説明

CO吸脱着剤の製造方法

【課題】COを含む混合ガスから高純度のCOを効率よく分離回収できるCO吸脱着性能の優れたCO吸脱着剤、特に水素ステーションのような小型設備でも実用できるCO吸脱着剤を提供する。
【解決手段】本発明のCO吸脱着剤の製造方法は、長周期型周期表の第3族及び第13族の金属元素よりなる群から選択される少なくとも1種の金属の塩である担体前駆体、銅(II)化合物、還元剤及び溶媒を含む液と、多孔質担体とを接触させた後、溶媒を除去し、焼成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CO吸脱着剤の製造方法に関するものであり、より詳細には、CO吸着性能が高いCO分離回収用吸脱着剤の製造技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一酸化炭素(CO)は、ギ酸、酢酸等の合成原料、有機化合物の還元用等に有用であるため、製鉄所の転炉から得られる転炉ガス等のCO含有ガスから、分離回収されている。COの回収において、例えば、CO含有ガスの処理量が2000m3/h以上の設備ではコソーブ(COSORB)法等の吸収法、深冷分離法が採用され、2000m3/h未満の設備では圧力スウィング吸着法(PSA)又は温度スウィング吸着法(TSA)のような吸着法が採用されている。吸着法は、吸収法に比べて回収されるCOに不純物が含まれにくく、高純度の精製ガスが得られるという特徴がある。
【0003】
このような吸着法に使用し得るCO吸着剤が種々提案されている。例えば、特許文献1には、酸化アルミニウムと酸化亜鉛とからなる担体に銅を担持させたCO吸着剤が提案されている。この吸着剤は、銅密度、亜鉛/銅比を特定の範囲に制御することで、可逆的吸着能を向上させる技術である(特許文献1(段落[0050])参照)。また、特許文献2〜5には、シリカゲルに、ピリジン、ジアミン化合物等とハロゲン化銅(I)とからなる錯体を担持したCO吸着剤が提案されている。
【0004】
また、CO吸着剤の製造方法として、特許文献6には、アルミナ担体に、銅(II)塩と還元剤を含む液を接触させ、溶媒を除去する方法が提案されている。特許文献7には、担体に塩化銅(II)及びカルボン酸銅(II)を担持させ、減圧下、不活性又は還元性ガス雰囲気下で加熱処理する方法が記載されている。また、特許文献8には、アルミナ担体に無機酸を含浸させてから、銅(II)塩と還元剤を含む液を接触させ、溶媒を除去する方法;アルミナ担体に、銅(II)塩、還元剤及び無機酸を含む液を接触させ、溶媒を除去する方法が提案されている。
【0005】
ところで、燃料電池車用のオンサイト型水素ステーションでは、都市ガスや液化石油ガス(LPG)を原料として、水蒸気改質、CO変性工程を経て製造された水素を、さらに高純度化(不純物濃度10ppm以下)する必要がある。特に燃料電池触媒の触媒毒となるCOの除去は重要となる。従来、水素ガス中のCOの除去には、当該ガスに酸素又は空気を添加し、酸化触媒を用いてCOをCO2に変換するCO選択酸化が行われてきた。しかし、CO選択酸化には高価な貴金属触媒が必要であり、また、添加した酸素により水素が消費されるという欠点があった。そのため、効率よくCOを除去する方法が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−179197号公報
【特許文献2】特開平9−290149号公報
【特許文献3】特開平9−290150号公報
【特許文献4】特開平9−290152号公報
【特許文献5】特開平9−290153号公報
【特許文献6】特開平1−155945号公報
【特許文献7】特開2005−289761号公報
【特許文献8】特開2010−269264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
