説明

CNT無機ナノフィラーを含むフルオロエラストマーナノコンポジット

【課題】ナノコンポジット材料、フュージングシステム中にナノコンポジット材料を含むフューザー材料のための材料および方法を提供する。
【解決手段】ナノコンポジット材料は、ポリマーマトリックスに配置された複数のカーボンナノチューブ(CNT)および複数の無機ナノフィラー(INF)を含む事により、望ましい特性を有するナノコンポジット材料が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本教示は、一般的に、コンポジット材料に関し、詳細には、カーボンナノチューブ(CNT)および無機ナノフィラー(INF)を含むフルオロエラストマーナノコンポジットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電子写真式画像形成プロセスは、典型的には、支持表面(例えば、紙シート)の上に目に見えるトナー画像を作成することを含む。目に見えるトナー画像は、静電潜像を含む感光体から転写されることが多く、通常は、フューザーを用いて支持表面に固定または融合され、永久的な画像を作成する。
【0003】
現行の電子写真式プロセスでは、主要な種類のフューザー最外材料は、フルオロエラストマー、例えば、E.I.DuPont de Nemours,Inc.(Wilmington、DE)製のVITON(登録商標)を含む。VITON(登録商標)フルオロエラストマーは、フューザーに、衝撃エネルギーを吸収する能力を有する機械的な柔軟性を与えるために用いられる。また、VITON(登録商標)フルオロエラストマーは、高速で操作することができる。しかし、VITON(登録商標)材料は、機械的強度が十分ではなく、耐摩耗性が低いために、問題が生じる。
【0004】
これらの問題を解決するための従来のアプローチとしては、フィラーにフューザー最外材料を加えることが挙げられる。フィラーとしては、カーボンブラック、金属酸化物、カーボンナノチューブ(CNT)が挙げられる。しかし、機械的なロバスト性および耐摩耗性は、従来のフューザーの短い操作寿命を延ばすために、いまだ改良する必要がある。さらに、機械的強度および他の望ましい性質を維持したままで、表面の熱均一性を良好にするために、従来のフューザーの表面の熱移動を改良することが望ましく、さらに、融合時の熱消費を減らすことが望ましい。
【0005】
したがって、従来技術のこれらの問題および他の問題を克服し、フュージングシステムで用いるのに適したナノコンポジット材料を提供する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
種々の実施形態によれば、本教示は、基板の上に配置されたナノコンポジット材料を有するフューザー部材を含む。ナノコンポジット材料は、フルオロエラストマーマトリックスに配置された複数のカーボンナノチューブ(CNT)および複数の無機ナノフィラー(INF)を含んでいてもよい。複数のINFは、熱伝導率が約0.2W/m・K〜約4W/m・Kのナノコンポジット材料を与えるために、ナノコンポジット材料全体の約2重量%〜約50重量%の範囲の量で存在していてもよい。
【0007】
種々の実施形態によれば、本教示は、基板の上に配置された最外層を有するフューザー部材も含む。最外層は、フルオロエラストマーマトリックスに配置された複数のCNTおよび複数のINFを含んでいてもよい。複数のCNTは、最外層全体の約0.1重量%〜約25重量%の量で存在していてもよく、複数のINFは、最外層全体の約1重量%〜約80重量%の量で存在していてもよい。
【0008】
種々の実施形態によれば、本教示は、さらに、フューザー部材を製造する方法を含む。この方法では、第1のナノコンポジットは、フルオロエラストマーに均一に分散したCNTを含むように作成することができる。次いで、第1のナノコンポジットと、1つ以上のフルオロエラストマーCNTおよびINFを、CNTとINFが制御可能な濃度でフルオロエラストマーに均一に分散するように混ぜ合わせることによって第2のナノコンポジットを作成することができる。この混ぜ合わせるプロセスは、高いせん断応力を用い、高温で行うことができる。コーティング層を作成するためのコンポジット分散物は、第2のナノコンポジットを、対応する硬化剤、金属酸化物、界面活性剤の1つ以上とともに有効な溶媒に溶解することによって作成することができる。次いで、コンポジット分散物を表面に塗布し、硬化させ、表面にコーティング層を作成してもよい。CNTは、コーティング層全体の約0.1重量%〜約25重量%の量で存在していてもよく、複数のINFは、コーティング層全体の約1重量%〜約80重量%の量で存在していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】図1Aは、本教示の種々の実施形態にかかる例示的なフューザー部材の一部分を示す図である。
