説明

COシフト変換システム及び方法、石炭ガス化発電プラント

【課題】水蒸気量が少ない場合でも触媒劣化がなく、COシフト反応を効率よく行うことができるCOシフト変換システム及び方法、石炭ガス化発電プラントを提供する。
【解決手段】COシフト触媒11を有し、生成ガス12中のCOをCO2に変換するCOシフト変換装置13と、該COシフト変換装置13の上流側に設けられ、生成ガス12中に水蒸気14を供給する水蒸気供給手段15と、水蒸気14を供給した後に、水スプレ16を混合器17により供給する水スプレ供給手段18と、を具備するCOシフト変換部20とからなり、前記COシフト変換部20が少なくとも2以上直列に多段連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、COシフト反応を効率よく行うことができるCOシフト変換システム及び方法、石炭ガス化発電プラントに関する。
【背景技術】
【0002】
石炭の有効利用は近年のエネルギー問題での切り札の一つとして注目されている。一方、石炭を付加価値の高いエネルギー媒体として、変換するためには石炭ガス化技術、ガス精製技術など高度な技術が必要とされる。このガス化ガスを用いて発電する石炭ガス化複合発電システムが提案されている(特許文献1)。
【0003】
この石炭ガス化複合発電(Integrated coal. Gasification Combined Cycle:IGCC)とは、石炭を高温高圧のガス化炉で可燃性ガスに転換し、そのガス化ガスを燃料としてガスタービンと蒸気タービンとによる複合発電を行うシステムをいう。
【0004】
石炭ガス化ガス(生成ガス)中に存在する炭化水素化合物は、殆どが一酸化炭素(CO)であり、二酸化炭素(CO2)、炭化水素(CH4、CnHm)は数パーセントに過ぎない。この結果、CO2を回収するためには、生成ガス中に存在するCOをCO2に転換する必要があり、水蒸気(H2O)を添加しつつ、シフト触媒により下記反応によってCO2に転換することが提案されている。
CO+H2O⇔ CO2+H2+40.9kJ/mol (発熱反応) ・・・(1)
【0005】
これまで、化学工業分野でのシフト反応に対する知見より、COシフト反応器入口での水蒸気添加割合(H2O/CO)を十分に高くすることにより、上記(1)の反応を進めた上で、希望するCO→CO2転換率を得ることができることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−331701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、CO2回収設備を備えたIGCCプラントは、発電プラントであり、環境(CO2排出量の低減)に配慮すると共に、プラント発電効率にも重点を置く必要がある。
つまり、シフト反応器入口における水蒸気添加割合(H2O/CO)のための水蒸気添加源に計画されているHRSG(排熱回収ボイラ)よりの抽気中圧蒸気量の低減がプラント効率向上を図る上で重要な要素であるため、HRSGからの中圧蒸気をなるべく減らすことが、発電効率上昇の点から求められている。
【0008】
また、シフト変換装置におけるシフト反応にはCOシフト触媒(例えば硫化モリブデン(MoS3)が用いられるが、外部から補給する水蒸気量が少ない場合、触媒表面にコーキング(炭素析出)が発生して触媒劣化を引き起こし、変換効率が低下するという問題がある。
【0009】
本発明は、前記問題に鑑み、水蒸気量が少ない場合でも触媒劣化がなく、COシフト反応を効率よく行うことができるCOシフト変換システム及び方法、石炭ガス化発電プラントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、COシフト触媒を有し、生成ガス中のCOをCO2に変換するCOシフト変換装置と、該COシフト変換装置の上流側に設けられ、生成ガス中に水蒸気を供給する水蒸気供給手段と、水蒸気を供給した後に、水スプレを混合器により供給する水スプレ供給手段と、を具備するCOシフト変換部とからなり、前記COシフト変換部が少なくとも2以上直列に多段連結されていることを特徴とするCOシフト変換システムにある。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、生成ガス中の硫化水素濃度が低い場合(例えば100ppm以下の場合)に、水蒸気を供給した後に、水スプレを混合器に供給することを特徴とするCOシフト変換システムにある。