PSAやTSAのような吸着法では、CO吸着剤を減圧再生、加熱再生する必要があるので、減圧や加熱を容易にする観点から、吸着剤充填塔の大きさには限界がある。そのため、吸着剤充填塔を拡大することなくCO回収効率を高めるべく、より可逆的吸着能に優れたCO吸着剤が求められている。また、水素ステーションにおいては、簡単な設備で効率よくCOを除去できる方法が求められている。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、COを含む混合ガスから高純度のCOを効率よく分離回収できるCO吸脱着性能の優れたCO吸脱着剤、特に水素ステーションのような小型設備でも実用できるCO吸脱着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することができた本発明のCO吸脱着剤の製造方法は、長周期型周期表の第3族及び第13族の金属元素よりなる群から選択される少なくとも1種の金属の塩である担体前駆体、銅(II)化合物、還元剤及び溶媒を含む液と、多孔質担体とを接触させた後、溶媒を除去し、焼成することを特徴とする。前記担体前駆体としては、120℃以上300℃以下の加熱により分解し酸化アルミニウムを生成する水溶性アルミニウム塩及び/又は120℃以上330℃以下の加熱により分解し酸化セリウムを生成する水溶性セリウム塩が好ましく、より好ましくは、硝酸アルミニウム、硝酸セリウム及び酢酸セリウムよりなる群から選択される少なくとも1種である。前記担体前駆体の使用量は、多孔質担体の体積1mlに対して、0.1mmol〜0.7mmolが好ましい。前記還元剤は、糖類、アルデヒド類、カルボン酸類及び低原子価状態の金属塩よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。前記多孔質担体としては、アルミナからなる担体及び/又はシリカ−アルミナ複合物からなる担体が好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、CO吸脱着性能が高いCO吸脱着剤が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のCO吸脱着剤の製造方法は、特定の担体前駆体、銅(II)化合物、還元剤及び溶媒を含む液と、多孔質担体とを接触させた後、溶媒を除去することを特徴とする。本発明では、多孔質担体に担持された銅(II)化合物は、同時に担持された還元剤によって効率良く還元され、銅(I)化合物と銅(II)化合物との混合物、あるいは、I価とII価の中間の原子価を持つものになるものと推定される。また、多孔質担体に銅(II)化合物を担持させる際に、特定の担体前駆体を共存させることにより、銅(II)化合物が担体前駆体と混ざりあった状態で、多孔質担体に担持されるようになる。そのため、銅(II)化合物は、多孔質担体表面上に、より分散して担持されることとなる。よって、銅(II)化合物とCOとの接触面積が大きくなり、CO吸脱着性能が向上する。
【0012】
前記担体前駆体としては、焼成により担体を形成し得るものであれば使用できる。前記担体前駆体としては、例えば、長周期型周期表の第3族及び第13族の金属元素よりなる群から選択される少なくとも1種の金属の塩が挙げられる。具体的には、スカンジウム、イットリウム、ランタノイド(ランタン、セリウム等)等の第3族の金属元素及びアルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム等の第13族の金属元素の硝酸塩、酢酸塩等が挙げられる。これらの担体前駆体は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、担体前駆体としては、120℃以上300℃以下の加熱により分解し酸化アルミニウムを生成する水溶性アルミニウム塩及び/又は120℃以上330℃以下の加熱により分解し酸化セリウムを生成する水溶性セリウム塩が好ましい。このような水溶性アルミニウム塩としては、例えば、硝酸アルミニウムが挙げられ、水溶性セリウム塩としては、硝酸セリウム、酢酸セリウム等が挙げられる。
【0013】