【図1B】図1Bは、本教示の種々の実施形態にかかる例示的なフューザー部材の一部分を示す図である。
【図2】図2は、本教示の種々の実施形態にかかる例示的なナノコンポジット材料を示す図である。
【図3】図3は、本教示の種々の実施形態にかかる図1A〜1Bの部材を用いた例示的なフュージングシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
例示的な実施形態は、ナノコンポジット材料、ナノコンポジット材料を含むフューザー部材、ナノコンポジット材料を作成し、フュージングシステムで使用する方法を提供する。一実施形態では、ナノコンポジット材料は、ポリマーマトリックスに配置された複数のカーボンナノチューブ(CNT)および複数の無機ナノフィラー(INF)を含むエラストマーナノコンポジット材料であってもよい。
【0011】
説明のために、用語「フューザー部材」は、本明細書全体で用いられるが、用語「フューザー部材」は、電子写真式印刷プロセスに有用な他の部材(限定されないが、固定部材、加圧部材、加熱部材および/または供与部材を含む)も包含することを意図している。フューザー部材は、例えば、ベルト、平板、シート、ロール、円柱形、ドラム、ドレルトなどの形態であってもよい。
【0012】
図1A〜1Bは、本教示の種々の実施形態にかかる例示的なフューザー部材100A〜Bの一部分を示す。
【0013】
示されるように、フューザー部材100A、100Bは、基板110と、基板110の上に配置されているナノコンポジット材料150とを備えていてもよい。いくつかの実施形態では、これらの間に1つ以上の機能性層を形成してもよい。図1Aに示される一実施形態では、弾性層120は、ナノコンポジット材料150と基板110との間に形成されてもよい。図1Bに示される一実施形態では、中間層130が、弾性層120とナノコンポジット材料150との間に配置されていてもよい。フューザー部材100A〜B中に、例えば、図1A〜1Bの層の間に配置される接着層を含む他の望ましい機能性層が備わっていてもよい。
【0014】
基板110は、例えば、開示されているフューザー部材100のためのベルト、平板、ロール、円柱状のドラムおよび/またはドレルトの形態であってもよい。種々の実施形態では、基板110は、例えば、金属、金属アロイ、ゴム、ガラス、セラミック、プラスチックまたは布地のような広範囲の材料を含んでいてもよい。さらなる例では、金属としては、アルミニウム、陽極酸化アルミニウム、鋼、ニッケル、銅、およびこれらの混合物を挙げることができ、一方、使用されるプラスチックとしては、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリアミド、および/またはこれらの混合物を挙げることができる。特定の実施形態では、基板110としては、例えば、アルミニウム製の円柱形、またはアルミニウムフューザーロールを挙げることができる。
【0015】
図1A〜1Bに示されるように、特定の用途に依存して、弾性層120としては、例えば、シリコーンゴム層を挙げることができ、一方、中間層130としては、例えば、シラン(例えば、アミノプロピルトリエトキシ−シランのような、アミンで改質されたシラン(OSI Specialties,Friendly,W.Va.製のA1100)、チタネート、ジルコネート、アルミネートなど、およびこれらの混合物を挙げることができる。中間層は、厚みが約2ナノメートル〜約2,000ナノメートル、または約2ナノメートル〜約500ナノメートルになるように、基板または第2の中間層の上にコーティングされてもよい。中間層を、スプレーコーティングまたはワイピングを含む既知の任意の適切な技術によってコーティングしてもよい。中間層130によって、弾性層120および/またはナノコンポジット材料150の膜の品質を高めることができる。種々の実施形態では、従来のフューザー部材の弾性層および/または中間層のための材料および/または方法を、開示されているフューザー部材100に包含することができる。
【0016】
