である。本発明のプロセスでは、テープの片面又は両面におけるCNT浸出に対応できる。CNT浸出テープは、平坦な基材表面上の「カーペット(carpet)」又は「フォーレスト(forest)」に似ている。さらに、本発明のプロセスは、巻き取りテープを機能化するために連続モードで行われる。
【0033】
セラミック繊維編組は、セラミック繊維が高密度に詰め込まれたロープ様構造体を示す。このような構造体は、例えば、ヤーンから組まれる。編組構造体は中空部分を含むか、あるいは、別のコア材料の周囲に組まれてよい。
【0034】
ある実施形態において、多数の基礎的なセラミック繊維材料の構造体は、織物又はシート様構造体に組織化される。これらには、前述のテープに加えて、例えば、セラミックロービング織物、不織セラミック繊維マット、及びセラミック繊維プライが含まれる。このような高規則構造は、元となるトウ、ヤーン、ロービング、フィラメントなどから、これら元となる繊維にCNTsが既に浸出した状態で組まれてよい。あるいは、このような構造体は、本明細書に記載されたCNT浸出プロセスのための基材として機能する。
【0035】
セラミック繊維材料に用いられるセラミック種はいかなる種類であってよく、例えば、酸化物(アルミナ及びジルコニアなど)、炭化物(炭化ホウ素、炭化ケイ素、及び炭化タングステンなど)、並びに、窒化物(窒化ホウ素及び窒化ケイ素など)などがある。他のセラミック繊維材料には、例えば、ホウ化物及びケイ化物が含まれる。セラミック繊維材料は、他の繊維種を備えた複合材料として生じてもよい。例えば、ガラス繊維も組み込む織物様のセラミック繊維材料が一般的である。
【0036】
セラミック繊維材料への浸出に有用なCNTsには、単層CNTs、2層CNTs、多層CNTs、及びこれらを混合したものが含まれる。用いるべきCNTsは、正確には、CNT浸出セラミック繊維の用途によって決まる。CNTsは、熱的及び/又は電気的伝導の用途に、あるいは、絶縁体として用いられる。ある実施形態において、浸出したカーボンナノチューブは、単層ナノチューブである。ある実施形態において、浸出したカーボンナノチューブは、多層ナノチューブである。ある実施形態において、浸出したカーボンナノチューブは、単層ナノチューブと多層ナノチューブの組み合わせである。単層及び多層ナノチューブに特有の性質には、繊維の最終用途のために、どちらのナノチューブを合成するかを決定付ける相違がある。例えば、単層ナノチューブは半導体的又は金属的である一方、多層ナノチューブは金属的である。
【0037】
CNTsは、例えば、機械的強度、低〜中程度の電気抵抗率、高熱伝導性などの特有の性質をCNT浸出セラミック繊維材料に与える。例えば、ある実施形態において、カーボンナノチューブ浸出セラミック繊維材料の電気抵抗率は、元となるセラミック繊維材料の電気抵抗率よりも低い。より一般的に言えば、得られるCNT浸出繊維がこれらの特徴を示す程度は、カーボンナノチューブによるセラミック繊維被覆の程度及び密度に依存する。直径8nmの5層MWNTを想定すると、繊維の0〜55%のあらゆる繊維表面積が被覆される(この計算においてもCNTsの内部空間を充填可能とみなしている)。この数字は、CNTsの直径が小さくなると低くなり、CNTsの直径が大きくなると高くなる。55%の表面積被覆率は、1μm2当たり約15,000のCNTsに相当する。さらに、CNTの性質は、前述のように、CNTの長さに依存する形でセラミック繊維材料に付与される。浸出するCNTsには、約1ミクロンから約500ミクロン(1ミクロン、2ミクロン、3ミクロン、4ミクロン、5ミクロン、6ミクロン、7ミクロン、8ミクロン、9ミクロン、10ミクロン、15ミクロン、20ミクロン、25ミクロン、30ミクロン、35ミクロン、40ミクロン、45ミクロン、50ミクロン、60ミクロン、70ミクロン、80ミクロン、90ミクロン、100ミクロン、150ミクロン、200ミクロン、250ミクロン、300ミクロン、350ミクロン、400ミクロン、450ミクロン、500ミクロン、及びこれらの中間の全ての値など)に及ぶ様々な長さのものがある。また、CNTsは、例えば、約0.5ミクロンなど、長さが約1ミクロン未満でも可能である。さらに、CNTsは、例えば、510ミクロン、520ミクロン、550ミクロン、600ミクロン、700ミクロン及びこれらの中間の全ての値など、500ミクロンよりも長くてもよい。
【0038】
本発明の組成物は、約1ミクロンから約10ミクロンの長さを有するCNTsを組み込むことができる。このようなCNTの長さはせん断強度を向上する用途に有用となり得る。また、CNTsは、約5ミクロンから約70ミクロンの長さを有してもよい。このようなCNT長さは、CNTsが繊維方向に配列される場合に、引張強度を向上する用途に有用となり得る。さらに、CNTsは、約10ミクロンから約100ミクロンの長さを有してもよい。このようなCNTの長さは、電気的/熱的性質に加え機械的性質を向上するのに有用となり得る。またさらに、本発明に用いられるプロセスは、約100ミクロンから約500ミクロンの長さを有するCNTsも提供できるが、これは、電気的及び熱的性質の向上にも有益である。このようなCNT長さの制御は、様々なラインスピード及び成長温度と相まって、炭素原料ガス及び不活性ガスの流量を変化させることで容易に達成される。ある実施形態において、巻き取り可能な長さのCNT浸出セラミック繊維材料を含む組成物には、前述のように、CNTsの長さが異なる様々な均一領域がある。例えば、引張又はせん断強度性を高めるためにCNT浸出炭素繊維材料のうち均一に短いCNT長を備えた第1の領域と、電気的又は熱的性質を高めるために同一の巻き取り可能な材料のうち均一に長いCNT長を備えた第2の領域と、を有することが好ましい。さらに具体的に言うと、巻き取り可能な長さの一区域には、引張又はせん断強度向上のための短いCNTsがある一方、同一の巻き取り可能なセラミック繊維材料の別の区域には、熱的又は電気的伝導性を高めるための長いCNTsがある。巻き取り可能なセラミック繊維材料のこれらの異なる区域は、成形構造体などで積層されるか、マトリックス材の中で組織化され得る。
【0039】
セラミック繊維材料にCNTを浸出させるための本発明のプロセスは、CNTの長さを均一に、かつ、連続プロセスで制御することを可能にし、これにより、巻き取り可能なセラミック繊維材料をCNTsで高速に機能化することが可能となる。5秒から300秒の材料滞留時間で、長さ3フィートのシステムの連続プロセスにおけるラインスピードを、毎分約0.5フィートから毎分約36フィート以上のあらゆる範囲とすることが可能である。選択されるラインスピードは、以下でさらに説明される様々なパラメータにより決まる。
【0040】
ある実施形態において、CNT成長チャンバーにおける材料滞留時間は、約5秒から約30秒の材料滞留時間とすることができ、これにより、約1ミクロンから約10ミクロンの長さを有するCNTsが生成される。また、ある実施形態において、CNT成長チャンバーにおける材料滞留時間は、約30秒から約180秒とすることができ、これにより、約10ミクロンから約100ミクロンの長さを有するCNTsが生成される。また更なる実施形態において、CNT成長チャンバーにおける材料滞留時間は、約180秒から約300秒とすることができ、これにより、約100ミクロンから約500ミクロンの長さを有するCNTsが生成される。当業者であれば、これらの長さがおおよそのものであり、また、CNTの長さが、例えば、反応温度や、キャリアガス及び炭素原料の濃度及び流量によりさらに変更可能であることを認識できる。
【0041】
ある実施形態において、本発明のCNT浸出セラミック繊維材料には、バリアコーティング(barrier coating)が含まれる。バリアコーティングには、例えば、アルコキシシラン、メチルシロキサン、アルモキサン、アルミナナノ粒子、スピンオンガラス(spin on glass)、ガラスナノ粒子が含まれる。後述されるように、CNT形成触媒は、未硬化のバリアコーティング材に加えられて、その後、共にセラミック繊維材料に適用される。他の実施形態において、バリアコーティング材は、CNT形成触媒の付着前にセラミック繊維材料に加えられる。バリアコーティング材は、後続のCVD成長のために炭素原料へCNT形成触媒をさらすのに十分な薄さである。ある実施形態において、その厚さは、CNT形成触媒の有効直径未満か、あるいは、それとほぼ等しい。ある実施形態において、バリアコーティングの厚さは、約10nmから約100nmの範囲にある。また、バリアコーティングは、10nm未満であってよく、1nm、2nm、3nm、4nm、5nm、6nm、7nm、8nm、9nm、10nm及びこれらの中間の全ての値を含む。
【0042】
本明細書に開示される浸出CNTsは、従来のセラミック繊維の「サイジング剤(sizing)」の代替品として有効に機能する。浸出CNTsは、従来のサイジング材料よりも一層強固であり、複合材料中の繊維−マトリックス間界面を改善し、より一般的には、繊維間界面を改善することができる。実際には、CNT浸出セラミック繊維材料の性質がセラミック繊維材料の性質に加えて浸出CNTsの性質を組み合わせたものとなるという点で、本明細書に開示されるCNT浸出セラミック繊維材料は、それ自体が複合材料である。したがって、本発明の実施形態は、セラミック繊維材料に所望の性質を与える手段を提供するが、これによらなければ、セラミック繊維材料には、このような性質が欠如しているか、又は不十分にしか備わっていない。セラミック繊維材料は、特定用途の要求を満たすために調整又は設計される。サイジング剤として作用するCNTsは、疎水性のCNT構造体のために水分の吸収からセラミック繊維材料を保護する。また、疎水性のマトリックス材は、以下でさらに例示されるように、疎水性のCNTsと良好に相互作用して、これにより繊維−マトリックス間の相互作用を向上させる。
【0043】
前述の浸出CNTsを有するセラミック繊維材料には有益な性質が付与されるが、本発明の組成物は「従来の」サイジング剤を更に含むことができる。このようなサイジング剤には、様々な種類及び機能があり、例えば、界面活性剤、静電気防止剤、潤滑剤、シロキサン、アルコキシシラン、アミノシラン、シラン、シラノール、ポリビニルアルコール、でんぷん、及びこれらの混合物が含まれる。このような第2のサイジング剤は、CNTs自体を保護するために、又は浸出CNTsの存在では繊維へ付与することができない更なる性質を提供するために用いられる。
【0044】
本発明の組成物には、CNT浸出セラミック繊維材料を備えた複合材料を形成するためにマトリックス材が更に含まれる。このようなマトリックス材には、例えば、エポキシ、ポリエステル、ビニルエステル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンケトン、ポリフタルアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、フェノールホルムアルデヒド、及びビスマレイミドが含まれる。本発明に有用なマトリックス材には、既知のマトリックス材のいかなるものも含まれる(Mel M.Schwartz, Composite Materials Handbook (2d ed. 1992)参照)。さらに一般的には、マトリックス材には、樹脂(ポリマー)、熱硬化性及び熱可塑性の両プラスチック、金属、セラミック、並びにセメントが含まれる。
【0045】