前記担体前駆体の使用量は、多孔質担体の体積1mlに対して、0.1mmol以上が好ましく、より好ましくは0.15mmol以上、さらに好ましくは0.2mmol以上であり、0.7mmol以下が好ましく、より好ましくは0.6mmol以下、さらに好ましくは0.5mmol以下である。ここで、多孔質担体の体積1mlに対する担体前駆体の使用量は、多孔質担体の嵩密度より下記式により求める。なお、多孔質担体の嵩密度は、市販の測定器を用いて測定するか、あるいは、以下のように求めることができる。具体的には、測定サンプルを100ml(又は1000ml)のメスシリンダーに充填し、バイブレーターを用いて振動させながら表面をならし、体積変化がなくなるまで振動を与える。体積変化がなくなった際の担体の体積を確認し、この体積値で充填した多孔質担体の質量を除することにより基準体積当りの質量(嵩密度)を算出する。
【0014】
【数1】

【0015】
前記銅(II)化合物としては、例えば、塩化銅(II)、フッ化銅(II)、臭化銅(II)等のハロゲン化銅(II);酸化銅(II);シアン化銅(II);ギ酸銅(II)、酢酸銅(II)、シュウ酸銅(II)、硫酸銅(II)、硝酸銅(II)、リン酸銅(II)、炭酸銅(II)等の銅(II)の酸素酸塩又は有機酸塩;水酸化銅(II);硫化銅(II);トリフルオロ銅(II)酸塩、テトラフルオロ銅(II)酸塩、トリクロロ銅(II)酸塩、テトラクロロ銅(II)酸塩、テトラシアノ銅(II)酸塩、テトラヒドロオクソ銅(II)酸塩、ヘキサヒドロオクソ銅(II)酸塩、アンミン錯塩等の錯塩;等が例示される。前記銅(II)化合物は、単独若しくは2種以上を組合せて使用しても良い。これらの中でも、ハロゲン化銅(II)が好ましく、塩化銅(II)が最も実用的である。
【0016】
多孔質担体を接触させる液中の銅(II)化合物の濃度は、2mol/l以上が好ましく、より好ましくは3mol/l以上、さらに好ましくは3.5mol/l以上であり、9mol/l以下が好ましく、より好ましくは8mol/l以下、さらに好ましくは6mol/l以下である。銅(II)化合物の濃度を2mol/l以上とすることにより、溶媒を除去する際に必要なエネルギーをより減少させることができ、9mol/l以下とすることにより、溶媒に銅(II)化合物を溶解させる際の加温(加熱)エネルギーをより減少させることができる。
【0017】
多孔質担体に対する銅(II)化合物の担持量は、0.5mmol/g以上が好ましく、より好ましくは1mmol/g以上、さらに好ましくは2mmol/g以上であり、10mmol/g以下が好ましく、より好ましくは7mmol/g以下、さらに好ましくは5mmol/g以下である。銅(II)化合物の担持量が余りに少ないとCO吸着能力が不足し、一方、その担持量が余りに多いとかえって分離効率が低下する。ここで、多孔質担体に対する銅(II)化合物の担持量は、多孔質担体及び銅(II)化合物の仕込み量より下記式により求める。
多孔質担体に対する銅(II)化合物の担持量=銅(II)化合物の仕込み量/多孔質担体の仕込み量
【0018】
多孔質担体を接触させる液中の前記担体前駆体と銅(II)化合物とのモル比(担体前駆体/銅(II)化合物)は、0.05以上が好ましく、より好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.2以上であり、0.6以下が好ましく、より好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.4以下である。担体前駆体と銅(II)化合物とのモル比が上記範囲内であれば、得られるCO吸脱着剤の吸脱着性能がより向上する。
【0019】
本発明で使用する還元剤としては、低原子価状態にある金属の塩または酸化階程の低い有機化合物が用いられる。低原子価状態にある金属の塩としては、鉄(II)、スズ(II)、チタン(III)またはクロム(II)の塩などが挙げられる。前記酸化階程の低い有機化合物としては、スクロース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、プシコース、マンノース、アロース、タガトース、リボース、デオキシリボース、キシロース、アラビノース、マルトース、ラクトース等の糖類;ホルムアルデヒド等のアルデヒド類;ギ酸、シュウ酸等のカルボン酸類;等が挙げられる。なお、スクロースも加水分解して還元性を発現するため、還元剤として使用できる。これらの還元剤は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、糖類が好ましく、スクロースがより好ましい。