【0012】
第3の発明は、第1又は2の発明において、生成ガス中の硫化水素濃度が低い場合(例えば100ppm以下の場合)に、硫化水素を供給する硫化水素供給手段を有することを特徴とするCOシフト変換システムにある。
【0013】
第4の発明は、石炭をガス化して生成ガスを得るガス化炉と、生成ガス中のCOをCO2に変換する請求項1乃至3のいずれか一つのCOシフト反応装置と、COシフトガス中のCO2を回収するCO2吸収塔と吸収液を再生する吸収液再生塔とを備えたCO2回収装置と、精製ガスを燃焼する燃焼器を備えたガスタービン設備と、ガスタービン設備の燃焼排ガスの熱エネルギーを回収する排熱回収ボイラ(HRSG)と、排熱回収ボイラで回収した蒸気を用いて発電する蒸気タービン設備とを具備することを特徴とする石炭ガス化発電プラントにある。
【0014】
第5の発明は、第1乃至3のいずれか一つのCOシフト変換システムを用い、生成ガス中の硫化水素濃度が低い場合(例えば100ppm以下の場合)には、水蒸気の供給と共に、水スプレを供給し、COシフト触媒の温度上昇を抑制することを特徴とするCOシフト変換方法にある。
【0015】
第6の発明は、第5の発明において、生成ガス中の硫化水素濃度が低い場合(例えば100ppm以下の場合)に、硫化水素を供給する硫化水素供給手段を有することを特徴とするCOシフト変換方法にある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水スプレを供給することにより、水蒸気量が少ない場合でも触媒劣化がなく、COシフト反応を効率よく行うことができる。よって、水蒸気の供給量を増大させることなくCOシフト反応を効率よく行うことができる。これにより従来HRSGから供給していた抽気中圧蒸気の供給量を低減することができる。この結果、発電効率が向上し、プラント全体のエネルギー効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施例1に係るCOシフト変換システムの概略図である。
【図2】図2は、COシフト変換装置の触媒温度と、(H2S/H2O)3との関係図である。
【図3】図3は、実施例2に係るエネルギー回収装置を備えた石炭ガス化発電プラントの概略図である。
【図4】図4は、実施例3に係るCOシフト変換システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0019】
本発明による実施例に係るCOシフト変換システムについて、図面を参照して説明する。図1は、実施例1に係るCOシフト変換システムの概略図である。
図1に示すように、本実施例に係るCOシフト変換システム10Aは、COシフト触媒11を有し、生成ガス12中のCOをCO2に変換するCOシフト変換装置13と、該COシフト変換装置13の上流側に設けられ、生成ガス12中に水蒸気14を供給する水蒸気供給手段15と、水蒸気14を供給した後に、水スプレ16を混合器17により供給する水スプレ供給手段18と、を具備するCOシフト変換部20とからなり、前記COシフト変換部20が少なくとも2以上直列に多段連結されている。図1中、符号21はH2S濃度計、22は温度計、23はCOシフトガス、V1、V2はバルブを図示する。
【0020】
本発明では、生成ガス12中の硫化水素(H2S)濃度が低い場合でも、水スプレ供給手段18から水スプレ16を十分供給することにより、COシフト反応の発熱反応に起因する温度上昇を抑えることができ、触媒劣化を抑制することができる。なお、水スプレ16を直接生成ガス12中に供給することなく、混合器17を用いて混合しているのは、後流側に設けた触媒劣化を防止するために、水滴が十分気化するために設けている。
【0021】
これは、硫化モリブデン濃度が低い場合には、COシフト変換装置13内の温度が例えば250℃程度の場合、そのCOシフト変換反応に起因する発熱反応により、触媒温度が上昇し、触媒不安定領域から、酸化モリブデン(MoO3)に変化し、その後コーキングが発生して、触媒機能が発揮されなかった。
【0022】