マトリックス材として有用な熱硬化性樹脂には、フタル酸/マレイン酸型のポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール類、シアン酸塩、ビスマレイミド、及びナディック・エンド・キャップド・ポリイミド(nadic end-capped polyimides)(例えば、PMR−15)が含まれる。熱可塑性樹脂には、ポリスルホン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレン酸化物、ポリ硫化物、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、及び液晶ポリエステルが含まれる。
【0046】
マトリックス材として有用な金属には、例えば、アルミニウム6061、アルミニウム2024、及び713アルミニウム・ブレーズ(aluminium braze)などのアルミニウム合金が含まれる。マトリックス材として有用なセラミックには、リチウムアルミノケイ酸塩、酸化物(例えば、アルミナやムライトなど)、窒化物(例えば、窒化ケイ素など)、及び炭化物(例えば、炭化ケイ素)が含まれる。マトリックス材として有用なセメントには、炭化物ベースのサーメット(炭化タングステン、炭化クロム及び炭化チタン)、耐火セメント(タングステントリア(tungsten-thoria)及び炭酸バリウム−ニッケル(barium-carbonate-nickel))、クロム−アルミナ、並びに、ニッケル−マグネシア 鉄−炭化ジルコニウム(nickel-magnesia iron-zirconium)が含まれる。前述のマトリックス材のいかなるものも、単独で、又は組み合わせて用いることができる。
【0047】
ある実施形態において、本発明は、(a)カーボンナノチューブ形成触媒を巻き取り可能な寸法のセラミック繊維材料の表面に配置すること、及び(b)セラミック繊維材料にカーボンナノチューブを直接合成し、これにより、カーボンナノチューブ浸出セラミック繊維材料を形成することを含む、CNT浸出のための連続プロセスを提供する。ある実施形態において、バリアコーティングは、以下で更に詳述されるように用いられる。
【0048】
長さ9フィートのシステムに関して、プロセスのラインスピードは毎分約1.5フィートから毎分約108フィートに及ぶ。本明細書に記載されるプロセスにより達成されるラインスピードは、商業的に適量のCNT浸出セラミック繊維材料を短い製造時間で形成可能にする。例えば、毎分36フィートのラインスピードでは、独立した5つのロービング(1ロービング当たり20ポンド)を同時に処理するように設計されたシステムにおいて、1日に製造されるCNT浸出セラミック繊維(繊維上に浸出するCNTsが5重量%超)の量は100ポンドを上回る。このシステムは、成長ゾーンを繰り返すことにより、一度に、又はより高速に大量のロービングを製造するように構成されている。また、CNTsの製造工程の中には、当該技術分野で知られているように、連続モードの運転を阻む極低速なものがある。例えば、当該技術分野で知られている標準的なプロセスにおいて、CNT形成触媒の還元工程は実施に1〜12時間かかる。本明細書に記載された処理は、このような律速工程を解消する。
【0049】
CNT浸出セラミック繊維材料を形成する本発明のプロセスは、事前に形成されたカーボンナノチューブの懸濁液を繊維材料に適用しようとする場合に生じるCNTの絡み合い(entanglement)を回避できる。すなわち、事前に形成されたCNTsはセラミック繊維材料に結合しないため、CNTsは束になって絡みやすくなる。その結果、CNTsが、あまり均一でない分布で、セラミック繊維材料に弱く付着する。しかし、本発明のプロセスは、必要に応じて、成長密度を低減することにより、セラミック繊維材料の表面上で高均一に絡み合ったCNTマットを提供できる。このような実施形態において、繊維は垂直配列を生じさせるほどには高密度に成長せず、その結果、セラミック繊維材料の表面上で絡み合ったマットとなる。これとは対照的に、事前に形成されたCNTsを手作業で塗布する場合、セラミック繊維材料上のCNTマットの分布及び密度を確実に均一にすることはできない。
【0050】
図4は、本発明の例示的な実施形態によるCNT浸出セラミック繊維材料を製造するためのプロセス400のフローチャートを図示する。
【0051】
プロセス400は、少なくとも以下の工程が含まれる。
工程402:セラミック繊維材料へCNT形成触媒を適用すること。
工程404:カーボンナノチューブの合成に十分な温度までセラミック繊維材料を加熱すること。
工程406:触媒を含むセラミック繊維上においてCVDを介してCNT成長を促進すること。
【0052】
カーボンナノチューブをセラミック繊維材料に浸出させるために、カーボンナノチューブは、セラミック繊維材料上で直接合成される。これは、例示的な実施形態において、工程402のように、カーボンナノチューブ形成触媒をセラミック繊維上に最初に配置することで達成される。
【0053】
触媒付着の前に、セラミック繊維材料をプラズマで任意に処理して、これにより触媒を受け入れる表面を準備できる。例えば、プラズマで処理されたセラミック繊維材料により、CNT形成触媒が付着する粗面化されたセラミック繊維表面がもたらされる。このように、セラミック繊維材料の表面を「粗面化する(roughing)」ためのプラズマプロセスは触媒の付着を容易にする。粗度は、通常、ナノメートル規模である。プラズマ処理プロセスにおいて、深さ及び直径がナノメートル単位のクレーター(crater)又はくぼみが形成される。このような表面改質は、限定するものではないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、窒素及び水素など、種々異なる1以上のあらゆるガスをプラズマに用いて可能となる。セラミック繊維材料を連続的な方式で処理するために、真空を必要としない「大気(atmospheric)」プラズマが用いられる。プラズマは、2つの電極間に電圧を印加して、2つの電極間のガス種を次々にイオン化することで生じる。プラズマ環境は、イオン化されたガスを基材へ向けて流下させる「下流(downstream)」方式で炭素繊維基材に適用される。セラミック繊維基材を2つの電極間かつプラズマ環境に送り、これにより処理することも可能である。
【0054】
ある実施形態において、セラミック繊維をバリアコーティングの適用前にプラズマで処理することができる。例えば、プラズマで処理されたセラミック繊維材料は、表面エネルギーが高くなり、バリアコーティングのウェットアウト(wet-out)及び被覆率を改善する効果がある。プラズマプロセスは、セラミック繊維表面を粗面化することもでき、前述と同一の方式でバリアコーティングの機械的結合を改善することを可能にする。
【0055】
CNT形成触媒の付着前、又はこれと同時の別の工程として、セラミック繊維材料に対するバリアコーティングの適用がある。このようなコーティングには、例えば、アルコキシシラン、アルモキサン、アルミナナノ粒子、スピンオンセラミック(spin on ceramic)、及びセラミックナノ粒子が含まれる。一実施形態において、このCNT形成触媒は、未硬化のバリアコーティングに加えられ、その後、共にセラミック繊維材料に適用される。他の実施形態において、バリアコーティング材は、CNT形成触媒の付着前にセラミック繊維材料に加えられる。このような実施形態において、バリアコーティングは、触媒の付着前に部分的に硬化してよい。バリアコーティング材は、後続のCNT成長のための炭素原料にCNT形成触媒をさらすことが可能な程度に十分薄い厚さである必要がある。ある実施形態において、その厚さは、CNT形成触媒の有効径未満か、それと略等しい。CNT形成触媒及びバリアコーティングが適切に配置された時点で、バリアコーティングを十分に硬化させることができる。
【0056】
理論に拘束されるものではないが、バリアコーティングは、セラミック繊維材料とCNTsとの間の中間層として機能し、また、セラミック繊維材料にCNTsを機械的に浸出させる機能も果たす。このような機械的な浸出は、セラミック繊維材料がCNTsを組織化するための基盤としてさらに機能する強固なシステムを提供し、そして、バリアコーティングによる機械的な浸出の利点は、本明細書で前述した間接型の結合と同様である。また、バリアコーティングを含むことの利点は、CNT成長を促進するために用いられる温度で水分にさらされることなどが原因となる化学的損傷に対して、セラミック繊維材料を直接保護するという点にある。
【0057】
後述するように、また図4に関連して、触媒は、遷移金属ナノ粒子を含んで構成されるCNT形成触媒を含有する液体溶液として準備される。合成されたナノチューブの直径は、前述のように、金属粒子の大きさに関係する。
【0058】
図4の例示的な実施形態を参照すると、カーボンナノチューブの合成は、化学蒸着(CVD)プロセスに基づいて示され、高温で生じる。具体的な温度は触媒の選択に依存するが、通常は、約500℃〜約1000℃の範囲となる。したがって、工程404には、前述の範囲の温度にセラミック繊維材料を加熱して、これによりカーボンナノチューブの合成を支援することが含まれる。
【0059】
そして、工程406において、触媒を含むセラミック繊維材料上でCVDにより促進されるナノチューブ成長が行われる。CVDプロセスは、例えば、炭素含有原料ガス(アセチレン、エチレン、及び/又はエタノール)により行われる。CNT合成プロセスでは、主要なキャリアガスとして、一般に、不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム)が用いられる。炭素原料は、混合物全体の約0%から約15%の範囲で供給される。CVD成長のための略不活性環境は、成長チャンバーから水分及び酸素を除去して準備される。
【0060】
CNT合成プロセスにおいて、CNTsは、CNT形成遷移金属ナノ粒子触媒の位置で成長する。強プラズマ励起電界の存在を任意に用いて、ナノチューブの成長に影響を与えることができる。すなわち、成長は、電界方向に従う傾向がある。プラズマスプレー及び電界の配置(geometry)を適切に調節することにより、垂直配列の(すなわち、セラミック繊維材料に対して垂直な)CNTsを合成できる。一定の条件下では、プラズマがない場合であっても、密集したナノチューブは成長方向を垂直に維持して、結果として、カーペット又はフォーレストに似た高密度配列のCNTsとなる。
【0061】
セラミック繊維材料上に触媒を配置する工程は、溶液のスプレー若しくは浸漬コーティングにより、又は、例えば、プラズマプロセスを介した気相蒸着により可能である。このように、ある実施形態では、溶媒に触媒を含んだ溶液を形成した後、その溶液でセラミック繊維材料をスプレー若しくは浸漬コーティングすることにより、又はスプレー及び浸漬コーティングの組み合わせにより、触媒が適用される。単独であるいは組み合わせて用いられるいずれか一方の手法は、1回、2回、3回、4回、あるいは何回でも使用され、これにより、CNT形成触媒で十分均一にコーティングされたセラミック繊維材料を提供することができる。例えば、浸漬コーティングが使用される場合、セラミック繊維材料は、第1の浸漬槽において、第1の滞留時間、第1の浸漬槽内に置かれる。第2の浸漬槽を使用する場合、セラミック繊維材料は、第2の滞留時間、第2の浸漬槽内に置かれる。例えば、セラミック繊維材料は、浸漬の形態及びラインスピードに応じて約3秒〜約90秒の間、CNT形成触媒の溶液にさらされる。スプレー又は浸漬コーティングを用いることにより、セラミック繊維材料は、表面被覆率で約5%未満から約80%もの触媒の表面密度を備えて処理され、そこでは、CNT形成触媒ナノ粒子は略単分子層となる。ある実施形態において、セラミック繊維材料にCNT形成触媒をコーティングするプロセスは、単分子層だけを生成する必要がある。例えば、積み重なったCNT形成触媒上におけるCNT成長は、CNTがセラミック繊維材料へ浸出する程度を低下させることがある。他の実施形態において、遷移金属触媒は、蒸着技術、電解析出技術、及び当業者に既知の他のプロセス(例えば、遷移金属触媒を、有機金属、金属塩又は気相輸送を促進する他の組成物として、プラズマ原料ガスへ添加することなど)を用いてセラミック繊維材料上に付着し得る。