ナノコンポジット材料150は、ポリマーマトリックスに配置されているCNTおよびINFを備えていてもよい。本明細書で使用される場合、「ポリマーマトリックス」は、1つ以上の化学的または物理的に架橋したポリマー(例えば、フルオロエラストマー、熱エラストマー、ポリペルフルオロエーテルエラストマー、シリコーンエラストマー、または他の架橋した材料を含んでいてもよい。1つ以上の架橋したポリマーを、半分軟化および/または溶融させ、CNTおよびINFと混合してもよい。
【0017】
フルオロエラストマーとしては、例えば、テトラフルオロエチレン、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)、ペルフルオロ(エチルビニルエーテル)、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、およびこれらの混合物からなる群から選択されるモノマー繰り返し単位を挙げることができる。また、フルオロエラストマーは、例えば、硬化剤と反応させるためのキュアリングサイトモノマーを含んでいてもよい。
【0018】
市販のフルオロエラストマーとしては、例えば、VITON(登録商標)A:ヘキサフルオロプロピレン(HFP)およびフッ化ビニリデン(VDFまたはVF2)のコポリマー、VITON(登録商標)B:テトラフルオロエチレン(TFE)、フッ化ビニリデン(VDF)およびヘキサフルオロプロピレン(HFP)のターポリマー、VITON(登録商標)GF:TFE、VF2、HFPのテトラポリマー、およびVITON(登録商標)E、VITON(登録商標)E−60C、VITON(登録商標)E430、VITON(登録商標)910、VITON(登録商標)GH、VITON(登録商標)GFを挙げることができる。VITON(登録商標)の名称は、E.I.DuPont de Nemours,Inc.(Wilmington、DE)の商標であり、本明細書で「VITON」とも呼ばれる。
【0019】
他の市販のフルオロエラストマーとしては、3M Corporation(St.Paul、Minenesota)から入手可能なもの、例えば、DYNEON(商標)フルオロエラストマー、AFLAS(登録商標)フルオロエラストマー(例えば、ポリ(プロピレン−テトラフルオロエチレン))、FLUOREL(登録商標)フルオロエラストマー(例えば、FLUOREL(登録商標)II(例えば、LII900)ポリ(プロピレン−テトラフルオロエチレンビニリデンフルオリド)、FLUOREL(登録商標)2170、FLUOREL(登録商標)2174、FLUOREL(登録商標)2176、FLUOREL(登録商標)2177、および/またはFLUOREL(登録商標)LVS 76を挙げることができる。さらなる市販のフルオロエラストマー材料としては、Solvay Solexis(West Deptford、NJ)から入手可能な、FOR(登録商標)−60KIR、FOR(登録商標)−LHF、FOR(登録商標)−NM、FOR(登録商標)−THF、FOR(登録商標)−TFS、FOR(登録商標)−TH、FOR(登録商標)−TN505として特定される「テクノフロン」を挙げることができる。
【0020】
いくつかの実施形態では、ポリマーマトリックス110は、比較的やわらかいエラストマーを形成し、弾性を示すような、効果のある硬化剤(本明細書では、架橋剤またはクロスリンカーとも呼ばれる)と架橋したポリマーを含んでいてもよい。例えば、ポリマーマトリックスが、フッ化ビニリデンを含有するフルオロエラストマーを使用する場合、硬化剤としては、ビスフェノール化合物、ジアミノ化合物、アミノフェノール化合物、アミノ−シロキサン化合物、アミノ−シラン、および/またはフェノール−シラン化合物を挙げることができる。例示的なビスフェノールクロスリンカーは、E.I.du Pont de Nemours,Inc.から入手可能なVITON(登録商標)Curative No.50(VC−50)であってもよい。VC−50は、溶媒懸濁物に可溶性であてもよく、例えば、VITON(登録商標)−GF(E.I.du Pont de Nemours,Inc.)と架橋するための反応部位として簡単に利用することができる。
【0021】