【0020】
前記還元剤の使用量は、多孔質担体に担持された銅(II)化合物1molに対して、0.01mol以上が好ましく、より好ましくは0.03mol以上、さらに好ましくは0.05mol以上であり、0.25mol以下が好ましく、より好ましくは0.20mol以下、さらに好ましくは0.18mol以下である。還元性有機物の使用量が上記範囲内であれば、効率よく銅(II)化合物を銅(I)化合物に変換させることができる。
【0021】
前記担体前駆体、銅(II)化合物を含む液としては、溶媒に担体前駆体及び銅(II)化合物を溶解させた溶液、溶媒に担体前駆体及び/又は銅(II)化合物を分散させた分散液のいずれでもよいが、溶液が好ましい。前記溶媒としては、例えば、水;アンモニア水;クロロホルム、四塩化炭素、二塩化エチレン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、塩化メチレン、フッ素系溶剤等の含ハロゲン溶剤;ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、デカリン等の炭化水素;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸アミル等のエステル類;イソプロピルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;セロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルアセテート等のセロソルブ類;カルビトール類;等が挙げられる。これらの中でも、水が好適に使用できる。
【0022】
前記多孔質担体の材料としては、例えば、アルミナ、シリカ又はこれらの複合物等の金属酸化物からなる多孔質担体又は活性炭等が挙げられる。これらの多孔質担体は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、金属酸化物からなる多孔質担体が好ましく、アルミナ又はシリカ−アルミナ複合物からなる多孔質担体が好適である。
【0023】
前記アルミナからなる多孔質担体は、例えば可溶性のアルミニウム塩の水溶液から水酸化アルミニウムを沈澱させ、これをろ過により取出し、強熱することにより得られる。シリカ−アルミナ複合物からなる多孔質担体の製法としては、シリカとアルミナとを単に機械的混合する方法;シリカゲルとアルミナゲルとを湿った状態で練り合せる方法;シリカゲルにアルミニウム塩を浸漬する方法;シリカとアルミナとを水溶液から同時にゲル化させる方法;シリカゲル上にアルミナゲルを沈着させる方法;等が挙げられる。これらのアルミナからなる多孔質担体及びシリカ−アルミナ複合物からなる多孔質担体は、いずれも市販されており、本発明においては、これを必要に応じて乾燥してから使用することが好ましい。
【0024】
前記多孔質担体の粒子径は0.3mm以上が好ましく、より好ましくは1mm以上、さらに好ましくは2mm以上であり、10mm以下が好ましく、より好ましくは6mm以下、さらに好ましくは4mm以下である。粒子径が上記範囲内である多孔質担体を用いることにより、吸脱着剤充填層の圧力損失を許容範囲に調節しやすくなり、容易に所望の吸脱着速度を得ることができる。なお、粒子径は光学顕微鏡等を用いて確認することができる。
【0025】
前記多孔質担体の細孔容積は0.1cm3/g以上が好ましく、より好ましくは0.2cm3/g以上、さらに好ましくは0.3cm3/g以上であり、0.7cm3/g以下が好ましい。多孔質担体の細孔容積が0.1cm3/g以上であれば、銅(II)化合物等を含む溶液又は分散液の保持に有利であり、また、0.7cm3/g以下であれば、多孔質担体の物理的強度がより良好となる。
【0026】
前記多孔質担体の比表面積は150m2/g以上が好ましく、より好ましくは250m2/g以上、さらに好ましくは300m2/g以上であり、1800m2/g以下が好ましく、より好ましくは1600m2/g以下、さらに好ましくは1300m2/g以下である。比表面積が上記範囲内である多孔質担体を用いることにより、銅(II)化合物の保持及び分散がより良好となる。