【0062】
本発明のプロセスは連続的に設計されるため、一連の槽で巻き取り可能なセラミック繊維材料に浸漬コーティングを施すことが可能である(この場合、浸漬コーティング槽は空間的に分離されている)。発生期のセラミック繊維が新たに生成されている連続プロセスにおいて、CNT形成触媒の浸漬又はスプレーは、新たに形成されたセラミック繊維材料を十分に冷却した後の第1段階となり得る。このように、CNT形成触媒の適用はサイジング剤の適用に代えて行われ得る。他の実施形態において、CNT形成触媒は、他のサイジング剤の存在下で新たに形成されるセラミック繊維に適用される。CNT形成触媒及び他のサイジング剤のこのような同時適用は、セラミック繊維材料と表面接触するCNT形成触媒を供給し、これによりCNTの浸出を確実にすることができる。またさらなる実施形態において、セラミック繊維材料が、例えば、焼きなまし温度近傍又はそれ未満の十分に軟化した状態にある間、CNT形成触媒をスプレー又は浸漬コーティングにより発生期の繊維に適用し、これにより、CNT形成触媒がセラミック繊維の表面に僅かに埋め込まれる。このような高温のセラミック繊維材料上にCNT形成触媒を付着する場合、ナノ粒子が溶融して結果的にCNTの特性(例えば、CNTの直径など)が制御不能とならないように、CNT形成触媒の融点を超えないように配慮する必要がある。
【0063】
使用される触媒溶液は、前述のようなあらゆるdブロック遷移金属である遷移金属ナノ粒子であってよい。また、ナノ粒子には、元素形態又は塩形態のdブロック金属からなる合金や非合金混合物、並びにこれらの混合物が含まれる。このような塩形態には、限定するものではないが、酸化物、炭化物、及び窒化物が含まれる。限定しない例示的な遷移金属NPsには、Ni、Fe、Co、Mo、Cu、Pt、Au及びAgとこれらの塩、並びに、これらの混合物が含まれる。ある実施形態において、このようなCNT形成触媒は、CNT形成触媒をセラミック繊維材料に直接適用あるいは直接浸出させることにより、セラミック繊維材料上に配置される。これらの遷移金属触媒の多くは、例えば、Ferrotec Corporation(Beford, NH)などの様々なサプライヤーから市販されており容易に入手できる。
【0064】
セラミック繊維材料にCNT形成触媒を適用するために用いられる触媒溶液は、CNT形成触媒を全域にわたって均一に分散可能にするいかなる共通溶媒でもよい。このような溶媒には、限定するものではないが、水、アセトン、ヘキサン、イソプロピルアルコール、トルエン、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサン、又はCNT形成触媒ナノ粒子の適切な分散系を形成するために極性が制御された他のいかなる溶媒も含まれる。CNT形成触媒の濃度は、触媒対溶媒で、およそ1:1から1:10000の範囲内である。
【0065】
ある実施形態において、セラミック繊維材料にCNT形成触媒を適用した後、セラミック繊維材料は軟化温度まで任意に加熱される。これは、セラミック繊維材料の表面にCNT形成触媒を埋め込むのに役立ち、そして、触媒を「浮上」させることなく種結晶成長を促進することができる。ある実施形態において、セラミック繊維材料上に触媒を配置した後、セラミック繊維材料は約500℃から約1000℃の温度に加熱される。CNT成長のために用いられるこのような温度への加熱は、セラミック繊維材料上における既存のあらゆるサイジング剤を除去する役割を果たし、既存のサイジング剤を事前に除去することなく、CNT形成触媒の付着を可能にする。このような実施形態において、CNT形成触媒は、加熱前にサイジング剤のコーティング表面にあってもよいが、サイジング剤の除去後は、セラミック繊維材料と表面接触する。この温度での加熱は、CNT成長のための炭素原料の導入前に、又はこれと略同時に行われる。
【0066】
ある実施形態において、本発明は、セラミック繊維材料からサイジング剤を除去すること、サイジング剤除去後にCNT形成触媒をセラミック繊維材料に適用すること、セラミック繊維材料を少なくとも500℃まで加熱すること、及び、前記セラミック繊維材料上にカーボンナノチューブを合成することを含むプロセスを提供する。ある実施形態において、CNT浸出プロセスの工程には、セラミック繊維材料からサイジング剤を除去すること、セラミック繊維材料に対してCNT形成触媒を適用すること、CNTの合成温度まで繊維を加熱すること、及び、触媒を含むセラミック繊維材料上へ炭素プラズマをスプレーすること、が含まれる。したがって、工業用のセラミック繊維材料が使用される場合、CNT浸出セラミック繊維を構成するためのプロセスには、セラミック繊維材料上に触媒を配置する前に、セラミック繊維材料からサイジング剤を除去する個別の工程が含まれる。工業用サイジング剤の存否にもよるが、サイジング剤を除去しない場合には、CNT形成触媒はセラミック繊維材料と表面接触していなくてもよく、これによりCNTの溶融が防止される。ある実施形態において、CNTの合成条件下でサイジング剤を確実に除去する場合、サイジング剤の除去は、触媒付着後であって炭素原料の供給直前に行われる。
【0067】
カーボンナノチューブの合成工程には、参照により本明細書に組み込まれる同時係属の米国特許出願第2004/0245088号に開示されているものなど、カーボンナノチューブを形成するための多くの手法が含まれる。本発明の繊維上で成長するCNTsは、限定するものではないが、マイクロキャビティ(micro-cavity)、熱又はプラズマ助長CVD法、レーザー・アブレーション、アーク放電、高圧一酸化炭素(HiPCO)などの、当該技術分野において既知の手法により得られる。CVDの間は特に、サイジングされたセラミック繊維材料が、その上に配置されたCNT形成触媒を伴って、直接用いられる。ある実施形態において、従来のいかなるサイジング剤もCNT合成中に除去可能である。他の実施形態において、他のサイジング剤は除去されないが、炭素原料がサイジング剤を介して拡散するために、セラミック繊維材料に対するCNTの合成及び浸出を阻害しない。ある実施形態において、アセチレンガスはイオン化されて、CNT合成のための低温炭素プラズマジェットを生じる。このプラズマは触媒を担持するセラミック繊維材料に向けられる。このように、ある実施形態において、セラミック繊維材料上におけるCNTsの合成には、(a)炭素プラズマを形成すること、及び(b)セラミック繊維材料上に配置された前記触媒に炭素プラズマを向けること、が含まれる。成長するCNTsの直径は、前述のように、CNT形成触媒のサイズにより決定される。ある実施形態において、サイジングされた繊維基材は約550℃〜約800℃に加熱され、これによりCNTの合成を容易にする。CNTsの成長を開始するために、プロセスガス(例えば、アルゴン、ヘリウム又は窒素)及び炭素含有ガス(例えば、アセチレン、エチレン、エタノール又はメタン)の2つのガスが反応器(reactor)に流される。CNTsはCNT形成触媒の位置で成長する。
【0068】
ある実施形態において、CVD成長はプラズマで助長される。プラズマは、成長プロセス中に電界を与えることにより生成される。この条件下で成長するカーボンナノチューブは電界方向に従う。したがって、反応器の配置を調節することにより、垂直に配列されるカーボンナノチューブを、円筒状の繊維の周囲から放射状に成長させることができる。ある実施形態において、繊維の周囲から放射状に成長させるために、プラズマは必要とされない。明確な面を有する繊維材料(例えば、テープ、マット、織物、パイルなど)に関して、触媒は、繊維材料の一面又は両面に配置可能であり、これに対応して、CNTsもまた、繊維材料の一面又は両面で成長する。
【0069】
前述のように、CNT合成は、巻き取り可能なセラミック繊維材料を機能化するための連続プロセスを提供するのに十分な速度で行われる。以下に例示されるように、このような連続的な合成は、多くの装置構成により容易となる。
【0070】
ある実施形態において、CNT浸出セラミック繊維材料は、「オール・プラズマ(all plasma)」プロセスで構成される。このような実施形態において、セラミック繊維材料は、多くのプラズマ介在工程を通って、最終的なCNT浸出製品を形成する。プラズマプロセスの第1には、繊維表面の改質工程が含まれる。これは、前述のように、セラミック繊維材料の表面を「粗面化」し、これにより、触媒の配置を容易にする、あるいは、バリアコーティング適用のための湿潤(wetting)を容易にするプラズマプロセスである。バリアコーティングの適用前に用いられた場合、バリアコーティングの施された繊維も触媒配置のために粗面化されてよい。ある実施形態において、これはバリアコーティングの硬化後に行われる。前述のように、表面改質は、限定するものではないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、アンモニア、水素及び窒素などの種々異なる1以上のガスからなるプラズマを用いて実現できる。
【0071】
表面改質後、セラミック繊維材料にはさらに触媒の適用がなされる。これは、繊維上にCNT形成触媒を付着するためのプラズマプロセスである。CNT形成触媒は、前述のように、通常、遷移金属である。遷移金属触媒は、例えば、磁性流体、有機金属、金属塩、又は気相輸送の促進に適した他のあらゆる組成物という形態の前駆体としてプラズマ原料ガスに添加され得る。触媒は、真空及び不活性雰囲気のいずれも必要とはせず、周囲環境の室温で適用可能である。ある実施形態において、セラミック繊維材料は触媒の適用前に冷却される。
【0072】
オール・プラズマプロセスを継続すると、カーボンナノチューブの合成がCNT成長反応器で起こる。これは、炭素プラズマが触媒を含む繊維にスプレーされるプラズマ助長化学蒸着を用いて実現される。カーボンナノチューブの成長は高温(触媒にもよるが、通常は約500℃〜約1000℃の範囲)で起こるので、触媒を含む繊維は炭素プラズマにさらされる前に加熱される。浸出プロセスのために、セラミック繊維材料は軟化が始まるまで任意に加熱されてもよい。加熱後、セラミック繊維材料は炭素プラズマを受ける状態になっている。炭素プラズマは、例えば、炭素を含有するガス(例えば、アセチレン、エチレン、エタノールなど)を、ガスのイオン化が可能な電界中に通すことにより生成される。この低温炭素プラズマは、スプレーノズルによりセラミック繊維材料に向けられる。セラミック繊維材料は、プラズマを受けるために、例えば、スプレーノズルから約1センチメートル以内など、スプレーノズルにごく近接してよい。ある実施形態において、加熱器は、セラミック繊維材料の上側のプラズマスプレーに配置され、これによりセラミック繊維材料を高温に維持する。
【0073】