ここで、図2にCOシフト変換装置の触媒温度と、(H2S/H2O)3との関係図を示す。図2によれば、硫化水素濃度が低いほど、触媒温度が低い領域で、硫化モリブデン(MoS3)が酸化モリブデン(MoO3)に変化するのが確認される。そこで、本発明では、硫化モリブデン(MoS3)の濃度が例えば100ppm以下と低い場合において、COシフト変換装置13における温度を求め、COシフト変換装置13内に導入する生成ガス12中の硫化水素の濃度をH2S濃度計21により求めることで、図2に示す(H2S/H2O)3が計算より求められ、この結果、硫化モリブデンの安定領域となるような水の投入量を求めることができる。これにより、硫化モリブデンは安定に存在することとなるので、COシフト変換が効率よく行うことができる。
【0023】
ここで、本発明では、硫化水素(H2S)の濃度について、100ppm以下を低い場合としているのは、図2より、水を1とした場合、1×10-12となり、これに対応する温度が325℃であるので、それ以下の場合には、触媒安定領域が極めて少なくなり、触媒表面にコーキング(炭素析出)が発生し触媒劣化を引き起こすこととなるからである。よって、本発明では硫化モリブデン濃度が低い場合とは100ppmとしている。
なお、MoS3安定領域とMoO3安定領域の境界線は触媒の粒子径等で若干変化する。
【0024】
多段に連結するのは、触媒を分散させて少しずつCOシフト変換を行うことで、温度上昇を抑制するようにしている。
【0025】
なお、本実施例ではCOシフト変換部20を2段のものを例示するが、必要に応じて2段、3段・・・と設けるようにすればよい。よって、生成ガス12中の硫化水素濃度が例えば10ppmと更に低いような場合には、多段連結の数を多くするようにすればよい。ここで、生成ガス12中の硫化水素の濃度は、例えば石炭ガス化発電プラント(IGCC)のガス火炉に供給する原炭の生産地、生産ロット等により大きく左右するので、供給する原炭の種類の変更の際には、特にCOシフト変換部20の段数についての選定について留意するようにすればよい。
【0026】
本実施例によれば、生成ガス12中の硫化水素の濃度が低く、触媒温度が上昇する場合においては、水蒸気14の温度を変更することなく、水スプレ16を供給することにより、水蒸気量が少ないままでも触媒劣化がなく、COシフト反応を効率よく行うことができる。よって、水蒸気14の供給量を増大させることなくCOシフト反応を効率よく行うことができる。
【実施例2】
【0027】
本発明による実施例に係るエネルギー回収装置を備えた石炭ガス化発電プラントについて、図面を参照して説明する。図3は、実施例2に係るエネルギー回収装置を備えた石炭ガス化発電プラントの概略図である。
図3に示すように、エネルギー回収装置を備えた石炭ガス化発電プラント50は、石炭51をガス化して生成ガス12を得るガス化炉52と、生成ガス12中のCOをCO2に変換するCOシフト変換システム10Aと、COシフトガス23中の硫黄(S)分を回収する脱硫装置53と、CO2を回収するCO2回収装置54と、CO2回収装置54からの精製ガス55を用いて複合発電する複合発電設備(精製燃焼する燃焼器を備えたガスタービン設備及びガスタービン設備の燃焼排ガスの熱エネルギーを回収する排熱回収ボイラ(HRSG)と、排熱回収ボイラで回収した蒸気を用いて発電機67を発電する蒸気タービン設備)56とを具備するものである。図3中、符号60は空気、61は空気分離装置、62は空気分離装置61で得られた酸素、63は窒素、64は脱硫装置53で回収された回収H2Sガス、65は硫黄(S)分回収装置、66は回収CO2ガス、67はCO2圧縮装置、68はスラグを各々図示する。
【0028】
本実施例では、COシフト変換システムとして実施例1のCOシフト変換システム10Aを適用するので、従来複合発電設備56の排熱回収ボイラ(HRSG)から供給していた抽気中圧蒸気69の供給量の一部(約15%)を補完することができ、その分抽気中圧蒸気69の低減を図ることができる。この結果、発電効率が向上し、プラント全体のエネルギー効率を向上させることができる。
【0029】
このように、本実施例によれば、COシフト変換システム10Aにおいては、生成ガス12中に存在する硫化水素の濃度が低い場合においても、水スプレを供給することで、触媒劣化を抑制しつつCOシフト変換を行うことができると共に、水スプレを供給することにより、COシフト変換システム10AのCOシフト変換装置における抽気中圧蒸気69の一部を補完することができ、複合発電設備56の排熱回収ボイラ(HRSG)よりの抽気中圧蒸気69の供給量の低減を図ることができ、発電効率の向上に寄与する。