【0027】
担体前駆体等を含む液と多孔質担体とを接触させる方法としては、担体前駆体等を含む液に多孔質担体を含浸する方法;担体前駆体等を含む液を、多孔質担体にスプレーする方法;等が挙げられる。この場合、多孔質担体細孔に存在する気体を完全に液で置換するため、真空脱気した多孔質担体に液を接触させたり、多孔質担体に液を接触させた後、減圧条件下で脱気したりしてもよい。
多孔質担体を、担体前駆体等を含む液に含浸する場合、含浸時間は5分間以上が好ましく、より好ましくは10分間以上、さらに好ましくは30分間以上であり、100分間以下が好ましく、より好ましくは80分間以下、さらに好ましくは60分間以下である。
【0028】
多孔質担体と液とを接触させた後、溶媒を除去する。溶媒を除去することで、担体前駆体、銅(II)化合物を多孔質担体に担持させることができる。
溶媒を除去する方法は特に限定されず、加熱乾燥、減圧乾燥が挙げられる。これらの中でも、液と接触した多孔質担体の温度を下げることなく、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下に加熱乾燥することにより溶媒を留出除去することが好ましい。乾燥温度は、50℃以上が好ましく、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは120℃以上であり、330℃以下が好ましく、より好ましくは250℃以下、さらに好ましくは200℃以下である。乾燥時間は、1時間以上が好ましく、1.5時間以上がより好ましく、10時間以下が好ましく、5時間以下がより好ましい。乾燥は、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0029】
最後に、担体前駆体、銅(II)化合物、還元剤を担持させた多孔質担体を焼成する。焼成温度は、100℃以上が好ましく、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは180℃以上であり、500℃以下が好ましく、より好ましくは350℃以下、さらに好ましくは330℃以下である。焼成時間は、1時間以上が好ましく、より好ましくは2時間以上、さらに好ましくは3時間以上であり、12時間以下が好ましく、より好ましくは10時間以下、さらに好ましくは8時間以下である。
【0030】
焼成は、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス又はCO、H2等の還元性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。このような雰囲気下で焼成することにより、上記還元剤では還元されていなかった銅(II)化合物を銅(I)化合物に変換でき、CO吸着能がより向上する。なお、上記の溶媒を除去するための乾燥処理と、乾燥後の吸着剤に対する加熱処理は、異なる熱処理装置を用いてもよいし、同一の熱処理装置を用いて乾燥処理と加熱処理とを連続して行ってもよい。
【0031】
上記のようにして得られた吸脱着剤は、吸着塔に充填され、PSA法又はTSA法により、COを含む混合ガスからのCOの分離回収が遂行される。CO含む混合ガスの処理量は、特に限定されるものではないが、2000m3/h以下が好ましく、1000m3/h以下がより好ましい。
【0032】
PSA法によりCOの分離回収を行う場合は、吸着工程における吸着圧力は大気圧以上、たとえば0kPa[gage]〜600kPa[gage]とすることが望ましく、脱気工程における脱気圧力は大気圧以下、例えば真空度を30kPa[abs]〜1.0kPa[abs]とすることが望ましい。TSA法によりCOの分離回収を行う場合は、吸着工程における吸着温度はたとえば0℃〜40℃程度、脱気工程における脱気温度はたとえば60℃〜180℃程度とすることが望ましい。また、PSA法とTSA法とを併用し、吸着を大気圧以上で低温条件下に行い、脱気を大気圧以下で高温条件下に行うこともできる。なお、TSA法はエネルギー消費の点でPSA法に比しては不利であるため、工業的にはPSA法を採用するか、PSA−TSA併用法を採用することが望ましい。