連続的なカーボンナノチューブ合成の別の構成には、カーボンナノチューブをセラミック繊維材料上に直接合成・成長させるための専用の矩形反応器が含まれる。その反応器は、カーボンナノチューブを担持する繊維を製造するための連続的なインラインプロセス用に設計され得る。ある実施形態において、CNTsは、化学蒸着(「CVD」)プロセスにより、大気圧、かつ、約550℃から約800℃の範囲の高温で、マルチゾーン反応器(multi-zone reactor)内で成長する。合成が大気圧で起こるということは、繊維にCNTを合成するための連続処理ラインに反応器を組み込むことを容易にする一因である。このようなゾーン反応器を用いた連続的なインライン処理に合致する別の利点は、CNT成長が数秒単位で発生するということであり、当該技術分野で標準的な他の手法及び装置構成における数分単位(又はもっと長い)とは対照的である。
【0074】
様々な実施形態によるCNT合成反応器には、以下の特徴が含まれる。
【0075】
(矩形に構成された合成反応器)
当該技術分野で既知の標準的なCNT合成反応器は横断面が円形である。この理由には、例えば、歴史的理由(研究所では円筒状の反応器がよく用いられる)及び利便性(流体力学は円筒状の反応器にモデル化すると容易になり、また、加熱器システムは円管チューブ(石英など)に容易に対応する)、並びに製造の容易性などの多くの理由がある。本発明は、従来の円筒形状を変えて、矩形横断面を有するCNT合成反応器を提供する。変更の理由は以下の通りである。1)反応器により処理可能な多くのセラミック繊維材料は相対的に平面的(例えば、形状が薄いテープやシート状など)であるので、円形横断面では反応器の体積を効率的に使用していない。この非効率な使用は、円筒状のCNT合成反応器にとって、例えば、以下のa)ないしc)に挙げるような、いくつかの欠点となる。a)十分なシステムパージの維持;反応器の体積が増大すれば、同レベルのガスパージを維持するためにガス流量の増大が必要になる。これは、開放環境におけるカーボンナノチューブの大量生産には非効率なシステムとなる。b)炭素原料ガス流量の増大;前記a)のように、不活性ガス流量を相対的に増大させると、炭素含有原料ガス流量を増大させる必要がある。12Kのセラミック繊維ロービングの体積が、矩形横断面を有する合成反応器の全体積に対して2000分の1であることを考慮されたい。同等の円筒状成長反応器(すなわち、矩形横断面の反応器と同じ平坦化されたセラミック繊維材料を収容できるだけの幅を有する円筒状の反応器)では、セラミック繊維材料の体積は、チャンバーの体積の17,500分の1である。例えば、CVDなどのガス蒸着プロセス(gas deposition processes)は、通常、圧力及び温度だけで制御されるが、体積は蒸着の効率に顕著な影響を与え得る。矩形反応器の場合、それでもなお過剰な体積が存在し、この過剰体積は無用の反応を促進するが、円筒状反応器はその体積が約8倍もある。このように競合する反応が発生する機会が増加するため、所望の反応が有効に生じるには、円筒状反応器チャンバーでは一層遅くなってしまう。このようなCNT成長の速度低下は連続プロセスの進行にとって問題となる。矩形反応器構成の別の利点は、矩形反応器チャンバーの高さが低いことを利用して反応器の体積を低減し、これにより体積比が改善され反応が更に効率的になるという点である。本発明のある実施形態において、矩形合成反応器の全体積は、合成反応器を通過中のセラミック繊維材料の全体積に対して僅か約3000倍にしかすぎない。更なる実施形態の中には、矩形合成反応器の全体積が、合成反応器を通過中のセラミック繊維材料の全体積に対して僅か約4000倍にしかすぎないものもある。また更なる実施形態の中には、矩形合成反応器の全体積が、合成反応器を通過中のセラミック繊維材料の全体積に対して約10,000倍未満のものがある。加えて、円筒状反応器を使用した場合、矩形横断面を有する反応器と比較すると、同じ流量比を提供するためには、より大量の炭素原料ガスが必要である点に注目されたい。当然のことながら、他の実施形態の中には、矩形ではないが比較的類似し、かつ、円形横断面を有する反応器に対して反応器体積を同様に低減する多角形状で表される横断面を有する合成反応器もある。c)問題のある温度分布;相対的に小径の反応器を用いた場合、チャンバー中心からその壁面までの温度勾配はごく僅かである。しかし、例えば、工業規模の製造に用いられるなど、サイズの増大に伴い、温度勾配は増加する。このような温度勾配は、セラミック繊維材料基材の全域で製品品質がばらつく(すなわち、製品品質が半径位置に応じて変化する)原因となる。この問題は、矩形横断面を有する反応器を用いた場合に殆ど回避される。特に、平面的な基材が用いられる場合、基材のサイズが大きくなったときに、反応器の高さを一定に維持することができる。反応器の頂部と底部との間の温度勾配は基本的にごく僅かであり、結果的に、生じる熱的な問題や製品品質のばらつきは回避される。2)ガス導入:当該技術分野では、通常、管状炉が使用されているので、一般的なCNT合成反応器は、ガスを一端に導入し、それを反応器に通して他端から引き出している。本明細書に開示される実施形態の中には、ガスが、反応器の両側板、又は反応器の頂板及び底板のいずれかを通して対称的に、反応器の中心又は対象とする成長ゾーン内に導入されるものがある。これにより、流入する原料ガスがシステムの最も高温な場所(CNTの成長が最も活発な場所)に連続的に供給されるので、全体的なCNT成長速度が向上する。このような一定のガス供給は、矩形のCNT反応器により示される成長速度の向上にとって重要な側面である。
【0076】
(ゾーン分け)
比較的低温のパージゾーンを提供するチャンバーが矩形合成反応器の両端に従属する。出願人は、仮に高温ガスが外部環境(すなわち、反応器の外部)と接触(mix)すると、繊維材料の劣化(degradation)が増加することを究明している。低温パージゾーンは、内部システムと外部環境間の緩衝を提供する。当該技術分野で既知の標準的なCNT合成反応器の構成では、通常、基材を慎重に(かつ緩やかに)冷却することが求められる。本願の矩形CNT成長反応器の出口における低温パージゾーンは、連続的なインライン処理に必要とされるような短時間の冷却を実現する。
【0077】
(非接触、ホットウォール型、金属製反応器)
ある実施形態において、ホットウォール型(hot-walled)反応器は金属製であり、特にステンレス鋼が用いられる。金属、特にステンレス鋼は炭素の付着(すなわち、すす及び副生成物の形成)を受けやすいために、これは常識に反するように考えられるかもしれない。したがって、大部分のCNT反応器の構成には、付着する炭素が殆どなく、また、石英が洗浄しやすく試料の観察を容易にするため、石英反応器を使用する。しかしながら、出願人は、ステンレス鋼上におけるすす及び炭素付着物が増加することにより、より着実、より効率的、より高速、かつ、より安定的にCNTが成長すること、を見出した。理論に拘束されるものではないが、反応器内で起こるCVDプロセスでは、大気圧運転(atmospheric operation)と連動して拡散が制限されることが示されている。すなわち、触媒に「過度に供給される(overfed)」、つまり、過量の炭素が、(反応器が不完全真空下で運転している場合よりも)その相対的に高い分圧に起因して反応器システム内で得られる。結果として、開放システム(特に清浄な(clean)もの)では、過量の炭素が触媒粒子に付着して、CNTsの合成能力を低下させる。ある実施形態において、矩形反応器に「汚れが付いて(dirty)」いる、すなわち、金属製反応器壁にすすが付着している状態の場合に、矩形反応器を意図的に運転する。炭素が反応器壁上の単分子層に付着すると、炭素は、それ自体を覆って付着しやすくなる。得られる炭素の中には、この機構により「回収される(withdrawn)」ものがあるので、ラジカルの形で残っている炭素原料が、触媒を被毒させない速度でこの触媒と反応する。既存のシステムでは「清浄に(cleanly)」運転するが、連続処理のために開放状態であれば、減速した成長速度で、はるかに低い収率でしかCNTsを生成できない。
【0078】
CNTの合成を、前述のように「汚れが付いて」いる状態で実施するのは概して有益であるが、それでも、装置のある部分(例えば、ガスマニフォールド及びガス入口)は、すすが閉塞状態を引き起こした場合、CNTの成長プロセスに悪影響を与える。この問題に対処するために、CNT成長反応器チャンバーの当該部分を、例えば、シリカ、アルミナ又はMgOなどのすす抑制コーティングで保護してもよい。実際には、装置のこれらの部分は、すす抑制コーティングで浸漬コーティングが施される。INVAR(商標名)は高温におけるコーティングの適切な接着性を確実にする同様のCTE(熱膨張係数)を有し、重要なゾーンにおけるすすの著しい堆積を防止するので、INVAR(商標名)などの金属が、これらのコーティングに用いられる。
【0079】
(触媒還元及びCNT合成の組み合わせ)
本明細書に開示されるCNT合成反応器において、触媒還元及びCNT成長のいずれもが反応器内で起こる。還元工程が個別の工程として実施されると、連続プロセスに用いるものとして十分タイムリーに行えなくなるため、このことは重要である。当該技術分野において既知の標準的なプロセスにおいて、還元工程の実施には、通常1〜12時間かかる。本発明によれば、両工程は1つの反応器内で生じるが、これは、少なくとも1つには、炭素原料ガスを導入するのが、円筒状反応器を用いる当該技術分野では標準的となっている反応器の端部ではなく、中心部であることに起因する。還元プロセスは、繊維が加熱ゾーンに入ったときに行われる。この時点までに、ガスには、触媒と反応して酸化還元反応(水素ラジカルの相互作用を介する)を起こす前に反応壁と反応して冷える時間があるということである。還元が起こるのは、この移行領域である。システム内で最も高温の等温ゾーンでCNT成長は起こり、反応器の中心近傍におけるガス入口の近位で最速の成長速度が生じる。
【0080】
ある実施形態において、緩くまとまった(loosely affiliated)繊維材料、例えば、セラミックロービングなどが使用される場合、連続プロセスには、ロービングのストランド(strand)又はフィラメントを広げる工程が含まれる。このように、ロービングは、アンスプールされる(unspooled)ときに、例えば、真空ベースの開繊システム(vacuum-based fiber spreading system)を用いて開繊される(spread)。サイジングされて比較的堅いセラミック繊維を使用する場合、ロービングを「軟化」して繊維の開繊を容易にするために、更なる加熱を用いることができる。個々のフィラメントを含んで構成される開繊繊維(spread fibers)は、フィラメントの全表面積をさらせるよう十分分離して開繊され、こうして後続の処理工程でロービングがより効率的に反応できるようにする。例えば、開繊セラミックロービングは、前述のようにプラズマシステムで構成される表面処理工程を経る。バリアコーティングが適用された後、粗面化され開繊された繊維はCNT形成触媒の浸漬槽を通過する。その結果、表面で放射状に分布した触媒粒子を有するセラミックロービングの繊維となる。触媒を含むロービング繊維は、その後、例えば、前述の矩形チャンバーなどの適切なCNT成長チャンバーに入るが、ここでは、大気圧CVD又はプラズマ助長CVDプロセスを介したフローを用いて、これにより毎秒数ミクロンの速度でCNTsを合成する。ロービングの繊維は、こうして放射状に配列されたCNTsを備えて、CNT成長反応器を出る。
【0081】