本明細書で使用される場合、他の意味であると明記されていない限り、用語「ナノチューブ」は、少なくとも1つの小さいほうの寸法(例えば、幅または直径)が約1000ナノメートル以下である細長い材料(有機材料および無機材料を含む)を指す。用語「ナノチューブ」は、説明のために本明細書で使用され、この用語は、限定されないが、ナノシャフト、ナノピラー、ナノワイヤ、ナノロッド、ナノニードル、およびこれらの種々の官能化したフィブリル形態および誘導体化したフィブリル形態を含む(より糸、糸、布地などの例示的な形態を有するナノ繊維を含む)、似たような寸法を有する他の細長い構造も包含することを意図している。
【0022】
また、ナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、二層カーボンナノチューブ(DWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、およびこれらの種々の官能化したフィブリル形態および誘導体化したフィブリル形態、例えば、カーボンナノ繊維を含んでいてもよい。種々の実施形態では、ナノチューブは、内径と外径を有していてもよい。例えば、平均内径は、約1ナノメートル〜約20ナノメートル、または約2ナノメートル〜約10ナノメートル、約3ナノメートル〜約8ナノメートルの範囲であってもよく、一方、平均外径は、約5ナノメートル〜約100ナノメートル、または約10ナノメートル〜約50ナノメートル、または約8ナノメートル〜約15ナノメートルの範囲であってもよい。または、ナノチューブは、平均アスペクト比が、約10〜約1,000,000、または約20〜約1000、約30〜約500の範囲であってもよい。
【0023】
本明細書に開示されるように、無機ナノフィラー(INF)は、少なくとも1つの小さいほうの寸法(例えば、幅または直径)が、例えば、約5ナノメートル〜約1000ナノメートル、または約20ナノメートル〜約500ナノメートル、または約30ナノメートル〜約50ナノメートルであってもよい。無機ナノフィラーとしては、例えば、炭化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、炭化チタン、炭化ジルコニウム、アルミナなどを挙げることができる。例示的な実施形態では、フィラー粒子表面は、有機溶剤およびポリマーとの相溶性を高めるために官能基(例えば、−OHおよび−NH)を有していてもよく、このために、分散性を高めることができる。
【0024】
CNTおよび/またはINF(すなわち、CNT/INF)は、例えば、長方形、多角形(例えば、六角形)、卵形、または円形のような種々の断面形状を有していてもよく、または、高いアスペクト比を有するワイヤまたはウィスカーの形状を有していてもよい。したがって、CNT/INFは、例えば、円柱状の3次元形状を有していてもよい。
【0025】
CNT/INFは、種々の物理的および/または化学的な改変によって、熱特性、機械特性、電気特性、および/または表面特性が制御されているか、および/または向上している、改変された/官能化されたCNT/INFであってもよい。例えば、CNT/INFはそれぞれ、ペルフルオロカーボン、ペルフルオロポリエーテル、および/またはポリジメチルシロキサンから選択される材料で表面改質されていてもよい。
【0026】
図2は、本教示の種々の実施形態にかかる図1A〜1Bのフューザー部材100A〜Bの最外層として用いられる例示的なナノコンポジット材料150を示す。図2で示されるように、ナノチューブ254またはナノフィラー256は、一貫した大きさまたは形状を有するように示されているが、当業者は、ナノチューブ254が、種々の形状および大きさ(例えば、長さ、幅または直径)を有していてもよく、ナノフィラー256が、種々の形状および大きさ(例えば、長さ、幅または直径)を有していてもよいことを理解するだろう。
【0027】
示されるように、CNT254およびINF256は、両方とも例示的なポリマーマトリックス252の中に配置されていてもよい。この示されている実施形態では、CNTの分布は、均一に分散しているが、ポリマーマトリックス252全体で無作為にからんだ、束になったカーボンナノチューブ254を含んでいてもよい。場合によっては、CNT254は、均一に分散していてもよく、および/または空間的に制御されていてもよく、例えば、磁場を用いることによって、例えば、ポリマーマトリックス252全体に特定の方向に整列するか、または配向していてもよい。同様に、INF256を、ポリマーマトリックス252に、ランダムに、均一に、および/または部分的に制御した状態で分散させてもよい。
【0028】