【0033】
適用できるCOを含む混合ガスとしては、例えば、都市ガスや液化石油ガス(LPG)を原料として、水蒸気改質を経て製造されたCO含有水素ガス;製鉄所の転炉から発生する転炉ガスが用いられる。
【0034】
本発明の方法により得られた固体吸脱着剤によるCO吸脱着現象は、主として担体に担持された銅(II)化合物が還元された銅化合物とCOとの可逆的な化学反応(錯体形成反応と解離反応)に基づくものであり(N2、CO2との化学反応は起こらない)、副次的に担体の細孔表面上へのCO等の物理的な吸着及びそこからの脱離に基づくものであると考えられる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0036】
CO吸脱着剤中のCu含有量の測定方法
CO吸着剤を微粉砕後、硫酸と硝酸との混合液を添加し、350℃で炭素分を熱分解すると共に、銅化合物を溶解させた。この液を水で希釈後、ろ過し、ろ液についてICP(誘導結合プラズマ)発光分析により定量分析を行うことにより、CO吸着剤のCu含有量を求めた。
【0037】
CO可逆吸着性能の評価方法
高精度比表面積・細孔分布測定装置(日本ベル社製、「BELSORP−max」)を用いて、CO可逆吸着量を測定した。測定は、装置の専用セルに吸脱着剤を充填し、200℃で1時間真空排気(10-6Pa)した後に、40℃、10kPaでCOを吸着させ、その後排気減圧(約10-2kPa)することを繰返して、80kPa〜0.02kPa間、7kPa〜0.02kPa間の2通りのCO可逆吸着量を測定した。なお、これらの測定は、80kPa〜0.02kPa間が原料ガス中のCO濃度80体積%を想定しており、7kPa〜0.02kPa間が原料ガス中のCO濃度7体積%を想定したものである。
【0038】
製造例1
200mLの三角フラスコに塩化銅(II)2水和物(キシダ化学社製、特級試薬)44.0g、硝酸アルミニウム・9水和物(キシダ化学社製、特級試薬)22.8g、スクロース(キシダ化学社製、特級試薬)10.4gを、40℃に加温した脱塩水32gに溶解させた溶液を調製した。この溶液に、予め120℃で4時間以上乾燥させた活性アルミナからなる多孔質担体(住友化学工業社製、活性アルミナ(品名「NKHD−24」、粒子径2mm〜4mm、細孔容積0.35cm3/g、比表面積300m2/g))を80.0g(体積122ml)入れ、60分間時々撹拌しながら液を含浸させた。それを1Lナス型フラスコに入れ、ロータリー・エバポレーターに取り付け、30rpmで回転させながら、N2−400mL/min流通下にこのフラスコを油浴加熱して乾燥させた。油浴の温度条件は、140℃(フラスコ内温120℃)まで1時間で昇温させ、140℃で5時間保持した後、自然冷却した。冷却後の吸着剤を磁性皿に移し外部加熱式管状炉に入れ、N2−400mL/min気流下で5℃/minで230℃まで昇温し、10時間保持後自然冷却して、CO吸脱着剤を得た。
【0039】
製造例2
硝酸アルミニウム・9水和物の使用量を11.4gに変更し、スクロースの使用量を5.2gに変更し、脱塩水の使用量を36gに変更したこと以外は製造例1と同様にしてCO吸脱着剤を製造した。
【0040】
製造例3
硝酸アルミニウム・9水和物22.8gを硝酸セリウム・6水和物(キシダ化学社製、特級試薬)13.2gに変更し、スクロースの使用量を5.2g、脱塩水の使用量を39gに変更したこと以外は製造例1と同様にしてCO吸脱着剤を製造した。
【0041】
製造例4
200mLの三角フラスコに塩化銅(II)2水和物(キシダ化学社製特級試薬)44.0g、スクロース(キシダ化学社製特級試薬)10.4gを、40℃に加温した脱塩水42.2gに溶解させた溶液を調製した。この溶液に、予め120℃で4時間以上乾燥させた活性アルミナからなる多孔質担体(住友化学工業社製、活性アルミナ(品名「NKHD−24」、粒子径2mm〜4mm、細孔容積0.35cm3/g、比表面積300m2/g))を80.0g入れ、60分間時々撹拌しながら液を含浸させた。それを1Lナス型フラスコに入れ、ロータリー・エバポレーターに取り付け、30rpmで回転させながら、N2−200mL/min流通下にこのフラスコを油浴加熱して乾燥させた。油浴の温度条件は、140℃(フラスコ内温120℃)まで1時間で昇温させ、140℃で5時間保持した後、自然冷却した。冷却後の吸着剤を磁性皿に移し外部加熱式管状炉に入れ、N2−400mL/min気流下で5℃/minで230℃まで昇温し、10時間保持後自然冷却して、CO吸脱着剤を得た。