ある実施形態において、CNT浸出セラミック繊維材料は更に別の処理プロセスを経ることもできるが、それは、ある実施形態においては、CNTsを官能基化するために用いられるプラズマプロセスである。CNTsの更なる官能基化は、特定の樹脂への接着力を増進させるために用いられる。このように、ある実施形態において、本発明は、官能基化されたCNTsを有するCNT浸出セラミック繊維材料を提供する。
【0082】
巻き取り可能なセラミック繊維材料の連続処理の一部として、CNT浸出セラミック繊維材料がサイジング剤の浸漬槽を更に通過して、これにより最終製品に有益となり得るサイジング剤を更に適用することができる。最終的に湿潤ワインディング(wet winding)が求められる場合、CNT浸出セラミック繊維材料は、樹脂槽を経てマンドレル又はスプールに巻かれてもよい。その結果得られるセラミック繊維材料/樹脂の組み合わせは、CNTsをセラミック繊維材料上に固着し、これにより、取り扱い、及び複合材料の製造をよりたやすくする。ある実施形態において、CNT浸出は、改善されたフィラメント・ワインディング(filament winding)を提供するために用いられる。このように、例えば、セラミックロービングなどのセラミック繊維上に形成されるCNTsは樹脂槽を経て、これにより樹脂含浸処理されたCNT浸出セラミックロービングが製造される。樹脂含浸後、セラミックロービングは、デリバリー・ヘッド(delivery head)により、回転するマンドレルの表面上に位置を合わされる。そして、ロービングは、既知の方法による正確な幾何学的パターンでマンドレルに巻かれる。
【0083】
前述のワインディングプロセス(winding process)により、パイプ、チューブ、又は雄型を介して特徴的に製造される他の形態がもたらされる。しかし、本明細書に開示されるワインディングプロセスから作られる形態は、従来のフィラメント・ワインディングプロセスを介して製造されるものとは異なる。具体的には、本明細書に開示されるプロセスにおいて、その形態は、CNT浸出ロービングを含む複合材料から作られる。このため、このような形態にとって、CNT浸出ロービングによりもたらされる強度の向上などは有益となるであろう。以下の実施例3は、前述のプロセスを用いて毎分5フィートのラインスピードで巻き取り可能なCNT浸出セラミックロービングを製造するプロセスを説明している。
【0084】
ある実施形態において、巻き取り可能なガラス繊維材料上にCNTsを浸出させるための連続プロセスは、毎分約0.5フィート〜毎分約36フィートのラインスピードを達成できる。この実施形態において、システムが長さ3フィートであり750℃の成長温度で稼働する場合、例えば、長さが約1ミクロン〜約10ミクロンのCNTsを生成するために、毎分約6フィート〜毎分約36フィートのラインスピードでプロセスが行われる。また、例えば、長さが約10ミクロン〜約100ミクロンのCNTsを生成するために、毎分約1フィート〜毎分約6フィートのラインスピードでプロセスが行われる。例えば、長さが約100ミクロン〜約200ミクロンのCNTsを生成するためには、毎分約0.5フィート〜毎分約1フィートのラインスピードでプロセスが行われる。CNTの長さは、ラインスピード及び成長温度のみに関係しているだけでなく、炭素原料ガス及び不活性ガスのいずれの流量もまたCNTの長さに影響を与える。ある実施形態において、複数のセラミック材料は同時にプロセスに通される。例えば、複数のテープ、ロービング、フィラメント、ストランドなどが並行してプロセスに通される。こうして、セラミック繊維材料の既製スプールはいくつでも並行にプロセスに通され、プロセスの終わりに再度巻き取られる。並行に通されて巻き取られるセラミック繊維材料の数には、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、又は、最大でCNT成長反応器チャンバーの幅に収まるいかなる数も含まれる。さらに、複数のセラミック繊維材料がプロセスに通される場合、回収スプール数は、プロセス開始時のスプール数よりも少なくなり得る。このような実施形態において、セラミックストランド、セラミックロービングなどは、このようなセラミック繊維材料を高規則のセラミック繊維材料(例えば、織物など)に結合する更なる処理を経て送り出される。また、連続プロセスには、例えば、CNT浸出短繊維マットの形成を容易にする後処理チョッパー(post processing chopper)を組み込みこむこともできる。
【0085】
ある実施形態において、本発明のプロセスにより、セラミック繊維材料上に第1の量の第1種カーボンナノチューブを合成することが可能となるが、この場合、第1種カーボンナノチューブは、セラミック繊維材料の少なくとも1つの性質(第1性質)を変化させるために選択される。次に、本発明のプロセスにより、セラミック繊維材料上において、第2の量の第2種カーボンナノチューブを合成することが可能となるが、この場合、第2種カーボンナノチューブは、炭素繊維材料の少なくとも1つの性質(第2性質)を変化させるために選択される。
【0086】
ある実施形態において、CNTsの第1の量及び第2の量は異なる。この場合、CNTの種類の変化を伴うこともあり、伴わないこともある。このように、CNTの種類がたとえ変化しないままであっても、CNTsの密度を変化させて用いることにより、元のセラミック繊維材料の性質を変化させることができる。CNTの種類には、例えば、CNTの長さ及び層数が含まれる。ある実施形態において、第1の量及び第2の量は同一である。この場合に、巻き取り可能な材料の2つの異なる区間(stretch)に沿って異なる性質が好ましいのであれば、例えば、CNTの長さなど、CNTの種類を変化させることができる。例えば、CNTsの長さが長くなるほど電気的/熱的な用途に有用となるのに対し、CNTsの長さが短くなるほど機械的強化の用途に有用となる。
【0087】
セラミック繊維材料の性質の変化に関する前述の考察を踏まえると、第1種カーボンナノチューブ及び第2種カーボンナノチューブが、ある実施形態においては同一であるのに対し、第1種カーボンナノチューブ及び第2種カーボンナノチューブは、他の実施形態においては異なるということもあり得る。同様に、第1性質及び第2性質が、ある実施形態では同一となり得る。例えば、EMI遮蔽性は、第1の量の第1種CNTsと、第2の量の第2種CNTsとで対処される重要な性質であるが、この性質の変化の程度は、異なる量、及び/又は、異なる種類のCNTsが使用されたことを反映して、異なることもあり得る。最後に、ある実施形態において、第1性質及び第2性質が異なることもある。これもCNTの種類における変化を反映する。例えば、第1性質が、短いCNTsによる機械的強度である一方、第2性質が、長いCNTsによる電気的/熱的性質である。当業者であれば、異なるCNT密度、異なるCNT長さ、及び異なるCNTsの層数(例えば、単層、2層及び多層など)を利用することで、セラミック繊維材料の性質を調整できることを認識するであろう。
【0088】
ある実施形態において、本発明のプロセスにより、セラミック繊維材料上に第1の量のカーボンナノチューブが合成され、これにより、この第1の量により、カーボンナノチューブ浸出セラミック繊維材料は、セラミック繊維材料自体が示す第1群の性質とは異なる第2群の性質を示すことが可能となる。すなわち、セラミック繊維材料の1以上の性質(例えば、引張強度など)を変化させることができる量を選択することである。第1群の性質及び第2群の性質には少なくとも同一の性質が含まれ、したがって、これは、セラミック繊維材料の既存の性質を強化することを意味するものである。ある実施形態において、CNTの浸出により、前記セラミック繊維材料自体が示す第1群の性質の中には含まれない第2群の性質がカーボンナノチューブ浸出炭素繊維に与えられる。
【0089】
ある実施形態において、カーボンナノチューブの第1の量は、カーボンナノチューブ浸出炭素繊維材料の引張強度、ヤング率、せん断強度、剛性率、靭性、圧縮強度、圧縮係数、密度、EM波吸収率/反射率、音響透過率、電気伝導度、及び熱伝導度からなる群より選択される少なくとも1つの性質の値が、炭素繊維材料自体の同じ性質の値と異なるように選択される。
【0090】
引張強度には、3つの異なる測定値、すなわち、1)材料のひずみが弾性変形から塑性変形(材料の不可逆的な変形が生じる)に変化する応力を評価する降伏強度、2)引張荷重、圧縮荷重又はせん断荷重を受けたとき、材料が耐え得る最大応力を評価する終局強度、及び3)破断点における応力−ひずみ線図上での応力の座標を評価する破壊強度、が含まれる。
【0091】
複合材料のせん断強度は、繊維方向に対して垂直に荷重がかけられた場合に材料が破壊する応力を評価する。圧縮強度は、圧縮荷重がかけられた場合に材料が破壊する応力を評価する。
【0092】
多層カーボン・ナノチューブは、特に、63GPaの引張強度を達成しており、今までに測定された材料の中で最も高い引張強度を有する。さらに、理論計算によれば、CNTsには約300GPaの潜在的な引張強度があることが示されている。したがって、CNT浸出セラミック繊維材料は、元となるセラミック繊維材料と比較して大幅に上回る終局強度を有することが見込まれる。前述のように、引張強度の向上は、用いられるCNTsの正確な性質に加え、セラミック繊維材料上におけるCNTsの密度及び分布によって決まる。CNT浸出セラミック繊維材料では、例えば、引張特性において2倍となることが示されている。例示的なCNT浸出セラミック繊維材料は、機能化されていない元となるセラミック繊維材料の3倍ものせん断強度と、2.5倍もの圧縮強度を有する。
【0093】
ヤング率は等方性弾性材料の剛性の1つの尺度である。それは、フックの法則が有効な応力範囲において、1軸ひずみに対する1軸応力の比率として定義される。これは、実験的に、材料サンプルについて行われる引張試験中に形成される応力−ひずみ線図の傾きから決定される。
【0094】
電気伝導性又は特定の伝導性は、電流を伝導する材料の性能についての1つの尺度である。CNTのキラリティに関連する特定の構造的なパラメータ(例えば、捩じりの程度など)を有するCNTsは、伝導性が高く、したがって金属の性質を示す。CNTのキラリティに関して、広く認められている命名方式(M.S.Dresselhaus, et al. Science of Fullerenes and Carbon Nanotubes, Academic Press, San Diego, CA pp.756-760,(1996))は、当業者により形式化され承認されている。このように、例えば、CNTsは、互いに、2つの指数(n,m)で識別される(ここで、nとmは、六方晶系のグラファイトが円筒表面上で巻かれて端部同士を接合した場合にチューブとなるように、六方晶系のグラファイトの切断部及び巻き方を表す整数である)。2つの指数が同じである場合(m=n)、得られるチューブは、「アームチェア」(又はn−n)型であるといわれるが、これは、チューブがCNT軸に対して垂直に切断されたときに、六角形の辺のみが露出し、そのチューブ端部の周縁のパターンが、n回繰り返されるアームチェアのアームと座部に似ているからである。アームチェアCNTs、特にSWNTsは、金属的であり、非常に高い電気的及び熱的伝導性を有している。さらに、このようなSWNTsは非常に高い引張強度を有している。
【0095】