いくつかの実施形態では、ナノチューブ254を、保持重量が、例えば、ナノコンポジット材料150の約0.1重量%〜約25重量%、または約1重量%〜約10重量%、または約2重量%〜約5重量%になるように、ポリマーマトリックスに分散させてもよい。INF256を、保持重量が、例えば、ナノコンポジット材料150合計の約1重量%〜約80重量%、または約2重量%〜約50重量%、または約5重量%〜約20重量%になるように、ポリマーマトリックスに分散させてもよい。
【0029】
ポリマーマトリックス252に配置されたCNT254とINF256との組み合わせは、相乗効果を与えることができ、例えば、熱特性(例えば、安定性または伝導率)、機械特性(例えば、引張強度、靱性、耐摩耗性、または終局強度)、電気特性(例えば、伝導率)、および/または表面官能基特性のような望ましい性質を有するナノコンポジット材料150を与えることができる。
【0030】
例えば、CNT254およびINF256の両方を含むナノコンポジット材料150は、熱伝導率が、約0.1W/m・K〜約6W/m・K、または約0.2W/m・K〜約4W/m・K、または約0.4W/m・K〜約2W/m・Kの範囲であってもよく、表面抵抗が、約0.1×10Ω/sq〜約1×10Ω/sq、または約0.5×10Ω/sq〜約1.5×10Ω/sq、または約0.8×10Ω/sq〜約1.5×10Ω/sqの範囲であってもよく、および/または、表面エネルギーが、約18mN/m〜約25mN/m、または約19mN/m〜約24mN/m、または約20mN/m〜約21mN/mの範囲であってもよく、ここで、表面自由エネルギーは、例えば、Fibro DAT1100装置(Fibro Systems AB,Sweden)を用いた接触角の測定結果から、Lewis酸−塩基法を用いることによって算出することができる。
【0031】
CNT254およびINF256を含むナノコンポジット材料150は、約600psi〜約5000psi、または約800psi〜約3000psi、または約1000psi〜約2500psiの範囲の引張強度、約1000in・lbf/in〜約5000in・lbf/in、または約1500in・lbf/in〜約4000in・lbf/in、または約2200in・lbf/in〜約3500in・lbf/inの範囲の靭性、および/または、例えば、普遍的なInstron試験機(Instron、Norwood、Massachusetts)を用い、約100%〜約600%、または約150%〜約500%、または約250%〜約400%の範囲の極限ひずみ率のような、改良された機械特性を有していてもよい。
【0032】
また、本教示の種々の実施形態にかかるフューザー部材100A〜Bを作成する方法も提供される。例えば、ポリマー/CNT/INFを含むコンポジット分散物を調製し、開示されているナノコンポジット材料150をコーティング層として作成してもよい。
【0033】
詳細には、コンポジット分散物は、例えば、混ぜ合わせるプロセスを含む降下方法によって作成されてもよい。本明細書に開示されているように、用語「混ぜ合わせる」は、高温で所定時間の高せん断応力を含む、混合するプロセスを指す。例えば、高せん断応力は、約1500mgトルク〜約2400mgトルク、または約1600mgトルク〜約2200mgトルク、または約1800mgトルク〜約2000mgトルクの範囲であってもよい。高温は、約120℃〜約200℃、または約150℃〜約180℃、または約160℃〜約170℃の範囲であってもよい。
【0034】
例示的なコンポジット分散物を作成するために、フルオロエラストマーに均一に分散したCNTを含む第1のナノコンポジットを作成してもよい(例えば、VITON)。次いで、第1のナノコンポジットと、フルオロポリマー、CNT、および/またはINF(例えば、SiCおよび/またはBN)のうち1つ以上とを混ぜ合わせることによって、第2のナノコンポジットを作成してもよい。このような希釈方法によって、フルオロポリマー、CNT、および/またはINFそれぞれの濃度を制御することができ、いくつかの実施形態では、第2のナノコンポジットの中に均一に分散させることができる。
【0035】
ついで、開示されているナノコンポジット材料150を作成するためのコンポジット分散物は、第2のナノコンポジットを、対応する硬化剤、金属酸化物、および/または界面活性剤とともに、有効な溶媒に分散させることによって作成されてもよい。有効な溶媒としては、限定されないが、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、およびこれらの混合物が挙げられる。適切な分散物を生成する他の溶媒は、本明細書の実施形態の範囲内であろう。