【実施例3】
【0030】
本発明による実施例に係るCOシフト変換システムについて、図面を参照して説明する。図4は、実施例3に係るCOシフト変換システムの概略図である。
図4に示すように、本実施例に係るCOシフト変換システム10Bは、実施例1のCOシフト変換システム10Aにおいて、混合器17に硫化水素(H2S)を供給するH2S供給手段31を設けている。
【0031】
実施例1においては、水スプレ16を供給して、COシフト触媒11の温度上昇を抑制しているが、本実施例では、生成ガス12中のH2S濃度が極めて低いとき、別途H2Sを追給するようにしている。供給するH2Sは、図3に示す石炭ガス化発電プラント50における脱硫装置53で回収した回収H2Sガス64を再利用している。
【0032】
特に、ガス火炉52に供給する石炭51の銘柄変更等によりH2S濃度の急変が予測される場合は、温度及び水蒸気の変更による対応は熱容量による応答性の観点から難しい場合がある。このような場合、硫化水素濃度を所定量(例えば100ppm)となるように、追加することで、硫化モリブデン(MoS3)が安定している領域から、不安定領域を通過して、MoO3安定領域に達することが防止され、触媒機能を十分に発揮することができ、良好なCOシフト反応を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上のように、本発明に係るCOシフト変換システム及び方法、石炭ガス化発電プラントによれば、水蒸気量が少ない場合でも触媒劣化がなく、COシフト反応を効率よく行うことができ、発電効率の向上に寄与することができる。
【符号の説明】
【0034】
10A、10B COシフト変換システム
11 COシフト触媒
12 生成ガス
13 COシフト変換装置
14 水蒸気
15 水蒸気供給手段
16 水スプレ
17 混合器
18 水スプレ供給手段
20 COシフト変換部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
COシフト触媒を有し、生成ガス中のCOをCO2に変換するCOシフト変換装置と、
該COシフト変換装置の上流側に設けられ、生成ガス中に水蒸気を供給する水蒸気供給手段と、
水蒸気を供給した後に、水スプレを混合器を介して供給する水スプレ供給手段と、を具備するCOシフト変換部とからなり、
前記COシフト変換部が少なくとも2以上直列に多段連結されていることを特徴とするCOシフト変換システム。
【請求項2】
請求項1において、
生成ガス中の硫化水素濃度が低い場合に、水蒸気を供給した後に、水スプレを混合器に供給することを特徴とするCOシフト変換システム。
【請求項3】
請求項1又は2において、
生成ガス中の硫化水素濃度が低い場合に、硫化水素を供給する硫化水素供給手段を有することを特徴とするCOシフト変換システム。
【請求項4】
石炭をガス化して生成ガスを得るガス化炉と、
生成ガス中のCOをCO2に変換する請求項1乃至3のいずれか一つのCOシフト反応装置と、
COシフトガス中のCO2を回収するCO2吸収塔と吸収液を再生する吸収液再生塔とを備えたCO2回収装置と、
精製ガスを燃焼する燃焼器を備えたガスタービン設備と、
ガスタービン設備の燃焼排ガスの熱エネルギーを回収する排熱回収ボイラ(HRSG)と、
排熱回収ボイラで回収した蒸気を用いて発電する蒸気タービン設備とを具備することを特徴とする石炭ガス化発電プラント。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一つのCOシフト変換システムを用い、
生成ガス中の硫化水素濃度が低い場合には、水蒸気の供給と共に、水スプレを供給し、COシフト触媒の温度上昇を抑制することを特徴とするCOシフト変換方法。
【請求項6】
請求項5において、
生成ガス中の硫化水素濃度が低い場合に、硫化水素を供給する硫化水素供給手段を有することを特徴とするCOシフト変換方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−131873(P2012−131873A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283811(P2010−283811)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】