捩じりの程度に加えて、CNTの直径もまた電気的伝導性に影響を与える。前述のように、CNTの直径は、サイズ制御されたCNT形成触媒ナノ粒子の使用により制御可能である。また、CNTsは、半導体材料としても形成される。多層CNTs(MWNTs)における伝導性はより複雑である。MWNTs内の層間反応は、個々のチューブ一面に、電流を不均一に再分布させる。対照的に、金属的な単層ナノチューブ(SWNTs)の様々な部位にわたって電流の変化はない。また、カーボンナノチューブは、ダイヤモンド結晶及び面内の(in-plane)グラファイトシートと比較して、非常に高い熱伝導性を有する。
【0096】
CNT浸出セラミック繊維材料は、CNTsの存在により前述の性質の点で利益を得るだけでなく、本プロセスでより軽量な材料も提供できる。このように低密度かつ高強度の材料は、換言すれば、強度重量比がより高いということができる。当然のことながら、本発明の様々な実施形態の作用に実質的に影響を与えない変更も、本明細書で提供される本発明の定義内に含まれる。したがって、以下の実施例は、本発明を例示するものであって限定するものではない。
【実施例1】
【0097】
本実施例は、連続プロセスでセラミック繊維材料にCNTsを浸出させて、これにより熱的及び電気的伝導性の向上を図る方法を示す。
【0098】
本実施例では、繊維上におけるCNTsの担持量を最大にすることが目的となる。テックス値167のネクステル(登録商標)720繊維ロービング(3M社、ミネソタ州セントポール)をセラミック繊維基材として実施する。このセラミック繊維ロービングにおける個々のフィラメントは、およそ10〜12μmの直径を有する。
【0099】
図5は、本発明の例示的な実施形態によるCNT浸出繊維を製造するためのシステム500を表す。システム500には、セラミック繊維材料の繰り出し及びテンショナー(tensioner)ステーション505、サイジング剤除去及び繊維開繊ステーション510、プラズマ処理ステーション515、バリアコーティング適用ステーション520、空気乾燥ステーション525、触媒適用ステーション530、溶媒フラッシュオフ(flash-off)ステーション535、CNT浸出ステーション540、繊維バンドラー(bundler)ステーション545、及びセラミック繊維材料巻き取りボビン550が、図示のように相互に関連して含まれる。
【0100】
繰り出し及びテンショナーステーション505には、繰り出しボビン506及びテンショナー507が含まれる。繰り出しボビンは、セラミック繊維材料560をプロセスに供給し、繊維には、テンショナー507により張力がかけられる。本実施例に関して、セラミック繊維は毎分2フィートのラインスピードで処理される。
【0101】
繊維材料560は、サイジング剤除去加熱器565及び繊維開繊器570を含むサイジング剤除去及び繊維開繊ステーション510に供給される。このステーションで、繊維560上のいかなる「サイジング剤」も除去される。通常、繊維のうちサイジング剤を燃焼させて除去がなされる。この目的のために、例えば、赤外線ヒーター、マッフル炉、及び他の非接触加熱プロセスなど、様々な加熱手段のあらゆるものが用いられる。また、サイジング剤の除去は、化学的に達成することもできる。繊維開繊器は個々の繊維要素を分離する。繊維の開繊には、例えば、水平な均一直径のバー(flat, uniform-diameter bars)の上下で、あるいは、直径可変のバーの上下で、あるいは、放射状に広がる溝及び混練(kneading)ローラーを備えたバーの上、振動を生じるバーの上などで、繊維を引き出すといった、様々な技術及び装置を用いることができる。繊維の開繊は、より多くの繊維表面積をさらすことにより、例えば、プラズマの適用、バリアコーティングの適用、触媒の適用など、下流工程の効果を高める。
【0102】
多数のサイジング剤除去過熱器565が、繊維開繊器570全体に配置され、これにより、サイジング剤除去及び繊維の開繊を同時に、徐々に行うことを可能にする。繰り出し及びテンショナーステーション505、並びに、サイジング剤除去及び繊維開繊ステーション510は、繊維産業で一般的に使用されており、当業者であれば、それらの設計及び使用に熟知しているであろう。
【0103】
サイジング剤を燃焼させるために必要な温度及び時間は、(1)サイジング材料、及び(2)セラミック繊維材料560の商業的供給源/特性に応じて変化する。セラミック繊維材料における従来のサイジング剤は、約650℃で除去可能である。この温度で、サイジング剤の完全燃焼を確実にするため15分間を要する。温度をこの燃焼温度以上に上げることで、燃焼時間を短縮することができる。特定の工業製品のサイジング剤を燃焼させるための最低温度は、熱重量分析を用いて決定される。
【0104】
サイジング剤除去に必要なタイミングによっては、サイジング剤除去の加熱器を、必ずしも、CNT浸出に固有のプロセスに含めなくてもよく、むしろ、除去は独立して(例えば、並行して)行われる。この方法において、サイジング剤のないセラミック繊維材料製品が、サイジング剤除去の加熱器を含まないCNT浸出繊維製造ラインで使用するために集積されて巻き取られている。サイジング剤のない繊維は、その後、繰り出し及びテンショナーステーション505で巻き取られる。この製造ラインは、サイジング剤除去を含むラインよりも高速に運転可能である。
【0105】
サイジングされていない繊維580は、プラズマ処理ステーション515へ供給される。本実施例に関して、大気プラズマ処理が、開繊したセラミック繊維材料より1mmの距離から「下流」方式で利用される。ガス原料はヘリウム100%で構成される。
【0106】
プラズマで強化された繊維585は、バリアコーティングステーション520へ供給される。例示的な本実施例において、シロキサンベースのバリアコーティング溶液が、浸漬コーティングの構成に用いられる。その溶液は、体積で40倍の希釈率により「Accuglass(登録商標)T−11スピンオンガラス」(Honeywell International Inc., Morristown, NJ)をイソプロピルアルコールで希釈したものである。セラミック繊維材料上において得られるバリアコーティングの厚さは約40nmである。バリアコーティングは周囲環境の室温で適用される。
【0107】
バリアコーティングが施されたセラミック繊維590は、ナノスケールのバリアコーティングを部分的に硬化させるために、空気乾燥ステーション525に供給される。空気乾燥ステーションは、開繊したセラミック繊維全体に加熱した空気流を送る。用いられる温度は約100℃〜約500℃の範囲である。
【0108】
空気乾燥後、バリアコーティングが施されたセラミック繊維590は、触媒適用ステーション530に供給される。本実施例において、酸化鉄ベースのCNT形成触媒溶液が、浸漬コーティングの構成に用いられる。その溶液は、体積で200倍の希釈率により「EFH−1」(Ferrotec Corporation, Bedford, NH)をヘキサンで希釈したものである。セラミック繊維材料上には、触媒コーティングの単分子層が得られる。希釈する前の「EFH−1」は、3〜15体積%の範囲のナノ粒子濃度を有する。酸化鉄ナノ粒子は、Fe23とFe34の構成成分をもち、直径が約8nmである。
【0109】
触媒を含むセラミック繊維材料595は、溶媒フラッシュオフステーション535へ供給される。溶媒フラッシュオフステーションは、開繊したセラミック繊維全体に空気流を送る。本実施例では、触媒を含むセラミック繊維材料に残った全てのヘキサンをフラッシュオフするために、室温の空気が用いられる。
【0110】
溶媒フラッシュオフの後、触媒を含む繊維595は、最後にCNT浸出ステーション540に送られる。本実施例では、1フィートの成長ゾーンを備えた矩形反応器を用いて、これにより大気圧でのCVD成長を利用する。全ガス流の98.0%は不活性ガス(窒素)であり、その他の2.0%は、炭素原料(アセチレン)である。成長ゾーンは750℃に保持される。前述の矩形反応器に関して、750℃は成長速度を考えられる最速のものにする相対的に高い成長温度である。
【0111】
CNTの浸出後、CNT浸出繊維597は、繊維バンドラーステーション545で再び束化される。この工程は、ステーション510で行われた開繊工程を事実上逆転することで、繊維の個々のストランドを再結合する。
【0112】
束化されたCNT浸出繊維597は、保存のために、巻き取り繊維ボビン550の周囲に巻き付けられる。CNT浸出繊維597は、長さ約50μmのCNTsを担持しており、その後、熱的及び電気的伝導性を強化する複合材料に使用される状態となる。
【0113】
前述の工程には、環境隔離のために、不活性雰囲気あるいは真空中で行われるものがあることに注目されたい。例えば、セラミック繊維材料のサイジング剤を燃焼している場合、繊維は環境隔離されて、これによりガス放出を阻止するとともに、水分による損傷を防止する。便宜上、システム500において、環境隔離は、製造ラインの初めにおけるセラミック繊維材料の繰り出し及び張力付与、及び、製造ラインの終端における繊維の巻き取りを除いて、全ての工程に提供される。
【実施例2】
【0114】
本実施例は、連続プロセスでセラミック繊維材料にCNTsを浸出させて、これにより機械的強度、特に、界面特性(例えば、せん断強度など)の向上を図る方法を示す。この場合、繊維上に長さの短いCNTsを担持することが目的となる。本実施例において、テックス値333のネクステル(登録商標)610セラミック繊維ロービング(3M社、ミネソタ州セントポール)をセラミック繊維基材として実施する。このセラミック繊維ロービングにおける個々のフィラメントは、およそ10〜12μmの直径を有する。
【0115】
図6は、本発明の例示的な実施形態によるCNT浸出繊維を製造するためのシステム600を示し、システム500で説明されたステーション及びプロセスと同一のものを多く含んでいる。システム600には、セラミック繊維材料の繰り出し及びテンショナーステーション602、繊維開繊ステーション608、プラズマ処理ステーション610、触媒適用ステーション612、溶媒フラッシュオフステーション614、第2の触媒適用ステーション616、第2の溶媒フラッシュオフステーション618、バリアコーティングステーション620、空気乾燥ステーション622、第2のバリアコーティングステーション624、第2の空気乾燥ステーション626、CNT浸出ステーション628、繊維バンドラーステーション630、及びセラミック繊維材料巻き取りボビン632が、図示のように相互に関連して含まれる。
【0116】
繰り出し及びテンショナーステーション602には、繰り出しボビン604及びテンショナー606が含まれる。繰り出しボビンはセラミック繊維材料601をプロセスに供給し、繊維にはテンショナー606により張力がかけられる。本実施例に関して、セラミック繊維は毎分2フィートのラインスピードで処理される。
【0117】
繊維材料601は、繊維開繊ステーション608に供給される。この繊維はサイジング剤を備えずに製造されているので、サイジング剤除去プロセスは、繊維開繊ステーション608の一部として組み込まれていない。繊維開繊器は、繊維開繊器570で説明した方法と同様に、個々の繊維要素を分離する。
【0118】
繊維材料601は、プラズマ処理ステーション610へ供給される。本実施例に関して、大気プラズマ処理が、開繊したセラミック繊維材料より12mmの距離から「下流」方式で利用される。ガス原料は、全不活性ガス流(ヘリウム)のうち1.1%の量の酸素を含む。セラミック繊維材料の表面上における酸素含有量の制御は、後続のコーティングの接着性を強化する効果的な方法であり、ひいては、セラミック繊維複合材料の機械的性質の向上にとって好ましいものである。
【0119】