【0036】
コーティング技術、押出技術、および/または成型技術を含む種々の層を作成する技術を適用し、基板110の上に、または弾性層120の上に、または中間層130の上に、または基板110の上に形成される他の望ましい機能性層の上に、ナノコンポジット材料150を作成してもよい(図1A〜1Bを参照)。いくつかの実施形態では、ナノコンポジット材料150を作成するためのコンポジット分散物を、浸漬コーティング、ペインティング、ブラシコーティング、ローラーコーティング、パッド塗布、スプレーコーティング、スピンコーティング、鋳造、および/またはフローコーティングによって塗布してもよい。例えば、ギャップコーティングを用い、平坦な基板(例えば、ベルトまたは平板)をコーティングしてもよく、一方、フローコーティングを用い、円柱状基板(例えば、ドラムまたはフューザーロール基板)をコーティングしてもよい。
【0037】
コンポジット分散物を塗布した後、例えば、エバポレーション、照射、乾燥、硬化、および/または増粘プロセスを含む硬化プロセスを行ってもよい。硬化プロセスは、使用されるポリマーおよび硬化剤によって決定することができる。例示的な実施形態では、ナノコンポジット材料150を作成するための硬化プロセスとしては、例えば、段階的な硬化プロセスを挙げることができる。例えば、コーティングされ/押出され/成型されたCNT/INF/ポリマーコンポジット分散物を、約49℃の対流式オーブンに約2時間おいてもよく、温度を、約177℃まで上げ、さらなる硬化を約2時間行ってもよく、温度を約204℃まで上げ、コーティングを、この温度でさらに約2時間硬化させてもよく、最後に、オーブンの温度を約232℃まで上げ、コーティングをさらに6時間硬化させてもよい。他の硬化計画も可能である。当業者に知られている硬化計画もまた、本明細書の実施形態の範囲内であろう。
【0038】
作成されたフューザー部材100A〜Bのナノコンポジット材料150は、厚みが、約5ミクロン〜約100ミクロン、または約10ミクロン〜約60ミクロン、または約20ミクロン〜約30ミクロンであってもよい。
【0039】
一実施形態では、例示的なフューザー部材100A〜Bを、本明細書に開示されているような融合性能および最終的な印刷品質を高めるたえにフュージングシステムで使用してもよい。図3は、図1A〜1Bの開示されている部材100Aまたは100Bを用いた例示的なフュージングシステム300を示す。
【0040】
例示的なシステム300は、適切な基板110の上にナノコンポジット材料150を最外層として含む例示的なフューザーロール100Aまたは100Bを備えていてもよい。基板110は、例えば、任意の適切な金属から製造された中空の円筒形であってもよい。フューザーロール100は、さらに、基板110の中空部分に配置された、この円筒形と同じ広がりを持つ適切な加熱要素306を備えていてもよい。バックアップロールまたは加圧ロール308は、当業者には知られているように、フューザーロール100と協働して、印刷媒体312(例えば、コピー紙または他の印刷基板)が通過し、印刷媒体312の上のトナー画像314が、融合プロセス中にナノコンポジット材料150と接触するような爪部または接触弓部310を形成していてもよい。場合により、バックアップロールまたは加圧ロール308によって、融合プロセス中に圧を加えてもよい。融合プロセスの後に、印刷媒体312が接触弓部310を通った後、融合したトナー画像316が、印刷媒体312の上に形成されてもよい。
【0041】
いくつかの実施形態では、フューザー部材100は、トナーの化学物質を高温で一定速度で接触させ、融合させることによって熱伝導率を改良し、表面エネルギーを下げ、耐摩耗性を向上させることができる。いくつかの実施形態では、フューザー部材100のCNT254およびINF256を含むナノコンポジット材料150は、高い熱安定性を有していてもよい。
【0042】
本明細書で使用される場合、他の意味であると明記されていない限り、用語「熱安定性」は、特定の温度で特定の時間にわたる、材料の適切な安定性を指す。本明細書で使用される場合、用語「高い熱安定性」または「熱的に安定である」は、その材料の特性(例えば、熱伝導率、表面抵抗、表面エネルギー、および/または機械特性)が、高温で特定の時間、例えば、少なくとも約30分間安定であり、実質的に変わらないまま維持されることを意味する。本明細書で使用される場合、用語「高温」は、約160℃以上の温度を指す。例えば、トナーは、開示されているナノコンポジット材料を用いることによって、望ましい融合性能および印刷品質を有しつつ、約150℃〜約200℃、または約155℃〜約190℃、または約160℃〜約180℃の範囲の温度で融合されてもよい。