【0042】
製造例5
硝酸アルミニウム・9水和物22.8gを硝酸ジルコニウム・2水和物(キシダ化学社製、特級試薬)8.1gに変更し、スクロースの使用量を5.2g、脱塩水の使用量を41gに変更したこと以外は製造例1と同様にしてCO吸脱着剤を製造した。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示すように、製造例2、3で得られた吸脱着剤は、担体前駆体を使用していない製造例4で得られた吸脱着剤に比べて、CO濃度7体積%を想定したCO可逆吸着量試験及びCO濃度80体積%を想定したCO可逆吸着量試験のいずれにおいても銅1mol当りの吸着量が増加している。これらの結果より、担体前駆体を用いることにより銅塩の分散が促進され、銅の吸着性能が一層発揮されていることがわかる。
製造例1で得られた吸脱着剤では、CO濃度80体積%を想定したCO可逆吸着量試験においては製造例4よりも銅1mol当りの吸着量が増加している。なお、CO濃度7体積%を想定したCO可逆吸着量試験においては、銅1mol当りの吸着量が製造例4とほぼ同程度であった。これは、担体前駆体の使用により銅塩の分散と共に、還元剤の分散も促進され、結果として還元剤の熱分解生成物で銅塩表面が被覆されたためと考えられる。
製造例5は担体前駆体として硝酸ジルコニウムを用いた場合であるが、CO濃度80体積%を想定したCO可逆吸着量試験において、銅1mol当りの吸着量が製造例4よりも大きく劣る結果となった。これは、担体前駆体の多孔質担体への分散が不十分であるためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、CO分離回収吸脱着剤の製造方法として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長周期型周期表の第3族及び第13族の金属元素よりなる群から選択される少なくとも1種の金属の塩である担体前駆体、銅(II)化合物、還元剤及び溶媒を含む液と、多孔質担体とを接触させた後、溶媒を除去し、焼成することを特徴とするCO吸脱着剤の製造方法。
【請求項2】
前記担体前駆体が、120℃以上300℃以下の加熱により分解し酸化アルミニウムを生成する水溶性アルミニウム塩及び/又は120℃以上330℃以下の加熱により分解し酸化セリウムを生成する水溶性セリウム塩である請求項1に記載のCO吸脱着剤の製造方法。
【請求項3】
前記担体前駆体が、硝酸アルミニウム、硝酸セリウム及び酢酸セリウムよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載のCO吸脱着剤の製造方法。
【請求項4】
前記担体前駆体の使用量が、多孔質担体の体積1mlに対して、0.1mmol〜0.7mmolである請求項1〜3のいずれか1項に記載のCO吸脱着剤の製造方法。
【請求項5】
前記還元剤が、糖類、アルデヒド類、カルボン酸類及び低原子価状態の金属塩よりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜4のいずれか1項に記載のCO吸脱着剤の製造方法。
【請求項6】
前記多孔質担体が、アルミナからなる担体及び/又はシリカ−アルミナ複合物からなる担体である請求項1〜5のいずれか1項に記載のCO吸脱着剤の製造方法。

【公開番号】特開2012−245447(P2012−245447A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117379(P2011−117379)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000156961)関西熱化学株式会社 (117)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】