プラズマで強化された繊維611は、触媒適用ステーション612へ供給される。本実施例において、酸化鉄ベースのCNT形成触媒溶液が、浸漬コーティングの構成に用いられる。その溶液は、体積で200倍の希釈率により「EFH−1」(Ferrotec Corporation, Bedford, NH)をヘキサンで希釈したものである。セラミック繊維材料上には、触媒コーティングの単分子層が得られる。希釈前の「EFH−1」は、3〜15体積%の範囲のナノ粒子濃度を有する。酸化鉄ナノ粒子は、Fe23とFe34の構成成分をもち、直径が約8nmである。
【0120】
触媒を含む炭素繊維材料613は、溶媒フラッシュオフステーション614へ供給される。溶媒フラッシュオフステーションは、開繊したセラミック繊維全体に空気流を送る。本実施例では、触媒を含むセラミック繊維材料に残った全てのヘキサンをフラッシュオフするために、室温の空気が用いられる。
【0121】
溶媒フラッシュオフの後、触媒を含む繊維613は、触媒適用ステーション612と同一の触媒適用ステーション616に供給される。溶液は、体積で800倍の希釈率により「EFH−1」をヘキサンで希釈したものである。本実施例に関して、多数の触媒適用ステーションを含む構成を用いて、プラズマで強化された繊維611上における触媒の被覆率を最適化する。
【0122】
触媒を含むセラミック繊維材料617は、溶媒フラッシュオフステーション614と同一の溶媒フラッシュオフステーション618へ供給される。
【0123】
溶媒フラッシュオフの後、触媒を含むセラミック繊維材料617は、バリアコーティング適用ステーション620へ供給される。本実施例において、シロキサンベースのバリアコーティング溶液が、浸漬コーティングの構成に用いられる。その溶液は、体積で40倍の希釈率により「Accuglass(登録商標)T−11スピンオンガラス」(Honeywell International Inc., Morristown, NJ)をイソプロピルアルコールで希釈したものである。セラミック繊維材料上において得られるバリアコーティングの厚さは約40nmである。バリアコーティングは周囲環境の室温で適用される。
【0124】
バリアコーティングが施されたセラミック繊維621は、バリアコーティングを部分的に硬化させるために、空気乾燥ステーション622へ供給される。空気乾燥ステーションは、開繊したセラミック繊維全体に加熱した空気流を送る。用いられる温度は約100℃〜約500℃の範囲である。
【0125】
空気乾燥後、バリアコーティングが施されたセラミック繊維621は、バリアコーティング適用ステーション520と同一のバリアコーティング適用ステーション624へ供給される。その溶液は、体積で120倍の希釈率により「Accuglass(登録商標)T−11スピンオンガラス」をイソプロピルアルコールで希釈したものである。本実施例に関して、多数のバリアコーティング適用ステーションを含む構成を用いて、触媒を含む繊維617上におけるバリアコーティングの被覆率を最適化する。
【0126】
バリアコーティングが施されたセラミック繊維625は、バリアコーティングを部分的に硬化させるために、空気乾燥ステーション622と同一の空気乾燥ステーション626へ供給される。
【0127】
空気乾燥後、バリアコーティングが施されたセラミック繊維625は、最後にCNT浸出ステーション628へ送られる。本実施例では、12インチの成長ゾーンを備えた矩形反応器を用いて、大気圧でのCVD成長を利用する。全ガス流の97.75%は不活性ガス(窒素)であり、その他の2.25%は、炭素原料(アセチレン)である。成長ゾーンは650℃に保持される。前述の矩形反応器に関して、650℃は、より短いCNT成長の制御を可能にする、相対的に低い成長温度である。
【0128】
CNTの浸出後、CNT浸出繊維629は、繊維バンドラーステーション630で再び束化される。この工程は、ステーション608で行われた開繊工程を事実上逆転することで、繊維の個々のストランドを再結合する。
【0129】
束化されたCNT浸出繊維631は、保存のために、巻き取り繊維ボビン632の周囲に巻き付けられる。CNT浸出繊維629は、長さ約5μmのCNTsを担持しており、その後、機械的性質を強化する複合材料に使用される状態となる。
【0130】
本実施例において、炭素繊維材料は、バリアコーティング適用ステーション620及び624の前に触媒適用ステーション612及び616を通過する。このコーティングの順序は、実施例1に図示される順序とは「逆」になり、これにより、セラミック繊維基材に対するCNTsの固定を向上させることができる。CNT成長プロセスの間、バリアコーティング層はCNTsにより基材から持ち上げられ、これにより、セラミック繊維材料との(触媒NPの接合を介した)直接接触をより多くすることができる。熱的/電気的性質ではなく、機械的性質の向上を目的としているので、順序が「逆」になるコーティングの構成は好ましい。
【0131】
前述の工程には、環境隔離のために、不活性雰囲気あるいは真空中で行われるものがあることに注目されたい。便宜上、システム600において、環境隔離は、製造ラインの初めにおけるセラミック繊維材料の繰り出し及び張力付与、及び、製造ラインの終端における繊維の巻き取りを除いて、全ての工程に提供される。
【実施例3】
【0132】
本実施例は、引張強度の向上が要求される用途のために連続プロセスにおけるセラミック繊維へのCNT浸出を明示し、ここで、そのシステムは、後続の樹脂取り込み及びワインディングプロセスと連結される。この場合において、10ミクロンより長いCNTが好ましい。
【0133】
図7は、CNT浸出繊維が、フィラメント・ワインディングシステム700により下位工程のフィラメント・ワインディングプロセスが行われたときに生成される、本発明の更なる例示的な実施形態を表す。
【0134】
システム700には、セラミック繊維材料クリール(creel)702、カーボンナノチューブ浸出システム712、CNT調整システム705、樹脂槽728、及びフィラメント・ワインディング・マンドレル760が、図示のように相互に関連しつつ含まれる。システム700の様々な要素は、カーボンナノチューブ浸出システム712及びCNT調整システム705を除いて、従来のフィラメント・ワインディングプロセスに存在するものである。図7に表されるプロセス及びシステムの主な要素は、(任意的な)サイジング剤除去ステーション710、及びCNT浸出ステーション726を含むカーボンナノチューブ浸出システム712である。
【0135】
繊維クリール702には、スプール毎に1つのロービングを含んで構成されるセラミック繊維材料701A〜701Hの多数のスプール704が含まれる。セラミック繊維ロービング701A〜701Hの撚り合わされていない群を「セラミックロービング703」と総称する。
【0136】
クリール702は、水平配向でスプール704を保持する。各スプールからのセラミック繊維ロービング706は、クリール702から出て1〜5ポンドの張力でカーボンナノチューブ浸出システム712へ移動するときに、繊維を平坦化して繊維の方向を並行配置に揃える適切に配置された小型のローラー及びテンショナー715を介して移動する。本実施例の場合、繊維は毎分5フィートのラインスピードでクリールから引き出される。
【0137】
別の実施形態において、システム700で用いられる巻き取り可能なセラミック繊維材料が、既にCNTが浸出した(すなわち、システム500により製造された)セラミック繊維材料であることを理解されたい。このような実施形態においては、システム700は、ナノチューブ浸出システム712なしで運転される。
【0138】
カーボンナノチューブ浸出システム712では、ロービング703のサイジング剤が除去され、ナノチューブ形成触媒が適用され、そして、ロービングがCVD成長システムを介してCNT成長状態にさらされる。
【0139】
サイジング剤除去ステーション730は、ロービング703を不活性(窒素)雰囲気中の高温にさらす。本実施例において、ロービング703は、30秒の滞留時間で550℃の温度にさらされる。
【0140】
例示的な本実施例において、触媒溶液は浸漬プロセスを介して、例えば、ロービング703を浸漬槽735に通すことにより適用される。本実施例において、体積比で1の磁性流体であるナノ粒子溶液と200のヘキサンからなる触媒溶液が用いられる。引張強度向上を目的とするCNT浸出繊維のためのプロセスラインスピードで、繊維は浸漬槽に25秒間滞留する。触媒は、真空及び不活性雰囲気のいずれも必要とせず、周囲環境内の室温で適用可能である。
【0141】
次に、触媒を含むロービング703は、成長前の低温不活性ガスパージゾーン、CNT成長ゾーン、及び成長後のガスパージゾーンから成るCNT浸出ステーション726へ送られる。室温の窒素ガスは、前述のようにCNT成長ゾーンからの流出するガスを冷却するために、成長前のパージゾーンに導入される。流出するガスは、繊維の酸化を防止するために、急速な窒素パージにより250℃未満まで冷却される。繊維は、99%の不活性ガス(窒素)質量流と1%の炭素含有原料ガス(アセチレン)質量流との混合物が、ガスマニホールドを介して中心に導かれて高温で加熱されるCNT成長ゾーンに入る。本実施例において、システムの長さは5フィートであり、CNT成長ゾーンにおける温度は650℃である。触媒を含む繊維は、本実施例において、CNT成長環境に60秒間さらされ、その結果、長さ15ミクロンで体積百分率4%のCNTsが、セラミック繊維表面に浸出する。最終的に、CNT浸出セラミック繊維は、繊維表面及びCNTsの酸化を防止するために、繊維に加えさらに流出ガスを250℃に冷却する成長後パージゾーンを通過する。
【0142】
次に、CNT浸出ロービング703は、CNT調整システム705を通るが、ここでは、一連の金型が、ロービング703の各ロービング701A〜Hの方向にCNTsの軸を機械的に調整するために用いられる。直径0.125インチの開口部で終わる先細の金型が、CNTsの調整を支援するために用いられる。
【0143】
CNT調整システム705を通過した後、調整されたCNT浸出ロービング740は、樹脂槽728へ供給される。樹脂槽は、CNT浸出繊維と樹脂とを含んで構成される複合材料を製造するための樹脂を収容する。この樹脂には、例えば、ポリエステル(例えば、オルトフタル酸ポリエステルなど)、改質ポリエステル(例えば、イソフタル酸ポリエステルなど)、エポキシ、及びビニルエステルなどの市販の樹脂マトリックスが含まれる。
【0144】
樹脂槽728は、様々な方法で実現されるが、以下にそのうちの2つを記載する。第1に、樹脂槽728は、ドクター・ブレード(doctor blade)のローラー槽(roller bath)として実現されるが、ここでは、研磨された回転シリンダ(例えば、シリンダ750)が槽内に配設され、回転するときに樹脂を引き上げる。ドクター・バー(図7には図示せず)は、シリンダを押し付けてシリンダ750上で正確な樹脂フィルム厚を得るとともに、余剰の樹脂を槽内に押し戻す。調整されたCNT浸出セラミック繊維ロービング740は、シリンダ750の頂部を通って引き出されると、樹脂フィルムと接触して濡れる。もう1つの方法として、樹脂槽728は浸漬槽として用いられ、ここでは、調整されたCNT浸出セラミック繊維ロービング740が樹脂内に沈められ、その後、余剰の樹脂を除去する1組のワイパー又はローラーを通って引き出される。
【0145】