【実施例】
【0043】
実施例1−CNT/ナノフィラー/VITONコンポジットの調製
約12.5グラムのCNTマスターバッチ(12重量%の多層CNTをVITON GF中に含む)、約2.5グラムのBN(直径または幅が約70nm)、約35グラムのVITON GF(E.I.du Pont de Nemours,Inc.から入手可能)を約170℃まで加熱し、内部の混合器(例えば、HAAKE Rheomix)を用い、ローター速度毎分約20回転(rpm)で約20分間混合し、約5重量%のBN、約3重量%のカーボンナノチューブを含むポリマーコンポジット約50グラムを作成した。BNおよび/またはSiCの保持量が異なるものを押出希釈プロセスによって調製した。
【0044】
実施例2−CNT/BN/VITONコーティングコンポジットの調製
メチルイソブチルケトン(MIBK)中、実施例1で調製した希釈CNT/BN/VITONコンポジットを、金属酸化物(酸化マグネシウムおよび/または水酸化カルシウム)、ビスフェノールVC−50硬化剤(E.I.du Pont de Nemours,Inc.から入手可能な、VITON(登録商標)Curative No. 50)と混合することによって、CNT/BN/VITONコーティング分散物を調製した。次いで、得られたコーティング分散物を、例えば、フローコーティング技術または型に鋳造することによって、適切なフューザーロール基板の上にコーティングした。このコーティングを、ほとんどの溶媒を蒸発させた後、温度を上げていきながら硬化させた(例えば、約149℃で約2時間、約177℃で約2時間、次いで、約204℃で約2時間、次いで、後硬化のために約232℃で約6時間)。
【0045】
得られたCNT/BN/VITONコンポジットコーティングまたはコーティングされた層は、CNTまたはBNを含まないVITONと比べ、高い引張強度、靭性を示した。引張強度は、フィラーの量が増えるほど大きかった。表1は、本教示にしたがった、このような比較を示す。表1に示されている靭性は、破断点での累積平均応力/ひずみによって決定され、つまり、当業者には知られているように、靭性のために測定されるべきと考えられる応力−ひずみ曲線の下の面積によって決定されることに留意されたい。
【0046】
実施例3−CNT/SiC/VITONコーティングコンポジットの調製
メチルイソブチルケトン(MIBK)中、実施例1で調製した希釈CNT/SiC/VITONコンポジットを、金属酸化物(酸化マグネシウムおよび/または水酸化カルシウム)、ビスフェノールVC−50硬化剤(E.I.du Pont de Nemours,Inc.から入手可能な、VITON(登録商標)Curative No. 50)と混合することによって、CNT/SiC/VITONコーティング分散物を調製した。このコンポジットコーティングは、実施例2に記載したのと同じコーティング技術および硬化プロセスを用いることによって得られた。得られたCNT/SiC/VITONコンポジットコーティングまたはコーティングされた層は、CNTおよび/またはSiCを含まないVITONと比べ、高い引張強度、靭性を示した。引張強度は、表1に示されるように、フィラーの量が増えるにつれて大きくなった。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に配置されるナノコンポジット材料であって、前記ナノコンポジット材料が、
フルオロエラストマーマトリックスに配置された複数のカーボンナノチューブ(CNT)および複数の無機ナノフィラー(INF)を含み、前記複数のINFが、前記ナノコンポジット材料全体の約2重量%〜約50重量%の量で存在し、熱伝導率が約0.2W/m・K〜約4W/m・Kの前記ナノコンポジット材料を与える、フューザー部材。
【請求項2】
前記複数のINFが、炭化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、炭化チタン、炭化ジルコニウム、アルミナ、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の部材。