樹脂槽728を出た後、樹脂で濡れているCNT浸出繊維ロービング755は、デリバリーヘッド(図示せず)の後方に配置される、様々なリング、小穴(eyelets)、そして、通常はマルチピン(multi-pin)「くし状部(comb)」(図示せず)を通過する。くし状部は、CNT浸出セラミック繊維ロービング755を分離した状態にするが、その後、それらは、回転マンドレル760上で単一の結合した束にまとめられる。マンドレルは、引張強度が向上した複合材料を必要とする構造体の型としての役割を果たす。
【0146】
当然のことながら、前述の実施形態は単に本発明の具体例にすぎず、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、前述の実施形態の多くの変形例を考え出すことができる。例えば、本明細書における数々の具体的詳細は、本発明の例示的な実施形態の説明及び理解を完全にするために提供されている。しかしながら、当業者であれば、本発明の1以上の詳細がなくても、又は他のプロセス、材料、構成要素などで本発明を実施し得ることを認識できる。
【0147】
また、場合によっては、周知の構造、材料、又は工程を図示せず、又はその詳細な説明を行わないことにより、例示の実施形態の態様を分かり難くすることを避けている。当然のことながら、図面に図示された様々な実施形態は例示であり、必ずしも一定の縮尺で描かれたものではない。本明細書全体にわたって「一実施形態」又は「1つの実施形態」又は「ある実施形態(実施形態の中には)」で言及しているのは、特定の機能、構造、材料、又は(複数の)実施形態と関連して記載した特徴が、本発明の少なくとも1つの実施形態には含まれるが、必ずしも全ての実施形態に含まれるものではない、ことを意味する。したがって、本明細書の全体にわたって様々な箇所で現れる表現「1つの実施形態において」、「一実施形態において」又は「ある実施形態において(実施形態の中には)」は、必ずしも全て同じ実施形態について言及しているものものとは限らない。さらに、特定の機能、構造、材料、又は特徴を、1以上の実施形態で適切な方法により組み合わせることができる。このため、このように変形したものは、以下の特許請求の範囲及びその同等物の範囲内に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻き取り可能な寸法のセラミック繊維材料と、
前記セラミック繊維材料に結合するカーボンナノチューブと、
を含むカーボンナノチューブ浸出セラミック繊維材料を含んで構成され、
前記カーボンナノチューブの長さ、及び前記カーボンナノチューブの分布が均一であることを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記セラミック繊維材料への結合は、前記セラミック繊維材料に対する前記カーボンナノチューブの直接的な結合、前記カーボンナノチューブと前記セラミック繊維材料との間に配置された遷移金属ナノ粒子触媒を介した間接的な結合、及びこれらを混合したもの、から選択される結合モチーフを含んで構成されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブは、約1ミクロンから約500ミクロンの長さを有することを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブは、約1ミクロンから約10ミクロンの長さを有することを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブは、約20ミクロンから約100ミクロンの長さを有することを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブは、約100ミクロンから約500ミクロンの長さを有することを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブの分布の均一性は、最大で1平方ミクロン当たり約15,000までのナノチューブの密度により特徴付けられる請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記セラミック繊維材料は、セラミックフィラメント、光ファイバー、セラミックトウ、セラミックヤーン、セラミックテープ、一方向セラミックテープ、セラミック繊維編組、セラミックロービング、セラミックロービング織物、不織セラミック繊維マット、セラミック繊維プライ、及び3次元織物構造体から選択されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記セラミック繊維材料は、酸化物、炭化物、窒化物、及びケイ化物から選択されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記セラミック繊維材料は、アルミナ又はジルコニアであることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記セラミック繊維材料は、炭化ケイ素又は炭化ホウ素であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、及びこれらを混合したもの、からなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
界面活性剤、静電気防止剤、潤滑剤、シロキサン、アルコキシシラン、アミノシラン、シラン、シラノール、ポリビニルアルコール、でんぷん、及びこれらを混合したもの、から選択されるサイジング剤を更に含んで構成される請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
前記サイジング剤は、シロキサンであることを特徴とする請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
前記サイジング剤は、シランであることを特徴とする請求項13に記載の組成物。
【請求項17】
エポキシ、ポリエステル、ビニルエステル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンケトン、ポリフタルアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、フェノールホルムアルデヒド、及びビスマレイミドから選択されるマトリックス材を更に含んで構成される請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
前記カーボンナノチューブ浸出セラミック繊維材料の電気抵抗率は、前記セラミック繊維材料の電気抵抗率よりも低いことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項19】
巻き取り可能な寸法のセラミック繊維材料の表面にカーボンナノチューブ形成触媒を配置することと、
前記セラミック繊維材料上にカーボンナノチューブを合成し、これにより、カーボンナノチューブ浸出セラミック繊維材料を形成することと、
を含んで構成される連続的なカーボンナノチューブ浸出プロセス。
【請求項20】
前記連続的なカーボンナノチューブ浸出プロセスは、約5秒から約300秒の材料滞留時間を有することを特徴とする請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
約5秒から約30秒の材料滞留時間により、約1ミクロンから約10ミクロンの長さを有するカーボンナノチューブが生成されることを特徴とする請求項19に記載のプロセス。
【請求項22】
約30秒から約180秒の材料滞留時間により、約10ミクロンから約100ミクロンの長さを有するカーボンナノチューブが生成されることを特徴とする請求項19に記載のプロセス。
【請求項23】
約180秒から約300秒の材料滞留時間により、約100ミクロンから約500ミクロンの長さを有するカーボンナノチューブが生成されることを特徴とする請求項19に記載のプロセス。
【請求項24】
複数の前記セラミック繊維材料が同時に前記プロセスに通されることを特徴とする請求項19に記載のプロセス。
【請求項25】
前記セラミック繊維材料上に前記触媒を配置する前に、前記セラミック繊維材料からサイジング材料を除去することを更に含んで構成される請求項19に記載のプロセス。
【請求項26】
前記触媒は、鉄ベースのナノ粒子触媒であることを特徴とする請求項19に記載のプロセス。
【請求項27】
前記セラミック繊維材料上に前記触媒を配置する工程には、前記セラミック繊維材料上に対する溶液の、スプレー、浸漬コーティング、又は気相蒸着が含まれることを特徴とする請求項19に記載のプロセス。
【請求項28】
前記カーボンナノチューブを合成する工程がCVD成長を含んで構成されることを特徴とする請求項19に記載のプロセス。
【請求項29】
前記カーボンナノチューブ浸出セラミック繊維材料にサイジング剤を適用することを更に含んで構成される請求項19に記載のプロセス。
【請求項30】
前記カーボンナノチューブ浸出セラミック繊維材料にマトリックス材を適用することを更に含んで構成される請求項19に記載のプロセス。
【請求項31】
前記セラミック繊維材料の少なくとも1つの性質である第1性質を変化させるために選択される第1の量の第1種カーボンナノチューブを前記セラミック繊維材料上に合成することと、
前記セラミック繊維材料の少なくとも1つの性質である第2性質を変化させるために選択される第2の量の第2種カーボンナノチューブを前記セラミック繊維材料上に合成することと、
を更に含んで構成される請求項19に記載のプロセス。
【請求項32】
前記第1の量は前記第2の量と異なることを特徴とする請求項31に記載のプロセス。
【請求項33】
前記第1の量は前記第2の量と同一であることを特徴とする請求項31に記載のプロセス。
【請求項34】
前記第1種カーボンナノチューブは前記第2種カーボンナノチューブと同一であることを特徴とする請求項31に記載のプロセス。
【請求項35】
前記第1種カーボンナノチューブは前記第2種カーボンナノチューブと異なることを特徴とする請求項31に記載のプロセス。
【請求項36】
前記第1性質は前記第2性質と同一であることを特徴とする請求項31に記載のプロセス。
【請求項37】
前記第1性質は前記第2性質と異なることを特徴とする請求項31に記載のプロセス。
【請求項38】
前記少なくとも1つの性質である第1性質、及び前記少なくとも1つの性質である第2性質は、引張強度、ヤング率、せん断強度、剛性率、靭性、圧縮強度、圧縮係数、密度、EM波吸収率又は反射率、音響透過率、電気伝導度、及び熱伝導度からなる群より独立に選択されることを特徴とする請求項31に記載のプロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−509349(P2013−509349A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−536852(P2012−536852)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【国際出願番号】PCT/US2010/052552
【国際公開番号】WO2011/053457
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(511201392)アプライド ナノストラクチャード ソリューションズ リミテッド ライアビリティー カンパニー (31)
【氏名又は名称原語表記】APPLIED NANOSTRUCTURED SOLUTIONS, LLC
【Fターム(参考)】