【請求項3】
前記フルオロエラストマーマトリックスが、キュアリングサイトモノマーと、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)、ペルフルオロ(エチルビニルエーテル)、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるモノマー繰り返し単位とを含む、少なくとも1つのフルオロエラストマーを含む、請求項1に記載の部材。
【請求項4】
前記フルオロエラストマーマトリックスが、ビスフェノール化合物、ジアミノ化合物、アミノフェノール化合物、アミノ−シロキサン化合物、アミノ−シラン、フェノール−シラン化合物、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される硬化剤で架橋したフッ化ビニリデンを含有するフルオロエラストマーを含む、請求項1に記載の部材。
【請求項5】
基板の上に配置された最外層であって、前記最外層が、フルオロエラストマーマトリックスに配置された複数のカーボンナノチューブ(CNT)および複数の無機ナノフィラー(INF)を含み、前記複数のCNTが、前記最外層全体の約0.1重量%〜約25重量%の量で存在し、前記複数のINFが、前記最外層全体の約1重量%〜約80重量%の量で存在する、フューザー部材。
【請求項6】
前記最外層が、約5ミクロン〜約100ミクロンの厚みを有する、請求項5に記載の部材。
【請求項7】
前記最外層は、熱伝導率が約0.1W/m・K〜約6W/m・Kの範囲であり、表面エネルギーが、約18mN/m〜約25mN/mの範囲であり、引張強度が、約600psi〜約5000psiの範囲であり、靭性が約1000in・lbf/in〜約5000in・lbf/inの範囲であり、極限ひずみ率が、約100%〜約600%の範囲である1つ以上の特性を有する、請求項5に記載の部材。
【請求項8】
フルオロエラストマーに均一に分散した複数のカーボンナノチューブ(CNT)を含む第1の第1のナノコンポジットを作成することと、
第1のナノコンポジットと、前記フルオロエラストマー、複数のCNT、複数の無機ナノフィラー(INF)の1つ以上とを、前記複数のCNTおよび前記複数のINFが前記フルオロエラストマーに均一に分散し、制御された濃度を有するように混ぜ合わせることによって、第2のナノコンポジットを作成することと、
前記第2のナノコンポジットを、対応する硬化剤、金属酸化物、界面活性剤のうち、1つ以上とともに有効な溶媒に溶解することによってコンポジット分散物を作成することと、
前記コンポジット分散物を表面に塗布することと、
前記塗布されたコンポジット分散物を硬化させ、前記表面に、コーティング層が、前記コーティング層全体の約0.1重量%〜約25重量%の範囲の前記複数のCNTと、約1重量%〜約80重量%の範囲の前記複数のINFとを含むような前記コーティング層を作成することとを含む、フューザー部材を製造する方法。
【請求項9】
前記混ぜ合わせる工程が、約120℃〜約200℃の範囲の温度で約1500mgトルク〜約2400mgトルクのせん断応力を使用する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記コーティング層は、熱伝導率が約0.1W/m・K〜約6W/m・Kの範囲であり、靭性が約1000in・lbf/in〜約5000in・lbf/inの範囲であり、表面エネルギーが、約18mN/m〜約25mN/mの範囲である1つ以上の特性を有し、
この1つ以上の特性が、前記コーティング層を約160℃以上の温度で約30分間加熱したときに実質的に変わらないままである、請求項8に記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図1A】
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【図1B】
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【公開番号】特開2012−136698(P2012−136698A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−271763(P2011−271763)
【出願日】平成23年12月12日(2011.12.12)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】